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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121464
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】吸水シート、遮水設備
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20230824BHJP
   B09B 1/00 20060101ALI20230824BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20230824BHJP
   B01J 20/12 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
B32B27/00 B
B09B1/00 F
B01J20/26 D
B01J20/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024824
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(72)【発明者】
【氏名】黒川 晋平
【テーマコード(参考)】
4D004
4F100
4G066
【Fターム(参考)】
4D004BB05
4F100AC03B
4F100AK01D
4F100AK25B
4F100AK54B
4F100AT00A
4F100AT00C
4F100AT00E
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA10E
4F100DG15A
4F100DG15C
4F100JB06E
4F100JD15
4F100JD15B
4F100JL12D
4G066AA64B
4G066AC17B
4G066AC22B
4G066BA03
4G066BA05
4G066BA11
4G066BA16
4G066BA36
4G066CA43
4G066DA07
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】本発明は無機塩類の塩濃度が高くても漏水防止効果が損なわれにくい漏水設備が得られる吸水シートを提供する。
【解決手段】本発明の吸水シートは2層の基材シートの間に吸水性材料を有し、吸水性材料は、ポリアクリル酸ナトリウムおよびベントナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種である吸水性材料Aと、ポリアルキレンオキシドである吸水性材料Bと、を含み、吸水性材料Bに対する前記吸水性材料Aの質量比が20/80~99/1である;本発明の遮水設備は本発明の吸水シートと、吸水シートの基材シートの外側に配置される遮水シートとを備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層の基材シートの間に吸水性材料を有する吸水シートであって、
前記吸水性材料は、ポリアクリル酸ナトリウムおよびベントナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種である吸水性材料Aと、ポリアルキレンオキシドである吸水性材料Bと、を含み、
前記吸水性材料Aに対する前記吸水性材料Bの質量比が、20/80~99/1である、吸水シート。
【請求項2】
前記基材シートが、不織布である、請求項1に記載の吸水シート。
【請求項3】
前記吸水性材料Aおよび前記吸水性材料Bの単位面積当たりの合計含有量が、100g/cm以上である、請求項1または2に記載の吸水シート。
【請求項4】
前記吸水性材料の少なくとも一部が、熱融着性樹脂によって前記基材シートに接着されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の吸水シート。
【請求項5】
前記熱融着性樹脂の含有量が、前記吸水性材料Aおよび前記吸水性材料Bの合計含有量に対して3~80質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の吸水シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の吸水シートと、
前記吸水シートの前記基材シートの外側に配置される遮水シートと、
を備える、遮水設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水シート、遮水設備に関する。
【背景技術】
【0002】
海岸、河川等の護岸、廃棄物処分場、地下構造物、貯水池等において、地盤への漏水等の防止のために遮水シートが採用されることがある。遮水シートに関しては、表面に穴があいても漏水等が起きないように2層の基材シートの間に高吸水性樹脂を配合した吸水シートの使用が提案されている(例えば、特許文献1)。吸水シートの高吸水性樹脂が漏水した水を吸収し、膨潤することで遮水シートの表面にあいた穴を塞ぎ、地盤への漏水等を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-52323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、例えば、廃棄物処分場においては、無機塩類を含む水の漏水等の防止が求められている。しかし、従来、高吸水性樹脂として広く使用されてきたポリアクリル酸系樹脂は真水に対しては優れた吸水性を示す一方、高濃度で無機塩類を含む水、特に2価の陽イオンを含む水に対しては吸水性が著しく低下する。そのため、無機塩類の塩濃度が高くなると、樹脂の膨潤が不充分となり、漏水防止効果が損なわれる恐れがある。
【0005】
本発明は、無機塩類の塩濃度が高くても漏水防止効果が損なわれにくい漏水設備が得られる吸水シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]2層の基材シートの間に吸水性材料を有する吸水シートであって;前記吸水性材料は、ポリアクリル酸ナトリウムおよびベントナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種である吸水性材料Aと、ポリアルキレンオキシドである吸水性材料Bと、を含み;前記吸水性材料Aに対する前記吸水性材料Bの質量比が、20/80~99/1である、吸水シート。
[2]前記基材シートが、不織布である、[1]の吸水シート。
[3]前記吸水性材料Aおよび前記吸水性材料Bの単位面積当たりの合計含有量が、100g/cm以上である、[1]または[2]の吸水シート。
[4]前記吸水性材料の少なくとも一部が、熱融着性樹脂によって前記基材シートに接着されている、[1]~[3]のいずれかの吸水シート。
[5]前記熱融着性樹脂の含有量が、前記吸水性材料Aおよび前記吸水性材料Bの合計含有量に対して3~80質量%である、[1]~[4]のいずれかの吸水シート。
[6][1]~[5]のいずれかの吸水シートと;前記吸水シートの前記基材シートの外側に配置される遮水シートと;を備える、遮水設備。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、無機塩類の塩濃度が高くても漏水防止効果が損なわれにくい漏水設備が得られる吸水シートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
本明細書に開示の数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせて新たな数値範囲とすることができる。
【0009】
<吸水シート>
本発明の吸水シートは、2層の基材シートの間に吸水性材料を有する。
【0010】
(基材シート)
基材シートは、吸水性材料を面状に配置するためのシート状の基材である。例えば、編布、織布、不織布、多孔質フィルム、紙が挙げられる。なかでも、強度、量産性の点から不織布が好ましい。
基材シートは、透水性、すなわち、水分子が透過する性質を具備する透水性シートであってもよい。
【0011】
基材シートの材質は特に限定されない。例えば、編布、織布、不織布の場合、繊維としては天然繊維でもよく、人工繊維でもよい。フィルムの場合、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルムが挙げられる。フィルムは多孔質フィルムであってもよい。
天然繊維としては、例えば、パルプ、故紙、紙、木綿、麻、わら、竹、おがくずのようなセルロース系の植物繊維;絹、羊毛のような動物繊維;が挙げられる。
人工繊維としては、例えば、アセテート、レーヨンのようなセルロース系の合成繊維でもよく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、アクリル、ポリアミドのような樹脂繊維でもよく、ガラス繊維、石英繊維のような無機繊維でもよい。
基材シートの材質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、繊維は単糸でもよく、マルチフィラメントでもよく、芯鞘構造の繊維でもよい。
【0012】
基材シートの厚みは特に限定されない。基材シートの厚みは、例えば、0.2~10mmが好ましく、0.5~5mmがより好ましく、1~3mmがさらに好ましい。基材シートの厚みが前記数値範囲の下限値以上であると、機械的特性が優れる。基材シートの厚みが前記数値範囲の上限値以下であると、吸水性材料Aおよび吸水性材料Bの吸水による膨潤圧が得られやすい。そのため、遮水シートの表面にあいた穴を塞ぎやすく、地盤への漏水等を防止しやすい。
基材シートの厚みは、定圧厚さ測定器を使用して、測定子直径30mm、測定可重圧20g/cmの条件下で測定される。
【0013】
2層の基材シートは互いに同一の構成であってもよく、異なっていてもよい。例えば、基材シートが不織布である場合、2層の不織布の繊維材質、繊維形態、繊維径、繊維長、目付、厚さ等の性状は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0014】
(吸水性材料)
吸水性材料は、特定の吸水性材料Aと特定の吸水性材料Bとを含む。
吸水性材料Aは、ポリアクリル酸ナトリウムおよびベントナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種である。そのため、吸水性材料Aは真水に対して優れた吸水性を示す。また、吸水性材料Aは真水に対する膨潤率が高い。
【0015】
ポリアクリル酸ナトリウム、ベントナイトとしては、市販品を用いてもよい。
ポリアクリル酸ナトリウムの市販品としては、例えば、日本触媒社製品「アクアリック」、住友精化社製品「アクアキープ」、三洋化成工業社製品「サンウエット」が挙げられる。ポリアクリル酸ナトリウムは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ベントナイトの市販品としては、例えば、日本ベントナイト工業社製品「M-1」、ホージュン社製品「スーパークレー」、黒崎白土工業社製品「オドソルブ」が挙げられる。ベントナイトは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
吸水性材料Bはポリアルキレンオキシドである。ポリアルキレンオキシドは、吸水性材料Aと比較して高濃度で無機塩類を含む水や2価の陽イオンを含む水に対しても相対的に高い吸水性および膨潤率を示す。そのため、吸水性材料Bは無機塩類の塩濃度が高くても充分に膨潤することができる。
【0017】
ポリアルキレンオキシドとしては、入手のしやすさの点でポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドが好ましく、ポリエチレンオキシドがより好ましい。
ポリアルキレンオキシドとして、市販品を用いてもよい。ポリエチレンオキシドの市販品、ポリプロピレンオキシドの市販品は、例えば、住友精化株式会社、AGC株式会社から入手可能である。
ポリアルキレンオキシドは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
吸水性材料Aに対する吸水性材料Bの質量比(B/A)は、20/80~99/1である。
前記質量比(B/A)が20/80以上であるため、吸水性材料Aの配合比が充分に高い。よって、真水や微量の無機塩類を含む水に対する吸水シートの膨潤率を充分に確保できる。
前記質量比(B/A)が99/1以下であるため、吸水性材料Bの配合比が充分に高い。よって、高濃度で無機塩類を含む水や2価の陽イオンを含む水に対しても充分な膨潤率を確保できる。
【0019】
前記質量比(B/A)は30/70以上が好ましい。前記質量比(B/A)が30/70以上であると、真水や無機塩類を極低濃度で含む水に対して高い膨潤率を維持しつつ、高濃度の無機塩類を含む水に対しても高い膨潤率を確保しやすい。
【0020】
前記質量比(B/A)は90/10以下が好ましく、80/20以下がより好ましく、60/40以下がさらに好ましく、40/60以下が特に好ましい。
前記質量比(B/A)が90/10以下であると、吸水シートの真水に対する膨潤率が非常に高くなる。加えて、高濃度で無機塩類を含む水や2価の陽イオンを含む水に対し、吸水シートに実用上求められる膨潤率を維持しやすい。
前記質量比(B/A)が80/20以下であると、吸水シートの真水に対する膨潤率が高くなる。加えて、高濃度で無機塩類を含む水や2価の陽イオンを含む水に対し、充分な膨潤率を確保しやすい。
前記質量比(B/A)が60/40以下であると、吸水シートの真水に対する高い膨潤率を維持しつつ、高濃度で無機塩類を含む水や2価の陽イオンを含む水に対しても高い膨潤率を確保しやすい。
【0021】
吸水性材料Aおよび吸水性材料Bの単位面積当たりの合計含有量は30g/cm以上が好ましく、100~1000g/cmがより好ましく、300~600g/cmがさらに好ましい。吸水性材料Aおよび吸水性材料Bの単位面積当たりの合計含有量が前記数値範囲の下限値以上であると、吸水シートの膨潤率を充分に確保しやすい。吸水性材料Aおよび吸水性材料Bの単位面積当たりの合計含有量が前記数値範囲の上限値以下であると、吸水シートの生産コストを低減しやすい。
【0022】
吸水性材料は、発明の効果を損なわない範囲内であれば、吸水性材料Aおよび吸水性材料B以外のその他の吸水性材料をさらに含んでもよい。
その他の吸水性材料としては、例えば、セルロース-アクリルニトリル重合体、デンプン-アクリルニトリル重合体、アクリル酸-ビニルアルコール共重合体、アクリル酸-アクリルアミド共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体が挙げられる。
【0023】
吸水性材料Aおよび吸水性材料Bの合計割合は、吸水シート中の吸水性材料100質量%に対して20~100質量%が好ましく、50~100質量%がより好ましく、100質量%であることが最も好ましい。吸水性材料Aおよび吸水性材料Bの合計割合が前記数値範囲の下限値以上であると、高濃度で無機塩類を含む水に対しても充分に膨潤する吸水シートが得られやすい。吸水性材料がその他の吸水性材料を含む場合において、吸水性材料Aおよび吸水性材料Bの合計割合が前記数値範囲の上限値以下であると、その他の吸水性材料によって吸水性、膨潤率を調節しやすい。
【0024】
(熱融着性樹脂)
従来の遮水シート、例えば、特許文献1に記載の土木用遮水シートにおいては、第1、第2シート状基材をニードルパンチにより縫合して形成した複合シート状物の中に高吸水性樹脂が担持されている。そのため、シートを敷設する際に高吸水性樹脂が脱落しやすい。結果、作業性が低下し、また、吸水性能も損なわれるおそれがある。
これに対し、本発明の吸水シートにおいては、吸水性材料の少なくとも一部が熱融着性樹脂によって基材シートに接着されていることが好ましい。吸水性材料の少なくとも一部が熱融着性樹脂によって基材シートに接着されている構成によれば、吸水性材料Aおよび吸水性材料Bを含む吸水性材料が、敷設する際に吸水シートから脱落しにくい。結果、作業性が向上し、また、吸水性材料の脱落による吸水性能の低下を防止できる。
【0025】
熱融着性樹脂は、吸水シートを製造する際に加熱オーブンで熱接着性を示す熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。熱融着性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、スチレン-アクリル樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ポリ乳酸樹脂が挙げられる。
熱融着性樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
熱融着性樹脂の含有量は、吸水性材料Aおよび吸水性材料Bの合計含有量に対して3~80質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、20~40質量%がさらに好ましい。熱融着性樹脂の含有量が前記数値範囲の下限値以上であると、熱融着性樹脂による接着効果が発現しやすい。熱融着性樹脂の含有量が前記数値範囲の上限値以下であると、吸水シートの膨潤率が熱融着性樹脂によって影響されにくい。
【0027】
量産性の点から、熱融着性樹脂としては吸水シートの製造時に繊維状の熱可塑性樹脂が他の材料と熱接着するように用いることが好ましい。熱融着性樹脂の繊維は単糸でもよく、マルチフィラメントでもよく、芯鞘構造の繊維でもよい。芯鞘構造の繊維としては、例えば、以下のものが挙げられる。
・芯部にポリプロピレンを有し、かつ、鞘部にポリエチレンを有する、ポリプロピレン/ポリエチレン芯鞘繊維。
・芯部にポリエステルを有し、かつ、鞘部にポリエチレンを有する、ポリエステル/ポリエチレン芯鞘繊維。
・芯部にポリエステルを有し、かつ、鞘部に低融点ポリエステルを有する、ポリエステル/低融点ポリエステル芯鞘繊維。
なかでも、熱融着したときの接着性に優れる点からポリエステル/ポリエチレン芯鞘繊維、ポリプロピレン/ポリエチレン芯鞘繊維が好ましい。
芯鞘構造の繊維を用いる場合、熱融着性樹脂の含有量には、芯部の樹脂と鞘部の樹脂の合計量を含める。
【0028】
芯鞘繊維として市販品を用いてもよい。
ポリプロピレン/ポリエチレン芯鞘繊維の市販品としては、例えば、ダイワボウホールディングス社製品「NBF」が挙げられる。
ポリエステル/ポリエチレン芯鞘繊維の市販品としては、例えば、ESファイバービジョンズ社製品「ETC」が挙げられる。
ポリエステル/低融点ポリエステル芯鞘繊維の市販品としては、例えば、ユニチカ社製品「メルティー」が挙げられる。
【0029】
(吸水シートの性状)
吸水シートの厚みは特に限定されない。吸水シートの厚みは、例えば、1~20mmが好ましく、2~10mmがより好ましく、3~6mmがさらに好ましい。吸水シートの厚みが前記数値範囲の下限値以上であると、吸水シートが機械的特性に優れる。吸水シートの厚みが前記数値範囲の上限値以下であると、吸水性材料Aおよび吸水性材料Bの吸水による膨潤圧が得られやすい。そのため、遮水シートの表面にあいた穴を塞ぎやすく、地盤への漏水等を防止しやすい。
吸水シートの厚みは、定圧厚さ測定器を使用して、測定子直径30mm、測定可重圧20g/cmの条件下で測定される。
【0030】
吸水シートの坪量は30g/m以上が好ましく、200~2000g/mがより好ましく、800~1200g/mがさらに好ましい。吸水シートの坪量が前記数値範囲の下限値以上であると、吸水シートが機械的特性に優れる。吸水シートの坪量が前記数値範囲の上限値以下であると、シートを敷設する際の作業性が優れる。
吸水シートの坪量は、120mm×417mmのサンプルについて、23℃、50%RH雰囲気下で4時間以上調湿した後、重量を重量計で測定した後、平米換算して測定される値である。
【0031】
吸水シートの透水係数は5×10-9m/s以下が好ましく、5×10-10m/s以下がより好ましく、5×10-11m/s以下がさらに好ましい。吸水シートの透水係数が前記数値範囲の上限値以下であると、吸水シートが遮水性能に優れる。
吸水シートの透水係数は、JIS A 1218(日本工業規格「土の透水試験方法」)に準拠して測定される値である。
【0032】
吸水シートのJBAS-104-77に準拠した膨潤率は24ml/2g以上が好ましく、30ml/2g以上がより好ましく、50ml/2g以上がさらに好ましい。JBAS-104-77に準拠した膨潤率が前記数値範囲の下限値以上であると、吸水シートが蒸留水に対して優れた膨潤性能を示すと言える。JBAS-104-77に準拠した膨潤率の上限値は高いほどよく、特に限定されない。
JBAS-104-77に準拠した膨潤率は、日本ベントナイト工業会「標準試験法」に準拠して測定される値である。
【0033】
吸水シートの粉落ち量は2.0g以下が好ましく、1.0g以下がより好ましく、0.5g以下がさらに好ましい。吸水シートの粉落ち量が前記下限値以上であると、吸水シートを敷設する際の作業性が向上しやすい。また、吸水性材料の脱落による吸水性能の低下を防止しやすい。吸水シートの粉落ち量は少ないほどよく、その下限値は何ら限定されない。
吸水シートの粉落ち量は、以下の通り測定される値である。すなわち、100mm×100mmの大きさの正方形にカットした吸水シートの四隅の一角をつまみ、トレーの上方に吊るし、トレーの上方に吊るした吸水シートの中央部分を軽く指で10回叩く。その後、吸水シートの四隅のつまむ位置(一角)を変え、同様にトレーの上方に吊るした吸水シートの中央部分を軽く指で10回叩く操作を繰り返す。すべての四隅で吊るして指で叩いた後、すなわち、合計40回たたいた後のトレー上に脱落した粉体の量を粉落ち量とする。
【0034】
吸水シートの引張強度は1kN/m以上が好ましく、10kN/m以上がより好ましく、20kN/m以上がさらに好ましい。吸水シートの引張強度が前記下限値以上であると、吸水シートが機械的特性に優れる。吸水シートの引張強度の上限値は特に限定されない。例えば、40kN/m程度である。
吸水シートの引張強度は、JIS L1908に準拠して測定される値である。
【0035】
(製法)
吸水シートの製造方法は特に限定されない。例えば、2層の基材シートの間に吸水性材料および熱可塑性樹脂を配置する。その後、加熱オーブンを通過させ、熱溶融した熱可塑性樹脂により2層の基材シートの間に吸水性材料を担持させることで、吸水シートを製造できる。
加熱の際には、吸水性材料に加えて、熱融着性樹脂を吸水性材料とともに2層の基材シートの間に分散させることが好ましい。この場合、吸水性材料の少なくとも一部を熱融着性樹脂によって基材シートに接着させることができる。例えば、コンベア上の1層の基材シートの表面に吸水性材料Aおよび吸水性材料B、必要に応じて熱融着性樹脂を分散させ、もう1層の基材シートを積層した後、加熱オーブンを通過させる方法が挙げられる。
熱融着性樹脂を用いる場合、2層の基材シートが熱融着性樹脂によって互いに接着し、かつ、吸水性材料の少なくとも一部が熱融着性樹脂によって基材シートに接着した吸水シートが加熱処理によって得られる。
【0036】
(作用機序)
以上説明した吸水シートは2層の基材シートの間に吸水性材料を有するため、シートに穴があいたときに水が基材シートを透過して吸水性材料と接触することで、吸水性材料が膨潤して遮水シートの穴を塞ぐことができる。
ここで、吸水性材料Aは真水に対して優れた吸水性を示し、また、充分に膨潤することができる。一方、吸水性材料B、すなわち、ポリアルキレンオキシドは高濃度で無機塩類を含む水や2価の陽イオンを含む水に対しても相対的に高い吸水性を示して充分に膨潤することができる。
本発明の吸水シートは吸水性材料Bに対する吸水性材料Aの質量比が所定の範囲内であるため、吸水性材料Aおよび吸水性材料Bの各配合量が充分に確保される。よって、本発明の吸水シートは真水に対しても高濃度で無機塩類を含む水に対しても充分に膨潤することができる。したがって、本発明の吸水シートによれば、無機塩類の塩濃度が高くても漏水防止効果が損なわれにくい漏水設備が得られる。
【0037】
<遮水設備>
本発明の遮水設備は、上述した本発明の吸水シートと、吸水シートの基材シートの外側に配置される遮水シートとを備える。本発明の遮水設備は本発明の吸水シートを備えるため、無機塩類の塩濃度が高くても吸水シートが充分に膨潤する。よって、本発明の遮水設備は漏水防止効果が損なわれにくい。
【0038】
(遮水シート)
遮水シートは遮水性、すなわち、水分子の透過を阻止する性質を具備するシート状の基材であれば特に限定されない。例えば、ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート、ポリエステルシート、塩化ビニルシート、ゴムシート、アスファルト系シート、ゴムアスファルト系シートが挙げられる。
【0039】
遮水設備は1つの遮水シートを備えてもよく、複数の遮水シートを備えてもよい。複数の遮水シートを備える場合、複数の遮水シートは互いに同一であってもよく、異なってもよい。また、遮水シートは吸水シートの両側の表面に配置されてもよく、片側の表面に配置されてもよい。
【0040】
(保護シート)
遮水設備は本発明の吸水シートおよび遮水シート以外に1または複数の保護シートをさらに備えてもよい。
複数の保護シートを備える場合、複数の保護シートは互いに同一であってもよく、異なってもよい。
【0041】
保護シートは吸水シートや遮水シートを破損から保護するためのシートである。保護シートとしては、例えば、編布、織布、不織布が挙げられる。強度の点から保護シートとしては、スパンボンド不織布等の長繊維不織布が好ましい。
保護シートの材質は特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、塩化ビニル、及びこれらの材質の複合材が挙げられる。
【0042】
保護シートは、本発明の吸水シートと接して配置されてもよい。この場合、吸水シート、保護シートおよび遮水シートがこの順に積層された積層構造を遮水設備として形成できる。
保護シートは、遮水シートを介して吸水シートの外側に配置されてもよい。この場合、吸水シート、遮水シートおよび保護シートがこの順に積層された積層構造を遮水設備として形成できる。
【0043】
複数の保護シートを備える場合、一部の保護シートが吸水シートと接して配置され、残部の保護シートが遮水シートを介して吸水シートの外側に配置されてもよい。
また、すべての保護シートが吸水シートと接して配置されてもよく、すべての保護シートが遮水シートを介して吸水シートの外側に配置されてもよい。また、保護シート同士を重ねて用いてもよい。
<実験例>
【0044】
以下、実験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0045】
<原料>
(吸水性材料A)
・吸水性材料A1:ポリアクリル酸ナトリウム(王子キノクロス株式会社製品「SA-GM」)
【0046】
(吸水性材料B)
・吸水性材料B1:ポリエチレンオキサイド(住友精化株式会社製品「アクアコークTWP」)
【0047】
<吸水性試験>
表1に示す各配合の粉体を調製した。これら各粉体について、イオン交換水、0.9質量%の塩化カルシウム水溶液、8.1質量%の塩化カルシウム水溶液のそれぞれに対する吸水性を試験した。
まず試験袋を用意し、試験袋内に試験サンプルの粉体を投入した。次いで、イオン交換水、0.9質量%の塩化カルシウム水溶液または8.1質量%の塩化カルシウム水溶液を試験袋内に注ぎ、1時間後、3時間後、24時間後の袋の質量を測定した。各配合の粉体の質量基準の膨潤率(倍)を表2に示した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
配合1は吸水性材料B1を含まない。配合1は、イオン交換水を用いた試験で高い膨張率を示した。
しかしながら、0.9質量%の塩化カルシウム水溶液を用いた試験、および8.1質量%の塩化カルシウム水溶液を用いた試験では膨潤率が著しく低かった。この結果は、配合1を吸水シートに採用した場合、高濃度で無機塩類を含む水に対して充分な吸水性が得られないことを示している。加えて、この吸水シートを遮水設備に採用した場合、充分な漏水防止効果が得られない場合があることを示している。
【0051】
配合2では、吸水性材料A1に対する吸水性材料B1の質量比(B1/A1)が20/80である。配合2は、イオン交換水を用いた試験で高い膨張率を示した。また、0.9質量%の塩化カルシウム水溶液を用いた試験、および8.1質量%の塩化カルシウム水溶液を用いた試験において、1時間後では配合1の1.5倍、3時間後および24時間後では配合1の2倍の膨潤率を示した。
この結果は、配合2を採用した吸水シートおよび遮水設備によれば、配合1に比べて顕著な改善効果が得られることを示している。
【0052】
配合3では、吸水性材料A1に対する吸水性材料B1の質量比(B1/A1)が40/60である。配合3は、イオン交換水を用いた試験で高い膨張率を維持していた。また、0.9質量%の塩化カルシウム水溶液を用いた試験、および8.1質量%の塩化カルシウム水溶液を用いた試験において、配合2よりもさらに高い膨潤率を示した。
この結果は、配合3を採用した吸水シートおよび遮水設備によれば、配合1に比べてさらに顕著な改善効果が得られることを示している。
【0053】
配合4では、吸水性材料A1に対する吸水性材料B1の質量比(B1/A1)が60/40である。配合4は、イオン交換水を用いた試験で膨張率が配合1に比べて低下してはいるが、遮水設備に充分適用できる性能が維持されている。また、0.9質量%の塩化カルシウム水溶液を用いた試験、および8.1質量%の塩化カルシウム水溶液を用いた試験において、配合3よりもさらに高い膨潤率を示した。
この結果は、配合4を採用した吸水シートを遮水設備に用いることで、真水に対する遮水性および高濃度の無機塩類を含む水に対する遮水性の両方をバランスよく実現できることを示している。
【0054】
配合5では、吸水性材料A1に対する吸水性材料B1の質量比(B1/A1)が80/20である。配合5では、イオン交換水を用いた試験で膨張率が配合1に比べて低下してはいるが、遮水設備に適用できる性能は維持されている。また、0.9質量%の塩化カルシウム水溶液を用いた試験、および8.1質量%の塩化カルシウム水溶液を用いた試験において、配合4よりもさらに高い膨潤率を示した。
この結果は、配合5を採用した吸水シートを遮水設備に用いることで、真水に対する遮水性および高濃度の無機塩類を含む汚染水が発生しやすい場所に適した遮水設備を実現できることを示している。真水に対するさらなる吸水性が求められる場合には、コストアップとなるが、吸水シート単位面積あたりの吸水材料の使用量を上げることで求められる吸水性能を得ることも可能である。
【0055】
配合6は吸水性材料A1を含まない。配合6では、イオン交換水に対する膨張率が低く、配合6を採用して得られる吸水シートは吸水性が低く、遮水シートへの適用が困難である。
配合6の場合、吸水シート単位面積あたりの吸水材料の使用量を上げて求められる吸水性能を得ようとすると吸水シート自体の強度が低下する。よって、遮水設備施工時に吸水シートの破損が生じる可能性が高いと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、無機塩類の塩濃度が高くても漏水防止効果が損なわれにくい漏水設備が得られる吸水シートが提供される。