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特開2023-121411全固体電池用外装材及びこれを用いた全固体電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121411
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】全固体電池用外装材及びこれを用いた全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/105 20210101AFI20230824BHJP
   H01M 50/129 20210101ALI20230824BHJP
   H01M 50/117 20210101ALI20230824BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230824BHJP
【FI】
H01M50/105
H01M50/129
H01M50/117
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024754
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】村田 光司
【テーマコード(参考)】
5H011
5H029
【Fターム(参考)】
5H011AA02
5H011AA10
5H011AA13
5H011CC02
5H011CC05
5H011CC06
5H011CC10
5H011CC14
5H011KK01
5H011KK02
5H029AJ01
5H029AJ12
5H029AJ13
5H029AM12
5H029DJ02
5H029EJ03
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】水分バリア性及び硫化水素吸収性が優れる全固体電池用外装材を提供すること。
【解決手段】少なくとも基材層、バリア層、及び、シーラント層をこの順に備えた、全固体電池用の外装材であって、外装材を構成する層のうちの少なくとも一層が、2価の金属及び3価の金属を含む複合酸化物を含有する、全固体電池用外装材。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材層、バリア層、及び、シーラント層をこの順に備えた、全固体電池用の外装材であって、
前記外装材を構成する層のうちの少なくとも一層が、2価の金属及び3価の金属を含む複合酸化物を含有する、全固体電池用外装材。
【請求項2】
前記複合酸化物が下記一般式(1)で表される、請求項1に記載の全固体電池用外装材。
(M 1-y1-x 1+x/2 (1)
[式(1)中、Mは、Zn、Mg、Ca、Ni、Co、Fe、Ba、Mn及びCuからなる群より選ばれる2価の金属を示し、Mは、Zn、Mg、Ca、Ni、Co、Fe、Ba、Mn及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一種の2価の金属であり、Mとは異なる金属を示し、Mは、Al、Cr、Ga及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一種の3価の金属を示し、xは、0.2<x≦0.4を満たし、yは、0.25≦y≦1を満たす。]
【請求項3】
前記一般式(1)において、MがZnである、請求項2に記載の全固体電池用外装材。
【請求項4】
前記一般式(1)において、y=1である、請求項3に記載の全固体電池用外装材。
【請求項5】
前記3価の金属がAlである、請求項1~4のいずれか一項に記載の全固体電池用外装材。
【請求項6】
前記複合酸化物の平均長径が0.01μm以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の全固体電池用外装材。
【請求項7】
前記シーラント層が複合酸化物を含み、
前記複合酸化物の平均長径が20μm以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の全固体電池用外装材。
【請求項8】
前記複合酸化物を含有する層における前記複合酸化物の含有量が、当該層の全量を基準として1~40質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の全固体電池用外装材。
【請求項9】
前記バリア層と、前記シーラント層との間に接着層をさらに備え、
前記接着層及び/又は前記シーラント層が複数の層により構成されており、前記複数の層のうち少なくとも一層が前記複合酸化物を含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の全固体電池用外装材。
【請求項10】
前記バリア層の一方又は両方の面に腐食防止処理層をさらに備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の全固体電池用外装材。
【請求項11】
電池要素と、
前記電池要素を収容する、請求項1~10のいずれか一項に記載の全固体電池用外装材と、
を備える全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池用外装材及びこれを用いた全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の二次電池は、携帯電子機器や、電気を動力源とする電気自動車及びハイブリッド電気自動車等に広く用いられている。リチウムイオン電池の安全性を高めた電池として、有機溶媒電解質に代えて無機固体電解質を用いた全固体リチウム電池が検討されている。全固体リチウム電池は、短絡等による熱暴走が生じ難いという点でリチウムイオン電池よりも安全性に優れている。
【0003】
全固体電池、特に硫化物系固体電解質を用いた全固体電池では、水分が侵入すると、硫化物系固体電解質が水分と反応し、硫化水素が発生する。硫化水素は毒性があるため、硫化水素の発生を抑制し、発生した場合には速やかに無害化(消臭)することが必要である。硫化水素の発生を抑制するために、水分を吸着(吸収)する材料(例えば、ゼオライト、シリカゲル、石灰)を外装材の各層に添加することが検討されている。また、硫化水素が発生した場合に備えて、外装材に硫化水素吸着物質を用いて硫化水素を無害化する方法が検討されている。例えば、下記の特許文献1には、硫化水素吸着物質として酸化亜鉛等の金属酸化物を用いた外装材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-136091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、一般的な水分吸着物質であるゼオライト等は、水分を吸着することにより水和構造となるが、100℃程度の加熱で水分を再放出する可能性があり、全固体電池の使用時において、全固体電池が100~130℃程度となり得ることからすれば、水分バリア性を高める上では好ましいものではない。また、水分吸着物質であるゼオライト等を用いた外装材は、硫化水素吸収性の点でも改善の余地がある。
【0006】
また、酸化亜鉛等の金属酸化物と硫化水素が反応すると、以下のような反応が起こり、水分が発生する可能性がある。また、酸化亜鉛等の金属酸化物を用いた外装材は、水分バリア性の点で改善の余地がある。
ZnO+HS→ZnS+H
【0007】
そこで、本開示は、水分バリア性及び硫化水素吸収性が優れる全固体電池用外装材及びそれを用いた全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示は、少なくとも基材層、バリア層、及び、シーラント層をこの順に備えた、全固体電池用の外装材であって、上記外装材を構成する層のうちの少なくとも一層が、2価の金属及び3価の金属を含む複合酸化物を含有する、全固体電池用外装材を提供する。
【0009】
上記外装材によれば、上記複合酸化物が水分及び硫化水素を吸着することが可能である。このため、上記複合酸化物を含有する層を備えることにより、水分バリア性及び硫化水素吸収性が優れる。このため、外装材が全固体電池に使用される場合に、水分が外装材を通過して全固体電池内の固体電解質に到達することが阻止されるため、全固体電池において水分と硫化水素系固体電解質との反応による硫化水素の発生を抑制することができる。また、外装材が全固体電池に使用される場合に全固体電池の内部において硫化水素が発生しても、外装材が硫化水素吸収性に優れるため、硫化水素が外装材で吸収され、硫化水素を無害化することができる。
また、上記複合酸化物は、水分を吸着した後、全固体電池が使用される100℃程度の高温環境下におかれても、水分を放出しにくい。このため、水分が上記複合酸化物で吸着された後、外装材を有する全固体電池が100℃程度の高温環境下におかれても、全固体電池において水分と硫化水素系固体電解質との反応により硫化水素が再度発生することを抑制することができる。さらに、上記複合酸化物が硫化水素を吸着する際に、化学反応により水分が発生したとしても、上記複合酸化物が、発生した水分を吸着するため、全固体電池において水分と硫化水素系固体電解質との反応により硫化水素が再度発生することを抑制することができる。
【0010】
上記全固体電池用外装材において、上記複合酸化物は、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
(M 1-y1-x 1+x/2 (1)
[式(1)中、Mは、Zn、Mg、Ca、Ni、Co、Fe、Ba、Mn及びCuからなる群より選ばれる2価の金属を示し、Mは、Zn、Mg、Ca、Ni、Co、Fe、Ba、Mn及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一種の2価の金属であり、Mとは異なる金属を示し、Mは、Al、Cr、Ga及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一種の3価の金属を示し、xは、0.2<x≦0.4を満たし、yは、0.25≦y≦1を満たす。]
この外装材によれば、水分バリア性及び硫化水素吸収性がより優れる。
【0011】
上記一般式(1)においては、MがZnであることが好ましい。この場合、外装材によれば、硫化水素吸収性がより優れる。また、上記一般式(1)においては、MがZnであるとき、y=1であることがより好ましい。この場合、外装材によれば、硫化水素吸収性がより一層優れる。
【0012】
上記全固体電池用外装材において、上記3価の金属はAlであってもよい。3価の金属がAlであると、上記複合酸化物を安定して作製しやすい。
【0013】
上記全固体電池用外装材において、上記複合酸化物の平均長径は0.01μm以上であることが好ましい。上記複合酸化物の平均長径が0.01μm以上であると、上記複合酸化物が均一に分散されやすくなる。
【0014】
上記全固体電池用外装材において、上記シーラント層が上記複合酸化物を含む場合、上記複合酸化物の平均長径は20μm以下であることが好ましい。上記複合酸化物がシーラント層に含まれており且つ複合酸化物の平均長径が20μm以下であると、シーラント層が平滑な層となりやすく、ヒートシールしやすくなる。
【0015】
上記全固体電池用外装材において、上記複合酸化物を含有する層における上記複合酸化物の含有量が、当該層の全量を基準として1~40質量%であることが好ましい。上記複合酸化物を含有する層における上記複合酸化物の含有量が当該層の全量を基準として1質量%以上であると、外装材の水分バリア性及び硫化水素吸収性がより優れる。上記複合酸化物を含有する層における上記複合酸化物の含有量が当該層の全量を基準として40質量%以下であると、複合酸化物を含有する層の機能(例えば、層自体の強度、密着強度やシール強度等)の低下を十分に抑制することができる。
【0016】
上記全固体電池用外装材は、上記バリア層と、上記シーラント層との間に接着層をさらに備え、上記接着層及び/又は上記シーラント層は、複数の層により構成されており、当該複数の層のうち少なくとも一層が上記複合酸化物を含有してもよい。
【0017】
上記全固体電池用外装材は、上記バリア層の一方又は両方の面に腐食防止処理層を備えてもよい。この場合、腐食防止処理層によって、外装材の信頼性をより長期間にわたり維持することができる。
【0018】
本開示はまた、電池要素と、上記電池要素を収容する、上記本開示の全固体電池用外装材と、を備える全固体電池を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、水分バリア性及び硫化水素吸収性が優れる全固体電池用外装材及びそれを用いた全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示の一実施形態に係る全固体電池用外装材の概略断面図である。
図2】本開示の一実施形態に係る全固体電池用外装材の概略断面図である。
図3】本開示の一実施形態に係る全固体電池用外装材の概略断面図である。
図4】本開示の一実施形態に係る全固体電池の斜視図である。
図5】実施例及び比較例におけるヒートシール強度測定用サンプルの作製方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を適宜参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0022】
[全固体電池用外装材]
図1は、本開示の全固体電池用外装材の一実施形態を概略的に表す断面図である。図1に示すように、本実施形態の外装材(全固体電池用外装材)10は、基材層11と、該基材層11の一方の面側に設けられた第1の接着剤層12aと、該第1の接着剤層12aの基材層11とは反対側に設けられた、両面に第1及び第2の腐食防止処理層14a,14bを有するバリア層13と、該バリア層13の第1の接着剤層12aとは反対側に設けられた第2の接着剤層12bと、該第2の接着剤層12bのバリア層13とは反対側に設けられたシーラント層16と、が積層された積層体である。ここで、第1の腐食防止処理層14aはバリア層13の基材層11側の面に、第2の腐食防止処理層14bはバリア層13のシーラント層16側の面に、それぞれ設けられている。外装材10において、基材層11が最外層、シーラント層16が最内層である。すなわち、外装材10は、基材層11を全固体電池の外部側、シーラント層16を全固体電池の内部側に向けて使用される。以下、外装材10を構成する各層について具体的に説明する。
【0023】
<基材層11>
基材層11は、全固体電池を製造する際のシール工程における耐熱性を付与し、成型加工や流通の際に起こりうるピンホールの発生を抑制する役割を果たす。特に大型用途の全固体電池の外装材の場合等は、耐擦傷性、耐薬品性、絶縁性等も付与できる。
【0024】
基材層11は、絶縁性を有する樹脂により形成された層であることが好ましい。樹脂としてはポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルフォン樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アリル樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、アセチルセルロース樹脂等を使用することができる。
【0025】
これらの樹脂の中でも、基材層11としては、成型性に優れることから、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂が好ましい。ポリエステル樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリアミド樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6とナイロン6,6との共重合体、ナイロン6,ナイロン9T、ナイロン10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)、ナイロン11、ナイロン12等が挙げられる。
【0026】
基材層11は、延伸又は未延伸のフィルム形態でも、コーティング被膜としての形態のどちらでも構わない。また。基材層11は単層でも多層でもよく、多層の場合は異なる樹脂を組み合わせて使用できる。基材層11がフィルムである場合には、基材層11としては、複数の層を共押し出ししたもの、もしくは複数の層を、接着剤を介して積層したものが使用できる。基材層11がコーティング被膜である場合は、基材層11としては、コーティング液を積層回数分コーティングしてなるものが使用でき、フィルムとコーティング被膜を組み合わせて多層としたものを使用することもできる。
【0027】
これらの樹脂をフィルム形態で使用する場合は、基材層11は二軸延伸フィルムであることが好ましい。基材層11が二軸延伸フィルムである場合における延伸方法としては、例えば、逐次二軸延伸法、チューブラー二軸延伸法、同時二軸延伸法等が挙げられる。二軸延伸フィルムは、より優れた深絞り成型性が得られる観点から、チューブラー二軸延伸法により延伸されたものであることが好ましい。
【0028】
基材層11の厚さは、6~40μmであることが好ましく、10~30μmであることがより好ましい。基材層11の厚さが6μm以上であることにより、外装材10の耐ピンホール性及び絶縁性を向上できる傾向がある。基材層11の厚さが40μm以下とすることにより、外装材10の総厚を小さくすることができる。
【0029】
基材層11の融点は、シール時の基材層11の変形を抑制するため、シーラント層16の融点より高く、さらにはシーラント層16の融点よりも30℃以上高いことが好ましい。
【0030】
<第1の接着剤層12a>
第1の接着剤層12aは、基材層11とバリア層13とを接着する層である。第1の接着剤層12aを構成する材料としては、具体的には、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、カーボネートポリオールなどの主剤に対し、2官能以上のイソシアネート化合物(多官能イソシアネート化合物)を作用させたポリウレタン樹脂等が挙げられる。上述した各種ポリオールは、外装材10に求められる機能や性能に応じて、単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、第1の接着剤層12aを構成する材料としては、上記以外にもエポキシ樹脂を主剤として、硬化剤を配合したものなども使用可能であるが、第1の接着剤層12aを構成する材料は、これに限らない。また、第1の接着剤層12aを構成する材料は、第1の接着剤層12aに求められる性能に応じて、安定剤等の各種添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0031】
第1の接着剤層12aの厚さは、特に限定されるものではないが、所望の接着強度、追随性、及び加工性等を得る観点から、例えば、1~10μmが好ましく、2~7μmがより好ましい。
【0032】
<バリア層13>
バリア層13は、水分が全固体電池の内部に浸入することを防止する水蒸気バリア性を有する。また、バリア層13は、深絞り成型をするために延展性を有していてもよい。バリア層13としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、銅等の各種金属箔、あるいは、金属蒸着膜、無機酸化物蒸着膜、炭素含有無機酸化物蒸着膜、これらの蒸着膜を設けたフィルムなどを用いることができる。蒸着膜を設けたフィルムとしては、例えば、アルミニウム蒸着フィルム、無機酸化物蒸着フィルムを使用することができる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。バリア層13としては、質量(比重)、防湿性、加工性及びコストの面から、金属箔が好ましく、アルミニウム箔がより好ましい。
【0033】
アルミニウム箔としては、所望の成型時の延展性を付与できる点から、特に焼鈍処理を施した軟質アルミニウム箔を好ましく用いることができるが、さらなる耐ピンホール性、及び成型時の延展性を付与させる目的で、鉄を含むアルミニウム箔を用いるのがより好ましい。アルミニウム箔中の鉄の含有量は、アルミニウム箔100質量%中、0.1~9.0質量%が好ましく、0.5~2.0質量%がより好ましい。鉄の含有量が0.1質量%以上であることにより、より優れた耐ピンホール性及び延展性を有する外装材10を得ることができる。鉄の含有量が9.0質量%以下であることにより、より柔軟性に優れた外装材10を得ることができる。アルミニウム箔としては、未処理のアルミニウム箔を用いてもよいが、耐腐食性を付与する点で脱脂処理を施したアルミニウム箔を用いることが好ましい。アルミニウム箔に脱脂処理を施す場合は、アルミニウム箔の片面のみに脱脂処理を施してもよく、両面に脱脂処理を施してもよい。
【0034】
バリア層13の厚さは、特に限定されるものではないが、バリア性、耐ピンホール性、加工性を考慮して9~200μmとすることが好ましく、15~100μmとすることがより好ましい。
【0035】
<第1及び第2の腐食防止処理層14a,14b>
第1及び第2の腐食防止処理層14a,14bは、バリア層13を構成する金属箔(金属箔層)等の腐食を防止するために設けられる層である。また、第1の腐食防止処理層14aは、大気中に含まれる腐食性ガスによるバリア層13の腐食を防ぐと共に、バリア層13と第1の接着剤層12aとの密着力を高める役割を果たす。また、第2の腐食防止処理層14bは、電池内部から発生するガスによるバリア層13の腐食を防ぐと共に、バリア層13と第2の接着剤層12bとの密着力を高める役割を果たす。第1及び第2の腐食防止処理層14a,14bによって、外装材10の信頼性をより長期間にわたり維持することができる。第1の腐食防止処理層14a及び第2の腐食防止処理層14bは、同一の構成の層であってもよく、異なる構成の層であってもよい。第1及び第2の腐食防止処理層14a,14b(以下、単に「腐食防止処理層14a,14b」ともいう)は、例えば、バリア層13を構成する金属箔に対して脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理、あるいはこれらの処理の組み合わせにより形成される。
【0036】
脱脂処理としては、酸脱脂及びアルカリ脱脂が挙げられる。酸脱脂としては、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸などの無機酸を単独で使用する方法、又はこれらの混合液を使用する方法などが挙げられる。また、酸脱脂として、一ナトリウム二フッ化アンモニウムなどのフッ素含有化合物を上記無機酸で溶解させた酸脱脂剤を用いる処理を行うことが好ましい。この処理によれば、特にバリア層13にアルミニウム箔を用いた場合に、アルミニウムの脱脂効果が得られるだけでなく、不動態であるアルミニウムのフッ化物を形成させることができる。このため、この処理は耐腐食性という点で有効である。アルカリ脱脂としては、水酸化ナトリウムなどを使用する方法が挙げられる。
【0037】
熱水変成処理としては、例えば、トリエタノールアミンを添加した沸騰水中にアルミニウム箔を浸漬処理するベーマイト処理が挙げられる。陽極酸化処理としては、例えば、アルマイト処理が挙げられる。
【0038】
化成処理としては、浸漬型、塗布型が挙げられる。浸漬型の化成処理としては、例えばクロメート処理、セリアゾル処理、ジルコニウム処理、チタニウム処理、バナジウム処理、モリブデン処理、リン酸カルシウム処理、水酸化ストロンチウム処理、セリウム処理、ルテニウム処理、あるいはこれらの混合相からなる各種化成処理が挙げられる。一方、塗布型の化成処理としては、腐食防止性能を有するコーティング剤をバリア層13上に塗布する方法が挙げられる。
【0039】
これら腐食防止処理のうち、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理のいずれかで腐食防止処理層の少なくとも一部を形成する場合は、事前に上述した脱脂処理を行うことが好ましい。なお、バリア層13として焼鈍工程を通した金属箔など脱脂処理済みの金属箔を用いる場合は、腐食防止処理層14a,14bの形成において改めて脱脂処理する必要はない。
【0040】
塗布型の化成処理に用いられるコーティング剤は、好ましくは3価クロムを含有する。また、コーティング剤には、後述するカチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種のポリマーが含まれていてもよい。
【0041】
また、上記処理のうち、特に熱水変成処理、陽極酸化処理では、処理剤によってアルミニウム箔表面を溶解させ、耐腐食性に優れるアルミニウム化合物(ベーマイト、アルマイト)を形成させる。そのため、アルミニウム箔を用いたバリア層13から腐食防止処理層14a,14bまで共連続構造を形成した形態が得られるので、上記処理は化成処理の定義に包含される。一方、後述するように化成処理の定義に含まれない、純粋なコーティング手法のみで腐食防止処理層14a,14bを形成することも可能である。この方法としては、例えば、アルミニウムの腐食防止効果(インヒビター効果)を有し、且つ、環境側面的にも好適な材料として、平均粒径100nm以下の酸化セリウムのような希土類元素酸化物のゾルを用いる方法が挙げられる。この方法を用いることで、一般的なコーティング方法でも、アルミニウム箔などの金属箔に腐食防止効果を付与することが可能となる。
【0042】
上記希土類元素酸化物のゾルとしては、例えば、水系、アルコール系、炭化水素系、ケトン系、エステル系、エーテル系などの各種溶媒を用いたゾルが挙げられる。中でも、水系のゾルが好ましい。
【0043】
上記希土類元素酸化物のゾルには、通常その分散を安定化させるために、硝酸、塩酸、リン酸などの無機酸又はその塩、酢酸、りんご酸、アスコルビン酸、乳酸などの有機酸が分散安定化剤として用いられる。これらの分散安定化剤のうち、特にリン酸は、外装材10において、(1)ゾルの分散安定化、(2)リン酸のアルミキレート能力を利用したバリア層13との密着性の向上、(3)アルミニウムイオンを捕獲(不動態形成)することよる腐食耐性の付与、(4)低温でもリン酸の脱水縮合を起こしやすいことによる腐食防止処理層(酸化物層)14a,14bの凝集力の向上などが期待される。
【0044】
上記希土類元素酸化物ゾルにより形成される腐食防止処理層14a,14bは、無機粒子の集合体であるため、乾燥キュアの工程を経ても層自身の凝集力が低くなるおそれがある。そこで、この場合の腐食防止処理層14a,14bは、凝集力を補うために、アニオン性ポリマー、又はカチオン性ポリマーにより複合化されていることが好ましい。
【0045】
腐食防止処理層14a,14bは、前述した層には限定されない。例えば、公知技術である塗布型クロメートのように、樹脂バインダー(アミノフェノールなど)にリン酸とクロム化合物を配合した処理剤を用いて形成してもよい。この処理剤を用いれば、腐食防止機能と密着性の両方を兼ね備えた層とすることができる。また、塗液の安定性を考慮する必要があるものの、希土類元素酸化物ゾルとポリカチオン性ポリマーあるいはポリアニオン性ポリマーとを事前に一液化したコーティング剤を使用して腐食防止処理層14a,14bを腐食防止機能と密着性の両方を兼ね備えた層とすることができる。
【0046】
腐食防止処理層14a,14bの単位面積当たりの質量は、多層構造、単層構造いずれであっても、0.005~0.200g/mが好ましく、0.010~0.100g/mがより好ましい。上記単位面積当たりの質量が0.005g/m以上であれば、バリア層13に腐食防止機能を付与しやすい。また、上記単位面積当たりの質量が0.200g/mを超えても、腐食防止機能はあまり変らない。一方、希土類元素酸化物ゾルを用いた場合には、塗膜が厚いと乾燥時の熱によるキュアが不十分となり、凝集力の低下を伴うおそれがある。なお、腐食防止処理層14a,14bの厚さについては、その比重から換算できる。
【0047】
腐食防止処理層14a,14bは、シーラント層とバリア層との密着性を保持しやすくなる観点から、例えば、酸化セリウムと、該酸化セリウム100質量部に対して1~100質量部のリン酸又はリン酸塩と、カチオン性ポリマーと、を含む態様であってもよく、バリア層13に化成処理を施して形成されている態様であってもよく、バリア層13に化成処理を施して形成されており、且つ、カチオン性ポリマーを含む態様であってもよい。
【0048】
<第2の接着剤層12b>
第2の接着剤層12bは、バリア層13とシーラント層16とを接着する層である。第2の接着剤層12bには、バリア層13とシーラント層16とを接着するための一般的な接着剤を用いることができる。
【0049】
バリア層13上に腐食防止処理層14bが設けられており、且つ、第2の腐食防止処理層14bが上述したカチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種のポリマーを含む層を有する場合、第2の接着剤層12bは、第2の腐食防止処理層14bに含まれる上記ポリマーと反応性を有する化合物(以下、「反応性化合物」とも言う)を含む層であることが好ましい。
【0050】
例えば、第2の腐食防止処理層14bがカチオン性ポリマーを含む場合、第2の接着剤層12bはカチオン性ポリマーと反応性を有する化合物を含む。第2の腐食防止処理層14bがアニオン性ポリマーを含む場合、第2の接着剤層12bはアニオン性ポリマーと反応性を有する化合物を含む。また、第2の腐食防止処理層14bがカチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーを含む場合、第2の接着剤層12bはカチオン性ポリマーと反応性を有する化合物と、アニオン性ポリマーと反応性を有する化合物とを含む。ただし、第2の接着剤層12bは必ずしも上記2種類の化合物を含む必要はなく、カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーの両方と反応性を有する化合物を含んでいてもよい。ここで、「反応性を有する」とは、カチオン性ポリマー又はアニオン性ポリマーと共有結合を形成することである。また、第2の接着剤層12bは、酸変性ポリオレフィン樹脂をさらに含んでいてもよい。
【0051】
カチオン性ポリマーと反応性を有する化合物としては、多官能イソシアネート化合物、グリシジル化合物、カルボキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0052】
多官能イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート又はその水素添加物、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’ジフェニルメタンジイソシアネート又はその水素添加物、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート類;あるいはこれらのイソシアネート類を、トリメチロールプロパン等の多価アルコールと反応させたアダクト体、水と反応させることで得られたビューレット体、あるいは三量体であるイソシアヌレート体等のポリイソシアネート類;あるいはこれらのポリイソシアネート類をアルコール類、ラクタム類、オキシム類等でブロック化したブロックポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0053】
グリシジル化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類と、エピクロルヒドリンを作用させたエポキシ化合物;グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール類と、エピクロルヒドリンを作用させたエポキシ化合物;フタル酸、テレフタル酸、シュウ酸、アジピン酸等のジカルボン酸と、エピクロルヒドリンとを作用させたエポキシ化合物等が挙げられる。
【0054】
カルボキシ基を有する化合物としては、例えば、脂肪族カルボン酸化合物、芳香族ジカルボン酸化合物、及びこれらの塩が挙げられる。また、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ(土類)金属塩を用いてもよい。
【0055】
オキサゾリン基を有する化合物としては、例えば、オキサゾリンユニットを2つ以上有する低分子化合物、イソプロペニルオキサゾリンのような重合性モノマーを用いる場合には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル等のアクリル系モノマーを共重合させたものが挙げられる。
【0056】
これらの中でも、カチオン性ポリマーとの反応性が高く、架橋構造を形成しやすい点で、多官能イソシアネート化合物が好ましい。
【0057】
アニオン性ポリマーと反応性を有する化合物としては、グリシジル化合物、オキサゾリン基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が挙げられる。これらグリシジル化合物、オキサゾリン基を有する化合物としては、カチオン性ポリマーを架橋構造にするための架橋剤として先に例示したグリシジル化合物、オキサゾリン基を有する化合物などが挙げられる。これらの中でも、アニオン性ポリマーとの反応性が高い点で、グリシジル化合物が好ましい。
【0058】
第2の接着剤層12bが酸変性ポリオレフィン樹脂を含む場合、反応性化合物は、酸変性ポリオレフィン樹脂中の酸性基とも反応性を有する(すなわち、酸性基と共有結合を形成する)ことが好ましい。これにより、第2の腐食防止処理層14bとの接着性がより高まる。加えて、酸変性ポリオレフィン樹脂が架橋構造となり、外装材10の耐溶剤性がより向上する。
【0059】
反応性化合物の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂中の酸性基に対し、等量から10倍等量であることが好ましい。反応性化合物の含有量が等量以上であれば、反応性化合物が酸変性ポリオレフィン樹脂中の酸性基と十分に反応する。一方、反応性化合物の含有量が10倍等量を超えると、酸変性ポリオレフィン樹脂との架橋反応としては十分飽和に達しているため、未反応物が存在し、各種性能の低下が懸念される。したがって、例えば、反応性化合物の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5~20質量部(固形分比)であることが好ましい。
【0060】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、酸性基をポリオレフィン樹脂に導入したものである。酸性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、酸無水物基などが挙げられ、無水マレイン酸基や(メタ)アクリル酸基などが特に好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、シーラント層16に用いる変性ポリオレフィン樹脂と同様のものを用いることができる。
【0061】
第2の接着剤層12bには、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤、脱水剤、結晶核剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0062】
第2の接着剤層12bは、硫化水素等の腐食性ガスや電解液が関与する場合のラミネート強度の低下を抑制する観点及び絶縁性の低下をさらに抑制する観点から、例えば、酸変性ポリオレフィンと、多官能イソシアネート化合物、グリシジル化合物、カルボキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物、及びカルボジイミド化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化剤と、を含むものであってもよい。なお、カルボジイミド化合物としては、例えば、N,N’-ジ-o-トルイルカルボジイミド、N,N’-ジフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’-ジオクチルデシルカルボジイミド、N-トリイル-N’-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,2-ジ-t-ブチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N’-フェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-トルイルカルボジイミドなどが挙げられる。
【0063】
また、第2の接着剤層12bを形成する接着剤として、例えば、水添ダイマー脂肪酸及びジオールからなるポリエステルポリオールと、ポリイソシアネートとを配合したポリウレタン系接着剤を用いることもできる。接着剤として、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、カーボネートポリオールなどの主剤に対し、二官能以上のイソシアネート化合物を作用させたポリウレタン樹脂やエポキシ基を有する主剤にアミン化合物などを作用させたエポキシ樹脂等が挙げられ、耐熱性の観点から好ましい。
【0064】
第2の接着剤層12bの厚さは、特に限定されるものではないが、所望の接着強度、及び加工性等を得る観点から、1~10μmが好ましく、2~7μmがより好ましい。
【0065】
<シーラント層16>
シーラント層16は、外装材10にヒートシールによる封止性を付与する層であり、全固体電池の組み立て時に内側に配置されてヒートシール(熱融着)される層である。
【0066】
シーラント層16としては、ポリオレフィン系樹脂又はポリエステル系樹脂からなる樹脂フィルムが挙げられる。これらのシーラント層16を構成する樹脂(以下、「ベース樹脂」とも言う)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度、中密度又は高密度のポリエチレン;エチレン-αオレフィン共重合体;ポリプロピレン;プロピレンを共重合成分として含むブロック又はランダム共重合体;ポリブテン;及び、プロピレン-αオレフィン共重合体等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は、耐熱性及び柔軟性の観点から、ポリプロピレンが好ましく、ブロックポリプロピレンがより好ましい。
【0068】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリブチレンナフタレート(PBN)樹脂、及び、それらの共重合体等が挙げられる。
【0069】
シーラント層16は、ポリオレフィン系エラストマーを含んでいてもよい。ポリオレフィン系エラストマーは、上述したベース樹脂に対して相溶性を有するものであっても、相溶性を有さないものであってもよいが、相溶性を有する相溶系ポリオレフィン系エラストマーと、相溶性を有さない非相溶系ポリオレフィン系エラストマーの両方を含んでいてもよい。相溶性を有する(相溶系)とは、ベース樹脂中に分散相サイズ1nm以上500nm未満で分散することを意味する。相溶性を有さない(非相溶系)とは、ベース樹脂中に分散相サイズ500nm以上20μm未満で分散することを意味する。
【0070】
ベース樹脂がポリプロピレン系樹脂である場合、相溶系ポリオレフィン系エラストマーとしては、例えば、プロピレン-ブテン-1ランダム共重合体が挙げられ、非相溶系ポリオレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン-ブテン-1ランダム共重合体が挙げられる。ポリオレフィン系エラストマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
また、シーラント層16は、添加成分として、例えば、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、脱水剤、粘着性付与剤、結晶核剤等を含んでいてもよい。これらの添加成分の含有量は、シーラント層16の全質量を100質量部とした場合、5質量部以下であることが好ましい。
【0072】
シーラント層16の厚さは、特に限定されるものではないが、薄膜化と高温環境下でのヒートシール強度の向上とを両立する観点から、20~200μmの範囲であることが好ましく、30~150μmの範囲であることがより好ましく、40~100μmの範囲であることが更に好ましい。
【0073】
シーラント層16は、単層フィルム及び多層フィルムのいずれであってもよく、必要とされる機能に応じて選択すればよい。
【0074】
<複合酸化物>
本実施形態の外装材10を構成する層のうちの少なくとも一層は、2価の金属及び3価の金属を含む複合酸化物を含有する。以下、この複合酸化物を「複合酸化物X」ともいう。
【0075】
複合酸化物Xは、2価の金属として、Zn、Mg、Ca、Ni、Co、Fe、Ba、Mn及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むものであってよい。2価の金属は、外装材10の硫化水素の吸収性がより優れる観点から、Zn、Mg、Fe及びMnからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、少なくともZnを含むことがより好ましい。3価の金属は、複合酸化物Xを安定して作製しやすい観点から、Alであることが好ましい。
【0076】
複合酸化物Xは、外装材10の水分バリア性及び硫化水素吸収性がより優れる観点から、下記一般式(1)で表されることが好ましい。複合酸化物Xが一般的(1)で表される構造を有することは、XRD(X線回折)等により確認することができる。
(M 1-y1-x 1+x/2 (1)
[式(1)中、Mは、Zn、Mg、Ca、Ni、Co、Fe、Ba、Mn及びCuからなる群より選ばれる2価の金属を示し、Mは、Zn、Mg、Ca、Ni、Co、Fe、Ba、Mn及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一種の2価の金属であり、Mとは異なる金属を示し、Mは、Al、Cr、Ga及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一種の3価の金属を示し、xは、0.2<x≦0.4を満たし、yは、0.25≦y≦1を満たす。]
【0077】
は、外装材10の硫化水素吸収性がより優れる観点から、Zn、Mg、Ca、Ni、及びCuからなる群より選ばれる2価の金属であることが好ましく、Zn及びMgからなる群より選ばれる2価の金属であることがより好ましい。Mは、外装材10の硫化水素吸収性がより優れる観点から、Zn、Mg、Ca、Ni、及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一種の2価の金属であることが好ましく、Zn及びMgからなる群より選ばれる2価の金属であることがより好ましい。Mは、式(1)で表される複合酸化物Xを安定して作製しやすい観点から、Al及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一種の3価の金属であることが好ましく、Alであることがより好ましい。
【0078】
式(1)において、Mは、外装材10の硫化水素吸収性がより優れる観点から、Znであることが好ましい。すなわち、複合酸化物Xは、以下の一般式(2)で表されることが好ましい。
(Zn 1-y1-x 1+x/2 (2)
[式(2)中、Mは、Mg、Ca、Ni、Co、Fe、Ba、Mn及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一種の2価の金属を示し、Mは、Al、Cr、Ga及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一種の3価の金属を示し、xは、0.2<x≦0.4を満たし、yは、0.25≦y≦1を満たす。]
【0079】
また、式(1)においてMがZnであるとき、外装材10の硫化水素吸収性がより一層優れる観点から、y=1であることが好ましい。すなわち、複合酸化物Xは、以下の一般式(3)で表されることが好ましい。
Zn1-x 1+x/2 (3)
[式(3)中、Mは、Al、Cr、Ga及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一種の3価の金属を示し、xは、0.2<x≦0.4を満たす。]
【0080】
式(1)~(3)において、xは、0.2<x<0.34であってもよい。
【0081】
複合酸化物Xの平均長径は、表面積が大きくなり、硫化水素及び水分の吸収性がより優れる観点から、30μm以下、20μm以下、15μm以下、10μm以下、5μm以下、又は3μm以下であってもよい。特に、複合酸化物Xがシーラント層16に含まれており且つ複合酸化物Xの平均長径が20μm以下であると、シーラント層16が平滑な層となりやすく、ヒートシールしやすくなる。複合酸化物Xの平均長径は、複合酸化物Xの分散性が優れ、複合酸化物Xを含有する層の機能(例えば、密着強度やシール強度等)の低下を抑制し易い観点から、0.01μm以上、0.05μm以上、0.1μm以上、0.5μm以上、又は1μm以上であってもよい。特に、複合酸化物Xの平均長径が0.01μm以上であると、複合酸化物Xが均一に分散されやすくなる。複合酸化物Xの平均長径は、0.01~30μm、0.01~20μm、0.1~15μm、又は0.5~5μmであってもよい。複合酸化物Xの長径は、電子顕微鏡で観察される複合酸化物を横切る線のうち最も長い線の長さを意味する。複合酸化物Xの平均長径は、電子顕微鏡により測定される100個の複合酸化物Xの長径の平均値を意味する。
【0082】
複合酸化物Xを含有する層の厚さに対する複合酸化物Xの平均長径の比率(複合酸化物Xの平均長径/複合酸化物Xを含有する層の厚さ)は、複合酸化物Xを含有する層の機能(例えば、密着強度やシール強度等)の低下を抑制し易い観点から、0.5以下であってもよく、0.3以下が好ましく、0.1以下がより好ましい。複合酸化物Xを含有する層の厚さに対する複合酸化物Xの平均長径の比率は、複合酸化物Xの分散性が優れ、硫化水素及び水分の吸収性がより優れる観点から、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。
【0083】
複合酸化物Xは、例えば、2価の金属及び3価の金属を含むハイドロタルサイトを300~1200℃で1~10時間焼成することにより得ることができる。より具体的には、下記一般式(4)で表されるハイドロタルサイトを300~1200℃で1~10時間焼成することにより得ることができる。以下、一般式(4)で表されるハイドロタルサイトを「ハイドロタルサイトX」ともいう。
(M 1-y1-x (OH)(An)x/n・mHO (4)
[式(4)中、Mは、Zn、Mg、Ca、Ni、Co、Fe、Ba、Mn及びCuからなる群より選ばれる2価の金属を示し、Mは、Zn、Mg、Ca、Ni、Co、Fe、Ba、Mn及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一種の2価の金属であり、Mとは異なる金属を示し、Mは、Al、Cr、Ga及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一種の3価の金属を示し、Anは、n価のアニオンを示し、xは、0.2<x≦0.4を満たし、yは、0.25≦y≦1を満たし、mは、1~10の整数を示す。]
【0084】
ハイドロタルサイトXのアニオンAnとしては、OH、Cl、CO 2-、SO 2-等が挙げられる。
【0085】
複合酸化物Xが式(2)で表される場合、複合酸化物Xは、下記一般式(5)で表されるハイドロタルサイトを300~1200℃で1~10時間焼成することにより得ることができる。
(Zn 1-y1-x (OH)(An)x/n・mHO (5)
[式(5)中、Mは、Mg、Ca、Ni、Co、Fe、Ba、Mn及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一種の2価の金属を示し、Mは、Al、Cr、Ga及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一種の3価の金属を示し、Anは、n価のアニオンを示し、xは、0.2<x≦0.4を満たし、yは、0.25≦y≦1を満たし、mは、1~10の整数を示す。]
【0086】
ハイドロタルサイトXは、公知の方法により作製することができる。ハイドロタルサイトXは、例えば、金属塩水溶液に炭酸塩水溶液を加え第一の水溶液を得る工程と、第一の水溶液を反応させて反応物を含む第二の水溶液を得る工程と、反応物を乾燥させる工程と、を含む製造方法により作製することができる。より具体的には、後述の実施例に記載の方法により作製することができる。
【0087】
複合酸化物Xは、そのまま用いてもよいが、樹脂や接着剤に対して分散しやすいように既知の方法(金属石鹸等の表面処理剤を用いる方法)で表面処理された状態で用いられてもよい。
【0088】
複合酸化物Xは、水分を吸着することにより、ハイドロタルサイトXに移行する。すなわち、複合酸化物Xが水分を吸着することにより、複合酸化物Xを含有する層は、ハイドロタルサイトXを含有し得る。複合酸化物XがハイドロタルサイトXに移行した場合、ハイドロタルサイトXから吸着した水分を再放出するには300℃以上で加熱する必要がある。一方、全固体電池の通常の使用であれば100℃程度にしかならない。このため、複合酸化物Xを用いることにより水分の再放出を抑制することができる。
【0089】
水分の吸着に伴う複合酸化物XからハイドロタルサイトXへの移行は、完全可逆反応ではないため、水分を吸着しても複合酸化物Xの一部は式(1)で表される構造を維持する。複合酸化物Xを含有する層において、複合酸化物Xは、ハイドロタルサイトXの総量に対して、1質量%以上であってもよい。
【0090】
複合酸化物Xは、その構造中の金属元素(例えば、Zn)が硫化水素を吸着することができる。複合酸化物Xが硫化水素を吸着し、化学反応により水分を発生したとしても、複合酸化物Xが発生した水分を吸着するため、再放出される水分と硫化物系固体電解質との反応により硫化水素が再度発生することを抑制することができる。
【0091】
複合酸化物Xを含有する層におけるハイドロタルサイトXの含水率は、完全に水和したときのハイドロタルサイトXの質量を基準として、60質量%以下、50質量%、又は40質量%以下であってもよい。
【0092】
外装材10において、複合酸化物Xは、第2の接着剤層12b及びシーラント層16の少なくとも一方に含有されていてもよい。この場合、複合酸化物Xがバリア層13に対してシーラント層16側の層に含まれるため、バリア層13を超えて水分が通過しても、その水分を吸収することができるとともに、外装材10のシーラント層16側から硫化水素が侵入しても、硫化水素が複合酸化物Xと接触し易く、複合酸化物Xが硫化水素を速やかに吸着できる。複合酸化物Xは少なくともシーラント層16に含有されることが好ましい。この場合、外装材10における最も内側の層がシーラント層16であり、外装材10内部で発生した硫化水素が複合酸化物Xとより接触し易く、複合酸化物Xが硫化水素をより速やかに吸着できる。第2の接着剤層12b及び/又はシーラント層16がそれぞれ複数の層により構成されている場合、複合酸化物Xは、複数の層のうちの一層にのみ含有されていてもよく、2層以上に含有されていてもよい。
【0093】
複合酸化物Xは、水分と硫化水素の両方を吸着することができるため、水分吸着物質と硫化水素吸着物質とを併用する場合と比べて、複合酸化物Xの含有量が少量であっても優れた水分バリア性及び硫化水素吸収性を発揮することができる。また、水分吸着物質と硫化水素吸着物質とを併用する場合と比べて、複合酸化物Xの含有量が少量であっても優れた水分バリア性及び硫化水素吸収性を発揮することができることから、層の機能(例えば、密着強度やシール強度等)の低下を抑制し易い。
【0094】
複合酸化物Xを含有する層における複合酸化物Xの含有量は、外装材10の水分バリア性及び硫化水素吸収性がより優れる観点から、当該層全量を基準(100質量%)として0.5質量%以上、1質量%以上、2.5質量%以上、又は5質量%以上であってもよい。特に、複合酸化物Xの含有量が1質量%以上であることが好ましい。複合酸化物Xを含有する層における複合酸化物Xの含有量は、複合酸化物Xを含有する層の機能(例えば、層自体の強度、密着強度やシール強度等)の低下を抑制し易い観点から、当該層全量を基準として50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、又は8質量%以下であってもよい。特に、複合酸化物Xの含有量が40質量%以下であることが好ましい。複合酸化物Xを含有する層における複合酸化物Xの含有量は、当該層全量を基準として0.5~50質量%、1~40質量%、又は1~20質量%であってもよい。複合酸化物Xを含有する層が複数の層により構成されている場合、複合酸化物Xの含有量は、当該複数の層の合計量を基準として上記の範囲内であってもよい。
【0095】
複合酸化物Xを含有する層における複合酸化物XとハイドロタルサイトXの合計の含有量は、水分バリア性及び硫化水素吸収性がより優れる観点から、当該層全量を基準として0.5質量%以上、1質量%以上、2.5質量%以上、又は5質量%以上であってもよい。複合酸化物Xを含有する層における複合酸化物XとハイドロタルサイトXの合計の含有量は、複合酸化物Xを含有する層の機能(例えば、密着強度やシール強度等)の低下を抑制し易い観点から、当該層全量を基準として50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、又は8質量%以下であってもよい。複合酸化物Xを含有する層における複合酸化物XとハイドロタルサイトXの合計の含有量は、0.5~50質量%、1~40質量%、又は1~20質量%であってもよい。
【0096】
複合酸化物Xを含有する層には、複合酸化物Xの分散性を向上させる観点から、分散剤を添加してもよい。複合酸化物Xを分散剤と併用することで、層内での複合酸化物Xの分散性を高めることができ、硫化水素及び水分を効率的に吸着することができると共に、複合酸化物Xを含有する層の機能(例えば、密着強度やシール強度等)の低下を抑制し易い。分散剤としては、例えばステアリン酸亜鉛等の金属石鹸が用いられる。複合酸化物Xの分散性を高める観点から、複合酸化物Xを含む組成物(樹脂)が室温で液状である場合、ビーズミル等の分散装置を用いることが好ましい。複合酸化物Xを含む組成物(樹脂)が室温で固体状である場合、組成物を溶融させながら分散する混錬機等の分散装置を用いて、複合酸化物Xを分散させることが好ましい。また、複合酸化物Xを分散させる場合、予め複合酸化物Xを高濃度で含むマスターバッチを作製したのち、所定の濃度になるように、マスターバッチと複合酸化物Xを含まない樹脂とを混合し、得られた混合物において複合酸化物Xを分散させてもよい。
【0097】
図1では、バリア層13の両面に腐食防止処理層14a,14bが設けられている場合を示したが、腐食防止処理層14a,14bのいずれか一方のみが設けられていてもよい。
【0098】
図1では、第2の接着剤層12bを接着層としてバリア層13とシーラント層16とが積層されている場合を示したが、図2に示す全固体電池用外装材20のように、接着性樹脂層15が接着層としてバリア層13とシーラント層16との間に積層されていてもよい。また、図2に示す全固体電池用外装材20において、バリア層13と接着性樹脂層15との間に第2の接着剤層12bをさらに設けてもよい。
【0099】
<接着性樹脂層15>
接着性樹脂層15は、主成分となる接着性樹脂組成物と必要に応じて添加剤成分とを含んで概略構成されている。接着性樹脂組成物は、特に制限されないが、バリア層13との密着性を向上させる観点から、変性ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましい。
【0100】
変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸、並びにその酸無水物及びエステルのいずれかから導かれる不飽和カルボン酸誘導体により、グラフト変性されたポリオレフィン樹脂であることが好ましい。
【0101】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、及びプロピレン-αオレフィン共重合体等が挙げられる。
【0102】
変性ポリオレフィン樹脂は、バリア層13と接着性樹脂層15との間で優れた密着性が得られる観点から、無水マレイン酸により変性されたポリオレフィン樹脂であることが好ましい。変性ポリオレフィン樹脂には、例えば、三井化学株式会社製の「アドマー」、三菱化学株式会社製の「モディック」、東洋紡株式会社製の「トーヨータック」、三洋化成工業株式会社製の「サンスタック」などが適している。このような変性ポリオレフィン樹脂は、各種金属及び各種官能基を有するポリマーとの反応性に優れるため、該反応性を利用して接着性樹脂層15に密着性を付与することができる。また、接着性樹脂層15は、必要に応じて、例えば、各種相溶系及び非相溶系の、エラストマー、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、脱水剤、結晶核剤並びに粘着付与剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【0103】
接着性樹脂層15の厚さは、特に限定されないが、1~30μmであることが好ましい。接着性樹脂層15の厚さが1μm以上であると、十分な接着性が得られる。接着性樹脂層15の厚さが30μm以下であると、外装材10の総厚が小さくなり、外装材10を用いて電池を作製したときの電池の体積エネルギー密度の低下を抑制することができる。バリア層13に対して第2の腐食防止処理層14bを介して接着性樹脂層15がドライラミネート法により貼り付けられる場合には、接着性樹脂層15の厚さは、1~10μmであることが好ましい。バリア層13に対して第2の腐食防止処理層14bを介して接着性樹脂層15が押出し法により貼り付けられる場合には、接着性樹脂層15の厚さは、5~30μmであることが好ましい。接着性樹脂層15の厚さは、応力緩和や水分透過の観点から、シーラント層16と同じ又はそれ未満であってもよい。
【0104】
シーラント層16の厚さは、特に限定されないが、10~150μmであることが好ましい。シーラント層16の厚さが10μm以上であると、十分なシール強度が得られる。シーラント層16の厚さが150μm以下であると、外装材10の総厚が小さくなり、外装材10を用いて電池を作製したときの電池の体積エネルギー密度の低下を抑制することができる。シーラント層16の厚さは、10~120μmであることがより好ましく、20~100μmであることが特に好ましい。
【0105】
また、全固体電池用外装材20においては、接着性樹脂層15及びシーラント層16の合計の厚さは、薄膜化と高温環境下でのヒートシール強度の向上とを両立する観点から、5~180μmの範囲であることが好ましく、10~120μmの範囲であることがより好ましく、20~100μmの範囲であることがより一層好ましい。
【0106】
外装材20において、複合酸化物Xは、外装材20を構成する層のうちの少なくとも一層に含有されている。複合酸化物Xは、接着性樹脂層15に含有されていてもよい。外装材20において、複合酸化物Xは、接着性樹脂層15及びシーラント層16からなる群より選択される少なくとも一層に含有されていてよい。
【0107】
また、本開示の外装材は、図3に示す全固体電池用外装材30のように、基材層11のバリア層13側とは反対側の面上に配置された保護層17を更に備えていてもよい。なお、図3において、接着性樹脂層15は、第2の接着剤層12bであってもよい。
【0108】
<保護層17>
保護層17は、基材層11を保護する層である。保護層17を構成する材料としては、第1の接着剤層12aと同様の材料を用いることができる。保護層17は、基材層11上にコーティング等により形成することができる。
【0109】
外装材30において、複合酸化物Xは、外装材30を構成する層のうちの少なくとも一層に含有されている。複合酸化物Xは、保護層17にも含有されていてもよい。
【0110】
[外装材の製造方法]
次に、図1に示す外装材10の製造方法の一例について説明する。なお、外装材10の製造方法は以下の方法に限定されない。
【0111】
本実施形態の外装材10の製造方法は、バリア層13に腐食防止処理層14a,14bを設ける工程と、第1の接着剤層12aを用いて基材層11とバリア層13とを貼り合わせる工程と、第2の接着剤層12bを介してシーラント層16をさらに積層して積層体を作製する工程と、必要に応じて、得られた積層体をエージング処理する工程とを含んで概略構成されている。
【0112】
(バリア層13への腐食防止処理層14a,14bの積層工程)
本工程は、バリア層13に対して、腐食防止処理層14a,14bを形成する工程である。その方法としては、上述したように、バリア層13に脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理を施したり、腐食防止性能を有するコーティング剤を塗布したりする方法などが挙げられる。
【0113】
また、腐食防止処理層14a,14bが多層の場合、腐食防止処理層14a,14bは、例えば、下層側(バリア層13側)の腐食防止処理層を構成する塗布液(コーティング剤)をバリア層13に塗布し、焼き付けて第一層を形成した後、上層側の腐食防止処理層を構成する塗布液(コーティング剤)を第一層に塗布し、焼き付けて第二層を形成し、これを繰り返すことにより形成することができる。
【0114】
脱脂処理は、スプレー法又は浸漬法にて行うことができる。熱水変成処理及び陽極酸化処理は、浸漬法にて行うことができる。化成処理は、化成処理のタイプに応じて、浸漬法、スプレー法、コート法等を適宜選択して行うことができる。
【0115】
腐食防止性能を有するコーティング剤のコート法については、グラビアコート、リバースコート、ロールコート、バーコート等の各種方法を用いることが可能である。
【0116】
上述したように、各種処理は、バリア層13を構成する金属箔の両面又は片面のどちらでも構わないが、片面処理の場合、その処理面はシーラント層16を積層する側に施すことが好ましい。なお、要求に応じて、基材層11の表面にも上記処理を施してもよい。
【0117】
また、第一層及び第二層を形成するためのコーティング剤の塗布量はいずれも、0.005~0.200g/m、又は0.010~0.100g/mであってもよい。
【0118】
また、乾燥キュアが必要な場合は、乾燥は、用いる腐食防止処理層14a,14bの乾燥条件に応じて、母材温度として60~300℃の範囲で行うことができる。
【0119】
(基材層11とバリア層13との貼り合わせ工程)
本工程は、腐食防止処理層14a,14bを設けたバリア層13と、基材層11とを、第1の接着剤層12aを介して貼り合わせる工程である。貼り合わせの方法としては、ドライラミネーション、ノンソルベントラミネーション、ウエットラミネーション等の手法を用い、上述した第1の接着剤層12aを構成する材料にて両者を貼り合わせる方法が挙げられる。第1の接着剤層12aは、ドライ塗布量として1~10g/mの範囲、又は2~7g/mの範囲で設けてもよい。
【0120】
(第2の接着剤層12b及びシーラント層16の積層工程)
本工程は、バリア層13の第2の腐食防止処理層14b側に、第2の接着剤層12bを介してシーラント層16を貼り合わせる工程である。貼り合わせの方法としては、ウェットプロセス、ドライラミネーション等が挙げられる。
【0121】
ウェットプロセスで貼り合わせを行う場合、第2の接着剤層12bは、第2の接着剤層12bを構成する接着剤の溶液又は分散液を、第2の腐食防止処理層14b上に塗工し、所定の温度で溶媒を飛ばして乾燥造膜を行い、必要に応じて焼き付け処理を行うことにより形成することができる。その後、シーラント層16を積層し、外装材10を製造する。第2の接着剤層12bを構成する接着剤の溶液又は分散液の塗工方法としては、先に例示した各種塗工方法が挙げられる。第2の接着剤層12bの好ましいドライ塗布量は、第1の接着剤層12aと同様である。
【0122】
この場合、シーラント層16は、例えば、上述したシーラント層16の構成成分を含有するシーラント層形成用樹脂組成物を用いて、Tダイを用いた溶融押出成形機により製造することができる。溶融押出成形機では、生産性の観点から、加工速度を80m/分以上とすることができる。
【0123】
シーラント層16が複合酸化物Xを含有する場合、シーラント層16を形成する際に、予めポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂と複合酸化物Xとを混合してマスターバッチを用意し、このマスターバッチを押出ラミネート等を行う際に上述したベース樹脂と混ぜ合わせてもよい。このとき、ベース樹脂としては、例えばマスターバッチに含まれる樹脂とMFR等の特性が同程度の樹脂が用いられる。また、上述した分散剤は、このマスターバッチを作製する際に、添加されてもよい。複合酸化物Xは、マスターバッチとして用いられることで、層内での複合酸化物Xの分散性を高めることができ、硫化水素及び水分を効率的に吸着することができると共に、複合酸化物Xを含有する層の機能(例えば、密着強度やシール強度等)の低下を抑制し易い。さらに、マスターバッチ中の複合酸化物Xの濃度は、例えば5~50質量%とすればよい。マスターバッチ中の複合酸化物Xの濃度が5質量%以上であると、マスターバッチにより複合酸化物Xをシーラント層16中に均一に分散させることができる。また、マスターバッチ中の複合酸化物Xの濃度が50質量%以下であると、押出時の混練で分散が十分に行われ、膜切れ等の不具合が発生しにくくなる。
【0124】
(エージング処理工程)
本工程は、積層体をエージング(養生)処理する工程である。積層体をエージング処理することで、バリア層13/第2の腐食防止処理層14b/第2の接着剤層12b/シーラント層16間の接着を促進させることができる。エージング処理は、室温~100℃の範囲で行うことができる。エージング時間は、例えば、1~10日である。
【0125】
このようにして、図1に示すような、本実施形態の外装材10を製造することができる。
【0126】
次に、図2に示す外装材20の製造方法の一例について説明する。なお、外装材20の製造方法は以下の方法に限定されない。
【0127】
本実施形態の外装材20の製造方法は、バリア層13に腐食防止処理層14a,14bを設ける工程と、第1の接着剤層12aを用いて基材層11とバリア層13とを貼り合わせる工程と、接着性樹脂層15及びシーラント層16をさらに積層して積層体を作製する工程と、必要に応じて、得られた積層体を熱処理する工程とを含んで概略構成されている。なお、基材層11とバリア層13とを貼り合わせる工程までは、上述した外装材10の製造方法と同様に行うことができる。
【0128】
(接着性樹脂層15及びシーラント層16の積層工程)
本工程は、先の工程により形成された第2の腐食防止処理層14b上に、接着性樹脂層15及びシーラント層16を形成する工程である。その方法としては、押出ラミネート機を用いて接着性樹脂層15をシーラント層16とともにサンドラミネーションする方法が挙げられる。さらには、接着性樹脂層15とシーラント層16とを押出すタンデムラミネート法、共押出法でも積層可能である。接着性樹脂層15及びシーラント層16の形成では、例えば、上述した接着性樹脂層15及びシーラント層16の構成を満たすように、各成分が配合される。シーラント層16の形成には、上述したシーラント層形成用樹脂組成物が用いられる。シーラント層16が複合酸化物Xを含有する場合、シーラント層16は、外装材10のシーラント層10と同様にして形成することができる。接着性樹脂層15が複合酸化物Xを含有する場合、接着性樹脂層15は、シーラント層16に用いるベース樹脂を、接着性樹脂層15に用いる接着性樹脂組成物に変更すること以外は外装材10のシーラント層10と同様にして形成することができる。
【0129】
本工程により、図2に示すような、基材層11/第1の接着剤層12a/第1の腐食防止処理層14a/バリア層13/第2の腐食防止処理層14b/接着性樹脂層15/シーラント層16の順で各層が積層された積層体が得られる。
【0130】
なお、接着性樹脂層15は、上述した材料配合組成になるように、ドライブレンドした材料を直接、押出ラミネート機により押出すことで積層させてもよい。あるいは、接着性樹脂層15は、事前に単軸押出機、二軸押出機、ブラベンダーミキサーなどの溶融混練装置を用いてメルトブレンドを施した後の造粒した造粒物を、押出ラミネート機を用いて押出すことで積層させてもよい。
【0131】
シーラント層16は、シーラント層形成用樹脂組成物の構成成分として上述した材料配合組成になるようにドライブレンドした材料を直接、押出ラミネート機により押し出すことで積層させてもよい。あるいは、接着性樹脂層15及びシーラント層16は、事前に単軸押出機、二軸押出機、ブラベンダーミキサーなどの溶融混練装置を用いてメルトブレンドを施した後の造粒物を用いて、押出ラミネート機で接着性樹脂層15とシーラント層16とを押出すタンデムラミネート法、又は共押出法で積層させてもよい。また、シーラント層16は、シーラント層形成用樹脂組成物を用いて、事前にキャストフィルムとしてシーラント単膜を製膜し、このフィルムを接着性樹脂とともにサンドラミネーションする方法により積層させてもよい。接着性樹脂層15及びシーラント層16の形成速度(加工速度)は、生産性の観点から、例えば、80m/分以上であることができる。
【0132】
(熱処理工程)
本工程は、積層体を熱処理する工程である。積層体を熱処理することで、バリア層13/第2の腐食防止処理層14b/接着性樹脂層15/シーラント層16間での密着性を向上させることができる。熱処理の方法としては、少なくとも接着性樹脂層15の融点以上の温度で処理することが好ましい。
【0133】
このようにして、図2に示すような、本実施形態の外装材20を製造することができる。
【0134】
以上、本開示の全固体電池用外装材の好ましい実施の形態について詳述したが、本開示はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本開示の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0135】
[全固体電池]
図4は、上述した外装材を用いて作製した全固体電池の一実施形態を示す斜視図である。図4に示されるように、全固体電池50は、電池要素52と、電池要素52から延在し、電流を外部に取り出すための2つの金属端子(電流取出し端子)53と、金属端子53を挟持し、電池要素52を気密状態で包含する外装材10とを含んで構成される。外装材10は、上述した本実施形態に係る外装材10であり、電池要素52を収容する容器として用いられる。外装材10では、基材層11が最外層であり、シーラント層16が最内層である。すなわち、外装材10は、基材層11を全固体電池50の外部側、シーラント層16を全固体電池50の内部側となるように、1つのラミネートフィルムを2つ折りにして周縁部を熱融着することにより、又は、2つのラミネートフィルムを重ねて周縁部を熱融着することにより、内部に電池要素52を包含した構成となる。金属端子53は、シーラント層16を内側として容器を形成する外装材10によって挟持され、密封されている。金属端子53は、タブシーラントを介して、外装材10によって挟持されていてもよい。なお、全固体電池50では、外装材10に代えて外装材20又は外装材30を用いてもよい。
【0136】
電池要素52は、正極と負極との間に硫化物系固体電解質を介在させてなるものであってもよい。金属端子53は、集電体の一部が外装材10の外部に取り出されたものであり、銅箔やアルミ箔等の金属箔からなる。本実施形態の全固体電池50においては、外装材10が複合酸化物Xを含有する層を有し、複合酸化物Xが水分及び硫化水素を吸着することが可能である。このため、外装材10によれば、水分バリア性及び硫化水素吸収性が優れる。このため、全固体電池50において、水分が外装材10を通過して全固体電池50内の固体電解質に到達することが阻止されるため、全固体電池50において水分と硫化水素系固体電解質との反応による硫化水素の発生を抑制することができる。また、全固体電池50の内部において硫化水素が発生しても、外装材10が硫化水素吸収性に優れるため、硫化水素が外装材10で吸収され、硫化水素を無害化することができる。なお、複合酸化物Xは、水分を吸着した後、全固体電池50が100℃程度の高温環境下におかれても、水分を放出しにくい。このため、水分が複合酸化物Xで吸着された後、外装材10を有する全固体電池50が100℃程度の高温環境下におかれても、全固体電池50において水分と硫化水素系固体電解質との反応により硫化水素が再度発生することを抑制することができる。さらに、外装材10が硫化水素を吸着する際に、化学反応により水分が発生したとしても、複合酸化物Xが、発生した水分を吸着するため、全固体電池50において水分と硫化水素系固体電解質との反応により硫化水素が再度発生することを抑制することができる。
【0137】
上述した外装材は、水分バリア性が優れるため、その用途は全固体電池用の外装材に限られず、電解質が液体である蓄電装置用の外装材としても用いることができる。
【実施例0138】
以下、実施例に基づいて本開示をより具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0139】
[複合酸化物の作製]
<複合酸化物A>
硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO)の0.02molと、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO・9HO)の0.01molと、を超純水100mLに溶解させ、金属塩水溶液A1を得た。炭酸ナトリウム(NaCO)の0.047molを超純水300mLに溶解させ、炭酸塩水溶液を得た。次いで、この炭酸塩水溶液を70℃に保持し、攪拌しながら金属塩水溶液A1を加え、金属塩水溶液A2を得た。次いで、0.05molのNaOHを純水100mLに溶解させたものを、pHが10になるまで金属塩水溶液A2に添加し、その後24時間撹拌し、金属塩水溶液A3を得た。金属塩水溶液A3に対して遠心分離を行い、得られた生成物を洗浄液のpHが7.5程度になるまで洗浄した。次いで、得られた生成物を80℃で12時間乾燥させ、Mg:Alが2:1(モル比)のハイドロタルサイトAを得た。得られたハイドロタルサイトAを500℃で2時間焼成し、式(1)を満たす複合酸化物Aを得た。得られた複合酸化物Aは、式(1)におけるMがMgであり、MがAlであり、xが0.33であり、yが1であった。得られた複合酸化物Aを分級して、複合酸化物Aの平均長径が1μmの粉末を得た。複合酸化物Aの平均長径は、複合酸化物A100個の長径を電子顕微鏡により測定し、その平均値により算出した。
【0140】
<複合酸化物B>
硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO)の0.01molと、硫酸亜鉛六水和物(Zn(NO・6HO)の0.01molと、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO・9HO)の0.01molと、を超純水100mLに溶解させ、金属塩水溶液B1を得た。炭酸ナトリウム(NaCO)の0.047molを超純水300mLに溶解させ、炭酸塩水溶液を得た。次いで、この炭酸塩水溶液を70℃に保持し、攪拌しながら金属塩水溶液B1を加え、金属塩水溶液B2を得た。次いで、0.05molのNaOHを純水100mLに溶解させたものを、pHが10になるまで金属塩水溶液B2に添加し、その後24時間撹拌し、金属塩水溶液B3を得た。金属塩水溶液B3に対して遠心分離を行い、得られた生成物を洗浄液のpHが7.5程度になるまで洗浄した。次いで、得られた生成物を80℃で12時間乾燥させ、Zn:Mg:Alが1:1:1(モル比)のハイドロタルサイトBを得た。得られたハイドロタルサイトBを500℃で2時間焼成し、式(2)を満たす複合酸化物Bを得た。得られた複合酸化物Bは、式(2)におけるMがMgであり、MがAlであり、xが0.33であり、yが0.5であった。得られた複合酸化物Bを分級して、複合酸化物Bの平均長径が1μmの粉末を得た。複合酸化物Bの平均長径は、複合酸化物B100個の長径を電子顕微鏡により測定し、その平均値により算出した。
【0141】
<複合酸化物C>
硫酸亜鉛六水和物(Zn(NO・6HO)の0.02molと、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO・9HO)の0.01molと、を超純水100mLに溶解させ、金属塩水溶液C1を得た。炭酸ナトリウム(NaCO)の0.047molを超純水300mLに溶解させ、炭酸塩水溶液を得た。次いで、この炭酸塩水溶液を70℃に保持し、攪拌しながら金属塩水溶液C1を加え、金属塩水溶液C2を得た。次いで、0.05molのNaOHを純水100mLに溶解させたものを、pHが10になるまで金属塩水溶液C2に添加した。その後24時間撹し、金属塩水溶液C3を得た。金属塩水溶液C3に対して遠心分離を行い、得られた生成物を洗浄液のpHが7.5程度になるまで洗浄した。次いで、得られた生成物を80℃で12時間乾燥させ、Zn:Alが2:1(モル比)のハイドロタルサイトCを得た。得られたハイドロタルサイトCを500℃で2時間焼成し、式(1)を満たす複合酸化物Cを得た。得られた複合酸化物Cは、式(1)におけるMがZnであり、MがAlであり、xが0.33であり、yが1であった。得られた複合酸化物Cを分級して、複合酸化物Cの平均長径が1μmの粉末、平均長径が10μmの粉末、及び平均長径が30μmの粉末を得た。複合酸化物Cの平均長径は、複合酸化物C100個の長径を電子顕微鏡により測定し、その平均値により算出した。
【0142】
[使用材料]
実施例及び比較例で使用した材料を以下に示す。
<基材層(厚さ15μm)>
ナイロン(Ny)フィルム(東洋紡社製)を用いた。
【0143】
<第1の接着剤層>
ポリエステルポリオール系主剤に対して、トリレンジイソシアネートのアダクト体系硬化剤を配合したポリウレタン系接着剤(東洋インキ社製)を用いた。
【0144】
<第1の腐食防止処理層(基材層側)及び第2の腐食防止処理層(シーラント層側)>
(CL-1):溶媒として蒸留水を用い、固形分濃度10質量%に調整した「ポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾル」を用いた。なお、ポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾルは、酸化セリウム100質量部に対して、リン酸のNa塩を10質量部配合して得た。
(CL-2):溶媒として蒸留水を用い固形分濃度5質量%に調整した「ポリアリルアミン(日東紡社製)」90質量%と、「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製)」10質量%からなる組成物を用いた。
【0145】
<バリア層(厚さ40μm)>
焼鈍脱脂処理した軟質アルミニウム箔(東洋アルミニウム社製、「8079材」)を用いた。
【0146】
<接着性樹脂層形成用組成物の作製>
二軸押出機を用いて、接着性樹脂(ランダムポリプロピレン(PP)ベースの酸変性ポリプロピレン樹脂組成物、三井化学社製)と、硫化水素吸着物質として表1に示す種類の複合酸化物とを含む接着性樹脂層形成用組成物、及び上記の接着性樹脂からなる接着性樹脂層形成用組成物を用意した。このとき、接着性樹脂層形成用組成物中の硫化水素吸着物質の配合量は、表1に示す通りとした。配合量は、各層の全量(100質量%)に占める割合(質量%)を意味する。
【0147】
<シーラント層形成用組成物の作製>
二軸押出機を用いて、ポリプロピレン-ポリエチレンランダム共重合体(プライムポリマー社製、商品名:F744NP)と、硫化水素吸着物質として表1に示す種類の複合酸化物とを含むシーラント層形成用組成物、及び上記のポリプロピレン-ポリエチレンランダム共重合体からなるシーラント層形成用組成物を用意した。このとき、シーラント層形成用組成物中の硫化水素吸着物質の配合量は、表1に示す通りとした。配合量は、各層の全量(100質量%)に占める割合(質量%)を意味する。
【0148】
[外装材の作製]
(実施例1~11)
バリア層に、第1及び第2の腐食防止処理層を以下の手順で設けた。すなわち、バリア層の両方の面に(CL-1)を、ドライ塗布量として70mg/mとなるようにマイクログラビアコートにより塗布し、乾燥ユニットにおいて200℃で焼き付け処理を施した。次いで、得られた層上に(CL-2)を、ドライ塗布量として20mg/mとなるようにマイクログラビアコートにより塗布することで、(CL-1)からなる層と(CL-2)からなる層で構成される複合層を第1及び第2の腐食防止処理層として形成した。この複合層は、(CL-1)と(CL-2)の2種を複合化させることで腐食防止性能を発現させたものである。
【0149】
次に、第1及び第2の腐食防止処理層を設けたバリア層の第1の腐食防止処理層側をドライラミネート手法により、ポリウレタン系接着剤(第1の接着剤層)を用いて基材層に貼りつけた。バリア層と基材層との積層は、第1の腐食防止処理層のうちバリア層と反対側の面上にポリウレタン系接着剤を、硬化後の厚さが5μmとなるように塗布し、80℃で1分間乾燥した後、基材層とラミネートし、60℃で72時間エージングすることで行った。こうして、バリア層及び基材層を含む第1積層体を得た。
【0150】
次いで、上記のようにして得られた第1積層体を押出ラミネート機の巻出部にセットし、第2の腐食防止処理層上に270℃、100m/minの加工条件で共押出しすることで接着性樹脂層(厚さ20μm)、第1のシーラント層(厚さ30μm)、及び第2のシーラント層(厚さ30μm)をこの順で積層し、第2積層体を得た。なお、接着性樹脂層及びシーラント層は、それぞれ上記のようにして作製した接着性樹脂層形成用組成物及びシーラント層形成用組成物から、水冷及びペレタイズの工程を経て、上記押出ラミネートに使用した。
【0151】
このようにして得られた第2積層体を、該第2積層体の最高到達温度が190℃になるように、熱処理を施して、外装材(基材層/第1の接着剤層/第1の腐食防止処理層/バリア層/第2の腐食防止処理層/接着性樹脂層/シーラント層(第1及び第2のシーラント層)の積層体)を作製した。
【0152】
(比較例1)
硫化水素吸着物質を第1及び第2のシーラント層のいずれの層にも添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、外装材(基材層/第1の接着剤層/第1の腐食防止処理層/バリア層/第2の腐食防止処理層/接着性樹脂層/シーラント層(第1及び第2のシーラント層)の積層体)を作製した。
【0153】
(比較例2)
硫化水素吸着物質として酸化亜鉛を用いたこと以外は実施例1と同様にして、外装材(基材層/第1の接着剤層/第1の腐食防止処理層/バリア層/第2の腐食防止処理層/接着性樹脂層/シーラント層(第1及び第2のシーラント層)の積層体)を作製した。
【0154】
[ヒートシール強度の測定]
作製した外装材を50mm(TD)×100mm(MD)のサイズにカットしたサンプルを、50mm×50mmのサイズにカットした化成処理済みアルミニウム箔を挟み込むように2つに折りたたみ、折りたたんだ部分とは反対側の端部を180℃/0.6MPa/10秒で幅10mmにわたってヒートシールした。その後、ヒートシール部の長手方向中央部を15mm幅で切り出し(図5を参照)、ヒートシール強度測定用サンプルを作製した。このヒートシール強度測定用サンプルに対し、室温(25℃)環境下で、引張速度50mm/minの条件にて、引張試験機(株式会社島津製作所社製)を用いてT字剥離試験を行った。得られた結果から、下記評価基準に基づいてヒートシール強度(バースト強度)を評価した。測定結果を表1に示す。
A:ヒートシール強度が20N/15mm以上
B:ヒートシール強度が15N/15mm以上、20N/15mm未満
C:ヒートシール強度が15N/15mm未満
【0155】
[硫化水素(HS)吸収性の評価]
外装材を50mm×50mmのサイズに切り出し、硫化水素吸収性評価用サンプルとした。このサンプルを2Lのテドラーバック内に入れ、テドラーバックを封止した。このテドラーバック内に濃度20体積ppmの硫化水素ガスを2L流し込み、室温(25℃)にて144時間放置し、144時間放置した後のテドラーバック内の硫化水素濃度(単位:体積ppm)を測定した。得られた結果から、下記評価基準に基づいて硫化水素(HS)吸収性を評価した。測定結果を表1に示す。
A:硫化水素濃度が5体積ppm以下
B:硫化水素濃度が5体積ppm超、10体積ppm以下
C:硫化水素濃度が10体積ppm超
【0156】
[水分バリア性の評価]
作製した外装材を2枚切り出し、シーラント層を対向させ、内包サイズが100mm×45mmとなるように三辺をヒートシールにより接合した。開放された一辺からリチウム塩を含まない電解液を3g注入し、開放された一辺をヒートシールして密閉した。その後、ヒートシール幅が5mmとなるように周縁をトリミングし、40℃90%RH(相対湿度)の環境下で1日放置した。その後、内包された電解液中の含有水分量をカールフィッシャー水分計にて測定し、測定した含有水分量から透過水分量を算出した。得られた結果から、下記評価基準に基づいて水分バリア性を評価した。測定結果を表1に示す。
A:水分透過率が10-2g/m・day未満
B:水分透過率が10-1g/m・day未満、10-2g/m・day以上
C:水分透過率が10-1g/m・day以上
【0157】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0158】
本開示の全固体電池用外装材によれば、水分バリア性及び硫化水素吸収性が優れる全固体電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0159】
10,20,30…全固体電池用外装材、11…基材層、12a…第1の接着剤層、12b…第2の接着剤層、13…バリア層、14a…第1の腐食防止処理層、14b…第2の腐食防止処理層、15…接着性樹脂層、16…シーラント層、17…保護層、50…全固体電池、52…電池要素、53…金属端子。
図1
図2
図3
図4
図5