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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121351
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/50 20160101AFI20230824BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20230824BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20230824BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20230824BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20230824BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20230824BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20230824BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20230824BHJP
【FI】
B60W20/50
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W10/06 900
B60W10/10 900
B60W20/15
B60L50/16
B60L3/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024636
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519314766
【氏名又は名称】株式会社BluE Nexus
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】園田 芳裕
(72)【発明者】
【氏名】加藤 準人
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB00
3D202BB01
3D202BB08
3D202BB33
3D202CC14
3D202CC48
3D202CC51
3D202CC53
3D202CC89
3D202DD00
3D202DD20
3D202DD24
3D202DD26
3D202FF06
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BE05
5H125CA08
5H125CC01
5H125EE08
(57)【要約】
【課題】 内燃機関による車両の退避走行中に回転電機の昇温を抑制することができる制御装置を提供する。
【解決手段】 制御装置は、内燃機関、前記内燃機関の出力トルクが入力される回転電機、前記回転電機の制御系、及び前記回転電機の回転を変速する変速機を備える車両の制御装置において、前記制御系の異常、または前記制御系との通信の異常を検出する検出手段と、前記検出手段が前記異常を検出したとき、前記内燃機関の出力トルクにより前記車両を走行させる退避走行を実行する実行手段と、前記退避走行の実行中、前記回転電機の回転数が閾値以上となったとき、前記変速機をアップシフトさせる変速手段とを有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関、前記内燃機関の出力トルクが入力される回転電機、前記回転電機の制御系、及び前記回転電機の回転を変速する変速機を備える車両の制御装置において、
前記制御系の異常、または前記制御系との通信の異常を検出する検出手段と、
前記検出手段が前記異常を検出したとき、前記内燃機関の出力トルクにより前記車両を走行させる退避走行を実行する実行手段と、
前記退避走行の実行中、前記回転電機の回転数が閾値以上となったとき、前記変速機をアップシフトさせる変速手段とを有する、
制御装置。
【請求項2】
前記変速手段は、前記退避走行の実行中、前記回転電機の回転数が前記閾値以上となったとき、前記変速機を1段分アップシフトさせる、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記実行手段は、前記退避走行の実行中、前記回転電機の回転数が前記閾値以上となった回数を計数し、前記回数に応じて前記退避走行を停止する、
請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記実行手段は、前記退避走行の実行中、前記回転電機の回転数が前記閾値以上となってから所定時間が経過した後に前記回数を増加させる、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記実行手段は、前記退避走行の実行中、前記回転電機の回転数が前記閾値以上となった時間を計時し、前記時間に応じて前記退避走行を停止する、
請求項1乃至4の何れかに記載の制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン及びモータを備えるハイブリッド車両において、モータが作動できない異常が発生した場合、エンジンの出力トルクによる退避走行が行われる(例えば特許文献1)。モータが作動できない異常としては、例えばモータを制御するECUなどの制御系の異常、または制御系の通信の異常が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-226328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンの出力トルクがモータを介してトランスミッション及び駆動輪に伝達される構造のハイブリッド車両では、エンジンのクランクシャフトとモータの駆動軸がクラッチを介して互いに互いに係合される。このため、退避走行中、エンジンの回転数の上昇とともにモータの回転数も上昇する。
【0005】
このため、退避走行中、例えばモータを駆動するインバータに一相短絡故障が発生した場合、短絡した相の電機子巻線に過剰な電流が流れることでモータが昇温して過熱状態となるおそれがある。しかし、上記のように、モータが作動できない異常が発生した場合、一相短絡のようなモータに関する故障を検出できないことが考えられるため、退避走行中、モータの昇温を抑制することが難しい。
【0006】
そこで本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、内燃機関による車両の退避走行中に回転電機の昇温を抑制することができる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の制御装置は、内燃機関、前記内燃機関の出力トルクが入力される回転電機、前記回転電機の制御系、及び前記回転電機の回転を変速する変速機を備える車両の制御装置において、前記制御系の異常、または前記制御系との通信の異常を検出する検出手段と、前記検出手段が前記異常を検出したとき、前記内燃機関の出力トルクにより前記車両を走行させる退避走行を実行する実行手段と、前記退避走行の実行中、前記回転電機の回転数が閾値以上となったとき、前記変速機をアップシフトさせる変速手段とを有する。
【0008】
上記の構成において、前記変速手段は、前記退避走行の実行中、前記回転電機の回転数が前記閾値以上となったとき、前記変速機を1段分アップシフトさせてもよい。
【0009】
上記の構成において、前記実行手段は、前記退避走行の実行中、前記回転電機の回転数が前記閾値以上となった回数を計数し、前記回数に応じて前記退避走行を停止してもよい。
【0010】
上記の構成において、前記実行手段は、前記退避走行の実行中、前記回転電機の回転数が前記閾値以上となってから所定時間が経過した後に前記回数を増加してもよい。
【0011】
上記の構成において、前記実行手段は、前記退避走行の実行中、前記回転電機の回転数が前記閾値以上となった時間を計時し、前記時間に応じて前記退避走行を停止してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内燃機関による車両の退避走行中に回転電機の昇温を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ハイブリッド車両システムの一例を示す構成図である。
図2】車両制御装置の一例を示す構成図である。
図3】車速に対するモータジェネレータの回転数の変化を変速段ごとに示す図である。
図4】車両制御装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図5】自動変速機のアップシフトによりモータジェネレータの回転数を低下させる動作の一例を示すタイムチャートである。
図6】超過回数が上限回数に達して退避走行を停止させる動作の一例を示すタイムチャートである。
図7】超過時間が上限時間に達して退避走行を停止させる動作の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(ハイブリッド車両システムの構成)
図1は、ハイブリッド車両システム9の一例を示す構成図である。ハイブリッド車両システム9は、例えばハイブリッド車両に搭載され、車両制御装置1、エンジン2、クラッチ3、モータジェネレータ(MG)4、MG制御装置6、MG駆動システム7、トルクコンバータ(T/C)52、自動変速機(A/T)53、及び駆動輪54を有する。なお、ハイブリッド車両は車両の一例である。
【0015】
エンジン2のクランクシャフト20は、クラッチ3を介してMG4の駆動軸40に接続されている。このため、エンジン2の始動中、MG4にはエンジン2の出力トルクが入力される。MG4の駆動軸は、さらにトルクコンバータの52の入力軸50に接続され、トルクコンバータの52の入力軸50は自動変速機53の入力軸51に接続されている。自動変速機53の出力軸55は、不図示のディファレンシャルギアなどを介して駆動輪54に接続されている。
【0016】
自動変速機53は、MG4の回転を変速する変速機の一例である。自動変速機53は、車両制御装置1の制御に従って例えば6段変速を行う。自動変速機53は、入力軸51の回転数に対する出力軸55の回転数の比を1速から6速の変速段に応じて切り替える。
【0017】
エンジン2は内燃機関の一例である。エンジン2は燃焼室内に供給されたガソリン及び空気の混合気を圧縮して点火することによりシリンダ内のピストンを往復運動させることでクランクシャフト20を回転させる。クラッチ3はクランクシャフト20及び駆動軸40を係合状態及び非係合状態の間で切り替える。クラッチ3は、不図示のソレノイドバルブで制御される油圧に応じ、クランクシャフト20側のクラッチ板と駆動軸40側のクラッチ板を互いに係合させ、または離間させる。
【0018】
また、MG駆動システム7は、バッテリ41、システムメインリレー(SMR: System Main Relay)42、及びインバータ45を有する。バッテリ41は、例えばリチウムイオン電池であり、MG4に電力を供給する。SMR42は、バッテリ41及びインバータ45の間に接続されている。SMR42は、MG制御装置6によりオンオフされる。SMR42がオン状態である場合、MG4に電力が供給され、SMR42がオフ状態である場合、MG4に電力が供給されない。
【0019】
インバータ45は、バッテリ41の直流電流を複数のスイッチ素子のスイッチングにより三相交流電流に変換してMG4に供給する。MG制御装置は、各スイッチ素子にPWM(Pulse Width Modulation)信号などのスイッチング信号を出力することによりスイッチング制御を行う。インバータ45は、u相、v相、及びw相の各電流を生成する。なお、スイッチ素子としては、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が挙げられるが、これに限定されない。
【0020】
MG4は回転電機の一例である。MG4は発電機及びモータの両方の機能を備える。MG4は、モータとして動作する場合、インバータ45から三相交流電流が三相巻線に流れることにより駆動される。MG4には不図示のロータ及びステータが備えられ、三相交流電流によりステータから発生した回転磁界によりロータが回転する。駆動軸40はロータの中心に設けられており、ロータの回転により回転する。
【0021】
また、ハイブリッド車両システム9は、クランク角センサ21、回転数センサ47、及び電流センサ46を有する。クランク角センサ21はエンジン2のクランクシャフト20の角度を検出する。車両制御装置1は、クランク角センサ23から検出値を取得してエンジン2の制御に用いる。
【0022】
回転数センサ47はMG4の駆動軸40の単位時間当たりの回転数(回転速度)を検出する。回転数センサ47は、例えばリゾルバの検出値(ロータの位置)から回転数を検出してもよい。車両制御装置1及びMG制御装置6は回転数センサ47から検出値を取得する。MG制御装置6は回転数センサ47の検出値を用いてインバータ45のスイッチング制御などを行う。車両制御装置1は、後述するように、エンジン2による退避走行の実行中、MG4の昇温を抑制するために回転数センサ47の検出値を監視する。
【0023】
電流センサ46は、インバータ45から出力される三相交流電流の各電流値をそれぞれ検出する。MG制御装置6は電流センサ46の検出値を用いてインバータ45のスイッチング制御などを行う。また、MG制御装置6は電流センサ46の検出値に基づきMG4の一相短絡などの故障を検出する。MG制御装置6は、MG4の故障を検出した場合、例えばSMR42のオフ制御やインバータ45のシャットダウンなどのフェイルセーフ処理を実行する。
【0024】
MG制御装置6はMG4の制御系の一例である。MG制御装置6は、例えばプロセッサ及びメモリを備えるECU(Electronic Control Unit)などのコンピュータである。MG制御装置6は、インバータ45のスイッチング制御などを行うことによりMG駆動システム7を駆動制御する。MG制御装置6は、ハイブリッド車両がMG4及びエンジン2の各出力トルクにより走行する場合、車両制御装置1と通信することにより各種の制御情報を交換してMG駆動システム7を駆動制御する。
【0025】
また、ハイブリッド車両システム9は、アクセル開度センサ90、ブレーキ開度センサ91、車速センサ92、及びマルチインフォメーションディスプレイ(ディスプレイ)93を有する。アクセル開度センサ90は、ハイブリッド車両のアクセルペダル(不図示)の開度を検出して車両制御装置1に出力する。アクセル開度センサ90は、ハイブリッド車両のブレーキペダル(不図示)の開度を検出して車両制御装置1に出力する。車速センサ92はハイブリッド車両の走行速度を検出して車両制御装置1に出力する。
【0026】
ディスプレイ93は、車両制御装置1から入力される情報信号に基づいて、ハイブリッド車両の状態に関する各種の情報を表示する。ディスプレイ93には、例えばハイブリッド車両の走行可能状態を示すReadyオン、及び走行不可能状態を示すReadyオフが表示される。
【0027】
車両制御装置1は制御装置の一例である。車両制御装置1は、例えばエンジン2、クラッチ3、及び自動変速機53などを制御する各種のECUを含む。車両制御装置1は、アクセル開度センサ90、ブレーキ開度センサ91、車速センサ92、クランク角センサ23、及び回転数センサ47の各検出値に応じてハイブリッド車両の動作を制御する。
【0028】
図2は、車両制御装置1の一例を示す構成図である。車両制御装置1は、制御部10、記憶部11、及び通信処理部12を有する。制御部10は、例えばCPU(Central Processing Unit)などの演算回路であり、記憶部11は、例えばフラッシュROM(Read Only Memory)などのメモリである。通信処理部12は、上記の各種のセンサ、エンジン2、及び自動変速機53と信号の送受信を行うための通信回路である。制御部10は記憶部11及び通信処理部12にアクセスすることができる。
【0029】
制御部10は、動作制御部100、エンジン制御部101、変速制御部102、及び異常検出部103を含む。動作制御部100、エンジン制御部101、変速制御部102、及び異常検出部103は、複数のECUに分けて実現してもよいし、単一のECUで実現してもよい。動作制御部100は、所定のシーケンスに従ってエンジン制御部101、変速制御部102、及び異常検出部103にそれぞれ動作を指示する。
【0030】
エンジン制御部101は、ユーザの操作に従い、各種のセンサの検出値に基づいてエンジン2を制御する。例えばエンジン制御部101は、アクセル開度センサ90、ブレーキ開度センサ91、及び車速センサ92からエンジン2の出力トルクの指令値を算出する。エンジン制御部101は、指令値に応じて、クランク角センサ21の検出値などからエンジン2の吸気量及び点火タイミングなどを制御する。
【0031】
変速制御部102は自動変速機53の変速手段の一例である。変速制御部102は、例えばアクセル開度センサ90、ブレーキ開度センサ91、及び車速センサ92の各検出値などに基づいて、動作制御部100からの指示に従って自動変速機53の変速段を適切に切り替える。
【0032】
記憶部11にはギアマップデータ110が記憶されている。ギアマップデータ110は、変速段ごとの車速に対するクランクシャフト20及び駆動軸40の回転数の相関関係を示す特性データである。変速制御部102は、ギアマップデータ110に基づき変速段を切り替える。なお、ギアマップデータ110は予め実験やシミュレーション結果から取得されて記憶部11に書き込まれる。
【0033】
異常検出部103は、MG制御装置6に関する異常の検出手段の一例である。異常検出部103は、例えば周期的に通信処理部12を介してMG制御装置6の動作状態を監視する。異常検出部103は、監視結果に基づき、MG制御装置6の異常、またはMG制御装置6との通信の異常を検出する。
【0034】
異常検出部103は、例えばMG制御装置6から通信処理部12を介して受信した状態信号の情報に基づきMG制御装置6の異常を検出することができる。また、異常検出部103は、MG制御装置6から通信処理部12を介して状態信号を一定時間受信できない場合、または受信できてもエラー数が所定数異常である場合、MG制御装置6との通信の異常を検出することができる。異常検出部103は、MG制御装置6に関する異常(以下、「MG制御異常」と表記)の検出結果を動作制御部100に通知する。
【0035】
エンジン制御部101は、異常検出部103がMG制御異常を検出したとき、エンジン2の出力トルクによりハイブリッド車両を走行させる退避走行を実行する。すなわち、エンジン制御部101は、MG制御異常が発生した場合、MG4の出力トルクを用いず、エンジン2の出力トルクだけで車両を退避走行させる。エンジン制御部101は退避走行の実行手段の一例である。
【0036】
エンジン制御部101は、退避走行を実行中、MG制御異常のため、MG制御装置6からインバータ45の一相短絡などのMG4に関する故障を検出することができない。インバータ45に一相短絡障が発生した場合、短絡した相の巻線に過剰な電流が流れることでMG4が昇温して過熱状態となるおそれがある。
【0037】
そこで変速制御部102は、退避走行の実行中、MG4の回転数が閾値以上となったとき、自動変速機53をアップシフトさせる。これにより、MG4の回転数(駆動軸40の回転数)が低下するため、駆動軸40の回転によりMG4の電機子巻線流れる電流の増加を抑制することができる。このため、ハイブリッド車両の退避走行中、MG4の昇温を抑制することができる。
【0038】
図3は、車速に対するMG4の回転数の変化を変速段ごとに示す図である。図3において、横軸は車速(km/h)を示し、縦軸はMG4の回転数(MG回転数)(rpm)を示す。また、変速段は1速~6速とする。この変速段ごとの回転数の特性はギアマップデータ110として保持されている。
【0039】
変速制御部102は、回転数を閾値k以上になったとき、自動変速機をアップシフトする。これにより、変速制御部102は回転数を閾値k未満に抑える。
【0040】
例えば退避走行の開始時、変速制御部102は4速のポイントPaで自動変速機53を制御していると仮定する。このとき、ユーザがアクセルペダルを踏んで加速すると、エンジン2の出力トルクが増加することにより回転数が閾値kを上回る。これにより、制御点はポイントPaから車速の高い側のポイントPbに移行する。
【0041】
変速制御部102は、回転数が閾値kを上回ったことにより変速段を4速から5速に1段分だけアップシフトする。これにより、回転数は減少して閾値kを下回る。このとき、制御点は4速のポイントPbから5速のポイントPcに移行する。
【0042】
さらにユーザがアクセルペダルを踏んで加速すると、エンジン2の出力トルクが増加することにより回転数が再び閾値kを上回る。これにより、制御点はポイントPcから車速の高い側のポイントPdに移行する。
【0043】
変速制御部102は、回転数が閾値kを上回ったことにより変速段を5速から6速に1段分だけアップシフトする。これにより、回転数は減少して閾値kを下回る。このとき、制御点は5速のポイントPdから6速のポイントPeに移行する。
【0044】
このように、変速制御部102は、退避走行中、回転数が閾値k以上となったとき、自動変速機53を1段分アップシフトする。これにより、車速が上昇して回転数が増加しても変速段の切り替えにより回転数を閾値k未満に抑制することができるとともに、変速段を1段だけアップシフトするために、複数段分アップシフトした場合より車体に生ずる振動を抑制することができる。もっとも、変速制御部102は、これに限定されず、回転数が閾値k以上となると、自動変速機53を複数段分アップシフトしてもよい。
【0045】
また、自動変速機53のアップシフトにより回転数が低下しない場合、エンジン制御部101は退避走行を停止してハイブリッド車両をReadyオフ状態にする。例えばエンジン制御部101は、回転数が閾値k以上になった回数(以下、「超過回数」と表記)を計数するとともに、回転数が閾値k以上になった時間(以下、「超過時間」と表記)をタイマにより計時する。超過時間は、退避走行中に回転数が閾値k以上となってから、回転数が閾値k未満となるまでの時刻である。エンジン制御部101は、超過回数が所定回数を超えた場合、または超過時間が所定時間を超えた場合、退避走行を停止する。このため、回転数が閾値kを超えた状態で退避走行を継続することによるMG4の昇温が抑制される。
【0046】
(車両制御装置の動作)
図4は、車両制御装置1の動作の一例を示すフローチャートである。本動作は、エンジン2及びMG4が始動した後に実行される。
【0047】
まず、エンジン制御部101はハイブリッド車両の通常走行を実行する(ステップSt1)。このとき、エンジン制御部101は、ユーザのアクセル操作に応じて必要となる出力トルクを指令値としてエンジン2及びMG4に配分する。エンジン制御部101は、MG制御装置6にMG4の出力トルクの指令値を通知し、エンジン2の出力トルクの指令値に従ってエンジン2を駆動する。MG制御装置6は、MG4の出力トルクの指令値に従ってインバータ45をスイッチング制御する。このように通常走行では、エンジン制御部101は、エンジン2及びMG4の各出力トルクを用いてハイブリッド車両を走行させる。
【0048】
次に異常検出部103はMG制御異常の有無を判定する(ステップSt2)。MG制御装置6が無いと異常検出部103が判定した場合(ステップSt2のNo)、再びステップSt1の処理が実行される。
【0049】
MG制御装置6が有ると異常検出部103が判定した場合(ステップSt2のYes)、エンジン制御部101はハイブリッド車両の退避走行を実行する(ステップSt3)。このとき、エンジン制御部101は、MG制御異常のため、MG4に出力トルクを配分せずに、必要な全ての出力トルクをエンジン2に出力させる。エンジン2の出力トルクの指令値に従ってエンジン2を駆動する。このように退避走行では、エンジン制御部101は、エンジン2の出力トルクのみを用いてハイブリッド車両を走行させる。
【0050】
次に変速制御部102は、回転数センサ47からMG4の駆動軸40の回転数Nmを取得する(ステップSt4)。次に変速制御部102は回転数Nmと閾値kを比較する(ステップSt5)。回転数Nmが閾値k未満である場合(ステップSt5のNo)、ステップSt3以降の各処理が再び実行される。
【0051】
変速制御部102は、回転数Nmが閾値k以上である場合(ステップSt5のYes)、自動変速機をアップシフトする(ステップSt6)。これにより、上述したように、ハイブリッド車両の車速に応じた回転数が上位の変速段の特性に従うように低下する。
【0052】
次にエンジン制御部101は、超過時間及び超過回数を監視するためのタイマをスタートさせる(ステップSt7)。タイマはハードウェア及びソフトウェアの機能の何れで実現されてもよい。タイマが計時するタイマ値は超過時間に該当する。なお、超過時間及び超過回数の初期値はそれぞれ0である。
【0053】
次にエンジン制御部101はタイマ値を所定値Tnと比較する(ステップSt8)。タイマ値が所定値Tn以下である場合(ステップSt8のNo)、後述するステップSt9~11の各処理は実行されない。
【0054】
タイマ値が所定値Tnより大きい場合(ステップSt8のYes)、エンジン制御部101は超過回数に1を加算する(ステップSt9)。このように、エンジン制御部101は、ハイブリッド車両の退避走行の実行中、駆動軸40の回転数Nmが閾値k以上となってから所定時間(Tn)が経過した後に超過回数を増加させる。このため、例えば回転数センサの誤差などによって回転数Nmが閾値k近傍で繰り返し増減した場合、超過回数が誤って多く加算されることが抑制される。このため、超過回数を高精度に計数することができる。
【0055】
次にエンジン制御部101は超過回数を上限回数Nmaxと比較する(ステップSt10)。上限回数Nmaxは超過回数の上限であり、例えばMG4及びインバータ45の電気的な特性に基づいて予め設定される。
【0056】
エンジン制御部101は、超過回数が上限回数Nmaxに達した場合(ステップSt10のYes)、アップシフトによるMG4の昇温の抑制が難しいと判断し、Readyオフ処理を実行する(ステップSt14)。このとき、エンジン制御部101は、ハイブリッド車両の走行が不可能であるReadyオフ状態をディスプレイ93に表示する。これにより、ユーザにハイブリッド車両が停止することを通知する。
【0057】
次にエンジン制御部101はハイブリッド車両の退避走行を停止させる(ステップSt15)。このとき、エンジン制御部101は所定のパターンに従ってエンジン2の動作を停止する。これにより、自動変速機53のアップシフトによって回転数Nmの増加の抑制が難しい場合でもMG4の昇温を抑制することができる。
【0058】
また、エンジン制御部101は、超過回数が上限回数Nmax未満である場合(ステップSt10のNo)、タイマ値を上限時間Tmと比較する(ステップSt11)。上限時間Tmは、超過時間であるタイマ値の上限であり、例えばMG4及びインバータ45の電気的な特性に基づいて予め設定される。
【0059】
エンジン制御部101は、超過時間が上限時間に達した場合(ステップSt11のYes)、アップシフトによるMG4の昇温の抑制が難しいと判断し、Readyオフ処理を実行する(ステップSt14)。次にエンジン制御部101はハイブリッド車両の退避走行を停止させる(ステップSt15)。
【0060】
エンジン制御部101は、超過時間が上限時間未満である場合(ステップSt11のNo)、回転数センサ47からMG4の駆動軸40の回転数Nmを取得する(ステップSt12)。次にエンジン制御部101は回転数Nmと閾値kを比較する(ステップSt13)。回転数Nmが閾値k以上である場合(ステップSt13のNo)、回転数Nmが減少していないため、ステップSt11以降の各処理が再び実行される。
【0061】
また、エンジン制御部101は、回転数Nmが閾値k未満である場合(ステップSt13のYes)、回転数Nmがアップシフトにより減少したと判断し、再び退避走行を実行する(ステップSt3)。その後、ステップSt4以降の各処理が再び実行される。
【0062】
このように、エンジン制御部101は、退避走行の実行中、駆動軸40の回転数Nmが閾値k以上となった超過回数を計数し、超過回数に応じて退避走行を停止する。また、エンジン制御部101は、退避走行の実行中、駆動軸40の回転数Nmが閾値k以上となった超過時間(タイマ値)を計時し、超過時間に応じて。退避走行を停止する。
【0063】
このため、変速制御部102が自動変速機53をアップシフトしても回転数Nmが閾値k未満に低下しない場合、エンジン制御部101は退避走行を停止することにより、駆動軸40の回転数Nmを低下させてMG4の昇温を抑制することができる。
【0064】
(車両制御装置の動作例)
次に図5図7を参照して車両制御装置1の動作例を説明する。図5図7には、MG4(駆動軸40)の回転数Nm、走行モード、超過フラグ、超過回数、変速段、及び走行可否状態の時刻変化が示されている。ここで、走行モードは、上述したようにエンジン2及びMG4の各出力トルクを用いて走行する通常走行と、エンジン2の出力トルクのみを用いて走行する退避走行とがある。
【0065】
超過フラグは、超過回数を計数のトリガーとなるフラグであり、「0」から「1」に変化した場合、超過回数に1が加算される。走行可否状態は、走行可能状態のReadyオンと、走行不可能状態のReadyオフとがある。また、本例において、上限回数Nmaxは2回に設定されていると仮定する。
【0066】
図5は、自動変速機53のアップシフトによりMG4の回転数を低下させる動作の一例を示すタイムチャートである。時刻T1においてエンジン制御部101は、異常検出部103がMG制御異常を検出したことにより、走行モードを通常走行から退避走行に切り替える。MG4の回転数は、通常走行中の時刻T0において閾値kを超え、時刻T1においても閾値k以上である。
【0067】
自動変速機53の変速段は初期状態では4速であるとする。変速制御部102は、走行モードが退避走行に切り替わった時刻T1において、MG4の回転数が閾値k以上であるため、自動変速機53を4速から5速にアップシフトさせる。これにより、MG4の回転数が減少を開始し、時刻T3において閾値kを下回る。これにより、インバータ45の一相短絡が発生した場合でも、MG4の昇温を抑制することができる。
【0068】
また、エンジン制御部101は、退避走行中、超過時間をタイマにより監視する。エンジン制御部101は、時刻T2において超過時間が所定値Tnを超えると、超過フラグを「0」から「1」に更新する。エンジン制御部101は、超過フラグの変化をトリガーとして超過回数に1を加算する。なお、エンジン制御部101は、回転数が閾値k未満となる時刻T3において超過フラグを「1」から「0」に更新する。
【0069】
本例では、超過回数は上限回数Nmax(=2)未満であり、また、超過時間は上限時間Tm未満である。このため、エンジン制御部101は、退避走行中もReadyオンを維持することができる。
【0070】
図6は、超過回数が上限回数Nmaxに達して退避走行を停止させる動作の一例を示すタイムチャートである。図6において、図5と共通する時刻T0~T3の動作の説明は省略する。
【0071】
MG4の回転数は、時刻T3において閾値kを下回った後、時刻T10において再び閾値k以上となる。これに応じて変速制御部102は、自動変速機53を5速から6速にアップシフトさせる。これにより、MG4の回転数が減少を開始し、時刻T12において閾値kを下回る。
【0072】
また、エンジン制御部101は、時刻T11において超過時間が所定値Tnを超えると、超過フラグを「0」から「1」に更新する。エンジン制御部101は、超過フラグの変化をトリガーとして超過回数に1を加算する。これにより、超過回数は上限回数Nmax(=2)に達する。なお、エンジン制御部101は、回転数が閾値k未満となる時刻T12において超過フラグを「1」から「0」に更新する。
【0073】
エンジン制御部101は、超過回数が上限回数Nmaxに達したことにより走行可否状態をReadyオフとする。また、エンジン制御部101は退避走行を停止する。このように、車両制御装置1は、自動変速機53をアップシフトさせても超過回数が上限回数に達した場合、アップシフトによるMG4の昇温の抑制が難しいと判断してエンジン2を停止させることにより回転数を低下させ、MG4の昇温を抑制する。
【0074】
図7は、超過時間が上限時間Tmに達して退避走行を停止させる動作の一例を示すタイムチャートである。図7において、図5と共通する時刻T0~T2の動作の説明は省略する。
【0075】
MG4の回転数は、自動変速機53のアップシフトの後、減少するが、時間に対する減少率が小さいため、時刻T20において超過時間が上限時間Tmを超える。エンジン制御部101は、時刻T20において超過時間が上限時間Tmを超えたことにより走行可否状態をReadyオフとする。また、エンジン制御部101は退避走行を停止する。
【0076】
このように、車両制御装置1は、自動変速機53をアップシフトさせても超過時間が上限時間Tmに達した場合、アップシフトによるMG4の昇温の抑制が難しいと判断してエンジン2を停止させることにより回転数を低下させ、MG4の昇温を抑制する。
【0077】
なお、本実施例において、車両制御装置1は、超過回数及び超過時間の両方を監視した結果に応じて退避走行を停止させたが、超過回数及び超過時間の一方の監視結果のみに応じて退避走行を停止させてもよい。
【0078】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 車両制御装置(制御装置)
2 エンジン(内燃機関)
4 モータジェネレータ(回転電機)
6 MG制御装置(制御系)
53 自動変速機(変速機)
101 エンジン制御部(実行手段)
102 変速制御部(変速手段)
103 異常検出部(検出手段)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7