IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社オーク製作所の特許一覧

<>
  • 特開-放電ランプ 図1
  • 特開-放電ランプ 図2
  • 特開-放電ランプ 図3
  • 特開-放電ランプ 図4
  • 特開-放電ランプ 図5
  • 特開-放電ランプ 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121350
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】放電ランプ
(51)【国際特許分類】
   H01J 61/073 20060101AFI20230824BHJP
   H01J 61/86 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
H01J61/073 B
H01J61/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024635
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】細木 裕介
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 晟大
【テーマコード(参考)】
5C015
【Fターム(参考)】
5C015JJ08
(57)【要約】
【課題】放電ランプの電極において、伝熱体を封入する密閉空間に配置される整流体などに対し、クラック発生などを抑制する。
【解決手段】ショートアーク型の放電ランプ10において、電極(陽極)30内に密閉空間を形成し、ランプ点灯時に溶融する伝熱体Mを封入する。また、密閉空間50内に整流体40を配置する。整流体40は、その断面が層状の組織を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電管と、
前記放電管内に対向配置される一対の電極とを備え、
少なくとも一方の電極において、ランプ点灯時に溶融する伝熱体が封入される密閉空間が形成されるとともに、板状の整流体が、前記密閉空間内に配置され、
前記整流体の少なくとも一部が、厚み方向に対し、多層状に形成されていることを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】
前記整流体が、その断面において、層状の組織を有することを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】
前記整流体が、板表面に略平行な境界に沿って層を形成した組織を有することを特徴とする請求項2に記載の放電ランプ。
【請求項4】
前記整流体が、複数の薄板状または箔状の金属を積層させた構成であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項5】
前記整流体が、素材の異なる金属を積層させた構成であることを特徴とする請求項4に記載の放電ランプ。
【請求項6】
前記整流体が、電極軸周りの流路を形成する形状および配置された構成になっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の放電ランプ。
【請求項7】
前記整流体が、前記密閉空間内における前記伝熱体の周方向および電極軸方向の少なくともいずれかの方向に沿った流れを規制する形状および配置された構成になっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の放電ランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショートアーク型放電ランプなどの放電ランプに関し、特に、電極の放熱に関する。
【背景技術】
【0002】
放電ランプは、点灯中に電極先端部が高温となり、タングステンなどの電極材料が溶融、蒸発し、放電管が黒化して、ランプ照度低下を招く。電極先端部を含めた電極の過熱を防ぐため、金属などの伝熱体を電極内部に封入する構造が知られている(特許文献1参照)。そこでは、銀など熱伝導率が高く、比較的融点の低い金属から成る伝熱体が、陽極内に密封されている。ランプ点灯による電極温度上昇に伴って伝熱体が溶融し、液化することによって、密閉空間内で熱対流が生じ、電極先端部の過熱を抑える。
【0003】
一方、熱対流を促進するため、電極軸周りに流路を形成する板状部材を密閉空間内に配置する構成が知られている(特許文献2参照)。また、伝熱体の熱対流による密閉空間内の温度差に起因する高温クリープ変形が生じるのを防ぐため、溶融した伝熱体が周方向に沿って流動するのを規制する板状部材を密閉空間内に配置する構成も知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-006246号公報
【特許文献2】特許第6259450号公報
【特許文献3】特開2012-28168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ランプ点灯時、伝熱体の対流が生じると、密閉空間内に配置された上記板状部材は、伝熱体から力を受ける。また、ランプ消灯および再点灯によって伝熱体の凝固および溶融が繰り返される間、密閉空間内の空間領域の違いによって温度低下、上昇速度が違うため、凝固、溶融に時間差が生じる。そのため、板状部材の特定の部分に負荷がかかりやすい。このような負荷によって、板状部材に対してクラックが発生し、破損する恐れがある。
【0006】
したがって、電極において、伝熱体を封入する密閉空間に配置される板状部材に対し、クラック発生などを抑制することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様である放電ランプは、放電管と、放電管内に対向配置される一対の電極とを備え、少なくとも一方の電極において、ランプ点灯時に溶融する伝熱体が封入される密閉空間が形成されるとともに、板状の整流体が、密閉空間内に配置されている。
【0008】
ここでの「整流体」は、密閉空間内における伝熱体の流れに関連して作用、機能など発揮する構造物、部材などによって構成することが可能である。例えば、整流体は、電極軸周りの流路を形成する形状および配置された構成にすることができる。また、整流体は、密閉空間内における伝熱体の周方向および電極軸方向の少なくともいずれかの方向に沿った流れを規制する形状および配置された構成にすることができる。
【0009】
本発明では、整流体の少なくとも一部が、厚み方向に対し、多層状に形成されている。すなわち、層を重ねた構成になっている。このような多層状の整流体の構成は様々である。例えば整流体は、その断面において、層状の組織(集合組織など)をもつように構成することが可能であり、塑性加工によって多層状の整流体を構成することができる。層状の組織をもつ板状の整流体としては、例えば圧延加工などによって、板表面に略平行な境界に沿って層を形成した組織を形成することができる。
【0010】
一方、複数の薄板状または箔状の金属を積層させることによって、整流体を多層状に形成することが可能である。例えば、整流体は、素材の異なる金属を積層させた構成にすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放電ランプの電極において、伝熱体を封入する密閉空間に配置される整流体などに対し、クラック発生などを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態である放電ランプの平面図である。
図2】陽極の概略的断面図である。
図3】伝熱体が凝固した状態での陽極の概略的断面図の一例である。
図4】整流体の概略的斜視図である。
図5】整流体の一部断面を模式的に示した図である。
図6】実施例である整流体の一部断面の光学顕微鏡写真を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ショートアーク型放電ランプ10は、高輝度の光を出力可能な大型放電ランプであり、透明な石英ガラス製の略球状放電管(発光管)12を備え、放電管12内には、タングステン製の一対の電極20、30が対向(同軸)配置される。放電管12の両側には、石英ガラス製の封止管13A、13Bが放電管12と連設し、一体的に形成されている。放電管12内の放電空間DSには、水銀とハロゲンやアルゴンガスなどの希ガスが封入されている。
【0014】
陰極である電極20は、電極支持棒17Aによって支持されている。封止管13Aには、電極支持棒17Aが挿通されるガラス管(図示せず)と、外部電源と接続するリード棒15Aと、電極支持棒17Aとリード棒15Aを接続する金属箔16Aなどが封止されている。陽極である電極30についても同様に、電極支持棒17Bが挿通されるガラス管(図示せず)、金属箔16B、リード棒15Bなどのマウント部品が封止されている。また、封止管13A、13Bの端部には、口金19A、19Bがそれぞれ取り付けられている。
【0015】
一対の電極20、30に電圧が印加されると、電極20、30の間でアーク放電が発生し、放電管12の外部に向けて光が放射される。ここでは、1kW以上の電力が投入される。放電管12から放射された光は、反射鏡(図示せず)によって所定方向へ導かれる。
【0016】
図2は、電極(陽極)30の概略的断面図である。図3は、伝熱体が凝固した状態での陽極の概略的断面図の一例である。図4は、整流体の概略的斜視図である。なお、電極(陰極)20についても同様の構造にすることが可能である。
【0017】
図2に示すように、陽極30は、円柱状胴体部34と、電極先端面30Sを有する円錐台状先端部32から構成される。胴体部34は、電極支持棒17Bを取り付けた密閉蓋60を接合させた構造であり、密閉空間50が胴体部34内に形成されている。ここでは、胴体部34および先端部32は、タングステンなどの同一金属材料から成形されているが、別素材で成形してもよい。また、密閉蓋60を別素材で成形してもよい。
【0018】
密閉空間50は、ここでは円柱状空間として形成され、また、電極軸Eに対し同軸的に形成されている。そして、密閉空間50には、伝熱体Mが封入されている。伝熱体Mは、胴体部34、密閉蓋60よりも融点の低い金属(例えば、銀)から成り、ランプ点灯時に溶融して液体となり、密閉空間50内で対流する。図2では、溶融した伝熱体Mが対流している状態を示している。
【0019】
密閉空間50には、整流体40が密閉空間50に対して同軸的に配置されている。整流体40は、溶融した伝熱体Mの流れを調整する板状の部材として構成される。整流体40は、電極軸Eに沿った伝熱体Mの流路を形成する形状、配置によって構成することが可能であり、また、伝熱体Mのある方向に沿った流れ(例えば、周方向に沿った流れ)を規制する形状、配置によって構成することが可能である。
【0020】
ここでの整流体40は、電極軸E周りの流路を形成する形状になっている。整流体40は、電極軸E方向に沿って密閉空間底面50Bおよび密閉空間上面50Tから所定距離だけ離れるように、また、密閉空間側面50Sと径方向に所定距離だけ離れるように、配置されている。整流体40は、例えば、図示しない棒状もしくは板状の固定部材によって固定されるか、もしくは固定されずに密閉空間50内にそのまま設置される。
【0021】
図4に示す一例としての整流体40は、断面半円状(C字状)である湾曲板40A、40Bによって構成されており、隙間STを設けて相対するように配置されている。湾曲板40A、40Bは電極軸Eに対して対称的であり、整流体40と密閉空間側面50Sとの距離間隔は、周方向全体に渡って略等しい。整流体40は、ここでは、高融点金属(例えばタングステン、モリブデン、タンタルなど)、あるいはカリウム添加物を加えた合金から成る。
【0022】
ランプ点灯時、整流体40は、密閉空間底面側の開口部41Aから密閉空間上面側の開口部41Bへ向けて電極軸E周りの伝熱体Mの流路を形成する板状部材として機能し、電極先端部の熱が電極支持棒17B側へ輸送される。
【0023】
ランプが消灯すると、例えば図3に示すように伝熱体Mが凝固する。ランプ消灯時、整流体40の内部空間における伝熱体Mの温度低下が、その外側の空間領域よりも相対的に遅い。そのため、伝熱体Mの凝固は空間領域の違いによって時間差があり、整流体40内の伝熱体Mは、整流体40外部の伝熱体Mより液面が下がった状態で凝固し、適度な深さの凹部が形成される。
【0024】
図5は、整流体40の一部断面を模式的に示した図である。
【0025】
図5に示すように、整流体40は、その断面が厚み方向に沿って多層状の組織を形成している。このような組織は、塑性変形に伴う集合組織の形成によってもたらされる。図5に示す整流体40の断面層状の組織は、ここでは、塑性加工によってもたらされるものであり、結晶粒が圧延方向に伸びて断面層状の組織がもたらされている。また、ここでの各層は、圧延方向、すなわち整流体40表面に沿って略平行であり、各層は、ここでは略同じ幅(厚さ)tになるように形成され、幅tは、数十μm~数百μmの範囲内に収まるようにすることができる。
【0026】
このような断面層状の組織をもつ整流体40は、クラックが内部に生じてもクラック進行を抑制することができる。すなわち、集合組織の境界によって、クラックの進行が境界で停止する。これにより、整流体40の破損を抑制することができ、ランプ寿命末期までその機能(電極温度抑制)を発揮することができる。
【0027】
このような整流体40は、塑性加工を伴う製造方法によって製造することができ、原料や層の厚さに応じて、加工温度、圧下率などが定められる。そして、加工などされた板材に対し、曲げ加工などのプレス加工を行い、湾曲させればよい。例えば、熱間圧延加工を適用することが可能であり、あるいは、冷間圧延加工を行ってもよい。また、アニールして表面を処理してもよい。
【0028】
上述した整流体40は、1枚の金属素材から成り、その断面において多層状の集合組織を有する構成であるが、複数の薄板(箔板)を接合し、その後圧延加工などすることによって断面層状に形成してもよい。接合条件を調節し、隣接する箔板(層)との間に、μオーダーの隙間を形成することができる。隣接する層の間に隙間が形成されている場合、クラックの進行が効果的に停止する。
【0029】
一方、一部の隣接する層との間において、実質的に隙間が生じないようにすることもできる。この場合でも、結晶粒界(の層)に沿ってクラックが進行するため、結晶粒界の剥離は生じても、結晶粒自身の破壊にまで至らないため、整流体40の破損を抑制することができる。層状断面については、整流体40の一部分に形成するようにしてもよい。
【0030】
圧延加工以外の塑性加工(例えば、押し出し加工、引き抜き加工など)によって多層状断面を形成するようにしてもよい。あるいは、金属3Dプリンタによって多層状断面を形成してもよい。いずれにおいても、厚さ一定にすることが可能であり、あるいは互いに異なる厚さにすることも可能である。
【0031】
整流体40は、図4に示す断面半円状の湾曲板の形状に限定されない。2つの矩形状の金属板を、向かい合わせるように配置する構成にしてもよい。このような平面状の表面で構成される金属板をペアにして整流体40を構成しても、電極軸Eに沿った熱輸送を効果的に行うことができる。そして、整流体40を、ペアの金属板で構成せず、3つ以上の金属板を互いに所定間隔あけて配置する構成にすることも可能である。
【0032】
整流体40は、電極支持棒側に向けて先細くなるテーパー形状、あるいは、三角形状にすることも可能である。さらには、整流体40は、内部空間を形成する管体として構成することも可能である。例えば、断面が円状、多角形(三角形も含む)の管体にしてもよい。
【0033】
上述したように、整流体40は、伝熱体Mが密閉空間の周方向に沿って流れるのを規制する板状部材として構成することも可能である。例えば、整流体は、1枚板として構成することも可能であり、あるいは断面十字状、T字状の板状部材として形成することも可能である。
【0034】
この場合、整流体の少なくとも一部に、上記層状断面を形成するようにすればよい。このような伝熱体の流れを規制する整流体においても、上述した層状の組織をもつことにより、伝熱体から力を受けることでクラックが発生し、破損するのを抑制することができる。
【0035】
今まで説明した整流体40は、その断面において層状の組織を有する構成であるが、その層状となる構成はこれに限定されるものではない。塑性加工による層状の組織の有無に関わらず、異なる薄板状金属あるいは箔状金属といった板状素材を組み合わせ、断面を層状にした構成でもよい。このような複数の素材の板状部材を積層することによっても、その隣り合う層の境界に沿ってクラックが進行するため、クラック発生による整流体の破損を抑制することができる。
【0036】
例えば、薄板(箔板)状のタングステンとタングステンとの間に、薄板(箔板)状のモリブデンを挟むことによって層状の整流体を構成することができる。モリブデンはタングステンと比べて内部応力を自身の延びで吸収しやすいため、緩衝機能を発揮し、整流体の破損を抑制することができる。また、伝熱体よりも融点の高い素材(セラミックスなど)を金属板と積層させる構成にしてもよく、再結晶化した薄板(箔板)を使用してもよい。
【実施例0037】
以下、実施例について説明する。実施例の整流体は、矩形状の1枚板の整流体であり、原料粉末であるタングステンを加圧して成形し、焼結させ、定められた加工温度、圧下率などに従って、焼結体を熱間圧延加工した。ここでは、整流体の一部断面を、光学顕微鏡で観察した。
【0038】
図6に示すように、実施例の整流体において、30μm前後の幅(厚さ)をもつ集合組織の境界が、圧延方向(板表面方向)に沿って形成され、層状になっている組織が確認された。なお、断面図観察のための断面作製の影響により、粒界に沿って一部クラックが生じている。
【0039】
なお、図6に示す断面層状の整流体はあくまでも一実施例を示すものであり、図6に示す層状に限定されるものではない。それぞれ層の厚さなどを踏まえた加工温度、圧下率を定めることで、様々な断面層状の整流体を構成することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 放電ランプ
30 陽極(電極)
40 整流体
50 密閉空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6