(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121616
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】腐食状態判定方法、腐食状態判定装置、および腐食状態判定方法を実行可能なコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/26 20060101AFI20230824BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
G01N27/26 351H
G01N27/26 351P
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025061
(22)【出願日】2022-02-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物名:コンクリート工学年次論文集、Vol.43、No.1、2021、第1115~1120頁 発行者名:公益社団法人 日本コンクリート工学会 発行日:令和3年6月15日 刊行物名:コンクリート工学年次大会2021年(名古屋)、第43回「コンクリート工学講演会」ウェブサイト(https://confit.atlas.jp/guide/event/jcinenji2021/subject/1183/advanced) 発行者名:公益社団法人 日本コンクリート工学会 掲載日:令和3年7月5日 集会名:コンクリート工学年次大会2021年(名古屋)、第43回「コンクリート工学講演会」(オンライン開催) 主催者:公益社団法人 日本コンクリート工学会 開催日:令和3年7月7日(開催期間:令和3年7月7~9日)
(71)【出願人】
【識別番号】000130374
【氏名又は名称】株式会社コンステック
(71)【出願人】
【識別番号】500370702
【氏名又は名称】株式会社マルイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城所 健
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】圓井 健敏
(72)【発明者】
【氏名】関川 昌之
(72)【発明者】
【氏名】瓦林 建
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050CA01
2G050DA01
2G050EB02
2G050EC05
(57)【要約】
【課題】より優れた判定精度を有する腐食状態判定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の腐食状態判定方法は、コンクリート構造物11の表面のうち複数の照合表面11dのそれぞれについて、複数の照合表面11dのそれぞれの近傍の鋼材11bの電位を取得する工程と、複数の照合表面11dのそれぞれについて電位の勾配を算出する工程と、照合表面11dのそれぞれについての電位の勾配が所定の閾値以上であるか否かを判定する工程と、電位の勾配が所定の閾値以上であると判定された照合表面11dを、照合表面11d近傍の鋼材11bが腐食状態と非腐食状態との間の境界状態である可能性が高い境界領域と判定する工程とを含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に埋設された鋼材の腐食状態を判定する腐食状態判定方法であって、
前記コンクリート構造物の表面のうち複数の照合表面のそれぞれについて、前記複数の照合表面のそれぞれの近傍の前記鋼材の電位を取得する工程と、
前記複数の照合表面のそれぞれについて前記電位の勾配を算出する工程と、
前記照合表面のそれぞれについての前記電位の勾配が所定の閾値以上であるか否かを判定する工程と、
前記電位の勾配が前記所定の閾値以上であると判定された前記照合表面を、前記照合表面近傍の前記鋼材が腐食状態と非腐食状態との間の境界状態である可能性が高い境界領域と判定する工程と
を含む、腐食状態判定方法。
【請求項2】
前記境界領域と判定された前記照合表面以外の前記照合表面についての前記電位が、前記境界領域と判定された前記照合表面についての前記電位のうちの最小電位未満であるか否かを判定する工程と、
前記電位が前記最小電位未満と判定された前記照合表面を、前記照合表面近傍の前記鋼材が腐食状態である可能性が高い腐食領域と判定する工程と、
前記境界領域と判定された前記照合表面以外の前記照合表面についての前記電位が、前記境界領域と判定された前記照合表面についての前記電位のうちの最大電位より大きいか否かを判定する工程と、
前記電位が前記最大電位より大きいと判定された前記照合表面を、前記照合表面近傍の前記鋼材が非腐食状態である可能性が高い非腐食領域と判定する工程と
をさらに含む、請求項1記載の腐食状態判定方法。
【請求項3】
前記電位を取得する工程が、前記照合表面内に配置された複数の照合点のそれぞれについて、前記複数の照合点のそれぞれの近傍の前記鋼材の電位を取得し、前記複数の照合点の近傍の前記鋼材の電位の平均値を前記照合表面についての電位として算出する工程を含み、
前記電位の勾配を算出する工程が、前記照合表面内の前記複数の照合点についての前記電位の差分および前記複数の照合点の間の距離に基づいて、前記照合表面についての前記電位の勾配を算出する工程を含む、
請求項1または2記載の腐食状態判定方法。
【請求項4】
前記複数の照合点が、前記照合表面上で第1の方向および第2の方向に沿って並んで配置されており、
前記電位の勾配を算出する工程が、
前記第1の方向に沿って並んで配置された複数の照合点についての前記電位の差分と前記複数の照合点の間の距離とに基づいて、前記第1の方向における前記電位の勾配を第1の勾配として算出する工程と、
前記第2の方向に沿って並んで配置された複数の照合点についての前記電位の差分と前記複数の照合点の間の距離とに基づいて、前記第2の方向における前記電位の勾配を第2の勾配として算出する工程と、
前記第1および第2の勾配に基づいて、前記照合表面についての前記電位の勾配を算出する工程と
を含む、請求項3記載の腐食状態判定方法。
【請求項5】
前記複数の照合表面のそれぞれについての前記電位および前記電位の勾配を、一方の軸が前記電位を示し、他方の軸が前記電位の勾配を示す座標系に表示する工程をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の腐食状態判定方法。
【請求項6】
コンクリート構造物に埋設された鋼材の腐食状態を判定する腐食状態判定装置であって、
前記コンクリート構造物の表面のうち複数の照合表面のそれぞれについて、前記複数の照合表面のそれぞれの近傍の前記鋼材の電位を取得する取得部と、
前記複数の照合表面のそれぞれについて前記電位の勾配を算出する演算部と、
前記鋼材の腐食状態を判定する判定部と
を備え、
前記判定部は、
前記照合表面のそれぞれについての前記電位の勾配が所定の閾値以上であるか否かを判定し、
前記電位の勾配が前記所定の閾値以上であると判定された前記照合表面を、前記照合表面近傍の前記鋼材が腐食状態と非腐食状態との間の境界状態である可能性が高い境界領域と判定する
ように構成されている、腐食状態判定装置。
【請求項7】
前記判定部は、
前記境界領域と判定された前記照合表面以外の前記照合表面についての前記電位が、前記境界領域と判定された前記照合表面についての前記電位のうちの最小電位未満であるか否かを判定し、
前記電位が前記最小電位未満と判定された前記照合表面を、前記照合表面近傍の前記鋼材が腐食状態である可能性が高い腐食領域と判定し、
前記境界領域と判定された前記照合表面以外の前記照合表面についての前記電位が、前記境界領域と判定された前記照合表面についての前記電位のうちの最大電位より大きいか否かを判定し、
前記電位が前記最大電位より大きいと判定された前記照合表面を、前記照合表面近傍の前記鋼材が非腐食状態である可能性が高い非腐食領域と判定する
ように構成されている、請求項6記載の腐食状態判定装置。
【請求項8】
前記取得部は、前記照合表面内に配置された複数の照合点のそれぞれについて、前記複数の照合点のそれぞれの近傍の前記鋼材の電位を取得するように構成されており、
前記演算部は、
前記照合表面内の前記複数の照合点についての前記電位の平均値を前記照合表面についての電位として算出し、
前記照合表面内の前記複数の照合点についての前記電位の差分および前記複数の照合点の間の距離に基づいて、前記照合表面についての前記電位の勾配を算出する
ように構成されている、請求項6または7記載の腐食状態判定装置。
【請求項9】
前記複数の照合点が、前記照合表面上で第1の方向および第2の方向に沿って並んで配置されており、
前記演算部は、
前記第1の方向に沿って並んで配置された複数の照合点についての前記電位の差分と前記複数の照合点の間の距離とに基づいて、前記第1の方向における前記電位の勾配を第1の勾配として算出し、
前記第2の方向に沿って並んで配置された複数の照合点についての前記電位の差分と前記複数の照合点の間の距離とに基づいて、前記第2の方向における前記電位の勾配を第2の勾配として算出し、
前記第1および第2の勾配に基づいて、前記照合表面についての前記電位の勾配を算出する
ように構成されている、請求項8記載の腐食状態判定装置。
【請求項10】
前記複数の照合表面のそれぞれについての前記電位および前記電位の勾配を、一方の軸が前記電位を示し、他方の軸が前記電位の勾配を示す座標系に表示するように構成されている表示部をさらに備える、請求項6~9のいずれか1項に記載の腐食状態判定装置。
【請求項11】
コンピュータ上で実行されると前記コンピュータに、請求項1~5のいずれか1項に記載の腐食状態判定方法を実行させるコンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食状態判定方法、腐食状態判定装置、および腐食状態判定方法を実行可能なコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートなど、鋼材が埋設されたコンクリート構造物においては、経年劣化による鋼材の腐食が問題となっている。コンクリート構造物に埋設された鋼材の腐食状態を判定する方法としては、たとえば特許文献1に、コンクリート構造物の表面から鋼材の自然電位を測定して、測定された自然電位に基づいて鋼材の腐食状態を判定する方法が開示されている。鋼材の自然電位を用いて鋼材の腐食状態を判定する方法では、ASTM C876として規定された評価基準を用いて、鋼材が腐食しているか否かを判定するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ASTM C876として規定された評価基準には、腐食状態または非腐食状態と判定される範囲以外にも、腐食状態が不確定と判定される範囲が広く存在している。したがって、実際にコンクリート構造物の鋼材の自然電位を測定しても、腐食状態が不確定と判定される部分が多く存在することになり、鋼材の腐食状態を精度よく判定することができない。それに対して、特許文献1では、鋼材の自然電位以外にも、コンクリートのかぶり厚さや含水率などの別のパラメータを採用することで、判定の精度を高める試みが行なわれている。しかし、かぶり厚さや含水率などのパラメータは、鋼材の腐食状態を直接表しているものではなく、あくまで間接的に表しているものなので、特許文献1の方法によっても、依然として十分な判定精度を得ることができない。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みなされたもので、より優れた判定精度を有する腐食状態判定方法、腐食状態判定装置、および腐食状態判定方法を実行可能なコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の腐食状態判定方法は、コンクリート構造物に埋設された鋼材の腐食状態を判定する腐食状態判定方法であって、前記コンクリート構造物の表面のうち複数の照合表面のそれぞれについて、前記複数の照合表面のそれぞれの近傍の前記鋼材の電位を取得する工程と、前記複数の照合表面のそれぞれについて前記電位の勾配を算出する工程と、前記照合表面のそれぞれについての前記電位の勾配が所定の閾値以上であるか否かを判定する工程と、前記電位の勾配が前記所定の閾値以上であると判定された前記照合表面を、前記照合表面近傍の前記鋼材が腐食状態と非腐食状態との間の境界状態である可能性が高い境界領域と判定する工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
また、前記境界領域と判定された前記照合表面以外の前記照合表面についての前記電位が、前記境界領域と判定された前記照合表面についての前記電位のうちの最小電位未満であるか否かを判定する工程と、前記電位が前記最小電位未満と判定された前記照合表面を、前記照合表面近傍の前記鋼材が腐食状態である可能性が高い腐食領域と判定する工程と、前記境界領域と判定された前記照合表面以外の前記照合表面についての前記電位が、前記境界領域と判定された前記照合表面についての前記電位のうちの最大電位より大きいか否かを判定する工程と、前記電位が前記最大電位より大きいと判定された前記照合表面を、前記照合表面近傍の前記鋼材が非腐食状態である可能性が高い非腐食領域と判定する工程とをさらに含むことが好ましい。
【0008】
また、前記電位を取得する工程が、前記照合表面内に配置された複数の照合点のそれぞれについて、前記複数の照合点のそれぞれの近傍の前記鋼材の電位を取得し、前記複数の照合点の近傍の前記鋼材の電位の平均値を前記照合表面についての電位として算出する工程を含み、前記電位の勾配を算出する工程が、前記照合表面内の前記複数の照合点についての前記電位の差分および前記複数の照合点の間の距離に基づいて、前記照合表面についての前記電位の勾配を算出する工程を含むことが好ましい。
【0009】
また、前記複数の照合点が、前記照合表面上で第1の方向および第2の方向に沿って並んで配置されており、前記電位の勾配を算出する工程が、前記第1の方向に沿って並んで配置された複数の照合点についての前記電位の差分と前記複数の照合点の間の距離とに基づいて、前記第1の方向における前記電位の勾配を第1の勾配として算出する工程と、前記第2の方向に沿って並んで配置された複数の照合点についての前記電位の差分と前記複数の照合点の間の距離とに基づいて、前記第2の方向における前記電位の勾配を第2の勾配として算出する工程と、前記第1および第2の勾配に基づいて、前記照合表面についての前記電位の勾配を算出する工程とを含むことが好ましい。
【0010】
また、前記複数の照合表面のそれぞれについての前記電位および前記電位の勾配を、一方の軸が前記電位を示し、他方の軸が前記電位の勾配を示す座標系に表示する工程をさらに含むことが好ましい。
【0011】
本発明の腐食状態判定装置は、コンクリート構造物に埋設された鋼材の腐食状態を判定する腐食状態判定装置であって、前記コンクリート構造物の表面のうち複数の照合表面のそれぞれについて、前記複数の照合表面のそれぞれの近傍の前記鋼材の電位を取得する取得部と、前記複数の照合表面のそれぞれについて前記電位の勾配を算出する演算部と、
前記鋼材の腐食状態を判定する判定部とを備え、前記判定部は、前記照合表面のそれぞれについての前記電位の勾配が所定の閾値以上であるか否かを判定し、前記電位の勾配が前記所定の閾値以上であると判定された前記照合表面を、前記照合表面近傍の前記鋼材が腐食状態と非腐食状態との間の境界状態である可能性が高い境界領域と判定するように構成されていることを特徴とする。
【0012】
また、前記判定部は、前記境界領域と判定された前記照合表面以外の前記照合表面についての前記電位が、前記境界領域と判定された前記照合表面についての前記電位のうちの最小電位未満であるか否かを判定し、前記電位が前記最小電位未満と判定された前記照合表面を、前記照合表面近傍の前記鋼材が腐食状態である可能性が高い腐食領域と判定し、前記境界領域と判定された前記照合表面以外の前記照合表面についての前記電位が、前記境界領域と判定された前記照合表面についての前記電位のうちの最大電位より大きいか否かを判定し、前記電位が前記最大電位より大きいと判定された前記照合表面を、前記照合表面近傍の前記鋼材が非腐食状態である可能性が高い非腐食領域と判定するように構成されていることが好ましい。
【0013】
また、前記取得部は、前記照合表面内に配置された複数の照合点のそれぞれについて、前記複数の照合点のそれぞれの近傍の前記鋼材の電位を取得するように構成されており、前記演算部は、前記照合表面内の前記複数の照合点についての前記電位の平均値を前記照合表面についての電位として算出し、前記照合表面内の前記複数の照合点についての前記電位の差分および前記複数の照合点の間の距離に基づいて、前記照合表面についての前記電位の勾配を算出するように構成されていることが好ましい。
【0014】
また、前記複数の照合点が、前記照合表面上で第1の方向および第2の方向に沿って並んで配置されており、前記演算部は、前記第1の方向に沿って並んで配置された複数の照合点についての前記電位の差分と前記複数の照合点の間の距離とに基づいて、前記第1の方向における前記電位の勾配を第1の勾配として算出し、前記第2の方向に沿って並んで配置された複数の照合点についての前記電位の差分と前記複数の照合点の間の距離とに基づいて、前記第2の方向における前記電位の勾配を第2の勾配として算出し、前記第1および第2の勾配に基づいて、前記照合表面についての前記電位の勾配を算出するように構成されていることが好ましい。
【0015】
また、前記複数の照合表面のそれぞれについての前記電位および前記電位の勾配を、一方の軸が前記電位を示し、他方の軸が前記電位の勾配を示す座標系に表示するように構成されている表示部をさらに備えることが好ましい。
【0016】
本発明のコンピュータプログラムは、コンピュータ上で実行されると前記コンピュータに上記腐食状態判定方法を実行させるコンピュータ実行可能命令を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、より優れた判定精度を有する腐食状態判定方法、腐食状態判定装置、および腐食状態判定方法を実行可能なコンピュータプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る腐食状態判定装置が組み込まれた腐食状態判定システムを示す概略図である。
【
図2】
図1の腐食状態判定システムの照合電極ユニットを照合電極側から見た斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る腐食状態判定装置および腐食状態判定方法の測定の対象となる照合表面の正面図(a)と、(a)に示された照合表面内に設けられた複数の照合点のそれぞれについて取得される電位と照合点の間の距離を示す説明図(b)である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る腐食状態判定装置および腐食状態判定方法によって、コンクリート構造物表面内の複数の照合点について取得された鋼材の電位(自然電位)の分布を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る腐食状態判定装置および腐食状態判定方法によって、コンクリート構造物表面内の複数の照合表面について取得された鋼材の電位(自然電位)の分布を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る腐食状態判定装置および腐食状態判定方法によって、コンクリート構造物表面内の複数の照合表面について取得された鋼材の電位(自然電位)と電位の勾配との関係を示すグラフである。
【
図7】本発明の一実施形態に係る腐食状態判定装置および腐食状態判定方法によって、別のコンクリート構造物表面内の複数の照合点について取得された鋼材の電位(自然電位)の分布を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る腐食状態判定装置および腐食状態判定方法によって、別のコンクリート構造物表面内の複数の照合表面について取得された鋼材の電位(自然電位)の分布を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る腐食状態判定装置および腐食状態判定方法によって、別のコンクリート構造物表面内の複数の照合表面について取得された鋼材の電位(自然電位)と電位の勾配との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係る腐食状態判定方法、腐食状態判定装置、および腐食状態判定方法を実行可能なコンピュータプログラムを説明する。ただし、以下で示す実施形態は一例であり、本発明の腐食状態判定方法、装置、およびコンピュータプログラムは、以下の実施形態に限定されることはない。
【0020】
本発明の一実施形態に係る腐食状態判定方法および装置はそれぞれ、コンクリート構造物に埋設された鋼材の腐食状態を判定する方法および装置である。本実施形態の腐食状態判定方法および装置の適用の対象となるコンクリート構造物11は、
図1に示されるように、セメントにより結合されたコンクリート11a中に鋼材11bが埋設された構造物である。コンクリート構造物11としては、コンクリート中に鋼材が埋設された構造物であれば特に限定されることはないが、たとえば、河川や海上に架け渡される橋の橋梁や、高速道路等の橋脚、ダムなどの巨大な土木構造物、ビルなどの建築物が挙げられる。また、コンクリート11a中に埋設された鋼材11bとしては、
図1に示される本実施形態では、格子状に配列された鉄筋が例示されているが、鋼材の種類や大きさ、鋼材の配列方法は特に限定されることはない。以下、本実施形態の腐食状態判定方法および装置を、コンクリート11a中に鋼材(鉄筋)11bが間隔dを空けて埋設されたコンクリート構造物(壁部)11における鋼材(鉄筋)11bの電位を測定して、鋼材11bの腐食状態を判定するために用いた例をもとに説明する。
【0021】
まず、本実施形態の腐食状態判定装置6が組み込まれ、本実施形態の腐食状態判定方法を実施するために使用される腐食状態判定システム1について説明する。ただし、本発明の腐食状態判定装置は、以下で説明する腐食状態判定システム1以外のシステムに組み込まれてもよいし、本発明の腐食状態判定方法は、以下で説明する腐食状態判定システム1以外のシステムを使用して実施することもできる。
【0022】
腐食状態判定システム1は、コンクリート構造物11に埋設された鋼材11bの電位を測定し、鋼材11bの腐食状態を判定する。より具体的には、腐食状態判定システム1は、コンクリート構造物11の表面から、コンクリート構造物11に埋設された鋼材11bの電位(自然電位または相対電位)を測定し、測定された鋼材11bの電位から、鋼材11bの腐食状態を判定する。
【0023】
腐食状態判定システム1は、
図1に示されるように、コンクリート構造物11における基準位置に接触する基準接触部2と、コンクリート構造物11の表面における照合表面11dに接触する照合電極ユニット3と、基準接触部2と照合電極ユニット3とが接続され、基準接触部2と照合電極ユニット3との間の電位差を計測する電位差計測装置4とを備えている。腐食状態判定システム1によれば、基準接触部2が接触する基準位置における電位と、照合電極ユニット3が接触する照合表面11dの近傍(かぶり厚さ方向の略真下近傍)に位置する鋼材11bの自然電位との間の電位差が電位差計測装置4により計測される。
【0024】
電位差計測装置4により計測される電位差は、基準位置をコンクリート構造物11に埋設された鋼材11bとした場合には、照合電極ユニット3が接触する照合表面11d近傍の鋼材11bの自然電位を示す。また、電位差計測装置4により計測される電位差は、基準位置をコンクリート構造物11の表面(基準表面11c)とした場合には、基準表面11c近傍の鋼材11bの自然電位と、照合表面11d近傍の鋼材11bの自然電位との差(相対電位)を示す。前者の場合には、たとえば、鋼材11bの自然電位が所定の電位値(第1の閾値、たとえばASTM C876では-350mVと規定される)以下であれば、その位置の鋼材11bが90%以上の確率で腐食していると判定され、鋼材11bの自然電位が所定の電位値(第2の閾値、たとえばASTM C876では-200mVと規定される)よりも大きければ、その位置の鋼材11bが90%以上の確率で腐食していないと判定される。また、後者の場合には、たとえば、基準表面11c近傍の鋼材11bの自然電位よりも、照合表面11d近傍の鋼材11bの自然電位が、所定の電位値よりも低ければ、照合表面11d表面近傍の鋼材11bが腐食している可能性があると判定され、別の所定の電位値よりも大きければ、照合表面11d近傍の鋼材11bが腐食していない可能性があると判定される。なお、鋼材11bの自然電位とは、外部から電位が印加されていない状態の鋼材11bが有する電位のことであり、公知の自然電位測定方法により測定される自然電位のことである。
【0025】
基準接触部2は、照合電極ユニット3が接触する照合表面11dで測定される鋼材11bの自然電位に対して基準となる電位を有する基準位置に接触される電極部材である。基準接触部2は、リード線などの導線5を介して電位差計測装置4の一方の端子に電気的に接続される。基準接触部2としては、
図1に示されるように、照合表面11d近傍の鋼材11bの自然電位を測定する場合には、基準位置となる鋼材11bに接触される基準端子21を用いることができる。基準端子21としては、公知のワニ口クリップなどを用いることができる。また、照合表面11d近傍の鋼材11bの相対電位を測定する場合には、基準となる自然電位(基準電位)を有する鋼材11bの領域近傍のかぶり厚さ方向(鋼材11bの領域近傍の略真上)に位置する、コンクリート構造物11の表面(基準表面11c)に接触される基準電極22を基準接触部2として用いることができる。基準電極22としては、銅/硫酸銅電極、銀/塩化銀電極、カロメル電極など公知の電極を採用することができる。
【0026】
照合電極ユニット3は、基準となる電位に対して測定の対象となる自然電位を有する鋼材11bの領域近傍のかぶり厚さ方向(鋼材11bの領域近傍の略真上)に位置する、コンクリート構造物11の表面(照合表面11d)に接触される電極部材である。照合電極ユニット3は、リード線などの導線5を介して電位差計測装置4の他方の端子に電気的に接続される。照合電極ユニット3は、特に限定されることはなく、照合表面11dの形状および大きさに対応するように設計される。
【0027】
照合電極ユニット3は、照合表面11d近傍の鋼材11bの電位を測定することができればよく、その構造は特に限定されない。本実施形態では、照合電極ユニット3は、
図1および
図2に示されるように、複数の照合電極31と、照合表面11dの大きさに対応する大きさに形成され、複数の照合電極31を支持する照合電極支持部32とを備えている。複数の照合電極31は、照合電極ユニット3が照合表面11dに配置されたときに、照合表面11d内の複数の照合点11e(
図3(a)参照)に同時に接触されるように構成されている。これにより、鋼材11bの複数の領域の電位を同じタイミングで測定することができるので、鋼材11bの複数の領域の電位を効率的に測定することができる。さらに、複数の照合電極31は、少なくとも同じ照合表面11d内において、鋼材11bの複数の領域の電位を、複数の照合点11eの経時変化の影響を受けることなく測定することができる。ただし、照合電極ユニット3は、照合表面11dの大きさに対応する単一の照合電極を備えていてもよい。
【0028】
照合電極ユニット3は、鋼材11bの複数の領域の電位を同時に測定することができればよく、複数の照合電極31の配置は特に限定されない。本実施形態では、複数の照合電極31は、
図3に示された照合表面11d内の複数の照合点11eに対応するように、照合電極支持部32に、第1の方向Xおよび第2の方向Yを含む面内で互いに間隔を置いて2次元に配列されている。複数の照合電極31のうち最も近接して配列される照合電極31間の間隔(照合点11eの間の距離dx、dyに対応)は、コンクリート構造物11に離間して埋設された2つの鋼材11b間の距離dよりも小さいことが好ましく、最も離間して配列される照合電極31間の間隔(照合点11eの間の距離dx、dyの2倍に対応)は、コンクリート構造物11に離間して埋設された2つの鋼材11b間の距離dよりも大きいことが好ましい。複数の照合電極31がこのように配列されることにより、照合電極ユニット3が照合表面11dに配置されたときに、複数の鋼材11b間の距離dよりも短い間隔で複数の照合電極31が照合表面11d内の表面に接触する。このような複数の照合電極31を用いることで、鉄筋探査機などにより事前に鋼材11bの埋設された位置を確認しなくても、鋼材11bの複数の領域の電位を実質的に漏れなく同時に測定することができる。
【0029】
照合電極ユニット3の複数の照合電極31は、本実施形態では、
図3(a)に示された照合表面11d内の複数の照合点11eの配置を参照して説明すると、第1の方向Xに沿って略等間隔(第1の方向Xにおける照合点11eの間の距離dxに対応)および第2の方向Yに沿って略等間隔(第2の方向Yにおける照合点11eの間の距離dyに対応)の行列状(または格子状)に配列されている。そして、第1の方向Xにおける照合電極31間の距離は、第2の方向Yにおける照合電極31間の距離と略等しい。なお、第1および第2の方向X、Yは、本実施形態では互いに略直交しているが、互いに対して直交以外の角度を有していてもよい。
【0030】
照合電極ユニット3には、
図2に示された例では、3×3=9個の照合電極31が設けられている。しかし、照合電極31の数は、対象とするコンクリート構造物11の表面に応じて任意に設定することが可能である。照合電極31の数は、たとえば、1個であってもよく、その場合、照合電極31は、照合表面11d全体を覆うような大きさに形成することができる。あるいは、照合電極31の数は、たとえば、2×2=4個、4×4=16個、5×5=25個、3×4=12個、3×5=15個などとすることもできる。照合電極31としては、銅/硫酸銅電極、銀/塩化銀電極、カロメル電極など公知の電極を採用することができる。
【0031】
照合電極ユニット3が接触する照合表面11dは、電位の測定の対象となる鋼材11bの領域に応じて、その領域のかぶり厚さ方向(鋼材11bの領域の略真上)のコンクリート構造物11の表面に適宜設定することができる。たとえば、コンクリート構造物11の一部または全部に亘って鋼材11bの腐食状態の分布を調べたい場合には、複数の照合表面11dが互いに隣接して配置されることが好ましく、たとえば、互いに略直交する第1の方向Xおよび/または第2の方向Yに沿って互いに隣接して配置されることが好ましい。それによって、コンクリート構造物11の表面に亘って隙間なく、鋼材11bの電位の分布を測定して、鋼材11bの腐食状態の分布を調べることができる。照合表面11dの大きさは、特に限定されることはないが、たとえば
図3(a)に示されるように照合表面11dが複数の照合点11eを含む場合には、隣り合う鋼材11bに跨る大きさに設定されることが好ましい。ただし、照合表面11dは、互いに離間して配置された複数の照合点11eを含むことなく、その全体が測定対象であってもよい。その場合は、照合表面11dは、鋼材11bの幅などに対応する大きさであってもよい。
【0032】
照合表面11dは、本実施形態では、
図3(a)に示されるように、複数の照合点11eを含んでいる。複数の照合点11eは、照合電極ユニット3の複数の照合電極31の配置に対応して、第1の方向Xおよび第2の方向Yを含む面内で互いに間隔を置いて2次元に配列されている。このように1つの照合表面11d内に複数の照合点11eを設けることで、単一の照合点を設ける場合と比べて、より詳細な電位分布を調べることができる。さらに、複数の照合点11eのうちいずれかで異常値が偶然測定されたとしても、照合表面11d内で平均化することでその異常値の影響を小さく抑えることができるので、照合表面11dについての電位を、より高い精度で得ることができる。
【0033】
照合表面11dは、複数の照合点11eを含んでいればよく、複数の照合点11eの配置は特に限定されない。本実施形態では、複数の照合点11eは、
図3に示されるように、第1の方向Xに沿って略等間隔および第2の方向Yに沿って略等間隔の行列状(または格子状)に配列されている。そして、第1の方向Xにおける照合点11eの間の距離dxは、第2の方向Yにおける照合点11eの間の距離dyと略等しい。複数の照合点11eのうち最も近接して配列される照合点11eの間の距離dx、dyは、コンクリート構造物11に離間して埋設された2つの鋼材11bの間の距離dよりも小さいことが好ましく、最も離間して配列される照合点11eの間の間隔(図示された例では、照合点11eの間の距離dx、dyの2倍に対応)は、コンクリート構造物11に離間して埋設された2つの鋼材11bの間の距離dよりも大きいことが好ましい。複数の照合点11eがこのように配列されることにより、鉄筋探査機などにより事前に鋼材11bの埋設された位置を確認しなくても、照合電極ユニット3が照合表面11dに配置されたときに、鋼材11bの複数の領域の電位を実質的に漏れなく測定することができる。なお、第1および第2の方向X、Yは、上述したように、本実施形態では互いに略直交しているが、互いに対して直交以外の角度を有していてもよい。
【0034】
電位差計測装置4は、基準接触部2(基準端子21または基準電極22)が接触する基準位置と照合電極ユニット3(複数の照合電極31のそれぞれ)が接触する照合表面11d(複数の照合点11eのそれぞれ)との間の電位差を計測する。
図1に示されるように、電位差計測装置4の一方の端子は、リード線などの導線5を介して基準接触部2(基準端子21または基準電極22)に電気的に接続され、電位差計測装置4の他方の端子は、リード線などの導線5を介して照合電極ユニット3(複数の照合電極31のそれぞれ)に電気的に接続されている。電位差計測装置4としては、公知の自然電位測定法で用いられる電位差計を用いることができる。
【0035】
腐食状態判定システム1はさらに、
図1に示されるように、腐食状態判定装置6を備えている。腐食状態判定装置6は、コンクリート構造物11に埋設された鋼材11bの腐食状態を判定するように構成されている。腐食状態判定装置6は、本実施形態では、電位差計測装置4とデータ通信可能に接続され、電位差計測装置4を制御するとともに、電位差計測装置4から、電位差計測装置4で計測された電位差を取得する。腐食状態判定装置6は、必要に応じて、取得した電位差の較正処理を行なって、取得した電位差を照合表面11dまたは照合点11e近傍の鋼材11bの電位(自然電位または相対電位)として処理する。腐食状態判定装置6は、照合表面11dまたは照合点11e近傍の鋼材11bの電位(自然電位または相対電位)を用いて鋼材11bの腐食状態を判定する。
【0036】
腐食状態判定装置6は、たとえば、USBケーブル、ネットワークケーブル、インターネット回線などを介して電位差計測装置4に接続される。腐食状態判定装置6は、本実施形態では、
図1に示されるように、取得部61、演算部62、判定部63、および任意で表示部64を備えている。腐食状態判定装置6としては、特に限定されることはなく、たとえば、主に取得部61、演算部62および判定部63を構成可能なCPUなどの演算処理装置、メモリ、ハードディスクなどの記憶装置、ネットワークインターフェースなどの通信装置、キーボード・マウスなどの入力装置、および主に表示部64を構成可能な液晶ディスプレイなどの表示装置などを内部または外部に備えたコンピュータなどの公知の計算装置を用いることができる。
【0037】
取得部61は、コンクリート構造物11の表面のうち複数の照合表面11dのそれぞれについて、複数の照合表面11dのそれぞれの近傍の鋼材11bの電位(自然電位または相対電位)を取得するように構成されている。取得部61は、本実施形態では、複数の照合表面11dのそれぞれの近傍の鋼材11bの電位を取得するために、電位差計測装置4から、コンクリート構造物11における基準位置とコンクリート構造物11の表面における複数の照合表面11dのそれぞれとの間の電位差を取得する。電位差計測装置4から取得される電位差は、必要に応じて較正処理が行なわれて、照合表面11d近傍の鋼材11bの電位(自然電位または相対電位)として処理される。上述したように、照合表面11dについての電位は、基準位置がコンクリート構造物11の鋼材11bである場合は、照合表面11d近傍の鋼材11bの自然電位を示し、基準位置がコンクリート構造物11表面の基準表面11cである場合は、基準表面11c近傍の鋼材11bに対する照合表面11d近傍の鋼材11bの相対電位を示す。照合表面11dについての電位は、たとえば、照合表面11dの位置と対応付けられて、腐食状態判定装置6の内部または外部の記憶装置に記憶される。腐食状態判定装置6は、コンクリート構造物11の表面上で互いに隣接して(たとえば、第1の方向Xおよび/または第2の方向Yに沿って互いに隣接して)配置された照合表面11dについての電位を取得することで、コンクリート構造物11内の鋼材11bの電位分布を調べることができる。
【0038】
取得部61は、照合表面11d近傍の鋼材11bの電位を得るために、照合表面11d内に配置された複数の照合点11eのそれぞれについて、複数の照合点11eのそれぞれの近傍の鋼材11bの電位(自然電位または相対電位)を取得するように構成されていてもよい。その場合、取得部61は、電位差計測装置4から、コンクリート構造物11における基準位置と、照合表面11d内に配置された複数の照合点11eのそれぞれとの間の電位差を取得する。複数の照合点11eについて取得される複数の電位差は、必要に応じて較正処理が行なわれて、各照合点11e近傍の鋼材11bの電位(自然電位または相対電位)として、また、後述するように同じ照合表面11d内で平均化されることで、照合表面11d近傍の鋼材11bの電位(自然電位または相対電位)として処理される。上述したように、照合点11eについての電位は、基準位置がコンクリート構造物11の鋼材11bである場合は、照合点11e近傍の鋼材11bの自然電位を示し、基準位置がコンクリート構造物11表面の基準表面11cである場合は、基準表面11c近傍の鋼材11bに対する照合点11e近傍の鋼材11bの相対電位を示す。照合点11eについての電位は、たとえば、照合点11eの位置、および照合点11eが配置される照合表面11dの位置と対応付けられて、腐食状態判定装置6の内部または外部の記憶装置に記憶される。腐食状態判定装置6は、コンクリート構造物11の表面上の照合表面11d内で互いに間隔を空けて(たとえば、第1の方向Xおよび/または第2の方向Yに沿って互いに略等間隔で)配置された照合点11eについての電位を取得することで、コンクリート構造物11内の鋼材11bの電位分布をより詳細に調べることができる。
【0039】
図4および
図7はそれぞれ、異なるコンクリート構造物11の表面内の複数の照合表面11dに設けられた複数の照合点11eについて取得された鋼材11bの電位(図示された例では自然電位)の分布を示している。複数の照合表面11d((X1、Y1)、(X2、Y1)、・・・)は、互いに略直交する第1の方向X(
図4および
図7中、横方向に延びる辺に平行)および第2の方向Y(
図4および
図7中、縦方向に延びる辺に平行)に沿って隣接して配置されている。また、複数の照合表面11d内の複数の照合点11e((1、1)、(2、1)、・・・)は、互いに略直交する第1の方向Xおよび第2の方向Yに沿って略等間隔で配置されている。
図4および
図7では、それぞれの照合点11eについての電位が、それぞれの照合点11eの位置、およびそれぞれの照合点11eが配置された照合表面11dの位置と対応付けられて、数値として示されるとともに、色の濃淡の違いとして示されている。このように、取得部61が複数の照合点11eについての電位を取得することで、コンクリート構造物11表面内の照合点11e毎の鋼材11bの電位分布を調べることができる。
【0040】
本実施形態では、上述したように、腐食状態判定システム1が、複数の照合電極31を有する照合電極ユニット3を備えている。この照合電極ユニット3を用いることにより、取得部61は、同じ照合表面11d内の複数の照合点11eについての複数の電位を同じタイミングで取得することができる。複数の照合点11eについての複数の電位を同じタイミングで取得することで、複数の照合点11eの間の経時変化の影響を抑制することができる。ただし、取得部61は、同じ照合表面11d内の複数の照合点11eについて、同じタイミングではなく、異なるタイミングで鋼材11bの電位を取得するように構成されていてもよい。
【0041】
本実施形態のように照合表面11d内に複数の照合点11eが配置される場合においては、演算部62は、照合表面11d内の複数の照合点11eについての電位の平均値を照合表面11dについての電位として算出するように構成されていてもよい。これにより、複数の照合電極31のうちいずれかに電子回路のノイズなどに起因した異常値が偶然発生したとしても、その異常値の影響を小さく抑えることができるので、照合表面11dについての電位を、より高い精度で得ることができる。特に、本実施形態のように照合電極ユニット3を用いる場合、複数の照合点11eについての複数の電位が同じタイミングで取得されるので、少なくとも経時変化の影響が抑制されて、より精度の高い電位を得ることができる。ただし、照合表面11d近傍の鋼材11bの電位は、照合表面11d内の複数の照合点11eの近傍の鋼材11bの電位の平均値として取得するのではなく、単一の電位として取得してもよい。
【0042】
図5および
図8はそれぞれ、
図4および
図7のそれぞれに示された同じ照合表面11d内の複数の照合点11e近傍の鋼材11bの電位を平均して算出した照合表面11d近傍の鋼材11bの電位(図示された例では自然電位)の分布を示している。このように、演算部62が複数の照合点11eについての電位を平均して照合表面11dについての電位を算出することで、コンクリート構造物11表面内の照合表面11d毎の鋼材11bの電位分布を調べることができる。たとえば、
図5を参照すると、従来の方法の基準(ASTM C876)によれば、(X1、Y3)、(X2、Y3)、・・・(X5、Y5)に位置する照合表面11dの近傍の鋼材11bは、その電位が第2の閾値(-200mV)よりも大きいので、90%以上の確率で腐食していないと判定される。それに対して、(X1、Y1)、(X2、Y1)、・・・(X5、Y2)に位置する照合表面11dの近傍の鋼材11bは、その電位が第1の閾値(-350mV)よりも大きく、第2の閾値以下であるので、腐食状態が不確定と判定される。
【0043】
演算部62は、複数の照合表面11dのそれぞれについて電位の勾配を算出するように構成されている。電位の勾配は、照合表面11dにおける単位長さ当たりの電位の変化を意味する。ある照合表面11dについての電位の勾配が大きければ大きいほど、その照合表面11dの近傍の鋼材11bの電位の変化が大きく、たとえば、その照合表面11dを挟んで両側の照合表面11d近傍の鋼材11b同士の電位の差異が大きい。したがって、ある照合表面11dについての電位の勾配が大きいと、その照合表面11dを挟んで両側の照合表面11dの近傍の鋼材11b同士の腐食状態が互いに大きく異なっていると推定することができる。
【0044】
照合表面11dについての電位の勾配は、特に限定されることはなく、様々な方法によって算出可能である。たとえば、演算部62は、照合表面11d内の複数の照合点11eついての電位の差分および複数の照合点11eの間の距離dx、dy(
図3(a)、(b)参照)に基づいて、照合表面11dについての電位の勾配を算出するように構成されていてもよい。本実施形態では、照合電極ユニット3を使用して同じタイミングで取得された複数の電位を用いて電位の勾配を算出することで、少なくとも経時変化の影響を抑制することができ、より精度の高い電位の勾配を算出することができる。なお、照合表面11dについての電位の勾配は、上記以外にも、照合表面11dに隣接する他の照合表面11dとの間の電位の差分および距離に基づいて算出することもできる。
【0045】
ここで、本実施形態では、
図3(a)に示されるように、複数の照合点11eは、照合表面11d上で第1の方向Xおよび第2の方向Yに沿って並んで配置されている。図示された例では、複数(図示された例では9つ)の照合点11eは、互いに略直交する第1の方向Xおよび第2の方向Yのそれぞれに沿って、互いに略等間隔で行列状(または格子状)に配置されている。複数の照合点11eが第1の方向Xおよび第2の方向Yに沿って並んで配置されている場合には、演算部62は、第1の方向Xにおける電位の勾配を第1の勾配Sxとして算出し、第2の方向Yにおける電位の勾配を第2の勾配Syとして算出し、第1および第2の勾配Sx、Syに基づいて、照合表面11dについての電位の勾配Sを算出するように構成されていてもよい。たとえば、演算部62は、以下の式(1)で示されるように、第1および第2の勾配Sx、Syの2乗和の平方根を照合表面11dについての電位の勾配Sとして算出することができる。
【0046】
ただし、Sx、Syはそれぞれ、第1および第2の方向X、Yにおける電位の勾配を表す。
【0047】
第1の勾配Sxは、第1の方向Xに沿って並んで配置された複数の照合点11eについての電位の差分と複数の照合点11eの間の距離dxとに基づいて算出することができる(
図3(b)参照)。たとえば、第1の勾配Sxは、第1の方向Xに沿って並んで配置された複数の照合点11eのうち最も離間した2つの照合点11eについて取得された電位の差分(
図3(b)中、E
11-E
31、E
12-E
32、E
13-E
33)を、最も離間した2つの照合点11eの間の距離(隣接する照合点11eの間の距離dxの2倍)で除算することによって求めることができる。このとき、最も離間して配置された照合点11eの対が3つあるため、第1の勾配Sxは、3つの対の照合点11eについての電位の勾配を平均することによって求めてもよい。この算出方法は、以下の式(2)によって表される。
【0048】
また、第2の勾配Syは、第1の勾配Sxと同様に、第2の方向Yに沿って並んで配置された複数の照合点11eについての電位の差分と複数の照合点11eの間の距離dyとに基づいて算出することができる(
図3(b)参照)。たとえば、第2の勾配Syは、第2の方向Yに沿って並んで配置された複数の照合点11eのうち最も離間した2つの照合点11eについて取得された電位の差分(
図3(b)中、E
11-E
13、E
21-E
23、E
31-E
33)を、最も離間した2つの照合点11eの間の距離(隣接する照合点11eの間の距離dyの2倍)で除算することによって求めることができる。このとき、最も離間して配置された照合点11eの対が3つあるため、第2の勾配Syは、3つの対の照合点11eについての電位の勾配を平均化することによって求めてもよい。この算出方法は、以下の式(3)によって表される。
【0049】
ただし、E
11~E
33は、複数の照合点11eのそれぞれについての電位(自然電位)を表し、dx、dyはそれぞれ、第1および第2の方向X、Yにおける照合点11eの間の距離(
図3(a)、(b)に示された例では、ともに100mm)を表す。
【0050】
判定部63は、照合表面11dのそれぞれについての電位および/または電位の勾配に基づいて、コンクリート構造物11中の鋼材11bの腐食状態を判定するように構成されている。判定部63は、その目的のために、照合表面11dのそれぞれについての電位の勾配が所定の閾値以上であるか否かを判定するように構成されている。所定の閾値は、鋼材11bの腐食状態や腐食領域の分布に応じて適宜設定することができる。たとえば、所定の閾値は、判定対象とされたコンクリート構造物11の表面内で、相対的に変化(勾配)の小さい電位が取得された照合表面11dについての電位の勾配を基準として、その基準となる電位の勾配よりも大きい範囲で設定することができる。基準となる電位の勾配としては、たとえば、腐食していない、または腐食していない可能性の高い鋼材11bの領域近傍の照合表面11dについて取得される電位の勾配や、腐食している、または腐食している可能性の高い鋼材11bの領域近傍の照合表面11dについて取得される電位の勾配を選択することができる。たとえば、以下で述べる
図6および
図9を参照すると、それぞれの場合の所定の閾値は、約40mV/100mm以上および約65mV/100mm以上の範囲で設定することができる。なお、所定の閾値は、判定対象とされたコンクリート構造物11の表面内以外で取得された電位についての勾配を基準として採用することもできる。この場合は、採用する電位の勾配が、判定対象とされたコンクリート構造物11の表面内において適用できることについて検証することが好ましい。
【0051】
判定部63は、電位の勾配が所定の閾値以上であると判定された照合表面11dを、照合表面11d近傍の鋼材11bが腐食状態と非腐食状態との間の境界状態である可能性が高い境界領域と判定するように構成されている。判定対象とされたコンクリート構造物11の表面内で、ある照合表面11dが境界領域と判定されることで、境界領域と判定された照合表面11d近傍において鋼材11bの腐食状態が大きく変化していることを認識することができる。それにより、たとえば、境界領域であると判定された照合表面11dを挟んで両側に位置する照合表面11dの近傍の鋼材11bは、取得された電位の大きさを併せて考慮することで、腐食しているか、または腐食していないかのいずれかの可能性が高いと判定することができる。あるいは、境界領域と判定された照合表面11dについての電位と比較して電位が大きいか、または小さいかに応じて、境界領域以外の照合表面11d近傍の鋼材11bが腐食しているか、または腐食していないかのいずれかの可能性が高いと判定することができる。したがって、本実施形態の腐食状態判定装置6によれば、以下でも詳しく述べるように、従来の方法では腐食状態が不確定と判定された鋼材11bの領域であっても、腐食状態または非腐食状態と判定することが可能で、腐食状態が不確定と判定される領域が少なくなり、優れた判定精度を得ることができる。
【0052】
判定部63は、上述したように、少なくとも照合表面11dが境界領域であるか否かを判定するように構成されていればよく、境界領域以外の照合表面11d近傍の鋼材11bの腐食状態については、特に限定されることはなく、様々な方法によって判定することができる。判定部63は、たとえば、境界領域と判定された照合表面11dの空間分布を基準に、境界領域以外の照合表面11d近傍の鋼材11bの腐食状態を判定するように構成されていてもよい。より具体的には、判定部63は、境界領域と判定された照合表面11dに隣接する照合表面11dについての電位が、境界領域と判定された照合表面11dについての電位よりも低い場合には、その隣接する照合表面11dを、その隣接する照合表面11d近傍の鋼材11bが腐食状態である可能性が高い腐食領域と判定するように構成されていてもよい。また、判定部63は、境界領域と判定された照合表面11dに隣接する照合表面11dについての電位が、境界領域と判定された照合表面11dについての電位よりも高い場合には、その隣接する照合表面11dを、その隣接する照合表面11d近傍の鋼材11bが非腐食状態である可能性が高い非腐食領域と判定するように構成されていてもよい。
【0053】
ここで、
図5および
図8を参照すると、判定部63によって境界領域と判定された照合表面11dが点線で囲まれている(
図5では、(X1、Y2)~(X5、Y2)の領域、
図8では、(X1、Y3)~(X5、Y3)の領域)。境界領域と判定された照合表面11dを挟んで両側の照合表面11dのうち、一方側(
図5および
図8中、境界領域よりも上側)の照合表面11dについては、鋼材11bの電位が相対的に高く、他方側(
図5および
図8中、境界領域よりも下側)の照合表面11dについては、鋼材11bの電位が相対的に低い。このような電位の違いを考慮して、判定部63は、境界領域の一方側の照合表面11dを、その近傍の鋼材11bが非腐食状態である可能性が高い非腐食領域と判定することができ、境界領域の他方側の照合表面11dを、その近傍の鋼材11bが腐食状態である可能性が高い腐食領域と判定することができる。
【0054】
特に、
図5に示された例では、境界領域の他方側(
図5中、境界領域よりも下側)の照合表面11dの近傍の鋼材11bは、従来の方法の基準(ASTM C876)によれば、その電位が第1の閾値(-350mV)よりも大きく、第2の閾値(-200mV)以下であるので、腐食状態が不確定と判定される。しかし、本実施形態の腐食状態判定装置6によれば、従来の方法の基準では腐食状態が不確定と判定される鋼材11bの領域についても、腐食状態である可能性が高いと判定することができるので、より優れた判定精度を得ることができる。なお、
図5および
図8に示された例に関しては、本実施形態の腐食状態判定装置6による判定結果通りに、対応する照合表面11d近傍の鋼材11bが腐食状態または非腐食状態にあることが、他の方法により確認されている。
【0055】
また、判定部63は、境界領域と判定された照合表面11dについての電位を基準に、境界領域以外の照合表面11d近傍の鋼材11bの腐食状態を判定するように構成されていてもよい。ここで、
図6および
図9はそれぞれ、
図5および
図8のそれぞれに対応して、複数の照合表面11dのそれぞれについて取得された電位(図示された例では自然電位)と電位の勾配の関係を示している。
図6および
図9では、それぞれの照合表面11dについてのデータ点に対応して照合表面11dの位置情報((X1、Y1)など)が記載され、また、境界領域と判定された照合表面11dの近傍の鋼材11bの電位範囲が点線で囲まれている。この
図6および
図9を参照して説明すると、判定部63は、境界領域と判定された照合表面11d以外の照合表面11dについての電位が、境界領域と判定された照合表面11dについての電位のうちの最小電位(
図6および
図9中、点線枠の右端の電位)未満であるか否かを判定するように構成されていてもよい。そして、判定部63は、電位が最小電位未満と判定された照合表面11d(
図6および
図9中、点線枠よりも右側にプロットされた照合表面11d)を、照合表面11d近傍の鋼材11bが腐食状態である可能性が高い腐食領域と判定するように構成されていてもよい。また、判定部63は、境界領域と判定された照合表面11d以外の照合表面11dについての電位が、境界領域と判定された照合表面11dについての電位のうちの最大電位(
図6および
図9中、点線枠の左端の電位)より大きいか否かを判定するように構成されていてもよい。そして、判定部63は、電位が最大電位より大きいと判定された照合表面11d(
図6および
図9中、点線枠よりも左側にプロットされた照合表面11d)を、照合表面11d近傍の鋼材11bが非腐食状態である可能性が高い非腐食領域と判定するように構成されていてもよい。
【0056】
特に、
図6に示された例では、電位が最小電位未満と判定された照合表面11d(
図6中、点線枠よりも右側にプロットされた照合表面11d)の近傍の鋼材11bは、従来の方法の基準(ASTM C876)によれば、その電位が第1の閾値(-350mV)よりも大きく、第2の閾値(-200mV)以下であるので、腐食状態が不確定と判定される。しかし、本実施形態の腐食状態判定装置6によれば、従来の方法の基準では腐食状態が不確定と判定される鋼材11bの領域についても、腐食状態である可能性が高いと判定することができるので、より優れた判定精度を得ることができる。なお、
図6および
図9に示された例に関しても、
図5および
図8に関して上述したのと同様に、本実施形態の腐食状態判定装置6による判定結果通りに、対応する照合表面11d近傍の鋼材11bが腐食状態または非腐食状態にあることが、他の方法により確認されている。
【0057】
表示部64は、複数の照合点11eおよび/または複数の照合表面11dについて取得された鋼材11bの電位および/または電位の勾配を表示する。表示部64は、本実施形態では、
図6および
図9に示されるように、複数の照合表面11dのそれぞれについての電位および電位の勾配を、一方の軸(図示された例では横軸)が電位を示し、他方の軸(図示された例では縦軸)が電位の勾配を示す座標系に表示するように構成されている。本実施形態の腐食状態判定装置6によれば、表示部64が照合表面11dについての電位と電位の勾配の関係をグラフ表示するように構成されていることで、鋼材11bの電位に対する電位の勾配の分布を明確に把握することができる。したがって、たとえば
図4~5および
図7~8に示されるように鋼材11bの電位を色の濃淡で表示する場合と比べて、境界領域を明確に把握することができ、鋼材11bの腐食状態をより明確に把握することができる。
【0058】
つぎに、本実施形態の腐食状態判定方法を、本実施形態の腐食状態判定システム1を用いて実施する例を挙げて説明する。ただし、本発明の腐食状態判定方法は、以下の例に限定されることはなく、本実施形態の腐食状態判定システム1以外のシステムを用いても実施することができる。また、本実施形態の腐食状態判定方法は、特に限定されることはなく、人間によっても実行可能であるし、コンピュータ上で実行されるとコンピュータに本実施形態の腐食状態判定方法を実行させるコンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラムによっても実行可能である。なお、以下ではいくつかの工程について説明するが、工程の順序は以下の説明の順序に限定されることはない。
【0059】
本実施形態の腐食状態判定方法は、コンクリート構造物11に埋設された鋼材11bの腐食状態を判定する方法である。腐食状態判定方法は、コンクリート構造物11の表面のうち複数の照合表面11dのそれぞれについて、複数の照合表面11dのそれぞれの近傍の鋼材11bの電位を取得する工程を含んでいる。本実施形態では、複数の照合表面11dのそれぞれの近傍の鋼材11bの電位を取得するために、コンクリート構造物11における基準位置とコンクリート構造物11の表面における複数の照合表面11dのそれぞれとの間の電位差を取得する。取得した電位差は、必要に応じて較正処理を行なって、照合表面11d近傍の鋼材11bの電位(自然電位または相対電位)として処理する。上述したように、照合表面11dについての電位は、基準位置がコンクリート構造物11の鋼材11bである場合は、照合表面11d近傍の鋼材11bの自然電位を示し、基準位置がコンクリート構造物11表面の基準表面11cである場合は、基準表面11c近傍の鋼材11bに対する照合表面11d近傍の鋼材11bの相対電位を示す。照合表面11dについての電位は、たとえば、照合表面11dの位置と対応付けて、腐食状態判定装置6の内部または外部の記憶装置に記憶させてもよい。コンクリート構造物11の表面上で互いに隣接して(たとえば、第1の方向Xおよび/または第2の方向Yに沿って互いに隣接して)配置された照合表面11dについての電位を取得することで、
図5および
図8に示されるように、コンクリート構造物11内の鋼材11bの電位分布を調べることができる。
【0060】
複数の照合表面11dのそれぞれの近傍の鋼材11bの電位を取得する工程は、照合表面11d内に配置された複数の照合点11eのそれぞれについて、複数の照合点11eのそれぞれの近傍の鋼材11bの電位を取得する工程を含んでいてもよい。本実施形態では、複数の照合点11eのそれぞれの近傍の鋼材11bの電位を取得するために、コンクリート構造物11における基準位置と、照合表面11d内に配置された複数の照合点11eのそれぞれとの間の電位差を取得する。複数の照合点11eについて取得した複数の電位差は、必要に応じて較正処理を行なって、各照合点11e近傍の鋼材11bの電位(自然電位または相対電位)として、また、以下で述べるように同じ照合表面11d内で平均化することで、照合表面11d近傍の鋼材11bの電位(自然電位または相対電位)として処理する。上述したように、照合点11eについての電位は、基準位置がコンクリート構造物11の鋼材11bである場合は、照合点11e近傍の鋼材11bの自然電位を示し、基準位置がコンクリート構造物11表面の基準表面11cである場合は、基準表面11c近傍の鋼材11bに対する照合点11e近傍の鋼材11bの相対電位を示す。照合点11eについての電位は、たとえば、照合点11eの位置、および照合点11eが配置される照合表面11dの位置と対応付けて、腐食状態判定装置6の内部または外部の記憶装置に記憶させてもよい。コンクリート構造物11の表面上の照合表面11d内で互いに間隔を空けて(たとえば、第1の方向Xおよび/または第2の方向Yに沿って互いに略等間隔で)配置された照合点11eについての電位を取得することで、
図4および
図7に示されるように、コンクリート構造物11内の鋼材11bの電位分布をより詳細に調べることができる。
【0061】
複数の照合点11eのそれぞれの近傍の鋼材11bの電位を取得する際に、同じ照合表面11d内の複数の照合点11eについての複数の電位を同じタイミングで取得してもよい。複数の照合点11eについての複数の電位を同じタイミングで取得することで、複数の照合点11eの経時変化の影響を抑制することができる。ただし、同じ照合表面11d内の複数の照合点11eについて、同じタイミングではなく、異なるタイミングで鋼材11bの電位を取得してもよい。
【0062】
複数の照合表面11dのそれぞれの近傍の鋼材11bの電位を取得する工程は、複数の照合点11eの近傍の鋼材11bの電位の平均値を照合表面11dについての電位として算出する工程を含んでいてもよい。複数の照合点11eについての電位を平均して照合表面11dについての電位を算出することで、
図5および
図8に示されるように、コンクリート構造物11表面内の照合表面11d毎の鋼材11bの電位分布を調べることができる。また、複数の照合点11eのうちいずれかについてノイズなどに起因した異常値を偶然取得したとしても、平均化することでその異常値の影響を小さく抑えることができるので、照合表面11dについての電位を、より高い精度で得ることができる。特に、複数の照合点11eについての複数の電位を同じタイミングで取得すれば、少なくとも経時変化の影響を抑制できるので、より精度の高い電位を得ることができる。ただし、照合表面11d近傍の鋼材11bの電位は、照合表面11d内の複数の照合点11eの近傍の鋼材11bの電位の平均値として取得するのではなく、単一の電位として取得してもよい。
【0063】
本実施形態の腐食状態判定方法は、複数の照合表面11dのそれぞれについて電位の勾配を算出する工程を含んでいる。電位の勾配は、照合表面11dにおける単位長さ当たりの電位の変化を意味する。ある照合表面11dについての電位の勾配が大きければ大きいほど、その照合表面11d近傍の鋼材11bの電位の変化が大きく、たとえば、その照合表面11dを挟んで両側の照合表面11dの近傍の鋼材11b同士の電位の差異が大きい。したがって、ある照合表面11dについての電位の勾配が大きいと、その照合表面11dを挟んで両側の照合表面11dの近傍の鋼材11b同士の腐食状態が互いに大きく異なっていると推定することができる。
【0064】
照合表面11dについての電位の勾配は、特に限定されることはなく、様々な方法によって算出可能である。たとえば、照合表面11dについての電位の勾配を算出する工程は、照合表面11d内の複数の照合点11eについての電位の差分および複数の照合点11eの間の距離dx、dy(
図3(a)、(b)参照)に基づいて、照合表面11dについての電位の勾配を算出する工程を含んでいてもよい。たとえば、同じタイミングで取得した複数の照合点11eについての複数の電位を用いて照合表面11dについての電位の勾配を算出することで、少なくとも経時変化の影響を抑制することができ、より精度の高い電位の勾配を算出することができる。なお、照合表面11dについての電位の勾配は、上記以外にも、照合表面11dに隣接する他の照合表面11dとの間の電位の差分および距離に基づいて算出することもできる。
【0065】
ここで、本実施形態では、
図3(a)に示されるように、複数の照合点11eは、照合表面11d上で第1の方向Xおよび第2の方向Yに沿って並んで配置されている。図示された例では、複数(図示された例では9つ)の照合点11eは、互いに略直交する第1の方向Xおよび第2の方向Yのそれぞれに沿って、互いに略等間隔で行列状(または格子状)に配置されている。複数の照合点11eが第1の方向Xおよび第2の方向Yに沿って並んで配置されている場合には、照合表面11dについての電位の勾配を算出する工程は、第1の方向Xにおける電位の勾配を第1の勾配Sxとして算出する工程と、第2の方向Yにおける電位の勾配を第2の勾配Syとして算出する工程と、第1および第2の勾配Sx、Syに基づいて、照合表面11dについての電位の勾配Sを算出する工程とを含んでいてもよい。たとえば、照合表面11dについての電位の勾配Sは、以下の式(1)で示されるように、第1および第2の勾配Sx、Syの2乗和の平方根により算出することができる。
【0066】
ただし、Sx、Syはそれぞれ、第1および第2の方向X、Yにおける電位の勾配を表す。
【0067】
第1の勾配Sxは、第1の方向Xに沿って並んで配置された複数の照合点11eについての電位の差分と複数の照合点11eの間の距離dxとに基づいて算出することができる(
図3(b)参照)。たとえば、第1の勾配Sxは、第1の方向Xに沿って並んで配置された複数の照合点11eのうち最も離間した2つの照合点11eについて取得された電位の差分(
図3(b)中、E
11-E
31、E
12-E
32、E
13-E
33)を、最も離間した2つの照合点11eの間の距離(隣接する照合点11eの間の距離dxの2倍)で除算することによって求めることができる。このとき、最も離間して配置された照合点11eの対が3つあるため、第1の勾配Sxは、3つの対の照合点11eについての電位の勾配を平均することによって求めてもよい。この算出方法は、以下の式(2)によって表される。
【0068】
また、第2の勾配Syは、第1の勾配Sxと同様に、第2の方向Yに沿って並んで配置された複数の照合点11eについての電位の差分と複数の照合点11eの間の距離dyとに基づいて算出することができる(
図3(b)参照)。たとえば、第2の勾配Syは、第2の方向Yに沿って並んで配置された複数の照合点11eのうち最も離間した2つの照合点11eについて取得された電位の差分(
図3(b)中、E
11-E
13、E
21-E
23、E
31-E
33)を、最も離間した2つの照合点11eの間の距離(隣接する照合点11eの間の距離dyの2倍)で除算することによって求めることができる。このとき、最も離間して配置された照合点11eの対が3つあるため、第2の勾配Syは、3つの対の照合点11eについての電位の勾配を平均化することによって求めてもよい。この算出方法は、以下の式(3)によって表される。
【0069】
ただし、E
11~E
33は、複数の照合点11eのそれぞれについての電位(自然電位)を表し、dx、dyはそれぞれ、第1および第2の方向X、Yにおける照合点11eの間の距離(
図3(a)、(b)に示された例では、ともに100mm)を表す。
【0070】
本実施形態の腐食状態判定方法は、照合表面11dのそれぞれについての電位の勾配が所定の閾値以上であるか否かを判定する工程を含んでいる。所定の閾値は、鋼材11bの腐食状態や腐食領域の分布に応じて適宜設定することができる。たとえば、所定の閾値は、判定対象とされたコンクリート構造物11の表面内で、相対的に変化(勾配)の小さい電位が取得された照合表面11dについての電位の勾配を基準として、その基準となる電位の勾配よりも大きい範囲で設定することができる。基準となる電位の勾配としては、たとえば、腐食していない、または腐食していない可能性の高い鋼材11bの領域近傍の照合表面11dについて取得される電位の勾配や、腐食している、または腐食している可能性の高い鋼材11bの領域近傍の照合表面11dについて取得される電位の勾配を選択することができる。
【0071】
本実施形態の腐食状態判定方法は、電位の勾配が所定の閾値以上であると判定された照合表面11dを、照合表面11d近傍の鋼材11bが腐食状態と非腐食状態との間の境界状態である可能性が高い境界領域と判定する工程を含んでいる。判定対象とされたコンクリート構造物11の表面内で、ある照合表面11dが境界領域と判定されることで、境界領域と判定された照合表面11d近傍において鋼材11bの腐食状態が大きく変化していることを認識することができる。それにより、たとえば、境界領域であると判定された照合表面11dを挟んで両側に位置する照合表面11dの近傍の鋼材11bは、取得された電位の大きさを併せて考慮することで、腐食しているか、または腐食していないかのいずれかの可能性が高いと判定することができる。あるいは、境界領域と判定された照合表面11dについての電位と比較して電位が大きいか、または小さいかに応じて、境界領域以外の照合表面11d近傍の鋼材11bが腐食しているか、または腐食していないかのいずれかの可能性が高いと判定することができる。したがって、本実施形態の腐食状態判定方法によれば、以下でも詳しく述べるように、従来の方法では腐食状態が不確定と判定された鋼材11bの領域であっても、腐食状態または非腐食状態と判定することが可能で、腐食状態が不確定と判定される領域が少なくなり、優れた判定精度を得ることができる。
【0072】
本実施形態の腐食状態判定方法では、上述したように、少なくとも照合表面11dが境界領域であるか否かを判定する工程を含んでいればよく、境界領域以外の照合表面11d近傍の鋼材11bの腐食状態については、特に限定されることはなく、様々な方法によって判定することができる。たとえば、本実施形態の腐食状態判定方法は、境界領域と判定された照合表面11dの空間分布を基準に、境界領域以外の照合表面11d近傍の鋼材11bの腐食状態を判定する工程を含んでいてもよい。より具体的には、本実施形態の腐食状態判定方法は、境界領域と判定された照合表面11dに隣接する照合表面11dについての電位が、境界領域と判定された照合表面11dについての電位よりも低い場合には、その隣接する照合表面11dを、その隣接する照合表面11d近傍の鋼材11bが腐食状態である可能性が高い腐食領域と判定する工程を含んでいてもよい。また、腐食状態判定方法は、境界領域と判定された照合表面11dに隣接する照合表面11dについての電位が、境界領域と判定された照合表面11dについての電位よりも高い場合には、その隣接する照合表面11dを、その隣接する照合表面11d近傍の鋼材11bが非腐食状態である可能性が高い非腐食領域と判定する工程を含んでいてもよい。
【0073】
ここで、
図5および
図8を参照すると、上記方法に従って境界領域と判定された照合表面11dが点線で囲まれている(
図5では、(X1、Y2)~(X5、Y2)の領域、
図8では、(X1、Y3)~(X5、Y3)の領域)。境界領域と判定された照合表面11dを挟んで両側の照合表面11dのうち、一方側(
図5および
図8中、境界領域よりも上側)の照合表面11dについては、鋼材11bの電位が相対的に高く、他方側(
図5および
図8中、境界領域よりも下側)の照合表面11dについては、鋼材11bの電位が相対的に低い。このような電位の違いを考慮して、境界領域の一方側の照合表面11dを、その近傍の鋼材11bが非腐食状態である可能性が高い非腐食領域と判定することができ、境界領域の他方側の照合表面11dを、その近傍の鋼材11bが腐食状態である可能性が高い腐食領域と判定することができる。
【0074】
特に、
図5に示された例では、境界領域の他方側(
図5中、境界領域よりも下側)の照合表面11dの近傍の鋼材11bは、従来の方法の基準(ASTM C876)によれば、その電位が第1の閾値(-350mV)よりも大きく、第2の閾値(-200mV)以下であるので、腐食状態が不確定と判定される。しかし、本実施形態の腐食状態判定方法によれば、従来の方法の基準では腐食状態が不確定と判定される鋼材11bの領域についても、腐食状態である可能性が高いと判定することができるので、より優れた判定精度を得ることができる。
【0075】
また、本実施形態の腐食状態判定方法は、境界領域と判定された照合表面11dの電位を基準に、境界領域以外の照合表面11d近傍の鋼材11bの腐食状態を判定する工程を含んでいてもよい。たとえば、
図6および
図9を参照して説明すると、本実施形態の腐食状態判定方法は、境界領域と判定された照合表面11d以外の照合表面11dについての電位が、境界領域と判定された照合表面11dについての電位のうちの最小電位(
図6および
図9中、点線枠の右端の電位)未満であるか否かを判定する工程を含んでいてもよい。そして、本実施形態の腐食状態判定方法は、電位が最小電位未満と判定された照合表面11d(
図6および
図9中、点線枠よりも右側にプロットされた照合表面11d)を、照合表面11d近傍の鋼材11bが腐食状態である可能性が高い腐食領域と判定する工程を含んでいてもよい。また、本実施形態の腐食状態判定方法は、境界領域と判定された照合表面11d以外の照合表面11dについての電位が、境界領域と判定された照合表面11dについての電位のうちの最大電位(
図6および
図9中、点線枠の左端の電位)より大きいか否かを判定する工程を含んでいてもよい。そして、本実施形態の腐食状態判定方法は、電位が最大電位より大きいと判定された照合表面11d(
図6および
図9中、点線枠よりも左側にプロットされた照合表面11d)を、照合表面11d近傍の鋼材11bが非腐食状態である可能性が高い非腐食領域と判定する工程を含んでいてもよい。
【0076】
特に、
図6に示された例では、電位が最小電位未満と判定された照合表面11d(
図6中、点線枠よりも右側にプロットされた照合表面11d)の近傍の鋼材11bは、従来の方法の基準(ASTM C876)によれば、その電位が第1の閾値(-350mV)よりも大きく、第2の閾値(-200mV)以下であるので、腐食状態が不確定と判定される。しかし、本実施形態の腐食状態判定方法によれば、従来の方法の基準では腐食状態が不確定と判定される鋼材11bの領域についても、腐食状態である可能性が高いと判定することができるので、より優れた判定精度を得ることができる。
【0077】
本実施形態の腐食状態判定方法は、
図6および
図9に示されるように、複数の照合表面11dのそれぞれについての電位および電位の勾配を、一方の軸が電位を示し、他方の軸が電位の勾配を示す座標系に表示する工程をさらに含んでいてもよい。本実施形態の腐食状態判定方法によれば、照合表面11dについての電位と電位の勾配の関係をグラフ表示することで、鋼材11bの電位に対する電位の勾配の分布を明確に把握することができる。したがって、たとえば
図4~5および
図7~8に示されるように鋼材11bの電位を色の濃淡で表示する場合と比べて、境界領域を明確に把握することができ、鋼材11bの腐食状態をより明確に把握することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 腐食状態判定システム
2 基準接触部
21 基準端子
22 基準電極
3 照合電極ユニット
31 照合電極
32 照合電極支持部
4 電位差計測装置
5 導線
6 腐食状態判定装置
61 取得部
62 演算部
63 判定部
64 表示部
11 コンクリート構造物
11a コンクリート
11b 鋼材(鉄筋)
11c 基準表面
11d 照合表面
11e 照合点
d 鋼材間の距離
dx 第1の方向における照合点の間の距離
dy 第2の方向における照合点の間の距離
X 第1の方向
Y 第2の方向