(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121434
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】車両状態判定システム
(51)【国際特許分類】
G01M 17/08 20060101AFI20230824BHJP
【FI】
G01M17/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024786
(22)【出願日】2022-02-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り A.発行者名 一般社団法人 日本鉄道車両機械技術協会 刊行物名 令和2年度全国「車両と機械」研究発表会 発表論文集 発行日 令和3年2月25日 B.集会名 令和2年度全国「車両と機械」研究発表会(一般社団法人 日本鉄道車両機械技術協会 主催) 開催場所 機械振興会館 公開日 令和3年2月26日(集会の開催日 令和3年2月25日~26日) C.集会名 令和2年度全国「車両と機械」研究発表会(一般社団法人 日本鉄道車両機械技術協会 主催) 開催場所 オンライン配信 公開日 令和3年2月26日(集会の開催日 令和3年2月25日~26日) D.発行者名 一般社団法人 日本鉄道車両機械技術協会 刊行物名 2021年協会誌「R&m」11月号 発行日 令和3年11月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000196587
【氏名又は名称】西日本旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391039173
【氏名又は名称】株式会社JR西日本テクノス
(71)【出願人】
【識別番号】300089747
【氏名又は名称】株式会社科学情報システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】飛岡 広大
(72)【発明者】
【氏名】奥川 翔太
(72)【発明者】
【氏名】河野 良祐
(72)【発明者】
【氏名】高杉 瞬
(72)【発明者】
【氏名】吉田 啓悟
(72)【発明者】
【氏名】山西 啓治
(72)【発明者】
【氏名】松森 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】粟田 浩敬
(72)【発明者】
【氏名】庄司 啓太
(72)【発明者】
【氏名】多部 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】長岡 慶四郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亮太
(57)【要約】
【課題】簡便な構成で鉄道車両の状態を精度よく判定できる車両状態判定システムを提供する。
【解決手段】鉄道車両2の状態を判定する車両状態判定システム1は、鉄道車両2における検査対象を検査する検査項目毎に、検査を行うトリガとなる前提条件、及び検査対象が正常であるか否かを判定する判定条件が規定された検査パターンが記憶されている検査パターン記憶部10と、状態情報記憶部4から鉄道車両2の状態を示す状態情報を取得する状態情報取得部20と、状態情報記憶部4から取得された状態情報に基づいて、前提条件が成立しているか否かを判定する前提条件判定部30と、前提条件が成立していると判定された場合に、前提条件が成立した時点から所定時間が経過した後の状態情報に基づいて、判定条件が成立しているか否かを判定する判定条件判定部40とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の状態を判定する車両状態判定システムであって、
前記鉄道車両における検査対象を検査する検査項目毎に、検査を行うトリガとなる前提条件、及び前記検査対象が正常であるか否かを判定する判定条件が規定された検査パターンが予め記憶されている検査パターン記憶部と、
運行中の前記鉄道車両から順次、伝達された前記鉄道車両の状態を示す状態情報が記憶されている状態情報記憶部から、前記状態情報を取得する状態情報取得部と、
前記状態情報記憶部から取得された前記状態情報に基づいて、前記前提条件が成立しているか否かを判定する前提条件判定部と、
前記前提条件が成立していると判定された場合に、当該前提条件が成立した時点から予め設定された時間が経過した後の前記状態情報に基づいて、前記判定条件が成立しているか否かを判定する判定条件判定部と、
を備える車両状態判定システム。
【請求項2】
前記状態情報が、少なくとも、前記検査項目の判定に用いる判定用信号の状態と、前記検査項目の判定において参照される第1参照信号の状態と、前記第1参照信号と異なる信号であって、前記検査項目の判定において参照される第2参照信号の状態とで規定され、
前記検査パターンは、
前記前提条件が、少なくとも、前記判定用信号の状態及び前記第1参照信号の状態に基づいて規定され、
前記前提条件が成立してから所定時間が経過するまでの間は、少なくとも、前記第1参照信号の状態及び前記第2参照信号の状態が規定され、
前記判定条件が、前記所定時間が経過後の前記検査項目に応じた前記判定用信号の状態に基づいて規定された第1検査パターンを有する請求項1に記載の車両状態判定システム。
【請求項3】
前記状態情報が、少なくとも、前記検査項目の判定に用いる判定用信号の状態と、前記検査項目の判定において参照される第1参照信号の状態と、前記第1参照信号と異なる信号であって、前記検査項目の判定において参照される第2参照信号の状態とで規定され、
前記検査パターンは、
前記前提条件が、前記判定用信号の状態、前記第1参照信号の状態、及び前記第2参照信号の状態に基づいて規定され、
前記前提条件が成立してから所定時間が経過するまでの間は、少なくとも、前記前提条件が成立した時点の状態で前記判定用信号が待機する第1待機時間、及び、前記第1待機時間が経過してから前記判定用信号の状態が変化するまで待機する第2待機時間に基づいて規定され、
前記判定条件が、前記所定時間が経過後の前記検査項目に応じた前記判定用信号の状態に基づいて規定された第2検査パターンを有する請求項1又は2に記載の車両状態判定システム。
【請求項4】
前記状態情報が、前記検査項目の判定に用いる判定用信号の状態と、前記検査項目の判定において参照される第1参照信号の状態とで規定され、
前記検査パターンは、所期の前記状態情報が予め設定された回数だけ確認できない場合に、検査を行うことが必要となる前記検査項目について検査する第3検査パターンを有し、
前記第3検査パターンは、
前記前提条件が、前記判定用信号の状態、及び前記第1参照信号の状態に基づいて規定され、
前記判定条件が、前記前提条件が成立してから所定時間が経過後の前記検査項目に応じた前記判定用信号の状態に基づいて規定されている請求項1から3のいずれか一項に記載の車両状態判定システム。
【請求項5】
前記状態情報が、前記検査項目の判定に用いる判定用信号の状態と、前記検査項目の判定において参照される第1参照信号の状態とで規定され、
前記検査パターンは、前記検査対象の1つの状態を、複数の前記判定用信号の状態の組み合わせに応じて検査する第4検査パターンを有し、
前記第4検査パターンは、
前記前提条件が、前記判定用信号の状態、及び前記第1参照信号の状態に基づいて規定され、
前記判定条件が、前記判定用信号の状態に基づいて規定されている請求項1から4のいずれか一項に記載の車両状態判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の状態を判定する車両状態判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両は定期的に検査が行われている。このような検査を行う検査者の作業負担を軽減し、定量的に検査を行うことができるように自動化が行われてきた。このような検査に関する技術として、例えば下記に出典を示す特許文献1に記載のものがある。
【0003】
特許文献1には鉄道車両に搭載される機器の検査を行う検査システムについて記載されている。この検査システムでは、鉄道車両に車上装置が搭載され、この車上装置はデータ格納部、検査条件格納部、検査基準値格納部、検査データ抽出部、及び検査判定部を備えている。データ格納部には、先頭車両と後続車両との間で伝送されるデータが記録される。検査条件格納部には検査を実行する条件が格納され、検査基準値格納部には検査結果を判定するための基準値が格納されている。検査データ抽出部は、鉄道車両の運行中に記録されたデータの中から、検査条件格納部に格納された条件に合致するデータを抽出し、検査判定部は、検査データ抽出部により抽出されたデータから得られる値と検査基準値格納部に格納された基準値とを比較して検査結果を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の検査システムは、上記のように、検査に用いるデータは鉄道車両において記録され、検査を実行する条件、検査結果を判定するための基準値が鉄道車両において格納される。更に、これらのデータや条件を用いた検査結果の判定も鉄道車両において行われる。このため、例えば検査項目を追加したい場合や、基準値を変更したい場合には、鉄道車両において行う必要がある。また、検査項目の追加や基準値の変更の対象となる鉄道車両が複数ある場合には、鉄道車両毎に行う必要があり、数年の月日を要することとなる。そのため、必要な検査を即時に変更することができない上に、変更作業に多大な労力を要するといった欠点がある。更には、検査結果を測定するために、各種のセンサ(例えば架線電圧センサ)を設ける必要もある。したがって、特許文献1に記載の検査システムは、より簡便に検査を行う上で改良の余地がある。
【0006】
そこで、簡便な構成で鉄道車両の状態を精度よく判定することが可能な車両状態判定システムが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両状態判定システムの特徴構成は、
鉄道車両の状態を判定する車両状態判定システムであって、
前記鉄道車両における検査対象を検査する検査項目毎に、検査を行うトリガとなる前提条件、及び前記検査対象が正常であるか否かを判定する判定条件が規定された検査パターンが予め記憶されている検査パターン記憶部と、
運行中の前記鉄道車両から順次、伝達された前記鉄道車両の状態を示す状態情報が記憶されている状態情報記憶部から、前記状態情報を取得する状態情報取得部と、
前記状態情報記憶部から取得された前記状態情報に基づいて、前記前提条件が成立しているか否かを判定する前提条件判定部と、
前記前提条件が成立していると判定された場合に、当該前提条件が成立した時点から予め設定された時間が経過した後の前記状態情報に基づいて、前記判定条件が成立しているか否かを判定する判定条件判定部と、
を備えている点にある。
【0008】
このような特徴構成とすれば、鉄道車両から伝達された状態情報であって、且つ、状態情報記憶部に記憶された状態情報に基づいて、鉄道車両の状態を判定することが可能となる。したがって、鉄道車両における検査対象を検査するにあたり、鉄道車両上で監視する必要がなく、新たにセンサ類を設ける必要もない。また、検査項目の追加や基準値の変更を行う場合であっても、車両状態判定システムにおいて行えばよい。このため、車両状態判定システムによれば、検査の少なくとも一部を代替することができる。したがって、検査に要する時間や手間を低減することが可能となる。さらに、前提条件判定部により前提条件が成立してから所定時間が経過した後の状態情報に基づいて検査対象が正常であるか否かの判定を行うため、例えば前提条件に、判定にふさわしい状態となる条件を設定することで、従来のようにデータを基準値と比較するだけの場合に比べて、判定精度を高めることができる。このように本車両状態判定システムによれば、簡便な構成で鉄道車両の状態を精度よく判定することが可能となる。
【0009】
また、
前記状態情報が、少なくとも、前記検査項目の判定に用いる判定用信号の状態と、前記検査項目の判定において参照される第1参照信号の状態と、前記第1参照信号と異なる信号であって、前記検査項目の判定において参照される第2参照信号の状態とで規定され、
前記検査パターンは、
前記前提条件が、少なくとも、前記判定用信号の状態及び前記第1参照信号の状態に基づいて規定され、
前記前提条件が成立してから所定時間が経過するまでの間は、少なくとも、前記第1参照信号の状態及び前記第2参照信号の状態が規定され、
前記判定条件が、前記所定時間が経過後の前記検査項目に応じた前記判定用信号の状態に基づいて規定された第1検査パターンを有すると好適である。
【0010】
このような構成とすれば、前提条件及び判定条件の夫々について規定されると共に、前提条件が成立してから判定条件が成立するか否かを判定するまでの間の待機中の状態について規定された第1検査パターンは、多くの検査項目が当てはまるため、鉄道車両における検査対象が正常であるか否かを効率的に検査することができる。
【0011】
また、
前記状態情報が、少なくとも、前記検査項目の判定に用いる判定用信号の状態と、前記検査項目の判定において参照される第1参照信号の状態と、前記第1参照信号と異なる信号であって、前記検査項目の判定において参照される第2参照信号の状態とで規定され、
前記検査パターンは、
前記前提条件が、前記判定用信号の状態、前記第1参照信号の状態、及び前記第2参照信号の状態に基づいて規定され、
前記前提条件が成立してから所定時間が経過するまでの間は、少なくとも、前記前提条件が成立した時点の状態で前記判定用信号が待機する第1待機時間、及び、前記第1待機時間が経過してから前記判定用信号の状態が変化するまで待機する第2待機時間に基づいて規定され、
前記判定条件が、前記所定時間が経過後の前記検査項目に応じた前記判定用信号の状態に基づいて規定された第2検査パターンを有するように構成されてもよい。
【0012】
このような構成とすれば、待機中において、互いに異なる2つの待機時間を規定した第2検査パターンを使用することで、例えば待機中における2つの操作があるような検査対象を検査することができる。
【0013】
また、
前記状態情報が、前記検査項目の判定に用いる判定用信号の状態と、前記検査項目の判定において参照される第1参照信号の状態とで規定され、
前記検査パターンは、所期の前記状態情報が予め設定された回数だけ確認できない場合に、検査を行うことが必要となる前記検査項目について検査する第3検査パターンを有し、
前記第3検査パターンは、
前記前提条件が、前記判定用信号の状態、及び前記第1参照信号の状態に基づいて規定され、
前記判定条件が、前記前提条件が成立してから所定時間が経過後の前記検査項目に応じた前記判定用信号の状態に基づいて規定されてもよい。
【0014】
このような構成とすれば、例えば特定の装置の動作に関して、複数回の怪しい判定結果がある場合に、当該特定の装置の動作を検査することが可能な前提条件や判定条件を規定した第3検査パターンを使用することで、複数回の怪しい判定結果がある装置を適切に検査することができる。
【0015】
また、
前記状態情報が、前記検査項目の判定に用いる判定用信号の状態と、前記検査項目の判定において参照される第1参照信号の状態とで規定され、
前記検査パターンは、前記検査対象の1つの状態を、前記判定用信号の状態の複数の組み合わせに応じて検査する第4検査パターンを有し、
前記第4検査パターンは、
前記前提条件が、前記判定用信号の状態、及び前記第1参照信号の状態に基づいて規定され、
前記判定条件が、前記判定用信号の状態に基づいて規定されていると好適である。
【0016】
このような構成とすれば、例えば特定の装置の動作を設定する設定表(例えば、ブレーキシリンダにおける圧力を設定する表や、ブレーキ段数を設定する表)のように、複数のデータ(信号)の組み合わせによって設定された条件を規定した第4検査パターンを使用することで、このような設定表で動作が規定された装置を検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】車両状態判定システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】車両状態判定システムによる検査項目の一例を示す図である。
【
図4】第1検査パターンによる検査の処理を示す図である。
【
図5】第1検査パターンによる検査の処理を示す図である。
【
図6】第2検査パターンによる検査の処理を示す図である。
【
図7】第3検査パターンによる検査の処理を示す図である。
【
図8】第4検査パターンによる検査の処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る車両状態判定システムは、定期検査で必要な検査対象となる鉄道車両の状態をコンピュータにより判定することができるように構成される。以下、本実施形態の車両状態判定システム1について説明する。
【0019】
図1は、車両状態判定システム1の構成を模式的に示したブロック図である。
図1に示されるように、車両状態判定システム1は、検査パターン記憶部10、状態情報取得部20、検査項目設定部25、検査パターン取得部27、前提条件判定部30、判定条件判定部40、評価部50、検査パターン入力部60を備えて構成され、各機能部は、鉄道車両2の状態の判定に係る処理を行うために、CPUを中核部材としてハードウェア又はソフトウェア或いはその両方で構築されている。車両状態判定システム1は、鉄道車両2毎に搭載されるものではなく、鉄道車両2とは独立した場所(例えば制御室)に設けられ、同時に複数の鉄道車両2の状態情報を処理するように構成されている。したがって、車両状態判定システム1は、地上に設けられる地上設備であって、複数編成を同時に、且つ、自動的に処理することが可能に構成されている。
【0020】
検査パターン記憶部10には、鉄道車両2における検査対象を検査する検査項目毎に、前提条件と判定条件とが関連付けして規定された検査パターンが予め記憶されている。鉄道車両2とは、線路に沿って走行する車両であって、電気を動力として走行する電車や、内燃機関や蒸気機関の出力を動力として走行する気動車が相当する。本実施形態では、鉄道車両2として電車を例に挙げて説明する。鉄道車両2における検査対象とは、鉄道車両2に搭載される計器や装置、これらの動作や機能等が相当する。したがって、鉄道車両2における検査対象を検査する検査項目とは、鉄道車両2に搭載される計器の動作、鉄道車両2に搭載される装置の動作、鉄道車両2に搭載される計器の機能、鉄道車両2に搭載される装置の機能等を検査する項目が相当する。
【0021】
前提条件とは、検査対象の検査を行うトリガとなる条件である。検査を行うトリガとは、検査を開始する指令に相当する。このため、前提条件は検査を開始するための開始条件ともいえる。判定条件とは、検査対象が正常であるか否かを判定する条件である。正常であるか否かとは、検査対象の計器や装置が所期の動作や機能を実現しているか否かを意味する。したがって、検査パターン記憶部10には、検査対象を検査する検査項目毎に、車両状態判定システム1が、検査を開始するための開始条件に相当する前提条件と、検査対象の計器や装置が所期の動作や機能を実現しているか否かを判定するための判定条件とが、互いに関連付けして記憶されている。
【0022】
詳細は後述するが、本実施形態では検査パターンは、第1検査パターン、第2検査パターン、第3検査パターン、及び第4検査パターンの複数の検査パターンを有するように構成され、検査項目に応じて第1検査パターン、第2検査パターン、第3検査パターン、及び第4検査パターンの中から選択して使用するように構成されている。
【0023】
図2には、車両状態判定システム1により検査することが可能な検査項目の一例が示される。
図2の例では、No.1-No.36までの36個の検査項目が挙げられている。また、検査項目毎に、検査で使用する検査パターンの種別が示されている。したがって、検査を行う検査項目に応じて、使用する検査パターンを選択することが可能となる。具体的には、例えば「No.1」の「空気システム 漏気」について検査を行う場合には、「第1検査パターン」が選択され、例えば「No.4」の「EB装置 動作(60秒±5秒)」について検査を行う場合には、「第2検査パターン」が選択される。また、例えば「No.3」の「ATS-SW確認扱い」について検査を行う場合には、「第3検査パターン」が選択され、例えば「No.9」の「主幹制御器 力行ハンドル-力行指令」について検査を行う場合には、「第4検査パターン」が選択される。このような検査項目や検査パターンは、検査パターン入力部60(
図1参照)により入力することが可能であって、更に検査項目を追加する必要がある場合にも、検査パターン入力部60を介した入力により追加することが可能である。
【0024】
通常、「No.1」の「空気システム 漏気」の定期検査は、耳を近付けて漏気が発生していないかの確認であった。通常、「No.3」の「ATS-SW 確認扱い」の定期検査は、車両床下設備である車上子に対し試験機から130kHzを送信し、自動列車停止装置の確認扱い(確認スイッチ押下及び常用ブレーキ)ができるかの確認であった。通常、「No.4」の「EB装置 動作」の定期検査は、所定速度以上の模擬速度信号を入力した状態で緊急列車装置のブザーが60±5秒間隔で鳴動するかの確認であった。本実施形態では、このような検査項目全570項目中、少なくとも81項目を何れかの検査パターンに当てはめることができる。つまり、本実施形態における車両状態判定システム1を用いることで、定期検査の検査代替、又は、定期検査の検査頻度減少を図ることが可能となり、検査効率を著しく向上することができる。
【0025】
図1に戻り、状態情報取得部20は、状態情報記憶部4から状態情報を取得する通信インターフェースを含んでいる。ここで、状態情報記憶部4には、運行中の鉄道車両2から順次、伝達された鉄道車両2の状態を示す状態情報が記憶されているビッグデータである。
図1に示されるように、鉄道会社の営業範囲において複数の鉄道車両2が運行している。複数の鉄道車両2の夫々には様々な計器や装置が搭載され、これらの計器や装置を制御する制御ユニットとの間で例えば制御信号や運転者の操作に応じた操作信号等の送受信が行われる。このような制御信号や操作信号は、鉄道車両2の状態を把握できることから、車両状態判定システム1では状態情報として扱われる。このような制御信号や操作信号(以下「データ」とする)からなる状態情報は、鉄道車両2のデータ取得装置(図示せず)が、リアルタイムで取得する。データ取得装置により取得された状態情報は、ネットワークを介して順次、監視システム3に伝達され、監視システム3が有する状態情報記憶部4に記憶される。状態情報記憶部4に記憶された状態情報は、少なくとも記憶された時点より後(将来)において利用される。この際、状態情報がいつの時点のものか特定することができるように、鉄道車両2のデータ取得装置が取得した時間情報(タイムスタンプ)と共に記憶される。鉄道車両2から監視システム3への状態情報のネットワークを介した伝達は、鉄道会社の専有網を利用すると好適である。
【0026】
状態情報記憶部4に記憶されている状態情報は、状態情報取得部20以外の機能部が利用することも可能である。この場合、状態情報記憶部4に対するアクセスが集中すると、状態情報記憶部4の処理負荷が増大する可能性がある。そこで、状態情報取得部20は、状態情報記憶部4から状態情報を取得し、その状態情報を記憶しておくように構成することが可能である。もちろん、状態情報取得部20が、状態情報の取得が必要になった都度、状態情報記憶部4にアクセスして取得するように構成することも可能である。状態情報取得部20が取得した状態情報は、後述する前提条件判定部30に伝達される。
【0027】
ここで、検査パターン記憶部10には、上述したように検査項目毎に、検査に用いる検査パターンが示され、記憶されている。そこで、まず、検査対象について検査を行う場合に、どの検査項目について検査を行うか否かを、検査項目設定部25で設定するとよい。検査項目設定部25により設定された検査項目を示す情報は、検査パターン取得部27に伝達され、この情報に応じた検査項目に基づいて検査パターン取得部27が検査パターン記憶部10から検査に使用する検査パターンを取得する。検査パターン取得部27により取得された検査パターンは、後述する前提条件判定部30及び判定条件判定部40に伝達される。
【0028】
前提条件判定部30は、状態情報記憶部4から取得された状態情報に基づいて、前提条件が成立しているか否かを判定する。状態情報は、状態情報取得部20から前提条件判定部30に伝達される。また、前提条件は、検査パターン記憶部10に記憶されている検査パターンに含まれる。更に、前提条件判定部30には、検査パターン取得部27から検査に使用する検査パターンが伝達される。これにより、前提条件判定部30は、状態情報の中から前提条件が成立しているか否か、すなわち状態情報により示されるデータにおいて、前提条件が成立している状態があるか否かを判定する。ここで、前提条件判定部30が判定対象とする状態情報は、今回検査する検査項目と同じ検査項目について前回、検査した際に判定対象であった状態情報のタイムスタンプで示される時間以降に取得された状態情報とするとよい。前提条件判定部30による判定結果は、後述する判定条件判定部40に伝達される。
【0029】
判定条件判定部40は、前提条件が成立していると判定された場合に、当該前提条件が成立した時点から予め設定された時間が経過した後の状態情報に基づいて、判定条件が成立しているか否かを判定する。前提条件が成立していると判定されたことは、前提条件判定部30から伝達される判定結果により特定可能である。前提条件が成立した時点とは、鉄道車両2において前提条件が成立した時点であって、状態情報のタイムスタンプで特定可能である。前提条件が成立した時点から予め設定された時間が経過した後とは、鉄道車両2において前提条件が成立した時点から予め設定された時間が経過した後であって、このような予め設定された時間は、検査パターン毎に異なり、判定条件により規定される。判定条件は、検査パターン取得部27から検査に使用する検査パターンが伝達され、この検査パターンに含まれる。したがって、判定条件判定部40は、前提条件判定部30から伝達される判定結果により前提条件が成立していると判定された場合に、鉄道車両2において前提条件が成立した時点から予め設定された時間が経過した後のタイムスタンプを有する状態情報を用いて、検査パターン取得部27から伝達される検査パターンに含まれる判定条件が成立しているか否かを判定する。判定条件判定部40による判定結果は、後述する評価部50に伝達される。
【0030】
また、判定条件判定部40は、前提条件判定部30から伝達された判定結果が、前提条件が成立していないことを示すものである場合には、前提条件及び判定条件が成立していないとする判定結果を後述する評価部50に伝達するとよい。
【0031】
評価部50は、判定条件判定部40による判定結果に基づいて、鉄道車両2の状態を評価する。すなわち、判定条件判定部40から伝達される判定結果が、判定条件が成立することを示すものである場合には、評価部50は当該判定結果に応じた検査項目について、正常であると評価する。一方、判定条件判定部40から伝達される判定結果が、判定条件が成立していないことを示すものである場合には、評価部50は当該判定結果に応じた検査項目について、要確認と評価する。評価部50は、評価結果を記憶部50Aに記憶するように構成してもよいし、表示部50Bにより評価結果を表示するように構成してもよい。更には、報知部50Cにより評価結果を報知するように構成してもよい。
【0032】
次に、車両状態判定システム1により用いられる検査パターンについて説明する。
図3には、本実施形態で使用される検査パターンの特徴が示される。
図3に示されるように、本実施形態では、第1検査パターン、第2検査パターン、第3検査パターン、及び第4検査パターンの4つの検査パターンが使用される。
【0033】
第1検査パターンは、上述した前提条件及び判定条件の夫々について規定され、更に、前提条件が成立してから判定条件が成立するか否かを判定するまでの間に待機中の状態についても規定されている。したがって、第1検査パターンは、前提条件、待機中の状態、及び判定条件が規定されたパターンにあたる。
【0034】
第2検査パターンは、上述した前提条件及び判定条件の夫々について規定され、更に、前提条件が成立してから判定条件が成立するか否かを判定するまでの間に待機中の状態についても規定されるが、この待機中において、互いに異なる2つの待機時間が規定されている。したがって、第2検査パターンは、互いに異なる2つの待機時間が規定されたパターンにあたる。
【0035】
第3検査パターンは、特定の装置の動作(例えば、自動列車停止装置による警報)に関して、運転者の操作に応じた状態情報(確認すべき状態情報)が、複数回に亘って確認できない場合に行う検査に使用される。複数回に亘って確認できない場合とは、対象となる信号が短時間入力であり記録できない場合であって、これにより、正しく操作されたか否か不明な場合を意味する。このような場合には、怪しい判定結果となることから、第3検査パターンは、特定の装置の動作に関して、複数回の怪しい判定結果がある場合に、当該特定の装置の動作を検査することが可能な前提条件や判定条件が規定されたパターンにあたる。なお、第3検査パターンは、確認すべき状態情報が、複数回に亘って確認できない場合に、判定を行うことが必要となる検査項目についての検査に使用するだけでなく、所期の状態情報が、1回目~予め設定された回数未満確認できない場合に、判定を行うことが必要となる検査項目についての検査に使用することも可能であるし、所期の状態情報が、確認できた場合に、判定を行うことが必要となる検査項目についての検査に使用することも可能である。
【0036】
第4検査パターンは、特定の装置の動作を設定する設定表(例えば、ブレーキシリンダにおける圧力を設定する表や、ブレーキ段数を設定する表)のように、データ(信号)の複数の組み合わせによって設定された条件が規定される。したがって、第4検査パターンは、信号の複数の組み合わせにより規定された状態に基づく判定に使用するパターンにあたる。
【0037】
次に、第1検査パターン、第2検査パターン、第3検査パターン、及び第4検査パターンの具体例を挙げて説明する。
【0038】
図4には、第1検査パターンを用いた「空気システムの漏気」に係る検査の処理について示される(
図2のNo.1)。第1検査パターンでは、少なくとも、判定用信号の状態と、第1参照信号の状態と、第2参照信号の状態とが規定された情報を状態情報として使用する。判定用信号とは、検査項目の判定に用いる信号である。したがって、判定用信号の状態とは、検査項目の判定に用いる信号の状態にあたる。信号の状態とは、信号がアナログ信号であれば値(アナログ値)が相当し、信号がデジタル信号であれば、デジタル値(0や1)が相当する。第1参照信号とは、検査項目の判定において参照される信号である。また、第2参照信号とは、第1参照信号と異なる信号であって、検査項目の判定において参照される信号が相当する。したがって、第1検査パターンでは、少なくとも判定用信号と第1参照信号と第2参照信号とが用いられる。なお、検査項目によっては、判定用信号と第1参照信号と第2参照信号とは本例とは異なる信号(例えば第3参照信号)を用いることもある。
【0039】
また、判定用信号と第1参照信号と第2参照信号とは、1つの検査項目において、複数種類の信号が用いられる場合もある。
図4の例では、判定用信号として、「第1元空気ダメ圧」の状態を示す信号と、「第2元空気ダメ圧」の状態を示す信号との2つが使用される。元空気ダメ圧とは、ブレーキ圧やドアの開閉等に使用する空気圧の元となる空気圧に相当する。
図4における、第1元空気ダメ圧は、一つの編成(列車編成)に含まれる2つの鉄道車両2のうちの一方の鉄道車両2の元空気ダメ圧を示し、第2元空気ダメ圧は、一つの編成(列車編成)に含まれる2つの鉄道車両2のうちの他方の鉄道車両2の元空気ダメ圧を示している。また、
図4の例では、第1参照信号として「デジタル信号」が挙げられているが、これは複数種類の信号を用いてもよい。更に、
図4の例では、「第2参照信号」として、「第1ブレーキ圧」の状態を示す信号と、「第2ブレーキ圧」の状態を示す信号と、「駐車ブレーキ圧」の状態を示す信号とが使用される。
【0040】
第1検査パターンでは、前提条件が、少なくとも、判定用信号の状態及び第1参照信号の状態に基づいて規定される。
図4の例では、判定用信号である「第1元空気ダメ圧」及び「第2元空気ダメ圧」が夫々、「P1〔Pa〕~P2〔Pa〕」の範囲内であることが前提条件として規定される。また、第1参照信号である「デジタル信号」が信号に応じて「0又は1」の固定値であることが前提条件として規定される。なお、前提条件では、第2参照信号として利用される「第1ブレーキ圧」、「第2ブレーキ圧」、及び「駐車ブレーキ圧」は、規定されていない。したがって、
図4の例では、「第1元空気ダメ圧」が「P1〔Pa〕~P2〔Pa〕」の範囲内にあり、「第2元空気ダメ圧」が「P1〔Pa〕~P2〔Pa〕」の範囲内にあり、「デジタル信号」が予め設定されている固定値にある場合に、前提条件判定部30が「空気システムの漏気」における前提条件が成立したと判定する。
【0041】
なお、理解を容易にするために、本例の説明を含み、以下の説明においては、条件が規定されている箇所、すなわち条件として使用する箇所をグレーで彩色して示す。それ以外の範囲(グレーで彩色していない範囲)における状態は特段規定されておらず、何でもよい。
【0042】
前提条件が成立してから所定時間が経過するまでの間は待機状態となるが、この待機状態に移行する際に、「第1元空気ダメ圧」の値が「第1元空気ダメ圧」の基準値に設定されると共に、「第2元空気ダメ圧」の値が「第2元空気ダメ圧」の基準値に設定される。また、第2参照信号である「第1ブレーキ圧」の値が「第1ブレーキ圧」の初期値に設定されると共に、第2参照信号である「第2ブレーキ圧」の値が「第2ブレーキ圧」の初期値に設定される。
【0043】
第1検査パターンにおける待機状態では、少なくとも、第1参照信号の状態及び第2参照信号の状態が規定される。
図4の例では、待機状態となる所定時間は、予め設定される(例えば、t1〔秒〕)。この所定時間の間、「第1ブレーキ圧」について、「初期値に対する変動量が所定範囲内である」ことが規定されると共に、「第2ブレーキ圧」について、「初期値に対する変動量が所定範囲内である」ことが規定される。
図4の例では、第1ブレーキ圧に係る、所定範囲がTHP1で示される。また、第2ブレーキ圧に係る、所定範囲がTHP2で示される。また、「駐車ブレーキ圧」は待機状態に亘って「値が変化しない」ことが規定され、「デジタル信号」は前提条件における「固定値を維持」することが規定される。この待機状態において、これらの規定が所定時間に亘って具備すると、判定条件判定部40により判定条件が成立するか否か判定される。
【0044】
判定条件は、所定時間が経過後の検査項目に応じた判定用信号の状態に基づいて規定される。
図4の例では、判定条件として、「第1元空気ダメ圧」の値が「基準値に対する減少量が所定値内」として規定されると共に、「第2元空気ダメ圧」の値が「基準値に対する減少量が所定値内」に規定される。
図4の例では、第1元空気ダメ圧に係る、基準値に対する減少量がΔP1で示され、所定値がTHP3で示される。また、第2元空気ダメ圧に係る、基準値に対する減少量がΔP2で示され、所定値がTHP4で示される。したがって、判定条件判定部40は、待機状態になった時点の「第1元空気ダメ圧」の値である基準値に対する減少量であるΔP1が所定値内であるTHP3内である場合で、且つ、待機状態になった時点の「第2元空気ダメ圧」の値である基準値に対する減少量であるΔP2が所定値内であるTHP4内である場合に、判定条件が成立していると判定する。一方、待機状態になった時点の「第1元空気ダメ圧」の値である基準値に対する減少量であるΔP1が所定値内であるTHP3内でないか、待機状態になった時点の「第2元空気ダメ圧」の値である基準値に対する減少量であるΔP2が所定値内であるTHP4内でない場合に、判定条件が成立していないと判定する。なお、「第1ブレーキ圧」、「第2ブレーキ圧」、「駐車ブレーキ圧」、及び「デジタル信号」については、判定条件として規定されていない。
【0045】
このような判定条件判定部40の判定結果が評価部50に伝達される。評価部50は、判定条件判定部40の判定結果として判定条件が成立しているとするものである場合には、「空気システムの漏気」が正常であると評価し、判定条件判定部40の判定結果として判定条件が成立していないとするものである場合には、「空気システムの漏気」が要確認であると評価する。
【0046】
図5には、第1検査パターンを用いた「空気圧縮機 蓄積時分」の処理について示される(
図2のNo.15)。
図5の例では、判定用信号の状態と、第1参照信号の状態と、第2参照信号の状態と、第3参照信号の状態とが規定された情報を状態情報として使用する。上記のように、判定用信号とは、検査項目の判定に用いる信号である。また、第1参照信号とは、検査項目の判定において参照される信号であり、第2参照信号とは、第1参照信号と異なる信号であって、検査項目の判定において参照される信号である。第3参照信号とは、第1参照信号及び第2参照信号と異なる信号であって、検査項目の判定において参照される信号である。
【0047】
図5の例では、判定用信号として、「コンプレッサ投入接触器」の状態を示す信号が使用される。また、
図5の例では、第1参照信号として「デジタル信号」が挙げられているが、これは複数種類の信号を用いてもよい。更に、
図5の例では、「第2参照信号」として、「ブレーキ圧」の状態を示す信号と、「空気ばね圧」の状態を示す信号と、「駐車ブレーキ圧」の状態を示す信号とが使用され、「第3参照信号」として、「元空気ダメ圧」の状態を示す信号が使用される。
【0048】
図5の例では、判定用信号である「コンプレッサ投入接触器」の状態が「0」であることが前提条件として規定される。また、第1参照信号である「デジタル信号」が信号に応じて「0又は1」の固定値であることが前提条件として規定される。更に、第3参照信号である「元空気ダメ圧」が「P3〔Pa〕」以上であることが前提条件として規定される。したがって、
図5の例では、「コンプレッサ投入接触器」の状態が「0」であり、「デジタル信号」が予め設定されている固定値にあり、「元空気ダメ圧」が「P3〔Pa〕」以上である場合に、前提条件判定部30が「空気圧縮機 蓄積時分」における前提条件が成立したと判定する。
【0049】
図5の例では、「コンプレッサ投入接触器」の状態が「0」から「1」になった場合に、待機状態になる。この待機状態に移行する際に、「ブレーキ圧」の値が「ブレーキ圧」の初期値に設定されると共に、「空気ばね圧」の値が「空気ばね圧」の初期値に設定される。
【0050】
図5の例では、待機状態における、「ブレーキ圧」について、「初期値に対する変動量が所定範囲内である」ことが規定されると共に、「空気ばね圧」について、「初期値に対する変動量が所定範囲内である」ことが規定される。
図5の例では、ブレーキ圧に係る、所定範囲がTHP5で示される。また、空気ばね圧に係る、所定範囲がTHP6で示される。また、「駐車ブレーキ圧」は「0」であることが規定され、「デジタル信号」は「固定値を維持」することが規定される。また、
図5の例では、待機状態における「コンプレッサ投入接触器」の状態が「1」であるときの時間TCMが計数される。待機状態において、「コンプレッサ投入接触器」の状態が「0」になると、判定条件判定部40により判定条件が成立するか否か判定される。一方、待機状態において、他の信号(「デジタル信号」、「ブレーキ圧」の状態を示す信号、「空気ばね圧」の状態を示す信号、「駐車ブレーキ圧」の状態を示す信号、及び「元空気ダメ圧」の状態を示す信号)のうちの少なくともいずれか一つが、上記の待機状態における規定を具備しなくなると、当該検査を終了する。
【0051】
図5の例では、判定条件として、待機状態における「コンプレッサ投入接触器」の状態が「1」となっているときの時間TCM(計数結果)が「所定時間以下」として規定される。したがって、判定条件判定部40は、時間TCM(計数結果)が「所定時間以下」である場合に、判定条件が成立していると判定し、時間TCM(計数結果)が「所定時間以下」でない場合に、判定条件が成立していないと判定する。
【0052】
このような判定条件判定部40の判定結果が評価部50に伝達される。評価部50は、判定条件判定部40の判定結果として判定条件が成立しているとするものである場合には、「空気圧縮機 蓄積時分」が正常であると評価し、判定条件判定部40の判定結果として判定条件が成立していないとするものである場合には、「空気圧縮機 蓄積時分」が要確認であると評価する。
【0053】
次に、第2検査パターンについて説明する。
図6には、第2検査パターンを用いた「緊急列車停止装置 動作」に係る検査の処理について示される(
図2のNo.4)。第2検査パターンにおいても、少なくとも、判定用信号の状態と、第1参照信号の状態と、第2参照信号の状態とが規定された情報を状態情報として使用する。
【0054】
図6の例では、判定用信号として、「表示灯」の状態を示す信号が使用される。また、第1参照信号として、「リセット操作」の状態を示す信号、「編成速度」の状態を示す信号、「運転台選択「前」」の状態を示す信号(車両の進行方向前側を規定する信号の状態)が使用される。更に、「第2参照信号」として、「ブレーキノッチ操作」の状態を示す信号、複数の「第nデータ線」の状態を示す信号(ただし、n=1-7)、「力行ノッチ操作」の状態を示す信号、「電子警報器」の状態を示す信号が使用される。
【0055】
第2検査パターンでは、前提条件が、判定用信号の状態、第1参照信号の状態、及び第2参照信号の状態に基づいて規定される。
図6の例では、前提条件として、「表示灯」の状態を示す信号が「0」であることが規定され、「リセット操作」の状態を示す信号が「0」であることが規定され、「編成速度」の状態を示す信号が「v1」以上であることが規定され、「運転台選択「前」」の状態を示す信号が「1」であることが規定される。また、前提条件として、「ブレーキノッチ操作」の状態を示す信号が「0から1へ変化、又は、1から0へ変化」したことが規定され、複数の「第nデータ線」の状態を示す信号(ただし、n=1-7)が「0から1へ変化、又は、1から0へ変化」したことが規定され、「力行ノッチ操作」の状態を示す信号が「0から1へ変化、又は、1から0へ変化」したことが規定され、「電子警報器」の状態を示す信号が「1から0へ変化」したことが規定される。なお、図示はしないが、「リセット操作」の状態を示す信号、「ブレーキノッチ操作」の状態を示す信号、「第nデータ線」の状態を示す信号(ただし、n=1-7)、「電子警報器」の状態を示す信号は、少なくともいずれか一つが上記条件を具備していればよい。したがって、
図6の例では、「リセット操作」の状態を示す信号、「ブレーキノッチ操作」の状態を示す信号、「第nデータ線」の状態を示す信号(ただし、n=1-7)、「電子警報器」の状態を示す信号のうち、いずれか一つが上記条件を具備し、且つ、「表示灯」の状態を示す信号、「リセット操作」の状態を示す信号、及び「編成速度」の状態を示す信号はいずれもが上記条件を具備した場合に、前提条件判定部30が「緊急列車停止装置 動作」における前提条件が成立したと判定する。
【0056】
前提条件が成立してから所定時間が経過するまでの間は待機状態となるが、この待機状態において、少なくとも第1待機時間及び第2待機時間の2つの待機時間に基づいて規定される。第1待機時間は、判定用信号が、前提条件が成立した時点の状態で待機する時間であり、第2待機時間は、判定用信号の状態が、第1待機時間が経過してから変化するまで待機する時間である。
図6の例では、「表示灯」の状態を示す信号が、「t2の間、0」であることが規定され、「t2の経過後、t3以内に1」に変化することが規定される。したがって、この場合、t2が上記の第1待機時間に相当し、t3が上記の第2待機時間に相当する。
【0057】
また、第2検査パターンにおける待機状態では、「リセット操作」の状態を示す信号が「0」であることが規定され、「編成速度」の状態を示す信号が「v1」以上であることが規定され、「運転台選択「前」」の状態を示す信号が「1」であることが規定される。また、「ブレーキノッチ操作」の状態を示す信号、複数の「第nデータ線」の状態を示す信号(ただし、n=1-7)、「力行ノッチ操作」の状態を示す信号が「変化しない」ことが規定され、「電子警報器」の状態を示す信号が「0」であることが規定される。この待機状態において、これらの規定が具備されると、判定条件判定部40により判定条件が成立するか否か判定される。
【0058】
判定条件は、所定時間が経過後の検査項目に応じた判定用信号の状態に基づいて規定される。
図6の例では、判定条件として、「表示灯」の状態を示す信号が、「1」であることが規定される。したがって、判定条件判定部40は、「表示灯」の状態を示す信号が、「1」である場合に、判定条件が成立していると判定し、「表示灯」の状態を示す信号が、「1」でない場合に、判定条件が成立していないと判定する。
【0059】
このような判定条件判定部40の判定結果が評価部50に伝達される。評価部50は、判定条件判定部40の判定結果として判定条件が成立しているとするものである場合には、「緊急列車停止装置 動作」が正常であると評価し、判定条件判定部40の判定結果として判定条件が成立していないとするものである場合には、「緊急列車停止装置 動作」が要確認であると評価する。
【0060】
次に、第3検査パターンについて説明する。第3検査パターンは、所期の状態情報が予め設定された回数だけ確認できない場合に、検査を行うことが必要となる検査項目について検査する検査パターンである。具体的には、例えば鉄道車両2に搭載される自動列車停止装置は、信号の現示及び線路の条件に応じて、自動的に鉄道車両2を減速させたり、停止させたりするものであるが、試験機から車上子に対して所定時間毎に試験信号が送信される。これに伴い、運転者は、確認スイッチの押下及び常用ブレーキの操作からなる確認扱いを行い、リセットスイッチを押下する。しかしながら、リセットスイッチの押下が素早く行われた場合、信号のサンプリング周期によっては押下したことを示すリセット操作の記録が状態情報として残らないことがある。第3検査パターンは、このような場合において、所定回数(例えば5回)連続してリセット操作の記録が残らない場合に用いられる。
【0061】
図7には、第3検査パターンを用いた「ATS-SW確認扱い」に係る検査の処理について示される(
図2のNo.3)。第3検査パターンでは、少なくとも、判定用信号の状態と、第1参照信号の状態とが規定された情報を状態情報として使用する。
【0062】
図7の例では、判定用信号として、「自動列車停止装置 警報」の状態を示す信号が使用される。また、第1参照信号として、「自動列車停止装置 確認スイッチ」の状態を示す信号、複数の「第n高速入力データ」の状態を示す信号(ただし、n=1-4)、「編成速度」の状態を示す信号、「運転台選択「前」」の状態を示す信号が使用される。
【0063】
第3検査パターンでは、前提条件が、判定用信号の状態、及び第1参照信号の状態に基づいて規定される。
図7の例では、前提条件として、「自動列車停止装置 警報」の状態を示す信号が「0」であることが規定され、「自動列車停止装置 確認スイッチ」の状態を示す信号が「0」であることが規定され、「編成速度」の状態を示す信号が「v1以上」であることが規定され、「運転台選択「前」」の状態を示す信号が「1」であることが規定される。したがって、
図7の例では、上記の条件を全て具備した場合に、前提条件判定部30が「ATS-SW確認扱い」における前提条件が成立したと判定する。
図7の例では、「自動列車停止装置 警報」の状態を示す信号が「0」から「1」に変化すると、待機状態に移行する。
【0064】
前提条件が成立してから所定時間が経過するまでの間は待機状態となる。この所定時間は、例えば数百〔ミリ秒〕としてもよいし、上述した信号のサンプリング周期と同じであってもよい。
図7の例では、「自動列車停止装置 警報」の状態を示す信号が「1」から「0」に変化するまで、或いは、「自動列車停止装置 確認スイッチ」の状態を示す信号が「0」から「1」に変化するまで待機し、いずれか一つが変化してから所定時間(例えば0.2秒)が経過すると、判定条件判定部40により判定条件が成立するか否か判定される。
【0065】
判定条件は、前提条件が成立してから所定時間が経過後の検査項目に応じた判定用信号の状態に基づいて規定される。
図7の例では、判定条件として、「自動列車停止装置 警報」の状態を示す信号が、「0」であることが規定され、複数の「第n高速入力データ」の状態を示す信号(ただし、n=1-4)のうち、いずれかが「1」であることが規定される。したがって、判定条件判定部40は、「自動列車停止装置 警報」の状態を示す信号が、「0」であり、且つ、複数の「第n高速入力データ」の状態を示す信号(ただし、n=1-4)のうち、いずれかが「1」である場合に、判定条件が成立していると判定し、「自動列車停止装置 警報」の状態を示す信号が、「0」でない場合、或いは、複数の「第n高速入力データ」の状態を示す信号(ただし、n=1-4)の全てが「0」である場合に、判定条件が成立していないと判定する。
【0066】
このような判定条件判定部40の判定結果が評価部50に伝達される。評価部50は、判定条件判定部40の判定結果として判定条件が成立しているとするものである場合には、「ATS-SW確認扱い」が正常であると評価し、判定条件判定部40の判定結果として判定条件が成立していないとするものである場合には、「ATS-SW確認扱い」が要確認であると評価する。
【0067】
次に、第4検査パターンについて説明する。第4検査パターンは、検査対象の1つの状態を、複数の判定用信号の状態の組み合わせに応じて検査する場合に使用する検査パターンである。具体的には、例えば鉄道車両2に搭載される力行ハンドル(主幹)は、複数のノッチ(例えば6段)のいずれかに切り替え可能に構成されているが、ノッチの状態(位置)に応じて、複数(例えば5本)のデータ線の夫々の加圧状態が変更するように構成されている(このような加圧状態を示した表は、「力行段数表」と称される)。これにより、ノッチの状態(位置)が、複数(例えば5本)のデータ線の状態(加圧状態)によって特定することが可能である。また、夫々のノッチにおけるデータ線の加圧状態は、互いに、複数のデータ線のうち少なくとも2本のデータ線の信号の状態が異なるように構成されている。したがって、所定のノッチの状態において、本来、加圧されているべきデータ線のうちの1本のデータ線の加圧が解除された場合に、ノッチとデータ線の状態との関係において、存在しない組み合わせが存在することになる。これにより、第4検査パターンでは、ノッチとデータ線の状態との関係において、本来、存在している組み合わせが検知された場合に、主幹制御器の機能に異常がないことが判定でき、ノッチとデータ線の状態との関係において、本来、存在していない組み合わせが検知された場合に、主幹制御器の機能に異常があることが判定できる。
【0068】
図8には、第4検査パターンを用いた「力行ハンドル 力行指令」に係る検査の処理について示される(
図2のNo.9)。第4検査パターンでは、判定用信号の状態と、第1参照信号の状態とが規定された情報を状態情報として使用する。
【0069】
図8の例では、判定用信号として、「第5データ線」の状態を示す信号、「第6データ線」の状態を示す信号、「第7データ線」の状態を示す信号、「力行ノッチ操作」を示す信号、「前進1ノッチ」の状態を示す信号、「後進1ノッチ」の状態を示す信号が使用され、第1参照信号として、「運転台選択「前」」の状態を示す信号が使用される。
【0070】
第4検査パターンでは、前提条件が、判定用信号の状態、及び第1参照信号の状態に基づいて規定される。
図8の例では、前提条件として、「第5データ線」の状態を示す信号、「第6データ線」の状態を示す信号、「第7データ線」の状態を示す信号、「前進第1ノッチ」の状態を示す信号、及び「後進第1ノッチ」の状態を示す信号が「力行段数表に合致した値」であることが規定される。また、「運転台選択「前」」の状態を示す信号が「1」であることが規定される。したがって、
図8の例では、上記の条件を全て具備した場合に、前提条件判定部30が「力行ハンドル 力行指令」における前提条件が成立したと判定する。
図8の例では、複数の判定用信号のうち、少なくともいずれか1つの判定用信号の状態が変化すると、待機状態に移行する。
【0071】
前提条件が成立してから所定時間が経過するまでの間は待機状態となる。この所定時間は、例えば数〔秒〕程度であればよい。この待機状態にあっては、「第5データ線」の状態を示す信号、「第6データ線」の状態を示す信号、「第7データ線」の状態を示す信号、「力行ノッチ操作」の状態を示す信号、「前進第1ノッチ」の状態を示す信号、及び「後進第1ノッチ」の状態を示す信号が「変化しない」ことが規定される。更に、「運転台選択「前」」の状態を示す信号が「1」であることが規定される。したがって、待機状態に移行してから所定時間の間に亘って、上記の状態で所定時間が経過すると、判定条件判定部40により判定条件が成立するか否か判定される。
【0072】
判定条件は、前提条件が成立してから所定時間が経過後の検査項目に応じた判定用信号の状態に基づいて規定される。
図8の例では、判定条件として、「第5データ線」の状態を示す信号、「第6データ線」の状態を示す信号、「第7データ線」の状態を示す信号、「力行ノッチ操作」の状態を示す信号、「前進第1ノッチ」の状態を示す信号、及び「後進第1ノッチ」の状態を示す信号が「力行段数表に合致している」ことが規定される。また、「運転台選択「前」」の状態を示す信号も何でもよい。したがって、判定条件判定部40は、各判定用信号の状態が、上述した状態である場合に、判定条件が成立していると判定し、各判定用信号の状態が、上述した状態でない場合に、判定条件が成立していないと判定する。
【0073】
このような判定条件判定部40の判定結果が評価部50に伝達される。評価部50は、判定条件判定部40の判定結果として判定条件が成立しているとするものである場合には、「力行ハンドル 力行指令」が正常であると評価し、判定条件判定部40の判定結果として判定条件が成立していないとするものである場合には、「力行ハンドル 力行指令」が要確認であると評価する。
【0074】
車両状態判定システム1は、上記のように検査項目に応じた検査パターンを利用して検査対象を検査する。
【0075】
検査パターンを利用して検査した結果は、上述したように評価部50により評価される。
図9には、表示部50Bの表示画面に評価結果を表示した例が示される。
図9は、検査項目が「ATS-SW確認扱い」の例が示される。
図9に示されるように、表示画面の上方に、左側から、近々で行った検査の日時を示す「最新判定日時」、検査を行った鉄道車両2を示す「車両」、検査項目を示す「検査項目」、これまでに行った検査のうち、前回、評価結果として正常であった結果から経過した日数を示す「前回の良判定からの経過日数」、今回の評価結果を示す「評価結果」の各項目が表示され、夫々の項目の下側にその内容が表示される。具体的には、「最新判定日時」として「2022年1月20日」が表示され、「車両」として「123系」が表示されている。また、「検査項目」は「ATS-SW確認扱い」であり、「前回の良判定からの経過日数」が「70日」である。また、「評価結果」は「良」として表示されている。
【0076】
表示画面における、上記項目の下方には、今回の評価で用いた状態情報が示される。
図9の例では、「ATS-SW確認扱い」で使用する状態情報に含まれる8つの信号が示される。このような状態情報において、前提条件が成立していると判定されたタイミングが「21:48:00」で示される。前提条件が成立した時点から所定時間の間は待機状態となる。この待機状態の経過後、判定条件が成立しているか否かが判定される。
図9の例では、判定条件が成立しているので、「評価結果」として「良」が示されている。このようにして評価部50の評価結果を表示することで評価結果を報知することが可能となる。
【0077】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、検査パターンに、第1検査パターン、第2検査パターン、第3検査パターン、及び第4検査パターンを有するとして説明したが、第1検査パターン、第2検査パターン、第3検査パターン、及び第4検査パターンのうち、少なくともいずれか一つを有するように構成してもよいし、これら以外の検査パターンを有するように構成してもよい。また、夫々の検査パターンは、前提条件や判定条件を適宜、変更して構成することも可能である。
【0078】
上記実施形態では、夫々の検査パターンについて、具体的な検査項目を例示して説明したが、実施形態で例示した検査項目に対して、例示した検査パターンとは異なる検査パターンを適用して検査するように構成することも可能である。
【0079】
上記実施形態では、第1検査パターン、第2検査パターン、第3検査パターン、及び第4検査パターンについて、前提条件、待機中の条件、及び判定条件の夫々について、判定用信号、第1参照信号、第2参照信号、第3参照信号を例に挙げて説明した。これらは例示であって、例えば所定の検査項目における判定用信号を、他の検査項目における参照信号(例えば第1参照信号)に用いることが可能であるし、例えば所定の検査項目における参照信号(例えば第1参照信号)を、他の検査項目における判定用信号や他の参照信号(例えば第1参照信号)に用いることも可能である。すなわち、判定用信号、第1参照信号、第2参照信号は、それぞれ、検査項目に応じてユーザが任意に指定することが可能である。
【0080】
上記実施形態では、車両状態判定システム1が評価部50を備えているとして説明したが、評価部50を備えずに構成することも可能である。また、評価部50を備えずに構成する場合には、上述した評価部50による評価結果を、車両状態判定システム1の判定結果として、車両状態判定システム1が出力する(例えば記憶や表示や報知を行う)ように構成してもよいし、判定条件判定部40が出力する(例えば記憶や表示や報知を行う)ように構成してもよい。もちろん、他の機能部が出力するように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、鉄道車両の状態を判定する車両状態判定システムに用いることが可能である。
【符号の説明】
【0082】
1:車両状態判定システム
2:鉄道車両
4:状態情報記憶部
10:検査パターン記憶部
20:状態情報取得部
30:前提条件判定部
40:判定条件判定部