IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジクラの特許一覧

特開2023-121597制御装置、制御方法、及びファイバレーザ装置
<>
  • 特開-制御装置、制御方法、及びファイバレーザ装置 図1
  • 特開-制御装置、制御方法、及びファイバレーザ装置 図2
  • 特開-制御装置、制御方法、及びファイバレーザ装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121597
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法、及びファイバレーザ装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/0941 20060101AFI20230824BHJP
   H01S 3/067 20060101ALI20230824BHJP
   H01S 5/062 20060101ALI20230824BHJP
   H01S 5/042 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
H01S3/0941
H01S3/067
H01S5/062
H01S5/042
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025022
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山本 達也
【テーマコード(参考)】
5F172
5F173
【Fターム(参考)】
5F172AF06
5F172AM08
5F172DD03
5F172EE15
5F172EE19
5F172NN23
5F172NQ06
5F172NQ34
5F173MA07
5F173ME44
5F173SC10
5F173SE02
5F173SG04
(57)【要約】
【課題】レーザ出力の変化に伴うLDモジュールの発振波長のシフトを抑える技術を実現する。
【解決手段】制御装置(1)は、出力可変なファイバレーザに励起光を供給する複数のLDモジュール(2)を制御する。制御装置(1)は、ファイバレーザのレーザ出力の設定値に応じて、複数のLDモジュール(2)のうち、駆動電流を供給するLDモジュールの個数を設定する制御部(14)を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力可変なファイバレーザに励起光を供給する複数のLD(Laser Diode)モジュールを制御する制御装置であって、
前記ファイバレーザのレーザ出力の設定値に応じて、前記複数のLDモジュールのうち、駆動電流を供給するLDモジュールの個数を設定する制御部を備えている、
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記設定値が小さくなるほど、駆動電流を供給するLDモジュールの個数を少なく設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記設定値を表すアナログ信号である出力設定信号を、各LDモジュールに供給する駆動電流を表すアナログ信号である電流設定信号に変換する複数の可変抵抗器を含み、前記制御部から出力されるデジタル信号である抵抗設定信号に従って各可変抵抗器の抵抗値を設定するデジタルポテンションメータを更に備えている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
アナログ信号である前記出力設定信号を、前記制御部に供給するデジタル信号である出力設定信号に変換するADコンバータを更に備えている、
ことを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御部から出力されるデジタル信号である制御信号を、前記設定値を表すデジタル信号である出力設定信号と、前記デジタルポテンションメータに供給するアナログ信号である前記抵抗設定信号とに分離するデマルチプレクサと、
前記デマルチプレクサから出力されるデジタル信号である前記出力設定信号を、前記デジタルポテンションメータに供給するアナログ信号である前記出力設定信号に変換するDAコンバータを更に備えている、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記ファイバレーザの設定可能な任意のレーザ出力に対して、各LDモジュールの発振波長が960nm以上968nm以下の波長帯域から外れないように、駆動電流を供給するLDモジュールの個数を決定する、
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
出力可変なファイバレーザに励起光を供給する複数のLD(Laser Diode)モジュールを制御する制御方法であって、
前記ファイバレーザの出力の設定値に応じて前記複数のLDモジュールのうち、駆動電流を供給するLDモジュールの個数を設定する制御工程を含んでいる、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項8】
請求項1~6の何れか一項に記載の制御装置を備えている、
ことを特徴とするファイバレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力可変なファイバレーザに励起光を供給する複数のLD(Laser Diode)モジュールを制御する制御装置及び制御方法に関する。また、そのような制御装置を備えたファイバレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工の分野では、ファイバレーザが広く用いられている。このようなファイバレーザにおいては、光ファイバに添加されたYbなどの希土類元素を、LDモジュールから出力されたレーザ光(以下、「励起光」とも記載する)を用いて励起することによって、レーザ光の再帰的な増幅を実現している。
【0003】
LDモジュールから出力された励起光を効率的に利用するためには、発振波長が狭帯域であることが好ましい。なぜなら、LDモジュールの発振波長が広帯域であると、希土類元素に吸収されない励起光(希土類元素の吸収スペクトルから外れた励起光)が増加し、励起光の利用効率が低下するためである。
【0004】
狭帯域化を図ったLDモジュールとしては、例えば、特許文献1に記載のレーザモジュールが挙げられる。特許文献1に記載のレーザモジュールにおいては、波長安定化素子を用いて発振波長の狭帯域化を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-34530号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
出力可変なファイバレーザにおいては、出力するレーザ光のパワー(以下、「レーザ出力」とも記載する)に応じて、励起光のパワーを変化させる必要がある。例えば、レーザ出力を小さくするためには、励起光のパワーを小さくする必要がある。そして、励起光のパワーを小さくするためには、LDモジュールに供給する駆動電流を小さくする必要がある。特に、励起光源が複数のLDモジュールにより構成されている場合、個々のLDモジュールに供給する駆動電流を更に小さくする必要がある。
【0007】
このように、出力可変なファイバレーザ、特に、励起光源が複数のLDモジュールにより構成されているファイバレーザでは、個々のLDモジュールに供給される駆動電流の大きさが大きく変動する。このため、LDモジュールの発振波長も大きくシフトし、その結果、励起光の利用効率が低下するという問題が生じる。
【0008】
なお、特許文献1に記載の技術を用いれば、このような問題を生じ難くすることができる。しかしながら、特許文献1に記載の技術を用いると、波長安定化素子の追加に伴う製造コストの増大に加えて、波長安定化素子の位置調整及び熱膨張管理に伴う歩留まりの低下が生じる。
【0009】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、波長安定化素子を用いるのとは別の方法で、レーザ出力の変化に伴うLDモジュールの発振波長のシフトを抑える技術を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様1に係る制御装置は、出力可変なファイバレーザに励起光を供給する複数のLD(Laser Diode)モジュールを制御する制御装置であって、前記ファイバレーザのレーザ出力の設定値に応じて、前記複数のLDモジュールのうち、駆動電流を供給するLDモジュールの個数を設定する制御部を備えている。
【0011】
上記の構成によれば、波長安定化素子を用いるのとは別の方法で、レーザ出力の変化に伴うLDモジュールの発振波長のシフトを抑えることができる。
【0012】
本発明の態様2に係る制御装置においては、態様1の構成に加えて、前記制御部は、前記設定値が小さくなるほど、駆動電流を供給するLDモジュールの個数を少なく設定する、という構成が採用されている。
【0013】
上記の構成によれば、レーザ出力の変化に伴うLDモジュールの発振波長のシフトを抑えることができる。
【0014】
本発明の態様3に係る制御装置においては、態様1又は2の構成に加えて、前記設定値を表すアナログ信号である出力設定信号を、各LDモジュールに供給する駆動電流を表すアナログ信号である電流設定信号に変換する複数の可変抵抗器を含み、前記制御部から出力されるデジタル信号である抵抗設定信号に従って各可変抵抗器の抵抗値を設定するデジタルポテンションメータを更に備えている、という構成が採用されている。
【0015】
上記の構成によれば、簡易な構成でレーザ出力の変化に伴うLDモジュールの発振波長のシフトを抑えることができる。
【0016】
本発明の態様4に係る制御装置においては、態様3の構成に加えて、アナログ信号である前記出力設定信号を、前記制御部に供給するデジタル信号である出力設定信号に変換するADコンバータを更に備えている、という構成が採用されている。
【0017】
上記の構成によれば、レーザ出力の設定値がアナログ信号として制御装置に供給される場合に、簡単な構成でレーザ出力の変化に伴うLDモジュールの発振波長のシフトを抑えることができる。
【0018】
本発明の態様5に係る制御装置においては、態様3又は4の構成に加えて、前記制御部から出力されるデジタル信号である制御信号を、前記設定値を表すデジタル信号である出力設定信号と、前記デジタルポテンションメータに供給するアナログ信号である前記抵抗設定信号とに分離するデマルチプレクサと、前記デマルチプレクサから出力されるデジタル信号である前記出力設定信号を、前記デジタルポテンションメータに供給するアナログ信号である前記出力設定信号に変換するDAコンバータを更に備えている、という構成が採用されている。
【0019】
上記の構成によれば、レーザ出力の設定値が通信により制御装置に通知される場合に、簡単な構成でレーザ出力の変化に伴うLDモジュールの発振波長のシフトを抑えることができる。
【0020】
本発明の態様6に係る制御装置においては、態様1~5の何れかの構成に加えて、前記制御部は、前記ファイバレーザの設定可能な任意のレーザ出力に対して、各LDモジュールの発振波長が960nm以上968nm以下の波長帯域から外れないように、駆動電流を供給するLDモジュールの個数を決定する、という構成が採用されている。
【0021】
上記の構成によれば、ファイバレーザの増幅媒質がYb添加ファイバである場合に、レーザ出力の変化に伴うLDモジュールの発振波長のシフトを効果的に抑えることができる。
【0022】
本発明の態様7に係る制御方法は、出力可変なファイバレーザに励起光を供給する複数のLD(Laser Diode)モジュールを制御する制御方法であって、前記ファイバレーザの出力の設定値に応じて前記複数のLDモジュールのうち、駆動電流を供給するLDモジュールの個数を設定する制御工程を含んでいる。
【0023】
上記の構成によれば、波長安定化素子を用いるのとは別の方法で、レーザ出力の変化に伴うLDモジュールの発振波長のシフトを抑えることができる。
【0024】
本発明の態様8に係るファイバレーザ装置は、態様1~6の何れかの制御装置を備えている。
【0025】
上記の構成によれば、レーザ出力の変化に伴うLDモジュールの発振波長のシフトを抑えることができる。その結果、複数のLDモジュールから出力される励起光を効率的に利用することができる。
【0026】
なお、「波長安定化素子を用いるのとは別の方法で」とは、波長安定化素子を用いないことを含意せず、したがって、LDモジュールに波長安定化素子が含まれる態様も、発明の範疇に含まれる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一態様によれば、波長安定化素子を用いるのとは別の方法で、レーザ出力の変化に伴うLDモジュールの発振波長のシフトを抑える技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一態様に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
図2図1に示す制御装置の変形例を示すブロック図である。
図3図1に示す制御装置を備えるファイバレーザ装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(制御装置の構成)
本発明の一実施形態に係る制御装置1の構成について、図1を参照して説明する。図1は、制御装置1の構成を示すブロック図である。なお、図1においては、アナログ信号の経路を実線で示し、デジタル信号の経路を点線で示している。
【0030】
制御装置1は、出力可変なファイバレーザに励起光を供給するLDモジュール群2を制御するための装置である。ここで、LDモジュール群2は、n個のLDモジュール群G1~Gnの集合であり、各LDモジュール群Giは、m個のLDモジュールLDMiの集合である。ここで、nは、2以上の任意の自然数であり、mは、1以上の任意の自然数であり、iは、1以上n以下の各自然数である。図1においては、n及びmが、それぞれ4である場合の構成を例示している。
【0031】
制御装置1は、デジタルポテンションメータ11と、LDドライバ群12と、ADコンバータ13と、制御部14と、を備えている。ここで、LDドライバ群12は、n個のLDドライバLDD1~LDDnの集合である。
【0032】
制御装置1には、出力設定信号PS(A)が入力される。ここで、出力設定信号PS(A)は、ファイバレーザのレーザ出力の設定値を表すアナログ信号である。出力設定信号PS(A)は、デジタルポテンションメータ11及びADコンバータ13に供給される。
【0033】
デジタルポテンションメータ11は、出力設定信号PS(A)を電流設定信号CS1~CSnに変換するためのn個の可変抵抗器R1~Rnを含む。ここで、各電流設定信号CSiは、LDモジュールLDMiに供給する駆動電流Iiを指定するアナログ信号である。各電流設定信号CSiは、LDドライバLDDiに提供される。デジタルポテンションメータ11は、後述する制御部14から取得した抵抗設定信号RSに従って、可変抵抗器R1~Rnの抵抗値を設定する。ここで、抵抗値指定信号RSは、可変抵抗器R1~Rnの抵抗値を指定するデジタル信号である。
【0034】
LDドライバ群12を構成する各LDドライバLDDiは、デジタルポテンションメータ11から取得した電流設定信号CSiに従って、LDモジュールLDMiに供給する駆動電流Iiを設定する。各LDドライバLDDiとしては、例えば、定電流回路を用いることができる。LDモジュール群2を構成する各LDモジュールLDMiは、LDドライバLDDiから供給された駆動電流Iiに応じたレーザ光を出力する。n×m個のLDモジュールLDM1~LDMnから出力されたレーザ光は、励起光としてファイバレーザに供給される。
【0035】
ADコンバータ13は、アナログ信号である出力設定信号PS(A)を、デジタル信号である出力設定信号PS(D)に変換する。出力設定信号PS(D)は、制御部14に提供される。制御部14は、ADコンバータ13から取得した出力設定信号PS(D)に基づいて、デジタルポテンションメータ11に提供する抵抗設定信号RSを生成する。抵抗設定信号RSを生成するために、制御部14は、以下の処理を実行する。
【0036】
すなわち、制御部14は、ADコンバータ13から取得した出力設定信号PS(D)を参照して、ファイバレーザのレーザ出力の設定値を特定する(処理1)。また、制御部14は、処理1にて特定した設定値に応じて、LDモジュールLDM1~LDMnのうち、駆動電流を供給するLDモジュールの個数を決定する(処理2)。この際、制御部14は、処理1にて特定した設定値が小さくなるほど、駆動電流を供給するLDモジュールの個数を少なく設定する。また、制御部14は、処理2にて決定した個数のLDモジュールを、LDモジュール群2から選択する(処理3)。また、制御部14は、処理1にて特定した設定値、及び、処理2にて特定した個数に応じて、可変抵抗器R1~Rnの抵抗値を決定する(処理4)。ここで、処理3にて選択されなかったLDモジュールに対応する可変抵抗器の抵抗値は、その可変抵抗器の最大抵抗値に設定される。これにより、処理3にて選択されなかったLDモジュールには駆動電流が実質的に供給されず、処理3にて選択されたLDモジュールのみに駆動電流が供給されることになる。また、制御部14は、処理4にて決定した可変抵抗器R1~Rnの抵抗値を表す抵抗設定信号RSを生成する(処理5)。
【0037】
なお、本実施形態においては、n×m個のLDモジュールLDM1~LDMnがn個のLDモジュール群G1~Gnに束ねられており、駆動電流I1~Inの設定は、LDモジュール群Gi毎に行われる。したがって、上述した処理2においては、LDモジュール群G1~Gnのうち、駆動電流を供給するLDモジュール群の個数が決定される。また、上述した処理3においては、処理2にて決定した個数のLDモジュール群が、LDモジュール群G1~Gnから選択される。
【0038】
(制御装置の効果)
制御装置1においては、ファイバレーザのレーザ出力の設定値に応じて、LDモジュールLDM1~LDMnのうち、駆動電流を供給するLDモジュールの個数を決定する。これにより、設定値が小さいときには、駆動電流を供給するLDモジュールの個数を少なくすることができる。その結果、選択されたLDモジュールの各々に供給される駆動電流を、全てのLDモジュールLDM1~LDMnに供給する場合よりも大きくすることができる。したがって、個々のLDモジュールに供給される駆動電流が小さくなり過ぎることによる発振波長のシフトを抑えることができる。
【0039】
以下、この効果を、具体例に即して説明する。以下では、LDモジュール群G1~Gnの個数nを4とし、各LDモジュール群Giに属するLDモジュールLDMiの個数mを4とする。したがって、LDモジュールLDM1~LDM4の総数m×nは、16個である。
【0040】
下記の表1は、ファイバレーザのレーザ出力の設定値(以下、「レーザ出力」とも記載)と、LDモジュールLDM1~LDM4のうち、駆動電流が供給されるLDモジュールの個数(以下、「駆動LDM個数」とも記載)との関係を例示した表である。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示した例において、制御部14は、レーザ出力が1.09kW以下であるとき、駆動LDM個数を4個に設定し、駆動電流を供給するLDモジュールとして1系統のLDモジュールLDM1を選択する。また、制御部14は、レーザ出力が1.1kW以上2.09kW以下であるとき、駆動LDM個数を8個に設定し、駆動電流を供給するLDモジュールとして2系統のLDモジュールLDM1~LDM2を選択する。また、制御部14は、レーザ出力が2.1kW以上3.09kW以下であるとき、駆動LDM個数を12個に設定し、駆動電流を供給するLDモジュールとして3系統のLDモジュールLDM1~LDM3を選択する。また、制御部14は、レーザ出力が3.1kW以上であるとき、駆動LDM個数を16個に設定し、駆動電流を供給するLDモジュールとして4系統のLDモジュールLDM1~LDM4を選択する。
【0043】
下記の表2は、レーザ出力が0.5kW、1.0kW、1.5kW、2.0kW、2.5kW、3.0kW、3.5kW、4.0kWのときのファイバレーザの状態を例示した表である。表2においては、ファイバレーザの状態として、(1)最大出力に対するレーザ出力の割合(以下、「出力率」とも記載)、(2)LDモジュール群2の総出力(以下、「励起出力」とも記載)、(3)駆動電流が供給されるLDモジュールの系統数(以下、「駆動LDM系統数」とも記載)、(4)駆動電流が供給されるLDモジュールの個数(以下、「駆動LDM個数」とも記載)、(5)個々のLDモジュールに供給される駆動電流(以下、「駆動電流」とも記載)を示している。
【0044】
【表2】
【0045】
例えば、レーザ出力が0.5kWである場合、全てのLDモジュールLDM1~LDM4を駆動すると、個々のLDモジュールに供給される駆動電流は2.0Aになる。これに対し、制御装置1を用いて駆動するLDモジュールを1系統/4個のLDモジュールLDM1に制限すると、個々のLDモジュールに供給される駆動電流は8.0Aになる。したがって、この場合、個々のLDモジュールに供給される駆動電流が小さくなることにより生じる発振波長のシフトを、全てのLDモジュールLDM1~LDM4を駆動する場合よりも小さくすることができる。或いは、レーザ出力が1.0kWである場合、全てのLDモジュールLDM1~LDM4を駆動すると、個々のLDモジュールに供給される駆動電流は4.0Aになる。これに対し、制御装置1を用いて駆動するLDモジュールを1系統/4個のLDモジュールLDM1に制限すると、個々のLDモジュールの各々に供給される駆動電流は16.0Aになる。したがって、この場合、個々のLDモジュールに供給される駆動電流が小さくなることにより生じる発振波長のシフトを、全てのLDモジュールLDM1~LDM4を駆動する場合よりも小さくすることができる。レーザ出力が1.5kW、2.0kW、2.5kW、3.0kWの場合についても、同様のことが言える。
【0046】
なお、ファイバレーザの増幅媒質がYb添加ファイバである場合、各レーザ出力に対する駆動LDM数は、ファイバレーザの設定可能な任意の出力値に対して、個々のLDモジュールの発振波長が960nm以上968nm以下の波長帯域から外れないように設定することが好ましい。なぜなら、この波長帯域においては、Ybによる励起光の吸収量の波長依存性が、他の波長帯域と比べて小さいからである。また、この波長帯域においては、長波長になるほどYbによる励起光の吸収量が多くなり、高温になるほどYbによる励起光の吸収量が多くなる。前者の性質によれば、励起光のパワーが高くなる長波長側においてYbによる励起光の吸収量が多くなるので、残留励起光を減らすことができ、その結果、残留励起光に起因する光部品の劣化又は損傷を抑えることが可能になる。また、後者の性質によれば、レーザ発振時の発熱によりYbによる励起光の吸収量が多くなるので、Yb添加ファイバのファイバ長を短くすることができ、その結果、フォトダークニング及び誘導ラマン散乱の発生を抑制することが可能になる。
【0047】
(制御装置の変形例)
制御装置1の一変形例について、図2を参照して説明する。図2は、本変形例に係る制御装置1(以下、「制御装置1A」と記載する)の構成を示すブロック図である。なお、図1においては、アナログ信号の経路を実線で示し、デジタル信号の経路を点線で示している。
【0048】
制御装置1Aは、上述したデジタルポテンションメータ11、LDドライバ群12、及び制御部14に加えて、デマルチプレクサ15、及びDAコンバータ16を備えている。ADコンバータ13は、制御装置1Aにおいて省略されている。
【0049】
本変形例においては、ファイバレーザのレーザ出力の設定値が通信(例えば、シリアル通信)によって制御装置1Aに通知される。制御部14は、出力設定信号PS(D)と抵抗設定信号RSとを含む制御信号Cを出力する。上述したように、出力設定信号PS(D)は、ファイバレーザのレーザ出力の設定値を表すデジタル信号であり、抵抗設定信号RSは、可変抵抗器R1~Rnの抵抗値を指定するデジタル信号である。
【0050】
デマルチプレクサ15は、制御部14から取得した制御信号Cを、出力設定信号PS(D)と抵抗設定信号RSとに分離する。出力設定信号PS(D)は、DAコンバータ16に供給され、抵抗設定信号RSは、デジタルポテンションメータ11に提供される。DAコンバータ16は、デマルチプレクサ15から取得した出力設定信号PS(D)を、アナログ信号である出力設定信号PS(A)に変換する。出力設定信号PS(A)は、デジタルポテンションメータ11に供給される。
【0051】
制御装置1Aにおける制御部14及びデジタルポテンションメータ11の動作は、制御装置1における制御部14及びデジタルポテンションメータ11の動作と同様である。したがって、制御装置1Aにおいても、制御装置1と同様の効果が得られる。
【0052】
なお、制御装置1Aは、制御装置1と同様、ADコンバータ13を更に備えていてもよい。これにより、ファイバレーザのレーザ出力の設定値が通信によって通知される場合であっても、ファイバレーザのレーザ出力の設定値がアナログ信号として入力される場合であっても、制御装置1と同様の効果を得ることができる。
【0053】
(ファイバレーザの構成)
制御装置1を備えたファイバレーザ装置3の構成について、図3を参照して説明する。図3は、ファイバレーザ装置3の構成を示すブロック図である。
【0054】
ファイバレーザ装置3は、MOPA型の加工用ファイバレーザであり、制御装置1の他に、MO(Master Oscillator)部31と、MO部31にて生成されたレーザ光を増幅するPA(Power Amplifier)部32と、加工ヘッド33と、を備えている。なお、加工ヘッド33は、用途に応じて付け替えることが可能であり、また、省略することも可能である。なお、ファイバレーザ装置3は、制御装置1の代わりに、制御装置1Aを備えていてもよい。
【0055】
本実施形態においては、MO部31として、前方励起型のファイバレーザを用いている。MO部31は、光ファイバ31aと、励起光源ユニット31bと、コンバイナ31cと、1対のFBG(Fiber Bragg Grating)31d1,31d2と、により構成することができる。
【0056】
光ファイバ31aは、コアに希土類元素が添加された光ファイバ(例えば、ダブルクラッドファイバ)である。光ファイバ31aのコアに添加する希土類元素は特に限定されないが、本実施形態においては、Ybを用いている。光ファイバ31aの一端には、ミラーとして機能するFBG31d1が接続されており、光ファイバ31aの他端には、ハーフミラーとして機能するFBG31d2が接続されている。これにより、光ファイバ31aは、励起した希土類元素から放出されるレーザ光を再帰的に増幅する共振器として機能する。
【0057】
励起光源ユニット31bは、光ファイバ31aのコアに添加された希土類元素を励起させるための励起光(前方励起光)を生成するための構成である。本実施形態においては、励起光源ユニット31bとして、上述したLDモジュール群2を用いている。励起光源ユニット31bにて生成された励起光は、コンバイナ31cによって光ファイバ31aのインナークラッドに導入される。
【0058】
また、本実施形態においては、PA部32として、ファイバアンプを用いている。PA部32は、光ファイバ32aにより構成することができる。
【0059】
光ファイバ32aは、コアに希土類元素が添加された光ファイバ(例えば、ダブルクラッドファイバ)である。光ファイバ32aのコアに添加する希土類元素は特に限定されないが、本実施形態においては、Ybを用いている。光ファイバ32aの一端には、MO部31のFBG31d2が接続されている。これにより、光ファイバ32aは、MO部31により生成されたレーザ光を増幅する増幅器として機能する。また、光ファイバ32aの他端には、加工ヘッド33が接続されている。これにより、光ファイバ32aにより増幅されたレーザは、加工ヘッド33を介してワークに照射される。
【0060】
制御装置1は、ファイバレーザ装置3のレーザ出力の設定値に応じて、励起光源ユニット31bを構成するLDモジュールLDM1~LDMnのうち、駆動電流を供給するLDモジュールの個数を決定する。これにより、設定値が小さいときには、駆動電流を供給するLDモジュールの個数を少なくすることができる。その結果、選択されたLDモジュールの各々に供給される駆動電流を、全てのLDモジュールLDM1~LDMnに供給する場合よりも大きくすることができる。したがって、個々のLDモジュールに供給される駆動電流が小さくなり過ぎることによる発振波長のシフトを抑えることができる。これにより、励起光源ユニット31bから供給されるレーザ光を、光ファイバ31aに添加された希土類元素に効率的に吸収させることができる。これにより、残留励起光を減らすことができ、その結果、光部品の劣化又は損傷を抑制することができる。また、これにより、光ファイバ31aのファイバ長を短くすることができ、その結果、フォトダークニング及び誘導ラマン散乱の発生を抑制することができる。
【0061】
(付記事項)
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものでなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。上述した実施形態に含まれる各技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1 制御装置
11 デジタルポテンションメータ
12 LDドライバ群
13 ADコンバータ
14 制御部
15 デマルチプレクサ
16 DAコンバータ
2 LDモジュール群
3 ファイバレーザ装置
図1
図2
図3