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  • 特開-細胞のパッド加圧式転写装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121612
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】細胞のパッド加圧式転写装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20230824BHJP
【FI】
G01N1/28 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025051
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000113942
【氏名又は名称】マルヤス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(72)【発明者】
【氏名】名取 拓也
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA33
2G052CA03
2G052CA16
2G052DA07
2G052FA03
2G052GA32
(57)【要約】
【課題】細胞の形状を保持したまま、捕集フィルタからスライドガラスへの細胞の転写を行い、容易、且つ高い転写効率で細胞のスライドガラスサンプルを作成できる細胞のパッド加圧式転写装置を提供することにある。
【解決手段】スライドガラスGと、細胞を捕集した捕集フィルタFとを、間に細胞を収めるように配置してスライドガラスG及び捕集フィルタFとに加圧することで、捕集フィルタFから細胞をスライドガラスG上に転写するものであって、スライドガラスGと捕集フィルタFとへの加圧に用いられる樹脂製のパッド4と、パッド4と対向する位置に配置され、スライドガラスGを載置するための保持台6と、パッド4と保持台6とを接近させるアクチュエータ5とを備え、パッド4は、30以下の硬度を有し、柱形状の胴体部4aと、胴体部4aの先端にドーム形状の接触部4bとを備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドガラスと、細胞を捕集した捕集フィルタとを、間に細胞を収めるように配置して前記スライドガラス及び前記捕集フィルタとに加圧することで、前記捕集フィルタから前記細胞を前記スライドガラス上に転写する細胞のパッド加圧式転写装置であって、
前記スライドガラスと前記捕集フィルタとへの加圧に用いられる樹脂製のパッドと、前記パッドと対向する位置に配置され、前記スライドガラスを載置するための保持台と、前記パッドと前記保持台とを接近させる駆動手段とを備え、
前記パッドは、30以下の硬度を有し、前記保持台への接近方向に延びる柱状の胴体部と、前記胴体部の先端に設けられるドーム状の接触部とを備えることを特徴とする細胞のパッド加圧式転写装置。
【請求項2】
前記パッドは、前記接触部の曲率半径と前記胴体部の外径との比が3対4より大きいことを特徴とする請求項1に記載の細胞のパッド加圧式転写装置。
【請求項3】
前記パッドは、中空状に形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞のパッド加圧式転写装置。
【請求項4】
前記パッドは、前記胴体部の厚みより前記接触部の厚みが大きいことを特徴とする請求項3に記載の細胞のパッド加圧式転写装置。
【請求項5】
前記接触部の外面が被膜処理されることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の細胞のパッド加圧式転写装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ上に捕集した細胞をスライドガラス上へ転写する際に用いられる細胞のパッド加圧式転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、研究、医療診断等を目的に、種々の細胞をフィルタを用いて捕集し、スライドガラス上に転写することで顕微鏡等による直接的な分析が行われてきた。
例えば、がん診断における分析手段の1つに、血液中に存在する血中循環がん細胞(Circulating Tumor Cell、以下、CTC)を捕集し、捕集したCTCを直接分析・診断する細胞診が知られている。しかし、CTCは、1mLの血液中に数十個しか存在しないため、CTCを捕集する装置や方法が種々検討されている。
そのような背景の下、捕集したCTCの直接的な分析のため、特許文献1では、捕集した細胞をスライドガラスとフィルターとの間に収め、スウィングローター型の遠心機を用いて、遠心力により細胞をフィルターからスライドガラスへと転写する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6464340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の転写方法で用いられるスウィングローター式遠心機は、停止時にアームの先に水平に配置されたフィルタ及びスライドガラスの姿勢が遠心機の回転により鉛直方向を向くまで遠心機の回転数を上げる必要があるため、転写に係る力の微調整が困難であり、細胞の転写に過剰な力が働き、細胞が圧潰する可能性がある。細胞が圧潰すると正確な分析ができないため、細胞の形状を保持したまま、捕集フィルタからスライドガラスへの細胞の転写を容易、且つ高い転写効率で行うことができる転写装置の開発が望まれていた。
【0005】
そこで、本発明の目的は、細胞の形状を保持したまま、捕集フィルタからスライドガラスへの細胞の転写を行い、容易、且つ高い転写効率で細胞のスライドガラスサンプルを作成できる細胞のパッド加圧式転写装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、スライドガラスと、細胞を捕集した捕集フィルタとを、間に細胞を収めるように配置してスライドガラス及び捕集フィルタとに加圧することで、捕集フィルタから細胞をスライドガラス上に転写する細胞のパッド加圧式転写装置であって、スライドガラスと捕集フィルタとへの加圧に用いられる樹脂製のパッドと、パッドと対向する位置に配置され、スライドガラスを載置するための保持台と、パッドと保持台とを接近させる駆動手段とを備え、パッドは、30以下の硬度を有し、保持台への接近方向に延びる柱形状の胴体部と、胴体部の先端に設けられるドーム形状の接触部とを備えることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、パッドは、接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が3対4より大きいことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、パッドは、中空状に形成されることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3の構成において、パッドは、胴体部の厚みより接触部の厚みが大きいことを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れかの構成において、接触部の外面が被膜処理されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1から4に記載の発明によれば、フィルタからスライドガラスへ細胞を転写する際、フィルタに面圧を均一にかけられると共に、過剰な押圧力を排することができるため、細胞の圧潰を防止でき、スライドガラスサンプルの作成を効率よく行うことができる。
請求項5に記載の発明によれば、上記効果に加え、パッドをスライドガラスへ押圧する際、パッドの素材である樹脂に由来する油分がスライドガラスに付着することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の細胞のパッド加圧式転写装置を示す説明図であって、(a)は待機時の状態を示し、(b)は加圧時の状態を示す。
図2】パッドの形状を示す説明図である。
図3】面圧分布の計測結果を示す三次元グラフをまとめた表である。
図4】硬度が異なるパッドにおける曲率半径と胴体部の外径との比と最大面圧との相関を示すグラフである。
図5】パッドの断面形状と面圧分布の測定結果を示す三次元グラフをまとめた表である。
図6】面圧分布の測定結果を示す三次元グラフと加圧時のパッドの状態を撮影した写真をまとめた表である。
図7】(a)は、図6におけるA-A横断面線における二次元圧力分布の測定結果を示すグラフであり、(b)はパッドの出代と面圧比との相関を示すグラフである。
図8】被膜形成条件と硬度との相関を示すグラフである。
図9】面圧分布の計測結果を示す三次元グラフをまとめた表である。
図10】面圧分布の計測結果を示す三次元グラフをまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の細胞のパッド加圧式転写装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の細胞のパッド加圧式転写装置を示す説明図であって、図1(a)は待機時の状態を示し、図1(b)は加圧時の状態を示す。
細胞のパッド加圧式転写装置(以下、転写装置1)は、図1(a)に示すように、ロードセル2と、ロッド3と、ロッド3の下面に取付可能であると共に取替可能なパッド4と、空圧、油圧又はモータといった駆動源によって上下動するアクチュエータ5とを備える。パッド4は、保持台6への接近方向すなわち下方に向けて延び、中実で円柱形状の胴体部4aと、胴体部4aの先端に設けられる中実でドーム形状の接触部4bとで形成されている。アクチュエータ5の上部には保持台6が設けられる。保持台6はパッド4の直下に配置されている。
転写装置1は、細胞の捕集フィルタFを用いて、公知の手法により捕集された細胞を、スライドガラスG上に転写し、細胞の直接的な観察に用いるスライドガラスサンプルを作製するために用いられる。
【0010】
転写装置1を用いた捕集フィルタFからスライドガラスGへの細胞の転写は、以下のようにして行われる。
まず、図1(a)に示すように、待機状態とした転写装置1の保持台6上にスライドガラスGを載置し、さらにスライドガラスG上に公知の手法により細胞を捕集した捕集フィルタFを捕集した細胞が捕集フィルタFとスライドガラスGとの間に収まるように載置する。
その後、アクチュエータ5を駆動させ、保持台6を上昇させる。保持台6が上昇することにより、図1(b)に示すように、捕集フィルタF及びスライドガラスGがパッド4に押し付けられる。このように、パッド4と保持台6とにより捕集フィルタF及びスライドガラスGが加圧されることで、捕集フィルタFに捕集されている細胞が、スライドガラスGに押し付けられると共に転写される。
最終的に、アクチュエータ5を下降させ、捕集フィルタFを取り除くことでスライドガラスサンプルが作製できる。
【0011】
細胞の転写に際し、細胞を圧潰させることがないように、パッドの形状、硬度等の検討が行われた。以下、その詳細について説明する。
なお、本明細書における硬度とは、特別に指定した場合を除き、計測器としてデュロメータtype Aを用い、JIS K 6253に準拠した計測方法により計測された値を指す。計測に使用されたサンプル形状はφ45mm、厚み5mmとされた。
【0012】
図2は、パッド4の形状を示す説明図である。図3は、面圧分布の計測結果を示す三次元グラフをまとめた表である。
まず、パッド4の形状及び硬度の検討が行われた。
【0013】
比較例1は、硬度50のウレタン製であり、パッド4の胴体部4aの外径がφ20とされ、接触部4bの曲率半径Rが10(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が1対2)とされた。
比較例2は、曲率半径Rが12(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が3対5)とされたことを除き、比較例1と同様である。
比較例3は、曲率半径Rが15(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が3対4)とされたことを除き、比較例1と同様である。
比較例4は、曲率半径Rが20(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が1対1)とされたことを除き、比較例1と同様である。
比較例5は、硬度40のウレタン製であり、パッド4の胴体部4aの外径がφ20とされ、接触部4bの曲率半径Rが10(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が1対2)とされた。
比較例6は、曲率半径Rが12(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が3対5)とされたことを除き、比較例5と同様である。
比較例7は、曲率半径Rが15(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が3対4)とされたことを除き、比較例5と同様である。
比較例8は、曲率半径Rが20(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が1対1)とされたことを除き、比較例5と同様である。
比較例9は、硬度30のウレタン製であり、パッド4の胴体部4aの外径がφ20とされ、接触部4bの曲率半径Rが10(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が1対2)とされた。
比較例10は、曲率半径Rが12(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が3対5)とされたことを除き、比較例9と同様である。
【0014】
実施例1は、硬度30のウレタン製であり、パッド4の胴体部4aの外径がφ20とされ、接触部4bの曲率半径Rが15(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が3対4)とされた。
実施例2は、曲率半径Rが20(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が1対1)とされたことを除き、実施例1と同様である。
実施例3は、硬度15のウレタン製であり、パッド4の胴体部4aの外径がφ20とされ、接触部4bの曲率半径Rが10(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が1対2)とされた。
実施例4は、曲率半径Rが12(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が3対5)とされたことを除き、実施例3と同様である。
実施例5は、曲率半径Rが15(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が3対4)とされたことを除き、実施例3と同様である。
実施例6は、曲率半径Rが20(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が1対1)とされたことを除き、実施例3と同様である。
【0015】
比較例1~10及び実施例1~6のパッド4を用いて面圧分布の測定が行われた。面圧分布測定は、保持台6に面圧分布測定機をスライドガラスGを載置すべき位置に配置し、アクチュエータ5を駆動させて行われた。
図3に示すように、比較例1~10では接触部4bの先端が当接する中心部Cの面圧と接触部4bの周縁付近が当接する周辺部Nの面圧とに大きな差があることが分かった。一方、実施例1~6では、中心部Cの面圧と周辺部Nの面圧とで大きな差は確認されなかった。従って、実施例1~6では、捕集フィルタF、ひいては捕集フィルタFに捕集された細胞をスライドガラスGに対し均一に加圧できるため、効率よく転写を行うことができる。
【0016】
上述の結果を受け、以下、パッド4の硬度、接触部4bの曲率半径R及び最大面圧の相関に関する考察が行われた。
図4は、硬度が異なるパッドにおける曲率半径と胴体部の外径との比と最大面圧との相関を示すグラフである。
パッド4の硬度、接触部4bの曲率半径Rと胴体部4aの外径との比及び最大面圧の間には、図4に示すように、接触部4bの曲率半径Rと胴体部4aの外径との比が異なる各パッド4の間では、曲率半径Rと胴体部4aの外径との比の増加及びパッド4の硬度の低下に伴い最大面圧が減少する相関が確認される。従って、パッド4は、硬度が低く、接触部4bの曲率半径Rと胴体部4aの外径との比が大きいほど、最大面圧を低下できることが分かる。つまり、低硬度且つ曲率半径Rと胴体部4aの外径との比が大きいパッド4を用いることで、捕集フィルタFからスライドガラスGへの細胞の加圧転写時に過剰な押圧力を排することができるため、細胞の圧潰を防止でき、効率的にスライドガラスサンプルを作製できる。
なお、ウレタン製の実施例3~6よりも低硬度のエラストマー製であり、パッド4の胴体部4aの外径がφ20とされ、接触部4bの曲率半径Rが20(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が1対1)とされた参考例1では、接触部4bの先端が当接する中心部Cの面圧と接触部4bの周縁付近が当接する周辺部Nの面圧とにほとんど差は見られず、最大面圧も低い値を示した。
【0017】
図5は、パッド4の断面形状と面圧分布の測定結果を示す三次元グラフをまとめた表である。
続いて、さらに最大面圧を低下させるため、パッド4を中空形状とし、胴体部4aの厚みと接触部4bの厚みとが、面圧分布に与える影響について検討した。
比較例11は、硬度3のエラストマー製であり、パッド4の胴体部4aの外径がφ20とされ、接触部4bの曲率半径Rが20(接触部の曲率半径と胴体部の外径との比が1対1)とされた。さらに、胴体部4aの厚みが3mm、接触部4bの厚みが3mm(胴体部の厚みと接触部の厚みとの比が1対1)とされた。
実施例7は、胴体部4aの厚みが4mm、接触部4bの厚みが8mm(胴体部の厚みと接触部の厚みとの比が1対2)とされたことを除き、比較例11と同様である。
面圧分布の測定は、上述の比較例1~10及び実施例1~6における面圧分布測定と同様に行われた。
【0018】
図5に示すように、比較例11では、接触部4bの中心部Cは加圧されず、周辺部Nのみがドーナツ状に加圧された。従って、胴体部の厚みと接触部の厚みとの比が1対1である場合、面圧は不均一となる。
一方、実施例7では、中心部Cと周辺部Nとでは最大117KPa程度の僅かな差しか確認されなかった。従って、実施例7では、捕集フィルタF、ひいては捕集フィルタFに捕集された細胞をスライドガラスGに対し均一に加圧できるため、効率よく転写を行うことができる。
なお、胴体部の厚みを接触部の厚みより僅かに薄くしたことを除き、実施例7と同様とされた参考例2、及び胴体部の厚みに対し接触部の厚みを2倍より大きくしたことを除き、実施例7と同様とされた参考例3においても、接触部4bの先端が当接する中心部Cの面圧と接触部4bの周縁付近が当接する周辺部Nの面圧とにほとんど差は見られなかった。
【0019】
続いて、ロッド3からパッド4がどれだけ突出しているかによって面圧分布に影響があるか否かについて実施例7のパッド4を用いて検討を行った。
図6は、面圧分布の測定結果を示す三次元グラフと加圧時のパッドの状態を撮影した写真をまとめた表である。図7(a)は、図6におけるA-A横断面線における二次元圧力分布の測定結果を示すグラフであり、図7(b)はパッド4の出代と面圧比との相関を示すグラフである。
ロッド3のパッド4側の端面からパッド4の先端までの距離(出代)Xを9.5mm、14.1mm、21.0mmと変化させた場合の面圧分布、パッド4の外観、及び面圧比の変化を測定、観察した。
なお、本明細書において面圧比とは、所定の有効範囲における最大圧力及び最小圧力の値をそれぞれ最大面圧及び最小面圧として、最大面圧を最小面圧で除して算出されるものである。
【0020】
パッド4の出代を変化させた場合の面圧分布を測定すると共に、加圧時のパッド4の状態を目視で観察した結果を図6に示す。
出代Xが9.5mmの場合、最大117KPa程度の僅かな差ではあるが、中心部Cに比較的大きな圧がかかり、中心部Cと周辺部Nとで面圧分布に差が確認された。この時のパッド4の状態から、出代を9.5mmとすると、パッド4における半径方向の剛性が高くなることが分かる。
また、出代Xが21.0mmの場合、最大110KPa程度の僅かな差ではあるが、周辺部Nに比較的大きな圧がかかり、中心部Cと周辺部Nとで面圧分布に差が確認された。この時のパッド4の状態は、胴体部4aと接触部4bとがそれぞれ別々に潰れたような外観をしていることから、出代を21.0mmと比較的長くすると、半径方向の剛性が低くなることが分かる。
これらに対し、出代Xを14.1mmとした場合、最大100KPa程度の極小さな差は確認されるが、面圧は全体として均一な分布となっていることが確認された。この時のパッド4の状態は、均整のとれた形状となっていることが分かる。
なお、比較例1~11、実施例1~7及び参考例1~2におけるパッド4の出代Xは9.5mmである。
【0021】
さらに、面圧と出代との相関を考察するため、測定面の中央横断面線上における二次元圧力分布を、図6に示す面圧分布の三次元グラフから抽出した。そして、図7(a)に示すように、パッド4の外径であるφ20に相当する20mmを圧力値を確認する有効範囲とし、有効範囲内における圧力分布を確認した。
各出代Xについて、有効範囲内での最大圧力値及び最小圧力値から面圧比を算出した結果を図7(b)に示す。面圧比が1に近いほど面圧分布が均一といえるため、漸近線Aから、実施例7のパッド4を用いた場合、出代Xを14.1mmとすることは、最適であることが分かる。従って、実施例7において、出代Xを14.1mmとすることで、捕集フィルタF、ひいては捕集フィルタFに捕集された細胞をスライドガラスGに対し極めて均一に加圧できるため、より効率よく転写を行うことができる。
【0022】
一方、エラストマー製の比較例11、実施例7及び参考例2では、作製されたスライドガラスサンプルに、エラストマー由来の油分の付着が確認された。これは、パッド4が押し潰される際にパッド4から染み出したものと考えられる。油分の付着は細胞の直接的な観察を妨げる可能性があるため、対策としてパッド4の接触部4bの被膜処理を検討した。
【0023】
図8は、被膜形成条件と硬度との相関を示すグラフである。図9及び図10は、面圧分布の計測結果を示す三次元グラフをまとめた表である。
被膜処理によりパッド4の接触部4bに施すコーティング材は、パッド4の油分透過防止性、パッド表面の変形への追従、及び接触部4bとの接着性に着目し、公知の塗料からポリマーアロイ塗料を含む樹脂塗料が選択された。一方、被膜処理により接触部4bの硬度が増加する可能性を考慮し、実際にパッド4の接触部4bにポリマーアロイ塗料を用いて被膜処理を行うことで、被膜形成条件と硬度との相関が確認された。
【0024】
被膜形成条件として、塗布面に塗料を塗布してから、80℃で45分間乾燥させた後に40℃で16時間乾燥させるパターン1と、60℃で90分間乾燥させた後に40℃で16時間乾燥させるパターン2と、40℃で18時間乾燥させるパターン3との3種類が採択され、それぞれのパターン毎に、25μm、18μmまたは10μmの膜厚で被膜処理が施されたサンプル片が作製された。このようにして得られた9つのサンプル片及び被膜処理が行われていないサンプル片の合計10個のサンプル片に対し硬度の測定が行われた。なお、ここでの硬度測定は、計測器としてデュロメータtype Eを用い、JIS K 6253に準拠した計測方法により計測された。計測に使用されたサンプル形状はφ45mm、厚み5mmであった。
【0025】
その結果、図8に示すように、被膜処理が行われることで、被膜処理されていないサンプル片よりも硬度が僅かに増加することが分かる。また、膜厚が増加するごとに硬度が増加している様子が確認できることに加え、同じ膜厚のサンプル片間では、パターン3から2へとの被膜形成条件における乾燥温度が上昇すると、硬度が増加する様子が確認できる。一方、パターン1で作製されたサンプル片は、膜厚の違いによらず何れも被膜内に気泡の発生が確認された。そのため、パターン2又は3の被膜形成条件で作製されたサンプル片よりも硬度が低く測定された。
【0026】
続いて、硬度が高くなりやすい膜厚25μmのサンプル片及び被膜処理が行われていないサンプル片を用いて、被膜形成条件が及ぼす面圧分布への影響を検討した。
図9に、それぞれの被膜形成条件でのサンプル片と被膜処理が行われていないサンプル片とを用いて、面圧分布測定が行われた結果を示す。測定の結果、ポリマーアロイ塗料の被膜形成条件が面圧分布にあたえる影響は極めて小さいことが明らかとなった。
【0027】
さらに、硬度が高くなりやすいパターン2の被膜形成条件で作製したサンプル片及び被膜処理が行われていないサンプル片を用いて、膜厚が及ぼす面圧分布への影響を検討した。
図10に、パターン2の条件のもと作製されたそれぞれ膜厚の異なるサンプル片と被膜処理が行われていないサンプル片とを用いて、面圧分布測定が行われた結果を示す。測定の結果、ポリマーアロイ塗料の膜厚の違いが面圧分布にあたえる影響は極めて小さいことが明らかとなった。
【0028】
上記形態の転写装置1は、スライドガラスGと、細胞を捕集した捕集フィルタFとを、間に細胞を収めるように配置してスライドガラスG及び捕集フィルタFとに加圧することで、捕集フィルタFから細胞をスライドガラスG上に転写するものであって、スライドガラスGと捕集フィルタFとへの加圧に用いられる樹脂製のパッド4と、パッド4と対向する位置に配置され、スライドガラスGを載置するための保持台6と、パッド4と保持台6とを接近させるアクチュエータ5とを備え、パッド4は、30以下の硬度を有し、保持台6への接近方向に延びる柱形状の胴体部4aと、胴体部4aの先端に設けられるドーム形状の接触部4bとを備えることを特徴とする。
また、パッド4は、接触部4bの曲率半径Rと胴体部4aの外径との比が3対4より大きい。
また、パッド4は、中空状に形成され、胴体部4aの厚みより接触部4bの厚みが大きい。
よって、捕集フィルタFからスライドガラスGへ細胞を転写する際、捕集フィルタFに面圧を均一にかけられると共に、過剰な押圧力を排することができるため、細胞の圧潰を防止でき、スライドガラスサンプルの作成を効率よく行うことができる。
【0029】
さらにまた、接触部4bが被膜処理される。
よって、パッド4をスライドガラスGへ押圧する際、パッド4の素材である樹脂に由来する油分がスライドガラスGに付着することを防止できる。
【0030】
上述の検討を踏まえ、被膜処理を施していない比較例1のパッド、又は被膜処理を施した実施例7のパッドを、14.1mm突出するようにロッド3に取り付けた転写装置1を用いて、実際にスライドガラスサンプルの作成を行った。その結果、被膜処理を施していない比較例1のパッドよりも、被膜処理を施した実施例7のパッドの方が、細胞の圧潰を避けながら多数の細胞をスライドガラス上に転写することができることが確認された。
【0031】
以上は、本発明を図示例に基づいて説明したものであり、その技術範囲はこれに限定されるものではない。例えば、転写装置は、フィルタをスライドガラスにパッドを用いて押厚することで加圧式転写を行えれば良く、その他の構成については任意に設計可能である。
また、パッドは、硬度30以下であれば、任意の素材を用いて作製可能である。
また、パッドの接触部の曲率半径と胴体部の外周との比は、1対1よりも大きな曲率半径としてもよい。
また、パッドの胴体部と接触部との外径は揃っていることが好ましいが、異なってもよい。
また、パッドの接触部の被膜処理に用いられるコーティング材は、パッドの油分透過防止性、パッド表面の変形への追従力、及び接触部との接着性について、所望の性能を備えるものであれば、任意のコーティング材を適用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1・・転写装置(細胞のパッド加圧式転写装置)、4・・パッド、4a・・胴体部、4b・・接触部、5・・アクチュエータ、6・・保持台、G・・スライドガラス、F・・捕集フィルタ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10