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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121527
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】インクジェット用インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20230824BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230824BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024910
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】北川 紗矢香
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2H186BA10
2H186BA11
2H186DA12
2H186DA14
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB55
2H186FB58
4J039AD03
4J039AD09
4J039AD10
4J039AF04
4J039BA04
4J039BC07
4J039BC09
4J039BC13
4J039BE01
4J039BE16
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA41
4J039EA42
4J039EA44
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】保存安定性に優れ、ノズル詰まりの発生を抑制でき、所望の画像濃度を有する画像を形成できるインクジェット用インクを提供する。
【解決手段】インクジェット用インクは、水性媒体と、前記水性媒体に分散する顔料粒子とを含有する。前記顔料粒子は、顔料及び特定樹脂を含む。前記特定樹脂は、イソシアネート架橋剤に由来する架橋構造を有する。前記顔料粒子の体積中位径は、80nm以上130nm以下である。インクジェット用インクは、パルスNMRによりRSP値を測定したときに、前記顔料の含有割合Vに対する前記RSP値の比(RSP/V)が50以上80以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体と、前記水性媒体に分散する顔料粒子とを含有し、
前記顔料粒子は、顔料及び特定樹脂を含み、
前記特定樹脂は、イソシアネート架橋剤に由来する架橋構造を有し、
前記顔料粒子の体積中位径は、80nm以上130nm以下であり、
パルスNMRによりRSP値を測定したときに、
前記顔料の含有割合Vに対する前記RSP値の比(RSP/V)は、50以上80以下である、インクジェット用インク。
【請求項2】
前記特定樹脂は、前記イソシアネート架橋剤とスチレン-(メタ)アクリル樹脂との反応生成物を含む、請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
前記顔料粒子の含有割合は、5.0質量%以上30.0質量%以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置には、顔料及び水性媒体を含有する水性のインクジェット用インクが用いられることがある。インクジェット用インクには、保存安定性に優れること、インクジェット記録装置の記録ヘッドのノズル詰まりの発生を抑制できること、及び所望の画像濃度を有する画像を形成できることが要求される。
【0003】
このような要求に対して、例えば、着色剤を含有する架橋ポリマー粒子を用いたインクジェット用インクが提案されている(特許文献1)。上述のインクジェット用インクは、保存安定性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-150535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のインクジェット用インクによっても、ノズル詰まりの発生を抑制しつつ、所望の画像濃度を有する画像を形成することはできない。
【0006】
本発明の目的は、上記課題に鑑みてなされたものであり、保存安定性に優れ、ノズル詰まりの発生を抑制でき、所望の画像濃度を有する画像を形成できるインクジェット用インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクジェット用インクは、水性媒体と、前記水性媒体に分散する顔料粒子とを含有する。前記顔料粒子は、顔料及び特定樹脂を含む。前記特定樹脂は、イソシアネート架橋剤に由来する架橋構造を有する。前記顔料粒子の体積中位径は、80nm以上130nm以下である。本発明に係るインクジェット用インクは、パルスNMRによりRSP値を測定したときに、前記顔料の含有割合Vに対する前記RSP値の比(RSP/V)が50以上80以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るインクジェット用インクは、保存安定性に優れ、ノズル詰まりの発生を抑制でき、所望の画像濃度を有する画像を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下において、体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、動的光散乱式粒径分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて測定された値である。
【0010】
本明細書では、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。
【0011】
<インクジェット用インク>
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット用インク(以下、単にインクと記載することがある)を説明する。本発明のインクは、水性媒体と、水性媒体に分散する顔料粒子とを含有する。顔料粒子は、顔料及び特定樹脂を含む。特定樹脂は、イソシアネート架橋剤に由来する架橋構造を有する。顔料粒子の体積中位径は、80nm以上130nm以下である。本発明のインクは、パルスNMRによりRSP値を測定したときに、顔料の含有割合Vに対するRSP値の比(RSP/V)が50以上80以下である。
【0012】
本発明のインクの用途としては、特に限定されないが、例えば、浸透性の記録媒体又は非浸透性の記録媒体への画像形成に用いることができる。本発明のインクは、浸透性の記録媒体への画像形成に好適である。浸透性の記録媒体は、インクの浸透性に優れる。浸透性の記録媒体としては、例えば、印刷用紙、及び繊維を原料とする媒体(例えば、布地)が挙げられる。印刷用紙としては、例えば、普通紙、コピー紙、再生紙、薄紙、厚紙、及び光沢紙が挙げられる。
【0013】
本発明のインクは、上述の構成を備えることにより、保存安定性に優れ、ノズル詰まりの発生を抑制でき、所望の画像濃度を有する画像を形成できる。その理由は以下のように推察される。本発明のインクは、顔料及び特定樹脂を含む顔料粒子を含有する。顔料は、単独では水性媒体に対する分散性が低い成分である。一方、特定樹脂は、水性媒体との親和性に優れる成分である。顔料粒子は、顔料と共に特定樹脂を含むことにより、水性媒体に対する優れた分散性を発揮する。そして、特定樹脂は、イソシアネート架橋剤によって架橋されているため、顔料粒子から特定樹脂が脱離し難い。これにより、本発明のインクは、顔料粒子から特定樹脂が脱離し、剥き出しとなった顔料が凝集することを抑制できる。また、一般的な架橋剤(例えば、エポキシ架橋剤)は、架橋された樹脂の親水性を低下させる傾向がある。これに対して、イソシアネート架橋剤は、親水性の高いウレア構造を有する架橋構造を形成するため、架橋された樹脂の親水性を低下させ難い。そのため、イソシアネート架橋剤を架橋剤として用いることで、特定樹脂に適度な親水性を付与できる。
【0014】
また、本発明のインクは、顔料粒子の体積中位径が80nm以上130nm以下であり、パルスNMRによりRSP値を測定したときに、顔料の含有割合Vに対するRSP値の比(RSP/V)が50以上80以下である。ここで、比(RSP/V)は、その値が大きいほど、顔料表面に多く水が保持されていることを示す。比(RSP/V)が50以上である場合、顔料が分散樹子にきちんと覆われた状態であり、顔料粒子の分散安定性が良好であると見做せる。本発明のインクにおいて、顔料粒子の分散安定性が高い理由は、特定樹脂の架橋にイソシアネート架橋剤を用いていることに起因する。本発明のインクが含有する顔料粒子は、上述の通り顔料が分散樹子にきちんと覆われた状態であり、顔料粒子の水性媒体に対する親和性が適度に高いため、水性媒体に対する分散安定性に優れる。そのため、本発明のインクは、保存安定性に優れる。また、本発明のインクは、水性媒体に対する顔料粒子の分散安定性に優れるため、インクジェット記録装置の記録ヘッドのノズルにインクが付着し、インク中の水性媒体の一部が蒸発したとしても、顔料粒子が析出し難い。そのため、本発明のインクは、ノズル詰まりの発生を抑制できる。
【0015】
一方、顔料粒子の水性媒体に対する親和性が過度に高い場合、又は顔料粒子の体積中位径が過度に小さい場合、記録媒体の表面にインクが着弾した後に、顔料粒子が水性媒体と共に記録媒体の内部に浸透することがある。このような現象が発生すると、インクにより形成される画像の画像濃度が低下する。これに対して、本発明のインクは、比(RSP/V)が80以下であり、水性媒体に対する顔料粒子の親和性が過度に高いわけではない。また、本発明のインクは、顔料粒子の体積中位径が80nm以上であり、顔料粒子の体積中位径が過度に小さいわけではない。そのため、本発明のインクは、所望する画像濃度を有する画像を形成できる。
【0016】
上述の通り、比(RSP/V)は、50以上80以下であり、55以上65以下が好ましい。比(RSP/V)を50以上とすることで、本発明のインクは、保存安定性に優れると共に、ノズル詰まりの発生を抑制できる。比(RSP/V)を80以下とすることで、本発明のインクは、所望する画像濃度を有する画像を形成できる。比(RSP/V)は、特定樹脂の調製に用いる架橋剤の種類及び量により調整できる。具体的には、特定樹脂の調製において、親水性の高い架橋構造を形成できる架橋剤を用いることで、比(RSP/V)を増加させることができる。また、特定樹脂の調製において、架橋剤の量を減らすことで、比(RSP/V)を増加させることができる。なお、比(RSP/V)は、実施例に記載の方法、又はこれに準拠した方法により測定される。
【0017】
以下、本発明のインクについて、更に詳細に説明する。なお、以下に説明する各成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
[顔料粒子]
顔料粒子は、顔料及び特定樹脂を含む。顔料粒子は、例えば、顔料を含むコアと、コアを被覆する特定樹脂とにより構成される。顔料粒子における顔料及び特定樹脂の合計含有割合としては、90質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
【0019】
顔料粒子の体積中位径としては、80nm以上130nm以下であり、90nm以上110nm以下が好ましい。顔料粒子の体積中位径を80nm以上とすることで、本発明のインクは、所望の画像濃度を有する画像を形成できる。顔料粒子の体積中位径を130nm以下とすることで、本発明のインクは、優れた保存安定性を発揮できると共に、ノズル詰まりの発生を抑制できる。
【0020】
本発明のインクにおいて、顔料粒子の含有割合としては、5.0質量%以上30.0質量%以下が好ましく、7.0質量%以上15.0質量%以下がより好ましい。顔料粒子の含有割合を5.0質量%以上とすることで、本発明のインクは、所望する画像濃度を有する画像を更に容易に形成できる。また、顔料粒子の含有割合を30.0質量%以下とすることで、本発明のインクの流動性を最適化できる。
【0021】
(顔料)
顔料としては、例えば、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、紫色顔料、及び黒色顔料が挙げられる。黄色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、及び193)が挙げられる。橙色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ(34、36、43、61、63、及び71)が挙げられる。赤色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(122及び202)が挙げられる。青色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(15、より具体的には15:3)が挙げられる。紫色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントバイオレット(19、23、及び33)が挙げられる。黒色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック(7)が挙げられる。
【0022】
本発明のインクにおいて、顔料の含有割合としては、3.0質量部以上20.0質量部が好ましく、5.0質量部以上10.0質量部以下がより好ましい。また、顔料粒子における顔料の含有割合としては、50質量%以上90質量%以下が好ましく、70質量%以上80質量%以下がより好ましい。
【0023】
(特定樹脂)
特定樹脂は、例えば、顔料粒子において、顔料を被覆する。特定樹脂は、イソシアネート架橋剤に由来する架橋構造を有する。本発明のインクにおいて、特定樹脂の含有割合としては、0.5質量部以上10.0質量部が好ましく、1.0質量部以上3.0質量部以下がより好ましい。また、顔料粒子における特定樹脂の含有割合としては、10質量%以上50質量%以下が好ましく、20質量%以上30質量%以下がより好ましい。
【0024】
特定樹脂は、例えば、イソシアネート架橋剤と、イソシアネート基と反応可能な官能基を有する樹脂との反応生成物である。官能基としては、例えば、カルボキシ基、アミン基及びヒドロキシ基が挙げられる。官能基としては、カルボキシ基が好ましい。即ち、特定樹脂は、イソシアネート架橋剤とカルボキシ基含有樹脂との反応生成物であることが好ましい。カルボキシ基含有樹脂は、例えば、カルボキシ基含有モノマーに由来する繰り返し単位を有する。カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、多価カルボン酸、多価カルボン酸誘導体及び不飽和カルボン酸が挙げられる。
【0025】
(カルボキシ基含有樹脂)
カルボキシ基含有樹脂は、ランダム重合体でもよく、ブロック重合体でもよい。カルボキシ基含有樹脂は、ランダム重合体であることが好ましい。具体的なカルボキシ基含有樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン-(メタ)アクリル酸共重合体及びビニルナフタレン-マレイン酸共重合体が挙げられる。カルボキシ基含有樹脂としては、スチレン-(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
【0026】
(スチレン-(メタ)アクリル樹脂)
スチレン-(メタ)アクリル樹脂は、スチレン単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位とを有する樹脂である。スチレン-(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する繰り返し単位を更に有することが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸n-ブチルが挙げられる。
【0027】
スチレン-(メタ)アクリル樹脂において、全繰り返し単位に対するスチレン単位の含有割合としては、20.0質量%以上70.0質量%以下が好ましく、28.0質量%以上40.0質量%以下がより好ましい。
【0028】
スチレン-(メタ)アクリル樹脂において、全繰り返し単位に対する(メタ)アクリル酸に由来する繰り返し単位の含有割合としては、10.0質量%以上50.0質量%以下が好ましく、25.0質量%以上35.0質量%以下がより好ましい。(メタ)アクリル酸に由来する繰り返し単位の含有割合を10.0質量%以上50.0質量%以下とすることで、スチレン-(メタ)アクリル樹脂に適度な親水性を付与できると共に、特定樹脂に架橋構造を適度に導入できる。
【0029】
スチレン-(メタ)アクリル樹脂において、全繰り返し単位に対する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位の含有割合としては、15.0質量%以上65.0質量%以下が好ましく、25.0質量%以上45.0質量%以下がより好ましい。
【0030】
スチレン-(メタ)アクリル樹脂の原料モノマーとしては、以下の組み合わせ(I)、(II)又は(III)が好ましく、組み合わせ(Ia)、(IIa)又は(IIIa)がより好ましい。
組み合わせ(I):スチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、及び(メタ)アクリル酸エチル
組み合わせ(II):スチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸エチル
組み合わせ(III):スチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸エチル
組み合わせ(Ia):スチレン、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、及びアクリル酸n-ブチル
組み合わせ(IIa):スチレン、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸メチル及びアクリル酸エチル
組み合わせ(IIIa):スチレン、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、及びアクリル酸エチル
【0031】
特定樹脂としては、イソシアネート架橋剤とスチレン-(メタ)アクリル樹脂との反応生成物が好ましい。
【0032】
(イソシアネート架橋剤)
イソシアネート架橋剤は、例えば、分子中に複数のイソシアネート基を有する化合物である。イソシアネート架橋剤としては、例えば、有機化合物タイプのイソシアネート架橋剤、ブロックイソシアネート架橋剤及び高分子タイプのイソシアネート架橋剤が挙げられる。顔料粒子の製造においては、顔料粒子の分散媒である水とイソシアネート架橋剤とが反応しないようにする必要がある。そのため、イソシアネート架橋剤は、架橋反応を開始するまでイソシアネート基が保護されていることが好ましい。そのため、イソシアネート架橋剤としては、ブロックイソシアネート架橋剤又は高分子タイプのイソシアネート架橋剤が好ましい。
【0033】
有機化合物タイプのイソシアネート架橋剤としては、例えば、脂肪族ジイソシアネート(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート)、芳香族ジイソシアネート(例えば、トルエン-2,4-ジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、及び4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート)、及び脂環式ジイソシアネート(例えば、ジイソシアン酸イソホロン)が挙げられる。
【0034】
ブロックイソシアネート架橋剤は、通常時はイソシアネート基がブロック剤で保護されているため反応性を有さない。ブロックイソシアネート架橋剤は、加熱時にイソシアネート基からブロック剤が外れることにより、イソシアネート基が露出して反応性を示す。ブロックイソシアネート架橋剤としては、例えば、三井化学株式会社製「タケネート(登録商標)XWB-F206」及び「タケネート(登録商標)XB-3936」と、旭化成株式会社製「デュラネート(登録商標)TMWM44-L70G」とが挙げられる。
【0035】
高分子タイプのイソシアネート架橋剤は、2以上のイソシアネート基を有する親水性高分子化合物である。高分子タイプのイソシアネート架橋剤は、通常時は溶媒中で自己乳化することでイソシアネート基が保護されている。高分子タイプのイソシアネート架橋剤としては、例えば、三井化学株式会社製「タケネート(登録商標)WD-725」及び「タケネート(登録商標)WD-730」と、旭化成株式会社製「デュラネート(登録商標)TMWL70-100」と、東ソー株式会社製の「アクアネート105」とが挙げられる。
【0036】
[水性媒体]
本発明のインクが含有する水性媒体は、水を含む媒体である。水性媒体は、溶媒として機能してもよく、分散媒として機能してもよい。水性媒体の具体例としては、水及び水溶性有機溶媒を含む水性媒体が挙げられる。
【0037】
(水)
本発明のインクにおいて、水の含有割合としては、15.0質量%以上65.0質量%以下が好ましく、20.0質量%以上45.0質量%以下がより好ましい。
【0038】
(水溶性有機溶媒)
水溶性有機溶媒としては、例えば、グリコール化合物、トリオール化合物、グリコールエーテル化合物、ラクタム化合物、含窒素化合物、アセテート化合物、チオジグリコール及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0039】
グリコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2-エチル-1,2-ヘキサンジオールが挙げられる。グリコール化合物としては、3-メチルー1,5-ペンタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール又は1,2-オクタンジオールが好ましい。
【0040】
トリオール化合物としては、例えば、グリセリン及び1,2,3-ブタントリオールが挙げられる。トリオール化合物としては、グリセリンが好ましい。
【0041】
グリコールエーテル化合物としては、例えば、ジエチルジグリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。グリコールエーテル化合物としては、トリエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
【0042】
ラクタム化合物としては、例えば、2-ピロリドン及びN-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。ラクタム化合物としては、2-ピロリドンが好ましい。
【0043】
含窒素化合物としては、例えば、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ホルムアミド及びジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0044】
アセテート化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0045】
水溶性有機溶媒としては、グリコール化合物、トリオール化合物、グリコールエーテル化合物又はラクタム化合物が好ましく、以下の組み合わせ(i)~(iii)で混合された混合溶媒がより好ましい。
【0046】
組み合わせ(i):3-メチル-1,5-ペンタンジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、グリセリン、1,3-プロパンジオール及び1,5-ペンタンジオール
組み合わせ(ii):3-メチル-1,5-ペンタンジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、グリセリン、1,2-オクタンジオール及び1,5-ペンタンジオール
組み合わせ(iii):3-メチル-1,5-ペンタンジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、2-ピロリドン、1,2-オクタンジオール及び1,3-プロパンジオール
【0047】
本発明のインクにおける水溶性有機溶媒の含有割合としては、25.0質量%以上65.0質量%以下が好ましく、40.0質量%以上55.0質量%以下がより好ましい。
【0048】
[界面活性剤]
本発明のインクは、界面活性剤を更に含有することが好ましい。界面活性剤は、記録媒体に対する本発明のインクの浸透性(濡れ性)を最適化できる。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤が挙げられる。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0049】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートエーテル、モノデカノイルショ糖、及びアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が好ましい。
【0050】
本発明のインクにおける界面活性剤の含有割合としては、0.05質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。
【0051】
[他の成分]
本発明のインクは、必要に応じて、公知の添加剤(例えば、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤及び防カビ剤)を更に含有してもよい。
【0052】
[インクの製造方法]
次に、本発明のインクを製造する方法の一例について説明する。本発明のインクの製造方法は、例えば、顔料及びカルボキシ基含有樹脂を水中で分散処理することで顔料粒子分散液を調製する分散処理工程と、顔料粒子分散液にイソシアネート架橋剤を添加する架橋工程と、架橋工程後の顔料粒子分散液に水溶性有機溶媒を添加することでインクを調製する添加工程とを備える。本発明のインクの製造方法は、架橋工程後の顔料粒子分散液を遠心した後に上澄み液を水性媒体で置換する遠心工程を更に備えることが好ましい。
【0053】
(分散処理工程)
本工程では、顔料及びカルボキシ基含有樹脂を水中で分散処理することで顔料粒子分散液を調製する。分散処理に用いる分散装置としては、例えば、メディア型分散機等の湿式分散装置が挙げられる。
【0054】
本工程に用いるカルボキシ基含有樹脂は、予め塩基性化合物(例えば、KOH又はNaON)で中和処理しておくことが好ましい。この場合、カルボキシ基含有樹脂を完全に中和せず、部分的に中和することが好ましい。具体的には、カルボキシ基含有樹脂の中和率としては、30%以上70%以下が好ましく、40%以上60%以下がより好ましい。なお、中和率とは、カルボキシ基含有樹脂を完全に中和するために必要な塩基性化合物の量の理論値をMA、本工程での塩基性化合物の実際の使用量をMBとしたときに、理論値MAに対する使用量MBの百分率(100×MB/MA)を示す。
【0055】
本工程において、分散処理に供する溶液におけるカルボキシ基含有樹脂の含有割合としては、例えば、5.0質量%以上25.0質量%以下である。分散処理に供する溶液における顔料の含有割合としては、例えば、1.0質量%以上10.0質量%以下である。本工程において、分散処理に供する溶液は、消泡剤を更に含有することが好ましい。分散処理に供する溶液における消泡剤の含有割合としては、例えば、0.01質量%以上0.1質量%以下である。
【0056】
本工程では、得られた顔料粒子分散液に対して、フィルター(例えば、孔径5μm)によるろ過で粗大粒子を除去することが好ましい。
【0057】
(架橋工程)
本工程では、顔料粒子分散液にイソシアネート架橋剤を添加する。これにより、顔料粒子分散液に含まれるカルボキシ基含有樹脂とイソシアネート架橋剤とが反応し、カルボキシ基含有樹脂が架橋される。その結果、カルボキシ基含有樹脂及びイソシアネート架橋剤の反応生成物である特定樹脂が生じる。本工程では、イソシアネート架橋剤の添加後、顔料粒子分散液を攪拌しながら加熱することが好ましい。加熱温度としては、例えば、70℃以上95℃以下とすることができる。加熱時間としては、例えば、30分以上2時間以下とすることができる。
【0058】
(遠心工程)
本工程では、架橋工程後の顔料粒子分散液を遠心した後に上澄み液を水性媒体で置換する。これにより、顔料粒子分散液の水性媒体に含まれていた遊離成分を除去することができる。遠心条件としては、例えば、回転速度10000rpm以上100000rpm以下、遠心時間12時間以上48時間以下とすることができる。
【0059】
(添加工程)
本工程では、架橋工程後の顔料粒子分散液(遠心工程を行っている場合、遠心工程後の顔料粒子分散液)に水溶性有機溶媒を添加する。これにより、インクを得ることができる。なお、本工程では、必要に応じて他の成分(より具体的には、界面活性剤、溶解安定剤、保湿剤、浸透剤、及び粘度調整剤のうちの少なくとも1つ)を更に添加してもよい。本工程では、水溶性有機溶媒の添加後、得られた混合液を攪拌機で攪拌することが好ましい。得られたインクは、フィルター(例えば孔径5μm以下のフィルター)により異物及び粗大粒子を除去してもよい。
【実施例0060】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0061】
[樹脂(R-1)の調製]
スターラー、窒素導入管、コンデンサー及び滴下漏斗を備える四つ口フラスコに、100.0質量部のイソプロピルアルコールと、250.0質量部のメチルエチルケトンとを投入した。別途、37.3質量部のメタクリル酸メチルと、37.3質量部のスチレンと、9.7質量部のアクリル酸n-ブチルと、15.3質量部のメタクリル酸と、0.3質量部のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN、重合開始剤)とを混合し、モノマー溶液を調製した。また、150.0質量部のメチルエチルケトンと、0.1質量部のAIBNとを混合し、メチルエチルケトン溶液を調製した。
【0062】
次に、上述の四つ口フラスコ内に窒素ガスを導入することで窒素雰囲気とした。次に、上述の四つ口フラスコ内容物を70℃で加熱還流しながら、滴下漏斗を用い、上述のモノマー溶液の全量を2時間かけて上述の四つ口フラスコ内へ供給した。モノマー溶液を供給した後、更に6時間にわたって上述の四つ口フラスコ内容物を70℃で加熱還流を行った。次に、上述の四つ口フラスコ内容物を70℃で加熱還流しながら、滴下漏斗を用い、上述のメチルエチルケトン溶液の全量を15分かけて上述の四つ口フラスコ内へ供給した。メチルエチルケトン溶液を供給した後、更に5時間にわたって上述の四つ口フラスコ内容物を70℃で加熱還流を行った。これにより、スチレン-(メタ)アクリル樹脂である樹脂(R-1)を含有する樹脂溶液を得た。樹脂溶液を減圧して樹脂溶液からメチルエチルケトン及びイソプロピルアルコールを留去することにより、樹脂(R-1)を単離した。
【0063】
[樹脂(R-2)~(R-4)の調製]
モノマー溶液の調製において、使用するモノマーの種類及び量を下記表1に示す通りに変更した以外は、樹脂(R-1)の調製と同様の方法により、スチレン-(メタ)アクリル樹脂である樹脂(R-2)~(R-4)を調製した。
【0064】
【表1】
【0065】
<インクの調製>
以下の方法により、下記表2に示す実施例1~11及び比較例1~10のインクを調製した。まず、実施例において使用した顔料及び架橋剤を以下に示す。
【0066】
(顔料)
顔料(BK-1):カーボンブラック(オリオンエンジニアドカーボンズ株式会社製「Printex(登録商標)80」)
顔料(BK-2):カーボンブラック(オリオンエンジニアドカーボンズ株式会社製「NIPex(登録商標)180IQ」)
顔料(C-1):フタロシアニンブルー(BASF株式会社製「Heliogen(登録商標)Blue D 7088」)
顔料(C-2):フタロシアニンブルー(大日精化工業株式会社製「ECB-301」)
顔料(M-1):キナクリドンマゼンタ(DIC株式会社製「FASTROGEN(登録商標)Super Magenta RGT」)
顔料(M-2):キナクリドンマゼンタ(クラリアント株式会社製「Ink Jet Magenta E-S」)
顔料(Y-1):モノアゾイエロー(クラリアント株式会社製「Hansa(登録商標)Brilliant Yellow 5GX01」)
顔料(Y-2):モノアゾイエロー(山陽色素株式会社製「FAST Yellow 7413」)
【0067】
(架橋剤)
L70G:ブロックイソシアネート架橋剤(旭化成株式会社「デュラネート(登録商標)WM44-L70G」)、有効成分5.3質量%
F206:ブロックイソシアネート架橋剤(三井化学株式会社製「タケネート(登録商標)XWB-F206」)、有効成分8.1質量%
WL70:高分子タイプのイソシアネート架橋剤(旭化成株式会社製「デュラネート(登録商標)WL70-100」)、有効成分15.5質量%
EX-810:エポキシ架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製「デナコール(登録商標)EX-810」、エチレングリコールジグリシジルエーテル)、有効成分100質量%
EX-830:エポキシ架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製「デナコール(登録商標)EX-830」、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル)、有効成分100質量%
【0068】
(中和処理)
樹脂(R-1)30質量部と、水酸化カリウムと、水とを混合し、樹脂濃度30質量%の樹脂(R-1)を含有する水溶液を調製した。水酸化カリウムの添加量は、樹脂(R-1)の中和当量の50質量%に相当する量とした(樹脂(R-1)の中和率50%)。水の添加量は、樹脂(R-1)、水酸化カリウム及び水の合計が100質量部となる量とした。
【0069】
樹脂(R-1)の代わりに樹脂(R-2)~(R-4)の何れかを用いた以外は、樹脂(R-1)を含有する水溶液の調製と同様の方法により、樹脂(R-2)~(R-4)を含有する水溶液を調製した。樹脂(R-2)~(R-4)を含有する水溶液の調製においては、各樹脂(樹脂(R-2)~(R-4)の何れか)の中和率が何れも50質量%となるように、水酸化カリウムの添加量を調整した。
【0070】
[実施例1]
以下の方法により、実施例1のインクを調製した。
【0071】
(分散処理)
顔料(BK-1)(オリオンエンジニアドカーボンズ株式会社「Printex(登録商標)80」、カーボンブラック)15.0質量部と、樹脂(R-1)を含有する水溶液15.0質量部(樹脂(R-1)4.5質量部を含有)と、消泡剤(サンノプコ株式会社製「SNデフォーマー1340」、アマイドワックス系界面活性剤)0.1質量部と、イオン交換水とを混合し、混合物を得た。イオン交換水の添加量は、混合物が100質量部となる量とした。
【0072】
メディア型分散機(ウィリー・エ・バッコーフェン社(WAB社)製「ダイノミル」)を用いて、上述の混合物に対して4時間の分散処理を行った。分散処理においては、メディアとして、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いた。メディアの充填率は、ベッセルの容量に対して60体積%とした。分散処理における処理温度(チラー温度)は、10℃に設定した。分散処理後、メディア型分散機の内容物からメディアを除去することにより、顔料粒子分散液を得た。次に、顔料粒子分散液を孔径5μmのフィルターでろ過することにより、異物及び粗大粒子を除去した。
【0073】
(架橋処理)
温度計及び攪拌羽根を備える3つ口フラスコを反応容器として用いた。ろ過後の顔料粒子分散液100.0質量部を反応容器内に投入した。ウォーターバスを用い、反応容器の内容物の温度を30℃に維持した。次に、反応容器に、架橋剤(L70G)4.7質量部(有効成分量:0.25質量部)を投入した。次に、反応容器の内容物を250rpmで攪拌しながら、昇温速度0.5℃/分で80℃まで反応容器の内容物を昇温させた。次に、反応容器の内容物の温度を80℃に維持しつつ、反応容器の内容物を250rpmで1時間攪拌した。これにより、反応容器の内容物を反応させた。反応により、樹脂(R-1)は架橋剤(L70G)で架橋され、特定樹脂を形成した。次に、反応容器の内容物の温度が室温になるまで放冷した。これにより、架橋処理後の顔料粒子分散液を得た。
【0074】
(遠心処理)
架橋処理後の顔料粒子分散液を容器に移し、この容器を遠心法付着力測定装置(株式会社ナノシーズ製「NS-C100」)に設置した。上述の遠心法付着力測定装置を用い、回転速度50000rpmの条件で24時間にわたって上述の架橋処理後の顔料粒子分散液を遠心処理した。遠心処理後、容器から上澄み液を除去し、その後、除去した上澄み液と同体積の水性媒体を容器へ加えた。水性媒体の組成は、顔料粒子分散液に含まれていた水性媒体(顔料粒子分散液から顔料粒子を除いた組成)と同組成とした。このようにして、架橋処理後の顔料粒子分散液の水性媒体から遊離成分を除去した。
【0075】
(混合処理)
容器に、遠心処理後の顔料粒子分散液50.0質量部(顔料約7.5質量部、樹脂約2.3質量部)と、下記表2に示す混合溶媒A(具体的には、3-メチル-1,5-ペンタンジオール6.0質量部と、トリエチレングリコールモノブチルエーテル13.0質量部と、グリセリン2.0質量部と、1,3-プロパンジオール12.5質量部と、1,5-ペンタンジオール12.5質量部と、ノニオン界面活性剤(日信化学工業株式会社製「サーフィノール(登録商標)420」、アセチレングリコール界面活性剤)0.5質量部とを含有する混合溶媒)と、イオン交換水とを投入した。イオン交換水の投入量は、容器の内容物の合計量が100質量部となる量とした。攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーター BL-600」)を用いて、上述の容器の内容物を回転速度400rpmの条件で30分間攪拌し、混合物を得た。得られた混合液を、フィルター(孔径:5μm)を用いて濾過した。これにより、実施例1のインクを得た。
【0076】
[実施例2~11及び比較例1~10]
以下の点を変更した以外は、実施例1のインクの調製と同様の方法により、実施例2~11及び比較例1~10のインクを調製した。
【0077】
実施例2~11及び比較例1~10のインクの調製では、混合処理における各成分の種類及び量を下記表2及び表3に示す通りに変更した。なお、下記表3において、「ノニオン界面活性剤」は、ノニオン界面活性剤(日信化学工業株式会社製「サーフィノール(登録商標)420」、アセチレングリコール界面活性剤)を示す。
【0078】
また、実施例2~11及び比較例1~10のインクの調製では、分散処理で使用する顔料の種類及び量と、分散処理で使用する樹脂の種類及び量と、分散処理に使用するメディアのメディア径と、架橋処理で使用する架橋剤の種類及び量とを下記表4に示す通りに変更した。なお、比較例1のインクの調製では、架橋処理を省略した。すなわち、比較例1のインクの調製では、分散処理で得られたろ過後の分散液をそのまま遠心処理に供した。また、下記表4において、分散処理における樹脂の質量部は、使用した樹脂水溶液(詳しくは、樹脂(R-1)~(R-4)の何れかを含有する水溶液)に含まれる各樹脂の固形分換算での質量部を示す。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
以下の方法により、実施例1~11及び比較例1~10のインクに含まれる顔料粒子の体積中位径(D50)と、顔料の含有割合Vに対するRSP値の比(RSP/V)とを測定した。測定結果を下記表5に示す。下記表5には、参考のため、実施例1~11及び比較例1~10のインクの調製において使用した架橋剤のタイプを示す。
【0083】
[体積中位径の測定]
評価対象(詳しくは、実施例1~11及び比較例1~10のインクの何れか)をイオン交換水で100倍に希釈して希釈液を得た。この希釈液をサンプルとし、温度25℃において、動的光散乱式粒径分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて評価対象の体積中位径(D50)を測定した。
【0084】
[パルスNMRの測定]
評価対象(詳しくは、実施例1~11及び比較例1~10のインクの何れか)5mLをNMRチューブに投入した。NMRチューブをパルスNMR粒子界面特性評価装置(Xigo Nanotools社製「Acorn Area」、共鳴周波数:13MHz、データ解析法:CPMG法)にセットし、緩和時間Tavを測定した。測定された緩和時間Tavの逆数(1/Tav)を、緩和速度Ravとした。
【0085】
次に、評価対象を超遠心機(エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ株式会社製「himac(登録商標)CS150FNX」、ローター:S140AT)を用いて、温度23℃、回転数140,000rpm(1,050,000G)で3時間遠心処理した(加速及び減速の設定目盛り:9)。これにより測定対象に含まれる顔料粒子を沈殿させた。次に、遠心処理により得られた上澄み液5mLをNMRチューブに投入した。次に、NMRチューブを上述のパルスNMR粒子界面特性評価装置にセットし、緩和時間Tbを測定した。測定された緩和時間Tbの逆数(1/Tb)を、緩和速度Rbとした。次に、下記式に基づいて、Rsp値を算出した。得られたRsp値に基づいて、顔料(顔料(BK-1)~(Y-2)の何れか)の含有割合Vに対するRSP値の比(RSP/V)を算出した。
sp値=(Rav/Rb)-1
【0086】
【表5】
【0087】
<評価>
実施例1~11及び比較例1~10のインクの各々について、以下の方法により、保存安定性、ノズル詰まり及び形成される画像の画像濃度を評価した。なお、評価は、特に断りのない限り、温度25℃、湿度50%RHの環境下において行った。評価結果を下記表6に示す。
【0088】
[保存安定性]
振動式粘度計(ニッテツ北海道制御システム株式会社製「VM-200T」)を用い、評価対象(詳しくは、実施例1~11及び比較例1~10のインクの何れか)の粘度(初期粘度V1)を測定した。また、上述の動的光散乱式粒径分布測定装置を用いて評価対象の体積中位径(初期D50)を求めた。次に、評価対象30gを容器(容積:50mL)に投入して密封した。上述の容器を、内温60℃に設定された恒温器に入れ、1か月間保温した。その後、上述の容器を恒温器から取り出した後、上述の容器を室温にて3時間静置した。その後、上述の容器から測定対象を取り出し、上述の振動式粘度計を用いて粘度(加熱後粘度V2)を測定した。測定された初期粘度V1及び加熱後粘度V2に基づいて、粘度変化率[%]を算出した(下記式)。また、処理後の測定対象について、上述の動的光散乱式粒径分布測定装置を用いて体積中位径(加熱後D50)を求めた。測定された初期D50及び加熱後D50に基づいて、D50変化率[%]を算出した(下記式)。算出された粘度変化率及びD50変化率を、測定対象の保存安定性の評価値とした。保存安定性は、以下の基準に沿って評価した。
粘度変化率[%]=100×(V1-V2)/V1
50変化率[%]=100×(加熱後D50-初期D50)/初期D50
【0089】
(保存安定性の基準)
A(良好):粘度変化率の絶対値が5%以下、かつD50変化率の絶対値が5%以下
B(不良):粘度変化率の絶対値が5%超、又はD50変化率の絶対値が5%超
【0090】
[ノズル詰まり]
ノズル詰まりの評価においては、評価機として、ラインヘッド搭載インクジェット記録装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製試験機)を用いた。評価対象となる実施例1~11及び比較例1~10のインクは、それぞれ、評価機のブラック用インクタンク(実施例1~4、及び比較例1、4~5)、シアン用インクタンク(実施例5~7、及び比較例2~3)、マゼンタ用インクタンク(実施例8~9及び比較例6~8)又はイエロー用インクタンク(実施例10~11及び比較例9~10)に充填した。
【0091】
評価機を用いて、マット紙(セイコーエプソン株式会社製「スーパーファイン紙」)100枚に対して連続してソリッド画像(150mm×200mm)を連続で形成した。次に、評価機の記録ヘッドからインクをパージするパージ処理を行った。次に、評価機の記録ヘッドにおけるインク吐出面をクリーニングワイパーでワイプするワイプ処理を行った。次に、評価機を用いて、上述のマット紙に対してノズルチェックパターンの形成を行った。その結果、何れの評価対象においても、全てのノズル(7968本)からインクが吐出されていることが確認された。即ち、ノズル詰まりが発生したノズルの本数は0本であった。次に、評価機の記録ヘッドについて、パージ処理及びワイプ処理を行った。次に、評価機の記録ヘッドにキャップを付けない状態で、評価機を7日間静置した。次に、評価機の記録ヘッドについて、上述のパージ処理及びワイプ処理を行った。次に、評価機を用いて、上述のマット紙に対してノズルチェックパターンの形成を行った。そして、形成されたノズルチェックパターンを観察し、ノズル詰まりが発生したノズルの本数を確認した。評価機の記録ヘッドの全ノズル本数に対するノズル詰まりが発生したノズルの本数の割合を、ノズル詰まりの評価値とした。ノズル詰まりは、下記基準に沿って判定した。
【0092】
(ノズル詰まりの基準)
A(良好):評価値が10%未満
B(不良):評価値が10%以上
【0093】
[画像濃度]
画像濃度の評価においては、評価機として、上述のラインヘッド搭載インクジェット記録装置を用いた。記録媒体として、A4サイズのPPC用紙(富士フイルムビジネスイノベーション株式会社製「C2」)を用いた。
【0094】
評価機を用いて、記録媒体にソリッド画像(サイズ:10cm×10cm、印字率:100%)を形成した。この際、記録ヘッドから吐出されるインクの各インク滴の体積(1画素当たりのインクの体積)が11pLとなるように、記録ヘッドを設定した。形成されたソリッド画像の画像濃度(ID)を反射濃度計(X-Rite社製「eXact」)で測定した。詳しくは、ソリッド画像中において無作為に選択した10箇所の画像濃度を上述の反射濃度計で測定し、10箇所の画像濃度の算術平均値を画像濃度の評価値とした。画像濃度は、以下の基準で判定した。
【0095】
合格(A):評価値が1.15以上
不合格(B):評価値が1.15未満
【0096】
【表6】
【0097】
表3~表6に示す通り、実施例1~11のインクは、水性媒体と、水性媒体に分散する顔料粒子とを含有していた。顔料粒子は、顔料及び特定樹脂を含んでいた。特定樹脂は、イソシアネート架橋剤に由来する架橋構造を有していた。顔料粒子の体積中位径は、80nm以上130nm以下であった。インクは、パルスNMRによりRSP値を測定したときに、顔料の含有割合Vに対するRSP値の比(RSP/V)が50以上80以下であった。実施例1~11のインクは、保存安定性に優れ、ノズル詰まりの発生を抑制でき、所望の画像濃度を有する画像を形成できた。
【0098】
一方、比較例1のインクは、特定樹脂が架橋されていなかった。比較例1のインクは、特定樹脂が顔料粒子から脱離するため、保存安定性及びノズル詰まりが不良であったと判断される。
【0099】
比較例2、6及び10のインクは、特定樹脂がエポキシ架橋剤によって架橋されていたため、顔料粒子の親水性が過度に低く、比(RSP/V)が50未満であった。これにより、比較例2及び6のインクは、顔料粒子の分散安定性が不十分であり、保存安定性及びノズル詰まりが不良であったと判断される。
【0100】
比較例3、7及び8のインクは、顔料粒子の親水性が過度に高く、比(RSP/V)が80超であった。そのため、比較例3、7及び8のインクは、記録媒体の表面にインクが着弾した後に、顔料粒子が水性媒体と共に記録媒体の内部に浸透し、画像濃度が低下したと判断される。
【0101】
比較例4のインクは、顔料粒子の体積中位径が過度に小さかった。そのため、比較例4のインクは、記録媒体の表面にインクが着弾した後に、顔料粒子が水性媒体と共に記録媒体の内部に浸透し、画像濃度が低下したと判断される。
【0102】
比較例5のインクは、顔料粒子の体積中位径が過度に大きかった。そのため、比較例5のインクは、保存安定性及びノズル詰まりが不良であったと判断される。
【0103】
比較例9のインクは、顔料粒子の親水性が過度に低く、比(RSP/V)が50未満であった。これにより、比較例9のインクは、顔料粒子の分散安定性が不十分であり、保存安定性及びノズル詰まりが不良であったと判断される。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のインクは、画像を形成するために用いることができる。