(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121263
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】加熱装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20230824BHJP
H05B 3/00 20060101ALI20230824BHJP
B60H 1/03 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
B60H1/22 611D
H05B3/00 310C
B60H1/03 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024506
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100166833
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 直子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 瑞季
【テーマコード(参考)】
3K058
3L211
【Fターム(参考)】
3K058AA01
3K058CA05
3K058CB02
3L211AA10
3L211AA11
3L211BA02
3L211BA32
3L211DA50
3L211EA83
3L211EA84
3L211GA49
3L211GA93
(57)【要約】
【課題】 瞬時のヒータ出力要求に応えることが可能な加熱装置を提供する。
【解決手段】 加熱装置10は、車両からの複数の電力消費要求に応じて発熱可能な電気抵抗素子11と、電気抵抗素子11を介して直列に接続された上層スイッチング素子121および下層スイッチング素子122と、上層スイッチング素子121を開状態にするための電荷を蓄積するブートストラップコンデンサ125と、上層スイッチング素子121及び下層スイッチング素子122の開閉を制御することで、電気抵抗素子11に対する導通・遮断制御を行う制御手段13と、を有し、制御手段13は、複数の電力消費要求がいずれもないと判断した場合に、上層スイッチング素子121を閉じ、下層スイッチング素子122を開いて、ブートストラップコンデンサ125に前記電荷を蓄積させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両からの複数の電力消費要求に応じて発熱可能な電気抵抗素子と、
前記電気抵抗素子を介して直列に接続された上層スイッチング素子および下層スイッチング素子と、
前記上層スイッチング素子を開状態にするための電荷を蓄積するブートストラップコンデンサと、
前記上層スイッチング素子及び前記下層スイッチング素子の開閉を制御することで、前記電気抵抗素子に対する導通・遮断制御を行う制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記複数の電力消費要求がいずれもないと判断した場合に、前記上層スイッチング素子を閉じ、前記下層スイッチング素子を開いて、前記ブートストラップコンデンサに前記電荷を蓄積させる、
ことを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記複数の電力消費要求は、第1電力消費要求と第2電力消費要求を含み、
前記第1電力消費要求は、前記車両の空調装置の制御に基づいて送信される、該空調装置における空気加熱としての電力の消費要求であり、
前記第2電力消費要求は、前記車両の回生装置および/または蓄電装置の制御に基づいて送信される要求であって、該回生装置が制動時に発生する回生電力が該蓄電装置における蓄電量を超える場合の余剰電力消費としての電力の消費要求であり、
前記制御手段は、前記第2電力消費要求があると判断した場合に、前記電気抵抗素子に通電して発熱させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記電気抵抗素子への通電を増加させる場合に、前記電気抵抗素子の消費電力の平均増加速度が大きくなるように、前記上層スイッチング素子及び前記下層スイッチング素子を開閉制御する高速スタート処理部と、
前記電気抵抗素子への通電を増加させる場合に、前記消費電力の前記平均増加速度が前記高速スタート処理部よりも小さくなるように、前記上層スイッチング素子及び前記下層スイッチング素子を開閉制御する低速スタート処理部と、を有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
少なくとも前記第2電力消費要求を受け付けた場合に、前記高速スタート処理部による制御を行う、
ことを特徴とする請求項3に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記制御手段は、
前記第2電力消費要求を受け付けた場合に、前記高速スタート処理部による制御を行い、
前記第1電力消費要求を受け付けた場合に、前記低速スタート処理部による制御を行う、
ことを特徴とする請求項3に記載の加熱装置。
【請求項6】
前記複数の電力消費要求を同期的に取得する要求取得手段を有し、
前記制御手段は、前記複数の電力消費要求にそれぞれ含まれる要求値のうち最大の要求値に基づき、前記電気抵抗素子を発熱させる、
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の加熱装置。
【請求項7】
前記制御手段は、或る電力消費要求に基づき前記開閉制御を実行している期間中に、該電力消費要求に含まれる要求値よりも大きい要求値を含む前記第2電力消費要求を受け付けた場合には、該大きい要求値を新たな目標消費電力として前記高速スタート処理部による制御を開始する、
ことを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の加熱装置。
【請求項8】
前記制御手段は、或る電力消費要求に基づき前記開閉制御を実行している期間中に、該電力消費要求に含まれる要求値よりも大きい要求値を含む前記第1電力消費要求を受け付けた場合には、該大きい要求値を新たな目標消費電力として前記低速スタート処理部による制御を開始する、
ことを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の加熱装置。
【請求項9】
前記第1電力消費要求には、スタート処理判定フラグが含まれ、該スタート処理判定フラグが高速スタートを示すものである場合には、前記制御手段は、前記高速スタート処理部による制御を実行する、
ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の加熱装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記電気抵抗素子に対する導通をPWM制御するようになっており、
前記高速スタート処理部は、前記電力消費要求に対応する目標デューティ比に短時間で到達する制御を実行するものであり、
前記低速スタート処理部は、前記電力消費要求に対応する目標デューティ比に、前記高速スタート処理部よりも長時間で到達する制御を実行するものである、
ことを特徴とする請求項3に記載の加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用の空気調和装置は、エンジン車、EV車、ハイブリッド車等に拘わらず、空調用熱交換器(ヒーターコア)を経由して循環する熱媒体を加熱する加熱装置(熱媒体加熱装置)を備えている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、特にEV車やハイブリッド車において、加熱装置のヒータを、空調装置における加熱器として機能させる空調用途と、回生により発生した回生電力を消費する負荷として機能させる回生用途として使用する車両用空調システムも知られている(例えば、特許文献2参照。)。具体的に、特許文献2に記載の車両用空調システムでは、高電圧ヒータを有する高電圧補機装置(加熱装置)が通信線を介して外部装置となるエアコン制御部(エアコンECU)と車両制御部(車両ECU)と接続され、高電圧補機装置は、外部装置から異なる複数の要求を取得したときに、取得した要求の調停を行う調停部を有している。この調停部は、エアコンECUから高電圧ヒータを空調用途で動作させる空調要求と、車両ECUから高電圧ヒータを回生用途で動作させる回生要求と、を取得したときに、両者の要求に含まれる指示値を合算したり、あるいは両者の要求に優先度を設けるなどして、取得した要求の調停を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-54145号公報
【特許文献2】特開2018-114943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の加熱装置においては、瞬時にヒータ出力が必要になった場合の対策が十分とは言えない問題があった。
【0006】
具体的に、例えば回生装置と蓄電装置を備える車両において、回生装置が生成する回生電力が蓄電装置の蓄電量を超えるような場合には、その余剰分の電力は、早期に(瞬時に)ヒータ出力として消費されることが望まれる。ヒータ出力は、最終的にはヒータに通電するスイッチング素子の制御により行われるところ、たとえ、ヒータの出力の要求(特許文献2の場合は回生要求)に優先度が設けられるなどしていても、スイッチング素子による電圧制御の開始が緩慢であると、瞬時の出力の要求に応えることができない問題がある。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、瞬時のヒータ出力の要求に応えることが可能な加熱装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両からの複数の電力消費要求に応じて発熱可能な電気抵抗素子と、前記電気抵抗素子を介して直列に接続された上層スイッチング素子および下層スイッチング素子と、前記上層スイッチング素子を開状態にするための電荷を蓄積するブートストラップコンデンサと、前記上層スイッチング素子及び前記下層スイッチング素子の開閉を制御することで、前記電気抵抗素子に対する導通・遮断制御を行う制御手段と、を有し、前記制御手段は、前記複数の電力消費要求がいずれもないと判断した場合に、前記上層スイッチング素子を閉じ、前記下層スイッチング素子を開いて、前記ブートストラップコンデンサに前記電荷を蓄積させる、ことを特徴とする加熱装置にかかるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の加熱装置によれば、瞬時のヒータ出力要求に応えることが可能な加熱装置を提供することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の加熱装置の構成を示す図であり、(A)概要ブロック図、(B)装置の構成の概略を示す平面図、(C)装置の構成の概略を示す側面図である。
【
図2】本発明の加熱装置における制御手段および駆動手段を抜き出して示す回路図である。
【
図3】本発明の加熱装置を説明する機能ブロック図である。
【
図4】本発明の加熱装置における電圧制御について説明する図であり、(A)~(D)は、この順に沿って、低速スタート処理部のプログラム処理周期を経た場合のデューティ比の変化を示す図、(E)は同低速スタート処理部による電気抵抗素子の出力(電力)の経時変化の一例を示す図、(F)、(G)は、この順に沿って、高速スタート処理部のプログラム処理周期を経た場合のデューティ比の変化を示す図、(H)は同高速スタート処理部による電気抵抗素子の出力(電力)の経時変化の一例を示す図、(I)~(J)は低速スタート処理部と高速スタート処理部が重畳した際の電気抵抗素子の出力(電力)の経時変化の一例を示す図である。
【
図5】先充電手段について説明する図であり(A)先充電をする場合の電圧制御とブートストラップコンデンサの電荷の蓄積状態を示す図であり、(B)先充電をしない場合の電圧制御とブートストラップコンデンサの電荷の蓄積状態を示す図である。
【
図6】本発明の加熱装置におけるヒータ制御処理の流れを示すフロー図である。
【
図7】本発明の加熱装置における電力消費要求に含まれる命令信号と、それらにもとづく加熱装置の状態の変化を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1~
図7は本発明を実施する形態の一例であって、図中、同一の符号を付した部分は同一構成を表わす。また、各図において一部の構成を適宜省略して、図面を簡略化する。また、各図において一部の構成について形状や寸法を適宜誇張して表現する。
【0012】
<加熱装置の全体構成>
図1は、本実施形態の加熱装置10を説明する図であり、
図1(A)は加熱装置10の概要を示すブロック図、同図(B)は加熱装置10の構成の概略を示す平面図、同図(C)は加熱装置10の構成の概略を示す側面図である。
【0013】
図1(A)に示すように本実施形態の加熱装置10は、車両用空調システムSの一部を構成する。加熱装置10は、車両用空調装置21における空調用熱交換器(ヒーターコア)を経由して循環する熱媒体Hmを加熱する熱媒体加熱装置である。本実施形態の加熱装置10が設置される車両は例えば、EV車やハイブリッド車であり、回生装置4を有し、回生装置4が制動時に発生する回生電力が蓄電装置6に蓄電されるように構成される。蓄電装置6は、加熱装置10に電力を供給するための直流電源となる。
【0014】
この車両空調システムにおいて、加熱装置10は、車両用空調装置21における車両内部の空気加熱として電力を消費する用途(空調用途)と、回生電力が蓄電装置6における蓄電量を超える場合の余剰電力を消費する用途(余剰電力消費用途)として使用される。
【0015】
つまり加熱装置10は、車両空調装置21の制御に基づいて送信される、車両空調装置21における空気加熱としての電力の消費要求(第1電力消費要求、以下「空調電力消費要求」ともいう。)と、車両の回生装置4および/または蓄電装置6の制御に基づいて送信される要求であって、回生装置4が制動時に発生する回生電力が蓄電装置6における蓄電量を超える場合の余剰電力消費としての電力の消費要求(第2電力消費要求、以下「余剰電力消費要求」ともいう。)を受け付け、これらの要求に基づき、熱媒体Hmを加熱する。
【0016】
第1電力消費要求は、空調用途として消費する電力量に対応する情報(第1要求値)を少なくとも含む要求信号であり、第2電力消費要求は、余剰電力消費用途として消費する電力量に対応する情報(第2要求値)を少なくとも含む要求信号である。
【0017】
図1(A)に示す例では、第1電力消費要求の送信元(第1要求送信手段)は、車両用空調装置21の制御部(ECU:Electronic Control Unit)であり、第2電力消費要求の送信元(第2要求送信手段)は、例えば、回生装置4および/または蓄電装置6の監視や制御を行う例えば充電制御装置22の制御部(ECU)であり、これらと加熱装置10は、有線あるいは無線の通信回線で接続される。
【0018】
空調装置21のECU(以下、空調ECU1)および充電制御装置22のECU(以下、充電ECU2)の詳細な図示は省略するが、それぞれ、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などのメモリと、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの不揮発性の記憶部と、通信制御部を含んでいる。CPU、メモリ、記憶部、および通信制御部は内部バスを介して互いに通信可能に接続されている。通信制御部は、加熱装置10と通信回線で接続されており、電力消費要求などの情報(信号)を加熱装置10に対して送信できるようになっている。
【0019】
図1(A)~同図(C)に示すように、加熱装置10は、例えば、電気抵抗素子11(11A、11B)と、電気抵抗素子11の駆動手段12と、制御手段(制御部)13と、要求取得手段14と不図示の各種センサなどを有する。電気抵抗素子11は、車両に搭載される計算機から送信される複数の電力消費要求に応じて通電により発熱し、加熱装置10のヒータを構成する。以下の説明や図面において「ヒータ」と記載する場合もあるが、これは電気抵抗素子11を意味する。
【0020】
電気抵抗素子11の駆動手段12(ヒータ駆動手段12)と、制御手段13と、要求取得手段14は電子部品として制御基板1上に配置される。制御手段13は、演算装置(例えば、CPU)や記憶手段(揮発性メモリ(RAM、ROM)や不揮発性記憶手段(HDD、SDD))などから構成される。制御手段13は、記憶手段に各種プログラムを保持するとともに該プログラムまたは各種演算を実行して加熱装置10の各部(各構成)を統括的に制御する。制御手段13は加熱装置10のECUであってもよい。
【0021】
要求取得手段14は、この例では空調ECU1および充電ECU2と通信を行う通信手段19を含み、空調ECU1および充電ECU2からの第1電力消費要求および第2電力消費要求、その他の各種要求を受け付ける手段である。
【0022】
詳細は後述するが、
図1(B)、同図(C)に示すようにヒータ駆動手段12はスイッチング素子121,122と、そのドライバ(
図1では不図示)などを含む。制御手段13は、スイッチング素子121,122の開閉を制御することで、電気抵抗素子11に対する導通・遮断制御を行う。
【0023】
電気抵抗素子11および制御基板1は、ケース2に収容され、ケース2にはその内部と外部を連通させるパイプ3が設けられる。パイプ3は、流入口3Aと流出口3Bを構成するように2本設けられ、その内部が熱媒体Hmの流通路となる。熱媒体Hmは、例えば水であるが、クーラントやオイルなどであってもよい。ケース2は、
図1(C)に示すようにヒータ収容凹部21をそれぞれに有する上側ケース2Aおよび下側ケース2Bからなり、これらを合わせることで形成されるヒータ収容空間22に、電気抵抗素子11が収容される。
【0024】
電力供給部5は、給電端子5Aを有し、給電端子5Aと制御基板1は配線(不図示)により接続される。電力供給部5には蓄電装置6の電力が供給される。電力供給部5への印加電圧は例えば120V~420Vである。
【0025】
このような構成により加熱装置10は、空調ECU1からの第1電力消費要求および/または充電ECU2からの第2電力消費要求に基づいて、蓄電装置6の電力を電気抵抗素子11に通電し、発熱させる。これにより当該発熱量分の電力が消費される。
【0026】
図2は、加熱装置10のヒータ駆動手段12および制御手段13の一例を抜き出して示す回路ブロック図である。
【0027】
ヒータ駆動手段(ヒータ駆動回路)12は例えば、上層スイッチング素子121と、下層スイッチング素子122と、上層ドライバ123と、下層ドライバ124と、上層コンデンサ125と下層コンデンサ126などを有する。
【0028】
上層スイッチング素子121および下層スイッチング素子122はいずれも例えば電圧駆動型のトランジスタである。より詳細には、低電位側の端子に対して正のゲート電圧を印加することでnチャネルが形成される絶縁ゲート型電界効果トランジスタであり、具体的には例えば、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)である。
【0029】
以下、説明の便宜上、上層スイッチング素子121を上層IGBT121,下層スイッチング素子122を下層IGBT122と称する。上層IGBT121及び下層IGBT122は、電気抵抗素子11を介して直列に接続する。上層IGBT121の高電位側端子(コレクタ)は、高圧電源131の正極に接続し、低電位側端子(エミッタ)と電気抵抗素子11の高電位側端子が接続する。また、電気抵抗素子11の低電位側端子と下層IGBT122の高電位側端子(コレクタ)が接続し、下層IGBT122の低電位側端子(エミッタ)は高圧電源131の負極に接続する。
【0030】
上層ドライバ123は、制御手段13から入力されるドライバ駆動信号に基づき、上層IGBT121のゲート端子に対してゲート-エミッタ間電圧を印加する回路である。また下層ドライバ124は、制御手段13から入力されるドライバ駆動信号に基づき、下層IGBT122のゲート端子に対してゲート-エミッタ間電圧を印加する回路である。
【0031】
上層ドライバ123の電源入力端子は、上層コンデンサ125を介してドライバ電源130に接続する。この上層コンデンサ125は、上層IGBT121を開状態(オン状態)にするための電荷を蓄積するブートストラップコンデンサである。下層ドライバ124の電源入力端子は下層コンデンサ126を介してドライバ電源130に接続する。
【0032】
制御手段13は、上層IGBT121及び下層IGBT122の開(オン)/閉(オフ)を制御することで、電気抵抗素子11に対する導通・遮断制御を行う。具体的に、制御手段13は、上層ドライバ123と下層ドライバ124のそれぞれのドライバ駆動信号入力端子に、タイミングを異ならせたパルス波形のドライバ駆動信号を供給する。上層ドライバ123は、そのドライバ駆動信号に同期して、上層IGBT121のゲートに、該上層IGBT121自身のゲート-エミッタ間電圧に高圧電源131の電圧を加えた電圧と同等のパルス波形の電圧を出力する。下層ドライバ124は、制御手段13から供給されるドライバ駆動信号に同期して、下層IGBT122のゲートに、ドライバ電源130の電圧と同等のパルス波形の電圧を出力する。
【0033】
これにより、上層IGBT121と下層IGBT122のそれぞれのチャネルが所定のタイミングで開(オン)/閉(オフ)する。上層IGBT121と下層IGBT122のオンが重なる期間に電気抵抗素子11が通電され、発熱により発熱量分の電力が消費される。
【0034】
なお、ヒータ駆動手段12は、上層IGBT121および下層IGBT122のオン/オフにより電気抵抗素子11の駆動(通電、停止)を行う回路であればよく、
図2に示す構成以外に、本実施形態の加熱装置10として電気抵抗素子11、上層IGBT121、下層IGBT122を正常に駆動する回路として既知の構成(例えば、ダイオードなど)を有している。
【0035】
<加熱装置の機能>
図3は、本実施形態の加熱装置10の機能について説明するブロック図である。既に述べたように、加熱装置10は、少なくとも空調電力消費要求(第1電力消費要求)と、余剰電力消費要求(第2電力消費要求)を受け付け、これらの要求に基づき、電気抵抗素子11を通電して熱媒体Hmを加熱する。
【0036】
ここで、特に余剰電力消費要求を受け付ける場合は、回生電力が蓄電装置6の蓄電量を超えている状態であるため、その要求値(第2要求値)の電力を速やかに消費することが望ましい。そこで本実施形態の加熱装置10は、要求される電力を速やかに消費するための複数の機能を有している。これら複数の機能とは具体的には、強制遮断機能、要求取得機能、要求判定機能、スタート処理判定機能、電力制御機能、先充電機能であり、これらの機能は
図1および
図2に示す加熱装置10の実体的な手段(制御基板1に設けられる電子部品(回路や素子)などのハードウェア)と、制御手段13が有するソフトウェア(プログラム)の実行により実現される。
【0037】
図3は、上記の機能を実現する手段の観点から加熱装置10を説明するブロック図であり、加熱装置10は例えば、強制遮断手段20と、要求取得手段14と、要求判定手段15と、スタート処理判定手段16と、電力制御手段17と、先充電手段18を有する。これらは例えば一または複数の制御基板1に配置される各種電子部品により実現され、制御手段13により統括的に制御される。すなわち、これらの手段の一部または全部には、制御手段13も含んでいる。
【0038】
<<強制遮断手段>>
強制遮断手段20は、強制遮断機能を実現するものであり、所定の条件(強制遮断条件)に基づき(これを判定し)、当該強制遮断条件が成立している場合には電気抵抗素子11による電力消費を強制的に禁止する手段である。強制遮断条件の成立とは、例えば、加熱装置10に異常が生じていることであり、具体的には、例えば、(1)保護・故障センサの検知があること、または(2)過電圧センサの故障検知が完了していないこと、である。加熱手段10は、制御基板1が電気抵抗素子11や上層IGBT121および下層IGBT122の許容温度以上になった場合には制御基板1において故障が発生していることを検知する保護・故障センサ(不図示)を有している。「保護・故障センサの検知」とは、電気抵抗素子11を安全に稼働できない状態を意味する。強制遮断手段20は上記(1)、(2)の少なくともいずれかに該当する場合には強制遮断条件が成立しているとして、電力消費要求の有無によらず、電気抵抗素子11による電力消費(ヒータ加熱)を強制的に禁止する。
【0039】
<<要求取得手段>>
要求取得手段14は、要求取得機能を実現するものであり、この例では空調ECU1および充電ECU2と通信を行う通信手段19を含み、空調ECU1からの第1電力消費要求および充電ECU2からの第2電力消費要求をはじめ、その他の各種要求を受け付ける受信手段である。要求取得手段14は、ほぼ同時に、複数の電力消費要求(ここでは、空調ECU1からの第1電力消費要求および充電ECU2からの第2電力消費要求)を取得可能である。より具体的には、例えば、制御手段13は、例えば、プログラムの処理周期(以下、プログラム処理周期)毎に割込み処理(ハードウェア割込み、および/またはソフトウェア割込み、あるいは外部割込み、および/またはタイマー割込み)を実行し、要求取得手段14によって複数の電力消費要求を取得させる。なお、要求取得手段14による割り込みは、プログラム処理周期毎に実行する場合に限定されず、複数回のプログラム処理周期を1単位として割り込むこともでき、これらを「割り込み周期」と定義できる。つまり複数の電力消費要求は、割込み周期に同期して、すなわち両者の要求が同期的(ほぼ同時)に取得される。
【0040】
第1電力消費要求および第2電力消費要求は、加熱装置10に対する制御命令であり、原則として加熱装置10の動作中は常時取得される。つまり、それぞれの実体的な電力消費の要求がない場合も「要求値がない」という要求(命令)が取得される。ここで「要求値がない」とは、例えば要求値が「最小要求閾値未満」であることをいい、最小要求閾値は、一例として200Wである。なお要求値は、実際の電気抵抗素子11の発熱量(消費電力)を示す(それぞれに対応した)情報であるが、本実施形態では、説明の便宜上、発熱量と同一の数値として説明する。
【0041】
要求取得手段14により、第1電力消費要求の送信元(第1要求送信手段、ここでは空調ECU1)と、第2電力消費要求の送信元(第2要求送信手段、ここでは充電ECU2)が別体の手段であっても、遅延や優先度による差が生じることなく、加熱装置10はほぼ同時かつ周期的に第1電力消費要求および第2電力消費要求を取得できる。
【0042】
<<要求判定手段>>
要求判定手段15は、要求判定機能を実現するものであり、要求取得手段14が取得した複数の電力消費要求に基づき、電力消費要求の実体的な有無を判定する。具体的には、複数の電力消費要求に含まれる要求値を比較し、最大の要求値を決定する。この例では、第1電力消費要求に含まれる第1要求値および第2電力消費要求に含まれる第2要求値を比較し、大きい方の要求値を決定して、当該要求値を実際の消費電力の目標値(目標消費電力G)に設定する。
【0043】
なお、実際の電力消費要求がない場合(要求値が最小要求閾値未満の場合)、例えば、第1要求値が「0(W)」に設定された第1電力消費要求が取得され、第2要求値が「10(W)」に設定された第2電力消費要求が取得された場合などはいずれも最小要求閾値未満であるので「電力消費要求がない」という判定になる。
【0044】
ここで、取得した複数の電力消費要求のそれぞれに「電力消費要求がある」場合であっても、上述の強制遮断条件が成立している場合には、強制遮断手段20により、電力消費は強制的に禁止される。
【0045】
つまり、本実施形態における「ヒータオフ」、すなわち電気抵抗素子11に通電がない状態とは、「要求値が最小要求閾値未満である」ことによりヒータオフになる場合と、強制遮断条件が成立していることによりヒータオフになる場合とがある。
【0046】
このように、本実施形態では要求判定手段15により、複数の電力消費要求のうち最大の要求値を目標消費電力Gに決定するため、複数の電力消費要求をほぼ同時に取得した場合に、例えば大きい要求値が小さい要求値に上書きされるなどして要求値(目標消費電力G)の不足が生じることを回避できる。
【0047】
<<スタート処理判定手段>>
スタート処理判定手段16は、スタート処理判定機能を実現するものであり、取得した電力消費要求に応じて、電気抵抗素子11への通電を増加(遮断状態からの場合は開始(通電されていない状態からの増加))をさせる場合の速さ(の程度)を判定・決定する手段である。
【0048】
電力制御手段17(制御手段13)は、高速スタート処理部171と、低速スタート処理部172とを有している。高速スタート処理部171は、電気抵抗素子11への通電を増加させる場合に、短時間で目標消費電力G(決定された要求値)に到達するように、上層IGBT121及び下層IGBTを開閉制御する手段である。また、低速スタート処理部172は、電気抵抗素子11への通電を増加させる場合に、高速スタート処理部171よりも長時間で目標消費電力G(決定された要求値)に到達するように、上層IGBT121子及び下層IGBT122を開閉制御する手段である。
【0049】
スタート処理判定手段16は、所定の判定条件に基づき、取得した電力消費要求に対し、高速スタート処理部171か、低速スタート処理部172のいずれで処理をするかを判定する。所定の判定条件は一例として、要求判定手段15により受け付けられた電力消費要求が第1電力消費要求(空調電力消費要求)の場合は、低速スタート処理部172で処理を行い、第2電力消費要求(余剰電力消費要求)の場合は、高速スタート処理部171で処理を行う、というものである。
【0050】
<<電力制御手段>>
電力制御手段17は、電力制御機能を実現するものであり、上層IGBT121及び下層IGBT122に印加する電圧の制御を行い、電気抵抗素子11に対する導通を制御する手段である。電力制御手段17は例えば、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)方式により電圧を制御する。つまり要求される電力に応じて、PWM制御により、上層IGBT121および下層IGBT122のそれぞれのゲートに印加する電圧を制御し、上層IGBT121および下層IGBT122の開閉を制御する。
【0051】
また、電力制御手段17には、例えば、高速スタート処理部171と低速スタート処理部172が含まれる。電力制御手段17は、スタート処理判定手段16の判定結果に基づき、受け付けた電力消費要求を、高速スタート処理部171あるいは低速スタート処理部172に振り分ける。
【0052】
高速スタート処理部171は、電気抵抗素子11への通電(消費電力)を増加させる場合、増加開始(PWM制御の開始)から短時間で目標消費電力Gに到達するか、又は、消費電力の増加速度が高速となるようにPWM制御パラメータを設定し、上層IGBT121及び下層IGBTを開閉制御する。また、低速スタート処理部172は、電気抵抗素子11への通電を増加させる場合に、増加開始から、高速スタート処理部171よりも長時間で目標消費電力Gに到達するか、又は、消費電力の増加速度が高速スタート処理部171よりも低速となるように、PWM制御パラメータを設定し、上層IGBT121子及び下層IGBT122を開閉制御する。
【0053】
図4は、例えば、1回の電力消費要求を取得(受付)し、それに基づくPWM制御を行うプログラム処理を1回のプログラム処理周期とした場合の、或る所定回数のプログラム処理周期(以下、「処理周期群」という)毎の高速スタート処理部171における制御と、低速スタート処理部172における制御の経時変遷の概要について示す図である。
図4(A)~同図(D)は、それぞれ例えば、800回のプログラム処理周期(800処理周期群)毎に、同図(A)から同図(D)に変化する状態、即ち、同図(A)から同図(D)まで合計2400回のプログラム処理周期の経時変遷を示した概念図であり、低速スタート処理部172におけるPWM制御の一例であってデューティ比の経時変化を示す図である。また
図4(E)は同図(A)から同図(D)に至る電気抵抗素子11における出力(電力)の経時変化の一例を示す図であり、横軸が時間T、縦軸が出力電圧Wを示す。
図4(F)、同図(G)は、プログラムの処理周期群(例えば、800処理周期群毎)で同図(F)から同図(G)に変化する状態、即ち、合計800回のプログラム処理周期の経時変遷を示した概念図であり、高速スタート処理部171におけるPWM制御の一例であってデューティ比の経時変化を示す図である。
図4(H)は、同図(F)から同図(G)に至る電気抵抗素子11における出力(電力)の経時変化の一例を示す図であって横軸が時間T、縦軸が出力電圧Wを示す。また同図(D)、同図(G)における「G´」は、上層IGBT121と下層IGBT122の重なり量であり、これらの面積の合計が設定された目標消費電力G(要求値)となる。そして、同図(D)における重なり量G´の面積の合計が同図(E)に示す高さであり目標消費電力Gである。同様に、同図(G)における重なり量G´の面積の合計が同図(H)に示す高さであり、目標消費電力Gである。また同図におけるIGBT1は上層IGBT121を示し、IGBT2は下層IGBT122を示す。
【0054】
同図(A)~同図(D)に示すように、本実施形態の電力制御手段17は、例えばPWM制御により上層IGBT121および下層IGBT122のそれぞれのゲートに印加する電圧を制御し、それぞれの開(オン)/閉(オフ)の比率(デューティ比)を経時的に変化させ、電気抵抗素子11への通電状態(流れる電流量)を制御する。電気抵抗素子11に流れる電流量が変化すると、電気抵抗素子11の発熱量が変化し、消費電力量が変化する。
【0055】
低速スタート処理部172は、1回のプログラム処理周期(例えば1.0msec)あたりのデューティ比の増加量(上昇量)、即ち、時間軸で考えた場合のデューティ比の平均増加速度を、後述する高速スタート処理部171よりも小さく設定する。結果、同図(A)~同図(D)に示すように、低速スタート処理部172は、高速スタート処理部171よりもデューティ比が少しずつ増加するように上層IGBT121及び下層IGBTをPWM制御し、電気抵抗素子11に対する導通を制御する。これにより、電気抵抗素子11の消費電力の平均増加速度が小さくなり(低速になり)、消費電力の増加開始(PWM制御の開始)から、受け付けた電力消費要求の要求値(重なり量G´、目標消費電力G)に対応する目標デューティ比Dmに到達するまでの時間が長時間となり、具体的には1秒以上(上記の例では、2400回×1.0sec=2.4sec)となる。以下、この低速スタート処理部172における制御を「低速スタート処理」という。この場合の電気抵抗素子11の出力(消費電力)は、同図(E)に示すように、低速スタート処理の開始SSから(PWM制御開始信号がオン(「H」)になってから)、デューティ比の変化量(上昇量)に応じてある角度(この角度は消費電力の平均増加速度を意味する)で傾斜しながら上昇し、目標消費電力Gに到達する。
【0056】
これに対し、高速スタート処理部171は、1回のプログラム処理周期(例えば1.0msec)あたりのデューティ比の増加量(上昇量)、即ち、時間軸で考えた場合のデューティ比の平均増加速度を、低速スタート処理部172よりも大きく設定する。結果、同図(F)、同図(G)に示すように、高速スタート処理部171は、低速スタート処理部172よりもデューティ比が大きく増加するように上層IGBT121及び下層IGBTをPWM制御し、電気抵抗素子11に対する導通を制御する。これにより、電気抵抗素子11の消費電力の平均増加速度が大きくなり(高速になり)、消費電力の増加開始(PWM制御の開始)から、受け付けた電力消費要求に含まれる要求値(重なり量G´設定された目標消費電力G)に対応する目標デューティ比Dmが、上述の低速スタート処理部172と同じ目標デューティ比Dmであると仮定した場合、これに到達するまでの時間は、低速スタート処理の場合よりも短時間となり、具体的には1秒未満(上記の例では、800回×1.0sec=0.8sec)となる。以下、この高速スタート処理部171における制御を「高速スタート処理」という。この場合の電気抵抗素子11の出力は、同図(H)に示すように、高速スタート処理の開始時点FSから(PWM制御開始信号がオン(「H」)になってから)、デューティ比の変化量(上昇量)に応じて、低速スタート処理部172よりも急峻角(この角度は消費電力の平均増加速度を意味する)で上昇し、目標消費電力Gに到達する。
【0057】
電力制御手段17では、例えば、電気抵抗素子11が通電していない状態(「電力消費要求がない」状態)で、新たに第2電力消費要求(余剰電力消費要求)を受け付けた場合(電気抵抗素子11への通電(消費電力量)を増加(開始)させる場合)には、高速スタート処理部171によって、電気抵抗素子11への通電(消費電力量)の増加開始から目標消費電力G(余剰電力消費要求の要求値)に到達するまでの電気抵抗素子11の消費電力の平均増加速度が大きくなるように制御される。
【0058】
一方、電気抵抗素子11が通電していない状態(「電力消費要求がない」状態)で、新たに第1電力消費要求(空調電力消費要求)を受け付けた場合(電気抵抗素子11への通電(消費電力量)を増加(開始)させる場合)には、低速スタート処理部172によって、電気抵抗素子11への通電(消費電力量)の増加開始(PWM制御の開始)から目標消費電力G(空調電力消費要求の要求値)に到達してデューティ比の上昇が終了するまでの電気抵抗素子11の消費電力の平均増加速度が、高速スタート処理部171よりも小さくなるように制御される。なお、低速スタート処理部172において、消費電力量の増加開始から目標消費電力Gに到達するまでの電気抵抗素子11の消費電力の平均増加速度は、例えば、従来既知の加熱装置において、空調用途としての電力消費をする場合の消費電力量の増加開始から目標消費電力Gに到達するまでの電気抵抗素子11の消費電力の平均増加速度と同等である。
【0059】
本実施形態の「デューティ比の平均増加速度」は、「消費電力量の増加開始(PWM制御の開始)時点から、設定された目標消費電力Gに対応する目標デューティ比Dmに到達してデューティ比の上昇が終了するまでの期間におけるデューティ比の増加速度の平均値」であり、一例としてプログラム処理周期当たりのデューティ比の増加量(上昇量)で設定する。具体的に、高速スタート処理では、例えば、PWM制御の開始から目標デューティ比Dmに到達するまで時間が所定時間(例えば、1秒から5秒など)より短くなることを前提として、例えば、プログラム処理周期が20.0msec以下となる条件において、処理周期当たりのデューティ比の増加量を1.0%以上とし、プログラム処理周期が10.0msec以下となる条件において、処理周期当たりのデューティ比の増加量を1.0%以上とすることが好ましく、更に、プログラム処理周期が5.0msec以下となる条件において、処理周期当たりのデューティ比の増加量を1.0%以上とすることが望ましく、一層好ましくは、プログラム処理周期が1.0msec以下となる条件において、処理周期当たりのデューティ比の増加量を1.0%以上とする。例えば、同処理周期が変動することも想定して、プログラム処理周期当たりのデューティ比の増加量を1.0%以上としておくようにする。これを高速スタート処理における平均デューティ比増加速度で換言すると、例えば、0.05%/msec以上であり、0.1%/msec以上が好ましく、更に0.2%/msec以上が望ましく、一層望ましくは1.0%/msec以上とする。なお、平均デューティ比増加速度は、処理周期とデューティ比の増加量の組み合わせにおいてこれらの速度になるように適宜選択される。
【0060】
同様の考え方で、低速スタート処理では、例えば、プログラム処理周期が1.0msec以上となる条件において、処理周期当たりのデューティ比の増加量を1.0%未満とし、プログラム処理周期が5.0msec以上となる条件において、処理周期当たりのデューティ比の増加量を1.0%未満とすることが好ましく、更に、プログラム処理周期が10.0msec以上となる条件において、処理周期当たりのデューティ比の増加量を1.0%未満とすることが望ましく、一層好ましくは、プログラム処理周期が20.0msec以上となる条件において、処理周期当たりのデューティ比の増加量を1.0%未満とする。例えば、プログラム処理周期が変動することも想定して、プログラム処理周期当たりのデューティ比の増加量を0.2%以下としておくようにする。これを低速スタート処理における平均デューティ比増加速度で換言すると、高速スタート処理における平均デューティ比増加速度未満の速度であり、例えば、0.2%/msec未満、あるいは0.1%/msec未満にすることが好ましく、更に0.05%/msec未満が望ましく、一層望ましくは0.02%/msec以下とする。
【0061】
なお、高速スタート処理の場合、プログラム処理周期当たりのデューティ比の増加量を1.0%以上、5%以上、10%以上などと変化させるようにしてもよい(低速スタート処理においても同様である)。
【0062】
目標消費電力Gは一例として、200W~10kWである。また、目標デューティ比Dmは、都度受け付ける電力消費要求により異なるが、加熱装置10として想定されているデューティ比の最大値(以下、「最大デューティ比」という。)は、目標消費電力G(要求値)が最大(例えば10kW)の場合のデューティ比である。
【0063】
このように、本実施形態では、余剰電力が生じた場合には、電気抵抗素子11の発熱により消費するため、効率よく確実に余剰電力を消費することができる。これに加え、余剰電力が生じた場合は電気抵抗素子11への出力電力の傾きを急峻に立ち上げ、余剰電力を早期に消費することができる。
【0064】
一方、例えば空調のための電量消費では、電気抵抗素子11への出力電力の傾きを余剰電力消費の場合よりも緩やか(従来通りの制御)とし、当該電力消費を加熱装置10に必要以上の負荷が係ることを防止できる。
【0065】
また目標消費電力Gに到達した後は、引き続き順次受け付けられる電力消費要求に基づき、電気抵抗素子11に印加する電圧をPWM制御し、電気抵抗素子11に対する通電を制御する。このようにして電気抵抗素子11は、発熱によって要求された電力を消費する。
【0066】
ところで制御手段13は、有る電力消費要求(例えば、第1電力消費要求)に基づき電力を消費している期間において、その要求値よりも大きい要求値を含む電力消費要求を受け付ける場合がある。その場合は、制御手段13は最新の(その時点で最大の)要求値に基づき、出力電力を増加させる。これは「電気抵抗素子11への通電を増加させる場合」である。つまり、制御手段13は、受け付けた最新の電力消費要求に基づき、スタート処理判定手段16によって高速スタート処理部171あるいは低速スタート処理部172のいずれで制御するかを判定し、いずれかの処理部によって上層IGBT121及び下層IGBTを開閉制御する。この場合、例えば最新の電力消費要求が第2電力消費要求であれば、高速スタート処理部171による制御となり、現状の消費電力と、最新の要求値に基づく新たな目標消費電力Gとの差分を、短時間で達成する(出力電力を急峻に立ち上げる)ような制御となる。
【0067】
すなわち、制御手段13は、複数の電力消費要求のうち或る(先の)電力消費要求(先の要求値)に基づき上層IGBT121及び下層IGBT122の開閉制御を実行している期間中に、当該先の要求値よりも大きい第2要求値(最新の要求値)を含む第2電力消費要求を受け付けた場合には、当該最新の要求値(第2要求値)を新たな目標消費電力Gとして高速スタート処理部171による制御を開始する。
【0068】
また、制御手段13は、複数の電力消費要求のうち或る(先の)電力消費要求(先の要求値)に基づき上層IGBT121及び下層IGBT122の開閉制御を実行している期間中に、当該先の要求値よりも大きい第1要求値(最新の要求値)を含む第1電力消費要求を受け付けた場合には、当該最新の要求値(第1要求値)を目標消費電力Gとして低速スタート処理部172による制御を開始する。
【0069】
再び
図4を参照して具体的に説明する。
図4(I),同図(J)は、或る電力消費要求に基づく出力(出力の増加1)を行っている期間に目標消費電力Gが増加(増加2)する場合の、電気抵抗素子11における出力(電力)の経時変化の一例を示す図である。
【0070】
図4(I)は、第1電力消費要求に基づく低速スタート処理が実行され、その開始(消費電力の増加開始)時点SSから第1要求値(先の要求値(目標消費電力G1))に基づく出力が行われている期間中において、第1要求値よりも大きい第2要求値(最新の要求値(目標消費電力G2))を含む第2電力消費要求を受け付けた場合の例である。この場合制御手段13は、高速スタート処理を実行しその開始(消費電力の増加開始)時点FSから第2要求値(目標消費電力G2)に基づく出力を行う。高速スタート処理の開始時点FSにおける要求値の増加量は、第2要求値(目標消費電力G2)と先の第1要求値(目標消費電力G1)の差分ΔGとなる。
【0071】
また
図4(J)は、第2電力消費要求に基づき高速スタート処理が実行され、その開始(消費電力の増加開始)時点FSから第2要求値(先の要求値(目標消費電力G2))に基づく出力が行われている期間中において、第2要求値よりも大きい第1要求値(最新の要求値(目標消費電力G1))を含む第1電力消費要求を受け付けた場合の例である。この場合制御手段13は、低速スタート処理を実行しその開始(消費電力の増加開始)時点SSから第1要求値(目標消費電力G1)に基づく出力を行う。低速スタート処理の開始時点SSにおける要求値の増加量は、第1要求値(目標消費電力G1)と先の第2要求値(目標消費電力G2)の差分ΔGとなる。
【0072】
図4(I)、
図4(J)は一例であり、最初の増加(増加1)における電力消費要求は、第1電力消費要求であってもよいし第2電力消費要求であってもよい。
【0073】
以上、電力制御手段17における電圧制御がPWM制御である場合を例示したが、これに限らず、例えば、パルスのオン(またはオフ時間)を一定にしてオフ時間(またはオン時間)を変化させて制御する、PFM(Pulse Frequency Modulation:パルス周波数変調)方式であってもよい。
【0074】
<<先充電手段>>
再び
図3を参照して、先充電手段18は、先充電機能を実現するものであり、強制遮断手段20により強制遮断条件が成立していると判定された場合、あるいは要求判定手段15により「複数の電力消費要求がいずれもない」と判定された場合に、上層IGBT121を閉じ(オフし)、下層IGBT122を開いて(オンして)、ブートストラップコンデンサ125に電荷を蓄積させる手段である。「複数の電力消費要求がいずれもない」とは、要求取得手段14が電力消費要求を所定周期で取得するものの、要求値が「0」(最小用要求値未満で「0」と見做される)場合である。この場合、上層IGBT121と下層IGBT122のオン時間の重なりは生じず、電気抵抗素子11は通電されない。
【0075】
先充電手段18は、電気抵抗素子11に通電がない期間において、連続して上層IGBT121がオフ、下層IGBT122がオンになるように制御し、その後に到来する「電力消費要求あり」の制御開始時における十分な電荷をブートストラップコンデンサ125に蓄積(先充電)させる。この「制御開始時における十分な電荷」とは、上層IGBT121が、目標デューティ比Dmを達成可能な期間中、確実にオン(略飽和領域での駆動、すなわちフルオン)することが可能なゲート電圧を生じさせ得る電荷である。より詳細には、PWM制御の開始直後に、最大デューティ比(例えば、94%)で、最初(1パルス目)から上層IGBT121をフルオン可能なゲート電圧を生じさせ得る電荷量(以下、「フルオン可能電荷量」という。)である。
【0076】
図5を参照してさらに説明する。同図は先充電手段18による先充電の有無を比較する概要図であり、いずれも高速スタート処理部171によって電気抵抗素子11における発熱(電力消費)が急峻に立ち上がる制御が開始されるタイミング付近の、上層IGBT121、下層IGBT122およびブートストラップコンデンサ125の状態を示すタイミングチャートである。
図5(A)は本実施形態の先充電手段18により先充電を行う場合の例であり、同図(B)は比較例であって、先充電を行わない場合の例である。
【0077】
図5(A)は上から、上層IGBT121の入力信号(上層ドライバ123が出力するパルス波形の電圧)、上層IGBT121のゲート電圧、上層IGBT121の閾値電圧、上層IGBT121のオン(H)/オフ(L)の状態、デューティ比、下層IGBT122の入力信号(下層ドライバ124が出力するパルス波形の電圧)、下層IGBT122のオン(H)/オフ(L)の状態、を示している。同図(B)は上から、上層IGBT121の入力信号(上層ドライバ123が出力するパルス波形の電圧)、上層IGBT121の閾値電圧、上層IGBT121のゲート電圧、上層IGBT121のオン(H)/オフ(L)の状態、デューティ比、下層IGBT122の入力信号(下層ドライバ124が出力するパルス波形の電圧)、下層IGBT122のオン(H)/オフ(L)の状態、を示している。なお
図5においては、上層IGBT121をIGBT1、下層IGBT122をIGBT2と略称する。
【0078】
上層IGBT121のゲート電圧は、ブートストラップコンデンサ125により生成されるものであり、ブートストラップコンデンサ125の電荷の蓄積量に対応する。また、デューティ比の面積(重なり量)は、電気抵抗素子11における出力に対応する。
【0079】
図5(A)を参照して、先充電手段18が「いずれの電力消費要求もない」と判断した場合、電気抵抗素子11が通電されていない期間T1(タイミングt1以前)において、先充電手段18は、下層IGBT122の入力信号(IGBT2入力信号)を「H」にして下層IGBT122をオン状態とし、上層IGBT121の入力信号(IGBT1入力信号)を「L」にして上層IGBT121をオフ状態として、ブートストラップコンデンサ125に電荷を蓄積させる。
【0080】
ブートストラップコンデンサ125に蓄積する電荷量は、フルオン可能電荷量である。制御手段13(先充電手段18)は、フルオン可能電荷量が蓄積されるまでの期間、上層IGBT121をオフ、下層IGBT122をオンの状態を維持する。また、その後もいずれの電力消費要求もない期間が続くと、ブートストラップコンデンサ125の電荷は放電される。したがって、制御手段13(先充電手段18)は、いずれの電力消費要求もない期間においては、少なくともフルオン可能電荷量の蓄積が維持できるように、上層IGBT121をオフ、下層IGBT122をオンの状態を維持する。これにより、いずれかの「電力消費要求があり」となった場合には、即時に上層IGBT121をフルオンさせることができ、早期に電力消費要求に応答可能となる。
【0081】
ブートストラップコンデンサ125としては、製品の使用に応じ、上層IGBT121のフルオン可能電荷量を蓄積可能な容量のものを適宜選択する。これにより、回路設計の自由度を高めることができる。
【0082】
この例では、タイミングt1は、制御手段13におけるPWM制御開始信号がオン(「H」となり、電力制御部17による高速スタート処理を開始したタイミングである。タイミングt1において上層IGBT121の入力信号(IGBT1入力信号)が「H」になると、上層IGBT121のゲートには、閾値電圧を超えるゲート電圧(ブートストラップコンデンサ125に蓄積されていたフルオン可能電荷量の電荷により生成される電圧)が印加される。これにより上層IGBT121はオン状態となり、下層IGBT122のオンと重畳する期間において電気抵抗素子11が通電される。なお、同図(A)では、1パルス目から目標デューティ比Dmで出力する場合を例示しているが、実際は、初期(1パルス目など)は僅かに目標デューティ比Dmより小さい。上層IGBT121のオンの継続によりブートストラップコンデンサ125の電荷が消費され、ゲート電圧は徐々に低下する。
【0083】
タイミングt2において下層IGBT122の入力信号が「L」になると、上層IGBT121がオン、下層IGBT122がオフとなり、電気抵抗素子11の通電が停止する。
【0084】
タイミングt3において下層IGBT122の入力信号(IGBT2入力信号)が「H」になると、下層IGBT122はオン状態となり、上層IGBT121のオンと重畳する期間において電気抵抗素子11が通電される。ブートストラップコンデンサ125は十分な電荷が蓄積されており、上層IGBT121のゲート電圧は徐々に低下するもののIGBT1入力信号が「H」の期間、閾値電圧を下回ることはなく、上層IGBT121のオンが継続する。
【0085】
タイミングt4においてIGBT1入力信号が「L」になると、上層IGBT121はオフとなり、下層IGBT122のオンの継続によりブートストラップコンデンサ125に電荷が蓄積される。
【0086】
タイミングt5において上層IGBT121の入力信号(IGBT1入力信号)が「H」になると、上層IGBT121はオン状態となり、下層IGBT122のオンと重畳する期間において電気抵抗素子11が通電される。
【0087】
タイミングt6において下層IGBT122の入力信号が「L」になると、上層IGBT121がオン、下層IGBT122がオフとなり、電気抵抗素子11の通電が停止する。タイミングt7でIGBT2入力信号が「H」になると下層IGBT122はオンとなり、電気抵抗素子11が通電される。以降、「電力消費要求がある」期間はこの制御を繰り返す。
【0088】
これに対し、
図5(B)に示す比較例は、先充電が行われない構成である。この場合、電力消費要求がなく、電気抵抗素子11が通電されていない期間T1では、ブートストラップ電圧125は(完全)放電状態であり、上層IGBT121の閾値電圧を上回るゲート電圧を生成できない。
【0089】
この状態でタイミングt8においてIGBT1入力信号が「H」になったとしても、上層IGBT121のゲートには、閾値電圧を超えるゲート電圧を印加することができず、上層IGBT121はオフのままとなる。
【0090】
タイミングt9においてIGBT2入力信号が「H」になると、下層IGBT122はオン状態となる。このタイミングで上層IGBT121はオフのままであり、電気抵抗素子11の通電は行われない。
【0091】
このとき、上層IGBT121がオフ、下層IGBT122がオンであるから、ブートストラップコンデンサ125に電荷が蓄積される状態ではあるが、このタイミングではIGBT1入力信号は「H」である。つまり上層IGBT121は、オンの入力信号は受けているものの電荷不足によりオンできない状態であり、仮に上層IGBT121の閾値電圧を生成可能な電荷量が蓄積されたとしても即座に上層IGBT121のオンによって消費される。つまり上層IGBT121は瞬間的にオン、その後オフになり、ブートストラップコンデンサ125には電荷が蓄積されにくい状態が続く。
【0092】
タイミングt10において、IGBT1信号が「L」になると、上層IGBT121は真のオフとなり、下層IGBT122がオンしていることから、ブートストラップコンデンサ125への電荷の蓄積が開始する。このような動作を繰り返し、ブートストラップコンデンサ125に蓄積される電荷は、緩やかな上昇率で増加しながら、所定時間経過後に、上層IGBT121のオンに十分な電荷の蓄積が可能となる。
【0093】
例えば、タイミングt11において閾値を超えるゲート電圧が生成できたとしても、ブートストラップコンデンサ125における電荷の蓄積が少ないうちは上層IGBT121のオン時間が継続せず、電気抵抗素子11を十分に通電させることができない(実際のデューティ比が目標デューティ比Dmに到達しない)。
【0094】
このように、先充電を行わない構成では、命令として高速スタート処理を行った場合であっても、実質的には電気抵抗素子11において十分な発熱を行えるようになるまで時間がかかり、処理の開始(タイミングt8)から遅延する。
【0095】
本実施形態では、電力消費要求の受付の待機中に、ブートストラップコンデンサ125に十分な充電を行うことができる。具体的には、先充電手段18は、上層IGBT121が、電力制御手段17における処理を開始した直後(PWM制御開始信号がオン(「H」)になった直後)の1パルス目からフルオンするのに十分な電荷を蓄積する。
【0096】
なお、この例では、高速スタート処理の前に先受電を行う場合を説明したが、先充電手段18は、低速スタート処理の前であっても先充電を行う。つまり、高速スタート処理部171における制御であるか、低速スタート処理部172における制御であるかを問わず、電力消費要求の受付の待機中に、ブートストラップコンデンサ125に十分な充電を行う。これにより、制御手段13が「電力消費要求がある」と判断した場合には即時(瞬時)に、高速スタート処理、または低速スタート処理を開始できる。
【0097】
<ヒータ制御処理>
図6を参照して、加熱装置10の制御手段13が実行する電気抵抗素子11(ヒータ)制御処理の一例について説明する。
図6は、ヒータ制御処理の流れを示すフロー図である。加熱装置10は動作の期間中、
図6に示すヒータ制御処理を繰り返し実行する。つまりこの例ではステップS01からステップS17までの周期(あるいは例えば、ステップS15の実行後、次のステップS15を実行するまでの周期)が上述のプログラム周期処理といえる。
【0098】
まず、ステップS01において、例えば、強制遮断手段20が異常検知の有無(強制遮断条件の成否)を判定する。具体的には、例えば、(1)保護・故障センサ検知があるか、および(2)過電圧センサの故障検知が未完了であるか、を判定する。強制遮断手段20は、保護・故障センサの検知がある場合(Yes)にはステップS19に進む。また、強制遮断手段20は、過電圧センサの故障検知が未完了の場合(Yes)もステップS19に進む。一方、強制遮断手段20は、保護・故障センサの検知がなく、且つ、過電圧センサの故障検知が完了している場合(No)は、ステップS03に進む。
【0099】
ステップS03では、要求取得手段14が周期的な割込み処理により、空調ECU1からの第1電力消費要求および充電ECU2からの第2電力消費要求を同期的(ほぼ同時)に取得する。第1電力消費要求および第2電力消費要求にはそれぞれ、要求値が含まれる。要求値は、目標消費電力Gに対応する値(情報)であり、実体的な電力の消費要求が無い場合であっても、消費要求が無いことを示す情報(例えば、「0」や、最小要求閾値未満の値など)が含まれる。つまり1回の割込み処理で、要求取得手段14は、少なくとも第1電力消費要求と第2電力消費要求を一対で取得するが、これに加えて他の要求(命令)を取得するものであってもよい。
【0100】
なお、ステップS01およびステップS03は、ほぼ同時に実行されてもよいし、ステップS01とステップS03の順番が入れ替わってもよい。
【0101】
ステップS05では、要求判定手段15が、第1電力消費要求と第2電力消費要求を正常に取得できているか否か、およびこれらに基づく実体的な電力消費要求の有無を判定する。
【0102】
要求判定手段15は、第1要求値および第2要求値のそれぞれと、予め設定されている最小要求閾値(例えば、200W)との比較を行い、第1要求値および第2要求値のいずれも最小要求閾値未満の場合には「電力消費要求がない」ものと判定し、例えば要求値「0」とみなす。要求値が最小要求閾値以上の場合には、空調ECU1または充電ECU2からの実体的な「電力消費要求がある」と判定する。
【0103】
本ステップS05により「電力消費要求がある」と判定された場合はステップS07に進み、「電力消費要求がない」と判定された場合は、ステップS19に進む。
【0104】
ステップS07では、例えば要求判定手段15が、第1電力消費要求に含まれる第1要求値および第2電力消費要求に含まれる第2要求値を比較し、大きい方の値を実際の要求値と決定し、当該実際の要求値を目標消費電力GとしてPWM制御のパラメータに設定する。
【0105】
ステップS09では、スタート処理判定手段16が所定の判定条件に基づき、取得した電力消費要求に対し、高速スタート処理部171/低速スタート処理部172のいずれで処理をするかを判定する。
【0106】
ここでは一例として、要求判定手段15により受け付けられた電力消費要求が、第2電力消費要求(余剰電力消費要求)の場合(Yes)は、高速スタート処理部171で処理を行うと判定し、ステップS11に進む。また、要求判定手段15により受け付けられた電力消費要求が第1電力消費要求(空調電力消費要求)の場合(No)は、低速スタート処理部172で処理を行うと判定し、ステップS13に進む。
【0107】
ステップS11では、高速スタート処理部171による制御を行う。高速スタート処理部171では、高速スタート処理用にPWM制御パラメータを設定する。PWM制御パラメータの一つとしては、電気抵抗素子11への通電を増加(例えば「0」から増加)させる場合に、短時間で目標消費電力Gに到達するように、上層IGBT121及び下層IGBTを開閉制御するパラメータである。具体的には、プログラム処理周期あたりのデューティ比の上昇量(増加量)の上限値として例えば15%~25%、好適には20%などである。この上昇量は、低速スタート処理部172におけるデューティ比の上昇量より大きい。
【0108】
高速スタート処理部171は、この上昇量に基づき、デューティ比を上昇させるようPWM制御パラメータを設定する。これにより、次のステップS15のPWM制御実行ステップにおいて、例えば所定周期(1周期)毎に、設定された上昇量(例えば、15%)でデューティ比が上昇し、低速スタート処理部172における制御よりも短時間で目標消費電力Gに到達する。
【0109】
ステップS13では、低速スタート処理部172による制御を行う。低速スタート処理部172では、低速スタート処理用にPWM制御パラメータを設定する。PWM制御パラメータの一つとしては、電気抵抗素子11への通電を増加(例えば「0」から増加)させる場合に、高速スタート処理部171での制御より長時間で目標消費電力Gに到達するように、上層IGBT121及び下層IGBTを開閉制御するパラメータである。具体的にはプログラム処理周期あたりのデューティ比の上昇量(増加量)の上限値として例えば0.12%~0.18%、好適には0.15%などである。
【0110】
低速スタート処理部172は、この上昇量に基づき、デューティ比を上昇させるようPWM制御パラメータを設定する。これにより、次のステップS15のPWM制御実行ステップにおいて、例えば所定周期(1周期)毎に、設定された上昇量(例えば、0.2%)でデューティ比が上昇し、高速スタート処理部171における制御よりも長時間で目標消費電力Gに到達する。
【0111】
ステップS15では、電力制御手段17(高速スタート処理部171または低速スタート処理部172)が、設定されたPWM制御パラメータに基づき、PWM制御開始信号のオン(「H」)を契機として電気抵抗素子11に印加する電圧のPWM制御を開始し、電気抵抗素子11に対する通電を制御する。このようにして電気抵抗素子11は、発熱によって要求された電力(目標消費電力G)を消費する。
【0112】
ステップS17では各種センサ値(例えば、現在の電気抵抗素子11の実際の消費電力(出力)など)を更新し、ステップS01に戻る。
【0113】
ステップS19は、電気抵抗素子11に対する電力消費要求が無い場合、すなわち電気抵抗素子11が通電していない期間の処理である。本ステップS19では、先充電手段18が、上層IGBT121をオフ状態、下層IGBT122をオン状態とし、ブートストラップコンデンサ125に、フルオン可能電荷量の電荷を蓄積する。
【0114】
<ヒータ制御処理の変形例>
図6に示す高速スタート処理の判定(ステップS09)では、第2電力消費要求(余剰電力消費要求)の場合には高速スタート処理部171による制御(ステップS11)とし、第1電力消費要求(空調電力消費要求)の場合には低速スタート処理部172による制御(ステップS13)と判定する例を説明した。
【0115】
しかしこれに限らず、所定のスタート処理判定フラグに基づき、高速スタート処理部171による制御と低速スタート処理部172による制御を振り分けるようにしてもよい。例えば、第1電力消費要求(空調電力消費要求)には、高速スタート処理を実行することを示す「高速フラグ」を設定可能とする。そして、高速スタート処理の判定(ステップS09)では、第1電力消費要求(空調電力消費要求)であっても、高速フラグが有効(オン、設定あり、「1」など)の場合には高速スタート処理部171による制御(ステップS11)と判定し、高速フラグが無効(オフ、設定なし、「0」など)の場合には低速スタート処理部172による制御(ステップS13)と判定してもよい。また、当該高速フラグを第2電力消費要求(余剰電力消費要求)にも設定可能とし、高速フラグによりステップS11とステップS13を振り分けるようにしてもよい。
【0116】
このような構成によれば、例えば外気温が低温になるなどして早期に車内の空気を加熱したい場合に、出力電力の傾きを急峻に立ち上げることができ、車室内の温度上昇を早めることができる。
【0117】
またこの場合も高速スタート処理部171による制御と低速スタート処理部172による制御を選択可能とする(高速スタート処理部171による制御のみにしない)ことで、加熱装置10に過大な負荷が係ることを防止できる。
【0118】
また、ステップS11および/またはステップS13におけるPWM制御パラメータの設定において、デューティ比の上昇量は、電力消費要求(要求値)と現在の電気抵抗素子11の実際の消費電力(センサ値)とを組み合わせて、都度決定するようにしてもよい。
【0119】
図7は、要求判定手段15が受け付けた、要求値が最大の電力消費要求に含まれる命令信号と、それらにもとづく加熱装置10の状態の変化を示すタイミングチャートの一例である。
【0120】
この例では、電力消費要求には「高速フラグ」が含まれ、「1」の場合は高速スタート処理部171による制御(出力が急峻に立ち上がる制御)を実行し、「0」の場合は低速スタート処理部172による制御(出力が緩やかな傾斜で立ち上がる制御)を実行する場合を示す。図中の「高速フラグ」および「要求値」は電力消費要求に含まれる命令信号の変化を示し、「PWM制御開始信号」、および「ヒータ消費電力」は、加熱装置10における制御(判定)の変化または出力の変化を示す。
【0121】
まずタイミングt12は、強制遮断条件が不成立であり、要求取得手段14が最初の1組の電力消費要求(第1電力消費要求または第2電力消費要求)を取得したタイミングである(
図6に示すステップS03)。要求値が大きい方の電力消費要求(の命令信号)には、要求値として要求電力の上限値(例えば、10kW)と、高速フラグとして「1」が含まれている。これにより、要求判定手段15は、「電力消費要求がある」と判定する。そして、目標消費電力Gに10kWを設定し、高速フラグ「1」(有効)を受け付ける(ステップS05,S07)。
【0122】
タイミングt13は、スタート処理判定手段16による判定を経て高速スタート処理部171での制御が決定し(ステップS11)、目標消費電力Gを10kW(目標デューティ比Dmを例えば94%、単位周期あたりのデューティ比の上昇量を例えば20%など)として、高速スタート処理部171でのPWM制御(ステップS15)が開始したタイミングである。タイミングt13はタイミングt12から最大で例えば4msec後に開始される。つまり、
図6に示すフローにおける消費電力要求の取得(ステップS03)からPWM制御実行(ステップS15)までは一例として最大で4msecである。
【0123】
その後、電力制御手段17(高速スタート処理部171)における制御によって、タイミングt14で目標消費電力Gに到達する。つまりこのタイミングで電気抵抗素子11は10kWで発熱している。高速スタート処理部171での制御開始(タイミングt13)から目標消費電力G(タイミングt14)に到達するまでの時間は、例えば、約200msecである。
【0124】
その後、タイミングt15までの期間、同じ内容の命令(要求値として10kWと、高速フラグとして「1」)の電力消費要求を繰り返し受け付ける。電力制御手段17の制御によって電気抵抗素子11は10kWでの発熱を継続する。なお、高速フラグは、要求値(目標消費電力G)が増加する場合に判定される。つまり電力消費要求に含まれていても、目標消費電力Gが増加しない場合(目標デューティ比Dmに達している場合)には、制御における影響はない。
【0125】
タイミングt15は、要求判定手段15において「電力消費要求がない」と判断されたタイミングである。これは例えば、要求取得手段14が取得した1組の電力消費要求の要求値がいずれも「0(最小要求閾値未満)」である場合である。タイミングt15では要求値が「0」となり、電気抵抗素子11の消費電力も0Wとなる。
【0126】
タイミングt16は、要求取得手段14が電力消費要求(第1電力消費要求または第2電力消費要求)を取得したタイミングである(
図6に示すステップS03)。要求値が大きい方の電力消費要求(の命令信号)には、要求値として10kWと、高速フラグとして「0」が含まれている。
【0127】
要求判定手段15は、当該「電力消費要求がある」と判定する。そして、目標消費電力Gに10kWを設定し、高速フラグ「0」(無効)を受け付ける(ステップS05,S07)。
【0128】
タイミングt17は、スタート処理判定手段16による判定を経て低速スタート処理部172での制御が決定し(ステップS13)、目標消費電力Gを10kW(目標デューティ比Dmを例えば94%、単位周期あたりのデューティ比の上昇量を例えば0.2%など)として、低速スタート処理部172でのPWM制御(ステップS15)が開始したタイミングである。タイミングt17もタイミングt16から最大で例えば4msec後に開始される。
【0129】
その後、電力制御手段17(低速スタート処理部172)での制御によって、タイミングt18で目標消費電力Gに到達する。つまりこのタイミングで電気抵抗素子11は10kWで発熱している。低速スタート処理部172での制御開始(タイミングt16)から目標消費電力G(タイミングt18)に到達するまでの時間は、例えば、約6secである。タイミングt19では再び要求値が「0」となり、電気抵抗素子11の消費電力も0Wとなる。
【0130】
以上、本実施形態の加熱装置10の一例について説明したが、
図3において説明した要求取得手段14と、要求判定手段15と、スタート処理判定手段16と、電力制御手段17と、先充電手段18は一例であり、上述の加熱装置10の要求取得機能、要求判定機能、スタート処理判定機能、電力制御機能、先充電機能を少なくとも実現可能な構成であればよい。例えば、これらのうち複数の手段(例えば、要求取得手段14と要求判定手段15や、スタート処理判定手段16と電力制御手段17など)が一の手段で構成されていてもよいし、一の手段(例えば、スタート処理判定手段16や、電力制御手段17など)が複数の手段に分割される構成などであってもよい。
【0131】
また、これらの手段のうちハードウェアの一部または全部がソフトウェアで構成されていてもよいし、その逆であってもよい。また、これらの手段は一の制御基板1上の電子部品等で実現される構成に限らず、複数の制御基板に設けられた電子部品等で構成されるものであってもよい。
【0132】
また、上記の実施形態では、第1電力消費要求の送信元(第1要求送信手段)および第2電力消費要求の送信元(第2要求送信手段)は、加熱装置10の外部装置となる空調ECU1、充電ECU2である場合を例示した。しかしこれに限らず、第1電力消費要求の送信元(第1要求送信手段)および/または第2電力消費要求の送信元(第2要求送信手段)は、加熱装置10に含まれる手段であってもよい。
【0133】
例えば、加熱装置10は、外部装置となる車両用空調装置からの情報を取得し、加熱装置10内部の第1要求送信手段において第1電力消費要求を生成し、加熱装置10の要求取得手段14に送信する構成であってもよい。同様に、加熱装置10は、外部装置となる車両制御部からの情報を取得し、加熱装置10内部の第2要求送信手段において第2電力消費要求を生成し、加熱装置10の要求取得手段14に送信する構成であってもよい。
【0134】
また、第1電力消費要求の送信元は車両用空調装置の制御部(空調ECU1)に限らず、他の装置の制御部(ECU)であってもよいし、第2電力消費要求の送信元は車両制御部(充電ECU2)に限らず他の装置の制御部(ECU)であってもよい。
【0135】
また、上層スイッチング素子121および下層スイッチング素子122は、IGBTに限らず、他の電圧駆動型のトランジスタであってもよい。例えば、電界効果トランジスタであってもよく、具体的には、エンハンスメント型のnチャネル絶縁ゲート型電界効果トランジスタ(例えば、MOSFET:metal-oxide-semiconductor field-effect transistor))であってもよい。
【0136】
また、電力制御手段17における電圧制御は、例えば、加熱装置10の使用開始時等に、両PWM制御とPFM制御を適宜選択し設定するようにしてもよいし、加熱装置10の動作中に両者を切り替えられる(都度選択)できるようにしてもよい。また、他の方式の電圧制御であってもよい。
【0137】
尚、本発明の加熱装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の加熱装置10は、車両の補機の分野に利用できる。
【符号の説明】
【0139】
1 制御基板
2 ケース
3 パイプ
4 回生装置
5 電力供給部
6 蓄電装置
10 加熱装置
11 電気抵抗素子
12 駆動手段(ヒータ駆動手段)
13 制御手段(制御部)
14 要求取得手段
15 要求判定手段
16 スタート処理判定手段
17 電力制御手段
18 先充電手段
19 通信手段
121 上層スイッチング素子
122 下層スイッチング素子
123 上層ドライバ
124 下層ドライバ
125 上層コンデンサ(ブートストラップコンデンサ)
126 下層コンデンサ
130 ドライバ電源
171 高速スタート処理部
172 低速スタート処理部
Dm 目標デューティ比
G 目標消費電力