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特開2023-121614モータ駆動制御装置、モータユニット、およびモータ駆動制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121614
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置、モータユニット、およびモータ駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20230824BHJP
   H02P 6/15 20160101ALI20230824BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P6/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025056
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】青木 政人
(72)【発明者】
【氏名】海津 浩之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴大
【テーマコード(参考)】
5H505
5H560
【Fターム(参考)】
5H505AA04
5H505BB09
5H505CC01
5H505DD03
5H505DD06
5H505EE49
5H505EE55
5H505GG02
5H505JJ03
5H505JJ12
5H505JJ16
5H505JJ17
5H505KK06
5H505LL10
5H505LL41
5H560AA01
5H560BB04
5H560DA02
5H560DB02
5H560EB01
5H560EC01
5H560RR06
5H560TT01
5H560TT02
5H560TT11
5H560TT15
5H560XA04
5H560XA12
(57)【要約】
【課題】より確実にモータの回転速度を目標回転速度に近づける。
【解決手段】モータ駆動制御装置2は、モータ3の駆動を制御するための駆動制御信号Sdに基づいて、直流電圧VDDをスイッチングして変換した交流電圧をモータ3のコイルに印加する駆動回路6と、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに一致し、且つ前記コイルに正弦波状の電流が流れるように駆動制御信号SdとしてのPWM信号を生成するPWM制御を行う制御回路5と、を備え、制御回路5は、回転速度Srが目標回転速度Stgに到達していない場合に、直流電圧VDDに対する交流電圧の指令値の割合を示す変調度を上昇させて、PWM信号を生成することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの駆動を制御するための駆動制御信号に基づいて、直流電圧をスイッチングして変換した交流電圧を前記モータのコイルに印加する駆動回路と、
前記モータの回転速度が目標回転速度に一致し、且つ前記コイルに正弦波状の電流が流れるように前記駆動制御信号としてのPWM信号を生成するPWM制御を行う制御回路と、を備え、
前記制御回路は、前記回転速度が前記目標回転速度に到達していない場合に、前記直流電圧に対する前記交流電圧の指令値の割合を示す変調度を上昇させて、前記PWM信号を生成する
モータ駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、
前記制御回路は、前記PWM制御において前記回転速度の前記目標回転速度に対する偏差をゼロにするための操作量を表す変調倍率を算出し、
前記制御回路は、前記変調倍率が最大値であり、且つ前記回転速度が前記目標回転速度に到達していない場合に、前記変調度を基準値から段階的に上昇させる
モータ駆動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ駆動制御装置において、
前記制御回路は、前記変調度を前記基準値より高い値に設定した後に、前記変調倍率が前記最大値より小さい場合に、前記変調度を前記基準値まで段階的に低下させる
モータ駆動制御装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載のモータ駆動制御装置において、
前記制御回路は、
前記モータの電気角を算出する電気角算出部と、
前記変調度に応じて前記電気角毎の前記PWM信号のデューティ比を定めた変調波形テーブルを含み、前記変調波形テーブルに基づいて決定される前記電気角に対応する前記デューティ比を前記変調倍率に応じて調整し、調整されたデューティ比を有する前記PWM信号を生成するPWM信号生成部と、を有し、
前記PWM信号生成部は、前記変調度を変更するとき、変更後の前記変調度に応じた前記変調波形テーブルを用いて前記PWM信号を生成する
モータ駆動制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のモータ駆動制御装置において、
前記PWM信号生成部は、
前記偏差を算出する偏差算出部と、
前記偏差に基づいて前記変調倍率を算出する変調倍率算出部と、
前記変調度が前記基準値であるときの前記変調波形テーブルである基本変調波形テーブルと、前記基本変調波形テーブルに対する、前記変調度が前記基準値と異なる値であるときの前記変調波形テーブルの差分の情報とを記憶する記憶部と、
前記変調波形テーブルにおける前記電気角毎の前記PWM信号のデューティ比を前記変調倍率に基づいて調整し、調整後の前記デューティ比を有する前記PWM信号を生成する信号生成部と、を有し、
前記信号生成部は、前記変調度を前記基準値と異なる値に変更するとき、前記記憶部に記憶されている、前記変調度が前記基準値であるときの前記変調波形テーブルと前記差分の情報とに基づいて、前記変調度が前記基準値と異なる値であるときの前記変調波形テーブルを生成する
モータ駆動制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載のモータ駆動制御装置において、
前記PWM信号生成部は、
前記偏差を算出する偏差算出部と、
前記偏差に基づいて前記変調倍率を算出する変調倍率算出部と、
前記変調度が互いに異なる複数の前記変調波形テーブルを記憶する記憶部と、
前記変調波形テーブルにおける前記電気角毎の前記PWM信号のデューティ比を前記変調倍率に基づいて調整し、調整後の前記デューティ比を有する前記PWM信号を生成する信号生成部と、を有し、
前記信号生成部は、前記変調度を変更するとき、前記記憶部に記憶されている複数の前記変調波形テーブルのうち、変更後の前記変調度に対応する前記変調波形テーブルを選択して前記PWM信号を生成する
モータ駆動制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載のモータ駆動制御装置と、
前記モータと、を備える
モータユニット。
【請求項8】
モータの回転速度が目標回転速度に一致し、且つ前記モータのコイルに正弦波状の電流が流れるようにPWM信号を生成するPWM制御を行う第1ステップと、
前記第1ステップにおいて生成された前記PWM信号に基づいて、直流電圧をスイッチングして変換した交流電圧を前記コイルに印加する第2ステップと、を含み、
前記第1ステップは、
前記回転速度が前記目標回転速度に到達していない場合に、前記直流電圧に対する前記交流電圧の指令値の割合を示す変調度を段階的に上昇させて、前記PWM信号を生成するステップを含む
モータ駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動制御装置、モータユニット、およびモータ駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの駆動制御方式として、モータのコイルに正弦波状の電流が流れるように、モータの回転速度に応じてPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成し、モータを駆動するPWM制御方式が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-5349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のPWM制御方式では、モータの操作量が最大になるように、最適な進角値でPWM信号を生成したとしても、例えば、モータの負荷の大きさ等によっては、モータの回転速度が目標回転速度に到達しない場合がある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解消するためのものであり、より確実にモータの回転速度を目標回転速度に近づけることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置は、モータの駆動を制御するための駆動制御信号に基づいて、直流電圧をスイッチングして変換した交流電圧を前記モータのコイルに印加する駆動回路と、前記モータの回転速度が目標回転速度に一致し、且つ前記コイルに正弦波状の電流が流れるように前記駆動制御信号としてのPWM信号を生成するPWM制御を行う制御回路と、を備え、前記制御回路は、前記回転速度が前記目標回転速度に到達していない場合に、前記直流電圧に対する前記交流電圧の指令値の割合を示す変調度を上昇させて、前記PWM信号を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、より確実にモータの回転速度を目標回転速度に近づけることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係るモータ駆動制御装置を備えたモータユニットの構成を示す図である。
図2】実施の形態に係るモータ駆動制御装置によって駆動されたモータのコイルに流れる電流の一例を示す図である。
図3】変調度が基準値(100%)である変調波形テーブルの一例を示す図である。
図4A】変調度が基準値(100%)より大きい値(105%)に設定された場合の変調波形テーブルの一例を示す図である。
図4B】変調度が基準値(100%)より大きい値(110%)に設定された場合の変調波形テーブルの一例を示す図である。
図4C】変調度が基準値(100%)より大きい値(115%)に設定された場合の変調波形テーブルの一例を示す図である。
図4D】変調度が基準値(100%)より大きい値(120%)に設定された場合の変調波形テーブルの一例を示す図である。
図5】PWM信号の生成に係る処理の流れの一例を示す図である。
図6】実施の形態に係るモータ駆動制御装置によってPWM制御の変調度を変化させたときのモータ3の回転速度の変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0010】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置(2)は、モータ(3)の駆動を制御するための駆動制御信号(Sd)に基づいて、直流電圧(VDD)をスイッチングして変換した交流電圧を前記モータのコイルに印加する駆動回路(6)と、前記モータの回転速度(Sr)が目標回転速度(Stg)に一致し、且つ前記コイルに正弦波状の電流が流れるように前記駆動制御信号としてのPWM信号を生成するPWM制御を行う制御回路(5)と、を備え、前記制御回路は、前記回転速度が前記目標回転速度に到達していない場合に、前記直流電圧に対する前記交流電圧の指令値の割合を示す変調度を上昇させて、前記PWM信号を生成することを特徴とする。
【0011】
〔2〕上記〔1〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記制御回路は、前記PWM制御において前記回転速度の前記目標回転速度に対する偏差(Sdf)をゼロにするための操作量を表す変調倍率(Sm)を算出し、前記制御回路は、前記変調倍率が最大値(例えば、100%)であり、且つ前記回転速度が前記目標回転速度に到達していない場合に、前記変調度を基準値から段階的に上昇させてもよい。
【0012】
〔3〕上記〔2〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記制御回路は、前記変調度を前記基準値より高い値(例えば、105%~120%)に設定した後に、前記変調倍率が前記最大値より小さい場合に、前記変調度を前記基準値まで段階的に低下させてもよい。
【0013】
〔4〕上記〔2〕または〔3〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記制御回路は、前記モータの電気角(Sφ)を算出する電気角算出部(12)と、前記変調度に応じて前記電気角毎の前記PWM信号のデューティ比を定めた変調波形テーブル(170~171)を含み、前記変調波形テーブルに基づいて決定される前記電気角に対応する前記デューティ比を前記変調倍率に応じて調整し、調整されたデューティ比を有する前記PWM信号を生成するPWM信号生成部(13)と、を有し、前記PWM信号生成部は、前記変調度を変更するとき、変更後の前記変調度に応じた前記変調波形テーブル(171~174)を用いて前記PWM信号を生成してもよい。
【0014】
〔5〕上記〔4〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記PWM信号生成部は、前記偏差を算出する偏差算出部(14)と、前記偏差に基づいて前記変調倍率を算出する変調倍率算出部(15)と、前記変調度が前記基準値であるときの前記変調波形テーブルである基本変調波形テーブル(170)と、前記基本変調波形テーブルに対する、前記変調度が前記基準値と異なる値であるときの前記変調波形テーブルの差分の情報(171A~174A)と、を記憶する記憶部(17)と、前記変調波形テーブルにおける前記電気角毎の前記PWM信号のデューティ比を前記変調倍率に基づいて調整し、調整後の前記デューティ比を有する前記PWM信号を生成する信号生成部(16)と、を有し、前記信号生成部は、前記変調度を前記基準値と異なる値に変更するとき、前記記憶部に記憶されている、前記変調度が前記基準値であるときの前記変調波形テーブルと前記差分の情報とに基づいて、前記変調度が前記基準値と異なる値であるときの前記変調波形テーブル(171~174)を生成してもよい。
【0015】
〔6〕上記〔4〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記PWM信号生成部は、前記偏差を算出する偏差算出部(14)と、前記偏差に基づいて前記変調倍率を算出する変調倍率算出部(15)と、前記変調度が互いに異なる複数の前記変調波形テーブル(171~174)を記憶する記憶部(17)と、前記変調波形テーブルにおける前記電気角毎の前記PWM信号のデューティ比を前記変調倍率に基づいて調整し、調整後の前記デューティ比を有する前記PWM信号を生成する信号生成部(16)と、を有し、前記信号生成部は、前記変調度を変更するとき、前記記憶部に記憶されている複数の前記変調波形テーブル(171~174)のうち、変更後の前記変調度に対応する前記変調波形テーブルを選択して前記PWM信号を生成してもよい。
【0016】
〔7〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータユニット(1)は、上記〔1〕乃至〔6〕の何れかに記載のモータ駆動制御装置(2)と、前記モータ(3)と、を備えることを特徴とする。
【0017】
〔8〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御方法は、モータの回転速度が目標回転速度に一致し、且つ前記モータのコイルに正弦波状の電流が流れるようにPWM信号を生成するPWM制御を行う第1ステップ(S1~S8)と、前記第1ステップにおいて生成された前記PWM信号に基づいて、直流電圧をスイッチングして変換した交流電圧を前記コイルに印加する第2ステップと、を含み、前記第1ステップは、前記回転速度が前記目標回転速度に到達していない場合に、前記直流電圧に対する前記交流電圧の指令値の割合を示す変調度を上昇させて、前記PWM信号を生成するステップ(S1~S4,S7,S8)を含むことを特徴とする。
【0018】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0019】
≪実施の形態1≫
図1は、実施の形態に係るモータ駆動制御装置を備えたモータユニットの構成を示す図である。
【0020】
図1に示されるモータユニット1は、モータ3と、位置検出器4と、モータ駆動制御装置2とを備えている。
【0021】
モータ3は、少なくとも1つのコイルを有するモータである。例えば、モータ3は、3相(U相、V相、およびW相)のコイル(巻線)を有するブラシレスDCモータである。モータ3は、例えば、モータ3の出力軸にインペラ(不図示)が連結されることにより、一つのファンモータとして機能する。
【0022】
位置検出器4は、モータ3の回転子(ロータ)の回転に応じた位置検出信号Shを生成する装置である。位置検出器4は、例えば、ホール(HALL)素子を含む。本実施の形態に係るモータユニット1において、モータ3のU相、V相、およびW相の各コイルに対応する位置にホール素子がそれぞれ設けられている。ホール素子は、ロータの磁極を検出し、ロータの回転に応じて電圧が変化するホール信号を出力する。位置検出器4から出力されるホール信号は、例えば、パルス信号であり、位置検出信号Shとしてモータ駆動制御装置2に入力される。
【0023】
モータ駆動制御装置2は、モータ3の駆動を制御する装置である。モータ駆動制御装置2は、例えば、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに一致し、且つモータ3のコイルに正弦波状の電流が流れるようにPWM信号を生成するPWM制御を行うことにより、モータ3を駆動する。
【0024】
モータ駆動制御装置2は、制御回路5と駆動回路6とを備えている。モータ駆動制御装置2は、外部の直流電源(不図示)から直流電圧の供給を受ける。直流電圧は、例えば、保護回路等を介してモータ駆動制御装置2内の電源ライン(不図示)に供給され、電源ラインを介して制御回路5と駆動回路6に電源電圧としてそれぞれ入力される。以下、駆動回路6に供給される電源電圧を「直流電圧VDD」とも称する。
【0025】
駆動回路6は、制御回路5から出力される駆動制御信号Sdに基づいて、モータ3を駆動する回路である。駆動制御信号Sdは、モータ3の駆動を制御するための信号であって、例えば、PWM信号である。
【0026】
駆動回路6は、例えば、スイッチ素子としてのトランジスタを複数有するインバータ回路を有する。駆動回路6は、駆動制御信号SdとしてのPWM信号に応じて、直流電圧VDDとグラウンド電位との間でモータ3の各相のコイルの接続先を切り替える。具体的には、駆動回路6は、駆動制御信号SdとしてのPWM信号に基づいて、直流電圧VDDをスイッチングして変換した交流電圧をモータ3の各相のコイルに印加する。
【0027】
なお、駆動回路6は、上述したインバータ回路を構成する各トランジスタを駆動制御信号Sdに基づいて駆動するためのプリドライブ回路を有していてもよい。また、上記インバータ回路には、モータのコイルの電流を検出するためのセンス抵抗が接続されていてもよい。
【0028】
制御回路5は、モータ駆動制御装置2の動作を統括的に制御するための回路である。本実施の形態において、制御回路5は、例えば、CPU等のプロセッサと、RAM,ROM、およびフラッシュメモリ等の各種記憶装置と、カウンタ(タイマ)、A/D変換回路、D/A変換回路、クロック発生回路、および入出力インターフェース回路等の周辺回路とが、バスや専用線を介して互いに接続された構成を有するプログラム処理装置である。例えば、制御回路5は、マイクロコントローラ(MCU:Micro Controller Unit)である。
【0029】
なお、制御回路5と駆動回路6とは、一つの半導体集積回路(IC:Integrated Circuit)としてパッケージ化された構成であってもよいし、個別の集積回路として夫々パッケージ化されて回路基板に実装され、回路基板上で互いに電気的に接続された構成であってもよい。
【0030】
制御回路5は、PWM制御を行う。すなわち、制御回路5は、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに一致し、且つモータ3のコイルに正弦波状の電流が流れるようにデューティ比を決定したPWM信号を生成し、駆動制御信号Sdとして出力する。例えば、制御回路5は、モータ3のU相、V相、W相の各コイルに、位相が互いに120度ずれた正弦波状の電流が流れるようにPWM信号を生成し、駆動制御信号Sdとして駆動回路6に与える。
【0031】
図2は、実施の形態に係るモータ駆動制御装置2によって駆動されたモータ3のコイルに流れる電流の一例を示す図である。
【0032】
図2には、モータ3のU相、V相、W相のうちU相に関連する電圧および電流が代表的に示されている。すなわち、図2の上側から下側に向かって、位置検出信号(ホール信号)Shの波形、U相のインバータ回路(駆動回路6)のハイサイドのスイッチを駆動するためのPWM信号の波形、U相のインバータ回路(駆動回路6)のローサイドのスイッチを駆動するためのPWM信号の波形、U相のコイル(巻線)の電流の波形が示されている。
【0033】
図2に示すように、制御回路5は、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに一致し、且つコイルに正弦波状の電流が発生するように、パルス幅変調した信号(PWM信号)を生成し、駆動回路6(インバータ回路)を構成する各スイッチを駆動する。これにより、直流電圧VDDをスイッチングして変換した交流電圧がモータ3の各相のコイルに印加される。このとき、コイルの平均電圧は等価的に正弦波状の交流電圧となり、図2に示すように、コイルには正弦波状の電流が流れる。
【0034】
一般に、モータのPWM制御において、キャリアの振幅に対する生成すべき交流電圧の振幅の割合を“変調度(変調率)”と称する。本実施の形態では、直流電圧VDDに対する交流電圧の指令値の割合を変調度と定義する。
【0035】
制御回路5は、PWM制御において、設定された変調度に応じた等価的な交流電圧(平均電圧)がモータ3のコイルに印加されるように、回転速度Srの目標回転速度Stgに対する偏差Sdfと電気角Sφとに応じてPWM信号のパルス幅(デューティ比)を決定する。また、制御回路5は、上述したPWM制御の機能に加えて、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに到達していない場合に、変調度を上昇させる機能を有している。
【0036】
具体的には、制御回路5は、PWM制御において回転速度Srの目標回転速度Stgに対する偏差Sdfをゼロにするための操作量を表す変調倍率Smを算出し、変調倍率Smが最大値であり、且つ回転速度Srが目標回転速度Stgに到達していない場合に、変調度を基準値から段階的に上昇させる。また、制御回路5は、変調倍率Smが最大値より小さい場合に、変調度を基準値まで段階的に低下させてもよい。以下、上述した機能を実現するための制御回路5の具体的な構成例について詳細に説明する。
【0037】
例えば、図1に示すように、制御回路5は、駆動指令解析部10、回転速度算出部11、電気角算出部12、およびPWM信号生成部13を有する。
【0038】
制御回路5を構成する上述の各機能部は、例えば、制御回路5としてのMCUのプログラム処理によって実現される。具体的には、制御回路5としてのMCUを構成するプロセッサが、メモリに格納されたプログラムにしたがって各種の演算を行って、MCUを構成する各周辺回路を制御することにより、駆動指令解析部10、回転速度算出部11、電気角算出部12、およびPWM信号生成部13が実現される。
【0039】
駆動指令解析部10は、例えば、モータ駆動制御装置2の外部に設けられた上位装置(不図示)から出力された駆動指令信号Scを受信する。駆動指令信号Scは、モータ3の駆動に関する目標値を指示する信号であって、例えば、モータ3の目標回転速度Stgを指示する速度指令信号である。
【0040】
駆動指令解析部10は、駆動指令信号Scを解析することにより、指定された目標回転速度Stgの情報を取得する。例えば、駆動指令信号Scが目標回転速度Stgに対応するデューティ比を有するPWM信号である場合、駆動指令解析部10は、駆動指令信号Scのデューティ比を解析し、そのデューティ比に対応する回転速度の情報を目標回転速度Stgとして出力する。
【0041】
回転速度算出部11は、モータ3の実際の回転速度Srを算出する機能部である。回転速度算出部11は、例えば、公知の演算手法により、位置検出器4から出力された位置検出信号Sh(例えば、ホール信号)に基づいてモータ3の回転速度Srを算出し、出力する。
【0042】
電気角算出部12は、モータ3のロータの位置(回転角度)に対応する電気角Sφを算出する機能部である。電気角算出部12は、例えば、公知の演算手法により、位置検出器4から出力された位置検出信号Sh(例えば、ホール信号)に基づいてロータの電気角Sφを算出する。
【0043】
PWM信号生成部13は、駆動指令解析部10によって解析された目標回転速度Stgと、回転速度算出部11によって算出された回転速度Srと、電気角算出部12によって算出された電気角Sφとに基づいて、駆動制御信号SdとしてのPWM信号を生成する機能部である。
【0044】
ここで、PWM信号生成部13によるPWM信号の生成方法の概要について説明する。
PWM信号生成部13は、例えば、変調波形テーブルを有し、変調波形テーブルに基づいて算出される電気角Sφに対応するデューティ比を、変調倍率Smに応じて調整し、調整されたデューティ比を有するPWM信号を出力する。
【0045】
ここで、変調倍率Smとは、上述したように、回転速度Srの目標回転速度Stgに対する偏差Sdfをゼロにするための操作量を示す情報である。具体的には、変調倍率Smは、偏差SdfがゼロになるようにPID(Proportional-Integral-Differential)制御演算を行うことにより、算出することができる。変調倍率Smは、例えば、0%以上100%以下の範囲の値である。
【0046】
また、変調波形テーブルとは、変調度に応じて電気角Sφ毎のPWM信号のデューティ比を定めたデータである。換言すれば、変調波形テーブルは、設定された変調度に応じた等価的な交流電圧(平均電圧)をコイルに印加するために必要なPWM信号のデューティ比をモータ3(ロータ)の電気角Sφ毎に定めた情報である。
【0047】
図3は、変調度が基準値(100%)である変調波形テーブルの一例を示す図である。
図3において、横軸が電気角Sφを表し、縦軸がPWM信号のデューティ比を表している。参照符号(以下、「変調波形テーブル」と呼ぶ)170の変調波形は、変調倍率Smを100%に設定した場合に、変調度100%の等価的な交流電圧(平均電圧)をコイルに印加するために必要な、モータ3の電気角Sφ毎のPWM信号のデューティ比を定めた変調波形(基本変調波形)を表している。変調波形テーブル170の変調波形は、例えば、所謂中間電圧1/2重畳法によって、モータ3の各相のコイルに印加すべき交流電圧(相電圧)に交流電圧の中間の電圧をコモンモード電圧として加算し、各相の変調度を計算することによって算出することができる。以下の説明では、変調度が基準値(100%)であり、且つ変調倍率Smが100%であるときの変調波形テーブル170を「基本変調波形テーブル170」とも称する。
【0048】
PWM信号生成部13は、図3に示す波形の情報を含む基本変調波形テーブル170を予め内部の記憶領域に記憶しておき、基本変調波形テーブル170を用いて、回転速度の偏差Sdfに基づいて算出した変調倍率Smと電気角算出部12によって算出された電気角Sφとに基づいて、生成すべきPWM信号のデューティ比を決定する。
【0049】
例えば、回転速度の偏差Sdfに基づいて算出した変調倍率Smが100%であった場合、PWM信号生成部13は、電気角算出部12によって算出された電気角Sφに対応するデューティ比を図3の基本変調波形テーブル170から読み出し、読み出したデューティ比のPWM信号を出力する。
【0050】
また、例えば、回転速度の偏差Sdfに基づいて算出された変調倍率Smが75%であった場合、PWM信号生成部13は、電気角Sφに対応するデューティ比を図3に示す基本変調波形テーブル170から読み出し、読み出したデューティ比を変調倍率Sm(75%)によって調整し、調整後のデューティ比を生成すべきPWM信号のデューティ比とする。例えば、PWM信号生成部13は、基本変調波形テーブル170から読み出したデューティ比に0.75(75%)を乗じた値を、生成すべきPWM信号のデューティ比とする。
このようにして、PWM信号生成部13は、基本変調波形テーブル170と、電気角Sφと、変調倍率Smとに基づいて、PWM信号のデューティ比を決定する。
【0051】
次に、モータ駆動制御装置2による、PWM制御における変調度の変更方法について説明する。
【0052】
一般に、モータのPWM制御において、モータの回転速度Srを上昇させるためには、モータのコイルに印加する等価的な交流電圧の実効値を大きくして、コイルの電流の実効値を大きくする必要がある。コイルに印加する等価的な交流電圧の実効値の最大値は、変調度によって決まる。
【0053】
しかしながら、上述したように、モータの負荷等によっては、PWM制御における変調度を100%に設定している場合において、モータの操作量(変調倍率Sm)が最大になるように最適な進角値でPWM信号を生成したとしても、モータの回転速度Srが目標回転速度Stgに到達しない場合がある。
【0054】
そこで、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置2は、モータの回転速度Srが目標回転速度Stgに到達しない場合に、PWM制御における変調度を基準値(例えば、100%)よりも高くすることにより、コイルに印加する等価的な交流電圧の実効値の最大値を上昇させて、モータ3の回転速度Srを上昇させる。
【0055】
具体的には、PWM信号生成部13は、回転速度Srが目標回転速度Stgに到達していない場合に、変調度が基準値よりも高くなるようにデューティ比を調整した変調波形テーブルを用いて、PWM信号を生成する。以下、詳細に説明する。
【0056】
なお、本実施の形態では、一例として、PWM制御における変調度の基準値が“100%”、変調度の最大値が120%であるとして説明するが、これに特に限定されるものではない。
【0057】
図4A乃至図4Dは、変調度が基準値(100%)より大きい値に設定された場合の変調波形テーブルの一例を示す図である。具体的には、図4Aは変調度が基準値(100%)より大きい値(105%)に設定された場合の変調波形テーブルの一例,図4Bは変調度が基準値(100%)より大きい値(110%)に設定された場合の変調波形テーブルの一例,図4Cは変調度が基準値(100%)より大きい値(115%)に設定された場合の変調波形テーブルの一例,図4Dは変調度が基準値(100%)より大きい値(120%)に設定された場合の変調波形テーブルの一例を示している。
【0058】
図4A乃至図4Dにおいて、横軸は電気角Sφを表し、縦軸はPWM信号のデューティ比を表している。図4Aには、変調度が105%になるように電気角Sφ毎のデューティ比が調整された変調波形テーブル171(変調倍率Sm=100%)が示されている。図4Bには、変調度が110%になるように電気角Sφ毎のデューティ比が調整された変調波形テーブル172(変調倍率Sm=100%)が示されている。図4Cには、変調度が115%になるように電気角Sφ毎のデューティ比が調整された変調波形テーブル173(変調倍率Sm=100%)が示されている。図4Dには、変調度が120%になるように電気角Sφ毎のデューティ比が調整された変調波形テーブル174(変調倍率Sm=100%)が示されている。
【0059】
PWM信号生成部13は、変調度を変更するとき、変更後の変調度に応じた変調波形テーブルを用いてPWM信号を生成する。例えば、PWM信号生成部13は、変調度を基準値(100%)から最大値(例えば、120%)まで、所定量α(例えば、α=5%)毎に上昇させる。
【0060】
例えば、変調度が基準値(100%)であるときに、変調倍率Smが最大値(100%)であり、且つ回転速度Srが目標回転速度Stgに到達していない場合、PWM信号生成部13は、変調度を基準値から105%に変更し、使用する変調波形テーブルを、例えば、図3に示す基本変調波形テーブル170から図4Aに示す変調波形テーブル171に変更する。
【0061】
次に、PWM信号生成部13は、電気角算出部12によって算出された電気角Sφに対応するデューティ比を変調波形テーブル171から読み出し、上述した手法により、読み出したデューティ比を変調倍率Sm(0%~100%)に応じて調整し、調整したデューティ比のPWM信号を出力する。これにより、変調度が100%の場合に比べて、理論上、実効値が1.05倍(105%)の等価的な交流電圧がモータ3のコイルに印加されることになり、モータ3の回転速度Srを更に上昇させることができる。
【0062】
なお、コイルに印加される電圧の最大値は直流電圧VDDに制限されるため、実際にコイルに印加される等価的な交流電圧の振幅が直流電圧VDDの105%になることはない。すなわち、変調度を100%以上に設定した場合、変調度100%のときの正弦波状の電圧に対して歪んだ交流電圧がコイルに印加されることになる。
【0063】
変調度を105%にした後、変調倍率Smが最大値(100%)であり、且つ回転速度Srが目標回転速度Stgに到達していない場合、PWM信号生成部13は、変調度を更に上昇させる。すなわち、PWM信号生成部13は、変調度を105%から110%に変更し、例えば、図4Bに示す変調波形テーブル172を用いて、PWM信号を生成する。この場合のPWM信号の生成方法は、変調度105%の場合と同様である。
【0064】
このように、PWM信号生成部13は、変調倍率Smが最大値であり、且つ回転速度Srが目標回転速度Stgに到達していない場合に、変調度を段階的に上昇させる。これにより、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに到達するように、回転速度Srを段階的に上昇させることが可能となる。
【0065】
一方、100%を超える変調度でPWM信号を生成した場合、モータ3が振動し易くなる傾向がある。そこで、PWM信号生成部13は、変調倍率Smが最大値(100%)より小さい場合に、変調度を基準値まで段階的に低下させてもよい。
【0066】
例えば、PWM信号生成部13は、変調度を切り替えるための変調倍率Smの閾値Sthを設定し、変調倍率Smが閾値Sth以下となった場合に、変調度を基準値である100%まで段階的に低下させてもよい。例えば、PWM信号生成部13は、変調度を基準値(100%)まで、所定量β(例えば、5%)毎に低下させる。
変調倍率Smの閾値Sthは、任意の値に設定可能であるが、本実施の形態では、一例として、閾値Sth=95%とする。
【0067】
具体的には、変調度を120%としてPWM信号を生成している状態において、例えば、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに近づくことにより変調倍率Smが90%まで低下した場合、PWM信号生成部13は、変調倍率Sm(=90%)が閾値Sth(=95%)以下であることを検出し、変調度を120%から115%に変更する。すなわち、PWM信号生成部13は、変調度が120%に設定された変調波形テーブル174から変調度が115%に設定された変調波形テーブル173に変更して、PWM信号を生成する。
【0068】
変調度を115%に低下させた後に、例えば、変調倍率Smが93%まで低下した場合、PWM信号生成部13は、変調倍率Sm(=93%)が閾値Sth(=95%)以下であることを検出し、変調度を115%から110%に低下させる。すなわち、PWM信号生成部13は、変調度が115%の変調波形テーブル173から変調度が110%の変調波形テーブル172に変更して、PWM信号を生成する。
【0069】
このように、PWM信号生成部13は、変調倍率Smが最大値よりも低下した場合に、変調度を段階的に低下させる。これにより、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに到達した後に、モータ3の振動を抑えることが可能となる。
【0070】
次に、上述したPWM信号の生成機能および変調度の調整機能を実現するためのPWM信号生成部13の具体的な構成例について説明する。
【0071】
図1に示すように、PWM信号生成部13は、例えば、偏差算出部14、変調倍率算出部15、信号生成部16、および記憶部17を有する。
【0072】
偏差算出部14は、モータ3の回転速度Srの目標回転速度Stgに対する偏差(速度偏差)Sdfを算出する機能部である。偏差算出部14は、例えば、駆動指令解析部10から出力された目標回転速度Stgから、回転速度算出部11によって算出された回転速度Srを減算することにより、偏差Sdf(=Stg-Sr)を算出する。
【0073】
変調倍率算出部15は、変調倍率Smを算出する機能部である。変調倍率算出部15は、例えば、上述したように、偏差算出部14によって算出された偏差SdfがゼロになるようにPID制御演算を行うことにより、変調倍率Smを算出する。
【0074】
記憶部17は、PWM信号の生成機能および変調度の調整機能を実現するために必要な各種データや計算結果等を記憶するための機能部である。例えば、記憶部17には、変調度が基準値(100%)となる基本変調波形テーブル170が予め記憶されている。
【0075】
また、記憶部17には、変調度が基準値と異なる値であるときの変調波形テーブルに関するデータも記憶されている。変調度が基準値と異なる値であるときの変調波形テーブルに関するデータとは、例えば、基本変調波形テーブル170と変調度が基準値と異なる値(105%~120%)であるときの変調波形テーブル171~174との差分の情報(以下、「テーブル差分情報」とも称する。)である。すなわち、テーブル差分情報は、変調度が基準値(100%)であるときの基本変調波形テーブル170における電気角Sφ毎のデューティ比と変調度が基準値と異なる値(105%~120%)であるときの変調波形テーブル171~174における電気角Sφ毎のデューティ比の差分の情報である。
【0076】
本実施の形態では、例えば、上述したように、変調度が基準値(100%)よりも大きい4つの変調度に対応したテーブル差分情報171A~174Aが記憶部17に記憶されているものとする。
【0077】
例えば、テーブル差分情報171Aは、基本変調波形テーブル170と変調度が105%であるときの変調波形テーブル171とのデューティ比の電気角Sφ毎の差分を含むデータである。テーブル差分情報172Aは、基本変調波形テーブル170と変調度が110%であるときの変調波形テーブル172とのデューティ比の電気角Sφ毎の差分を含むデータである。テーブル差分情報173Aは、基本変調波形テーブル170と変調度が115%であるときの変調波形テーブル173とのデューティ比の電気角Sφ毎の差分を含むデータである。テーブル差分情報174Aは、基本変調波形テーブル170と変調度が120%であるときの変調波形テーブル174とのデューティ比の電気角Sφ毎の差分を含むデータである。
【0078】
また、記憶部17には、上述した変調倍率Smの閾値Sth等も記憶されている。
【0079】
信号生成部16は、変調倍率算出部15によって算出された変調倍率Smと、記憶部17に記憶されている情報とに基づいて、PWM信号を生成する機能部である。信号生成部16は、例えば、変調波形テーブル決定部18と信号出力部19とを有する。
【0080】
変調波形テーブル決定部18は、モータ3の駆動状態に応じて、PWM信号を生成するために用いる変調波形テーブルを決定する。変調波形テーブル決定部18は、例えば、モータ3の起動時等には、初期条件として設定されている基本変調波形テーブル170を選択する。
【0081】
変調倍率Smが最大値(100%)であり、且つ回転速度Srが目標回転速度Stgに到達していない(偏差Sdf>0)場合、変調波形テーブル決定部18は、変調度が基準値(100%)から段階的に上昇するように、変調波形テーブルを変更する。一方、変調波形テーブル決定部18は、変調倍率算出部15によって算出された変調倍率Smが閾値Sth(例えば、95%)以下となった場合に、変調度が基準値(100%)まで段階的に低下するように、変調波形テーブルを変更する。
【0082】
変調波形テーブル決定部18は、変調度を基準値と異なる値に変更するとき、記憶部17に記憶されている、基本変調波形テーブル170とテーブル差分情報171A~174Aとに基づいて、変更後の変調度に対応する変調波形テーブル171~174を生成する。
【0083】
具体的には、テーブル差分情報171A~174Aのうち変更後の変調度に対応するテーブル差分情報における電気角Sφ毎のデューティ比の差分を基本変調波形テーブル170における電気角Sφ毎のデューティ比に加算することにより、変更後の変調度に対応する変調波形テーブルを生成する。
【0084】
例えば、変調度を100%から105%に変更するとき、変調波形テーブル決定部18は、変調度が105%のテーブル差分情報171Aに記憶されている電気角Sφ毎のデューティ比の差分を基本変調波形テーブル170における電気角Sφ毎のデューティ比に加算することにより、変調度が105%の変調波形テーブル171を生成し、記憶部17に記憶する。
【0085】
信号出力部19は、変調波形テーブル決定部18によって決定された変調波形テーブルと、電気角Sφと、変調倍率Smとに基づいてPWM信号を生成する。具体的には、信号出力部19は、変調波形テーブル決定部18によって決定され、記憶部17に記憶された変調波形テーブルを参照し、変調波形テーブルにおける電気角Sφに対応するデューティ比を変調倍率Smに基づいて調整し、調整後のデューティ比を有するPWM信号を生成する。
【0086】
例えば、変調度が100%、変調倍率Smが75%であり、電気角Sφが60度である場合には、信号出力部19は、基本変調波形テーブル170から電気角Sφ=60度に対応するPWM信号のデューティ比を読み出し、読み出したデューティ比に変調倍率Sm(=0.75)を乗算した値を、生成すべきPWM信号のデューティ比として決定し、決定したデューティ比のPWM信号を駆動制御信号Sdとして出力する。
【0087】
変調度が105%~120%の何れかに変更された場合も同様の手法により、信号生成部16は、PWM信号を生成する。例えば、変調度が110%、変調倍率Smが98%、電気角Sφが90度である場合には、変調度110%の変調波形テーブル172から電気角Sφ=90度に対応するPWM信号のデューティ比を読み出し、読み出したデューティ比に変調倍率Sm(=0.98)を乗算した値を、生成すべきPWM信号のデューティ比として決定し、決定したデューティ比のPWM信号を駆動制御信号Sdとして出力する。
【0088】
また、上記説明では、変調波形テーブル170~174から読み出した電気角Sφ毎のデューティ比に変調倍率Smを乗算することにより、生成すべきPWM信号のデューティ比を決定する場合を例示したが、変調倍率Smに基づくデューティ比の決定方法は、これに限定されない。
【0089】
例えば、信号生成部16は、変調倍率Smに基づいて変調波形テーブル170~174を補正し、補正した変調波形テーブルにしたがって、生成すべきPWM信号のデューティ比を決定してもよい。
【0090】
具体的には、先ず、変調波形テーブル決定部18が、変調波形テーブル170~174に記憶されている電気角Sφ毎のデューティ比に変調倍率Smを乗算することによって、デューティ比を補正した新たな変調波形テーブル170X~174Xを生成する。例えば、変調度が120%、変調倍率Smが96%である場合には、変調波形テーブル決定部18は、基本変調波形テーブル170と変調度が120%のテーブル差分情報174Aとに基づいて、上述した手法により、変調度が120%の変調波形テーブル174を生成する。変調波形テーブル決定部18は、変調波形テーブル174に記憶されている電気角Sφ毎のデューティ比に変調倍率Sm(0.96)を乗算して、新たな変調波形テーブル174Xを生成する。次に、信号出力部19は、変調波形テーブル決定部18によって決定された変調波形テーブル170X~174Xから電気角Sφに対応するデューティ比を読み出し、読み出したデューティ比のPWM信号を生成する。
【0091】
これによれば、変調波形テーブルから読み出したデューティ比を変調度によって調整する場合と同様に、変調度および変調倍率Smに応じた適切なデューティ比のPWM信号を生成することができる。
【0092】
次に、制御回路5によるPWM信号の生成に係る処理の流れについて説明する。
【0093】
図5は、PWM信号の生成に係る処理の流れの一例を示す図である。
ここでは、変調倍率Smの閾値Sthが95%に設定されているものとする。また、制御回路5の初期状態として、変調度が基準値(100%)に設定されているものとする。
【0094】
先ず、制御回路5の偏差算出部14が、駆動指令解析部10によって解析された目標回転速度Stgに対する、回転速度算出部11によって算出された回転速度Srの偏差Sdf(=Stg-Sr)を算出する(ステップS1)。
【0095】
次に、制御回路5のPWM信号生成部13が、変調倍率Smが最大値であるか否かを判定する(ステップS2)。例えば、先ず、変調倍率算出部15がステップS1において算出された偏差Sdfに基づいて、上述した手法により変調倍率Smを算出する。次に、変調波形テーブル決定部18が、変調倍率算出部15によって算出した変調倍率Smが、予め設定された最大値(例えば、100%)であるか否かを判定する。
【0096】
変調倍率Smが最大値である場合(ステップS2:YES)、変調波形テーブル決定部18は、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに到達したか否かを判定する(ステップS3)。例えば、変調波形テーブル決定部18は、偏差Sdfが所定の範囲内(|Sdf|<r)にあるか否かを判定する。なお、rは予め設定された任意の0以上の値である。
【0097】
偏差Sdfが所定の範囲内である場合、すなわち、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに到達している場合、変調波形テーブル決定部18は、変調波形テーブルを変更せず、信号出力部19は、その時点で設定されている変調度の変調波形テーブル(初期状態の場合、基本変調波形テーブル170)を用いて、上述した手法により、PWM信号を生成する(ステップS8)。
【0098】
一方、偏差Sdfが所定の範囲内でない場合、すなわち、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに到達していない場合、変調波形テーブル決定部18は、変調度を所定量α(例えば、5%)だけ上昇させる(ステップS4)。例えば、変調度が基準値(100%)であるときに、変調倍率Smが100%であり、且つ回転速度Srが目標回転速度Stgに到達していない場合、変調波形テーブル決定部18は、変調度を100%から105%に変更する。
【0099】
次に、変調波形テーブル決定部18は、ステップS4において決定した変調度に基づいて、変調波形テーブルを更新する(ステップS7)。例えば、ステップS4において変調度を100%から105%に上昇させた場合、変調波形テーブル決定部18は、上述した手法により、基本変調波形テーブル170とテーブル差分情報171Aとに基づいて、変調度105%の変調波形テーブル171を生成する。その後、信号出力部19が、ステップS7で生成された変調波形テーブルを用いて、上述した手法により、PWM信号を生成する(ステップS8)。
【0100】
ステップS2において、変調倍率Smが最大値でない場合(ステップS2:NO)、変調波形テーブル決定部18は、変調倍率Smが閾値Sth(95%)以下であるか否かを判定する(ステップS5)。変調倍率Smが閾値Sth以下でない場合(ステップS5:NO)、すなわち変調倍率Smが95%より大きく100%未満である場合、変調波形テーブル決定部18は、変調波形テーブルを変更しない。この場合、信号出力部19は、引き続き、設定されている変調波形テーブル(初期状態の場合、基本変調波形テーブル170)を用いて、上述した手法により、PWM信号を生成する(ステップS8)。
【0101】
一方、変調倍率Smが閾値Sth以下である場合(ステップS5:YES)、すなわち変調倍率Smが95%より小さい場合、変調波形テーブル決定部18は、変調度を所定量β(例えば、5%)だけ低下させる(ステップS6)。例えば、変調度が最大値(120%)まで上昇させた後に、変調倍率Smが閾値Sth(95%)より低下した場合、変調波形テーブル決定部18は、変調度を120%から115%に変更する。
【0102】
次に、変調波形テーブル決定部18は、ステップS6において決定した変調度に基づいて、変調波形テーブルを更新する(ステップS7)。例えば、上述のように、ステップS6において変調度を120%から115%に変更する場合、変調波形テーブル決定部18は、上述した手法により、基本変調波形テーブル170とテーブル差分情報173Aとに基づいて、変調度115%の変調波形テーブル173を生成する。その後、信号出力部19は、ステップS7で生成された変調波形テーブルを用いて、上述した手法により、PWM信号を生成する(ステップS8)。
【0103】
制御回路5は、上述した処理を繰り返し実行することによって、変調波形テーブルの更新とPWM信号の生成を行う。
【0104】
図6は、実施の形態に係るモータ駆動制御装置2においてPWM制御の変調度を変化させたときのモータ3の回転速度Srの変化の一例を示す図である。
【0105】
図6において、横軸は変調度〔%〕を表し、縦軸はモータ3の回転速度Sr〔rpm〕を表し、参照符号180は、変調度に対する回転速度Srの最大値の特性を表している。
【0106】
図6に示すように、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置2において、上述の手法により、PWM制御における変調度を上昇させることにより、回転速度Srを上昇させることができる。
【0107】
以上、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置2において、制御回路5は、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに到達していない場合に、PWM制御における変調度を上昇させてPWM信号としての駆動制御信号Sdを生成し、モータ3の駆動を制御する。
【0108】
これによれば、モータ3の負荷等によってモータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに到達しない場合であっても、PWM制御における変調度を上昇させることにより、より確実に、回転速度Srを目標回転速度Stgに近づけることが可能となる。
【0109】
また、制御回路5は、上述したように、PWM制御において回転速度Srの目標回転速度Stgに対する偏差Sdfをゼロにするための操作量を表す変調倍率Smが最大値(例えば100%)であり、且つ回転速度Srが目標回転速度Stgに到達していない場合に、PWM制御における変調度を基準値(例えば、100%)から段階的に上昇させる。
これによれば、モータ3の回転速度Srが目標回転速度Stgに到達していない状態を的確に検出した上で、より速やかにモータ3の回転速度Srを上昇させて、目標回転速度Stgに近づけることが可能となる。
【0110】
また、制御回路5は、変調度を基準値よりも高い値(例えば、105%~120%)に設定した後に、変調倍率Smが最大値(100%)より小さい場合に、変調度を基準値(100%)まで段階的に低下させてもよい。具体的には、上述したように、変調度を基準値よりも高い値(例えば、105%~120%)に設定した後に、変調倍率Smが閾値Sth(例えば、95%)以下の場合に、制御回路5は、変調度を基準値(100%)まで段階的に低下させる。
【0111】
これによれば、上述したように、モータ3の回転速度Srを目標回転速度Stgに到達した後に、モータ3の振動を抑えることが可能となる。すなわち、モータ3の回転速度Srの応答性を向上させつつ、モータ3の動作の安定性の低下を抑えることが可能となる。
【0112】
また、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置2において、制御回路5のPWM信号生成部13は、変調度に応じて電気角Sφ毎のPWM信号のデューティ比を定めた基本変調波形テーブル170を含み、基本変調波形テーブル170に基づいて決定される電気角Sφに対応するデューティ比を、変調倍率Smに応じて調整し、調整されたデューティ比を有するPWM信号を生成する。
【0113】
これによれば、変調波形テーブルを用いて生成すべきPWM信号のデューティ比を決定するので、ベクトル演算等の複雑な演算が不要となり、制御回路5を構成するプロセッサの演算負荷を抑えることができる。
【0114】
また、変調度を変更するとき、PWM信号生成部13は、変更後の変調度に応じた変調波形テーブルを用いてPWM信号を生成する。これによれば、例えば、上述したように、変調度毎に変調波形テーブルを生成する、または、変調度毎に変調波形テーブルを用意しておくことにより、変調度が変更された場合であっても、複雑な演算を行うことなくPWM信号のデューティ比を容易に決定することができる。
【0115】
また、モータ駆動制御装置2において、制御回路5の記憶部17に、変調度が基準値(100%)であるときの基本変調波形テーブル170と、基本変調波形テーブル170に対する、変更後の変調度に対応する変調波形テーブルの電気角Sφ701毎のデューティ比の差分の情報を含むテーブル差分情報171A~174Aを記憶しておき、信号生成部16が、基本変調波形テーブル170とテーブル差分情報171A~174Aとに基づいて、変更後の変調度に対応する変調波形テーブル171~174を生成する。
【0116】
これによれば、基準値以外の変調度に対応する変調波形テーブル171~174そのものを記憶部17に記憶させておく場合に比べて、記憶部17に予め記憶させておくデータ量を少なくすることができる。これにより、記憶部17を実現するための不揮発性記憶装置の記憶容量を抑えることができ、制御回路5のコストを抑えることが可能となる。
【0117】
なお、上記例では、基本変調波形テーブル170とテーブル差分情報171A~174Aとに基づいて変調波形テーブル171~174を生成する場合を説明したが、これに限られず、記憶部17を実現するための不揮発性記憶装置の記憶容量に余裕がある場合には、テーブル差分情報171A~174Aに代えて、変調度が互いに異なる複数の変調波形テーブル171~174を予め記憶部17に記憶しておいてもよい。
【0118】
この場合、変調波形テーブル決定部18は、変調度を変更するとき、記憶部17に記憶されている複数の変調波形テーブル171~174のうち変更後の変調度に対応する変調波形テーブルを一つ選択する。信号出力部19は、選択された変調波形テーブルを用いてPWM信号を生成する。
これによれば、変調度の変更後の変調波形テーブル171~174を生成するための演算が不要となるので、制御回路5を構成するプロセッサの演算負荷を更に抑えることが可能となる。
【0119】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0120】
例えば、上記実施の形態において、変調度の単位変化量である所定量αと所定量βがともに5%である場合を例示したが、これに限られない。所定量α,βは5%以外の値であってもよいし、αとβが互いに異なる値であってもよい。
【0121】
また、上記実施の形態において、モータ3は、ブラシレスDCモータに限定されない。また、モータ3は、3相に限られず、例えば単相のブラシレスDCモータであってもよい。
【0122】
上記実施の形態において、位置検出器4としてホール素子を用いる場合を例示したが、これに限られない。例えば、位置検出器4として、ホールIC、エンコーダ、レゾルバなどを設け、それらの検出信号を位置検出信号Shとしてモータ駆動制御装置2に入力してもよい。また、モータ駆動制御装置2は、位置検出器4を設けることなく、公知の位置センサレス方式の演算によって、モータ3の回転速度Srおよび電気角Sφを算出してもよい。
【0123】
また、制御回路5の各機能部が、MCUのプログラム処理によって実現される場合を例示したが、これに限られず、制御回路5の各機能部の一部または全部を専用回路(ハードウェア)によって実現してもよい。
【0124】
また、上述のフローチャートは一例であって、これらに限定されるものではなく、例えば、各ステップ間に他の処理が挿入されていてもよいし、処理が並列化されていてもよい。
【符号の説明】
【0125】
1…モータユニット、2…モータ駆動制御装置、3…モータ、4…位置検出器、5…制御回路、6…駆動回路、10…駆動指令解析部、11…回転速度算出部、12…電気角算出部、13…PWM信号生成部、14…偏差算出部、15…変調倍率算出部、16…信号生成部、17…記憶部、18…変調波形テーブル決定部、19…信号出力部、Sc…駆動指令信号(速度指令信号)、Stg…目標回転速度、Sr…回転速度、Sdf…(速度)偏差、Sm…変調倍率、Sth…変調倍率の閾値、Sd…駆動制御信号(PWM信号)、Sφ…電気角、170…基本変調波形テーブル、171~174…変調波形テーブル、171A~174A…テーブル差分情報。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6