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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121239
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】トランスフォーマおよび増幅回路
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/26 20060101AFI20230824BHJP
   H03F 3/45 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
H03F1/26
H03F3/45
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024467
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【弁理士】
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】滝本 健介
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼瀬 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】永森 啓之
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA12
5J500AA21
5J500AC27
5J500AC53
5J500AC73
5J500AC92
5J500AF08
5J500AF09
5J500AF16
5J500AH24
5J500AH29
5J500AH33
5J500AH35
5J500AK02
5J500AQ04
5J500AT01
5J500DN02
5J500DP01
(57)【要約】
【課題】コモンモードノイズが低減されたトランスフォーマを提供する。
【解決手段】トランスフォーマ10は、入力端子101および102と、入力側コイル14と、出力側コイル13と、を備え、入力側コイル14は、互いに直列接続されたコイル11および12を有し、出力側コイル13の一端は出力端子103に接続され、コイル11の一端は入力端子101に接続され、コイル12の一端は入力端子102に接続され、出力側コイル13の他端はコイル11の他端およびコイル12の他端に接続され、直流的に接地されていない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1入力端子、第2入力端子および出力端子と、
入力側コイルと、
出力側コイルと、を備え、
前記入力側コイルは、
互いに直列接続された第1コイルおよび第2コイルを有し、
前記出力側コイルの一端は前記出力端子に接続され、
前記第1コイルの一端は前記第1入力端子に接続され、
前記第2コイルの一端は前記第2入力端子に接続され、
前記出力側コイルの他端は、前記第1コイルの他端および前記第2コイルの他端に接続され、直流的に接地されていない、
トランスフォーマ。
【請求項2】
さらに、
前記出力側コイルの前記他端と、前記第1コイルの前記他端および前記第2コイルの前記他端とを結ぶ経路に直列配置された第1キャパシタを備える、
請求項1に記載のトランスフォーマ。
【請求項3】
さらに、
前記出力側コイルの前記他端と、前記第1コイルの前記他端および前記第2コイルの前記他端との間に配置され、前記第1キャパシタと直列接続された第1インダクタを備える、
請求項2に記載のトランスフォーマ。
【請求項4】
さらに、
前記出力側コイルの前記他端と、前記第1コイルの前記他端および前記第2コイルの前記他端との間に配置され、前記第1キャパシタと並列接続された第2インダクタを備える、
請求項2に記載のトランスフォーマ。
【請求項5】
さらに、
前記第1コイルの前記他端および前記第2コイルの前記他端とグランドとの間に接続された第2キャパシタを備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載のトランスフォーマ。
【請求項6】
さらに、
複数の誘電体層を有する基板を備え、
前記入力側コイルの少なくとも一部は、前記複数の誘電体層のうちの第1誘電体層に形成され、
前記出力側コイルの少なくとも一部は、前記複数の誘電体層のうちの第2誘電体層に形成され、
前記基板を平面視した場合、前記入力側コイルの前記少なくとも一部と前記出力側コイルの前記少なくとも一部とは、重なっている、
請求項1~5のいずれか1項に記載のトランスフォーマ。
【請求項7】
さらに、
複数の誘電体層を有する基板を備え、
前記入力側コイルの少なくとも一部は、前記複数の誘電体層のうちの第1誘電体層に形成され、
前記出力側コイルの少なくとも一部は、前記複数の誘電体層のうちの第2誘電体層に形成され、
前記基板を平面視した場合、前記入力側コイルの前記少なくとも一部と前記出力側コイルの前記少なくとも一部とは、重なっており、
前記第1インダクタは、前記基板に形成された平面導体を含み、
前記第1キャパシタは、前記基板の主面に配置された表面実装部品である、
請求項3に記載のトランスフォーマ。
【請求項8】
さらに、
複数の誘電体層を有する基板を備え、
前記入力側コイルの少なくとも一部は、前記複数の誘電体層のうちの第1誘電体層に形成され、
前記出力側コイルの少なくとも一部は、前記複数の誘電体層のうちの第2誘電体層に形成され、
前記基板を平面視した場合、前記入力側コイルの前記少なくとも一部と前記出力側コイルの前記少なくとも一部とは、重なっており、
前記第2インダクタは、前記基板に形成された平面導体を含み、
前記第1キャパシタは、前記基板の主面に配置された表面実装部品である、
請求項4に記載のトランスフォーマ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のトランスフォーマと、
第1増幅素子および第2増幅素子を有する差動増幅器と、を備え、
前記第1増幅素子の出力端は前記第1入力端子に接続され、
前記第2増幅素子の出力端は前記第2入力端子に接続され、
前記第1コイルの前記他端および前記第2コイルの前記他端は、電源端子に接続されている、
増幅回路。
【請求項10】
さらに、
前記第1増幅素子の出力端および前記第2増幅素子の出力端に接続された第3キャパシタを備える、
請求項9に記載の増幅回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスフォーマおよび増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、1次巻線(入力側コイル)および2次巻線(出力側コイル)を有するトランスフォーマが開示されている。入力側コイルの一端は差動増幅器を構成する第1の増幅素子に接続され、入力側コイルの他端は差動増幅器を構成する第2の増幅素子に接続され、1次巻線の中点はグランド(基準電位)に接続されている。また、出力側コイルの一端は出力端子に接続され、出力側コイルの他方はグランド(基準電位)に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-199282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたトランスフォーマは、元来、その対称性により逆位相の関係を有する一対の平衡信号のコモンモードノイズを低減する機能を有する。
【0005】
しかしながら、実際には、入力側コイルおよび出力側コイルが有する寄生容量成分や寄生インダクタンス成分により対称性が崩れ、入力側コイルの中間点にコモンモードノイズ成分の交流電圧が発生してしまう。この交流電圧は、出力側コイルに出力されてしまい、不要なノイズとしてトランスフォーマから出力されてしまう可能性がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、コモンモードノイズが低減されたトランスフォーマおよび増幅回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るトランスフォーマは、第1入力端子、第2入力端子および出力端子と、入力側コイルと、出力側コイルと、を備え、入力側コイルは、互いに直列接続された第1コイルおよび第2コイルを有し、出力側コイルの一端は出力端子に接続され、第1コイルの一端は第1入力端子に接続され、第2コイルの一端は第2入力端子に接続され、出力側コイルの他端は、第1コイルの他端および第2コイルの他端に接続され、直流的に接地されていない。
【0008】
また、本発明の一態様に係る増幅回路は、上記トランスフォーマと、第1増幅素子および第2増幅素子を有する差動増幅器と、を備え、第1増幅素子の出力端は第1入力端子に接続され、第2増幅素子の出力端は第2入力端子に接続され、第1コイルの他端および第2コイルの他端は、電源端子に接続されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コモンモードノイズが低減されたトランスフォーマおよび増幅回路を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係るトランスフォーマおよび増幅回路の回路構成図である。
図2】比較例に係るトランスフォーマおよび増幅回路の回路構成図である。
図3】変形例1に係るトランスフォーマおよび増幅回路の回路構成図である。
図4】変形例2に係るトランスフォーマおよび増幅回路の回路構成図である。
図5A】比較例に係るトランスフォーマのコモンモードノイズの周波数特性を示すグラフである。
図5B】変形例2に係るトランスフォーマのコモンモードノイズの周波数特性を示すグラフである。
図6】変形例3に係るトランスフォーマおよび増幅回路の回路構成図である。
図7】変形例3に係るトランスフォーマのコモンモードノイズの周波数特性を示すグラフである。
図8】変形例4に係るトランスフォーマおよび増幅回路の回路構成図である。
図9】変形例5に係るトランスフォーマおよび増幅回路の回路構成図である。
図10】実施の形態に係るトランスフォーマの平面図および断面図である。
図11】変形例4に係るトランスフォーマの平面図および断面図である。
図12】変形例5に係るトランスフォーマの平面図および断面図の第1例である。
図13】変形例5に係るトランスフォーマの平面図および断面図の第2例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。以下の実施例および変形例における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面に示される構成要素の大きさまたは大きさの比は、必ずしも厳密ではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略または簡略化する場合がある。
【0012】
また、本開示において、平行および垂直等の要素間の関係性を示す用語、および、矩形状等の要素の形状を示す用語、ならびに、数値範囲は、厳格な意味のみを表すのではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する。
【0013】
また、本開示において、「接続される」とは、接続端子および/または配線導体で直接接続される場合だけでなく、他の回路素子を介して電気的に接続される場合も含むことを意味する。また、「AとBとの間に接続される」、「AおよびBの間に接続される」とは、AおよびBを結ぶ経路上でAおよびBと接続されることを意味する。
【0014】
また、本開示において、基板の平面視とは、基板および基板に実装された回路素子を基板の主面に平行な平面に正投影して見ることを意味する。
【0015】
また、本開示において、「経路」とは、高周波信号が伝搬する配線、当該配線に直接接続された電極、および当該配線または当該電極に直接接続された端子等で構成された伝送線路であることを意味する。
【0016】
また、本開示において、「部品Aが経路Bに直列配置される」とは、部品Aの信号入力端および信号出力端の双方が、経路Bを構成する配線、電極、または端子に接続されていることを意味する。
【0017】
(実施の形態)
[1.トランスフォーマ10および増幅回路1の回路構成]
図1は、実施の形態に係るトランスフォーマ10および増幅回路1の回路構成図である。同図に示すように、増幅回路1は、高周波入力端子110および高周波出力端子120と、トランスフォーマ10および30と、増幅素子21および22と、キャパシタ41と、を備える。
【0018】
トランスフォーマ10は、入力端子101および102と、出力端子103と、電源端子104と、入力側コイル14と、出力側コイル13と、を備える。
【0019】
入力端子101は第1入力端子の一例であり、増幅素子21の出力端に接続されている。入力端子102は第2入力端子の一例であり、増幅素子22の出力端に接続されている。出力端子103は、キャパシタ41を介して高周波出力端子120に接続されている。電源端子104は、電源(電源電圧Vcc)に接続されている。
【0020】
入力側コイル14は、互いに直列接続されたコイル11および12で構成されている。
【0021】
出力側コイル13の一端131は出力端子103に接続されている。コイル11の一端111は入力端子101に接続されている。コイル12の一端121は入力端子102に接続されている。出力側コイル13の他端132はコイル11の他端およびコイル12の他端である接続点115に接続され、直流的に接地されていない。また、接続点115は電源端子104に接続されている。
【0022】
なお、コイル11および12は、併せて1つの連続したコイルであってもよく、また、それぞれが個別のコイルで構成されていてもよい。
【0023】
トランスフォーマ10の上記構成によれば、トランスフォーマ10は、入力端子101および102から一対の平衡信号を受け、当該一対の平衡信号を非平衡信号に変換し、当該非平衡信号を出力端子103から出力する。ここで、出力側コイル13の基準電位である他端132の電位は、入力側コイル14の基準電位である接続点115の電位に等しい。これにより、接続点115にコモンモードノイズ成分の交流電圧が発生した場合であっても、出力側コイル13の基準電位と入力側コイル14の基準電位とが交流的に同電位となるため、平衡入力非平衡出力型のトランスフォーマ10の出力側に誘起されるコモンモードノイズが相殺され、出力側の不要ノイズを低減できる。
【0024】
トランスフォーマ30は、入力側コイル31と、出力側コイル32と、を備える。入力側コイル31の一端は高周波入力端子110に接続され、入力側コイル31の他端はグランドに接続されている。出力側コイル32の一端は増幅素子21の入力端に接続され、出力側コイル32の他端は増幅素子22の入力端に接続されている。出力側コイル32の中央付近はグランドに接続されている。
【0025】
トランスフォーマ30の上記構成によれば、トランスフォーマ30は、高周波入力端子110から非平衡信号を受け、当該非平衡信号を一対の平衡信号に変換し、当該一対の平衡信号を出力側コイル32の一端および他端から出力する。
【0026】
増幅素子21は、第1増幅素子の一例であり、出力側コイル32の一端からから出力された平衡信号を増幅し、第1平衡信号を出力する。増幅素子22は、第2増幅素子の一例であり、出力側コイル32の他端からから出力された平衡信号を増幅し、第2平衡信号を出力する。
【0027】
トランスフォーマ30、ならびに増幅素子21および22により、増幅素子21から出力される第1平衡信号と、増幅素子22から出力される第2平衡信号とは、逆位相の関係となっている。つまり、増幅素子21および22は、1つの差動増幅器を構成している。
【0028】
なお、増幅素子21および22のそれぞれは、例えば、Si、GaAs、SiGeおよびGaNの少なくともいずれかで構成されている。
【0029】
キャパシタ41は、整合回路の一例であり、出力端子103と高周波出力端子120との間に直列配置されている。キャパシタ41によれば、出力端子103から出力される信号のうち、電源から供給される電源電圧などの直流成分を除去することが可能となる。
【0030】
増幅回路1の上記構成によれば、接続点115にコモンモードノイズ成分の交流電圧が発生した場合であっても、出力側コイル13の基準電位と入力側コイル14の基準電位とが交流的に同電位となるため、平衡入力非平衡出力型のトランスフォーマ10の出力側に誘起されるコモンモードノイズが相殺され、出力側の不要ノイズを低減できる。これにより、増幅素子21および22から出力される偶数次高調波を低減させることが可能となる。
【0031】
なお、増幅回路1において、電源端子104はトランスフォーマ10が備えていなくてもよい。また、増幅回路1は、トランスフォーマ30および高周波入力端子110を備えていなくてもよい。
【0032】
[2.比較例に係るトランスフォーマ510および増幅回路500の回路構成]
次に、従来のトランスフォーマおよび増幅回路の一例である、比較例に係るトランスフォーマ510および増幅回路500の回路構成について説明する。
【0033】
図2は、比較例に係るトランスフォーマ510および増幅回路500の回路構成図である。同図に示すように、増幅回路500は、高周波入力端子110および高周波出力端子120と、トランスフォーマ510および30と、増幅素子21および22と、キャパシタ41と、を備える。比較例に係る増幅回路500は、実施の形態に係る増幅回路1と比較して、トランスフォーマ510の構成が異なる。以下、比較例に係る増幅回路500について、実施の形態に係る増幅回路1と異なる構成を有するトランスフォーマ510を中心に説明する。
【0034】
トランスフォーマ510は、入力端子101および102と、出力端子103と、電源端子104と、入力側コイル14と、出力側コイル13と、キャパシタ542と、を備える。比較例に係るトランスフォーマ510は、実施の形態に係るトランスフォーマ10と比較して、入力側コイル14および出力側コイル13の接続構成のみが異なる。以下、比較例に係るトランスフォーマ510について、実施の形態に係るトランスフォーマ10と同じ構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0035】
出力側コイル13の一端は出力端子103に接続され、出力側コイル13の他端はグランドに接続されている。コイル11の一端は入力端子101に接続されている。コイル12の一端は入力端子102に接続されている。コイル11の他端およびコイル12の他端は、キャパシタ542を介してグランドに接続されている。また、コイル11の他端およびコイル12の他端は、電源端子104に接続されている。
【0036】
トランスフォーマ510の上記構成によれば、トランスフォーマ510は、入力端子101および102から一対の平衡信号を受け、当該一対の平衡信号を非平衡信号に変換し、当該非平衡信号を出力端子103から出力する。ここで、コイル11の他端およびコイル12の他端には、入力側コイル14および出力側コイル13が有する寄生容量成分や寄生インダクタンス成分により対称性が崩れ、入力側コイルの中間点にコモンモードノイズ成分の交流電圧が発生してしまう。この交流電圧は、入力側コイル14および出力側コイル13の電磁界結合を介して出力側コイル13に出力されてしまい、不要なノイズとしてトランスフォーマ510から出力されてしまう。
【0037】
このため、増幅回路500では、対称特性を有する増幅素子21および22から発生するコモンモードの偶数次高調波は、その一部がキャンセルされずに不要ノイズとして高周波出力端子120から出力されてしまう。
【0038】
[3.変形例1に係るトランスフォーマ10Aおよび増幅回路1Aの回路構成]
図3は、変形例1に係るトランスフォーマ10Aおよび増幅回路1Aの回路構成図である。同図に示すように、本変形例に係る増幅回路1Aは、高周波入力端子110および高周波出力端子120と、トランスフォーマ10Aおよび30と、増幅素子21および22と、を備える。本変形例に係る増幅回路1Aは、実施の形態に係る増幅回路1と比較して、トランスフォーマ10Aの構成およびキャパシタ41がない点が異なる。以下、本変形例に係る増幅回路1Aについて、実施の形態に係る増幅回路1と異なる構成を有するトランスフォーマ10Aを中心に説明する。
【0039】
トランスフォーマ10Aは、入力端子101および102と、出力端子103と、電源端子104と、入力側コイル14と、出力側コイル13と、キャパシタ42と、を備える。本変形例に係るトランスフォーマ10Aは、実施の形態に係るトランスフォーマ10と比較して、キャパシタ42が配置されている点が異なる。以下、本変形例に係るトランスフォーマ10Aについて、実施の形態に係るトランスフォーマ10と同じ構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0040】
出力端子103は、高周波出力端子120に接続されている。
【0041】
キャパシタ42は、第1キャパシタの一例であり、出力側コイル13の他端と、コイル11の他端およびコイル12の他端とを結ぶ経路に直列配置されている。
【0042】
入力側コイル14は、互いに直列接続されたコイル11および12で構成されている。
【0043】
出力側コイル13の一端は出力端子103に接続されている。コイル11の一端は入力端子101に接続されている。コイル12の一端は入力端子102に接続されている。出力側コイル13の他端は、キャパシタ42を介してコイル11の他端およびコイル12の他端に接続され、直流的に接地されていない。また、コイル11の他端およびコイル12の他端は電源端子104に接続されている。
【0044】
上記構成によれば、トランスフォーマ10Aは、入力端子101および102から一対の平衡信号を受け、当該一対の平衡信号を非平衡信号に変換し、当該非平衡信号を出力端子103から出力する。ここで、出力側コイル13の基準電位である他端は、入力側コイル14の基準電位であるコイル11の他端およびコイル12の他端にキャパシタ42を介して接続され、直流的に接地されていない。これにより、コイル11の他端およびコイル12の他端にコモンモードノイズ成分の交流電圧が発生した場合であっても、出力側コイル13の基準電位と入力側コイル14の基準電位とが交流的に同電位となるため、平衡入力非平衡出力型のトランスフォーマ10Aの出力側に誘起されるコモンモードノイズが相殺され、出力側の不要ノイズを低減できる。
【0045】
また、キャパシタ41に代わってキャパシタ42が配置されていることにより、直流の電源電圧が出力側コイル13および出力端子103を介して高周波出力端子120から漏洩してしまうことを回避できる。
【0046】
増幅回路1Aの上記構成によれば、コイル11の他端およびコイル12の他端に不要な交流電圧が発生した場合であっても、出力側コイル13の基準電位と入力側コイル14の基準電位とが交流的に同電位となるため、増幅素子21および22から出力される偶数次高調波を低減させることが可能となる。
【0047】
[4.変形例2に係るトランスフォーマ10Bおよび増幅回路1Bの回路構成]
図4は、変形例2に係るトランスフォーマ10Bおよび増幅回路1Bの回路構成図である。同図に示すように、本変形例に係る増幅回路1Bは、高周波入力端子110および高周波出力端子120と、トランスフォーマ10Bおよび30と、増幅素子21および22と、を備える。本変形例に係る増幅回路1Bは、変形例1に係る増幅回路1Aと比較して、トランスフォーマ10Bの構成が異なる。以下、本変形例に係る増幅回路1Bについて、変形例1に係る増幅回路1Aと異なる構成を有するトランスフォーマ10Bを中心に説明する。
【0048】
トランスフォーマ10Bは、入力端子101および102と、出力端子103と、電源端子104と、入力側コイル14と、出力側コイル13と、キャパシタ42および43と、を備える。本変形例に係るトランスフォーマ10Bは、変形例1に係るトランスフォーマ10Aと比較して、キャパシタ43が配置されている点、および、入力側コイル14の接続構成が異なる。以下、本変形例に係るトランスフォーマ10Bについて、変形例1に係るトランスフォーマ10Aと同じ構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0049】
キャパシタ43は、第2キャパシタの一例であり、コイル11の他端およびコイル12の他端とグランドとの間に接続されている。
【0050】
入力側コイル14は、互いに直列接続されたコイル11および12で構成されている。
【0051】
出力側コイル13の一端は出力端子103に接続されている。コイル11の一端は入力端子101に接続されている。コイル12の一端は入力端子102に接続されている。出力側コイル13の他端は、キャパシタ42を介してコイル11の他端およびコイル12の他端に接続され、直流的に接地されていない。また、コイル11の他端およびコイル12の他端は電源端子104に接続されている。さらに、コイル11の他端およびコイル12の他端は、キャパシタ43を介してグランドに接続され、直流的に接地されていない。
【0052】
トランスフォーマ10Bの上記構成によれば、トランスフォーマ10Bは、入力端子101および102から一対の平衡信号を受け、当該一対の平衡信号を非平衡信号に変換し、当該非平衡信号を出力端子103から出力する。ここで、出力側コイル13の基準電位である他端は、入力側コイル14の基準電位であるコイル11の他端およびコイル12の他端にキャパシタ42を介して接続され、直流的に接地されていない。これにより、コイル11の他端およびコイル12の他端にコモンモードノイズ成分の交流電圧が発生した場合であっても、出力側コイル13の基準電位と入力側コイル14の基準電位とが交流的に同電位となるため、平衡入力非平衡出力型のトランスフォーマ10Bの出力側に誘起されるコモンモードノイズが相殺され、出力側の不要ノイズを低減できる。
【0053】
また、入力側コイル14の基準電位であるコイル11の他端およびコイル12の他端がキャパシタ43を介してグランドに接続されているため、入力側コイル14の基準電位を交流的に安定化させることが可能となる。さらに、キャパシタ43の容量値を最適化することにより、増幅素子21および22で発生したコモンモードノイズを低減させることが可能となる。よって、増幅回路1Bにおいて、増幅素子21および22から出力される偶数次高調波を、さらに低減させることが可能となる。
【0054】
図5Aは、比較例に係るトランスフォーマ510のコモンモードノイズの周波数特性を示すグラフである。また、図5Bは、変形例2に係るトランスフォーマ10Bのコモンモードノイズの周波数特性を示すグラフである。図5Aおよび図5Bの縦軸は、トランスフォーマ510または10Bの入力端子101および102に対する出力端子103のコモンモードの挿入損失を示しており、横軸は高周波信号の周波数を示している。
【0055】
図5Aに示すように、比較例に係るトランスフォーマ510では、高周波信号の周波数(3.3~4.2GHz)に対する偶数次高調波(2倍高調波)におけるコモンモード挿入損失は10~20dBである。これに対して、図5Bに示すように、変形例2に係るトランスフォーマ10Bでは、高周波信号の周波数(3.3~4.2GHz)に対する偶数次高調波(2倍高調波)におけるコモンモード挿入損失は、15~27dBであり、比較例に係るトランスフォーマ510よりも、偶数次高調波(2倍高調波)におけるコモンモードノイズが抑制されていることが解る。
【0056】
なお、本変形例に係るトランスフォーマ10Bにおいて、キャパシタ42がなくてもよい。つまり、コイル11の他端およびコイル12の他端は、出力側コイル13の他端に直接接続されていてもよい。ただし、この場合には、出力側コイル13の一端と高周波出力端子120との間にキャパシタが直列配置されていることが望ましい。
【0057】
[5.変形例3に係るトランスフォーマ10Cおよび増幅回路1Cの回路構成]
図6は、変形例3に係るトランスフォーマ10Cおよび増幅回路1Cの回路構成図である。同図に示すように、本変形例に係る増幅回路1Cは、高周波入力端子110および高周波出力端子120と、トランスフォーマ10Cおよび30と、増幅素子21および22と、キャパシタ44と、を備える。本変形例に係る増幅回路1Cは、変形例2に係る増幅回路1Bと比較して、キャパシタ44が配置されている点が異なる。以下、本変形例に係る増幅回路1Cについて、変形例2に係る増幅回路1Bと同じ点については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0058】
キャパシタ44は、第3キャパシタの一例であり、一端が増幅素子21の出力端に接続され、他端が増幅素子22の出力端に接続されている。
【0059】
トランスフォーマ10Cは、入力端子101および102と、出力端子103と、電源端子104と、入力側コイル14と、出力側コイル13と、キャパシタ42および43と、を備える。本変形例に係るトランスフォーマ10Cは、変形例2に係るトランスフォーマ10Bと同じ構成を有するので、トランスフォーマ10Cの説明を省略する。
【0060】
トランスフォーマ10Cの上記構成によれば、出力側コイル13の基準電位である他端は、入力側コイル14の基準電位であるコイル11の他端およびコイル12の他端にキャパシタ42を介して接続され、直流的に接地されていない。これにより、コイル11の他端およびコイル12の他端にコモンモードノイズ成分の交流電圧が発生した場合であっても、出力側コイル13の基準電位と入力側コイル14の基準電位とが交流的に同電位となるため、平衡入力非平衡出力型のトランスフォーマ10Cの出力側に誘起されるコモンモードノイズが相殺され、出力側の不要ノイズを低減できる。
【0061】
また、入力側コイル14の基準電位であるコイル11の他端およびコイル12の他端がキャパシタ43を介してグランドに接続されているため、入力側コイル14の基準電位を交流的に安定化させることが可能となる。さらに、キャパシタ43の容量値を最適化することにより、増幅素子21および22で発生したコモンモードノイズを低減させることが可能となる。
【0062】
さらに、増幅素子21および22の各出力端にキャパシタ44を接続することで、増幅素子21および22の高調波帯における出力インピーダンスを調整することが可能となる。例えば、キャパシタ44の容量値を最適化することで、入力側コイル14で発生する高調波を抑制できる。これにより、増幅回路1Cにおいて高周波出力端子120から出力される高調波を、より低減することが可能となる。
【0063】
図7は、変形例3に係るトランスフォーマ10Cのコモンモードノイズの周波数特性を示すグラフである。図7の縦軸は、トランスフォーマ10Cの入力端子101および102に対する出力端子103のコモンモードの挿入損失を示しており、横軸は高周波信号の周波数を示している。
【0064】
図7に示すように、変形例3に係るトランスフォーマ10Cでは、高周波信号の周波数(3.3~4.2GHz)に対する偶数次高調波(2倍高調波)におけるコモンモード挿入損失は、20~27dBであり、比較例に係るトランスフォーマ510および変形例2に係るトランスフォーマ10Bと比較して、偶数次高調波(2倍高調波)におけるコモンモードノイズがさらに抑制されていることが解る。
【0065】
なお、本変形例に係るトランスフォーマ10Cにおいて、キャパシタ42がなくてもよい。つまり、コイル11の他端およびコイル12の他端は、出力側コイル13の他端に直接接続されていてもよい。ただし、この場合には、出力側コイル13の一端と高周波出力端子120との間にキャパシタが直列配置されていることが望ましい。また、コイル11の他端およびコイル12の他端は、キャパシタ43を介してグランドと接続されていなくてもよい。
【0066】
[6.変形例4に係るトランスフォーマ10Dおよび増幅回路1Dの回路構成]
図8は、変形例4に係るトランスフォーマ10Dおよび増幅回路1Dの回路構成図である。同図に示すように、本変形例に係る増幅回路1Dは、高周波入力端子110および高周波出力端子120と、トランスフォーマ10Dおよび30と、増幅素子21および22と、を備える。本変形例に係る増幅回路1Dは、変形例2に係る増幅回路1Bと比較して、トランスフォーマ10Dの構成が異なる。以下、本変形例に係る増幅回路1Dについて、変形例2に係る増幅回路1Bと異なる構成を有するトランスフォーマ10Dを中心に説明する。
【0067】
トランスフォーマ10Dは、入力端子101および102と、出力端子103と、電源端子104と、入力側コイル14と、出力側コイル13と、キャパシタ42および43と、インダクタ51と、を備える。本変形例に係るトランスフォーマ10Dは、変形例2に係るトランスフォーマ10Bと比較して、インダクタ51が配置されている点が異なる。以下、本変形例に係るトランスフォーマ10Dについて、変形例2に係るトランスフォーマ10Bと同じ構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0068】
キャパシタ43は、第2キャパシタの一例であり、コイル11の他端およびコイル12の他端とグランドとの間に接続されている。
【0069】
インダクタ51は、第1インダクタの一例であり、出力側コイル13の他端と、コイル11の他端およびコイル12の他端との間に配置され、キャパシタ42と直列接続されている。
【0070】
出力側コイル13の一端は出力端子103に接続されている。コイル11の一端は入力端子101に接続されている。コイル12の一端は入力端子102に接続されている。出力側コイル13の他端は、インダクタ51およびキャパシタ42を介してコイル11の他端およびコイル12の他端に接続され、直流的に接地されていない。また、コイル11の他端およびコイル12の他端は電源端子104に接続されている。さらに、コイル11の他端およびコイル12の他端は、キャパシタ43を介してグランドに接続され、直流的に接地されていない。
【0071】
トランスフォーマ10Dの上記構成によれば、トランスフォーマ10Dは、入力端子101および102から一対の平衡信号を受け、当該一対の平衡信号を非平衡信号に変換し、当該非平衡信号を出力端子103から出力する。ここで、出力側コイル13の基準電位である他端は、入力側コイル14の基準電位であるコイル11の他端およびコイル12の他端にインダクタ51およびキャパシタ42を介して接続され、直流的に接地されていない。これにより、コイル11の他端およびコイル12の他端にコモンモードノイズ成分の交流電圧が発生した場合であっても、出力側コイル13の基準電位と入力側コイル14の基準電位とが交流的に同電位となるため、平衡入力非平衡出力型のトランスフォーマ10Dの出力側に誘起されるコモンモードノイズが相殺され、出力側の不要ノイズを低減できる。
【0072】
さらに、インダクタ51およびキャパシタ42はLC直列共振回路を構成している。このLC直列共振回路の共振周波数を適切に設定することで、増幅素子21および22から出力される不要な高調波成分および分周波成分等が出力側に伝達されることを抑制できる。例えば、上記の共振周波数を、所望の通過帯域(例えば3.3~4.2GHz)となるよう、インダクタンス値、容量値および配線を調整することで、通過帯域以外の周波数については出力側への伝達を抑圧し、出力側の不要ノイズを、より低減できる。
【0073】
また、入力側コイル14の基準電位であるコイル11の他端およびコイル12の他端がキャパシタ43を介してグランドに接続されているため、入力側コイル14の基準電位を交流的に安定化させることが可能となる。さらに、キャパシタ43の容量値を最適化することにより、増幅素子21および22で発生したコモンモードノイズを低減させることが可能となる。よって、増幅回路1Dにおいて、増幅素子21および22から出力される偶数次高調波を、さらに低減させることが可能となる。
【0074】
なお、本変形例に係るトランスフォーマ10Dにおいて、コイル11の他端およびコイル12の他端とグランドとがキャパシタ43を介して接続されている経路は、なくてもよい。
【0075】
[7.変形例5に係るトランスフォーマ10Eおよび増幅回路1Eの回路構成]
図9は、変形例5に係るトランスフォーマ10Eおよび増幅回路1Eの回路構成図である。同図に示すように、本変形例に係る増幅回路1Eは、高周波入力端子110および高周波出力端子120と、トランスフォーマ10Eおよび30と、増幅素子21および22と、キャパシタ41と、を備える。本変形例に係る増幅回路1Eは、変形例2に係る増幅回路1Bと比較して、トランスフォーマ10Dの構成およびキャパシタ41が配置されている点が異なる。以下、本変形例に係る増幅回路1Eについて、変形例2に係る増幅回路1Bと異なる構成を中心に説明する。
【0076】
キャパシタ41は、整合回路の一例であり、出力端子103と高周波出力端子120との間に直列配置されている。キャパシタ41によれば、出力端子103から出力される信号のうち、電源から供給される電源電圧などの直流成分を除去することが可能となる。
【0077】
トランスフォーマ10Eは、入力端子101および102と、出力端子103と、電源端子104と、入力側コイル14と、出力側コイル13と、キャパシタ42および43と、インダクタ52と、を備える。本変形例に係るトランスフォーマ10Eは、変形例2に係るトランスフォーマ10Bと比較して、インダクタ52が配置されている点が異なる。以下、本変形例に係るトランスフォーマ10Eについて、変形例2に係るトランスフォーマ10Bと同じ構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0078】
キャパシタ43は、第2キャパシタの一例であり、コイル11の他端およびコイル12の他端とグランドとの間に接続されている。
【0079】
インダクタ52は、第2インダクタの一例であり、出力側コイル13の他端と、コイル11の他端およびコイル12の他端との間に配置され、キャパシタ42と並列接続されている。
【0080】
出力側コイル13の一端は出力端子103に接続されている。コイル11の一端は入力端子101に接続されている。コイル12の一端は入力端子102に接続されている。出力側コイル13の他端は、インダクタ52およびキャパシタ42を介してコイル11の他端およびコイル12の他端に接続され、直流的に接地されていない。また、コイル11の他端およびコイル12の他端は電源端子104に接続されている。さらに、コイル11の他端およびコイル12の他端は、キャパシタ43を介してグランドに接続され、直流的に接地されていない。
【0081】
トランスフォーマ10Eの上記構成によれば、トランスフォーマ10Eは、入力端子101および102から一対の平衡信号を受け、当該一対の平衡信号を非平衡信号に変換し、当該非平衡信号を出力端子103から出力する。ここで、出力側コイル13の基準電位である他端は、入力側コイル14の基準電位であるコイル11の他端およびコイル12の他端にインダクタ52およびキャパシタ42を介して接続され、直流的に接地されていない。これにより、コイル11の他端およびコイル12の他端にコモンモードノイズ成分の交流電圧が発生した場合であっても、出力側コイル13の基準電位と入力側コイル14の基準電位とが交流的に同電位となるため、平衡入力非平衡出力型のトランスフォーマ10Eの出力側に誘起されるコモンモードノイズが相殺され、出力側の不要ノイズを低減できる。
【0082】
さらに、インダクタ52およびキャパシタ42はLC並列共振回路を構成している。このLC並列共振回路の共振周波数を適切に設定することで、増幅素子21および22から出力される不要な高調波成分等が出力側に伝達されることを抑制できる。例えば、上記の共振周波数を、通過帯域(例えば3.3~4.2GHz)の3次高調波(例えば9.9~12.6GHz)となるよう、インダクタンス値、容量値および配線を調整することで、3次高調波帯域の周波数については出力側への伝達を抑圧し、出力側の不要ノイズを、より低減できる。
【0083】
また、入力側コイル14の基準電位であるコイル11の他端およびコイル12の他端がキャパシタ43を介してグランドに接続されているため、入力側コイル14の基準電位を交流的に安定化させることが可能となる。さらに、キャパシタ43の容量値を最適化することにより、増幅素子21および22で発生したコモンモードノイズを低減させることが可能となる。よって、増幅回路1Eにおいて、増幅素子21および22から出力される偶数次高調波を、さらに低減させることが可能となる。
【0084】
なお、本変形例に係るトランスフォーマ10Eにおいて、コイル11の他端およびコイル12の他端とグランドとがキャパシタ43を介して接続されている経路は、なくてもよい。
【0085】
[8 トランスフォーマ10の部品配置構成]
次に、実施の形態に係るトランスフォーマ10の部品配置構成について説明する。
【0086】
図10は、実施の形態に係るトランスフォーマ10の平面図および断面図である。図10の(a)には、基板90の第1誘電体層(Layer1)をz軸正方向側から見た場合の回路部品の配置が示され、図10の(b)には、基板90の第2誘電体層(Layer2)をz軸正方向側から透視した場合の回路部品の配置が示されている。また、図10の(c)には、図10の(a)および(b)のXC-XC線における断面図が示されている。なお、図10において、基板90および各回路部品を接続する配線の図示が一部省略されている。なお、図10に示されたトランスフォーマ10は、さらに、基板90の表面および回路部品の一部を覆う樹脂部材、ならびに、樹脂部材の表面を覆うシールド電極層を備えてもよいが、図10では、樹脂部材およびシールド電極層の図示が省略されている。
【0087】
トランスフォーマ10は、図1に示された回路構成に加えて、さらに、基板90を有している。
【0088】
基板90は、主面90aおよび90bを有し、トランスフォーマ10を構成する回路部品を実装する基板である。基板90としては、例えば、複数の誘電体層の積層構造を有する低温同時焼成セラミックス(Low Temperature Co-fired Ceramics:LTCC)基板、高温同時焼成セラミックス(High Temperature Co-fired Ceramics:HTCC)基板、部品内蔵基板、再配線層(Redistribution Layer:RDL)を有する基板、または、プリント基板等が用いられる。基板90は、例えば、第1誘電体層(Layer1)、第2誘電体層(Layer2)および第3誘電体層(Layer3)を有している。
【0089】
基板90の主面90aまたは内部には、コイル11および12、ならびに出力側コイル13が形成されている。
【0090】
図10の(a)および(c)に示すように、入力側コイル14を構成するコイル11および12は、基板90の第1誘電体層(Layer1)に形成された平面導体で構成されている。
【0091】
コイル11の一端は主面90aに配置された入力端子101に接続され、コイル12の一端は主面90aの表面に配置された入力端子102に接続されている。コイル11の他端とコイル12の他端との接続点115は、配線92wを介して主面90aに配置された電源端子104に接続されている。なお、入力側コイル14の一部は、第1誘電体層(Layer1)以外の層に形成されていてもよい。
【0092】
また、図10の(b)および(c)に示すように、出力側コイル13は、基板90の第2誘電体層(Layer2)に形成された平面導体で構成されている。
【0093】
出力側コイルの一端131は、ビア導体を介して主面90aに配置された出力端子103に接続されている。出力側コイルの他端132は、ビア導体91vを介して主面90aに配置された接続点115に接続されている。なお、出力側コイル13の一部は、第2誘電体層(Layer2)以外の層に形成されていてもよい。
【0094】
上記実装構成において、基板90を平面視した場合、第1誘電体層(Layer1)に形成された入力側コイル14の少なくとも一部と第2誘電体層(Layer2)に形成された出力側コイル13の少なくとも一部とは、重なっている。
【0095】
上記構成によれば、出力側コイル13に誘起されるコモンモードノイズが低減された小型のトランスフォーマ10を提供することが可能となる。
【0096】
なお、コイル11および12、ならびに出力側コイル13は、それぞれ、上述したような円弧状の平面導体であってもよく、また、ミアンダ型またはスパイラル型の平面導体であってもよい。さらには、コイル11および12、ならびに出力側コイル13は、それぞれ、直線状の平面導体であってもよい。また、円弧状、ミアンダ型、スパイラル型、または直線状の平面導体が複数の層にわたって形成されていてもよい。
【0097】
[9 トランスフォーマ10Dの部品配置構成]
次に、変形例4に係るトランスフォーマ10Dの部品配置構成について説明する。
【0098】
図11は、変形例4に係るトランスフォーマ10Dの平面図および断面図である。図11の(a)には、基板90の第1誘電体層(Layer1)をz軸正方向側から見た場合の回路部品の配置が示され、図11の(b)には、基板90の第2誘電体層(Layer2)をz軸正方向側から透視した場合の回路部品の配置が示されている。また、図11の(c)には、図11の(a)および(b)のXIC-XIC線における断面図が示されている。なお、図11において、基板90および各回路部品を接続する配線の図示が一部省略されている。なお、図11に示されたトランスフォーマ10Dは、さらに、基板90の表面および回路部品の一部を覆う樹脂部材、ならびに、樹脂部材の表面を覆うシールド電極層を備えてもよいが、図11では、樹脂部材およびシールド電極層の図示が省略されている。
【0099】
トランスフォーマ10Dは、図8に示された回路構成に加えて、さらに、基板90を有している。
【0100】
本変形例に係るトランスフォーマ10Dは、実施の形態に係るトランスフォーマ10と比較して、インダクタ51およびキャパシタ42が配置されている点が異なる。以下、本変形例に係るトランスフォーマ10Dについて、実施の形態に係るトランスフォーマ10と同じ構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0101】
図11の(a)および(c)に示すように、キャパシタ42は、基板90の主面90aに配置された表面実装部品である。
【0102】
図11の(b)および(c)に示すように、インダクタ51は、基板90に形成された平面導体を含んでいる。
【0103】
図11の(a)および(c)に示すように、キャパシタ42の一端はコイル11の他端およびコイル12の他端の接続点115に接続されている。
【0104】
図11の(b)および(c)に示すように、出力側コイルの一端131は、ビア導体を介して主面90aに配置された出力端子103に接続されている。出力側コイルの他端132は、第2誘電体層(Layer2)に形成されたインダクタ51の一端に接続されている。インダクタ51の他端は、ビア導体を介してキャパシタ42の他端に接続されている。
【0105】
上記構成によれば、出力側コイル13に誘起されるコモンモードノイズが低減された小型のトランスフォーマ10Dを提供することが可能となる。
【0106】
[10 トランスフォーマ10Eの部品配置構成]
次に、変形例5に係るトランスフォーマ10Eの部品配置構成について説明する。
【0107】
図12は、変形例5に係るトランスフォーマ10Eの平面図および断面図の第1例である。図12の(a)には、基板90の第1誘電体層(Layer1)をz軸正方向側から見た場合の回路部品の配置が示され、図12の(b)には、基板90の第2誘電体層(Layer2)をz軸正方向側から透視した場合の回路部品の配置が示されている。また、図12の(c)には、図12の(a)および(b)のXIIC-XIIC線における断面図が示されている。なお、図12において、基板90および各回路部品を接続する配線の図示が一部省略されている。なお、図12に示されたトランスフォーマ10Eは、さらに、基板90の表面および回路部品の一部を覆う樹脂部材、ならびに、樹脂部材の表面を覆うシールド電極層を備えてもよいが、図12では、樹脂部材およびシールド電極層の図示が省略されている。
【0108】
トランスフォーマ10Eは、図9に示された回路構成に加えて、さらに、基板90を有している。
【0109】
本変形例に係るトランスフォーマ10Eは、実施の形態に係るトランスフォーマ10と比較して、インダクタ52およびキャパシタ42が配置されている点が異なる。以下、本変形例に係るトランスフォーマ10Eについて、実施の形態に係るトランスフォーマ10と同じ構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0110】
図12の(a)および(c)に示すように、キャパシタ42は、基板90の主面90aに配置された表面実装部品である。
【0111】
図12の(b)および(c)に示すように、インダクタ52は、基板90の第2誘電体層(Layer2)に形成された平面導体を含んでいる。
【0112】
図12の(a)および(c)に示すように、キャパシタ42の一端はコイル11の他端およびコイル12の他端の接続点115に接続されている。
【0113】
図12の(b)および(c)に示すように、出力側コイルの一端131は、ビア導体を介して主面90aに配置された出力端子103に接続されている。出力側コイルの他端132は、第2誘電体層(Layer2)に形成されたインダクタ52の一端に接続されている。インダクタ52の一端は、さらに、ビア導体93vを介してキャパシタ42の他端に接続されている。インダクタ52の他端は、ビア導体91vを介して接続点115に接続されている。
【0114】
上記構成によれば、出力側コイル13に誘起されるコモンモードノイズが低減された小型のトランスフォーマ10Eを提供することが可能となる。
【0115】
なお、トランスフォーマ10Eにおいて、インダクタ52は、基板90の第2誘電体層(Layer2)ではなく、第1誘電体層(Layer1)に形成されてもよい。
【0116】
図13は、変形例5に係るトランスフォーマ10Eの平面図および断面図の第2例である。同図の(a)および(c)に示すように、インダクタ52は、基板90の第1誘電体層(Layer1)に形成されている。図13に示されたその他の構成については、図12に示された第1例と同様であるので説明を省略する。第2例においても、出力側コイル13に誘起されるコモンモードノイズが低減された小型のトランスフォーマ10Eを提供することが可能となる。
【0117】
[11.効果など]
以上、本実施の形態に係るトランスフォーマ10は、入力端子101および102と、入力側コイル14と、出力側コイル13と、を備え、入力側コイル14は、互いに直列接続されたコイル11および12を有し、出力側コイル13の一端は出力端子103に接続され、コイル11の一端は入力端子101に接続され、コイル12の一端は入力端子102に接続され、出力側コイル13の他端はコイル11の他端およびコイル12の他端に接続され、直流的に接地されていない。
【0118】
これによれば、出力側コイル13の基準電位である他端の電位は、入力側コイル14の基準電位である、コイル11の他端およびコイル12の他端の電位に等しい。これにより、コイル11の他端およびコイル12の他端に不要な交流電圧が発生した場合であっても、出力側コイル13の基準電位と入力側コイル14の基準電位とが交流的に同電位となるため、トランスフォーマ10の出力側に誘起されるコモンモードノイズを低減できる。
【0119】
また例えば、変形例1に係るトランスフォーマ10Aは、さらに、出力側コイル13の他端とコイル11の他端およびコイル12の他端とを結ぶ経路に直列配置されたキャパシタ42を備えてもよい。
【0120】
これによれば、コイル11の他端およびコイル12の他端に不要な交流電圧が発生した場合であっても、出力側コイル13の基準電位と入力側コイル14の基準電位とが交流的に同電位となるため、平衡入力非平衡出力型のトランスフォーマ10Aの出力側に誘起されるコモンモードノイズを低減できる。また、キャパシタ42が配置されていることにより、直流の電源電圧が出力側コイル13および出力端子103に漏洩してしまうことを回避できる。
【0121】
また例えば、変形例4に係るトランスフォーマ10Dは、さらに、出力側コイル13の他端と、コイル11の他端およびコイル12の他端との間に配置され、キャパシタ42と直列接続されたインダクタ51を備えてもよい。
【0122】
これによれば、インダクタ51およびキャパシタ42で構成されたLC直列共振回路の共振周波数を適切に設定することで、増幅素子21および22から出力される不要な高調波成分および分周波成分等が出力側に伝達されることを抑制できる。よって、通過帯域以外の周波数については出力側への伝達を抑圧し、出力側の不要ノイズを、より低減できる。
【0123】
また例えば、変形例4に係るトランスフォーマ10Eは、さらに、出力側コイル13の他端と、コイル11の他端およびコイル12の他端との間に配置され、キャパシタ42と並列接続されたインダクタ52を備えてもよい。
【0124】
これによれば、インダクタ52およびキャパシタ42で構成されたLC並列共振回路の共振周波数を適切に設定することで、増幅素子21および22から出力される不要な高調波成分等が出力側に伝達されることを抑制できる。よって、例えば、3次高調波帯域の周波数については出力側への伝達を抑圧し、出力側の不要ノイズを、より低減できる。
【0125】
また例えば、変形例2に係るトランスフォーマ10Bは、さらに、コイル11の他端およびコイル12の他端とグランドとの間に接続されたキャパシタ43を備えてもよい。
【0126】
これによれば、入力側コイル14の基準電位であるコイル11の他端およびコイル12の他端がキャパシタ43を介してグランドに接続されているため、入力側コイル14の基準電位を交流的に安定化させることが可能となる。さらに、キャパシタ43の容量値を最適化することによりコモンモードノイズを低減させることが可能となる。
【0127】
また例えば、トランスフォーマ10は、さらに、複数の誘電体層を有する基板90を備え、入力側コイル14の少なくとも一部は、複数の誘電体層のうちの第1誘電体層に形成され、出力側コイル13の少なくとも一部は、複数の誘電体層のうちの第2誘電体層に形成され、基板90を平面視した場合、入力側コイル14の少なくとも一部と出力側コイル13の少なくとも一部とは重なっていてもよい。
【0128】
これによれば、出力側コイル13に誘起されるコモンモードノイズが低減された小型のトランスフォーマ10を提供することが可能となる。
【0129】
また例えば、トランスフォーマ10Dにおいて、インダクタ51は基板90に形成された平面導体を含み、キャパシタ42は基板90の主面90aに配置された表面実装部品であってもよい。
【0130】
これによれば、出力側コイル13に誘起されるコモンモードノイズが低減された小型のトランスフォーマ10Dを提供することが可能となる。
【0131】
また例えば、トランスフォーマ10Eにおいて、インダクタ52は基板90に形成された平面導体を含み、キャパシタ42は基板90の主面90aに配置された表面実装部品であってもよい。
【0132】
これによれば、出力側コイル13に誘起されるコモンモードノイズが低減された小型のトランスフォーマ10Eを提供することが可能となる。
【0133】
また、本実施の形態に係る増幅回路1は、トランスフォーマ10と、増幅素子21および22を有する差動増幅器と、を備え、増幅素子21の出力端は入力端子101に接続され、増幅素子22の出力端は入力端子102に接続され、コイル11の他端およびコイル12の他端は、電源端子104に接続されていてもよい。
【0134】
これによれば、コイル11の他端およびコイル12の他端に不要な交流電圧が発生した場合であっても、出力側コイル13の基準電位と入力側コイル14の基準電位とが交流的に同電位となるため、平衡入力非平衡出力型のトランスフォーマ10の出力側に誘起されるコモンモードノイズを低減できる。これにより、増幅素子21および22から出力される偶数次高調波を低減させることが可能となる。
【0135】
また例えば、変形例3に係る増幅回路1Cは、さらに、増幅素子21の出力端および増幅素子22の出力端に接続されたキャパシタ44を備えてもよい。
【0136】
これによれば、増幅素子21および22の各出力端にキャパシタ44を接続することで、増幅素子21および22の高調波帯における出力インピーダンスを調整することが可能となる。このため、キャパシタ44の容量値を最適化することにより入力側コイル14で発生する高調波を抑制できる。よって、増幅回路1Cにおいて高周波出力端子120から出力される高調波を、より低減することが可能となる。
【0137】
(その他の実施の形態など)
以上、本発明の実施の形態に係るトランスフォーマおよび増幅回路について、実施の形態および変形例を挙げて説明したが、本発明に係るトランスフォーマおよび増幅回路は、上記実施の形態および変形例に限定されるものではない。上記実施の形態および変形例における任意の構成要素を組み合わせて実現される別の実施の形態や、上記実施の形態および変形例に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例や、上記トランスフォーマおよび増幅回路を内蔵した各種機器も本発明に含まれる。
【0138】
例えば、上記実施の形態および変形例に係るトランスフォーマおよび増幅回路において、図面に開示された各回路素子および信号経路を接続する経路の間に、別の回路素子および配線などが挿入されていてもよい。
【0139】
なお、「Aが直流的に接地されていない」とは、例えば、Aの(直流)抵抗値が10Ω以上であると定義される。Aの(直流)抵抗値が10Ω以上であることを検証する方法として、例えば、(直流)抵抗測定が可能なテスタを用いることができる。具体的には、例えば、テスタが有する2本のプローブを、それぞれAおよびグランドに接触させ、Aの(直流)抵抗値が10Ω以上を示す場合に、「Aの(直流)抵抗値が10Ω以上である」と定義される。なお、プローブと被測定物との接触抵抗の影響を排除するため、四端子法を用いたテスタによる抵抗測定を実施することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明は、フロントエンド部に配置されるトランスフォーマおよび増幅回路として、携帯電話などの通信機器に広く利用できる。
【符号の説明】
【0141】
1、1A、1B、1C、1D、1E、500 増幅回路
10、10A、10B、10C、10D、10E、30、510 トランスフォーマ
11、12 コイル
13、32 出力側コイル
14、31 入力側コイル
21、22 増幅素子
41、42、43、44、542 キャパシタ
51、52 インダクタ
90 基板
90a、90b 主面
91v、93v ビア導体
92w 配線
101、102 入力端子
103 出力端子
104 電源端子
110 高周波入力端子
111、121、131 一端
115 接続点
120 高周波出力端子
132 他端
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
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