(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121502
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】光電変換素子、及び光電変換層の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20230824BHJP
【FI】
H01L31/04 112A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024874
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128141
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 岳仁
(72)【発明者】
【氏名】福本 正
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA11
5F151DA07
5F151FA04
5F151FA06
(57)【要約】
【課題】キャリアの移動度を向上させる光電変換素子を提供する。
【解決手段】、本発明の光電変換素子は、第一の電極及び第二の電極と、前記第一の電極と前記第二の電極の間に位置する光電変換層と、を備え、前記光電変換層は、第一のn型半導体及び、第二のn型半導体を含むn型半導体領域と、p型半導体を含み、前記n型半導体領域に連続するp型半導体領域と、を有し、前記第二のn型半導体は、前記第一のn型半導体よりも電子移動度が大きい金属酸化物により構成され、前記n型半導体領域は、前記第一のn型半導体により構成されるn型側主領域と、前記第二のn型半導体により構成される複数のn型側従領域と、を有し、複数の前記n型側従領域は、それぞれ前記n型側主領域が延びる延在方向に間隔を空けて前記n型側主領域に連続するように配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極及び第二の電極と、
前記第一の電極と前記第二の電極の間に位置する光電変換層と、
を備え、
前記光電変換層は、
第一のn型半導体及び、第二のn型半導体を含むn型半導体領域と、
p型半導体を含み、前記n型半導体領域に連続するp型半導体領域と、
を有し、
前記第二のn型半導体は、前記第一のn型半導体よりも電子移動度が大きい金属酸化物(以下、n型側金属酸化物と呼ぶ。)により構成され、
前記n型半導体領域は、
前記第一のn型半導体により構成されるn型側主領域と、
前記第二のn型半導体により構成される複数のn型側従領域と、
を有し、
複数の前記n型側従領域は、それぞれ前記n型側主領域が延びる延在方向に間隔を空けて前記n型側主領域に連続するように配置されることを特徴とする、
光電変換素子。
【請求項2】
前記第一のn型半導体は、電子受容性を有する金属化合物(以下、n型側金属化合物と呼ぶ。)により構成され、
前記第一のn型半導体としての前記n型側金属化合物に含まれる金属と、前記第二のn型半導体としての前記n型側金属酸化物に含まれる金属は、異なる種類の金属であることを特徴とする、
請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記第一のn型半導体としての前記n型側金属化合物は、チタンアルコキシドを含み、
前記第二のn型半導体としての前記n型側金属酸化物は、酸化亜鉛及び酸化チタンのうち少なくとも1種類を含むことを特徴とする、
請求項2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記n型側主領域は、非晶質な領域のみで構成されるか、又は非晶質な領域の方が結晶質な領域よりも多く占めるように構成され、
前記n型側従領域は、結晶質な領域のみで構成されるか、又は、結晶質な領域の方が非晶質な領域よりも多く占めるように構成されることを特徴とする、
請求項1~3のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記光電変換層は、前記第一のn型半導体、前記第二のn型半導体、及び前記p型半導体を含むバルクヘテロ接合構造を有し、
前記第二のn型半導体としての前記n型側金属酸化物は、前記光電変換層の厚みの1/5以下の粒子径を有するナノ粒子として構成されることを特徴とする、
請求項1~4のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記p型半導体領域は、前記p型半導体とは異なる第二のp型半導体を含み、
前記第二のp型半導体は、前記p型半導体よりも正孔移動度が大きい金属酸化物(以下、p型側金属酸化物と呼ぶ。)により構成され、
前記p型半導体領域は、
前記p型半導体により構成されるp型側主領域と、
前記第二のp型半導体により構成される複数のp型側従領域と、
を有し、
複数の前記p型側従領域は、それぞれ前記p型側主領域が延びる延在方向に間隔を空けて前記p型側主領域に連続するように配置されることを特徴とする、
請求項1~5のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記光電変換層は、前記第一のn型半導体、前記第二のn型半導体、前記p型半導体、及び前記第二のp型半導体を含むバルクヘテロ接合構造を有し、
前記第二のp型半導体としての前記p型側金属酸化物は、前記光電変換層の厚みの1/5以下の粒子径を有するナノ粒子として構成されることを特徴とする、
請求項6に記載の光電変換素子。
【請求項8】
第一の電極及び第二の電極と、
前記第一の電極と前記第二の電極の間に位置する光電変換層と、
を備え、
前記光電変換層は、
n型半導体により構成されるn型半導体領域と、
第一のp型半導体及び、第二のp型半導体を含み、前記n型半導体領域に連続するp型半導体領域と、
を有し、
前記第二のp型半導体は、前記第一のp型半導体よりも正孔移動度が大きい金属酸化物(以下、p型側金属酸化物と呼ぶ。)により構成され、
前記p型半導体領域は、
前記第一のp型半導体により構成される主領域と、
前記第二のp型半導体により構成される複数の従領域と、
を有し、
複数の前記従領域は、それぞれ前記主領域が延びる延在方向に間隔を空けて前記主領域に連続するように配置されることを特徴とする、
光電変換素子。
【請求項9】
前記第二のp型半導体としての前記p型側金属酸化物は、酸化コバルト、酸化モリブデン、及び酸化マンガンのうち少なくとも1種類を含むことを特徴とする、
請求項8に記載の光電変換素子。
【請求項10】
光電変換素子におけるバルクヘテロ接合構造を有する光電変換層の製造方法であって、
第一の溶媒に第一のn型半導体を混合して第一の混合溶液を生成する第一工程と、
前記第一のn型半導体よりも電子移動度が大きい第二のn型半導体を前記第一の混合溶液に入れて混合して、n型半導体溶液を生成する第二工程と、
第二の溶媒にp型半導体を混合してp型半導体溶液を生成する第三工程と、
前記n型半導体溶液と前記p型半導体溶液を混合して、前記光電変換層の形成に用いられる光電変換層溶液を生成する第四工程と、
前記光電変換層に隣接する隣接層上に前記光電変換層溶液を用いて前記光電変換層を前記隣接層上に成膜する第五工程と、
を備えることを特徴とする、
光電変換層の製造方法。
【請求項11】
光電変換素子におけるバルクヘテロ接合構造を有する光電変換層の製造方法であって、
第一の溶媒にn型半導体を混合してn型半導体溶液を生成する第一工程と、
第二の溶媒に第一のp型半導体を混合して第二の混合溶液を生成する第二工程と、
前記第一のp型半導体よりも正孔移動度が大きい第二のp型半導体を前記第二の混合溶液に入れて混合して、p型半導体溶液を生成する第三工程と、
前記n型半導体溶液と前記p型半導体溶液を混合して、前記光電変換層の形成に用いられる光電変換層溶液を生成する第四工程と、
前記光電変換層に隣接する隣接層上に前記光電変換層溶液を用いて前記光電変換層を前記隣接層上に成膜する第五工程と、
を備えることを特徴とする、
光電変換層の製造方法。
【請求項12】
光電変換素子におけるバルクヘテロ接合構造を有する光電変換層の製造方法であって、
第一の溶媒に第一のn型半導体を混合して第一の混合溶液を生成する第一工程と、
前記第一のn型半導体よりも電子移動度が大きい第二のn型半導体を前記第一の混合溶液に入れて混合して、n型半導体溶液を生成する第二工程と、
第二の溶媒に第一のp型半導体を混合して第二の混合溶液を生成する第三工程と、
前記第一のp型半導体よりも正孔移動度が大きい第二のp型半導体を前記第二の混合溶液に入れて混合して、p型半導体溶液を生成する第四工程と、
前記n型半導体溶液と前記p型半導体溶液を混合して、前記光電変換層の形成に用いられる光電変換層溶液を生成する第五工程と、
前記光電変換層に隣接する隣接層上に前記光電変換層溶液を用いて前記光電変換層を前記隣接層上に成膜する第六工程と、
を備えることを特徴とする、
光電変換層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子及びその光電変換素子の光電変換層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、n型半導体とp型半導体をランダムに混合して形成されたバルクヘテロ接合構造を有する光電変換層を有する光電変換素子が提案されている。そして、n型半導体として、フラーレン、フラーレン誘導体などが挙げられ、p型半導体として、ポリチオフェン及びその誘導体等が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、n型半導体としてフラーレン、フラーレン誘導体を用いる場合、フラーレン、フラーレン誘導体では、電子移動度(キャリアの移動度)が不十分であるため、光電変換素子の発電効率が不十分であった。その他のn型半導体やp型半導体に対応するキャリアにあっても、対応するキャリアを、より速やかに電極に向かって移動させることができれば、発電効率をさらに向上させることができる。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑み、キャリアの移動度を、より向上させる光電変換素子、及びその光電変換素子の光電変換層の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の光電変換素子は、第一の電極及び第二の電極と、前記第一の電極と前記第二の電極の間に位置する光電変換層と、を備え、前記光電変換層は、第一のn型半導体及び、第二のn型半導体を含むn型半導体領域と、p型半導体を含み、前記n型半導体領域に連続するp型半導体領域と、を有し、前記第二のn型半導体は、前記第一のn型半導体よりも電子移動度が大きい金属酸化物(以下、n型側金属酸化物と呼ぶ。)により構成され、前記n型半導体領域は、前記第一のn型半導体により構成されるn型側主領域と、前記第二のn型半導体により構成される複数のn型側従領域と、を有し、複数の前記n型側従領域は、それぞれ前記n型側主領域が延びる延在方向に間隔を空けて前記n型側主領域に連続するように配置されることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の光電変換素子において、前記第一のn型半導体は、電子受容性を有する金属化合物(以下、n型側金属化合物と呼ぶ。)により構成され、前記第一のn型半導体としての前記n型側金属化合物に含まれる金属と、前記第二のn型半導体としての前記n型側金属酸化物に含まれる金属は、異なる種類の金属であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の光電変換素子において、前記第一のn型半導体としての前記n型側金属化合物は、チタンアルコキシドを含み、前記第二のn型半導体としての前記n型側金属酸化物は、酸化亜鉛及び酸化チタンのうち少なくとも1種類を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の光電変換素子において、前記n型側主領域は、非晶質な領域のみで構成されるか、又は非晶質な領域の方が結晶質な領域よりも多く占めるように構成され、前記n型側従領域は、結晶質な領域のみで構成されるか、又は、結晶質な領域の方が非晶質な領域よりも多く占めるように構成されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の光電変換素子において、前記光電変換層は、前記第一のn型半導体、前記第二のn型半導体、及び前記p型半導体を含むバルクヘテロ接合構造を有し、前記第二のn型半導体としての前記n型側金属酸化物は、前記光電変換層の厚みの1/5以下の粒子径を有するナノ粒子として構成されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の光電変換素子において、前記p型半導体領域は、前記p型半導体とは異なる第二のp型半導体を含み、前記第二のp型半導体は、前記p型半導体よりも正孔移動度が大きい金属酸化物(以下、p型側金属酸化物と呼ぶ。)により構成され、前記p型半導体領域は、前記p型半導体により構成されるp型側主領域と、前記第二のp型半導体により構成される複数のp型側従領域と、を有し、複数の前記p型側従領域は、それぞれ前記p型側主領域が延びる延在方向に間隔を空けて前記p型側主領域に連続するように配置されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の光電変換素子において、前記光電変換層は、前記第一のn型半導体、前記第二のn型半導体、前記p型半導体、及び前記第二のp型半導体を含むバルクヘテロ接合構造を有し、前記第二のp型半導体としての前記p型側金属酸化物は、前記光電変換層の厚みの1/5以下の粒子径を有するナノ粒子として構成されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の光電変換素子は、第一の電極及び第二の電極と、前記第一の電極と前記第二の電極の間に位置する光電変換層と、を備え、前記光電変換層は、n型半導体により構成されるn型半導体領域と、第一のp型半導体及び、第二のp型半導体を含み、前記n型半導体領域に連続するp型半導体領域と、を有し、前記第二のp型半導体は、前記第一のp型半導体よりも正孔移動度が大きい金属酸化物(以下、p型側金属酸化物と呼ぶ。)により構成され、前記p型半導体領域は、前記第一のp型半導体により構成される主領域と、前記第二のp型半導体により構成される複数の従領域と、を有し、複数の前記従領域は、それぞれ前記主領域が延びる延在方向に間隔を空けて前記主領域に連続するように配置されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の光電変換素子において、前記第二のp型半導体としての前記p型側金属酸化物は、酸化コバルト、酸化モリブデン、及び酸化マンガンのうち少なくとも1種類を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の光電変換素子におけるバルクヘテロ接合構造を有する光電変換層の製造方法は、光電変換素子におけるバルクヘテロ接合構造を有する光電変換層の製造方法であって、第一の溶媒に第一のn型半導体を混合して第一の混合溶液を生成する第一工程と、前記第一のn型半導体よりも電子移動度が大きい第二のn型半導体を前記第一の混合溶液に入れて混合して、n型半導体溶液を生成する第二工程と、第二の溶媒にp型半導体を混合してp型半導体溶液を生成する第三工程と、前記n型半導体溶液と前記p型半導体溶液を混合して、前記光電変換層の形成に用いられる光電変換層溶液を生成する第四工程と、前記光電変換層に隣接する隣接層上に前記光電変換層溶液を用いて前記光電変換層を前記隣接層上に成膜する第五工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の光電変換素子におけるバルクヘテロ接合構造を有する光電変換層の製造方法は、第一の溶媒にn型半導体を混合してn型半導体溶液を生成する第一工程と、第二の溶媒に第一のp型半導体を混合して第二の混合溶液を生成する第二工程と、前記第一のp型半導体よりも正孔移動度が大きい第二のp型半導体を前記第二の混合溶液に入れて混合して、p型半導体溶液を生成する第三工程と、前記n型半導体溶液と前記p型半導体溶液を混合して、前記光電変換層の形成に用いられる光電変換層溶液を生成する第四工程と、前記光電変換層に隣接する隣接層上に前記光電変換層溶液を用いて前記光電変換層を前記隣接層上に成膜する第五工程と、を備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の光電変換素子におけるバルクヘテロ接合構造を有する光電変換層の製造方法は、第一の溶媒に第一のn型半導体を混合して第一の混合溶液を生成する第一工程と、前記第一のn型半導体よりも電子移動度が大きい第二のn型半導体を前記第一の混合溶液に入れて混合して、n型半導体溶液を生成する第二工程と、第二の溶媒に第一のp型半導体を混合して第二の混合溶液を生成する第三工程と、前記第一のp型半導体よりも正孔移動度が大きい第二のp型半導体を前記第二の混合溶液に入れて混合して、p型半導体溶液を生成する第四工程と、前記n型半導体溶液と前記p型半導体溶液を混合して、前記光電変換層の形成に用いられる光電変換層溶液を生成する第五工程と、前記光電変換層に隣接する隣接層上に前記光電変換層溶液を用いて前記光電変換層を前記隣接層上に成膜する第六工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の光電変換素子によれば、キャリアの移動度を、より向上させることができるという優れた効果を奏し得る。結果、光電変換素子の発電効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】(A)は、本発明の第一実施形態における光電変換素子の構造を表す概略図である。(B)は、本発明の第一実施形態における光電変換素子の光電変換層の構造を表す概略断面図である。
【
図2】本発明の第一実施形態における光電変換素子の製造方法のフローチャートである。
【
図3】本発明の第一実施形態における光電変換素子の光電変換層の変形例の構造を表す概略断面図である。
【
図4】(A)は、本発明の第二実施形態における光電変換素子の構造を表す概略図である。(B)は、本発明の第二実施形態における光電変換素子の光電変換層の構造を表す概略断面図である。
【
図5】本発明の第二実施形態における光電変換素子の製造方法のフローチャートである。
【
図6】(A)は、本発明の第二実施形態における光電変換素子の光電変換層の変形例の構造を表す概略断面図である。(B)は、本発明の第一,二実施形態における光電変換素子の光電変換層の変形例の構造を表す概略断面図である。
【
図7】(A)は、本発明の第三実施形態における光電変換素子の光電変換層の構造を表す概略断面図である。(B),(C)は、本発明の第三実施形態における光電変換素子の光電変換層の変形例の構造を表す概略断面図である。
【
図8】(A)は、本発明の実施例としての光電変換素子の光電変換層に混合した酸化亜鉛(ZnO)のナノ粒子のSEM像(倍率5万倍)である。(B)は、本発明の実施例としての光電変換素子の光電変換層のSEM像(倍率5万倍)である。(C)は、比較例としての光電変換素子の光電変換層のSEM像(倍率5万倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1~
図8は発明を実施する形態の一例であって、図中、
図1及び
図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わす。なお、
図1は、本発明の実施形態における光電変換素子1の構造を表す概略図に過ぎず、光電変換素子1の各層の厚みは、正確なものではない。本発明の光電変換素子には、各層の厚みを様々な厚みにしたものが含まれる。
【0021】
<第一実施形態>
図1を参照して、本発明の第一実施形態における光電変換素子1について説明する。
図1(A)に示すように、本実施形態における光電変換素子1は、陰極(第一の電極)10と、陽極(第二の電極)11と、光電変換層12と、電子輸送層13とを有する。陰極10、電子輸送層13、光電変換層12、陽極11は、順に、基板14上に積層される。
【0022】
<電極>
陰極10は、導電性および光透過性を有する材料、特に、導電性を有する透明な材料により構成されることが好ましい。より具体的に陰極10を構成する材質としては、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、アルミドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等の導電性金属酸化物が一例として挙げられる。陰極10は、単層、または、複数の材料が積層された態様であってもよい。
【0023】
陽極11は、少なくとも導電性を有する材料により構成されていればよい。陽極11を構成する材質として、例えば、導電性高分子化合物、白金、金、銀、銅、アルミニウム等の金属、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素系化合物、および、以上の混合体のいずれかが一例として挙げられる。導電性高分子化合物として、例えば、PEDOT-PSSが挙げられるが、これに限定されるものではなく、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールおよびそれらの誘導体等であってもよい。なお、PEDOT-PSSとは、ポリアニオンを添加したイオンを含む置換ポリチオフェンでポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸
(PSS)から成る複合物の略称である。また、陽極11は、単層、または、複数の材料が積層された態様であってもよい。また、陽極11は、導電性および光透過性を有する材料により構成されてもよい。
【0024】
<光電変換層>
光電変換層12は、外部から入射する光に起因して電子と正孔とを発生させるものである。そして、光電変換層12は、陽極11および陰極10の間に形成される。光が入射すると、光電変換層12において励起子が生成され、電子と正孔とが発生する。そして、電子は電子輸送層13を介して陰極10側へ、正孔は陽極11側へ移動する。その結果、陽極11および陰極10に接続された(図示しない)外部回路に、電流(光励起電流)が流れる。
【0025】
本実施形態において光電変換層12は、少なくとも2種類のn型半導体(電子受容性材料)と、少なくとも1種類のp型半導体(電子供与性材料)を含む材料をランダムに混合したバルクヘテロ接合構造を有する。そして、
図1(B)に示すように、光電変換層12は、n型半導体により構成されるn型半導体領域120と、p型半導体により構成されるp型半導体領域121を有する。
【0026】
また、
図1(B)に示すように、本実施形態においてn型半導体領域120及びp型半導体領域121はバルクヘテロ接合構造を有するため、n型半導体領域120及びp型半導体領域121は、光電変換層12においてランダムに広がり、光電変換層12の厚み方向A(以下、単に厚み方向Aと呼ぶ。)に延びる第一部分、厚み方向Aに直交する直交方向B(以下、単に、直交方向Bと呼ぶ。)に延びる第二部分、厚み方向A又は直交方向Bに傾斜する傾斜方向(以下、単に、傾斜方向と呼ぶ。)に延びる第三部分を有する。そして、第一部分、第二部分及び第三部分のいずれかが相互に連続してn型半導体領域120又はp型半導体領域121を構成する。なお、厚み方向Aは、陰極10、電子輸送層13、光電変換層12、陽極11が積層される積層方向に略平行となる。
【0027】
また、
図1(B)に示すように、以上のようなn型半導体領域120とp型半導体領域121は複数有る。そして、n型半導体領域120とp型半導体領域121が交互に並び、境界において相互に連続する。そして、n型半導体領域120とp型半導体領域121の境界を成す接合界面は、厚み方向Aにおいて接合する部分、直交方向Bにおいて接合する部分、及び傾斜方向において接合する部分を有する。結果として、本実施形態において光電変換層12は、接合界面の面積が大きくなる。
【0028】
<n型半導体領域―材料>
n型半導体領域120は、少なくとも2種類のn型半導体(電子受容性材料)を含む。本実施形態においてn型半導体領域120は、第一のn型半導体120Aと、第二のn型半導体120Bを含む。第二のn型半導体120Bは、第一のn型半導体120Aよりも電子移動度が大きい物質により構成される。
【0029】
第一のn型半導体120Aとして、例えば、金属アルコキシド等の電子受容性を有する金属化合物(以下、n型側金属化合物と呼ぶ。)、その他の電子受容性化合物等が一例として挙げられる。n型側金属化合物には、金属酸化物も含まれる。第一のn型半導体120Aは、少なくとも1種類の電子受容性化合物を含んでいればよい。また、金属アルコキシドとして、例えば、チタン(Ti)アルコキシドが挙げられる。ちなみに、チタンアルコキシドとして、例えば、チタンテトライソプロポキシド(Titanium Tetraisopropoxide:オルトチタン酸テトライソプロピル:化学式:Ti[OCH(CH3)2]4)が挙げられる。
【0030】
また、第二のn型半導体120Bとして、例えば、電子受容性を有し、第一のn型半導体120Aよりも電子移動度が大きい金属酸化物(以下、n型側金属酸化物と呼ぶ。)が挙げられる。そして、第一のn型半導体120Aをチタンアルコキシドとした場合、n型側金属酸化物として、例えば、チタンアルコキシドよりも電子移動度が大きい酸化亜鉛(ZnO)や酸化チタン(TiO2)等の無機化合物が一例として挙げられる。そして、n型側金属酸化物は、少なくとも1種類の無機化合物を含んでいればよい。また、光電変換層12に含有されるn型側金属酸化物は、ナノ構造体(ナノ粒子)であることが好ましい。そして、n型側金属酸化物は、結晶質であることが好ましい。
【0031】
なお、第一のn型半導体120Aとしてのn型側金属化合物に含まれる金属と、第二のn型半導体120Bとしてのn型側金属酸化物に含まれる金属は、同じ種類の金属であっても異なる種類の金属であってもよい。つまり、第一のn型半導体120Aとしてのn型側金属化合物がチタンアルコキシドである場合、第二のn型半導体120Bとしてのn型側金属酸化物は、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)が一例として挙げられる。なお、以上は一例であって、含有金属の種類はその他の種類の金属であってもよい。
【0032】
光電変換素子1の出力電圧は、n型半導体のLUMOとp型半導体のHOMOのエネルギーの差で決まる。つまり、上記双方のエネルギーの差が大きければ、光電変換素子1の電圧は大きくなり、上記双方のエネルギーの差が小さければ、光電変換素子1の電圧は小さくなる。このため、第一のn型半導体120Aとしてのn型側金属化合物のLUMO、及び第二のn型半導体120Bとしてのn型側金属酸化物のLUMOは、p型半導体のHOMOよりもエネルギーが高い必要があり、所望する出力電圧に応じて第一のn型半導体120A、第二のn型半導体120B、及びp型半導体は選定される。
【0033】
<n型半導体領域―構造>
そして、
図1(B)に示すように、n型半導体領域120は、第一のn型半導体120Aにより構成されるn型側主領域122と、第二のn型半導体120Bにより構成されるn型側従領域123と、を有する。n型側主領域122では、第一のn型半導体120Aが連続して分布する。そして、
図1(B)においてn型側主領域122は、複数(5つ)描かれており、相互に不連続となっている。
図1(B)におけるn型側主領域122の左から1番目、3番目、5番目は、光電変換層12を厚み方向Aに横断するように電子輸送層13との境界から陽極11との境界まで延び、左から2番目は陽極11との境界を起点として電子輸送層13に向かって光電変換層12の途中まで延び、左から4番目は電子輸送層13との境界を起点として陽極11に向かって光電変換層12の途中まで延びている。
【0034】
n型側従領域123は、少なくとも一部がn型側主領域122に取り囲まれつつ、n型側主領域122に連続するように配置される。そして、n型側従領域123は、各n型側主領域122のそれぞれが延びる延在方向(広がる方向)に間隔を空けて複数設けられる。延在方向(広がる方向)とは、n型側主領域122が延びて、周囲に広がっていく方向を指す。そして、本実施形態において延在方向(広がる方向)は、厚み方向A、直交方向B、傾斜方向の全てを含むが、少なくとも1つを含めばよい。なお、以上の延在方向(広がる方向)の説明は、後述するp型側主領域124も同様に適用できる。なお、n型側従領域123は、n型側主領域122に複数ではなく1つだけ配置されるものがあってもよい(
図1(B)における左から2番目のn型側主領域122参照。)。結果、n型側従領域123は、あたかもn型側主領域122の一部領域が第二のn型半導体120Bに置換された態様となる。そして、置換部分は、間隔を空けて複数設けられる。言い換えると、本実施形態においてn型側従領域123(第二のn型半導体120B)は、n型半導体領域120において間隔を空けて複数配置され、n型半導体領域120において点在した状態となる。ちなみに、n型側従領域123(第二のn型半導体120B)は、n型半導体領域120において等間隔に分布していることが好ましい。残りのn型半導体領域120には、第一のn型半導体120Aが連続して分布する。結果、第一のn型半導体120Aは、第二のn型半導体120Bの少なくとも一部を取り囲みつつ、第二のn型半導体120Bに連続して分布した状態となる。
【0035】
また、n型側従領域123は、
図1(B)に示すように、第二のn型半導体120Bの単一の粒子、又は複数の粒子の集合体で構成されることが好ましい。第二のn型半導体120Bを粒子状に形成すれば、n型半導体領域120において間隔を空けて分布させやすくなるからである。なお、
図1(B)に示す第二のn型半導体120Bの単一の粒子の大きさ(粒子径)は、正確なものではなく一例を示すに過ぎない。
【0036】
ただし、第一のn型半導体120A及び第二のn型半導体120Bとしての材料選択によっては、n型側従領域123とn型側主領域122の接着状態が強くないこともあり得る。n型半導体領域120においてn型側従領域123が占める割合(体積)が大きくなると、n型側従領域123とn型側主領域122の接触面積が増大するため、外部からの力によりn型側従領域123とn型側主領域122の境界で光電変換層12が割れやすくなるおそれがある。そこで、第二のn型半導体120Bは、ナノ粒子として構成されることが好ましい。そのナノ粒子の粒子径は、光電変換層12の厚みの1/5以下であることが好ましく、1/10以下であることがより好ましい。具体的には、例えば、光電変換層12の厚みを100nmとした場合、第二のn型半導体120Bのナノ粒子の粒子径は20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。このように構成すれば、n型側主領域122に対するn型側従領域123の接触面積を低減して、光電変換層12が割れる危険性を低減することができるからである。
【0037】
なお、n型側主領域122は、全体が、第一のn型半導体120Aが非晶質(アモルファス)に構成された非晶質領域のみで占められるように構成されるか、又は、第一のn型半導体120Aが結晶質に構成される結晶質領域と非晶質領域が混在するように構成される。なお、本実施形態におけるn型側主領域122では、結晶質領域と非晶質領域が混在し、非晶質領域の方が結晶質領域よりも多く占めることを想定している。一方で、n型側従領域123は、全体が、第二のn型半導体120Bが結晶質に構成される結晶質領域のみで占められるように構成されるか、又は、第二のn型半導体120Bが非晶質領域に構成される非晶質領域と結晶質領域が混在するように構成される。なお、第二のn型半導体120Bが上記のような粒子径のナノ粒子として構成された場合、n型側従領域123は、概ね結晶質領域のみで占められることが想定される。ただし、第二のn型半導体120Bに結晶欠陥が含まれる場合、その領域は非晶質領域と見做す。ちなみに、非晶質(アモルファス)とは、原子や分子が結晶のように長距離的に規則正しい秩序構造を取らず、不規則な構造・状態を指す。また、結晶質とは、原子や分子が規則正しく配列している構造・状態を指す。
【0038】
一般的に、非晶質領域では、電子はスムーズに移動できず、電子移動度は低い。一方、結晶質領域では、電子はスムーズに移動でき、非晶質領域の場合より電子移動度は高い。このため、非晶質領域が多いn型側主領域122では、電子はスムーズに移動できないことが想定される。本実施形態におけるn型側従領域123は、n型側主領域122に連続するように配置されることにより、n型半導体領域120全体として電子の移動度を向上させる役割を担う。その意味で、n型側従領域123は、電子移動度が第一のn型半導体120Aよりも高い第二のn型半導体120Bで構成されるだけでなく、全体が結晶質領域のみ、又は、非晶質領域よりも結晶質領域の方が多く占める態様で構成されることが好ましい。
【0039】
本実施形態におけるn型半導体領域120では、n型側従領域123よりもn型側主領域122の占める割合が大きい。ただし、n型側従領域123とn型側主領域122の占める割合が同じであってもよいし、n型側従領域123よりもn型側主領域122の占める割合が小さくてもよい。なお、本明細書において「主領域」、「従領域」は、必ずしも面積の大小を表すものではなく、「主領域」の電子の輸送機能の低さを「従領域」で補ってn型半導体領域120全体の電子の輸送機能を向上させる意味で用いている。
【0040】
<p型半導体領域―材料・構造>
p型半導体領域121は、少なくとも1種類のp型半導体(電子供与性材料)を含む。本実施形態においてp型半導体領域121は、第一のp型半導体121Aを含む。そして、本実施形態においてp型半導体領域121は、第一のp型半導体121Aが連続して一様に分布する。つまり、n型半導体領域120のように、主領域、従領域はない。
【0041】
第一のp型半導体121Aとして、例えば、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、側鎖又は主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体等が一例として挙げられる。そして、更に具体的には、第一のp型半導体121Aとして、例えば、ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)が挙げられる。なお、第一のp型半導体121Aは、少なくとも1種類の電子供与性化合物を含んでいればよい。
【0042】
<電子輸送層>
電子輸送層13は、電子の移動度が高い材料を含み、光電変換層12で発生する電子を効率良く速やかに陰極10へと輸送する電子輸送機能を担う。また、電子輸送層13は、n型半導体としての役割を果たし、光電変換層12で発生する正孔を陰極10に流さない整流作用を奏する。そして、電子輸送層13は、
図1(A)に示すように、陰極10と光電変換層12の間で、陰極10及び光電変換層12の双方に連続するように形成される。
【0043】
また、電子輸送層13と光電変換層12には、共通の電子受容性化合物が含まれることが好ましい。この場合、電子輸送層13及び光電変換層12の境界において同一成分が接触する割合が高くなるため、上記電子輸送層13と光電変換層12の間における接触抵抗が低減される。電子輸送層13及び光電変換層12における共通成分の含有比率が高ければ高いほど接触抵抗が低減される。また、上記電子輸送層13と光電変換層12の間で、共通成分の相互浸透が起こるため、光電変換層12及び電子輸送層13の機械的強度が向上する。結果、光電変換層12と電子輸送層13との間で剥離が起こりにくくなる。
【0044】
以上の観点から、電子輸送層13を構成する主材料として、例えば、第一のn型半導体120A(例えば、チタンアルコキシド等の金属アルコキシド等)や、第二のn型半導体120B(例えば、n型側側金属酸化物)が一例として挙げられる。
【0045】
また、電子輸送層13の膜厚が過度に厚い膜厚にされると、電子が陰極10に到達することができず、失活してしまう。また、電子輸送層13の膜厚が過度に薄い膜厚にされると、陰極10の面を覆う事ができない。このため、陰極10への速やかな電子の到達を可能にさせて、高い出力電流を得るために、電子輸送層13の膜厚は略100nm以下が好ましい。
【0046】
<基板>
基板14は、例えば、絶縁性を有する材料により構成されることが好ましい。そして、基板14は、透明な絶縁性材料により板状に構成されることがより好ましい。基板14を構成する透明な材料として、例えば、石英ガラス、白板ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラスなどのガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、および、ポリエーテルスルフォン(PES)などが挙げられる。基板14の厚さは、光電変換素子1のサイズに応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、例えば、0.01~20mmの範囲にすればよい。
【0047】
<光電変換素子の製造方法>
図2を参照して、本実施形態における光電変換素子1の製造方法について以下説明する。基板14上に光電変換素子1が形成される場合、まず基板14上に陰極10に対応する材料が成膜される(ステップS100)。陰極10に対応する材料の成膜は、例えば、スパッタ法や蒸着法により行なわれる。これにより、陰極10が完成する。続いて、電子輸送層13に対応する塗布液を用いて、例えば、スピンコート法により陰極10上に電子輸送層13が成膜される(ステップS101)。これにより、電子輸送層13が完成する。
【0048】
次に、n型半導体を含むn型半導体溶液とp型半導体を含むp型半導体溶液を作成する(ステップS102)。n型半導体溶液の作成にあたって、まず、第一溶媒(例えば、クロロベンゼン)に第一のn型半導体120A(例えば、チタンアルコキシド)を入れて撹拌して第一混合溶液を設ける(第一工程:第一混合溶液作成工程)。第一混合溶液に第二のn型半導体120B(n型側金属化合物:例えば、酸化亜鉛)を入れて混合・撹拌して、n型半導体溶液が完成する(第二工程:n型半導体溶液作成工程)。なお、第二のn型半導体120Bは、ナノ粒子にした状態のものを第一混合溶液に入れることが好ましい(ステップS101)。こうすれば、n型半導体溶液中において第二のn型半導体120Bを、間隔を空けて拡散させやすい。
【0049】
また、p型半導体溶液は、第二溶媒(例えば、クロロベンゼン)に第一のp型半導体121A(例えば、ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT))を入れて混合・撹拌して完成する(ステップS102:第三工程:p型半導体溶液作成工程)。
【0050】
次に、n型半導体溶液とp型半導体溶液を混合・撹拌して、光電変換層溶液を設ける(ステップS103:第四工程:光電変換層溶液作成工程)。なお、第二のn型半導体120Bを第一混合溶液に入れて撹拌すると、第二のn型半導体120Bは、第一のn型半導体120Aと共に、n型半導体溶液中において均一に分布した状態となる。この際、第二のn型半導体120Bは、第一溶媒と協働して第一のn型半導体120Aにより取り囲まれ、捕獲された状態になる。なお、第一のn型半導体120Aと第一溶媒の第一混合溶液は、協働して第二のn型半導体120Bを捕獲する特性を有する。このため、n型半導体溶液とp型半導体溶液を混合して撹拌しても、第二のn型半導体120Bが、溶媒と第一のn型半導体120Aの捕獲から脱して、p型半導体溶液中に入り込む比率は少ない。結果、光電変換層溶液において第二のn型半導体120Bは、第一のn型半導体120Aの方に偏在して分布する。
【0051】
次に、光電変換層溶液を用いて、例えば、スピンコート法により電子輸送層13(隣接層)上に光電変換層12を成膜する(ステップS104:第五工程:光電変換層作成工程)。この際、光電変換層溶液において第二のn型半導体120Bは、第一のn型半導体120Aの方に偏在して分布するため、成膜後には、
図1(B)に示すような第二のn型半導体120Bが第一のn型半導体120Aの方に偏在した光電変換層12が形成される。これにより、光電変換層12が完成する。
【0052】
なお、光電変換層溶液において第二のn型半導体120Bがp型半導体溶液側に入り込むことはあり得る。この場合、成膜された光電変換層12では、
図3に示すように、p型半導体領域121に取り囲まれるように、第二のn型半導体120Bが分布し得る。このようなものも本発明の範囲に含まれる。
【0053】
最後に、陽極11に対応する材料が光電変換層12上に成膜される(ステップS105)。これにより陽極11が完成し、光電変換素子1が完成する。
【0054】
なお、以上の各層の成膜方法におけるスピンコート法は、一例である。本発明における各層の成膜方法には、物理的気相成長法(PVD法)、化学的気相成長法(CVD法)、浸漬法、キャスト法、スクリーン印刷法やインクジェット印刷法を始めとする印刷法、スプレー法、ブレードコーター法、、ロッドコーター法、ナイフコーター法、スクイズコーター法、リバースロールコーター法などその他の全ての成膜方法が含まれる。
【0055】
<第二実施形態>
図4を参照して、本発明の第二実施形態における光電変換素子1について説明する。
図4(A)に示すように、光電変換素子1は、陰極(第1の電極)10と、陽極(第2の電極)11と、光電変換層12と、正孔輸送層15とを有する。陰極10、光電変換層12、正孔輸送層15、陽極11は、順に、基板14上に積層される。陰極(第1の電極)10と、陽極(第2の電極)11、基板14は、第一実施形態における光電変換素子1と同様であり、既に説明済みであるため、説明を省略する。
【0056】
<光電変換層>
本実施携帯における光電変換層12は、第一実施形態におけるものとほぼ同様であるが、以下、異なる点について説明する。
【0057】
<n型半導体領域―材料・構造>
n型半導体領域120は、少なくとも1種類のn型半導体(電子受容性材料)を含む。本実施形態においてn型半導体領域120は、第一のn型半導体120Aを含む。そして、本実施形態においてp型半導体領域121は、第一のn型半導体120Aが連続して一様に分布する。つまり、本実施形態においてp型半導体領域121は、第一実施形態のn型半導体領域120のように、主領域、従領域はない。
【0058】
<p型半導体領域―材料>
p型半導体領域121は、少なくとも2種類のp型半導体(電子供与性材料)を含む。本実施形態においてp型半導体領域121は、第一のp型半導体121Aと、第二のp型半導体121Bを含む。第二のp型半導体121Bは、第一のp型半導体121Aよりも正孔移動度が大きい物質により構成される。
【0059】
第一のp型半導体121Aは、第一実施形態のものと同様であり、既に説明済みであるため、説明を省略する。第二のp型半導体121Bは、例えば、電子供与性を有する金属酸化物(以下、p型側金属酸化物と呼ぶ。)が挙げられる。第一のp型半導体121Aは、少なくとも1種類の電子供与性化合物を含んでいればよい。そして、第一のp型半導体121Aをポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)とした場合、p型側金属酸化物として、例えば、ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)よりも正孔移動度が大きい酸化コバルト(CoO)、酸化モリブデン(MoO2)、酸化マンガン(MnO)等の無機化合物が一例として挙げられる。そして、p型側金属酸化物は、少なくとも1種類の無機化合物を含んでいればよい。また、光電変換層12に含有されるp型側金属酸化物は、ナノ構造体(ナノ粒子)であることが好ましい。そして、p型側金属酸化物は、結晶質であることが好ましい。
【0060】
<p型半導体領域―構造>
そして、
図4(B)に示すように、p型半導体領域121は、第一のp型半導体121Aにより構成されるp型側主領域124と、第二のp型半導体121Bにより構成される複数のp型側従領域125と、を有する。p型側主領域124では、第一のp型半導体121Aが連続して分布する。そして、
図4(B)においてp型側主領域124は、複数(6つ)描かれており、、相互に不連続となっている。
図4(B)におけるp型側主領域124の左から1番目、3番目、5番目、6番目は、光電変換層12を厚み方向Aに横断するように延び、左から2番目は陰極10との境界を起点として正孔輸送層15に向かって光電変換層12の途中まで延び、左から4番目は正孔輸送層15との境界を起点として陰極10に向かって光電変換層12の途中まで延びている。
【0061】
p型側従領域125は、少なくとも一部がp型側主領域124に取り囲まれつつ、p型側主領域124に連続するように配置される。そして、p型側従領域125は、p型側主領域124が延びる延在方向(広がる方向)に間隔を空けて複数設けられる。なお、p型側従領域125は、p型側主領域124に1つだけ配置されるものがあってもよい(
図4(B)における左から4番目のp型側主領域124参照。)。結果、p型側従領域125は、あたかもp型側主領域124の一部領域が第二のp型半導体121Bに置換された態様となる。そして、置換部分は、間隔を空けて複数設けられる。言い換えると、本実施形態においてp型側従領域125(第二のp型半導体121B)は、p型半導体領域121において間隔を空けて複数配置され、p型半導体領域121において点在した状態となる。残りのp型半導体領域121には、第一のp型半導体121Aが連続して分布する。結果、第一のp型半導体121Aは、第二のp型半導体121Bの少なくとも一部を取り囲みつつ、第二のp型半導体121Bに連続して分布した状態となる。
【0062】
また、p型側従領域125は、
図4(B)に示すように、第二のp型半導体121Bの単一の粒子、又は複数の粒子の集合体で構成されることが好ましい。第二のp型半導体121Bを粒子状に形成すれば、p型半導体領域121において間隔を空けて分布させやすくなるからである。なお、
図4(B)に示す第二のp型半導体121Bの単一の粒子の大きさは、正確なものではなく、一例を示すに過ぎない。
【0063】
ただし、第一のp型半導体121A及び第二のp型半導体121Bとしての材料選択によっては、p型側従領域125とp型側主領域124の接着状態が強くないこともあり得る。この場合、p型半導体領域121においてp型側従領域125が占める割合(体積)が大きくなると、p型側従領域125とp型側主領域124の接触面積が増大するため、外部からの力によりp型側従領域125とp型側主領域124の境界で光電変換層12が割れやすくなるおそれがある。そこで、第二のp型半導体121Bは、ナノ粒子として構成されることが好ましい。そのナノ粒子の粒子径は、光電変換層12の厚みの1/5以下であることが好ましく、1/10以下であることがより好ましい。具体的には、例えば、光電変換層12の厚みを100nmとした場合、第二のp型半導体121Bのナノ粒子の粒子径は20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。このように構成すれば、p型側主領域124に対するp型側従領域125の接触面積を低減して、光電変換層12が割れる危険性を低減することができるからである。
【0064】
なお、p型側主領域124は、全体が、第一のp型半導体121Aが非晶質(アモルファス)に構成された非晶質領域のみで占められるように構成されるか、又は、第一のp型半導体121Aが結晶質に構成される結晶質領域と非晶質領域が混在するように構成される。なお、本実施形態におけるp型側主領域124では、結晶質領域と非晶質領域が混在し、非晶質領域の方が結晶質領域よりも多く占めることを想定している。一方で、p型側従領域125は、全体が、第二のp型半導体121Bが結晶質に構成される結晶質領域のみで占められるように構成されるか、又は、第二のp型半導体121Bが非晶質領域に構成される非晶質領域と結晶質領域が混在するように構成される。
【0065】
一般的に、非晶質領域では、正孔はスムーズに移動できず、正孔移動度は低い。一方、結晶質領域では、正孔はスムーズに移動でき、非晶質領域の場合より正孔移動度は高い。このため、非晶質領域が多いp型側主領域124では、正孔はスムーズに移動できないことが想定される。本実施形態におけるp型側従領域125は、p型側主領域124に連続するように配置されることにより、p型半導体領域121全体として正孔の移動度を向上させる役割を担う。その意味で、p型側従領域125は、正孔移動度が第一のp型半導体121Aよりも高い第二のp型半導体121Bで構成されるだけでなく、全体が結晶質領域のみ、又は、非晶質領域よりも結晶質領域の方が多く占める態様で構成されることが好ましい。
【0066】
本実施形態におけるp型半導体領域121では、p型側従領域125よりもp型側主領域124の占める割合が大きい。ただし、p型側従領域125とp型側主領域124の占める割合が同じであってもよいし、p型側従領域125よりもp型側主領域124の占める割合が小さくてもよい。
【0067】
<正孔輸送層>
正孔輸送層15は、正孔移動度が大きい材料を含み、光電変換層12で発生する正孔を効率良く速やかに陽極11へと輸送する正孔輸送機能を担う。また、正孔輸送層15は、p型半導体としての役割を果たし、光電変換層12で発生する電子を陽極11に流さない整流作用を奏する。そして、正孔輸送層15は、
図4(A)に示すように、陽極11と光電変換層12の間で、陽極11及び光電変換層12の双方に連続するように形成される。
【0068】
また、正孔輸送層15と光電変換層12には、共通の電子供与性化合物が含まれることが好ましい。この点は、<電子輸送層>と同様の理由である。以上の観点から、正孔輸送層15を構成する主材料として、例えば、第一のp型半導体121A(例えば、ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)等)や、第二のp型半導体121B(例えば、p型側側金属酸化物)が一例として挙げられる。正孔輸送層15の膜厚も電子輸送層13での説明を適用することができる。
【0069】
<光電変換素子の製造方法>
図5を参照して、本実施形態における光電変換素子1の製造方法について以下説明する。本実施形態における光電変換素子1の製造方法では、第一実施形態における光電変換素子1の製造方法のステップS101を除き、ステップS100~S105は同様である。ステップS104の後に、正孔輸送層15に対応する塗布液を用いて、例えば、スピンコート法により光電変換層12上に正孔輸送層15が成膜される(ステップS201)。これにより、電子輸送層13が完成する。最後に、陽極11に対応する材料が正孔輸送層15上に成膜される(ステップS105)。これにより陽極11が完成し、光電変換素子1が完成する。
【0070】
なお、ステップS102におけるp型半導体溶液の作成にあたって、まず、第二溶媒(例えば、クロロベンゼン)に第一のp型半導体121A(例えば、ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT))を入れて混合・撹拌して第二混合溶液を設ける(第一工程:第二混合溶液作成工程)。第二混合溶液に第二のp型半導体121B(p型側金属化合物:例えば、酸化モリブデン)を入れて混合・撹拌して、p型半導体溶液が完成する(第二工程:p型半導体溶液作成工程)。なお、第二のp型半導体121Bは、ナノ粒子にした状態のものを第二混合溶液に入れることが好ましい。こうすれば、p型半導体溶液中において第二のp型半導体121Bを、間隔を空けて拡散させやすい。また、n型半導体溶液は、第一溶媒(例えば、クロロベンゼン)に第一のn型半導体120A(例えば、チタンアルコキシド)を入れて混合・撹拌して完成する(第三工程:n型半導体溶液作成工程)。
【0071】
次に、n型半導体溶液とp型半導体溶液を混合・撹拌して、光電変換層溶液を設ける(ステップS103:第四工程:光電変換層溶液作成工程)。なお、第一実施形態の場合と同様に、第二のp型半導体121Bは、第二溶媒と協働して第一のp型半導体121Aにより取り囲まれ、捕獲された状態になる。なお、第一のp型半導体121Aと第二溶媒の第二混合溶液は、協働して第二のp型半導体121Bを捕獲する特性を有する。このため、n型半導体溶液とp型半導体溶液を混合して撹拌しても、第二のp型半導体121Bが溶媒と第一のp型半導体121Aの捕獲から脱して、n型半導体溶液中に入り込む比率は少ない。結果、光電変換層溶液において第二のp型半導体121Bは、第一のp型半導体121Aの方に偏在して分布する。このため、光電変換層溶液を陰極10(隣接層)上に成膜すると、
図4(B)に示すような構造の光電変換層12が形成される(第五工程:光電変換層作成工程)。
【0072】
なお、以上の各層の成膜方法におけるスピンコート法は、一例である。本発明における各層の成膜方法には、物理的気相成長法(PVD法)、化学的気相成長法(CVD法)、浸漬法、キャスト法、スクリーン印刷法やインクジェット印刷法を始めとする印刷法、スプレー法、ブレードコーター法、、ロッドコーター法、ナイフコーター法、スクイズコーター法、リバースロールコーター法などその他の全ての成膜方法が含まれる。
【0073】
また、光電変換層溶液において第二のp型半導体121Bがn型半導体溶液側に入り込むことはあり得る。この場合、成膜された光電変換層12では、
図6(A)に示すように、n型半導体領域120に取り囲まれるように、第二のp型半導体121Bが分布し得る。このようなものも本発明の範囲に含まれる。
【0074】
なお、
図6(B)に示すように、第一実施形態における光電変換層12のn型半導体領域120と、第二実施形態における光電変換層12のp型半導体領域121を組み合わせたような光電変換層12も本発明の範囲に含まれる。このように構成すると、電子と正孔の速やかな移動を実現することができる。この場合、n型半導体溶液の作成においては第一実施形態における第一,二工程を採用し、p型半導体溶液の作成においては第二実施形態における第一,二工程を採用する。なお、n型半導体溶液、及びp型半導体溶液の作成は、同時に行ってもよいし、いずれか一方を先に行ってもよい。このため、n型半導体溶液、及びp型半導体溶液の作成に関する各工程に付される数字は、便宜上のものである。
【0075】
また、第一,二実施形態における光電変換素子1の層構造は、一例であって、電子輸送層13や正孔輸送層15の双方があるもの、及び双方がないもの、更には、その他の層が積層されたものも本発明の範囲に含まれる。
【0076】
<第三実施形態>
図7を参照して、本発明の第三実施形態における光電変換素子1について説明する。
図7(A)に示すように、本実施形態における光電変換素子1の光電変換層12は、少なくとも2種類のn型半導体(電子受容性材料)を含む材料で形成されたn型半導体層(n型半導体領域120)と、少なくとも1種類のp型半導体(電子供与性材料)を含む材料で形成されたp型半導体層(p型半導体領域121)を光電変換層12の厚み方向Aに積層させた平面ヘテロ接合構造を有する。
【0077】
具体的に本実施形態における光電変換層12のn型半導体層(n型半導体領域120)は、第一実施形態における<n型半導体領域―材料>で説明したものと同様の材料で構成される。また、本実施形態における光電変換層12のn型半導体層(n型半導体領域120)は、第一実施形態における光電変換層12の場合と同様に、n型側主領域122と、n型側従領域123と、を有する。
図7(A)に示すように、n型側従領域123は、少なくとも一部がn型側主領域122に取り囲まれつつ、n型側主領域122に連続するように配置される。また、n型側従領域123は、n型半導体領域120において間隔を空けて複数配置され、n型半導体領域120において点在した状態となる。残りのn型半導体領域120には、n型側従領域123の第二のn型半導体120Bに連続しつつ、第一のn型半導体120Aが連続して分布する。
【0078】
また、具体的に本実施形態における光電変換層12のp型半導体層(p型半導体領域121)は、第一実施形態における<p型半導体領域―材料・構造>で説明したことをそのまま適用することができる。
【0079】
また、本実施形態における光電変換素子1の製造方法では、第一実施形態における<光電変換素子の製造方法>で説明した第一,二工程で製造されたn型半導体溶液を用いてn型半導体層(n型半導体領域120)を成膜し、且つ第三工程で製造されたp型半導体溶液を用いて、n型半導体層(n型半導体領域120)上にp型半導体層(p型半導体領域121)を成膜・積層することにより光電変換層12が完成する。
【0080】
なお、
図7(B)に示すように、本実施形態の光電変換層12のn型半導体層(n型半導体領域120)は、第二実施形態における<n型半導体領域―材料・構造>で説明したことをそのまま適用したものであってもよい。また、本実施形態における光電変換層12のp型半導体層(p型半導体領域121)は、第二実施形態における<p型半導体領域―材料>で説明したものと同様の材料で構成されてもよい。また、本実施形態における光電変換層12のp型半導体層(p型半導体領域121)のp型側主領域124と、p型側従領域125の構造は、上記本実施形態における光電変換層12のn型半導体層(n型半導体領域120)の説明において、適宜、「n型」を「p型」に読み替えつつ、対応する構成要件に置き換えて説明することができる。
【0081】
また、
図7(B)に示す光電変換素子1の製造方法では、第二実施形態における<光電変換素子の製造方法>で説明した第三工程で製造されたn型半導体溶液を用いてn型半導体層(n型半導体領域120)を成膜し、且つ第一,二工程で製造されたp型半導体溶液を用いて、n型半導体層(n型半導体領域120)上にp型半導体層(p型半導体領域121)を成膜・積層することにより光電変換層12が完成する。
【0082】
また、
図7(C)に示すように、
図7(A),(B)に示すものの双方を組み合わせた光電変換層12も本発明の範囲に含まれる。
【実施例0083】
次に、本願発明者は、本発明の実施例としての光電変換素子と、比較例としての光電変換素子の発電効率に関する実験を行った。
【0084】
<本実施例、比較例としての光電変換素子>
本実施例としての光電変換素子及び比較例としての光電変換素子は、ITO(インジウムドープ酸化錫透明導電膜)付ガラス基板の上に、バルクヘテロ接合構造を有する光電変換層12、有機電極(陽極11)を順に成膜したものである。なお、ITO付ガラス基板におけるITO(インジウムドープ酸化錫透明導電膜)部分が陰極10を構成し、ガラス基板部分が基板14を構成する。
【0085】
まず、本実施例としての光電変換素子の光電変換層12で用いるn型半導体溶液の作成にあたって、クロロベンゼン(富士フイルム和光純薬製)に対して2.0wt%のチタンアルコキシド(チタンテトライソプロポキシド Ti[OCH(CH
3)
2]
4:Sigma-Aldrich製)を入れて混合・撹拌し、第一混合溶液を設けたそして、その第一混合溶液に2.0wt%の酸化亜鉛(ZnO)のナノ粒子の分散液を混合して撹拌してn型半導体溶液を設けた。なお、上記酸化亜鉛(ZnO)のナノ粒子のSEM像(倍率5万倍)を
図8(A)のに示す。
図8(A)のSEM像には、酸化亜鉛(ZnO)のナノ粒子(粒子径6~10nm程度)が黒い点として複数表示されている。
【0086】
また、本実施例としての光電変換素子の光電変換層12で用いるp型半導体溶液の作成にあたって、上記と同じクロロベンゼンに対して2.5wt%のポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)(Sigma-Aldrich製)を入れて混合・撹拌し、p型半導体溶液を設けた。そして、以上のn型半導体溶液とp型半導体溶液を混合・撹拌して光電変換溶液を作成した。光電変換層12は、光上記光電変換溶液をITO付ガラス基板におけるITO上に滴下して、スピンコート法(回転数400rpm)により成膜して作成した。
【0087】
一方、比較例としての光電変換素子の光電変換層12で用いる光電変換溶液の作成にあたって、上記と同じクロロベンゼンに対して2.0wt%の上記と同じチタンアルコキシド、及び2.5wt%の上記と同じポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)を入れて混合・撹拌して光電変換溶液を作成した。そして、本実施例としての光電変換素子の場合と同様に、光電変換層12は、光上記光電変換溶液をITO付ガラス基板におけるITO上に滴下して、スピンコート法(回転数400rpm)により成膜して作成した。
【0088】
なお、成膜された本実施例の光電変換層12のSEM像(倍率5万倍)を
図8(B)に示し、比較例の光電変換層12のSEM像(倍率5万倍)を
図8(C)に示す。
図8(B)において白色領域がチタンアルコキシドで、濃いグレー色領域がポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)で、黒い点が酸化亜鉛(ZnO)のナノ粒子である。黒い点として見える酸化亜鉛(ZnO)のナノ粒子が単体、又は複数の集合体として白い領域に沿って間隔を空けて配置されていることがわかる。また、
図8(C)において白色領域がチタンアルコキシドで、黒い領域(濃いグレー色領域)がポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)である。
【0089】
また、本実施例としての光電変換素子及び比較例としての光電変換素子の有機電極(陽極11)の材料として、PEDOT-PSS(Baytron社製)を用いた。そして、スクリーン印刷によりPEDOT-PSSを光電変換層12の表面に塗布し、約130℃の温度で約10分間、大気中で乾燥させることにより有機電極(陽極11)を作成した。
【0090】
<発電特性の測定>
以上のようにして作製された本実施例としての光電変換素子、及び比較例としての光電変換素子の発電特性の測定において、ソーラーシミュレーター(株式会社三永電機製作所製XES-4051)を用いた。両光電変換素子に上記ソーラーシミュレーターにより100mW/cm2の擬似太陽光を照射した。その結果、比較例としての光電変換素子の短絡電流密度をA(mA/cm2)とし、本実施例としての光電変換素子の短絡電流密度をB(mA/cm2)とすると、B/Aは、約1.78となった。つまり、本実施例としての光電変換素子の短絡電流密度は、比較例としての光電変換素子の短絡電流密度を基準として、約1.78倍向上したことが確認できた。
【0091】
一方、比較例としての光電変換素子の発電効率をC(%)とし、本実施例としての光電変換素子の発電効率をD(%)とすると、D/Cは、約2.07となった。つまり、本実施例としての光電変換素子の発電効率は、比較例としての光電変換素子の発電効率を基準として、約2.07倍向上したことが確認できた。
【0092】
以上の実験により、本実施例としての光電変換素子のように、第一のn型半導体よりも電子移動度が大きい第二のn型半導体としてのn型側金属酸化物により構成されるn型側従領域を、第一のn型半導体により構成されるn型側主領域が延びる延在方向に間隔を空けてn型側主領域に連続するように配置させると、光電変換素子全体として電子の移動度が向上して、短絡電流密度や発電効率が向上することが確認できた。これは、第一のn型半導体を、例えば、第一のn型半導体をチタンアルコキシド等の安価なもので構成しても、例えば、第一のn型半導体より電子移動度の高い酸化亜鉛等の第二のn型半導体をn型側従領域としてn型半導体領域に上記のように入れ込むことによりn型半導体領域全体の電子輸送機能を向上させることができることを表す。
【0093】
尚、本発明の光電変換素子は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。