(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121359
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】ポリウレタン系材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 18/67 20060101AFI20230824BHJP
A61K 6/893 20200101ALI20230824BHJP
C08F 290/14 20060101ALI20230824BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C08G18/67 050
A61K6/893
C08F290/14
C08F2/44 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024657
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】海老原 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山口 剛正
【テーマコード(参考)】
4C089
4J011
4J034
4J127
【Fターム(参考)】
4C089AA09
4C089BE10
4C089CA04
4J011PA07
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4J011PA15
4J011PB22
4J011PC02
4J034BA01
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4J034HC03
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4J127AA03
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4J127BG28Y
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4J127EA05
4J127FA45
(57)【要約】
【課題】 強度、耐水性のみならず透明性にも優れた、架橋構造を有するポリウレタン系材料を安定して製造することができる方法を提供する。
【解決手段】 1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(a1)及び非重付加性ラジカル重合性単量体(B)を含み、前記ラジカル重合開始剤(C)を含んでいてもよい1次原料組成物を脱水処理して、これに含まれる水分量を、液体成分の総質量を基準として20000ppm以下にしてから、ジイソシアネート化合物(a2)を加え前記(a1)と(a2)を重付加ささせて数平均分子量が1500~10000の分子内にラジカル重合性基を有するポリウレタン成分(A)を形成させ、さらにこれをラジカル重合させて硬化させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(a1);ジイソシアネート化合物(a2);分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有し、前記ジオール化合物(a1)、及び前記ジイソシアネート化合物(a2)の何れとも重付加反応を起こさない非重付加性ラジカル重合性単量体(B);並びにラジカル重合開始剤(C)を原料として用い、
前記ジオール化合物(a1)及び前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B)を含み、前記ラジカル重合開始剤(C)を含んでいてもよい1次原料組成物を調製する1次原料組成物調製工程;
前記1次原料組成物と、前記ジイソシアネート化合物(a2)と、を混合して前記ジイソシアネート化合物(a2)と重付加さることによって、数平均分子量が1500~10000であり、且つ分子内にラジカル重合性基を有するポリウレタン成分(A)を形成すると共に、前記1次原料組成物が前記ラジカル重合開始剤(C)を含まない場合にはこれを添加し、前記ポリウレタン成分(A)、前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B)及び前記ラジカル重合開始剤(C)を含み、未反応の前記ジオール化合物(a1)及び/又は未反応の前記ジイソシアネート化合物(a2)を含んでいてもよい2次原料組成物を調製する2次原料組成物調製工程;
前記2次原料組成物中の前記ポリウレタン成分(A)と、前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B)と、をラジカル重合開始剤(C)を用いてラジカル重合させて硬化させる重合・硬化工程;
を含むことによって、架橋構造を有するポリウレタン系材料を製造する方法であって、
前記2次原料組成物調製工程を行う前に、前記1次原料組成物を脱水処理して該1次原料組成物に含まれる水分量を、該1次原料組成物の液体成分の総質量を基準として20000ppm以下とする乾燥工程を更に含む、
ことを特徴とする前記ポリウレタン系材料の製造方法。
【請求項2】
前記原料が充填材(D)を更に含み、前記1次原料組成物調製工程において充填材(D)を更に含む1次原料組成物を調製する、請求項1に記載のポリウレタン系材料の製造方法。
【請求項3】
被処理物である前記1次原料組成物を、常圧、絶対湿度6.0(g/m3)以下に保たれた除湿乾燥機内に保持することにより前記乾燥工程における脱水処理をおこなう、請求項1又は2に記載のポリウレタン系材料の製造方法。
【請求項4】
前記1次原料組成物の前記除湿乾燥機内での保持を、前記1次原料組成物を開口容器内に入れ、(1)被処理物である前記1次原料組成物の質量:w(g)に対する外気接触面積:s(cm2)の比:s/w(g/cm2)が0.30(g/cm2)以上となるような状態で静置して行うか、又は(2)撹拌下に行う、請求項3に記載のポリウレタン系材料の製造方法。
【請求項5】
前記重合性単量体(B)の蒸気圧が、25℃において、0.001~1.60Paの範囲である、請求項1~4の何れか1項に記載のポリウレタン系材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科切削加工用材料として好適に使用できるポリウレタン系材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、インレー、アンレー、クラウン、ブリッジ、インプラント上部構造などの歯科用補綴物を作製する一手法として、歯科用CAD/CAMシステムを用いて切削加工する方法がある。歯科用CAD/CAMシステムとは、コンピュータを利用して三次元座標データに基づいて歯科用補綴物の設計を行い、切削加工機などを用いて歯冠修復物を作成するシステムである。切削加工用材料としては、ガラスセラミックス、ジルコニア、チタン、レジンなど様々な材料が用いられる。歯科切削加工用レジン系材料としては、シリカ等の無機充填材、メタクリレートなどの重合性単量体、重合開始剤等を含有する硬化性組成物を用い、これをブロック形状、ディスク形状に硬化させた硬化物が使用されている。切削加工用材料は、コンピュータシステムを活用することにより、従来の歯科用補綴物の作製方法よりも、工程数が短いことに起因する作業性の高さや、硬化体の審美性、ないし強度の観点から関心が高まっている。
【0003】
このような切削加工用材料は、主に歯冠部で適用されており、大臼歯冠やブリッジとして使用される場合、より高強度が求められる。ポリウレタン樹脂は、一般的に高強度を有することが知られており、歯科材料として用いることが検討されている。例えば、特許文献1には、切削加工用材料に好適に使用できるポリウレタン系複合材料として、ポリウレタン樹脂の内部にラジカル重合性基の重合により形成される架橋構造を導入することにより、ポリウレタン樹脂の高強度であるという特徴を生かしつつ、その欠点である耐水性の低さを改善したポリウレタン系複合材料が記載されており、その製造方法についても記載されている。
【0004】
すなわち、特許文献1には、原料として、1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(a1);ジイソシアネート化合物(a2);分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有し、前記ジオール化合物(a1)、及び前記ジイソシアネート化合物(a2)の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体(B)(以下、「非重付加性ラジカル重合性単量体」ともいう。);ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を用い、前記ジオール化合物(a1)、前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B)、及び前記充填材(D)を含む1次原料組成物を調製した後に、該1次原料組成物に前記ジイソシアネート化合物(a2)をさらに添加し、重付加させて分子量を1500~5000に調整したポリウレタン成分(A)を形成させることにより該ポリウレタン成分(A)及び前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B)を含む2次原料組成物を調製し、更に該2次原料組成物中の前記(A)に含まれるラジカル重合性基と前記(B)と、を反応させて架橋構造を導入することによって製造されるポリウレタン系複合材料は、全体が均一で強度及び耐水性に優れ、歯科用切削加工用材料に適したものであることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2021/153446号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された前記ポリウレタン系複合材料は、上記したような特徴を有する優れたものであるが、特許文献1に記載の複合材料の製造方法に従って製造した場合には、得られるポリウレタン系複合材料の透明性にバラツキがあることが判明した。
【0007】
透明性が安定しないポリウレタン系複合材料を歯科用切削加工用材料として用いて歯科用補綴物を作製した場合には、審美性に優れた補綴物を安定的に得ることができなくなる。たとえば審美修復用のクラウンをCAD/CAMシステムで作製する場合においては、透明性の高いエナメル質部と比較的不透明な象牙質の状態を再現するために歯科用切削加工用材料の色調を顔料により調整することが行われているが、材料の透明性を制御できない場合には、審美性に優れる補綴物を安定して得ることが困難になる。さらに、透明性の異なる2つの層からなら2層構造とすると共に、同一の顔料を用いて両層が同一系統色になるように色調の調整をする場合にも、このような2層構造の歯科用切削加工用材料の製造が非常に困難になってしまう。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、強度、耐水性のみならず透明性にも優れた、架橋構造を有するポリウレタン系材料を安定して製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(a1);ジイソシアネート化合物(a2);分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有し、前記ジオール化合物(a1)、及び前記ジイソシアネート化合物(a2)の何れとも重付加反応を起こさない非重付加性ラジカル重合性単量体(B);並びにラジカル重合開始剤(C)を原料として用い、
前記ジオール化合物(a1)及び前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B)を含み、前記ラジカル重合開始剤(C)を含んでいてもよい1次原料組成物を調製する1次原料組成物調製工程;
前記1次原料組成物と、前記ジイソシアネート化合物(a2)と、を混合して前記ジイソシアネート化合物(a2)と重付加さることによって、数平均分子量が1500~10000であり、且つ分子内にラジカル重合性基を有するポリウレタン成分(A)を形成すると共に、前記1次原料組成物が前記ラジカル重合開始剤(C)を含まない場合にはこれを添加し、前記ポリウレタン成分(A)、前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B)及び前記ラジカル重合開始剤(C)を含み、未反応の前記ジオール化合物(a1)及び/又は未反応の前記ジイソシアネート化合物(a2)を含んでいてもよい2次原料組成物を調製する2次原料組成物調製工程;
前記2次原料組成物中の前記ポリウレタン成分(A)と、前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B)と、をラジカル重合開始剤(C)を用いてラジカル重合させて硬化させる重合・硬化工程;
を含むことによって、架橋構造を有するポリウレタン系材料を製造する方法であって、
前記2次原料組成物調製工程を行う前に、前記1次原料組成物を脱水処理して該1次原料組成物に含まれる水分量を、該1次原料組成物の液体成分の総質量を基準として20000ppm以下とする乾燥工程を更に含む、
ことを特徴とする前記ポリウレタン系材料の製造方法である。
【0010】
上記形態の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)においては、前記原料が充填材(D)を更に含み、前記1次原料組成物調製工程において充填材(D)を更に含む1次原料組成物を調製する、ことが好ましい。
【0011】
また、被処理物である前記1次原料組成物を、常圧、絶対湿度6.0(g/m3)以下に保たれた除湿乾燥機内に保持することにより前記乾燥工程における脱水処理をおこなう、ことが好ましい。
【0012】
更に、上記好適な態様においては、前記1次原料組成物の前記除湿乾燥機内での保持を、前記1次原料組成物を開口容器内に入れ、(1)被処理物である前記1次原料組成物の質量:w(g)に対する外気接触面積:s(cm2)の比:s/w(g/cm2)が0.30(g/cm2)以上となるような状態で静置して行うか、又は(2)撹拌下に行う、ことが好ましい。
【0013】
また、本発明の製造方法においては、前記重合性単量体(B)の蒸気圧が、25℃において、0.001~1.60Paの範囲である、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、強度、耐水性のみならず、透明性にも優れた、歯科切削加工用材料として好適に使用することができるポリウレタン系複合材料を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者等は、上記課題を解決するために透明性が低下する原因について検討を行った。一般的に、イソシアネートはアルコールと反応することでウレタンを形成するが、この際に、イソシアネートが水と反応して脱炭酸することで生成したアミンがさらにイソシアネートと反応することでウレアを形成するという副反応を起こすことが知られている。ウレアはウレタンよりも結晶性が高く、生成すると透明性を低下させることがある。このことから、特許文献1に記載された製造方法においては、2次原料組成物を得る2次原料組成物調製工程までで混入した水分の量によっては、重付加時にウレアが生成し、得られる硬化体の透明性が低下すると考えられる。
【0016】
そこで、本発明者等は、ウレアの原料となる水分量を制御することで、生成物であるポリウレタン系複合材料の透明性低下を防止することを着想し、検討を行った。その結果、前記1次原料組成物を得る工程において、環境中の水分の混入が避けられないこと、特定の方法を採用すれば得られた前記1次原料組成物の乾燥(水分除去)が良好に行えること、及び1次原料組成物マトリックス成分に含まれる水分量を20000ppm以下とすることで、最終的に得られる硬化体の透明性が安定化すること、このような効果は、原料に充填材を含まず、充填材と複合化していないポリウレタン系材料においてもみられることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。以下に本発明の製造方法について詳しく説明する。
【0017】
なお、本願明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本願明細書において、「(メタ)アクリル」との用語は「アクリル」及び「メタクリル」の両者を意味する。
【0018】
1.本発明の製造方法
本発明の製造方法は、基本的には特許文献1に記載された製造方法を改良するものである。そのため、特許文献1に記載された製造方法と同様に1次原料組成物調製工程、2次原料組成物調製工程及び重合・硬化工程を含むが、(1)原料として充填材を特に用いる必要がない点、(2)前記2次原料組成物調製工程を行う前に前記1次原料組成物を脱水処理して該1次原料組成物中に含まれる水分量を、該1次原料組成物の液体成分の総質量を基準として20000ppm以下とする乾燥工程を更に含む点、及び(3)これらに起因してポリウレタン成分(A)の数平均分子量の許容範囲が変化している点、で異なっており、これらを特徴点としている。これら特徴点以外については、特許文献1に記載された製造方法と特に変わる点はないが、これらの点を含めて、以下に、本発明の製造方法で使用する各種原材料及び各工程等について説明する。
【0019】
2.各種原材料について
2-1.ラジカル重合性ジオール化合物(a1)
ラジカル重合性ジオール化合物(a1)は、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を形成するための原料となる化合物である。そして、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)が有する2つのヒドロキシル基と、もう一方のポリウレタン前駆体成分であるジイソシアネート化合物(a2)のイソシアネート基とが、2次原料組成物調製工程で重付加反応を起こすことにより、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)が形成される。
【0020】
ラジカル重合性ジオール化合物(a1)としては、分子内に少なくとも1つのラジカル重合性基を有し、かつ、2個のヒドロキシル基を有する化合物が特に制限なく使用できる。ここで、ラジカル重合性基とは、ラジカルを発生させる開始剤により反応し、重合する官能基を意味し、具体的には、ビニル基、(メタ)アクリレート基、及び、スチリル基等のラジカル重合性炭素-炭素二重結合を有する基を意味する。
【0021】
ジオール化合物がラジカル重合性基を有することによって重付加反応により形成されるポリウレタン分子の主鎖にラジカル重合性基が導入される。また、重合・硬化工程におけるラジカル重合の際にラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の分子内のラジカル重合性基同士、あるいは、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の分子内のラジカル重合性基と非重付加性ラジカル重合性単量体(B)のラジカル重合性基と、が反応して結合を形成することにより架橋が形成される。これにより、硬化体であるポリウレタン系材料の耐水性が向上する。
【0022】
生成物であるポリウレタン系材料の強度及び耐水性の観点から、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)の分子内に含まれるラジカル重合性基の数は、1~4であることが好ましく、特に1~2であることが好ましい。ラジカル重合性基の数を4以下とした場合には、ラジカル重合反応時に形成される硬化体の収縮を抑制することがより容易となる。
【0023】
ラジカル重合性ジオール化合物(a1)として好適に使用される化合物としては、たとえば、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルの酸((メタ)アクリル酸やビニル安息香酸)開環物等を挙げることができる。これらは、単独で、又は異なる種類のものを混合して使用することができる。
【0024】
2-2.ジイソシアネート化合物(a2)
ジイソシアネート化合物(a2)は、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を形成するためのもう一方のポリウレタン前駆体成分であり、1分子中に2個のイソシアネート基を有する公知の化合物が特に限定されず使用できる。
【0025】
ジイソシアネート化合物(a2)として好適に使用される化合物としては、たとえば、1,3-ビス(2-イソシアナト-2-プロピル)ベンゼン、2,2-ビス(4-イソシアナトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、4,4‘-ジイソシアン酸メチレンジフェニル、3,3’-ジクロロ-4,4‘-ジイソシアナトビフェニル、4,4’-ジイソシアナト-3,3‘-ジメチルビフェニル、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアナート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアナート、ノルボルナンジイソシアネート、ジイソシアン酸イソホロン、1,5-ジイソシアナトナフタレン、ジイソシアン酸1,3-フェニレン、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、トリレン-2,4-ジイソシアナート、トリレン-2,6-ジイソシアナート、m-キシリレンジイソシアナートなどを挙げることができる。
【0026】
これらの中でも、ジイソシアネート化合物(a2)としては、得られる2次原料組成物の流動性と得られるポリウレタン系複合材料の強度との観点から分子内にフェニル基を有するジイソシアネート化合物(a2)が好ましい。
【0027】
2次原料組成物調製工程におけるラジカル重合性ジオール化合物(a1)に対するジイソシアネート化合物(a2)の使用量は、モル比〔ジイソシアネート化合物(a2)使用量/ラジカル重合性ジオール化合物(a1)の使用量〕で1モル/モル前後であれば特に制限されないが、一般的には、0.9~1.2モル/モル程度であることが好ましい。なお、2次原料組成物を得る2次原料組成物調製工程において、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)とジイソシアネート化合物(a2)とが定量的に反応してラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を形成すると共に未反応物を極力減らすという観点からは、モル比は、1.0~1.1モル/モルが好ましい。
【0028】
2-3.ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)
ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)は、2次原料組成物調製工程においてラジカル重合性ジオール化合物(a1)とジイソシアネート化合物(a2)との重付加反応により形成される成分であり、数平均分子量が1500~10000で、且つ分子内にラジカル重合性基を有する。そして、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の構造は、1次原料組成物を得る工程において使用するラジカル重合性ジオール化合物(a1)及び2次原料組成物調製工程で使用されるジイソシアネート化合物(a2)によってほぼ一義的に決定される。
【0029】
また、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)は、ラジカル重合開始剤(C)の触媒作用により、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)とラジカル重合することによって、最終生成物であるポリウレタン系材料を構成する成分である。そして、原料として充填材(D)を更に用いてポリウレタン系複合材料を製造する場合には、その中のポリウレタン系樹脂マトリックスを構成する成分でもある。したがって、この場合には、2次原料組成物から、充填材(D)を除外した残りの成分、言い換えれば、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)と、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)と、ラジカル重合開始剤(C)とを主成分として含む成分は、マトリックス原料組成物と呼ぶこともできる。なお、2次原料組成物が、A~D成分以外の成分をさらに含む場合において、該その他成分がラジカル重合性ポリウレタン成分(A)及び/または非重付加性ラジカル重合性単量体(B)に溶解するときは、該その他成分もマトリックス原料組成物を構成する。
【0030】
2次原料組成物に含まれるラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の数平均分子量は、1500~10000の範囲であればよい。なお、特許文献1に記載された製造方法におけるラジカル重合性ポリウレタン成分(A)は、その数平均分子量が1500~5000の範囲内に制御されたものである必要があり、その上限は主として成形性の観点から決められたものであるが、本発明では充填材を含まなくてもよく、その場合(2次原料組成物がマトリックス原料組成物である場合)には成形性も向上するため、上限値が広がっている。
【0031】
ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の数平均分子量は、最終的に得られるポリウレタン系複合材料の透明性にほとんど影響を与えないが、その数平均分子量自体は前記1次原料組成物中の水分量の影響を受ける。すなわち、重付加反応において、水は当量のイソシアネートと反応し、脱炭酸することでアミンを形成した後、当量のイソシアネートとさらに反応してウレアを形成することから、1次原料組成物に含まれる水分による影響を受ける。このため、上記水分量と関連して、透明性が安定したポリウレタン系(複合)材料が得られやすいという観点から数平均分子量の下限値は、2000、特に2500であることが好ましい。
【0032】
なお、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の数平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィ)測定で決定されるポリスチレン換算の数平均分子量を意味する。2次原料組成物中のラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の数平均分子量は、ラジカル原重合性原料組成物に必要に応じてTHF(テトラヒドロフラン)やジメチルスルホキシド(DMSO)等の溶媒を加え、充填材(D)などの不溶成分を濾過、遠心分離などの操作で除去し、得られた溶液(すなわち、マトリックス原料組成物、あるいは、マトリックス原料組成物と必要に応じて加えた溶媒との混合物からなる溶液)についてGPC測定を行うことにより、求めることができる。
【0033】
2-4.非重付加性ラジカル重合性単量体(B)
非重付加性ラジカル重合性単量体(B)は、分子内に、少なくとも1つのラジカル重合性基を有し、かつ、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)及びジイソシアネート化合物(a2)の何れとも重付加反応を起こさない化合物である。ここで、「ラジカル重合性ジオール化合物(a1)及びジイソシアネート化合物(a2)の何れとも重付加反応を起こさない」とは、分子内に、ラジカルジオール化合物(a1)と重付加反応を起こす基、及び、ジイソシアネート化合物(a2)と重付加反応を起こす基の双方が含まれないことを意味し、具体的にはヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基及びメルカプト基が含まれないことを意味する。これらの官能基のうち、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)と重付加反応を起こし得る基は、イソシアネート基が挙げられ、ジイソシアネート化合物(a2)と重付加反応を起こし得る基は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基が挙げられる。したがって、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)は、分子内にヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基及びメルカプト基を有さない。また、ラジカル重合性基は、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)が有するラジカル重合性基と同様の基が利用できる。好適なラジカル重合性基としては、(メタ)アクリレート基及び/または(メタ)アクリルアミド基や、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)が有するラジカル重合性基と同一の分子構造を持つ基が好ましい。非重付加性ラジカル重合性単量体(B)の分子内に含まれるラジカル重合性基の数は、架橋の形成し易さの観点から、2~6個であることが好ましく、2~4個であることがより好ましい。ラジカル重合性基の数を2個以上とすることにより、架橋密度をより大きくできるため、十分な強度を有する硬化体を得ることがより容易になる。また、ラジカル重合性基の数を6個以下とすることにより、硬化時の収縮を抑制することがより容易になる。また、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)は室温(すなわち25℃)で液体であることが好ましい。
【0034】
また、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)の蒸気圧は、乾燥工程の温度において、0.001~1.60Paであることが好ましい。1.60Paより蒸気圧が大きい場合、特に、乾燥工程が長時間化した場合において、重合性単量体(B)が揮発し、得られる2次原料組成物の充填率が高くなり、操作性が悪化し、最終的に均一な透明性の硬化体を得ることが難しくなる場合がある。後述するように、乾燥工程は常温(例えば通常の室内温度である15~35℃)~80℃で行うことが好ましいため、25℃における蒸気圧が0.001~1.60Paである非重付加性ラジカル重合性単量体(B)を使用することが好ましい。このような蒸気圧を有する非重付加性ラジカル重合性単量体(B)としては、たとえば、ジエチレングリコールジアクリレート(蒸気圧:0.268Pa)、ジエチレングリコールジメタクリレート(蒸気圧:0.0364Pa)、トリエチレングリコールジアクリレート(蒸気圧:0.0127Pa)、トリエチレングリコールジメタクリレート(蒸気圧:0.0159Pa)、トリメチロールプロパンアクリレート(蒸気圧:7.03×10-4Pa)、トリメチロールプロパンメタクリレート(蒸気圧:3.22×10-5Pa)、ペンタエリスリトールアクリレート(蒸気圧:3.55×10-6Pa)、ペンタエリスリトールメタクリレート(蒸気圧:6.32×10-8Pa)、ジトリメチロールプロパンアクリレート(蒸気圧:1.28×10-9Pa)、ジトリメチロールプロパンメタアクリレート(蒸気圧:1.69×10-11Pa)、ジペンタエリスリトールアクリレート(蒸気圧:3.47×10-14Pa)、ジペンタエリスリトールメタクリレート(蒸気圧:4.09×10-17Pa)等を例示することができる。これらの中でも、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、が特に好ましい。
【0035】
2次原料組成物中の非重付加性ラジカル重合性単量体(B)の含有量は、前記2次原料組成物に含まれる前記各成分の含有量(質量部)を、夫々、前記ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の含有量:Ar、前記非重付加性重合性単量体(B)の含有量:Br、前記ラジカル重合性ジオール化合物(a1)の含有量:a1r及び前記ジイソシアネート化合物(a2)の含有量:a2rとしたときに、下記式(1):
Rr=100×Br/〔a1r+a2r+Ar+Br〕
で定義される重合性単量体配合比率:Rrが20質量%以上80質量%未満となる量であることが好ましい。
【0036】
重合性単量体配合比率Rrを80質量%以下とすることにより、強度の向上に寄与するラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の含有割合が大きくなり、十分な強度を持つポリウレタン系複合材料を得ることができる。また、重合性単量体配合比率Rrを20質量%以上とすることにより、2次原料組成物の均質性が高くなるため、結果的に、得られる硬化体の硬化ムラを抑制し均一性に優れた硬化体を得ることができる。
【0037】
2-5.ラジカル重合開始剤(C)
ラジカル重合開始剤(C)としては、熱ラジカル重合開始剤及び/または光ラジカル重合開始剤が使用できるが、2次原料組成物の内部まで均一に硬化させることができる点から、熱ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。熱重合開始剤としては、取り扱い易さや安定性の観点から、10時間半減期温度が40℃~150℃の範囲である熱重合開始剤が好ましく、10時間半減期温度が70℃~100℃の範囲である10時間半減期温度が特に好適である。ここで、10時間半減期温度とは、熱重合開始剤の存在量が、初期から10時間経過後に初期の半分に減ずる温度のことであり、熱重合開始剤の反応性を表す指標として用いられる。好適に使用できる熱ラジカル重合開始剤を具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイドやtert-ブチルパーオキシラウレートなどのような過酸化物開始剤、アゾビスブチロニトリルやアゾビス(2,4-ジメチルバレロ ニトリル)などのようなアゾ系の開始剤などを挙げることができる。これら熱重合開始剤は、単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0038】
ラジカル重合開始剤(C)の使用量は、その種類に応じて適宜決定すればよいが、通常、マトリックス原料組成物の質量を基準として0.005質量%~2.0質量%の範囲であることが好ましく、0.01質量%~1.0質量%の範囲であることがより好ましい。
【0039】
2-6.充填材(D)
充填材(D)は、必要に応じて原料として使用されるものであり、ポリウレタン系樹脂マトリックス中に分散して、ポリウレタン系樹脂マトリックスと複合化することにより、ポリウレタン系複合材料の機械的強度、耐摩耗性及び耐水性等の物性を向上させる機能を有する。
【0040】
充填材(D)としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、あるいは、それらの複合酸化物、ガラス等の無機充填材を用いることが好ましい。このような、無機充填材を具体的に例示すれば、非晶質シリカ、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-ジルコニア、石英、アルミナなどの球形状粒子あるいは不定形状粒子を挙げることができる。なお、本発明の製造方法により製造されたポリウレタン系複合材料を歯科材料として利用する場合、充填材(D)としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、あるいは、それらの複合酸化物を用いることが好ましく、シリカ、あるいは、その複合酸化物であることが特に好ましい。これらの無機充填材は、口腔内環境において溶解のおそれがなく、ポリウレタン樹脂系マトリックスとの屈折率差が調整しやすく、透明性や審美性を制御しやすいためである。
【0041】
充填材(D)の形状は、特に限定されず、目的のポリウレタン系複合材料の用途に応じて適宜選択することができるが、たとえば、耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性に特に優れたポリウレタン系複合材料が得られる観点からは、(略)球形状であることが好適である。
【0042】
充填材(D)の平均粒子径は、耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性の観点から0.001μm~100μmであることが好ましく、0.01μm~10μmであることがより好ましい。また、ポリウレタン系複合材料中における充填材(D)の含有率を向上させやすいという点から、複数の粒径を有する充填材(D)を用いることが好ましい。具体的には、0.001μm~0.1μmの粒径と0.1μm~100μmの粒径を組み合わせることが好ましく、0.01μm~0.1μmの粒径と0.1μm~10μmの粒径を組み合わせることがより好ましい。
【0043】
無機フィラーの上記平均粒子径は、たとえば、走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、「XL-30S」)で粉体の写真を5000~100000倍の倍率で撮り、画像解析ソフト(「IP-1000PC」、商品名;旭化成エンジニアリング社製)を用いて、撮影した画像の処理を行い、その写真の単位視野内に観察される粒子の数n(30個以上)および一次粒子径(最大径)Xiを測定し、測定値に基づき下記式(2):
により数平均一次粒子径を算出することにより求められる。
【0044】
充填材(D)としては、ポリウレタン系樹脂マトリックスとのなじみをよくし、ポリウレタン系複合材料の機械的強度や耐水性を向上させるために、表面処理を行ったものを使用することが好ましい。
【0045】
充填材(D)を用いる場合の使用量は、目的とするポリウレタン系複合材料の強度等の物性に応じて適宜決定すればよいが、ポリウレタン系複合材料の高強度化の観点から、2次原料組成物の質量を基準とする質量%(以下、単に「充填率」と称す場合がある。)で表して、60質量%~85質量%であることが好ましく、65質量%~80質量%がより好ましい。また、本実施形態のポリウレタン系複合材料の製造方法により製造されたポリウレタン系複合材料を歯科切削加工用材料として使用する場合の充填率は65質量%~80質量%であることがより好ましく、70質量%~80質量%がさらに好ましい。
【0046】
2-7.その他の添加剤
1次原料組成物、乾燥1次原料組成物あるいは2次原料組成物には以上に説明した必須成分の他に、その他の各種の添加剤を配合しても良い。各種添加剤としては、重合禁止剤、蛍光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、抗菌材、X線造影剤など挙げることができ、その添加量は所望の目的に応じて適宜決定すればよい。
【0047】
3.各工程について
本発明の製造方法は、1次原料組成物調製工程、乾燥工程、2次原料組成物調製工程及び重合・硬化工程を含む。以下に各工程の詳細について説明する。
【0048】
3-1.1次原料組成物調製工程
1次原料組成物調製工程では、ラジカル重合性ジオール化合物(a1);非重付加性ラジカル重合性単量体(B);及びラジカル重合開始剤(C)を含む1次原料組成物を調製する。充填材(D)を用いる場合には、更に充填材(D)を含む1次原料組成物を調製する。
【0049】
なお、各成分の配合量は次のようにして決定される。すなわち、1次原料組成物の組成は、得ようとする2次原料組成物の組成をベースとして決定される。具体的には、等モルのラジカル重合性ジオール化合物(a1)とジイソシアネート化合物(a2)とが定量的に重付加反応してラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を生成することを前提に、2次原料組成物調製工程におけるラジカル重合性ジオール化合物(a1)及びジイソシアネート化合物(a2)の使用量は、モル比〔ジイソシアネート化合物(a2)使用量/ラジカル重合性ジオール化合物(a1)の使用量〕で1モル/モル前が、一般的には、0.9~1.2モル/モル程度、好ましくは1.0~1.1モル/モルとなるようにして、1次原料組成物における(a1)及び(B)の量、並びに2次原料組成物調製工程で使用する(a2)の量が決定される、そして、これら配合量により2次原料組成物における、(A)、(B)、残存(a1)又は残存(a2)の量も自動的に決定される。また、(C)及び必要に応じて使用される(D)の配合量は夫々前記した基準に基づく好ましい量とすればよい。
【0050】
1次原料組成物は、1次原料組成物を構成する全ての成分を一度に混合して調製してもよく、1次原料組成物を構成する一部の成分を混合した混合物を調製した後に、1次原料組成物を構成する残りの成分を添加・混合して調製してもよい。1次原料組成物の調製に際して、各成分を混合する際の混合方法は特に限定されず、マグネチックスターラー、ライカイ機、プラネタリーミキサー、トリミックス、遠心混合機等を用いた方法が適宜使用される。また、充填材(D)を均一に分散させやすいという理由から、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)及び非重付加性ラジカル重合性単量体(B)を先に混合することで混合組成物を調製した後、この混合組成物に充填材(D)を添加して混合することにより1次原料組成物を調製することが好ましい。さらに、副反応を抑制しやすく、分散が容易である点から、その他の添加剤も1次原料組成物に添加することが好ましい。また、各成分を混合する際に、真空条件下で行うと、ラジカル重合の進行により、操作性が悪化し、各成分が均一に分散しづらくなり、最終的に均一な硬化体を得ることが難しくなるため、混合は常圧条件あるいは加圧条件で行うことが好ましい。このようにして調製された1次原料組成物は、脱泡処理を施し、内部に含まれる気泡を無くしておくことが好ましい。脱泡の方法としては常圧条件あるいは加圧条件で行う公知の方法が用いられ、加圧脱泡、遠心脱泡等の方法を任意に用いることができる。
【0051】
なお、1次原料組成物には、その他の添加剤として、必要であれば重付加反応を促進する触媒がさらに含まれていてもよいが、重付加反応を促進する触媒が含まれていなくてもよい。なお、重付加反応を促進する触媒としては、たとえば、オクチル酸錫や二酢酸ジブチル錫などを例示できる。
【0052】
3-2.乾燥工程
乾燥工程では、前記2次原料組成物調製工程を行う前に、前記1次原料組成物を脱水処理して該1次原料組成物に含まれる水分量を、該1次原料組成物の液体成分の総質量を基準として20000ppm以下とする。ここで、上記水分量は、(乾燥処理後の)乾燥1次原料組成物についてカールフィッシャー測定で測定された水分量を意味する。なお、1次原料組成物の液体成分とは、1次原料組成物が充填材(D)を含まない場合には1次原料組成物全体を意味し、1次原料組成物が充填材(D)を含む場合には、充填材(D)を除く成分を意味する。また、水分量の測定に際しては、乾燥1次原料組成物をそのまま測定試料として用いて測定を行ってもよく、また、含水量が少なくその量が既知である不活性溶剤(たとえば脱水溶剤)で乾燥1次原料組成物を希釈したものを測定試料としてもよい。この場合、試料中の乾燥1次原料組成物マトリックス成分に含まれる水分量(質量ppm):Aは、測定試料の水分量実測値(質量ppm):Mp、希釈溶剤の水分量(質量ppm):Ma、測定試料中の乾燥1次原料組成物の質量:Wp、測定試料中の希釈溶剤の質量:Wa及び充填材の充填率Cp(質量%)から、下記式(3):
A={Mp×(Wp+Wa)-(Ma×Wa)}/(Wp+Wa)×100/(100-Cp)
により算出することができる。
【0053】
本発明の製造方法では、乾燥1次原料組成物に含まれる水分量を(液体成分の総質量を基準で)20000ppm以下、より好ましくは10000ppm以下とすることで、最終的に得られる硬化体の透明性が安定化する。ポリウレタン系複合材料の透明性が安定化する理由は必ずしも明らかではなく、また、本発明は何ら論理に拘束されるものではないが、水分量が20000ppmとなることで、重付加工程でウレアが生じない、あるいは、透明性に影響が出る範囲の量ではなくなるためと推測している。
【0054】
乾燥工程における脱水処理方法は、特に限定されるものではないが、熱重合開始剤を含む場合には意図しないラジカル重合の進行を防止するという観点から80℃以下で行うことが好ましく、冷却することによるメリットも特にないため特に常温(例えば通常の室内温度である15~35℃)~80℃で行うことが好ましく、また、乾燥を効率的に行い、乾燥工程を短期間化するという観点から常圧下で、低湿度の雰囲気下、絶対湿度が0.1(g/m3)以上6.0(g/m3)以下、好ましくは0.1(g/m3)以上4.0(g/m3)以下に保たれた雰囲気下に、必要に応じて攪拌する等の外気との接触面積を増大させる措置を講じて低湿度の雰囲気下に所定時間置くことが好ましい。なお、1次原料組成物が充填材(D)を含み、粘度が高くなっている場合には、脱水効率を高めるために、前記1次原料組成物を開口容器内に入れ、(1)被処理物である前記1次原料組成物の質量:w(g)に対する外気接触面積:s(cm2)の比(「乾燥時比表面積」ともいう。):s/w(g/cm2)が0.30(g/cm2)以上となるような状態とするか、又は(2)撹拌しながら、前記雰囲気下に置くことが好ましい。上記(1)においては、効率性の観点から、前記乾燥時比表面積:s/w(g/cm2)は、0.50cm2/g以上、特に1.00cm2/g以上とすることが好ましい。前記s/w(g/cm2)の上限値は、生産性等の実用上の観点から、5.00cm2/g以下であることが好ましい。また、この場合の処理時間は、通常、15~168時間の範囲から選択され、好ましくは40~100時間の範囲から選択される。なお、上記したような低湿度の雰囲気は、たとえば、調湿等の機能を有する乾燥装置において装置内雰囲気を上記した条件を満足するように調整する等により得ることができる。
【0055】
また、前記(2)における撹拌は、マグネチックスターラー、ライカイ機、プラネタリーミキサー、トリミックス、遠心混合機等を用いて好適に行うことができる。乾燥時間(脱水処理時間)は、1~9時間、特に2~8時間であることが好ましい。また、前記(2)は、25℃における粘度が、100Pa・s~100000Pa・Sの範囲、特に1000Pa・s~10000Pa・sの範囲にある1次原料組成物に対して好適に採用できる。
【0056】
3-3.2次原料組成物調製工程
2次原料組成物調製工程では、前記乾燥1次原料組成物と前記ジイソシアネート化合物(a2)とを混合して、前記ジオール化合物(a1)と該ジイソシアネート化合物(a2)とを重付加反応させることにより、ラジカル重合性基を有するポリウレタン成分(A)を形成し、2次原料組成物を調製する。2次原料組成物は、該ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)、前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B)、及びラジカル重合開始剤(C)を含み、未反応の前記ラジカル重合性ジオール化合物(a1)及び/又は未反応の前記ジイソシアネート化合物(a2)を含んでいてもよい。充填材(D)を用いる場合には、更に充填材(D)を含む2次原料組成物を調製する。重付加反応は、乾燥1次原料組成物とジイソシアネート化合物(a2)を混合すると同時に、あるいは、乾燥1次原料組成物とジイソシアネート化合物(a2)を混合後に必要に応じて加熱することにより開始される。重付加反応は、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)及びジイソシアネート化合物(a2)の少なくとも一方が重付加反応により実質的に消費し尽くされるまで重付加反応を進行させるように、言い換えれば、重付加反応の進行度が最大値(飽和値)近傍となるまで、実施する。2次原料組成物の調製に際して、各成分を混合する際の混合方法は特に限定されず、マグネチックスターラー、ライカイ機、プラネタリーミキサー、トリミックス、遠心混合機等を用いた方法が適宜使用される。また、各成分を混合する際に、真空条件下で長時間行うと、乾燥工程と同様に、意図しないラジカル重合の進行が生じる場合があり、好ましくないため、混合は常圧条件あるいは加圧条件で行うことが好ましい。なお、2次原料組成物調製工程においては、2次原料組成物中の水分量が増えた場合、前工程である乾燥工程の効果が無くなってしまうので、前記混合は、乾燥雰囲気(低湿度雰囲気)下で行うことが好ましい。
【0057】
3-4.重合・硬化工程
重合・硬化工程は、2次原料組成物調製工程を完了した後に実施される。重合・硬化工程では、2次原料組成物に含まれるラジカル重合開始剤(C)を活性化してラジカル重合を行うことにより、2次原料組成物を硬化させる。これにより、ポリウレタン系材料、あるいは、(D)充填材を含む場合はポリウレタン系複合材料からなる硬化体を得る。ラジカル重合開始剤(C)として熱ラジカル重合開始剤を用いた場合には2次原料組成物を加熱することによりラジカル重合が進行し、ラジカル重合開始剤(C)として光ラジカル重合開始剤を用いた場合にはこれを活性化する光を2次原料組成物に照射することによりラジカル重合が進行する。
【0058】
ラジカル重合時には反応熱により発熱するため、ラジカル重合開始剤(C)として熱ラジカル重合開始剤を用いた場合の加熱に際しては、加熱温度(硬化温度)を制御することが好ましい。この場合、加熱温度は150℃を超えないように制御することが好ましく、熱ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度の-10℃~+25℃、すなわち10時間半減期温度をT(℃)としたときに、10時間半減期温度Tより10℃低い温度(下限温度L)~10時間半減期温度Tより25℃高い温度(上限温度H)の範囲で行うことが特に好ましい。加熱温度を下限温度L以上に設定することにより、ラジカル重合速度を十分に大きくすることができる上に、硬化体の意図せぬ着色の発生も抑制することが容易となる。また、加熱温度を上限温度H以下に設定することにより、反応系中に存在するラジカル重合性基の過度な消費を防ぐと共に、急激なラジカル重合の進行も抑制することができる。上述した温度範囲内に加熱温度を制御することにより、工業的に許容できる反応速度で重合硬化を進行させ、急激な反応進行により硬化体中に歪やクラックが発生することも抑制でき、さらに非重付加性ラジカル重合性単量体(B)の劣化が生じるのも抑制することが極めて容易になる。また、加熱によりラジカル重合させる際には、気泡に起因するボイドが硬化体中に形成されるのを抑制するために、ラジカル重合中の2次原料組成物を加圧しても良い。加圧の方法に制限はなく、機械的に加圧しても良いし、窒素等の気体による加圧を行っても良い。
【0059】
4.ポリウレタン系材料の用途について
本発明の製造方法により、優れた透明性を有するポリウレタン系材料を安定的に得ることができる。ポリウレタン系材料が優れた透明性を有することで、顔料等の配合により所望の透明性に自由に調整することができるようになる。
【0060】
充填材(D)を用いた本発明の製造方法で得られるポリウレタン系(複合)材料も上記特徴を有し、歯科切削加工用材料として特に好適に使用できる。このような用途における透明性の調整たとえば、亜鉛華、酸化チタンなどの白色顔料の配合により不透明化する際にそれらの配合量を制御することによって好適に行うことができる。なお、透明性は、コントラスト比:Yb/Ywや白色度:Wを指標として表されることが多い。ここで上記コントラスト比は、厚さ1.0mmの試料について、色差計を用いて測定される黒背景における分光反射率(Yb)及び白背景における分光反射率(Yw)の比:Yb/Ywとして決定される値であり、白色度:Wは同様の色差計を用いた測定によって得られるL*値、a*値及びb*値に基づき、下記式(4):
W=100-{(100-L*)2+(a*)2+(b*)2}1/2
により算出されるものである。
【0061】
一般的な歯科切削加工用材料のコントラスト比の好ましい範囲としては、0.1~0.6の範囲、より好ましくは0.2~0.5の範囲であれば、透明であるエナメル質及び比較的不透明である象牙質の二層を一つの硬化性組成物から表現する範囲での調整が可能となり審美性に優れる歯科切削加工用材料を得ることができる。そのため、顔料等を未配合な状態でコントラスト比が0.05~0.55、より好ましくは、0.05~0.45であれば、任意の透明性に容易に調整できる。また、白色度の好ましい範囲としては、30~65、より好ましくは、35~60であれば天然歯に近い外観の修復を行うことができる。そのため、顔料等を未配合な状態で白色度が30~60、より好ましくは、30~55であれば、任意の透明性に容易に調整できる。また、ポリウレタン系(複合)材料に必要に応じて、残留応力を緩和させるための熱処理、切削による形状の修正、研磨などの後処理・後加工を行い、更にCAD/CAM装置に保持するためのピン等の固定具を接合することで、歯科切削加工用材料を得ることができる
【実施例0062】
以下、本発明を、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0063】
1.原材料
各実施例および比較例において用いた各成分とその略称を以下に示す。
【0064】
(1)ラジカル重合性ジオール化合物(a1)
GLM:グリセロールモノメタクリレート(25℃における蒸気圧:0.00724Pa)
(2)ジイソシアネート化合物(a2)
XDI:m-キシリレンジイソシアナート
(3)非重付加性ラジカル重合性単量体(B)
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート(25℃における蒸気圧:0.0159Pa)
EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート(25℃における蒸気圧1.61Pa)
(4)充填材(D)
F1:シリカ-ジルコニア(平均粒径:0.4μm、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル表面処理物)
F2:シリカ-チタニア(平均粒径:0.08μm、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル表面処理物)
(5)ラジカル重合開始剤(C)
PBL:t-ブチルパーオキシラウレート(10時間半減期温度98℃)
2.ポリウレタン系材料の製造方法
以下に本発明の製造方法の実施例を、比較例と共に示す。
【0065】
実施例1
(1)1次原料組成物調製工程
先ず、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)であるGLM(10.4質量部)、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)であるTEGDMA(5.8質量部)、及びラジカル重合開始剤(C)であるPBL(0.1質量部)を混合した混合組成物を調製した。次に、この混合物組成物に対して、充填材(D)であるF1(49.0質量部)及びF2(20.9質量部)を添加して混練することにより、1次原料組成物を調製した。
【0066】
(2)乾燥工程
得られた1次原料組成物(10.0g)をオートドライデシケーターであるドライマックスDMX-400(アズワン製)(庫内の温度25℃、湿度2%=絶対湿度0.5(g/m3)の内部に、20cm×20cm×1.1cmとなるようにし、96時間静置した。このときの比表面積は0.50cm2/gであった。乾燥を実施した後、含有水分を均質化するために1分間混錬し、乾燥1次原料組成物を調製した。
【0067】
(3)乾燥1次原料組成物の水分量評価
得られた乾燥1次原料組成物に関して、水分量の測定を行った。評価方法と結果は以下に示す。
【0068】
得られた乾燥1次原料組成物を、脱水溶剤であるアクアミクロン脱水溶剤OLII、(三菱ケミカル製)に懸濁させ、アクアミクロンOLII/乾燥1次原料組成物=1.25g/gの濃度になるように調製し、測定試料とした。次に、測定試料、及びアクアミクロンOLIIを、容量滴定法の水分測定装置である870ティトリーノプラス(容量法KF水分計)(Metrohm International Headquarters製)を用い、水分量測定することで、それぞれの実測値を得た。その後、得られたそれぞれの実測値を使用して、前記式(3)により水分量を算出したところ乾燥1次原料組成物マトリックス成分に含まれる水分量は15600ppmであった。
【0069】
(4)2次原料組成物調製工程
得られた乾燥1次原料組成物(8.0g)を含む自転公転ミキサー内にジイソシアネート化合物(a2)であるXDI(0.91g)を加えて混練した後、60℃で24時間インキュベーター内に静置して重付加反応を行い、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を形成して2次原料組成物を調製した。
ここで、本実施例において、重付加反応を行う際は60℃に加熱した場合を除いて、各種組成物の調製は全て常温(25℃)環境下において実施した。
【0070】
(5)2次原料組成物の評価
得られた2次原料組成物に関して、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の数平均分子量を次のようにして評価した。すなわち、得られた2次原料組成物1gをスクリュー管瓶に測り取り、DMSOを3.5ml加え撹拌して得られたDMSO溶液を遠心分離機(アズワン株式会社製)にて、10000rpmで10分間遠心分離を行った。次に遠心分離により得られた上澄み液をメンブレンフィルター(PORE SIZE 20μm,株式会社ADVANTEC製)で濾過することにより濾液を得た。そしてこの濾液について、下記に示すGPC測定条件にてGPC測定を行うことにより、重付加反応により得られたラジカル重合性ポリウレタン成分(A)のポリスチレン換算の数平均分子量を求めた。その結果、数平均分子量は2200であった。
【0071】
[GPC測定条件]
測定装置:Advanced Polymer Chromatography(日本ウォーターズ社製)
・カラム:ACQUITY APCTMXT45 1.7μm
ACQUITY APCTMXT125 2.5μm
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:THF(流量:0.5ml/分)
・検出器:フォトダイオードアレイ検出器 254nm(PDA検出器)
【0072】
(6)重合・硬化工程
得られた2次原料組成物を型枠(縦12mm×横18mm×厚 さ14mm)、及び、型枠(直径5mmの円形×厚さ1mm)に注入し、120℃で15時間、窒素加圧下(0.3MPa)にてラジカル重合することにより、ポリウレタン系樹脂マトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料を得た。
【0073】
(7)ポリウレタン系複合材料(硬化体)の評価
得られたポリウレタン系複合材料について、曲げ強さ、水中曲げ強さ、維持率(耐水性)白色度およびコントラスト比T=(Yb/Yw)を評価した。評価方法と結果を以下に示す。
【0074】
[曲げ強さBSd]
型枠(縦12mm×横18mm×厚さ14mm)を使用して得られたポリウレタン系複合材料(硬化体)を低速のダイヤモンドカッター(Buehler社製)で切り出した後、#2000の耐水研磨紙を用いて研磨することにより、5本の角柱状の試験片(厚さ:約1.2mm×幅:約4.0mm×長さ:14.0mm)を作製した。次に、各試験片についてオートグラフ(島津製作所製)を用いて3点曲げ試験を行い、最大点の曲げ荷重を測定した。曲げ強さ(MPa):BSは、最大点の曲げ荷重(N):P、支点間距離:S、試験片の幅(実測値、mm):W、試験片の厚さ(実測値、mm):Bから、下式:
BS=3PS/2WB2
に基づき曲げ強さBSを求めた。最大点の曲げ荷重は、支点間距離は12.0mm、クロスヘッドスピードは1.0mm/分に設定して測定した。その結果、5本の試験片の曲げ強さBSの平均値(曲げ強さBSd)は、300MPaであった。
【0075】
[水中曲げ強さBSW]
[曲げ強さ]の欄にて説明した場合と同様にして試験片5本を作製し、全ての試験片をイオン交換水中にて、37℃で1週間保管した。その後、イオン交換水から取り出した試験片について、表面に付着した水分を除去した後、[曲げ強さ]の欄にて説明した場合と同様の試験条件にて3点曲げ試験を行い、水中保管後の試験片の最大点の曲げ荷重を測定した。その後、個々の水中保管後の試験片について上記式に基づき曲げ強さBSを求めた。その結果、5本の水中保管後の試験片の曲げ強さBSの平均値(水中曲げ強さBSw)は、263MPaであった。
【0076】
[維持率(耐水性)]
硬化体の耐水性を示す指標となる維持率は、下式:
維持率(%)=100×BSW/BSd
に基づいて計算した。本実施例では、維持率は88%であり、高い耐水性を有することが確認された。
【0077】
[透明性]
型枠(直径5mmの円形×厚さ1mm)を使用して得られたポリウレタン系複合材料(硬化体)を耐水研磨紙♯2000で研磨した後、アルミナ研磨剤Baikalox 0.05CR GAMMA(Baikowski製)を用いて、自動研磨装置Ecomet250(BUEHLER製)で鏡面研磨することで、1.00mm(±0.02mm)の厚さの試験片を作製した。得られた試験片を、分光式色差計SE7700一式(日本電色工業製)を用いて、背景色黒で分光反射率を測定し、測定されたL*値、a*値及びb*値に基づき白色度Wを算出した。また、上記測定で測定された背景色黒におけるY値であるYbと、別途背景色白で行った分光反射率を測定で測定された背景色白におけるY値であるYwに基づきコントラスト比T=(Yb/Yw)を算出した。その結果、白色度Wは53であり、Yb/Ywは0.46であった。
【0078】
実施例2~6
実施例1で調製した1次原料組成物を用いて、乾燥工程における乾燥時間、乾燥時比表面積:s/wを表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン系複合材料を製造した。乾燥1次原料組成物マトリックス成分に含まれる水分量、得られたポリウレタン系複合材料について実施例1と同様に評価を行った。その結果を表1に示す。なお、表中の「↑」は「同上」を意味する。
【0079】
実施例7
実施例1で調製した1次原料組成物を用いて、次のような乾燥工程を行った。エアドライヤーAD-0001(アズワン製)を用いて、乾燥空気(乾燥空気の温度25℃、湿度8%=絶対湿度1.8(g/m3))を流して庫内を乾燥したトリミックス(井上製作所製)を用いて、45℃、3時間混合した。その後は、実施例1と同様にポリウレタン系複合材料を製造した。乾燥1次原料組成物マトリックス成分に含まれる水分量、得られたポリウレタン系複合材料について実施例1と同様に評価を行った。その結果を表1に示す。
【0080】
実施例8
非重付加性ラジカル重合性単量体(B)をTEGDMAからEGDMAに変え、乾燥工程における乾燥時間、乾燥時比表面積:s/w、庫内絶対湿度を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0081】
比較例1
実施例1で調製した1次原料組成物を用いて、乾燥工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン系複合材料を製造した。1次原料組成物の水分量、得られたポリウレタン系複合材料について実施例1と同様に評価を行った。その結果を表1に示す。
【0082】
比較例2~3
実施例1で調製した1次原料組成物を用いて、乾燥時比表面積:s/w、庫内絶対湿度を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン系複合材料を製造した。乾燥1次原料組成物マトリックス成分に含まれる水分量、得られたポリウレタン系複合材料について実施例1と同様に評価を行った。その結果を表1に示す。
【0083】
比較例4
非重付加性ラジカル重合性単量体(B)をTEGDMAからEGDMAに変え、乾燥工程における乾燥時間、乾燥時比表面積:s/wを表1に示すように変更した以外は実施例1と同様に行った。その結果、乾燥後の乾燥1次原料組成物は粉吹いていることが分かった。そのため、これ以降の評価は実施しなかった。
【0084】
比較例5
実施例1で調製した1次原料組成物を用いて、次のような乾燥工程を行った。得られた1次原料組成物(10g)を角型真空乾燥機ADP-300(ヤマト科学製)の内部に、20cm×20cm×0.5cmとなるようにし、25℃、100Paの条件で168時間静置した。このときの比表面積は1.05cm2/gであった。その結果、乾燥後の乾燥1次原料組成物は固体となっていることが分かった。そのため、これ以降の評価は実施しなかった。
【0085】
【0086】
実施例9
充填材(D)を配合せず、乾燥時比表面積:s/wを変更した以外は実施例1と同様にして、1次原料組成物調製工程、乾燥工程を行った。得られた乾燥1次原料組成物に関して、溶剤等を添加せずに測定試料とした以外は実施例1と同様にして、水分量を算出した。その結果、乾燥1次原料組成物マトリックス成分に含まれる水分量は2000ppmであった。
次に、得られた乾燥1次原料組成物(2.9g)を含むバイアル内にジイソシアネート化合物(a2)であるXDI(2.1g)を加えて混合した後に60℃で24時間インキュベーター内に静置して重付加反応を行い、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を形成して2次原料組成物を調製した(2次原料組成物調製工程)。
その後、得られた2次原料組成物を型枠(直径5mmの円形×厚さ1mm)に注入し、120℃で15時間、窒素加圧下(0.3MPa)にてラジカル重合することにより、ポリウレタン系材料を得た(重合・硬化工程)。得られたポリウレタン系材料について、白色度およびコントラスト比T=(Yb/Yw)を実施例1と同様に評価した。その結果、白色度Wは15であり、Yb/Ywは0.02であった。
【0087】
実施例10~13及び比較例6
乾燥工程における乾燥時間を表2に示すように変更した以外は実施例9と同様にしてポリウレタン系材料を製造した。1次原料組成物の水分量、得られたポリウレタン系材料について実施例9と同様に評価を行った。その結果を表2に示す。
【0088】
比較例7
1次原料組成物調製工程後において、乾燥工程を実施しなかった以外は、実施例9と同様にしてポリウレタン系材料を製造した。1次原料組成物の水分量、得られたポリウレタン系材料について実施例9と同様に評価を行った。その結果を表2に示す。
【0089】
【0090】
実施例9~13の結果に示されるように、1次原料組成物の水分量が20000ppmより少ない範囲では、白色度が15~20、コントラスト比が0.02~0.04の範囲で安定している。一方で、比較例6~7の結果から、1次原料組成物の水分量が20000ppm以上の範囲では水分量の増加に伴って、コントラスト比、及び白色度の値が増大している。