(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121623
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】タイヤの動的特性の予測方法及び予測装置
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20230824BHJP
G01M 17/02 20060101ALI20230824BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20230824BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20230824BHJP
【FI】
G06F30/20
G01M17/02
G06F30/27
G06F30/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025069
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】古橋 龍一
(72)【発明者】
【氏名】玉田 良太
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA05
5B146DC01
5B146DC03
5B146DJ01
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】 予測モデルの作成に必要な教師データの個数を削減することが可能なタイヤの動的特性の予測方法を提供する。
【解決手段】 タイヤの動的特性を予測するための方法である。この方法は、タイヤの設計因子の少なくとも1つが異なる複数のタイヤの設計因子を入力する工程S1と、複数のタイヤの静的特性を入力する工程S2と、複数のタイヤの動的特性を入力する工程S3と、複数のタイヤの設計因子、静的特性及び動的特性を教師データとして用いて、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性から、予測対象のタイヤの動的特性を出力可能な予測モデルを作成する工程S4と、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を入力する工程S5と、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を、予測モデルに入力して、予測対象のタイヤの動的特性を出力する工程S6とを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの動的特性を予測するための方法であって、
タイヤの設計因子の少なくとも1つが異なる複数のタイヤについて、前記設計因子をコンピュータにそれぞれ入力する工程と、
前記複数のタイヤの静的特性を、前記コンピュータにそれぞれ入力する工程と、
前記複数のタイヤの動的特性を、前記コンピュータにそれぞれ入力する工程と、
前記コンピュータが、前記複数のタイヤの前記設計因子、前記静的特性及び前記動的特性を教師データとして用いて、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性から、前記予測対象のタイヤの動的特性を出力可能な予測モデルを作成する工程と、
前記コンピュータに、前記予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を入力する工程と、
前記コンピュータが、前記予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を、前記予測モデルに入力して、前記予測対象のタイヤの動的特性を出力する工程とを含む、
タイヤの動的特性の予測方法。
【請求項2】
前記予測対象のタイヤの静的特性を、前記コンピュータを用いたシミュレーションによって取得する工程をさらに含む、請求項1に記載のタイヤの動的特性の予測方法。
【請求項3】
前記静的特性は、トレッド部の接地形状に関するパラメータを含む、請求項1又は2に記載のタイヤの動的特性の予測方法。
【請求項4】
前記静的特性は、バネに関するパラメータを含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤの動的特性の予測方法。
【請求項5】
前記動的特性は、コーナリングフォース及びコーナリングパワーの少なくとも1つを含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のタイヤの動的特性の予測方法。
【請求項6】
前記予測モデルを作成する工程は、統計学的手法又は機械学習に基づいて、前記予測モデルを作成する、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のタイヤの動的特性の予測方法。
【請求項7】
タイヤの動的特性を予測するための装置であって、
タイヤの設計因子の少なくとも1つが異なる複数のタイヤについて、前記設計因子を記憶するための第1記憶部と、
前記複数のタイヤの静的特性を記憶するための第2記憶部と、
前記複数のタイヤの動的特性を記憶するための第3記憶部と、
前記複数のタイヤの前記設計因子、前記静的特性及び前記動的特性を教師データとして用いて、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性から、前記予測対象のタイヤの動的特性を出力可能な予測モデルを作成する予測モデル作成部と、
前記予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を記憶する第4記憶部と、
前記予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を、前記予測モデルに入力して、前記予測対象のタイヤの動的特性を出力する動的特性出力部とを含む、
タイヤの動的特性の予測装置。
【請求項8】
タイヤの動的特性の予測モデルを作成するための方法であって、
タイヤの設計因子の少なくとも1つが異なる複数のタイヤについて、前記設計因子をコンピュータにそれぞれ入力する工程と、
前記複数のタイヤの静的特性を、前記コンピュータにそれぞれ入力する工程と、
前記複数のタイヤの動的特性を、前記コンピュータにそれぞれ入力する工程と、
前記コンピュータが、前記複数のタイヤの前記設計因子、前記静的特性及び前記動的特性を教師データとして用いて、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性から、前記予測対象のタイヤの動的特性を出力可能な予測モデルを作成する工程とを含む、
タイヤの動的特性予測モデルの作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤの動的特性の予測方法及び予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、タイヤのトラクション性能を評価するためのシミュレーション方法が記載されている。この方法には、路面モデル上でタイヤモデルを転動させるシミュレーション工程と、転動しているタイヤモデルからトラクション性能に関する物理量を取得する工程とが含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、既存の教師データから予測モデルを作成して、種々の予測を行う技術が提案されている。各教師データには、予測に影響を及ぼす複数の説明変数が含まれる。
【0005】
例えば、タイヤの性能を予測する場合、その性能に影響を及ぼす多数の設計因子(説明変数)が必要となる。このような説明変数が多くなると、予測モデルの作成に多くの教師データが必要となるという問題があった。
【0006】
本開示は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、予測モデルの作成に必要な教師データの個数を削減することが可能なタイヤの動的特性の予測方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、タイヤの動的特性を予測するための方法であって、タイヤの設計因子の少なくとも1つが異なる複数のタイヤについて、前記設計因子をコンピュータにそれぞれ入力する工程と、前記複数のタイヤの静的特性を、前記コンピュータにそれぞれ入力する工程と、前記複数のタイヤの動的特性を、前記コンピュータにそれぞれ入力する工程と、前記コンピュータが、前記複数のタイヤの前記設計因子、前記静的特性及び前記動的特性を教師データとして用いて、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性から、前記予測対象のタイヤの動的特性を出力可能な予測モデルを作成する工程と、前記コンピュータに、前記予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を入力する工程と、前記コンピュータが、前記予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を、前記予測モデルに入力して、前記予測対象のタイヤの動的特性を出力する工程とを含む、タイヤの動的特性の予測方法である。
【発明の効果】
【0008】
本開示のタイヤの動的特性の予測方法は、上記の工程を採用することにより、予測モデルの作成に必要な教師データの個数を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】タイヤの動的特性の予測方法が実行されるコンピュータ(タイヤの動的特性の予測装置)を示すブロック図である。
【
図4】タイヤのシミュレーション方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】統計学的手法に基づく予測モデル(近似応答曲面)を概念的に示すグラフである。
【
図6】機械学習に基づく予測モデルの概念図である。
【
図7】予測対象データ入力工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8】静的特性入力工程の処理手順を示すフローチャートである。
【
図9】タイヤモデル及び路面モデルを示す斜視図である。
【
図11】タイヤの動的特性予測モデルの作成方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図12】実施例のコーナリングパワーの予測値と、コーナリングパワーの測定値との関係を示すグラフである。
【
図13】比較例のコーナリングパワーの予測値と、コーナリングパワーの実測値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、開示の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本開示の内容理解のためのものであって、本開示は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態のタイヤの動的特性の予測方法(以下、単に「予測方法」ということがある。)は、タイヤの動的特性が、コンピュータを用いて予測される。
図1は、本実施形態のタイヤの動的特性の予測方法が実行されるコンピュータ1(タイヤの動的特性の予測装置1A)を示すブロック図である。
【0012】
[タイヤの動的特性の予測装置]
本実施形態のコンピュータ1は、入力デバイスとしての入力部2、出力デバイスとしての出力部3、及び、タイヤの物理量等を計算する演算処理装置4を有し、タイヤの動的特性の予測装置(以下、単に「予測装置」ということがある。)1Aとして構成されている。
【0013】
[入力部・出力部・演算処理装置]
入力部2には、例えば、キーボード又はマウス等が用いられる。出力部3には、例えば、ディスプレイ装置又はプリンタ等が用いられる。演算処理装置4は、各種の演算を行う演算部(CPU)4A、データやプログラム等が記憶される記憶部4B、及び、作業用メモリ4Cを含んで構成されている。
【0014】
[記憶部]
記憶部4Bは、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。記憶部4Bには、データ部5、及び、プログラム部6が設けられている。
【0015】
[データ部]
本実施形態のデータ部5は、予測方法を実行するために必要なデータ等を記憶するためのものである。本実施形態のデータ部5は、第1記憶部5A、第2記憶部5B、第3記憶部5C及び第4記憶部5Dが含まれる。さらに、データ部5には、第5記憶部5E、第6記憶部5F、第7記憶部5G及び第8記憶部5Hが含まれる。なお、データ部5は、このような態様に限定されるわけではなく、必要に応じて、その他の記憶部が含まれてもよいし、これらの記憶部の一部が省略されてもよい。
【0016】
第1記憶部5Aは、タイヤの設計因子の少なくとも1つが異なる複数のタイヤについて、それらの設計因子をそれぞれ記憶するためのものである。第2記憶部5Bは、複数のタイヤの静的特性を記憶するためのものである。第3記憶部5Cは、複数のタイヤの動的特性を記憶するためのものである。第4記憶部5Dは、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を記憶するためのものである。
【0017】
第5記憶部5Eは、後述のシミュレーションに必要なデータを記憶するためのものである。シミュレーションに必要なデータには、例えば、タイヤが走行する路面に関する情報、シミュレーションの境界条件、及び、シミュレーションの終了条件が含まれる。第6記憶部5Fは、シミュレーションで計算された演算結果を記憶するためのものである。第7記憶部5Gは、作成された予測モデルを記憶するためのものである。第8記憶部5Hは、予測対象のタイヤの動的特性を記憶するためのものである。
【0018】
プログラム部6は、予測方法の実行に必要なプログラム(アプリケーション)である。プログラム部6は、演算部4Aによって実行される。
【0019】
本実施形態のプログラム部6には、予測モデル作成部6Aと、動的特性出力部6Bとが含まれる。さらに、本実施形態のプログラム部6には、設計因子入力部6Cと、静的特性入力部6Dと、動的特性入力部6Eと、予測対象データ入力部6Fと、シミュレーション計算部6Gと、評価部6Hとが含まれる。なお、プログラム部6は、このような態様に限定されるわけではなく、必要に応じて、その他の入力部が含まれてもよいし、これらの一部が省略されてもよい。
【0020】
予測モデル作成部6Aは、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性から、予測対象のタイヤの動的特性を出力可能な予測モデルを作成するためのものである。動的特性出力部6Bは、予測対象のタイヤの動的特性を出力するためのものである。
【0021】
設計因子入力部6Cは、複数のタイヤの設計因子を入力するためのものである。静的特性入力部6Dは、複数のタイヤの静的特性を入力するためのものである。動的特性入力部6Eは、複数のタイヤの動的特性を入力するためのものである。予測対象データ入力部6Fは、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を入力するためのものである。シミュレーション計算部6Gは、シミュレーションによって、予測対象のタイヤの静的特性を出力するためのものである。評価部6Hは、予測対象のタイヤの動的特性が良好か否かを判断するためのものである。なお、各プログラム部6の機能は、後述のシミュレーション方法の各工程において説明される。
【0022】
[タイヤ]
図2は、本実施形態のタイヤ11の断面図である。本実施形態のタイヤ11は、例えば、乗用車用の空気入りタイヤである場合が例示される。但し、タイヤ11は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、重荷重用の空気入りタイヤ等であってもよい。
【0023】
本実施形態のタイヤ11には、トレッド部12からサイドウォール部13を経てビード部14のビードコア15に至るカーカス16と、このカーカス16のタイヤ半径方向外側かつトレッド部12の内部に配されるベルト層17及びバンド層18とが設けられている。
【0024】
本実施形態のトレッド部12には、バンド層18のタイヤ半径方向外側に配されたトレッドゴム19が設けられている。トレッドゴム19は、ベースゴム19Aと、ベースゴム19Aのタイヤ半径方向外側に配されるキャップゴム19Bとを含んで構成されている。サイドウォール部13には、カーカス16のタイヤ軸方向外側に配されるサイドウォールゴム20が設けられる。ビード部14には、タイヤ11がリム26に装着されたときにリム26と接触するクリンチゴム21と、ビードコア15からタイヤ半径方向外側に延びるビードエーペックスゴム22とが設けられている。
【0025】
図3は、
図2の部分拡大図である。本実施形態のトレッド部12は、タイヤ赤道Cを含むクラウン領域23Aと、トレッド接地端12tを含むショルダー領域23Cと、クラウン領域23Aとショルダー領域23Cとの間に配されるミドル領域23Bとを含んでいる。なお、トレッド部12は、このような態様に限定されない。
【0026】
図2に示されるように、トレッド接地端12tは、正規状態のタイヤ11に正規荷重を負荷して、キャンバー角0°で平面に接地させたときのトレッド部12の接地面12Sのタイヤ軸方向の最外端として特定される。正規状態において、一対のトレッド接地端12t、12t(
図2において、他方のトレッド接地端12tを省略)間のタイヤ軸方向の距離が、トレッド接地幅TWとして定められる。
【0027】
正規状態とは、タイヤ11が正規リム(リム26)にリム組みされ、かつ、正規内圧が充填された無負荷の状態である。本明細書では、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、正規状態で測定された値で示される。なお、タイヤ各部の寸法等は、ゴム成形品に含まれる通常の誤差が許容されるものとする。
【0028】
「正規リム」とは、タイヤ11が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムである。したがって、正規リムは、例えば、JATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば"Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0029】
「正規内圧」とは、タイヤ11が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧である。したがって、正規内圧は、例えば、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0030】
「正規荷重」とは、タイヤ11が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重である。したがって、正規荷重は、例えば、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0031】
[タイヤの設計因子]
タイヤ11は、予め定められた設計因子に基づいて製造されている。
図3に示されるように、本実施形態の設計因子には、クラウン領域23Aの第1ラジアスTR1と、ミドル領域23Bの第2ラジアスTR2と、ショルダー領域23Cの第3ラジアスTR3とが含まれる。さらに、設計因子には、トレッド接地端12tとサイドウォール部13との間のバットレス領域23Dの第4ラジアスTR4が含まれる。
【0032】
本実施形態の設計因子には、クラウン領域23Aとミドル領域23Bとの境界である第1境界P1について、タイヤ赤道Cからの第1境界P1の距離L1が含まれる。さらに、設計因子には、ミドル領域23Bとショルダー領域23Cとの境界である第2境界P2について、タイヤ赤道Cからの第2境界P2の距離L2が含まれる。さらに、設計因子には、ショルダー領域23Cとバットレス領域23Dとの境界である第3境界P3について、タイヤ赤道Cからの第3境界P3の距離L3が含まれる。さらに、設計因子には、サイドウォール部13の外面の曲率が含まれる。
【0033】
本実施形態の設計因子には、キャップゴム19Bの複素弾性率E*、ベースゴム19Aの複素弾性率E*、サイドウォールゴム20の複素弾性率E*及びビードエーペックスゴム22(
図2に示す)の複素弾性率E*が含まれる。各複素弾性率E*は、JIS K6394の規定に準拠して、下記の測定条件により、GABO社製の動的粘弾性測定装置(イプレクサーシリーズ)を用いて測定される。
周波数:10Hz
初期歪:5%
動歪 :±1%
温度 :30℃
変形モード:引張
【0034】
本実施形態の設計因子には、
図2に示したバンド層18を構成するタイヤ周方向に配列されたバンドコード(図示省略)について、タイヤ周方向に対する角度、及び、バンドコードの材料が含まれる。さらに、設計因子には、ベルト層17を構成するベルトコード(図示省略)のタイヤ周方向に対する角度と、ベルト層17のタイヤ軸方向の幅W1と、ビードエーペックスゴム22のタイヤ半径方向の長さL4とが含まれる。
【0035】
本実施形態の設計因子には、
図3に示されるように、第1ゲージG1、第2ゲージG2、第3ゲージG3及び第4ゲージG4が含まれる。第1ゲージG1は、タイヤ赤道Cでのトレッドゴム19の最大厚さである。第2ゲージG2は、第1境界P1でのトレッドゴム19の最大厚さである。第3ゲージG3は、第3境界P3でのトレッドゴム19の最大厚さである。第4ゲージG4は、バットレス領域23Dとサイドウォール部13の第4境界P4でのサイドウォールゴム20の最大ゴム厚さである。
【0036】
本実施形態の設計因子には、第5ゲージG5、第6ゲージG6及び第7ゲージG7が含まれる。
図2に示されるように、第5ゲージG5は、タイヤ最大幅位置P5でのサイドウォールゴム20の厚さである。なお、タイヤ最大幅位置P5は、カーカス16が、タイヤ軸方向の最も外側となる位置である。第6ゲージG6は、クリンチゴム21の最大幅である。
図3に示されるように、第7ゲージG7は、第2境界P2でのトレッドゴム19の最大厚さである。
【0037】
本実施形態の設計因子には、
図2に示したリム幅W2、タイヤに充填される内圧、及び、タイヤに負荷される荷重が含まれる。リム幅W2は、タイヤ11の上記正規リム(リム26)のリム幅である。内圧は、タイヤ11の上記正規内圧である。荷重は、タイヤ11の上記の正規荷重である。
【0038】
上記の設計因子は、タイヤ11の設計因子の一例であり、これらの以外の設計因子が含まれてもよい。
【0039】
[タイヤの動的特性の予測方法(第1実施形態)]
次に、本実施形態の予測方法が説明される。本実施形態では、上記の設計因子の少なくとも1つが異なる設計因子が異なる複数のタイヤ11について、これらのタイヤ11の設計因子を含んだ教師データに基づく予測モデルを作成し、予測対象のタイヤ11Aの動的特性が予測される。動的特性とは、走行中のタイヤ11の特性を示すものであり、例えば、コーナリングフォース及びコーナリングパワー等が挙げられる。
【0040】
一般に、タイヤ11Aの動的特性を予測するには、その動的特性に影響を及ぼす多数の設計因子(説明変数)を含んだ教師データが必要となる。多数の設計因子は、例えば、上記のようなものが含まれる。このような説明変数が多くなると、予測モデルの作成に多くの教師データが必要となるという問題がある。
【0041】
また、教師データが多くなると、予測モデルの作成に多くの時間を要することから、予測対象のタイヤ11Aの性能の予測に、多くの時間を要するという問題もある。さらに、教師データが本来示唆する傾向から大きく外れるといった過学習が発生するという問題もある。
【0042】
開示者らは、鋭意研究を重ねた結果、タイヤ11の動的特性の予測に必要な設計因子(説明変数)のうち、複数の設計因子を、一つ静的特性で代替できることを知見した。静的特性とは、静止中の(荷重のみが負荷された)タイヤ11の特性を示すものである。静的特性には、例えば、トレッド部12の接地形状に関するパラメータや、バネに関するパラメータ等が含まれる。
【0043】
本実施形態の予測方法では、予測モデル及び教師データの説明変数に、タイヤ11の静的特性が含まれる。これにより、説明変数(設計因子)の個数を少なくし、予測精度の高い予測モデルの作成に必要な教師データの個数の削減が図られている。
図4は、本実施形態のタイヤのシミュレーション方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0044】
[複数のタイヤの設計因子を入力]
本実施形態の予測方法では、先ず、タイヤの設計因子の少なくとも1つが異なる複数のタイヤ11(
図2に示す)について、それらの設計因子がコンピュータ1(
図1に示す)にそれぞれ入力される(工程S1)。
【0045】
本実施形態の工程S1では、先ず、
図1に示されるように、設計因子入力部6Cが作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、設計因子入力部6Cが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、複数のタイヤ11(
図2及び
図3に示す)の設計因子をそれぞれ入力するための手段として機能させている。
【0046】
本実施形態の工程S1では、上記の設計因子の少なくとも1つが異なる複数のタイヤ11について、それらの設計因子が特定される。設計因子の特定には、例えば、各タイヤ11の設計データ(CADデータ)が用いられているが、実際のタイヤ11の測定結果が用いられてもよい。これらの設計因子は、予測モデルの教師データの説明変数に用いられる。また、動的特性を精度よく予測可能な予測モデル31を作成する観点から、複数のタイヤ11は、予測対象のタイヤ11Aと同一カテゴリー(例えば、乗用車用の空気入りタイヤ)であってもよい。
【0047】
上述したように、本実施形態の予測方法では、教師データ(予測モデル)の説明変数に、タイヤ11の静的特性が含まれることで、説明変数の個数を少なくしている。静的特性として、トレッド部12の接地形状に関するパラメータや、バネに関するパラメータが含まれる場合、各静的特性は、上述の設計因子のうち、複数の設計因子に密接に関連しており、それらの設計因子を代替することができる。
【0048】
代替可能な設計因子には、例えば、
図3に示した第1ラジアスTR1、第2ラジアスTR2、第3ラジアスTR3、第4ラジアスTR4、第1境界P1の距離L1、第2境界P2の距離L2、第3境界P3の距離L3及びサイドウォール部13の外面の曲率が含まれる。他の代替可能な設計因子には、ベースゴム19Aの複素弾性率E*、サイドウォールゴム20の複素弾性率E*及びビードエーペックスゴム22(
図2に示す)の複素弾性率E*、バンドコード(図示省略)の角度、バンドコードの材料が含まれる。他の代替可能な設計因子には、
図2及び
図3に示したビードエーペックスゴム22の長さL4、第2ゲージG2、第4ゲージG4~第7ゲージG7、リム幅W2、内圧及び荷重が含まれる。これらの設計因子は、いずれもタイヤの形状やバネ特性に影響を与える因子である。したがって、これらの設計因子は、静的特性に密接に関連している(相関関係がある)ため、静的特性で代替できる。
【0049】
一方、キャップゴム19B(
図3に示す)の複素弾性率E*、ベルトコードの角度(図示省略)、ベルト層17の幅W1(
図2に示す)、
図3に示した第1ゲージG1及び第3ゲージG3は、いずれも転動中タイヤの接地面内の剛性に大きく影響を与える因子である。したがって、これらの設計因子は、静的特性だけでは代替できない。このため、本実施形態では、複数のタイヤ11の設計因子として、キャップゴム19Bの複素弾性率E*、ベルトコードの角度、ベルト層17の幅W1、第1ゲージG1及び第3ゲージG3が、
図1に示した第1記憶部5A(コンピュータ1)にそれぞれ記憶される。
【0050】
[複数のタイヤの静的特性を入力]
次に、本実施形態の予測方法では、複数のタイヤ11(
図2に示す)の静的特性が、コンピュータ1(
図1に示す)にそれぞれ入力される(工程S2)。
【0051】
本実施形態の工程S2では、先ず、
図1に示されるように、静的特性入力部6Dが作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、静的特性入力部6Dが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、複数のタイヤ11(
図2に示す)の静的特性をそれぞれ入力するための手段として機能させている。
【0052】
上述したように、静的特性には、トレッド部12の接地形状に関するパラメータや、バネに関するパラメータが含まれる。
【0053】
トレッド部12(
図2に示す)の接地形状にパラメータには、例えば、図示しない接地面のタイヤ軸方向の幅(以下、単に「接地幅」ということがある。)、接地面のタイヤ周方向の長さ(以下、単に「接地長」ということがある。)、及び、接地面積が含まれる。これらの接地幅、接地長及び接地面積は、スリップ角がゼロであってもよいし、スリップ角がつけられていてもよい。また、接地幅、接地長及び接地面積は、正規状態のタイヤ11に、正規荷重が負荷された状態で測定される。なお、接地形状に関するパラメータは、接地幅、接地長及び接地面積に限定されるわけではなく、接地形状に関するものであれば、適宜設定されうる。
【0054】
バネに関するパラメータには、例えば、タイヤ11(
図2に示す)の縦バネ定数、及び、タイヤ11の横バネ定数が含まれる。縦バネ定数は、例えば、静的試験機を用いて、正規状態のタイヤ11に縦荷重を付加したときの縦荷重/横たわみ量の比で取得されうる。横バネ定数は、例えば、静的試験機を用いて、正規状態のタイヤ11に横荷重を負荷したときの横荷重/横たわみ量の比で取得されうる。なお、バネに関するパラメータは、縦バネ定数や横バネ定数に限定されるわけではなく、タイヤ11のバネ関するものであれば、適宜設定されうる。
【0055】
本実施形態の工程S2では、複数のタイヤ11の静的特性として、横バネ定数、接地幅及び接地長が取得される。これらの静的特性は、
図1に示す第2記憶部5B(コンピュータ1)に記憶される。
【0056】
[複数のタイヤの静的特性を入力]
次に、本実施形態の予測方法では、複数のタイヤ11(
図2に示す)の動的特性が、コンピュータ1(
図1に示す)にそれぞれ入力される(工程S3)。
【0057】
本実施形態の工程S3では、先ず、
図1に示されるように、動的特性入力部6Eが作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、動的特性入力部6Eが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、複数のタイヤ11(
図2に示す)の動的特性をそれぞれ入力するための手段として機能させている。
【0058】
上述したように、動的特性には、走行中のタイヤ11の特性を示すものであり、例えば、コーナリングフォース及びコーナリングパワーが挙げられる。
【0059】
コーナリングフォースとは、スリップ角αで横すべりしながら自由転動しているタイヤ11に発生している力のうち、転動抵抗が小さいものとして省略して、タイヤ11の横変形によって発生するタイヤ軸方向の横力の進行方向に直角の成分を意味している。一方、コーナリングパワーとは、コーナリングスティフネスが、スリップ角0(原点)におけるコーナリングフォースの立ち上がりの勾配であって、通常、スリップ角1°におけるコーナリングフォースを測定して求められる。コーナリングフォース及びコーナリングパワーは、例えば、ドラム試験機を用いて測定されうる。
【0060】
本実施形態の工程S3では、複数のタイヤ11の動的特性として、コーナリングパワーが取得される。動的特性(コーナリングパワー)は、第3記憶部5C(コンピュータ1)に記憶される。
【0061】
[予測モデルを作成]
次に、本実施形態の予測方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、予測モデルを作成する(工程S4)。本実施形態の工程S4では、複数のタイヤ11(
図2に示す)の設計因子、静的特性及び動的特性を教師データとして用いて、予測対象のタイヤ11Aの設計因子及び静的特性から、予測対象のタイヤ11Aの動的特性を出力可能な予測モデルが作成される。
【0062】
本実施形態の工程S4では、先ず、
図1に示されるように、第1記憶部5Aに入力されている複数のタイヤ11の設計因子、第2記憶部5Bに入力されている複数のタイヤ11の静的特性が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。次に、第3記憶部5Cに入力されている複数のタイヤ11の動的特性が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。次に、予測モデル作成部6Aが作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、予測モデル作成部6Aが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、予測モデルを作成するための手段として機能させている。
【0063】
予測モデル31は、予測対象のタイヤ11Aの設計因子及び静的特性から、予測対象のタイヤ11Aの動的特性を出力可能なものであれば、適宜作成されうる。本実施形態の工程S4では、統計学的手法又は機械学習に基づいて、予測モデルが作成される。
【0064】
統計学的手法は、例えば、クリギング(Kriging)法や、ベイズ線形回帰等が挙げられる。統計学的手法に基づく予測モデルとしては、近似応答曲面(近似応答関数)が作成される。
【0065】
図5は、統計学的手法に基づく予測モデル(近似応答曲面)31を概念的に示すグラフである。予測モデル(近似応答曲面)31は、入力(本例では、タイヤの設計因子及び静的特性)と、出力(本例では、タイヤの動的特性)とが非線形性の強い関係であっても、精度良く表現することが可能である。
【0066】
本実施形態では、例えば、市販のコンピュータソフトウエア(例えば、The MathWorks 社製のMATLAB(「MATLAB」は登録商標)や、ESTECO社製のmodeFRONTIER 等)に、教師データ(複数のタイヤ11の設計因子、静的特性及び動的特性)が代入される。これにより、タイヤ11の設計因子及び静的特性を説明変数とし、タイヤ11の動的特性を目的変数とする予測モデル31が作成される。このような予測モデル31は、例えば、任意のタイヤ11の設計因子及び静的特性が、説明変数として入力されることで、その任意のタイヤ11の動的特性を、既知の複数のタイヤ11の設計因子、静的特性及び動的特性で補完して求めることができる。そして、求められた任意のタイヤ11の動的特性は、目的変数として予測(出力)されうる。
【0067】
機械学習に基づく予測モデル31は、例えば、人工知能(AI:Artificial Intelligence)を用いたディープラーニング(深層学習)によって生成されうる。
図6は、機械学習に基づく予測モデル31の概念図である。
【0068】
機械学習に基づく予測モデル31は、入力層32と、出力層33と、中間層(隠れ層)34とによって定義される。入力層32は、複数のタイヤ11の設計因子及び静的特性32a、32b、32c、・・・を含んでいる。出力層33は、複数のタイヤの動的特性33a、33b、33c、・・・を含んでいる。中間層34は、機械学習によって生成される。
【0069】
入力層32の設計因子及び静的特性32a、32b、32c、・・・は、例えば、出力層33のいずれかの動的特性33a、33b、33c、・・・と紐付けられている。すなわち、複数のタイヤ11の設計因子及び静的特性32a、32b、32c、・・・は、いずれかの動的特性33a、33b、33c、・・・と紐付けられた状態で記憶されており、ディープラーニングの教師データとして利用可能である。
【0070】
中間層34は、多段階に階層化された複数のニューロン(ノード)35と最適化された重み付け係数36(パラメーター)との組み合わせを含んでいる。各ニューロン35は、重み付け係数36によって接続されている。このような中間層34は、ニューラルネットワークと称される。すなわち、本実施形態の予測モデル31は、ニューラルネットワークを含んでいる。
【0071】
重み付け係数36は、例えば、各ニューロン35について、入力に対する出力と、真の出力(教師データ)との差分を小さくするように、それぞれの重み付け係数36を調整することにより学習される。このような学習手法は、誤差逆伝搬法( Backpropagation )と称される。各ニューロン35と各重み付け係数36が定められる。これにより、タイヤ11の設計因子及び静的特性を説明変数とし、タイヤ11の動的特性を目的変数とする予測モデル31が作成される。このような予測モデル31は、例えば、任意のタイヤ11の設計因子及び静的特性が、説明変数として入力されることにより、中間層(ニューラルネットワーク)34を介して、任意のタイヤ11の動的特性を、目的変数として予測(出力)することができる。また、機械学習に基づく予測モデル31の作成には、機械学習ソフトウェア(例えば、ESTECO社製のmodeFRONTIER等)が用いられる。
【0072】
本実施形態では、予測モデル31の説明変数に静的特性が含まれることで、設計因子(説明変数)の個数を少なくできる。これにより、本実施形態では、高い予測精度を有する予測モデル31の作成に必要な教師データの個数を削減することが可能となる。また、教師データの個数が削減されることにより、予測モデル31の作成時間を短縮することが可能となる。さらに、教師データの個数が削減されることで、教師データが本来示唆する傾向から大きく外れるといった過学習の発生を抑制でき、タイヤ11の動的特性を高い精度で予測することが可能となる。
【0073】
本実施形態の工程S4では、統計学的手法(クリギング(Kriging)法)に基づいて、予測モデル31(
図5に示す)が作成されるが、機械学習に基づいて予測モデル31(
図6に示す)が作成されてもよい。予測モデル31は、
図1に示した第7記憶部5G(コンピュータ1)に記憶される。
【0074】
[予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を入力]
次に、本実施形態の予測方法では、コンピュータ1(
図1に示す)に、予測対象のタイヤ11A(
図2に示す)の設計因子及び静的特性が入力される(予測対象データ入力工程S5)。
【0075】
本実施形態の予測対象データ入力工程S5では、先ず、
図1に示されるように、予測対象データ入力部6Fが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、予測対象データ入力部6Fが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を入力するための手段として機能させている。
図7は、予測対象データ入力工程S5の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0076】
[予測対象のタイヤの設計因子を入力]
本実施形態の予測対象データ入力工程S5では、先ず、予測対象のタイヤ11A(
図2に示す)の設計因子が、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される(工程S51)。予測対象のタイヤ11Aは、動的特性が予測されるものであれば、実際に製造されているものに限定されるわけではなく、設計段階(未製造)のタイヤ11であってもよい。
【0077】
本実施形態の工程S51では、予測対象のタイヤ11Aの設計因子のうち、工程S1で入力された複数のタイヤ11の設計因子と同一の設計因子が入力される。本実施形態の予測対象のタイヤ11Aの設計因子には、
図2及び
図3に示したキャップゴム19Bの複素弾性率E*、ベルトコードの角度(図示省略)、ベルト層17の幅W1、第1ゲージG1及び第3ゲージG3が含まれる。これらの設計因子は、
図1に示した第4記憶部5D(コンピュータ1)に入力される。
【0078】
[予測対象のタイヤの静的特性を入力]
次に、本実施形態の予測対象データ入力工程S5では、予測対象のタイヤ11Aの静的特性が、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される(静的特性入力工程S52)。本実施形態の静的特性入力工程S52では、予測対象のタイヤ11Aの静的特性のうち、工程S2で入力された複数のタイヤ11の静的特性と同一の静的特性が、第4記憶部5D(コンピュータ1)に入力される。本実施形態の予測対象のタイヤ11Aの静的特性には、横バネ定数、接地幅及び接地長が含まれる。
【0079】
予測対象のタイヤ11Aが実在している(製造されている)場合には、複数のタイヤ11の静的特性を入力する工程S2(
図4に示す)での上述の手順に基づいて、静的特性が取得されうる。一方、予測対象のタイヤ11Aが設計段階(未製造)である場合には、静的特性を直接取得できない。このため、本実施形態の静的特性入力工程S52には、予測対象のタイヤ11Aの静的特性を、コンピュータ1(
図1に示す)を用いたシミュレーションによって取得する工程が含まれる。
【0080】
本実施形態の静的特性入力工程S52では、先ず、
図1に示されるように、シミュレーション計算部6Gが作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、シミュレーション計算部6Gが演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、シミュレーションによって予測対象のタイヤ11Aの静的特性を取得するための手段として機能させている。
図8は、静的特性入力工程S52の処理手順を示すフローチャートである。
【0081】
[タイヤモデルを入力]
本実施形態の静的特性入力工程S52では、先ず、予測対象のタイヤ11A(
図2に示す)をモデリングしたタイヤモデルが、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される(工程S521)。本実施形態の工程S521では、工程S51で入力された予測対象のタイヤ11Aの設計因子に基づいて、シミュレーション計算部6G(
図1に示す)が、タイヤモデル24をモデリングする。タイヤモデル24のモデリングは、上記特許文献1と同様の手順で実施される。
【0082】
図9は、タイヤモデル24及び路面モデル25を示す斜視図である。
図10は、タイヤモデル24を示す断面図である。なお、
図9では、トレッドパターンや、
図10に示した要素F(i)などが省略されている。
【0083】
本実施形態の工程S521では、
図10に示されるように、予測対象のタイヤ11A(
図2に示す)が、有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化(モデリング)される。これにより、工程S521では、タイヤモデル24が設定される。
【0084】
要素F(i)は、数値解析法により取り扱い可能なものである。数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法(本実施形態では、有限要素法)が適宜採用されうる。要素F(i)には、例えば、三次元の4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられる。
【0085】
各要素F(i)は、複数の節点37を含んで構成されている。各要素F(i)には、要素番号、節点37の番号、節点37の座標値、及び、材料特性(例えば密度、ヤング率、減衰係数、熱伝導率、及び、熱伝達率等)などの数値データが定義される。タイヤモデル24は、
図1に示した第6記憶部5F(コンピュータ1)に入力される。
【0086】
[路面モデルを入力]
次に、本実施形態の静的特性入力工程S52では、路面をモデリングした路面モデル25(
図9に示す)が、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される(工程S522)。本実施形態の工程S522では、第5記憶部5E(
図1に示す)に入力されている路面に関する情報(例えば、輪郭データ等)に基づいて、シミュレーション計算部6G(
図1に示す)が、路面モデル25をモデリングする。路面モデル25のモデリングは、上記特許文献1と同様の手順に基づいて実施される。
【0087】
図3に示されるように、本実施形態の工程S522では、路面(図示省略)に関する情報に基づいて、路面が、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)を用いて離散化される。これにより、工程S522では、路面をモデリングした路面モデル25が設定される。要素G(i)は、変形不能に定義された剛平面要素として定義される。要素G(i)には、複数の節点38が設けられている。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点38の座標値等の数値データが定義される。路面モデル25は、
図1に示した第6記憶部5F(コンピュータ1)に入力される。
【0088】
[境界条件を定義]
次に、本実施形態の静的特性入力工程S52では、シミュレーションの境界条件が、コンピュータ1(
図1に示す)に定義される(工程S523)。境界条件には、例えば、
図9及び
図10に示したタイヤモデル24の内圧条件、負荷荷重条件L、キャンバー角、スリップ角及びタイヤモデル24と路面モデル25との摩擦係数等が含まれる。これらの境界条件は、予測対象のタイヤ11Aの仕様等に基づいて、
図1に示した第5記憶部5E(コンピュータ1)に記憶される。
【0089】
[内圧充填後のタイヤモデルを計算]
次に、本実施形態の静的特性入力工程S52では、コンピュータ1(
図1に示す)が、内圧充填後のタイヤモデル24を計算する(工程S524)。本実施形態の工程S524では、第5記憶部5E(
図1に示す)に入力されている内圧条件(例えば、正規内圧)に基づいて、シミュレーション計算部6G(
図1に示す)が、内圧充填後のタイヤモデル24を計算する。
【0090】
工程S524では、先ず、
図10に示されるように、リム26(
図2に示す)がモデリングされたリムモデル28によって、タイヤモデル24のビード部24c、24cが拘束される。さらに、工程S524では、内圧条件に相当する等分布荷重wに基づいて、タイヤモデル24の変形が計算される。これにより、内圧充填後のタイヤモデル24が計算される。
【0091】
タイヤモデル24の変形計算は、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、コンピュータ1(
図1に示す)が、前記各種の条件を当てはめて運動方程式を作成し、これらをシミュレーションの単位時間T(x)(x=0、1、…)毎にタイヤモデル24の変形計算を行う。このような変形計算(後述する転動計算等を含む)は、例えば、LSTC社製のLS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。なお、単位時間T(x)については、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定することができる。
【0092】
[荷重負荷後のタイヤモデルを計算]
次に、本実施形態の静的特性入力工程S52では、コンピュータ1(
図1に示す)が、荷重負荷後のタイヤモデル24を計算する(工程S525)。本実施形態では、第5記憶部5E(
図1に示す)に入力されている負荷荷重条件L(正規荷重)、スリップ角、キャンバー角及び摩擦係数に基づいて、シミュレーション計算部6G(
図1に示す)が、荷重負荷後のタイヤモデル24(
図9に示す)を計算する。
【0093】
工程S525では、
図9に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル24(
図10に示す)と、路面モデル25との接触が計算される。次に、工程S525では、負荷荷重条件L、スリップ角(図示省略)、キャンバー角(図示省略)及び摩擦係数に基づいて、タイヤモデル24の変形が計算される。負荷荷重条件Lは、タイヤモデル24の回転軸45に設定される。これにより、工程S525では、路面モデル25に接地した荷重負荷後のタイヤモデル24が計算される。
【0094】
[静的特性を計算]
次に、本実施形態の静的特性入力工程S52では、コンピュータ1(
図1に示す)が、タイヤモデル24の静的特性を計算する(工程S526)。本実施形態では、内圧充填後のタイヤモデル24(
図10に示す)、及び、荷重負荷後のタイヤモデル24(
図9に示す)に基づいて、演算部4Aに実行されるシミュレーション計算部6G(
図1に示す)が、予測対象のタイヤモデル24の静的特性を計算している。
【0095】
本実施形態の工程S526では、
図9に示した荷重負荷後のタイヤモデル24に基づいて、路面モデル25に接触している接地面24Sが特定されることで、接地幅、接地長及び接地面積が計算される。さらに、本実施形態では、
図10に示した内圧充填後のタイヤモデル24に、縦荷重又は横荷重が負荷されることで、縦バネ定数及び横バネ定数が計算されうる。予測対象のタイヤ11Aの静的特性として、横バネ定数、接地幅及び接地長が取得される。静的特性は、
図1に示す第4記憶部5D(コンピュータ1)に記憶される。
【0096】
[予測対象のタイヤの動的特性を出力]
次に、本実施形態の予測方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、予測対象のタイヤ11A(
図2に示す)の動的特性を出力する(工程S6)。本実施形態の工程S6では、予測対象のタイヤ11Aの設計因子及び静的特性が、予測モデル31(
図5に示す)に入力されることにより、予測対象のタイヤ11Aの動的特性(本例では、コーナリングパワー)が出力される。
【0097】
本実施形態の工程S6では、先ず、
図1に示されるように、第7記憶部5Gに入力されている予測モデル31(
図5に示す)が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。次に、第4記憶部5Dに入力されている予測対象のタイヤ11A(
図2に示す)の設計因子及び静的特性が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。次に、本実施形態の工程S6では、動的特性出力部6Bが作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、動的特性出力部6Bが演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、予測対象のタイヤ11Aの動的特性を出力するための手段として機能させている。
【0098】
本実施形態の工程S6では、予測対象のタイヤ11A(
図2に示す)の設計因子及び静的特性が、説明変数として、予測モデル31(
図5に示す)に入力される。これにより、工程S6では、既知である複数のタイヤ11(
図2に示す)の設計因子、静的特性及び動的特性で補完して、予測対象のタイヤ11Aの動的特性(本例では、コーナリングパワー)が、目的変数として出力される。予測対象のタイヤ11Aの動的特性は、例えば、ディスプレイ装置又はプリンタ等の出力部3(
図1に示す)から出力される。さらに、本実施形態では、予測対象のタイヤ11Aの動的特性が、第8記憶部5H(
図1に示す)に入力される。
【0099】
[タイヤの動的特性の予測方法及び予測装置の作用]
本実施形態の予測方法(予測装置1A)では、予測モデル31(
図5に示す)の説明変数に、静的特性が含まれることで、説明変数(設計因子)の個数を少なくすることができる。これにより、予測モデル31による動的性能の予測精度を向上(教師データとは異なる未知のデータに対するロバスト性を高く維持)させつつ、高い予測精度を有する予測モデル31の作成に必要な教師データの個数が削減されうる。また、教師データの個数が削減されることにより、予測モデル31の作成時間が短縮されるため、予測対象のタイヤ11A(
図2に示す)の動的特性(本例では、コーナリングパワー)が短時間で出力されうる。さらに、教師データの個数が削減されることで、教師データが本来示唆する傾向から大きく外れるといった過学習の発生を抑制でき、予測対象のタイヤ11Aの動的特性を高い精度で予測することが可能となる。
【0100】
また、本実施形態の予測方法では、予測対象のタイヤ11A(
図2に示す)の静的特性が、コンピュータ1(
図1に示す)を用いたシミュレーションによって取得されるため、予測対象のタイヤ11Aを実際に製造する必要がない。このため、本実施形態の予測方法では、予測対象のタイヤ11Aの静的特性及び動的特性を、短時間かつ低コストで出力することができる。
【0101】
[予測対象のタイヤの動的特性を評価]
次に、本実施形態の予測方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、予測対象のタイヤ11A(
図2に示す)の動的特性が良好か否かを評価する(工程S7)。
図1に示されるように、本実施形態の工程S7では、先ず、第8記憶部5Hに入力されている予測対象のタイヤ11Aの動的特性、及び、評価部6Hが作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、評価部6Hが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、予測対象のタイヤ11Aの動的特性を評価するための手段として機能させている。
【0102】
動的特性が良好か否かは、適宜評価されうる。本実施形態では、動的特性(本例では、コーナリングパワー)が、予め定められた閾値以上である場合に、動的特性が良好であると判断される。閾値は、予測対象のタイヤ11A(
図2に示す)に求められる旋回性能等に応じて、適宜設定されうる。
【0103】
工程S7において、予測対象のタイヤ11A(
図2に示す)の動的特性が良好であると判断された場合(工程S7で「Yes」)、予測対象のタイヤ11Aの設計因子に基づいて、タイヤ11が製造される(工程S8)。一方、工程S7において、予測対象のタイヤ11Aの動的特性が良好でないと判断された場合(工程S7で「No」)、予測対象のタイヤ11Aの設計因子の少なくとも1つが変更されて(工程S9)、予測対象データ入力工程S5~工程S7が再度実施される。これにより、本実施形態の予測方法では、動的特性が良好なタイヤ11を確実に設計及び製造することが可能となる。
【0104】
[複数のタイヤの静的特性を入力(第2実施形態)]
これまでの実施形態の工程S2では、複数のタイヤ11(
図2に示す)の静的特性が、実際のタイヤ11の測定結果に基づいて取得されたが、このような態様に限定されない。複数のタイヤ11の静的特性は、例えば、コンピュータ1(
図1に示す)を用いたシミュレーションによって取得されてもよい。
【0105】
この実施形態の工程S2では、
図8に示した静的特性入力工程S52と同様の手順に基づいて、複数のタイヤ11(
図2に示す)の静的特性が、シミュレーションによってそれぞれ取得される。これにより、この実施形態では、複数のタイヤ11を実際に製造しなくても、複数のタイヤ11の静的特性を、短時間かつ低コストで出力することができる。これにより、この実施形態では、予測モデル31(
図5及び
図6に示す)の作成時間を短縮することが可能となる。
【0106】
[複数のタイヤの動的特性を入力(第3実施形態)]
これまでの実施形態の工程S3では、複数のタイヤ11(
図2に示す)の動的特性が、実際のタイヤ11の測定結果に基づいて取得されたが、このような態様に限定されない。複数のタイヤ11の動的特性は、例えば、コンピュータ1を用いたシミュレーションによって取得されてもよい。
【0107】
この実施形態の工程S3では、複数のタイヤ11(
図2に示す)をそれぞれモデリングしたタイヤモデル24(
図9に示す)を、路面モデル25(
図9に示す)で転動させることにより、複数のタイヤモデル24の動的特性が取得される。複数のタイヤモデル24及び路面モデル25は、静的特性入力工程S52と同一の手順に基づいて入力される。
【0108】
タイヤモデル24の転動計算には、静的特性入力工程S52と同一手順で取得された荷重負荷後のタイヤモデル24が用いられる。そして、予め定められた走行速度及び旋回角度に基づいて、荷重負荷後のタイヤモデル24の転動計算が行われる。これにより、この実施形態では、複数のタイヤ11を実際に製造しなくても、複数のタイヤ11(タイヤモデル24)の動的特性を、短時間かつ低コストで出力することができる。したがって、この実施形態では、予測モデルの作成時間を短縮することが可能となる。
【0109】
[タイヤの動的特性予測モデルの作成方法]
これまでの実施形態の予測方法では、予測モデル31(
図5及び
図6に示す)を用いて、予測対象のタイヤ11の動的特性が出力されたが、予測モデル31のみが作成されてもよい。
図11は、タイヤの動的特性予測モデルの作成方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0110】
この実施形態のタイヤの動的特性予測モデルの作成方法(以下、単に「作成方法」ということがある。)では、
図4に示した予測方法の工程S1~S4に基づいて、タイヤ11の動的特性の予測モデル31(
図5及び
図6に示す)が作成される。
【0111】
予測モデル31は、予測対象のタイヤ11A(
図2に示す)の動的特性の予測に、汎用的に利用することができる。さらに、本実施形態の予測方法では、予測モデル31の説明変数に静的特性が含まれることで、設計因子(説明変数)の個数を少なくできるため、高い予測精度を有する予測モデル31の作成に必要な教師データの個数を削減することが可能となる。
【0112】
この実施形態の作成方法では、教師データの個数が削減されることにより、予測モデル31の作成時間を短縮することが可能となり、教師データが本来示唆する傾向から大きく外れるといった過学習の発生を抑制できる。したがって、予測対象のタイヤ11Aの動的特性を高い精度で予測することが可能となる。
【0113】
以上、本開示の特に好ましい実施形態について詳述したが、本開示は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例0114】
図4に示した処理手順に基づいて、タイヤの動的特性が予測された(実施例)。実施例では、タイヤの設計因子の少なくとも1つが異なる複数のタイヤについて、設計因子、静的特性及び動的特性が、コンピュータに入力された。
【0115】
次に、実施例では、複数のタイヤの設計因子、静的特性及び動的特性を教師データとして用いて、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性から、予測対象のタイヤの動的特性を出力可能な予測モデルが作成された。そして、実施例では、教師データとして用いられた複数のタイヤの設計因子及び静的特性が、予測モデルに入力され、それらのタイヤの動的性能が予測された(ブラインドテスト)。さらに、実施例では、教師データとは異なる新たなタイヤの設計因子及び静的特性(予測対象データ)が、予測モデルに入力され、それらのタイヤの動的性能が予測された。
【0116】
比較のために、複数のタイヤの設計因子及び動的特性のみを教師データとして用いて、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性から、予測対象のタイヤの動的特性を出力可能な予測モデルが作成された(比較例)。そして、比較例では、教師データとして用いられた複数のタイヤの設計因子が、予測モデルに入力され、それらのタイヤの動的性能が予測された(ブラインドテスト)。さらに、比較例では、教師データとは異なる新たなタイヤの設計因子(予測対象データ)が、予測モデルに入力され、それらのタイヤの動的性能が予測された。共通仕様等は、次のとおりである。
タイヤサイズ:205/55R16、235/60R18
教師データ:25個
新たなタイヤ(予測対象データ):100個
動的特性:
コーナリングパワー
実施例の説明変数(合計:8個):
設計因子:
キャップゴムの複素弾性率E*
ベルトコードの角度
ベルト層の幅W1
第1ゲージG1
第3ゲージG3
静的特性:
横バネ定数
接地幅
接地長
比較例の説明変数(合計:26個):
設計因子:
第1ラジアスTR1~第4ラジアスTR4
第1境界の距離L1~第3境界の距離L3
サイドウォール部の外面の曲率
複素弾性率E*(キャップゴム、ベースゴム、サイドウォールゴム及び
ビードエーペックスゴム)
バンドコードのタイヤ周方向に対する角度
バンドコードの材料
ベルトコードのタイヤ周方向に対する角度
ベルト層の幅W1
ビードエーペックスゴムのタイヤ半径方向の長さL4
第1ゲージG1~第7ゲージG7
リム幅W2
タイヤに充填される内圧
タイヤに充填される荷重
【0117】
図12は、実施例のコーナリングパワーの予測値と、コーナリングパワーの実測値との関係を示すグラフである。
図13は、比較例のコーナリングパワーの予測値と、コーナリングパワーの実測値との関係を示すグラフである。
図12及び
図13では、教師データとして用いられた複数のタイヤのコーナリングパワーが「□」で表示されている。また、教師データとは異なる新たなタイヤ(予測対象データ)のコーナリングパワーが「▲」で表示されている。
【0118】
教師データのタイヤのコーナリングパワーの予測値と実測値との決定係数R2について、実施例が0.9636であったのに対して、比較例が0.9698であった。このように、実施例と比較例とで決定係数R2が略同一であったため、教師データのタイヤのコーナリングパワーの予測精度については、実施例と比較例とで同程度であった。
【0119】
一方、教師データとは異なる新たなタイヤ(予測対象データ)のコーナリングパワーの予測値と実測値との決定係数R2について、実施例が0.9179であったのに対して、比較例が0.8704であった。
【0120】
また、新たなタイヤ(予測対象データ)のコーナリングパワーの予測値と実測値との差の絶対値を平均したMAE( Mean Absolute Error )について、実施例が103.28であるのに対して、比較例が123.74であった。さらに、新たなタイヤのコーナリングパワーの予測値と実測値との差を二乗した値を平均したRMSE( Root Mean Squared Error )について、実施例が127.48であるのに対して、比較例が160.27であった。
【0121】
実施例では、比較例に比べて、決定係数R2が高くなっており、さらに、MAE及びRMSEが小さくなっている。したがって、実施例は、比較例に比べて、新たなタイヤ(予測対象データ)の予測精度が向上した。このように、実施例では、予測モデルの説明変数に静的特性が含まれることで、説明変数の個数を少なくでき、かつ、少ない教師データで、タイヤの動的性能の予測精度を向上(未知のデータに対するロバスト性を高く維持)させることができた。したがって、実施例では、高い予測精度を有する予測モデルの作成に必要な教師データの個数を削減することができた。
【0122】
[付記]
本開示は以下の態様を含む。
【0123】
[本開示1]
タイヤの動的特性を予測するための方法であって、
タイヤの設計因子の少なくとも1つが異なる複数のタイヤについて、前記設計因子をコンピュータにそれぞれ入力する工程と、
前記複数のタイヤの静的特性を、前記コンピュータにそれぞれ入力する工程と、
前記複数のタイヤの動的特性を、前記コンピュータにそれぞれ入力する工程と、
前記コンピュータが、前記複数のタイヤの前記設計因子、前記静的特性及び前記動的特性を教師データとして用いて、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性から、前記予測対象のタイヤの動的特性を出力可能な予測モデルを作成する工程と、
前記コンピュータに、前記予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を入力する工程と、
前記コンピュータが、前記予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を、前記予測モデルに入力して、前記予測対象のタイヤの動的特性を出力する工程とを含む、
タイヤの動的特性の予測方法。
[本開示2]
前記予測対象のタイヤの静的特性を、前記コンピュータを用いたシミュレーションによって取得する工程をさらに含む、本開示1に記載のタイヤの動的特性の予測方法。
[本開示3]
前記静的特性は、トレッド部の接地形状に関するパラメータを含む、本開示1又は2に記載のタイヤの動的特性の予測方法。
[本開示4]
前記静的特性は、バネに関するパラメータを含む、本開示1ないし3のいずれかに記載のタイヤの動的特性の予測方法。
[本開示5]
前記動的特性は、コーナリングフォース及びコーナリングパワーの少なくとも1つを含む、本開示1ないし4のいずれかに記載のタイヤの動的特性の予測方法。
[本開示6]
前記予測モデルを作成する工程は、統計学的手法又は機械学習に基づいて、前記予測モデルを作成する、本開示1ないし5のいずれかに記載のタイヤの動的特性の予測方法。
[本開示7]
タイヤの動的特性を予測するための装置であって、
タイヤの設計因子の少なくとも1つが異なる複数のタイヤについて、前記設計因子を記憶するための第1記憶部と、
前記複数のタイヤの静的特性を記憶するための第2記憶部と、
前記複数のタイヤの動的特性を記憶するための第3記憶部と、
前記複数のタイヤの前記設計因子、前記静的特性及び前記動的特性を教師データとして用いて、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性から、前記予測対象のタイヤの動的特性を出力可能な予測モデルを作成する予測モデル作成部と、
前記予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を記憶する第4記憶部と、
前記予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性を、前記予測モデルに入力して、前記予測対象のタイヤの動的特性を出力する動的特性出力部とを含む、
タイヤの動的特性の予測装置。
[本開示8]
タイヤの動的特性の予測モデルを作成するための方法であって、
タイヤの設計因子の少なくとも1つが異なる複数のタイヤについて、前記設計因子をコンピュータにそれぞれ入力する工程と、
前記複数のタイヤの静的特性を、前記コンピュータにそれぞれ入力する工程と、
前記複数のタイヤの動的特性を、前記コンピュータにそれぞれ入力する工程と、
前記コンピュータが、前記複数のタイヤの前記設計因子、前記静的特性及び前記動的特性を教師データとして用いて、予測対象のタイヤの設計因子及び静的特性から、前記予測対象のタイヤの動的特性を出力可能な予測モデルを作成する工程とを含む、
タイヤの動的特性予測モデルの作成方法。