(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121423
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】水稲用肥料及び水稲栽培方法
(51)【国際特許分類】
C05D 1/00 20060101AFI20230824BHJP
A01G 22/22 20180101ALI20230824BHJP
【FI】
C05D1/00
A01G22/22
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024770
(22)【出願日】2022-02-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000167897
【氏名又は名称】晃栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川村 直樹
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA01
4H061BB31
4H061BB53
4H061HH07
4H061JJ02
4H061KK01
(57)【要約】
【課題】米粒におけるタンパク値やアミロース値を低下させることができる水稲用肥料及び水稲栽培方法を提供すること。
【解決手段】水稲用肥料は亜燐酸カリウムを含む。本開示の水稲用肥料は、米粒におけるタンパク値やアミロース値を低下させることができる。その結果、米粒の食味が向上する。また、本開示の水稲用肥料は、実を肥大化させ、米の収量を向上させる効果も奏する。本開示の水稲用肥料としては、例えば、亜燐酸カリウムの水溶液が挙げられる。亜燐酸カリウムの水溶液における亜燐酸カリウムの濃度は、例えば、0.1~100g/Lとすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜燐酸カリウムを含む水稲用肥料。
【請求項2】
請求項1に記載の水稲用肥料であって、
水稲に散布するときの亜燐酸カリウムの濃度が1~2g/Lの範囲内である水稲用肥料。
【請求項3】
亜燐酸カリウムを含む水稲用肥料を水稲の葉面に散布する水稲栽培方法。
【請求項4】
請求項3に記載の水稲栽培方法であって、
前記水稲用肥料を水稲に散布するとき、前記水稲用肥料における亜燐酸カリウムの濃度が1~2g/Lの範囲内である水稲栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水稲用肥料及び水稲栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水稲用肥料として、各種成分を配合したものが用いられてきた。従来の水稲用肥料は特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
米の品質を向上させるには、米粒におけるタンパク値やアミロース値を低下させる必要がある。従来の水稲用肥料は、タンパク値やアミロース値を低下させる効果において十分ではなかった。本開示の1つの局面では、米粒におけるタンパク値やアミロース値を低下させることができる水稲用肥料及び水稲栽培方法を提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の1つの局面は、亜燐酸カリウムを含む水稲用肥料である。本開示の1つの局面である水稲用肥料は、水稲に使用した場合、米粒におけるタンパク値やアミロース値を低下させることができる。その結果、米粒の食味が向上する。
【0006】
本開示の別の局面は、亜燐酸カリウムを含む水稲用肥料を水稲の葉面に散布する水稲栽培方法である。本開示の別の局面である水稲栽培方法により、米粒におけるタンパク値やアミロース値を低下させ、米粒の食味を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の例示的な実施形態について説明する。
1.水稲用肥料
本開示の水稲用肥料は、亜燐酸カリウムを含む。本開示の水稲用肥料は、亜燐酸カリウムを含むことにより、水稲に使用した場合、米粒におけるタンパク値やアミロース値を低下させることができる。その結果、米粒の食味が向上する。
【0008】
また、本開示の水稲用肥料は、水稲の光合成を増進することにより、実を肥大化させ、米の収量を向上させる効果(以下では増収効果とする)も奏する。
本開示の水稲用肥料として、例えば、液状の水稲用肥料が挙げられる。液状の水稲用肥料として、例えば、亜燐酸カリウムの水溶液が挙げられる。亜燐酸カリウムの水溶液における亜燐酸カリウムの濃度は、使用時において、例えば、0.1~100g/Lであり、好ましくは1~60g/Lであり、特に好ましくは1~2g/Lである。使用時とは、例えば、水稲用肥料を水稲に散布するときである。
【0009】
タンパク値やアミロース値を低下させる効果、及び増収効果は、水稲用肥料を水稲に散布するときに、水稲用肥料における亜燐酸カリウムの濃度が0.1~100g/Lである場合に高く、亜燐酸カリウムの濃度が1~60g/Lである場合にさらに高く、亜燐酸カリウムの濃度が1~2g/Lである場合に特に高い。
【0010】
また、本開示の水稲用肥料は、例えば、使用時以外においては、上述した濃度範囲よりも、亜燐酸カリウムの濃度が高い水溶液であってもよい。この場合、例えば、使用時に水で希釈して、亜燐酸カリウムの濃度を、上述した濃度範囲内にすることができる。その希釈倍率は、例えば、8~250倍とすることができる。使用時以外とは、例えば、製造時、販売時である。
【0011】
本開示の水稲用肥料の剤型は、液状の他にも、粉末、又は固形物であってもよい。この場合、使用前に、粉末、又は固形物である水稲用肥料を水等の溶媒に溶かし、液状の水稲用肥料にしてから、水稲に散布することができる。
【0012】
本開示の水稲用肥料の使用方法としては、葉面散布が好ましい。また、本開示の水稲用肥料は、亜燐酸カリウムの他に、各種添加剤を含んでいてもよい。また、本開示の水稲用肥料は、亜燐酸カリウム、水、及び不可避的不純物のみから構成されていてもよい。
【0013】
2.水稲栽培方法
本開示の水稲栽培方法では、前記「1.水稲用肥料」の項で述べた水稲用肥料を水稲の葉面に散布する。本開示の水稲栽培方法により、米粒におけるタンパク値やアミロース値を低下させ、米粒の食味を向上させることができる。また、本開示の水稲栽培方法は、増収効果を奏する。
【0014】
本開示の水稲栽培方法で使用する水稲用肥料として、例えば、液状の水稲用肥料が挙げられる。液状の水稲用肥料として、例えば、亜燐酸カリウムの水溶液が挙げられる。亜燐酸カリウムの水溶液における亜燐酸カリウムの濃度は、使用時において、例えば、0.1~100g/Lであり、好ましくは1~60g/Lであり、特に好ましくは1~2g/Lである。使用時とは、例えば、水稲用肥料を水稲に散布するときである。
【0015】
タンパク値やアミロース値を低下させる効果、及び増収効果は、水稲用肥料を水稲に散布するときに、水稲用肥料における亜燐酸カリウムの濃度が0.1~100g/Lである場合に高く、亜燐酸カリウムの濃度が1~60g/Lである場合にさらに高く、亜燐酸カリウムの濃度が1~2g/Lである場合に特に高い。
【0016】
本開示の水稲栽培方法において、水稲用肥料の散布量は、水田1000m2あたりの亜燐酸カリウムの散布量が1~1000gとなる量であることが好ましく、水田1000m2あたりの亜燐酸カリウムの散布量が10~100gとなる量であることがより好ましく、水田1000m2あたりの亜燐酸カリウムの散布量が20~70gとなる量であることがさらに好ましい。水田1000m2あたりの亜燐酸カリウムの散布量が上記の範囲内となることにより、タンパク値やアミロース値を低下させる効果、及び増収効果が一層顕著になる。
【0017】
なお、本開示の水稲栽培方法で使用する水稲用肥料における亜燐酸カリウムの濃度、水稲用肥料の散布量等は、上述した範囲が好ましいが、水稲用肥料を散布する時期、期間、水稲の種類等に応じて適宜設定できる。
【0018】
本開示の水稲栽培方法により栽培する水稲の種類は特に限定されない。水稲の種類として、例えば、ジャポニカ種等が挙げられる。
3.実施例
(3-1)水稲用肥料A~Iの製造
水稲用肥料A~Iを製造した。水稲用肥料A~Iは、表1に示す有効成分を、表1に示す配合量だけ含む水溶液である。
【0019】
【0020】
水稲用肥料Aは、濃度が1.0g/Lである亜燐酸カリウム水溶液である。
水稲用肥料Bは、濃度が2.0g/Lである亜燐酸カリウム水溶液である。
水稲用肥料Cは、濃度が10g/Lである亜燐酸カリウム水溶液である。
【0021】
水稲用肥料Dは、濃度が1.0g/Lである亜燐酸マグネシウム水溶液である。
水稲用肥料Eは、濃度が2.0g/Lである亜燐酸マグネシウム水溶液である。
水稲用肥料Fは、濃度が10g/Lである亜燐酸マグネシウム水溶液である。
【0022】
水稲用肥料Gは、濃度が1.0g/Lである燐酸マグネシウム水溶液である。
水稲用肥料Hは、濃度が2.0g/Lである燐酸マグネシウム水溶液である。
水稲用肥料Iは、濃度が10g/Lである燐酸マグネシウム水溶液である。
【0023】
なお、水稲用肥料A~Cの調製には、高濃度の亜燐酸カリウム水溶液であるトップスコア・リン(晃栄化学工業株式会社製、登録商標)を用いた。
また、水稲用肥料D~Fの調製には、高濃度の亜燐酸マグネシウム水溶液であるトップスコア・マグ(晃栄化学工業株式会社製、登録商標)を用いた。
【0024】
また、水稲用肥料G~I調製には、高濃度の燐酸マグネシウム水溶液であるトップスコア・リン(晃栄化学工業株式会社製、登録商標)を用いた。
(3-2)水稲栽培方法の実施
水稲用肥料Aを、水稲用肥料Aに割り当てられた区画において、噴霧器を用い、出穂始めから、2~3回、水稲の葉面に散布した。水稲の種類は、「ゆめぴりか」であった。水稲用肥料Aの1回あたりの散布量は、水田1000m2あたりの亜燐酸カリウムの散布量が36gとなる量とした。なお、水稲用肥料Aの散布以外の点では、周知の方法で水稲を栽培した。
【0025】
また、水稲用肥料B~Iについても、それぞれに割り当てられた区画において、上と同様の方法で散布を行った。水稲用肥料B~Iの1回あたりの散布量も、水稲用肥料Aの場合と同様に、水田1000m2あたりの有効成分の散布量が36gとなる量とした。有効成分とは、水稲用肥料A~Cの場合は亜燐酸カリウムであり、水稲用肥料D~Fの場合は亜燐酸マグネシウムであり、水稲用肥料G~Iの場合は燐酸マグネシウムである。
【0026】
なお、水稲用肥料A~Iを用いる水稲栽培方法は、有効成分の種類、又は水稲用肥料における有効成分の濃度以外の点では同一であった。すなわち、水稲用肥料A~Iを用いる水稲栽培方法において、散布量、散布頻度、水稲種別、散布の時期等は同一であった。
【0027】
(3-3)水稲用肥料及び水稲栽培方法の評価
水稲用肥料A~Iを散布した水稲について、それぞれ、タンパク値、アミロース値、水田10a当りの収量を評価した。また、水稲用肥料を散布していない水稲についても、同様に評価した。なお、タンパク値とは、米粒においてタンパク質が占める比率である。タンパク値の単位は重量%である。また、アミロース値とは、米粒においてアミロースが占める比率である。アミロース値の単位は重量%である。タンパク値やアミロース値は、静岡製機株式会社製のVPA-5500X-ES-BRを用いて測定した。
【0028】
評価結果を上記表1に示す。
表1に示すように、水稲用肥料A~Cを散布した水稲から収穫された米粒におけるタンパク値やアミロース値は、顕著に低くなった。また、水稲用肥料A~Cを散布した場合の収量は顕著に多くなった。
【0029】
水稲用肥料を散布せずに栽培した水稲での評価結果を表1における「無散布」の行に示す。水稲用肥料を散布せずに栽培した水稲から収穫された米粒では、水稲用肥料A~Cを散布した場合に比べて、タンパク値やアミロース値が高かった。また、米の収量も、水稲用肥料A~Cを散布した場合に比べて少なかった。
【0030】
また、水稲用肥料D~Iを散布した水稲から収穫された米粒では、水稲用肥料A~Cを散布した場合に比べて、タンパク値及びアミロース値が高かった。また、米の収量も、水稲用肥料A~Cを散布した場合に比べて少なかった。
【0031】
また、水稲用肥料A~Iを散布した水稲、及び水稲用肥料を散布しなかった水稲について、官能評価を行った。官能評価は、人が試食した際の感覚の評価であり、具体的には、食味の評価であった。その結果、水稲用肥料A~Cを散布した水稲における食味は、他の水稲における食味よりも優れていた。また、水稲用肥料A~Cは、水稲の病気を予防する効果を有する。
【0032】
4.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0033】
(4-1)水稲用肥料A~Cにおける亜燐酸カリウム濃度は、使用状況等に応じて適宜変更できる。例えば、水稲用肥料における亜燐酸カリウムの濃度は、60g/Lであってもよい。また、水稲用肥料A~Cには、必要に応じて、各種添加剤を添加してもよい。
【0034】
(4-2)水稲用肥料A~Cの散布量は、使用状況に応じて適宜変更できる。また、水稲用肥料A~Cを散布する水稲として、他の種類の水稲を用いても、略同様の効果を得ることができる。
(4-3)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【手続補正書】
【提出日】2022-12-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜燐酸カリウムを含む水稲用肥料であって、
水稲に散布するときの亜燐酸カリウムの濃度が1~2g/Lの範囲内である水稲用肥料。
【請求項2】
亜燐酸カリウムを含む水稲用肥料を水稲の葉面に散布する水稲栽培方法であって、
前記水稲用肥料を水稲に散布するとき、前記水稲用肥料における亜燐酸カリウムの濃度が1~2g/Lの範囲内である水稲栽培方法。