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特開2023-121512非熱可塑性ポリイミドフィルム、複層ポリイミドフィルム、及び金属張積層板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121512
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】非熱可塑性ポリイミドフィルム、複層ポリイミドフィルム、及び金属張積層板
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20230824BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230824BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20230824BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230824BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C08G73/10
B32B15/08 J
B32B27/34
C08J5/18 CFG
H05K1/03 610N
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024889
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】大熊 敬介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 嵩浩
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J043
【Fターム(参考)】
4F071AA60
4F071AA88
4F071AF40Y
4F071AF62Y
4F071AG05
4F071AH13
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4F100AB01B
4F100AB33B
4F100AK49A
4F100AK50B
4F100AK50G
4F100AT00
4F100EC012
4F100EH012
4F100EH01B
4F100EH662
4F100EH66B
4F100EH66C
4F100GB43
4F100JA02A
4F100JA02G
4F100JG05A
4F100JG05G
4F100JJ03A
4F100JJ03G
4F100JL022
4F100JL02A
4F100JL02B
4F100JL02G
4J043PA15
4J043QB31
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA47
4J043SA61
4J043SB02
4J043TA22
4J043TA71
4J043TB02
4J043UA121
4J043UA122
4J043UA142
4J043UA151
4J043UB011
4J043VA011
4J043XA16
4J043YA08
4J043ZA35
4J043ZA46
4J043ZB11
4J043ZB50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】誘電正接を低減できる非熱可塑性ポリイミドフィルム、並びに当該非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いた複層ポリイミドフィルム及び金属張積層板を提供することにある。
【解決手段】非熱可塑性ポリイミドを含む非熱可塑性ポリイミドフィルムであって、前記非熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物残基として、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基及び4,4’-オキシジフタル酸無水物残基を有し、かつジアミン残基として、p-フェニレンジアミン残基と、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニルから選ばれる少なくとも1種類のジアミン成分を有する非熱可塑性ポリイミドフィルムにより上記課題を解決できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非熱可塑性ポリイミドを含む非熱可塑性ポリイミドフィルムであって、前記非熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物残基として、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基及び4,4’-オキシジフタル酸無水物残基を有し、かつジアミン残基として、p-フェニレンジアミン残基と、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニルから選ばれる少なくとも1種類のジアミン成分を有する非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記非熱可塑性ポリイミドを構成する全テトラカルボン酸二無水物残基に対する、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基及び4,4’-オキシジフタル酸無水物残基との合計含有率が、80モル%以上であり、かつ非熱可塑性ポリイミドを構成する全ジアミン残基に対する、p-フェニレンジアミン残基と1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニルから選ばれる少なくとも1種類のジアミン成分との合計含有率が、85モル%以上である、請求項1記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記非熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物残基として、ピロメリット酸二無水物残基を更に有する、請求項1又は2に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記非熱可塑性ポリイミドを構成する全テトラカルボン酸二無水物残基に対する前記ピロメリット酸二無水物残基の含有率が、20モル%以下である、請求項3に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記非熱可塑性ポリイミドを構成するテトラカルボン酸二無水物残基の総物質量を、前記非熱可塑性ポリイミドを構成するジアミン残基の総物質量で除した物質量比が、0.95以上1.05以下である 、請求項1~4のいずれか一項に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルムと、前記非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に配置された、熱可塑性ポリイミドを含む接着層とを有する複層ポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記接着層は、前記非熱可塑性ポリイミドフィルムの両面に配置されている、請求項6に記載の複層ポリイミドフィルム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルムと、前記非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に配置された金属層とを有する、金属張積層板。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の複層ポリイミドフィルムと、前記複層ポリイミドフィルムの少なくとも一方の前記接着層の主面に配置された金属層とを有する、金属張積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非熱可塑性ポリイミドフィルム、複層ポリイミドフィルム、及び金属張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、タブレットパソコン、ノートパソコン等を中心としたエレクトロニクス製品の需要拡大に伴い、フレキシブルプリント配線板(以下、「FPC」と記載することがある)の需要が伸びている。中でも、非熱可塑性ポリイミド層(コア層)と熱可塑性ポリイミド層(接着層)とを有する複層ポリイミドフィルムを材料として使用したFPCは、耐熱性及び屈曲性に優れることから需要が更に伸びることが期待される。また、ポリイミドは、高温プロセスに適応できるだけの十分な耐熱性を有しており、線膨張係数も比較的小さいため、内部応力が生じにくく、FPCの材料として好適である。
【0003】
また、近年の電子機器の高速信号伝送に伴い、回路を伝播する電気信号の高周波化を実現するために電子基板材料の低誘電率化及び低誘電正接化の要求が高まっている。電気信号の伝送損失を抑制するためには、電子基板材料の誘電率及び誘電正接を低くすることが有効である。IoT社会の黎明期である近年、高周波化の傾向は進んでおり、例えば10GHz以上の領域においても伝送損失を抑制できるような基板材料が求められている。
【0004】
ところで、伝送損失は、比例定数(k)、周波数(f)、誘電正接(Df)及び比誘電率(Dk)を用いて下記式で表され、伝送損失への寄与は、誘電正接の方が比誘電率より大きい。従って、伝送損失を少なくするためには、特に誘電正接を低くすることが重要となる。
【0005】
伝送損失=k×f×Df×(Dk)1/2
高周波化に適応可能な回路基板に用いられる材料として、低い誘電正接を発現するポリイミドフィルム(ポリイミド層)が知られている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2014-526399号公報
【特許文献2】特開2009-246201号公報
【特許文献3】国際公開第2018/079710号
【特許文献4】国際公開第2016/159060号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1~4に記載の技術は、誘電正接を低減することについて、改善の余地が残されている。本発明は上記題に鑑みてなされたものであって、その目的は、誘電正接を低減できる非熱可塑性ポリイミドフィルム、並びに当該非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いた複層ポリイミドフィルム及び金属張積層板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の現状を鑑み、本発明者らは鋭意研究を行った結果、下記構成により上記課題を構成できることを見出した。
【0009】
1).非熱可塑性ポリイミドを含む非熱可塑性ポリイミドフィルムであって、前記非熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物残基として、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基及び4,4’-オキシジフタル酸無水物残基を有し、かつジアミン残基として、p-フェニレンジアミン残基と、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニルから選ばれる少なくとも1種類のジアミン成分を有する非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【0010】
2).前記非熱可塑性ポリイミドを構成する全テトラカルボン酸二無水物残基に対する、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基及び4,4’-オキシジフタル酸無水物残基との合計含有率が、80モル%以上であり、かつ非熱可塑性ポリイミドを構成する全ジアミン残基に対する、p-フェニレンジアミン残基と1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニルから選ばれる少なくとも1種類のジアミン成分との合計含有率が、85モル%以上である、1)記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【0011】
3).前記非熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物残基として、ピロメリット酸二無水物残基を更に有する、1)又は2)に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【0012】
4).前記非熱可塑性ポリイミドを構成する全テトラカルボン酸二無水物残基に対する前記ピロメリット酸二無水物残基の含有率が、20モル%以下である、3)に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【0013】
5).前記非熱可塑性ポリイミドを構成するテトラカルボン酸二無水物残基の総物質量を、前記非熱可塑性ポリイミドを構成するジアミン残基の総物質量で除した物質量比が、0.95以上1.05以下である 、1)~4)のいずれか一項に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルム。
【0014】
6).1)~5)のいずれか一項に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルムと、前記非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に配置された、熱可塑性ポリイミドを含む接着層とを有する複層ポリイミドフィルム。
【0015】
7).前記接着層は、前記非熱可塑性ポリイミドフィルムの両面に配置されている、6)に記載の複層ポリイミドフィルム。
【0016】
8).1)~7)のいずれか一項に記載の非熱可塑性ポリイミドフィルムと、前記非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に配置された金属層とを有する、金属張積層板。
【0017】
9).6)又は7)に記載の複層ポリイミドフィルムと、前記複層ポリイミドフィルムの少なくとも一方の前記接着層の主面に配置された金属層とを有する、金属張積層板。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、誘電正接を低減できる非熱可塑性ポリイミドフィルム、並びに当該非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いた複層ポリイミドフィルム及び金属張積層板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0020】
まず、本明細書中で使用される用語について説明する。「構造単位」とは、重合体を構成する繰り返し単位のことをいう。「ポリイミド」は、下記一般式(1)で表される構造単位(以下、「構造単位(1)」と記載することがある)を含む重合体である。
【化1】
【0021】
一般式(1)中、Xは、テトラカルボン酸二無水物残基(テトラカルボン酸二無水物由来の4価の有機基)を表し、Xは、ジアミン残基(ジアミン由来の2価の有機基)を表す。ポリイミドは、酸二無水物とジアミン化合物の縮合反応物の形で表現することができる。
【0022】
ポリイミドを構成する全構造単位に対する構造単位(1)の含有率は、例えば50モル%以上100モル%以下であり、好ましくは60モル%以上100モル%以下であり、より好ましくは70モル%以上100モル%以下であり、更に好ましくは80モル%以上100モル%以下であり、更により好ましくは90モル%以上100モル%以下であり、100モル%であってもよい。
【0023】
「線膨張係数」は、何ら規定していなければ、温度50℃から250℃における昇温時線膨張係数である。線膨張係数の測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はそれに準ずる方法である。
【0024】
「比誘電率」は、周波数10GHz、温度23℃、相対湿度50%における比誘電率である。「誘電正接」は、周波数10GHz、温度23℃、相対湿度50%における誘電正接である。比誘電率及び誘電正接の測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はそれに準ずる方法である。
【0025】
「非熱可塑性ポリイミド」とは、フィルムの状態で金属製の固定枠に固定して加熱温度380℃で1分間加熱した際に、フィルム形状(平坦な膜形状)を保持しているポリイミドをいう。「熱可塑性ポリイミド」とは、フィルムの状態で金属製の固定枠に固定して加熱温度380℃で1分間加熱した際に、フィルム形状を保持していないポリイミドをいう。
【0026】
層状物(より具体的には、非熱可塑性ポリイミドフィルム、接着層、複層ポリイミドフィルム、金属層等)の「主面」とは、層状物の厚み方向に直交する面をさす。
【0027】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。テトラカルボン酸二無水物を「酸二無水物」と記載することがある。非熱可塑性ポリイミドフィルムに含まれる非熱可塑性ポリイミドを、単に「非熱可塑性ポリイミド」と記載することがある。接着層に含まれる熱可塑性ポリイミドを、単に「熱可塑性ポリイミド」と記載することがある。
【0028】
<非熱可塑性ポリイミドフィルム>
本発明の非熱可塑性ポリイミドフィルムは、非熱可塑性ポリイミドを含む。非熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物残基として、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基及び4,4’-オキシジフタル酸無水物残基を有し、かつジアミン残基として、p-フェニレンジアミン残基と、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン残基、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニルから選ばれる少なくとも1種類のジアミン成分を有する。
【0029】
以下、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を「BPDA」、4,4’-オキシジフタル酸無水物を「ODPA」、ピロメリット酸二無水物を「PMDA」、p-フェニレンジアミンを「PDA」、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンを「TPE-Q」、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンを「TPE-M」、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニルを「m-TB」と記載することがある。以下、非熱可塑性ポリイミドフィルムの詳細について説明する。
【0030】
[非熱可塑性ポリイミド]
非熱可塑性ポリイミドフィルムに含まれる非熱可塑性ポリイミドは、BPDA残基及びODPA残基に加え、他の酸二無水物残基を有してもよい。他の酸二無水物残基(BPDA残基及びODPA残基以外の酸二無水物残基)を形成するための酸二無水物(モノマー)としては、例えば、PMDA、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,4’-オキシジフタル酸無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0031】
誘電正接をより低減できる非熱可塑性ポリイミドフィルムを得るためには、他の酸二無水物残基としては、PMDA残基、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物残基及びp-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)残基からなる群より選択される一種以上が好ましい。また、耐熱性を高めつつ、誘電正接をより低減できる非熱可塑性ポリイミドフィルムを得るためには、他の酸二無水物残基としては、PMDA残基が好ましい。
【0032】
誘電正接をより低減できる非熱可塑性ポリイミドフィルムを得るためには、非熱可塑性ポリイミドを構成する全酸二無水物残基に対する、BPDA残基とODPA残基との合計含有率は、80モル%以上であることが好ましく、85モル%以上、90モル%以上であることがより好ましく、100モル%でも構わない。
【0033】
他の酸二無水物残基としてPMDA残基を使用する場合、耐熱性を高めつつ、誘電正接をより低減できる非熱可塑性ポリイミドフィルムを得るためには、非熱可塑性ポリイミドを構成する全酸二無水物残基に対する、BPDA残基とODPA残基とPMDA残基との合計含有率は、85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、100モル%でも構わない。
【0034】
誘電正接をより低減できる非熱可塑性ポリイミドフィルムを得るためには、非熱可塑性ポリイミドを構成する全酸二無水物残基に対するBPDA残基の含有率は、20モル%以上70モル%以下であることが好ましく、25モル%以上65モル%以下であることがより好ましい。
【0035】
誘電正接をより低減できる非熱可塑性ポリイミドフィルムを得るためには、非熱可塑性ポリイミドを構成する全酸二無水物残基に対するODPA残基の含有率は、20モル%以上70モル%以下であることが好ましく、30モル%以上60モル%以下であることがより好ましい。
【0036】
耐熱性を高めつつ、誘電正接をより低減できる非熱可塑性ポリイミドフィルムを得るためには、非熱可塑性ポリイミドを構成する全酸二無水物残基に対するPMDA残基の含有率は、20モル%以下であることが好ましく、1モル%以上20モル%以下であることがより好ましく、3モル%以上12モル%以下であることが更に好ましい。
【0037】
非熱可塑性ポリイミドフィルムに含まれる非熱可塑性ポリイミドは、PDA残基と、TPE-Q残基、TPE-M残基、m-TB残基から選ばれる少なくとも1種類のジアミン成分に加え、他のジアミン残基を有してもよい。他のジアミン残基を形成するためのジアミン(モノマー)としては、例えば、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニルN-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルN-フェニルアミン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0038】
誘電正接をより低減できる非熱可塑性ポリイミドフィルムを得るためには、非熱可塑性ポリイミドを構成する全ジアミン残基に対する、PDA残基とTPE-Q残基、TPE-M残基、m-TB残基から選ばれる少なくとも1種類のジアミン成分との合計含有率は、85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることが更に好ましく、100モル%でも構わない。
【0039】
誘電正接をより低減できる非熱可塑性ポリイミドフィルムを得るためには、非熱可塑性ポリイミドを構成する全ジアミン残基に対するPDA残基の含有率は、60モル%以上98モル%以下であることが好ましく、70モル%以上95モル%以下であることがより好ましく、80モル%以上95モル%以下であることが更に好ましい。
【0040】
誘電正接をより低減できる非熱可塑性ポリイミドフィルムを得るためには、非熱可塑性ポリイミドを構成する全ジアミン残基に対するTPE-Q残基、TPE-M残基、m-TB残基から選ばれる少なくとも1種類のジアミン成分の含有率は、2モル%以上40モル%以下であることが好ましく、2モル%以上30モル%以下であることがより好ましく、5モル%以上20モル%以下であることが更に好ましい。
【0041】
誘電正接をより低減できる非熱可塑性ポリイミドフィルムを得るためには、非熱可塑性ポリイミドを構成する酸二無水物残基の総物質量を、非熱可塑性ポリイミドを構成するジアミン残基の総物質量で除した物質量比が、0.95以上1.05以下であることが好ましく、0.97以上1.03以下であることがより好ましく、0.99以上1.01以下であることが更に好ましい。
【0042】
非熱可塑性ポリイミドフィルムには、非熱可塑性ポリイミド以外の成分(添加剤)が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、シリコーン、フィラー、増感剤等を用いることができる。非熱可塑性ポリイミドフィルム中の非熱可塑性ポリイミドの含有率は、非熱可塑性ポリイミドフィルムの全量に対して、例えば70重量%以上であり、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましく、100重量%であってもよい。
【0043】
[非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造方法]
非熱可塑性ポリイミドフィルムに含まれる非熱可塑性ポリイミドは、その前駆体であるポリアミド酸をイミド化して得られる。
【0044】
ポリアミド酸の製造方法(合成方法)としては、あらゆる公知の方法及びそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ポリアミド酸を製造する際は、通常、有機溶媒中でジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させる。反応させる際のジアミンの物質量とテトラカルボン酸二無水物の物質量とは、実質的に同量であることが好ましい。ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを用いてポリアミド酸を合成する場合、各ジアミンの物質量と、各テトラカルボン酸二無水物の物質量とを調整することで、所望のポリアミド酸(ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との重合体)を得ることができる。ポリアミド酸から形成されるポリイミド中の各残基のモル分率は、例えば、ポリアミド酸の合成に使用する各モノマー(ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物)のモル分率と一致する。ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との反応、即ち、ポリアミド酸の合成反応の温度条件は、特に限定されないが、例えば10℃以上150℃以下の範囲である。ポリアミド酸の合成反応の反応時間は、例えば10分以上30時間以下の範囲である。本実施形態においてポリアミド酸の製造には、いかなるモノマーの添加方法を用いてもよい。
【0045】
非熱可塑性ポリイミドを得る際、ポリアミド酸と有機溶媒とを含むポリアミド酸溶液から非熱可塑性ポリイミドを得る方法を採用してもよい。ポリアミド酸溶液に使用可能な有機溶媒としては、例えば、テトラメチル尿素、N,N-ジメチルエチルウレアのようなウレア系溶媒;ジメチルスルホキシドのようなスルホキシド系溶媒;ジフェニルスルホン、テトラメチルスルホンのようなスルホン系溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と記載することがある)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;γ―ブチロラクトン等のエステル系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;フェノール、クレゾール等のフェノール系溶媒;シクロペンタノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、p-クレゾールメチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。通常これらの溶媒を単独で用いるが、必要に応じて2種以上を適宜組合わせて用いてもよい。上述した重合方法でポリアミド酸を得た場合、反応溶液(反応後の溶液)自体を、非熱可塑性ポリイミドを得るためのポリアミド酸溶液としてもよい。この場合、ポリアミド酸溶液中の有機溶媒は、上記重合方法において反応に使用した有機溶媒である。また、反応溶液から溶媒を除去して得られた固体のポリアミド酸を、有機溶媒に溶解してポリアミド酸溶液を調製してもよい。
【0046】
ポリアミド酸溶液には、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、シリコーン、フィラー、増感剤等の添加剤が添加されていてもよい。ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の濃度は、特に限定されず、ポリアミド酸溶液全量に対して、例えば5重量%以上35重量%以下であり、好ましくは8重量%以上30重量%以下である。ポリアミド酸の濃度が5重量%以上35重量%以下である場合、適当な分子量と溶液粘度が得られる。
【0047】
ポリアミド酸溶液を用いて非熱可塑性ポリイミドフィルムを得る方法としては、特に制限されず、種々の公知の方法を適用でき、例えば、以下の工程i)~iii)を経て非熱可塑性ポリイミドフィルムを得る方法が挙げられる。
工程i):ポリアミド酸溶液を含むドープ液を支持体上に塗布して、塗布膜を形成する工程
工程ii):上記塗布膜を支持体上で乾燥させて自己支持性を持つポリアミド酸フィルム(以下、「ゲルフィルム」と記載することがある)とした後、支持体からゲルフィルムを引き剥がす工程
工程iii)上記ゲルフィルムを加熱することによりゲルフィルム中のポリアミド酸をイミド化して、非熱可塑性ポリイミドを含む非熱可塑性ポリイミドフィルムを得る工程
【0048】
工程i)~iii)を経て非熱可塑性ポリイミドフィルムを得る方法は、熱イミド化法と化学イミド化法に大別される。熱イミド化法は、脱水閉環剤等を使用せず、ポリアミド酸溶液をドープ液として支持体上に塗布し、加熱してイミド化を進める方法である。一方の化学イミド化法は、ポリアミド酸溶液に、脱水閉環剤及び触媒の少なくとも一方を添加したものをドープ液として使用し、イミド化を促進する方法である。どちらの方法を用いても構わないが、化学イミド化法の方が生産性に優れる。
【0049】
脱水閉環剤としては、無水酢酸に代表される酸無水物が好適に用いられる。触媒としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン(より具体的には、イソキノリン等)等の第三級アミンが好適に用いられる。ポリアミド酸溶液に脱水閉環剤及び触媒の少なくとも一方を加える際、有機溶媒に溶かさず直接加えてもよいし、有機溶媒に溶かしたものを加えてもよい。有機溶媒に溶かさず直接加える方法では脱水閉環剤及び触媒の少なくとも一方が拡散する前に反応が急激に進行し、ゲルが生成することがある。よって、脱水閉環剤及び触媒の少なくとも一方を有機溶媒に溶かして得られた溶液(イミド化促進剤)を、ポリアミド酸溶液に添加することが好ましい。
【0050】
工程i)において、支持体上にドープ液を塗布する方法については、特に限定されず、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、リバースコーター、ナイフコーター等の従来公知の塗布装置を用いる方法を採用できる。
【0051】
工程i)においてドープ液を塗布する支持体としては、ガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラム等が好適に用いられる。工程ii)では、最終的に得られるフィルムの厚み、生産速度に応じて、塗布膜の乾燥条件(加熱条件)を設定し、乾燥後のポリアミド酸フィルム(ゲルフィルム)を支持体から剥離する。塗布膜の乾燥温度は、例えば50℃以上200℃以下である。また、塗布膜を乾燥させる際の乾燥時間は、例えば1分以上100分以下である。
【0052】
次いで、工程iii)において、例えば、上記ゲルフィルムの端部を固定して硬化時の収縮を回避しつつ加熱処理することにより、ゲルフィルムから、水、残留溶媒、イミド化促進剤等を除去し、残ったポリアミド酸を完全にイミド化して、非熱可塑性ポリイミドを含む非熱可塑性ポリイミドフィルムが得られる。加熱条件については、最終的に得られるフィルムの厚み、生産速度に応じて適宜設定する。工程iii)の加熱条件としては、例えば、最高温度が350℃以上420℃以下であり、最高温度における加熱時間が10秒以上180秒以下である。また、最高温度に到達するまでに任意の温度で任意の時間保持してもよい。工程iii)は、空気下、減圧下、又は窒素等の不活性ガス中で行うことができる。工程iii)において使用可能な加熱装置としては、特に限定されず、例えば、熱風循環オーブン、遠赤外線オーブン等が挙げられる。
【0053】
このようにして得られた非熱可塑性ポリイミドフィルムは、誘電正接を低減できるため、例えば高周波回路基板の材料(より具体的には、複層ポリイミドフィルムのコア層、金属張積層板の絶縁層等)に適している。
【0054】
[非熱可塑性ポリイミドフィルムの物性]
伝送損失を低減するためには、非熱可塑性ポリイミドフィルムの比誘電率が3.60以下であることが好ましい。また、伝送損失を低減するためには、非熱可塑性ポリイミドフィルムの誘電正接が、0.0050以下であることが好ましく、0.0040以下であることがより好ましく、0.0033未満であることが更に好ましい。
【0055】
FPCに使用した際に内部応力の発生を抑制するためには、非熱可塑性ポリイミドフィルムの線膨張係数が、30ppm/K以下であることが好ましく、25ppm/K以下であることがより好ましく、20ppm/K以下であることが更に好ましい。
【0056】
非熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みは、特に限定されないが、例えば、5μm以上50μm以下である。非熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みは、レーザホロゲージを用いて測定することができる。
【0057】
<複層ポリイミドフィルム>
次に、複層ポリイミドフィルムについて説明する。複層ポリイミドフィルムは、非熱可塑性ポリイミドフィルムと、熱可塑性ポリイミドを含む接着層とを有する。
【0058】
複層ポリイミドフィルムは、非熱可塑性ポリイミドフィルムと、熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面(一方の主面)に配置された、熱可塑性ポリイミドを含む接着層とを有する。
【0059】
非熱可塑性ポリイミドフィルムの両面(両主面)に接着層が設けられていてもよい。非熱可塑性ポリイミドフィルムの両面に接着層が設けられている場合、2層の接着層は、同種のポリイミドを含んでいてもよく、互いに異なる種類のポリイミドを含んでいてもよい。また、2層の接着層の厚みは、同一であっても異なっていてもよい。
【0060】
複層ポリイミドフィルムの厚み(各層の合計厚み)は、例えば6μm以上60μm以下である。複層ポリイミドフィルムの厚みが薄いほど、得られるFPCの軽量化が容易となり、また得られるFPCの折り曲げ性が向上する。機械的強度を確保しつつFPCの軽量化を容易とし、かつFPCの折り曲げ性を向上させるためには、複層ポリイミドフィルムの厚みは、7μm以上60μm以下であることが好ましく、10μm以上60μm以下であることがより好ましい。複層ポリイミドフィルムの厚みは、レーザホロゲージを用いて測定することができる。
【0061】
金属箔との密着性を確保しつつFPCの薄型化を容易に実現するためには、接着層の厚み(接着層が2層設けられている場合は、それぞれの接着層の厚み)は、1μm以上15μm以下であることが好ましい。また、複層ポリイミドフィルムの線膨張係数の調整を容易に行うためには、非熱可塑性ポリイミドフィルムと接着層の厚み比率(非熱可塑性ポリイミドフィルムの厚み/接着層の厚み)は、55/45以上95/5以下であることが好ましい。接着層が複数層設けられている場合、上記接着層の厚みは、接着層の総厚みである。
【0062】
複層ポリイミドフィルムの反りを抑制するためには、非熱可塑性ポリイミドフィルムの両面に接着層が設けられていることが好ましく、非熱可塑性ポリイミドフィルムの両面に、同種のポリイミドを含む接着層が設けられていることがより好ましい。非熱可塑性ポリイミドフィルムの両面に接着層が設けられている場合、複層ポリイミドフィルムの反りを抑制するためには、2層の接着層の厚みは、同一であることが好ましい。なお、2層の接着層の厚みが互いに異なっていても、より厚い接着層の厚みを基準とした際、もう一方の接着層の厚みが40%以上100%未満の範囲であれば、複層ポリイミドフィルムの反りを抑制できる。
【0063】
[接着層]
接着層に含まれる熱可塑性ポリイミドは、酸二無水物残基とジアミン残基とを有する。熱可塑性ポリイミド中の酸二無水物残基を形成するための酸二無水物(モノマー)としては、上述した非熱可塑性ポリイミド中の酸二無水物残基を形成するための酸二無水物(モノマー)と同じ化合物が挙げられる。熱可塑性ポリイミドが有する酸二無水物残基と、非熱可塑性ポリイミドが有する酸二無水物残基とは、同種であっても互いに異なる種類であってもよい。
【0064】
熱可塑性を確保するためには、熱可塑性ポリイミドが有するジアミン残基としては、屈曲構造を有するジアミン残基が好ましい。熱可塑性をより容易に確保するためには、屈曲構造を有するジアミン残基の含有率は、熱可塑性ポリイミドを構成する全ジアミン残基に対して、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることが更に好ましく、100モル%でも構わない。屈曲構造を有するジアミン残基を形成するためのジアミン(モノマー)としては、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等が挙げられる。
【0065】
接着層には、熱可塑性ポリイミド以外の成分(添加剤)が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、シリコーン、フィラー、増感剤等を用いることができる。接着層中の熱可塑性ポリイミドの含有率は、接着層の全量に対して、例えば70重量%以上であり、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましく、100重量%であってもよい。
【0066】
(接着層の形成方法)
接着層は、例えば、非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を含むポリアミド酸溶液(以下、「熱可塑性ポリアミド酸溶液」と記載することがある)を塗布した後、加熱(乾燥及びポリアミド酸のイミド化)を行うことにより、形成される。この方法により、非熱可塑性ポリイミドフィルムと、非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に配置された接着層とを有する複層ポリイミドフィルムが得られる。また、熱可塑性ポリアミド酸溶液の代わりに、熱可塑性ポリイミドを含む溶液(熱可塑性ポリイミド溶液)を用いて、非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に熱可塑性ポリイミド溶液からなる塗布膜を形成し、この塗布膜を乾燥して、接着層を形成してもよい。
【0067】
また、例えば、共押出しダイを使用して、非熱可塑性ポリイミドフィルムが有する非熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を含む層と、熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を含む層とを備える積層体を形成した後、得られた積層体を加熱して、非熱可塑性ポリイミドフィルムと接着層とを同時に形成してもよい。この方法では、支持体として金属箔を使用することにより、イミド化が完了すると同時に金属張積層板(複層ポリイミドフィルムと金属箔との積層体)が得られる。
【0068】
3層のポリイミド層を含む複層ポリイミドフィルムを製造する場合、上述した塗布工程及び加熱工程を複数回繰り返すか、共押出しや連続塗布(連続キャスト)により複数の塗布膜を形成して一度に加熱する方法が好適に用いられる。複層ポリイミドフィルムの最表面に、コロナ処理やプラズマ処理のような種々の表面処理を行うことも可能である。
【0069】
<金属張積層板(非熱可塑ポリイミドフィルムに直接金属層が形成されている場合)>
次に、非熱可塑性ポリイミドフィルムと金属層からなる金属張積層板について説明する。金属張積層板は、非熱可塑性ポリイミドフィルムと、非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面(一方の主面)に直接配置された金属層とを有する。以下の説明において、非熱可塑性ポリイミドフィルム及び複層ポリイミドフィルムと重複する内容については、その説明を省略する場合がある。
【0070】
金属張積層板は、例えば、非熱可塑性ポリイミドフィルムの片面又は両面に乾式めっき法により第1めっき層を形成した後、第1めっき層上に湿式めっき法(無電解めっき法、電解めっき法等)により第2めっき層を形成する方法ことにより、得られる。(以下、「めっき法」と記載することがある)乾式めっき法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法等が挙げられる。第1めっき層と第2めっき層とからなる金属層の厚み(合計厚み)は、例えば1μm以上50μm以下である。
【0071】
また、金属張積層板を得る方法としては、上記方法以外に、非熱可塑性ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、金属層となる金属箔を貼り合わせる方法(以下、「ラミネート法」と記載することがある)が挙げられる。
【0072】
ラミネート法としては、特に制限されず、種々の公知の方法を採用できる。例えば、一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置又はダブルベルトプレス(DBP)による連続処理方法を採用することができる。熱ロールラミネートを実施する手段の具体的な構成は特に限定されるものではないが、得られる金属張積層板の外観を良好なものとするために、加圧面と金属箔との間に保護材料を配置することが好ましい。
【0073】
また、金属張積層板を得る方法としては、上記方法以外に、例えば、非熱可塑性ポリイミド(詳しくは、非熱可塑性ポリイミドフィルムが有する非熱可塑性ポリイミド)の前駆体であるポリアミド酸を含む溶液を金属層となる金属箔上に塗布した後、金属箔上に形成された塗布膜を加熱する方法(以下、「塗布法」と記載することがある)も挙げられる。上記塗布膜を加熱することにより、金属箔上において、溶媒の除去及びイミド化が行われ、非熱可塑性ポリイミドフィルムと、金属箔からなる金属層との積層体である、金属張積層板が得られる。
【0074】
塗布法において、金属箔上にポリアミド酸を含む溶液を塗布する塗布装置としては、特に限定されず、例えば、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、リバースコーター、ナイフコーター等が挙げられる。塗布膜を加熱するための加熱装置についても、特に限定されず、例えば、熱風循環オーブン、遠赤外線オーブン等を使用できる。
【0075】
金属張積層板の金属層となる金属箔は、特に限定されるものではない。使用可能な金属箔としては、例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、及びこれら金属の合金等を材料とする金属箔が好適に用いられる。また、一般的な金属張積層板では、圧延銅箔、電解銅箔等の銅箔が多用されるが、第4実施形態においても、銅箔が好ましく用いられる。また、金属箔は、目的に応じて表面処理等を施して、表面粗さ等を調整したものを使用できる。更に、金属箔の表面には、防錆層、耐熱層、接着層等が形成されていてもよい。金属箔の厚みについては特に限定されるものではなく、その用途に応じて、十分な機能が発揮できる厚みであればよい。取り扱い性を確保しつつ、FPCの薄型化を容易に実現するためには、金属箔の厚みは、5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0076】
<金属張積層板(複層ポリイミドフィルムに直接金属層が形成されている場合)>
次に、複層ポリイミドフィルムと金属層からなる金属張積層板について説明する。金属張積層板は、熱可塑性ポリイミドを含む接着層少なくとも片面に配置された複層ポリイミドフィルムと、複層ポリイミドフィルムの少なくとも片面(一方の主面)に接着層を介して直接配置された金属層とを有する。金属張積層板を得る方法としては、前述の非熱可塑性ポリイミドフィルムと金属層からなる金属張積層板を得る方法と同じ方法を用いることができ、特に限定されるものではない。
【実施例0077】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0078】
<物性の測定方法>
まず、ポリイミドフィルムの比誘電率、誘電正接、及び線膨張係数の測定方法について説明する。
【0079】
[比誘電率及び誘電正接]
ポリイミドフィルムの比誘電率及び誘電正接は、ネットワークアナライザ(ヒューレット・パッカード社製「8719C」)及び空洞共振器摂動法誘電率測定装置(EMラボ 社製「CP531 」)により測定した。詳しくは、まず、ポリイミドフィルムを2mm×100mmにカットして、比誘電率及び誘電正接の測定用試料を準備した。次いで、測定用試料を、温度23℃かつ相対湿度50%の雰囲気下で24時間放置した後、上記ネットワークアナライザ及び上記空洞共振器摂動法誘電率測定装置を用いて、温度23℃、相対湿度50%、測定周波数10GHzの条件で比誘電率及び誘電正接を測定した。誘電正接が0.0033未満である場合、「誘電正接を低減できている」と評価した。一方、誘電正接が0.0033以上である場合、「誘電正接を低減できていない」と評価した。
【0080】
[線膨張係数(CTE)]
熱分析装置(日立ハイテクサイエンス社製「TMA/SS6100」)を用いて、ポリイミドフィルム(試料)を、-10℃から300℃まで昇温速度10℃/分の条件で昇温させた後、-10℃まで降温速度40℃/分で降温させた。次いで、試料を、再度300℃まで昇温速度10℃/分の条件で昇温させて、2回目の昇温時の50℃から250℃における歪み量から線膨張係数を求めた。測定条件を以下に示す。
試料(ポリイミドフィルム)のサイズ:幅3mm、長さ10mm
荷重:1g
測定雰囲気:空気雰囲気
【0081】
<ポリイミドフィルムの作製>
以下、実施例及び比較例のポリイミドフィルムの作製方法について説明する。なお、以下において、化合物及び試薬類を下記の略称で記載している。また、ポリイミドフィルムの作製に使用するポリアミド酸溶液の調製は、いずれも温度20℃の窒素雰囲気下で行った。
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
PDA:p-フェニレンジアミン
TPE-Q:1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
TPE-M:1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン
m-TB:4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル
ODA:4,4’-オキシジアニリン
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸無水物
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
AA:無水酢酸
IQ:イソキノリン
【0082】
(実施例1)
容量500mLのガラス製フラスコに、164.18gのDMFと、2.83g(0.0097mol)のTPE-Q、6.42g(0.00594mol)のPDAとを入れた後、フラスコ内容物を攪拌しながらフラスコに、8.73g(0.0297mol)のBPDAと、11.57g(0.0373mol)のODPAとを入れた。次いで、フラスコ内容物を30分間攪拌した。次いで、フラスコ内容物を攪拌しながら、予め調製しておいたPMDA溶液(溶媒:DMF、PMDAの溶解量:0.45g(0.0021mol)、PMDAの濃度:7.9重量%)を、フラスコ内容物の粘度が急激に上昇しないような添加速度で所定時間フラスコに添加し続けた。そして、フラスコ内容物の温度23℃での粘度が1500ポイズに達した時点でPMDA溶液の添加を止めて、更にフラスコ内容物を1時間攪拌して、ポリアミド酸溶液P1を得た。得られたポリアミド酸溶液P1は、固形分濃度が15重量%であった。また、得られたポリアミド酸溶液P1は、温度23℃での粘度が1500~2000ポイズであった。
【0083】
次いで、55gのポリアミド酸溶液P1(上記調製方法で得られたポリアミド酸溶液P1)に、AAとIQとDMFとの混合物からなるイミド化促進剤(重量比:AA/IQ/DMF=42/21/37)を27.5g添加して、ドープ液を調製した。次いで、温度0℃以下の雰囲気下、ドープ液を攪拌しながら脱泡した後、コンマコーターを用いてドープ液をアルミ箔上に塗布し、塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を、加熱温度110℃で180秒間加熱することにより、自己支持性のゲルフィルムを得た。得られたゲルフィルムを、アルミ箔から引き剥がして、金属製の固定枠に固定し、温度300℃に予熱された熱風循環オーブンに入れて、加熱温度300℃で56秒間加熱した。次いで、加熱後のフィルムを、温度380℃に予熱された 遠赤外線(IR)オーブンに入れて、加熱温度380℃で49秒間加熱することにより、ゲルフィルム中のポリアミド酸をイミド化した後、金属製の固定枠から切り離して、実施例1のポリイミドフィルム(厚み:17μm)を得た。
【0084】
なお、上記と同じ手順で得られたポリイミドフィルムを金属製の固定枠に固定し、IRオーブンを用いて加熱温度380℃で1分間加熱したところ、ポリイミドフィルムの形状(フィルム形状)が保持されていた。よって、実施例1のポリイミドフィルムに含まれるポリイミドは、非熱可塑性ポリイミドであった。つまり、実施例1のポリイミドフィルムは、非熱可塑性ポリイミドフィルムであった。
【0085】
(実施例2~9、比較例1~5)
ジアミン成分と酸二無水物成分を表1に示す種類、モル比率に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法によりポリイミド酸溶液及びポリイミドフィルムを得た。
【0086】
なお、実施例2~9及び比較例1~5についても、得られたポリイミドフィルムを、それぞれ金属製の固定枠に固定し、、IRオーブンを用いて加熱温度380℃で1分間加熱したところ、ポリイミドフィルムの形状(フィルム形状)が保持されていた。よって、実施例2~9及び比較例1~5のポリイミドフィルムに含まれるポリイミドは、非熱可塑性ポリイミドであった。つまり、実施例2~9及び比較例1~5のポリイミドフィルムは、非熱可塑性ポリイミドフィルムであった。
【0087】
<結果>
実施例1~9及び比較例1~5について、モノマーの種類及びその比率(仕込み比率)、得られたフィルムの比誘電率、誘電正接、及びCTEを表1に示す。
また、表1において、「ジアミン」の欄の数値は、使用したジアミンの全量に対する各ジアミンの含有率(単位:モル%)である。表1において、「酸二無水物」の欄の数値は、使用した酸二無水物の全量に対する各酸二無水物の含有率(単位:モル%)である。表1の「ジアミン」の欄及び「酸二無水物」の欄において、「-」は、当該成分(PDA、TPE-Q、TPE-M、m-TB、ODA、BAPP、BPDA、PMDA、及びODPAのいずれか)を使用しなかったことを意味する。実施例1~9及び比較例1~5のいずれについても、得られたポリイミドフィルムに含まれるポリイミド中の各残基のモル分率は、使用した各モノマー(ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物)のモル分率と一致していた。また、実施例1~9及び比較例1~5のいずれについても、得られたポリイミドフィルムに含まれるポリイミドを構成するテトラカルボン酸二無水物残基の総物質量を、上記ポリイミドを構成するジアミン残基の総物質量で除した物質量比が、0.99以上1.01以下 であった。
【0088】
また、表1において、「-」は、測定しなかったことを意味する。
実施例1~9では、誘電正接が0.0032未満であった。よって、実施例1~9のポリイミドフィルムは、誘電正接を低減できていた。一方、比較例1~5では、誘電正接が0.0033以上であった。よって、比較例1~8のポリイミドフィルムは、誘電正接を低減できていなかった。
以上の結果から、本発明によれば、誘電正接を低減できる非熱可塑性ポリイミドフィルムを提供できることが示された。
【表1】
【0089】
(実施例10)複層ポリイミドフィルム及び金属積層板
容量500mLのガラス製フラスコに、167.78gのDMFと、13.89g(0.0475mol)の1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンと、0.53g(0.0025mol)のm-TBを入れた後、フラスコ内容物を攪拌しながらフラスコに、10.30g(0.0350mol)のBPDAと、2.95g(0.0135mol)のPMDAとを入れた。次いで、フラスコ内容物を30分間攪拌した。次いで、フラスコ内容物を攪拌しながら、予め調製しておいたPMDA溶液(溶媒:DMF、PMDAの溶解量:0.33g(0.0015mol)、PMDAの濃度:7.9重量%)を、フラスコ内容物の粘度が急激に上昇しないような添加速度で所定時間フラスコに添加し続けた。そして、フラスコ内容物の温度23℃での粘度が700ポイズに達した時点でPMDA溶液の添加を止めて、更にフラスコ内容物を1時間攪拌して、ポリアミド酸溶液P2を得た。得られたポリアミド酸溶液P2は、固形分濃度が15重量%であった。また、得られたポリアミド酸溶液P1は、温度23℃での粘度が700~1000ポイズであった。
【0090】
次に、実施例1の17μmのポリイミドフィルムの両面に上記ポリアミド酸溶液P2を各厚みが4μmとなるように塗布し、110℃180秒、300℃56秒で加熱乾燥して、全厚みが25μmの複層ポリイミドフィルムを作製した。
上記で得られた複層ポリイミドフィルムの両面に厚さが12μmの電解銅箔(CF-T49A-HD2;福田金属箔粉工業株式会社製)、さらにその両側に保護材料(アピカル125NPI;カネカ製)を配して、熱ロールラミネート機を用いて、ラミネート温度360℃、ラミネート圧力0.8トン(0.03トン/cm)、ラミネート速度1.0m/分の条件で連続的に熱ラミネートを行い、金属張積層板を作製した。得られた金属張積層板は、複層ポリイミドフィルムと金属層が強固に密着しており、シワや反り等の外観上の問題がない状態であった。