(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121642
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】受信機および磁気通信機器
(51)【国際特許分類】
H04B 5/02 20060101AFI20230824BHJP
【FI】
H04B5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025095
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】早坂 淳一
(72)【発明者】
【氏名】荒井 賢一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 信
【テーマコード(参考)】
5K012
【Fターム(参考)】
5K012AB03
5K012AB09
5K012AB10
5K012AC01
5K012AC08
5K012AC10
(57)【要約】
【課題】表皮効果、近接効果または放射抵抗などによる制限を受けず情報伝達量の増加を図り、かつ、小型化を図りうる磁気通信機器等を提供する。
【解決手段】磁気通信機器は、送信機410および受信機420を備えている。送信機410は、第1信号源411、第2信号源412、変調器414、電力増幅器416および送信コイル418を備えている。受信機420は、磁気センサ421、高周波信号処理回路422、第1復調器424、第2復調器426および出力制御器428を備えている。磁気センサ421は、磁場を媒体として到来した第2被変調波m
2を受信するための強磁性共鳴を利用して当該磁場に応じた信号を出力する。出力制御器428は、復調された元の変調信号(情報)を可視化し、音圧、光および/または力などで出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場を媒体として到来した被変調波m2を受信するための強磁性共鳴を利用した磁気センサと、
前記磁気センサの強磁性共鳴を励起するため高周波励磁信号の同相成分Iに応答する前記被変調波m2の第1出力信号S1および当該高周波励磁信号の直交成分Qに応答する前記被変調波m2の第2出力信号S2の2つの出力信号から前記変調信号を復調するための復調器と、を備えている
受信機。
【請求項2】
磁場の変化を情報として利用する磁気通信機器であって、
搬送波となる高周波信号を生成するための信号源と、前記搬送波を変調信号により変調して得る第1被変調波m1を送出する変調器と、前記被変調波を電力増幅する電力増幅器と、前記電力増幅器により得られた第2被変調波m2を送出するための送信コイルと、を備えている送信機と、
磁場を媒体として到来した第2被変調波m2を受信するための強磁性共鳴を利用した磁気センサと、前記磁気センサの強磁性共鳴を励起するため高周波励磁信号の同相成分Iに応答する前記第2被変調波m2の第1出力信号S1および当該高周波励磁信号の直交成分Qに応答する前記第2被変調波m2の第2出力信号S2の2つの出力信号から前記変調信号を復調するための復調器と、を備えている受信機と、を備えている
磁気通信機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水中、あるいは地中で用いられる磁気通信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の磁気通信用の送受信機では、情報の媒体である磁場の強弱、あるいは磁場の方向を検出する受信用アンテナとしてコイルが用いられている(例えば、特許文献1参照)。また、情報の媒体として磁場が利用される理由は、誘電率が高く導電性を示す海水、あるいは地下水などの影響を受け難く、低損失で比較的長距離の伝送が可能であるためである。受信用アンテナのコイルはループアンテナと呼ばれており、波長に比べて十分に小さい半径で良導電性の細線を複数回巻いたものである。加えて、一般的には、コンデンサを接続して共振回路を構成し感度を高めるなどの工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、コイルを用いた受信機では、多くの情報を伝達できる比較的高い周波数、例えば10[kHz]以上で、表皮効果、近接効果や、放射抵抗などによる損失が増大し、受信可能な信号強度には限界がある。ひいては通信可能な距離が制限される。また、コンデンサを接続して構成される共振回路によって、受信感度が向上する一方で通信に使用できる周波数帯域が制限されるという課題もある。さらには、受信アンテナとしてコイルを用いる場合、原理上、コイルのループに鎖交する磁場の大きさの変化から誘導起電力を得ているため、コイルの感度改善と小型化の両立が困難(小型化を図るために、コイルのループを小さくすると鎖交する磁場が小さくなる)という課題もある。
【0005】
そこで、本発明は、表皮効果、近接効果または放射抵抗などによる制限を受けず情報伝達量の増加を図り、かつ、小型化を図りうる磁気通信機器等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の受信機は、
磁場を媒体として到来した被変調波m2を受信するための強磁性共鳴を利用した磁気センサと、
前記磁気センサの強磁性共鳴を励起するため高周波励磁信号の同相成分Iに応答する前記被変調波m2の第1出力信号S1および当該高周波励磁信号の直交成分Qに応答する前記被変調波m2の第2出力信号S2の2つの出力信号から前記変調信号を復調するための復調器と、を備えている。
【0007】
本発明の磁気通信機器は、
磁場の変化を情報として利用する磁気通信機器であって、
搬送波となる高周波信号を生成するための信号源と、前記搬送波を変調信号により変調して得る第1被変調波m1を送出する変調器と、前記被変調波を電力増幅する電力増幅器と、前記電力増幅器により得られた第2被変調波m2を送出するための送信コイルと、を備えている送信機と、
磁場を媒体として到来した第2被変調波m2を受信するための強磁性共鳴を利用した磁気センサと、前記磁気センサの強磁性共鳴を励起するため高周波励磁信号の同相成分Iに応答する前記第2被変調波m2の第1出力信号S1および当該高周波励磁信号の直交成分Qに応答する前記第2被変調波m2の第2出力信号S2の2つの出力信号から前記変調信号を復調するための復調器と、を備えている受信機と、を備えている。
【0008】
本発明の磁気通信機器によれば、伝達可能な情報量の向上および通信機器の小型化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態としての磁気通信機器の構成に関する説明図。
【
図4】受信機を構成する信号処理回路のブロック図。
【
図5A】磁気センサが感受する第2被変調波m
2のパワースペクトルに関する説明図。
【
図5B】受信アンテナである磁気センサから出力されるパワースペクトルに関する説明図。
【
図5C】被変調波m
3が第1混合器によって高周波励磁信号と乗算され、磁気センサの強磁性共鳴を励起するための高周波励起信号の同相成分Iに応答する第2被変調波m
2の第1出力信号S
1のパワースペクトルに関する説明図。
【
図5D】被変調波m
3が第2混合器によって高周波励磁信号と乗算され、磁気センサの強磁性共鳴を励起するための高周波励起信号の直交成分Qに応答する第2被変調波m
2の第2出力信号S
2のパワースペクトルに関する説明図。
【
図6】高周波励磁信号の周波数変化に対する受信機の出力結果に関する説明図。
【
図7】磁気センサに付与されるバイアス磁場に対する受信機の出力結果に関する説明図。
【
図8】第2被変調波m
2の周波数変化に対する受信機の出力特性に関する説明図。
【
図9】通信距離に対する受信機の出力特性に関する説明図。
【
図10】受信機の第1出力信号S
1および第2出力信号S
2のパワースペクトルに関する説明図。
【
図11】通信距離に対するデータ伝送におけるパケット単位の誤り率に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示されている本発明の一実施形態としての磁気通信機器は、送信機410および受信機420を備えている。
【0011】
送信機410は、第1信号源411、第2信号源412、変調器414、電力増幅器416および送信コイル418を備えている。
【0012】
第1信号源411は、搬送波となる高周波信号を生成する。第2信号源412は、変調信号を生成する。変調器414は、当該搬送波が当該変調信号により変調されて得られる第1被変調波m1を送出する。電力増幅器416は、当該被変調波を電力増幅する。送信コイル418は、電力増幅器416で得られた第2被変調波m2を送出する。
【0013】
受信機420は、磁気センサ421、高周波信号処理回路422、第1復調器424、第2復調器426および出力制御器428を備えている。磁気センサ421は、磁場を媒体として到来した第2被変調波m2を受信するための強磁性共鳴を利用して当該磁場に応じた信号を出力する。高周波信号処理回路422は、磁気センサ421の強磁性共鳴を励起するための高周波励起信号の同相成分Iに応答する第2被変調波m2の第1出力信号S1および当該高周波励起信号の直交成分Qに応答する前記第2被変調波m2の第2出力信号S2を送出する。第1復調器424および第2復調器426のそれぞれは、当該出力信号から変調信号を復調する。出力制御器428は、復調された元の変調信号、つまり情報を可視化し、具体的には受信者に聴覚伝達可能な音声を含む音圧、視覚伝達可能な光および/または触覚伝達可能な力などで出力する。
【0014】
送信機410および受信機420は、搬送波の波長λを2πで除した通信距離、つまり近傍界の範囲内に配置されている。近傍界においては、情報の媒体となる磁場が電場に比べ優位であり、海水または地中で効率よく情報を伝送することができる。
【0015】
第1信号源411が生成する搬送波の周波数帯は10~500[kHz]の範囲に含まれていることが好ましい。一般的に周波数は高いほど、多くの情報を伝送できる一方で、送信コイルに流れる高周波電流によって表皮効果などの損失が増大し、効率が低下するためのである。
【0016】
変調器414による変調方法としては、既知の振幅変調、周波数変調、位相変調などのアナログ変調方式、振幅偏移変調、周波数偏移変調、位相偏移変調、直角位相振幅変調および/または振幅位相変調などのデジタル変調方式、あるいは複数の情報を同時に伝送することが可能な直交周波数分割多重方式などを適用できる。
【0017】
送信コイル418は、複数のコイルをアレイ状に配置し、各々のコイルに供電する電流の振幅、位相を制御し、第2被変調波m2をビーム走査するフェーズドアレイアンテナの構成としてもよい。このような構成は、特定の方向に強い指向性を有し、高い利得を得ることができる。したがって、遠方まで信号を送ることができる。
【0018】
また、海水中、あるいは地中の水分による減衰が著しい電界成分を抑制するために、送信コイル418に電界シールドを施すことが好ましい。
【0019】
強磁性共鳴を利用した複数の磁気センサ421がアレイ状に配置され、各々の磁気センサ421の強磁性共鳴を励起するための高周波励起信号の振幅および/または位相を制御し、送信コイル418より磁場を媒体として到来した特定方向の第2被変調波m2を効率よく受信できる構成としてもよい。このような構成は、特定の方向に強い指向性を有し、高い受信感度を実現することができる。
【0020】
出力制御器428は、第1復調器424および第2復調器426によって復調された元の変調信号、つまり情報が受信者に聴覚伝達可能な音声を含む音(圧)の形態で出力することができる。具体的には、該変調信号を所望の信号強度に増幅し、不要なノイズを除去するなど、既知の信号処理を施した後、電磁変換素子、例えば電磁石を利用したスピーカおよび/または圧電素子により音(圧)を発生させることが可能である。
【0021】
また、出力制御器428は、変調信号、つまり情報が受信者に視覚伝達可能な光の形態で出力することができる。具体的には、当該変調信号を所望の信号強度に増幅し、不要なノイズを除去するなど、既知の信号処理を施した後、光電変換素子、例えば白色光源ランプおよび/または発光ダイオードなどにより光を発生させることが可能である。
【0022】
さらには、出力制御器428は、変調信号、つまり情報が受信者に触覚伝達可能な力の形態で出力することができる。具体的には、当該変調信号を所望の信号強度に増幅し、不要なノイズを除去するなど、既知の信号処理を施した後、電気信号を物理的な力に変換させることができる電気式および/または油圧式などのアクチュエータを利用して、伸縮、屈伸および/または旋回などの運動によって力を発生させることが可能である。出力制御器428は、出力データをデジタルデータとして保存する機能を有する。
【0023】
図2に示されている本発明の一実施形態としての磁気センサ421は、誘電体基板100と、誘電体基板100の上面に前後に延在する略矩形状に積層された信号線路層110と、誘電体基板100の上面101において信号線路層110から左右のそれぞれに離間して前後に延在する一対の略矩形状の接地導体層121および122と、誘電体基板100の下面に形成された接地導体層124と、接地導体層124、121および122により構成される伝送線路120の一端部に電気的に接続される入出力端子160と、当該伝送線路120の他端部に部分的に積層された軟磁性薄膜140と、薄膜磁石150を備えている。接地導体層124は省略されてもよい。
【0024】
誘電体基板100としては、例えば、半導体系の単結晶シリコン、ゲルマニウム、化合物半導体系のGaAs、GaN、SiC、ZnSe、CdS、ZnO、InP、SiGeや、水晶、サファイヤ、ガラスの他、セラミックス系のアルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ジルコニア、炭化珪素、チタニア、イットリア、またはそれらの複合材料からなる基板が用いられてもよい。
【0025】
信号線路層110、伝送線路120、接地導体層121~124としては、Al、Cu、Au、Pt、AgもしくはTiまたはこれらの積層薄膜が用いられてもよい。
【0026】
軟磁性薄膜140としては、Co-Fe-Si-BもしくはCo-Nb-Zr系のアモルファス薄膜、Fe-SiもしくはFe-Zr-N系の微結晶薄膜、または、それらの薄膜の間にSiOなどの薄い絶縁層を挟んで積層された多層薄膜、Ni-FeもしくはFe-Si-Al系の結晶性薄膜、さらには、Fe-Si合金、Fe-Co-Ni合金、センダスト合金のバルク材料、Co-Fe-Ni-Si-B、Fe-Co-Ni-Zr、Fe-Ni-B、Co-Fe-ZrもしくはCo-Zr系のアモルファス合金薄帯、軟磁性フェライトからなる薄膜が用いられてもよい。軟磁性薄膜140は、信号線路層110の近傍に配置されていることが好ましい。
【0027】
薄膜磁石150としては、Pt-Fe系、SmCo系、Nd-Fe-B系、Sm-Fe-N系もしくはNd-Fe-N系のスパッタ薄膜、または、Mn-Al-Co、Co-Pt、Fe-Pt、Fe-Al-Niなどの金属系バルク磁石、酸化物系のフェライト磁石、希土類系のSmCo、Nd-Fe-B磁石が用いられてもよい。
【0028】
図3には、信号線路層130の近傍に発生する磁界分布が示されている。信号線路層130に高周波電流が流れると、
図3に示されているように信号線路層130の周囲に磁場Bが生じる。磁場Bの強さは信号線路層130から離れるにしたがって急減する。また、電場Eは、信号線路層130と接地導体層121および122との間に集中する。伝送線路120の特性インピーダンスは、電場Eおよび磁場Bの比によって定義され、電場Eおよび磁場Bが分布する信号線路層110の近傍媒体の誘電率εおよび透磁率μに強く依存する。よって、信号線路層110の近傍に高透磁率の軟磁性薄膜140が配置され、当該軟磁性薄膜140の外部磁場よって透磁率μが変化する特性が利用された場合、磁場を媒体として到来した第2被変調波m
2の僅かな磁場変化に対して敏感な特性インピーダンスが得られる。この大きな特性インピーダンスの変化によって、高感度な磁気センサ、つまり感度が高い受信アンテナが実現できる。
【0029】
また、磁気センサは、信号線路層130および接地導体層121および122を有する伝送線路120の終端部が短絡され、当該終端部に薄膜磁石150および軟磁性薄膜140が積層された構造をなしている。薄膜磁石150は、あらかじめ軟磁性薄膜140の長手方向に着磁されており、薄膜磁石150によって生成される磁界は、高透磁率を有する軟磁性薄膜140に誘導される。すなわち、薄膜磁石150および軟磁性薄膜140は閉磁路構造をなしている。よって、磁気バイアスが軟磁性薄膜140に対して効率よく付与される。
【0030】
磁気バイアスの強さは、軟磁性薄膜140の異方性磁界の大きさと同等であることが好ましい。磁気バイアスによる外部磁場によって、軟磁性薄膜140の磁化はトルクを受け、磁気モーメントの歳差運動が生じる。このとき、軟磁性薄膜140に異方性磁界の大きさと同等の外部磁場が印加され、所望の周波数で励起されると強磁性共鳴が発現する。したがって、強磁性共鳴状態にある軟磁性薄膜は、磁場を媒体として到来した第2被変調波m2の僅かな磁場変化に対しても、極めて大きな透磁率μの変化を示し、ひいてはさらに大きな特性インピーダンスの変化によって、より感度が高い受信アンテナが実現できる。
【0031】
この異方性磁界の大きさは、軟磁性薄膜140の組成、成膜条件および/または熱処理条件などによって調整可能である。また、薄膜磁石150の強さを示す残留磁化も、組成、成膜条件および/または熱処理条件などで調整することが可能である。
【0032】
図4には、受信機420を構成する信号処理回路415のブロック図が示されている。信号処理回路415は、高周波励磁信号発生器21、増幅器24、25、26、27、28、29、サーキュレータ23、分配器22、31、35、混合器26、27、および、ローパスフィルタ40、41を備えている。磁気センサ421の強磁性共鳴を励起するための高周波励磁信号発生器21で生成される高周波励起信号の同相成分Iに応答する前記第2被変調波m
2の第1出力信号S
1、高周波励起信号の直交成分Qに応答する前記第2被変調波m
2の第2出力信号S
2の2つの出力信号が得られる。
【0033】
高周波励磁信号発生器20により発生された高周波励磁信号は、第1増幅器24により増幅され、第1分配器22によって、第2増幅器25ならびに第4増幅器27の二方向に同位相で分配される。
【0034】
一方の第2増幅器25に送出された高周波励磁信号は、第2増幅器25で増幅され、サーキュレータ23のポートP0からポートP1を経由して磁気センサ421の入出力端子に供給される。磁気センサ421において、高周波励磁信号が前記第2被変調波m2によって変調された第3被変調波m3は、サーキュレータ23のポートP1からポートP2を経由し第3増幅器26により増幅され、第3分配器35によって、第1混合器26および第2混合器27の二方向に同位相で分配される。
【0035】
他方の第4増幅器27に送出された高周波励磁信号は、第4増幅器27で増幅され、第2分配器において、第1混合器26および第2混合器27の二方向に同相ならびに直交で分配される。第1混合器26からは、磁気センサ421の強磁性共鳴を励起するための高周波励起信号の同相成分Iに応答する前記第2被変調波m2の第1出力信号S1、が送出され、その後、第5増幅器28で所望の大きさに増幅され、第1ローパスフィルタ40で不要な雑音が除去されたうえで第1復調器424に送出される。第2混合器27からは、該高周波励起信号の直交成分Qに応答する前記第2被変調波m2の第2出力信号S2が送出され、その後、第6増幅器29で所望の大きさに増幅され、第2ローパスフィルタ41で不要な雑音が除去されたうえで第2復調器426に送出される。
【0036】
図5A~
図5Dのそれぞれには、受信機420の機能を説明するためのパワースペクトルが示されている。
図5Aには、磁気センサ421により感受される第2被変調波m
2のパワースペクトル30が示されている。ここで、該パワースペクトル30は、周波数帯域を有効利用するために複数の搬送波を用いて直交周波数分割多重化などがなされている。例えば、低速電力線通信で使用されるG3-PLC通信規格であれば、占有周波数帯域は約480[kHz]であり、チャンネル数は1である。
【0037】
図5Bには受信アンテナである磁気センサ421から出力されるパワースペクトルが示されている。前記磁気センサにおいて感受された該第2被変調波m
2によって、該磁気センサに給電される高周波励磁信号(例えば1.8[GHz])が変調され、該高周波励磁信号のスペクトル31に加え、該高周波励磁信号のスペクトル31の高周波側にある上側波帯スペクトル32および低周波側にある下側波帯スペクトル33からなる被変調波m
3が得られる。
【0038】
図5Cには、被変調波m
3が第1混合器26によって該高周波励磁信号と乗算され、磁気センサ421の強磁性共鳴を励起するための高周波励起信号の同相成分Iに応答する第2被変調波m
2の第1出力信号S
1のパワースペクトル34が示されている。
【0039】
図5Dには、被変調波m
3が第2混合器27によって当該高周波励磁信号と乗算され、磁気センサ421の強磁性共鳴を励起するための高周波励起信号の直交成分Qに応答する第2被変調波m
2の第2出力信号S
2のパワースペクトル35が示されている。
【0040】
図6には、本発明の一実施形態としての磁気センサ421に給電される高周波励磁信号の周波数変化に対する受信機420の出力結果が示されている。ここで、磁気センサ421により受信される第2被変調波m
2は、無変調信号(搬送波周波数200[kHz])である。当該高周波励磁信号の周波数1.800~1.815[GHz]において、高周波励起信号の同相成分Iに応答する第1出力信号S
1の出力は1.803[GHz]で極小をとり、一方の直交成分Qに応答する第2出力信号S
2の出力は1.808[GHz]で極小をとる。磁気センサ421の入出力端部または高周波信号処理回路422の内部の各部のインピーダンス不整合による定在波の影響である。しかしながら、これらの2出力は相互補完の関係にある。また、その関係性から位相情報を得ることもできる。
【0041】
図7には、本発明の一実施形態としての磁気センサ421に印加されるバイアス磁場に対する受信機420の出力結果が示されている。ここで、磁気センサ421に給電される高周波励磁信号の周波数は、1.806[GHz]である。高周波励起信号の同相成分Iに応答する第1出力信号S
1の出力V
S1は約0.7[mT]で極大をとり、一方の直交成分Qに応答する第2出力信号S
2の出力V
S2は0.68[mT]でゼロとなり、強磁性共鳴状態にあることがわかる。
【0042】
図8には、本発明の一実施形態としての送信機410より到来する第2被変調波m
2の周波数変化に対する受信機420の出力特性が示されている。第1出力信号S
1および第2出力信号S
2は、共に周波数100[Hz]~500[kHz]において、減衰量3[dB]の範囲内で平坦な特性を示しており、例えば、周波数帯域480[kHz]であれば最大約300[kbps]の情報を伝達することが可能である。また、フロアノイズは低周波域では1/fノイズの影響が大きく100[Hz]において-105[dBm](第1出力信号S
1のパワースペクトル参照)と高く、高周波域では熱雑音が支配的となり-130[dBm]以下と比較的低く、結果的に高周波域では大きなSN比を得ることができる。
【0043】
図9には、本発明の一実施形態としての送信機410および受信機420の間の通信距離に対する当該受信機420の出力特性が示されている。ここで、送信コイル418への給電電流は、例えば、無変調信号(搬送波周波数200[kHz])の0.4[Ap-p]である。また、例えば、送信コイル418の半径は15[cm]であり、巻数は5ターンである。受信機420の第1出力信号S
1のパワーP
S1および第2出力信号S
2のパワーP
S2は、通信距離が2倍になるにつれて約100分の1に減衰していることがわかる。
【0044】
図10には、本発明の一実施形態としての受信機420の第1出力信号S
1のパワースペクトルP
S1および第2出力信号S
2のパワースペクトルP
S2が示されている。直交周波数分割多重変調によるスペクトルで、占有周波数帯域は約10~490[kHz]で、第1出力信号S
1に比べ、第2出力信号S
2のパワースペクトルが約10[dB]高い。
図6に示されているように、所望の高周波励磁周波数が選定されることで、第1出力信号S
1および第2出力信号S
2のパワースペクトルを調整することが可能である。
【0045】
図11には、通信距離に対するデータ伝送におけるパケット単位の誤り率、つまりPER(Packet Error Rate)が示されている。ここで、磁気センサ421に給電される高周波励磁信号の励磁周波数は1.806[GHz]である。また、送受信機の変調、復調方式は、直交周波数分割多重変調である。第1出力信号S
1は、通信距離約0.55[m]までPERがゼロであり、その後、PERが増大(同図中のPER
S1参照)していることがわかる。第2出力信号S
2は、通信距離0.60[m]までPERがゼロであり、その後、PERが増大(同図中のPER
S2参照)していることがわかる。
【符号の説明】
【0046】
410‥送信機、411‥第1信号源、412‥第2信号源、414‥変調器、416‥電力増幅器、418‥送信コイル、420‥受信機、421‥磁気センサ、422‥高周波信号処理回路、424‥第1復調器、426‥第2復調器、428‥出力制御器。