(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121252
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/32 20060101AFI20230824BHJP
B60T 8/1761 20060101ALI20230824BHJP
B60T 8/28 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
B60T8/32
B60T8/1761
B60T8/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024487
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】海老根 卓
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 俊哉
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246CA03
3D246DA01
3D246FA02
3D246FA04
3D246HA02A
3D246HA13A
3D246HA64A
3D246HA81A
3D246HA86B
3D246HA94A
3D246JA12
3D246JB19
3D246JB22
3D246LA02Z
3D246LA57Z
3D246LA72Z
3D246LA73Z
(57)【要約】 (修正有)
【課題】2系統調圧から1系統調圧への切り替えを滑らかに行うこと。
【解決手段】制動制御装置は、シール部材で封止される供給室及びサーボ室を有するアプライ部と、第1サーボ圧をサーボ室に供給して供給室から前輪ホイールシリンダに前輪供給圧を出力することで前輪ホイール圧を調整し、第2サーボ圧を後輪供給圧として後輪ホイールシリンダに出力することで後輪ホイール圧を調整する調圧部と、前輪、後輪供給圧を検出する前輪、後輪供給圧センサと、第1、第2サーボ圧を個別に調整する2系統調圧及び第1、第2サーボ圧を同じにする1系統調圧のうちの何れかを選択するコントローラと、を備える。コントローラは、2系統調圧では、前輪、後輪目標圧を個別演算し、前輪、後輪供給圧を前輪、後輪目標圧に一致させ、1系統調圧では、前輪、後輪目標圧を等しくした上で所定圧を加えて共通目標圧を演算し、後輪供給圧を共通目標圧に一致させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動要求量に応じて前輪、後輪ホイールシリンダの液圧を調整する車両の制動制御装置であって、
シリンダ、及び、該シリンダに挿入されるピストンによって仕切られ、シール部材によって封止される供給室、及び、サーボ室を有するアプライ部と、
電気的に第1、第2サーボ圧を調整し、前記第1サーボ圧を前記サーボ室に供給し、前記供給室から前記前輪ホイールシリンダに前輪供給圧を出力することで、前記前輪ホイールシリンダの液圧を調整するとともに、前記第2サーボ圧を後輪供給圧として前記後輪ホイールシリンダに出力することで、前記後輪ホイールシリンダの液圧を調整する調圧部と、
前記前輪、後輪供給圧を検出する前輪、後輪供給圧センサと、
前記第1、第2サーボ圧を個別に調整する2系統調圧、及び、前記第1、第2サーボ圧を同じに調整する1系統調圧のうちの何れか一方を選択するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記2系統調圧を選択する場合には、前記制動要求量に基づいて前輪、後輪目標圧を個別に演算し、前記前輪、後輪供給圧を前記前輪、後輪目標圧に一致させるように前記調圧部を制御し、
前記1系統調圧を選択する場合には、前記前輪、後輪目標圧を等しくした上で所定圧を加えて共通目標圧を演算し、前記後輪供給圧を前記共通目標圧に一致させるように前記調圧部を制御する、車両の制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載される車両の制動制御装置において、
前記所定圧は前記シール部材の摺動抵抗に相当する値として設定される、車両の制動制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載される車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、アンチロックブレーキ制御の実行が開始される時点で、前記2系統調圧を前記1系統調圧に切り替える、車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、特許文献1に記載されるような、長手方向の寸法が短縮されるとともに、前輪系統の制動液圧と後輪系統の制動液圧とが個別に制御される制動制御装置を開発している。該装置では、前輪、後輪系統で制動液圧が個別に制御される2系統調圧が、前輪、後輪系統で制動液圧が同一に制御される1系統調圧に切り替えられることがある。この切り替えには、滑らかさが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、車両の制動制御装置において、2系統調圧から1系統調圧への切り替えが円滑に行われ得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る車両の制動制御装置(SC)は、制動要求量(Bs)に応じて前輪、後輪ホイールシリンダ(CWf、CWr)の液圧(Pwf、Pwr)を調整するものであって、「シリンダ(CM)、及び、該シリンダ(CM)に挿入されるピストン(NM)によって仕切られ、シール部材(SL)によって封止される供給室(Rm)、及び、サーボ室(Ru)を有するアプライ部(AP)」と、「電気的に第1、第2サーボ圧(P1、P2)を調整し、前記第1サーボ圧(P1)を前記サーボ室(Ru)に供給し、前記供給室(Rm)から前記前輪ホイールシリンダ(CWf)に前輪供給圧(Pm)を出力することで、前記前輪ホイールシリンダ(CWf)の液圧(Pwf)を調整するとともに、前記第2サーボ圧(P2)を後輪供給圧(Pv)として前記後輪ホイールシリンダ(CWr)に出力することで、前記後輪ホイールシリンダ(CWr)の液圧(Pwr)を調整する調圧部(CA)」と、「前記前輪、後輪供給圧(Pm、Pv)を検出する前輪、後輪供給圧センサ(PM、PV)」と、「前記第1、第2サーボ圧(P1、P2)を個別に調整する2系統調圧、及び、前記第1、第2サーボ圧(P1、P2)を同じに調整する1系統調圧のうちの何れか一方を選択するコントローラ(EA)」と、を備える。
【0006】
本発明に係る車両の制動制御装置(SC)では、前記コントローラ(EA)は、前記2系統調圧を選択する場合には、前記制動要求量(Bs)に基づいて前輪、後輪目標圧(Ptf、Ptr)を個別に演算し、前記前輪、後輪供給圧(Pm、Pv)を前記前輪、後輪目標圧(Ptf、Ptr)に一致させるように前記調圧部(CA)を制御する。一方、前記コントローラ(EA)は、前記1系統調圧を選択する場合には、前記前輪、後輪目標圧(Ptf、Ptr)を等しくした上で所定圧(ps)を加えて共通目標圧(Px)を演算し、前記後輪供給圧(Pv)を前記共通目標圧(Px)に一致させるように前記調圧部(CA)を制御する。例えば、前記所定圧(ps)は前記シール部材(SL)の摺動抵抗に相当する値に設定される。前記コントローラ(EA)は、アンチロックブレーキ制御の実行が開始される時点で、前記2系統調圧を前記1系統調圧に切り替える。
【0007】
制動制御装置SCでは、1系統調圧の制御に、後輪供給圧Pvが用いられるが、シール部材SLの摩擦抵抗分を補償するよう、1系統調圧の共通目標圧Pxには所定圧psが加えられる。上記構成によれば、2系統調圧から1系統調圧への切り替えが滑らかに行われる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る制動制御装置SCを搭載した車両JVの全体構成を説明するための概略図である。
【
図2】上部制動ユニットSAの構成例を説明するための概略図である。
【
図3】調圧制御の処理例を説明するためのフロー図である。
【
図4】2系統調圧における上流側、下流側調圧弁UJ、UKの駆動制御例を説明するためのブロック図である。
【
図5】1系統調圧における下流側調圧弁UKの駆動制御例を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<構成部材等の記号、及び、記号末尾の添字>
以下の説明において、「CW」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。各車輪に係る記号末尾に付された添字「f」、「r」は、それが前後輪の何れの系統に関するものであるかを示す包括記号である。例えば、各車輪に設けられたホイールシリンダCWにおいて、「前輪ホイールシリンダCWf」、「後輪ホイールシリンダCWr」と表記される。更に、記号末尾の添字「f」、「r」は省略され得る。添字「f」、「r」が省略された場合には、各記号は総称を表す。例えば、「CW」は、車両の前後車輪に設けられたホイールシリンダの総称である。
【0010】
マスタシリンダCMからホイールシリンダCWに至るまでの流体路において、マスタシリンダCMに近い側(ホイールシリンダCWから遠い側)が「上部」と称呼され、ホイールシリンダCWに近い側(マスタシリンダCMから遠い側)が「下部」と称呼される。また、制動液BFの循環流KNにおいて、流体ポンプQAの吐出部に近い側(吸入部から離れた側)が「上流側」と称呼され、流体ポンプQAの吸入部に近い側(吐出部から離れた側)が「下流側」と称呼される。
【0011】
上部制動ユニットSAの上部流体ユニットYA(「上部アクチュエータ」ともいう)、下部制動ユニットSBの下部流体ユニットYB(「下部アクチュエータ」ともいう)、及び、ホイールシリンダCWは、流体路(連絡路HS)にて接続される。更に、上部、下部アクチュエータYA、YBでは、各種構成要素(UJ、UK等)が流体路にて接続される。ここで、「流体路」は、制動液BFを移動するための経路であり、配管、アクチュエータ内の流路、ホース等が該当する。以下の説明で、連絡路HS、還流路HK、リザーバ路HR、入力路HN、サーボ路HV等は流体路である。
【0012】
<制動制御装置SCを搭載した車両JV>
図1の概略図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCを搭載した車両JVの全体構成について説明する。車両JVは、駆動用の電気モータを備えたハイブリッド車両、又は、電気自動車である。車両JVには、回生装置KGが備えられる。回生装置KGは、ジェネレータGN、及び、回生装置用の制御ユニットEG(「回生コントローラ」ともいう)にて構成される。ジェネレータGNは、駆動用の電気モータでもある。回生制動では、電気モータ/ジェネレータGNが発電機として作動し、発電された電力が、回生コントローラEGを介して、蓄電池BGに蓄えられる。例えば、回生装置KGは、前輪WHfに備えられる。該構成では、回生装置KGによって、前輪WHfに回生制動力Fgが発生される。
【0013】
更に、車両JVには、運転者に代わって、或いは、運転者を補助して、制動制御装置SCを介して、車両を自動停止させる制御(「自動制動制御」という)が実行されるよう、運転支援装置DSが備えられる。運転支援装置DSは、距離センサOB、及び、運転支援装置用の制御ユニットED(「運転支援コントローラ」ともいう)にて構成される。距離センサOBによって、自車両JVの前方に存在する物体(他車両、固定物、人、自転車、停止線、標識、信号、等)と、自車両JVとの間の距離Ob(相対距離)が検出され、運転支援コントローラEDに入力される。運転支援コントローラEDでは、相対距離Obに基づいて、車両JVを自動停止させるための要求減速度Gsが演算される。要求減速度Gsは、自動制動制御を実行するための車両減速度の目標値である。要求減速度Gsは、通信バスBSに出力される。
【0014】
車両JVには、前輪、後輪制動装置SXf、SXr(=SX)が備えられる。制動装置SXは、ブレーキキャリパCP、摩擦部材MS(例えば、ブレーキパッド)、及び、回転部材KT(例えば、ブレーキディスク)にて構成される。ブレーキキャリパCPには、ホイールシリンダCWが設けられる。ホイールシリンダCW内の液圧Pw(「ホイール圧」という)によって、摩擦部材MSが、各車輪WHに固定された回転部材KTに押し付けられる。これにより、車輪WHには摩擦制動力Fmが発生される。「摩擦制動力Fm」は、ホイール圧Pwによって発生される制動力である。
【0015】
車両JVには、制動操作部材BP、操舵操作部材SH、及び、各種センサ(BA等)が備えられる。制動操作部材BP(例えば、ブレーキペダル)は、運転者が車両JVを減速するために操作する部材である。操舵操作部材SH(例えば、ステアリングホイール)は、運転者が車両JVを旋回させるために操作する部材である。
【0016】
車両JVには、以下に列挙される各種センサが備えられる。これらのセンサの検出信号(Ba等)は、上部、下部コントローラEA、EBのうちの何れかに入力される。上部、下部コントローラEA、EBでは、センサ信号に基づいて各種の制御が実行される。
- 制動操作部材BPの操作量Ba(制動操作量)を検出する制動操作量センサBAが設けられる。例えば、制動操作量センサBAとして、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSPが設けられる。加えて、ストロークシミュレータSSの液圧Pz(「シミュレータ圧」という)を検出するシミュレータ圧センサPZが採用される。制動制御装置SCにおいては、制動操作量Baは、運転者の制動意志を表す信号の総称であり、制動操作量センサBAは、制動操作量Baを検出するセンサの総称である。制動操作量Baは、上部コントローラEAに入力される。
- 車輪WHの回転速度Vw(車輪速度)を検出する車輪速度センサVWが設けられる。車輪速度Vwは、下部コントローラEBに入力される。下部コントローラEBでは、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。また、下部コントローラEBでは、車輪速度Vw、及び、車体速度Vxに基づいて、車輪WHのロックを防止するアンチロックブレーキ制御(ABS制御)、及び、駆動車輪WHの空転を防止するトラクション制御が実行される。
- 操舵操作部材SHの操作量Sk(操舵操作量であって、例えば、操舵角)を検出する操舵操作量センサSKが設けられる。車両JV(特に、車体)について、ヨーレイトYrを検出するヨーレイトセンサYR、前後加速度Gxを検出する前後加速度センサGX、及び、横加速度Gyを検出する横加速度センサGYが設けられる。これらのセンサ信号は、下部コントローラEBに入力される。下部コントローラEBでは、これらの信号(Sk、Yr、Gy等)に基づいて、オーバステア及びアンダステアを抑制し、車両JVのヨーイング挙動を安定化する横滑り防止制御(ESC:Electronic Stability Control)が実行される。
【0017】
車両JVには、制動制御装置SCが備えられる。制動制御装置SCでは、2つの制動系統として、前後型(「II型」ともいう)のものが採用される。制動制御装置SCによって、実際のホイール圧Pwが調整される。
【0018】
制動制御装置SCは、2つの制動ユニットSA、SBにて構成される。上部制動ユニットSAは、上部アクチュエータYA(上部流体ユニット)、及び、上部コントローラEA(上部制御ユニット)にて構成される。上部アクチュエータYAは、上部コントローラEAによって制御される。上部制動ユニットSAとホイールシリンダCWとの間には、下部制動ユニットSBが配置される。下部制動ユニットSBは、下部アクチュエータYB(下部流体ユニット)、及び、下部コントローラEB(下部制御ユニット)にて構成される。下部アクチュエータYBは、下部コントローラEBによって制御される。
【0019】
上部制動ユニットSA(特に、上部コントローラEA)、下部制動ユニットSB(特に、下部コントローラEB)、回生装置KG(特に、回生コントローラEG)、及び、運転支援装置DS(特に、運転支援コントローラED)は通信バスBSに接続されている。「通信バスBS」は、通信線に複数のコントローラ(制御ユニット)がぶら下がるネットワーク構造を有している。通信バスBSによって、複数のコントローラ(EA、EB、EG、ED等)の間で信号伝達が行われる。つまり、複数のコントローラは、通信バスBSに信号(検出値、演算値、制御フラグ等)を送信することができるとともに、通信バスBSから信号を受信することができる。
【0020】
<上部制動ユニットSA>
図2の概略図を参照して、制動制御装置SCの上部制動ユニットSAの構成例について説明する。上部制動ユニットSAは、制動操作部材BP(ブレーキペダル)の操作に応じて、前輪、後輪供給圧Pm、Pvを発生する。前輪、後輪供給圧Pm、Pvは、連絡路HS(流体路)、及び、下部制動ユニットSBを介して、最終的には、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrに供給される。つまり、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrの液圧Pwf、Pwr(前輪、後輪ホイール圧)は、前輪、後輪供給圧Pm、Pvによって調整される。上部制動ユニットSAは、上部アクチュエータYA、及び、上部コントローラEAにて構成される。
【0021】
≪上部アクチュエータYA≫
上部アクチュエータYAは、アプライ部AP、調圧部CA、及び、入力部NRにて構成される。
【0022】
[アプライ部AP]
アプライ部APから前輪供給圧Pmが出力される。アプライ部APは、シングル型のマスタシリンダCM、及び、マスタピストンNMにて構成される。
【0023】
シングル型マスタシリンダCMには、マスタピストンNMが挿入される。マスタシリンダCMの内部は、マスタピストンNMによって、3つの液圧室Rm、Ru、Roに区画される。マスタ室Rm(「供給室」ともいう)は、マスタシリンダCMの一方側底部、及び、マスタピストンNMによって区画される。更に、マスタシリンダCMの内部は、マスタピストンNMのつば部Tuによって、サーボ室Ruと反力室Roとに仕切られる。つまり、マスタ室Rmとサーボ室Ruとは、つば部Tuを挟んで、相対するように配置される。これらの液圧室Rm、Ru、Roは、シール部材SLによって封止されている。従って、マスタピストンNMが移動される際には、シール部材SLとシール部材SLが摺動する面(摺動面)との間で摩擦力が発生する。なお、マスタ室Rmの受圧面積rmとサーボ室Ruの受圧面積ruとは等しくされる。
【0024】
非制動時には、マスタピストンNMは、最も後退した位置(即ち、マスタ室Rmの体積が最大になる位置)にある。該状態では、マスタシリンダCMのマスタ室Rmは、マスタリザーバRVに連通している。マスタリザーバRV(大気圧リザーバ)の内部に制動液BFが貯蔵される。制動操作部材BPが操作されると、マスタピストンNMが前進方向Ha(マスタ室Rmの体積が減少する方向)に移動される。該移動により、マスタ室RmとマスタリザーバRVとの連通は遮断される。そして、マスタピストンNMが、更に、前進方向Haに移動されると、前輪供給圧Pmが「0(大気圧)」から増加される。これにより、マスタシリンダCMのマスタ室Rm(供給室)から、前輪供給圧Pmに加圧された制動液BFが出力(圧送)される。前輪供給圧Pmは、マスタ室Rmの液圧であるため、「マスタ圧」とも称呼される。
【0025】
[調圧部CA]
調圧部CAは、後輪ホイールシリンダCWrに対して後輪供給圧Pvを供給し、アプライ部APのサーボ室Ruに対して下流側サーボ圧Pkを供給する。調圧部CAは、電気モータMA、流体ポンプQA、及び、上流側、下流側調圧弁UJ、UKにて構成される。
【0026】
電気モータMAによって、流体ポンプQAが駆動される。流体ポンプQAにおいて、吸入部と吐出部とは、還流路HK(流体路)によって接続される。また、流体ポンプQAの吸入部は、リザーバ路HRを介して、マスタリザーバRVとも接続される。流体ポンプQAの吐出部には、逆止弁が設けられる。
【0027】
還流路HKには、2つの調圧弁UJ、UKが直列に設けられる。具体的には、還流路HKには、常開型の下流側調圧弁UKが設けられる。そして、下流側調圧弁UKと流体ポンプQAの吐出部との間に、常開型の上流側調圧弁UJが設けられる。従って、制動液BFの循環流KNにおいて、上流側調圧弁UJは、下流側調圧弁UKに対して上流側(流体ポンプQAの吐出部に近い側)に配置される。上流側、下流側調圧弁UJ、UKは、通電状態(例えば、供給電流Ij、Ik)に基づいて開弁量(リフト量)が連続的に制御されるリニア型の電磁弁である。上流側、下流側調圧弁UJ、UKは、それらの上流側と下流側との液圧差(差圧)を調整するので、「差圧弁」とも称呼される。
【0028】
電気モータMAによって、流体ポンプQAが駆動されると、還流路HKには、流体ポンプQA、及び、上流側、下流側調圧弁UJ、UKを含む制動液BFの循環流KN(破線矢印で表示)が発生される。上流側調圧弁UJと下流側調圧弁UKとの間の液圧Pk(「下流側サーボ圧」という)が、下流側調圧弁UKによって制御される。上流側調圧弁UJと流体ポンプQAの吐出部との間の液圧Pj(「上流側サーボ圧」という)が、上流側調圧弁UJによって制御される。
【0029】
下流側調圧弁UKが全開状態にある場合(下流側調圧弁UKは常開型であるため、非通電時)には、下流側サーボ圧Pkは、「0(大気圧)」である。下流側調圧弁UKへの通電量(供給電流Ik)が増加されると、下流側調圧弁UKによって循環流KN(還流路HK内で循環する制動液BFの流れ)が絞られる。換言すれば、下流側調圧弁UKによって還流路HKの流路が狭められて、下流側調圧弁UKによるオリフィス効果が発揮される。これにより、下流側調圧弁UKに対して、下流側の液圧(大気圧)と上流側の液圧Pk(下流側サーボ圧)との間に差圧sPk(「下流側差圧」という)が発生される。下流側差圧sPkは、下流側調圧弁UKへの通電量(供給電流Ik)によって調節される。
【0030】
同様に、上流側調圧弁UJが全開状態にある場合(上流側調圧弁UJは常開型であるため、非通電時)には、上流側サーボ圧Pjは、下流側サーボ圧Pkに一致する。上流側調圧弁UJへの通電量(供給電流Ij)が増加されると、上流側調圧弁UJによって循環流KN(還流路HK内で循環する制動液BFの流れ)が絞られる。換言すれば、上流側調圧弁UJによって還流路HKの流路が狭められて、上流側調圧弁UJによるオリフィス効果が発揮される。これにより、上流側調圧弁UJに対して、下流側の液圧Pk(下流側サーボ圧)と上流側の液圧Pj(上流側サーボ圧)との間に差圧sPj(「上流側差圧」という)が発生される。上流側差圧sPjは、上流側調圧弁UJへの通電量(供給電流Ij)によって調節される。なお、上流側サーボ圧Pjと下流側サーボ圧Pkとの大小関係では、常に、上流側サーボ圧Pjは、下流側サーボ圧Pk以上である(即ち、「Pj≧Pk」)。ここで、上流側調圧弁UJに電力供給が行われず、それが全開状態である場合には、上流側、下流側サーボ圧Pj、Pkは等しくされる(即ち、「Pj=Pk」)。
【0031】
上部制動ユニットSAから下部制動ユニットSBに供給される液圧が「供給圧」と称呼される。制動制御装置SCでは、供給圧の伝達経路が、前輪WHfに係る制動系統と後輪WHrに係る制動系統とでは異なる。前輪WHfに係る制動系統では、還流路HKは、上流側調圧弁UJと下流側調圧弁UKとの間の部位pkにて、サーボ路HV(流体路)を介してサーボ室Ruに接続される。従って、下流側サーボ圧Pkは、サーボ室Ruに導入(供給)される。下流側サーボ圧Pkの増加によって、マスタピストンNMが前進方向Haに押圧され、マスタ室Rm(供給室)の内部液圧Pm(前輪供給圧)が増加される。マスタ室Rmには、前輪連絡路HSfが接続される。前輪連絡路HSfは、下部制動ユニットSB(特に、下部アクチュエータYB)を経由して、前輪ホイールシリンダCWfに接続される。従って、制動制御装置SCの前輪WHfに係る制動系統では、下流側サーボ圧Pkが、マスタシリンダCMを介して、前輪供給圧Pmとして、前輪ホイールシリンダCWfに供給される。但し、「ru=rm」であるため、「Pk=Pm=Pwf」である。つまり、前輪供給圧Pm(最終的には、前輪ホイール圧Pwf)は、下流側サーボ圧Pkによって調整される。
【0032】
後輪WHrに係る制動系統では、還流路HKは、流体ポンプQAの吐出部と上流側調圧弁UJとの間の部位pjにて、後輪連絡路HSr(流体路)、及び、下部制動ユニットSB(特に、下部アクチュエータYB)を介して後輪ホイールシリンダCWrに接続される。従って、制動制御装置SCの後輪WHrに係る制動系統では、上流側サーボ圧Pjが、後輪供給圧Pvとして、後輪ホイールシリンダCWrに直接供給される(即ち、「Pj=Pv=Pwr」)。つまり、後輪供給圧Pv(最終的には、後輪ホイール圧Pwr)は、上流側サーボ圧Pjによって調整される。
【0033】
後輪供給圧Pv(=Pj)を検出するよう、後輪連絡路HSrには、後輪供給圧センサPV(「サーボ圧センサ」ともいう)が設けられる。後輪供給圧センサPVは上部コントローラEAに接続される。従って、後輪供給圧Pvの信号は、上部コントローラEAに直接入力される。
【0034】
[入力部NR]
入力部NRによって、回生協調制御を実現するよう、制動操作部材BPは操作されるが、ホイール圧Pwが発生しない状態が生み出される。「回生協調制御」は、制動時に、車両JVが有する運動エネルギを効率良く電気エネルギに回収できるよう、摩擦制動力Fm(ホイール圧Pwによる制動力)と回生制動力Fg(ジェネレータGNによる制動力)とを協働させるものである。入力部NRは、入力シリンダCN、入力ピストンNN、導入弁VA、開放弁VB、ストロークシミュレータSS、及び、シミュレータ液圧センサPZにて構成される。
【0035】
入力シリンダCNは、マスタシリンダCMに固定される。入力シリンダCNには、入力ピストンNNが挿入される。入力ピストンNNは、制動操作部材BP(ブレーキペダル)に連動するよう、クレビス(U字リンク)を介して、制動操作部材BPに機械的に接続される。入力ピストンNNの端面とマスタピストンNMの端面とは隙間Ks(「離間変位」ともいう)を有している。離間距離Ksが下流側サーボ圧Pkによって調節されることで、回生協調制御が実現される。
【0036】
入力部NRの入力室Rnは、入力路HN(流体路)を介して、アプライ部APの反力室Roに接続される。入力路HNには、常閉型の導入弁VAが設けられる。入力路HNは、導入弁VAと反力室Roとの間にて、リザーバ路HRを介して、マスタリザーバRVに接続される。リザーバ路HRには、常開型の開放弁VBが設けられる。導入弁VA、及び、開放弁VBは、オン・オフ型の電磁弁である。導入弁VAと反力室Roとの間で、入力路HNにストロークシミュレータSS(単に、「シミュレータ」ともいう)が接続される。
【0037】
導入弁VA、及び、開放弁VBに電力供給(給電)が行われない場合には、導入弁VAは閉弁され、開放弁VBは開弁される。導入弁VAの閉弁により、入力室Rnは封止され、流体ロックされる。これにより、マスタピストンNMは、制動操作部材BPと一体で変位する。また、開放弁VBの開弁により、シミュレータSSは、マスタリザーバRVに連通される。導入弁VA、及び、開放弁VBに給電(電力供給)が行われる場合には、導入弁VAは開弁され、開放弁VBは閉弁される。これにより、マスタピストンNMは、制動操作部材BPとは別体で変位することが可能になる。このとき、入力室RnはストロークシミュレータSSに接続されるので、制動操作部材BPの操作力FpがシミュレータSSによって発生される。シミュレータSS内の液圧Pz(シミュレータ圧)を検出するよう、入力路HNには、導入弁VAと反力室Roとの間で、シミュレータ圧センサPZが設けられる。なお、シミュレータ圧Pzは、入力室Rnの内圧でもあるため、制動操作部材BPの操作力Fpを表す状態量でもある。
【0038】
マスタピストンNMと制動操作部材BPとが別体で変位する状態(電磁弁VA、VBの通電時)が「第1モード(又は、バイワイヤモード)」と称呼される。第1モードでは、制動制御装置SCはブレーキバイワイヤ型の装置(即ち、運転者の制動操作に対して、摩擦制動力Fmが独立で発生可能な装置)として機能する。このため、第1モードでは、制動操作部材BPの操作とは独立でホイール圧Pwは発生される。一方、マスタピストンNMと制動操作部材BPとが一体で変位する状態(電磁弁VA、VBの非通電時)が「第2モード(又は、マニュアルモード)」と称呼される。第2モードでは、ホイール圧Pwは運転者の制動操作に連動する。入力部NRでは、導入弁VA、及び、開放弁VBへの給電の有無によって、第1モード(バイワイヤモード)、及び、第2モード(マニュアルモード)のうちの一方の作動モードが選択される。
【0039】
≪上部コントローラEA≫
上部コントローラEAによって、上部アクチュエータYAが制御される。上部コントローラEAは、マイクロプロセッサMP、及び、駆動回路DRにて構成される。上部コントローラEAは、各種コントローラ(EB、EG、ED等)との間で信号(検出値、演算値、制御フラグ等)を共有できるよう、通信バスBSに接続される。
【0040】
上部コントローラEAには、制動操作量Ba、及び、後輪供給圧Pvが入力される。制動操作量Baは、制動操作部材BPの操作量を表す状態量の総称である。制動操作量Baとして、操作変位センサSPの検出信号Sp(操作変位)、及び、シミュレータ圧センサPZの検出信号Pz(シミュレータ圧)が、上部コントローラEAに直接入力される。また、後輪供給圧センサPVの検出信号Pv(後輪供給圧)が、上部コントローラEAに直接入力される。
【0041】
上部コントローラEAには、通信バスBSを介して、前輪供給圧Pm、限界回生制動力Fx、要求減速度Gs等が入力される。前輪供給圧Pmは、下部アクチュエータYBに設けられる供給圧センサPMによって検出され、下部コントローラEBから送信される。「限界回生制動力Fx」は、回生装置KGが発生し得る回生制動力Fgの最大値(限界値)である。限界回生制動力Fxは、回生コントローラEGにて演算され、回生コントローラEGから送信される。要求減速度Gsは、自動制動制御における車両減速度の目標値である。要求減速度Gsは、運転支援コントローラEDにて演算され、運転支援コントローラEDから送信される。
【0042】
上部コントローラEA(特に、マイクロプロセッサMP)には、調圧制御のアルゴリズムがプログラムされている。「調圧制御」は、前輪、後輪供給圧Pm、Pv(最終的には、前輪、後輪ホイール圧Pwf、Pwr)を調節するための制御であり、回生協調制御を含んでいる。調圧制御は、制動操作量Ba(操作変位Sp、シミュレータ圧Pz)、要求減速度Gs、前輪、後輪供給圧Pm、Pv、及び、最大回生制動力Fxに基づいて実行される。ここで、制動操作量Ba、及び、要求減速度Gsが、「制動要求量Bs」と総称される。即ち、制動要求量Bsは、制動制御装置SCによって発生されるべきホイール圧Pw(結果、摩擦制動力Fm)を指示するための入力である。
【0043】
調圧制御のアルゴリズムに基づいて、駆動回路DRによって、上部アクチュエータYAを構成する電気モータMA、及び、各種電磁弁(UJ、UK等)が駆動される。駆動回路DRには、電気モータMAを駆動するよう、スイッチング素子(例えば、MOS-FET)にてHブリッジ回路が構成される。また、駆動回路DRには、各種電磁弁(UJ、UK等)を駆動するよう、スイッチング素子が備えられる。加えて、駆動回路DRには、電気モータMAへの供給電流Im(実際値)を検出するモータ電流センサ(非図示)、及び、上流側、下流側調圧弁UJ、UKへの供給電流Ij、Ik(実際値であり、「上流側、下流側電流」という)を検出する上流側、下流側電流センサ(非図示)が含まれる。なお、電気モータMAには、電気モータMAの回転子の回転角Ka(実際値)を検出する回転角センサ(非図示)が設けられる。そして、モータ回転角Kaに基づいて、モータ回転数Naが演算される。
【0044】
上部コントローラEAでは、制動要求量Bsに基づいて、上流側、下流側電流Ij、Ikに対応した目標値である上流側、下流側目標電流Itj、Itkが演算される。そして、上流側、下流側電流Ij、Ik(実際値)が、上流側、下流側目標電流Itj、Itk(目標値)に近付き、一致するように制御される。また、上部コントローラEAでは、制動要求量Bsに基づいて、実際の回転数Naに対応する目標回転数Nta(目標値)が演算される。そして、実際の回転数Naが、目標回転数Ntaに近付き、一致するように、モータ供給電流Imが制御される。これらの制御アルゴリズムに基づいて、電気モータMAを制御するための駆動信号Ma、及び、各種電磁弁UJ、UK、VA、VBを制御するための駆動信号Uj、Uk、Va、Vbが演算される。そして、駆動信号(Ma等)に応じて、駆動回路DRのスイッチング素子が駆動され、電気モータMA、及び、電磁弁UJ、UK、VA、VBが制御される。
【0045】
<下部制動ユニットSB>
下部制動ユニットSBは、アンチロックブレーキ制御、トラクション制御、横滑り防止制御等を実行するための汎用のユニット(装置)である。アンチロックブレーキ制御、トラクション制御、横滑り防止制御等では、各ホイールシリンダCWのホイール圧Pwが独立で調整されるので、これらは「各輪独立制御」とも総称される。下部制動ユニットSBでは、各輪独立制御を実行するよう、ホイール圧Pwが、ホイールシリンダCW毎に個別で調節可能である。
【0046】
下部制動ユニットSBは、上部制動ユニットSAとホイールシリンダCWとの間に設けられる。下部制動ユニットSBには、上部制動ユニットSAから、前輪、後輪供給圧Pm、Pvが供給される。そして、下部制動ユニットSBにて、前輪、後輪供給圧Pm、Pvが調整(増減)され、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrの液圧Pwf、Pwr(前輪、後輪ホイール圧)として出力される。なお、下部制動ユニットSBが作動していない場合(各輪独立制御の非実行時)には、前輪、後輪ホイール圧Pwf、Pwrは、前輪、後輪供給圧Pm、Pvに等しい。
【0047】
前輪供給圧センサPMが、上部アクチュエータYA(特に、マスタ室Rm)から供給される実際の液圧Pm(前輪供給圧)を検出するために設けられる。前輪供給圧センサPMは、「マスタ圧センサ」とも称呼され、下部アクチュエータYBに内蔵される。前輪供給圧Pmの信号は、下部コントローラEBに直接入力され、通信バスBSに出力される。
【0048】
<調圧制御の処理>
図3のフロー図を参照して、調圧制御の処理例について説明する。調圧制御は、制動要求量Bs(Ba、Gs等)に基づく前輪、後輪供給圧Pm、Pv(結果、前輪、後輪ホイール圧Pwf、Pwr)の制御である。調圧制御では、上部制動ユニットSAによって、2系統調圧が実現される。「2系統調圧」は、前輪、後輪ホイール圧Pwf、Pwrが、独立且つ個別に調節される調圧制御である。なお、2系統調圧とは逆に、前輪、後輪ホイール圧Pwf、Pwrが等しく調節される調圧制御が「1系統調圧」と称呼される。回生協調制御において、2系統調圧は、1系統調圧に比較して、回生効率が向上されるとともに、前後車輪間の制動力配分が適正にされる。調圧制御のアルゴリズムは、上部コントローラEAのマイクロプロセッサMPにプログラムされている。
【0049】
処理例の説明では、以下のことが想定されている。
-回生装置KGは、前輪WHfのみに備えられる。従って、回生制動力Fgは、前輪WHfには作用するが、後輪WHrには作用しない。
-上部アクチュエータYAでは、マスタ室Rmの受圧面積rm(「マスタ面積」ともいう)とサーボ室Ruの受圧面積ru(「サーボ面積」ともいう)とが等しく設定される。従って、「rm=ru」であり、静的な状態では、「Pk=Pm」である(ここで、シール部材SLの摩擦等は無視している)。
-前輪供給圧センサPMは下部制動ユニットSBに内蔵されていて、前輪供給圧Pmは、通信バスBSを介して、上部制動ユニットSAに入力される。一方、後輪供給圧センサPVは上部制動ユニットSAに内蔵されていて、後輪供給圧Pvは上部制動ユニットSAに直接入力される。
【0050】
各種の制動力は、以下の通りである。
-「車体総制動力Fu」は、車両JVの全体に作用する実際の制動力である。車体総制動力Fuに対応する目標値が、「目標車体制動力Fv」である。
-「摩擦制動力Fm」は、ホイール圧Pwに応じて実際に発生する制動力である。摩擦制動力Fmに対応する目標値が、「目標摩擦制動力Fn」である。
-「回生制動力Fg」は、回生装置KGによって実際に発生される制動力である。回生制動力Fgに対応する目標値が「目標回生制動力Fh」である。目標回生制動力Fhは、上部制動ユニットSA(特に、上部コントローラEA)、若しくは、下部制動ユニットSB(特に、下部コントローラEB)にて演算され、通信バスBSを介して、回生装置KG(特に、回生コントローラEG)に送信される。回生装置KGでは、回生コントローラEGによって、実際の回生制動力Fgが、目標回生制動力Fhに近付き、一致するように、ジェネレータGNが制御される。
-「限界回生制動力Fx」は、回生装置KGが発生可能な回生制動力Fgである。換言すれば、限界回生制動力Fxは、回生装置KGが発生できる回生制動力Fgの最大値(限界値)である。従って、回生装置KGでは、限界回生制動力Fxまでの範囲(限度)で、回生制動力Fgが発生される。限界回生制動力Fxは、回生装置KG(特に、回生コントローラEG)にて演算され、通信バスBSを介して、上部制動ユニットSA(特に、上部コントローラEA)に送信される。
【0051】
ステップS110にて、導入弁VA、及び、開放弁VBに電力供給(給電)が行われる。これにより、常閉型の導入弁VAが開弁され、常開型の開放弁VBが閉弁され、マスタピストンNMと制動操作部材BPとが別体で変位可能な第1モードが選択される。第1モードでは、前輪、後輪供給圧Pm、Pv(即ち、前輪、後輪ホイール圧Pwf、Pwr)は、制動操作部材BPの操作とは独立で調整される。このとき、制動操作部材BPの操作力Fpは、ストロークシミュレータSSによって発生される。
【0052】
ステップS120にて、各種信号(Ba等)が読み込まれる。制動操作量Ba(Sp、Pz等)は、制動操作量センサBA(SP、PZ等)によって検出され、上部コントローラEAに入力される。後輪供給圧Pvは、後輪供給圧センサPVによって検出され、上部コントローラEAに入力される。要求減速度Gsは、通信バスBSを介して、運転支援コントローラEDから取得される。前輪供給圧Pmは、通信バスBSを介して、下部コントローラEBから取得される。限界回生制動力Fxは、通信バスBSを介して、回生コントローラEGから取得される。
【0053】
ステップS130にて、制動操作量Ba、及び、要求減速度Gsに基づいて、制動要求量Bsが演算される。例えば、制動操作量Ba、及び、要求減速度Gsが、車両減速度の次元で比較され、それらのうちで大きい方が制動要求量Bsとして決定される。制動要求量Bsは、制動制御装置SCに要求される供給圧Pm、Pv(=Pw)についての指示値である。更に、ステップS130では、制動要求量Bs、及び、演算マップZfvに基づいて、目標車体制動力Fv(車両全体に作用する制動力の目標値)が演算される。目標車体制動力Fvは、演算マップZfvに応じて、制動要求量Bsの増加に従い、増加するように演算される。つまり、目標車体制動力Fvは、制動要求量Bsが大きいほど、大きくなるように決定される。
【0054】
ステップS140にて、「1系統調圧を実行するか、否か」が判定される。該判定は、「切替判定」と称呼される。調圧制御では、初期制御として、2系統調圧が選択されている。例えば、下部制動ユニットSBにて、アンチロックブレーキ制御(車輪速度Vw、及び、車体速度Vxに基づいて、車輪WHのロックを抑制する制御)の実行が開始されたことに基づいて、切替判定が肯定され、調圧制御が2系統調圧から1系統調圧に切り替えられる。ここで、アンチロックブレーキ制御(ABS制御)の実行の有無は、下部コントローラEBから、制御フラグFA(「実行フラグ」ともいう)にて伝達される。実行フラグFAでは、「0」で「ABS制御が実行されていないこと」が表示され、「1」で「ABS制御の実行中」が表示される。従って、切替判定は、実行フラグFAが「0(非実行)」から「1(実行)」に切り替わる時点(該当する演算周期)にて肯定される。
【0055】
切替判定は、回生装置KGの作動状態に基づいて判定されてもよい。具体的には、回生装置KGによる回生制動力Fgが発生されなくなる場合に、切替判定が肯定される。例としては、蓄電池BGが満充電状態になり、回生装置KGが回生制動力Fgを発生できなくなる場合、或いは、回生装置KGにおいて、何らかの故障が発生した場合である。このような回生装置KGの作動情報は、限界回生制動力Fx(即ち、発生可能な回生制動力)が「0」であることによって、上部コントローラEAに伝達される。
【0056】
ステップS140の切替判定が否定される場合には、処理はステップS150に進められ、2系統調圧(ステップS150~S170の処理)が実行される。一方、切替判定が肯定される場合には、処理はステップS180に進められ、1系統調圧(ステップS180~S210の処理)が実行される。
【0057】
≪2系統調圧の処理≫
ステップS150にて、目標車体制動力Fvに基づいて、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqr(=Fq)が演算される。具体的には、以下の2つの条件が満足されるように、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrが演算される。「前輪要求制動力Fqf」は、前輪WHfに作用する制動力全体の目標値である。従って、前輪要求制動力Fqfは、目標回生制動力Fhと前輪目標摩擦制動力Fnfとの和に一致する(即ち、「Fqf=Fh+Fnf」)。「後輪要求制動力Fqr」は、後輪WHrに作用する制動力全体の目標値である。従って、後輪要求制動力Fqrは、後輪目標摩擦制動力Fnrに一致する(即ち、「Fqr=Fnf」)。
条件1:前輪要求制動力Fqfと後輪要求制動力Fqrとを合算した値が、目標車体制動力Fvに一致すること(即ち、「Fv=Fqf+Fqr」)。
条件2:前輪要求制動力Fqfに対する後輪要求制動力Fqrの比率が所定値hbに一致すること(即ち、「Fqr/Fqf=hb」)。ここで、所定値hbは、回生制動力Fgが「0」の場合である場合の前輪摩擦制動力Fmfに対する後輪摩擦制動力Fmrの比率である。従って、所定値hbは、制動装置SXの諸元に基づいて、予め設定された定数である。
条件1、2を満足するよう、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrは、以下の式(1)で決定される。
Fqf=Fv/(1+hb)、及び、Fqr=Fv・hb/(1+hb) …式(1)
【0058】
更に、ステップS150では、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqr、及び、限界回生制動力Fxに基づいて、目標回生制動力Fh、及び、前輪、後輪目標摩擦制動力Fnf、Fnrが演算される。具体的には、目標回生制動力Fhが、限界回生制動力Fx以下の値として決定される。例えば、前輪要求制動力Fqfが限界回生制動力Fx以下の場合には、目標回生制動力Fhは前輪要求制動力Fqfに等しくされ、前輪目標摩擦制動力Fnfは「0」にされ、後輪摩擦制動力Fnrは後輪要求制動力Fqrに等しくされる(即ち、「Fqf≦Fx」の場合には「Fh=Fqf、Fnf=0、Fnr=Fqr」)。一方、前輪要求制動力Fqfが限界回生制動力Fxよりも大きい場合には、目標回生制動力Fhは限界回生制動力Fxに等しくされ、前輪目標摩擦制動力Fnfは「前輪要求制動力Fqfから限界回生制動力Fx(=Fh)を減じた値」にされ、後輪摩擦制動力Fnrは後輪要求制動力Fqrに等しくされる(即ち、「Fqf>Fx」の場合には「Fh=Fx、Fnf=Fqf-Fx=Fqf-Fh、Fnr=Fqr」)。
【0059】
ステップS160にて、前輪、後輪目標摩擦制動力Fnf、Fnr(=Fn)に基づいて、前輪、後輪目標圧Ptf、Ptrが演算される。前輪、後輪目標圧Ptf、Ptrは、制動装置SX等の諸元(ホイールシリンダCWの受圧面積、回転部材KTの有効制動半径、摩擦部材MSの摩擦係数、車輪(タイヤ)の有効半径等)に基づいて、目標摩擦制動力Fnが、前輪、後輪供給圧Pm、Pv(即ち、前輪、後輪ホイール圧Pwf、Pwr)の次元に換算されることで決定される。つまり、前輪、後輪目標圧Ptf、Ptrは、制動要求量Bs、及び、限界回生制動力Fx(回生装置KGが発生可能な回生制動力)に基づいて演算される。前輪供給圧Pmは前輪ホイール圧Pwfに等しく、後輪供給圧Pvは後輪ホイール圧Pwrに等しいので、前輪、後輪目標圧Ptf、Ptrは、前輪、後輪ホイール圧Pwf、Pwrの目標値でもある。
【0060】
ステップS170にて、前輪、後輪目標圧Ptf、Ptr(目標値)に基づいて、前輪、後輪ホイール圧Pwf、Pwr(実際値)が調整される。上部コントローラEAによって、第1電気モータMA、及び、上流側、下流側調圧弁UJ、UKが駆動され、前輪、後輪ホイール圧Pwf、Pwrが、前輪、後輪目標圧Ptf、Ptrに近付き、一致するように制御される。具体的には、ステップS170では、電気モータMAが駆動され、流体ポンプQA、及び、上流側、下流側調圧弁UJ、UKを含む循環流KNが発生される。そして、前輪目標圧Ptf、及び、前輪供給圧Pmに基づいて、前輪供給圧Pm(=Pwf)が、前輪目標圧Ptfに一致するように、下流側調圧弁UKが液圧フィードバック制御される。つまり、前輪供給圧Pmと前輪目標圧Ptfとの偏差hPf(「前輪偏差」という)が「0」になるように、下流側調圧弁UKへの供給電流Ik(実際値であり、「下流側電流」ともいう)が調節される。また、後輪目標圧Ptr、及び、後輪供給圧Pvに基づいて、後輪供給圧Pv(=Pwr)が、後輪目標圧Ptrに一致するように、上流側調圧弁UJが液圧フィードバック制御される。つまり、後輪供給圧Pvと後輪目標圧Ptrとの偏差hPr(「後輪偏差」という)が「0」になるように、上流側調圧弁UJへの供給電流Ij(実際値であり、「上流側電流」ともいう)が調節される。
【0061】
≪1系統調圧の処理≫
ステップS140の切替判定が肯定されると、ステップS180にて、上流側調圧弁UJへの電力供給が停止され、上流側調圧弁UJが開弁される。上流側調圧弁UJは、常開型電磁弁であるため、給電停止により全開状態にされる。これにより、2系統調圧から1系統調圧への切り替えが行われる。2系統調圧が1系統調圧に切り替えられることが「調圧切り替え」と称呼される。
【0062】
ステップS190にて、目標車体制動力Fv、及び、限界回生制動力Fxに基づいて、目標回生制動力Fh、及び、目標摩擦制動力Fnの総和Fnt(「目標総和」ともいう)が演算される。ここで、「目標総和Fnt」は、前輪目標摩擦制動力Fnfと後輪目標摩擦制動力Fnrとの和である(即ち、「Fnt=Fnf+Fnr」)。ステップS190では、ステップS150の処理と同様に、目標回生制動力Fhが、限界回生制動力Fx以下の値として決定される。例えば、目標車体制動力Fvが限界回生制動力Fx以下である場合には、目標回生制動力Fhは目標車体制動力Fvに等しくされ、目標摩擦制動力Fnの総和Fntは「0」にされる(即ち、「Fv≦Fx」の場合には「Fh=Fv、Fnt=0」)。また、目標車体制動力Fvが限界回生制動力Fxよりも大きい場合には、目標回生制動力Fhは限界回生制動力Fxに等しくされ、目標総和Fntは「目標車体制動力Fvから目標回生制動力Fh(=Fx)が減算された値」にされる(即ち、「Fv>Fx」の場合には「Fh=Fx、Fnt=Fv-Fh=Fv-Fx」)。目標回生制動力Fhは、通信バスBSに送信される。
【0063】
ステップS200にて、目標総和Fntに基づいて、共通目標圧Pxが演算される。具体的には、共通目標圧Pxは、目標総和Fnt、及び、「Ptf=Ptr」の2つの条件が満足された上で、更に、所定圧psが加算されて、決定される。ここで、所定圧psは、シール部材SLの摺動抵抗に相当する値であり、予め設定された所定値(定数)である。なお、共通目標圧Pxにおいても、目標総和Fntの液圧換算は、制動装置SX等の諸元(ホイールシリンダCWの受圧面積、回転部材KTの有効制動半径、摩擦部材MSの摩擦係数、車輪(タイヤ)の有効半径等)に基づいて行われる。
【0064】
「共通目標圧Px」は、前輪、後輪供給圧Pm、Pvに対応する、前後輪に係る制動系統で統一された共通の目標値である。「Fv≦Fx」の場合には、共通目標圧Px(=Ptf=Ptr)は「0」に決定される。「Fv>Fx」の場合には、共通目標圧Pxは、「Ptf=Ptr」の条件で、共通目標圧Pxに対応する目標摩擦制動力Fnの合計Fnt(目標総和)が値「Fv-Fh」に等しくなるように演算され、更に、所定圧psが加算されて決定される。
【0065】
ステップS200では、1系統調圧が行われる場合には、実際の回生制動力Fgが「0」にされてもよい。これは、回生装置KGが発生可能な回生制動力Fx(限界回生制動力)、又は、目標回生制動力Fhが、「0」にされることで実現される。上部制動ユニットSAにて切替判定が肯定される場合には、回生協調制御が終了され、回生装置KGの作動が停止され得る。「Fg=0(Fx=0、又は、Fh=0)」の場合でも、上記同様に、共通目標圧Pxは、制動装置SX等の諸元に基づいて、「Ptf=Ptr、Fnf+Fnr=Fv」が満足された上で、所定圧psが加えられて決定される。
【0066】
ステップS210にて、共通目標圧Px、及び、後輪供給圧Pvに基づいて、上部アクチュエータYAが駆動される。調圧部CAでは、上流側調圧弁UJが全開状態にされているので、上流側サーボ圧Pjと下流側サーボ圧Pkとは等しくされる。即ち、「Pk=Pm=Pwf=Pj=Pv=Pwr」の状態であるため、後輪供給圧Pvが、共通目標圧Pxに近付き、一致するように、下流側調圧弁UKが液圧フィードバック制御される。具体的には、後輪供給圧Pvと共通目標圧Pxとの偏差hPx(「共通偏差」という)が「0」になるように、下流側調圧弁UKへの供給電流Ik(下流側電流)が調節される。
【0067】
制動制御装置SCは、制動操作部材BP(ブレーキペダル)の操作とホイールシリンダCWの液圧(ホイール圧Pw)とが独立して制御可能なブレーキバイワイヤ型の装置である。上部制動ユニットSAには、マスタ室Rm(供給室)、及び、サーボ室Ruが設けられる。マスタ室Rm、及び、サーボ室Ruは、シール部材SLによって封止された上で、マスタシリンダCMとマスタピストンNMとによって区画される。上部制動ユニットSA(特に、調圧部CA)では、2つのリニア型電磁弁UJ、UK(上流側、下流側調圧弁)によって、上流側、下流側サーボ圧Pj、Pkが、電気的に個別調整される。
【0068】
2系統調圧では、前輪ホイール圧Pwfは、制動要求量Bs、及び、前輪供給圧Pmに基づいて、下流側サーボ圧Pkによって調整される。下流側サーボ圧Pkがサーボ室Ruに供給されることで、マスタ室Rmから前輪供給圧Pmが出力され、最終的には前輪ホイール圧Pwfが調整される。つまり、下流側サーボ圧Pkは、マスタシリンダCMとマスタピストンNMとを介して、前輪供給圧Pm(最終的には、前輪ホイール圧Pwf)として伝達される。一方、後輪ホイール圧Pwrは、制動要求量Bs、及び、後輪供給圧Pvに基づいて、上流側サーボ圧Pjによって調整される。上流側サーボ圧Pjは、後輪供給圧Pv(最終的には、後輪ホイール圧Pwr)として、調圧部CAから後輪ホイールシリンダCWrに、マスタシリンダCMとマスタピストンNMとを介さずに、直接供給される。上流側、下流側調圧弁UJ、UKは、制動要求量Bsに基づいて演算された前輪、後輪目標圧Ptf、Ptrに、前輪、後輪供給圧Pm、Pvが近付き一致するよう、フィードバック制御される。
【0069】
2系統調圧から1系統調圧に切り替えられる場合(即ち、調圧切り替えが行われる場合)には、上流側調圧弁UJへの給電が停止されて、上流側サーボ圧Pjと下流側サーボ圧Pkとが等しくなる状態にされる。つまり、前輪供給圧Pmと後輪供給圧Pvとの個別調整が解消される。1系統調圧では、前輪、後輪供給圧Pm、Pvに対応する目標値は、前後輪系統で同じ目標値Px(共通目標圧)として決定される。ここで、共通目標圧Pxには、シール部材SLの摺動抵抗の影響が考慮されるよう、所定圧psが加算されている。そして、共通目標圧Px、及び、後輪供給圧Pvに基づいて、前輪、後輪ホイール圧Pwf、Pwrは、下流側サーボ圧Pkによって調整される。下流側調圧弁UKは、後輪供給圧Pvが、共通目標圧Pxに近付き一致するよう、フィードバック制御される。
【0070】
1系統調圧に係る供給圧の信号には、前輪供給圧Pm、又は、後輪供給圧Pvの選択肢がある。シール部材SLの摺動抵抗は外乱として作用することがあるが、前輪供給圧Pmは摺動抵抗分を含み、後輪供給圧Pvはそれを含まない。前輪供給圧Pmは、通信バスBSを通して取得されるので、通信遅れを含むが、後輪供給圧Pvは、上部コントローラEAに直接入力されるので、通信遅れの影響を受けない。また、通信バスBSが異常である場合には、前輪供給圧Pmが取得できないが、後輪供給圧Pvは取得できる。このため、制動制御装置SCでは、1系統調圧には、後輪供給圧Pvが用いられる。
【0071】
後輪供給圧Pvが採用されると、2系統調圧から1系統調圧に切り替えられる場合(即ち、調圧切り替え時)に、前輪ホイール圧Pwfの制御は、摺動抵抗を含むもの(即ち、前輪供給圧Pmによる制御)から、摺動抵抗を含まないもの(即ち、後輪供給圧Pvによる制御)に遷移する。このため、調圧切り替え時に前輪ホイール圧Pwfの不連続(結果、液圧変化)が発生する。具体的には、後輪供給圧Pvには、シール部材SLの摩擦抵抗が含まれていないので、調圧切り替えの際には、この摩擦抵抗の分だけ、前輪ホイール圧Pwfが減少する。
【0072】
制動制御装置SCでは、シール部材SLの摩擦による液圧成分を補償するよう、共通目標圧Pxには所定圧psが加えられる。これにより、2系統調圧から1系統調圧に切り替えられる場合のホイール圧Pwの変化(特に、摺動摩擦抵抗による前輪ホイール圧Pwfの低下)が抑制され、滑らかな調圧切り替えが達成される。なお、後輪ホイール圧Pwrは、調圧切り替えに際して所定圧psの分だけ増加されるが、車両全体の制動力においては、前輪制動力の影響が支配的であるため、車両減速度に対する後輪制動力変化の影響は軽微である。
【0073】
2系統調圧から1系統調圧への切り替えは、下部制動ユニットSBにて、アンチロックブレーキ制御が実行される場合に行われる。或いは、回生装置KGが回生制動力Fgを発生できなくなる場合に切り替えられる。例えば、これは、回生装置KGの蓄電池BGが満充電になる場合である。蓄電池BGの充電状態は常に監視されているので、満充電に近付く際には、制動作動の開始前に(即ち、「Bs=0」の状態の非制動時に)、2系統調圧から1系統調圧への切り替えが完了されるとよい。これにより、制動作動の途中では、ホイール圧Pwの変化が生じないため、運転者は違和を感じ難い。一方、アンチロックブレーキ制御の実行は、制動作動の途中で行われるので、運転者は異和を感じ易い。このため、所定圧psの加算に基づく、シール部材SLの抵抗補償は、特に、制動中に開始されるアンチロックブレーキ制御の実行時に効果が大きい。
【0074】
<2系統調圧の駆動制御>
図4のブロック図を参照して、2系統調圧の駆動制御例(特に、ステップS170の処理)の詳細について説明する。該制御処理は、上部コントローラEAによって実行される。2系統調圧では、電気モータMAが駆動され、上流側、下流側調圧弁UJ、UK、及び、流体ポンプQAと含む制動液BFの循環流KNが発生される。
【0075】
≪下流側調圧弁UKの駆動制御≫
下流側調圧弁UKの駆動制御について説明する。下流側調圧弁UKに係る駆動処理は、下流側指示電流演算ブロックISK、下流側偏差演算ブロックHPK、下流側補償電流演算ブロックIHK、及び、下流側電流フィードバック制御ブロックIFKにて構成される。
【0076】
下流側指示電流演算ブロックISKでは、前輪目標圧Ptf、及び、予め設定された演算マップZskに基づいて、下流側指示電流Iskが演算される。「下流側指示電流Isk」は、前輪目標圧Ptfが達成されるために必要な、下流側調圧弁UKの供給電流Ik(下流側電流)に係る目標値である。演算マップZskに応じて、前輪目標圧Ptfの増加に従って、下流側指示電流Iskが増加するように決定される。下流側指示電流演算ブロックISKは、前輪目標圧Ptfに基づくフィードフォワード制御に相当する。
【0077】
下流側偏差演算ブロックHPKでは、前輪目標圧Ptfと前輪供給圧Pm(即ち、ホイール圧Pwf)との偏差hPf(前輪偏差)が演算される。具体的には、前輪目標圧Ptfから前輪供給圧Pmが減算されて、前輪偏差hPfが演算される(即ち、「hPf=Ptf-Pm」)。
【0078】
下流側補償電流演算ブロックIHKでは、前輪偏差hPf、及び、予め設定された演算マップZhkに基づいて、下流側補償電流Ihkが演算される。下流側指示電流Iskは、前輪目標圧Ptfに対応して演算されるが、前輪目標圧Ptfと前輪供給圧Pmとの間に誤差が生じる場合がある。「下流側補償電流Ihk」は、この誤差を補償(減少)し、前輪供給圧Pmを前輪目標圧Ptfに一致させるためのものである。下流側補償電流Ihkは、演算マップZhkに応じて、前輪偏差hPfの増加に従って、増加するように決定される。具体的には、前輪目標圧Ptfが前輪供給圧Pmよりも大きく、前輪偏差hPfが正符号の場合には、下流側指示電流Iskが増加されるよう、正符号の下流側補償電流Ihkが決定される。一方、前輪目標圧Ptfが前輪供給圧Pmよりも小さく、前輪偏差hPfが負符号の場合には、下流側指示電流Iskが減少されるよう、負符号の下流側補償電流Ihkが決定される。ここで、演算マップZhkには、不感帯が設けられる。下流側補償電流演算ブロックIHKは、前輪供給圧Pmに基づくフィードバック制御に相当する。
【0079】
下流側指示電流Iskに対して、下流側補償電流Ihkが加えられて、下流側目標電流Itkが演算される(即ち、「Itk=Isk+Ihk」)。「下流側目標電流Itk」は、下流側調圧弁UKに供給される電流の最終的な目標値である。従って、下流側調圧弁UKの駆動制御は、フィードフォワード制御、及び、フィードバック制御によって構成される。
【0080】
下流側電流フィードバック制御ブロックIFKでは、下流側目標電流Itk(目標値)、及び、下流側電流Ik(実際値)に基づいて、下流側電流Ikが、下流側目標電流Itkに近付き、一致するように、下流側駆動信号Ukが演算される。ここで、下流側電流Ikは、駆動回路DRに設けられた下流側電流センサIKによって検出される。下流側電流フィードバック制御ブロックIFKでは、「Itk>Ik」であれば、下流側電流Ikが増加するように駆動信号Ukが決定される。一方、「Itk<Ik」であれば、下流側電流Iaが減少するように駆動信号Ukが決定される。つまり、下流側電流フィードバック制御ブロックIFKでは、電流に係るフィードバック制御が実行される。従って、下流側調圧弁UKの駆動制御には、液圧に係るフィードバック制御に加え、電流に係るフィードバック制御が備えられ、下流側サーボ圧Pk(=Pm=Pwf)が、前輪目標圧Ptfに一致するように制御される。
【0081】
≪上流側調圧弁UJの駆動制御≫
上流側調圧弁UJの駆動制御について説明する。下流側調圧弁UKは、前輪目標圧Ptfに基づいて制御されたが、上流側調圧弁UJは、前輪目標圧Ptfと後輪目標圧Ptrとの差sPtに基づいて制御される。加えて、上流側調圧弁UJは、後輪供給圧Pvに係るフィードバック制御に基づいて制御される。これらのこと以外は、下流側調圧弁UKと同様であるため、共通部分については簡単に説明する。上流側調圧弁UJに係る駆動処理は、目標差圧演算ブロックSPT、上流側指示電流演算ブロックISJ、上流側偏差演算ブロックHPJ、上流側補償電流演算ブロックIHJ、及び、上流側電流フィードバック制御ブロックIFJにて構成される。
【0082】
目標差圧演算ブロックSPTでは、前輪、後輪目標圧Ptf、Ptrに基づいて、目標差圧sPtが演算される。「目標差圧sPt」は、上流側調圧弁UJによって発生されるべき差圧(上流側調圧弁UJに対して、上流側液圧と下流側液圧との差)の目標値である。具体的には、目標差圧sPtは、後輪目標圧Ptrから前輪目標圧Ptfが減算されて決定される(即ち、「sPt=Ptr-Ptf(≧0)」)。上流側調圧弁UJによって、下流側サーボ圧Pk(=Pm)から目標差圧sPtに相当する分だけ増加されて、上流側サーボ圧Pj(=Pv)が発生される。
【0083】
上流側指示電流演算ブロックISJでは、目標差圧sPt、及び、予め設定された演算マップZsjに基づいて、上流側指示電流Isjが演算される。「上流側指示電流Isj」は、目標差圧sPtが達成されるために必要な、上流側調圧弁UJの供給電流Ij(上流側電流)に係る目標値である。演算マップZsjに応じて、目標差圧sPtの増加に従って、上流側指示電流Isjが増加するように決定される。上流側指示電流演算ブロックISJは、目標差圧sPtに基づくフィードフォワード制御に相当する。
【0084】
上流側偏差演算ブロックHPJでは、後輪目標圧Ptrと後輪供給圧Pv(即ち、後輪ホイール圧Pwr)との偏差hPr(後輪偏差)が演算される。具体的には、後輪目標圧Ptrから後輪供給圧Pvが減算されて、後輪偏差hPrが演算される(即ち、「hPr=Ptr-Pv」)。
【0085】
上流側補償電流演算ブロックIHJでは、後輪偏差hPr、及び、予め設定された演算マップZhjに基づいて、上流側補償電流Ihjが演算される。「上流側補償電流Ihj」は、後輪目標圧Ptrと後輪供給圧Pvとの誤差を補償(減少)し、後輪供給圧Pvを後輪目標圧Ptrに一致させるためのものである。上流側補償電流Ihjは、演算マップZhjに応じて、後輪偏差hPrの増加に従って、増加するように決定される。上流側補償電流演算ブロックIHJは、後輪供給圧Pvに基づくフィードバック制御に相当する。
【0086】
上流側指示電流Isjに対して、上流側補償電流Ihjが加えられて、上流側目標電流Itjが演算される(即ち、「Itj=Isj+Ihj」)。「上流側目標電流Itj」は、上流側調圧弁UJに供給される電流の最終的な目標値である。従って、上流側調圧弁UJの駆動制御は、フィードフォワード制御、及び、フィードバック制御によって構成される。
【0087】
上流側電流フィードバック制御ブロックIFJでは、上流側目標電流Itj(目標値)、及び、上流側電流Ij(実際値)に基づいて、上流側電流Ijが、上流側目標電流Itjに近付き、一致するように、上流側駆動信号Ujが演算される。ここで、上流側電流Ijは、駆動回路DRに設けられた上流側電流センサIJによって検出される。上流側電流フィードバック制御ブロックIFJでは、電流に係るフィードバック制御が実行される。従って、上流側調圧弁UJの駆動制御には、液圧に係るフィードバック制御に加え、電流に係るフィードバック制御が備えられ、上流側サーボ圧Pj(=Pv=Pwr)が、後輪目標圧Ptrに一致するように制御される。
【0088】
<1系統調圧の駆動制御>
図5のブロック図を参照して、1系統調圧の駆動制御例(特に、ステップS210の処理)の詳細について説明する。該制御処理も、2系統調圧と同様に、上部コントローラEAによって実行される。1系統調圧では、電気モータMAが駆動され、上流側、下流側調圧弁UJ、UK、及び、流体ポンプQAと含む制動液BFの循環流KNが発生される。ここで、上流側調圧弁UJは、非通電状態であり、全開状態にされる。なお、2系統調圧と同じ記号が付された処理(ISK、IHK、IFK)は、上述した処理と同様であるため、詳細説明を省略する。
【0089】
共通目標圧演算ブロックPXにて、制動要求量Bsに基づいて、共通目標圧Pxが演算される。制動要求量Bsは、制動操作量Ba、及び、要求減速度Gsの総称であり、ホイール圧Pwに対する要求値である。共通目標圧Pxは、前輪、後輪目標圧Ptf、Ptrが等しくされた上で、所定圧psが加えられて演算される。即ち、共通目標圧Pxは、前輪、後輪供給圧Pm、Pvに対して、統一された目標値である。
【0090】
共通偏差演算ブロックHPXにて、共通目標圧Px、及び、後輪供給圧Pvに基づいて、共通偏差hPxが演算される。具体的には、共通目標圧Pxから後輪供給圧Pvが減算されて、共通偏差hPxが決定される(即ち、「hPx=Px-Pv」)。
【0091】
下流側指示電流演算ブロックISKでは、共通目標圧Px、及び、演算マップZskに基づいて、下流側指示電流Iskが演算される。また、下流側補償電流演算ブロックIHKでは、共通偏差hPx、及び、演算マップZhkに基づいて、下流側補償電流Ihkが演算される。2系統調圧と同様に、1系統調圧でも、下流側指示電流Iskに下流側補償電流Ihkが加算されて、下流側目標電流Itkが決定される。そして、下流側電流フィードバック制御ブロックIFKにて、下流側目標電流Itkに基づいて、下流側調圧弁UKの駆動信号Ukが決定される。
【0092】
1系統調圧では、上流側調圧弁UJに係るブロック(即ち、SPT、ISJ、HPJ、IHJ、IFJ)の機能が停止され、上流側調圧弁UJへの通電が停止される(即ち、「Ij=0」)。下流側調圧弁UKに係るブロック(特に、ISK、HPK)では、前輪目標圧Ptfに代えて共通目標圧Pxが採用され、前輪供給圧Pmに代えて後輪供給圧Pvが採用される。
【0093】
<回生装置KGが後輪WHrに備えられる車両JVへの適用>
上述の実施形態では、回生装置KGが前輪WHfに備えられるが、後輪WHrには備えらない車両(「前輪回生車両」という)が想定された。これに代えて、回生装置KGが後輪WHrに備えられるが、前輪WHfには備えらない車両(「後輪回生車両」という)に、制動制御装置SCが適用されてもよい。以下、相違点について説明する。なお、
図4のブロック図の[ ]内の記号が、後輪回生車両用の制動制御装置SCに対応している。
【0094】
後輪回生車両に適用される制動制御装置SCでは、
図2の概略図において、サーボ路HVが部位pjにて還流路HKに接続され、後輪連絡路HSrが、部位pkにて還流路HKに接続される。つまり、上流側サーボ圧Pjがサーボ室Ruに供給され、下流側サーボ圧Pkが後輪ホイールシリンダCWrに供給される(即ち、「Pj=Pm=Pwf、Pk=Pv=Pwr」)。また、
図4、5の調圧制御(特に、2系統調圧)の処理では、前輪、後輪目標摩擦制動力Fnf、Fnrの演算において、「Fqr≦Fx」の場合には「Fh=Fqr、Fnf=Fqf、Fnr=0」が決定される。これに対して、「Fqf>Fx」の場合には「Fh=Fx、Fnf=Fqf、Fnr=Fqr-Fx=Fqr-Fh」が決定される。そして、前輪、後輪目標摩擦制動力Fnf、Fnrが、前輪、後輪目標圧Ptf、Ptrに換算される(ここで、「Ptf≧Ptr」)。
【0095】
更に、
図4のブロック図において、下流側指示電流演算ブロックISK、及び、下流側偏差演算ブロックHPKには、前輪目標圧Ptfに代えて、後輪目標圧Ptrが入力される。つまり、下流側指示電流Iskは、後輪目標圧Ptr、及び、演算マップZskに基づいて決定され、下流側偏差演算ブロックHPKでは、後輪偏差hPrが「hPr=Ptr-Pv」にて演算される。そして、下流側補償電流演算ブロックIHKにて、後輪偏差hPrに基づいて、下流側補償電流Ihkが演算される。また、目標偏差演算ブロックSPTでは、目標差圧sPtが「sPt=Ptf-Ptr(≧0)」にて演算される。上流側偏差演算ブロックHPJには、後輪目標圧Ptrに代えて、前輪目標圧Ptfが入力される。従って、上流側偏差演算ブロックHPJでは、前輪偏差hPfは、「hPf=Ptf-Pm」にて演算される。そして、上流側補償電流演算ブロックIHJにて、前輪偏差hPfに基づいて、上流側補償電流Ihjが演算される。なお、1系統調圧の処理は、前輪、後輪回生車両で同じである。
【0096】
回生装置KG(=KGf、KGr)が前後輪WHf、WHrの両方に備えられる車両においては、それらの回生量の大小によって、上述した2つの構成のうちの何れか一方が採用される。具体的には、前輪回生装置KGfの回生量が、後輪回生装置KGfの回生量よりも大きい車両には、前輪回生車両の制動制御装置SCが適用される。逆に、前輪回生装置KGfの回生量が、後輪回生装置KGfの回生量よりも小さい車両には、後輪回生車両の制動制御装置SCが適用される。
【0097】
前輪、後輪回生車両に適用される制動制御装置SCの調圧部CAについてまとめる。調圧部CAでは、流体ポンプQAを含む制動液BFの循環流KNに、常開型の上流側、下流側調圧弁UJ、UKが直列に配置される。そして、上流側、下流側調圧弁UJ、UKによって、該流体ポンプQAが吐出する制動液BFの圧力が上流側、下流側サーボ圧Pj、Pkに調節される。2系統調圧では、上流側、下流側サーボ圧Pj、Pkのうちの一方側(「第1サーボ圧P1」という)がサーボ室Ruに供給されることによって、前輪供給圧Pmが、供給室Rmから前輪ホイールシリンダCWfに出力される。つまり、第1サーボ圧P1によって前輪供給圧Pmが調節され、前輪供給圧Pmによって前輪ホイール圧Pwfが調節される(液圧伝達は「P1→Pm→Pwf」の順である)。また、上流側、下流側サーボ圧Pj、Pkのうちの他方側(「第2サーボ圧P2」という)が、後輪供給圧Pvとして後輪ホイールシリンダCWrに出力される。つまり、第2サーボ圧P2によって後輪供給圧Pvが調節され、後輪供給圧Pvによって後輪ホイール圧Pwrが調節される(液圧伝達は「P2→Pv→Pwr」の順である)。
【0098】
2系統調圧では、第1、第2サーボ圧P1、P2が個別に調整されるが、1系統調圧では、第1、第2サーボ圧P1、P2は同じに調整される。つまり、第2サーボ圧P2に等しい第1サーボ圧P1によって前輪、後輪供給圧Pm、Pvが等しく調節される。そして、前輪、後輪供給圧Pm、Pvによって前輪、後輪ホイール圧Pwf、Pwrが等しく調節される。この液圧伝達は「(P1=P2)→(Pm=Pv)→(Pwf=Pwr)」の順である。但し、前輪供給圧Pmには摩擦抵抗分が含まれ、後輪供給圧Pvには摩擦抵抗分が含まれていないので、その分の差は発生している。なお、調圧部CAでの調圧状態は、2系統調圧、及び、1系統調圧のうちの何れか一方である。
【0099】
<他の実施形態>
以下、他の実施形態について説明する。他の実施形態においても、上記同様の効果(2系統調圧から1系統調圧への滑らかな調圧切り替え等)を奏する。
【0100】
上述の実施形態では、制動制御装置SCでは、前輪供給圧センサPMが、下部制動ユニットSB(特に、下部アクチュエータYB)に内蔵された。前輪供給圧センサPMは、上部制動ユニットSA(特に、上部アクチュエータYA)に内蔵されてもよい。しかし、前輪供給圧センサPMは、アンチロックブレーキ制御等の各輪独立制御に必要であるため、下部制動ユニットSBに内蔵される方が、装置全体の簡素化の点では有利である。加えて、前輪供給圧センサPMが、上部制動ユニットSAに内蔵されると、通信異常時に、各輪独立制御が実行できなくなる。この点においても、前輪供給圧センサPMが、下部制動ユニットSBに内蔵される方が有利である。
【0101】
上述の実施形態では、各種制動力の目標値(Fv、Fx、Fh、Fn等)が車両JVに作用する前後力の次元で演算された。これに代えて、車両JVの減速度の次元、或いは、車輪WHのトルクの次元で演算されてもよい。これは、前後力から車両減速度に至る状態量(「力に係る状態量」という)は、等価であることに基づく。従って、目標圧Ptf、Ptr、Pxは、車両JVに作用する前後力から車両JVの減速度に至るまでの力に係る状態量に基づいて演算される。
【0102】
上述の実施形態では、調圧部CAとして、流体ポンプQAが吐出する制動液BFの循環流KNを上流側、下流側調圧弁UJ、UKで絞ることによって前輪、後輪供給圧Pm、Pvを調節するもの(所謂、還流型の構成)が例示された。これに代えて、調圧部CAでは、アキュムレータに蓄圧された圧力を元に、前輪、後輪供給圧Pm、Pvが調節されてもよい(所謂、アキュムレータ型の構成)。また、電気モータで直接駆動されるピストンによって、シリンダ内の体積が増減されて、前輪、後輪供給圧Pm、Pvが調整されてもよい(所謂、電動シリンダ型の構成)。
【0103】
上述の実施形態では、アプライ部APにおいて、マスタ室Rmの受圧面積rm(マスタ面積)とサーボ室Ruの受圧面積ru(サーボ面積)とが等しく設定された。マスタ面積rmとサーボ面積ruとは等しくなくてもよい。マスタ面積rmとサーボ面積ruとが異なる構成では、サーボ面積ruとマスタ面積rmとの比率に基づいて、前輪供給圧Pmと下流側サーボ圧Pk(又は、上流側サーボ圧Pj)との変換演算が可能である(即ち、「Pm・rm=Pk・ru(又は、Pj・ru)」に基づく換算)。
【0104】
制動制御装置SCには、前輪、後輪供給圧Pm、Pvの伝達経路において、前輪供給圧Pmが作用する部位と後輪供給圧Pvが作用する部位との間が流体路(制動液BFの移動経路であり、「連通路」という)にて接続される。連通路には、常開型電磁弁(「連通弁」という)が設けられる。そして、2系統調圧の場合には、連通弁は閉弁され、連通路は遮断される。これにより、前輪、後輪供給圧Pm、Pvが個別に調節される。一方、1系統調圧の場合には、連通弁が開弁されて、前輪、後輪供給圧Pm、Pvに係る部位が連通状態にされる。これにより、前輪、後輪供給圧Pm、Pvが同一液圧で調節される。ここで、前輪、後輪供給圧Pm、Pvが作用する部位(「作用部位」という)として、前輪、後輪供給圧Pm、Pvの発生源、伝達経路(流体路、液圧室)等の部位が該当する。また、作用部位には、前輪、後輪供給圧Pm、Pvが直接作用する部位だけでなく、前輪、後輪供給圧Pm、Pvによって発生された力が、部材(例えば、マスタピストンNM)を介して作用する部位が含まれる。例えば、
図2に示す構成では、部位pj、pkが作用部位に相当し、上流側調圧弁UJが連通弁に相当する。ここで、部位pjには、後輪供給圧Pvが直接的に作用するが、部位pkには、前輪供給圧PmがマスタピストンNMを介して間接的に作用する。
【0105】
<実施形態のまとめ>
以下、制動制御装置SCの実施形態についてまとめる。制動制御装置SCは、制動要求量Bsに応じて前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrの液圧Pwf、Pwr(前輪、後輪ホイール圧)を独立で調整可能なブレーキバイワイヤ型の装置である。
【0106】
制動制御装置SCは、アプライ部AP、調圧部CA、コントローラEA、前輪供給圧センサPM、及び、後輪供給圧センサPVにて構成される。アプライ部APは、シリンダCM、及び、シリンダCMに挿入されるピストンNMによって仕切られる供給室Rm(マスタ室)、及び、サーボ室Ruを有する。ここで、供給室Rm、及び、サーボ室Ruは、シール部材SLによって封止されている。
【0107】
調圧部CAによって、第1、第2サーボ圧P1、P2が、電気的に調整される。例えば、第1、第2サーボ圧P1、P2は、電気モータを動力源にして発生される。第1サーボ圧P1は、サーボ室Ruに供給される。これにより、供給室Rmから前輪ホイールシリンダCWfに前輪供給圧Pmが出力される。つまり、第1サーボ圧P1によって前輪供給圧Pmが調整され、前輪供給圧Pmによって前輪ホイール圧Pwfが調整される。従って、前輪ホイール圧Pwfは、第1サーボ圧P1によって調整される。
【0108】
第2サーボ圧P2は、後輪供給圧Pvとして後輪ホイールシリンダCWrに直接出力される。つまり、第2サーボ圧P2によって後輪供給圧Pvが調整され、後輪供給圧Pvによって後輪ホイール圧Pwrが調整される。従って、後輪ホイール圧Pwrは、第2サーボ圧P2によって調節される。コントローラEAでは、第1、第2サーボ圧P1、P2を個別に調整する2系統調圧、及び、第1、第2サーボ圧P1、P2を同じに調整する1系統調圧のうちの何れか一方が選択される。前輪、後輪供給圧Pm、Pvは、前輪、後輪供給圧センサPM、PVによって検出される。
【0109】
コントローラEAでは、2系統調圧が選択される場合には、制動要求量Bsに基づいて前輪、後輪目標圧Ptf、Ptrが個別に演算される。そして、前輪、後輪供給圧Pm、Pvを前輪、後輪目標圧Ptf、Ptrに一致させるように調圧部CAが制御される。具体的には、前輪、後輪供給圧Pm、Pvが前輪、後輪目標圧Ptf、Ptrに一致するよう、第1、第2サーボ圧P1、P2が制御される。2系統調圧では、前輪目標圧Ptfと後輪目標圧Ptrとが異なるので、第1サーボ圧P1と第2サーボ圧P2とは異なるように調整される。結果、前輪供給圧Pmと後輪供給圧Pvとは異なり、前輪ホイール圧Pwfと後輪ホイール圧Pwrとは異なる。
【0110】
一方、1系統調圧が選択される場合には、共通目標圧Pxが演算される。共通目標圧Pxは、前輪、後輪目標圧Ptf、Ptrが等しくされ、更に、所定圧psが加算されることで決定される。そして、後輪供給圧Pvを共通目標圧Pxに一致させるように調圧部CAが制御される。具体的には、後輪供給圧Pvが共通目標圧Pxに一致するよう、第1、第2サーボ圧P1、P2が制御される。なお、所定圧psはシール部材SLの摺動抵抗に相当する所定値(定数)であり、予め設定されている。1系統調圧では、前輪目標圧Ptfと後輪目標圧Ptrとは等しいので、第1サーボ圧P1と第2サーボ圧P2とは等しく調整される。結果、前輪供給圧Pmと後輪供給圧Pvとは等しくなり、前輪ホイール圧Pwfと後輪ホイール圧Pwrとは等しくなる。但し、シール部材SLの摩擦抵抗分の差は存在する。
【0111】
第1サーボ圧P1は、前輪ホイールシリンダCWfに、シリンダCMとピストンNMとを介して、前輪供給圧Pmとして伝達される。一方、第2サーボ圧P2は、後輪ホイールシリンダCWrに、シリンダCMとピストンNMとを介さずに、後輪供給圧Pvとして直接伝達される。シリンダCMとピストンNMとは、シール部材SLにて封止されているので、前輪供給圧Pmにはシール部材SLの摺動抵抗分の影響が及んでいるが、後輪供給圧Pvにはそれが及ばない。
【0112】
制動制御装置SCでは、1系統調圧において、後輪供給圧Pvの信号が採用される。該構成では、2系統調圧から1系統調圧に切り替えられる場合(調圧切り替え時)に、前輪ホイール圧Pwfの変化(特に、低下)が発生する。これは、前輪ホイール圧Pwfの制御が、シール部材SLの摺動抵抗を含む前輪供給圧Pmによるものから、この摺動抵抗を含まない後輪供給圧Pvによるものに移行するためである。制動制御装置SCでは、1系統調圧の目標圧Px(共通目標圧)に、所定圧psが足されることで、摺動抵抗の影響が抑制される。これにより、調圧切り替え時に発生する前輪ホイール圧Pwfの変化が抑制される。
【0113】
調圧切り替えに際しては、前輪ホイール圧Pwfの変化が抑制されるが、後輪ホイール圧Pwrには変化が生じる。しかし、車両全体の制動力(結果、車両JVの減速度)においては、前輪制動力の影響は、後輪制動力の影響に比較して非常に大きい。従って、後輪ホイール圧Pwrの変化による後輪制動力の変化は車両全体への影響は軽微である。このため、車両全体としては、所定圧ps(例えば、シール部材SLの摺動抵抗に相当する値)が加算された共通目標圧Pxによって、2系統調圧から1系統調圧への切り替えが円滑に行われる。
【0114】
共通目標圧Pxに基づく調圧切り替えは、アンチロックブレーキ制御の実行が開始され、2系統調圧から1系統調圧に切り替えられる場合に、特に効果的である。これは、アンチロックブレーキ制御の実行開始は、一連の制動作動の過程で行われるので、運転者はホイール圧Pwの変化に気付き易いことが理由である。
【符号の説明】
【0115】
SC…制動制御装置、KG…回生装置、BP…制動操作部材(ブレーキペダル)、CW…ホイールシリンダ、SA、SB…上部、下部制動ユニット、YA、YB…上部、下部アクチュエータ(流体ユニット)、EA、EB…上部、下部コントローラ(制御ユニット)、BS…通信バス、CM…マスタシリンダ、NM…マスタピストン、SL…シール部材、AP…アプライ部、NR…入力部、CA…調圧部、UJ、UK…上流側、下流側調圧弁、MA…電気モータ、QA…流体ポンプ、VA…導入弁、VB…開放弁、SP…操作変位センサ、PM、PV…前輪、後輪供給圧センサ、PZ…シミュレータ圧センサ、Sp…操作変位、Pz…シミュレータ圧、Ba…制動操作量、Gs…要求減速度、Bs…制動要求量(Ba、Gsの総称)、Pm、Pv…前輪、後輪供給圧、Pj、Pk…上流側、下流側サーボ圧、P1…第1サーボ圧(例えば、Pj、Pkの一方側)、P2…第2サーボ圧(例えば、Pj、Pkの他方側)、Pwf、Pwr…前輪、後輪ホイール圧、Ptf、Ptr…前輪、後輪目標圧(Pm、Pvに対応する目標値)、Px…共通目標圧(「Ptf=Ptr」の場合のPm、Pvに対応する共通の目標値)、ps…所定圧(SLの摺動抵抗に相当する液圧)。