IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 西日本電気テック株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-運搬車 図1
  • 特開-運搬車 図2
  • 特開-運搬車 図3
  • 特開-運搬車 図4
  • 特開-運搬車 図5
  • 特開-運搬車 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121188
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】運搬車
(51)【国際特許分類】
   B62B 3/00 20060101AFI20230824BHJP
   B61D 15/00 20060101ALI20230824BHJP
   B60F 1/04 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
B62B3/00 J
B61D15/00 Z
B60F1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024380
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】505084066
【氏名又は名称】西日本電気テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113712
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】丸山 健梧
【テーマコード(参考)】
3D050
【Fターム(参考)】
3D050AA01
3D050BB03
3D050EE08
3D050EE14
3D050EE18
(57)【要約】
【課題】レール上と地上を移動でき、小型軽量な運搬車を提供する。
【解決手段】運搬車1は、荷物を運搬するための機具である。運搬車1は、車体2と、1輪のレール用車輪3と、左右一対の地上用車輪4と、左右一対のハンドル5と、左右一対の脚部6とを備える。レール用車輪3は、車体2の下の左右方向の中央に設けられる。地上用車輪4は、車体2の下に設けられる。ハンドル5は、車体2の後部に固定される。脚部6は、レール用車輪3及び地上用車輪4より後ろ側、かつ、ハンドル5より前側にあって、車体2から下方に突出した部分である。レール用車輪3は、その踏面31の左右両側にフランジ32を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷物を運搬するための運搬車であって、
車体と、
前記車体下の左右方向の中央に設けられてレール上を移動するための1輪のレール用車輪と、
前記車体下に設けられて地上を移動するための左右一対の地上用車輪と、
前記車体の後部に固定された左右一対のハンドルと、
前記レール用車輪及び地上用車輪より後ろ側、かつ、前記ハンドルより前側にあって、前記車体から下方に突出した左右一対の脚部とを備え、
前記レール用車輪は、その踏面の左右両側にフランジを有することを特徴とする運搬車。
【請求項2】
前記ハンドルを持つユーザから視認可能な位置に、左右方向の中央を示す目印を有することを特徴とする請求項1に記載の運搬車。
【請求項3】
荷物を収容するための容器を前記車体上に有し、
前記容器は、前記車体に着脱可能に固定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の運搬車。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道の保守作業等において荷物を運搬するための運搬車に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道のレールは、信号電流や帰線電流が流れるため、継目がレールボンドによって電気的に接続される(例えば、非特許文献1参照)。レールボンドは、導線と、その両端の端子を有する。レールボンドの端子は、レール腹部に接合される。レールボンドは、鉄道車両の走行に伴うレール振動等によって、レールとの接合部に疲労亀裂が生じて破断に至って、レールから脱落することがある。このため、保守作業において、軌道回路や踏切制御子の検査等の途中でレールボンドの脱落を発見する場合や、指令所から緊急呼び出しでレールボンドの脱落に対応する場合等、脱落したレールボンドを修繕することが頻繁にある。レールボンドを修繕するために現場に持参する器材は、ガスボンベ約20kg、可搬型発電機約15kg、材料等約10kgの計約45kgである。作業員は、その重量物を複数回に分けて自動車と現場との間で線路内を持ち歩いて運搬している。そのような運搬作業は、時間が掛かるだけでなく、作業員の転倒や重量物落下のリスクがある。
【0003】
従来から、レール上と地上の両方を移動できる軌道用手動搬送台車が知られている(特許文献1参照)。このような軌道用手動搬送台車を用いて、地上の自動車と線路内の現場との間で重量物を運搬することが考えられる。しかしながら、この軌道用手動搬送台車は、軌間より幅が広い荷台と、地上走行用車輪及びレール走行用車輪を各4輪有するため、重く、レールに載せる載線と、レールから降ろす退線が容易ではない。列車間合いの限られた時間で線路内の作業を行う場合、載線と退線を迅速に行う必要もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-35347号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JIS E 3601「レールボンド」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するものであり、レール上と地上を移動でき、小型軽量で、載線と退線が容易な運搬車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の運搬車は、荷物を運搬するためのものであって、車体と、前記車体下の左右方向の中央に設けられてレール上を移動するための1輪のレール用車輪と、前記車体下に設けられて地上を移動するための左右一対の地上用車輪と、前記車体の後部に固定された左右一対のハンドルと、前記レール用車輪及び地上用車輪より後ろ側、かつ、前記ハンドルより前側にあって、前記車体から下方に突出した左右一対の脚部とを備え、前記レール用車輪は、その踏面の左右両側にフランジを有することを特徴とする。
【0008】
この運搬車において、前記ハンドルを持つユーザから視認可能な位置に、左右方向の中央を示す目印を有することが好ましい。
【0009】
この運搬車において、荷物を収容するための容器を前記車体上に有し、前記容器は、前記車体に着脱可能に固定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の運搬車によれば、レール用車輪と地上用車輪を備えるので、レール上と地上を連続的に移動できる。運搬車は、1本のレール上を移動するので、幅が軌間より狭くてよく、レール用車輪を1輪、地上用車輪を2輪有するので、それぞれ4輪を有するものより小型軽量であり、載線と退線が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は本発明の一実施形態に係る運搬車のレール上における斜視図である。
図2図2は同運搬車の側面図である。
図3図3は同運搬車の正面図である。
図4図4は同運搬車のレール用車輪の構成図である。
図5図5は同運搬車の目印をユーザから見た斜視図である。
図6図6は同運搬車の車体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る運搬車を図1乃至図6を参照して説明する。図1に示すように、運搬車1は、荷物を運搬するための機具である。運搬する荷物は、例えば線路設備の保守用器材であり、それに限定されない。なお、図1は、後述する目印を取り付けていない状態を示す。
【0013】
図2及び図3に示すように、運搬車1は、車体2と、1輪のレール用車輪3と、左右一対の地上用車輪4と、左右一対のハンドル5と、左右一対の脚部6とを備える。レール用車輪3は、レールR上を移動するための車輪であり、車体2の下の左右方向の中央に設けられる。左右方向とは、車体2の幅方向であり、レール用車輪3がレールR上にあるときのマクラギ方向である。地上用車輪4は、地上(レール上以外の面上)を移動するための車輪であり、車体2の下に設けられる。ハンドル5は、運搬車1のユーザに持たれる部分(取っ手)であり、車体2の後部に固定される。脚部6は、レール用車輪3及び地上用車輪4より後ろ側、かつ、ハンドル5より前側にあって、車体2から下方に突出した部分である。なお、図1図3は、車体2を水平にした状態を示している。
【0014】
図4に示すように、レール用車輪3は、その踏面31の左右両側にフランジ32を有する。
【0015】
図5に示すように、運搬車1は、ハンドル5を持つユーザから視認可能な位置に、左右方向の中央を示す目印7を有する。
【0016】
運搬車1は、荷物を収容するための容器8を車体2上に有する(図2参照)。容器8は、車体2に着脱可能に固定される。なお、本実施形態の変形例として、運搬車1は、車体2に恒久的に固定された容器8を有してもよく、車体2と容器8を一体に構成してもよい。また、容器8を省略してもよい。
【0017】
運搬車1の各構成をさらに詳述する。運搬車1は、レール上と地上を移動できるので、軌陸兼用運搬車とも呼ばれる。運搬車1は、左右対称の構造を有する(図3参照)。
【0018】
運搬車1の車体2は、軽金属製(アルミ製)である。車体2は、積んだ荷物(積荷)の荷重を受け、その荷重をレール用車輪3又は地上用車輪4に伝達する。
【0019】
図6に示すように、車体2は、複数の長尺状の部材を結合したものであり、前後方向に長い左右一対の側枠22と、左右方向に長い前後一対の横枠23を有し、2本の側枠22と2本の横枠23で長方形の外枠を構成する。車体2は、その外枠で囲まれた面に、左右方向に長い横桟24と、前後方向に長い縦桟25を有する。横桟24は、左右の側枠22の各中間部を左右方向に接続する。縦桟25は、横枠23と横桟24の各中間部を前後方向に接続する。なお、図6の左側が運搬車1の前側である。
【0020】
車体2の上面が荷台21である(図3参照)。例えば、荷台21の大きさは、荷台有効幅が約485mm、荷台有効長が約700mmである。日本の在来鉄道の軌間は1067mm(狭軌)、新幹線鉄道(全国新幹線鉄道整備法第二条に規定された新幹線鉄道)の軌間は1435mm(標準軌)であるので、荷台21の幅はどちらの軌間よりも狭く、運搬車1が小型化される。荷台21に容器8を載せて、荷物を容器8に入れてもよい。荷物を荷台21に直接載せてもよい。荷台21に板を張って荷物を受けてもよい。
【0021】
レール用車輪3は、フォーク33(車輪支持枠)を介して車体2に設けられる。レール用車輪3の回転中心軸は、左右方向である。レール用車輪3は、ヨーイング(換向)をしない。レール用車輪3のフランジ32は、踏面31よりも径が大きい部分であり、レール用車輪3の外周に連続して設けられ、レール用車輪3がレールから脱輪することを防ぐ(図4参照)。レール用車輪3は、踏面31の両側にフランジ32がある両フランジ付き車輪である。
【0022】
レール用車輪3とフォーク33の左右の内壁331との間の摩擦を低減するため、レール用車輪3の左右両側にベアリング34が設けられる。このベアリング34により、運搬車1がレール上を移動するときの負荷が小さくなる。
【0023】
レール用車輪3は、1輪であるので、左右のレールRを短絡しない(図3参照)。レール用車輪3は、1軸であるので、レールRの絶縁継目の前後のレールを短絡しない(図2参照)。本実施形態では、レール用車輪3は、合成樹脂製であり、レールの短絡が一層防止される。このように、運搬車1は、レールを短絡しないので、レール上で用いても軌道回路に影響しない。
【0024】
2輪の地上用車輪4は、左右に並べて同軸に配置される(図3参照)。本実施形態では、各地上用車輪4は、地上走行用のタイヤを有する。例えば、地上用車輪4のタイヤは、13インチタイヤである。
【0025】
レール用車輪3の踏面は、地上用車輪4の踏面よりも高い位置にある。レール用車輪3と地上用車輪4の踏面の高さの差は、レールRの高さよりも小さい。したがって、レール用車輪3がレール上にあるとき、地上用車輪4が軌道面(マクラギ上面及びバラスト表面、又はスラブ上面)から離れている。地上用車輪4が地上にあるとき、レール用車輪3が地面から離れている。これにより、運搬車1は、レール用車輪3又は地上用車輪4を車体2に対して昇降可能に支持する必要がなく、運搬車1の構造がシンプルになる。
【0026】
ハンドル5は、車体2の後部の右端と左端にそれぞれ固定される。すなわち、ハンドル5は、固定ハンドルであり、右ハンドル5Rと左ハンドル5Lがある。右ハンドル5Rと左ハンドル5Lは、左右に離間している。左右各々のハンドル5(5R、5L)は、細長い中空部材(金属パイプ)を成形したものであり、車体2の後部から上方に延びた部分51(コラム)と、その部分51の上端から後方に延びた部分52(グリップ)とを有する(図2参照)。後方に延びた部分52がユーザに持たれる。ユーザは、右ハンドル5Rを右手で持ち、左ハンドル5Lを左手で持つ。
【0027】
脚部6は、細長い中空部材(金属パイプ)を側面視で略V字形に成形したものであり、車体2の後部の右端と左端に各1つ設けられる。本実施形態では、脚部6の略V字形の後ろ側の部材の上端と、ハンドル5の下端が連続している。すなわち、左右各々の脚部6とハンドル5は、一体に構成される。脚部6は、車輪を有しない。なお、脚部6は、側面視でU字形又はI字形等であってもよい。
【0028】
目印7は、本実施形態では、車体2の前端の左右方向の中央から上方に突出した板状部材である(図2及び図3参照)。目印7は、レール用車輪3の左右方向の位置を示す。目印7は、目立つように、高い明度と高い彩度の表面色を有することが望ましい。なお、本実施形態の変形例として、目印7を容器8の前端から突出するように設けてもよい。また、容器8又は車体2に塗色によって目印を設けてもよい。
【0029】
容器8は、有底無蓋の箱型であり、車体2に搭載される(図2参照)。本実施形態では、容器8は、市販のトロ舟である。容器8は、蓋を有してもよい。車体2は、容器8や積荷が落下することを防ぐため、荷台21の端部に落下防止柵26を有する。容器8は、荷積み紐又はベルトで車体2に固定される。荷積み紐は、例えば、自転車用のものが流用される。
【0030】
上記のように構成された運搬車1の使用方法について説明する。運搬車1は、地上では手押しの2輪車として、レール上では手押しの1輪車として機能する。
【0031】
ユーザがハンドル5を持っていない時、レール上では、運搬車1は、1輪のレール用車輪3と左右一対の脚部6によって3点支持される。ユーザがハンドル5を持っていない時、地上では、運搬車1は、左右一対の地上用車輪4と左右一対の脚部6によって4点支持される。このように、運搬車1は、ユーザがハンドル5を持っていない時、少なくとも3点で支持されるので、転覆しない。
【0032】
レール上で4輪である従来の搬送台車は、線路の勾配区間でユーザが手を放すと、車輪が転動して、勝手に動き出す。それに対して、運搬車1は、勾配区間でユーザが手を放しても、後ろ側が脚部6によって支持されて動かない。鉄道では走行することよりも止まることの方が安全上重要であり、運搬車1が勾配区間で勝手に動かないことは大変重要である。
【0033】
地上で、運搬車1は、ハンドル5がユーザによって持ち上げられると、脚部6が地面から離れ、地上用車輪4で移動できる状態になる。運搬車1は、積荷を含めた重心と、地上用車輪4の接地面との間の前後方向の距離を小さく構成することにより、運搬車1の積荷を含めた重量の大部分が地上用車輪4に掛かる。地上用車輪4は、運搬車1における前寄りにある。地上でハンドル5が持ち上げられるとき、運搬車1は、地上用車輪4の接地面が支点、ハンドル5が力点、荷台21の中央付近(積荷の位置)が作用点である第2種てことして機能するので、てこの原理により、ハンドル5を持ち上げる力が小さくて済む。
【0034】
地上で、運搬車1は、ハンドル5が持ち上げられた状態で前方に押されることにより、前進する。また、運搬車1は、ハンドル5が持ち上げられた状態で後方に引かれることにより、後退する。
【0035】
作業現場に運搬する荷物が積まれた運搬車1は、踏切道まで地上を移動される。運搬車1は、踏切道で積荷があるまま地上からレール上に連続的な移動によって載線される。載線された運搬車1は、引き続きレール上を移動することができる。なお、踏切道以外での載線は、荷崩れを防止するため、空にした運搬車1を載線させてから、運搬車に荷物を積むことが望ましい。
【0036】
レール上で、運搬車1は、ハンドル5が持ち上げられた状態で前方に押されることにより、前進する。レール上でハンドル5が持ち上げられるとき、運搬車1は、レール用車輪3のレールとの接触点が支点、ハンドル5が力点、荷台21の中央付近が作用点である第2種てことして機能するので、てこの原理により、ハンドル5を持ち上げる力が小さくて済む。運搬車1は、作業現場まで移動される。
【0037】
運搬車1が作業現場に到着すると、荷物が運搬車1から下され、運搬車1が退線される。
【0038】
運搬車1は、レールから地上に退線後、作業現場における地上での荷物の運搬に用いてもよい。運搬車1は、地上で2輪であるので、4輪と比べて小回りが利く。
【0039】
作業現場における作業が終わると、先ず、空の運搬車1が載線される。次に、現場から撤去する荷物が運搬車1に積まれる。そして、運搬車1は、踏切道までレール上を移動される。運搬車1は、踏切道で積荷があるままレール上から地上に連続的な移動によって退線される。退線された運搬車1は、引き続き地上を移動することができる。なお、踏切道以外での退線は、荷崩れを防止するため、運搬車1から荷物を下して空にしてから退線することが望ましい。
【0040】
運搬車1のレール上の移動についてさらに詳述する。鉄道の常識では、線路を走行する車は、左右2輪×前後2軸の4輪が必要であり、左右2本のレール上を走行する。左右2輪の車輪があることによって、脱線や転覆が防がれる。また、前後2軸の車輪があることによって進む向き(ヨー方向)がレールに案内される。したがって、幅の狭い1本のレール上を1輪で移動することは、鉄道の常識から考えて困難である。1輪のレール用車輪3を有する運搬車1は、本願の発明者が試作し、実際に使ってみて、改良を重ねることによって実現した。
【0041】
運搬車1は、左右一対のハンドル5として、右ハンドル5Rと左ハンドル5Lがあるので、それらを持ち上げる力によって、運搬車1の左右のバランスを取ることができる(図1参照)。また、右ハンドル5Rと左ハンドル5Lを押す力の差によって、運搬車1にヨーイング・モーメントを発生して進む方向を定めることができる。したがって、運搬車1がレール上を移動する時、ユーザは、右ハンドル5Rと左ハンドル5Lに加える力をそれぞれ調節する操作をして、運搬車1の脱輪を防ぐ。
【0042】
運搬車1に積荷がある状態でユーザによるそのような操作が可能である理由を、後知恵であるが考察する。鉄道車両では、車輪がレールを横方向に押す力である横圧Qを、車輪がレールを下方向に押す力である輪重Pで除した値Q/Pを脱線係数という(JIS E 4001参照)。鉄道車両は、脱線係数Q/Pが小さいほど脱線し難い。運搬車1は機具であって鉄道車両ではないが、運搬車1のレール用車輪3に脱線係数Q/Pを適用してみる。
【0043】
運搬車1の積荷が重い時、レール用車輪3の輪重Pが大きいので、脱線係数Q/Pが小さくなり、レール用車輪3は脱輪し難い。このとき、レール用車輪3は、フランジ32によって脱輪が防がれる。
【0044】
運搬車1の積荷が軽い時、レール用車輪3の輪重Pが小さいので、脱線係数Q/Pが大きくなり、フランジ32がレールにせり上がりやすくなる。ユーザは、右ハンドル5Rと左ハンドル5Lに加える力をそれぞれ調節して脱輪を防ぐ。このとき、運搬車1の積荷が軽いので、その調節に必要な力は小さくてよい。
【0045】
運搬車1の初期の試作機では、レール用車輪3がレール上にあるかが分かり難かった。そこで、目印7を設ける改良が行われた(図2参照)。1輪のレール用車輪3は、左右方向の中央に設けられている(図3参照)。目印7は、左右方向の中央を示す。したがって、ハンドル5を持つユーザが目印7を見ると、レール用車輪3とレールRの相対的な左右方向の位置関係が正確に分かる。本実施形態では、運搬車1を踏切道から載線する時、目印7は、軌道内に進入するための目印とされる。また、運搬車1をレール上で前進させる時、ユーザは、目印7とレールRを見ながらハンドル5を押してもよい。なお、車体2の荷台21や容器8に開口部や透明窓等があって、ハンドル5を持つユーザからレール用車輪3が直接視認可能な場合、目印7を省略してもよい。
【0046】
また、運搬車1の初期の試作機では、荷物を収容した容器8(トロ舟)がグラついて、運搬車1のバランスを取り難かった。そこで、容器8を車体2に固定する改良が行われた。
【0047】
以上、本実施形態に係る運搬車1は、レール用車輪3と地上用車輪4を備えるので、レール上と地上を連続的に移動できる。運搬車1は、1本のレール上を移動するので、幅が軌間より狭くてよく、レール用車輪3を1輪、地上用車輪4を2輪有するので、それぞれ4輪を有するものより小型軽量であり、載線と退線が容易である。1輪で1本のレール上を移動するので、軌間内にある設備に支障しない。地上で2輪であるので、小回りが利く。また、運搬車1は、左右一対の脚部6を備えるので、ユーザが手を放しても転覆せず、勾配区間でユーザが手を放しても勝手に動き出さない。このため、運搬車1は、ブレーキを設ける必要が無く、構成及びメンテナンスがシンプルになる。レール用車輪3は、左右両側にフランジ32を有するので、レールからの脱輪が防がれる。運搬車1は、車体2の後部に左右一対のハンドル5が固定されているので、左右のハンドル5(右ハンドル5R及び左ハンドル5L)の操作によって脱輪を防ぐことができる。
【0048】
ハンドル5を持つユーザから視認可能な位置に、左右方向の中央を示す目印7を有することにより、レール用車輪3とレールの相対的な左右方向の位置関係が正確に分かるので、運搬車1を踏切道から載線することが容易になる。
【0049】
運搬車1は、着脱可能な容器8を車体2上に有することにより、荷物の積みおろしが容易になるとともに、積荷(積んだ荷物)の落下が防がれる。また、容器8が車体2に固定されることにより、容器8がグラつかず、運搬車1のバランスを取ることが容易になる。
【0050】
この運搬車1を線路での保守作業に用いることにより、器材運搬時の作業員の転倒や重量物落下のリスクを軽減できる。また、運搬車1は、線路内を持ち歩いて運搬するよりも一度に多くの器材を速く運搬できるので、運搬に要する時間を短縮することができる。
【0051】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、目印7の表面にフィルム状の再帰性反射体を貼り付けてもよい。再帰性反射とは、広い照射角にわたって、入射光の光路にほぼ沿う方向に、選択的に反射光が戻るような反射である(JIS Z 8713参照)。再帰性反射体が貼り付けられた目印7は、ユーザのヘルメットライトから照射された光をユーザに反射する。また、ラッチ金具等の固定具を設けて容器8を車体2に着脱可能に固定してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 運搬車
2 車体
3 レール用車輪
31 踏面
32 フランジ
4 地上用車輪
5 ハンドル
6 脚部
7 目印
8 容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6