(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121577
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】胆管用チューブステント
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20230824BHJP
【FI】
A61M25/00 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024990
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 慶太
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA42
4C267BB03
4C267BB31
4C267CC22
4C267HH04
(57)【要約】
【課題】屈曲状態で使用してもキンクが発生しない胆管用チューブステントを提供する。
【解決手段】樹脂材料で形成された胆管用チューブステントであって、前記チューブステントは、外表面の少なくとも一部に周方向に沿った溝を有しており、前記溝の深さは、前記チューブステントの肉厚に対して1.3~5.5%である胆管用チューブステント。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料で形成された胆管用チューブステントであって、
前記チューブステントは、外表面の少なくとも一部に周方向に沿った溝を有しており、
前記溝の深さは、前記チューブステントの肉厚に対して1.3~5.5%である胆管用チューブステント。
【請求項2】
前記溝は、螺旋状または環状である請求項1に記載の胆管用チューブステント。
【請求項3】
前記チューブステントの十二指腸側に配置される側を近位側、逆側を遠位側としたとき、該チューブステントは、遠位部および近位部に係止フラップを有しており、
前記溝は、遠位部における係止フラップ存在領域よりも近位側で、近位部における係止フラップ存在領域よりも遠位側の領域に形成されている請求項1または2に記載の胆管用チューブステント。
【請求項4】
前記チューブステントの十二指腸側に配置される側を近位側、逆側を遠位側としたとき、該チューブステントは、遠位部および近位部に係止フラップを有しており、
遠位部における係止フラップ存在領域より遠位側、および近位部における係止フラップ存在領域より近位側には前記溝を有していない請求項1~3のいずれかに記載の胆管用チューブステント。
【請求項5】
前記係止フラップは、表面に前記溝を有している請求項3または4に記載の胆管用チューブステント。
【請求項6】
前記溝は、前記チューブステントの長手方向の長さ1cmあたり10~30本である請求項1~5のいずれかに記載の胆管用チューブステント。
【請求項7】
前記チューブステントは、該チューブステントの外表面と内表面とを貫通する貫通孔を有しており、
前記貫通孔は、2本以上の溝と当接している請求項1~6のいずれかに記載の胆管用チューブステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料で形成された胆管用チューブステントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステントは、一般的に、血管、あるいは胆管や膵管等の消化管等の生体管腔の狭窄または閉塞に起因する種々疾患を治療するために、狭窄部位または閉塞部位の病変部を内側から拡張し、管腔内径を維持するためにそこに留置される医療器具として知られている。例えば、病変部における胆管内径を維持するために胆管用ステントを留置することにより、狭窄部位または閉塞部位の病変部を内側から拡張でき、胆管内から十二指腸側への胆汁の排出が可能となり、胆管が狭窄または閉塞することにより生じる胆道閉塞症、黄疸、胆道がん等の様々な疾患を治療できる。
【0003】
こうした胆管用ステントには、金属材料で形成されているものと、樹脂材料で形成されているものがある。金属材料で形成された胆管用ステントは、径が大きく、閉塞しにくいが、抜去や交換しにくいというデメリットがある。一方、樹脂材料で形成された胆管用チューブステントは、径が小さく、閉塞しやすい反面、容易に抜去や交換できる。
【0004】
ステントは、直線状態で使用される他、屈曲状態でも使用されるため、柔軟な曲げ性が要求され、曲げた状態でも折れ(キンク)が発生しないことが求められる。耐キンク性を備えた医療用管状体が特許文献1に記載されており、この医療用管状体は、少なくとも内層と外層との二層構造を含む管状体であって、該外層は該内層よりも硬い材料で構成され、かつ該外層から該内層に達するが該内層を貫通しない深度で該管状体の外周を螺旋状または環状を形成する溝を有し、ISO 7198で規定する動的コンプライアンスが、1%/100mmHg以上を満足している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、医療用管状体の表層に形成する溝の深さに着目されておらず、耐キンク性の更なる改善の余地があった。
【0007】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、屈曲状態で使用してもキンクが発生しない胆管用チューブステントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の通りである。
[1] 樹脂材料で形成された胆管用チューブステントであって、前記チューブステントは、外表面の少なくとも一部に周方向に沿った溝を有しており、前記溝の深さは、前記チューブステントの肉厚に対して1.3~5.5%である胆管用チューブステント。
[2] 前記溝は、螺旋状または環状である[1]に記載の胆管用チューブステント。
[3] 前記チューブステントの十二指腸側に配置される側を近位側、逆側を遠位側としたとき、該チューブステントは、遠位部および近位部に係止フラップを有しており、前記溝は、遠位部における係止フラップ存在領域よりも近位側で、近位部における係止フラップ存在領域よりも遠位側の領域に形成されている[1]または[2]に記載の胆管用チューブステント。
[4] 前記チューブステントの十二指腸側に配置される側を近位側、逆側を遠位側としたとき、該チューブステントは、遠位部および近位部に係止フラップを有しており、遠位部における係止フラップ存在領域より遠位側、および近位部における係止フラップ存在領域より近位側には前記溝を有していない[1]~[3]のいずれかに記載の胆管用チューブステント。
[5] 前記係止フラップは、表面に前記溝を有している[3]または[4]に記載の胆管用チューブステント。
[6] 前記溝は、前記チューブステントの長手方向の長さ1cmあたり10~30本である[1]~[5]のいずれかに記載の胆管用チューブステント。
[7] 前記チューブステントは、該チューブステントの外表面と内表面とを貫通する貫通孔を有しており、前記貫通孔は、2本以上の溝と当接している[1]~[6]のいずれかに記載の胆管用チューブステント。
【発明の効果】
【0009】
本発明の胆管用チューブステントは、チューブステントの外表面の少なくとも一部に周方向に沿った溝を形成しており、この溝の深さを適切に制御しているため、屈曲状態で使用してもキンクの発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明に係るチューブステントの一実施形態を示す平面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係るチューブステントを病変部へ送達するためのデリバリーシステムの一構成例を示す平面図である。
【
図3】
図3は、実施例で作製した試験片の外観を撮影した図面代用写真である。
【
図4】
図4は、実施例で作製した試験片について、溝の幅およびピッチを測定した一例を示した図面代用写真である。
【
図5】
図5は、原料チューブおよび試験片を湾曲させたときの外観を撮影した図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0012】
本発明に係る胆管用チューブステントは、樹脂材料で形成されており、該チューブステントは、外表面の少なくとも一部に周方向に沿った溝を有しており、該溝の深さは、前記チューブステントの肉厚に対して1.3~5.5%である。チューブステントの外表面の少なくとも一部に、該チューブステントの周方向に沿った溝を形成するにあたり、該溝の深さを、チューブステントの肉厚に対して適切な範囲に制御することによって、キンク耐性を向上できる。
【0013】
チューブステントを形成する樹脂材料としては、公知の樹脂を用いることができ、例えば、ナイロン等のポリアミド系樹脂;ポリエーテルポリアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエチレンテレフタラート(PET)等のポリエステル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)等のフッ素系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;シリコーン系樹脂;天然ゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。チューブステントを形成する樹脂材料としては、中でも、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂が好適に用いられる。チューブステントがポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、およびフッ素系樹脂の少なくとも1種を含有していることにより、チューブステントの生体適合性と柔軟性を両立できる。
【0014】
チューブステントは、単層構造であってもよいし、複層構造であってもよく、単層構造であることが好ましい。単層構造とすることにより、容易に製造できる。
【0015】
チューブステントが複層構造である場合、各層を形成する樹脂材料は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0016】
チューブステントは、近位端から遠位端まで1つのチューブであってもよいが、複数のチューブを接合したものであってもよい。複数のチューブで構成されていることにより、チューブステントの長手方向において曲げ剛性を変えることができる。例えば、遠位側を構成するチューブの材料の硬度を、近位側を構成するチューブの材料の硬度よりも低くすることにより、遠位側は曲げ剛性が低く、近位側は曲げ剛性の高いチューブステントとすることができる。チューブステントの遠位側の曲げ剛性が低いことにより、胆管の湾曲部の通過性を高めることができる。また、チューブステントの近位側の曲げ剛性が高いことにより、プッシャビリティを高めることができる。
【0017】
チューブステントは、外表面の周方向に沿った溝を有している。溝は、チューブステントの外表面の少なくとも一部に形成されていればよく、外表面の全部に形成されていてもよい。
【0018】
チューブステントの外表面に形成されている溝の深さは、前記チューブステントの肉厚に対して1.3~5.5%である。溝の深さが1.3%未満では、キンク耐性を向上できない。従って溝の深さは1.3%以上であり、好ましくは1.4%以上、より好ましくは1.5%以上である。しかし、溝の深さが5.5%を超えると、チューブステントの剛性が低くなり、キンクしやすくなる。従って溝の深さは5.5%以下であり、好ましくは5.4%以下、より好ましくは5.3%以下である。
【0019】
溝の深さは、チューブステントの最も厚い部分の厚さ(最大外径)D1を測定し、該最大外径D1を測定した位置に最も近い溝におけるチューブステントの最も薄い部分の厚さ(最小外径)D2を測定し、最大外径D1から最小外径D2を引くことにより求めればよい。
【0020】
溝の断面形状は特に限定されないが、例えば、矩形、台形、U字、V字、半円形、波形などが挙げられ、中でも、矩形、台形、またはU字が好ましい。
【0021】
溝の幅は、例えば、0.04mm以上が好ましく、より好ましくは0.045mm以上、更に好ましくは0.050mm以上であり、0.2mm以下が好ましく、より好ましくは0.15mm以下、更に好ましくは0.10mm以下である。なお、溝の幅は、チューブステントの長手方向側面を観察して測定した溝の幅の平均値とすればよい。
【0022】
ピッチは、例えば、0.40mm以上が好ましく、より好ましくは0.50mm以上、更に好ましくは0.60mm以上であり、1.0mm以下が好ましく、より好ましくは0.90mm以下、更に好ましくは0.80mm以下である。なお、ピッチは、チューブステントの長手方向側面を観察し、隣り合う凸部の山の位置(即ち、チューブステントの肉厚部分の頂点の位置)同士の距離の平均値とすればよい。
【0023】
チューブステントの内表面には、溝が形成されていないことが好ましい。内表面に溝が形成されていないことにより、チューブステントの内腔に胆汁などの液溜まりができにくくなり、また、がん細胞等の病変部の組織が入り込んでもチューブステントの内腔に溜まりにくくなるため、チューブステントの内腔が閉塞したり、狭窄するのを抑制できる。
【0024】
チューブステントの外表面の周方向に沿って形成される溝の形態は特に限定されないが、例えば、螺旋状または環状が好ましく、より好ましくは環状である。
【0025】
本発明のチューブステントは、胆管内に配置され、チューブステントの十二指腸側に配置される側を近位側、逆側(胆嚢側または肝臓側)を遠位側としたとき、チューブステントの遠位端は、胆嚢側に配置されてもよいし、肝臓側に配置されてもよい。肝臓側に配置される場合は、チューブステントの遠位側の一部が、肝管内に配置されてもよい。
【0026】
本発明のチューブステントは、十二指腸側に配置される側を近位側、逆側(胆嚢側または肝臓側)を遠位側としたとき、該チューブステントの遠位部および近位部に係止フラップを有していることが好ましい。
【0027】
係止フラップとは、胆管に配置したチューブステントの位置ズレを防止する部材である。チューブステントの遠位部に配される係止フラップは、遠位側から近位側に向かう方向かつ径方向の外方に向かって延在している。チューブステントの遠位部に係止フラップを配することにより、胆管内に配置したチューブステントが、胆管から十二指腸側に脱落することを防止できる。チューブステントの近位部に配される係止フラップは、近位側から遠位側に向かう軸方向かつ径方向の外方に向かって延在している。チューブステントの近位部に係止フラップを配することにより、チューブステントが胆嚢側に入り込むことを防止できる。
【0028】
係止フラップは、例えば、チューブの端部の表面に切り込みを入れ、チューブの一部をチューブ本体の斜め外側に突出するように形成されていてもよい。また、チューブとは異なる部材として、係止フラップを構成する係止フラップ部材をチューブの近位部、遠位部に設けることにより形成されていてもよい。係止フラップ部材をチューブの外表面に接合して係止フラップを形成する場合、係止フラップ部材はチューブを構成する材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。チューブと係止フラップ部材との接合方法としては、熱溶着、超音波溶着、接着剤による接着等が挙げられるが、熱溶着による接合が好ましい。熱溶着によってチューブと係止フラップ部材とを接合することにより、チューブと係止フラップ部材との接合強度を高めることができる。
【0029】
係止フラップは、チューブの外表面に切り込みを入れて形成されていることが好ましい。チューブの外表面に切り込みを入れて形成されていることにより、別部材を固定するよりも係止フラップの脱落を防止できる。
【0030】
チューブステントの遠位部に配される係止フラップと近位部に配される係止フラップは、同じ方法で形成されていてもよいし、異なる方法で形成されていてもよい。
【0031】
チューブステントの遠位部および近位部に配される係止フラップのそれぞれの数は、1つでもよいし、複数でもよく、例えば、2以上、3以上、または5以下であることも許容される。
【0032】
チューブステントの遠位部または近位部に複数の係止フラップが配される場合、各係止フラップがチューブステントの周方向において等間隔に配置されていることが好ましい。これにより、チューブステントの近位部に配される係止フラップにおいては、チューブステントの迷入防止効果を高めることができる。チューブステントの遠位部に配される係止フラップにおいては、チューブステントの脱落防止効果を高めることができる。
【0033】
チューブステントの遠位部または近位部に複数の係止フラップが配される場合は、係止フラップの基部から自由端までの長さや係止フラップの幅、厚みは、全て同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、各係止フラップの長さや幅、厚みが同じであれば、製造が容易となる。また、各係止フラップの長さや幅、厚みが異なることにより、それぞれの係止フラップの強度を変えることができる。具体例としては、応力がかかりやすく破断のおそれがある箇所の係止フラップの強度を上げ、柔軟性が求められる箇所の係止フラップの強度を下げる等が挙げられる。
【0034】
本発明に係るチューブステントの一実施形態を
図1に示す。
図1に示したチューブステント1は、樹脂材料で形成された胆管用チューブステントであり、長手方向xに延在している。
図1では、図の左側がチューブステント1の遠位側、図の右側がチューブステント1の近位側である。
【0035】
チューブステント1は、遠位部および近位部に係止フラップを有している。チューブステント1の遠位側の外表面に切り込みを入れることによって遠位側係止フラップ2aが形成され、チューブステント1の近位側の外表面に切り込みを入れることによって近位側係止フラップ2bが形成されている。以下、遠位側係止フラップ2aが形成されている領域および近位側係止フラップ2bが形成されている領域を、係止フラップ存在領域yということがある。
【0036】
図1に示したチューブステント1は、チューブステント1の遠位部における係止フラップ存在領域より遠位側にX線不透過マーカー3aが配されており、チューブステント1の遠位部における係止フラップ存在領域より近位側にX線不透過マーカー3bが配されている。また、チューブステント1の近位部における係止フラップ存在領域より遠位側にX線不透過マーカー3cが配されており、チューブステント1の遠位部における係止フラップ存在領域より近位側にX線不透過マーカー3dが配されている。
【0037】
チューブステントが、遠位部および近位部に係止フラップを有する場合は、遠位部における係止フラップ存在領域よりも近位側で、且つ、近位部における係止フラップ存在領域よりも遠位側の領域に、前記溝が形成されていることが好ましい。
【0038】
溝は、遠位部における係止フラップ存在領域より遠位側および/または近位部における係止フラップ存在領域より近位側に形成されていてもよいし、遠位部における係止フラップ存在領域より遠位側および近位部における係止フラップ存在領域より近位側には形成されていなくてもよく、遠位部における係止フラップ存在領域より遠位側および近位部における係止フラップ存在領域より近位側には形成されていないことが好ましい。遠位部における係止フラップ存在領域より遠位側および近位部における係止フラップ存在領域より近位側ではキンクが発生しにくいからである。
【0039】
係止フラップは、その表面に前記溝を有していなくてもよいし、前記溝を有していてもよい。係止フラップの表面に溝が形成されていないことにより、係止フラップの剛性が低下しないため、チューブステントの位置ズレを一段と防止できる。一方、係止フラップの表面に溝が形成されていることにより、係止フラップと胆管との間の摩擦が大きくなるため、チューブステントの位置ズレを一段と防止できる。
【0040】
チューブステントに形成される前記溝の本数は特に限定されないが、例えば、チューブステントの長手方向の長さ1cmあたり10~30本が好ましい。これによりキンク耐性を向上できる。前記溝は、チューブステントの長手方向の長さ1cmあたり12本以上がより好ましく、更に好ましくは14本以上であり、チューブステントの長手方向の長さ1cmあたり25本以下がより好ましく、更に好ましくは20本以下である。
【0041】
チューブステントに形成されている前記溝の本数は、チューブステントの長手方向に長さ1cmの直線を引き、この直線に交差する溝の本数を測定すればよい。
【0042】
本発明のチューブステントは、該チューブステントの外表面と内表面とを貫通する貫通孔を有していてもよい。貫通孔を有することにより、胆汁をチューブステントの遠位端開口以外からもチューブステントの内腔に取り込むことができ、ドレナージを促進できる。貫通孔は、2本以上の溝と当接していることが好ましい。溝と当接するとは、溝が貫通孔で分断され、溝の分断面と貫通孔が接している状態を意味する。2本以上の溝と当接する大きさの開口を有する貫通孔を形成することにより、ドレナージを促進できる。
【0043】
貫通孔と当接する溝の本数は、例えば、3本以上がより好ましく、更に好ましくは4本以上である。貫通孔と当接する溝の本数の上限は、例えば、8本以下が好ましく、より好ましくは7本以下、更に好ましくは6本以下である。
【0044】
貫通孔の大きさは、貫通孔が2本以上の溝と当接する大きさであれば特に限定されないが、例えば、0.01mm以上が好ましく、より好ましくは0.02mm以上、更に好ましくは0.03mm以上であり、0.1mm以下が好ましく、より好ましくは0.09mm以下、更に好ましくは0.08mm以下である。
【0045】
貫通孔の数も特に限定されず、1個でもよいし、2個以上でもよい。なお、貫通孔の数を多くし過ぎると、チューブステントの剛性が低下するため、上限は20個以下が好ましく、より好ましくは18個以下、更に好ましくは15個以下である。
【0046】
貫通孔の形状は特に限定されないが、例えば、円形、楕円形、矩形(例えば、三角形、四角形など)などが挙げられる。貫通孔の形状は、円形または楕円形が好ましく、加工が容易となる。
【0047】
貫通孔を複数形成する場合は、チューブステントの長手方向に貫通孔を一定間隔で形成してもよいし、間隔を部分的に変化させて形成してもよい。
【0048】
貫通孔を複数形成する場合は、チューブステントの遠位側と近位側で、貫通孔の大きさ、数、形状、間隔等をそれぞれ変化させてもよい。
【0049】
本発明のチューブステントは、X線不透過マーカーを有してもよい。X線不透過マーカーを有することにより、チューブステントの位置をX線透視下で確認できる。
【0050】
X線不透過マーカーの数は特に限定されず、1個でもよいし、複数でもよい。
【0051】
X線不透過マーカーを配する位置は、チューブステントの遠位部が好ましく、より好ましくはチューブステントの遠位部における係止フラップ存在領域より遠位側および/またはチューブステントの遠位部における係止フラップ存在領域より近位側であり、更に好ましくはチューブステントの遠位部における係止フラップ存在領域より遠位側およびチューブステントの遠位部における係止フラップ存在領域より近位側の両方である。X線不透過マーカーは、更に、チューブステントの近位部に配してもよく、より好ましくはチューブステントの近位部における係止フラップ存在領域より遠位側および/またはチューブステントの近位部における係止フラップ存在領域より近位側であり、更に好ましくはチューブステントの近位部における係止フラップ存在領域より遠位側およびチューブステントの近位部における係止フラップ存在領域より近位側の両方である。
【0052】
X線不透過マーカーの形状は特に限定されず、例えば、筒状(例えば、円筒状、多角筒状など)、筒に切れ込みが入った断面C字状の形状、線材を巻回したコイル形状等が挙げられる。なかでも筒状が好ましい。
【0053】
X線不透過マーカーの材料としては、例えば、鉛、バリウム、ヨウ素、タングステン、金、白金、イリジウム、ステンレス、チタン、コバルトクロム合金等のX線不透過材料が挙げられる。
【0054】
本発明のチューブステントは、公知のデリバリーシステムを用いて留置対象部位に送達させることができる。デリバリーシステムの一構成例について
図2を用いて説明する。デリバリーシステム12は、インナーカテーテル13の径方向の外方にアウターカテーテル14とチューブステント11が配置されている。
【0055】
チューブステント11とアウターカテーテル14はスーチャー(縫合糸)15によって結合されている。チューブステント11とアウターカテーテル14が結合されていることにより、病変部にチューブステント11を搬送する際に、胆管内腔においてチューブステント11を引き戻し、位置の微調節をすることが可能となり、病変部の適切な位置にチューブステント11を留置できる。
【0056】
アウターカテーテル14の径方向の外方に挿入補助チューブ16が配置されている。挿入補助チューブ16によって、チューブステント11の搬送途中に係止フラップを折り返りにくくすることができ、かつ、挿入時にデリバリーシステム12のキンクを防止することができ、チューブステント11の搬送を円滑に行うことができる。
【0057】
本発明のチューブステントは、種々の方法により形成でき、例えば、樹脂材料で形成された原料チューブを加熱し、この原料チューブの外表面に型を用いて溝を形成する方法や、樹脂材料で形成された原料チューブの外表面を刃物で削ることにより溝を形成する方法が挙げられる。
【0058】
樹脂材料で形成された原料チューブを加熱し、この原料チューブの外表面に型を用いて溝を形成する場合、加熱温度は、例えば、100℃~250℃とすることが好ましく、加熱時間は、2秒~3時間とすることが好ましい。
【0059】
チューブステントの最大外径は、例えば、7フレンチ~10フレンチ(約2.3mm~3.3mm)が好ましい。
【実施例0060】
樹脂材料で形成された原料チューブの外表面に溝を形成した試験片を製造し、得られた試験片を、曲率半径Rを8mmとして湾曲させ、キンクの発生の有無を評価した。
【0061】
樹脂材料がポリウレタン(Lubrizol社製の「Carbothane」)で、外径が2.81mmで、内径が2.14mmのチューブ(以下、原料チューブAと呼ぶことがある。)を準備した。準備した原料チューブAを200℃に加熱した後、種々の金型を用いてチューブの外表面に周方向に沿った環状の溝を形成し、試験片a~dを製造した。試験片a~d(チューブステント)の長手方向における前記溝の断面形状はU字状とした。得られた試験片a~dの外観を撮影した図面代用写真を
図3に示す。
【0062】
次に、試験片について、最も厚い部分の厚さ(最大外径)D1、最大外径D1を測定した位置に最も近い溝における試験片の最も薄い部分の厚さ(最小外径)D2、長手方向における溝の幅w、ピッチpを測定した。D1、D2、w、pを測定した一例を示す図面代用写真を
図4に示す。
図4に示すように、試験片の最も厚い部分の厚さ(最大外径)D1を測定し、該最大外径D1を測定した位置に最も近い溝における試験片の最も薄い部分の厚さ(最小外径)D2を測定した。また、試験片の内径を測定した。下記表1に、各試験片の最大外径、最小外径、内径を示す。また、最大外径と内径に基づいて試験片の肉厚[肉厚=(最大外径-内径)/2]を算出し、結果を併せて示す。また、最大外径と最小外径に基づいて試験片の溝の深さ[溝の深さ=(最大外径-最小外径)/2]を算出し、結果を併せて示す。また、試験片の肉厚に対する溝の深さの割合[割合=100×溝の深さ/肉厚]を算出し、結果を併せて示す。また、試験片の長手方向における溝の幅w、ピッチpを測定し、結果を併せて示す。溝の幅wとは試験片に形成された溝の長手方向の長さを意味し、ピッチpとは試験片に形成されている隣り合う凸部の山の位置(チューブステントの肉厚部分の頂点の位置)同士の距離を意味する。なお、下記表1には、原料チューブAの外径、内径、肉厚も示した。
【0063】
【0064】
次に、得られた試験片a~dを曲率半径8mmで湾曲させた。このとき試験片に折れが発生した場合を、キンクが発生したと判断し、キンクの発生の有無を評価した。曲率半径8mmで湾曲させたときの試験片a~dの外観を撮影した図面代用写真を
図5に示す。なお、
図5には、参考データとして、原料チューブAを曲率半径8mmで湾曲させたときの外観を撮影した図面代用写真も併せて示した。
【0065】
図5から次のように考察できる。本発明で規定する要件を満足しない原料チューブAおよび試験片c、dは、キンクが発生した。一方、本発明で規定する要件を満足する試験片a、bは、曲率半径8mmで湾曲させてもキンクは発生しなかった。