(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121362
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂組成物成形体の製造方法、および樹脂組成物の分解方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230824BHJP
C08L 77/04 20060101ALI20230824BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20230824BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20230824BHJP
【FI】
C08L101/00 ZBP
C08L77/04
C08L67/04
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024660
(22)【出願日】2022-02-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「添加剤による汎用高分子への圧力可塑性の付与」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】谷口 育雄
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002AA00X
4J002CF19X
4J002CG01X
4J002CL02W
4J200AA04
4J200BA14
4J200BA17
4J200BA30
4J200CA01
4J200EA21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】より効果的に分解可能で環境に与える負荷の小さい、生分解性を有するバロプラスチックを含む樹脂組成物と、その製造方法ならびにその分解方法を提供すること。
【解決手段】生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と、酵素と、を含む、樹脂組成物を提供する。さらに当該樹脂組成物を、10-50MPaの圧力下で成形する工程を含む、樹脂組成物成形体の製造方法、ならびに、当該樹脂組成物に、水と接触させ、10-50MPaの範囲の圧力をかける工程を含む、樹脂組成物の分解方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と、酵素と、を含む、樹脂組成物。
【請求項2】
該酵素が、プロテアーゼ、リパーゼ、およびこれらの混合物または組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
該酵素が、該樹脂組成物の質量を基準として5-30%含まれる、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
該生分解性バロプラスチックが、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントと、を含むコポリマーである、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
該置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、該乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントの含有比率が、重量比で、70:30-30:70である、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
該置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントが、室温下で無定形であり、かつ-30℃以下のガラス転移温度を有する、請求項4または5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と、酵素と、を含む、樹脂組成物を、10-50MPaの圧力下で成形する工程を含む、樹脂組成物成形体の製造方法。
【請求項8】
該酵素が、プロテアーゼ、リパーゼ、およびこれらの混合物または組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の樹脂組成物成形体の製造方法。
【請求項9】
該酵素が、該樹脂組成物の質量を基準として5-30%含まれる、請求項7または8に記載の樹脂組成物成形体の製造方法。
【請求項10】
該生分解性バロプラスチックが、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントと、を含むコポリマーである、請求項7~9のいずれかに記載の樹脂組成物成形体の製造方法。
【請求項11】
該置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、該乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントの含有比率が、重量比で、70:30-30:70である、請求項10に記載の樹脂組成物成形体の製造方法。
【請求項12】
該置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントが、室温下で無定形であり、かつ-30℃以下のガラス転移温度を有する、請求項10または11に記載の樹脂組成物成形体の製造方法。
【請求項13】
生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と、酵素と、を含む、樹脂組成物に、水と接触させ、10-50MPaの範囲の圧力をかける工程を含む、樹脂組成物の分解方法。
【請求項14】
該酵素が、プロテアーゼ、リパーゼ、およびこれらの混合物または組み合わせからなる群より選択される、請求項13に記載の樹脂組成物の分解方法。
【請求項15】
該酵素が、該樹脂組成物の質量を基準として5-30%含まれる、請求項13または14に記載の樹脂組成物の分解方法。
【請求項16】
該生分解性バロプラスチックが、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントと、を含むコポリマーである、請求項13~15のいずれかに記載の樹脂組成物の分解方法。
【請求項17】
該置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、該乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントの含有比率が、重量比で、70:30-30:70である、請求項16に記載の樹脂組成物の分解方法。
【請求項18】
該置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントが、室温下で無定形であり、かつ-30℃以下のガラス転移温度を有する、請求項16または17に記載の樹脂組成物の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂組成物成形体の製造方法、および樹脂組成物の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本におけるプラスチックおよび樹脂の生産量は、年間1200万トンを超える。ところが、これらが再利用される割合は、マテリアルリサイクル率20%程度、ケミカルリサイクル率4%程度である。プラスチックおよび樹脂は、主に押出成形や射出成形等の溶融成形法によって製品化され、その過程で加熱溶融や冷却等のエネルギーを必要とする。すなわち、プラスチックおよび樹脂の成形加工には大量のエネルギー消費のもとに行われている。一方、プラスチックおよび樹脂は、大半が化石資源由来のものであり、地球的な資源の枯渇の原因にもなっている。さらにプラスチックおよび樹脂のサーマルリサイクルにより発生する二酸化炭素が深刻な地球温暖化の原因の一端にもなっている。
【0003】
このような状況下、加圧下で固相状態から溶融状態へ転移する高分子多相系が注目されている。このようなプラスチックはバロプラスチックと称され、種々の用途が検討されている。
特許文献1には、光の照射により光反応を起こすバロプラスチックを静電荷像現像用トナーや現像剤へ適用することが開示されている。
また特許文献2には、生分解性バロプラスチックを農業用資材として利用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-46914号公報
【特許文献2】特開2018-191873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で使用されているバロプラスチックは、光反応基であるエチレン性不飽和基を有し、第1のガラス転移温度(Tg)を有する第1の樹脂と、第1のTgより20℃以上低い第2のTgを有する第2の樹脂とを有するものである。特許文献1に開示されるバロプラスチックは、具体的には、非結晶性ポリスチレンブロック(第1の樹脂)と、アクリル酸エステル樹脂ブロック(第2の樹脂)の共重合体や、非結晶性ポリエステル樹脂(第1の樹脂)と結晶性ポリエステル樹脂(第2の樹脂)のブロック共重合体が挙げられている。特許文献1には、生分解性のバロプラスチックに関する言及はない。
特許文献2では、ポリ(トリメチレンカーボネート)/ポリ(D-乳酸)のブロック共重合体であるバロプラスチックを利用した農業用資材が開示されている。
【0006】
本発明者らは、より効果的に分解可能で環境に与える負荷の小さい、生分解性を有するバロプラスチックを含む樹脂組成物と、その製造方法ならびにその分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と、酵素と、を含む、樹脂組成物に係る。樹脂組成物において、該酵素が、プロテアーゼ、リパーゼ、およびこれらの混合物または組み合わせからなる群より選択されることが好ましく、該酵素が、該樹脂組成物の質量を基準として5-30%含まれることが好ましい。
また、該生分解性バロプラスチックが、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントと、を含むコポリマーであることが好ましい。
さらに該置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、該乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントの含有比率が、重量比で、70:30-30:70であることが好ましい。
該置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントが、室温下で無定形であり、かつ-30℃以下のガラス転移温度を有することが好ましい。
【0008】
さらに本発明は、生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と、酵素と、を含む、樹脂組成物を、10-50MPaの圧力下で成形する工程を含む、樹脂組成物成形体の製造方法に係る。樹脂組成物成形体の製造方法において、該酵素が、プロテアーゼ、リパーゼ、およびこれらの混合物または組み合わせからなる群より選択されることが好ましく、該酵素が、該樹脂組成物の質量を基準として5-30%含まれることが好ましい。
また、該生分解性バロプラスチックが、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントと、を含むコポリマーであることが好ましい。
さらに該置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、該乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントの含有比率が、重量比で、70:30-30:70であることが好ましい。
該置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントが、室温下で無定形であり、かつ-30℃以下のガラス転移温度を有することが好ましい。
【0009】
本発明は、生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と、酵素と、を含む、樹脂組成物に、水と接触させ、10-50MPaの範囲の圧力をかける工程を含む、樹脂組成物の分解方法に係る。樹脂組成物の分解方法において、該酵素が、プロテアーゼ、リパーゼ、およびこれらの混合物または組み合わせからなる群より選択されることが好ましく、該酵素が、該樹脂組成物の質量を基準として5-30%含まれることが好ましい。
また、該生分解性バロプラスチックが、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントと、を含むコポリマーであることが好ましい。
さらに該置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、該乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントの含有比率が、重量比で、70:30-30:70であることが好ましい。
該置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントが、室温下で無定形であり、かつ-30℃以下のガラス転移温度を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、生分解可能で環境に与える負荷の小さいバロプラスチックを含む樹脂組成物を提供することができる。本発明の樹脂組成物は、従来に比べて、環境負荷の小さい方法で成形することができ、また、環境負荷の小さい方法で分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例および比較例の樹脂組成物のGPCによるクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について、さらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態にのみ限定されるものではない。
【0013】
本発明の一の実施形態は、生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と、酵素と、を含む、樹脂組成物である。本明細書において、樹脂組成物とは、高分子化合物とその他の成分とを含む混合物を指し、本明細書では、「樹脂混合物」、「高分子組成物」、「ポリマー混合物」等の用語と同義のものとして使用される。
【0014】
本明細書において、バロプラスチックとは、圧力を印加することにより相溶・相分離状態を転移することができる高分子多相系のうち、特に加圧下で固相(相分離)状態から溶融(相溶)状態へ転移するものを指す。たとえば、ポリ(n-ブチルアクリレート)(PBA)とポリスチレン(PS)(重量組成比50:50)からなるブロック共重合体は、常温常圧下で固体である。この固体中では、PBAとPSが相分離し、ラメラ構造を形成している。この高分子二相系に、常温で圧力を印加すると、PBAとPSが相転移して相溶状態となり流動性を示すようになる。ここで、圧力を常圧に戻すと直ちに相分離状態に戻るため、共重合体は流動性を失って固体になる。共重合体のこのような現象を利用すると、共重合体を常温で成形することが可能である。
【0015】
本明細書において、生分解性とは、微生物を含む生物の作用により物質が分解する性質のことを云う。生分解性プラスチックは、狭義には、「自然界において微生物が関与して環境に悪影響を与えない低分子化合物に分解されるプラスチック」と定義される。したがって生分解性バロプラスチックとは、加圧下で固相(相分離)状態から溶融(相溶)状態へ転移する性質と、微生物により分解する性質とを併せ持つ熱可塑性樹脂全般のことを指す。
【0016】
一の実施形態において、生分解性バロプラスチックは、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントと、を含むコポリマーであることが好ましい。
ここで、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントは、以下の式(1-1):
【化1】
または、以下の式(1-2):
【化2】
(式1-1および式1-2中、R
1、R
2、R
3、R
4、およびR
5は、各々同一または異なって、H、ハロゲン、炭素数1-4のアルキル基、および炭素数1-4のシクロアルキル基からなる群より選択され、Xは、C、CHまたはOであり、nは正の数である。)で表される。
一方、置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントは、以下の式(2):
【化3】
(式中、Y
1、Y
2、およびY
3は、各々同一または異なって、H、ハロゲン、炭素数1-4のアルキル基、炭素数1-4のシクロアルキル基および1,3-ジオキソランからなる群より選択され、mは、正の数である。)で表される。
さらに、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントは、以下の式(3):
【化4】
(式中、kは、正の数である。)で表される。
【0017】
置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントを与える化合物として、ε-カプロラクトン、2-メチル-ε-カプロラクトン、2-エチル-ε-カプロラクトン、2-ブチル-ε-カプロラクトン、3-メチル-ε-カプロラクトン、3-エチル-ε-カプロラクトン、3-ブチル-ε-カプロラクトン、4-メチル-ε-カプロラクトン、4-エチル-ε-カプロラクトン、4-ブチル-ε-カプロラクトン、2-クロロ-ε-カプロラクトン、2-ブロモ-ε-カプロラクトン、3-クロロ-ε-カプロラクトン、3-ブロモ-ε-カプロラクトン、4-クロロ-ε-カプロラクトン、4-ブロモ-ε-カプロラクトン、1,5-ジオキセパン-2-オン、1、4、8―トリオキサ[4、6]スピロ-ウンデカノン等が挙げられ、これらの化合物のうち2以上を用いても良い。置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントは、これを与える化合物の開環重合により得ることができる。
【0018】
置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントを与える化合物として、トリメチレンカーボネート(「1,3-プロピレンカーボネート」とも称される。)、4-メチル-1,3-プロピレンカーボネート、4-エチル-1,3-プロピレンカーボネート、5-メチル-1,3-プロピレンカーボネート、5-エチル-1,3-プロピレンカーボネート、6-メチル-1,3-プロピレンカーボネート、6-エチル-1,3-プロピレンカーボネート等のトリメチレンカーボネート類が挙げられ、これらの化合物のうち2以上を用いても良い。置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントは、これを与える化合物の開環重合により得ることができる。
【0019】
乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントを与える化合物として、L-乳酸、D-乳酸およびD,L-乳酸が挙げられる。乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントは、L-乳酸、D-乳酸またはD,L-乳酸を反応させてラクチドを形成し、得られたラクチドを金属触媒存在下で重合させるラクチド法により重合させるか、あるいは、L-乳酸、D-乳酸またはD,L-乳酸を有機溶媒中減圧下で加熱して重合させる直接重合法により得ることができる。
【0020】
一の実施形態において、生分解性バロプラスチックは、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントを必須のポリマーセグメントとして含む。さらに生分解性バロプラスチックは、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントまたは置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントのいずれかを必須のポリマーセグメントとして含む。すなわち、生分解性バロプラスチックは、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントとの共重合体であるか、あるいは、置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントとの共重合体である。さらに生分解性バロプラスチックは、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントと、置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、を共に含んでいても良い。この場合、生分解性バロプラスチックは、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントと、置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントとの共重合体である。これらの共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体またはグラフト共重合体であって良く、特に、ブロック共重合体であることが好ましい。生分解性バロプラスチックを構成するポリマーセグメントは、エステル結合により結合されている。エステル結合は水の作用により加水分解する性質を有する。これにより、実施形態で用いる生分解性バロプラスチックに生分解性が生じる。
【0021】
生分解性バロプラスチックにおいて、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントの含有比率は、重量比で、70:30-30:70であることが好ましい。生分解性バロプラスチックの樹脂の物理的および化学的特性を適切な範囲に維持するためには、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントの含有比率を上記の範囲にすることが好ましい。
【0022】
生分解性バロプラスチックの重量平均分子量は、10000以上、15000以上、あるいは30000以上であってよい。また生分解性バロプラスチックの重量平均分子量は、100000以下、または250000以下であってよい。生分解性バロプラスチックの重量平均分子量が上記範囲内であることで、成形性及び生分解性をより向上させることができる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定される値を意味し、ポリスチレン換算値で表す。
生分解性バロプラスチックの分子量は、10kDa以上、15kDa以上、あるいは30kDa以上であってよい。生分解性バロプラスチックの分子量は、250kDa以下、または100kDa以下であってよい。生分解性バロプラスチックの分子量が上記範囲内であることで、成形性及び生分解性をより向上させることができる。
生分解性バロプラスチックにおいて、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントの重量平均分子量は、3000~75000であってよく、5000~125000であってもよく、7000~175000であってもよい。生分解性バロプラスチックにおいて、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントの重量平均分子量は、3000~75000であってよく、5000~125000であってもよく、7000~175000であってもよい。
【0023】
生分解性バロプラスチックにおいて、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントの部位は、室温下で無定形であることが特に好ましい。また、生分解性バロプラスチックにおいて、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントの部位は、-30℃以下のガラス転移温度を有するポリマーであることが特に好ましい。生分解性バロプラスチックの必須成分である乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントは、比較的結晶化しやすい部位である。そこで、生分解性バロプラスチックの成形性を向上させ、かつ生分解性を高める観点から、室温下で無定形で、かつ、-30℃以下のガラス転移温度を有する、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントの部位を共重合体の成分として有することが好ましい。なお、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントの部位のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。
【0024】
一の実施形態の樹脂組成物は、上記の生分解性バロプラスチックをマトリックス樹脂として含む。マトリックス樹脂とは、樹脂組成物において、当該生分解性バロプラスチックが母組織(連続相)を形成する成分となっていることを意味する。
【0025】
一の実施形態の樹脂組成物は、酵素を含む。一の実施形態において、酵素とは、主に、生体内で作られるタンパク質性の触媒である。一の実施形態において樹脂組成物は、プロテアーゼ、リパーゼ、およびこれらの混合物または組み合わせからなる群より選択される酵素を含むことが好ましい。プロテアーゼは、タンパク質やペプチドを形成しているペプチド結合を加水分解する反応を触媒する酵素である。一方、リパーゼは、脂肪を構成するエステル結合を加水分解する反応を触媒する酵素である。すなわち、一の実施形態の樹脂組成物は、加水分解酵素を含むことが好ましい。プロテアーゼは、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、アスパラギンプロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼおよびこれらの混合物からなる群より選択することができる。
【0026】
生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と酵素を含む一の実施形態の樹脂組成物は、特に水中での生分解性が高く、環境への負荷を低減することが可能となる。生分解性バロプラスチックの構成成分である置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメント、置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメント、および乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントは、いずれも、環境中の水の作用により加水分解を受けて低分子化するポリマーセグメントである。一の実施形態の樹脂組成物に含まれている酵素の作用により、特に水中において、マトリックス樹脂の生分解が加速する。
一の実施形態の樹脂組成物による環境負荷を低減させる観点から、上記の酵素は、一の実施形態の樹脂組成物の質量を基準として、5-30%含まれていることが好ましい。酵素の含有量が少なすぎると、樹脂組成物の生分解を補助する機能が充分でなく、また酵素の含有量が多すぎると、樹脂組成物の形状を維持することが困難となる。酵素の機能と樹脂組成物の安定性とを考慮すると、酵素の含有量は、樹脂組成物の質量を基準として、10-20%程度であることが好ましい
一の実施形態の樹脂組成物は、生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と酵素を混合することにより得ることができ、特に溶融状態のマトリックス樹脂に酵素を混合することにより得ることが好ましい。マトリックス樹脂と酵素とを混合して得られる一の実施形態の樹脂組成物は、粉状、粒状、ペレット状等の任意の形態であって良い。
【0027】
一の実施形態の樹脂組成物は、マトリックス樹脂、酵素以外にその他の樹脂をさらに含有してもよい。その他の樹脂として、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート等の生分解性樹脂を挙げることができる。マトリックス樹脂がその他の樹脂をさらに含有する場合、その他の樹脂の含有量は、マトリックス樹脂の総質量を基準として、10質量%以下、あるいは5質量%以下であってよい。
また、一の実施形態の樹脂組成物は、マトリックス樹脂、酵素以外に、その他の樹脂組成物用添加剤を含有していても良い。樹脂組成物用添加剤として、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、可塑剤、滑剤、粘度調節剤、核剤、強化剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0028】
本発明の二の実施形態は、生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と、酵素と、を含む、樹脂組成物を、10-50MPaの圧力下で成形する工程を含む、樹脂組成物成形体の製造方法である。
【0029】
二の実施形態において、生分解性バロプラスチックは、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントと、を含むコポリマーであることが好ましい。
ここで、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントは、以下の式(1-1):
【化5】
または、以下の式(1-2):
【化6】
(式1-1および式1-2中、R
1、R
2、R
3、R
4、およびR
5は、各々同一または異なって、H、ハロゲン、炭素数1-4のアルキル基、および炭素数1-4のシクロアルキル基からなる群より選択され、Xは、C、CHまたはOであり、nは正の数である。)で表される。
一方、置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントは、以下の式(2):
【化7】
(式中、Y
1、Y
2、およびY
3は、各々同一または異なって、H、ハロゲン、炭素数1-4のアルキル基、炭素数1-4のシクロアルキル基および1,3-ジオキソランからなる群より選択され、mは、正の数である。)で表される。
さらに、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントは、以下の式(3):
【化8】
(式中、kは、正の数である。)で表される。
【0030】
置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントを与える化合物として、ε-カプロラクトン、2-メチル-ε-カプロラクトン、2-エチル-ε-カプロラクトン、2-ブチル-ε-カプロラクトン、3-メチル-ε-カプロラクトン、3-エチル-ε-カプロラクトン、3-ブチル-ε-カプロラクトン、4-メチル-ε-カプロラクトン、4-エチル-ε-カプロラクトン、4-ブチル-ε-カプロラクトン、2-クロロ-ε-カプロラクトン、2-ブロモ-ε-カプロラクトン、3-クロロ-ε-カプロラクトン、3-ブロモ-ε-カプロラクトン、4-クロロ-ε-カプロラクトン、4-ブロモ-ε-カプロラクトン、1,5-ジオキセパン-2-オン、1、4、8―トリオキサ[4、6]スピロ-ウンデカノン等が挙げられ、これらの化合物のうち2以上を用いても良い。置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントは、これを与える化合物の開環重合により得ることができる。
【0031】
置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントを与える化合物として、トリメチレンカーボネート(「1,3-プロピレンカーボネート」とも称される。)、4-メチル-1,3-プロピレンカーボネート、4-エチル-1,3-プロピレンカーボネート、5-メチル-1,3-プロピレンカーボネート、5-エチル-1,3-プロピレンカーボネート、6-メチル-1,3-プロピレンカーボネート、6-エチル-1,3-プロピレンカーボネート等が挙げられ、これらの化合物のうち2以上を用いても良い。置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントは、これを与える化合物の開環重合により得ることができる。
【0032】
乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントを与える化合物として、L-乳酸、D-乳酸およびD,L-乳酸が挙げられる。乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントは、L-乳酸、D-乳酸またはD,L-乳酸を反応させてラクチドを形成し、得られたラクチドを金属触媒存在下で重合させるラクチド法により重合させるか、あるいは、L-乳酸、D-乳酸またはD,L-乳酸を有機溶媒中減圧下で加熱して重合させる直接重合法により得ることができる。
【0033】
二の実施形態において、生分解性バロプラスチックは、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントを必須のポリマーセグメントとして含む。さらに生分解性バロプラスチックは、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントまたは置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントのいずれかを必須のポリマーセグメントとして含む。すなわち、生分解性バロプラスチックは、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントとの共重合体であるか、あるいは、置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントとの共重合体である。さらに生分解性バロプラスチックは、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントと、置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、を共に含んでいても良い。この場合、生分解性バロプラスチックは、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントと、置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントとの共重合体である。これらの共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体またはグラフト共重合体であって良く、特に、ブロック共重合体であることが好ましい。生分解性バロプラスチックを構成するポリマーセグメントは、エステル結合により結合されている。エステル結合は水の作用により加水分解する性質を有する。これにより、実施形態で用いる生分解性バロプラスチックに生分解性が生じる。
【0034】
生分解性バロプラスチックにおいて、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントの含有比率は、重量比で、70:30-30:70であることが好ましい。生分解性バロプラスチックの樹脂の物理的および化学的特性を適切な範囲に維持するためには、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントの含有比率を上記の範囲にすることが好ましい。
【0035】
生分解性バロプラスチックの重量平均分子量は、10000以上、15000以上、あるいは30000以上であってよい。また生分解性バロプラスチックの重量平均分子量は、100000以下、または250000以下であってよい。生分解性バロプラスチックの重量平均分子量が上記範囲内であることで、成形性及び生分解性をより向上させることができる。
生分解性バロプラスチックの分子量は、10kDa以上、15kDa以上、あるいは30kDa以上であってよい。生分解性バロプラスチックの分子量は、250kDa以下、または100kDa以下であってよい。生分解性バロプラスチックの分子量が上記範囲内であることで、成形性及び生分解性をより向上させることができる。
生分解性バロプラスチックにおいて、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントの重量平均分子量は、3000~75000であってよく、5000~125000であってもよく、7000~175000であってもよい。生分解性バロプラスチックにおいて、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントの重量平均分子量は、3000~75000であってよく、5000~125000であってもよく、7000~175000であってもよい。
【0036】
生分解性バロプラスチックにおいて、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントの部位は、室温下で無定形であることが特に好ましい。また、生分解性バロプラスチックにおいて、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントの部位は、-30℃以下のガラス転移温度を有するポリマーであることが特に好ましい。生分解性バロプラスチックの必須成分である乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントは、比較的結晶化しやすい部位である。そこで、生分解性バロプラスチックの成形性を向上させ、かつ生分解性を高める観点から、室温下で無定形で、かつ、-30℃以下のガラス転移温度を有する、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントの部位を共重合体の成分として有することが好ましい。なお、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントの部位のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。
【0037】
二の実施形態で用いる樹脂組成物は、上記の生分解性バロプラスチックをマトリックス樹脂として含む。マトリックス樹脂とは、樹脂組成物において、当該生分解性バロプラスチックが母組織(連続相)を形成する成分となっていることを意味する。
【0038】
二の実施形態で用いる樹脂組成物は、酵素を含む。酵素とは主に、生体内で作られるタンパク質性の触媒である。二の実施形態において樹脂組成物は、プロテアーゼ、リパーゼ、およびこれらの混合物または組み合わせからなる群より選択される酵素を含むことが好ましい。プロテアーゼは、タンパク質やペプチドを形成しているペプチド結合を加水分解する反応を触媒する酵素である。一方、リパーゼは、脂肪を構成するエステル結合を加水分解する反応を触媒する酵素である。すなわち、二の実施形態で用いる樹脂組成物は、加水分解酵素を含むことが好ましい。プロテアーゼは、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、アスパラギンプロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼおよびこれらの混合物からなる群より選択することができる。
【0039】
二の実施形態で用いる樹脂組成物による環境負荷を低減させる観点から、上記の酵素は、二の実施形態の樹脂組成物の質量を基準として、5-30%含まれていることが好ましい。酵素の含有量が少なすぎると、樹脂組成物の生分解を補助する機能が充分でなく、また酵素の含有量が多すぎると、樹脂組成物の形状を維持することが困難となる。酵素の機能と樹脂組成物の安定性とを考慮すると、酵素の含有量は、樹脂組成物の質量を基準として、10-20%程度であることが好ましい
二の実施形態で用いる樹脂組成物は、生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と酵素を混合することにより得ることができ、特に溶融状態のマトリックス樹脂に酵素を混合することにより得ることが好ましい。マトリックス樹脂と酵素とを混合して得られる、二の実施形態で用いる樹脂組成物は、粉状、粒状、ペレット状等の任意の形態であって良い。
【0040】
二の実施形態で成形する樹脂組成物は、マトリックス樹脂、酵素以外にその他の樹脂をさらに含有してもよい。その他の樹脂として、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート等の生分解性樹脂を挙げることができる。マトリックス樹脂がその他の樹脂をさらに含有する場合、その他の樹脂の含有量は、マトリックス樹脂の総質量を基準として、10質量%以下、あるいは5質量%以下であってよい。
また、二の実施形態で成形する樹脂組成物は、マトリックス樹脂、酵素以外に、その他の樹脂組成物用添加剤を含有していても良い。樹脂組成物用添加剤として、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、可塑剤、滑剤、粘度調節剤、核剤、強化剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0041】
樹脂組成物の成形は、10-50MPaの圧力下で行うことが好ましく、15-45MPa、あるいは20-40MPaの圧力下で行うことがさらに好ましい。樹脂組成物の成形の際には、必要に応じて常温~100℃程度にまで加熱することもできるが、成形の際に消費するエネルギー低減の観点からは、常温で行うことが好ましい。ただし、必要に応じて、100℃以下、80℃以下、60℃以下、あるいは40℃以下程度にまで加熱して、樹脂組成物を成形することもまた可能である。なお、樹脂組成物の成形は、オートクレーブ、押出成形機、圧縮成形機、射出成形機、真空成形機等の既知の機械を用いて、所望の圧力を樹脂組成物に加えることにより行うことができる。樹脂組成物に圧力を加えながら同時に所望の形状に成形するためには、押出成形機、圧縮成形機、あるいは射出成形機を用いて成形を行うことが好ましい。なお、樹脂組成物の加圧時間は、所望の樹脂組成物成形体のサイズ等にもよるが、1分間以上、3分間以上、5分間以上あるいは10分間以上とすることができ、長くても60分間程度加圧すれば、所望の樹脂組成物成形体を製造することができる。
【0042】
二の実施形態で製造される樹脂組成物成形体は、生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と酵素を含む樹脂組成物で形成されている。したがって、二の実施形態で製造される樹脂組成物成形体は、特に水中での生分解性が高く、環境への負荷を低減することが可能となる。生分解性バロプラスチックの構成成分である置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメント、置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメント、および乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントは、いずれも、環境中の水の作用により加水分解を受けて低分子化するポリマーセグメントである。二の実施形態で製造される樹脂組成物成形体に含まれている酵素の作用により、特に水中において、マトリックス樹脂の生分解が加速する。二の実施形態により製造される樹脂組成物成形体は、常温・常圧状態で使用するいかなる樹脂成形体としても使用することができる。二の実施形態で製造される樹脂組成物成形体は、高圧下の水中(たとえば深海中)で比較的素早く分解されることとなるため、環境に与える負荷を小さくすることができる。
【0043】
なお、二の実施形態において成形する樹脂組成物は、上記の一の実施形態の樹脂組成物であって良い。上記の通り、一の実施形態の樹脂組成物は、生分解性バロプラスチックをマトリックス樹脂として含むため、バロプラスチックの特性である、加圧下で固相状態から溶融状態へ転移するという性質を有する。そのため、二の実施形態で成形する樹脂組成物は、常温付近の温度帯で、加圧することにより成形することが可能となる。
【0044】
本発明の三の実施形態は、生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と、酵素と、を含む、樹脂組成物に、水と接触させ、10-50MPaの範囲の圧力をかける工程を含む、樹脂組成物の分解方法である。
【0045】
三の実施形態において、生分解性バロプラスチックは、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントと、を含むコポリマーであることが好ましい。
ここで、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントは、以下の式(1-1):
【化9】
または、以下の式(1-2):
【化10】
(式1-1および式1-2中、R
1、R
2、R
3、R
4、およびR
5は、各々同一または異なって、H、ハロゲン、炭素数1-4のアルキル基、および炭素数1-4のシクロアルキル基からなる群より選択され、Xは、C、CHまたはOであり、nは正の数である。)で表される。
一方、置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントは、以下の式(2):
【化11】
(式中、Y
1、Y
2、およびY
3は、各々同一または異なって、H、ハロゲン、炭素数1-4のアルキル基、炭素数1-4のシクロアルキル基および1,3-ジオキソランからなる群より選択され、mは、正の数である。)で表される。
さらに、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントは、以下の式(3):
【化12】
(式中、kは、正の数である。)で表される。
【0046】
置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントを与える化合物として、ε-カプロラクトン、2-メチル-ε-カプロラクトン、2-エチル-ε-カプロラクトン、2-ブチル-ε-カプロラクトン、3-メチル-ε-カプロラクトン、3-エチル-ε-カプロラクトン、3-ブチル-ε-カプロラクトン、4-メチル-ε-カプロラクトン、4-エチル-ε-カプロラクトン、4-ブチル-ε-カプロラクトン、2-クロロ-ε-カプロラクトン、2-ブロモ-ε-カプロラクトン、3-クロロ-ε-カプロラクトン、3-ブロモ-ε-カプロラクトン、4-クロロ-ε-カプロラクトン、4-ブロモ-ε-カプロラクトン、1,5-ジオキセパン-2-オン、1、4、8―トリオキサ[4、6]スピロ-ウンデカノン等が挙げられ、これらの化合物のうち2以上を用いても良い。置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントは、これを与える化合物の開環重合により得ることができる。
【0047】
置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントを与える化合物として、トリメチレンカーボネート(「1,3-プロピレンカーボネート」とも称される。)、4-メチル-1,3-プロピレンカーボネート、4-エチル-1,3-プロピレンカーボネート、5-メチル-1,3-プロピレンカーボネート、5-エチル-1,3-プロピレンカーボネート、6-メチル-1,3-プロピレンカーボネート、6-エチル-1,3-プロピレンカーボネート等が挙げられ、これらの化合物のうち2以上を用いても良い。置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントは、これを与える化合物の開環重合により得ることができる。
【0048】
乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントを与える化合物として、L-乳酸、D-乳酸およびD,L-乳酸が挙げられる。乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントは、L-乳酸、D-乳酸またはD,L-乳酸を反応させてラクチドを形成し、得られたラクチドを金属触媒存在下で重合させるラクチド法により重合させるか、あるいは、L-乳酸、D-乳酸またはD,L-乳酸を有機溶媒中減圧下で加熱して重合させる直接重合法により得ることができる。
【0049】
三の実施形態において、生分解性バロプラスチックは、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントを必須のポリマーセグメントとして含む。さらに生分解性バロプラスチックは、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントまたは置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントのいずれかを必須のポリマーセグメントとして含む。すなわち、生分解性バロプラスチックは、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントとの共重合体であるか、あるいは、置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントとの共重合体である。さらに生分解性バロプラスチックは、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントと、置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、を共に含んでいても良い。この場合、生分解性バロプラスチックは、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントと、置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントとの共重合体である。これらの共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体またはグラフト共重合体であって良く、特に、ブロック共重合体であることが好ましい。生分解性バロプラスチックを構成するポリマーセグメントは、エステル結合により結合されている。エステル結合は水の作用により加水分解する性質を有する。これにより、三の実施形態で分解する樹脂組成物中の生分解性バロプラスチックに生分解性が生じる。
【0050】
生分解性バロプラスチックにおいて、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントと、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントの含有比率は、重量比で、70:30-30:70であることが好ましい。生分解性バロプラスチックの樹脂の物理的および化学的特性を適切な範囲に維持するためには、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントの含有比率を上記の範囲にすることが好ましい。
【0051】
生分解性バロプラスチックの重量平均分子量は、10000以上、15000以上、あるいは30000以上であってよい。また生分解性バロプラスチックの重量平均分子量は、100000以下、または250000以下であってよい。生分解性バロプラスチックの重量平均分子量が上記範囲内であることで、成形性及び生分解性をより向上させることができる。
生分解性バロプラスチックの分子量は、10kDa以上、15kDa以上、あるいは30kDa以上であってよい。生分解性バロプラスチックの分子量は、250kDa以下、または100kDa以下であってよい。生分解性バロプラスチックの分子量が上記範囲内であることで、成形性及び生分解性をより向上させることができる。
生分解性バロプラスチックにおいて、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントの重量平均分子量は、3000~75000であってよく、5000~125000であってもよく、7000~175000であってもよい。生分解性バロプラスチックにおいて、乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントの重量平均分子量は、3000~75000であってよく、5000~125000であってもよく、7000~175000であってもよい。
【0052】
生分解性バロプラスチックにおいて、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントの部位は、室温下で無定形であることが特に好ましい。また、生分解性バロプラスチックにおいて、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントの部位は、-30℃以下のガラス転移温度を有するポリマーであることが特に好ましい。生分解性バロプラスチックの必須成分である乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントは、比較的結晶化しやすい部位である。そこで、生分解性バロプラスチックの成形性を向上させ、かつ生分解性を高める観点から、室温下で無定形で、かつ、-30℃以下のガラス転移温度を有する、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントの部位を共重合体の成分として有することが好ましい。なお、置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメントおよび/または置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメントの部位のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。
【0053】
三の実施形態で分解する樹脂組成物は、上記の生分解性バロプラスチックをマトリックス樹脂として含む。マトリックス樹脂とは、樹脂組成物において、当該生分解性バロプラスチックが母組織(連続相)を形成する成分となっていることを意味する。
【0054】
三の実施形態で分解する樹脂組成物は、酵素を含む。三の実施形態において、酵素とは、主に、生体内で作られるタンパク質性の触媒である。三の実施形態において樹脂組成物は、プロテアーゼ、リパーゼ、およびこれらの混合物または組み合わせからなる群より選択される酵素を含むことが好ましい。プロテアーゼは、タンパク質やペプチドを形成しているペプチド結合を加水分解する反応を触媒する酵素である。一方、リパーゼは、脂肪を構成するエステル結合を加水分解する反応を触媒する酵素である。すなわち、三の実施形態で分解する樹脂組成物は、加水分解酵素を含むことが好ましい。プロテアーゼは、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、アスパラギンプロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼおよびこれらの混合物からなる群より選択することができる。
【0055】
三の実施形態で分解する樹脂組成物による環境負荷を低減させる観点から、上記の酵素は、三の実施形態で分解する樹脂組成物の質量を基準として、5-30%含まれていることが好ましい。酵素の含有量が少なすぎると、樹脂組成物の生分解を補助する機能が充分でなく、また酵素の含有量が多すぎると、樹脂組成物の形状を維持することが困難となる。酵素の機能と樹脂組成物の安定性とを考慮すると、酵素の含有量は、樹脂組成物の質量を基準として、10-20%程度であることが好ましい
三の実施形態で分解する樹脂組成物は、生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と酵素を混合することにより得ることができ、特に溶融状態のマトリックス樹脂に酵素を混合することにより得ることが好ましい。マトリックス樹脂と酵素とを混合して得られる、三の実施形態で分解する樹脂組成物は、粉状、粒状、ペレット状等の任意の形態であって良い。
三の実施形態で分解する樹脂組成物は、マトリックス樹脂、酵素以外にその他の樹脂をさらに含有してもよい。その他の樹脂として、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート等の生分解性樹脂を挙げることができる。マトリックス樹脂がその他の樹脂をさらに含有する場合、その他の樹脂の含有量は、マトリックス樹脂の総質量を基準として、10質量%以下、あるいは5質量%以下であってよい。
また、三の実施形態で分解する樹脂組成物は、マトリックス樹脂、酵素以外に、その他の樹脂組成物用添加剤を含有していても良い。樹脂組成物用添加剤として、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、可塑剤、滑剤、粘度調節剤、核剤、強化剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0056】
三の実施形態において、樹脂組成物と水とを接触させるとは、たとえば樹脂組成物を水に浸漬する、樹脂組成物表面に水を塗布する、樹脂組成物の表面に水を噴射する、等の種々の方法により行うことができる。樹脂組成物と水とを接触させた状態で、10-50MPa、15-45MPa、あるいは20-40MPaの圧力下で行うことがさらに好ましい。樹脂組成物の分解の際には、必要に応じて常温~100℃程度にまで加熱することもできるが、分解の際に消費するエネルギー低減の観点からは、常温で分解することが好ましい。ただし、必要に応じて、100℃以下、80℃以下、60℃以下、あるいは40℃以下程度にまで加熱して、樹脂組成物を分解することもまた可能である。なお、樹脂組成物の分解は、オートクレーブ等の既知の機械を用いて、樹脂組成物と水とを接触させながら、所望の圧力を樹脂組成物に加えることにより行うことができる。樹脂組成物を効率的に分解するためには、オートクレーブを用いて分解することが好ましい。なお、樹脂組成物の加圧時間は、分解する樹脂組成物の量等にもよるが、1分間以上、3分間以上、5分間以上あるいは10分間以上とすることができ、長くても60分間程度加圧すれば、おおよその樹脂組成物を分解することができる。
【0057】
三の実施形態で分解される樹脂組成物は、生分解性バロプラスチックを含むマトリックス樹脂と酵素を含む樹脂組成物である。したがって、三の実施形態で分解される樹脂組成物は、加圧下の水中、たとえば深海で生分解される。生分解性バロプラスチックの構成成分である置換または非置換のカプロラクトン由来のユニットを含むポリマーセグメント、置換または非置換のトリメチレンカーボネート由来のユニットを含むポリマーセグメント、および乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメントは、いずれも、環境中の水の作用により加水分解を受けて低分子化するポリマーセグメントである。三の実施形態で分解される樹脂組成物に含まれている酵素の作用により、特に水中において、マトリックス樹脂の生分解が加速する。三の実施形態により分解される樹脂組成物は、常温・常圧状態で使用するいかなる樹脂成形体としても使用することができるが、上記のように高圧下の水中(たとえば深海中)で比較的素早く分解されて、環境に与える負荷が小さくなる。
【0058】
三の実施形態において分解する樹脂組成物は、上記の一の実施形態の樹脂組成物であって良い。上記の通り、一の実施形態の樹脂組成物は、生分解性バロプラスチックをマトリックスとして含み、かつ酵素を含むため、これと水とを接触させて分解することができる。
【実施例0059】
以下に本発明の実施形態を具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[製造例:樹脂組成物の製造]
【0061】
グローブボックス中で、容器に、2-エチルヘキサン酸スズ(II)を40mg(0.1mmol、エタノールを4.6mg(0.1mmol)計り取った。次いで、トリメチレンカーボネート5.0g(49mmol)及びトルエン5mLを、シリンジを用いセプタムを介して上記容器内に入れた。その後、撹拌しながら、100℃で24時間、開環重合反応を行った。1H-NMRによって、容器内の溶液に配合されていたトリメチレンカーボネートが消費されたことを確認した。その後、L-乳酸の二量体であるL-ラクチド5.0g(35mmol)を加えて、更に110℃で24時間、開環重合反応を行った。
【0062】
反応終了後、メタノールに反応溶液を滴下することで再沈精製を行って、ポリ(トリメチレンカーボネート)/ポリ(L-乳酸)のブロック共重合体(重量平均分子量:40kDa、ポリ(L-乳酸)ユニットの重量平均分子量:19kDa)を製造した。
【0063】
このようにして得たブロック共重合体に、プロテイナーゼK(メルク株式会社)を、混合物の重量に対し5%となるように混合し、キャピラリーレオメーター(装置名:CFT-500EX、株式会社島津製作所)を用いて50MPaの圧力下で押出成形し、樹脂組成物を得た。
【0064】
[実施例:生分解性バロプラスチックの加圧下での分解]
樹脂組成物1.0グラムをバッファー(0.1Mリン酸干渉液、pH7.5)に入れ、加圧容器(株式会社シン・コーポレーション)で40MPaの加圧環境を作り、常温で4日間加圧した。加圧後の樹脂組成物をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、装置名:LC-20AD、株式会社島津製作所、カラム:TSKgel G3000H
xL、東ソー株式会社)により分子量ごとに分離した(実施例1)。樹脂組成物のクロマトグラムを
図1に示す。
対照実験として、上記のブロック共重合体を常圧下で4日間保存したもの(比較例1)、上記のブロック共重合体をバッファーに浸漬し、40MPaの加圧環境下で4日間保存したもの(比較例2)、上記の樹脂組成物をバッファーに浸漬し、常圧下で4日間保存したもの(比較例3)についても、実施例1と同様にGPCにより分子量ごとに分離した。各比較例のクロマトグラムも
図1に示す。
【0065】
図1のクロマトグラムからわかるように、本発明の樹脂組成物を加圧下に置くことで、分子量のピークが低分子量側にシフトしており、かつ低分子量成分が増加していることがわかる。
プロテイナーゼK(酵素)を添加した本発明の樹脂組成物は、加圧下で、ブロック共重合体が相分離状態から相溶状態へ相転移し、流動体となる。この時に、ポリ(L-乳酸)部位(乳酸由来のユニットを含むポリマーセグメント)の運動性が向上し、酵素との衝突頻度が増加したために、樹脂組成物の分解が促進されたと考えられる。
比較例1は、ブロック共重合体を常圧下に置いた実験例;比較例2は、酵素を含まないブロック共重合体に水を接触させ加圧下に置いた実験例;および比較例3は、酵素を含む樹脂組成物に水を接触させ常圧下に置いた実験例である。ブロック共重合体を4日間加圧環境下に置いただけでは、ブロック共重合体の分解の促進を見ることはできなかった。しかしながら生分解性バロプラスチックであるブロック共重合体は、長期間加圧下に置くことで、分解を進行させることができると予想される。