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特開2023-121445紫外半導体レーザ素子、及び紫外半導体レーザ素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121445
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】紫外半導体レーザ素子、及び紫外半導体レーザ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/20 20060101AFI20230824BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
H01S5/20
H01S5/343 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024799
(22)【出願日】2022-02-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「紫外レーザの作製および評価」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 素顕
(72)【発明者】
【氏名】岩山 章
(72)【発明者】
【氏名】薮谷 歩武
(72)【発明者】
【氏名】大森 智也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 涼輔
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AG20
5F173AH22
5F173AP05
5F173AQ15
5F173AQ16
5F173AQ20
5F173AR25
(57)【要約】
【課題】品質が良好な紫外半導体レーザ素子、及び品質が良好な紫外半導体レーザ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化物半導体発光素子1は、二重量子井戸活性層13Bと、二重量子井戸活性層13Bの表面に積層された第2ガイド層13Cと、第2ガイド層13Cの表面に積層され、二重量子井戸活性層13B側からの電子の流れを阻止する電子ブロック層14と、電子ブロック層14の表面に積層されたクラッド層15と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性層と、
前記活性層の表面に積層されたガイド層と、
前記ガイド層の表面に積層され、前記活性層側からの電子の流れを阻止する電子ブロック層と、
前記電子ブロック層の表面に積層されたクラッド層と、
を備えている紫外半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記クラッド層におけるAlNのモル分率が、前記活性層から積層方向に離れる向きに小さくなるように組成傾斜している請求項1に記載の紫外半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記電子ブロック層のAlNのモル分率の最大値は、前記クラッド層のAlNのモル分率の最大値よりも5%以上大きい請求項1又は請求項2に記載の紫外半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記電子ブロック層のAlNのモル分率の最大値は、前記ガイド層のAlNのモル分率の最大値よりも5%以上大きい請求項3に記載の紫外半導体レーザ素子。
【請求項5】
積層方向における前記電子ブロック層の厚みは、5nm以上である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の紫外半導体レーザ素子。
【請求項6】
活性層の表面にガイド層を積層するガイド層積層工程と、
前記活性層側からの電子の流れを阻止する電子ブロック層を前記ガイド層の表面に積層する電子ブロック層積層工程と、
クラッド層を前記電子ブロック層の表面に積層するクラッド層積層工程と、
を備え、
更に、前記ガイド層積層工程と、前記電子ブロック層積層工程と、の間に実行され、反応炉内への原料の供給を中断する第1中断工程と、
前記電子ブロック層積層工程と、前記クラッド層積層工程と、の間に実行され、前記反応炉内への前記原料の供給を中断する第2中断工程と、
を備える紫外半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1中断工程を実行する時間は、2分間から5分間である請求項6に記載の紫外半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項8】
前記第2中断工程を実行する時間は、2分間から5分間である請求項6又は請求項7に記載の紫外半導体レーザ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紫外半導体レーザ素子、及び紫外半導体レーザ素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、紫外光のレーザ発振が可能な窒化物半導体素子が開示されている。このものは、上部ガイド層の表面に組成傾斜層及びp型半導体層をこの順に積層して結晶成長しており、上部ガイド層に近いp型半導体層の部位に、活性層から表面側に向かう電子をブロックする機能を付与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-184456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
p型半導体層における電子をブロックする機能は、上部ガイド層に近いp型半導体層の部位におけるAlNのモル分率をより高めることによって向上させ得る。詳しくは、上部ガイド層に近いp型半導体層の部位におけるAlNのモル分率をより高めることによって、この部位よりも上方に位置するp型半導体層と差別化することが有効であると考えられる。しかし、特許文献1のものは、上部ガイド層に近いp型半導体層の部位と、この部位よりも上方に位置するp型半導体層とにおけるAlNのモル分率がなだらかに連続している。つまり、特許文献1のものは、p型半導体層における電子をブロックする機能をより高める余地があると考えられる。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、品質が良好な紫外半導体レーザ素子、及び品質が良好な紫外半導体レーザ素子の製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の紫外半導体レーザ素子は、
活性層と、
前記活性層の表面に積層されたガイド層と、
前記ガイド層の表面に積層され、前記活性層側からの電子の流れを阻止する電子ブロック層と、
前記電子ブロック層の表面に積層されたクラッド層と、
を備えている。
【0007】
この構成によれば、電子ブロック層によって、活性層から表面に電子が流れることを良好に阻止することができる。
【0008】
第2発明の紫外半導体レーザ素子の製造方法は、
活性層の表面にガイド層を積層するガイド層積層工程と、
前記活性層側からの電子の流れを阻止する電子ブロック層を前記ガイド層の表面に積層する電子ブロック層積層工程と、
クラッド層を前記電子ブロック層の表面に積層するクラッド層積層工程と、
を備え、
更に、前記ガイド層積層工程と、前記電子ブロック層積層工程と、の間に実行され、反応炉内への原料の供給を中断する第1中断工程と、
前記電子ブロック層積層工程と、前記クラッド層積層工程と、の間に実行され、前記反応炉内への前記原料の供給を中断する第2中断工程と、を備える。
【0009】
この構成によれば、第1中断工程によって、電子ブロック層と、ガイド層と、の境界を明瞭に形成することができ、また、第2中断工程によって、電子ブロック層積層工程と、クラッド層との境界を明瞭に形成できるので、電子ブロック層の機能を良好に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の窒化物半導体発光素子の構造を示す模式図である。
図2】(A)は、実施例1の窒化物半導体発光素子におけるガイド層積層工程からクラッド層積層工程までの工程を示すタイムチャートであり、(B)は比較例1のサンプルにおけるガイド層積層工程からクラッド層積層工程までの工程を示すタイムチャートである。
図3】実施例1の窒化物半導体発光素子及び比較例1のサンプルの発光スぺクトルを示すグラフである。
図4】(A)は実施例1の窒化物半導体発光素子の第2ガイド層からクラッド層までの側断面を示す透過電子顕微鏡画像であり、(B)は、比較例1のサンプルの第2ガイド層からクラッド層までの側断面を示す透過電子顕微鏡画像である。
図5】(A)は実施例1の窒化物半導体発光素子の第2ガイド層からクラッド層までのAlN及びGaNのモル分率をエネルギー分散型X線解析法で解析した結果を示すグラフであり、(B)は比較例1のサンプルの第2ガイド層からクラッド層までのAlN及びGaNのモル分率をエネルギー分散型X線解析法で解析した結果を示すグラフである。
図6】実施例1の窒化物半導体発光素子、及び比較例1のサンプルの積層方向における伝導体下端のエネルギーを、デバイスシミュレータを用いて解析した結果を示すバンドダイアグラムである。
図7】実施例1の窒化物半導体発光素子、及び比較例1のサンプルの電流密度に対する注入効率の関係を、デバイスシミュレータを用いて解析した解析結果を示すグラフである。
図8】実施例1の窒化物半導体発光素子、及び比較例1のサンプルの電子ブロック層の厚みに対する注入効率の関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0012】
第1発明において、クラッド層におけるAlNのモル分率が、活性層から積層方向に離れる向きに小さくなるように組成傾斜し得る。この構成によれば、クラッド層を積層方向に良好に分極させることができ、これによって紫外半導体レーザ素子としての機能を良好に発揮させることができる。
【0013】
第1発明において、前記電子ブロック層のAlNのモル分率の最大値は、前記クラッド層のAlNのモル分率の最大値よりも0.05以上大きくし得る。この構成によれば、電子ブロック層とクラッド層とのAlNのモル分率の差を明瞭にできるので、電子ブロック層としての機能をより良好に発揮させることができる。
【0014】
第1発明において、前記電子ブロック層のAlNのモル分率の最大値は、前記ガイド層のAlNのモル分率の最大値よりも0.05以上大きくし得る。この構成によれば、電子ブロック層とガイド層とのAlNのモル分率の差を明瞭にできるので、電子ブロック層としての機能をより良好に発揮させることができる。
【0015】
第1発明において、積層方向における電子ブロック層の厚みは、5nm以上であり得る。この構成によれば、電子ブロック層としての機能を更により良好に発揮させることができる。
【0016】
第2発明において、第1中断工程を実行する時間は、2分間から5分間であり得る。この構成によれば、電子ブロック層と、ガイド層と、の境界をより明瞭に形成することができる。
【0017】
第2発明において、第2中断工程を実行する時間は、2分間から5分間であり得る。この構成によれば、電子ブロック層と、クラッド層と、の境界をより明瞭に形成することができる。
【0018】
次に、第1発明の紫外半導体レーザ素子、及び第2発明の紫外半導体レーザ素子の製造方法を具体化した実施例1について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
<実施例1>
実施例1の窒化物半導体発光素子1は、図1に示すように、サファイア基板10A、第1AlN層10B、第2AlN層11、u-AlGaN層12A、n-AlGaN層12B、第1ガイド層13A、二重量子井戸活性層13B、ガイド層である第2ガイド層13C、電子ブロック層14、クラッド層15、p-AlGaN層16、及びp-GaN層17を備えている。実施例1の窒化物半導体発光素子1は、MOVPE法(有機金属気相成長法)を用いて積層して結晶成長する。窒化物半導体発光素子1は、UV-Bの波長域の紫外線をレーザ発振する紫外半導体レーザ素子である。
【0020】
サファイア基板10AはC面((0001)面)が表面(表は図1における上側である、以下同じ)である。第1AlN層10Bは、サファイア基板10Aの表面に、スパッタ法を用いて積層される。第1AlN層10Bの厚みは450nmである。第1AlN層10Bを積層したところで、N2(窒素)雰囲気中で1700℃、3時間アニールを行う。こうして、サファイア基板10A、及び第1AlN層10Bを有するスパッタ法を用いたAlNテンプレート基板10を作製する。その後、MOVPE法を用いて層構造を形成する。
【0021】
MOVPE法を実行することができる反応炉(以下、単に、反応炉ともいう)内にAlNテンプレート基板10を配置し、AlNテンプレート基板10の表面(第1AlN層10Bの表面)にN(窒素)原料であるNH3(アンモニア)を流しながら(以下、供給は停止しない)、H2(水素)雰囲気中で、AlNテンプレート基板10の温度を1200℃まで昇温した後、10分間保持する。
【0022】
次に、第1AlN層10Bの表面に第2AlN層11を積層して結晶成長する。第2AlN層11の厚みは1550nmである。第2AlN層11は、AlNテンプレート基板10の温度を1200℃にした状態で、Al(アルミニウム)原料のTMAl(トリメチルアルミニウム)を反応炉内に供給して形成する。第1AlN層10Bと第2AlN層11との厚みの合計は2000nmである。
【0023】
[凸部形成工程について]
次に、第2AlN層11の表面に積層方向に柱状をなして延びる複数の凸部11Aを形成する凸部形成工程を実行する。具体的には、第2AlN層11の表面にスパッタ装置を用いてSiO2層を420nm積層させる。そして、SiO2層の表面にレジストを塗布してレジスト膜を形成した後に、ナノインプリント装置を用いて、ピッチ1000nm、外径500nmの微細なパターンをレジスト膜に形成する。この微細なパターンよりも外側の部分は、SiO2層の表面が露出する。そして、ICP装置を用いて、露出したSiO2層をCF4ガスにて誘導結合プラズマエッチングを実行し、続いて、バッファードフッ酸を用いて、SiO2層の残渣を除去する。そして、Cl2ガスを用いて、第2AlN層11の表面側を300nmの深さになるように誘導結合プラズマエッチングを施した。その後、マスクとして利用したSiO2層及びレジスト膜をフッ酸を用いて除去する。
こうして、凸部形成工程を実行する。
【0024】
次に、凸部11Aを形成した第2AlN層11の表面にu-AlGaN層12Aを積層して結晶成長させる。具体的には、凸部11Aを形成したAlNテンプレート基板10を再び反応炉に配置する。そして、AlNテンプレート基板10の温度を1200℃まで昇温し、所定の温度に達したら、AlNのモル分率が68%になるようにH2、Ga(ガリウム)の原料であるTMGa(トリメチルガリウム)、TMAl、NH3を反応炉内に供給する。反応炉内の圧力は、7kPaである。u-AlGaN層12Aの厚みは、3μmである。u-AlGaN層12Aの厚みを3μmにすることによって、凸部11Aが形成された第2AlN層11の表面を埋め込んで平坦化させることができる。u-AlGaN層12Aには、SiやMg等の不純物を添加していないが、u-AlGaN層12Aに変えて、Siなどをドーピングしたn-AlGaN層としても良い。ここで、u-AlGaN層12Aの厚みは、凸部11Aの基端からu-AlGaN層12Aの表面までの寸法である。
【0025】
次に、u-AlGaN層12Aの表面に、n-AlGaN層12Bを積層して結晶成長させる。具体的には、H2、TMGa、TMAl、NH3の反応炉内への供給を継続しつつ、SiH4を反応炉内に供給する。n-AlGaN層12BにおけるSiの添加濃度は6×1018cm-3になるように原料の供給流量を調整する。n-AlGaN層12Bの厚みは2μmである。n-AlGaN層12BのAlNのモル分率は、62%である。
【0026】
次に、n-AlGaN層12Bの表面に第1ガイド層13A、及び二重量子井戸活性層13Bをこの順に積層して結晶成長させる。具体的には、AlNテンプレート基板10の温度を1050℃まで降温し、反応炉内の圧力を30kPaにする。そして、TMGaからTEGa(トリエチルガリウム)に切り替える。そして、AlNテンプレート基板10の温度が所定の温度に達したら、50nmの厚みの第1ガイド層13A(AlNのモル分率は、45%)、4nmの厚みの井戸層(AlNのモル分率は、35%)及び8nmの厚みの障壁層(AlNのモル分率は、45%)が2組積層された二重量子井戸活性層13Bを積層させる。
【0027】
二重量子井戸活性層13Bを積層させた後、図2(A)に示すように、ガイド層積層工程、第1中断工程、電子ブロック層積層工程、第2中断工程、及びクラッド層積層工程を実行する。
【0028】
[ガイド層積層工程]
AlNテンプレート基板10の温度、及び反応炉内の圧力を、二重量子井戸活性層13Bを積層した条件に保持しつつ、活性層である二重量子井戸活性層13Bの表面に第2ガイド層13Cを積層して結晶成長させるガイド層積層工程を実行する。ガイド層積層工程において、第2ガイド層13CにおけるAlNのモル分率が45%となるように、反応炉内への原料の供給流量を調整する。ガイド層積層工程を10分間実行することによって、55nmの厚みの第2ガイド層13C(AlNのモル分率は、45%)を積層させる。
【0029】
[第1中断工程]
次に、反応炉内への原料の供給を中断する第1中断工程を実行する。具体的には、ガイド層積層工程を実行して第2ガイド層13Cの結晶成長が完了した後、原料であるIII属原料(TEGa、TMAl)の反応炉内への供給を停止し、V族原料であるNH3を供給する状態を2分間継続して結晶成長を中断する。
【0030】
[電子ブロック層積層工程]
次に、二重量子井戸活性層13B側からの電子の流れを阻止する電子ブロック層14を第2ガイド層13Cの表面に積層して結晶成長させる電子ブロック層積層工程を実行する。具体的には、第1中断工程を実行した後、反応炉内へのIII属原料の供給を再開して1.4分間保持する。つまり、第1中断工程は、ガイド層積層工程と、電子ブロック層積層工程と、の間に実行されるのである。電子ブロック層積層工程において、電子ブロック層14におけるAlNのモル分率が95%となるように、反応炉内への原料の供給流量を調整する。このときに供給を再開するIII属原料は、TMGa、及びTMAlである。こうして、第2ガイド層13Cの表面に、5nmの厚みの電子ブロック層14(AlNのモル分率は、95%)を積層させる。
【0031】
[第2中断工程]
次に、反応炉内への原料の供給を中断する第2中断工程を実行する。具体的には、電子ブロック層積層工程を実行して電子ブロック層14の結晶成長が完了した後、原料であるIII属原料(TMGa、TMAl)の反応炉内への供給を停止し、V族原料であるNH3を供給する状態を2分間継続して結晶成長を中断させる。第1中断工程及び第2中断工程において、III属原料(TEGa、TMGa、TMAl)の反応炉内への供給を停止し、V族原料であるNH3を供給する状態を継続する時間は、短すぎると中断する効果が弱まり、長すぎると結晶の劣化が懸念される。このため、第1中断工程及び第2中断工程において、III属原料の反応炉内への供給を停止し、V族原料であるNH3を供給する状態を継続する時間は、2分間から5分間であることが好ましい。つまり、第1中断工程及び第2中断工程の各々において実行する時間は、2分間から5分間であることが好ましい。
【0032】
[クラッド層積層工程]
次に、電子ブロック層14の表面にクラッド層15を積層して結晶成長させるクラッド層積層工程を実行する。具体的には、第2中断工程を実行後、反応炉内へのIII属原料の供給を再開する。つまり、第2中断工程は、ブロック層積層工程と、クラッド層積層工程と、の間に実行されるのである。クラッド層積層工程において、クラッド層15におけるAlNのモル分率が90%になるように、反応炉内への原料の供給流量を調整する。そして、22.2分間かけてAlNのモル分率が90%から60%に徐々に変化するように、反応炉内への原料の供給流量を調整する。こうして、電子ブロック層14の表面に320nmの厚みのクラッド層15を積層させる。こうして積層されたクラッド層15のAlNのモル分率は、二重量子井戸活性層13Bから積層方向に離れる向きに小さくなるように組成傾斜している(図5(A)参照)。
【0033】
次に、クラッド層15の表面に、p-AlGaN層16を積層して結晶成長させる。具体的には、クラッド層15の結晶成長が完了した後、7.1分間かけてAlNのモル分率が60%から0%に徐々に変化するように、反応炉内への原料の供給流量を調整する。こうして、クラッド層15の表面に75nmの厚みのp-AlGaN層16を積層させる。クラッド層15と、p-AlGaN層16とは、積層方向における単位厚み当たりのAlNのモル分率の変化の割合が異なっている。クラッド層15と、p-AlGaN層16とを一つの結晶層C(図1参照)として捉えると、結晶層Cの積層方向における単位厚み当たりのAlNのモル分率の変化の割合が積層方向に二段階に変化している。
【0034】
次に、p-AlGaN層16の表面に、図示しないP型電極とのコンタクト層であるp-GaN層17を積層して結晶成長させる。そして、TMGa、及びTMAlの反応炉内への供給を停止して、結晶成長を終了させ、H2とNH3を反応炉内に流しながら室温までAlNテンプレート基板10の温度を降温する。AlNテンプレート基板10の温度が室温になった後、反応炉のパージを十分行い、AlNテンプレート基板10を反応炉から取り出す。こうして、UV-Bの波長域の紫外線をレーザ発振することができるUV-B半導体レーザ構造を有する窒化物半導体発光素子1を、MOVPE法を用いて作製する。
【0035】
ここで、上記の工程のうち、第1中断工程、及び第2中断工程を実行せずに結晶成長させた比較例1のサンプルを作製した。具体的には、図2(B)に示すように、ガイド層積層工程を10分間実行して第2ガイド層13Cを積層した後、TEGaからTMGaに切り替えるとともに、直ちにAlNのモル分率が95%になるように反応炉内への原料の供給流量を調整し、電子ブロック層積層工程を1.4分間実行する。
【0036】
そして、電子ブロック層積層工程を実行して電子ブロック層14を積層した後、直ちにAlNのモル分率が90%になるように、反応炉内への原料の供給流量を調整し、クラッド層積層工程を22.2分間実行する。そして、クラッド層15の表面に、実施例1の窒化物半導体発光素子1と同様にp-AlGaN層16、及びp-GaN層17をこの順に積層して結晶成長させる。こうして、比較例1のサンプルをMOVPE法を用いて作製した。
【0037】
図3に示すように、実施例1の窒化物半導体発光素子1は、比較例1のサンプルに比べて、発光強度が強くあらわれることが分かった。
【0038】
図4、5に示すように、比較例1のサンプルは、第2ガイド層13Cとクラッド層15との間において、電子ブロック層14におけるAlが第2ガイド層13C側に拡散したプリング層Pが形成されており、電子ブロック層14とクラッド層15との境界が不明瞭となっている(図4(B)、図5(B)参照)。プリング層Pは、第2ガイド層13Cの一部である。更に、図5(B)に示すように、電子ブロック層14とクラッド層15との間において、積層方向にAlNのモル分率がなだらかに減少しており、電子ブロック層14とクラッド層15との境界の領域において、AlNのモル分率が急激に変化していない。
【0039】
これに対して、実施例1の窒化物半導体発光素子1は、プリング層Pが形成されているものの、電子ブロック層14とクラッド層15との境界が明瞭である。
【0040】
クラッド層15側のAlNのモル分率の最大値は、およそ87%である。電子ブロック層14のAlNのモル分率の最大値は、およそ95%である。したがって、電子ブロック層14のAlNのモル分率の最大値は、クラッド層15のAlNのモル分率の最大値よりも8%(すなわち、5%以上)大きい。
【0041】
第2ガイド層13C(プリング層Pを含む)のAlNのモル分率の最大値は、およそ85%である。したがって、電子ブロック層14のAlNのモル分率の最大値は、第2ガイド層13CのAlNのモル分率の最大値よりも10%(すなわち、5%以上)大きい。
【0042】
比較例1のサンプルにおいて、プリング層Pが形成され、且つ電子ブロック層14とクラッド層15との境界が不明瞭となっている原因は、クラッド層15の結晶成長の初期におけるAlNのモル分率が高いことが考えられる。しかし、クラッド層15の結晶成長の初期においてAlNのモル分率を高くすることは、分極ドーピング構造を作成するために必要である。
【0043】
これに対して、実施例1の窒化物半導体発光素子1のように第1中断工程、及び第2中断工程を実行することによって、クラッド層15の結晶成長の初期においてAlNのモル分率を高くしても、第2ガイド層13Cと電子ブロック層14との境界の領域、及び電子ブロック層14とクラッド層15との境界の領域において、AlNのモル分率を急激に変化させることができ、これによって、第2ガイド層13C及びクラッド層15との境界が明瞭な電子ブロック層14を形成できることがわかった。
【0044】
上記の実験結果に基づいて、デバイスシミュレータSiLENSeを用いて解析した解析結果について以下に説明する。図6における横軸は、結晶の積層方向を示し、縦軸は積層方向に対応する伝導帯下端のエネルギーを示す。図6における3150nm付近が電子ブロック層14に相当する位置である。図6に示すように、実施例1の窒化物半導体発光素子1は、比較例1のサンプルに比べて、電子ブロック層14におけるエネルギーが急峻に立ち上がっており、伝導体に高いエネルギー障壁が形成されることがわかった。これによって、n層側(図6における左側であり、サファイア基板10A側)から供給される電子がp層側(図6における右側であり、p-GaN層17側)に流出することを良好に阻止できることがわかった。
【0045】
図7は、電流密度に対する注入効率の関係をデバイスシミュレータSiLENSeを用いて解析した解析結果を示すグラフである。図7に示すように、実施例1の窒化物半導体発光素子1は、比較例1のサンプルに比べて、電流密度に対する注入効率がおよそ1.5倍高まっていることがわかった。この解析結果から、第1中断工程、及び第2中断工程を実行することによって、電流密度に対する注入効率の向上という効果が得られることがわかった。
【0046】
図8は、電子ブロック層14の厚みに対する注入効率の関係をプロットしたグラフである。図8に示すように、電子ブロック層14の厚みが5nm以上の場合、注入効率が、0.07よりも大きくなることがわかった。すなわち、電子ブロック層14の厚みが5nm以上の場合、注入効率が良好であることがわかった。なお、図8には、電子ブロック層14の厚みが50nmの場合の注入効率までをプロットしているが、電子ブロック層14の厚みが50nm以上であっても、注入効率が良好であると考えられる。なお、電子ブロック層14のAlNのモル分率の最大値は、第2ガイド層13C(プリング層Pも含む)のAlNのモル分率の最大値よりも5%以上必要であり、電子ブロック層14のAlNのモル分率の最大値は、クラッド層15のAlNのモル分率の最大値よりも5%以上必要であると考えられる。
【0047】
次に、上記実施例における作用を説明する。
【0048】
紫外半導体レーザ素子は、二重量子井戸活性層13Bと、二重量子井戸活性層13Bの表面に積層された第2ガイド層13Cと、第2ガイド層13Cの表面に積層され、二重量子井戸活性層13B側からの電子の流れを阻止する電子ブロック層14と、電子ブロック層14の表面に積層されたクラッド層15と、を備えている。この構成によれば、電子ブロック層14によって、二重量子井戸活性層13Bから表面に向かう電子の流れを阻止して、二重量子井戸活性層13Bを良好に発光させることができる。
【0049】
紫外半導体レーザ素子において、クラッド層15におけるAlNのモル分率が、二重量子井戸活性層13Bから積層方向に離れる向きに小さくなるように組成傾斜している。この構成によれば、クラッド層15を積層方向に良好に分極させることができ、紫外半導体レーザ素子としての機能を良好に発揮させることができる。
【0050】
紫外半導体レーザ素子において、電子ブロック層14のAlNのモル分率の最大値は、クラッド層15のAlNのモル分率の最大値よりも5%以上大きい。この構成によれば、電子ブロック層14とクラッド層15とのAlNのモル分率の差を明瞭にできるので、電子ブロック層14としての機能をより良好に発揮させることができる。
【0051】
紫外半導体レーザ素子において、電子ブロック層14のAlNのモル分率の最大値は、第2ガイド層13CのAlNのモル分率の最大値よりも5%以上大きい。この構成によれば、電子ブロック層14と第2ガイド層13CとのAlNのモル分率の差を明瞭にできるので、電子ブロック層14としての機能をより良好に発揮させることができる。
【0052】
紫外半導体レーザ素子において、積層方向における電子ブロック層14の厚みは、5nm以上である。この構成によれば、電子ブロック層14としての機能を更により良好に発揮させることができる。
【0053】
紫外半導体レーザ素子の製造方法は、二重量子井戸活性層13Bの表面に第2ガイド層13Cを積層するガイド層積層工程と、二重量子井戸活性層13B側からの電子の流れを阻止する電子ブロック層14を第2ガイド層13Cの表面に積層する電子ブロック層積層工程と、クラッド層15を電子ブロック層14の表面に積層するクラッド層積層工程と、を備え、更に、ガイド層積層工程と、電子ブロック層積層工程と、の間に実行され、反応炉内への原料の供給を中断する第1中断工程と、電子ブロック層積層工程と、クラッド層積層工程と、の間に実行され、反応炉内への原料の供給を中断する第2中断工程と、を備える。この構成によれば、第1中断工程によって、電子ブロック層14と、第2ガイド層13Cと、の境界を明瞭に形成することができ、また、第2中断工程によって、電子ブロック層14と、クラッド層15と、の境界を明瞭に形成することができるので、電子ブロック層14としての機能を良好に発揮させることができる。
【0054】
紫外半導体レーザ素子の製造方法において、第1中断工程を実行する時間は、2分間から5分間である。この構成によれば、電子ブロック層14と、第2ガイド層13Cと、の境界をより明瞭に形成することができる。
【0055】
紫外半導体レーザ素子の製造方法において、第2中断工程を実行する時間は、2分間から5分間である。この構成によれば、電子ブロック層14と、クラッド層15と、の境界をより明瞭に形成することができる。
【0056】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1では、n型不純物としてSiを添加してn-AlGaN層としているが、これに限らず、n型不純物である、Ge、Te等であっても良い。また、p型不純物としてMg、Zn,Be、Ca、Sr、及びBa等を添加して、p-AlGaN層としてもよい。また、初期にu-AlGaN層を成長し、その後にn-AlGaN層を用いる構造でも良い。
(2)実施例1ではサファイア基板を使用しているが、AlN基板等の他の基板にAlN層を積層して結晶成長しても良い。
(3)実施例1では、スパッタで作製したAlN層を含めているが、スパッタに変えて、MOVPE成長のAlN層のみでも良い。
(4)実施例1では、下地層に凸部を形成しているが、凸部を形成せずフラットな下地構造でも良い。
【符号の説明】
【0057】
1…窒化物半導体発光素子(紫外半導体レーザ素子)
13B…二重量子井戸活性層(活性層)
13C…第2ガイド層(ガイド層)
14…電子ブロック層
15…クラッド層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8