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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121186
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】照射装置配置設計システム
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/10 20060101AFI20230824BHJP
【FI】
A61L2/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024378
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】西野 優希
(72)【発明者】
【氏名】藤本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】久保田 謙三
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA07
4C058BB06
4C058DD03
4C058DD13
4C058DD14
4C058KK02
(57)【要約】
【課題】効果的に除菌可能な位置となるように、照射装置の配置を決定することができる照射装置配置設計システムを提供する。
【解決手段】トイレ個室1内における複数の照射対象に紫外線を照射することで除菌が可能な照射装置20の性能に関する情報と、照射装置20により行われる除菌の条件に関する情報と、トイレ個室1に関する情報と、を取得する取得部(制御部32)と、取得部(制御部32)が取得した情報に基づいて、所定の設置位置に照射装置20を設置した場合の複数の照射対象に対する除菌効果を計算する計算部(制御部32)と、を具備し、所定の設置位置には、トイレ個室1内に想定された複数の設置位置から任意に選択される複数パターンの設置位置が含まれ、計算部(制御部32)は、複数の照射対象に対する除菌効果をパターンごとに計算し、パターンごとの除菌効果に基づいて、トイレ個室1内における照射装置20の推奨される配置を計算する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の空間内における複数の照射対象に紫外線を照射することで除菌が可能な照射装置の性能に関する情報と、前記照射装置により行われる除菌の条件に関する情報と、前記空間に関する情報と、を取得する取得部と、
前記取得部が取得した情報に基づいて、所定の設置位置に前記照射装置を設置した場合の複数の前記照射対象に対する除菌効果を計算する計算部と、
を具備し、
前記所定の設置位置には、前記空間内に想定された複数の設置位置から任意に選択される複数パターンの設置位置が含まれ、
前記計算部は、
複数の前記照射対象に対する除菌効果を前記パターンごとに計算し、前記パターンごとの前記除菌効果に基づいて、前記空間内における前記照射装置の推奨される配置を計算する、
照射装置配置設計システム。
【請求項2】
前記計算部による前記照射装置の配置の計算結果を提示可能な提示部を具備する、
請求項1に記載の照射装置配置設計システム。
【請求項3】
前記計算部は、
前記照射装置の性能に関する情報に基づいて、前記照射装置の推奨される高さ位置を計算し、前記推奨される高さ位置を用いて、前記空間内における前記照射装置の推奨される配置を計算可能である、
請求項1又は請求項2に記載の照射装置配置設計システム。
【請求項4】
複数の前記照射対象のうち、前記照射装置が優先して紫外線を照射する優先照射対象の設定が可能な優先照射対象設定部を具備し、
前記計算部は、
前記優先照射対象に基づいて、前記除菌効果を計算可能である、
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の照射装置配置設計システム。
【請求項5】
前記計算部は、
前記優先照射対象に基づいて前記除菌効果を計算した結果、前記除菌効果が所定の閾値よりも低い場合、前記優先照射対象の変更を推奨する、
請求項4に記載の照射装置配置設計システム。
【請求項6】
前記計算部は、
前記空間内に複数配置される前記照射装置を複数の設置位置にそれぞれ設置した場合のパターンごとに、複数の前記照射対象に対する除菌効果を計算し、複数の前記照射装置の除菌効果の組合せに基づいて、複数の前記照射装置の推奨される配置の組合せを計算可能である、
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の照射装置配置設計システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の空間に紫外線を照射する照射装置の配置設計に用いられるシステムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の空間内に紫外線を照射して除菌を行う技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1には、トイレの個室内のドアノブや内鍵などの各種設備に紫外線を照射する除菌装置が記載されている。
【0004】
上述したトイレの個室のように除菌の対象となる各種設備を有する空間においては、上記設備を効果的に除菌可能な位置に照射装置を設置することが望まれる。
【0005】
そこで、照射装置の配置の設計段階において、各種設備を効果的に除菌可能な位置となるように、照射装置の配置を決定することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-116430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、効果的に除菌可能な位置となるように、照射装置の配置を決定することができる照射装置配置設計システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、所定の空間内における複数の照射対象に紫外線を照射することで除菌が可能な照射装置の性能に関する情報と、前記照射装置により行われる除菌の条件に関する情報と、前記空間に関する情報と、を取得する取得部と、前記取得部が取得した情報に基づいて、所定の設置位置に前記照射装置を設置した場合の複数の前記照射対象に対する除菌効果を計算する計算部と、を具備し、前記所定の設置位置には、前記空間内に想定された複数の設置位置から任意に選択される複数パターンの設置位置が含まれ、前記計算部は、複数の前記照射対象に対する除菌効果を前記パターンごとに計算し、前記パターンごとの前記除菌効果に基づいて、前記空間内における前記照射装置の推奨される配置を計算するものである。
【0010】
請求項2においては、前記計算部による前記照射装置の配置の計算結果を提示可能な提示部を具備するものである。
【0011】
請求項3においては、前記計算部は、前記照射装置の性能に関する情報に基づいて、前記照射装置の推奨される高さ位置を計算し、前記推奨される高さ位置を用いて、前記空間内における前記照射装置の推奨される配置を計算可能であるものである。
【0012】
請求項4においては、複数の前記照射対象のうち、前記照射装置が優先して紫外線を照射する優先照射対象の設定が可能な優先照射対象設定部を具備し、前記計算部は、前記優先照射対象に基づいて、前記除菌効果を計算可能であるものである。
【0013】
請求項5においては、前記計算部は、前記優先照射対象に基づいて前記除菌効果を計算した結果、前記除菌効果が所定の閾値よりも低い場合、前記優先照射対象の変更を推奨するものである。
【0014】
請求項6においては、前記計算部は、前記空間内に複数配置される前記照射装置を複数の設置位置にそれぞれ設置した場合のパターンごとに、複数の前記照射対象に対する除菌効果を計算し、複数の前記照射装置の除菌効果の組合せに基づいて、複数の前記照射装置の推奨される配置の組合せを計算可能であるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、効果的に除菌可能な位置となるように、照射装置の配置を決定することができる。
【0017】
請求項2においては、照射装置の配置の計算結果を、設計者に提示することができる。
【0018】
請求項3においては、好適に照射装置の配置を決定することができる。
【0019】
請求項4においては、より好適に照射装置の配置を決定することができる。
【0020】
請求項5においては、より好適に照射装置の配置を決定することができる。
【0021】
請求項6においては、複数の照射装置を配置する場合において、効果的に除菌可能な位置となるように、複数の照射装置の配置の組合せを決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第一実施形態に係る照射装置配置設計システムによる設計の対象となるトイレ個室及び照射装置を示す概略平面図。
図2】(a)照射装置の照射範囲を示す模式図。(b)照射装置配置設計システムを示すブロック図。
図3】配置設計基本処理を示すフローチャート。
図4】装置・除菌条件設定処理を示すフローチャート。
図5】照射装置配置設計システムに入力される情報を示す表。
図6】推奨設置位置計算処理を示すフローチャート。
図7】除菌効果判断処理を示すフローチャート。
図8】推奨設置位置提示処理を示すフローチャート。
図9】(a)照射装置の設置位置の順位及びスコアを示す表。(b)推奨設置位置として照射装置配置設計システムが出力する情報を示す表。
図10】(a)第二実施形態に係る照射装置配置設計システムにおいて、各照射装置の優先照射対象を同一の照射対象にした例を示す概略平面図。(b)第二実施形態に係る照射装置配置設計システムにおいて、各照射装置の優先照射対象を互いに異なる照射対象にした例を示す概略平面図。
図11】第二実施形態に係る推奨設置位置計算処理を示すフローチャート。
図12】複数設置位置除菌効果判断処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の説明においては、図中に記した矢印に従って、左右方向及び前後方向をそれぞれ定義する。
【0024】
本実施形態に係る照射装置配置設計システム30は、所定の空間に紫外線を照射する照射装置20の配置設計に用いられる。本実施形態では、照射装置配置設計システム30による設計の対象となる空間として、トイレ個室1を採用している。
【0025】
以下では、図1を参照して、トイレ個室1の構成について簡単に説明する。
【0026】
トイレ個室1は、後述するトイレ装置10が設置される空間である。トイレ個室1は、所定の建物内に設置される。トイレ個室1は、壁2により建物内の他の空間と区画される。壁2は、背面3、左側面4、右側面5及び正面6を有する。
【0027】
背面3は、トイレ個室1において後方に位置する壁面である。左側面4は、トイレ個室1において左方に位置する壁面である。右側面5は、トイレ個室1において右方に位置する壁面である。正面6は、トイレ個室1において前方に位置する壁面である。
【0028】
また、図1に示すように、トイレ個室1の内部には、トイレ装置10、ホルダー13、操作スイッチ14、ドア15及び照射装置20が配置される。
【0029】
トイレ装置10は、便器を構成するものである。トイレ装置10は、背面3の左右方向中央部側に配置される。トイレ装置10は、便器を開閉可能な便蓋や、便器の後方に配置されるタンクを備える。また、トイレ装置10は、便座11及びレバー12を具備する。
【0030】
便座11は、トイレ装置10の使用者が座る部分である。便座11としては、座面の昇温が可能なヒータや、水(例えば温水)による臀部の洗浄が可能な洗浄装置等を備えるものを採用可能である。
【0031】
レバー12は、トイレ装置10の便器内の水を排出するための操作を行う部分である。本実施形態では、レバー12は、トイレ装置10(タンク)の右側に配置している。
【0032】
ホルダー13は、トイレットペーパーを支持するものである。ホルダー13は、左側面4に取り付けられる。また、ホルダー13は、トイレ装置10の前方に位置するように配置されている。
【0033】
操作スイッチ14は、トイレ装置10の操作が可能なものである。操作スイッチ14は、左側面4において、ホルダー13の側方(後方)に取り付けられる。操作スイッチ14は、例えば、便座11の温度調節や洗浄装置の操作、便器内の水の排水、便蓋の開閉等の操作を実行可能である。なお、操作スイッチ14による操作は、上述したものに限られず、トイレ個室1に設置した装置に応じて適宜変更可能である。
【0034】
ドア15は、トイレ個室1の出入口を開閉可能なものである。ドア15は、右側面5において、前後方向中央よりも前方に設けられている。ドア15は、ドアノブ16を具備する。
【0035】
ドアノブ16は、ドア15の開閉操作が可能なものである。ドアノブ16は、ドア15に取り付けられている。
【0036】
照射装置20は、紫外線(可視光線よりも波長が短いもの)を照射するためのものである。照射装置20は、紫外線の中で比較的波長が短い(例えば、100~300nm程度の)深紫外線を照射可能に構成される。照射装置20は、紫外線を照射する部分である照射部21を有する。
【0037】
照射装置20は、紫外線を照射することで、照射対象の除菌(菌やウィルスの不活性化)を行うことができる。照射対象としては、トイレ個室1内の便座11やレバー12、ホルダー13、操作スイッチ14、ドアノブ16等、使用者が触れる種々の箇所を採用可能である。
【0038】
本実施形態では、比較的短時間で照射対象の除菌を行う観点から、天井ではなく壁2に照射装置20を設置している。すなわち、照射装置20による除菌を行う場合、照射部21から照射対象までの距離(照射距離)が近いほど、照射対象に照射される紫外線が強くなり除菌時間が短くなる。このため、仮に照射装置20を天井に設置した場合には、広範囲に紫外線を照射可能であるが、照射対象までの距離が遠いため除菌に比較的長い時間を要する。一方、壁2に照射装置20を設置すれば、照射対象までの距離が近くなるため比較的短時間で照射対象の除菌を行うことができる。
【0039】
具体的には、照射装置20は、トイレ個室1内の壁2(背面3、左側面4、右側面5及び正面6)において想定された設置位置の候補の中から、任意に選択された1つの設置位置に設置される。本実施形態においては、設置位置の候補として、背面中央A、左側面中央B、正面角C、背面右角D、背面左角E及び右側面中央Fが想定される。すなわち、第一実施形態においては、照射装置20の設置位置として、最大で6つのパターンが考えられる。
【0040】
ここで、背面中央Aは、背面3の左右方向中央部である。また、左側面中央Bは、左側面4の前後方向中央部である。また、正面角Cは、正面6における左側面4との角部である。また、背面右角Dは、背面3における右側面5との角部である。また、背面左角Eは、背面3における左側面4との角部である。図1に示す例では、照射装置20を正面角Cに配置した例を示している。
【0041】
照射装置20には、所定の波長や照射強度(照度)、照射範囲が設定されている。本実施形態では、照射装置20の紫外線の波長を222nmとした例を説明する。
【0042】
また、照射強度(mW/cm)とは、ある照射距離(照射部21から照射対象までの距離)で測定される、照射装置20から照射された紫外線の強さである。本実施形態では、照射距離(照射部21から照射対象までの距離)が10mmである場合の照射装置20の照射強度を6.7mW/cmとした例を説明する。
【0043】
また、照射範囲とは、照射装置20により、ある照射距離で紫外線を照射した場合において、所定の照射強度の紫外線を照射可能な範囲である。照射範囲は、図2(a)に示すように略円形(楕円形)である。照射範囲には、第一範囲R1と、第二範囲R2と、が含まれる。
【0044】
図2(a)に示す第一範囲R1は、照射装置20の中心照度(照射範囲における中心の照射強度)×0.6以上の照射強度の紫外線を照射可能な範囲である。第一範囲R1では、比較的高い照射強度での除菌が可能である。
【0045】
第二範囲R2は、照射装置20の中心照度×0.1以上、0.6未満の照射強度の紫外線を照射可能な範囲である。第二範囲R2では、比較的低い照射強度での除菌が可能である。
【0046】
また、以下では、照射範囲に入らない範囲を、第三範囲R3と称して説明する。具体的には、図2(a)に示すように、第一範囲R1及び第二範囲R2の範囲外であるか、障害物の影になり紫外線が届かない部分を第三範囲R3とする。
【0047】
また、照射装置20は、照射部21の向きを調節することができる。図1に示す例では、照射部21の向きを、レバー12(トイレ装置10)へ向けた例を示している。ここで、「照射部21の向きをレバー12(照射対象)へ向ける」とは、照射部21(照射装置20)の照射範囲の中心に、レバー12(照射対象)が位置するように照射部21の向きを設定することである。
【0048】
次に、図2(b)を参照して照射装置配置設計システム30について説明する。
【0049】
照射装置配置設計システム30は、照射装置20の配置の設計を行うための処理を実行可能なものである。照射装置配置設計システム30は、各種の情報の処理が可能な制御装置を構成する。制御装置としては、一般的なパーソナルコンピュータ等を用いることができる。照射装置配置設計システム30は、記憶部31、制御部32、入力部33及び表示部34を具備する。
【0050】
記憶部31は、各種のプログラムや取得された各種の情報が記憶されるものである。記憶部31は、HDD、RAM、ROM等により構成される。
【0051】
制御部32は、記憶部31に記憶されたプログラムを実行するものである。制御部32は、CPUにより構成される。
【0052】
入力部33は、各種の情報を入力するためのものである。入力部33は、キーボード、マウス等により構成される。
【0053】
表示部34は、各種の情報を表示するものである。表示部34は、例えば液晶ディスプレイ等により構成される。
【0054】
上述の如く構成される照射装置配置設計システム30は、トイレ個室1内における照射装置20の配置の設計を行う「配置設計基本処理」を実行可能である。具体的には、照射装置配置設計システム30は、配置設計基本処理において、照射装置20を、背面中央A、左側面中央B、正面角C、背面右角D、背面左角E及び右側面中央Fのうちのどの位置に配置するかの設計を実行可能である。
【0055】
以下では図3のフローチャートを用いて、配置設計基本処理について説明する。
【0056】
配置設計基本処理は、設計者による操作(例えば入力部33を用いた操作)を契機として、制御部32により実行される。配置設計基本処理が開始されると、制御部32は、ステップS10の処理へ移行する。
【0057】
ステップS10において制御部32は、「装置・除菌条件設定処理」を実行する。ここで、「装置・除菌条件設定処理」とは、照射装置20の条件や、除菌に関する条件に基づいて、照射装置20の「推奨高さH」を設定する処理である。なお、「推奨高さH」の詳細な説明は後述する。
【0058】
以下では、図4のフローチャートを用いて、装置・除菌条件設定処理について説明する。
【0059】
ステップS20において、制御部32は、照射装置20の条件の確認を行う。ここで、照射装置20の条件とは、照射装置20の性能に関する情報(条件)である。照射装置20の条件には、例えば波長(222nm)や照射強度(6.7mW/cm)、照射範囲(図2(a)を参照)等の情報が含まれる。
【0060】
照射装置20の条件の情報は、予め記憶部31に記憶させたものでもよく、入力部33等を用いて入力された情報でもよい。制御部32は、ステップS20の処理を実行した後、ステップS21の処理へ移行する。
【0061】
ステップS21において、制御部32は、照射装置20による除菌対象及び除菌時間tの設定を行う。ここで、除菌対象とは、除菌の対象である菌やウィルスの種類である。除菌対象には、例えば大腸菌や緑膿菌、カンピロバクター、インフルエンザウィルス、コロナウィルス(新型コロナウィルス(SARS-Cov-2))等が含まれる。なお、除菌対象としては上述した例に限られず、種々の菌やウィルスを採用可能である。以下では、除菌対象を新型コロナウィルスに設定した例を説明する。
【0062】
また、除菌時間tとは、除菌対象の除菌に要する時間である。除菌時間tは、ある照射強度の紫外線を照射した場合に、ある除菌対象の除菌を完了する(例えば除菌対象を90%除菌する)までの時間に基づいて決定される。除菌時間tは、除菌対象の種類ごとに異なる時間を設定可能である。以下では、新型コロナウィルスの除菌時間tとして、180秒を設定した例を説明する。
【0063】
除菌対象及び除菌時間tの設定は、入力部33を用いて入力された情報に基づいて行われる。制御部32は、ステップS21の処理を実行した後、ステップS22の処理へ移行する。
【0064】
ステップS22において、制御部32は、照射装置20の紫外線の波長と、除菌対象と、に基づいて除菌対象の除菌に必要な紫外線の照射量(mJ/cm)を決定する。具体的には、制御部32は、ステップS20における照射装置20の条件に含まれる波長(222nm)と、ステップS21で設定された除菌対象(新型コロナウィルス)と、に基づいて除菌に必要な紫外線の照射量を決定する。上記照射量の決定は、予め記憶部31に記憶されたデータ(例えば、紫外線の波長、除菌対象及び照射量の関係を示す論文データ等)に基づいて行われる。以下では、ステップS22で決定された除菌に必要な紫外線の照射量を、1.2mJ/cmとした例を説明する。制御部32は、ステップS22の処理を実行した後、ステップS23の処理へ移行する。
【0065】
ステップS23において、制御部32は、紫外線の照射量と、除菌時間tと、に基づいて、除菌対象の除菌に必要な紫外線の照射強度(μW/cm)を算出する。具体的には、制御部32は、ステップS22で決定した紫外線の照射量(1.2mJ/cm)を、ステップS21で設定した除菌時間t(180秒)で除算することで、除菌に必要な紫外線の照射強度(6.7μW/cm)を算出する。制御部32は、ステップS23の処理を実行した後、ステップS24の処理へ移行する。
【0066】
ステップS24において、制御部32は、除菌に必要な紫外線の照射強度から、照射装置20の紫外線の照射距離の限界値X(m)を算出する。ここで、照射距離の限界値X(m)とは、ステップS23で算出した除菌に必要な紫外線の照射強度(6.7μW/cm)を確保できる最大の照射距離(照射部21から照射対象までの距離)である。具体的には、制御部32は、ステップS20における照射装置20の条件に含まれる照射装置20の照射強度(6.7mW/cm)と、ステップS23で算出した除菌に必要な紫外線の照射強度(6.7μW/cm)と、に基づいて、紫外線の照射距離の限界値X(1.1m)を算出する。制御部32は、ステップS24の処理を実行した後、ステップS25の処理へ移行する。
【0067】
ステップS25において、制御部32は、照射装置20の推奨高さH(m)を設定する。具体的には、制御部32は、ステップS24で算出した限界値X(1.1m)に基づいて推奨高さH(m)を設定する。ここで、推奨高さHとは、限界値Xの範囲内で設置可能な照射装置20の高さ(トイレ個室1の床から照射装置20(照射部21)までの高さ)の最大値である。
【0068】
推奨高さHの算出方法としては、例えば、一般的なトイレ個室の寸法データに基づいて、各設置位置における照射装置20と、各照射対象と、の各距離を算出し、上記各距離の平均(平均距離)に基づいて、推奨高さH(m)を設定する方法を採用可能である。この場合は、上記平均距離が限界値X以内となる高さであって、かつ限界値Xの範囲内で最大の高さを推奨高さHに設定可能である。
【0069】
また、推奨高さHの算出においては、トイレ個室に設置される一般的な設備に干渉しない高さを考慮してもよい。例えば、トイレ個室にタンクが設置される場合は、一般的なタンクの高さを考慮し、推奨高さHを所定の高さ(例えば1m)以上に設定するようにしてもよい。なお、推奨高さHの算出方法としては上述した例に限られず、例えば入力した情報(後述する「トイレ条件」等)に基づいて算出するようにしてもよい。また、推奨高さHの算出方法としては、上述した方法の他、種々の算出方法を採用可能である。制御部32は、ステップS25の処理を実行した後、ステップS26の処理へ移行する。
【0070】
ステップS26において、制御部32は、各照射対象が、照射装置20の照射範囲に含まれるか否かを、照射装置20の各設置位置ごとに判定する。具体的には、制御部32は、一般的なトイレ個室の寸法データと、ステップS20における照射装置20の条件に含まれる照射装置20の照射範囲と、照射装置20の推奨高さH(m)に基づいて、一般的なトイレ個室の各設置位置に照射装置20を設置した場合において、トイレ個室の各照射対象が照射装置20の照射範囲に含まれるか否かを、各設置位置ごとに判定する。
【0071】
ここで、本実施形態においては、「各照射対象」を、便座11やレバー12、ホルダー13、操作スイッチ14、ドアノブ16としている。また、「各設置位置」を、背面中央A、左側面中央B、正面角C、背面右角D、背面左角E及び右側面中央Fとしている。上記一般的なトイレ個室の寸法データや、「各照射対象」及び「各設置位置」の情報は、予め記憶部31に記憶させたものでもよく、入力部33等を用いて入力された情報でもよい。
【0072】
ステップS26において、制御部32は、各照射対象が、第一範囲R1、第二範囲R2及び第三範囲R3のいずれに位置するかを、各設置位置ごとに判定する。上記判定は、例えば、照射装置20の照射部21の向きを判定の対象となる各照射対象へ向けた場合を想定して行われる。制御部32は、上記判定結果を示す表(不図示)を作成可能である。また、制御部32は、上記表を、表示部34に表示可能である。
【0073】
制御部32は、ステップS26の処理を実行した後、装置・除菌条件設定処理を終了する。上述の如き装置・除菌条件設定処理によれば、照射装置20の条件(波長、照射強度、照射範囲)や、除菌に関する条件(除菌対象、除菌時間t)を用いて、一般的なトイレ個室の寸法データに基づいた計算(シミュレーション)を行うことで、照射装置20の推奨高さHを設定することができる。制御部32は、上述の如き装置・除菌条件設定処理を実行した後、図3に示すステップS11の処理に移行する。
【0074】
ステップS11において、制御部32は、「トイレ条件」を設定する。ここで、「トイレ条件」とは、トイレ個室1に関する情報(条件)である。図5に示すように、トイレ条件には、トイレ個室1の寸法や、トイレ個室1内の設備の有無、設備の設置位置、設備の寸法等が含まれる。トイレ条件は、例えば入力部33を用いて入力される。
【0075】
図5に示す例では、トイレ条件に、設備としての棚の有無や、ドア15及び操作スイッチ14が設置される位置の情報を含めている。また、トイレ条件に、トイレ個室1の幅(左右)寸法及び奥行(前後)寸法や、棚の奥行寸法、便座11の各寸法(幅、奥行、高さ寸法)の情報を含めている。また、トイレ条件に、トイレ個室1における基点(図例では左上)を基準とした、各照射対象(レバー12、ホルダー13、操作スイッチ14及びドアノブ16)の左右方向、前後方向及び高さ方向の位置の情報を含めている。制御部32は、ステップS11の処理を実行した後、ステップS12の処理へ移行する。
【0076】
ステップS12において、制御部32は、「優先照射対象」の設定を行う。ここで、「優先照射対象」とは、各照射対象(便座11、レバー12、ホルダー13、操作スイッチ14及びドアノブ16)のうち、優先的に紫外線を照射し除菌を行う位置である。設計者は、各照射対象のうち、所望の照射対象を優先照射対象に選択する。優先照射対象の選択は、例えば入力部33を用いた入力により行われる。本実施形態では、図5に示すように、レバー12を優先照射対象に選択した例を示している。
【0077】
制御部32は、選択された照射対象を、優先照射対象として設定する。以下の処理においては、照射装置20の照射部21は、優先照射対象を向いているものとする。制御部32は、ステップS12の処理を実行した後、ステップS13の処理へ移行する。
【0078】
ステップS13において制御部32は、「推奨設置位置計算処理」を実行する。ここで、「推奨設置位置計算処理」とは、トイレ条件及び優先照射対象に基づいて、「推奨設置位置」を計算する処理である。また、「推奨設置位置」とは、優先照射対象に加えて、他の照射対象に対する除菌効果が高い位置(照射装置20の設置位置)である。
【0079】
以下では、図6のフローチャートを用いて、推奨設置位置計算処理について説明する。
【0080】
ステップS30において、制御部32は、照射装置20から各照射対象までの距離を計算する。具体的には、制御部32は、ステップS11で設定されたトイレ条件に基づいて、トイレ個室1に照射装置20を設置した場合の照射装置20から各照射対象(便座11、レバー12、ホルダー13、操作スイッチ14及びドアノブ16)までの距離を計算する。上記距離の計算は、各設置位置(背面中央A、左側面中央B、正面角C、背面右角D、背面左角E及び右側面中央F)ごとに計算される。なお、上記計算において、照射装置20は、推奨高さHの高さ位置に設置されているものとする。制御部32は、ステップS30の処理を実行した後、ステップS31の処理へ移行する。
【0081】
ステップS31において、制御部32は、「除菌効果判断処理」を実行する。ここで、「除菌効果判断処理」とは、照射装置20の照射範囲及び限界値Xに基づいて、照射対象に対する除菌効果を判断する処理である。除菌効果判断処理では、ある設置位置に設置された照射装置20が、優先照射対象に紫外線を照射した場合の除菌効果を判断する。上記除菌効果の判断は、全ての設置位置と全ての照射対象との組み合わせを網羅するように行われる。
【0082】
以下では、図7のフローチャートを用いて、除菌効果判断処理について説明する。図7のフローチャートの各処理(ステップS40~S45)は、全ての設置位置と全ての照射対象との組み合わせを網羅するように行われる。なお、以下の説明では、所定の(一の)設置位置と所定の(一の)照射対象との組み合わせを例に挙げて、各処理の説明を行う。
【0083】
ステップS40において、制御部32は、所定の照射対象が、所定の設置位置に設置された照射装置20の照射範囲(第一範囲R1又は第二範囲R2)に入らないか否かを判断する。制御部32は、照射対象が照射装置20の照射範囲に入らないと判断した場合、ステップS45の処理へ移行する。一方、制御部32は、照射対象が照射装置20の照射範囲に入ると判断した場合、ステップS41の処理へ移行する。
【0084】
ステップS41において、制御部32は、所定の照射対象が、所定の設置位置に設置された照射装置20の第一範囲R1に入るか否かを判断する。制御部32は、照射対象が、照射装置20の第一範囲R1に入ると判断した場合、ステップS42の処理へ移行する。一方、制御部32は、照射対象が、照射装置20の第一範囲R1に入らないと判断した場合、ステップS44の処理へ移行する。
【0085】
ステップS42において、制御部32は、所定の照射対象と、所定の設置位置に設置された照射装置20と、の間の照射距離が、限界値X未満であるか否かを判断する。上記照射距離としては、照射対象の概ね全体が限界値X未満であるか否かを判断可能な距離(例えば最長距離)を採用可能である。なお、照射距離としては、上述した例に限定されず、照射部21から照射対象までの最短距離や、照射方向に見た照射対象の任意の点(例えば中心)までの距離等を採用可能である。制御部32は、照射距離が限界値X未満であると判断した場合、ステップS43の処理へ移行する。一方、制御部32は、照射距離が限界値X以上であると判断した場合、ステップS44の処理へ移行する。
【0086】
ステップS43において、制御部32は、除菌時間t(秒)以内に所定の照射対象を除菌可能であると判断する。なお、本実施形態においては、制御部32は、照射対象のウィルスを90%以上不活性化可能である場合に、照射対象を除菌可能であると判断する。ステップS43において、制御部32は、所定の設置位置と所定の照射対象との組み合わせに対して、「○」と判断すると共に1点を付与する。
【0087】
ステップS44において、制御部32は、所定の照射対象の除菌(ウィルスの90%以上の不活性化)に除菌時間t(秒)超の時間が必要であると判断する。ステップS44において、制御部32は、所定の設置位置と所定の照射対象との組み合わせに対して、「△」と判断すると共に0.25点を付与する。
【0088】
ステップS45において、制御部32は、所定の照射対象の除菌は不可である(ウィルスの不活性化が困難である)と判断する。ステップS45において、制御部32は、所定の設置位置と所定の照射対象との組み合わせに対して、「×」と判断すると共に0点を付与する。
【0089】
制御部32は、上記各処理(ステップS40~S45)を、全ての設置位置と全ての照射対象との組み合わせを網羅するように実行した後、除菌効果判断処理を終了する。
【0090】
上述の如き除菌効果判断処理においては、上記各処理(ステップS40~S45)を実行することで、全ての設置位置と全ての照射対象との組み合わせについて、○、△、×の三段階の評価が行われる。
【0091】
制御部32は、上述の如き除菌効果判断処理を実行した後、図6に示すステップS32の処理に移行する。
【0092】
ステップS32において、制御部32は、除菌効果判断処理の結果に基づいて、図9(a)に示すスコアを算出する。ここで、スコアとは、所定の各設置位置に照射装置20を配置した場合における各照射対象の点数(除菌効果判断処理で付与された点数)の合計である。スコアが高い程、所定の各設置位置に照射装置20を配置した場合の除菌効果が高いと言える。制御部32は、ステップS32の処理を実行した後、ステップS33の処理へ移行する。
【0093】
ステップS33において、制御部32は、「推奨設置位置提示処理」を実行する。ここで、「推奨設置位置提示処理」とは、ステップS32で算出したスコアに基づいて、照射装置20の推奨設置位置を提示する処理である。
【0094】
以下では、図8のフローチャートを用いて、推奨設置位置提示処理について説明する。
【0095】
ステップS50において、制御部32は、ステップS32で算出したスコアに基づいて、設置位置のランク付けを行う。図9(a)に示す表は、ランク付けの結果を示すものである。制御部32は、スコアが高い順に、設置位置の順位(ランク)を決定する。上記設置位置の順位が高い(順位の数字が小さい)程、照射装置20を配置した場合の除菌効果が高いことが示される。制御部32は、図9(a)に示す表を、表示部34に表示可能である。制御部32は、ステップS50の処理を実行した後、ステップS51の処理へ移行する。
【0096】
ステップS51において、制御部32は、ステップS50のランク付けの結果において、1位のスコアが3点未満であるか否かを判断する。制御部32は、1位のスコアが3点未満であると判断した場合、ステップS52の処理へ移行する。一方、制御部32は、1位のスコアが3点以上であると判断した場合、ステップS53の処理へ移行する。なお、上記判断の基準となる点数は3点に限られず、種々の値を採用可能である。
【0097】
ステップS52において、制御部32は、優先照射対象の変更の推奨を実行する。制御部32は、例えば優先照射対象の変更を推奨する旨のメッセージを表示部34に表示させることにより、ステップS52の処理を実行する。制御部32は、ステップS52の処理を実行した後、ステップS53の処理へ移行する。
【0098】
ステップS53において、制御部32は、ステップS50のランク付けの結果を、推奨設置位置としてランク順に並べて提示する。図9(b)に示す表は、ランク順に並べた推奨設置位置の結果を示すものである。制御部32は、図9(b)に示す表を表示部34に表示させることで、推奨設置位置の提示を行う。
【0099】
図9(b)に示す例では、図9(a)に示す表のうち上位(例えば3位まで)の設置位置を表示させている。なお、推奨設置位置の提示内容としては上述した例に限られず、4位以下の設置位置を表示させるようにしてもよく、また、全ての設置位置を表示してもよい。制御部32は、ステップS53の処理を実行した後、推奨設置位置提示処理を終了する。
【0100】
制御部32は、上述の如き推奨設置位置提示処理を実行した後、図3に示すステップS14の処理に移行する。
【0101】
ステップS14において、制御部32は、他の環境要因から一部の設置位置を除外する。具体的には、ステップS14においては、「トイレ条件」に含まれない設備と干渉する等の環境要因で、照射装置20を設置できない位置を推奨設置位置の提示内容から除外する。上記「トイレ条件」に含まれない設備としては、例えば手摺やボタン、おむつ交換台、洗面台等が挙げられる。
【0102】
ステップS14においては、例えば入力部33を用いて入力された「トイレ条件」に含まれない設備の位置や寸法の情報に基づいて、制御部32が自動で一部の設置位置を推奨設置位置の提示内容から除外する構成を採用可能である。また、上記構成に代えて、設計者の判断により入力部33を用いた操作を行うことで、手動で一部の設置位置を推奨設置位置の提示内容から除外する構成も採用可能である。制御部32は、ステップS14の処理を実行した後、ステップS15の処理へ移行する。
【0103】
ステップS15において、制御部32は、最終的な推奨設置位置を提示する。具体的には、制御部32は、ステップS14において一部の設置位置を除外した推奨設置位置を、表示部34に表示させる。推奨設置位置として提示される設置位置が複数ある場合には、設計者は、複数の設置位置から所望の推奨設置位置を選択することができる。制御部32は、ステップS15の処理を実行した後、配置決定基本処理を終了する。
【0104】
なお、上述した処理は一例であり、照射装置配置設計システム30が実行する処理は、上述したものに限定されない。例えば、上述した処理の一部を必要に応じて変更してもよい。
【0105】
上述の如き配置決定基本処理を実行したことで、効果的な除菌が可能となるような照射装置20の設置位置を提示することができる。すなわち、仮に照射装置20を天井に設置した場合は、広範囲に紫外線を照射可能であるが、照射距離が遠くなるため除菌に比較的長い時間を要する。一方、本実施形態のように照射装置20を壁2に設置した場合には、照射距離が近くなるため比較的短時間での除菌が可能となるが、照射範囲が比較的狭くなる。本実施形態に係る配置決定基本処理を実行した場合には、比較的短時間で優先照射対象の除菌を可能とし、かつできる限り広範囲に(多くの照射対象を)除菌可能な設置位置を提示することができる。これにより、設計者は、上記提示内容に基づいて照射装置20の配置設計を行うことができる。
【0106】
なお、図8に示すステップS52において、優先照射対象の変更の推奨が行われた場合、設計者は、優先照射対象の変更を行うことができる。優先照射対象の変更の推奨が行われた場合(ランク付けの結果の1位のスコアが3点未満である場合)には、現状の優先照射対象が設定された場合の除菌効果が比較的低いことを意味する。このような場合、設計者は、図3に示すステップS12の処理に戻り、以前とは異なる照射対象を優先照射対象に設定し直すことができる。その後、推奨設置位置計算処理を実行する(ステップS13)ことで、優先照射対象の変更後の内容で、推奨設置位置の提示を行うことができる。
【0107】
以上、本発明の第一実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0108】
例えば、上記第一実施形態では、1つの照射装置20の推奨設置位置を提示する例を示したが、このような態様に限られない。例えば、図10から図12までに示す第二実施形態のように、複数の照射装置20の推奨設置位置を提示する処理を行うようにしてもよい。
【0109】
以下では、第二実施形態に係る照射装置配置設計システム30が実行する処理について説明する。以下の第二実施形態では、トイレ個室1において2つの照射装置20を配置する点で、第一実施形態とは異なる。各照射装置20の構成は、互いに同一である。なお、以下の第二実施形態についての説明では、主として第一実施形態とは異なる点について説明し、第一実施形態と同様な点は適宜省略する。
【0110】
第二実施形態において、照射装置20は、想定された設置位置の候補の中(背面中央A、左側面中央B、正面角C、背面右角D、背面左角E及び右側面中央F)から、任意に選択された2つの設置位置に設置される。すなわち、第二実施形態においては、照射装置20の設置位置として、背面中央A等の組み合わせにより最大で15つのパターンが考えられる。図10(a)、(b)に示す例では、正面角Cに加えて、右側面中央Fにも照射装置20を設置している。上記例ではいずれも、正面角Cに設置された照射装置20の優先照射対象を、第一実施形態と同様にレバー12に設定している。
【0111】
図10(a)に示す例では、各照射装置20の照射部21の向きを、それぞれ同じ照射対象(レバー12)に向けている。これによれば、2つの照射装置20により紫外線を照射することで、早い除菌時間で所定の照射対象の除菌を行う急速除菌を実行することができる。
【0112】
一方、図10(b)に示す例では、各照射装置20の照射部21の向きを、それぞれ異なる照射対象に向けている。具体的には、正面角Cに設置された照射装置20の照射部21を、優先照射対象であるレバー12に向けており、右側面中央Fに設置された照射装置20の照射部21を、優先照射対象である操作スイッチ14に向けている。これによれば、2つの照射装置20によって広範囲に除菌を行うことができる。
【0113】
以下では、図11及び図12を用いて、第二実施形態に係る照射装置配置設計システム30が実行する処理について説明する。
【0114】
以下の処理では、図11に示す推奨設置位置計算処理の一部が、第一実施形態に係る処理とは異なる。具体的には、図11に示す推奨設置位置計算処理では、ステップS31とステップS32との間に、ステップS31Aの処理を挿入している。
【0115】
本実施形態においては、ステップS31(図7に示す除菌効果判断処理)で、各照射装置20について、それぞれ全ての設置位置と全ての照射対象との組み合わせが、○、△、×の三段階の評価が行われる。
【0116】
また、本実施形態においては、任意の処理(例えばステップS12)において、各照射装置20の照射部21の向きが設定されているものとする。具体的には、図10(a)に示す例の場合は、各照射装置20の照射部21が、優先照射対象(レバー12)に向けられている旨の設定が行われる。また、図10(b)に示す例の場合は、一方の照射装置20の照射部21は優先照射対象に向けられているが、他方の照射装置20の照射部21は優先照射対象以外の照射対象(例えば操作スイッチ14)に向けられている旨の設定が行われる。以下では、必要に応じて、照射部21が優先照射対象に向く照射装置20を「優先照射装置20A」と称し、照射部21が優先照射対象に向いていない照射装置20を「非優先照射装置20B」と称して説明する(図10(b)を参照)。
【0117】
ステップS31の後に実行されるステップS31Aにおいて、制御部32は、「複数設置位置除菌効果判断処理」を実行する。ここで、「複数設置位置除菌効果判断処理」とは、照射範囲及び限界値Xに基づいて、複数の照射装置20を用いた場合の照射対象に対する除菌効果を判断する処理である。複数設置位置除菌効果判断処理では、ステップS31(図7に示す除菌効果判断処理)での評価に基づいて、複数の照射装置20を用いた場合の除菌効果が判断される。
【0118】
以下では、図12のフローチャートを用いて、複数設置位置除菌効果判断処理について説明する。
【0119】
ステップS60において、制御部32は、優先照射対象を急速除菌するか否かを判断する。具体的には、制御部32は、図10(a)に示すように、各照射装置20の両方が優先照射装置20Aである場合、優先照射対象を急速除菌すると判断する。一方、制御部32は、図10(b)に示すように、各照射装置20のうちの一方が、非優先照射装置20Bである場合は、優先照射対象を急速除菌しないと判断する。
【0120】
制御部32は、優先照射対象を急速除菌すると判断した場合、ステップS63の処理へ移行する。一方、制御部32は、優先照射対象を急速除菌しないと判断した場合、ステップS61の処理へ移行する。
【0121】
ステップS61において、図10(b)に示すように、制御部32は、各照射装置20は広範囲を除菌すると認識する。制御部32は、ステップS61の処理を実行した後、ステップS62の処理へ移行する。
【0122】
ステップS62において、制御部32は、図7に示す除菌効果判断処理での評価(○、△、×の三段階の評価)の結果に基づいて、優先照射装置20Aによる除菌と、非優先照射装置20Bによる除菌と、を組み合わせた場合の除菌効果を評価する。上記除菌効果の判断は、全ての設置位置における優先照射装置20A及び非優先照射装置20Bの全ての組み合わせを網羅するように行われる。
【0123】
各照射装置20を組み合わせた場合の除菌効果の評価は、各照射装置20の個別の除菌効果の評価(○、△、×の三段階の評価)を足し合わせることで行われる。具体的には、ステップS62においては、○+○=◎、○+△=○、△+△=△、△+×=△、×+×=×という式で上記評価を行う。このように、各照射装置20を組み合わせた場合の除菌効果の評価は、◎、○、△、△、×の五段階の評価で行われる。制御部32は、ステップS62の処理を実行した後、ステップS63の処理へ移行する。
【0124】
ステップS63において、制御部32は、図7に示す除菌効果判断処理での評価(○、△、×の三段階の評価)の結果に基づいて、各優先照射装置20Aを組み合わせた場合の除菌効果を評価する。上記除菌効果の判断は、全ての設置位置における各優先照射装置20Aの全ての組み合わせを網羅するように行われる。各照射装置20を組み合わせた場合の除菌効果の評価は、ステップS62と同様な方法で行われる。制御部32は、ステップS63の処理を実行した後、ステップS64の処理へ移行する。
【0125】
ステップS64において、制御部32は、ステップS62やステップS63で行われた評価に基づいて、点数を付与する。具体的には、制御部32は、◎であれば、90秒(急速除菌時間t/2(秒))以内の除菌(ウィルスの90%以上の不活性化)可能であると判断し、2点を付与する。また、制御部32は、○であれば、180秒(除菌時間t(秒))以内に除菌が可能であると判断し、1点を付与する。また、制御部32は、△であれば、180秒以内に除菌できる可能性があると判断し、0.5点を付与する。また、制御部32は、△であれば、除菌に180秒超の時間が必要であると判断し、0.25点を付与する。また、制御部32は、×であれば0点を付与する。制御部32は、ステップS64の処理を実行した後、複数設置位置除菌効果判断処理を終了する。
【0126】
上述の如き複数設置位置除菌効果判断処理を実行することで、複数の照射装置20を組み合わせた場合の除菌効果の評価を行うことができる。制御部32は、上述の如き複数設置位置除菌効果判断処理を実行した後、図11に示すステップS32の処理に移行する。
【0127】
ステップS32において、制御部32は、複数設置位置除菌効果判断処理の結果に基づいて、複数の照射装置20を組み合わせた場合のスコアを算出する。ここで、スコアとは、複数の照射装置20を組み合わせた場合の点数(複数設置位置除菌効果判断処理で付与された点数)の合計である。スコアが高い程、複数の照射装置20を組み合わせた場合の除菌効果が高いと言える。制御部32は、ステップS32の処理を実行した後、ステップS33の処理へ移行する。
【0128】
ステップS33において、制御部32は、ステップS32で算出したスコアに基づいて、照射装置20の推奨設置位置(不図示)を提示する。本実施形態では、複数の照射装置20を組み合わせた場合の各照射装置20の設置位置を、推奨設置位置としてランク順に並べて提示する。なお、照射装置20の設置位置をランク順に並べて提示する方法は、第一実施形態に係る推奨設置位置提示処理と概ね同様である。
【0129】
上述の如き処理を実行したことで、複数の照射装置20を組み合わせた場合において、効果的な除菌が可能となるような各照射装置20の設置位置を提示することができる。これにより、設計者は、上記提示内容に基づいて複数の照射装置20の配置設計を行うことができる。
【0130】
なお、上述した処理は一例であり、第二実施形態に係る照射装置配置設計システム30が実行する処理は、上述したものに限定されない。例えば、上述した複数設置位置除菌効果判断処理では、広範囲の除菌を行う場合に移行するステップS62と、急速除菌を行う場合に移行するステップS63と、において、除菌効果を評価するための式を互いに同じものとしたが、このようなものに限定されない。例えば、ステップS62においては広範囲の除菌を行う場合に適した式で除菌効果の評価を行い、ステップS63においては急速除菌を行う場合に適した式で除菌効果の評価を行うようにしてもよい。
【0131】
以上の如く、各実施形態に係る照射装置配置設計システム30は、
所定の空間(トイレ個室1)内における複数の照射対象に紫外線を照射することで除菌が可能な照射装置20の性能に関する情報(波長、照射強度、照射範囲)と、前記照射装置20により行われる除菌の条件(除菌対象、除菌時間t)に関する情報と、前記空間(トイレ個室1)に関する情報(トイレ条件)と、を取得する取得部(制御部32)と、
前記取得部(制御部32)が取得した情報に基づいて、所定の設置位置に前記照射装置20を設置した場合の複数の前記照射対象に対する除菌効果を計算する計算部(制御部32)と、
を具備し、
前記所定の設置位置には、前記空間(トイレ個室1)内に想定された複数の設置位置から任意に選択される複数パターンの設置位置(背面中央A、左側面中央B、正面角C、背面右角D、背面左角E及び右側面中央F)が含まれ、
前記計算部(制御部32)は、
複数の前記照射対象に対する除菌効果を前記パターンごとに計算し、前記パターンごとの前記除菌効果に基づいて、前記空間(トイレ個室1)内における前記照射装置20の推奨される配置を計算する(ステップS13)ものである。
【0132】
このように構成することにより、効果的に除菌可能な位置となるように、照射装置20の配置を決定することができる。すなわち、照射装置20の性能に関する情報と、除菌の条件に関する情報と、前記空間(トイレ個室1)に関する情報と、に基づいて計算された除菌効果に基づいて、空間(トイレ個室1)内における照射装置20の推奨される配置を計算することができる。これにより、設計者は、上記計算結果に基づいて、効果的に除菌が可能な照射装置20の配置を決定することができる。
【0133】
また、前記計算部(制御部32)による前記照射装置20の配置の計算結果を提示可能な(ステップS33)提示部(表示部34)を具備するものである。
【0134】
このように構成することにより、照射装置20の配置の計算結果を、設計者に提示することができる。
【0135】
また、前記計算部(制御部32)は、
前記照射装置20の性能に関する情報に基づいて、前記照射装置20の推奨される高さ位置(推奨高さH)を計算し(ステップS26)、前記推奨される高さ位置(推奨高さH)を用いて、前記空間(トイレ個室1)内における前記照射装置20の推奨される配置を計算可能であるものである。
【0136】
このように構成することにより、好適に照射装置20の配置を決定することができる。すなわち、推奨される高さ位置(推奨高さH)を考慮して、効果的に除菌を行う観点から、照射装置20の配置を決定することができる。
【0137】
また、複数の前記照射対象のうち、前記照射装置20が優先して紫外線を照射する優先照射対象の設定(ステップS12)が可能な優先照射対象設定部(制御部32)を具備し、
前記計算部(制御部32)は、
前記優先照射対象に基づいて、前記除菌効果を計算可能であるものである。
【0138】
このように構成することにより、より好適に照射装置20の配置を決定することができる。すなわち、優先照射対象を考慮して、効果的に除菌を行う観点から、照射装置20の配置を決定することができる。
【0139】
また、前記計算部(制御部32)は、
前記優先照射対象に基づいて前記除菌効果を計算した結果、前記除菌効果が所定の閾値よりも低い場合、前記優先照射対象の変更を推奨する(ステップS52)ものである。
【0140】
このように構成することにより、より好適に照射装置20の配置を決定することができる。すなわち、優先照射対象を考慮した結果、除菌効果が比較的低くなった場合には、効果的に除菌を行う観点から、設計者に対して優先照射対象を変更させるように促すことができる。
【0141】
また、第二実施形態に係る照射装置配置設計システム30は、
前記計算部(制御部32)は、
前記空間(トイレ個室1)内に複数配置される前記照射装置20を複数の設置位置にそれぞれ設置した場合のパターン(背面中央A、左側面中央B、正面角C、背面右角D、背面左角E及び右側面中央Fのうちの2つの設置位置の組合せ)ごとに、複数の前記照射対象に対する除菌効果を計算し、複数の前記照射装置20の除菌効果の組合せに基づいて、複数の前記照射装置20の推奨される配置の組合せを計算可能である(ステップS31A)ものである。
【0142】
このように構成することにより、複数の照射装置20を配置する場合において、効果的に除菌可能な位置となるように、複数の照射装置20の配置の組合せを決定することができる。
【0143】
なお、各実施形態に係るトイレ個室1は、本発明に係る所定の空間の実施の一形態である。
また、各実施形態に係る制御部32は、本発明に係る取得部、計算部、優先照射対象設定部の実施の一形態である。
また、各実施形態に係る表示部34は、本発明に係る提示部の実施の一形態である。
【0144】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0145】
例えば、上記各実施形態では、照射装置配置設計システム30をパーソナルコンピュータとした例を示したが、このような態様に限られない。照射装置配置設計システム30としては、例えば、タブレット端末やスマートフォン等、各種の情報の処理が可能な種々の装置を採用可能である。
【0146】
また、上記各実施形態では、照射装置20の照射対象を、便座11、レバー12、ホルダー13、操作スイッチ14及びドアノブ16としたが、このような態様に限られない。照射対象としては、例えば、内鍵や手すり等、空間内に設置された種々の設備を採用可能である。
【0147】
また、上記各実施形態では、照射装置20の設置位置を、背面中央A、左側面中央B、正面角C、背面右角D、背面左角E及び右側面中央Fとしたが、このような態様に限られない。照射対象としては、空間内(背面3、左側面4、右側面5、正面6及び天井)の種々の位置を採用可能である。
【0148】
また、上記各実施形態では、所定の空間をトイレ個室1としたが、このような態様に限られない。所定の空間としては、例えば、会議室や自習室、種々の個室(ブース)等、種々の空間を採用可能である。
【符号の説明】
【0149】
1 トイレ個室
20 照射装置
30 照射装置配置設計システム
図1
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図12