(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121191
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】機能性細胞凝集塊の形成を評価するシステム、方法、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20230824BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230824BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20230824BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230824BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20230824BHJP
C12N 5/02 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C12M1/34 A
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
C12N5/071
C12N1/00 B
C12N1/00 Z
C12N5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024384
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】322004393
【氏名又は名称】株式会社エビデント
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100182936
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】出澤 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】鎌戸 耀子
(72)【発明者】
【氏名】下地 恵令奈
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA27
4B029BB11
4B029DF10
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB06
4B029GB10
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】オルガノイドなどの機能性細胞凝集塊を得るための細胞培養において、細胞の培養を継続すべきか否かの判断材料を早期に提供する。
【解決手段】システムは、機能性細胞凝集塊の形成を評価するシステムである。システムは、細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対する機能性細胞凝集塊の形成の成否を学習した学習済みモデルを記憶する記憶装置と、少なくとも刺激情報を含む培養プロトコルに関するプロトコル情報と対象細胞画像とを取得する取得部と、対象細胞画像及びプロトコル情報と、記憶部に記憶されている学習済みモデルとに基づいて、培養プロトコルが対象とする所定の機能を有する機能性細胞凝集塊の形成の成否についての予測結果を示す形成成否情報を出力する予測部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性細胞凝集塊の形成を評価するシステムであって、
細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対する機能性細胞凝集塊の形成の成否を学習した学習済みモデルを記憶する記憶部と、
培養対象細胞の画像である対象細胞画像と、前記培養対象細胞に適用される培養プロトコルに関するプロトコル情報であって、少なくとも前記培養対象細胞に与える刺激の種類を示す刺激情報を含むプロトコル情報と、を取得する取得部と、
前記取得部で取得された前記対象細胞画像及び前記プロトコル情報と、前記記憶部に記憶されている前記学習済みモデルとに基づいて、前記培養プロトコルが対象とする所定の機能を有する機能性細胞凝集塊の形成の成否についての予測結果を示す形成成否情報を出力する予測部と、を備える
ことを特徴するシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記プロトコル情報は、さらに、前記刺激情報が示す種類の刺激を前記培養対象細胞へ与える時期を示す時期情報を含む
ことを特徴するシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のシステムにおいて、
前記プロトコル情報は、
複数の刺激の種類を示す複数の刺激情報と、
前記複数の刺激情報に対応する複数の時期情報と、を含む
ことを特徴するシステム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
前記プロトコル情報は、複数種類の細胞を共培養するための培養プロトコルに関し、
前記対象細胞画像は、前記複数種類の細胞の1枚以上の画像である
ことを特徴するシステム。
【請求項5】
請求項4に記載のシステムにおいて、
前記予測部は、前記対象細胞画像と、前記プロトコル情報と、前記複数種類の細胞を識別する情報とに基づいて、前記形成成否情報を出力する
ことを特徴するシステム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
前記所定の機能を有する機能性細胞凝集塊は、オルガノイドである
ことを特徴するシステム。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のシステムにおいて、さらに、
前記対象細胞画像を取得するために前記培養対象細胞を撮影する撮影部と、を備える
ことを特徴するシステム。
【請求項8】
請求項7に記載のシステムにおいて、
前記撮影部は、
インキュベータ内に配置され、
前記インキュベータ内で培養中の前記培養対象細胞を撮影する
ことを特徴するシステム。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載のシステムにおいて、
前記撮影部は、タイムラプス撮影を行い、
前記予測部は、前記プロトコル情報と、前記タイムラプス撮影により前記撮影部から出力される前記対象細胞画像と、前記記憶部に記憶されている前記学習済みモデルとに基づいて、前記形成成否情報を更新する
ことを特徴するシステム。
【請求項10】
請求項9に記載のシステムにおいて、さらに、
更新された前記形成成否情報を予め登録した端末へ通知する通知部を備える
ことを特徴とするシステム。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
前記記憶部は、さらに、培養期間中の細胞の経時変化と培養プロトコルとの組み合わせに対する機能性細胞凝集塊の形成の失敗理由を学習した第2の学習済みモデルを記憶し、
前記予測部は、前記プロトコル情報と、それぞれ異なる時刻に撮影された前記培養対象細胞の画像である複数の前記対象細胞画像と、前記記憶部に記憶されている前記第2の学習済みモデルとに基づいて、前記所定の機能を有する機能性細胞凝集塊の形成の失敗理由についての予測結果を示す失敗理由情報を出力する
ことを特徴とするシステム。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
前記記憶部は、さらに、細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対する機能性細胞凝集塊の形状を学習した第3の学習済みモデルを記憶し、
前記予測部は、前記取得部で取得された前記対象細胞画像及び前記プロトコル情報と、前記記憶部に記憶されている前記第3の学習済みモデルとに基づいて、前記所定の機能を有する機能性細胞凝集塊の形状についての予測結果を示す形状情報を出力する
ことを特徴とするシステム。
【請求項13】
請求項12に記載のシステムにおいて、
前記形状情報は、前記培養対象細胞が前記培養プロトコルで培養されることで形成される前記所定の機能を有する機能性細胞凝集塊の形状についての予測結果を示す予測画像を含む
ことを特徴とするシステム。
【請求項14】
請求項13に記載のシステムにおいて、
前記予測画像は、前記対象細胞画像とは異なる撮影方法に対応する態様の画像である
ことを特徴とするシステム。
【請求項15】
請求項13又は請求項14に記載のシステムにおいて、
前記予測画像は、3次元情報又は断層情報を含む画像である
ことを特徴とするシステム。
【請求項16】
請求項13乃至請求項15のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
前記予測画像の倍率は、前記対象細胞画像の倍率とは異なる
ことを特徴とするシステム。
【請求項17】
請求項1乃至請求項16のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
前記予測部は、前記プロトコル情報が示す前記培養プロトコルである第1の培養プロトコルとは異なる第2の培養プロトコルを提案する
ことを特徴とするシステム。
【請求項18】
請求項17に記載のシステムにおいて、
前記予測部は、前記第1の培養プロトコルの適用時の予測結果を示す第1の形成成否情報と前記第2の培養プロトコルの適用時の予測結果を示す第2の形成成否情報を出力する
ことを特徴とするシステム。
【請求項19】
機能性細胞凝集塊の形成を評価する方法であって、
培養対象細胞の画像である対象細胞画像と、前記培養対象細胞に適用される培養プロトコルに関するプロトコル情報であって、少なくとも前記培養対象細胞に与える刺激の種類を示す刺激情報を含むプロトコル情報と、を取得し、
取得した前記対象細胞画像及び前記プロトコル情報と、細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対する機能性細胞凝集塊の形成の成否を学習した学習済みモデルとに基づいて、前記培養プロトコルが対象とする所定の機能を有する機能性細胞凝集塊の形成の成否についての予測結果を示す形成成否情報を出力する
ことを特徴する方法。
【請求項20】
コンピュータに、
培養対象細胞の画像である対象細胞画像と、前記培養対象細胞に適用される培養プロトコルに関するプロトコル情報であって、少なくとも前記培養対象細胞に与える刺激の種類を示す刺激情報を含むプロトコル情報と、を取得し、
取得した前記対象細胞画像及び前記プロトコル情報と、細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対する機能性細胞凝集塊の形成の成否を学習した学習済みモデルとに基づいて、前記培養プロトコルが対象とする所定の機能を有する機能性細胞凝集塊の形成の成否についての予測結果を示す形成成否情報を出力する
処理を実行させることを特徴するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、機能性細胞凝集塊の形成を評価するシステム、方法、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オルガノイドが注目されている。オルガノイドは、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、組織性(体性)幹細胞などの幹細胞から人工的に作られるミニチュアの臓器であり、再生医療、疾患解析、創薬などの用途において大きな可能性を有している。
【0003】
オルガノイドやスフェロイドなどの培養に関連する技術は様々提案されている。例えば、特許文献1には、オルガノイドやスフェロイドなど細胞凝集塊中の細胞の生死判定を支援する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、オルガノイドの作製は、予め用意された培養プロトコルに従って複数の工程を経て行われるため、完成までに多くの時間とコストがかかることになる。しかしながら、作成途中で失敗してしまい、時間とコストが無駄になってしまうことも少なくない。この点については、たとえ特許文献1に記載の技術を用いた場合であっても事前に失敗を予測することはできないため、このような無駄な培養を回避することは難しい。
【0006】
以上のような実情から、本発明の一側面に係る目的は、オルガノイドなどの機能性細胞凝集塊を得るための細胞培養において、細胞の培養を継続すべきか否かの判断材料を早期に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るシステムは、機能性細胞凝集塊の形成を評価するシステムであって、細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対する機能性細胞凝集塊の形成の成否を学習した学習済みモデルを記憶する記憶部と、培養対象細胞の画像である対象細胞画像と、前記培養対象細胞に適用される培養プロトコルに関するプロトコル情報であって、少なくとも前記培養対象細胞に与える刺激の種類を示す刺激情報を含むプロトコル情報と、を取得する取得部と、前記取得部で取得された前記対象細胞画像及び前記プロトコル情報と、前記記憶部に記憶されている前記学習済みモデルとに基づいて、前記培養プロトコルが対象とする所定の機能を有する機能性細胞凝集塊の形成の成否についての予測結果を示す形成成否情報を出力する予測部と、を備える。
【0008】
本発明の一態様に係る方法は、機能性細胞凝集塊の形成を評価する方法であって、培養対象細胞の画像である対象細胞画像と、前記培養対象細胞に適用される培養プロトコルに関するプロトコル情報であって、少なくとも前記培養対象細胞に与える刺激の種類を示す刺激情報を含むプロトコル情報と、を取得し、取得した前記対象細胞画像及び前記プロトコル情報と、細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対する機能性細胞凝集塊の形成の成否を学習した学習済みモデルとに基づいて、前記培養プロトコルが対象とする所定の機能を有する機能性細胞凝集塊の形成の成否についての予測結果を示す形成成否情報を出力する。
【0009】
本発明の一態様に係るプログラムは、コンピュータに、培養対象細胞の画像である対象細胞画像と、前記培養対象細胞に適用される培養プロトコルに関するプロトコル情報であって、少なくとも前記培養対象細胞に与える刺激の種類を示す刺激情報を含むプロトコル情報と、を取得し、取得した前記対象細胞画像及び前記プロトコル情報と、細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対する機能性細胞凝集塊の形成の成否を学習した学習済みモデルとに基づいて、前記培養プロトコルが対象とする所定の機能を有する機能性細胞凝集塊の形成の成否についての予測結果を示す形成成否情報を出力する処理を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
上記の態様によれば、オルガノイドなどの機能性細胞凝集塊を得るための細胞培養において、細胞の培養を継続すべきか否かの判断材料を早期に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】従来におけるオルガノイドの培養手順を示したフローチャートの一例である。
【
図2】第1の実施形態に係るシステム1の構成を例示した図である。
【
図3】コンピュータ20の構成を例示したブロック図である。
【
図4】第1の実施形態に係るオルガノイドの培養手順を示したフローチャートの一例である。
【
図5】第1の実施形態に係る細胞評価処理のフローチャートの一例である。
【
図6】第1の実施形態に係る学習済みモデルの入出力を説明するための図である。
【
図7】第1の実施形態に係る学習済みモデルの学習手順を示したフローチャートの一例である。
【
図8】第1の実施形態に係る学習処理のフローチャートの一例である。
【
図9】
図6に示す学習済みモデルの変形例を説明するための図である。
【
図10】
図6に示す学習済みモデルの別の変形例を説明するための図である。
【
図11】
図4に示すオルガノイドの培養手順を示したフローチャートの変形例である。
【
図12】
図4に示すオルガノイドの培養手順を示したフローチャートの別の変形例である。
【
図13】
図5に示す細胞評価処理のフローチャートの変形例である。
【
図14】
図6に示す学習済みモデルのさらに別の変形例を説明するための図である。
【
図15】
図4に示すオルガノイドの培養手順を示したフローチャートのさらに別の変形例である。
【
図16】第2の実施形態に係るシステム2の構成を例示した図である。
【
図18】第2の実施形態に係るオルガノイドの培養手順を示したフローチャートの一例である。
【
図19】端末に表示されるアプリケーション画面の一例である。
【
図20】培養プロトコルの修正を提案する画面の一例である。
【
図21】第3の実施形態に係る学習済みモデルの入出力を説明するための図である。
【
図22】第3の実施形態に係る学習済みモデルの学習手順を示したフローチャートの一例である。
【
図23】第3の実施形態に係る学習処理のフローチャートの一例である。
【
図24】第4の実施形態に係る学習済みモデルの入出力を説明するための図である。
【
図25】第4の実施形態に係る学習処理のフローチャートの一例である。
【
図26】第5の実施形態に係るシステムの構成を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、従来におけるオルガノイドの培養手順を示したフローチャートの一例である。本発明の理解を容易にするために、本発明の各実施形態について説明する前に、従来におけるオルガノイドの培養手順について説明する。
【0013】
オルガノイドのような所定の機能を有する機能性細胞凝集塊を形成する場合、
図1に示すように、まず最初に幹細胞が作製される(ステップS1)。幹細胞としてiPS細胞を作製する場合であれば、生体から体細胞を採取し、採取した体細胞に遺伝子を導入して初期化することで、iPS細胞を作製する。
【0014】
なお、ステップS1で作製する幹細胞は、iPS細胞に限らない。iPS細胞を作製する代わりに、胚盤胞中の細胞を取り出してES細胞を作製してもよい。また、ES細胞やiPS細胞ような多能性幹細胞(Pluripotent stem cell)に限らず、多分化能幹細胞(Multi-potent stem cell)が作成されてもよい。多分化能幹細胞は、ある程度分化の方向が決まっている幹細胞であり、例えば、体性幹細胞(組織性幹細胞)がその代表例である。体性幹細胞の中でも比較的容易に採取可能な間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell)などを脂肪、骨髄、皮膚などから採取し、利用してもよい。
【0015】
その後、作製した幹細胞を培養プロトコルに従って培養し(ステップS2)、適宜観察を行う(ステップS3)。培養プロトコルは、培養の具体的な手順や条件のことをいう。ステップS2では、所定の機能を有するオルガノイドを形成するための培養プロトコルに従って培養が行われる。所定の機能を有するオルガノイドは、例えば、腸オルガノイド、脳オルガノイドなどである。ステップS2及びステップS3を例えば所定期間行うことで、オルガノイドの形成が成功したか否かが明らかになる。そして、オルガノイドの形成に失敗したことが明らかになった場合には(ステップS4NO)、
図1に示す手順を最初からやり直す。
【0016】
このように、幹細胞からオルガノイドを形成する従来の培養手順では、オルガノイドの形成に成功して所望の量得られるまで、
図1に示す手順の全てが繰り返し行われることになる。このため、ステップS1において分化能が高い幹細胞が安定して作製され、且つ、ステップS1において適切なプロトコルに従って培養が行われない限り、オルガノイドを必要な量だけ得るまでに要する平均的な時間は、必然的に長くなってしまう。
【0017】
これに対して、後述する本発明の各実施形態では、作製される幹細胞の分化能にばらつきがあるなど個体差が存在することを前提に、培養対象となる細胞(作成された幹細胞、その幹細胞から分化した細胞など)と特定の培養プロトコルとの相性の良し悪しを見分けることで、オルガノイド形成が成功する可能性の低い培養を回避する。これにより、例えば、同じ培養プロトコルであっても相性の良い培養対象を選択して培養を行うことで、所望の量のオルガノイドを得るために必要な時間とコストを削減することできる。また、培養対象に対して相性の良い培養プロトコルを選択して培養を行うことで、培養対象の無駄も減らすことができる。
【0018】
以下、本発明の各実施形態について説明する。
【0019】
[第1の実施形態]
図2は、本実施形態に係るシステム1の構成を例示した図である。
図3は、コンピュータ20の構成を例示したブロック図である。システム1は、オルガノイドの形成を評価するシステムである。システム1は、
図2に示すように、培養対象の細胞(以降、培養対象細胞と記す。)を撮影する顕微鏡装置10と、オルガノイドの形成を評価するコンピュータ20とを備えている。
【0020】
システム1では、細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対するオルガノイドの形成の成否を学習した学習済みモデルを用いることで、コンピュータ20が、顕微鏡装置10で撮影した培養対象細胞の画像とその培養対象細胞に適用される培養プロトコルに関する情報(以降、単にプロトコル情報と記す。)とに基づいて、その培養対象細胞の培養が継続された場合にオルガノイドの形成が成功するか否かを事前に予測する。これにより、オルガノイド形成の失敗が予測される場合には細胞培養の継続を中止することで、無駄な培養を回避することが可能であり、結果として、オルガノイドを短時間で且つ低コストで得ることが可能となる。
【0021】
システム1が形成の成否を予測するオルガノイドは、例えば、腸オルガノイド、脳オルガノイドなどであり、予め決められた種類、つまり、所定の機能を有する、オルガノイドであることが望ましい。また、複数の異なる種類のオルガノイドの形成の成否を予測する場合には、オルガノイドの種類毎に学習済みモデルを準備することが望ましい。
【0022】
プロトコル情報とは、培養対象細胞に適用する培養プロトコルに関する情報である。プロトコル情報には、少なくとも培養対象細胞に与える刺激の種類を示す刺激情報を含んでいる。培養対象細胞に与える刺激は、幹細胞に作用させて分化を誘導するもの(分化誘導因子)であってもよく、幹細胞から分化した分化細胞へ作用させるものであってもよい。また、分化誘導因子と共に培地に含めるスキャフォールドとなる物質であってもよい。
【0023】
分化誘導因子は、例えば、Activin A、BMP4、FGF4などの化合物であってもよく、例えば、培養液に投与される液性因子、幹細胞に遺伝子導入される遺伝子などであってもよい。また、分化誘導因子は、物理的刺激であってもよく、例えば、熱、光、電気であってもよく、圧力、振動などの機械的刺激であってもよい。
【0024】
プロトコル情報は、さらに、刺激情報が示す種類の刺激を培養対象細胞へ与える時期を示す時期情報を含むことが望ましい。時期情報は、刺激を与える始期を示す情報を含んでもよく、刺激を与える期間を示す情報を含んでもよい。
【0025】
プロトコル情報は、培養対象細胞を培養する手順を示す情報であることが望ましく、より望ましくは、複数の刺激の種類を示す複数の刺激情報と、その複数の刺激情報に対応する複数の時期情報を含む。例えば、心臓オルガノイドの作製過程では、幹細胞に6種類の因子をタイミング良く加えることで自己組織化が進むといった研究成果が知られている。このため、心臓オルガノイドを培養する培養プロトコルに関するプロトコル情報は、この6種類の因子を6つの刺激情報として、また、この6種類の因子を与えるタイミングを6つの時期情報として、含んでもよい。また、プロトコル情報には、スフェロイドをマトリゲルに包埋して3D培養へ移行するタイミングなどの情報が含まれてもよい。プロトコル情報には、その他、培養容器に関する情報、培養環境(例えば、温度、湿度)に関する情報、培地交換や継代に関する情報などが含まれてもよく、その画像が培養開始からどれくらい経過した時に撮像されたかの情報である画像取得時間などが含まれてもよい。
【0026】
以下、
図2及び
図3を参照しながら、システム1の構成について説明する。顕微鏡装置10は、試料Sを撮影するシステム1の撮影部の一例である。試料Sは、オルガノイド形成のために用いられる培養対象細胞である。顕微鏡装置10は、培養対象細胞を撮影することで、培養対象細胞の画像(以降、対象細胞画像と記す。)を生成する。
【0027】
顕微鏡装置10は、
図1に示すように、例えば、デジタルカメラ11と、蛍光フィルタキューブ12と、ターレット13と、対物レンズ(位相差対物レンズ14、対物レンズ15)と、ステージ16と、位相差コンデンサ17と、光源(光源18、光源19)を備えている。
【0028】
デジタルカメラ11は、例えば、入射した観察光を電気信号に変換するイメージセンサを含んでいる。イメージセンサは、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサなどであり、二次元イメージセンサである。デジタルカメラ11は、カラーカメラであってもよい。デジタルカメラ11は、試料Sを撮影して、対象細胞画像を生成する。デジタルカメラ11が生成した対象細胞画像は、デジタルカメラ11からコンピュータ20へ出力される。
【0029】
蛍光フィルタキューブ12は、例えば、ダイクロイックミラー、励起フィルタ、吸収フィルタを含んでいる。蛍光フィルタキューブ12は、ターレット13に配置されていて、光路に対して挿脱自在である。顕微鏡装置10が蛍光画像を生成する場合には蛍光フィルタキューブ12は光路上に配置されている。顕微鏡装置10が位相差画像を生成する場合には蛍光フィルタキューブ12は光路外に配置される。
【0030】
位相差対物レンズ14及び対物レンズ15は、レボルバに装着された顕微鏡対物レンズであり、観察法に応じて切り替えて使用される。位相差対物レンズ14は、位相差画像を生成する場合に使用される対物レンズである。位相差対物レンズ14は、直接光と回折光に位相差を与えるための位相膜が位相差対物レンズ14内部の瞳位置に設けられている。対物レンズ15は、蛍光画像を生成する場合に使用される対物レンズである。
【0031】
ステージ16には、試料Sが配置される。ステージ16は、電動ステージであっても手動ステージであってもよい。位相差コンデンサ17は、位相差画像を生成する場合に使用されるコンデンサである。位相差コンデンサ17は、位相差対物レンズ14内部に設けられた位相膜と光学的に共役な位置に、リングスリットを備えている。
【0032】
光源18と光源19は、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、LED光源などである。光源18と光源19は、観察法に応じて切り替えて使用される。光源18は、位相差画像を生成する場合に使用される光源である。光源18は、光源18から出射した光で試料Sを透過照明法を用いて照明する。光源19は、蛍光画像を生成する場合に使用される光源である。光源19は、光源19から出射した光で試料Sを落射照明法を用いて照明する。
【0033】
顕微鏡装置10は、位相差画像と蛍光画像の両方を対象細胞画像として生成可能である。ただし、培養によって形成されるオルガノイドが、その後、臨床応用され得ることを考慮すると、顕微鏡装置10は、培養対象細胞を非染色で撮影することが望ましい。従って、顕微鏡装置10は、非染色で培養対象細胞を撮影した非染色画像である位相差画像を対象細胞画像として生成することが望ましい。
【0034】
コンピュータ20は、
図3に示すように、例えば、1つ以上のプロセッサ21と、1つ以上の記憶装置22と、入力装置23と、表示装置24と、通信装置25を備えていて、それがバス26を通じて接続されている。
【0035】
1つ以上のプロセッサ21のそれぞれは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)などを含むハードウェアであり、1つ以上の記憶装置22に記憶されている図示しないプログラムを実行することで、プログラムされた処理を行う。また、1つ以上のプロセッサ21は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などを含んでもよい。
【0036】
1つ以上のプロセッサ21は、システム1の予測部の一例である。1つ以上のプロセッサは、記憶装置22に記憶されている学習済みモデルMを用いてオルガノイドの形成の成否を予測し、予測結果を出力する。
【0037】
1つ以上の記憶装置22のそれぞれは、例えば、1つ又は複数の任意の半導体メモリを含み、さらに、1つ又は複数のその他の記憶装置を含んでもよい。半導体メモリは、例えば、RAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリ、ROM(Read Only Memory)、プログラマブルROM、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含んでいる。RAMには、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)などが含まれてもよい。その他の記憶装置には、例えば、磁気ディスクを含む磁気記憶装置、光ディスクを含む光学記憶装置などが含まれてもよい。
【0038】
1つ以上の記憶装置22は、非一時的なコンピュータ読取可能媒体であり、システム1の記憶部の一例である。記憶装置22の少なくとも1つは、細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対するオルガノイドの形成の成否を学習した学習済みモデルMを記憶している。
【0039】
入力装置23は、利用者が直接操作する装置であり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなどである。表示装置24は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイなどである。ディスプレイには、タッチパネルが内蔵されてもよい。通信装置25は、システム1の通知部の一例である。通信装置25は、有線通信モジュールであっても無線通信モジュールであってもよい。
【0040】
入力装置23及び通信装置25は、システム1の取得部の一例であり、対象細胞画像とプロトコル情報を取得する。プロトコル情報は、培養対象細胞に適用される培養プロトコルに関するものであり、例えば、どのような刺激をいつどのくらいの期間与えるかといった各工程に関する情報を複数含むものであってもよい。また、入力装置23又は通信装置25から取得した情報を予め決められたフォーマットに変換した情報がプロトコル情報であってもよい。この場合、入力装置23及び通信装置25とプロセッサ21がシステム1の取得部として機能する。
【0041】
なお、
図3に示す構成は、コンピュータ20のハードウェア構成の一例である。コンピュータ20はこの構成に限定されるものではない。コンピュータ20は、汎用装置ではなく専用装置であってもよい。
【0042】
図4は、本実施形態に係るオルガノイドの培養手順を示したフローチャートの一例である。
図5は、本実施形態に係る細胞評価処理のフローチャートの一例である。
図6は、本実施形態に係る学習済みモデルの入出力を説明するための図である。以下、
図4から
図6を参照しながら、システム1を用いて行われるオルガノイドの培養手順について説明する。
【0043】
本実施形態に係るオルガノイドの培養手順においても、まず最初に、システム1の利用者が幹細胞を作製する(ステップS11)。この処理は、
図1に示す従来の培養手順におけるステップS1の処理と同様である。
【0044】
次に、顕微鏡装置10は、ステップS11で作製した細胞を撮影する(ステップS12)。なお、ステップS12では、ステップS11で作製した幹細胞を培養対象細胞として撮影する。ここでは、顕微鏡装置10がステージ16に配置された培養対象細胞を位相差観察法を用いて撮影し、位相差画像である対象細胞画像を生成する。顕微鏡装置10は、生成した対象細胞画像をコンピュータ20へ出力する。
【0045】
その後、コンピュータ20は、
図5に示す細胞評価処理を実行する(ステップS13)。ここでは、コンピュータ20は、まず、ステップS12で生成された対象細胞画像と、ステップS11で作製された幹細胞に適用される培養プロトコルに関する情報(プロトコル情報)を取得する(ステップS21、ステップS22)。ステップS22では、例えば、入力装置23を用いて利用者が入力した情報をプロトコル情報として取得してもよく、予めコンピュータ20に記憶されている情報をプロトコル情報として読み出してもよい。
【0046】
プロトコル情報は、少なくとも培養対象細胞に与える刺激の種類の情報を含んでいるが、例えば、分化誘導因子の情報(刺激情報)と、その分化誘導因子を作用させる時期の情報(時期情報)と、の複数の組み合わせを含んでもよい。時期の情報は、作業開始時期と期間を特定する情報であってもよい。プロトコル情報は、オルガノイド形成までの各工程に関する刺激情報と時期情報を含んでもよい。
【0047】
対象細胞画像とプロトコル情報とが取得されると、コンピュータ20は、培養対象細胞からのオルガノイドの形成の成否を予測する(ステップS23)。ここでは、コンピュータ20は、対象細胞画像とプロトコル情報と記憶装置22に記憶されている学習済みモデルMとに基づいて、オルガノイド形成の成否について予測する。より具体的には、コンピュータ20は、
図6に示すように、学習済みモデルM1に、細胞画像X1(対象細胞画像)とプロトコル情報X2を入力することで、プロトコル情報で特定される培養プロトコルが対象とする所定の機能を有するオルガノイド形成の成否についての予測結果を示す形成成否情報Y1を取得する。形成成否情報Y1は、成功と失敗の二値で表されてもよく、また、
図6に示すように、成功の確率と失敗の確率の少なくとも一方を含んでもよい。なお、記憶装置22に学習済みモデルが複数記録されている場合は、使用する学習済みモデルを選択するステップをステップS23より前に設ければよい。具体的には、オルガノイドが実現する機能、つまり、オルガノイドの種類によって使用すべき学習済みモデルが異なる場合、作業者がコンピュータ20に培養プロトコルに対応するオルガノイドの種類などの条件を入力することで、コンピュータ20が学習済みモデルを選択してもよい。
【0048】
最後に、コンピュータ20は、ステップS23での予測結果を出力する(ステップS24)。ここでは、コンピュータ20は、ステップS23で取得した形成成否情報を出力する。なお、形成成否情報は、記憶装置22に出力され、ファイルやデータベースに記録されてもよく、表示装置24に出力され、画像表示されてもよい。なお、表示する予測結果には、ステップS23の予測結果のみでなく、オルガノイドの種類を示す名称(例えば、脳オルガノイド、腸オルガノイド)を同時に表示しても良い。これにより、作業者はステップS22で入力した培養プロトコルに対応するオルガノイドの形成の成否について評価されたことを確認することができる。
【0049】
コンピュータ20による細胞評価処理が終了すると、利用者は、ステップS24で出力された形成成否情報に基づいて、オルガノイドの形成の成功が予測されたか否かを判定する(ステップS14)。失敗が予測される場合には(ステップS14NO)、この時点で培養対象細胞の培養を中止し、新たな幹細胞の作製から
図4に示す手順をやり直す。
【0050】
一方、成功が予測される場合には(ステップS14YES)、利用者は、ステップS22で取得したプロトコル情報に対応する培養プロトコルに従って培養対象細胞を培養し(ステップS15)、培養を継続しながら培養対象細胞を観察する(ステップS16)。なお、ステップS15及びステップS16の処理は、
図1に示す従来の培養手順におけるステップS2及びステップS3の処理と同様である。培養プロトコルに応じて想定されている所定期間内に、オルガノイド形成が失敗したことが明らかになった場合には(ステップS17NO)、培養対象細胞の培養を中止し、新たな幹細胞の作製から
図4に示す手順をやり直す。
【0051】
以上のように、本実施形態に係るシステム1では、培養プロトコルに従った培養を開始する前に、
図5に示す細胞評価処理を行うことで、オルガノイドの形成が成功する可能性が低い培養を見分けることが可能である。細胞評価処理によって予測された培養結果を培養対象細胞の培養を継続すべきか否かの判断基準として利用することで、オルガノイド形成に失敗する無駄な培養を大幅の削減することができる。このため、無駄な培養に係るコストを削減することが可能となる。
【0052】
また、学習済みモデルに入力するプロトコル情報によって予測結果がどのように変化するかを確認することで、作業者は、ステップS15に用いる培養プロトコルを微調整してもよい。これにより、ある程度確立されている培養プロトコルを培養対象細胞に応じて最適化して利用することができる。
【0053】
図7は、本実施形態に係る学習済みモデルの学習手順を示したフローチャートの一例である。
図8は、本実施形態に係る学習処理のフローチャートの一例である。
図7及び
図8を参照しながら、システム1で細胞評価に利用される学習済みモデルの学習方法について説明する。なお、以降では、システム1を用いて
図7及び
図8に示す学習手順が行われる場合を例にして説明するが、
図7及び
図8に示す学習手順は、システム1を用いて行われてもよく、システム1とは異なるシステムを用いて行われてもよい。
【0054】
学習工程においても、まず最初に、システム1の利用者が幹細胞を作製し(ステップS31)、その後、顕微鏡装置10がステップS31で作成した幹細胞を撮影する(ステップS32)。これらの処理は、
図4に示す培養手順におけるステップS11とステップS12の手順と同様である。従って、ステップS32で生成される細胞画像は、例えば、位相差画像である。
【0055】
その後、利用者は、幹細胞を培養プロトコルに従って培養し(ステップS33)、培養を継続しながらその細胞を観察する(ステップS34)。これらの処理は、
図4に示す培養手順におけるステップS15とステップS16の手順と同様である。
【0056】
そして、培養が終了すると、コンピュータ20は、
図8に示す学習処理を実行する(ステップS35)。ここでは、コンピュータ20は、まず、対象細胞画像と、プロトコル情報と、形成成否結果情報を取得する(ステップS41からステップS43)。なお、対象細胞画像は、ステップS32で生成された画像である。プロトコル情報は、ステップS33で実行する培養プロトコルに関する情報である。コンピュータ20は、例えば、入力装置23を用いて利用者が入力した情報をプロトコル情報として取得してもよく、予めコンピュータ20に記憶されている情報をプロトコル情報として読み出してもよい。形成成否結果情報は、ステップS34での観察の結果として得られたステップS33で行った培養によるオルガノイドの形成の成否の情報である。形成成否結果情報に、オルガノイドの種類や名称の情報を含んでも良い。
【0057】
最後に、コンピュータ20は、細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対するオルガノイド形成の成否を学習し(ステップS44)、
図7及び
図8に示す学習処理を終了する。ここでは、コンピュータ20は、ステップS41で取得した対象細胞画像とステップS42で取得したプロトコル情報の入力に対してステップS43で取得した形成成否結果情報を出力するように機械学習モデルを訓練する。
【0058】
以上の学習処理を様々な幹細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対して行うことで、機械学習モデルが訓練されて、幹細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対してオルガノイド形成の成否を学習した学習済みモデルが構築される。
【0059】
図9及び
図10は、
図6に示す学習済みモデルの変形例を説明するための図である。オルガノイドの形成では、培養過程において複数種類の細胞が共培養される。例えば、気管支オルガノイドでは、気管支上皮細胞と間葉系細胞とを共培養する方法が提案されている。このため、上述したステップS23では、
図9及び
図10に示すように、共培養の対象である複数種類の細胞の画像と、これら複数種類の細胞を共培養するための培養プロトコルに関するプロトコル情報とを用いて、オルガノイドの形成成否を予測してもよい。
【0060】
なお、対象細胞画像として入力される複数種類の細胞の画像は、
図9に示すように、1枚の画像内に複数種類の細胞が写っている細胞画像X11であってもよく、複数種類の細胞のそれぞれが写っている複数の細胞画像(細胞画像X12a、細胞画像X12b)であってもよい。
【0061】
また、共培養の場合、学習済みモデルには、対象細胞画像とプロトコル情報に加えて、複数種類の細胞を識別する細胞種情報を入力してもよい。例えば、
図9に示すように、共培養する複数の細胞種をひとまとめにした細胞種情報X3を学習済みモデルM11へ入力してもよく、
図10に示すように、細胞画像毎にその細胞画像に含まれる細胞の種類の情報だけを含む複数の細胞種情報(細胞種情報X3a、細胞種情報X3b)を学習済みモデルM12へ入力してもよい。また、プロトコル情報には、いつから共培養を行うかといった情報を含んでもよい。
【0062】
また、学習済みモデルが複数の種類のオルガノイドの形成の成否を予測する場合には、形成成否を予測するオルガノイドの種類を指定する情報を学習済みモデルにさらに入力してもよい。
【0063】
図11は、
図4に示すオルガノイドの培養手順を示したフローチャートの変形例である。
図4に示す培養手順では、培養プロトコルに従った培養開始前にオルガノイドの形成成否を予測する例を示したが、
図11に示すように、細胞の撮影とオルガノイドの形成成否の予測は培養開始後に行われてもよい。ステップS51で作製した幹細胞がステップS52で培養され、異なる種類の幹細胞又は体細胞に分化した後に、ステップS53の撮影が行われてもよい。即ち、培養対象細胞は、幹細胞に限らず体細胞であってもよく、対象細胞画像は、オルガノイドが形成される前の細胞画像であればよい。なお、ステップS54からステップS58の手順は、
図4に示す培養手順におけるステップS13からステップS17の手順と同様である。
【0064】
図12は、
図4に示すオルガノイドの培養手順を示したフローチャートの別の変形例である。
図13は、
図5に示す細胞評価処理のフローチャートの変形例である。
図14は、
図6に示す学習済みモデルのさらに別の変形例を説明するための図である。
図4に示す培養手順では、培養プロトコルに従った培養開始前に撮影した画像に基づいてオルガノイドの形成成否を予測する例を示したが、段階的に培養の成否を予測して、培養を継続するか判断してよい。具体的には、
図12に示すように、培養開始前に所定の細胞への分化の成否を予測し、培養開始後にオルガノイドの形成の成否を予測してもよい。
【0065】
図12のステップS61及びステップS62の手順は、
図4のステップS11及びステップS12の手順と同様である。その後、コンピュータ20は、
図13に示す細胞評価処理を実行する(ステップS63)。ここでは、コンピュータ20は、まず、ステップS62で生成された対象細胞画像と、ステップS61で作製された幹細胞に適用される分化誘導情報を取得する(ステップS81、ステップS82)。ステップS82では、例えば、入力装置23を用いて利用者が入力した情報を分化誘導情報として取得してもよく、予めコンピュータ20に記憶されている情報を分化誘導情報として読み出してもよい。
【0066】
なお、分化誘導情報は、上述したプロトコル情報の一部であってもよく、プロトコル情報に含まれる培養初期の情報を含んでいればよい。分化誘導情報も、プロトコル情報と同様に、少なくとも培養対象細胞に与える刺激(分化誘導因子)の種類の情報を含んでいることが望ましく、さらに、分化誘導因子の情報(刺激情報)と、その分化誘導因子を作用させる時期の情報(時期情報)の組み合わせを含んでいることが望ましい。
【0067】
対象細胞画像と分化誘導情報とが取得されると、コンピュータ20は、培養対象細胞から所定の細胞への分化の成否を予測する(ステップS83)。ここでは、コンピュータ20は、対象細胞画像と分化誘導情報と記憶装置22に記憶されている学習済みモデルMとに基づいて、細胞分化の成否について予測する。より具体的には、コンピュータ20は、
図14に示すように、学習済みモデルM13に、細胞画像X1(対象細胞画像)と分化誘導情報X2aを入力することで、分化誘導情報で特定される分化誘導方法が対象とする所定の細胞への分化の成否についての予測結果を示す分化成否情報Y2を取得する。分化成否情報Y2は、成功と失敗の二値で表されてもよく、また、
図14に示すように、成功の確率と失敗の確率の少なくとも一方を含んでもよい。なお、記憶装置22に学習済みモデルが複数記憶されている場合は、使用する学習済みモデルを選択するステップをステップS83より前に設ければよい。具体的には、分化先の細胞の種類毎に複数の学習済みモデルが設けられている場合、作業者はコンピュータ20に分化誘導方法に対応する分化細胞の種類などの条件を入力し、コンピュータ20が学習済みモデルを選択してもよい。
【0068】
最後に、コンピュータ20は、ステップS83での予測結果を出力する(ステップS84)。ここでは、コンピュータ20は、ステップS83で取得した分化成否情報を出力する。なお、分化成否情報は、記憶装置22に出力され、ファイルやデータベースに記録されてもよく、表示装置24に出力され、画像表示されてもよい。なお、表示する予測結果には、ステップS83での予測結果のみでなく、分化細胞の種類を示す名称(例えば、内胚葉、中胚葉、外胚葉、軟骨細胞など)を同時に表示しても良い。これにより、作業者はステップS82で入力した分化誘導方法に対応する細胞への分化の成否について評価されたことを確認することができる。
【0069】
ステップS63においてコンピュータ20による細胞評価処理が終了すると、利用者は、ステップS84で出力された分化成否情報に基づいて、分化の成功が予測されたか否かを判定する(ステップS64)。失敗が予測される場合には(ステップS64NO)、この時点で培養対象細胞の培養を中止し、新たな幹細胞の作製から
図12に示す手順をやり直す。
【0070】
一方、成功が予測される場合には(ステップS64YES)、利用者は、培養プロトコルに従って培養対象細胞を培養する(ステップS65)。なお、以降の手順(ステップS66からステップS71)は、
図4のステップS12からステップS17の手順と同様である。
【0071】
図12に示す培養手順によれば、幹細胞から所定の細胞への分化の成否を培養開始前に予測することで、培養開始前の時点でオルガノイドの形成成否を予測することが困難な場合であっても、培養の初期段階で失敗する培養を未然に回避することができる。さらに、培養開始後にオルガノイドの形成成否を予測可能となった段階でオルガノイドの形成成否を予測することで、比較的早期に培養中止の判断を下すことが可能となるため、無駄なコストと時間を抑えることができる。
【0072】
図15は、
図4に示すオルガノイドの培養手順を示したフローチャートのさらに別の変形例である。
図15に示す培養手順は、利用者がステップS97で生成される形成成否情報に基づいてオルガノイド形成成否を判断することが難しい場合に、判断を保留して培養を継続する点が
図14に示す培養手順とは異なっている。例えば、利用者は、形成成否情報に含まれる成功確率が閾値TH1未満であれば失敗すると判断し、閾値TH2(>TH1)以上であれば成功すると判断してもよく、閾値TH1以上閾値TH2未満であれば判断を保留してよい。
【0073】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、オルガノイド形成の成否を基本的には1度だけ予測し、その予測結果により無駄な培養を回避する例を示した。本実施形態は、培養開始後に継続してオルガノイドの形成の成否を予測する点が、第1の実施形態とは異なっている。
【0074】
以下、
図16及び
図17を参照しながら、本実施形態に係るシステム2について説明する。
図16は、本実施形態に係るシステム2の構成を例示した図である。
図17は、観察装置30の構成を例示した図である。
【0075】
システム2は、システム1と同様に、オルガノイドの形成を評価するシステムである。システム2は、培養対象細胞を撮影する観察装置30と、オルガノイドの形成を評価するコンピュータ20と、を備えている。システム2は、顕微鏡装置10の代わりに観察装置30を備える点が、システム1とは異なっている。コンピュータ20については、システム1のコンピュータ20と同様である。ただし、コンピュータ20は、予め登録されているシステム2外の端末(端末50、端末60)と通信可能に構成されている。端末50と端末60は、例えば、利用者個人の端末であり、携帯電話やスマートフォンなどであってもよい。
【0076】
観察装置30は、培養容器C内の培養対象細胞を撮影する、システム1の撮影部の一例である。観察装置30は、対象細胞画像を生成するために培養対象細胞を撮影する点は、顕微鏡装置10と同様である。
【0077】
細胞をインキュベータ40から取り出すことなく観察するために、観察装置30は、例えば、
図16に示すように、インキュベータ40内に配置された状態で使用され、培養中の幹細胞を撮影する。より詳細には、観察装置30は、培養容器Cが観察装置30の透過窓31に載置された状態でインキュベータ40内に配置され、コンピュータ20からの指示に従って培養容器C内の細胞を撮影する。インキュベータ40内から細胞を取り出さずに継続的に観察が可能な構成とすることで、インキュベータ40の開閉や細胞の運搬などの作業に伴うコンタミネーションを防止することが出来る。
【0078】
観察装置30は、
図17に示すように、培養容器Cが配置される透明な透過窓31を上面とする箱型の筐体32を備えている。なお、透過窓31は、観察装置30の筐体32の上面を構成する透明な天板であり、例えば、ガラスや透明な樹脂などからなる。観察装置30は、さらに、筐体32内部に収容された、試料を照明する光源ユニット34と、試料の画像を取得する撮像ユニット35と、を備えている。光源ユニット34と撮像ユニット35は、ステージ33上に設置されていて、筐体32内でステージ33が移動することで培養容器Cに対して移動する。これにより、観察装置30は、光源ユニット34によって培養容器C内の任意の位置に存在する細胞を照明して、撮像ユニット35によって細胞を撮影することができる。
【0079】
なお、
図17には、光源ユニット34と撮像ユニット35がステージ33上に設置され、その結果、一体となって筐体32内を移動する例が示されているが、光源ユニット34と撮像ユニット35は、それぞれ独立して筐体32内を移動してもよい。
【0080】
光源ユニット34は、発光ダイオード(LED)などの光源を含んでいる。光源には、白色LEDが含まれてもよく、R(赤)、G(緑)、B(青)など、複数の異なる波長の光を出射する複数のLEDが含まれてもよい。
【0081】
撮像ユニット35は、撮像素子を備えている。撮像素子は、検出した光を電気信号に変換する光センサである。撮像素子は、具体的には、イメージセンサであり、特に限定しないが、例えば、CCD(Charge-Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary MOS)イメージセンサなどである。
【0082】
以上のように構成された観察装置30では、位相物体である培養容器C内の細胞を可視化するために、偏射照明が採用されている。具体的には、光源ユニット34が発した光は、筐体32外へ出射し、その後、筐体32外へ出射した光のうちの一部が、例えば、培養容器Cの上面などで反射することで、試料S上方で偏向され、さらに、試料S上方で偏向された光のうちの一部が、試料Sに照射され、試料S及び透過窓31を透過することによって筐体32内に入射する。そして、筐体32内に入射した光のうちの一部が撮像ユニット35に入射し、撮像素子上に細胞の像を形成する。最後に、観察装置30は、撮像素子から出力された電気信号に基づいて細胞の画像を生成する。このように、観察装置30は、非染色で細胞を撮影し、細胞を可視化した非染色画像である細胞画像を生成し、コンピュータ20へ出力する。
【0083】
コンピュータ20は、インキュベータ40内に置かれた観察装置30へ撮影指示を送信し、撮影指示に従って観察装置30で生成された細胞画像を観察装置30から受信する。コンピュータ20が予め決められたスケジュールに従って撮影指示を観察装置30へ送信することで、観察装置30は、タイムラプス撮影を行う。これにより、システム2では、培養中の細胞(培養対象細胞)をインキュベータ40から取り出すことなく、培養対象細胞の経時変化を観察することができる。
【0084】
図18は、本実施形態に係るオルガノイドの培養手順を示したフローチャートの一例である。
図19は、端末に表示されるアプリケーション画面の一例である。
図20は、培養プロトコルの修正を提案する画面の一例である。以下、
図18から
図20を参照しながら、システム2を用いて行われるタイムラプス撮影におけるオルガノイドの培養手順について説明する。
【0085】
本実施形態に係るオルガノイドの培養手順のうち、ステップS111からステップS117までの処理は、
図12に示す培養手順のステップS61からステップS67までの処理と同様である。
【0086】
その後、コンピュータ20は、ステップS117で作成された形成成否情報を予め登録した端末へ通知する(ステップS118)。ここでは、コンピュータ20は、例えば、利用者の所有する携帯端末(例えば、
図16に示す端末50、端末60)など、システム2外の端末へ形成成否情報を通知してもよい。コンピュータ20は、形成成否情報に加えて、ステップS116で生成された細胞画像を利用者の端末へ送信してもよい。なお、システム2では、ステップS115からステップS118の処理が培養が終了するまで(ステップS119YES)、自動的に繰り返し行われる。細胞画像や形成成否情報を通知することで、作業者は、培養場所にいなくても遠隔でオルガノイドの形成成否や培養状況について監視することができる。
【0087】
以上のように、本実施形態に係るシステム2では、培養開始後に継続して細胞評価処理を行うことで、培養対象細胞と培養プロトコル以外の外的要因によってオルガノイドの形成に失敗することが予測される場合についても早期に検出することができる。また、オルガノイドの形成までには多くの作業が必要であり、その作業次第で結果が異なり得る。
図18に示す手順で培養を行うことで、最新情報に基づいて随時予測結果が更新されることになるため、培養が進むにつれて不確定要素が少なくなりより信頼性の高い予測結果に基づいて培養を継続するかどうかを判断することができる。従って、システム2によれば、オルガノイドの形成に失敗する無駄な培養をシステム1よりもさらに削減することが可能である。
【0088】
以上では、オルガノイドの形成成否が評価される度に端末に最新の形成成否情報を送信する例を示したが、コンピュータ20は、形成成否情報が所定の条件を満たす場合にのみ、形成成否情報を端末へ送信してもよい。例えば、形成成否の予測結果が成功から失敗に変化した場合などに、形成正否情報を端末に送信してもよい。
【0089】
また、オルガノイドの形成成否が評価される度に端末に最新の形成成否情報と細胞画像を送信する例を示したが、端末は、これらの情報に基づいて培養対象細胞の経時変化を利用者に提示してもよい。例えば、端末60は、
図19に示すように、コンピュータ20からの情報に基づいて、異なる時刻に取得した細胞画像62を並べて表示してもよく、また、予測される成功率の推移をグラフ61として表示してもよい。複数の形成正否情報に基づいて、培養対象細胞の経時変化を利用者に提示することで、1回の形成正否情報からでは判断が難しい培養状態の異常を早期に発見することが可能となる。このため、早期に培養のやり直すこと、又は、異常が深刻になる前に手当てすることなどの対処が可能となる。
【0090】
システム2は、利用者からの要求に応じて培養プロトコルについて修正の提案を行ってもよい。例えば、利用者が
図19に示す通知画面上のボタン63を押下することで、
図20に示すようなウィンドウ64が端末60に表示されてもよい。
【0091】
図20には、培養プロトコルの手順Aと手順Bが終了している状況でボタン63が押された場合の例が示されている。ウィンドウ64には、培養プロトコルに従って次に行われる作用(手順C)について、プロトコル情報に記載の内容からの変更の候補がその変更によって生じるオルガノイドの形成の成功確率の変化とともに表示されている。なお、このような培養プロトコルを変更する提案は、利用者によって入力されたプロトコル情報の手順Cに関する情報を少しずつ変更して学習済みモデルに繰り返し入力することで生成可能である。
【0092】
利用者が
図20に示す提案の中からいずれかを採用すると、採用した提案に合わせてプロトコル情報が書き換えられる。これにより、システム2は変更後の培養プロトコルを前提に以降の評価を行ってもよい。
【0093】
このようにシステム2が行う提案に従って培養プロトコルを適宜変更して培養を継続することで、培養状況に応じて培養プロトコルを調整しながら培養を行うことができる。これにより、オルガノイド形成の成功確率を高めることができる。
【0094】
[第3の実施形態]
第1の実施形態及び第2の実施形態では、オルガノイドの形成の成否を予測する学習済みモデルを用いる例を示した。本実施形態は、学習済みモデルを用いてオルガノイドの形成成否に加えて、形成失敗の理由を予測する点が、第1の実施形態及び第2の実施形態とは異なっている。
【0095】
本実施形態に係るシステムでは、上述した細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対するオルガノイド形成の成否を学習した学習済みモデルM(以降、必要に応じて、第1の学習済みモデルとも記す。)に加えて、培養期間中の細胞の経時変化と培養プロトコルとの組み合わせに対するオルガノイド形成の失敗理由を学習した学習済みモデル(以降、必要に応じて、第2の学習済みモデルとも記す。)が記憶装置22に記憶されている。細胞評価処理において、これらの学習済みモデルが用いられる点が、システム2とは異なっている。その他の点は、システム2と同様である。
【0096】
図21は、第2の学習済みモデルの入出力を説明するための図である。本実施形態に係るシステムでは、
図18に示すステップS117の細胞評価処理において、コンピュータ20はそれぞれ異なる時刻に撮影された複数の対象細胞画像とプロトコル情報と第2の学習済みモデルとに基づいて、オルガノイド形成の失敗理由について予測する。より具体的には、コンピュータ20は、
図21に示すように、第2の学習済みモデルM2に、タイムラプス撮影によって得られた複数の対象細胞画像(細胞画像X1a、細胞画像X1b、細胞画像X1c、・・・)とプロトコル情報X2を入力することで、第2の学習済みモデルM2から出力される、オルガノイド形成の失敗理由についての予測結果を示す失敗理由情報Y3を取得する。なお、失敗理由情報Y3は、単一の失敗理由を示す情報であってもよく、
図21に示すように、複数の失敗理由の各々の確率であってもよい。なお、オルガノイド形成が成功することが予測される場合の失敗理由は、“失敗理由なし”であってもよい。
【0097】
以上のように、本実施形態に係るシステムでは、オルガノイド形成の成否に加えて、形成失敗の理由が利用者に提示される。このため、失敗が予測される場合に早期に培養を中止し、新たな細胞の培養に取り掛かることができる。また、オルガノイド形成の失敗の理由が提示されることで、新たな細胞の培養において同じ失敗を繰り返す可能性が低くなるため、培養開始後にオルガノイド形成が失敗してしまう確率を抑えることができる。従って、本実施形態に係るシステムによっても、幹細胞からオルガノイドを短時間且つ低コストで得ることが可能となる。
【0098】
図22は、本実施形態に係る学習済みモデルの学習手順を示したフローチャートの一例である。
図23は、本実施形態に係る学習処理のフローチャートの一例である。
図22及び
図23を参照しながら、本実施形態に係るシステムで細胞評価に利用される学習済みモデルのうち、第2の学習済みモデルの学習方法について説明する。
【0099】
図22に示す学習工程のうち、ステップS121からステップS123までの処理については、
図7に示す第1の学習済みモデルの学習工程におけるステップS31からステップS33までの処理と同様である。
【0100】
その後、培養が終了するまで(ステップS125YES)、顕微鏡装置10による培養対象細胞の撮影(ステップS124)が繰り返される。そして、培養が終了すると、コンピュータ20は、
図23に示す学習処理を実行する(ステップS125)。ここでは、コンピュータ20は、まず、複数の対象細胞画像と、プロトコル情報と、失敗理由情報を取得する(ステップS131からステップS133)。なお、複数の対象細胞画像は、ステップS122及びステップS124で生成された画像である。プロトコル情報は、ステップS123で行われる培養プロトコルに関する情報であり、コンピュータ20は、例えば、入力装置23を用いて利用者が入力した情報をプロトコル情報として取得する。失敗理由情報は、培養終了時に入力装置23を用いて利用者が入力したオルガノイド形成が失敗した理由についての情報である。具体的には、例えば、培地交換が適切に行われていない、環境温度の設定が適切ではないなどの情報である。失敗理由は、培養プロトコルで確定しない作業や条件などであることが望ましい。
【0101】
最後に、コンピュータ20は、培養対象細胞の経時変化と培養プロトコルとの組み合わせに対するオルガノイド形成の失敗理由を学習し(ステップS134)、
図22及び
図23に示す学習処理を終了する。ここでは、コンピュータ20は、ステップS131で取得した対象細胞画像とステップS132で取得したプロトコル情報の入力に対してステップS133で取得した失敗理由情報を出力するように機械学習モデルを訓練する。
【0102】
以上の学習処理を様々な細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対して行うことで、機械学習モデルが訓練されて、培養対象細胞の経時変化と培養プロトコルの組み合わせに対してオルガノイド形成の失敗理由を学習した学習済みモデルが構築される。
【0103】
[第4の実施形態]
第1の実施形態及び第2の実施形態では、オルガノイド形成の成否を予測する学習済みモデルを用いる例を示した。本実施形態は、学習済みモデルを用いてオルガノイド形成の成否に加えて、形成されるオルガノイドの形状を予測する点が、第1の実施形態及び第2の実施形態とは異なっている。
【0104】
本実施形態に係るシステムでは、上述した細胞と培養プロトコルとの組み合わせに対するオルガノイド形成の成否を学習した学習済みモデルM(以降、必要に応じて、第1の学習済みモデルとも記す。)に加えて、細胞とプロトコル情報との組み合わせに対するオルガノイドの形状を学習した学習済みモデル(以降、必要に応じて、第3の学習済みモデルとも記す。)が記憶装置22に記憶されている。細胞評価処理において、これらの学習済みモデルが用いられる点が、システム1とは異なっている。その他の点は、システム1と同様である。
【0105】
図24は、第3の学習済みモデルの入出力を説明するための図である。
図25は、本実施形態に係る学習処理のフローチャートの一例である。本実施形態に係るシステムでは、
図4に示すステップS13の細胞評価処理において、コンピュータ20は対象細胞画像とプロトコル情報と第3の学習済みモデルとに基づいて、オルガノイドの形状を予測する。より具体的には、コンピュータ20は、
図24に示すように、第3の学習済みモデルM3に、対象細胞画像X1とプロトコル情報X2を入力することで、第3の学習済みモデルM3からオルガノイドの形状についての予測結果を示す形状情報を取得する。なお、形状情報は、形成されるオルガノイドの形状についての予測結果を示す予測画像であってもよい。
【0106】
予測画像は、入力された対象細胞画像と同じ撮影方法に対応する態様の画像であってもよく、例えば、対象細胞画像が位相差画像であれば、学習済みモデルM3から出力される予測画像も位相差画像に類似する画像であってもよい。また、予測画像は、入力された対象細胞画像とは異なる撮影方法に対応する態様の画像であってもよく、例えば、対象細胞画像が位相差画像であっても、学習済みモデルM3から出力される画像は蛍光画像に類似する画像であってもよい。また、予測画像は、光軸方向にオルガノイドを走査して取得した3次元画像に類似した、3次元情報を含む画像であってもよく、OCTを用いて取得した断層画像に類似した、断層情報を含む画像であってもよい。
【0107】
このような予測画像を培養対象画像とは異なる形式の画像として出力するには、
図25に示す学習処理のステップS143において、ステップS141で取得した細胞画像とは異なる形式のオルガノイド画像を取得すればよく、コンピュータ20は、その後、ステップS144において、細胞と培養プロトコルの組み合わせに対するオルガノイドの形状を学習すればよい(ステップS144)。なお、ステップS144では、コンピュータ20は、ステップS141で取得した対象細胞画像とステップS142で取得したプロトコル情報の入力に対してステップS143で取得したオルガノイド画像を出力するように機械学習モデルを訓練する。従って、例えば、ステップS143で蛍光観察法で取得したオルガノイド画像を取得することで、蛍光画像に類似した画像を学習済みモデルM3から出力することができる。また、3次元画像を出力するようにモデルを学習させることで、3次元画像を出力することも可能である。細胞対象画像とは異なる形式の画像を出力する学習済みモデルを構築することで、例えば、蛍光顕微鏡を有しない利用者が蛍光画像に類似する画像をえるなど、利用者が所有する装置では取得することができない画像を取得することができる。また、3次元画像など取得するには時間が掛かる画像を容易に得ることもできる。
【0108】
さらに、予測画像は、入力された対象細胞画像とは異なる倍率の画像であってもよい。予測画像の倍率についても観察法と同様に、学習段階で使用するオルガノイド画像の倍率を調整することで調整可能である。
【0109】
以上のように、本実施形態に係るシステムでは、オルガノイドの形成の成否に加えて、形成されるオルガノイドの形状が利用者に提示される。このため、形成されるオルガノイドの状態をより具体的に認識することが可能である。このため、形成成否の予測結果に基づいて培養を継続するか否かの判断が難しい場合に追加の判断材料として利用することができる。従って、本実施形態に係るシステムによっても、短時間且つ低コストでオルガノイドを得ることが可能となる。
【0110】
[第5の実施形態]
上述した実施形態では、コンピュータ20と撮影装置(顕微鏡装置10、観察装置30)を含む単一のシステムを例示したが、オルガノイドの形成を評価するシステムは、例えば、
図26に示すように、それぞれ独立して機能する複数のシステムがネットワークを介して接続されたシステムであってもよく、ネットワーク上に配置され全てのシステムからアクセス可能なクラウドサーバを含んでもよい。
【0111】
図26は、本実施形態に係るシステムの構成を例示した図である。本実施形態に係るシステムは、それぞれ個別に機能する複数のシステム(システム1、システム2、システム3、システム4、システム5、・・・、以降、全体システムと区別するため、サブシステムと記す。)と、複数のサブシステムからアクセス可能なサーバ100を備えている。なお、各サブシステムは、例えば、企業の事業所、研究室などに設けられている。
【0112】
サーバ100には、各サブシステムと同様に、例えば、上述した第1の学習モデルと第2の学習済みモデルと第3の学習済みモデルが記憶された記憶装置が設けられている。サーバ100は、各サブシステムから学習データを受信する。サーバ100の記憶装置に記憶されている学習済みモデルは、全サブシステムから受信した様々な学習データを用いて学習した学習済みモデルであるのに対して、各サブシステムの記憶装置に記憶された学習済みモデルは、各サブシステム内で得られた学習データを用いて学習した学習済みモデルである。
【0113】
サブシステムが置かれる特定の事業所や研究室で使用される幹細胞や培養プロトコルは似通っている。このため、各サブシステムでは、普段から使用している幹細胞や培養プロトコルに対しては、学習済みモデルを用いて精度の高い予測が可能である。一方、サーバ100では、様々な学習データを用いて学習が行われるため、汎用性の高い学習済みモデルが構築されていて、様々な幹細胞と培養プロトコルの組み合わせに対して対応可能であるが、特定の組み合わせについては、サブシステムに比べて予測精度が劣ることがある。
【0114】
本実施形態では、各サブシステムは、すでに学習済みの幹細胞と培養プロトコルの組み合わせに対しては、サブシステム内の学習済みモデルを用いて予測を行い、未知の組み合わせに対してはサーバ100に細胞評価を委託する。このようにすることで、普段使用する組み合わせに対しては高い精度の予測を行いながら、任意の組み合わせに対して一定以上の精度で予測することが可能となる。
【0115】
上述した実施形態は、発明の理解を容易にするために具体例を示したものであり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。上述の実施形態を変形した変形形態および上述した実施形態に代替する代替形態が包含され得る。つまり、各実施形態は、その趣旨および範囲を逸脱しない範囲で構成要素を変形することが可能である。また、1つ以上の実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより、新たな実施形態を実施することができる。また、各実施形態に示される構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよく、または実施形態に示される構成要素にいくつかの構成要素を追加してもよい。さらに、各実施形態に示す処理手順は、矛盾しない限り順序を入れ替えて行われてもよい。即ち、本発明の細胞凝集塊の形成を評価するシステム、方法、及び、プログラムは、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
【0116】
上述した実施形態では、学習済みモデルに入力するプロトコル情報を変更することで複数の形成成否情報を出力し、複数の形成成否情報からより望ましいプロトコル情報を探索する例を示したが、培養プロトコルの修正提案の方法は、この方法に限らない。より望ましい培養プロトコルに対応するプロトコル情報を出力する学習済みモデルを構築し、第4の学習済みモデルとして細胞評価処理において利用してもよい。即ち、予測部は、第1の学習済みモデルに入力されるプロトコル情報が示す培養プロトコルである第1の培養プロトコルとは異なる第2の培養プロトコルを提案してもよく、第1の学習済みモデルを用いて第1の培養プロトコルの適用時の予測結果を示す第1の形成成否情報を出力し、第4の学習済みモデルを用いて第2の培養プロトコルの適用時の予測結果を示す第2の形成成否情報を出力してもよい。
【0117】
上述した実施形態では、第3の学習済みモデルから出力する形状情報として画像を例示したが、第3の学習済みモデルは複数の画像を出力してもよく、複数の画像は撮影方法や倍率の異なるものであってもよい。例えば、オルガノイドの全体形状を示す比較的低倍率の画像と、オルガノイドの一部の詳細構造を示すより高倍率の画像を出力してもよい。また、3次元画像と断層画像を出力してもよい。
【0118】
上述した実施形態では、オルガノイドの予測画像を生成する例を示したが、所定の細胞種へ分化した細胞の予測画像を生成してもよい。また、細胞を撮影して取得した細胞画像を学習済みモデルへの入力として利用することでオルガノイドの形成の成否を予測する例を示したが、予測画像を学習済みモデルに入力してオルガノイドの形成の成否を予測してもよい。例えば、上述した実施形態では、培養開始前に細胞の分化の成否を予測し、さらに、培養開始後にオルガノイド形成の成否を予測する例を示したが、分化した細胞の予測画像を学習済みモデルへの入力として利用することで、オルガノイドの形成を予測してもよい。
【0119】
本明細書において、“Aに基づいて”という表現は、“Aのみに基づいて”を意味するものではなく、“少なくともAに基づいて”を意味し、さらに、“少なくともAに部分的に基づいて”をも意味している。即ち、“Aに基づいて”はAに加えてBに基づいてもよく、Aの一部に基づいてよい。
【0120】
本明細書において、名詞を修飾する“第1の”、“第2の”などの用語は、名詞で表現される要素の量又は順序を限定するものではない。これらの用語は、2つ以上の要素間を区別するために用いられ、それ以下でもそれ以上でもない。従って、“第1の”と“第2の”要素が特定されていることは、“第1の”要素が“第2の”要素に先行することを意味するものではなく、また、“第3の”要素の存在を否定するものでもない。
【符号の説明】
【0121】
1、2、3、4 システム
10 顕微鏡装置
20 コンピュータ
21 プロセッサ
22 記憶装置
30 観察装置
40 インキュベータ
50、60 端末
100 サーバ
M、M1、M11、M12、M13、M2、M3 学習済みモデル
X1、X1a、X1b、X1c、X11、X12a、X12b 細胞画像
X2 プロトコル情報
X2a 分化誘導情報
X3、X3a、X3b 細胞種情報
Y1、Y2、Y3、Y4 予測結果