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特開2023-121293酸化物超電導線材、接続構造体、酸化物超電導線材の製造方法、及び接続構造体の製造方法
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  • 特開-酸化物超電導線材、接続構造体、酸化物超電導線材の製造方法、及び接続構造体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121293
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】酸化物超電導線材、接続構造体、酸化物超電導線材の製造方法、及び接続構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/06 20060101AFI20230824BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230824BHJP
   H01R 4/68 20060101ALI20230824BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
H01B12/06
H01B13/00 565D
H01R4/68
C23C28/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024549
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】羽生 智
【テーマコード(参考)】
4K044
5G321
【Fターム(参考)】
4K044AA03
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA08
4K044BA12
4K044BB05
4K044BB06
4K044BC14
4K044CA13
4K044CA18
4K044CA44
4K044CA62
5G321AA02
5G321AA04
5G321CA18
5G321CA21
5G321CA24
5G321CA41
5G321CA50
5G321DB44
(57)【要約】
【課題】超電導層と保護層との間の界面抵抗を低減する酸化物超電導線材と、この酸化物超電導線材を備えた接続構造体とを提供する。この酸化物超電導線材を製造する方法と、この酸化物超電導線材を備えた接続構造体を製造する方法を提供する。
【解決手段】酸化物超電導線材は、基材10と、超電導層12と、保護層13と、を備える。保護層13は、超電導層12に接するとともに銀を含有する。超電導層12は、第1領域12Fと、第2領域12Sと、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の基材と、
前記基材の上方に設けられ、酸化物超電導体によって構成された超電導層と、
前記超電導層上に設けられ、前記超電導層に接するとともに銀を含有する保護層と、
を備え、
前記超電導層は、厚さ方向において前記基材の側に形成された第2領域と、前記保護層の側に形成された第1領域とから構成され、
前記第2領域の酸化物超電導体は所定の酸素濃度を有し、
前記第1領域の酸化物超電導体は前記第2領域の酸化物超電導体の酸素濃度よりも低い酸素濃度を有し、
前記第1領域の厚さは100nm以下である、
酸化物超電導線材。
【請求項2】
前記第2領域の酸化物超電導体は酸素濃度の分布が一様であり、前記第1領域の酸化物超電導体は前記基材から前記保護層に向かう方向において酸素濃度が減少する濃度勾配を有する、
請求項1に記載の酸化物超電導線材。
【請求項3】
前記超電導層と前記保護層との間の界面抵抗は、1×10-11Ωcm~1×10-9Ωcmの範囲内である、
請求項1又は請求項2に記載の酸化物超電導線材。
【請求項4】
前記保護層は、酸化銀を含有する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の酸化物超電導線材。
【請求項5】
前記保護層は、酸化銀層と、銀層とを有し、
前記酸化銀層は、前記銀層と前記超電導層との間に位置する、
請求項4に記載の酸化物超電導線材。
【請求項6】
第1酸化物超電導線材と、接続対象物とが接続された接続構造体であって、
前記第1酸化物超電導線材の厚さ方向において前記第1酸化物超電導線材及び前記接続対象物が部分的に重なる重なり部を有し、
前記第1酸化物超電導線材は、
テープ状の基材と、
前記基材の上方に設けられ、酸化物超電導体によって構成された超電導層と、
前記超電導層上に設けられ、前記超電導層に接するとともに銀を含有する保護層と、
を備え、
前記超電導層は、
厚さ方向において前記基材の側に形成された第2領域と、前記保護層の側に形成された第1領域とから構成され、
前記第2領域の酸化物超電導体は所定の酸素濃度を有し、
前記第1領域の酸化物超電導体は前記第2領域の酸化物超電導体の酸素濃度よりも低い酸素濃度を有し、
前記第1領域の厚さは100nm以下である、
接続構造体。
【請求項7】
前記第2領域の酸化物超電導体は酸素濃度の分布が一様であり、前記第1領域の酸化物超電導体は、前記基材から前記保護層に向かう方向において酸素濃度が減少する濃度勾配を有する、
請求項6に記載の接続構造体。
【請求項8】
前記超電導層と前記保護層との間の界面抵抗は、1×10-11Ωcm~1×10-9Ωcmの範囲内である、
請求項6又は請求項7に記載の接続構造体。
【請求項9】
前記保護層は、酸化銀を含有する、
請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の接続構造体。
【請求項10】
前記保護層は、酸化銀層と、銀層とを有し、前記酸化銀層は、前記銀層と前記超電導層との間に位置する、
請求項9に記載の接続構造体。
【請求項11】
酸化物超電導体によって構成された超電導層を基材の上方に形成し、酸化銀を含有する保護層を前記超電導層の直上に形成し、前記超電導層及び前記保護層を加熱することによって、前記保護層に含まれる前記酸化銀を銀に還元し、還元によって生じた酸素を前記超電導層に導入する、
酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項12】
前記酸化銀を含有する前記保護層を前記超電導層の直上に形成する際には、前記保護層の一部を構成する酸化銀層を前記超電導層の直上に形成し、その後、前記保護層の一部を構成する銀層を前記酸化銀層上に形成し、
前記超電導層及び前記保護層を加熱することによって、前記保護層に含まれる前記酸化銀層を銀に還元し、還元によって生じた酸素を前記超電導層に導入する、
請求項11に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項13】
前記酸化銀を含有する前記保護層を前記超電導層の直上に形成する際には、前記保護層の一部を構成する銀層を前記超電導層の直上に形成し、その後、前記保護層の一部を構成する酸化銀層を前記銀層上に形成し、
前記超電導層及び前記保護層を加熱することによって、前記保護層に含まれる前記酸化銀層を銀に還元し、還元によって生じた酸素を前記超電導層に導入する、
請求項11に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項14】
酸化物超電導体によって構成された超電導層を基材の上方に形成し、かつ、酸化銀を含有する保護層を前記超電導層の直上に形成することによって形成された酸化物超電導線材を準備し、
前記酸化物超電導線材に接続される接続対象物を準備し、
前記保護層と前記接続対象物を部分的に重ね合わせ、
前記酸化物超電導線材及び前記接続対象物を加熱することによって、前記酸化物超電導線材の厚さ方向に見て前記保護層と前記接続対象物との重なり部に対応する位置において、前記保護層に含まれる前記酸化銀を銀に還元し、還元によって生じた酸素を前記超電導層に導入する、
接続構造体の製造方法。
【請求項15】
前記超電導層の表面において、前記重なり部に相当する第1部分を規定し、
前記酸化銀を含有する前記保護層を前記超電導層の直上に形成する際には、前記保護層の一部を構成する酸化銀層を前記超電導層の前記第1部分上に形成し、
その後、前記保護層の一部を構成する銀層を前記酸化銀層上に形成し、
前記厚さ方向に見て前記第1部分上に形成された前記銀層と前記接続対象物とを重ね合わせ、
前記酸化物超電導線材及び前記接続対象物を加熱することによって、前記保護層の前記酸化銀層に含まれる前記酸化銀を銀に還元し、還元によって生じた酸素を前記超電導層に導入する、
請求項14に記載の接続構造体の製造方法。
【請求項16】
前記超電導層の表面において、前記重なり部に相当する第1部分を規定し、
前記酸化銀を含有する前記保護層を前記超電導層の直上に形成する際には、前記保護層の一部を構成する銀層を前記超電導層の前記第1部分上に形成し、
その後、前記保護層の一部を構成する酸化銀層を前記銀層上に形成し、
前記厚さ方向に見て前記第1部分上に形成された前記銀層と前記接続対象物とを重ね合わせ、
前記酸化物超電導線材及び前記接続対象物を加熱することによって、前記保護層の前記酸化銀層に含まれる前記酸化銀を銀に還元し、還元によって生じた酸素を前記超電導層に導入する、
請求項14に記載の接続構造体の製造方法。
【請求項17】
前記超電導層の表面において、前記重なり部に相当する第1部分を規定し、前記酸化銀を含有する前記保護層を前記超電導層の直上に形成する際には、前記保護層の一部を構成する銀層を前記超電導層の前記第1部分上に形成し、その後、前記保護層の一部を構成する酸化銀層を前記第1部分における前記銀層上に形成し、前記厚さ方向に見て前記第1部分上に形成された前記酸化銀層と前記接続対象物とを重ね合わせ、前記酸化物超電導線材及び前記接続対象物を加熱することによって、前記保護層の前記酸化銀層に含まれる前記酸化銀を銀に還元し、還元によって生じた酸素を前記超電導層に導入する、
請求項14に記載の接続構造体の製造方法。
【請求項18】
前記厚さ方向において、はんだを介在させて、前記酸化物超電導線材と前記接続対象物とを重ね合わせて接合する、
請求項14から請求項17のいずれか一項に記載の接続構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材、接続構造体、酸化物超電導線材の製造方法、及び接続構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基板と、中間層と、酸化物超電導体により形成された超電導層と、銀により形成された保護層と、を備えたテープ状の酸化物超電導線材が開示されている。保護層は、超電導層上に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-010833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では、超電導層と保護層との間の界面では、互いに異なる種類の材質である酸化物超電導体と銀とが接合されている。この場合、超電導層と保護層との間の界面抵抗が高いという問題がある。超電導層と保護層との間の界面抵抗が高い場合、2つの酸化物超電導線材が接続された接続構造体における接続抵抗が高くなるという問題がある。
【0005】
特許文献1に記載のテープ状の酸化物超電導線材の製造方法においては、基材の上方に超電導層をPLD法により形成した後、超電導層上に銀をスパッタ法により直接形成している。保護層を形成した後、酸素雰囲気中にて熱処理(酸素アニール処理)を行い、超電導層に酸素を導入している。
【0006】
このような製造方法により製造された酸化物超電導線材を鋭意検討した結果、本発明者は、以下の知見を得た。酸素アニール処理に起因して、超電導層を構成する酸化物超電導体から酸素が抜けてしまい、超電導層に高抵抗層が形成され、この結果、超電導層と保護層との間の界面抵抗が高くなる。
【0007】
さらに、本発明者は、テープ状の酸化物超電導線材同士を接続した接続構造体においても、超電導層と保護層との間の界面抵抗が高くなることに着目した。
具体的に、テープ状の酸化物超電導線材同士を接続した接続構造体を製造するには、一般的に、2つ酸化物超電導線材の端部同士を酸化物超電導線材の厚さ方向に重ね合わせ、はんだを介して接続している。酸化物超電導線材同士の接続構造体においては、一方の酸化物超電導線材の超電導層と、一方の酸化物超電導線材の銀保護層と、はんだと、他方の酸化物超電導線材の銀保護層と、他方の酸化物超電導線材の超電導層とが順に積層されている。
【0008】
このような接続構造体の製造に関し、本発明者は、2つの酸化物超電導線材の間における接続面積やはんだの厚さ等の条件を変えずに、はんだを溶融させる熱処理(接続加熱処理)の温度を変えて接続抵抗値を測定した。この結果、本発明者は、接続加熱処理の温度に応じて接続抵抗値が変動することを確認した。本発明者は、接続構造体を製造する接続加熱処理の温度に起因して、超電導層と保護層との間の界面抵抗が変動する可能性があるという知見を得た。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされ、超電導層と保護層との間の界面抵抗を低減する酸化物超電導線材と、この酸化物超電導線材を備えた接続構造体とを提供することを目的とする。さらに、本発明は、この酸化物超電導線材を製造する方法と、この酸化物超電導線材を備えた接続構造体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る酸化物超電導線材は、テープ状の基材と、前記基材の上方に設けられ、酸化物超電導体によって構成された超電導層と、前記超電導層上に設けられ、前記超電導層に接するとともに銀を含有する保護層と、を備え、前記超電導層は、厚さ方向において前記基材の側に形成された第2領域と、前記保護層の側に形成された第1領域とから構成され、前記第2領域の酸化物超電導体は所定の酸素濃度を有し、前記第1領域の酸化物超電導体は前記第2領域の酸化物超電導体の酸素濃度よりも低い酸素濃度を有し、前記第1領域の厚さは100nm以下である。
【0011】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材によれば、超電導層は、厚さ方向において基材の側に形成された第2領域と、保護層の側に形成された第1領域とから構成され、第2領域の酸化物超電導体は所定の酸素濃度を有し、第1領域の酸化物超電導体は第2領域の酸化物超電導体の酸素濃度よりも低い酸素濃度を有し、第1領域の厚さは100nm以下である。
これにより、酸素濃度の低い第1領域の厚さが小さくなる。すなわち、超電導層に形成される高抵抗層の厚さが小さくなる。したがって、超電導層と保護層との間の界面抵抗を小さくし、酸化物超電導線材における問題点を解決することができる。
【0012】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材は、前記第2領域の酸化物超電導体は酸素濃度の分布が一様であり、前記第1領域の酸化物超電導体は、前記基材から前記保護層に向かう方向において酸素濃度が減少する濃度勾配を有する。
【0013】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材は、前記超電導層と前記保護層との間の界面抵抗は、1×10-11Ωcm~1×10-9Ωcmの範囲内であってもよい。
【0014】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材は、前記保護層は、酸化銀を含有してもよい。
【0015】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材においては、前記保護層は、酸化銀層と、銀層とを有し、前記酸化銀層は、前記銀層と前記超電導層との間に位置してもよい。
【0016】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る接続構造体は、第1酸化物超電導線材と、接続対象物とが接続された接続構造体であって、前記第1酸化物超電導線材の厚さ方向において前記第1酸化物超電導線材及び前記接続対象物が部分的に重なる重なり部を有し、前記第1酸化物超電導線材は、テープ状の基材と、前記基材の上方に設けられ、酸化物超電導体によって構成された超電導層と、前記超電導層上に設けられ、前記超電導層に接するとともに銀を含有する保護層と、を備え、前記超電導層は、厚さ方向において前記基材の側に形成された第2領域と、前記保護層の側に形成された第1領域とから構成され、前記第2領域の酸化物超電導体は所定の酸素濃度を有し、前記第1領域の酸化物超電導体は前記第2領域の酸化物超電導体の酸素濃度よりも低い酸素濃度を有し、前記第1領域の厚さは100nm以下である。
【0017】
本発明の一態様に係る接続構造体によれば、超電導層は、厚さ方向において基材の側に形成された第2領域と、保護層の側に形成された第1領域とから構成され、第2領域の酸化物超電導体は所定の酸素濃度を有し、第1領域の酸化物超電導体は第2領域の酸化物超電導体の酸素濃度よりも低い酸素濃度を有し、第1領域の厚さは100nm以下である。
これにより、酸素濃度の低い第1領域の厚さが小さくなる。すなわち、超電導層に形成される高抵抗層の厚さが小さくなる。したがって、超電導層と保護層との間の界面抵抗を小さくし、接続構造体における問題点を解決することができる。
【0018】
本発明の一態様に係る接続構造体は、前記第1領域の酸化物超電導体は、前記基材から前記保護層に向かう方向において酸素濃度が減少する濃度勾配を有する。
【0019】
本発明の一態様に係る接続構造体は、前記超電導層と前記保護層との間の界面抵抗は、1×10-11Ωcm~1×10-9Ωcmの範囲内であってもよい。
【0020】
本発明の一態様に係る接続構造体においては、前記保護層は、酸化銀を含有してもよい。
【0021】
本発明の一態様に係る接続構造体においては、前記保護層は、酸化銀層と、銀層とを有し、前記酸化銀層は、前記銀層と前記超電導層との間に位置してもよい。
【0022】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る酸化物超電導線材の製造方法は、酸化物超電導体によって構成された超電導層を基材の上方に形成し、酸化銀を含有する保護層を前記超電導層の直上に形成し、前記超電導層及び前記保護層を加熱することによって、前記保護層に含まれる前記酸化銀を銀に還元し、還元によって生じた酸素を前記超電導層に導入する。
【0023】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材の製造方法によれば、酸化銀を含有する保護層及び超電導層を加熱することによって、酸化銀を銀に還元し、還元によって生じた酸素を超電導層に導入する。このため、酸素アニール処理によって超電導層から酸素が抜けたとしても、酸素が抜けた部分は、還元によって生じた酸素によって補完される。したがって高抵抗層の厚さが小さくなり、超電導層と保護層との間の界面抵抗が高くなる問題を解決することができる。
【0024】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材の製造方法は、前記酸化銀を含有する前記保護層を前記超電導層の直上に形成する際には、前記保護層の一部を構成する酸化銀層を前記超電導層の直上に形成し、その後、前記保護層の一部を構成する銀層を前記酸化銀層上に形成し、前記超電導層及び前記保護層を加熱することによって、前記保護層に含まれる前記酸化銀層を銀に還元し、還元によって生じた酸素を前記超電導層に導入してもよい。
【0025】
本発明の一態様に係る酸化物超電導線材の製造方法は、前記酸化銀を含有する前記保護層を前記超電導層の直上に形成する際には、前記保護層の一部を構成する銀層を前記超電導層の直上に形成し、その後、前記保護層の一部を構成する酸化銀層を前記銀層上に形成し、前記超電導層及び前記保護層を加熱することによって、前記保護層に含まれる前記酸化銀層を銀に還元し、還元によって生じた酸素を前記超電導層に導入してもよい。
【0026】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る接続構造体の製造方法は、酸化物超電導体によって構成された超電導層を基材の上方に形成し、かつ、酸化銀を含有する保護層を前記超電導層の直上に形成することによって形成された酸化物超電導線材を準備し、前記酸化物超電導線材に接続される接続対象物を準備し、前記保護層と前記接続対象物とを部分的に重ね合わせ、前記酸化物超電導線材及び前記接続対象物を加熱することによって、前記酸化物超電導線材の厚さ方向に見て前記保護層と前記接続対象物との重なり部に対応する位置において、前記保護層に含まれる前記酸化銀を銀に還元し、還元によって生じた酸素を前記超電導層に導入する。
【0027】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る接続構造体の製造方法は、酸化物超電導体によって構成された超電導層を基材の上方に形成し、かつ、酸化銀を含有する保護層を前記超電導層の直上に形成することによって形成された酸化物超電導線材を準備し、前記酸化物超電導線材に接続される接続対象物を準備し、前記保護層と前記接続対象物を部分的に重ね合わせ、前記酸化物超電導線材及び前記接続対象物を加熱することによって、前記酸化物超電導線材の厚さ方向に見て前記保護層と前記接続対象物との重なり部に対応する位置において、前記保護層に含まれる前記酸化銀を銀に還元し、還元によって生じた酸素を前記超電導層に導入する。
【0028】
本発明の一態様に係る接続構造体の製造方法によれば、酸化銀を含有する保護層及び超電導層を加熱することによって、酸化銀を銀に還元し、還元によって生じた酸素を超電導層に導入する。このため、接続加熱処理によって超電導層から酸素が抜けたとしても、酸素が抜けた部分は、還元によって生じた酸素によって補完される。したがって高抵抗層の厚さが小さくなり、超電導層と保護層との間の界面抵抗が高くなる問題を解決することができる。
【0029】
本発明の一態様に係る接続構造体の製造方法は、前記超電導層の表面において、前記重なり部に相当する第1部分を規定し、前記酸化銀を含有する前記保護層を前記超電導層の直上に形成する際には、前記保護層の一部を構成する酸化銀層を前記超電導層の前記第1部分上に形成し、前記厚さ方向に見て前記第1部分上に形成された前記酸化銀層と前記接続対象物とを重ね合わせ、前記酸化物超電導線材及び前記接続対象物を加熱することによって、前記保護層の前記酸化銀層に含まれる前記酸化銀を銀に還元し、還元によって生じた酸素を前記超電導層に導入してもよい。
【0030】
本発明の一態様に係る接続構造体の製造方法は、前記超電導層の表面において、前記重なり部に相当する第1部分を規定し、前記酸化銀を含有する前記保護層を前記超電導層の直上に形成する際には、前記保護層の一部を構成する酸化銀層を前記超電導層の前記第1部分上に形成し、その後、前記保護層の一部を構成する銀層を前記酸化銀層上に形成し、前記厚さ方向に見て前記第1部分上に形成された前記銀層と前記接続対象物とを重ね合わせ、前記酸化物超電導線材及び前記接続対象物を加熱することによって、前記保護層の前記酸化銀層に含まれる前記酸化銀を銀に還元し、還元によって生じた酸素を前記超電導層に導入してもよい。
【0031】
本発明の一態様に係る接続構造体の製造方法は、前記超電導層の表面において、前記重なり部に相当する第1部分を規定し、前記酸化銀を含有する前記保護層を前記超電導層の直上に形成する際には、前記保護層の一部を構成する銀層を前記超電導層の前記第1部分上に形成し、その後、前記保護層の一部を構成する酸化銀層を前記第1部分における前記銀層上に形成し、前記厚さ方向に見て前記第1部分上に形成された前記酸化銀層と前記接続対象物とを重ね合わせ、前記酸化物超電導線材及び前記接続対象物を加熱することによって、前記保護層の前記酸化銀層に含まれる前記酸化銀を銀に還元し、還元によって生じた酸素を前記超電導層に導入してもよい。
【0032】
本発明の一態様に係る接続構造体の製造方法は、前記厚さ方向において、はんだを介在させて、前記酸化物超電導線材と前記接続対象物とを重ね合わせて接合してもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明の上記態様によれば、超電導層と保護層との間の界面抵抗を低減する酸化物超電導線材と、この酸化物超電導線材を備えた接続構造体とを提供することができる。本発明の上記態様によれば、この酸化物超電導線材を製造する方法と、この酸化物超電導線材を備えた接続構造体を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の第1実施形態に係る酸化物超電導線材を模式的に示す拡大断面図である。
図2】本発明の第1実施形態の変形例に係る酸化物超電導線材を示す拡大断面図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る接続構造体を模式的に示す拡大断面図である。
図4】本発明の第2実施形態の変形例に係る接続構造体を模式的に示す拡大断面図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る接続構造体を模式的に示す拡大断面図であって、接続構造体の製造方法を説明する図である。
図6】本発明の第3実施形態に係る接続構造体を模式的に示す拡大断面図であって、接続構造体の製造方法を説明する図である。
図7】本発明の第4実施形態に係る接続構造体を模式的に示す拡大断面図であって、接続構造体の製造方法を説明する図である。
図8】本発明の第5実施形態に係る接続構造体を模式的に示す拡大断面図であって、接続構造体の製造方法を説明する図である。
図9】比較例を説明するグラフである。
図10】本発明の実施例を説明するグラフである。
図11】本発明の実施例を説明するための図であって、酸化物超電導線材がブリッジ接続された構造グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態に係る酸化物超電導線材、接続構造体、酸化物超電導線材の製造方法、及び接続構造体の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。説明で用いる図面は、本発明の特徴を分かりやすくするため、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0036】
以下の説明において参照される図面においては、3次元直交座標系に相当するX方向、Y方向、及びZ方向が示されている(符号X、Y、Z)。X方向は、酸化物超電導線材の幅方向に対応している。Y方向は、酸化物超電導線材が延在する延在方向に対応している。Z方向は、酸化物超電導線材の厚さ方向又は接続構造体の厚さ方向に対応している。
【0037】
(第1実施形態)
(酸化物超電導線材1の構成)
第1実施形態に係る酸化物超電導線材について図1を参照して説明する。
本実施形態に係る酸化物超電導線材1は、基材10と、基材10上に設けられた中間層11と、中間層11上に設けられた超電導層12と、超電導層12上に設けられた保護層13と、保護層13上に設けられた安定化層14とを備える。酸化物超電導線材1は、基材10、中間層11、超電導層12、保護層13、及び安定化層14を覆う絶縁被覆層を備えてもよい。
【0038】
酸化物超電導線材1の高さ、すなわち、基材10の下面から保護層13の上面までの長さ(図1のZ方向における長さ)は、例えば、80μmである。
酸化物超電導線材1の幅、すなわち、酸化物超電導線材1の左端から右端までの長さ(図1のX方向における長さ)は、例えば、12mmである。
【0039】
(基材10)
基材10は、テープ状の金属基板である。金属基板を構成する金属の具体例として、ハステロイ(登録商標)に代表されるニッケル合金、ステンレス鋼、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni-W合金などが挙げられる。
【0040】
(中間層11)
中間層11は、多層構成を有してよく、例えば、基材10から超電導層12に向かう順で、拡散防止層、ベッド層、配向層、キャップ層等を有してもよい。これら複数の層が中間層11に設けられている構造において、各層の数は、1つに限定されない。中間層11を構成するこれら複数の層のうちの一部の層が省略されてもよい。さらに、同種の層が2以上繰り返して積層された構造が採用されてもよい。中間層11は、金属酸化物であってもよい。配向性に優れた中間層11の上に超電導層12を成膜することにより、配向性に優れた超電導層12を得ることが容易になる。
【0041】
(超電導層12)
超電導層12は、超電導状態の時に電流を流す機能を有する。
超電導層12は、酸化物超電導体によって構成され、保護層13と接するように設けられている。
具体的に、超電導層12に用いられる材料としては、特に限定されないが、例えば、一般式REBaCu(RE123)で表されるRE-Ba-Cu-O系酸化物超電導体(REBCO系酸化物超電導体)が挙げられる。希土類元素REとしては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種又は2種以上が挙げられる。中でも、Y、Gd、Eu、Smの1種か、又はこれら元素の2種以上の組み合わせが好ましい。一般に、Xは、7-x(酸素欠損量x:約0~1程度)である。
【0042】
この酸化物超電導体の母物質は絶縁体であるが、酸素アニール処理により酸素を取り込むことで酸化物超電導体となり、超電導特性を示す性質を持つ。
【0043】
超電導層12は、超電導層12の厚さ方向において、基材10の側に形成された第2領域12Sと、前記保護層の側に形成された第1領域12Fとの2つの層から構成される。第2領域12Sの酸化物超電導体および第1領域12Fの酸化物超電導体は、それぞれ固有の酸素濃度を有しており、第2領域12Sの酸化物超電導体は所定の酸素濃度である。他方、第1領域12Fの酸化物超電導体の酸素濃度は、第2領域12Sの酸化物超電導体の酸素濃度よりも低い。
【0044】
超電導層12の厚さ方向の酸素濃度プロファイルにおいて、第2領域12Sの酸化物超電導体は厚さ方向の位置によらず均一で一様な酸素濃度分布を持つ。一方、第1領域12Fの酸化物超電導体は、基材10の側から超電導層12と保護層13との界面BFにかけて酸素濃度が漸減する濃度勾配を有する。例えば、第2領域12Sにおける酸素の濃度を100%とすると、第1領域12Fの厚さ方向において第2領域12Sとの境界における酸素濃度は第2領域12Sの酸素濃度と略同一(≒100%)であり、保護層13との界面BF近傍における酸素濃度は約20%である。第1領域SFの厚さは、例えば、100nm以下であると良く、50nm、20nm、であってもよい。超電導層12と保護層13との間の界面BFにおける界面抵抗は、1×10-11Ωcm~1×10-9Ωcmの範囲内であるとよい。
【0045】
(保護層13)
保護層13は、超電導層12上に設けられ、超電導層12に接している。
保護層13は、酸化物超電導線材1への通電時において、何らかの事故により発生する過電流が流れるバイパス経路として機能する電流路となる。保護層13は、銀(Ag)または銀合金から構成される。
【0046】
保護層13の構成に関し、酸素雰囲気中において酸化物超電導線材1に対して酸素アニール処理(酸素雰囲気における熱処理)を行う前と後では、保護層13における酸化銀の含有量が変化している。
具体的に述べると、本実施形態では、酸化物超電導線材1の製造方法においては、基材10の上方に超電導層12を形成した後、酸化銀を含む保護層13をスパッタ法により超電導層12上に直接形成している。その後、酸素雰囲気中において酸化物超電導線材1に対して酸素アニール処理を行い、超電導層12に酸素を導入している。
【0047】
このとき、酸素アニール処理前の状態における保護層13の酸化銀が銀に還元されるという還元反応が生じる。還元反応によって生じた酸素の一部又は全てが、酸素アニール処理に伴って超電導層12に導入される。つまり、酸素アニール処理後の状態において、保護層13の酸化銀の全てが銀に還元されず、保護層13に酸化銀が残留してもよい。その一方、酸素アニール処理後の状態において、保護層13の酸化銀の全てが銀に還元されることで、保護層13に酸化銀が残留していなくてもよい。
【0048】
(安定化層14)
安定化層14の材料としては、銅、Cu-Zn合金(黄銅)、Cu-Ni合金等の銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス等の材質が選択される。
安定化層14は、複数の層から構成されてもよい。また、安定化層14は、金属めっきにより形成されてもよいし、基材10から保護層13までの層を含む積層体の全体をめっき層で覆う構造を有してもよい。
【0049】
(酸化物超電導線材1の製造方法)
まず、テープ状の金属基板である基材10を準備する。次に、基材10上に中間層11を形成する。中間層11を形成する方法としては、例えば、IBAD成膜法が用いられる。
さらに、酸化物超電導体によって構成された超電導層12を中間層11上に形成する。超電導層12を形成する方法としては、例えば、PLD法が用いられる。
【0050】
次に、保護層13を超電導層12の直上に形成する。本発明においては、保護層13を形成する方法としては、酸化銀のターゲットを用いたスパッタ法が用いられる。ここで、酸化銀としては、例えば、AgO、AgO、AgO及びAgOの混合物が挙げられる。本実施形態では、AgOが用いられている。保護層13に含まれる酸化銀の含有量(濃度)の調整は、複数種類の酸化銀ターゲットの中から選択することで行われる。
【0051】
その後、酸素雰囲気中において、基材10上に積層された中間層11、超電導層12、及び保護層13に対して酸素アニール処理を施す(酸素雰囲気における熱処理)。酸素アニール処理を施すことによって、酸素が保護層13を透過し、超電導層12に酸素が導入される。この他、酸素アニール処理において保護層13の酸化銀が銀に還元され、還元によって生じた酸素も超電導層12に導入される。上述した製造方法を経て、図1に示す酸化物超電導線材1が得られる。酸素アニール処理は、酸素雰囲気または大気中において300~1000℃の加熱を行うことで実施できる。
【0052】
酸素アニール処理においては、酸化銀から銀への還元反応に関しては、保護層13の酸化銀の全てが銀に還元されてもよいし、保護層13の酸化銀の一部が銀に還元されてもよい。酸化銀から超電導層12への酸素の導入に関しては、保護層13の酸化銀の酸素の全てが超電導層12に導入されてもよいし、保護層13の酸化銀の酸素の一部が超電導層12に導入されてもよい。
【0053】
このような酸化銀から超電導層12への酸素の導入量の調整、及び、酸化銀から銀への還元反応の制御は、例えば、保護層13における酸化銀の含有量を調整や酸素アニール処理条件を調整することで行われる。また、保護層13の層構成として、酸化銀の含有量が低い或いは酸化銀を含有しない銀層と、酸化銀を含有する酸化銀層との積層構造を採用することで、酸化銀から超電導層12への酸素の導入量を調整したり、酸化銀から銀への還元反応を制御したりすることができる。
【0054】
このような酸化物超電導線材1の製造方法により、超電導層12の第2領域12Sにおける酸素の濃度に対して、第1領域12Fにおける酸素の濃度が低く、第1領域12Fの厚さが100nm以下となる。また、第1領域12Fにおいては、基材10の側から超電導層12と保護層13との界面BFにかけて酸素濃度が漸減するという酸素濃度プロファイルが得られる。界面BFにおける界面抵抗は、1×10-11Ωcm~1×10-9Ωcmの範囲内となる。
【0055】
次に、以上のように構成された酸化物超電導線材1の作用及び効果について説明する。
本実施形態によれば、保護層13を構成する銀層を単に超電導層12に積層して酸素アニール処理を施すのではなく、酸化銀を含有する保護層13を超電導層12に積層して酸素アニール処理を施している。これにより、酸化銀を銀に還元し、還元によって生じた酸素を超電導層12に導入することができる。このため、酸素アニール処理によって超電導層から酸素が抜けたとしても、酸素が抜けた部分は、酸化銀の還元によって生じた酸素によって補完される。さらに、第1領域12Fは、厚さが100nm以下となるため、高抵抗層の厚さが小さくなり、超電導層12と保護層13との間の界面抵抗の低減に寄与する。
【0056】
本実施形態に係る酸化物超電導線材1においては、超電導層12と保護層13との間の界面抵抗は、1×10-11Ωcm~1×10-9Ωcmの範囲内であるので、低抵抗な酸化物超電導線材1を実現することができる。
【0057】
(第1実施形態の変形例)
以下、第1実施形態の複数の変形例については、第1実施形態の説明に用いた同一部材には同一符号を付して、その説明は省略または簡略化する。また、第1実施形態において説明した製造工程と同一の工程については、その説明は省略または簡略化する。
【0058】
(第1実施形態の変形例1)
第1実施形態の変形例1に係る酸化物超電導線材について図2を参照して説明する。図2に示す酸化物超電導線材1Aは、酸化物超電導線材1を構成する基材10、中間層11、超電導層12、及び安定化層14と同じ構成を有する。酸化物超電導線材1Aは、保護層13の構造の点において、酸化物超電導線材1と異なる。
【0059】
図2に示す保護層13は、酸化銀を含有している。言い換えると、保護層13は、上述した酸化物超電導線材1の製造方法により、酸化銀が残留した構造を有する。具体的に、保護層13は、酸化銀層13Fと、銀層13Sとを有する。酸化銀層13Fは、銀層13Sと超電導層12との間に位置している。言い換えると、銀層13Sよりも酸化銀の含有量が高い酸化銀層13Fが超電導層12の界面BFを介して隣接している。
【0060】
ここで、銀層13Sは、表面酸化膜といった自然酸化によって形成された酸化銀を含んでもよい。
【0061】
つまり、図2においては、酸化物超電導線材1に対する酸素アニール処理前の状態における保護層13の酸化銀の酸素の一部が酸素アニール処理に伴って超電導層12に導入され、酸化銀から銀への還元反応が部分的に生じ、酸素アニール処理後の状態において保護層13に酸化銀が残留している。
このような構成を有する酸化物超電導線材1Aにおいても、上述した第1実施形態に係る酸化物超電導線材1と同様の効果を得ることができる。
【0062】
(第1実施形態の変形例2)
上述した酸化物超電導線材1の製造方法においては、酸化銀を含有する保護層13を超電導層12の直上に形成した後に酸素アニール処理を施すことによって、酸化銀から超電導層12へ酸素を導入し、酸化銀を銀に還元していた。以下に説明する第1実施形態の変形例2は、保護層13の形成の点で、上述した製造方法とは異なる。
【0063】
最初に、基材10上に、中間層11と超電導層12とを順に積層する。次に、超電導層12の直上に酸化銀を含有する保護層13を形成する。ここで、保護層13を形成する際には、まず、第1工程として保護層13の一部を構成するとともに酸化銀を含有する酸化銀層を超電導層12の直上に形成する。その後、第2工程として保護層13の一部を構成する銀層を酸化銀層上に形成する。
次に、超電導層12及び保護層13を加熱することによって、保護層13の酸化銀の酸素を超電導層12に導入し、保護層13の酸化銀を銀に還元する。
【0064】
酸化銀を含有する酸化銀層を超電導層12の直上に形成する第1工程では、超電導層12の全面に酸化銀層を形成した後、酸化銀層を超電導層12から部分的に剥がすことによって、超電導層12上に酸化銀層が部分的に残留するようにパターニングを行ってもよい。これによって、所望のパターンを有する酸化銀層が超電導層12上に形成される。第2工程においては、銀は、パターニングされた酸化銀層の直上の位置と、超電導層12の直上の位置とに、形成される。
なお、開口パターンを有する公知のマスクを用いることによって、開口パターンに対応した超電導層12上の位置に酸化銀層が残留するようにパターニングを行ってもよい。
【0065】
このような第1実施形態の変形例2に係る酸化物超電導線材の製造方法においても、上述した酸化物超電導線材1と同様の効果を得ることができる。さらに、所望のパターンを有する酸化銀層を超電導層12上に形成することができる。
【0066】
(第1実施形態の変形例3)
以下に説明する第1実施形態の変形例3は、保護層13の形成の点で、上述した第1実施形態に係る製造方法とは異なる。
【0067】
最初に、基材10上に、中間層11と超電導層12とを順に積層する。次に、超電導層12の直上に酸化銀を含有する保護層13を形成する。ここで、保護層13を形成する際には、まず、第1工程として保護層13の一部を構成する銀層を超電導層12の直上に形成する。その後、第2工程として保護層13の一部を構成する酸化銀層を銀層上に形成する。
次に、超電導層12及び保護層13を加熱することによって、保護層13の酸化銀の酸素を超電導層12に導入し、保護層13の酸化銀を銀に還元する。
【0068】
酸化銀層よりも酸化銀の含有量が低い銀層を超電導層12の直上に形成する第1工程では、超電導層12の全面に銀層を形成した後、銀層を超電導層12から部分的に剥がすことによって、超電導層12上に銀層が部分的に残留するようにパターニングを行ってもよい。これによって、所望のパターンを有する銀層が超電導層12上に形成される。第2工程においては、酸化銀層は、パターニングされた銀層の直上の位置と、超電導層12の直上の位置とに、形成される。
なお、開口パターンを有する公知のマスクを用いることによって、開口パターンに対応した超電導層12上の位置に銀層が残留するようにパターニングを行ってもよい。
【0069】
このような第1実施形態の変形例3に係る酸化物超電導線材の製造方法においても、上述した酸化物超電導線材1と同様の効果を得ることができる。さらに、所望のパターンを有する銀層を超電導層12上に形成することができる。
【0070】
(第2実施形態)
(接続構造体3の構成)
次に、第2実施形態に係る酸化物超電導線材について図3を参照して説明する。
図3において、第1実施形態と同一部材には同一符号を付して、その説明は省略または簡略化する。
【0071】
本実施形態に係る接続構造体3は、第1酸化物超電導線材1(酸化物超電導線材)と第2酸化物超電導線材2(接続対象物)とが接続された構造を有する。接続構造体3は、Z方向において第1酸化物超電導線材1及び第2酸化物超電導線材2が部分的に重なる重なり部16を有する。言い換えると、第1酸化物超電導線材1の延在方向(Y方向)における端部から第2酸化物超電導線材2が突出するように、第1酸化物超電導線材1の一部と及び第2酸化物超電導線材2の一部とが重なっている。
本実施形態では、重なり部16において、第1酸化物超電導線材1と第2酸化物超電導線材2とがはんだ15を介して接続されている。
【0072】
(第1酸化物超電導線材1の構成)
第1酸化物超電導線材1は、基材10Aと、基材10A上に設けられた中間層11Aと、中間層11A上に設けられた超電導層12Aと、超電導層12A上に設けられた保護層13Aとを備える。
第1酸化物超電導線材1を構成する基材10A及び中間層11Aの各々は、例えば、上述した第1実施形態において説明した基材10及び中間層11と同じである。
【0073】
(超電導層12A)
超電導層12Aは、Z方向において重なり部16に重なる超電導部52を有する。
超電導部52は、超電導部52と保護層13Aとの間の界面BF1から基材10Aに向かう方向において超電導部52に含まれる酸素の濃度が減少する濃度勾配を有する第1領域12Fを有する。超電導部52は、界面BF1から基材10Aに向かう方向において第1領域12Fから離間し、かつ、超電導部52に含まれる酸素の濃度が略一定である第2領域12Sを有する。
【0074】
超電導部52の厚さ方向の酸素濃度プロファイルにおいて、第2領域12Sの酸化物超電導体は厚さ方向の位置によらず均一で一様な酸素濃度分布を持つ。一方、第1領域12Fの酸化物超電導体は、基材10Aの側から超電導部52と保護層13Aとの界面BF1にかけて酸素濃度が漸減する濃度勾配を有する。例えば、第2領域12Sにおける酸素の濃度を100%とすると、第1領域12Fの厚さ方向において第2領域12Sとの境界における酸素濃度は第2領域12Sの酸素濃度と略同一(≒100%)であり、保護層13Aとの界面BF1近傍における酸素濃度は約20%である。第1領域SFの厚さは、例えば、100nm以下であると良く、50nm、20nm、であってもよい。超電導部52と保護層13Aとの間の界面BF1における界面抵抗は、1×10-11Ωcm~1×10-9Ωcmの範囲内であるとよい。
【0075】
(保護層13A)
保護層13Aは、超電導層12A上に設けられ、超電導層12Aに接しており、銀を含有する。保護層13Aは、上述した第1実施形態に係る保護層13と同様の構成を有する。保護層13Aは、重なり部16において第2酸化物超電導線材2の保護層23に対向している。本実施形態では、保護層13Aは、はんだ15に接触している。
【0076】
(第2酸化物超電導線材2の構成)
第2酸化物超電導線材2は、基材20と、基材20上に設けられた中間層21と、中間層21上に設けられた超電導層22と、超電導層22上に設けられた保護層23とを備える。
第2酸化物超電導線材2を構成する基材20及び中間層21、超電導層22、保護層23の各々は従来公知の構成を備える。又は、上述した第1実施形態において説明した酸化物超電導線材と同じ構成を備えていてもよい。
【0077】
(接続構造体3の製造方法)
図5を参照して、第2実施形態に係る接続構造体3の製造方法を説明する。
まず、接続構造体3を構成する第1酸化物超電導線材1と第2酸化物超電導線材2とを準備する。第1酸化物超電導線材1は、上述した第1実施形態と同様に、酸化物超電導体によって構成された超電導層12Aを基材10Aの上方に形成し、かつ、酸化銀を含有する保護層13Aを超電導層12Aの直上に形成する。その後、酸素雰囲気中において、酸素アニール処理を施すことによって第1酸化物超電導線材1が形成される。同様の方法により、第2酸化物超電導線材2が形成される。
【0078】
第1酸化物超電導線材1の作成の際に、保護層13Aが形成される超電導層12Aの表面の領域が規定される。具体的に、超電導層12Aの表面において、重なり部16に相当する第1部分12Pと、第1部分12P以外の部分に相当する第2部分12Qとを規定する。第1部分12Pは、第1酸化物超電導線材1の延在方向における端部を含む領域である。第1部分12Pは、第2酸化物超電導線材2の延在方向における端部を含む領域に対向する部分である。
【0079】
次に、酸化銀を含有する保護層13Aを超電導層12Aの直上に形成する。この際に、保護層13Aの一部を構成するとともに高い濃度で酸化銀を含有する酸化銀層13Hが超電導層12Aの第1部分12P上に形成される。保護層13Aの一部を構成するとともに酸化銀層13Hよりも酸化銀の含有量が低い銀層13Lが第2部分12Q上に形成される。
【0080】
酸化銀層13H及び銀層13Lの形成方法について、具体的に説明する。
まず、スパッタ法により超電導層12Aの全面に酸化銀層13Hを形成する。次に、第1部分12Pに形成されている酸化銀層13Hを残留させつつ、第2部分12Qに形成されている酸化銀層13Hを剥がす。これにより、超電導層12Aの第2部分12Qが露出する。次に、第2部分12Qに銀層13Lを形成する。これにより、図5に示すように、超電導層12Aの上面に酸化銀層13Hと銀層13Lとが形成される。
【0081】
このように超電導層12Aの上面に酸化銀層13Hと銀層13Lが形成された後、第1酸化物超電導線材1の保護層13Aと第2酸化物超電導線材2とを部分的に重ね合わせる。具体的に、Z方向に見て第1部分12P上に形成された酸化銀層13Hと第2酸化物超電導線材2とを重ね合わせる。本実施形態では、第1酸化物超電導線材1(保護層13A)と第2酸化物超電導線材2(保護層23)との間にはんだ15を介在させている。
さらに、はんだ15を用いた接続構造を得るには、例えば、約200℃の接続加熱処理を施すことではんだが溶融し、第1酸化物超電導線材1と第2酸化物超電導線材2とが接続される。
【0082】
このような接続加熱処理を行うことによって、Z方向に見て保護層13Aと第2酸化物超電導線材2との重なり部16に対応する位置、すなわち、第1部分12Pに形成されている酸化銀層13Hにおいて、保護層13Aの酸化銀層13Hに含まれる酸化銀は、銀に還元される。還元によって生じた酸素は、超電導層12Aに導入される。上述した製造方法を経て、図3又は図4に示す接続構造体3が得られる。
【0083】
酸化銀から超電導層12Aへの酸素の導入に関しては、酸化銀層13Hの酸化銀の酸素の全てが超電導層12Aに導入されてもよいし、酸化銀層13Hの酸化銀の酸素の一部が超電導層12Aに導入されてもよい。酸化銀から銀への還元反応に関しては、酸化銀層13Hの酸化銀の全てが銀に還元されてもよいし、酸化銀層13Hの酸化銀の一部が銀に還元されてもよい。
【0084】
このような酸化銀から超電導層12Aへの酸素の導入量の調整、及び、酸化銀から銀への還元反応の制御は、例えば、酸化銀層13Hにおける酸化銀の含有量を調整や接続加熱処理条件を調整することで行われる。
【0085】
このような接続構造体3の製造方法により、超電導層12Aの第2領域12Sにおける酸素の濃度に対して、第1領域12Fにおける酸素の濃度が低く、第1領域12Fの厚さが100nm以下となる。また、第1領域12Fにおいては、基材10Aの側から超電導層12Aと保護層13Aとの界面BF1にかけて酸素濃度が漸減するという酸素濃度プロファイルが得られる。界面BF1における界面抵抗は、1×10-11Ωcm~1×10-9Ωcmの範囲内となる。
【0086】
次に、以上のように構成された接続構造体3の作用及び効果について説明する。
本実施形態によれば、酸化銀層13Hに含まれる酸化銀を銀に還元し、還元によって生じた酸素を超電導層12Aに導入することができる。このため、接続加熱処理によって超電導層から酸素が抜けたとしても、酸素が抜けた部分は、酸化銀の還元によって生じた酸素によって補完される。これにより、超電導層12Aから酸素が抜けた部分の厚さ(界面からの深さ)を小さくすることができる。したがって、超電導層12Aに形成される高抵抗層の大きさが小さくなり、超電導層12Aと保護層13Aとの間の界面抵抗の低減に寄与する。
【0087】
本実施形態に係る接続構造体3においては、超電導層12Aと保護層13Aとの間の界面抵抗は、1×10-11Ωcm~1×10-9Ωcmの範囲内であるので、低抵抗な酸化物超電導線材1を備える接続構造体3を実現することができる。
【0088】
なお、上述した接続構造体3の製造方法において、酸化銀層13H及び銀層13Lを形成する順番は、上記の方法に限定されない。例えば、次の方法が採用されてもよい。まず、スパッタ法により超電導層12Aの全面に銀層13Lを形成する。次に、第2部分12Qに形成されている銀層13Lを残留させつつ、第1部分12Pに形成されている銀層13Lを剥がす。これにより、超電導層12Aの第1部分12Pが露出する。次に、第1部分12Pに酸化銀層13Hを形成する。これにより、図5に示すように、超電導層12Aの上面に酸化銀層13Hと銀層13Lとが形成される。
【0089】
また、第1部分12Pに対応する開口パターンを有する公知のマスクを用いることによって、第1部分12Pに対応した超電導層12上の位置に酸化銀層13Hを形成してもよい。同様に、第2部分12Qに対応する開口パターンを有する公知のマスクを用いることによって、第2部分12Qに対応した超電導層12上の位置に銀層13Lを形成してもよい。
【0090】
(第2実施形態の変形例)
以下、第2実施形態の変形例に係る接続構造体3について図4を参照して説明する。
第2実施形態の変形例については、第1実施形態及び第2実施形態の説明に用いた同一部材には同一符号を付して、その説明は省略または簡略化する。また、第1実施形態及び第2実施形態において説明した製造工程と同一の工程については、その説明は省略または簡略化する。
【0091】
図4に示す接続構造体3、保護層13Aの構造の点において、第2実施形態と異なる。
図4に示す保護層13Aは、酸化銀を含有している。言い換えると、保護層13Aは、上述した接続構造体3の製造方法により、酸化銀が残留した構造を有する。具体的に、保護層13Aは、酸化銀層13Fと、酸化銀層13Fよりも酸化銀の含有量が低い銀層13Sとを有する。酸化銀層13Fは、銀層13Sと超電導層12Aとの間に位置している。言い換えると、銀層13Sよりも酸化銀の含有量が高い酸化銀層13Fが超電導層12Aの界面BF1を介して隣接している。
【0092】
つまり、図4においては、酸化物超電導線材1に対する接続加熱処理前の状態における保護層13Aの酸化銀層13Hに含まれる酸化銀の酸素の一部が接続加熱処理に伴って超電導層12Aに導入され、酸化銀から銀への還元反応が部分的に生じ、接続加熱処理後の状態において保護層13Aに酸化銀が残留している。
このような構成を有する接続構造体3においても、上述した第2実施形態に係る接続構造体3と同様の効果を得ることができる。
【0093】
(第3実施形態)
(接続構造体3の製造方法)
図6を参照して、第3実施形態に係る接続構造体3の製造方法を説明する。
以下の説明では、第3実施形態と第2実施形態との相違点を説明し、第1実施形態及び第2実施形態の説明に用いた同一部材には同一符号を付して、その説明は省略または簡略化する。また、第1実施形態及び第2実施形態において説明した製造工程と同一の工程については、その説明は省略または簡略化する。
【0094】
まず、上述した第2実施形態と同様に、超電導層12Aの表面において、第1部分12P及び第2部分12Qを規定する。
次に、酸化銀を含有する保護層13Aを超電導層12Aの直上に形成する。この際に、最初に、酸化銀層13Hを超電導層12Aの第1部分12P上に形成する。その後、酸化銀層13H上及び超電導層12Aの第2部分12Q上に、銀層13Lを形成する。つまり、図5に示す方法とは異なり、第1部分12P上において、酸化銀層13Hと銀層13Lとが順に積層されている。
【0095】
酸化銀層13Hを超電導層12Aの第1部分12Pに形成する方法としては、スパッタ法により超電導層12Aの全面に酸化銀層13Hを形成した後に、第1部分12Pに形成されている酸化銀層13Hを残留させつつ、第2部分12Qに形成されている酸化銀層13Hを剥がす方法が用いられる。また、第1部分12Pに対応する開口パターンを有する公知のマスクを用いることによって、第1部分12Pに対応した超電導層12上の位置に酸化銀層13Hを形成してもよい。
【0096】
このように超電導層12Aの上面に酸化銀層13Hと銀層13Lが形成された後、第1酸化物超電導線材1の保護層13Aと第2酸化物超電導線材2とを部分的に重ね合わせる。具体的に、Z方向に見て第1部分12P上に形成された銀層13Lと第2酸化物超電導線材2とを重ね合わせる。本実施形態では、第1酸化物超電導線材1(保護層13A)と第2酸化物超電導線材2(保護層23)との間にはんだ15を介在させている。さらに、第2実施形態と同様に、接続加熱処理を施すことで、第1酸化物超電導線材1と第2酸化物超電導線材2とが接続される。
【0097】
このような接続加熱処理を行うことによって、Z方向に見て保護層13Aと第2酸化物超電導線材2との重なり部16に対応する位置、すなわち、第1部分12Pに形成されている酸化銀層13Hにおいて、保護層13Aの酸化銀層13Hに含まれる酸化銀は、銀に還元される。還元によって生じた酸素は、超電導層12Aに導入される。上述した製造方法を経て、図3又は図4に示す接続構造体3が得られる。
【0098】
上述したように、第3実施形態においても、上述した第2実施形態に係る接続構造体3と同様の効果を得ることができる。つまり、接続加熱処理の前において超電導層12Aの第1部分12Pに酸化銀層13H及び銀層13Lが順に積層されている構成を有する第1酸化物超電導線材1を用いたとしても、超電導層12Aと保護層13Aとの間の界面BF1における界面抵抗の低下を実現することができる。
【0099】
(第4実施形態)
(接続構造体3の製造方法)
図7を参照して、第4実施形態に係る接続構造体3の製造方法を説明する。
以下の説明では、第4実施形態と第2実施形態との相違点を説明し、第1実施形態及び第2実施形態の説明に用いた同一部材には同一符号を付して、その説明は省略または簡略化する。また、第1実施形態及び第2実施形態において説明した製造工程と同一の工程については、その説明は省略または簡略化する。
【0100】
まず、上述した第2実施形態と同様に、超電導層12Aの表面において、第1部分12P及び第2部分12Qを規定する。
次に、酸化銀を含有する保護層13Aを超電導層12Aの直上に形成する。この際に、最初に、超電導層12Aの第1部分12P及び第2部分12Q上に、銀層13Lを形成する。その後、第1部分12Pにおける銀層13L上に、酸化銀層13Hを形成する。つまり、図5に示す方法とは異なり、第1部分12P上において、銀層13Lと酸化銀層13Hとが順に積層されている。
【0101】
酸化銀層13Hを超電導層12Aの第1部分12Pに形成する方法としては、スパッタ法により超電導層12Aの全面に銀層13Lを形成した後に、第1部分12Pにおいて酸化銀層13Hを銀層13Lに積層させる方法が用いられる。また、第1部分12Pに対応する開口パターンを有する公知のマスクを用いることによって、第1部分12Pに対応した超電導層12上の位置に酸化銀層13Hを形成してもよい。
【0102】
このように超電導層12Aの上面に酸化銀層13Hと銀層13Lが形成された後、第1酸化物超電導線材1の保護層13Aと第2酸化物超電導線材2とを部分的に重ね合わせる。具体的に、Z方向に見て第1部分12P上に形成された酸化銀層13Hと第2酸化物超電導線材2とを重ね合わせる。本実施形態では、第1酸化物超電導線材1(保護層13A)と第2酸化物超電導線材2(保護層23)との間にはんだ15を介在させている。さらに、第2実施形態と同様に、接続加熱処理を施すことで、第1酸化物超電導線材1と第2酸化物超電導線材2とが接続される。
【0103】
このような接続加熱処理を行うことによって、Z方向に見て保護層13Aと第2酸化物超電導線材2との重なり部16に対応する位置、すなわち、第1部分12Pに形成されている酸化銀層13Hにおいて、保護層13Aの酸化銀層13Hに含まれる酸化銀は、銀に還元される。還元によって生じた酸素は、超電導層12Aに導入される。上述した製造方法を経て、図3又は図4に示す接続構造体3が得られる。
【0104】
上述したように、第4実施形態においても、上述した第2実施形態に係る接続構造体3と同様の効果を得ることができる。つまり、接続加熱処理の前において超電導層12Aの第1部分12Pに銀層13L及び酸化銀層13Hが順に積層されている構成を有する第1酸化物超電導線材1を用いたとしても、超電導層12Aと保護層13Aとの間の界面BF1における界面抵抗の低下を実現することができる。
【0105】
(第5実施形態)
(接続構造体の製造方法)
図8を参照して、第5実施形態に係る接続構造体の製造方法を説明する。
以下の説明では、第5実施形態と第2実施形態との相違点を説明し、第1実施形態及び第2実施形態の説明に用いた同一部材には同一符号を付して、その説明は省略または簡略化する。また、第1実施形態及び第2実施形態において説明した製造工程と同一の工程については、その説明は省略または簡略化する。
【0106】
図8に示すように、第5実施形態に係る接続構造体は、はんだ15を用いずに、第1酸化物超電導線材1と第2酸化物超電導線材2とを接合している。
具体的には、図5を参照して説明したように、超電導層12Aの表面において、第1部分12Pに酸化銀層13Hを形成し、第2部分12Qに銀層13Lを形成する。次に、第2酸化物超電導線材2の保護層23と酸化銀層13Hとを重ね合わせる。この状態で、第1酸化物超電導線材1及び第2酸化物超電導線材2に対して接続加熱処理を施す。接続加熱処理の温度は、例えば、約200℃である。これにより、銀を含む酸化銀層13Hと、銀を含む保護層23とが結合される。
【0107】
このような接続加熱処理を行うことによって、Z方向に見て保護層13Aと第2酸化物超電導線材2との重なり部16に対応する位置、すなわち、第1部分12Pに形成されている酸化銀層13Hにおいて、保護層13Aの酸化銀層13Hに含まれる酸化銀は、銀に還元される。還元によって生じた酸素は、超電導層12Aに導入される。
【0108】
上述したように、第5実施形態においても、上述した第2実施形態に係る接続構造体3と同様の効果を得ることができる。はんだ15を用いなくても、超電導層12Aと保護層13Aとの間の界面BF1における界面抵抗の低下を実現することができる。
【0109】
なお、図3図8には示されていないが、2つの酸化物超電導線材1、2の各々の端部には、別の酸化物超電導線材が接続されている。つまり、酸化物超電導線材の延在方向に沿って、複数の酸化物超電導線材がはんだ接続された長尺の酸化物超電導線材が得られる。この構成によれば、接続抵抗が低減された長尺の酸化物超電導線材を製造することができる。
【0110】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明し、上記で説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。従って、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、請求の範囲によって制限されている。
【0111】
上述した実施形態では、基材と超電導層との間に中間層が配置されている構造について説明した。本発明においては、基材の上方に超電導層が設けられていればよく、基材上に超電導層が設けられてもよいし、基材上に超電導層12が直接的に接触してもよい。
【0112】
上述した実施形態においては、接続対象物として第2酸化物超電導線材2を用いた例について説明したが、接続対象物して電極が採用されてもよい。
【実施例0113】
次に、本発明の実施例と比較例とを比較し、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0114】
(超電導層と銀保護層との界面における酸素濃度プロファイル)
図9及び図10は、酸化物超電導線材を構成する超電導層(REBCO層)と銀保護層(Ag層)との間の界面付近の領域における酸素濃度プロファイルを示している。図9は、比較例を説明するグラフであって、銀保護層に酸化銀が含まれていない場合の実験結果を示している。図10は、実施例を説明するグラフであって、銀保護層に酸化銀が含まれている場合の実験結果を示している。
測定器として、エネルギー分散型X線分光器(EDS)が用いた。
【0115】
比較例では、公知の銀ターゲットを用いたスパッタ法により、銀保護層を超電導層の直上に形成した。なお、銀保護層は、表面酸化膜といった自然酸化によって形成された酸化銀を含む場合がある。このため、比較例において、「銀保護層に酸化銀が含まれていない場合」とは、酸化銀を保護層に意図的に導入していないことを意味している。
実施例では、酸化銀ターゲットを用いたスパッタ法により、銀保護層を超電導層の直上に形成した。また、比較例及び実施例においては、同じ組成を有する超電導層を用いた。以下の説明では、「超電導層と銀保護層との間の界面」を単に「界面」と称する場合がある。
【0116】
図9及び図10の各々において、横軸は、界面から超電導層に向かう方向の深さを示している。横軸に示されている「0」は、界面の位置を示している。横軸に示されている「0~-700」の範囲、すなわち、図9及び図10において「0」から左側に示されている範囲は、界面を起点とした超電導層の内部における深さの位置を示している。逆に、横軸に示されている「0~100」の範囲、すなわち、図9及び図10において「0」から右側に示されている範囲は、界面を起点とした銀保護層の内部における深さの位置を示している。縦軸は、エネルギー分散型X線分光器によって測定されたエネルギー強度を示している。
【0117】
図9及び図10が示す実験結果から次の点が明らかとなった。
[1]比較例に示すように、超電導層の内部における界面からの深さが0~280nmの範囲内においては緩やかに酸素濃度が上昇した。280nm以上の深さでは、酸素濃度は増加せず、一定となり、安定した。深さが0~280nmの範囲においては、酸素濃度が低い低酸素領域が超電導層に形成されていることが明らかとなった。この低酸素領域では、超電導特性が低く、超電導層と銀保護層との間の界面抵抗が上昇する。
[2]実施例に示すように、超電導層の内部における界面からの深さが0~50nmの範囲内においては酸素濃度が上昇した。50nm以上の深さでは、酸素濃度は増加せず、一定となり、安定した。深さが0~50nmの範囲においては、酸素濃度が低い低酸素領域が超電導層に形成されていることが明らかとなった。
なお、実施例における低酸素領域、つまり、界面からの深さが0~50nmの範囲は、基材の側から界面にかけて酸素の濃度が減少する濃度勾配が生じる領域であり、本発明の「第1領域」に相当する。
また、実施例において、酸素濃度が略一定に安定した領域、つまり、深さ50nm以上の領域は、酸素濃度安定領域であり、本発明の「第2領域」に相当する。
[3]比較例と実施例とを比較すると、比較例では界面から酸素濃度が緩やかに上昇した。その一方、実施例では、界面から酸素濃度が急峻に上昇した。比較例の低酸素領域の深さが280nmであるのに対し、実施例の低酸素領域の深さが50nmであり、実施例の低酸素領域の深さが比較例よりも小さい(厚さが薄い)ことが明らかとなった。したがって、比較例に対して、実施例の場合では、超電導層と銀保護層との間の界面抵抗を低減させることができる。
[4]さらに、実施例を詳細に分析すると、酸素濃度安定領域における酸素の濃度(強度580程度)に対して、低酸素領域における酸素の濃度が50%になる地点(強度290程度)は、界面から100nm以内に位置している。
また、実施例の低酸素領域は、界面から280nmだけ離れた地点と界面との間に位置している。実施例の低酸素領域は、界面から100nmだけ離れた地点と界面との間に位置している。実施例の低酸素領域は、界面から50nmだけ離れた地点と界面との間に位置している。
【0118】
(接続構造体における酸化銀膜厚と接続抵抗との関係)
銀保護層400に含まれる酸化銀の膜厚が0nm、5nm、10nm、100nm、200nm、500nm、1000nmである酸化物超電導線材100、200を用意した。図11に示すように、ブリッジ部300を用いて2つの酸化物超電導線材100、200をブリッジ接続によりを繋ぎ合わせて7種類の接続構造体(接続構造体A~G)を準備した。
【0119】
2つの酸化物超電導線材100、200の各々とブリッジ部300との間には、はんだ500が介在されている。約200℃の接続加熱処理を施すことではんだ500を溶融させ、2つの酸化物超電導線材100、200の各々とブリッジ部300とを接続した。
その後、7種類の接続構造体の各々の接続抵抗を測定した。実験結果は、以下の通りとなった。表1に記載の評価結果に関し、「不可」は接続抵抗が10-8Ωcm台である場合を示しており、「可」は接続抵抗が10-9Ωcm台である場合を示しており、「良」は接続抵抗が10-9Ωcm以下である場合を示している。
【0120】
【表1】
【0121】
表1に示す結果から、酸化銀の膜厚が0nmである場合(銀保護層が酸化銀を含まない場合)に、接続抵抗が悪化することが明らかとなった(評価結果「不可」)。
酸化銀の膜厚が5nm~1000nmの場合では、評価結果が「可」又は「良」であることが明らかとなった。
さらに、酸化銀の膜厚が10nm~500nmの場合では、評価結果が「良」であることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0122】
1…酸化物超電導線材(第1酸化物超電導線材)、1A…酸化物超電導線材、2…酸化物超電導線材(第2酸化物超電導線材)、3…接続構造体、10、10A、20…基材、11、11A、21…中間層、12、12A、22…超電導層、12F…第1領域、12P…第1部分、12Q…第2部分、12S…第2領域、13、13A、23…保護層、13F、13H…酸化銀層、13L、13S…銀層、14…安定化層、15…はんだ、16…重なり部、52、62…超電導部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11