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特開2023-121366車両外装品用ヒータ及び車両外装品用ヒータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121366
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】車両外装品用ヒータ及び車両外装品用ヒータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/03 20060101AFI20230824BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20230824BHJP
   H05B 3/20 20060101ALI20230824BHJP
   H05B 3/84 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
G01S7/03 246
G01S13/931
H05B3/20 344
H05B3/84
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024668
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591129508
【氏名又は名称】シライ電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】道家 真一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】中澤 綾香
(72)【発明者】
【氏名】村上 陽香
【テーマコード(参考)】
3K034
5J070
【Fターム(参考)】
3K034AA06
3K034AA15
3K034AA24
3K034BB08
3K034BC14
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC06
5J070AE01
5J070AE09
5J070AF03
(57)【要約】
【課題】融雪機能を発揮しつつ、外観の向上を図る。
【解決手段】車両外装品としてのエンブレム20に組込まれるヒータ25は、電磁波透過性としてのミリ波透過性を有するヒータ基材26と、導電性発熱材料によりヒータ基材26に対し網状に形成され、かつミリ波の送信方向におけるエンブレム20の前方から透けて見える態様でエンブレム20に組込まれる網状部31とを備えている。網状部31は、縦横に並べられた複数の網目を備えている。複数の網目は、断線されていない通常網目38と、自身の一部のみが断線されている断線網目41とを有している。網状部31は、複数の断線網目41が配列されてなる非導通部43を複数箇所に有している。隣り合う非導通部43の間の複数の通常網目38により、電流が流れる電流経路44が形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を送信及び受信する装置が搭載された車両において、前記電磁波の送信方向における前記装置の前方に配置され、かつ電磁波透過性を有する車両外装品に組込まれる車両外装品用ヒータであって、
電磁波透過性を有するヒータ基材と、導電性発熱材料により前記ヒータ基材に対し網状に形成され、かつ前記送信方向における前記車両外装品の前方から透けて見える態様で前記車両外装品に組込まれる網状部とを備え、
前記網状部は、縦横に並べられた複数の網目を備え、
複数の前記網目は、断線されていない通常網目と、自身の一部のみが断線されている断線網目とを有し、
前記網状部は、複数の前記断線網目が配列されてなる非導通部を複数箇所に有しており、隣り合う前記非導通部の間の複数の前記通常網目により、電流が流れる電流経路が形成されている車両外装品用ヒータ。
【請求項2】
前記電流経路は、前記電流の流れ方向における複数箇所で屈曲している請求項1に記載の車両外装品用ヒータ。
【請求項3】
前記網状部の外周縁部には一対の電極部が配置されており、
前記電流の流れ方向における前記電流経路の上流端に位置する前記通常網目が、一方の前記電極部に接続され、下流端に位置する前記通常網目が、他方の前記電極部に接続されている請求項1又は2に記載の車両外装品用ヒータ。
【請求項4】
前記網状部は、互いに平行に離間した状態で配列された複数の第1導線部と、各第1導線部に対し交差し、かつ互いに平行に離間した態で配列された複数の第2導線部とを備え、
隣り合う2本の前記第1導線部と、隣り合う2本の前記第2導線部とで囲まれた領域には、4本の線分からなり、かつ前記通常網目又は前記断線網目を構成する矩形の網目が形成され、
前記断線網目では、少なくとも1本の前記線分が、同線分の一部において分断されている請求項1~3のいずれか1項に記載の車両外装品用ヒータ。
【請求項5】
前記網状部における複数の前記網目は、発熱に関与しない模擬網目をさらに有しており、
前記模擬網目は、前記非導通部を挟んで前記電流経路とは反対側に隣接する箇所に配置されている請求項1~4のいずれか1項に記載の車両外装品用ヒータ。
【請求項6】
電磁波を送信及び受信する装置が搭載された車両において、前記電磁波の送信方向における前記装置の前方に配置され、かつ電磁波透過性を有する車両外装品に組込まれる車両外装品用ヒータであり、
電磁波透過性を有するヒータ基材と、導電性発熱材料により前記ヒータ基材に対し網状に形成され、かつ前記送信方向における前記車両外装品の前方から透けて見える態様で前記車両外装品に組込まれる網状部とを備え、
前記網状部が、縦横に並べられた複数の網目を備え、複数の前記網目が、断線されていない通常網目と、自身の一部のみが断線されている断線網目とを有する車両外装品用ヒータを製造する方法であって、
導電性発熱材料からなる箔を前記ヒータ基材に貼る箔貼り工程と、
前記箔貼り工程を経た前記箔に対しパターニング加工を行なうことで、前記網状部を形成するパターニング工程とを備え、
前記パターニング工程では、前記網状部の形成に際し、複数の前記断線網目が配列されてなる非導通部を複数箇所に形成し、隣り合う前記非導通部の間の複数の前記通常網目により、電流が流れる電流経路を形成する車両外装品用ヒータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両外装品に組込まれて、その車両外装品に融雪機能を付加する車両外装品用ヒータに関するとともに、その車両外装品用ヒータを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波等の電磁波を送信及び受信する装置が搭載された車両では、同装置から電磁波が車外へ向けて送信される。先行車両、歩行者等を含む車外の物体に当たって反射された電磁波は、上記装置によって受信される。そして、上記装置では、送信及び受信された電磁波により、上記物体が認識され、車両と物体との距離、相対速度等が検出される。
【0003】
上記車両では、電磁波の送信方向における上記装置の前方に、電磁波の透過性を有する車両外装品、例えば、エンブレム、オーナメント等が配置されることがある。
ここで、上記車両外装品に氷雪が付着すると電磁波が減衰され、上記装置の検出性能が低下する問題がある。そこで、電磁波の透過性を確保しつつ、氷雪を溶かすことのできる車両外装品用ヒータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記車両外装品用ヒータは、ヒータ基材と、銅等の導電性発熱材料を用いてヒータ基材に対し、エッチング等によって形成された発熱部とを備えている。発熱部は、線状をなし、かつ一定のパターンで配線されるように形成されている。例えば、発熱部は、互いに平行に延びる複数の直線部と、隣り合う直線部の端部同士を連結する円弧状の複数の連結部とを備えていて、蛇行する配線パターンで配線される。
【0005】
上記車両外装品用ヒータによると、発熱部が通電により発熱する。そのため、車両外装品に氷雪が付着しても、発熱部が発した熱によって氷雪を溶かし、氷雪の付着に起因する電磁波の減衰を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6719506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、車両外装品のうち、上記送信方向における発熱部よりも前方部分が可視光の透過性を有する材料により形成されている場合、発熱部が透けて見える。この場合、ヒータのうち、発熱部が配置されていて発熱に関与する箇所と、配置されておらず発熱に関与しない箇所とで外観が異なり、外観向上の点で改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する車両外装品用ヒータは、電磁波を送信及び受信する装置が搭載された車両において、前記電磁波の送信方向における前記装置の前方に配置され、かつ電磁波透過性を有する車両外装品に組込まれる車両外装品用ヒータであって、電磁波透過性を有するヒータ基材と、導電性発熱材料により前記ヒータ基材に対し網状に形成され、かつ前記送信方向における前記車両外装品の前方から透けて見える態様で前記車両外装品に組込まれる網状部とを備え、前記網状部は、縦横に並べられた複数の網目を備え、複数の前記網目は、断線されていない通常網目と、自身の一部のみが断線されている断線網目とを有し、前記網状部は、複数の前記断線網目が配列されてなる非導通部を複数箇所に有しており、隣り合う前記非導通部の間の複数の前記通常網目により、電流が流れる電流経路が形成されている。
【0009】
上記の構成によれば、網状部のうち、断線されていない通常網目では、電流が流れることが可能である。これに対し、断線されている断線網目では、電流が流れることを断線部分によって規制される。網状部における非導通部では、複数の断線網目が配列されているため、電流は非導通部に対し交差する方向へ流れることを規制される。隣り合う非導通部の間の電流経路は、複数の通常網目を有している。そのため、電流は、非導通部及び電流経路に沿って流れる。電流が流れた通常網目は発熱する。従って、車両外装品用ヒータ(以下、単に「ヒータ」という)が組込まれた車両外装品に氷雪が付着しても、その氷雪は、通電に伴い通常網目が発生した熱によって溶かされる。氷雪の付着に起因する電磁波の減衰が抑制される。
【0010】
ところで、上記送信方向前方から車両外装品を見た場合、ヒータの網状部が透けて見える。網状部は、断線されていない通常網目だけでなく、断線されている断線網目も含んでいる。通常網目と断線網目との違いは、断線箇所の有無だけである。しかも、断線網目では、一部のみが断線されている。断線網目の外観は、通常網目の外観に似ている。
【0011】
従って、ヒータのうち、通常網目が配置されていて発熱に関与する箇所と、断線網目が配置されていて発熱に関与しない箇所とで、同様の外観となり、広い領域にわたり外観が良好となる。
【0012】
上記の構成を有する車両外装品用ヒータは、例えば、次の製造方法によって製造することができる。
すなわち、上記課題を解決する車両外装品用ヒータの製造方法は、電磁波を送信及び受信する装置が搭載された車両において、前記電磁波の送信方向における前記装置の前方に配置され、かつ電磁波透過性を有する車両外装品に組込まれる車両外装品用ヒータであり、電磁波透過性を有するヒータ基材と、導電性発熱材料により前記ヒータ基材に対し網状に形成され、かつ前記送信方向における前記車両外装品の前方から透けて見える態様で前記車両外装品に組込まれる網状部とを備え、前記網状部が、縦横に並べられた複数の網目を備え、複数の前記網目が、断線されていない通常網目と、自身の一部のみが断線されている断線網目とを有する車両外装品用ヒータを製造する方法であって、導電性発熱材料からなる箔を前記ヒータ基材に貼る箔貼り工程と、前記箔貼り工程を経た前記箔に対しパターニング加工を行なうことで、前記網状部を形成するパターニング工程とを備え、前記パターニング工程では、前記網状部の形成に際し、複数の前記断線網目が配列されてなる非導通部を複数箇所に形成し、隣り合う前記非導通部の間の複数の前記通常網目により、電流が流れる電流経路を形成する。
【0013】
上記の方法によれば、車両外装品用ヒータの製造に際し、箔貼り工程及びパターニング工程が行なわれる。
箔貼り工程では、導電性発熱材料からなる箔、例えば銅箔がヒータ基材に貼られる。
【0014】
パターニング工程では、箔貼り工程を経た箔に対しパターニング加工が行なわれる。パターニング加工は、フォトリソグラフィ及び光学マスクのプロセスを行なうことで、箔のうち、不要な部分を除去する加工法である。パターニング加工により、縦横に並べられた複数の網目を備え、かつ複数の網目が、断線されていない通常網目と、自身の一部のみが断線されている断線網目とを有する網状部が形成される。
【0015】
特に、パターニング工程では、網状部の形成に際し、複数の断線網目が配列されてなる非導通部が複数箇所に形成される。すると、隣り合う非導通部の間の複数の通常網目により、電流が流れる電流経路が形成される。
【0016】
上記車両外装品用ヒータにおいて、前記電流経路は、前記電流の流れ方向における複数箇所で屈曲していることが好ましい。
上記の構成によるように、電流経路が、電流の流れ方向における複数箇所で屈曲されることで、屈曲されない場合に比べ、電流経路の長さを長くすることが可能となる。電流経路の抵抗を、目的とする発熱量が得られる値に調整しやすくなる。
【0017】
上記車両外装品用ヒータにおいて、前記網状部の外周縁部には一対の電極部が配置されており、前記電流の流れ方向における前記電流経路の上流端に位置する前記通常網目が、一方の前記電極部に接続され、下流端に位置する前記通常網目が、他方の前記電極部に接続されていることが好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、ヒータに電力が供給されると、電流は一方の電極部から、通常網目を通って、電流経路に沿って他方の電極部に向けて流れる。
また、両電極部は網状部の外周縁部に配置されているため、網状部の外観に影響しにくい。
【0019】
上記車両外装品用ヒータにおいて、前記網状部は、互いに平行に離間した状態で配列された複数の第1導線部と、各第1導線部に対し交差し、かつ互いに平行に離間した態で配列された複数の第2導線部とを備え、隣り合う2本の前記第1導線部と、隣り合う2本の前記第2導線部とで囲まれた領域には、4本の線分からなり、かつ前記通常網目又は前記断線網目を構成する矩形の網目が形成され、前記断線網目では、少なくとも1本の前記線分が、同線分の一部において分断されていることが好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、矩形の網目は、4本の線分によって構成される。いずれの線分も分断されない網目は、通常網目となり得る。通常網目では、電流が各線分に沿って流れることが可能である。これに対し、少なくとも1本の線分が、その線分の一部において分断された網目は、断線網目となる。断線網目では、分断された線分に沿って電流が流れることを、分断部分によって規制される。
【0021】
上記車両外装品用ヒータにおいて、前記網状部における複数の前記網目は、発熱に関与しない模擬網目をさらに有しており、前記模擬網目は、前記非導通部を挟んで前記電流経路とは反対側に隣接する箇所に配置されていることが好ましい。
【0022】
模擬網目は、網状部における複数の網目の一部を構成するものであり、通常網目及び断線網目と似た外観を有している。
そして、上記の条件を満たす箇所に、発熱に関与しない模擬網目が配置されることで、網状部において、発熱に関与しない箇所が拡大する。しかも、模擬網目は非導通部に隣接する。従って、模擬網目の分、網状部のうち、発熱に関与しない領域が拡張される。
【0023】
そのため、ヒータのうち、発熱に関与する箇所と、発熱に関与しない箇所とで、同様の外観となる領域がさらに広がり、ヒータひいては車両外装品の外観が一層良好となる。
【発明の効果】
【0024】
上記車両外装品用ヒータ及び車両外装品用ヒータの製造方法によれば、融雪機能を発揮しつつ、外観の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態のヒータが組込まれたエンブレムを、フロントグリルの一部とともに示す部分正面図。
図2】レジスト層が形成される前の第1実施形態のヒータの概略構成を示す背面図。
図3図2を拡大することで、網状部の各部を詳細に示す背面図。
図4図3におけるA部を拡大して示す部分背面図。
図5】第1実施形態のヒータが組込まれたエンブレムの一部を、ミリ波レーダ装置の一部とともに示す部分平断面図。
図6】第1実施形態のヒータの製造工程を説明する部分平断面図。
図7】同じく、第1実施形態のヒータの製造工程を説明する部分平断面図。
図8】第1実施形態のヒータの部分平断面図。
図9図8のヒータを用いたエンブレムの製造工程を説明する部分平断面図。
図10】同じく、第1実施形態のエンブレムの製造工程を説明する部分平断面図。
図11】レジスト層が形成される前の第2実施形態のヒータの概略構成を示す背面図。
図12】レジスト層が形成される前の第2実施形態のヒータ中間体の背面図。
図13図12におけるB部を拡大して示す部分背面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1実施形態)
以下、車両外装品用ヒータを、車両のエンブレムに用いられるエンブレム用ヒータ(以下、単に「ヒータ」という)に具体化した第1実施形態について、図1図10を参照して説明する。
【0027】
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、以下の記載における上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車両の車幅方向であって車両前進時の左右方向と一致するものとする。さらに、図5図10では、ヒータ及びエンブレムにおける各部を認識可能な大きさとするために、縮尺を適宜変更して各部を示している。
【0028】
図1及び図5に示すように、車両10の前部の車幅方向における中央部分であって、フロントグリル11の後方には、電磁波を送信及び受信する装置として、前方監視用のミリ波レーダ装置13が搭載されている。図5では、ミリ波レーダ装置13の一部のみが図示されている。ミリ波レーダ装置13は、電磁波におけるミリ波を、車外のうち前方へ向けて送信し、かつ、車外の物体に当たって反射されたミリ波を受信する機能を有する。ミリ波とは、波長が1mm~10mmであり、周波数が30GHz~300GHzである電波をいう。
【0029】
なお、第1実施形態では、上述したように、ミリ波レーダ装置13が車両10の前方に向けてミリ波を送信することから、ミリ波レーダ装置13によるミリ波の送信方向は、車両10の後方から前方へ向かう方向である。ミリ波の送信方向における前方は、車両10の前方と概ね合致し、同送信方向における後方は車両10の後方と概ね合致する。そのため、以後の記載では、ミリ波の送信方向における前方を単に「前方」、「前」等といい、同送信方向における後方を単に「後方」、「後」等というものとする。
【0030】
上記フロントグリル11(図1参照)の厚みは、一般的なフロントグリルと同様、一定ではない。また、フロントグリル11では、樹脂製基材の表面に金属めっき層が形成されることがある。フロントグリル11は、送信又は反射された上記ミリ波と干渉し得る。このため、フロントグリル11におけるミリ波レーダ装置13の前方には、窓部12が開口されている。第1実施形態では、窓部12は、上下方向の寸法よりも左右方向の寸法が大きな横長の楕円形状に形成されている。
【0031】
窓部12には、車両10の前部を装飾する車両外装品としてエンブレム20が配置されている。エンブレム20は、上記窓部12に対応して、横長の楕円形の板状に形成されており、窓部12を塞ぐように配置されている。すなわち、エンブレム20は、その前面が車両10の前方を向き、かつ後面が車両10の後方を向くように、起立した状態で窓部12に配置されている。エンブレム20の前面は意匠面21を構成している。
【0032】
エンブレム20の主要部は、エンブレム本体部22によって構成されている。図5は、エンブレム本体部22の一部を拡大して示している。エンブレム本体部22は、エンブレム基材23、ヒータ25及び保護部57を備えており、ミリ波レーダ装置13の前方に位置している。
【0033】
エンブレム基材23は、電磁波透過性としてのミリ波透過性を有する樹脂材料を用いて樹脂成形することによって形成されている。エンブレム基材23の形成に用いられる樹脂材料は、透明であってもよいし、不透明であってもよい。第1実施形態では、エンブレム基材23は、PC(ポリカーボネート)によって形成されているが、他の樹脂材料、例えば、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)によって形成されてもよい。エンブレム基材23は、横長の楕円形の板状をなしている。
【0034】
ヒータ25は、エンブレム基材23の前方に隣接する箇所に位置している。ヒータ25は、エンブレム基材23の前面の形状に対応した形状に賦形され、同前面に密着している。図2及び図8に示すように、ヒータ25は、ヒータ基材26、接着層29、網状部31、一対の接続部(図示略)、一対の電極部51,52及びレジスト層55を備えている。なお、図2図4では、ヒータ25が、レジスト層55が形成される前の状態で図示されている。
【0035】
図2及び図8に示すように、ヒータ基材26は、ヒータ25の骨格部分をなす部分である。ヒータ基材26は、ミリ波及び可視光の透過性を有する樹脂材料であって、耐熱性及び耐収縮性(寸法安定性)に優れた樹脂材料によって形成されている。第1実施形態では、ヒータ基材26は、PET(ポリエチレンテレフタレート)によって形成され、透明をなしている。ヒータ基材26は、横長の楕円形状をなす本体部27と、本体部27の外周縁部の下部から延出する延出部28とを備えている。延出部28は、図示はしないが、エンブレム基材23(図5参照)の下縁部に沿って後方へ折り曲げられる。そして、延出部28は、エンブレム基材23よりも後方に配置されたソケット部内に配置される。
【0036】
接着層29は、網状部31をヒータ基材26に接着する機能を有しており、ヒータ基材26(本体部27及び延出部28)の後面の全面に形成されている。接着層29としては、例えば、OCA(OPTICAL CLEAR ADHESIVE)と呼ばれる透明なフィルム状の光学粘着シートを用いることができる。
【0037】
なお、上記ヒータ基材26及び接着層29における「透明」には、無色透明のほか、着色透明(有色透明)も含まれる。この点は、後述する保護部57の樹脂シート58及び接着層59に関しても同様である。
【0038】
網状部31は、上記本体部27の後面であって、同本体部27の外周縁部から径方向内方へ僅かに離間した横長の楕円形の領域に、上記接着層29を介して形成されている。
図3に示すように、網状部31は、互いに平行に離間した状態で配列された複数の第1導線部32と、各第1導線部32に対し交差し、かつ互いに平行に離間した状態で配列された複数の第2導線部33とを備えている。
【0039】
第1実施形態では、複数の第1導線部32は、互いに左右方向に平行に離間した状態で上下方向へ延びている。複数の第2導線部33は、互いに上下方向に平行に離間した状態で左右方向へ延びている。各第1導線部32と各第2導線部33とは互いに直交している。隣り合う第1導線部32の間隔は均一であり、隣り合う第2導線部33の間隔は均一である。第1導線部32及び第2導線部33のそれぞれの線幅は、20μm程度である。
【0040】
図4に示すように、隣り合う2本の第1導線部32と、隣り合う2本の第2導線部33とによって囲まれた領域には、2本の線分34と2本の線分36とからなる矩形の網目が形成されている。第1実施形態では、4本の線分34,36が互いに同じ長さ(4000μm程度)に設定されていて、網目が正方形をなしている。
【0041】
上記網目は、縦横にそれぞれ連続して並べられている。所定の網目の線分34と、この網目に対し、左右方向に隣接する網目の線分34とは共通している。また、所定の網目の線分36と、この網目に対し、上下方向に隣接する網目の線分36とは共通している。
【0042】
複数の網目は、断線されていない通常網目38と、自身の一部のみが断線された断線網目41とを有している。通常網目38では、線分34,36のいずれも分断されていない。これに対し、断線網目41では、線分34,36の少なくとも1本が、自身の一部において分断されている。分断された部分(以下、「分断部42」という)の長さは、例えば、100μm程度である。分断部42を有する線分34,36を含む断線網目41では、電流がその線分34,36に沿って流れることを分断部42によって規制される。
【0043】
図2図4に示すように、網状部31は、非導通部43を複数箇所に備えている。各非導通部43は、断線網目41が線状をなすように、左右方向又は上下方向へ配列されることによって形成されている。
【0044】
左右方向に延びる非導通部43では、両端に位置する線分34を除く複数の線分34については、全ての線分34が分断部42を有している。両端の線分34は、分断部42を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0045】
上下方向に延びる非導通部43(図4参照)では、両端に位置する線分36を除く複数の線分36については、全ての線分36が分断部42を有している。両端の線分36は、分断部42を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0046】
なお、図2では、非導通部43が太い実線で表現されている。また、図3及び図4では、非導通部43が二点鎖線の枠で表現されている。これは、断線網目41における分断部42が微小であり、図面で表現することが難しいからである。そのため、上記のように、太い実線又は二点鎖線の枠を用いることで、線分34,36上に分断部42が位置していて、それらの断線網目41によって非導通部43が構成されていることを、判りやすく表現している。従って、上記太い実線又は二点鎖線の枠は、イメージ上の線であり、実際にこのような線があるわけではない。
【0047】
図2に示すように、複数の非導通部43のうちの4つは、互いに上下方向に離間した状態で左右方向に延びている。複数の非導通部43のうちの2つは、互いに左右方向に離間した状態で上下方向へ延びている。上述したように、各非導通部43では、同非導通部43が延びる方向に対し交差する線分34,36の全てが分断部42を有しているため、電流は非導通部43に対し交差(直交)して流れることを規制される。電流が、非導通部43に沿って流れることは可能である。これらのことから、複数の非導通部43の配置が工夫されることで、隣り合う非導通部43間の通常網目38によって、電流が複数回向きを変えながら流れる電流経路44が形成されている。電流経路44は、図2及び図3では太い二点鎖線で図示されている。
【0048】
図2及び図3に示すように、複数の網目は、発熱に関与しない複数の模擬網目45をさらに有している。模擬網目45は、非導通部43を挟んで電流経路44とは反対側に隣接する箇所に配置されている。例えば、図2及び図3において、一番上で左右方向に延びる非導通部43よりも上方の網目と、一番下で左右方向に延びる非導通部43よりも下方の網目とは、模擬網目45によって構成されている。また、図2及び図3において、最も左側で上下方向に延びる非導通部43よりも左方の網目と、最も右側で上下方向へ延びる非導通部43より右方の網目とは、模擬網目45によって構成されている。
【0049】
模擬網目45は、通常網目38と同様の構成を採ってもよい。すなわち、模擬網目45では、いずれの線分34,36も断線されなくてもよい。また、模擬網目45は、断線網目41と同様の構成を採ってもよい。すなわち、模擬網目45では、少なくとも1本の線分34,36の一部が分断されてもよい。
【0050】
一対の接続部は、互いに離間した状態で、上記延出部28の後面に対し、接着層29を介して形成されている。各接続部には、コネクタピンがはんだ付け、接着、かしめ等の固定手段によって固定される。両接続部及び両コネクタピンは、エンブレム基材23よりも後方に配置された上記ソケット部内に、延出部28と一緒に配置される。
【0051】
一方の電極部51は、本体部27の外周縁部における左側部分の後面に対し、接着層29を介して形成されている。電極部51は網状部31の外周縁部に位置しており、プラス極として機能する。電極部51の下端部は、上記延出部28における一方の接続部に繋がっている。電極部51の上部は、上記電流経路44の上流端に位置する通常網目38に接続されている。
【0052】
他方の電極部52は、本体部27の外周縁部における右側部分の後面に対し、接着層29を介して形成されている。電極部52は網状部31の外周縁部に位置しており、マイナス極として機能する。電極部52の下端部は、上記延出部28における他方の接続部に繋がっている。電極部52の一部は、電流経路44の下流端に位置する通常網目38に接続されている。
【0053】
各電極部51,52の線幅は、上記第1導線部32及び第2導線部33の線幅よりも広く設定されている。これは、両電極部51,52の抵抗を大きくすることで、同電極部51,52が発熱して、通常網目38が発熱しなくなる現象を抑制するためである。
【0054】
上述した網状部31、一対の接続部、及び一対の電極部51,52は、導電性発熱材料からなる箔、第1実施形態では銅箔によって形成されている。
図8に示すように、レジスト層55は絶縁材料からなり、接着層29上であって、網状部31の周りに形成されており、網状部31を被覆している。
【0055】
図5に示すように、レジスト層55とエンブレム基材23との間には、バインダ層56が形成されている。バインダ層56は、エンブレム基材23の樹脂成形時に、溶融状態の樹脂材料から熱が伝わり、圧力が加わることで、接着力を発揮して、エンブレム基材23とレジスト層55との密着性を高める機能を有している。バインダ層56は、エンブレム基材23との結合が可能な樹脂材料、例えば、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、上記ABS等によって形成されている。
【0056】
保護部57は、樹脂シート58及び接着層59を備えており、シート状をなし、ヒータ基材26の前方に隣接する箇所に配置されている。保護部57は、エンブレム20に対し、前方から衝撃が加わった場合に、その衝撃からヒータ25、特に網状部31を保護する役割を担っている。
【0057】
樹脂シート58は、上記エンブレム基材23と同様、ミリ波透過性を有する樹脂材料によって形成されている。樹脂シート58は、透明な樹脂材料、本実施形態ではPCによって形成されている。樹脂シート58は、ヒータ基材26の前面の形状に対応した形状に賦形されている。
【0058】
接着層59は、上記接着層29と同様のOCAによって形成されている。接着層59は、上記樹脂シート58とヒータ基材26との間に位置し、樹脂シート58をヒータ基材26の前面に対し、密着状態で接着している。
【0059】
なお、エンブレム20は、上記エンブレム本体部22のほかに取付部(図示略)を備えている。そして、エンブレム20は、図1及び図5に示すように、起立させられた状態で窓部12の内部に配置され、取付部においてフロントグリル11又は車体に取付けられている。
【0060】
さらに、上記ソケット部に対し上記外部機器のコネクタが結合されることで、一対の電極部51,52が、接続部及びコネクタピンを介して外部機器に対し電気的に接続されている。
【0061】
次に、上記のように構成された第1実施形態の作用について、ヒータ25の製造方法とともに説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
ヒータ25は、箔貼り工程、パターニング工程及びレジスト層形成工程を経ることによって製造される。
【0062】
<箔貼り工程>
図6に示すように、箔貼り工程では、本体部27の後面と、延出部28の後面とに対し上記OCAが貼付けられることによって、ヒータ基材26の後面の全面に接着層29が形成される。
【0063】
接着層29が形成された上記ヒータ基材26と、導電性発熱材料からなる箔61、ここでは銅箔とが、ローラ等により、互いに接近する側へ押される。箔61は、接着層29によりヒータ基材26に貼付けられる。
【0064】
<パターニング工程>
次に、図6及び図7に示すように、上記箔61に対し、パターニング加工が行なわれる。パターニング加工は、フォトリソグラフィ及び光学マスクのプロセスを行なうことで、箔61のうち、不要な部分を除去する加工法である。
【0065】
パターニング加工により、延出部28の後面に対し、接着層29を介して一対の接続部が形成される。また、本体部27の後面に対し、一対の電極部51,52と、縦横のそれぞれに連続して並べられた複数の網目を備える網状部31とが形成される。網状部31の形成に際しては、複数の網目として、断線されていない通常網目38と、自身の一部のみが断線されている断線網目41と、模擬網目45とが形成される。
【0066】
さらに、パターニング工程では、網状部31の形成に際し、複数の断線網目41が配列されてなる非導通部43が複数箇所に形成される。隣り合う非導通部43の間の複数の通常網目38により電流経路44が形成される(図2参照)。
【0067】
<レジスト層形成工程>
レジスト層形成工程では、図8に示すように、接着層29上であって、網状部31の周りにソルダーレレジスト等が塗布されることによって、網状部31を被覆するレジスト層55が形成される。
【0068】
このようにして、ヒータ基材26、接着層29、網状部31、一対の接続部、一対の電極部51,52及びレジスト層55を備えるヒータ25が作成される。
上記ヒータ25が組込まれたエンブレム20は、次のエンブレム基材成形工程及び被覆工程を経ることによって形成される。
【0069】
<エンブレム基材成形工程>
エンブレム基材成形工程では、図示はしないが、上記ヒータ25が、エンブレム基材23の前面の形状に概ね対応した形状をなるように予備賦形される。この予備賦形に際しては、例えば、エンブレム基材23の前面の形状と概ね同様の形状を自身の前面に有する治具(図示略)が用いられる。ヒータ25が加熱されて軟化させられ、上記治具に対し、接触した状態又は接近した状態で配置される。軟化状態のヒータ25が治具側へ真空吸引される。すると、ヒータ25が、上記治具の前面に密着させられることで、エンブレム基材23の前面の形状に概ね対応した形状に予備賦形される。
【0070】
なお、上記予備賦形は、ヒータ25にバインダ層56が形成された状態で行なわれてもよい。バインダ層56の種類によっては、同バインダ層56は上記予備賦形の後に形成されてもよい。
【0071】
バインダ層56は、例えば、レジスト層55の後面に対し、粉体塗装、スクリーン印刷等を行なうことによって形成することができる。
上記のように、予備賦形され、かつバインダ層56が形成されたヒータ25をインサート部材としてエンブレム基材23がインサート成形される。このインサート成形に際しては、図9に示すように、固定型62及び可動型63を備える金型60が用いられる。可動型63が固定型62から離間させられ、バインダ層56の形成されたヒータ25が固定型62に配置される。金型60が型締めされると、バインダ層56と可動型63との間にキャビティ64が形成される。このキャビティ64に対し、エンブレム基材23を形成するための溶融状態の樹脂材料、この場合、PCが射出されて、充填される。溶融樹脂が硬化されることにより、図10に示すように、バインダ層56の後方にエンブレム基材23が樹脂成形される。すると、エンブレム基材23がヒータ25に対しバインダ層56を介して付着した中間体65が得られる。
【0072】
<被覆工程>
図10に示すように、被覆工程では、中間体65のヒータ25が、前方から保護部57によって覆われる。より詳しくは、被覆工程では、保護部57が、遠赤外線、接触加熱等によって加熱される。加熱により軟化した保護部57が、上記中間体65におけるヒータ基材26の前面に接触した状態、又は接近した状態で配置される。
【0073】
この状態で、保護部57が中間体65側へ真空吸引される。すると、樹脂シート58が接着層59を介してヒータ基材26に対し、同ヒータ基材26の前面に密着し、同前面の形状に対応した形状に賦形される。このように賦形された樹脂シート58は、接着層59によりヒータ基材26の前面に貼付けられる。なお、圧縮空気によって加圧される(圧空成形)ことで上記賦形が行なわれてもよい。
【0074】
すると、図5に示すように、保護部57と中間体65とが一体となった、目的とするエンブレム20が得られる。
このようにして得られたエンブレム20は、取付部においてフロントグリル11又は車体に取付けられる。このエンブレム20では、保護部57がヒータ25よりも前方に位置する。保護部57の樹脂シート58は、ヒータ基材26の前面の形状に対応した形状に賦形されて、前方からヒータ基材26を覆っている。保護部57は、エンブレム本体部22に対し、前方から飛び石等が衝突して衝撃が加わった場合に、その衝撃を受け止める。保護部57は、上記衝突による衝撃から、ヒータ25、特に網状部31を保護する。
【0075】
ヒータ25の網状部31は、縦横にそれぞれ連続して並べられた複数の網目からなる。各網目は、2本の線分34と2本の線分36とによって構成されている。
図4に示すように、通常網目38では、いずれの線分34,36も分断されていない。通常網目38では、電流が各線分34,36に沿って流れることが可能である。
【0076】
これに対し、断線網目41では、線分34,36の少なくとも1本が、その一部において分断されている。分断された線分34,36は、一部に分断部42を有している。断線網目41では、線分34,36に沿って電流が流れることを、分断部42によって規制される。
【0077】
図2図4に示すように、網状部31における非導通部43では、複数の断線網目41が配列されている。そのため、電流は非導通部43に対し交差する方向へ流れることを規制される。
【0078】
特に、第1実施形態では、各非導通部43において、両端に位置する線分34,36を除く複数の線分34,36の全てが、分断部42を有している。従って、各非導通部43において、両端に位置する線分34,36を除く複数の線分34,36のうちの一部の線分34,36のみが分断部42を有している場合に比べて、電流が流れることを規制される線分34,36が多くなる。そのため、電流が各非導通部43に対し交差する方向へ流れることがより一層規制される。
【0079】
隣り合う非導通部43の間の電流経路44は、複数の通常網目38を有している。そのため、電流は、非導通部43及び電流経路44に沿って流れることとなる。
そして、エンブレム20の意匠面21に氷雪が付着した場合には、外部機器から電力がコネクタピン、接続部及び電極部51,52を介してヒータ25に供給される。一方の電極部51から電流が、通常網目38を通って電流経路44に沿って屈曲しながら、すなわち、向きを変えながら、他方の電極部52に向けて流れる。電流が流れた通常網目38は発熱する。電流は、隣り合う非導通部43間の複数の通常網目38を流れるため、網状部31の広い領域が発熱する。この熱の一部は、図5に示すように、接着層29、ヒータ基材26及び保護部57を介してエンブレム20の意匠面21に伝達される。この熱により、上記意匠面21に付着している氷雪が溶かされる。氷雪によるミリ波の減衰を抑制し、氷雪の付着が原因でミリ波レーダ装置13の検出性能が低下するのを抑制できる。
【0080】
ところで、エンブレム20を前方から見た場合、網状部31よりも前方に位置する部材が透明であるため、同網状部31が透けて見える。網状部31は、断線されていない通常網目38だけでなく、断線されている断線網目41も含んでいる。通常網目38では、4本の線分34,36のいずれも分断部42を有していない。これに対し、断線網目41では、2本の線分34(36)のそれぞれが、一部に分断部42を有している。通常網目38と断線網目41との違いは、分断部42の有無だけである。しかも、各分断部42の長さは短い。断線網目41の外観は、通常網目38の外観に似ている。
【0081】
従って、ヒータ25のうち、通常網目38が配置されていて発熱に関与する箇所と、断線網目41が配置されていて発熱に関与しない箇所とで、同様の外観となる。網状部31の広い領域で網目のパターンが一様に見える。そのため、ヒータ25、ひいてはエンブレム20の外観が良好となる。
【0082】
さらに、第1実施形態では、網状部31が、通常網目38及び断線網目41に加え、発熱に関与しない模擬網目45を同網状部31の上部、下部、左側部及び右側部に有している。模擬網目45は、網状部31における複数の網目の一部を構成するものであり、通常網目38及び断線網目41と似た外観を有している。
【0083】
模擬網目45は、特定の非導通部43を挟んで電流経路44とは反対側に隣接する箇所に配置されている。上述したように、模擬網目45は発熱に関与しない。そのため、この模擬網目45の分、網状部31において、発熱に関与しない箇所が拡大する。しかも、模擬網目45は、非導通部43に隣接する。従って、模擬網目45の分、網状部31が非導通部43を挟んで電流経路44とは反対側へ拡張された状態となる。
【0084】
そのため、ヒータ25のうち、発熱に関与する箇所と、発熱に関与しない箇所とで、同様の外観となる領域がさらに広がり、ヒータ25、ひいてはエンブレム20の外観が一層良好となる。
【0085】
さらに、各網目における線分34,36の線幅は、20μm程度と狭い。また、各網目の大きさ、すなわち、線分34,36の長さは、4000μm程度と長い。そのため、いずれの網目も見えにくく、この点でも、ヒータ25、ひいてはエンブレム20の外観が向上する。
【0086】
なお、電極部51,52の線幅は、網目における線分34,36の線幅よりも広い。しかし、両電極部51,52は網状部31の外周縁部に配置されているため、網状部31の外観に影響しにくい。この点も、ヒータ25の外観向上に寄与する。
【0087】
ところで、図5に示すミリ波レーダ装置13からミリ波が送信されると、そのミリ波は、エンブレム本体部22の各部を透過する。透過したミリ波は、先行車両、歩行者等を含む車両前方の物体に当たって反射された後、再びエンブレム本体部22を透過し、ミリ波レーダ装置13によって受信される。ミリ波レーダ装置13では、送信及び受信された上記ミリ波に基づき、物体が認識され、車両10と同物体との距離、相対速度等の検出等が行われる。
【0088】
ここで、ヒータ25では、ミリ波が網状部31の網目とヒータ基材26とを透過する。上述したように、網目における各線分34,36の各線幅は狭いため、ミリ波の透過の妨げとなりにくい。また、各線分34,36の長さが長く、網目が大きいため、同網目はミリ波の透過の妨げとなりにくい。
【0089】
第1実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
(1)ヒータの一形態として、上記第1実施形態とは異なり、ヒータ線をヒータ基材上に配線したタイプが知られている。ヒータ線は、銅等の導電性発熱材料からなる線状の発熱部と、ウレタン樹脂等の樹脂材料からなり、かつ発熱部を被覆する被覆部とからなる。
【0090】
上記タイプのヒータの作成に際しては、ヒータ線をヒータ基材に対し這わせる加工が行なわれる。しかし、この加工は難しく、ヒータの製造コストが高くなる。
これに対し、第1実施形態では、銅等の導電性発熱材料からなる箔61を、接着層29によりヒータ基材26に貼付け、この箔61をパターニング加工することによって、網状部31、電極部51,52等を形成している。そのため、ヒータ線をヒータ基材上に這わせる場合に比べ、低コストで網状部31等を簡単に形成することができる。
【0091】
(2)電流が電流経路44を流れる際に発生する発熱量は、電力量に比例する。電力量は、電圧の2乗に比例し、また抵抗に反比例する。車両では、電圧は一定である。一方、抵抗は、長さ及び抵抗率に比例し、断面積(幅×厚み)に反比例する。抵抗率は材料によって決まる。エッチングで線分34,36の厚みを薄くすることは難しい。従って、一定の電圧で必要な発熱量を得るには、線分の幅を広くし、電流経路44の長さを長くすることになる。
【0092】
この点、第1実施形態では、電流は、断線されていない通常網目38を流れることは可能であるが、断線されている断線網目41を流れることを規制される。
ここで、仮に、網状部31が通常網目38のみによって構成される場合には、電流は一方の電極部51から他方の電極部52に向けて真っ直ぐに流れることとなり、電流経路44が短くなってしまう。
【0093】
これに対し、第1実施形態では、非導通部43の配置態様を工夫することで、電流経路44を複数箇所で屈曲させている。この屈曲により、電流経路44の長さを長くしている。そのため、電流経路44の抵抗を、目的とする発熱量が得られる値に設計しやすくなる。
【0094】
(3)電流経路44の設計に際しては、網状部31を構成する複数の網目のうち、どの網目を断線網目41にし、どの線分34,36を分断するかを決定するだけでよい。そのため、電流経路44の設計の自由度が高く、設計を柔軟に行える。
【0095】
(第2実施形態)
次に、車両外装品用ヒータを、車両のエンブレムに用いられるヒータに具体化した第2実施形態について、図11図13を参照して説明する。なお、図11及び図12では、網状部31における網目(通常網目38、断線網目41及び模擬網目45)の図示が省略されている。
【0096】
第2実施形態のミリ波レーダ装置13(図5参照)は、例えば、76.5GHzの周波数を中央値として、1GHz程度の幅をもって、すなわち、76GHz~77GHzの周波数の帯域で電波を変化させながら送信する。
【0097】
また、第2実施形態では、ヒータ基材26が、横長の楕円形状をなす本体部27と、本体部27の外周縁部の下部から延出する一対の延出部28とを備えている。
第2実施形態では、図13に示すように、網状部31が第1実施形態よりも小さな網目によって構成されている。表現を変えると、網目を構成する線分の長さが、第2実施形態では第1実施形態よりも短く設定されている。網目が細かくなるに従い、ミリ波が透過しにくくなる。
【0098】
そこで、第2実施形態では、網状部31が、複数の網目に加え、網目に重ねられた状態で縦横に規則的に並べられた複数の透過補助部70を備えている。各透過補助部70は、発熱機能を有し、かつ目立ちにくいことに加え、周波数の特定の帯域の電波を通過させてその帯域以外の他の周波数の電波の通過を抑制する、いわゆるバンドパスフィルタに類する機能を有する。各透過補助部70は、例えば、76GHz~77GHzが通過帯域となるように構成されている。
【0099】
各透過補助部70もパターニング加工によって形成されている。
第2実施形態でも、第1実施形態と同様に、図11及び図13に示すように、網状部31が複数の通常網目38、複数の断線網目41、及び複数の模擬網目45(図示略)を備えている。第2実施形態では、模擬網目45は、網状部31の左右両側部に位置している。詳しくは、模擬網目45は、網状部31において最も左側に位置する非導通部43よりも左方の網目と、最も右側に位置する非導通部43より右方の網目とによって構成されている。
【0100】
また、第2実施形態では、複数の非導通部43が第1実施形態と異なる態様で配置されることで、電流が複数回向きを変えながら第1実施形態とは異なる態様で流れる電流経路44が形成されている。図11では、電流経路44が太い二点鎖線で図示されている。
【0101】
図11及び図12に示すように、一対の電極部51,52のそれぞれは、ヒータ基材26の延出部28の後面に対し接着層29を介して形成されている。図13に示すように、各電極部51,52(図13では電極部52のみ図示)は、複数の第3導線部75と、複数の第4導線部76とを備えている。複数の第3導線部75は、互いに左右方向に平行に離間した状態で上下方向へ延びており、網状部31の第1導線部32よりも広い線幅を有している。複数の第4導線部76は、互いに上下方向に平行に離間した状態で左右方向へ延びており、網状部31の第2導線部33よりも広い線幅を有している。これらの第3導線部75及び第4導線部76によって、縦横にそれぞれ連続して並べられた複数の網目が形成されている。
【0102】
第3導線部75は、網状部31における複数の第1導線部32のうち上方に位置するものに対し、接続導線部77を介して接続されている。接続導線部77は、第3導線部75に近づくに従い線幅が徐々に広くなるように形成されている。
【0103】
なお、図12及び図13は、ヒータ25を製造する途中段階のヒータ中間体81を示している。ヒータ中間体81は、ヒータ基材26、網状部31及び一対の電極部51,52を含んでいる。ヒータ中間体81は、ヒータ基材26における本体部27の周りに余剰ヒータ基材82を備えている。余剰ヒータ基材82は本体部27に繋がっている。余剰ヒータ基材82の外形形状は、横長の矩形状をなしている。
【0104】
ヒータ中間体81は、網状部31の周りに余剰網状部83を備えている。余剰網状部83は、余剰ヒータ基材82上に余剰接着層84を介して形成されている。余剰網状部83及び余剰接着層84のそれぞれの外形形状は、余剰ヒータ基材82と同様、横長の矩形状をなしている。ただし、余剰網状部83は網状部31から分断された状態で形成されている(図13参照)。
【0105】
ヒータ中間体81における余剰ヒータ基材82、余剰網状部83及び余剰接着層84は、適宜のタイミングでトリミングされて、本体部27、網状部31、及び本体部27上の接着層29から分離される。ヒータ中間体81は、上記分離により、図11に示す形状にされる。
【0106】
なお、第2実施形態において、第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
第2実施形態では、非導通部43の配置態様と、電流経路44の形状とが第1実施形態と異なる。しかし、ヒータ25に供給された電流が、一方の電極部51から他方の電極部52に向けて、向きを複数回変えながら流れる点と、電流が流れた通常網目38が発熱する点とは、第1実施形態と同様である。
【0107】
また、ミリ波透過性を確保するために複数の透過補助部70が追加されているものの、それらの透過補助部70は、通常網目38又は断線網目41上において縦横に並べられた状態で配置されている。すなわち、透過補助部70と通常網目38又は断線網目41との組み合わせが縦横に規則的に配列されている。そのため、上記組み合せのパターンが一様に見える。第2実施形態では、第1実施形態とは見えるパターンが異なるものの、ヒータ25、ひいてはエンブレム20の外観を向上させる効果が得られる。
【0108】
また、第2実施形態でも、第1実施形態と同様、上記(1)~(3)の効果が得られる。
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変更例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0109】
・網状部31における各第1導線部32は、鉛直線に対し、斜めに交差する方向へ延びてもよい。
また、網状部31における各第2導線部33は、水平線に対し、斜めに交差する方向へ延びてもよい。
【0110】
・網状部31において、複数本の第2導線部33が、各第1導線部32に対し、斜めに交差してもよい。この場合には、各網目の形状が菱形となる。
・網状部31を構成する各網目が長方形状に形成されてもよい。この場合、線分34の長さと線分36の長さとが異ならせられる。
【0111】
・網状部31から模擬網目45が省略されてもよい。
・ヒータ25が組込まれる車両外装品は、車外の物体を検出するための電磁波を送信及び受信する装置が搭載された車両に配置され、かつ電磁波の透過性を有する車両外装品であればよい。この場合、装置が送信及び受信する電磁波には、ミリ波のほかにも、赤外線等の電磁波が含まれる。
【0112】
・車外の物体を検出するための電磁波を送信及び受信する装置は、前方監視用以外にも、後方監視用、前側方監視用、又は後側方監視用の装置であってもよい。この場合、車両外装品は、電磁波の送信方向における上記装置の前方に配置される。
【0113】
・上記ヒータ25は、オーナメント、マーク等、エンブレム以外の車両外装品に組込まれてもよい。
【符号の説明】
【0114】
10…車両
13…ミリ波レーダ装置(装置)
20…エンブレム(車両外装品)
25…ヒータ(車両外装品用ヒータ)
26…ヒータ基材
31…網状部
32…第1導線部
33…第2導線部
34,36…線分
38…通常網目
41…断線網目
43…非導通部
44…電流経路
45…模擬網目
51,52…電極部
61…箔
図1
図2
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