(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012141
(43)【公開日】2023-01-25
(54)【発明の名称】遺伝子の導入方法及び導入キット
(51)【国際特許分類】
C12N 15/87 20060101AFI20230118BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230118BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20230118BHJP
【FI】
C12N15/87 Z
C12N15/63 Z
C07K14/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115620
(22)【出願日】2021-07-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「脳科学研究戦略プログラム」「認知症関連シード制御機構の解明と治療基盤の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】貫名 信行
(72)【発明者】
【氏名】今村 行雄
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA65
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】ウイルスを用いることなく生体組織内の細胞へ遺伝子を導入する方法を提供する。
【解決手段】線維状アミロイド凝集体及び導入対象の遺伝子を組織へ注入することを特徴とする生体組織内の細胞への遺伝子の導入方法である。線維状アミロイド凝集体は例えば線維状アミロイドβ凝集体、α-シヌクレイン線維たんぱく質凝集体又はタウ線維たんぱく質凝集体である。発現が確認された組織は例えば脳、精巣又は筋肉、肝臓である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維状アミロイド凝集体及び導入対象の遺伝子を組織へ注入することを特徴とする生体組織内の細胞への遺伝子の導入方法。
【請求項2】
前記線維状アミロイド凝集体と前記導入対象の遺伝子とは同時に前記組織へ導入されることを特徴とする請求項1に記載の遺伝子の導入方法。
【請求項3】
前記線維状アミロイド凝集体は線維状アミロイドβ凝集体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の遺伝子の導入方法。
【請求項4】
前記線維状アミロイド凝集体はα-シヌクレイン線維たんぱく質凝集体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の遺伝子の導入方法。
【請求項5】
前記線維状アミロイド凝集体はタウ線維たんぱく質凝集体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の遺伝子の導入方法。
【請求項6】
前記線維状アミロイド凝集体は人工合成ペプチドの凝集体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の遺伝子の導入方法。
【請求項7】
前記組織は脳、精巣又は筋肉であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の遺伝子の導入方法。
【請求項8】
線維状アミロイド凝集体と、導入対象の遺伝子を搭載したプラスミドと、を有することを特徴とする生体組織内の細胞への遺伝子の導入キット。
【請求項9】
前記線維状アミロイド凝集体は線維状アミロイドβ凝集体であることを特徴とする請求項8に記載の遺伝子の導入キット。
【請求項10】
前記線維状アミロイド凝集体はα-シヌクレイン線維たんぱく質凝集体であることを特徴とする請求項8に記載の遺伝子の導入キット。
【請求項11】
前記線維状アミロイド凝集体はタウ線維たんぱく質凝集体であることを特徴とする請求項8に記載の遺伝子の導入キット。
【請求項12】
前記線維状アミロイド凝集体は人工合成ペプチドの凝集体であることを特徴とする請求項8に記載の遺伝子の導入キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスを用いることなく生体組織内の細胞へ遺伝子を導入する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーの進歩により、ウイルスベクターを使用して標的細胞内へ遺伝子を導入する技術が確立されてきており、重篤な遺伝病、癌、エイズをはじめとした様々な疾患に対する遺伝子治療の研究が行われている(非特許文献1,2)。
【0003】
ウイルスベクターは、ウイルスが本来持っている感染性を利用して、外来遺伝子を導入することができる。外来遺伝子をプロモーター制御下に配置することで、標的細胞において外来遺伝子の発現を達成することができる。このようなウイルスベクターとして用いるウイルスとして、様々なウイルスが利用可能であり、例えばゲノムへの組み込みを目的としてレトロウイルスや、一過的な遺伝子発現を目的として、アデノウイルスが汎用されている(非特許文献3,4)。
【0004】
標的細胞が増殖性である場合には、レトロウイルスベクターがよく用いられる。このベクターは、宿主染色体に組み込まれるため長期発現が期待でき、また、大量生産が容易である。その半面、変異の導入、あるいは変異体の出現などの安全性が懸念され、非分裂細胞に導入できず、低力価であるという欠点が指摘されている(非特許文献5,6)。
【0005】
標的細胞が非増殖性である場合には、アデノウイルスベクターがよく用いられる。アデノウイルスベクターは高力価の遺伝子組換えウイルスが作製でき、非分裂細胞にも導入可能で、きわめて強力な遺伝子発現を体内で起こせる点で注目されている。しかし、遺伝子発現が一過性であり、細胞障害性(免疫原性)や抗原性が強く頻回投与が困難である欠点がある(非特許文献7,8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Virus Res (2005)vol. 108:161-165
【非特許文献2】J. Virology (2006) vol. 80, No.8, p.4122-4134
【非特許文献3】Vaccine (2010) vol. 28, p.1181-1187
【非特許文献4】J Virology, (2009) vol. 83, p.3549-3555
【非特許文献5】Virology (2010) vol. 406, p. 212-227
【非特許文献6】Science, (2012) vol. 338, 810-814
【非特許文献7】Journal of Virology(2014)vol. 88:11187-11198
【非特許文献8】Nature Biotechnology(2015)vol. 33, 755-760, doi:10.1038/nbt.3245
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、ウイルスを用いることなく生体組織内の細胞へ遺伝子を導入する方法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる生体組織内の細胞への遺伝子の導入方法は、線維状アミロイド凝集体及び導入対象の遺伝子を組織へ注入することを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる生体組織内の細胞への遺伝子の導入キットは、線維状アミロイド凝集体と、導入対象の遺伝子を搭載したプラスミドと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によればウイルスを用いることなく生体組織内の細胞へ遺伝子を導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】導入対象であるGFP遺伝子が標的細胞である神経細胞に導入されていることを説明する写真図である。
【
図2】導入対象であるGFP遺伝子が標的細胞である肝細胞に導入されていることを説明する写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0013】
本発明にかかる遺伝子の導入方法は、線維状アミロイド凝集体及び導入対象の遺伝子を組織へ注入することを特徴とする。
【0014】
本発明にかかる遺伝子の導入キットは、線維状アミロイド凝集体と、導入対象の遺伝子を搭載したプラスミドと、を有することを特徴とする。なおキットには使用説明書を含めることも可能である。
【0015】
本発明において線維状アミロイド凝集体及び導入対象の遺伝子を組織へ注入するとは、線維状アミロイド凝集体及び導入対象の遺伝子を組織へともに注入することを意味し、その順序は問わない。即ち(a)線維状アミロイド凝集体と導入対象の遺伝子とを同時に組織へ注入すること、(b)線維状アミロイド凝集体を先に組織へ注入しその後に導入対象の遺伝子を組織へ注入すること、(c) 導入対象の遺伝子を先に組織へ注入しその後に線維状アミロイド凝集体を組織へ注入すること、のいずれも包含する。
【0016】
線維状アミロイド凝集体は、例えば線維状アミロイドβ凝集体(Aβとも記載されることがある。)である。線維状アミロイドβ凝集体はアルツハイマー病の発症に密接にかかわっていると考えられている。Aβは、分子間で平行β-sheetを形成することにより凝集する。Aβは一回膜貫通タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)からβセクレターゼ、γセクレターゼという2種類の酵素によって切り出される小さなタンパク質(ペプチド)である。Aβの主要分子種はAβ(1-42)とこれよりC末端側が2残基少ないAβ(1-40)である。N末端側28残基は親水性でAPPの細胞外ドメインに対応する。一方残りC末端側は膜貫通領域に対応し疎水性が高い。
【0017】
34℃~39℃、好ましくは37℃で凝集したアミロイド構造はβ-sheet構造に富んでいるが、4℃で凝集したアミロイド構造はβ-sheet構造に加え、ループやターン構造を含んでいる。34℃~39℃、好ましくは37℃で凝集した線維状アミロイドβは4℃で凝集した線維状アミロイドβよりも毒性がかなり低い。よって本発明においては34℃~39℃、好ましくは37℃で凝集した線維状アミロイドβ凝集体を用いて導入対象の遺伝子を組織へ導入することが好ましい。毒性の低い線維状アミロイドβ凝集体を用いることにより細胞障害性をほぼ無しにすることが可能となる。
【0018】
また線維状アミロイド凝集体は、例えばα-シヌクレイン線維たんぱく質凝集体である。α-シヌクレイン線維たんぱく質は、140のアミノ酸が連なったタンパク質で、シナプス前終末や核をはじめとする細胞内の多様な部位に存在する。神経細胞の小胞輸送やシナプス機能の調節に関わるとされている。パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症では、α-シヌクレインが不溶性の線維の凝集体であるレビー小体を形成する。34℃~39℃、好ましくは37℃で凝集したα-シヌクレイン線維たんぱく質は4℃で凝集したα-シヌクレイン線維たんぱく質よりも毒性がかなり低い。よって本発明においては34℃~39℃、好ましくは37℃で凝集したα-シヌクレイン線維たんぱく質を用いて導入対象の遺伝子を組織へ導入することが好ましい。
【0019】
また線維状アミロイド凝集体は、例えばタウ線維たんぱく質凝集体である。タウたんぱく質はアルツハイマー病脳では可溶性のタウオリゴマーを形成し、その後は顆粒状タウオリゴマーとなり、次にリン酸化されたタウはPHF(paired helical filament)タウ線維を形成する。In vitroで合成したタウもフィラメント形成に伴いβ-sheet構造を持つ凝集体となる。34℃~39℃、好ましくは37℃で凝集したタウ線維たんぱく質は4℃で凝集したタウ線維たんぱく質よりも毒性がかなり低い。よって本発明においては34℃~39℃、好ましくは37℃で凝集したタウ線維たんぱく質を用いて導入対象の遺伝子を組織へ導入することが好ましい。
【0020】
また毒性の低い線維状アミロイド凝集体としてインスリンアミロイド線維凝集体を用いることも可能である。即ちウシ由来のインスリンを、還元剤の一つであるTCEP(Tris (2-carboxyethyl) phosphine)を加えて酸性・高温条件の下で恒温静置すると、柔軟な構造を持つヌードル状のインスリンアミロイド線維凝集体が生成する。このインスリンアミロイド線維凝集体は細胞毒性がほとんどない。
【0021】
また線維状アミロイド凝集体は、前述した天然変性ペプチドのみならず人工合成ペプチドのアミロイド凝集体も使用可能である。このようなアミロイド凝集体の合成方法は、特に限定されるものではなく、固相合成法などの公知の合成方法にて製造可能である。
【0022】
導入対象の遺伝子のDNAサイズは、特に限定されるものでなく、例えば1kb、2kb、3kb、4kb、5kb、6kb、7kb、8kb、9kb、10kb、11kb、12kb、15kb、20kb、30kb、40kb又は50kbにおいて任意の2点を選択して構成される範囲のDNAサイズの遺伝子を導入することが可能である。
【0023】
本発明において導入された遺伝子の発現期間は、導入される遺伝子の種類及び導入の手段として用いる線維状アミロイド凝集体の種類によって異なるが、例えば、2日まで発現する、2ヶ月まで発現する、又は、数年単位で発現する等である。
【0024】
注入される組織及び遺伝子が導入される標的細胞は、特に限定されるものではなく、例えば、注入される組織として脳組織であり標的細胞は神経細胞である。また例えば注入される組織は精巣組織であり標的細胞はライディッヒ細胞、セルトリ細胞などである。また例えば注入される組織は筋肉組織であり標的細胞は筋細胞である。
【0025】
下記に本発明の使用形態の一例について記載する。
【0026】
(1)cDNAプラスミドベクターの準備工程
標的細胞へ導入するための目的遺伝子のcDNAを合成し、それをプラスミドベクターに組み込んでDNAプラスミドベクターを作製した。なお本発明においては組み換えウィルスは作製しないため、パッケージングベクターは使用しない。
【0027】
(2)線維状アミロイド凝集体の準備工程
アミロイドタンパク質を振とう培養器に入れ37℃にて数日間培養し、これにより線維状アミロイド凝集体を作製する。
【0028】
(3)線維状アミロイド凝集体及びcDNAプラスミドベクターの注入工程
線維状アミロイド凝集体及びcDNAプラスミドベクターを注射器にて組織へ注入する。これにより目的遺伝子が注入した組織内の標的細胞にて発現する。なお本発明においてウイルスを使用せずに標的細胞にて目的遺伝子が発現する理由としては、下記が考えられる。即ち、組織へ線維状アミロイド凝集体が注入されると標的細胞がエンドサイトーシスにより線維状アミロイド凝集体を細胞内へ取り込む。すると細胞内へ取り込まれた線維状アミロイド凝集体が原因となり該標的細胞にてエンドサイトーシスが亢進され、標的細胞に目的遺伝子も導入されると考えられる。
【実施例0029】
1.プラスミドの準備
導入対象の遺伝子を搭載するプラスミドベクターとして、3種類の哺乳類cDNAプラスミドベクターをベクタービルダー社(本社:シカゴ、米国)から購入した。ベクターは、それぞれ下記であった。本実験では組み換えウィルスは作製しないため、パッケージングベクターは使用しない。即ち、本発明によれば、発現ベクターをウイルス粒子にパッケージングさせる手法を使用することなく、目的遺伝子を効率良く標的細胞へ導入することができる。
1) pAAV[Exp]-CMV>EGFP (cat: VB150925-10026, size of vector: 5043 bp),
2) pLV[Exp]-EGFP:T2A:Puro-EF1A>mCherry (cat: VB160109-10005, size of vector: 10085 bp),
3)pAV[Exp]-CMV>EGFP(cat: VB150925-10024, size of vector: 35197 bp)
なおEGFPは、64残基目のPheをLeuに、65残基目のSerをThrにアミノ酸置換してあり(GFPmut1として公開。PMID:8707053)、EGFPは野生型GFP(wtGFP)とは対照的に単一で強い赤色シフトの励起ピーク(488nm)を有する。
【0030】
更に、導入対象の遺伝子を搭載するプラスミドベクターとして、非ウィルス性のベクターpcDNA3.1 (Invitrogen社製、Cat: V790-20, size of vector: 5428 bp)を用いた。
【0031】
2.アミロイド線維の準備
アミロイド線維は下記の方法でそれぞれ準備した。
【0032】
2-1)ヒト-α-シヌクレイン線維たんぱく質精製
ヒト-α-シヌクレイン線維は奥住の方法によって準備した(参考文献1:マウス脳における脳梁離断を用いた線維状αsynucleinの伝播経路の検討 奥住 文美, 波田野琢, 黒澤 大, 山中智行, 宮崎 晴子, 古川良明, 服部 信孝, 貫名信行 パーキンソン病・運動障害疾患コングレスプログラム・抄録集, Movement Disorder Society of Japan (MDSJ), 11回68-68, 2017年10月,参考文献2:Acta Neuropathol Commun. 2018 Sep 19;6(1):96. doi: 10.1186/s40478-018-0587-0.)。ヒト-α-シヌクレインをエンコードする発現ベクターpET15bを大腸菌BL21(DE3)株に形質転換した。Hisタグ付きのα-シヌクレインは0.5mMのイソプロピル-β-d-チオガラクトシダーゼにより、37℃, 3時間インキュベート下で発現誘導した。その後、2%トリトン- X-100 (界面活性剤)下を含むリン酸緩衝液内で超音波破砕し、20000×gで30分間遠心後、上澄みをニッケルセファロース-6-ファーストカラム(1mL、GEヘルスケア製)にて分離した。α-シヌクレインは50mM トリス塩酸塩、100mM 食塩、250mM イミダゾールを含んだpH=8の溶液内に溶出した。溶出したサンプルをVivaspin Turbo チューブ(5KMW)に加えたのち、3000×gで15分間で遠心した。そののちトロンビン(GEヘルスケア)処理し、N末端のHisタグを除去した。50mM トリス塩酸塩、100mM食塩 (pH=8)溶液中の精製されたα-シヌクレイン単量体は37℃、1200回転の振とう培養器(DWMaxM/BR-034, タイテック)に入れられ、7日間培養した。吸光度計にて純度を測定後、α-シヌクレイン線維は50000 × gで20分間遠心により回収し、リン酸緩衝液に懸濁した。線維たんぱく質はコスモバイオ社製超音波破砕装置(UCD-300)にて処理し、-80℃に保存した。
【0033】
2-2)ヒト- タウ線維たんぱく質精製
ヒトタウたんぱく質(04NR)組み換えたんぱく質は下記の方法によって準備した。ヒトタウを組み込んだ大腸菌BL21(DE3)株をバッファー(50mM PEPES, 1mM EGTA, 1mM DTT、pH=6.4)中にホモジェナイズし、95℃で5分間加熱後、20000×gで15分間遠心して回収した。上澄み液はcellfine phosphate(JNC Corp, Cat 19545)にて処理後、1M食塩水にて溶出した。タウを含む画分は硫化アンモニウム液中に沈殿後、沈殿物は0.05%ギ酸溶液中に溶解した。溶液は逆相HPLCにて分画し、タウたんぱく質を精製した。凝集体作製のため、37℃、1200回転の振とう培養器(DWMaxM/BR-034, タイテック)に入れられ、7日間培養した。線維たんぱく質はコスモバイオ社製超音波破砕装置(UCD-300)にて処理し、-80℃に保存した。
【0034】
2-3)アミロイドベータ1-42線維たんぱく質精製
ヒトアミロイドベータ1-42ペプチドはAnaspec社(フレモント、米国、Cat: AS-24224)より購入後、300μLの1% NH4Cl溶液に溶解した。その後、50mMトリスバッファーに最終濃度1mg/mLに希釈し、-30℃に保存した。凝集体作製のため、37℃、1200回転の振とう培養器(DWMaxM/BR-034, タイテック)に入れられ、3日間培養した。ヒトアミロイドベータ1-42線維たんぱく質の精製はシグマ社製(米国、Cat:T3516)のチオフラビン懸濁液(25μM, 50mM トリス、100mM食塩 (pH = 8.0)に溶解)に懸濁し、パーキンエルマー社製(米国)エンヴィジョンマルチプレートリーダーにおいて、励起波長430nm, 発光検出波長500nmにて測定した。ヒトアミロイドベータ1-42線維たんぱく質はコスモバイオ社製超音波破砕装置(UCD-300)にて処理し、-80℃に保存した。
【0035】
3.量子ドットによるアミロイド線維たんぱく質のラベル化
カルボキシル化カドミウム-セレニウム-テルミド量子ドット(CdSeTe-COOH, 8.0μM, ホウ酸溶液に懸濁)をサーモフィッシャーサイエンティフィック社(米国)より購入し、アミノカップリング反応(DOJINDO, Cat: A515)によりアミロイド線維たんぱく質との結合反応を行った。量子ドットのカルボキシル基を反応バッファー、N-ヒドロキシコハク酸イミド及び1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドと等量反応させ、その後、アミロイド線維たんぱく質のアミノ基末端を活性化バッファーにより等量反応させ、それぞれの量子ドット反応液及びアミロイド線維たんぱく質溶液を4℃、一晩、等量反応させることにより、量子ドット-アミロイド線維たんぱく質の結合反応を誘導した。非結合の量子ドット反応基はブロッキングバッファーによって不活化した。15000×g, 10分間の遠心により量子ドットラベルしたアミロイド線維たんぱく質を回収し、ペレットをリン酸バッファーに溶解した。結合は蛍光顕微鏡にてCy5フィルターを用い、705nmの発光輝度により確認した。量子ドットラベルしたアミロイド線維たんぱく質はコスモバイオ社製超音波破砕装置(UCD-300)にて処理し、-80℃に保存した(最終濃度ヒトシヌクレイン:6.3mg/mL, ヒトアミロイドベータ1-42: 1.0mg/mL, ヒトタウ: 5.9mg/mL)。
【0036】
4.マウス組織への量子ドットラベル化アミロイド線維及びcDNAプラスミドの投与
購入した8週齢のC57BL6Jマウス脳組織に量子ドットラベル化したまたはラベルをしないアミロイド線維及びプラスミドベクター(pAAV[Exp]-CMV>EGFP)を注入した。実験の施行はヘルシンキ宣言に従い、同志社大学動物実験委員会にあらかじめ届け出承認を得ている。脳に注入する方法は奥住の方法に則って行った。マウスを三種混合麻酔薬(メデトミジン, 0.3mg/Kg+ミダゾラム, 4.0mg/Kg + ブトルファノール, 5.0mg/Kg)にて麻酔後、頭皮を切開し、右側の線条体、ブレグマ(矢状縫合と冠状縫合の交点からX方向に22mm、Y方向に2.0mm、深さ方向に25mm部分に注入液を満たしたハミルトンシリンジの先端を差し入れ、量子ドットラベルアミロイド線維及びプラスミドを投与した。脳組織への投与は非ウィルス性ベクターpcDNA3.1を使用しても行った。精巣については皮膚を切開後、右側の睾丸にアミロイド線維及びプラスミドベクター(pLV[Exp]-EGFP:T2A:Puro-EF1A>mCherry)を注入した。24時間後、マウスを還流固定し、組織を抽出した。生組織によるイメージング実験では還流固定は行わず、氷冷のGBSS溶液中で切片を作製した。肝臓についてはマウス腹部を切開後、肝組織にアミロイド線維及びプラスミドベクター(pAV[Exp]-CMV>EGFP)を注入した。24時間後、マウスを灌流固定して肝組織を抽出した。
【0037】
5.免疫染色法
量子ドットラベル化アミロイド線維及びプラスミドを注入したマウス組織から凍結切片(厚さ:10μm)を作製し、免疫染色法を行った。組織は4%パラホルムアルデヒド(リン酸バッファー, pH = 7.2)で灌流固定後、飽和スクロース溶液(30%スクロース, 0.05%アジ化ナトリウムを含むリン酸バッファー溶液)に浸漬し、OCTコンパウンド(SAKURA)で包埋した。作製した凍結薄切切片は、まずブロックワンヒスト試薬(半井、京都、日本)で非特異的吸着を抑制したのち、1次抗体で4℃、1晩置いたのち、2次抗体を室温、2時間作用させた。大脳皮質については一次抗体はanti-MAP2(大脳皮質の神経細胞染色、R&D社、Cat:MM9942)を使用し、二次抗体はInvitrogen社製alexa fluor 594 goat anti-mouse (Cat: A11005)を100倍の希釈濃度で染色用バッファー(0.01M リン酸緩衝液、0.5M 食塩、3% 牛血清、5%ヤギ血清、0.3%トリトン、0.05%アジ化ナトリウム)に溶解し用いた。精巣については一次抗体はanti-3βHSD (精巣のライディッヒ細胞染色、Novus Biologicals社、Cat: NB110-78644)を使用し、二次抗体はgoat anti rabbit (Cat: A11012)を前記と同様に希釈用バッファーに溶解し用いた。肝臓については一次抗体はanti-HepPar1 (肝細胞の染色、Novus Biologicals社、Cat: NBP2-45272)を使用し、二次抗体はInvitrogen社製alexa fluor 594 goat anti-mouse (Cat: A11005)を前記と同様に希釈用バッファーに溶解し用いた。染色後は組織からの自家蛍光を抑えるため、ベクター社製、自家蛍光消光試薬 (Cat: SP-8500)を作用させた。撮像はキーエンス社製オールワン型蛍光顕微鏡にて行った(
図1)。
図1に示されるように、ラベルしたアミロイドを脳組織へ注入後GFPプラスミドを注入したところ、神経細胞(MAP2陽性細胞)にGFPが発現したことが示された。また
図2に示されるように、ラベルしたアミロイドを肝組織へ注入後GFPプラスミドを注入したところ、肝細胞(Heppar1陽性細胞)にGFPが発現したことが示された。なお精巣については図を省略するが、ラベルしたアミロイドを精巣へ注入後GFPプラスミドを注入したところ、精巣細胞(ライディッヒ陽性細胞)にGFPが発現したことが示された。また図を省略するが、非ウィルス性ベクターpcDNA3.1を使用して脳組織への投与した場合についても神経細胞(MAP2陽性細胞)にGFPが発現したことが示された。なおアミロイド線維はα-シヌクレイン線維たんぱく質を使用したが、アミロイドベータ
1-42線維たんぱく質の場合もタウ線維たんぱく質の場合もいずれも標的細胞でのGFPの発現が示された。
【0038】
6.ウェスタンブロッティング
脳組織はSDSを含んだレムリバッファー(最終濃度100mM トリス塩酸塩pH=6.8、4%SDS、2%メルカプトエタノール、20%グリセロール、0.01%ブロモフェノールブルー)に溶解し、最終濃度0.75mg/mLに調整した。ボイル後のサンプル30 μLを12%のポリアクリルアミドゲル(スタッキングゲルは6.25%)にロードし、ランニングバッファー(100mM トリス、100mMグリシン、0.1%SDS)、室温下で20mA, 80分間で電気泳動した。ゲル中のたんぱく質は115mA, 90分間、室温の条件下でPVDF膜に転写した。転写したPVDF膜はTBST(0.05%ツイーン20 /トリス液)に3%スキムミルクで非特異的吸着をブロックしたのち、GFP抗体をTBS-T に希釈し(1:1000)、4℃、一晩作用させた。PVDF膜を3回TBSTで洗浄したのち、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合二次抗体を1hr作用させた(1:2000)。ケミルミネセンス試薬で作用させたのち、GEヘルスケア社製イメージクワントLAS-4000でバンドを測定した。
【0039】
このように、本発明によればウイルスを使用することなく、目的遺伝子としてのGFPを標的細胞としての神経細胞へ効率的に導入することができた。これによってGFPたんぱく質の発現を確認した。