(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121505
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】信号処理システム
(51)【国際特許分類】
G01S 17/86 20200101AFI20230824BHJP
G01S 17/88 20060101ALI20230824BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
G01S17/86
G01S17/88
G08G1/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024880
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 駿志
【テーマコード(参考)】
5H181
5J084
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181CC03
5H181CC14
5H181FF04
5H181FF07
5H181FF27
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5J084AA07
5J084AB01
5J084AC07
5J084BA03
(57)【要約】
【課題】複数のレーザーセンサを用いて安定した速度の検出結果を得ることが可能な信号処理システムを提供する。
【解決手段】
経路上の第1の区間にある移動体に1のレーザーセンサがレーザー光を照射して得られた第1の点群データ、及び経路上の第1の区間と連続した区間を含む第2の区間にある移動体に他のレーザーセンサがレーザー光を照射して得られた第2の点群データを取得する点群データ取得部と、第1及び第2の点群データを共通の座標上に合成する合成部と、複数の時点における合成点群データに基づいて、経路上を移動する移動体の複数の時点における代表座標を算出する移動体位置算出部と、複数の時点における移動体の代表座標に基づいて、第1及び第2の区間における移動体の移動速度を算出する速度算出部と、算出された移動体の移動速度の時系列データに対し平滑化処理を行う平滑化処理部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体が移動する経路上の第1の区間にある移動体に1のレーザーセンサがレーザー光を照射して反射光を受光することにより得られた第1の点群データ、及び前記経路上の前記第1の区間と連続した区間を含む第2の区間にある移動体に他のレーザーセンサがレーザー光を照射して反射光を受光することにより得られた第2の点群データを取得する点群データ取得部と、
前記第1の点群データ及び前記第2の点群データを共通の座標上に合成し、合成点群データを生成する合成部と、
複数の時点の各々における前記合成点群データに基づいて、前記経路上を移動する移動体の前記複数の時点における代表座標を算出する移動体位置算出部と、
前記複数の時点における前記移動体の代表座標に基づいて、前記第1の区間及び前記第2の区間における前記移動体の移動速度を算出する速度算出部と、
算出された前記移動体の移動速度の時系列データに対し平滑化処理を行う平滑化処理部と、
を有することを特徴とする信号処理システム。
【請求項2】
前記平滑化処理部は、外れ値を除去するフィルタを平滑化フィルタとして用いた演算処理を実行することにより、前記平滑化処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の信号処理システム。
【請求項3】
前記平滑化処理部は、メディアンフィルタを前記平滑化フィルタとして用いた演算処理を実行することを特徴とする請求項2に記載の信号処理システム。
【請求項4】
前記移動体位置算出部は、
前記合成点群データに基づいて前記移動体を表す物体点群を検出する物体検出部と、
前記物体点群に基づいて前記移動体の代表座標を算出する代表座標算出部と、
過去の時点における前記移動体の代表座標を記憶する物体情報記憶部と、
前記代表座標算出部が算出した代表座標と前記物体情報記憶部に記憶されている過去の時点における前記移動体の代表座標とに基づいて、追跡対象としての前記移動体の代表座標の遷移を特定する物体追跡部と、
を有し、
前記速度算出部は、特定された前記代表座標の遷移に基づいて、前記移動体の移動速度を算出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載の信号処理システム。
【請求項5】
前記第1の区間及び前記第2の区間は、各々の一部が互いに重複した区間である継ぎ目区間を有し、
前記平滑化処理部は、前記平滑化処理において、前記時系列データを平滑化することによって得られた平滑化後の時系列データのうちの前記継ぎ目区間に前記移動体がある時間のデータのみを処理前のデータと置き換えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載の信号処理システム。
【請求項6】
移動体が移動する経路上の第1の区間にある移動体に1のレーザーセンサがレーザー光を照射して反射光を受光することに得られた第1の点群データ、及び前記経路上の前記第1の区間と連続した区間を含む第2の区間にある移動体に他のレーザーセンサがレーザー光を照射して反射光を受光することにより得られた第2の点群データを取得するステップと、
前記第1の点群データ及び前記第2の点群データを共通の座標上に合成し、合成点群データを生成するステップと、
複数の時点の各々における前記合成点群データに基づいて、前記経路上を移動する移動体の前記複数の時点における代表座標を算出するステップと、
前記複数の時点における前記移動体の代表座標に基づいて、前記第1の区間及び前記第2の区間における前記移動体の移動速度を算出するステップと、
算出された前記移動体の移動速度の時系列データに対し平滑化処理を行うステップと、
を含むことを特徴とする信号処理方法。
【請求項7】
コンピュータに、
移動体が移動する経路上の第1の区間にある移動体に1のレーザーセンサがレーザー光を照射して反射光を受光することに得られた第1の点群データ、及び前記経路上の前記第1の区間と連続した区間を含む第2の区間にある移動体に他のレーザーセンサがレーザー光を照射して反射光を受光することにより得られた第2の点群データを取得するステップと、
前記第1の点群データ及び前記第2の点群データを共通の座標上に合成し、合成点群データを生成するステップと、
複数の時点の各々における前記合成点群データに基づいて、前記経路上を移動する移動体の前記複数の時点における代表座標を算出するステップと、
複数の時点における前記移動体の代表位置に基づいて、前記第1の区間及び前記第2の区間における前記移動体の移動速度を算出するステップと、
算出された前記移動体の移動速度の時系列データに対し平滑化処理を行うステップと、
を実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーセンサの出力信号を処理する信号処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路における自動運転車の本線合流において、見通しの悪い連結路では、自動運転車が本線側の交通情報を把握しにくいため、合流時に交通の流れを乱す危険性がある。そこで、3D-LiDAR等の路側センサを設置して本線の交通情報を抽出し、ITSスポット等で連結路に配信する合流支援が行われている(例えば、非特許文献1、非特許文献2)。これにより、自動運転車の安全でスムーズな合流を見込むことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】中川他, 「合流支援情報提供システム 車両検知センサ(DAY2)の精度確認」, 土木計画学研究・講演集 Vol.63, (公社)土木学会,Vol.63,Jun 2021
【非特許文献2】中川敏正,「高速道路の合流支援サービスの取組」, SIP-adus WorkShop 2020, https://www.sip-adus.go.jp/evt/workshop2020/file/sr/SR_06J_Nakagawa.pdf, Nov. 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
路側センサによる本線の検知区間の長さは、交通情報の配信時間や車両速度に鑑み、数百メートル程度の距離であることが望ましい。そこで、3D-LiDARの検知区間を長距離化するため、本線沿いに同じ向きで路側センサを複数配列して設置し、各路側センサから得られた車両点群(車両を示す点群)を合成することが行われる。
【0005】
しかし、このような点群の合成を行うと、上流側の検知区間と下流側の検知区間とがオーバーラップする継ぎ目の区間において、車両点群の分布に大きな変化が生じる。このため、車速を車両点群の中心点等の推移から推定する場合、この継ぎ目区間において推定した車速に異常値が生じ、不安定となる可能性があるという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、複数のレーザーセンサを用いた移動体の速度検出において、安定した検出結果を得ることが可能な信号処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る信号処理システムは、移動体が移動する経路上の第1の区間にある移動体に1のレーザーセンサがレーザー光を照射して反射光を受光することにより得られた第1の点群データ、及び前記経路上の前記第1の区間と連続した区間を含む第2の区間にある移動体に他のレーザーセンサがレーザー光を照射して反射光を受光することにより得られた第2の点群データを取得する点群データ取得部と、前記第1の点群データ及び前記第2の点群データを共通の座標上に合成し、合成点群データを生成する合成部と、複数の時点の各々における前記合成点群データに基づいて、前記経路上を移動する移動体の前記複数の時点における代表座標を算出する移動体位置算出部と、前記複数の時点における前記移動体の代表座標に基づいて、前記第1の区間及び前記第2の区間における前記移動体の移動速度を算出する速度算出部と、算出された前記移動体の移動速度の時系列データに対し平滑化処理を行う平滑化処理部と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る信号処理方法は、移動体が移動する経路上の第1の区間にある移動体に1のレーザーセンサがレーザー光を照射して反射光を受光することに得られた第1の点群データ、及び前記経路上の前記第1の区間と連続した区間を含む第2の区間にある移動体に他のレーザーセンサがレーザー光を照射して反射光を受光することにより得られた第2の点群データを取得するステップと、前記第1の点群データ及び前記第2の点群データを共通の座標上に合成し、合成点群データを生成するステップと、複数の時点の各々における前記合成点群データに基づいて、前記経路上を移動する移動体の前記複数の時点における代表座標を算出するステップと、前記複数の時点における前記移動体の代表座標に基づいて、前記第1の区間及び前記第2の区間における前記移動体の移動速度を算出するステップと、算出された前記移動体の移動速度の時系列データに対し平滑化処理を行うステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るプログラムは、コンピュータに、移動体が移動する経路上の第1の区間にある移動体に1のレーザーセンサがレーザー光を照射して反射光を受光することに得られた第1の点群データ、及び前記経路上の前記第1の区間と連続した区間を含む第2の区間にある移動体に他のレーザーセンサがレーザー光を照射して反射光を受光することにより得られた第2の点群データを取得するステップと、前記第1の点群データ及び前記第2の点群データを共通の座標上に合成し、合成点群データを生成するステップと、複数の時点の各々における前記合成点群データに基づいて、前記経路上を移動する移動体の前記複数の時点における代表座標を算出するステップと、複数の時点における前記移動体の代表位置に基づいて、前記第1の区間及び前記第2の区間における前記移動体の移動速度を算出するステップと、算出された前記移動体の移動速度の時系列データに対し平滑化処理を行うステップと、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数のレーザーセンサを用いた移動体の速度検出において、安定した検出結果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る信号処理システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】レーザーセンサの配置及び移動体の位置関係を模式的に示す図である。
【
図3】速度検出処理の処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図4】継ぎ目区間における車速誤差の例を示す図である。
【
図5】信号処理システムの変形例の構成を示すブロック図である。
【
図6】信号処理システムの変形例の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施例における説明及び添付図面においては、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符号を付している。
【0013】
図1は、本発明の実施例に係る信号処理システム100の構成を示すブロック図である。信号処理システム100は、第1レーザーセンサ11A、第2レーザーセンサ11B、及び信号処理装置12から構成されている。
【0014】
第1レーザーセンサ11A及び第2レーザーセンサ11Bは、レーザー光を物体に照射してその反射光を受光し、受光結果に基づいて物体までの距離を測定する計測装置である。第1レーザーセンサ11A及び第2レーザーセンサ11Bは、例えばLiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)装置によって構成されている。
【0015】
第1レーザーセンサ11A及び第2レーザーセンサ11Bは、例えば高速道路等の経路の路側に配置され、当該経路上を移動する車両等の移動体を対象として、レーザー光の照射を行う。第1レーザーセンサ11A及び第2レーザーセンサ11Bは、照射したレーザー光が移動体に反射されることにより生じた反射光を受光し、反射位置を示す3次元座標のデータ(以下、点群データと称する)を生成する。
【0016】
信号処理装置12は、第1レーザーセンサ11A及び第2レーザーセンサ11Bから点群データを取得し、取得した点群データに基づいて、移動体の移動情報を示す物体移動情報を生成する。
【0017】
なお、以下の説明では、レーザー光の照射対象である移動体が車両であり、当該車両が高速道路上を経路として走行する場合を例として説明を行う。
【0018】
図2は、第1レーザーセンサ11A及び第2レーザーセンサ11Bの配置位置を示す図である。第1レーザーセンサ11A及び第2レーザーセンサ11Bは、高速道路の本線である本線ML沿いに配列されている。ここでは、車両M1、M2、M3及びM4が本線MLを走行している場合を例として示している。信号処理装置12は、路側処理装置として第1レーザーセンサ11A及び第2レーザーセンサ11Bの近傍に設けられている。
【0019】
また、本線MLに合流する加速車線ALの路側にはITS(Intelligent Transport Systems)スポットIS1及びIS2が配置されている。例えば、ITSスポットIS1及びIS2は、本線MLとの合流地点付近において加速車線ALに沿って配列されている。ITSスポットIS1及びIS2は、加速車線ALを走行する車両に対して、運転支援を行う。なお、ここでは加速車線AL上の本線MLとの合流地点付近を自動運転車SVが走行している場合を例として示している。
【0020】
第1レーザーセンサ11A及び第2レーザーセンサ11Bは、本線ML上の所定範囲に対し、継続してレーザー光の照射及び反射光の受光を行う。例えば、第1レーザー11Aは、本線ML上の検知区間DS1に対してレーザー光の照射及び反射光の受光を行う。また、第2レーザー12Aは、本線ML上の検知区間DS2に対してレーザー光の照射及び反射光の受光を行う。検知区間DS1及び検知区間DS2は、重複部分を含んで連続した区間である。換言すると、検知区間DS1及び検知区間DS2は、継ぎ目区間SSにおいて各々の一部が重複しており、それ以外の部分については連続した区間となっている。従って、継ぎ目区間SS上に位置する車両に対しては、第1レーザーセンサ11A及び第2レーザーセンサ11Bの双方によってレーザー光の照射が行われる。
【0021】
第1レーザーセンサ11A及び第2レーザーセンサ11Bは、照射したレーザー光が本線MLを走行中の車両に反射されることにより生じた反射光を受光する。これにより、レーザー光が反射した位置である反射位置の3次元座標のデータ(以下、点群データと称する)が得られる。
【0022】
図2に示す例では、第1レーザーセンサ11Aは検知区間DS1上を走行中の車両M2、M3及びM4に対してレーザー光の照射を行い、その反射光を受光する。第2レーザーセンサ11Bは検知区間DS2上を走行中の車両M1に対してレーザー光の照射を行い、その反射光を受光する。
【0023】
第1レーザーセンサ11A及び第2レーザーセンサ11Bは、受光した反射光に基づいて、各車両の位置を示す点群データを生成する。第1レーザーセンサ11A及び第2レーザーセンサ11Bは、生成した点群データを信号処理装置12に供給(送信)する。
【0024】
信号処理装置12は、第1レーザーセンサ11A及び第2レーザーセンサ11Bから取得した点群データに基づいて、本線MLを走行する各車両の位置及び速度を示す情報である物体移動情報MDを生成する。信号処理装置12は、物体移動情報MDをITSスポットIS1及びIS2に送信する。
【0025】
ITSスポットIS1及びIS2は、信号処理装置12から受信した物体移動情報MDに基づいて運転支援情報を生成し、加速車線ALから本線MLに合流する車両(例えば、
図2では自動運転車SV)に供給(送信)する。例えば、自動運転車SVが加速車線ALから本線MLに合流する際、本線MLを走行する車両の間隔を時間で表す情報(以下、車間時間情報と称する)が必要となる。ITSスポットIS1及びIS2は、物体移動情報MDに基づいて車間時間情報を生成し、生成した車間時間情報を含む運転支援情報を、加速車線ALの本線MLとの合流地点付近を走行する車両(自動運転車SV等)に供給する。
【0026】
再び
図1を参照すると、信号処理装置12は、第1点群取得装置21A、第2点群取得装置21B、点群合成部22、物体検出部23、代表位置算出部24、過去フレーム検出物体情報記憶部25、物体追跡部26、速度算出部27、速度平滑化部28及び物体移動情報生成部29を有する。
【0027】
第1点群取得装置21Aは、第1レーザーセンサ11Aから第1の点群データP1を取得する点群取得部である。上記の通り、第1レーザーセンサ11Aが対象とする区間は検知区間DS1であるため、検知区間DS1を走行中の車両を示す第1の点群データP1が第1点群取得装置21Aによって取得される。
【0028】
第2点群取得装置21Bは、第2レーザーセンサ11Bから第2の点群データP2を取得する点群取得部である。上記の通り、第2レーザーセンサ11Bが対象とする区間は検知区間DS2であるため、検知区間DS2を走行中の車両を示す第2の点群データP2が第2点群取得装置21Bによって取得される。
【0029】
なお、第1点群取得装置21A及び第2点群取得装置21Bは、それぞれ所定期間おきに同じタイミングで点群データを取得する。以下の説明では、あるタイミング(換言すると、1の時点)で取得された点群データを1フレーム分の点群データと称する。
【0030】
点群合成部22は、第1の点群データP1及び第2の点群データP2を共通の座標上に合成する合成部である。点群合成部22は、例えば第1の点群データP1及び第2の点群データP2に含まれる点群のうち、時刻的に近い点群同士を合成することにより点群データの合成を行う。点群合成部22は、合成結果を合成点群データCPとして出力する。
【0031】
物体検出部23は、合成点群データCPに基づいて、物体の検出を行う。例えば、物体検出部23は、背景差分技術又はクラスタリング技術を用いて、検出対象の物体を示す3次元の点群情報(以下、物体点群と称する)を得ることにより、物体を検出する。本実施例では、本線MLの検知区間DS1及びDS2(継ぎ目区間SSを含む)を走行する車両が検出対象の物体であるため、当該車両を示す物体点群が検出される。
【0032】
代表位置算出部24は、物体検出部23によって検出された物体の座標上における代表位置(以下、代表座標と称する)を算出する。例えば、代表位置算出部24は、物体検出部23によって取得された物体点群の重心を算出することにより、物体の代表座標を算出する。本実施例では、検出対象の物体が車両であるため、車両を示す物体点群の重心の位置が、車両の代表座標として算出される。
【0033】
過去フレーム検出物体情報記憶部25は、1フレーム分の点群データ毎に検出された物体点群及び物体の代表座標を過去フレーム検出物体情報として記憶する。過去フレーム検出物体情報記憶部25は、例えばフラッシュメモリやHDD等の半導体記憶装置から構成されている。
【0034】
物体追跡部26は、代表位置算出部24が算出した現フレームにおける物体の代表座標と、過去フレーム検出物体情報記憶部25に記憶されている過去の物体点群及び代表座標と、に基づいて、速度算出の対象となる物体、すなわち追跡対象の物体のフレーム毎の対応付けを行う。これにより、複数フレーム間に亘る物体の代表位置の遷移が特定される。本実施例では、追跡対象の物体が車両であるため、フレーム毎の対応付けに基づいて車両の代表座標の遷移を特定することにより、追跡が行われる。
【0035】
例えば、現フレームF_kの点群データに基づいて代表位置算出部24により算出されたある物体OBの代表座標の位置を(X_0,Y_0,Z_0)とする。物体追跡部26は、過去フレーム検出物体情報記憶部25から読み出した過去フレームF_(k-1)における物体点群のうち、代表座標の位置の距離が最も近い物体を同一の物体として識別し、追跡対象の物体とする。なお、ここでの距離は三次元でのユークリッド距離である。
【0036】
速度算出部27は、物体追跡部26により追跡対象とされた物体の代表座標の遷移に基づいて、速度を算出する。例えば、速度算出部27は、物体の速度を速度ベクトルとして算出する。なお、速度算出部27は、x,y,zの各成分毎に速度の計算を行う。
【0037】
例えば、時刻t1における物体の代表位置C_t1(x,y,z)、時刻t2における物体の代表位置C_t2(x,y,z)とすると、時刻t2における速度ベクトルV_t2(x,y,z)は、次の数式(1)で表される。
【0038】
【0039】
速度算出部27は、速度算出の対象である物体が検知区間を移動している間、逐次その速度を算出する。例えば、本実施例では、本線MLを走行する車両が追跡対象の物体であり、当該車両が検知区間DS1に進入して、検知区間DS2を退出するまでの期間に亘って、当該車両の速度が速度算出部27によって逐次算出される。速度算出部27は、算出した速度を示す速度情報を速度平滑部28に逐次供給する。
【0040】
速度平滑化部28は、速度算出部27から供給された速度情報に基づいて、速度の時系列データを生成する。そして、速度平滑部28は、速度の時系列データに対して平滑化処理を行う。なお、以下の説明では、速度の時系列データを平滑化することを「速度の平滑化」と称する。
【0041】
本実施例では、速度平滑化部28は、次の数式(2)に示すメディアン(median)フィルタを平滑化フィルタとして演算処理を実行することにより、速度の平滑化を行う。
【0042】
【0043】
ここで、Vtは時刻Vtにおける推定車速であり、Vtにオーバーラインを付したものは平滑化後の車速である。なお、Vtはx,y,zの各成分からなる速度ベクトルであってもよく、スカラ値であってもよい。メディアンフィルタを用いた平滑化処理により、継ぎ目区間SSの車速に表れる外れ値(すなわち、異常値)が除去される。
【0044】
物体移動情報生成部29は、平滑化された速度の時系列データに基づいて、物体の位置及び速度を示す物体移動情報MDを生成する。本実施例では、検知区間DS1に進入してから検知区間DS2を退出するまでの車両の位置及び速度の変化を示す物体情報MDが生成される。物体移動情報MDは、信号処理装置12に設けられた図示せぬ送信部によってITSスポットIS1及びIS2に送信され、自動運転車SVの運転支援に用いられる。
【0045】
次に、本実施例の信号処理装置12が実行する速度検出処理の処理動作について説明する。
図3は、速度検出処理の処理ルーチンを示すフローチャートである。
【0046】
第1点群取得装置21Aは、第1レーザーセンサ11Aから第1の点群データP1を取得する。また、第2点群取得装置21Bは、第2レーザーセンサ11Bから第2の点群データP2を取得する(STEP101)。
【0047】
点群合成部22は、第1の点群データP1及び第2の点群データP2を共通の座標上に合成し、合成点群データCPを生成する(STEP102)。
【0048】
物体検出部23は、合成点群データCPに基づいて検出対象の物体(本実施例では、車両)を表す物体点群を検出する(STEP103)。
【0049】
代表位置算出部24は、物体点群の重心を算出することにより、座標上における物体の代表位置(代表座標)を算出する(STEP104)。
【0050】
物体追跡部26は、過去フレーム検出物体情報記憶部25から過去のフレームにおける物体点群及び代表位置を読み出す。物体追跡部26は、STEP104で算出された現フレームにおける物体点群及び代表位置と過去フレームにおける物体点群及び代表位置との対応付けを行うことにより、追跡対象の物体(車両)を特定する(STEP105)。
【0051】
速度算出部27は、特定された追跡対象の物体の代表位置の遷移に基づいて、当該物体の速度の算出を行う(STEP106)。
【0052】
速度平滑化部28は、速度算出部27によって逐次算出された速度に基づいて速度の時系列データを生成し、速度の平滑化処理を行う(STEP107)。
【0053】
以上の処理ルーチンにより、本実施例の信号処理装置12による速度検出処理が実行される。
【0054】
本実施例の信号処理装置12は、第1のレーザーセンサ11A及び第2のレーザーセンサ11Bの各々によって取得された点群データに基づいて車両の速度を算出し、メディアンフィルタを用いて速度の平滑化処理を行う。これにより、検知区間DS1と検知区間DS2とがオーバーラップする継ぎ目区間SSにおいて生じる外れ値、すなわち車速の異常値を除去することが可能となる。
【0055】
図4は、平滑化処理を行った場合と行わない場合の夫々について、実際の車速(真値)との車速誤差を示す図である。横軸は検知区間を表しており、
図2との関係では、90~99が検知区間DS1、96~110が検知区間DS2、96~99が継ぎ目区間SSに夫々対応している。縦軸は真値を0として、真値からのずれ(誤差)を数値化して示している。
【0056】
なお、ここでは、GNSS(Global Navigation Satellite System)を利用したRTK(Real Time Kinematic)-GPS測位で計測した車速を真値としている。また、メディアンフィルタの比較対象として、次の数式(3)で示すIIR(Infinite Impulse Response)フィルタを用いて平滑化処理を行った場合の車速誤差を併せて示している。
【0057】
【0058】
平滑化を行わない場合、
図4に破線で示すように、全体的に真値との誤差が大きい。特に、継ぎ目区間SSにおける誤差はかなり大きくなってしまう。
【0059】
IIRフィルタを用いて平滑化を行った場合、
図4に一点鎖線で示すように、平滑化を行わない場合と比べて全体的な誤差を抑えることができるが、継ぎ目区間SSでは、平滑化後も誤差の揺らぎが生じてしまう。
【0060】
これに対し、メディアンフィルタを用いて平滑化を行った場合、
図4に実線で示すように、継ぎ目区間SSを含め、全体的に真値との誤差を相当程度小さくすることができる。これは、中央値を算出するフィルタであるメディアンフィルタを用いることにより、車速の外れ値(すなわち、異常な車速値)が平滑化の対象から除外されるためである。
【0061】
以上のように、本実施例の信号処理システム100によれば、複数のレーザーセンサを用いた移動体の速度検出において、各々のレーザーセンサから得られた点群データに基づいて速度を算出した後、速度の平滑化を行うことにより、誤差の少ない速度検出を行うことが可能となる。特に、平滑化により各レーザーセンサの検知区間が重なる所謂継ぎ目区間における外れ値を除去することができるため、安定した検出結果を得ることが可能となる。
【0062】
なお、本発明の実施形態は、上記実施例に記載したものに限られない。例えば、上記実施例では、速度の平滑化を、メディアンフィルタを用いて行う場合を例として説明した。しかし、平滑化の演算は上記実施例で示したものに限られず、メディアンフィルタ以外の他のフィルタを用いて平滑化を行ってもよい。ただし、平滑化に用いるフィルタは、トリム平均フィルタやハンペルフィルタ等、外れ値や異常値を除去することが可能なフィルタであることが好ましい。
【0063】
また、信号処理システムの構成は
図1で示したものに限られない。例えば、夫々がレーザーセンサを含み物体検出までの処理を行う子機と、点群合成以降の処理を行う親機と、からなる信号処理システムであってもよい。
【0064】
図5は、かかる構成を有する変形例の信号処理システム200の構成を示すブロック図である。信号処理システム200は、第1子機31A、第2子機31B及び親機32から構成されている。
【0065】
第1子機31Aは、第1レーザーセンサ11A、第1点群取得装置21A及び物体検出部33Aを有する。第2子機31Bは、第2レーザーセンサ11B、第2点群取得装置21B及び物体検出部33Bを有する。第1子機31Aは、第1レーザーセンサ11Aによって得られた点群データに基づいて物体検出を行い、検出結果を親機32に送信する。第2子機31Bは、第2レーザーセンサ11Bによって得られた点群データに基づいて物体検出を行い、検出結果を親機32に送信する。親機32は、第1子機31A及び第2子機31Bから送信された検出結果に基づいて、点群データの合成、代表位置の算出、速度の算出、速度の平滑化等の処理を実行する。かかる構成の信号処理システム200によっても、上記実施例の信号処理システム100と同様の効果を得ることが可能である。
【0066】
また、上記実施例では、検知区間全体について速度を平滑化したデータを用いる場合を例として説明した。しかし、速度の平滑化は少なくとも継ぎ目区間SSについて行われればよい。
【0067】
図6は、物体の位置に応じて平滑化処理を適用するか否か(すなわち、平滑化したデータを用いるか否か)を切り替える変形例の信号処理システム300の構成を示すブロック図である。信号処理システム300は、第1レーザーセンサ11A、第2レーザーセンサ11B及び信号処理装置41から構成されている。
【0068】
信号処理装置41に設けられた速度平滑化部42は、代表位置算出部24によって算出された座標上の代表位置に応じて、平滑化後の速度を出力するのか平滑化前の速度を出力するのかを選択的に切り替える点で、
図1の速度平滑化部28と異なる。
【0069】
すなわち、速度平滑化部42は、車両が検知区間DS1及びDS2を走行した際の速度の時系列データのうち、継ぎ目区間SSを走行中の速度データを平滑化された速度データに置き換える。一方、継ぎ目区間SS以外については平滑化前の速度データ(すなわち、速度算出部27により算出された速度)がそのまま速度データとして維持される。
【0070】
換言すると、速度平滑化部42は、速度算出部27によって算出された速度からなる速度の時系列データのうち、車両が継ぎ目区間SSを走行している時間のデータについてのみ、平滑後の速度データへの置き換えを行う。
【0071】
かかる構成によれば、実質的に継ぎ目区間SSについてのみ速度の平滑化が行われることになるため、それ以外の区間については平滑化処理が施されていない状態の速度情報を用いることが可能となる。
【0072】
また、上記実施例では、速度平滑化部28によって平滑化された速度情報が物体移動情報生成部29に供給され、物体移動情報生成部29が物体移動情報MDを生成してITSスポットIS1及びIS2に送信する場合を例として説明した。しかし、これとは別に、速度平滑化部28によって平滑化された速度情報を、信号処理装置12に設けられた図示せぬ表示部に表示させる構成であってもよい。
【0073】
また、上記実施例では、物体点群の重心の位置を座標上における物体の代表位置として算出する場合を例として説明した。しかし、代表位置の算出方法はこれに限られず、例えば物体点群に基づいて、座標上で当該物体の存在範囲を示す物体枠を設定し、その物体枠の中心点の位置を代表位置としても良い。
【0074】
また、上記実施例では、高速道路の本線を走行する車両を対象として速度の検出を行う場合を例として説明した。しかし、検出対象の物体は自動車等の車両に限られず、船舶や飛行機等の他の移動体であってもよい。また、検知区間となるのは高速道路等の道路に限られず、歩道、線路、滑走路等、移動体が移動可能な様々な経路を検知区間とすることが可能である。
【0075】
また、上記実施例で説明した一連の処理は、例えばROMなどの記録媒体に格納されたプログラムに従ったコンピュータ処理により行うことができる。すなわち、上記実施例における信号処理装置12の各機能ブロックは、コンピュータに設けられた処理制御部が所定のプログラムを実行することにより形成することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
100 信号処理システム
11A 第1レーザーセンサ
11B 第2レーザーセンサ
12 信号処理装置
21A 第1点群取得装置
21B 第2点群取得装置
22 点群合成部
23 物体検出部
24 代表位置算出部
25 過去フレーム検出物体情報記憶部
26 物体追跡部
27 速度算出部
28 速度平滑化部
29 物体移動情報生成部
31A 第1子機
31B 第2子機
32 信号処理装置
33A 物体検出部
33B 物体検出部
41 信号処理装置
42 速度平滑化部