(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012140
(43)【公開日】2023-01-25
(54)【発明の名称】デブリ除去方法、デブリ除去プログラムおよび周形状電極集合体
(51)【国際特許分類】
B64G 1/56 20060101AFI20230118BHJP
B64G 1/22 20060101ALI20230118BHJP
B64G 1/40 20060101ALI20230118BHJP
【FI】
B64G1/56
B64G1/22 100B
B64G1/40 900
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115615
(22)【出願日】2021-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】591102095
【氏名又は名称】三菱電機ソフトウエア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関川 賢一
(57)【要約】
【課題】帯電させた宇宙デブリの減速制御が容易で、構成の簡易な宇宙デブリの除去技術を提供する。
【解決手段】周形状の円環電極から構成された周形状電極101が宇宙空間に配置される。円環である周形状電極101は正の電圧を印加されて正の電荷が帯電している。
周形状電極101の左側のシース領域を飛翔するデブリは電子によって負に帯電して帯電デブリ401となっている。正に帯電している周形状電極101は、負の極性に帯電して周形状電極101に向かってくる帯電デブリ401を、周形状電極101の作る電界E
zに起因する静電気力で引っ張る。そして、周形状電極101は、周形状電極101の円環内部を通過した帯電デブリ401に、静電気力による引力を作用させて帯電デブリ401を減速させる。減速した帯電デブリ401は高度を下げて大気圏へ突入して焼失する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上側装置が、
正と負とのいずれかの電圧が印加される周形状の1以上の周形状電極から構成されて人工衛星本体に収納される周形状電極集合体を、前記人工衛星本体に宇宙空間へ展開させ、
前記宇宙空間へ展開された前記周形状電極集合体の各周形状電極に正と負とのいずれかの同一極性の電圧を前記人工衛星本体によって印加させることにより、前記周形状電極の周の内部を通過したデブリであって、前記周形状電極に印加された電圧と異なる極性に帯電したデブリである帯電デブリに、前記周形状電極の電圧に基づく静電気力による引力を作用させて前記帯電デブリを減速させる、
デブリ除去方法。
【請求項2】
前記周形状電極集合体は、複数の周形状電極から構成される請求項1に記載のデブリ除去方法。
【請求項3】
前記周形状電極集合体の各周形状電極は、正の電圧が印加され、
前記帯電デブリは、負に帯電している、
請求項1または請求項2に記載のデブリ除去方法。
【請求項4】
前記周形状電極集合体は、
前記人工衛星本体の外部で展開された状態では、複数の前記周形状電極が、前記人工衛星本体を囲む請求項2または請求項3に記載のデブリ除去方法。
【請求項5】
前記周形状電極集合体は、
それぞれが複数の前記周形状電極から構成される複数のユニットから構成されており、
前記人工衛星本体の外部で展開された前記周形状電極集合体では、
複数のユニットが、前記人工衛星本体を第1グループとして囲み、
前記第1グループに前記第1グループの外側で隣接する複数のユニットが、前記第1グループを第2グループとして囲み、
以降、
内側の複数のユニットからなる内側グループに外側で隣接する複数のユニットからなる外側グループが、前記内側グループを囲む請求項4に記載のデブリ除去方法。
【請求項6】
前記周形状電極集合体の各周形状電極は、
六角形の周形状である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のデブリ除去方法。
【請求項7】
人工衛星本体に搭載されるコンピュータに、
正と負とのいずれかの電圧が印加される周形状の1以上の周形状電極から構成されて人工衛星本体に収納される周形状電極集合体を、宇宙空間へ展開する展開処理と、
前記宇宙空間へ展開された前記周形状電極集合体の各周形状電極に正と負とのいずれかの同一極性の電圧を印加することにより、前記周形状電極の周の内部を通過したデブリであって、前記周形状電極に印加された電圧と異なる極性に帯電したデブリである帯電デブリに、前記周形状電極の電圧に基づく静電気力による引力を作用させて前記帯電デブリを減速させる印加処理と、
を実行させるデブリ除去プログラム。
【請求項8】
正と負とのいずれかの電圧が印加される周形状の複数の周形状電極から構成されて人工衛星本体に収納される周形状電極集合体であって、
前記周形状電極集合体は、
前記人工衛星本体の外部で展開された状態では、複数の前記周形状電極が、前記人工衛星本体を囲む周形状電極集合体。
【請求項9】
前記周形状電極集合体は、
それぞれが複数の前記周形状電極から構成される複数のユニットから構成されており、
前記周形状電極集合体は、
前記人工衛星本体の外部で展開されたときには、
複数のユニットが、前記人工衛星本体を第1グループとして囲み、
前記第1グループに前記第1グループの外側で隣接する複数のユニットが、前記第1グループを第2グループとして囲み、
以降、
内側の複数のユニットからなる内側グループに外側で隣接する複数のユニットからなる外側グループが、前記内側グループを囲む請求項8に記載の周形状電極集合体。
【請求項10】
前記周形状電極集合体の各周形状電極は、
六角形の周形状である請求項8または請求項9に記載の周形状電極集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、宇宙デブリを除去する、デブリ除去方法、デブリ除去プログラムおよびデブリ除去装置である周形状電極集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
人類が地球周回軌道上に衛星を初めて投入して以来60年余りが経過した。そして、軌道上のデブリ環境が問題視され始めてから数十年が経過し、現在では軌道上の状況を把握するための観測が各国の宇宙機関により活発に行われている。その一方で、民間宇宙企業の計画している多数の小型衛星による大規模コンステレーションは、デブリ源の増大に大きく寄与するため、正しい対策が求められている。衛星の運用終了後にデブリ化を防ぐ処置をし、かつ、毎年いくつかの大型デブリを除去するという条件を設定したシミュレーションの結果によると、高度800-1000kmの低軌道では年々衝突確率が悪化し、その他の高度でもほぼ現状を維持する結果となった。このように、デブリ環境の特に低軌道における改善対策が求められている。
【0003】
各国の宇宙機関および企業では、運用終了後の宇宙機やロケットの上段など、10cm以上で追跡の可能な大型デブリを除去する技術が検討されており、実用化への研究が進められている。一方、宇宙機のデブリ防護設計は1cmより小さい微小デブリに有効とされており、10cm以下の小型デブリに対しては現在までに有効な手段の検討されていない状況がある。
【0004】
このような状況の下、宇宙デブリを除去する装置および手法が考案されている(特許文献1)。
【0005】
特許文献1では宇宙デブリとして微粒子を対象とし、宇宙空間に展開した網状帯電体に正電圧を印加し、帯電体の周辺に電子を発生させ、網状帯電体を通過する宇宙デブリを負に帯電させる。そして、発生させた電子の電界によって負に帯電させた宇宙デブリを減速させて大気圏へ追い込む。
【0006】
負に帯電させた宇宙デブリを、発生させた電子の電界によって減速させるには、電子の発生量を制御することが難しいという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、帯電させた宇宙デブリの減速制御が容易な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のデブリ除去方法は、
地上側装置が、
正と負とのいずれかの電圧が印加される周形状の1以上の周形状電極から構成されて人工衛星本体に収納される周形状電極集合体を、前記人工衛星本体に宇宙空間へ展開させ、
前記宇宙空間へ展開された前記周形状電極集合体の各周形状電極に正と負とのいずれかの同一極性の電圧を前記人工衛星本体によって印加させることにより、前記周形状電極の周の内部を通過したデブリであって、前記周形状電極に印加された電圧と異なる極性に帯電したデブリである帯電デブリに、前記周形状電極の電圧に基づく静電気力による引力を作用させて前記帯電デブリを減速させる。
【0010】
前記周形状電極集合体は、複数の周形状電極から構成される。
【0011】
前記周形状電極集合体の各周形状電極は、正の電圧が印加され、
前記帯電デブリは、負に帯電している。
【0012】
前記周形状電極集合体は、
前記人工衛星本体の外部で展開された状態では、複数の前記周形状電極が、前記人工衛星本体を囲む。
【0013】
前記周形状電極集合体は、
それぞれが複数の前記周形状電極から構成される複数のユニットから構成されており、
前記人工衛星本体の外部で展開された前記周形状電極集合体では、
複数のユニットが、前記人工衛星本体を第1グループとして囲み、
前記第1グループに前記第1グループの外側で隣接する複数のユニットが、前記第1グループを第2グループとして囲み、
以降、
内側の複数のユニットからなる内側グループに外側で隣接する複数のユニットからなる外側グループが、前記内側グループを囲む。
【0014】
前記周形状電極集合体の各周形状電極は、
六角形の周形状である。
【0015】
人工衛星本体に搭載されるコンピュータに、
正と負とのいずれかの電圧が印加される周形状の1以上の周形状電極から構成されて人工衛星本体に収納される周形状電極集合体を、宇宙空間へ展開する展開処理と、
前記宇宙空間へ展開された前記周形状電極集合体の各周形状電極に正と負とのいずれかの同一極性の電圧を印加することにより、前記周形状電極の周の内部を通過したデブリであって、前記周形状電極に印加された電圧と異なる極性に帯電したデブリである帯電デブリに、前記周形状電極の電圧に基づく静電気力による引力を作用させて前記帯電デブリを減速させる印加処理と、
を実行させる。
【0016】
本開示の周形状電極集合体は、
正と負とのいずれかの電圧が印加される周形状の複数の周形状電極から構成されて人工衛星本体に収納される周形状電極集合体であって、
前記周形状電極集合体は、
前記人工衛星本体の外部で展開された状態では、複数の前記周形状電極が、前記人工衛星本体を囲む。
【0017】
前記周形状電極集合体は、
それぞれが複数の前記周形状電極から構成される複数のユニットから構成されており、
前記周形状電極集合体は、
前記人工衛星本体の外部で展開されたときには、
複数のユニットが、前記人工衛星本体を第1グループとして囲み、
前記第1グループに前記第1グループの外側で隣接する複数のユニットが、前記第1グループを第2グループとして囲み、
以降、
内側の複数のユニットからなる内側グループに外側で隣接する複数のユニットからなる外側グループが、前記内側グループを囲む。
【0018】
前記周形状電極集合体の各周形状電極は、
六角形の周形状である。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、帯電させた宇宙デブリの減速制御が容易な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施の形態1の図で、デブリ除去装置100によるデブリ除去の原理を示す図。
【
図2】実施の形態1の図で、
図1をzx平面でみた図。
【
図3】実施の形態1の図で、デブリ除去装置100の外観を示す図。
【
図4】実施の形態1の図で、
図3のデブリ除去装置100の構成を説明する図。
【
図5】実施の形態1の図で、デブリ除去装置100の収納方式を示す図。
【
図6】実施の形態1の図で、デブリ除去装置100の収納方式を示す別の図。
【
図7】実施の形態1の図で、デブリ除去装置100の収納方式を示すさらに別の図。
【
図8】実施の形態1の図で、デブリ除去装置100の収納に必要な容量を示す図。
【
図9】実施の形態1の図で、人工衛星200と地上側装置300との通信を示す図。
【
図10】実施の形態1の図で、地上側装置300のハードウェア構成を示す図。
【
図11】実施の形態1の図で、衛星本体201の概略構成を示す図。
【
図12】実施の形態1の図で、衛星側制御装置210のハードウェア構成を示す図。
【
図13】実施の形態1の図で、デブリ除去装置100の特徴をまとめた図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施の形態について、図を用いて説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には、同一符号を付している。実施の形態の説明において、同一または相当する部分については、説明を適宜省略または簡略化する。以下の実施の形態では、「部」を、「回路」、「工程」、「手順」、「処理」または「サーキットリー」に適宜読み替えてもよい。以下では帯電していないデブリをデブリ400、帯電したデブリを帯電デブリ401と表記する。
以下の実施の形態では、人工衛星200とは、デブリ除去装置100を搭載したいわゆる人工衛星である人工衛星本体と、デブリ除去装置100との全体を意味する。デブリ除去装置100を搭載した人工衛星本体を以下の実施の形態では衛星本体201と表記する。すなわち、以下の実施の形態1では、衛星本体201とデブリ除去装置100との全体が人工衛星200である。
【0022】
実施の形態1.
図1から
図13を参照して、実施の形態1の、周形状電極集合体であるデブリ除去装置100、デブリ除去装置100を用いたデブリ除去方法150を説明する。デブリ除去装置100は衛星本体201に収納され、デブリ除去装置100と衛星本体201とによって構成される人工衛星200は、宇宙空間へ発射される。
【0023】
<デブリ除去装置100の原理>
図1は、デブリ除去装置100の原理を示す図である。後述する
図4で述べるように、周形状電極集合体であるデブリ除去装置100は、地球周回軌道上に複数の周形状の周形状体で形成される網状の電極である。デブリ除去装置100を宇宙空間に展開し、この電極に電位差を与えることにより電界を形成する。そして、この電界中を通過するデブリ400に電荷を与え、かつ、帯電デブリ401に静電気力による力を与える。デブリ除去装置100を通過した帯電デブリ401にはデブリ除去装置100によって引力の静電気力が作用するため、帯電デブリ401は軌道高度を徐々に下げ、大気圏に突入することにより焼失する。なお、デブリ除去装置100の除去対象のデブリは、比較的小型の直径10cm以下のデブリを想定している。
【0024】
図4で後述するがデブリ除去装置100は1以上の周形状電極101から構成される。
図4のデブリ除去装置100は5400[個]の周形状電極101から構成されている。
図1では構成単位の一つの周形状電極101を示しており、周形状の例として円環を示している。以下では円環の用語を用いることがあるが、その場合、円環は
図1の周形状電極101を示す。
図1はデブリ除去装置100の構成単位の周形状電極101(円環)を示している、
【0025】
図1では、円環を含む平面をxy平面とし、xy平面の法線方向をz軸としている。円環は電荷が一様に分布した状態である。以下では周形状電極101は正の電荷に帯電しており、デブリは負の電荷に帯電しているとする。
【0026】
図1に示す円環は、正電荷の作る電界によって、負に帯電した帯電デブリ401を引力の静電気力で引っ張るとともに、円環の内部を通過した帯電デブリ401を引力の静電気力で引っ張る。円環の内部を通過した帯電デブリ401は引力の静電気力で引っ張られることで減速し、高度を下げ大気圏へ突入する。
図1の説明を続ける。
【0027】
<円環の形成する電界の大きさ>
図1で形成される電界を説明する。
図1の円環から帯電デブリ401の受ける力は静電気力である。その大きさを次のように算出する。円環では全体の静電容量Qを持つ電荷が一様に分布している。
図1において、円環上の微小領域dsがz軸上に形成する電界は、ガウスの法則より、
(式1)で表される。
dE=dQ/{4πε
0r
2} (式1)
電界dEのz軸方向成分は、(式2)となる。
dE
z=dE・cosθ={cosθ・dQ}/{4πε
0r
2} (式2)
x方向およびy方向は円環上の正対する位置の電界により相殺されるため、dEsinθはゼロとなる。したがって、式2を円環の円周方向に足し合わせることにより、円環全体に対するz軸方向成分を、次の(式3)で求めることができる。
E
z=∫dE
z=∫{cosθ・dQ}/{4πε
0r
2} (式3)
ここで、次の式4を用いると
cosθ=z/r=z/{R
2+z
2}
1/2 (式4)
式2は式3、式4により、以下の式5で表される。
E
z=[z/{4πε
0・(R
2+z
2)
3/2}]∫dQ
=Qz/{4πε
0・(R
2+z
2)
3/2}} (式5)
ここで、
ε
0=8.85×10
-12[F/m]([m
-3kg
-1s
4A
2])
【0028】
<帯電デブリ401の受ける力>
図1の円環が帯電デブリ401に与える静電気力により、帯電デブリ401は減速して大気圏に突入することとなる。具体的には以下のようである。デブリ400は負に帯電して帯電デブリ401となり、
図1の円環が正に帯電している場合、帯電デブリ401は円環への進入前後で静電気力による引力を受ける。詳細は
図2で後述するが、この場合、帯電デブリ401は、円環進入時の静電気力(引力)による円環に向かう加速と、円環通過後の静電気力(引力)による減速とは一致せず、つまり、後述のように円環通過後の静電気力(引力)による減速の効果が勝り、結果的に帯電デブリ401は減速する。
【0029】
図2は、
図1をzx平面でみた図であり、デブリ除去方法150を概念的に示す図である。
図2を参照して、
図1で説明した周形状電極101である円環による帯電デブリ401の除去の原理を補足する。円環の周囲には電子の存在するシース領域が形成されている。
【0030】
シース領域の形成は背景技術で述べた特許文献1に記載の技術を利用できる。
【0031】
デブリ400は左端から飛んでくるとする。
(1)左端から飛んできたデブリ400は、円環の左側において、シース領域の電子で負に帯電して帯電デブリ401になる。
(2)円環の左側を飛翔する負に帯電した帯電デブリ401は、正に帯電している円環から静電気力の引力で引っ張られる。
(3)帯電デブリ401は静電気力で加速し、円環に向かう。
(4)帯電デブリ401は円環を通過する。
(5)円環を通過した帯電デブリ401は、正に帯電している円環から静電気力の引力で引っ張られる。
(6)円環の左側では、デブリ400は帯電して帯電デブリ401になるため時間を要する。デブリ400が負に帯電して帯電デブリ401となり、円環の電界Ezに引っ張られる期間T1とする。また、円環を通過した帯電デブリ401が円環の電界Ezに引っ張られる期間T2とする。このとき、デブリ400が帯電する必要があるため、
T1<T2
となり、帯電デブリ401の円環への進入時の加速効果よりも、帯電デブリ401の円環からの退出時の減速効果が勝る。推定によれば、期間T2の引力は期間T1の引力に対して5%大きい。よって、帯電デブリ401は円環を通過すると静電気力の引力で減速する。そして減速によって高度が下がり大気圏へ突入して焼失することになる。
【0032】
<デブリ除去装置100の構成の説明>
***構成の説明***
図3は、デブリ除去装置100の構成を示す図である。
図3のデブリ除去装置100を説明する。
【0033】
図1の原理説明では周形状電極101を円環としたが、
図3では同一平面内に多数の周形状電極101を効率よく配置するために、構成単位の周形状電極101は間隙の生じない正六角形としている。よって
図3に示す周形状電極集合体であるデブリ除去装置100は、ハニカム格子状である。構成単位の周形状電極101である正六角形の半径は3[m]とした。
図1の円環の場合と比較し、六角形では中心軸z以外の面内に局所的な電界が生ずるが、面外方向に比較し十分に小さいものと考えられる。なお、デブリ除去装置100の収納時の作業性の向上および展開時の形状を維持するために、空隙個所に直径方向にワイヤーあるいは場合によっては電極を配置してもよい
以下に具体的に説明する。
【0034】
<形状>
図3では、衛星本体201の外部に展開されたデブリ除去装置100の構成を示している。デブリ除去装置100は、多数の周形状電極101から構成される周形状電極集合体である。デブリ除去装置100は、衛星本体201を中心位置として、複数のユニット111が同一平面内に同心円状に配置される。
ユニットについて説明する。周形状電極集合体であるデブリ除去装置100は、それぞれが複数の周形状電極から構成される複数のユニット111から構成されている。つまりユニット111は、複数の周形状電極101から構成される。
図4は、
図3を説明する図である。デブリ除去装置100は、周形状電極集合体から構成される。周形状電極集合体は、衛星本体201の外部で展開された状態では、複数の周形状電極が、衛星本体201を囲む。具体的には以下のようである。
デブリ除去装置100は、複数のユニット111から構成される。
図4において、中央の白い円形は衛星本体201である。衛星本体201を囲む各六角形がユニット111である。
図4に示すように、衛星本体201の外部で展開されたデブリ除去装置100では、数字1を付した複数のユニット111が、衛星本体201を第1グループとして囲む。そして第1グループに第1グループの外側で隣接する、数字2を付した複数のユニットが、第1グループを第2グループとして囲む。
以降、
内側の複数のユニットからなる内側グループに外側で隣接する複数のユニットからなる外側グループが、内側グループを囲む。具体的には以下のようである。
数字3を付した複数のユニットが、第2グループを第3グループとして囲み、
数字4を付した複数のユニットが、第3グループを第4グループとして囲み、
数字5を付した複数のユニットが、第4グループを第5グループとして囲む。
図4において、
第1グループのユニット数は6個、
第2グループのユニット数は12個、
第3グループのユニット数は18個、
第4グループのユニット数は24個、
第5グループのユニット数は30個、
である。
第1グループから第5グループのユニット数の合計は、90個である。
図4の右に示すように、一つのユニットは、第1グループから第4グループまでに相当する数の周形状電極101で構成されている。つまり、一つのユニットは、60個の周形状電極101で構成されている。よって、周形状電極集合体110であるデブリ除去装置100は、90ユニット*60個/ユニット=5400個の周形状電極101で構成されている。
図3では、90個のユニット、すなわち、5400個の周形状電極101で構成されているデブリ除去装置100を示している。周形状電極101は
図1で示した円環に相当する。
図3に示すように、周形状電極101を5400個用いたデブリ除去装置100では、短径L1=397.5[m],長径L2=462[m]である。
これは以下の前提に基づく。
(1)衛星本体201は、直径=2[m]、高さ=1[m]の円筒とみなした。
(2)周形状電極101は、一辺3[m]の正六角形とし、個数=5400[個]とした。
個数=5400[個]の一つ一つの六角形が周形状電極101である。個数=5400[個]の各六角形は、周で囲まれる内部に部材は存在せず、周で囲まれる部分は帯電デブリ401が通過する開口である。
図3および
図4に示したように、ユニット111は複数の周形状電極101から構成されているが、周形状電極101は六角形の形状である。デブリ除去装置100は複数のユニット111から形成されており、この意味でデブリ除去装置100はハニカム電極である。
なお、
図3および
図4に示すデブリ除去装置100の構成は一つの例であり
図3および
図4に示す構成に限定されない。
【0035】
<デブリ除去装置100の衛星本体201への収納方法>
図5、
図6、
図7を参照して、デブリ除去装置100の衛星本体201への収納方法を説明する。
図5、
図6、
図7は、デブリ除去装置100の衛星本体201への収納方法を説明する図である。
【0036】
デブリ除去装置100を衛星本体201に収納する方法は、いわゆる『イカロス折り』を採用する。デブリ除去装置100の厚さを0.01[mm](
図3の紙面垂直方向)とした場合の、収納に必要な容積を
図8のように見積もった。
図8は、デブリ除去装置100の収納に必要な衛星本体201の容量を示す。折りたたみ厚さは、衛星本体201の高さ1[m]の幅で折りたたむとすると、短径方向の長さを1[m]で除した回数分折りたたむことになる。また、折りたたみ腕の長さ(長径方向)は、正三角形の二辺分が一辺分に折りたたまれることから、長径方向の長さを2で除した長さとなる。例えば、電極の個数を5400個とした場合、デブリ除去装置100の短径と長径は、
図3で示したように、それぞれ397.5[m]、462[m]となる。電極の厚さが0.01[mm]の場合、折りたたみ厚さは4.0[mm]となり、折りたたみ腕長さは231.0[m]となる。これらの収納容量は衛星本体201の内部に必要である。折りたたみ腕の容量については、後述のように6個分が必要となる。このことから、電極の厚さをできるだけ薄くすることが設計において重要となる。
【0037】
図5、
図6、
図7を参照してデブリ除去装置100の衛星本体201への収納方法を説明する。
【0038】
(ステップS1)
ステップS1では、
図3および
図4で述べたようにデブリ除去装置100はハニカム電極であるが、デブリ除去装置100の円周方向に山折りおよび谷折りをし、半径方向に交互に繰り返すことにより、折りたたんでいく。
図5のステップS1において、実線が山折り、点線が谷折りを示す。
【0039】
(ステップS2)
ステップS2では折りたたみが完了すると、
図5の右側に示すように、デブリ除去装置100は、折りたたみ部100-1,100-2,100-3,100-4,100-5及び100-6からなる正六角形の対角線の形状となる。折りたたみ部100-1、100-2,100-3,100-4,100-5及び100-6のそれぞれと衛星本体201とは、テザー112で接続されている。各対角線にはテザー112が配置されている。対角線に位置する腕(折りたたみ部100-1から折りたたみ部100-6)の長さは、ステップS1の状態における半径の長さの約1/2になる。
【0040】
(ステップS3)
ステップS3では、ステップS2で述べたように、衛星本体201とデブリ除去装置100の各折りたたみ部とは、テザー112により連結されている。
【0041】
(ステップS4)
ステップS4において、折りたたみ部100-1,100-2,100-3,100-4,100-5及び100-6を衛星本体201に巻き付ける。
【0042】
(ステップS5)
ステップS5において、折りたたみ部100-1,100-2,100-3,100-4,100-5及び100-6を、さらに衛星本体201に巻き付けていく。
【0043】
(ステップS6)
ステップS6で、折りたたまれたデブリ除去装置100は、打上げ形態となる。
以上がデブリ除去装置100の衛星本体201への収納方法である。
【0044】
<デブリ除去装置100の展開方式>
以下に、衛星本体201に収納されたデブリ除去装置100の宇宙空間での展開方式を説明する。人工衛星200の打ち上げ時には上記で説明したように、デブリ除去装置100を衛星本体201に巻き付けた形態で打ち上げる。人工衛星200の打ち上げ後、人工衛星200が所定の軌道に投入された後、デブリ除去装置100を次のシーケンスにより展開する。デブリ除去装置100の展開シーケンスは、地上側装置300から指令を受けた衛星側制御装置210の制御部211Aが実行する。衛星側制御装置210および地上側装置300は後述する。
(1)制御部211Aは衛星本体201を一定の角速度で回転させ姿勢を安定させる
(2)デブリ除去装置100では正六角形の頂点に錘113(
図3)が取り付けられている。制御部211Aは、各端部に取り付けられた錘113の衛星本体201への固定を開放し、6方向にデブリ除去装置100を展開した後、所定の角速度に制御して衛星本体201の姿勢を安定させる(1次展開)。
(3)制御部211Aは、衛星本体201に巻き付けてあるデブリ除去装置100を開放し、デブリ除去装置100全体を展開する(2次展開)。
(4)制御部211Aは、所定の角速度に制御することで衛星本体201の姿勢を安定させる。なお、衛星本体201の回転はデブリ除去装置100の展開形態を維持するのみ必要な角速度とする。
【0045】
【0046】
図9は、衛星本体201と地上側装置300との通信を示す。
図10は、地上側装置300のハードウェア構成を示す。
図11は、衛星本体201の構成概要を示す。
図12は、衛星本体201に搭載される衛星側制御装置210のハードウェア構成を示す。
【0047】
図9に示すように、地上側装置300は衛星本体201と通信して、衛星本体201を制御する。衛星本体201の制御は、地上側装置300の制御部311が実行する。
地上側装置300の制御部311は、デブリ除去方法150を実行する。具体的には以下のようである。
地上側装置300の制御部311が、正と負とのいずれかの電圧が印加される周形状の1以上の周形状電極から構成されて衛星本体201に収納される周形状電極集合体であるデブリ除去装置100を、人工衛星200に宇宙空間へ展開させる。そして制御部311が、宇宙空間へ展開されたデブリ除去装置100の各周形状電極101に正と負とのいずれかの同一極性の電圧を衛星本体201によって印加させる。制御部311は、この印加により、周形状電極101の周の内部を通過したデブリであって、周形状電極101に印加された電圧と異なる極性に帯電したデブリである帯電デブリ401に、周形状電極101の電圧に基づく静電気力による引力を作用させて帯電デブリ401を減速させる。
【0048】
<地上側装置300>
図10は、地上側装置300のハードウェア構成を示す。地上側装置300はコンピュータである。地上側装置300はプロセッサ310を備える。地上側装置300は、プロセッサ310の他に、主記憶装置320、補助記憶装置330、および通信インタフェース340といった、他のハードウェアを備える。プロセッサ310は、信号線350を介して他のハードウェアと接続され、他のハードウェアを制御する。
【0049】
地上側装置300は、機能要素として、制御部311を備えている。制御部311の機能は、地上側制御プログラムにより実現される。
【0050】
プロセッサ310は、地上側制御プログラムを実行する装置である。プロセッサ310は、演算処理を行うIC(Integrated Circuit)である。プロセッサ310の具体例は、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)である。
【0051】
主記憶装置320の具体例は、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)である。
補助記憶装置330は、データを不揮発的に保管する記憶装置である。補助記憶装置330は地上側制御プログラムを記憶している。補助記憶装置330の具体例は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)である。
通信インタフェース340は、プロセッサ310が衛星本体201と通信するためのインタフェースである。地上側制御プログラムは、制御部311の「部」を「処理」、「手順」あるいは「工程」に読み替えた各処理、各手順あるいは各工程を、コンピュータに実行させるプログラムである。また、地上側制御方法は、コンピュータである地上側装置300が地上側制御プログラムを実行することにより行われる方法である。地上側制御プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納されて提供されてもよいし、プログラムプロダクトとして提供されてもよい。
【0052】
<衛星本体201>
図11は、衛星本体201の概略構成を示す。
図11を参照して衛星本体201の構成概要を説明する。
【0053】
衛星本体201は衛星側制御装置210、通信装置220を備え、デブリ除去装置100を収納している。衛星側制御装置210は通信装置220を用いて地上側装置300と通信する。衛星本体201は推進装置、姿勢制御装置等を備えるがこれらは省略する。
【0054】
<衛星側制御装置210>
図12は、衛星側制御装置210のハードウェア構成を示す。
図12を参照して衛星側制御装置210のハードウェア構成を説明する。衛星側制御装置210は、コンピュータである。衛星側制御装置210は、プロセッサ211、主記憶装置212、補助記憶装置213、通信インタフェース214を備えている。衛星側制御装置210の各ハードウェアは地上側装置300の各ハードウェアと同様なので、地上側装置300と異なる点のみを説明する。
【0055】
衛星側制御装置210は、機能要素として、制御部211Aを備えている。制御部211Aの機能は、デブリ除去プログラム210Pにより実現される。デブリ除去プログラム210Pは補助記憶装置213に記憶されている。
【0056】
デブリ除去プログラム210Pは、制御部211Aの「部」を「処理」、「手順」あるいは「工程」に読み替えた各処理、各手順あるいは各工程を、コンピュータに実行させるプログラムである。また、デブリ除去方法は、コンピュータである衛星側制御装置210がデブリ除去プログラム210Pを実行することにより行われる方法である。デブリ除去プログラム210Pは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納されて提供されてもよいし、プログラムプロダクトとして提供されてもよい。
【0057】
デブリ除去プログラム210Pは、衛星本体201に搭載されるコンピュータである衛星側制御装置210に、正と負とのいずれかの電圧が印加される周形状の1以上の周形状電極から構成されて衛星本体201に収納される周形状電極集合体であるデブリ除去装置100を、宇宙空間へ展開する展開処理を実行させる。
そして、デブリ除去プログラム210Pは、宇宙空間へ展開されたデブリ除去装置100の各周形状電極101に正と負とのいずれかの同一極性の電圧を印加して、周形状電極101の周の内部を通過したデブリであって、周形状電極101に印加された電圧と異なる極性に帯電したデブリである帯電デブリ401に、周形状電極101の電圧に基づく静電気力による引力を作用させて帯電デブリ401を減速させる印加処理を実行させる。
【0058】
***実施の形態1の効果***
図13は、デブリ除去装置100の特徴をまとめた図である。
図13を参照して、デブリ除去装置100の効果を説明する。
(1)デブリ除去装置100は「ハニカム電極を用いた静電気力を利用したデブリ除去」が特徴である。よって、比較的小型のデブリを多数同時に除去する場合に有効である。
(2)デブリ除去装置100は、デブリが飛んでくるのを受動的に待ち受ける構成である。よって、デブリの情報が不要であり、デブリの観測および監視が不要である。
(3)デブリ除去装置100は、「非接触」でデブリを除去する。よって、人工衛星200はランデブーが不要であり、また2次デブリの発生がない。このため、あらゆるリスクが低く、人工衛星200の能力も低く抑えることができる。
(4)デブリ除去装置100によればデブリの軌道上でのその場計測が可能であり、また、長期の運用が可能である。
【0059】
なお、デブリ除去装置100は複数の周形状電極101から構成される形態を示したが、デブリ除去装置100は一つの周形状電極101から構成されても構わない。
【0060】
なお、
図3のデブリ除去装置100では周形状電極101として六角形を示したが、円、楕円、四角形、五角形、あるいは七角形以上の多角形を用いてもよい。
【0061】
なお、以上の説明ではデブリ除去装置100が正に帯電し、帯電デブリ401が負に帯電する場合を示したが、デブリ除去装置100が負に帯電し、帯電デブリ401が正に帯電してもよい。
【0062】
なお、
図3のデブリ除去装置100では周形状電極101として六角形を示したが、円、楕円、四角形、五角系、あるいは七角形以上の多角形を用いてもよい。
【0063】
以上、実施の形態1について説明した。実施の形態1の複数の技術事項のうち、2つ以上を組み合わせて実施しても構わない。あるいは、実施の形態1の複数の技術事項うちの1つを部分的に実施しても構わない。
【符号の説明】
【0064】
100 デブリ除去装置、101 周形状電極、101-1,101-2,101-3,101-4,101-5,101-6 折り畳み部、111 ユニット、112 テザー、113 錘、150 デブリ除去方法、200 人工衛星、201 衛星本体、210 衛星側制御装置、210P デブリ除去プログラム、211 プロセッサ、211A 制御部、212 主記憶装置、213 補助記憶装置、214 通信インタフェース、220 通信装置、300 地上側装置、310 プロセッサ、311 制御部、320 主記憶装置、330 補助記憶装置、340 通信インタフェース、350 信号線、400 デブリ、401 帯電デブリ。