(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121377
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】成膜装置、成膜方法及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20230824BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20230824BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20230824BHJP
H01L 21/677 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C23C14/50 K
C23C14/50 F
H05B33/10
H05B33/14 A
H01L21/68 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024688
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】江澤 光晴
(72)【発明者】
【氏名】青木 泰一郎
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
5F131
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
【課題】基板キャリアを磁力によって浮上させた状態で搬送しながら成膜を行う成膜装置において、重量の変化による基板キャリアの搬送高さの変化を抑制する。
【解決手段】基板を搬送しながら成膜するインライン型の成膜装置であって、前記基板を保持する基板キャリアと、前記基板キャリアを磁気浮上させるための磁力を発生する磁力発生手段と、前記磁力発生手段の鉛直方向の位置を変更する位置変更手段と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を搬送しながら成膜するインライン型の成膜装置であって、
前記基板を保持する基板キャリアと、
前記基板キャリアを磁気浮上させるための磁力を発生する磁力発生手段と、
前記磁力発生手段の鉛直方向の位置を変更する位置変更手段と、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記基板キャリアは、マスクを保持するマスク保持手段を有し、
前記位置変更手段は、前記基板キャリアがマスクを保持している時と、前記基板キャリアがマスクを保持していない時とで、前記磁力発生手段の位置を異ならせる請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記基板キャリアに保持された基板とマスクとのアライメントを行うアライメント手段を有し、
前記位置変更手段は、前記基板キャリアがマスクを保持していない状態で前記アライメントを行う時と、前記アライメントを行った後に前記基板キャリアがマスクを保持している時とで、前記磁力発生手段の位置を異ならせる請求項1又は2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記アライメント手段は、前記基板及び前記マスクに設けられたアライメントマークを撮像する撮像手段を有し、
前記位置変更手段は、前記基板キャリアの搬送高さが前記撮像手段の被写界深度の範囲に入るように、前記磁力発生手段の位置を変更する請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記位置変更手段は、前記基板キャリアがマスクを保持している時は、前記基板キャリアがマスクを保持していない時よりも、前記磁力発生手段が前記基板キャリアに近づくように前記磁力発生手段の位置を変更する請求項1~4のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記位置変更手段は、
前記基板キャリアにより保持される搬送対象物の重量が増加した場合、前記磁力発生手段が前記基板キャリアに近づくように前記磁力発生手段の位置を変更し、
前記基板キャリアにより保持される搬送対象物の重量が減少した場合、前記磁力発生手段が前記基板キャリアから遠ざかるように前記磁力発生手段の位置を変更する請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記基板キャリアには第1磁石が設けられ、
前記磁力発生手段は、前記第1磁石の下方に位置する第2磁石を有し、
前記基板キャリアは、前記第1磁石と前記第2磁石との間に生じる反発力によって鉛直方向に支持され、
前記位置変更手段は、前記第2磁石の鉛直方向の位置を変更する請求項1~6のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記基板キャリアには第1磁石が設けられ、
前記磁力発生手段は、前記第1磁石の上方に位置する第3磁石を有し、
前記基板キャリアは、前記第1磁石と前記第3磁石との間に生じる吸引力によって鉛直方向に支持され、
前記位置変更手段は、前記第3磁石の鉛直方向の位置を変更する請求項1~6のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記基板キャリアの鉛直方向の位置を検出する検出手段を有し、
前記位置変更手段は、前記基板キャリアの鉛直方向の位置に基づき前記磁力発生手段の位置を変更する請求項1~8のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記成膜装置は、異なる種類のマスクを用いて成膜を行うことが可能であり、
前記位置変更手段は、成膜に用いられるマスクの種類に応じて前記磁力発生手段の位置を変更する請求項1~9のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項11】
基板及びマスクを保持可能な基板キャリアを磁力発生手段により発生する磁力により浮上させて搬送しながらマスクを介して基板に成膜を行う成膜方法であって、
前記基板キャリアにマスクを保持させるマスク保持工程と、
前記マスク保持工程の後、前記磁力発生手段の鉛直方向の位置を変更する位置変更工程と、
を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項12】
前記マスク保持工程の前に、前記基板キャリアに保持された基板とマスクとのアライメントを行うアライメント工程を有する請求項11に記載の成膜方法。
【請求項13】
前記基板キャリアの搬送高さが、前記基板及び前記マスクに設けられたアライメントマークを撮像する撮像手段の被写界深度の範囲に入るように、前記磁力発生手段の位置を変更する工程を有する請求項12に記載の成膜方法。
【請求項14】
前記基板キャリアがマスクを保持している時は、前記基板キャリアがマスクを保持していない時よりも、前記磁力発生手段が前記基板キャリアに近づくように前記磁力発生手段の位置を変更する工程を有する請求項11~13のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項15】
前記基板キャリアにより保持される搬送対象物の重量が増加した場合、前記磁力発生手段が前記基板キャリアに近づくように前記磁力発生手段の位置を変更する工程と、
前記基板キャリアにより保持される搬送対象物の重量が減少した場合、前記磁力発生手段が前記基板キャリアから遠ざかるように前記磁力発生手段の位置を変更する工程と、
を有する請求項11~14のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項16】
前記基板キャリアの鉛直方向の位置を検出する検出工程と、
前記基板キャリアの鉛直方向の位置に基づき前記磁力発生手段の位置を変更する工程と、
を有する請求項11~15のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項17】
成膜に用いられるマスクの種類に応じて前記磁力発生手段の位置を変更する工程を有する請求項11~16のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項18】
請求項11~17のいずれか1項に記載の成膜方法を用いて、基板上に有機膜を形成する工程を有することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、成膜方法及び電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)等の製造において、基板を搬送しながら有機膜や金属膜の成膜を行うインライン型の成膜装置が実用化されている。インライン型の成膜装置ではアライメント室や成膜室等の複数の処理室間で基板やマスクを搬送するための搬送装置が用いられる。従来の搬送装置では、基板やマスク等と搬送装置との接触部から発生する物質が基板に付着し、成膜精度を低下させる場合があった。そこで、基板を保持する基板キャリアを磁石を利用して浮上させて非接触で搬送する磁気浮上搬送装置が開発されている。例えば特許文献1には、搬送トレイの搬送方向に沿ってチャンバの上部に浮上用電磁石を配置し、チャンバの側面に水平方向の推進力発生用の固定子コイルを配置し、非接触で搬送トレイを搬送する磁気浮上搬送装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2016-532308号公報
【特許文献2】特開平5-4717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インライン型の成膜装置においては、基板キャリアが基板を保持した状態でマスクアライメントを行った後、基板キャリアにマスクを保持させて、基板キャリアが基板及びマスクを保持した状態で成膜室へ搬送する。マスクは重量が大きいため、基板キャリアによる搬送対象物の重量は基板キャリアにマスクを保持させる前後で大きく変化する。そのため、インライン型の成膜装置において基板キャリアの搬送に磁気浮上搬送装置を用いた場合、基板キャリアの搬送高さがマスクを保持させる前後で大きく変化してしまう。
【0005】
特許文献2には、磁気浮上搬送装置において、可動子に対し上方向の吸引力を作用させる磁力発生手段と下方向の吸引力を作用させる磁力発生手段を設け、特に下方向の吸引力を作用させる磁力発生手段を固定子に配置された浮上制御用電磁石とすることにより、可動子の浮上方向、ピッチング方向、ローリング方向の制御を行う技術が記載されている。
【0006】
そこで、基板キャリアの搬送に磁気浮上搬送装置を用いる成膜装置において、電磁石による浮上制御を行うことにより、搬送対象物の重量変化による基板キャリアの搬送高さの変化を抑制することが考えられる。しかしながら、重量の変化が大きい場合、電磁石の出力を大きく変化させる必要があり、発熱や消費電力が増大するという課題がある。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、基板キャリアを磁力によって浮上させた状態で搬送しながら成膜を行う成膜装置において、重量の変化による基板キャリアの搬送高さの変化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基板を搬送しながら成膜するインライン型の成膜装置であって、
前記基板を保持する基板キャリアと、
前記基板キャリアを磁気浮上させるための磁力を発生する磁力発生手段と、
前記磁力発生手段の鉛直方向の位置を変更する位置変更手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明は、基板及びマスクを保持可能な基板キャリアを磁力発生手段により発生する磁力により浮上させて搬送しながらマスクを介して基板に成膜を行う成膜方法であって、
前記基板キャリアにマスクを保持させるマスク保持工程と、
前記マスク保持工程の後、前記磁力発生手段の鉛直方向の位置を変更する位置変更工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基板キャリアを磁力によって浮上させた状態で搬送しながら成膜を行う成膜装置において、重量の変化による基板キャリアの搬送高さの変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】基板キャリアと磁気浮上搬送システムを模式的に示す図
【
図3】基板キャリアと搬送装置の断面を模式的に示す図
【
図5】成膜装置のアライメント工程における位置移動手段の動作を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照しつつ本発明の好ましい実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明の好ましい構成を例示的に表すものであり、本発明の範囲は、これらの構成に限定されない。
【0013】
本発明の実施形態に係る成膜装置、成膜方法及び電子デバイスの製造方法について説明する。本実施形態の成膜装置は、基板の表面にマスクを介して成膜材料を堆積させて薄膜を形成する装置である。成膜方法としては真空蒸着やスパッタリングを例示できる。基板とマスクを位置合わせして成膜を行うことで、基板にはマスクの開口パターンに応じたパターンの薄膜が形成される。基板に複数の層を形成する場合、一つ前の工程までに既に形成されている層も含めて「基板」と称する場合がある。本実施形態に係る成膜装置は、マスクを介した薄膜形成を高精度に行うために、基板とマスクとの相対的な位置を調整するアライメントを行う。
【0014】
基板の材料としては、ガラス、シリコン等の半導体、高分子材料のフィルム、金属等を例示できる。また、基板としては、シリコンウエハや基板上にポリイミド等のフィルムが積層されたものを例示できる。成膜材料としては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物)等を例示できる。マスクとしては、基板に形成する薄膜パターンに対応する開口パターンを有するメタルマスクを例示できる。本実施形態の製造方法で製造される電子デバイスとしては、半導体デバイス、磁気デバイス、電子部品等の各種電子デバイス、光学部品、発光素子、光電変換素子、タッチパネル、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL表示装置)、照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機CMOSイメージセンサ)等を例示できる。特に、OLED等の有機発光素子や、有機薄膜太陽電池等の有機光電変換素子の製造に好適である。
【0015】
図1は、本実施形態に係る電子デバイスの製造装置の構成を模式的に示す平面図である。ここでは成膜装置を含むインライン型の有機ELディスプレイの製造装置を例に説明する。成膜装置は、蒸発源を用いて基板に成膜材料を蒸着する真空蒸着装置である。有機E
Lディスプレイの製造は、製造装置に所定のサイズの基板を搬入し、成膜装置において有機EL層や金属層の成膜を行った後、基板のカット等の後処理工程を実施することにより行われる。
図1には後処理工程の構成は記載していない。以下、基板の成膜面に沿う方向のうち搬送方向と平行の方向をX方向、X方向と垂直のY方向、基板の成膜面に交差する方向をZ方向とする。本実施形態ではXY平面は水平面と平行であり、Z方向は鉛直方向に平行であるとする。なお、搬送方向が水平方向に平行でない場合、X方向は水平方向と平行ではなく、Z方向は鉛直方向と平行ではない。
【0016】
成膜装置1は、基板投入室401、キャリア合流室402、マスク合流室403、アライメント室404、成膜室405を有する。成膜装置1において成膜処理される対象の基板102が基板投入室401から投入され、キャリア合流室402で基板キャリア101が基板102を保持する。基板キャリア101は、クランプ機構や吸着ゴムを用いて基板102を保持する。基板102を保持する方法はこの例に限定されない。次に基板102を保持した基板キャリア101はマスク合流室403でマスク103と合流し、それぞれ下流のアライメント室404へ搬送される。アライメント室404において、基板102とマスク103のアライメントが行われ、アライメント完了後に基板102とマスク103を密着させ、下流の成膜室405へ搬送する。成膜室405において、成膜材料を加熱して蒸発させる蒸発源を用いてマスク103を介して基板102の成膜面に成膜処理が行われる。成膜室405においては、基板キャリア101を所定の速度で蒸発源の上を通過させて成膜を行うことにより、所定の膜厚の薄膜を基板102に形成する。成膜が完了し、成膜室405から搬出され基板キャリア101は、マスク分離室及び基板分離室でマスク103と基板102から分離され、基板102は次の成膜工程に搬送され、基板キャリア101とマスク103はそれぞれキャリア合流室402とマスク合流室403に戻され、再利用される。
【0017】
以上のように構成されたインライン型の成膜装置1は、基板102及びマスク103を保持可能な基板キャリア101を磁力発生手段により発生する磁力により浮上させて非接触で搬送する磁気浮上搬送システムを有する。この搬送システムにより基板102及びマスク103を搬送しながら成膜室405においてマスク103を介して基板102に成膜が行われる。以下、本実施形態の成膜装置1の搬送システムについて説明する。
【0018】
図2は搬送システム2を模式的に示した図である。
図2は搬送システム2をY方向に見た図である。搬送システム2は、可動磁石型リニアモータ、ムービング永久磁石型リニアモータ、又は可動界磁型リニアモータを用いた磁気浮上搬送システムである。搬送システム2は、可動子である基板キャリア101に対して固定子として機能する複数の搬送装置201からなり、搬送装置201はリニアガイド等の案内装置を持たず、非接触で基板キャリア101を搬送する。
図2には、一例として搬送経路の上流側から順に3つの搬送装置201c、201a、201bからなる搬送システム2を示している。
図2(A)は搬送装置201cを示し、
図2(B)、
図2(C)、
図2(D)は搬送装置201aにおける基板01及び後述する位置変更手段208の異なる状態を示し、
図2(E)は搬送装置201bを示す。搬送システム2を構成する搬送装置201の数はこの例に限られない。また、
図2では1つの搬送装置201において1つの基板キャリア101が搬送されている例を示しているが、1つの搬送装置201において複数の基板キャリア101が搬送されることも可能である。
【0019】
搬送システム2は、搬送装置201によって基板キャリア101を搬送することにより、基板キャリア101に保持された基板102を、基板102に対して処理を行う処理室へ搬送する。基板キャリア101はマスク103を保持するマスク保持手段を有し、マスク103を保持して搬送することができる。
【0020】
搬送装置201a、201b、201cは、基板キャリア101の搬送方向であるX方向に並べて配置され、基板キャリア101の搬送経路を構成する。
図2では、搬送装置201cがマスク合流室403に対応し、搬送装置201aがアライメント室404に対応し、搬送装置201bが成膜室405に対応するものとする。すなわち、
図2(A)の搬送装置201cは、マスク合流室403において基板キャリア101が基板102のみを保持し、マスク103は別途の搬送経路で下流のアライメント室404へ向けて搬送される状態である。
図2(B)の搬送装置201aは、アライメント室404において基板キャリア101が基板102のみを保持し、基板102とマスク台等に載置されたマスク103とのアライメントを行っている状態である。
図2(C)、
図2(D)の搬送装置201aは、アライメント完了後、基板キャリア101が基板102及びマスク103を保持し、基板102とマスク103が密着した状態である。基板キャリア101がマスク103を保持することにより基板キャリア101の保持する搬送対象物の重量が増加し、
図2(C)では
図2(B)よりも基板キャリア101の搬送高さが低くなっている。
図2(D)では、後述する位置変更手段208によって搬送装置201aの永久磁石211のZ方向の位置を変更することにより、搬送対象物の重量が増加しても基板キャリア101の搬送高さが
図2(B)と同じになるようにしている。
図2(E)の搬送装置201bは、成膜室405において基板キャリア101が密着した基板102及びマスク103を保持し、基板102に対しマスク103を介して成膜を行っている状態である。
【0021】
図3(A)は、基板キャリア101及び搬送装置201aの主要部分を示した図である。
図3(A)は基板キャリア101及び搬送装置201aの搬送方向に垂直の面による断面を模式的に示す図である。基板キャリア101のY方向の中心に対して+Y側(
図3(A)で左側)をL側、-Y側(
図3(A)で右側)をR側と称する。
【0022】
基板キャリア101は、基板102を基板キャリア101上に保持する基板保持手段を有し、上面又は下面に搬送対象物である基板102を載置又は装着した状態で基板102を搬送する。
【0023】
基板キャリア101の上面のL側及びR側の端部には、基板キャリア101のY方向の中心に対して対称の位置に、複数の永久磁石104a、104bが取り付けられている。なお、以下では、永久磁石104a、104bを区別する必要がない場合は単に永久磁石104と称する。永久磁石104は、搬送装置201の上部に対向する側の磁極の極性が交互に異なるように複数の永久磁石がY方向に沿って並べられて構成される。
図3(A)では永久磁石104は2個の永久磁石からなるが、複数個であれば個数は限定されない。また、永久磁石104を構成する複数の永久磁石が並ぶ方向は、
図3(A)に示すY方向に限定されず、X方向(搬送方向)と交差する方向であればよい。言い換えると、永久磁石104は、磁極の極性が交互になるようにX方向(搬送方向)と交差する方向に沿って配置された複数の永久磁石からなる磁石群である。
図3(A)では、磁石群は基板キャリア101の上面におけるL側及びR側のそれぞれにおいてX方向に沿って2列配置されている。
【0024】
基板キャリア101の上面のL側及びR側にはヨーク108が設けられ、永久磁石104はヨーク108に取り付けられている。ヨーク108は、透磁率の大きな物質、例えば鉄で構成されている。
【0025】
搬送装置201aの上部2011aのR側及びL側には、基板キャリア101の上面に設けられた永久磁石104に対向するように、基板キャリア101の搬送方向であるX方向に沿って所定の間隔で並べられた複数のコイル202が取り付けられている。各コイル202は、その中心軸がY方向を向くように取り付けられている。なお、コイル202はコアに巻線が巻かれた構成であり、本実施形態においてコイル202の位置とはコアの位
置を示す。
【0026】
複数のコイル202は、所定数のコイル202の組を単位として電流制御される。電流制御の単位となる所定数のコイル202の組をコイルユニット203と称する。1又は複数のコイルユニット203をコイルボックスに収納し、コイルボックスを搬送装置201の上部2011aにX方向に沿って配置してもよい。
【0027】
コイル202に通電することにより、搬送装置201aに配置されたコイル202と基板キャリア101に配置された永久磁石104との間に磁力が生じ、この磁力により基板キャリア101は姿勢制御されつつX方向の推進力が提供される。
【0028】
基板キャリア101の下面には、リニアスケール105、Yターゲット106及びZターゲット107がX方向に沿って設けられている。Zターゲット107は、リニアスケール105及びYターゲット106を挟んでY方向の両側(L側及びR側)にそれぞれ取り付けられている。
【0029】
搬送装置201aの下部2012aには、複数のリニアエンコーダ204、複数のYセンサ205及び複数のZセンサ206が設けられている。
【0030】
複数のリニアエンコーダ204は、それぞれ基板キャリア101のリニアスケール105と対向可能なようにX方向に沿って搬送装置201aに取り付けられている。各リニアエンコーダ204は、基板キャリア101に取り付けられたリニアスケール105を読み取ることで、リニアエンコーダ204に対する基板キャリア101の相対的な位置を検出して出力することができる。
【0031】
複数のYセンサ205は、それぞれ基板キャリア101のYターゲット106と対向可能なようにX方向に沿って搬送装置201aに取り付けられている。各Yセンサ205は、基板キャリア101に取り付けられたYターゲット106との間のY方向の相対距離を検出して出力することができる。
【0032】
複数のZセンサ206は、それぞれ基板キャリア101のZターゲット107と対向可能なようにX方向に沿って搬送装置201aに2列に取り付けられている。各Zセンサ206は、基板キャリア101に取り付けられたZターゲット107との間のZ方向の相対距離を検出して出力することができる。
【0033】
複数のリニアエンコーダ204は、基板キャリア101が搬送中もそのうちの1つが必ず1台の基板キャリア101の位置を測定できるような間隔で搬送装置201aに取り付けられている。また、複数のYセンサ205は、そのうちの2つが必ず1台の基板キャリア101のYターゲット106を測定できるような間隔で搬送装置201aに取り付けられている。また、複数のZセンサ206は、その2列のうちの3つが必ず1台の基板キャリア101のZターゲット107を測定できるような間隔で搬送装置201aに取り付けられている。
【0034】
基板キャリア101の下面には第1磁石である複数の永久磁石207が設けられ、搬送装置201aの下部2012aには第1磁石の下方に位置する第2磁石である複数の永久磁石211が設けられている。複数の永久磁石207の配置方向と複数の永久磁石211の配置方向は互いに同じであり、永久磁石207と永久磁石211とはZ方向において互いに対向する。永久磁石207と永久磁石211との間に生じる磁力による反発力により基板キャリア101は浮上し、鉛直方向に支持される。搬送装置201aに設けられた永久磁石211が磁力発生手段を構成する。なお、基板キャリア101を磁気浮上させるた
めの磁力を発生する磁力発生手段は永久磁石ではなく電磁石でもよい。
【0035】
上記のように、基板キャリア101の搬送経路のうち搬送装置201aが設けられた箇所(アライメント室404)において、搬送装置201aの上流の搬送装置201cが設けられた箇所(マスク合流室403)よりも、基板キャリア101によって保持される搬送対象物の重量が増加する場合を例に説明する。例えば、基板キャリア101が基板102のみを保持した状態から、基板102及びマスク103を保持した状態に変化する場合に、搬送対象物の重量が増加する。
【0036】
基板キャリア101を浮上させる反発力を生じる永久磁石207、211の磁力は一定であるため、基板キャリア101に保持される搬送対象物の重量が変化すると、基板キャリア101の搬送高さが変化する。そうすると、搬送装置201のコイルユニット203と基板キャリア101の永久磁石104との距離が変化し、基板キャリア101の姿勢制御が不安定になり、基板キャリア101の位置が目標位置からずれる可能性がある。基板キャリア101の姿勢制御を安定化させるための考えられる対策としては、コイル202に印加する電流を増加させてコイル202と永久磁石104との間に生じる磁力を増加させる方法がある。しかしながら、この方法ではコイル202の発熱量が増大し、真空容器内の温度変動の要因となる。また消費電力が増大するという課題がある。
【0037】
そこで本実施形態の成膜装置1では、基板キャリア101を磁気浮上させるための磁力を発生する磁力発生手段である永久磁石211の鉛直方向(Z方向)の位置を変更する位置変更手段208を設け、基板キャリア101により保持される搬送対象物の重量が増加した場合、第2磁石である永久磁石211が基板キャリア101に近づくように永久磁石211の鉛直方向(Z方向)の位置を変更可能な構成とした。これにより、基板キャリア101の永久磁石207と搬送装置201aの永久磁石211とのZ方向の距離が短くなるため、永久磁石207と永久磁石211との間に生じる磁力による反発力が大きくなり、搬送対象物の重量が増加する前と同じ搬送高さに基板キャリア101を支持することが可能になる。従って、コイル202に印加する電流を増加させることなく、基板キャリア101の保持する搬送対象物の重量の変化による基板キャリア101の搬送高さの変化を抑制することができる。また、基板キャリア101の搬送高さの制御をコイル202の印加電流で制御する場合と比較して、搬送高さが目標値に一致するまでの整定時間が短いという利点もある。基板キャリア101を磁気浮上させるための磁力を発生する磁力発生手段として永久磁石ではなく電磁石を用いた場合でも、当該電磁石のZ方向の位置を位置変
更手段208により変更することで、電磁石の印加電流を変化させることなく基板キャリア101の搬送高さの変化を抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態の位置変更手段208は、基板キャリア101の保持する搬送対象物の重量が増加した場合だけでなく、重量が減少した場合における基板キャリア101の搬送高さの変化を抑制することができる。具体的には、基板キャリア101により保持される搬送対象物の重量が減少した場合、永久磁石211が基板キャリア101から遠ざかるように永久磁石211の鉛直方向(Z方向)の位置を変更可能である。これにより、基板キャリア101の永久磁石207と搬送装置201aの永久磁石211との距離が長くなるため、永久磁石207と永久磁石211との間に生じる磁力による反発力が小さくなり、搬送対象物の重量が減少する前と同じ搬送高さに基板キャリア101を支持することが可能になる。
【0039】
位置変更手段208は、例えば次のように構成される。すなわち、搬送装置201aの下部2012aにおける永久磁石211が配置される領域にはZ方向に下部2012aを貫通する貫通孔213が設けられ、貫通孔213にはロッド212が挿通される。ロッド212の下端はモータ等の駆動源214に接続され、ロッド212はZ方向に進退駆動さ
れる。駆動源214がロッド212を進退駆動させる構成は、ギアや油圧を用いたもの等、既知のものを用いることができる。搬送装置201aが真空容器内に設置される場合、ロッド212の周りをベローズ210により覆うことで気密を保つ。
【0040】
ロッド212の上端はブラケット209に接続される。ブラケット209は搬送装置201aの下部2012aにおける永久磁石211が配置される領域をカバーするようにX方向に延在する。ブラケット209は搬送装置201aの下部2012aから当接離間可能に構成され、ロッド212の上端のZ方向の位置が最も低い状態にあるとき、ブラケット209は搬送装置201aの下部2012aに接触した状態となる。その状態から駆動源214によりロッド212がZ方向上向きに駆動されると、ロッド212に接続されたブラケット209は搬送装置201aの下部2012aから離間する。なお、ブラケット209と搬送装置201aの下部2012aとの関係はこの例に限らない。Z方向の位置が固定である搬送装置201aの下部2012aに対し、ブラケット209のZ方向の位置が可変であればよい。
【0041】
基板キャリア101の永久磁石207の下方に位置する永久磁石211は、ブラケット209の上面に取り付けられている。したがって、ブラケット209のZ方向の位置が変化すると、第2磁石である永久磁石211のZ方向の位置が変化する。搬送装置201aは可動子である基板キャリア101に対する固定子であるが、この固定子の構成部材である永久磁石211は、上記のように構成された位置変更手段208により、Z方向に可動である。
【0042】
ブラケット209のZ方向の位置の可変範囲、したがって永久磁石211のZ方向の可動範囲は、少なくとも、成膜装置1において基板キャリア101が保持する可能性のある搬送対象物のうち最も軽いものを保持した状態と最も重いものを保持した状態とで基板キャリア101の搬送高さを一定に保つことができるように、永久磁石211及び永久磁石207の磁力及び搬送対象物の重量等に基づき定めることができる。
【0043】
なお、
図2では搬送装置201aの複数の永久磁石211が全て1つのブラケット209に取り付けられ、ブラケット209のZ方向の位置を1つの位置変更手段208が変更する構成を例示しているが、複数のブラケットと複数の位置変更手段を設け、各ブラケットのZ方向の位置を各位置変更手段により変更するよう構成し、各ブラケットには搬送装置201aの複数の永久磁石211の一部が取り付けられるようにしてもよい。
【0044】
なお、
図3(A)では基板キャリア101を磁気浮上させる磁力を発生する磁力発生手段として、基板キャリア101に設けられた永久磁石207(第1磁石)の下方に位置するように搬送装置201aの下部2012aに設けられた永久磁石211(第2磁石)を有する構成を例示したが、磁力発生手段の構成はこの例に限られない。
【0045】
図3(B)は、基板キャリア101Xを磁気浮上させる磁力を発生する磁力発生手段として、基板キャリア101Xに設けられた永久磁石207X(第1磁石)の上方に位置するように搬送装置201Xの上部2011Xに設けられた永久磁石211X(第3磁石)を有し、永久磁石207Xと永久磁石211Xとの間に生じる吸引力によって基板キャリア101Xが鉛直方向に支持される構成を示している。
【0046】
この搬送装置201Xでは、下部2012Xにコイル202X及びコイルユニット203Xが配置され、これに対向するように基板キャリア101Xの下面にヨーク108X及び永久磁石104Xa、104Xbが設けられる。コイル202Xに電流が印加されることによってコイル202Xと永久磁石104Xa、104Xbとの間に生じる磁力により、基板キャリア101Xの姿勢制御及び水平方向(搬送方向)への推進力の付与が行われ
る。なお、
図3(A)で説明したセンサ類の構成は
図3(B)の構成でも同様であるため説明を省略する。
【0047】
図3(B)の構成では、磁力発生手段である永久磁石211XのZ方向の位置を変更する位置変更手段208Xが設けられる。位置変更手段208Xは、永久磁石211Xが取り付けられるブラケット209X、ブラケット209XにそのZ方向の下端が接続されるロッド212X、ロッド212XをZ方向に進退駆動する駆動源214Xを有する。ロッド212Xは、搬送装置201Xの上部2011Xに設けられたZ方向の貫通孔213Xに挿通され、ロッド212Xの周りはベローズ210Xにより覆われている。
【0048】
位置変更手段208Xは、基板キャリア101Xにより保持される搬送対象物の重量が増加した場合、磁力発生手段である永久磁石211Xが基板キャリア101Xに近づくように永久磁石211XのZ方向の位置を変更する。これにより、永久磁石211Xと永久磁石207Xとの間に生じる吸引力が増加し、基板キャリア101Xが鉛直上方へ引き上げられるため、搬送対象物の重量増加によって基板キャリア101Xの搬送高さが低くなることを抑制できる。
【0049】
また、位置変更手段208Xは、基板キャリア101Xにより保持される搬送対象物の重量が減少した場合、磁力発生手段である永久磁石211Xが基板キャリア101Xから遠ざかるように永久磁石211XのZ方向の位置を変更する。これにより、永久磁石211Xと永久磁石207Xとの間に生じる吸引力が減少し、基板キャリア101Xを鉛直上方へ引き上げる力が弱くなるため、搬送対象物の重量減少によって基板キャリア101Xの搬送高さが高くなることを抑制できる。
【0050】
基板キャリア101の保持する搬送対象物の重量が増加する場合としては、基板キャリア101に保持された基板102とマスク103とのアライメントを行った後、マスク103を基板キャリア101に保持させる場合がある。マスク103の重量は大きいため、マスク103を保持している状態と保持していない状態とで基板キャリア101の重量は大きく異なる。本実施形態の成膜装置1では、基板キャリア101がマスク103を保持している時と、基板キャリア101がマスク103を保持していない時とで、搬送装置201aの永久磁石211のZ方向の位置を異ならせるように位置変更手段208が動作する。
【0051】
例えば、基板キャリア101がマスク103を保持していない状態でアライメントを行う時と、アライメントを行った後で基板キャリア101がマスク103を保持している時とで、搬送装置201aの永久磁石211のZ方向の位置を異ならせるように位置変更手段208が動作する。具体的には、アライメント実行時(基板キャリア101がマスク103を保持していない時)よりも、アライメント実行後に基板キャリア101がマスク103を保持している時の方が、搬送装置201aの永久磁石211が基板キャリア101に近づくように位置変更手段208が動作する。これにより、アライメント実行時とアライメント実行後に基板キャリア101がマスク103を保持している時とで基板キャリア101の搬送高さを一定に保つことができる。
【0052】
本実施形態の成膜装置1の搬送システム2において、
図2(A)の搬送装置201cの永久磁石211のZ方向の位置と、
図2(B)の搬送装置201aにおいて位置変更手段208が位置を変更する前の永久磁石211のZ方向の位置とが同じになるようにしてもよい。また、
図2(D)の搬送装置201aにおいて位置変更手段208が位置を変更した後の永久磁石211のZ方向の位置と、
図2(E)の搬送装置201bの永久磁石211のZ方向の位置とが同じになるようにしてもよい。このようにすることで、搬送装置201a、201b、201cの全てにおいて基板キャリア101の搬送高さが一定になる
ようにすることができる。これにより、各搬送装置201の上部2011a、2011b、2011cに設けられたコイル202と基板キャリア101の上面に設けられた永久磁石104とのZ方向の距離を一定に保つことができるため、コイル202と永久磁石104との間の磁力による基板キャリア101の姿勢制御や推進制御を安定化させることができる。
【0053】
図4は本実施形態の搬送システム2の制御装置を模式的に示す図である。制御装置3は、統合コントローラ301、コイルコントローラ302、センサコントローラ304、及び昇降コントローラ305を有し、基板キャリア101と搬送装置201とを含む搬送システム2を制御する。
図4では、搬送装置201aの制御ブロックを示しているが、他の搬送装置201b、201cの制御ブロックも位置変更手段208を有しない他は搬送装置201aと同様である。統合コントローラ301には、コイルコントローラ302、センサコントローラ304、昇降コントローラ305が通信可能に接続されている。昇降コントローラ305は、搬送装置201aの位置変更手段208の動作を制御する。
【0054】
コイルコントローラ302には、複数の電流コントローラ303が通信可能に接続されている。コイルコントローラ302及びこれに接続された複数の電流コントローラ303は、コイル202のそれぞれの列に対応して設けられている。各電流コントローラ303には、コイルユニット203が接続されている。電流コントローラ303は、接続されたコイルユニット203の各々のコイル202に印加する電流を制御する。
【0055】
コイルコントローラ302は、接続された各々の電流コントローラ303に対して目標となる電流値を指令する。電流コントローラ303は接続されたコイル202に印加する電流を目標の電流値に基づき制御する。コイル202及び電流コントローラ303は、基板キャリア101が搬送されるX方向に沿って搬送装置201aの上部2011aのY方向の両側(L側及びR側)に取り付けられている。
【0056】
センサコントローラ304には、複数のリニアエンコーダ204、複数のYセンサ205及び複数のZセンサ206が通信可能に接続されている。統合コントローラ301は、リニアエンコーダ204、Yセンサ205及びZセンサ206からの出力に基づき、複数のコイル202に印加する電流値を決定し、コイルコントローラ302に送信する。コイルコントローラ302は、統合コントローラ301から取得した目標の電流値に基づき、電流コントローラ303に対して電流値を指令する。
【0057】
統合コントローラ301は、基板キャリア101によって保持される搬送対象物の重量が変化した場合に、位置変更手段208のロッド212のZ方向の移動量の指令値を決定して昇降コントローラ305に送信する。昇降コントローラ305は移動量の指令値に基づき、位置変更手段208の駆動源214の動作を制御することにより、ロッド212をZ方向に進退駆動する。これにより、ブラケット209がZ方向に移動し、永久磁石211のZ方向の位置が変更される。
【0058】
統合コントローラ301は、マスク103、基板102及び基板キャリア101の重量、永久磁石211及び永久磁石207の磁束密度等に基づき、マスク103を保持する前後で基板キャリア101の搬送高さが変化しないように予め算出した値を用いて、昇降コントローラ305に送信する移動量の指令値を決定することができる。予め算出された値は、不揮発性のメモリ306に記憶させておき、統合コントローラ301はメモリ306から値を取得することができる。
【0059】
また、統合コントローラ301は、基板キャリア101の鉛直方向の位置を検出する検出手段であるZセンサ206からの値に基づき、昇降コントローラ305に送信する移動
量の指令値を決定してもよい。例えば、基板キャリア101の鉛直方向の位置が目標位置になるように位置変更手段208による永久磁石211の移動量をフィードバック制御することができる。
【0060】
また、統合コントローラ301は、基板キャリア101に保持される搬送対象物の重量変化に伴う基板キャリア101の搬送高さの変化を抑制するための制御を、昇降コントローラ305による位置変更手段208の制御とコイルコントローラ302によるコイル202の電流制御との両者を合わせて行ってもよい。この場合でも、基板キャリア101の搬送高さの変化は、位置変更手段208による永久磁石211の位置制御によって永久磁石211と永久磁石207との間に生じる磁力の変化によって部分的に補償されるため、コイル202の印加電流の変化量を小さくすることができ、発熱や消費電力の増大を抑制することができる。
【0061】
また、成膜装置1が異なる種類のマスク103を切り替えながら用いて成膜を行うことができる構成の場合、マスク103の種類の変化によって、基板キャリア101によって保持される搬送対象物の重量が変化する。その場合、
図2(C)において基板キャリア101が
図2(B)の状態より沈み込む量がマスク103の種類によって異なることになる。そこで、このような成膜装置1では、統合コントローラ301は、成膜に用いられるマスク103の種類に応じて位置変更手段208による永久磁石211の位置制御を行ってもよい。例えば、成膜装置1の不図示のマスクストッカからマスク経路へ投入するための新たなマスク103が取り出されるタイミングで当該マスク103の種類の情報をメモリ306に書き込むように構成し、統合コントローラ301はメモリ306から現在使用中のマスク103の種類の情報を取得するようにしてもよい。統合コントローラ301がマスク103の情報を取得する方法についてはこの例に限られず、例えばマスク103に識別記号を設け、当該識別記号をセンサやカメラ等で読み取ることでマスク103の種類を取得することもできる。
【0062】
以上のように、統合コントローラ301は、搬送装置201aによる基板キャリア101の搬送制御と姿勢制御を行う。
【0063】
図5は、本実施形態の成膜装置1のアライメント室404で行われる基板102とマスク103のアライメントを説明する図である。
【0064】
図5(A)は、搬送装置201aの下部2012aに設けられたマスク台215にマスク103を載置した状態で行われるアライメントを模式的に示す図である。
図5(A)のアライメントでは、基板102は基板キャリア101に保持され、基板102とマスク103とがZ方向に離れた状態でアライメントが行われる。まず、基板102に設けられたアライメントマークである基板マーク505と、マスク103に設けられたアライメントマークであるマスクマーク506とを、撮像手段であるアライメントカメラ501にて撮像する。アライメントカメラ501によって撮像された基板マーク505及びマスクマーク506の画像に基づき、基板102とマスク103との相対的な位置関係を計測する。計測した相対的な位置関係に基づき、基板102及びマスク103の少なくともいずれかを不図示の水平移動機構により水平面内でX方向、Y方向、及び、Z軸回りの回転方向に移動させることにより、基板102とマスク103とを高精度に位置合わせする。
【0065】
なお、アライメント方法はこの例に限らない。低解像度のアライメントカメラを用いたラフアライメントと、高解像度のアライメントカメラを用いたファインアライメントとを行って高精度なアライメントを行うこともできる。ラフアライメント用カメラとファインアライメント用カメラの被写界深度が異なる場合、マスク台215をZ方向に昇降させる昇降機構を設け、ラフアライメント時とファインアライメント時とでマスク台215がマ
スク103を保持するZ方向の位置を異ならせるようにしてもよい。
【0066】
アライメント完了後、不図示の昇降機構によりマスク103を基板キャリア101に向かって上昇させ、基板キャリア101の有するマスク保持手段であるクランプ109を用いて基板キャリア101にマスク103を保持させる。この状態で再度、アライメントカメラ501を用いて基板マーク505とマスクマーク506を撮像し、アライメント後のマスク103の操作等によって位置ずれが生じていないか確認する。位置ずれが生じていた場合、再度、マスク103をマスク台215に載置した状態でのアライメントを行う。位置ずれが生じていない場合、搬送装置201aにより、マスク103と基板102を保持した基板キャリア101を下流の成膜室405へ搬送する。
【0067】
図5(B)は、基板キャリア101にマスク103が保持され、基板102とマスク103とが密着した状態を示している。基板キャリア101にマスク103を保持させると、基板キャリア101が保持する搬送対象物の重量がマスク103の分だけ増加するため、基板キャリア101の搬送高さが変化する。そうすると、
図5(B)に示すように、アライメントカメラ501の被写界深度上限502と被写界深度下限503とで決まる撮像可能範囲から基板マーク505及びマスクマーク506が外れてしまう場合がある。そのため、基板102とマスク103との間にアライメント後の位置ずれが生じていないか否かを確認するための基板マーク505及びマスクマーク506の撮像が行えず、結果としてアライメント精度が低下してしまう。
【0068】
そこで、本実施形態の搬送装置201aでは、
図5(C)に示すように、位置変更手段208によって永久磁石211のZ方向の位置を基板キャリア101に近づくように変更する。これにより基板キャリア101の搬送高さが
図5(A)に示すマスク103を保持していない状態の搬送高さと同じになり、アライメントカメラ501の被写界深度上限502と被写界深度下限503とで決まる撮像可能範囲に基板マーク505及びマスクマーク506が入るようになる。したがって、基板102とマスク103との間にアライメント後の位置ずれが生じていないか否かを確認するための基板マーク505及びマスクマーク506の撮像を適切に行うことが可能となる。
【0069】
本実施形態の成膜装置によって基板上に有機膜を形成し電子デバイスを製造する方法について説明する。ここでは、電子デバイスとして有機ELディスプレイに用いられる有機EL素子を製造する方法を例に説明する。なお、電子デバイスはこれに限定はされない。例えば、薄膜太陽電池や有機CMOSイメージセンサの製造にも本発明は適用できる。本実施形態の電子デバイスの製造方法においては、上記の実施形態の成膜装置を用いて、基板に有機膜を成膜する工程を有する。また、基板に有機膜を成膜した後に、金属膜又は金属酸化物膜を成膜する工程を有する。このような工程により製造される有機EL素子を用いた有機EL表示装置600の構造について、以下に説明する。
【0070】
図6(A)は有機EL表示装置600の全体図、
図6(B)は有機EL表示装置600一つの画素の断面構造を表している。
図6(A)に示すように、有機EL表示装置600の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示が可能な最小単位を指している。有機EL表示装置600は、互いに異なる色で発光する第1発光素子62R、第2発光素子62G、及び第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。第1発光素子62R、第2発光素子62G、及び第3発光素子62Bはそれぞれ、赤色発光素子、緑色発光素子、及び青色発光素子である。なお、画素当たりの発光素子の数や発光色の組み合わせはこの例に限られない。例えば、黄色発光素子、シアン発光素子、及び白色発光素子の組み合わせや、少なくとも1色以上であればよい。また、各発光素子は複
数の発光層が積層されて構成されていてもよい。
【0071】
画素62を同じ色で発光する複数の発光素子で構成し、それぞれの発光素子に対応するように異なる色変換素子が配置されたカラーフィルタを用いて、1つの画素62が所望の色を表示可能としてもよい。例えば、画素62を3つの白色発光素子で構成し、それぞれの発光素子に対応するように、赤色、緑色、及び青色の色変換素子が配列されたカラーフィルタを用いてもよい。また、画素62を3つの青色発光素子で構成し、それぞれの発光素子に対応するように、赤色、緑色、及び無色の色変換素子が配列されたカラーフィルタを用いてもよい。なお、画素当たりの発光素子の数や発光色の組み合わせはこれら例に限られない。後者の場合には、カラーフィルタを構成する材料として量子ドット(QD:Quantum Dot)材料を用いた量子ドットカラーフィルタ(QD-CF)を用いることで、量子ドットカラーフィルタを用いない有機EL表示装置よりも表示色域を広くすることができる。
【0072】
図6(B)は、
図6(A)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板5に、第1電極(陽極)64、正孔輸送層65、発光層66R、66G、又は66B、電子輸送層67、及び第2電極(陰極)68が形成された有機EL素子を有する。正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、及び電子輸送層67が有機層である。発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。なお、カラーフィルタ又は量子ドットカラーフィルタを用いる場合には、各発光層の光出射側、すなわち、
図6(B)の上部又は下部にカラーフィルタ又は量子ドットカラーフィルタが配置される。
【0073】
発光層66R、66G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子である有機EL素子である。発光層66R、66G、66Bは発光素子62R、62G、62Bの配列のパターンにしたがって形成されている。第1電極64は、発光素子毎に形成されており、互いに分離している。正孔輸送層65、電子輸送層67、及び第2電極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bで共有するように形成されていてもよいし、発光素子毎に分離して形成されていてもよい。第1電極64と第2電極68とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極64間に絶縁層69が設けられている。有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層Pが設けられている。
【0074】
電子デバイスとしての有機EL表示装置の製造方法について説明する。
【0075】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1電極64が形成された基板5を準備する。
【0076】
次に、第1電極64が形成された基板5の上にアクリル樹脂やポリイミド等の樹脂層をスピンコートで形成し、樹脂層をリソグラフィ法により、第1電極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0077】
次に、絶縁層69がパターニングされた基板5を第1の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の第1電極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。ここで、本ステップでの成膜や、以下の各層の成膜において用いられる成膜装置は、上記各実施形態のいずれかに記載された蒸着装置を用いた成膜装置である。
【0078】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板5を第2の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて保持する。基板5とマスク6とのアライメントを行い、基板5をマスク6の上に載置し、基板5の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。実施形態2の成膜装置を用いることにより、マスク6と基板5のアライメントを高精度で行うことができ、マスク6と基板5とを良好に密着させることができるため、高精度な成膜を行うことができる。
【0079】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。発光層66R、66G、66Bのそれぞれは単層であってもよいし、複数の異なる層が積層された層であってもよい。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。実施形態2では、電子輸送層67、発光層66R、66G、66Bは真空蒸着により成膜される。
【0080】
続いて、電子輸送層67の上に第2電極68を成膜する。第2電極は真空蒸着によって形成してもよいし、スパッタリングによって形成してもよい。その後、第2電極68が形成された基板5を封止装置に移動してプラズマCVDによって保護層Pを成膜する封止工程が行われ、有機EL表示装置600が完成する。なお、ここでは保護層PをCVD法によって形成するものとしたが、これに限定はされず、ALD法やインクジェット法によって形成してもよい。
【0081】
絶縁層69がパターニングされた基板5を成膜装置に搬入してから保護層Pの成膜が完了するまでの間に、基板5が水分や酸素を含む雰囲気に曝される、発光層が水分や酸素によって劣化する可能性がある。実施形態2において、成膜装置間の基板5の搬入搬出は、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【符号の説明】
【0082】
1:成膜装置、101:基板キャリア、102:基板、211:永久磁石、208:位置変更手段