(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121389
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】飛まつ遮断用織物及びパーテーション
(51)【国際特許分類】
D03D 15/46 20210101AFI20230824BHJP
B01D 39/08 20060101ALI20230824BHJP
D03D 15/567 20210101ALI20230824BHJP
【FI】
D03D15/46
B01D39/08 Z
D03D15/567
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024708
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】304006333
【氏名又は名称】丸中株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591032703
【氏名又は名称】群馬県
(72)【発明者】
【氏名】篠田 一
(72)【発明者】
【氏名】久保川 博夫
(72)【発明者】
【氏名】吉井 圭
(72)【発明者】
【氏名】堀 竜彰
【テーマコード(参考)】
4D019
4L048
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019AA02
4D019BA13
4D019BB02
4D019BC06
4D019BD01
4D019CA10
4L048AB13
4L048AB28
4L048AC11
4L048CA11
4L048DA30
(57)【要約】
【課題】飛まつ遮断用織物1及びパーテーションを提供すること。
【解決手段】本発明の飛まつ遮断用織物1は、タテ糸が無撚のスリット糸2で構成され、ヨコ糸の全部若しくは一部が収縮性糸3で構成されており、重量が20乃至200グラム毎平方メートルである。前記スリット糸2の全部若しくは一部は、蒸着された金属を除去しているか若しくは金属を蒸着していないフィルムから作製されており、飛まつ遮断用織物1は可視光を透過できる。また、飛まつ遮断用織物1の表面には抗ウイルス性物質を固着する。この飛まつ遮断用織物1を材料として、パーテーションを作製する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タテ糸が無撚のスリット糸で構成され、ヨコ糸の全部若しくは一部が収縮性糸で構成されており、重量が20乃至200グラム毎平方メートルであることを特徴とする飛まつ遮断用織物。
【請求項2】
前記スリット糸の全部若しくは一部が、蒸着された金属を除去しているか若しくは金属を蒸着していないフィルムから作製されており、可視光を透過できることを特徴とする、請求項1に記載の飛まつ遮断用織物。
【請求項3】
表面に抗ウイルス性物質が固着されていることを特徴とする、請求項1若しくは請求項2に記載の飛まつ遮断用織物。
【請求項4】
飛まつを垂直に噴霧した際に、通過する飛まつ量が1パーセント以下であることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の飛まつ遮断用織物。
【請求項5】
JIS L 1096に規定されるフラジール形法による通気性が、毎秒毎平方センチメートル当たり5立方センチメートル以上であることを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載の飛まつ遮断用織物。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の飛まつ遮断用織物を材料として作製されたパーテーション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛まつ遮断用織物及びこれを材料として作製するパーテーションに関する。
【背景技術】
【0002】
2019年の末頃に発生したCOVID-19(いわゆる、新型コロナウィルス感染症)が世界的に大流行し、人々の社会生活は感染の拡大を防止するための新しい生活様式に大きく変化した。COVID-19の主たる感染経路は飛まつ感染とされ、学校、オフィス、会議室、飲食店などでは、机、テーブル、カウンターなどの上に、小型の卓上用パーテーションが飛まつ防御の遮蔽板として設置されている(例えば、特許文献1など)。前記のような卓上用のパーテーションは、例えば衝立や屏風のように、硬いプラスチック製の透明パネルに脚部など自立のための種々の構造が付与されたものとなっている。
【0003】
卓上に設置されるパーテーション以外に、人が持ち歩いて必要と感じた場所に自らが配置できる携帯可能なパーテーションが提案されている。特許文献2には、自立可能な2本の支柱の間に可撓性シートが接続されて一方または両方の支柱で巻き取られるパーテーションが開示されている。特許文献3には、畳めるように繋ぎ合わされたA4判程度の大きさの透明板を屏風のように組み立てるパーテーションが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3228143号公報
【特許文献2】実用新案登録第3231397号公報
【特許文献3】実用新案登録第3232300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通気性のないプラスチック製パネルのパーテーションは、確実な飛まつ遮断ができると考えられている。しかしながら、感染防止対策として、下記のような好ましくない点も指摘されてきた。第一に、中途半端な高さのパーテーションでは、咳などで生じた飛まつを含む気流がパーテーションに衝突し、その一部が上昇して部屋全体に拡散していた。第二に、飛まつの拡散を防ぐためにパーテーションの背を高くすると、部屋の換気が困難になるとともに、冷暖房の空調効率にも問題が生じていた。つまり、意外な事実ではあるが、パーテーションには通気性があった方が好ましいといえる。すなわち、本発明が解決しようとする課題の1つは、飛まつを通過させないで空気は通過できる飛まつ遮断用織物と、それを材料とするパーテーションを提供することである。
【0006】
さらにもう一つの課題は、パーテーションの軽量化である。従来の設置型パーテーションで利用されているアクリル板は比重1.19であり、厚み5ミリメートルであれば1平方メートル当たり6キログラムに近い重量となる。パーテーション材料を軽量化できれば、図書館、会議室、飲食店などでの設置が容易となる。また、パーテーションの設置が十分ではない現状では、携帯可能なパーテーションも求められている。特許文献3の携帯用パーテーションは、A4判程度の大きさの透明板8枚が折り畳まれ、厚みは10ミリメートル程度となる。ビジネスバックで持ち運べるが、硬質であるため嵩張って重量感も感じる。特許文献2のパーテーションは、厚さは0.1乃至0.5ミリメートルのポリマー製フィルムを利用し、A4判8枚分で70乃至350グラムの重量となる。2本の支柱も必要となるため、携帯用としては嵩張って重量感を感じる。本発明によってパーテーション材料を大幅に軽量化できれば、携帯用途でも利便性を向上できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の飛まつ遮断用織物は、タテ糸が無撚のスリット糸で構成され、ヨコ糸の全部若しくは一部が収縮性糸で構成されており、重量が20乃至200グラム毎平方メートルである。
【0008】
本発明の飛まつ遮断用織物は、前記スリット糸の全部若しくは一部が、蒸着された金属を除去しているか若しくは金属を蒸着していないフィルムから作製されており、可視光を透過できる。
【0009】
本発明の飛まつ遮断用織物の表面には、抗ウイルス性物質が固着されている。
【0010】
本発明の飛まつ遮断用織物は、飛まつを垂直に噴霧した際に、通過する飛まつ量は1パーセント以下である。
【0011】
本発明の飛まつ遮断用織物は、JIS L 1096に規定されるフラジール形法による通気性が、毎秒毎平方センチメートル当たり5立方センチメートル以上である。
【0012】
本発明のパーテーションは、前記の飛まつ遮断用織物を材料として作製されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の飛まつ遮断用織物は、タテ糸を無撚のスリット糸で構成し、ヨコ糸の全部若しくは一部を収縮性糸で構成することで、ヨコ糸の収縮によってタテ糸であるスリット糸間の距離を減少させることにより、高い飛まつ遮断効果が得られる。この飛まつ遮断用織物は通気性を有するため、空気の流れを遮断することなく飛まつのみを遮断でき、換気等の感染予防対策の妨げにならない。また、表面に抗ウイルス性物質を固着した飛まつ遮断用織物では、織物表面に付着した飛まつ中のウイルスを不活化することができるため、定期的な消毒の手間を省略できる。本発明の飛まつ遮断用織物は、パーテーション用素材として特に好ましい性質を備えているが、飛まつ遮断効果と通気性を併せ持つ特徴からマスク用素材としての応用も可能である。
【0014】
本発明の飛まつ遮断用織物でパーテーションを作製する場合、タテ糸のスリット糸に蒸着された金属を除去するか、金属を蒸着していないフィルムから作製したスリット糸を利用することにより、一般に透明性が得られにくい織物にパーテーションに適した透明性を与えることができる。また、飛まつ遮断用織物の重量が20乃至200グラム毎平方メートルと軽量であるため、携帯性に優れたパーテーションを提供できるとともに、図書館、会議室、飲食店等においてもカーテンのような吊り下げ構造で簡単に設置できる。さらに、厚みが小さい織物のパーテーションであることで、プラスチック製パネルのパーテーションに比べて会話の音声が良好に伝わるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】請求項1の飛まつ遮断用織物に関する一実施形態の拡大平面図である。
【
図2】請求項1の飛まつ遮断用織物に関する一実施形態の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の飛まつ遮断用織物1に関する実施の形態を説明する。
図1に示す本発明の一実施形態の飛まつ遮断用織物1は、スリット糸2および収縮性糸3からなる。
【0017】
飛まつ遮断用織物1の組織は、形状を保持できる組織であれば制限なく利用でき、特に簡単かつ丈夫な平織り組織が好ましく用いられる。飛まつ遮断用織物1の重量は、20乃至200グラム毎平方メートルであれば良く、さらには20乃至60グラム毎平方メートルの範囲でより軽量であることが好ましい。
【0018】
スリット糸2は、ポリエステルなどのフィルムにアルミニウムなどの金属を蒸着させて細く裁断した糸であるが、金属が蒸着されていないフィルムを細く裁断した糸も透明性を有するため好ましく利用できる。スリット糸2に蒸着される金属の種類に制限はないが、明るい銀色に着色できるアルミニウムや銀が一般的に利用される。前記スリット糸2は、無撚のタテ糸として飛まつ遮断用織物1内に配列されることにより、効率的に飛まつを遮断できる。前記フィルムとしては、厚みが6乃至50ミクロンのフィルムが利用可能であり、厚みが6乃至16ミクロンのフィルムは飛まつ遮断用織物1の重量を小さくできるためより好ましく利用できる。スリット糸2の裁断は、切り幅が0.1乃至3ミリメートルの範囲で実施可能であり、0.25乃至0.5ミリメートルの範囲では製織しやすいため、より好ましく実施できる。
【0019】
収縮性糸3は、製織までの工程で掛かる応力やひずみが緩和されることで収縮する性質の糸や製織後の熱処理によって収縮する糸であれば制限なく利用できる。収縮性糸3の種類としては、製織時に掛かる応力から解放された後の弾性回復力によって縮む弾性糸、製織後に撚りによるひずみをリラックス操作で緩和して収縮させる撚糸、及び製織後の熱処理によって収縮する熱収縮性糸が挙げられる。
【0020】
収縮性糸3として利用可能な弾性糸の具体例としては、ポリウレタン系弾性糸、ポリエーテル・エステル系弾性糸、ポリブチレンテレフタレート糸、ポリトリメチレンテレフタレート糸、及びそれらを糸の一部に使用して構成された複合糸が利用できる。特に、ポリトリメチレンテレフタレート糸は、分子がゆるやかな螺旋となる特異な結晶構造に起因し、弾性的性質および柔軟性を発現するとともに、形態回復力にも優れるため本発明に好ましく利用できる。
【0021】
収縮性糸3として利用可能な撚糸の具体例としては、1メートル当たり1000乃至3000回の撚りをかけた強撚糸が好ましく利用できる。強撚糸は、撚り止め操作を施してヨコ糸に用いて飛まつ遮断用織物1に組織した後、撚り止めを解除する精練などのリラックス操作によって収縮力及び解撚トルクを生じさせる。強撚糸の繊維素材としては、撚り止めした後にその解除によって収縮力と解撚トルクが生じる繊維素材であれば、特に制限なく利用できる。例えば、伝統的なちりめんで利用されてきた絹は、熱処理によって撚り止め効果を発揮する膠質のセリシンがフィブロイン繊維を包む二重構造であり、飛まつ遮断用織物1に組織した後に精練操作によってセリシンを除去することで収縮力と解撚トルクが生じるため、好ましく利用できる。また、例えばレーヨンなどの他の繊維素材を利用しても、撚り止めに糊剤を使用して飛まつ遮断用織物1に組織した後、精練操作で糊剤を除去すれば収縮力および解撚トルクが得られるため問題なく実施できる。
【0022】
収縮性糸3として利用可能な熱収縮性糸の具体例としては、製織後の熱処理によって収縮する性質を持つ合成繊維の糸が制限なく利用できる。特にポリエステル糸は、軟化点温度以下の熱処理によって収縮させることができ、前記熱処理の温度を超えない熱刺激に対して防縮性及び形態安定性を示すため、好ましく利用できる。
【0023】
飛まつ遮断用織物1のヨコ糸としては、収縮性糸3と組み合わせて、収縮性を示さない糸も制限なく利用できる。例えば、会議等で使用されるパーテーションの素材では透明性が重要となるため、ナイロンなどの透明性の高い合成繊維の糸を利用することが望ましい。さらに透明性を高めるためには、ヨコ糸の一部にも透明なスリット糸2を利用することができる。
【0024】
スリット糸2に蒸着されている金属を除去する方法としては、酸性若しくはアルカリ性の水浴中で金属を溶解させる方法が好ましく利用できる。酸と反応して水素を発生して溶解する金属は比較的多いが、アルカリと反応して溶解する金属はアルミニウムなどの両性金属に限られる。染色機などの金属製装置を利用してスリット糸2に蒸着されている金属を除去する場合、酸性の水浴では装置が腐食される危険性がある。このため、スリット糸2に蒸着された金属を除去する場合は、金属としてアルミニウムを利用し、アルカリ性の水浴中で溶解させることが好ましい。
【0025】
飛まつ遮断用織物1の表面に固着させる抗ウイルス性物質としては、カチオン界面活性剤、ポリフェノール、銀、銅などが挙げられる。繊維用の抗ウイルス加工剤としては、大原パラヂウム化学株式会社製「パラファインGPF-7000」、日華化学株式会社製「ニッカノンRB」等が市販されている。これらの抗ウイルス加工剤を利用して、飛まつ遮断用織物1の表面に抗ウイルス性物質を固着させることができる。
【実施例0026】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0027】
(飛まつ遮断用織物1の作製)
タテ糸として、アルミニウムを蒸着したポリエステル製のスリット糸2(厚み:12ミクロン、幅:0.378ミリメートル)を無撚で利用し、密度:1センチメートル当たり26.7本、幅:115センチメートルで整経した。ヨコ糸には、ポリトリメチレンテレフタレートのマルチフィラメント糸(帝人フロンティア株式会社製「ソロテックス」、繊度:75デニール)を用意した。前記のタテ糸とヨコ糸を用いて、組織:平織、ヨコ糸密度:1センチメートル当たり31.0本の織物を作製した。前記織物をアルカリ性の水浴中で処理し、スリット糸2のアルミニウムを溶解させて透明にした。最終的に得られた飛まつ遮断用織物1の幅は104センチメートルとなり、整経時の幅の90.4パーセントに収縮していた。また、前記飛まつ遮断用織物1の重量は52.9グラム毎平方メートルであった。
図2に示す前記飛まつ遮断用織物1の電子顕微鏡写真では、ヨコ糸の収縮性糸3の収縮力によってタテ糸のスリット糸2が隣の糸に食い込むように強く密着しており、飛まつの通過に必要なタテ糸間の隙間が非常に小さくなっていることが観察できた。
【0028】
(飛まつ遮断性評価)
口外径70ミリメートルのガラスロート内に吸水素材として脱脂綿を充填し、前記ガラスロートの開口部を作製した前記飛まつ遮断用織物1で塞いだ。オムロンヘルスケア株式会社製のコンプレッサー式ネブライザNE-C28を利用して、前記飛まつ遮断用織物1に向けて、垂直方向の2センチメートルの距離から質量中央径約5ミクロンの純水の飛まつを3分間で約0.5ミリリットル噴霧した。飛まつ遮断用織物1を通過した飛まつ量を重量法で定量した結果、通過した飛まつ量は0.4パーセントであった。
【0029】
(通気性評価)
作製した前記飛まつ遮断用織物1について、JIS L 1096に規定されるフラジール形法により、試験片を通過する空気量を評価した。その結果、通気する空気量は毎秒毎平方センチメートル当たり6.8立方センチメートルであり、通気性を有することが確認できた。
【0030】
(抗ウイルス加工)
作製した飛まつ遮断用織物1の表面への抗ウイルス性物質の固着は、大原パラヂウム化学株式会社製の抗ウイルス加工剤「パラファインGPF-7000」を利用して行った。前記飛まつ遮断用織物1をパラファインGPF-7000の3重量パーセント水溶液に浸漬し、絞り率50パーセントでパディング処理した後、予備乾燥及び摂氏160度、2分間の熱処理を行った。抗ウイルス加工を施した飛まつ遮断用織物1について、ISO18184プラーク法に準拠した抗ウイルス性試験を行った結果、抗ウイルス活性値は3.2を示し、十分な抗ウイルス効果が確認できた。
【0031】
(パーテーションの作製)
抗ウイルス加工を施した前記飛まつ遮断用織物1を、タテ60センチメートル、ヨコ100センチメートルの長方形に裁断して端処理した布とし、前記布を卓上で自立させるための2本の支柱を併せてパーテーションとした。支柱を伸縮可能で折りたためる構造にすることにより、携帯性に優れるパーテーションが得られた。