(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012137
(43)【公開日】2023-01-25
(54)【発明の名称】帆布とその製造方法、および布製品
(51)【国際特許分類】
D06N 7/00 20060101AFI20230118BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20230118BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230118BHJP
D06M 15/277 20060101ALI20230118BHJP
D06C 15/00 20060101ALI20230118BHJP
D06M 101/28 20060101ALN20230118BHJP
【FI】
D06N7/00
B32B27/12
B32B27/30 D
D06M15/277
D06C15/00
D06M101:28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115611
(22)【出願日】2021-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】520151596
【氏名又は名称】田島縫製株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591032703
【氏名又は名称】群馬県
(72)【発明者】
【氏名】田島 壽宏
(72)【発明者】
【氏名】久保川 博夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 真揮
【テーマコード(参考)】
3B154
4F055
4F100
4L033
【Fターム(参考)】
3B154AA09
3B154AB20
3B154AB27
3B154BA35
3B154BB02
3B154BB12
3B154BC22
3B154BD08
3B154BF01
3B154DA16
4F055AA26
4F055AA30
4F055BA12
4F055CA11
4F055CA18
4F055DA08
4F055EA06
4F055EA22
4F055EA30
4F055EA35
4F055FA09
4F055GA01
4F055HA12
4F100AK17B
4F100AK25A
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DG01A
4F100DG12A
4F100EC03A
4F100GB71
4F100JD02B
4F100JD05B
4F100JJ07B
4F100YY00B
4L033AA05
4L033AB05
4L033AC03
4L033CA22
(57)【要約】
【課題】難燃性、防水性に加えて通気性を兼ね備えた丈夫な帆布とその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の帆布1は、タテ及びヨコのカバーファクターの和が2000乃至3500である隣接するアクリル系繊維の一部が熱圧着されている糸2からなる織物であって、前記織物の表面にフッ素系化合物の被膜3が形成されている。製造方法としては、アクリル系繊維の糸12からなる織物11を、フッ素系化合物を含む液でパッドキュアした後、圧力を加えながら摂氏160度乃至摂氏200度で加熱する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系繊維の糸からなる織物であって、前記織物の表面にフッ素系化合物が被膜を形成しており、前記織物の隣接する前記アクリル系繊維の一部が互いに熱圧着されていることを特徴とする帆布。
【請求項2】
前記織物のカバーファクターが2000乃至3500であることを特徴とする請求項1に記載の帆布。
【請求項3】
JIS L 1091に規定される酸素指数が30以上であって、難燃性を備えていることを特徴とする請求項1に記載の帆布。
【請求項4】
JIS L 1092に規定される低水圧法による耐水度が100ミリメートル以上であり、且つ、撥水度が5級以上であって、防水性を備えていることを特徴とする請求項1に記載の帆布。
【請求項5】
JIS L 1096に規定される試験片を通過する空気量が毎秒毎平方センチメートル当たり9立方センチメートル以上であって、通気性を備えていることを特徴とする請求項1に記載の帆布。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の帆布を材料として作製された布製品。
【請求項7】
カバーファクターが2000乃至3500であるアクリル系繊維の糸からなる織物を、フッ素系化合物を含む液でパッドキュアした後、圧力を加えながら摂氏160度乃至摂氏200度で加熱することを特徴とする帆布の製造方法。
【請求項8】
前記織物を加熱する方法が、耐熱性繊維からなる織物を介して、加熱した金属製の平板若しくはローラーを押しつける方法であることを特徴とする、請求項7に記載の帆布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帆布とその製造方法、および帆布を材料として作製する鞄又は靴などの布製品に関する。
【背景技術】
【0002】
帆布は、帆船の帆に使うための厚手で丈夫な布として作られたのが始まりであるが、現在は鞄や靴などの布製品の材料としても多く使用されている。こうした身近な日用品では、丈夫で通気性が良く、水が浸透しにくいという帆布の本来の特徴が活かされる。また、帆船の帆や防災用の鞄などに利用する場合では、容易に燃えてしまうことは問題であるため難燃性であることが求められる。難燃性および撥水性を備える帆布の製造方法としては、燐化合物を共重合した難燃ポリエステル繊維からなる帆布用基布の1側面に熱溶融性ポリウレタン樹脂とホスフィン酸誘導体との混合樹脂を乾式コーティングし、反対側面に有機フッ素化ポリマー系撥水剤を付与して被膜を形成させる方法が行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の帆布の製造方法では、難燃ポリエステル繊維からなる帆布用基布の1側面に熱溶融性ポリウレタン樹脂とホスフィン酸誘導体との混合樹脂を乾式コーティングし、反対側面に有機フッ素化ポリマー系撥水剤を付与して被膜を形成させている。この方法では難燃性と防水性を備えた帆布が得られるが、樹脂コーティングによって通気性が失われる。すなわち、特許文献1のような樹脂コーティングによる帆布は帆船の帆として使うには問題がないが、通気性が望まれる靴や鞄などの布製品の材料としては好ましくない。そのため、靴や鞄などの用途では難燃性、防水性および通気性を兼ね備えた丈夫な帆布が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の帆布はアクリル系繊維の糸からなる織物であって、前記織物の表面にフッ素系化合物が被膜を形成しており、隣接するアクリル系繊維の一部が互いに熱圧着されている。
【0006】
本発明の帆布は、アクリル系繊維の糸からなる織物のカバーファクターが2000乃至3500である。
【0007】
本発明の帆布は、JIS L 1091に規定される酸素指数が30以上であって、難燃性を備えている。
【0008】
本発明の帆布は、JIS L 1092に規定される低水圧法による耐水度が100ミリメートル以上であり、且つ、撥水度が5級以上であって、防水性を備えている。
【0009】
本発明の帆布は、JIS L 1096に規定される試験片を通過する空気量が毎秒毎平方センチメートル当たり9立方センチメートル以上であって、通気性を備えている。
【0010】
本発明の帆布を材料として布製品を作製する。
【0011】
本発明の帆布の製造方法は、カバーファクターが2000乃至3500であるアクリル系繊維の織物を、フッ素系化合物を含む液でパッドキュアした後、圧力を加えながら摂氏160度乃至摂氏200度で加熱する。
【0012】
圧力を加えながら摂氏160度乃至摂氏200度でアクリル系繊維の織物を加熱する方法は、耐熱性繊維からなる織物を介して、加熱した金属製の平板若しくはローラーを前記織物に押しつける方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の帆布は、カバーファクターが2000乃至3500の織物であって、隣接する繊維の一部が互いに熱圧着されている構造のため、鞄の素材に適する丈夫さと型崩れしにくい性質を有する。繊維素材としては、アクリル系繊維を利用することにより難燃性を備えており、樹脂コーティングを行わないため織物の通気性を保持できる。さらに、織物表面にフッ素系化合物の被膜を形成させることにより、防水性を備えることができる。以上により、難燃性、防水性に加えて通気性を兼ね備えた丈夫な帆布が得られ、この帆布を材料として鞄や靴などの布製品が作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】請求項1の帆布に関する一実施形態の拡大断面図である。
【
図2】請求項1の帆布に関する表面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の帆布1に関する実施の形態を説明する。
図1に示す本発明の一実施形態の帆布1は、隣接するアクリル系繊維の一部が熱圧着されている糸2、フッ素系化合物の被膜3、および熱圧着で押しつぶされた形状の部分4からなる。
【0016】
帆布1の組織としては簡単かつ丈夫な平織り組織が用いられる。厚みと重量は号数によって表され、厚みと重量が最大の1号から最小の11号まで規格化されており、一般に鞄又は靴用素材としては6号から11号の帆布が好ましく使用される。タテ糸およびヨコ糸を構成する単糸の繊度は綿番手の10番であり、1号および2号の帆布ではこの単糸を最大8本まで撚り合わせるが、6号から11号では最大4本の撚り合わせとすることができる。
【0017】
平織りの織物の密度の指標としては、カバーファクター(CF)が用いられる。帆布の規格に基づくCFの範囲は2425乃至3569であるが、アクリル系繊維の糸は綿糸と比較して嵩高く同じ番手では見かけが太いため、同様の密度で製織すると製織時にトラブルが生じやすい。そのため、鞄や靴などの素材に適した厚みと重量をもつ本発明の帆布1としては、CFを帆布の規格よりも低い2000乃至3500に設定することが望ましく、さらには8号相当の帆布を安定的に製織しやすい点で2100乃至2400に設定することがより好ましい。
なお、織物のカバーファクター(CF)は下記式より求めることができる。
CF=X√D1+Y√D2
X:織物1インチ当りの経糸本数
Y:織物1インチ当りの緯糸本数
D1:織物構成経糸の繊度(dtex)
D2:織物構成緯糸の繊度(dtex)
【0018】
アクリル系繊維の糸12を構成するアクリル系繊維とは、アクリロニトリルの分量が35パーセント乃至85パーセントであり、その他の成分として共重合により塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを含む繊維である。塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを含むことにより、アクリル系繊維は難燃性を示す。本発明に用いるアクリル系繊維としては、例えば株式会社カネカ製の「プロテックス」などの市販品が挙げられるが、これらに限定されるものではない。「プロテックス」には難燃性能として酸素指数26から32までの製品群があるが、酸素指数32の高難燃タイプである「プロテックス-C」などが特に好ましく利用できる。
【0019】
フッ素系化合物の被膜3は、撥水層の形成によって防水性を高めるために繊維表面に形成させる。撥水層に含有される撥水剤としては、例えば、シリコーン系撥水剤又はフッ素系撥水剤などが挙げられる。なかでも、撥水性により優れる観点からはフッ素系撥水剤が好ましく、環境配慮の観点から、炭素数が6以下のフルオロアルキルアクリレート基を有するフッ素系撥水剤がより好ましい。フッ素系撥水剤の市販品としては、例えば、アサヒガードEシリーズ(旭硝子株式会社製)、NKガードSシリーズ(日華化学株式会社製)、ユニダインマルチシリーズ(ダイキン工業株式会社製)などが挙げられる。さらに、撥水層の耐久性を向上させるためには、架橋剤が含有されていることが好ましい。架橋剤としては、トリアジン化合物架橋剤又はブロックイソシアネート架橋剤が利用可能である。
【0020】
熱圧着で押しつぶされた形状の部分4は、帆布1に圧力を加えながら加熱することで形成できる。アクリロニトリルからなるアクリル繊維の場合は摂氏190度前後から軟化が始まるが、共重合により塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを含むアクリル系繊維では軟化点が低下し、摂氏150度付近から軟化が始まる。アクリル系繊維では比較的低温で熱圧着で押しつぶされた形状の部分4を形成できるが、数秒から1分程度の短時間で形成するにはある程度高い温度域での処理が必要となる。そのため加熱条件としては、摂氏160度乃至摂氏200度が熱圧着で押しつぶされた形状の部分4の形成に好ましく、さらには摂氏180度乃至摂氏190度がより好ましい。圧力条件については特に制限はないが、1キロパスカル乃至100キロパスカルの圧力で処理が可能であり、さらには20キロパスカル乃至50キロパスカルの圧力でより好ましく処理できる。
【0021】
圧力を加えながら摂氏160度乃至摂氏200度でアクリル系繊維の織物11を加熱する方法には特に制限はないが、耐熱性繊維からなる織物を介して、加熱した金属製の平板若しくはローラーを前記織物11に押しつける方法が好ましく実施できる。ここで耐熱性繊維とは、摂氏200度を超える温度での連続使用に耐えることができる繊維であり、具体的には芳香族ポリアミド系繊維(アラミド繊維)やポリベンゾイミダゾール繊維が挙げられる。これらの耐熱性繊維からなる織物は、空気を多く含み通気性に優れていることが望ましい。
【0022】
空気を多く含んで通気性に優れる耐熱性繊維の織物を介して加熱した場合、金属製の平板若しくはローラーからアクリル系繊維の織物11への熱移動は、前記耐熱性繊維を介した伝導とともに、空気を介した対流によっても生じる。これに対し、耐熱性繊維の織物を介することなく加熱した金属製の平板若しくはローラーを押しつけた場合では、アクリル系繊維の織物11への熱移動はほぼ伝導のみによって生じる。前者における熱移動は後者に比べて遅くなるため、熱圧着によって丈夫さと型崩れしにくさを得るには比較的長い処理時間を要する。しかし、空気の対流によっては、織物11の表面だけでなく内部にも熱移動が生じるため、内部にある糸を構成して隣接するアクリル系繊維の一部も互いに熱圧着されて、丈夫さと型崩れしにくい性質が得られる。一方、伝導による後者では、熱移動は速やかであるが表面のみから熱圧着が進行するため、丈夫さと型崩れしにくさを得るまでに表面が融着して物性面で大きなダメージを受ける。
【実施例0023】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0024】
(織物11の作製)
綿番手10番の株式会社カネカ製「プロテックス-C」を3本撚り合わせたアクリル系繊維の糸12を用意した。このアクリル系繊維の糸12を経糸および緯糸として、ドビー織機を用いて織物1インチ当りの経糸本数31本、緯糸本数22本の密度で
図3に示す平織りの織物11を製織した。この織物11のCFは2231であった。
【0025】
(フッ素系化合物の被膜3の形成)
前記の織物11を水分散液〔組成:明成化学工業株式会社製フッ素系撥水剤「LSE-009」50グラム/リットル、DIC株式会社製トリアジン系架橋剤「ベッカミンM-3」5グラム/リットル、DIC株式会社製有機アミン系触媒「キャタリストACX」3グラム/リットル〕に浸漬し、マングルで絞り率が50パーセントとなるように絞液し、摂氏170度で1分間熱処理してフッ素系化合物の被膜3を繊維表面に形成させた。
【0026】
(熱圧着処理)
前記のフッ素系化合物の被膜3を形成させた織物11については、株式会社ハシマ製の平型昇華転写プレスHSP-1310を用いて、温度:摂氏190度、圧力:35キロパスカル、時間:1分間の処理条件で、デュポン社製メタ系アラミド繊維「ノーメックス」の織物を介して加熱した金属製平板を押しつけ、隣接するアクリル系繊維の一部を互いに熱圧着させて本発明の帆布1とした。
【0027】
(引張り特性評価)
前記の作製した帆布1、織物11および綿素材の帆布8号について、カトーテック株式会社製の引張りせん断試験機KES-FB1-Aを利用して、常法により引張り特性を評価した結果を表1にまとめる。引張り特性の直線性を表すLTについては、帆布1が帆布8号とほぼ同等の1に近い値を示し、織物11に比べて引張り剛性が大幅に増大していた。引張り仕事量WTは大きいほど伸びやすいことを示し、帆布1は織物11に比べて伸びにくくなっており、帆布8号に近い性質となった。引張りレジリエンスRTは、100パーセントに近いほど回復性が良いことを示し、帆布1は最も回復性が優れていた。
【0028】
【0029】
(せん断特性評価)
前記の作製した帆布1、織物11および綿素材の帆布8号について、カトーテック株式会社製の引張りせん断試験機KES-FB1-Aを利用して、常法によりせん断特性を評価した結果を表2にまとめる。せん断剛性Gは大きいほどせん断力に対して堅いことを示し、帆布1は織物11に比べて大幅に堅くなっていた。せん断角0.5度でのヒステリシス2HGは、大きいほど初期回復性が悪いことを示し、帆布1は最も回復性が優れる結果となった。
【0030】
【0031】
引張り特性とせん断特性の評価結果を総合すると、作製した帆布1は、熱圧着によって鞄や靴の素材に適する丈夫さと型崩れしにくい性質が付与されたといえる。また、帆布1の表面の顕微鏡写真(
図2)からは、アクリル系繊維の糸12が押しつぶされて隣接する繊維が互いに熱圧着され、表面が平坦になっていることが分かる。
【0032】
(各種性能の評価)
前記の作製した帆布1、織物11および綿素材の帆布8号について、JIS L 1091に規定される酸素指数、JIS L 1092に規定される低水圧法による耐水度および撥水度、およびJIS L 1096に規定される試験片を通過する空気量を評価した。それらの結果を表1にまとめる。酸素指数の結果から、帆布1の難燃性能はフッ素系化合物の被膜3の形成によっても低下することなく、若干向上することが確認できた。耐水度については、綿素材の帆布8号が耐水性を全く示さなかったのに対し、帆布1と織物11は100ミリメートル以上の耐水度を示した。撥水度については、帆布1がフッ素系化合物の被膜3の形成と熱圧着処理によって大幅に向上し、防水性の付与が確認できた。帆布1の通気性に関しては、織物11と帆布8号に比べて、3倍以上の良好な通気性を有することが確認できた。以上の結果から、綿素材の帆布8号およびフッ素系化合物の被膜3を形成する以前の織物11と比べて、帆布1は難燃性、防水性および通気性をバランス良く兼ね備える帆布となった。
【0033】