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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121223
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】鉄道車両用駆動装置及びその方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20230824BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20230824BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20230824BHJP
   H02J 7/34 20060101ALI20230824BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20230824BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20230824BHJP
   B60L 50/61 20190101ALI20230824BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20230824BHJP
【FI】
H02M3/28 G
H02M3/28 B
H02M7/48 E
H02J7/00 P
H02J7/34 J
B60L7/14
B60L9/18 A
B60L50/61
B60L58/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024431
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 智貴
(72)【発明者】
【氏名】望月 健人
【テーマコード(参考)】
5G503
5H125
5H730
5H770
【Fターム(参考)】
5G503AA07
5G503BA01
5G503BB01
5G503DA08
5G503FA06
5G503GB04
5H125AA05
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BB07
5H125BC05
5H125BD17
5H125CA01
5H125CB02
5H125EE13
5H125EE31
5H125EE44
5H730AS13
5H730AS17
5H730BB27
5H730DD02
5H730EE07
5H730EE59
5H730FD01
5H730FG07
5H730FG15
5H730XC02
5H770AA13
5H770BA03
5H770CA06
5H770FA01
(57)【要約】
【課題】 中電圧大容量蓄電装置を低電圧小容量用にも、より安全に配電可能としたハイブリット駆動方式の鉄道車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】 エンジンと、それに係合された誘導回転機と、一方で誘導回転機に電力授受し他方で主回路直流部に連系する第1電力変換器とその直流側に接続された平滑コンデンサと、それを直流電圧源として駆動用回転機を交流で駆動又は回生する第2電力変換器と、それが交流電力を授受して連系する駆動用回転機と、一方で主回路直流部に連系し、他方で交流電力を授受する第3電力変換器と、それが交流電力を授受して一次側に入出力する変圧器と、一方で変圧器の二次側に交流電力を授受し、他方で直流電力を授受する第4電力変換器と、その直流側に接続されて電力を授受する蓄電装置と、を備え、蓄電装置から第4電力変換器、変圧器及び第3電力変換器を介して平滑コンデンサへ充電する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリット方式の鉄道車両用駆動装置であって、
エンジンと、
該エンジンに係合された誘導回転機と、
一方で前記誘導回転機に交流で電力授受し、他方で主回路直流部に直流で連系する交直両方向変換可能な第1電力変換器と、
該第1電力変換器の直流側に接続された平滑コンデンサと、
該平滑コンデンサを直流電圧源として駆動用回転機を交流で駆動又は回生する交直両方向変換可能な第2電力変換器と、
該第2電力変換器が交流電力を授受して連系する駆動用回転機と、
一方で前記主回路直流部に直流で連系し、他方で交流電力を授受する交直両方向変換可能な第3電力変換器と、
該第3電力変換器が交流電力を授受して一次側に入出力する変圧器と、
一方で前記変圧器の二次側に交流電力を授受し、他方で直流電力を授受する交直両方向変換可能な第4電力変換器と、
該第4電力変換器の直流側に接続されて直流電力を授受する蓄電装置と、
を備え、
前記蓄電装置から前記第4電力変換器、前記変圧器及び前記第3電力変換器を介して前記平滑コンデンサへ充電する、
鉄道車両用駆動装置。
【請求項2】
前記第3電力変換器の電圧と、前記第4電力変換器の電圧と、の位相差を制御することにより、前記変圧器の一次側と二次側との相互間で、電力移動の量と方向とを制御可能な制御部をさらに備え、
前記蓄電装置は、制動時の回生電力も蓄電可能である、
請求項1に記載の鉄道車両用駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、制御開始時の位相差が0である、
請求項2に記載の鉄道車両用駆動装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記エンジンの非動作時は、前記第4電力変換器が定電圧制御し、
前記エンジンの動作時は、前記第1電力変換器が定電圧制御し、前記第4電力変換器を定電流制御する、
請求項2に記載の鉄道車両用駆動装置。
【請求項5】
前記平滑コンデンサの絶縁耐圧は、前記蓄電装置よりも高く設定されている、
請求項1に記載の鉄道車両用駆動装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第3電力変換器と、前記第4電力変換器と、それぞれの周波数を同一に揃えた条件下で、両者の位相差を加減する、
請求項2に記載の鉄道車両用駆動装置。
【請求項7】
ハイブリット方式の鉄道車両用駆動方法であって、
停止状態のエンジンが、該エンジンに係合された誘導回転機が誘導電動機として駆動することにより始動し、
駆動中の前記エンジンに係合された誘導回転機が、誘導発電機として交流発電し、
交直両方向変換可能な第1電力変換器が、一方で前記誘導回転機に交流で電力授受し、他方で主回路直流部に連系し、
前記第1電力変換器の直流側及び主回路直流部に平滑コンデンサが連系し、
交直両方向変換可能な第2電力変換器が、前記平滑コンデンサを直流電圧源として駆動用回転機を交流で駆動又は回生し、
交直両方向変換可能な第3電力変換器が、一方で前記主回路直流部に直流で連系し、他方で変圧器の一次側に交流電力を授受し、
交直両方向変換可能な第4電力変換器が、一方で前記変圧器の二次側に交流電力を授受し、他方で直流電力を授受し、
蓄電装置が、前記第4電力変換器の直流側に連系して直流電力を授受し、
前記蓄電装置から前記第4電力変換器、前記変圧器及び前記第3電力変換器を介して前記平滑コンデンサへ充電する、
鉄道車両用駆動方法。
【請求項8】
制御部が、前記第3電力変換器の電圧と、前記第4電力変換器の電圧と、の位相差を制御することにより、前記変圧器の一次側と二次側との相互間で、電力移動の量と方向とを制御することにより、
前記蓄電装置は、制動時の回生電力も蓄電可能とする、
請求項7に記載の鉄道車両用駆動方法。
【請求項9】
前記制御部は、制御開始時の位相差を0とする、
請求項8に記載の鉄道車両用駆動方法。
【請求項10】
前記制御部は、
前記エンジンの非動作時は、前記第4電力変換器が定電圧制御し、
前記エンジンの動作時は、前記第1電力変換器が定電圧制御し、前記第4電力変換器を定電流制御する、
請求項8に記載の鉄道車両用駆動方法。
【請求項11】
前記平滑コンデンサの絶縁耐圧は、前記蓄電装置よりも高く設定されている、
請求項7に記載の鉄道車両用駆動方法。
【請求項12】
前記制御部は、前記第3電力変換器と、前記第4電力変換器と、それぞれの周波数を同一に揃えた条件下で、両者の位相差を加減する、
請求項8に記載の鉄道車両用駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用駆動装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、二次電池出力を利用してエンジンの始動を行うことができるハイブリッド鉄道車両が開示されている。このハイブリット鉄道車両は、エンジンに軸結合された誘導機と、車両の駆動も可能な中電圧大容量の蓄電装置と、を主回路の直流部に接続している。誘導機は状況により発電機か電動機に使い分けられ、エンジンを始動するために、誘導電動機として機能するときは、蓄電装置のエネルギーで駆動され、誘導発電機として機能するときは、エンジンにより回転駆動されて発電出力する。
【0003】
エンジン発電機は、ハイブリッド鉄道車両の駆動電力のほか、蓄電装置への充電電力も賄える。この構成のハイブリッド鉄道車両であれば、エンジン直結の誘導発電機を、エンジン始動用の誘導電動機としても兼用できる。このとき誘導電動機に必要な励磁電流は、主回路に接続された蓄電装置から供給される。
【0004】
特許文献2は、ハイブリッドでないエンジン発電式の鉄道電気車であって、蓄電装置は車両駆動用の大容量でなく、低電圧(例えば110V)小容量のものだけが具備されている。エンジン始動時には、小容量の蓄電装置であっても、その放電電力により、エンジン直結の誘導発電機を誘導電動機として駆動する。このような低電圧小容量の蓄電装置は、主用途が車上装置用であり、人の接触領域に近いところまで低電圧で配線されている。その低電圧の配線は、感電事故や制御機器の破損事故を防止するため、主回路直流部に対する絶縁対策が施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-49811号公報
【特許文献2】特開2014-11828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のハイブリッドでないエンジン発電式の鉄道電気車は、蓄電装置として、そもそも中電圧大容量のものでなく、低電圧小容量の1系統だけを具備するものである。したがって、低電圧の車上装置へ配電するために、中電圧系統と、低電圧系統と、の双方向で加減自在に電力融通する必要は無かった。より具体的な理由として、エンジン始動は、低電圧小容量そのままで足り、かつ、中電圧の回生電力を低電圧に変換して小容量の小型蓄電池に充電する機能を具備していないからである。
【0007】
一方、特許文献1のハイブリット鉄道車両で用いられる中電圧大容量の蓄電装置は、主回路直流部に接続されて、その対地電圧が架線レベルの高電圧に帯電することもある。したがって、これを降圧して低電圧の車上装置へ配電することは、保安上の観点から制限されていた。より具体的な理由として、車上装置は、制御用コンピュータのほか、近年では乗客用サービスコンセントも列挙されるが、これら脆弱な系統に架線レベルの高電圧が漏電した場合に生じる被害は小さくないからである。
【0008】
そのため、ハイブリット駆動方式で用いられる蓄電装置は、中電圧大容量と、低電圧小容量と、これら独立の2系統を絶縁して設ける無駄が避けられなかった。しかし、ハイブリット駆動方式では、主力電源として中電圧大容量の蓄電装置を具備している。そうであれば、大に小を兼ねさせるように、中電圧を降圧して、低電圧の車上装置へ配電する方が、設備効率の観点からは望ましい。本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、中電圧大容量の蓄電装置を低電圧小容量用にも、より安全に配電可能としたハイブリット駆動方式の鉄道車両用駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、ハイブリット方式の鉄道車両用駆動装置であって、エンジンと、エンジンに係合された誘導回転機と、一方で誘導回転機に交流で電力授受し、他方で主回路直流部に直流で連系する交直両方向変換可能な第1電力変換器と、第1電力変換器の直流側に接続された平滑コンデンサと、平滑コンデンサを直流電圧源として駆動用回転機を交流で駆動又は回生する交直両方向変換可能な第2電力変換器と、第2電力変換器が交流電力を授受して連系する駆動用回転機と、一方で主回路直流部に直流で連系し、他方で交流電力を授受する交直両方向変換可能な第3電力変換器と、第3電力変換器が交流電力を授受して一次側に入出力する変圧器と、一方で変圧器の二次側に交流電力を授受し、他方で直流電力を授受する交直両方向変換可能な第4電力変換器と、第4電力変換器の直流側に接続されて直流電力を授受する蓄電装置と、を備え、蓄電装置から第4電力変換器、変圧器及び第3電力変換器を介して平滑コンデンサへ充電する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、中電圧大容量の蓄電装置を低電圧小容量用にも、より安全に配電可能としたハイブリット駆動方式の鉄道車両用駆動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る鉄道車両用駆動装置(以下、「本装置」ともいう)の概略構成を示すブロック回路図である。
図2図1に示す本装置の起動時における各部電圧や電流の変化を示すタイミングチャートである。
図3】電力変換器と変圧器の接続形態を詳細に示す回路図である。
図4図3に示す変圧器の一次側V1と二次側K・V2を位相差α=0でスイッチングした場合の各部電圧波形のタイミングチャートである。
図5図4に対し、位相差α>0でスイッチングした場合の各部電圧波形のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、先に概略の説明した後で詳細を補完する。図1は、本装置19の概略構成を示すブロック回路図である。図1に示すように、ハイブリット駆動方式の本装置19は、不図示の鉄道車両(以下、「車両」ともいう)を駆動できる容量で中電圧(例えば、1500V)の蓄電装置6を備える。この蓄電装置6は、それに蓄えた電力を放電して主回路直流部に供給する。なお、ここでいう主回路直流部は、架線に最も近く接続される可能性の高い高電圧帯電部であり、PT1電力センサ13で計測可能な直流部と考えれば良い。
【0013】
一方、車両の運転モードによっては、エンジン1が駆動する誘導発電機(誘導回転機)2の発電電力が、主回路直流部を経由して蓄電装置6に充電される。あるいは、運行状態に応じて、回生電力が主回路直流部を経由して蓄電装置6に充電される。このように蓄電装置6が充放電する経路には、変圧器10が介在する。この変圧器10の一次側コイルと二次側コイルとは、必要な絶縁耐圧が確保されている。なお、「誘導発電機2」及び「誘導電動機2」は、本発明でいう「誘導回転機」に該当する。
【0014】
また、エンジン1を始動させる誘導電動機(誘導回転機)2を駆動する電力は、車両を駆動するために要する電力よりも、はるかに少なくて足りる。したがって、エンジン1の始動用ならば、小容量でも十分であるため、不図示の車上装置用といった低電圧小容量の小型蓄電池でも足りる。したがって、その用途には、大容量の蓄電装置6であれば、余り有る程に賄える。
【0015】
しかし、「大小の2つ」よりも「大は小を兼ねる」という設備効率の観点から、小容量で足りるエンジン1の起動用についても、大容量の蓄電装置6で兼用させれば、小容量の小型蓄電池は不要となり、鉄道車両用駆動装置として、設備効率を高めることになる。この蓄電装置6の耐電圧性能は、一例として中電圧DC1500V出力相当で良く、架線電圧の一例として高電圧DC3000Vに相当する主回路直流部の電圧より、低い性能でも構わないし、同等性能に高くても良い。
【0016】
図1の構成において、蓄電装置6は、主回路直流部に対し、絶縁確保しながら双方向の電力授受を可能に接続される。PT1電力センサ13で高電圧DC3000Vと計測される主回路直流部と、PT2電力センサ15で中電圧DC1500Vと計測される蓄電装置6と、の間は約1500Vの電圧差が有る。この電圧差は、変圧器10の一次側コイルと二次側コイルとの絶縁耐圧によって、絶縁維持されながら電力授受も可能である。
【0017】
また、ある運転モードにおいて、蓄電装置6に蓄えられた電力をいきなり主回路直流部へ供給すると過電流が流れ、スイッチング素子17~24(図3)をはじめとする回路素子を破壊する可能性がある。そこで、制御部(Controller)16は、徐々に電流を流すように、電力変換器8,9ほかを制御することで回路素子の破壊を回避させる。
【0018】
以上、主回路直流部から絶縁された中電圧大容量の蓄電装置6に対し、ある運転モードではエンジン1で駆動する誘導機2の発電出力で充電しながら車両を駆動し、別の運転モードでは、蓄電装置6の電力で車両を駆動するほか、エンジン1も始動可能な本装置19の概略を説明した。
【0019】
以下、重複もあるが、本装置19をより詳細に説明する。図1に示すように、本装置19は、エンジン1と、そのエンジン1によって駆動される誘導発電機2と、その誘導発電機2から出力される交流電力を直流電力に変換するコンバータ(第1電力変換器)3と、そのコンバータ3から出力される直流電力を平滑して主回路直流部に接続する平滑コンデンサ5と、その平滑コンデンサ5を直流電圧源として交流電力に変換するインバータ装置(第2電力変換器)4と、そのインバータ装置4により駆動される電動機(駆動用回転機)11と、より構成される。
【0020】
本装置19は、さらに、接触器7を介して大容量の蓄電装置6に並列接続された平滑コンデンサ14と、その平滑コンデンサ14の電圧を計測するPT2電圧センサ15と、平滑コンデンサ14の直流電力を交流に変換する電力変換器(第4電力変換器)9と、その電力変換器9の交流出力電圧を変圧する変圧器10と、その変圧器10の交流電力を直流に変換する電力変換器(第3電力変換器)8、その電力変換器8で変換された電力を平滑コンデンサ5に供給する接触器12と、その平滑コンデンサ5の電圧を計測するPT1電圧センサ13と、各センサからの情報を入力し、電力変換器8、及び電力変換器9を制御する制御部16と、を備える。
【0021】
蓄電装置6は、誘導発電機2が発電した電力のほか、車両の減速時に電動機11が回生発電した電力を蓄電できる。また、車両の加速時において、蓄電装置6は、それに蓄電した電力を放電し、電動機11を駆動する電力を供給できる。なお、「電動機11」は、本発明でいう「駆動用回転機」に該当し、回生発電時には発電機として機能する。
【0022】
つぎに、本装置19を適用する車両の起動時の状態推移を例示し、図2を用いて、本発明の実施形態に係る鉄道車両用駆動方法の手順を説明する。状態推移の一例として、エンジン1及び車両が共に停止状態から、誘導電動機2を駆動し、それに軸結合されたエンジン1を始動し、それにより誘導発電機2を駆動し、それにより発電した交流電力をコンバータ3で直流に整流し、その直流電力によりインバータ4が三相交流を生成し、それにより電動機11を駆動して不図示の車輪を回転駆動させて、車両を進行させる。
【0023】
図2は、図1に示す本装置19の起動時における各部電圧や電流の変化を示すタイミングチャートである。図2では、横軸に共通の時間を示し、縦軸には、上から順に、バッテリ電流(Battery current)Ib、平滑コンデンサ14の電圧FC2、平滑コンデンサ5の電圧FC1、誘導発電機2の励磁電流(Excitation current of induction generator 2)Ig、誘導発電機2のトルク電流(Torque current of induction generator 2)It、及びインバータ装置4の起動状態(Inverter 4 startup status)、の6項目について、それぞれの過渡現象を示している。以下、図2におけるタイミング(1)~(5)に状態を説明する。
【0024】
(1)FC2と同時にFC1を充電する(Charge FC1 at the same time as FC2)。つまり、制御部16は、平滑コンデンサ14を充電する際に、電力変換器9と電力変換器8を制御することで、同時に平滑コンデンサ5を充電させる。
【0025】
(2)コンバータ動作開始により励磁電流印加(Converter operation started → Excitation current applied)する。つまり、制御部16は、平滑コンデンサ5の電圧が誘導発電機2を励磁するために十分な電圧(A[V])以上とする。すなわち、制御部16は、コンバータ3を介して平滑コンデンサ5にエネルギーを蓄える。そのエネルギーは、誘導発電機2が発電に必要な励磁電流Ig及びトルク電流Itを発生し得る以上の電力である。それに到達したタイミング(2)において、コンバータ3は、平滑コンデンサ5の電圧を交流に変換し、誘導発電機2に励磁電流Igを流し始める。
【0026】
(3)コンバータ定電圧動作開始(Converter constant Voltage operation started)する。すなわち、制御部16は、コンバータ3により誘導発電機2のトルク電流Itを立ち上げて、定電圧制御を開始させる。このようにして、誘導発電機2は発電開始する。それ以降、平滑コンデンサ5の電圧は、誘導発電機2の発電電力により、所定の電圧(B[V])に上昇して維持される。
【0027】
(4)FC1充電完了(FC1 charge completed)する。つまり、制御部16は、平滑コンデンサ5の電圧が所定の電圧(B[V])に上昇した際に、コンバータ3を定電圧制御し、誘導発電機2のトルク電流Itを一定に制御する。その結果、平滑コンデンサ5の電圧は、B[V]に保たれる。
【0028】
(5)インバータ4が起動開始(Inverter start)する。
【0029】
ここで、蓄電装置6は、車上の制御機器に電源を供給するための低圧小容量の小型蓄電池ではなく、回生時に発生した中電力も蓄電できる中電圧大容量の蓄電池群に構成されている。
【0030】
変圧器10の巻き数比N(N=[一次側(主回路側)の巻数]/[二次側(蓄電池側)の巻数])を1以上とすることで、蓄電池電圧よりも高い電圧に平滑コンデンサ5を充電することが可能である。さらには、蓄電装置6の耐圧以上の電圧に平滑コンデンサ5を充電することも可能である。
【0031】
図3は電力変換器8,9、及び変圧器10の接続形態を詳細に示す回路図である。電力変換器8は、スイッチング素子17~20、電力変換器9はスイッチング素子21~24で、それぞれ構成されるフル・ブリッジ回路である。コイル26は、平滑コンデンサ14(図1)と併せて平滑作用する。
【0032】
スイッチング素子21~24をオンオフ制御することで、変圧器10の一次側に印加される電圧V1=V1u-V1V、二次側に印加される電圧V2=V2u-V2V、それぞれの電圧と位相を制御する。ここで変圧器10の巻き数比=N:1=1:Kである。
【0033】
図4は、図3に示す変圧器10の一次側V1と二次側K・V2を位相差α=0でスイッチングした場合の各部電圧波形のタイミングチャートである。図4において、相間の位相差は180°としている。一次電圧V1を二次側に換算したK・V1と、二次電圧V2と、両者間の電位差がなく、しかも位相差α=0の場合、一次側と二次側で変換される電力=0となり、蓄電装置6の充放電は行われない。なお、図4最下のグラフは、K・V1-V2=0のところ、説明の便宜上、振幅を小さく示している。
【0034】
図5は、図4に対し、位相差α>0でスイッチングした場合の各部電圧波形のタイミングチャートである。すなわち、図5に示すように、変圧器10の一次側V1と、二次側K・V2と、を位相差α>0でスイッチングする。このとき、一次側から二次側に変換する電力は正となり、蓄電装置6が充電される。
【0035】
一方、位相差α<0とすると、一次側から二次側に変換する電力は負となり、蓄電装置6が放電される。このように位相差αの正負を変化させ、位相の進みと遅れを切り替えたり、加減したりすることで電流の方向や量を制御し、蓄電装置6の充放電をハイブリット駆動制御方式に都合良く行う。
【0036】
鉄道車両を加減速する時に生ずるエネルギーの移動について説明する。まず加速時において、駆動用交流電動機11は、誘導発電機2で発電した電力、又は蓄電装置6から放電された電力の供給を受けて力行トルクを発生しながら、回転速度を上げる。このとき、制御部16は、電力電力変換器9,8を制御し、蓄電装置6から放電された電力を放電方向に移動させることで、駆動用交流電動機11へ供給する。すなわち、車両は、運転状況に応じて、発電電力と、放電電力と、少なくとも何れかで力行すれば良い。
【0037】
車両が加速以外の運転状況において、制御部16は、電力変換器8,9を制御し、誘導発電機2で発電して余剰となった電力、又は減速時の駆動用交流電動機11で発電した回生電力を充電方向に移動させて蓄電装置6に蓄電する。このように、制御部16は、誘導発電機2や駆動用交流電動機11で発電した電力を、電力変換器8、変圧器10、及び電力変換器9を介して大容量蓄電池6に充電させる。すなわち、制御部16は、車両の運転状況に応じて、発電電力と、回生電力と、少なくとも何れかで充電して良いが、エンジン停止しても良く、充電しないような選択しても良い。
【0038】
逆に、制御部16は、車両の運転状況に応じて、大容量蓄電池6を放電し、電力変換器9、変圧器10及び電力変換器8を介して、誘導発電機2や駆動用交流電動機11に駆動電力を供給させる。本装置19によれば、制御部16が位相差αを制御することで、主回路直流部と畜電装置6との相互間で効率良く電力融通できる。その結果、本装置19を適用した車両は、ハイブリット駆動方式の長所をより良く生かすことができる。
【0039】
本発明の実施形態に係る鉄道車両用駆動装置(本装置)は、次のように総括できる。
[1]図1に示す本装置19は、エンジン1と、誘導回転機2と、駆動用回転機11と、交直両方向変換可能な第1電力変換器3~第4電力変換器9と、平滑コンデンサ5と、変圧器10と、中電圧(例えば1500V)大容量の蓄電装置6と、を備える。
【0040】
誘導回転機2及び駆動用回転機11は、運転状況に応じて誘導発電機と誘導電動機と選択的に動作可能である。また、誘導回転機2は、エンジン1に軸結合されており、エンジン始動と、エンジン発電機と、何れかの状態に応じて、駆動力と電力を相互利用する関係である。
【0041】
第1電力変換器3(コンバータ)は、一方で誘導回転機2に交流で電力授受し、他方で主回路直流部に直流で連系して交直両方向変換可能ある。平滑コンデンサ5は、第1電力変換器3の直流側に接続され、主回路直流部に直流で連系する。駆動用回転機11は、第2電力変換器(インバータ)4が交流電力を授受して連系する。この第2電力変換器4は、交直両方向変換可能であり、平滑コンデンサ5を直流電圧源として、駆動用回転機11を交流で駆動又は回生する。なお、主回路直流部に直流で連系すれば、架線電圧に近い直流電圧を共有して電力の相互融通できるように接続されたものとする。
【0042】
第3電力変換器8は、交直両方向変換可能であり、一方で主回路直流部に直流で連系し、他方で交流電力を授受する。変圧器10は、第3電力変換器8が交流電力を授受して一次側に入出力を行う。第4電力変換器9は、交直両方向変換可能であり、一方で変圧器10の二次側に交流電力を授受し、他方で直流電力を授受する。蓄電装置6は、第4電力変換器9の直流側に接続されて直流電力を授受する。本装置19は、蓄電装置6から第4電力変換器9、変圧器10及び第3電力変換器8を介して平滑コンデンサ5への充電を行う。
【0043】
上記[1]の本装置19は、ハイブリット駆動用の中電圧大容量の蓄電装置6を、高電圧の主回路直流部に対し、変圧器10を介して絶縁する。したがって、変圧器10の二次側に接続された蓄電装置6は、変圧器10の一次側に接続される主回路直流部や架線の高電圧部(例えば3000V)から絶縁確保される。
【0044】
その結果、本装置19の中電圧大容量の蓄電装置6は、最も危険な架線レベルの高電圧と直接に繋がる事態を避けられる。したがって、本装置19は、中電圧大容量の蓄電装置6から、低電圧小容量の用途にも、より安全に配電可能とした。なお、中電圧の蓄電装置6から低電圧の車上装置等への配電線については、図示を省略する。
【0045】
また、安全性の観点から、本装置19の蓄電装置6は、架線と直接接続されることが無いので、架線から異常な大電流が流入することを原因とする発火事故の可能性も無い。蓄電装置6は、容量が大きくなる程に、万が一にも発生した場合は、発火事故の被害が大きくなるので、それを防御し易い点でも、本装置19の技術的意義がある。
【0046】
[2]上記[1]において、第3電力変換器8の電圧と、第4電力変換器9の電圧と、の位相差αを制御することで、変圧器10の一次側と二次側と相互間で電力移動の量と方向とを制御可能な制御部16をさらに備えた。この制御部16により、制動時の回生電力も蓄電装置6に充電可能である。
【0047】
このような本装置19によれば、主回路直流部と畜電装置6との相互間で効率良く電力融通できる。この電力融通は、エンジン1の駆動力による誘導発電機2の発電出力の余剰電力や回生電力を畜電装置6へ充電できるほか、平滑コンデンサ5,14への適宜充電についても、制御部16が位相差αを制御することで、自在に実現できる。
【0048】
[3]上記[2]において、制御部16は、制御開始時の位相差αを0とする。位相差αが0であれば、変圧器10の一次側と二次側と相互間で電力移動の量が0に維持されるので、本装置19は、起動時の突入電流を緩和して、徐々に立ち上げることによる安定した制御開始を実現する。
【0049】
[4]上記[2]において、制御部16は、エンジン1の非動作時と動作時とで異なる制御する。制御部16は、架線等の外部電力を取得できない状態において、エンジン1の非動作時に、蓄電装置6から電力供給される第4電力変換器9が定電圧制御する。これにより、本装置19は、定電圧で電力を出力し、架線等の外部電力を取得できている状態を疑似的に形成することにより、鉄道車両を安定的に駆動させる。その結果、本装置19は、ハイブリット駆動方式の長所を生かして、より安定的な走行を実現できる。
【0050】
また、制御部16は、架線等の外部電力を取得できない状態において、それに代わるエンジン1の動作時に、第1電力変換器3が定電圧制御して、架線等の定格電圧に近い電圧の供給を維持する。これにより、鉄道車両は、走行に必要なだけの電力供給を受ける。制御部16は、余剰電力があれば、それを低電圧で第4電力変換器9に入力し、その第4電力変換器9が定電流制御して蓄電装置6に適切な充電電流を供給する。これにより、本装置19は、非電化区間を蓄電装置6のみでの長距離走行を可能にして、さらに燃費軽減できる。
【0051】
[5]上記[1]において、平滑コンデンサ5の絶縁耐圧は、蓄電装置6よりも高く設定されている。平滑コンデンサ5は、主回路直流部に接続されて、架線電圧相当の最高電圧に耐えられる。中電圧の蓄電装置6は、車両を駆動する容量があれば、その電圧は、架線や主回路直流部の半分以下でも良く、その電圧不足分は、変圧器10の一次側と二次側との巻き数比による電圧比で容易に調整できる。
【0052】
[6]上記[2]において、図1において、制御部16は、第3電力変換器8と、第4電力変換器9と、それぞれの周波数を同一に揃えた条件下で、両者の位相差を加減する。これにより、両者それぞれに備わるスイッチング素子17~24のスイッチング頻度を均一化できる。その結果、全スイッチング素子17~24の寿命を均一化できる。
【0053】
[7]本発明の実施形態に係るハイブリット方式の鉄道車両用駆動方法(本方法)は、つぎの動作を有する。ただし、車両の運転状況により、動作手順は適宜変更される。まず、停止状態のエンジン1に軸結合された誘導回転機2が、誘導電動機として駆動することにより始動する場合がある。
【0054】
また、駆動中のエンジン1に軸結合された誘導回転機2が、誘導発電機として交流発電する場合もある。また、交直両方向変換可能な第1電力変換器3が、一方で誘導回転機2に交流で電力授受し、他方で主回路直流部に連系する。また、平滑コンデンサ5が、第1電力変換器3の直流側及び主回路直流部に連系する。また、交直両方向変換可能な第2電力変換器4が、平滑コンデンサ5を直流電圧源として駆動用回転機11を交流で駆動又は回生する。
【0055】
また、交直両方向変換可能な第3電力変換器8が、一方で主回路直流部に直流で連系し、他方で変圧器10の一次側に交流電力を授受する。また、交直両方向変換可能な第4電力変換器9が、一方で変圧器10の二次側に交流電力を授受し、他方で直流電力を授受する。
【0056】
また、蓄電装置6が、第4電力変換器9の直流側に連系して直流電力を授受する。また、蓄電装置6から第4電力変換器9、変圧器10及び第3電力変換器8を介して平滑コンデンサ5への充電を行う。このような本方法によれば、中電圧大容量の蓄電装置6を低電圧小容量用にも、より安全に配電できる。また、主回路直流部と畜電装置6との相互間で効率良く電力融通できる。
【符号の説明】
【0057】
1…エンジン、2…誘導発電機、3…コンバータ(第1電力変換器)、4…インバータ(第2電力変換器)、5…平滑コンデンサ、6…(大容量の)蓄電装置、7,12…接触器、8,9…第3、第4電力変換器(Power converter)、10…変圧器、11…電動機(駆動用回転機)、13,15…PT1,PT2電圧センサ、14…平滑コンデンサ、16…制御部(Controller)、17~24…スイッチング素子、Ib…バッテリ電流(Battery current)、電圧(Voltage)、α…位相差(Phase difference)、19…鉄道車両用駆動装置(本装置)
図1
図2
図3
図4
図5