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特開2023-121401リチウム-無機酸安定型ニオブ酸ゾル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121401
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】リチウム-無機酸安定型ニオブ酸ゾル
(51)【国際特許分類】
   C01G 33/00 20060101AFI20230824BHJP
   C01D 15/02 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C01G33/00 A
C01D15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024740
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000203656
【氏名又は名称】多木化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷口 兼之
(72)【発明者】
【氏名】常石 琢
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD10
4G048AE05
4G048AE08
(57)【要約】
【課題】より大きな粒子径の微粒子が安定して分散したニオブ酸ゾルの開発を課題とする。
【解決手段】分散安定化剤としてリチウム及び無機酸を含有した、リチウム-無機酸安定型ニオブ酸ゾルである。無機酸は、硝酸、塩酸、硫酸及び過塩素酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、当該ゾルの好適な製造方法は、ニオブ酸アンモニウムゾルと無機酸とを混合する第1工程、第1工程で得られた液と水酸化リチウムとを混合する第2工程、第2工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第3工程、を含む製造方法である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散安定化剤としてリチウム及び無機酸を含有した、リチウム-無機酸安定型ニオブ酸ゾル。
【請求項2】
無機酸が、硝酸、塩酸、硫酸及び過塩素酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1記載のリチウム-無機酸安定型ニオブ酸ゾル。
【請求項3】
(1)ニオブ酸アンモニウムゾルと無機酸とを混合する第1工程
(2)第1工程で得られた混合物と水酸化リチウムとを混合する第2工程
(3)第2工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第3工程
を含む、分散安定化剤としてリチウム及び無機酸を含有した、リチウム-無機酸安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム-無機酸安定型ニオブ酸ゾルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電池材料の分野においてニオブ系ゾルが正極や負極の表面コート用材料として着目されている。
【0003】
本出願人は、ニオブ系ゾルとして特許文献1に記載のニオブ酸アンモニウムゾルに関する技術を発明したのを皮切りに、特許文献2に記載のアミン化合物安定型ニオブ酸ゾルを発明した。さらには、特許文献3に記載のアルカリ金属安定型ニオブ酸ゾルを発明し、その1つはリチウム安定型ニオブ酸ゾルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5441264号公報
【特許文献2】特許第6156876号公報
【特許文献3】特許第6774158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3に開示された製造方法によって得られるリチウム安定型ニオブ酸ゾルは、平均粒子径が約10~30nm程度の比較的小さな微粒子が分散したゾルであった。
粒子径の制御は、適用用途の拡大の観点から要請されるものであった。
【0006】
本発明は、より大きな粒子径の微粒子が安定して分散したニオブ酸ゾルの開発を課題とする。とりわけ平均粒子径が50nm以上のニオブ酸ゾルの開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、驚くべきことにリチウム及び無機酸を分散安定化剤として用いることによって上記課題が解決されることを見出し、係る知見を基に本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]分散安定化剤としてリチウム及び無機酸を含有した、リチウム-無機酸安定型ニオブ酸ゾル。
[2]無機酸が、硝酸、塩酸、硫酸及び過塩素酸からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[1]記載のリチウム-無機酸安定型ニオブ酸ゾル。
[3](1)ニオブ酸アンモニウムゾルと無機酸とを混合する第1工程
(2)第1工程で得られた混合物と水酸化リチウムとを混合する第2工程
(3)第2工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第3工程
を含む、分散安定化剤としてリチウム及び無機酸を含有した、リチウム-無機酸安定型ニオブ酸ゾルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
なお、本発明において、数値範囲に関する「数値1~数値2」という表記は、数値1を下限値とし数値2を上限値とする、両端の数値1及び数値2を含む数値範囲を意味し、「数値1以上数値2以下」と同義である。
【0010】
本発明は、分散安定化剤としてリチウム及び無機酸を含有した、リチウム-無機酸安定型ニオブ酸ゾル(以下「本発明のゾル」という)に関する。本発明のゾルは、リチウム及び無機酸で安定化されたニオブ酸ゾルとも言えるものである。
【0011】
本発明のゾル中において、少なくとも一部のリチウムはニオブ酸の分散粒子に直接的に結合又は吸着することによって、特許文献3に記載のリチウム安定型ニオブ酸ゾルと同様に、分散粒子の分散安定化に寄与していると考えられる。一方、上記以外のリチウムは、共存する無機酸と共に、間接的に分散粒子の分散安定化に寄与していると考えられる。
【0012】
本発明のゾル中におけるLi/Nb(モル比)は、0.25~1.5の範囲(Li/Nb2O5(モル比)では0.5~3.0の範囲)であることが好ましい。この範囲では、リチウムの大半がニオブ酸の分散粒子に結合又は吸着されていることによって分散安定化がなされていると考えられる。Li/Nb(モル比)の下限は、より好ましくは0.3以上である。Li/Nb(モル比)の上限は、より好ましくは1.25以下であり、さらに好ましくは1.0である。
【0013】
無機酸の存在によって、粒子径の増大化が可能となる。さらに、ゾルとしての安定化ももたらされるが、これは無機酸によってニオブ酸リチウムの析出が抑制されるためと考えられる。無機酸の種類は、硝酸、塩酸、硫酸及び過塩素酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
本発明のゾル中における無機酸の含有量は、特に限定されるものではないが、少なくともゾルとしての安定性が得られる量であることが好ましい。無機酸の好適な含有量の範囲は、無機酸の種類によって異なり、例えば、硝酸は硝酸/Li(モル比)が0.40~0.50の範囲、塩酸は塩酸/Li(モル比)が0.30~0.50の範囲、硫酸は硫酸/Li(モル比)が0.15~0.25の範囲、過塩素酸は過塩素酸/Li(モル比)が0.45~0.55の範囲であることが好ましい。
【0015】
本発明のゾルは、アンモニアの含有を許容するものである。本発明のゾル中のアンモニアの含有量は、特に限定されるものではないが、NH3/Nb(モル比)として0以上0.25未満の範囲であることが好ましい。上記範囲の上限は、より好ましくは0.2未満であり、さらにより好ましくは0.1未満である。アンモニアを含有するときの上記範囲の下限は、例えば、0.005以上であることが好ましいが、より低含有の観点からは0.001以上であることが好ましい。アンモニアを含有するときの分散粒子におけるアンモニアは、分散粒子におけるリチウムと同様の場所で分散粒子に結合又は吸着していると考えられる。
【0016】
本発明のゾルの好適な一形態は、平均粒子径が50nm以上のものである。平均粒子径の上限は、沈殿等を生じることなくゾルとしての性状が保たれるのであれば特に限定されることはないが、好例は300nmである。よって、好適な範囲は、50~300nmである。なお、上限については、より好ましくは250nmであり、さらにより好ましくは200nmである。
【0017】
(製造方法)
本発明のゾルの好適な製造方法は、以下の第1~3工程を含むものである。
(1)ニオブ酸アンモニウムゾルと無機酸とを混合する第1工程
(2)第1工程で得られた混合物と水酸化リチウムとを混合する第2工程
(3)第2工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する第3工程
【0018】
原料として用いるニオブ酸アンモニウムゾルについて説明する。
ニオブ酸アンモニウムゾル及びその製造方法は、特許文献1に詳述されているので、ここではその概略を説明する。ニオブ酸アンモニウムゾルは、無定形のニオブ酸アンモニウムの微粒子がコロイド粒子として分散した水分散型ゾルであり、当該ゾルを100℃で10時間乾燥させたときのアンモニアとニオブ酸がNH3/Nb(モル比)=0.25~0.75(NH3/Nb2O5(モル比)では0.5~1.5)の範囲であることを特徴とするものである。ニオブ酸アンモニウムゾルの製造方法は、フッ酸、又はフッ酸と硫酸の混酸にニオブ化合物を溶解させた水溶液と、アンモニア水溶液とを、pHを8以上に維持しつつ混合、反応させてニオブ酸アンモニウムの微粒子を含有する分散液を得た後、当該分散液をろ過洗浄するものである。また、市販のニオブ酸アンモニウムゾルとして、例えば、多木化学(株)製の商品名「バイラール Nb-G6000」を挙げることができる。
【0019】
第1工程では、ニオブ酸アンモニウムゾルと無機酸とを混合する。両者の混合方法については、特に制限は無く、常法により混合すればよい。例えば、撹拌下のニオブ酸アンモニウムゾルに、無機酸を添加する。この混合によって得られる混合物は、通常、非常に粘度の高い半固形状のものである。無機酸の種類は、硝酸、塩酸、硫酸及び過塩素酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
第2工程では、第1工程で得られた混合物と水酸化リチウムとを混合する。通常、水酸化リチウムとの混合によって、混合物の粘度が低下し、液状となる。両者の混合方法については、特に制限は無く、常法により混合すればよい。例えば、撹拌下において第1工程で得られた混合物に、水酸化リチウムを添加する。
【0021】
第3工程では、第2工程で得られた液を加熱及び/又は洗浄処理する。当該処理は、アンモニアの除去を目的に行うことが好ましい。例えば、本発明のゾルにおいて、NH3/Nb(モル比)が0.25未満になるまで行う。
【0022】
加熱処理における温度と時間の加熱条件は適宜設定すればよいが、例えば、加熱温度は、50~150℃の範囲であることが好ましい。加熱温度の下限は、80℃であることがより好ましく、さらに好ましくは90℃である。また、加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.5~8時間である。リチウムの存在量及び加熱条件を最適化すれば、本発明のゾル中のアンモニア含有量を検出限界以下とすることも不可能ではない。本発明では、検出限界以下を含有量0とする。アンモニアの測定には、ケルダール法を用いる。
【0023】
洗浄処理の方法については特に制限は無いが、好ましくは水を添加しながらの限外ろ過である。洗浄方法や洗浄条件を最適化すれば、本発明のゾル中のアンモニア含有量を検出限界以下とすることも不可能ではない。加熱と洗浄は、一方のみを行ってもよく、また、併用してもよい。併用する場合は、例えば、加熱後に洗浄してもよいし、洗浄後に加熱してもよい。
【0024】
加熱及び/又は洗浄処理によるアンモニア除去のメカニズムとして、次のことが推測される。ニオブ酸アンモニウムゾル中では、アンモニウムイオンはほとんど存在せず、アンモニアはニオブ酸の微粒子に結合又は吸着された状態で存在していると推定されるが、そのアンモニアのうち少なくとも一部がリチウムによって置換され、これによって遊離のアンモニアが生成し、この遊離のアンモニアを加熱においては揮散させ、洗浄においては系外へ排出する、というものである。
【0025】
第3工程の後に、必要に応じて、ろ過工程、濃度調整工程を設けてもよい。
【0026】
本発明のゾルのNb濃度は、例えば、0.5~30質量%の範囲が好ましい。下限値は、製造上・輸送上の経済的な観点から、2質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは3質量%であり、さらにより好ましくは4質量%である。上限値の30質量%は、高粘度化によるハンドリング性の低下を回避する観点から設定したものである。製造上及び利用上の利便性を鑑みると、上限値は、20質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは15質量%である。
【0027】
本発明のゾルを濃度調整する場合は、ゾルとしての安定状態が保たれる範囲において常法によって実施すればよく、例えば、加熱濃縮、減圧濃縮等による濃縮、水による希釈等が挙げられる。
【0028】
本発明のゾルは、ハンドリング性が高いことから各種用途に好適に使用することができる。一例としては、本発明のゾルを含有してなる透明薄膜形成用塗布液、二次電池、電子材料等の添加剤等が挙げられる。
【実施例0029】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0030】
〔実施例1~4〕
ニオブ酸アンモニウムゾルとして、多木化学(株)製の「バイラール Nb-G6000」(Nb=4.3質量%、pH8.8、NH3/Nb(モル比)=0.6、平均粒子径:15nm)を用いた。
撹拌下のニオブ酸アンモニウムゾル300gに、無機酸を添加した後、水酸化リチウムを添加した(無機酸の種類及び各原料の添加量は表1の組成となるように設計した)。次に、得られた液を90℃で3時間加熱した。加熱は開放下で行い、適宜水を添加することで所定の濃度に調整しながらおこなった。最後に、夾雑物を除去する目的でろ過をした後、必要な場合は適当量の水添加による濃度調整をおこなって、表1に記載のNb濃度を有するリチウム及び無機酸で安定化されたニオブ酸ゾルを得た。
【0031】
【表1】
【0032】
表2に、得られたゾルの物性値を示した。
なお、以下の分析を含め、ゾルは有姿で分析に供した。
・平均粒子径:(株)堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布測定装置「LB-500」を用いて測定した。
・ヘイズ、全光線透過率:日本電色工業(株)製のヘーズメーター「COH7700」を用い、波長400~700nm(10nm間隔)、光路長10mmの条件で測定した。
【0033】
【表2】
【0034】
実施例1~4で得られたいずれのゾルも、平均粒子径が50nm以上であり、さらに、25℃で1ヶ月間保存したところ、沈殿物の発生は認められず、保存安定性を有していることが確認された。