(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012165
(43)【公開日】2023-01-25
(54)【発明の名称】マスク用濾材およびマスク
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20230118BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20230118BHJP
D04H 1/4382 20120101ALI20230118BHJP
D04H 1/541 20120101ALI20230118BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
B01D39/16 A
D04H1/4382
D04H1/541
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115649
(22)【出願日】2021-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】神山 三枝
【テーマコード(参考)】
4D019
4L047
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019AA02
4D019BA13
4D019BB05
4D019BC13
4D019BD01
4D019CB06
4D019CB09
4D019DA03
4D019DA04
4L047AA14
4L047AA21
4L047AA23
4L047AA28
4L047AB08
4L047BA09
4L047CA19
4L047CB01
4L047CC03
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】繰返し洗濯後も優れた捕集性能を保持できる、洗濯耐久性に優れたマスク用濾材およびマスクを提供する。
【解決手段】不織布からなるマスク用濾材であって、前記不織布に、繊維径100~1000nmのナノファイバーと、熱融着性バインダー繊維とが含まれる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布からなるマスク用濾材であって、前記不織布に、繊維径100~1000nmのナノファイバーと、熱融着性バインダー繊維とが含まれることを特徴とするマスク用濾材。
【請求項2】
前記ナノファイバーおよび/または熱融着性バインダー繊維が、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、またはナイロン繊維からなる、請求項1に記載のマスク用濾材。
【請求項3】
前記不織布に、前記ナノファイバーが不織布重量対比5%以上含まれる、請求項1または請求項2に記載のマスク用濾材。
【請求項4】
前記不織布に、前記熱融着性バインダー繊維が不織布重量対比50%以上含まれる、請求項1~3のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項5】
目付けが20~80g/m2の範囲内である、請求項1~4のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項6】
MD方向の引張強度が20N/15mm以上である、請求項1~5のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項7】
伸度がタテ・ヨコともに10%以上である、請求項1~6のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項8】
除電処理後の0.3μm粒子捕集率が95%以上である、請求項1~7のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項9】
洗濯試験後の0.3μm粒子捕集率が95%以上である、請求項1~8のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項10】
蒸留水滴下後の水滴の消失時間が1分以下である、請求項1~9のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のマスク用濾材を用いてなるマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰返し洗濯後も優れた捕集性能を保持できる、洗濯耐久性に優れたマスク用濾材およびマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウイルスや花粉症、風邪の予防として日常生活における様々な環境下でマスクが使用されている。マスクにはウイルスや花粉、粉塵の捕集率が高く、通気性がよいことが求められる。さらに近年では、マスクを使用する機会が増えてきたことから、使い捨てのみではなく、洗濯で繰返し使用できるような洗濯耐久性が求められている。
【0003】
一般的に、濾材にエレクトレット加工を施すことで高い通気性を維持しつつ捕集率を向上させたマスクが市場に多く出回っている。エレクトレット加工とは、濾材を構成する繊維を帯電させることによって、静電気力により粒子を捕集し、捕集率を向上させるものである。しかしながら、捕集した粒子が濾材に堆積されるにつれて、構成繊維に帯電した電荷が中和されていき、静電気力が低下するという問題があった。さらには、たばこの煙などのオイルミストや洗濯時に使用する界面活性剤によって電荷の消失が促進され、静電気力が著しく低下するという問題があった。
【0004】
例えば、特許文献1には、繊維径の小さいエレクトレット化繊維を混繊することにより、物理的な捕集効率を高める方法が提案されている。しかしながら、使用している繊維径がミクロンオーダーであるため、静電気力が完全に失われた状態では十分な捕集性能が得られないという問題があった。
また、特許文献2には、繊維径1000nm以下のナノファイバー含むマスク用濾材が提案されているが、洗濯耐久性の点でまだ満足とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-46460号公報
【特許文献2】特開2019-199668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、繰返し洗濯後も優れた捕集性能を保持できる、洗濯耐久性に優れたマスク用濾材およびマスクを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、前記課題を達成できるマスク用濾材およびマスクを発明するに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、「不織布からなるマスク用濾材であって、前記不織布に、繊維径100~1000nmのナノファイバーと、熱融着性バインダー繊維とが含まれることを特徴とするマスク用濾材。」が提供される。
その際、前記ナノファイバーおよび/または熱融着性バインダー繊維が、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、またはナイロン繊維からなることが好ましい。また、前記不織布に、前記ナノファイバーが不織布重量対比5%以上含まれることが好ましい、また、前記不織布に、前記熱融着性バインダー繊維が不織布重量対比50%以上含まれることが
好ましい。
【0009】
また、本発明のマスク用濾材において、目付けが20~80g/m2の範囲内であることが好ましい。また、MD方向の引張強度が20N/15mm以上であることが好ましい。また、伸度がタテ・ヨコともに10%以上であることが好ましい。また、除電処理後の0.3μm粒子捕集率が95%以上であることが好ましい。また、洗濯試験後の0.3μm粒子捕集率が95%以上であることが好ましい。また、蒸留水滴下後の水滴の消失時間が1分以下であることが好ましい。
また、本発明によれば、前記のマスク用濾材を用いてなるマスクが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繰返し洗濯後も優れた捕集性能を保持できる、洗濯耐久性に優れたマスク用濾材およびマスクが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明のマスク用濾材は、繊維径100~1000nmのナノファイバー(好ましくは200~800nm)と、熱融着性バインダー繊維を含む不織布で構成される。前記ナノファイバーにおいて、繊維径が1000nmよりも大きいと捕集性能が低下するおそれがある。逆に、100nmよりも小さいと繊維自身の分散性が難しく、繊維が凝集し捕集性能が低下してしまうおそれがある。さらに、繊維が抄紙工程で網の目を通過してしまい、シート形成が困難になるおそれがある。
【0012】
ここで、前記の繊維径は、透過型電子顕微鏡TEMで、倍率30000倍で単繊維断面写真を撮影し測定することができる。その際、測長機能を有するTEMでは、測長機能を活用して測定することができる。また、測長機能の無いTEMでは、撮った写真を拡大コピーして、縮尺を考慮した上で定規にて測定すればよい。単繊維の横断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、繊維径は、単繊維の横断面の外接円の直径を用いるものとする。
【0013】
前記ナノファイバーにおいて、アスペクト比(繊維径Dに対する繊維長Lの比L/D)としては、100~2500の範囲内であることが好ましい。
【0014】
前記ナノファイバーの繊維種類としては、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ナイロン繊維などが例示される。なかでもポリエステル繊維が好ましい。ポリエステル繊維を形成するポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレートの他、これらを主たる繰返し単位とし、その他のコモノマー成分としてイソフタル酸や5-スルホイソフタル酸金属塩等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やε-カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸縮合物、ジエチレングリコールやトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のグリコール成分等を更に共重合させた共重合体が好ましい。マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、特開2009-091694号公報に記載された、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004-270097号公報や特開2004-211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。
【0015】
前記ナノファイバーの製造方法としては、特に限定されないが、国際公開第2005/
095686号パンフレットに開示された方法が好ましい。すなわち、繊維径およびその均一性の点で、繊維形成性熱可塑性ポリマーからなる島成分と、前記の繊維形成性熱可塑性ポリマーよりもアルカリ水溶液に対して溶解し易いポリマー(以下、「易溶解性ポリマー」ということもある。)からなる海成分を有する複合繊維にアルカリ減量加工を施し、前記海成分を溶解除去したものであることが好ましい。
【0016】
ここで、海成分を形成するアルカリ水溶液易溶解性ポリマーの、島成分を形成する繊維形成性熱可塑性ポリマーに対する溶解速度比が200以上(好ましくは300~3000)であると、島分離性が良好となり好ましい。溶解速度が200倍未満の場合には、繊維断面中央部の海成分を溶解する間に、分離した繊維断面表層部の島成分が、繊維径が小さいために溶解されるため、海相当分が減量されているにもかかわらず、繊維断面中央部の海成分を完全に溶解除去できず、島成分の太さ斑や島成分自体の溶剤侵食につながり、均一な繊維径の繊維が得られないおそれがある。
【0017】
海成分を形成する易溶解性ポリマーとしては、特に繊維形成性の良いポリエステル類、脂肪族ポリアミド類、ポリエチレンやポリスチレン等のポリオレフィン類を好ましい例としてあげることができる。さらに具体例を挙げれば、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリアルキレングリコール系化合物と5-ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合ポリエステルが、アルカリ水溶液に対して溶解しやすく好ましい。ここでアルカリ水溶液とは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム水溶液等を言う。これ以外にも、海成分と、該海成分を溶解する溶液の組合せとしては、ナイロン6やナイロン66等の脂肪族ポリアミドに対するギ酸、ポリスチレンに対するトリクロロエチレン等やポリエチレン(特に高圧法低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレン)に対する熱トルエンやキシレン等の炭化水素系溶剤、ポリビニルアルコールやエチレン変性ビニルアルコール系ポリマーに対する熱水を例として挙げることができる。
【0018】
ポリエステル系ポリマーの中でも、5-ナトリウムスルホイソフタル酸6~12モル%と分子量4000~12000のポリエチレングリコールを3~10質量%共重合させた固有粘度が0.4~0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5-ナトリウムスルホイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。また、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加作用があるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性や紡糸安定性の面で問題が生じる可能性がある。また、共重合量が10質量%以上になると、溶融粘度が低下するおそれがある。
【0019】
一方、島成分を形成する難溶解性ポリマーとしては、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリフェニレンスルフィド類、ポリオレフィン類等が好適な例として挙げられる。具体的には、機械的強度や耐熱性を要求される用途では、ポリエステル類では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、これらを主たる繰返し単位とする、イソフタル酸や5-スルホイソフタル酸金属塩等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やε-カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸縮合物、ジエチレングリコールやトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のグリコール成分等との共重合体が好ましい。また、ポリアミド類では、ナイロン6(Ny-6)、ナイロン66(Ny-66)等の脂肪族ポリアミド類が好ましい。また、ポリオレフィン類は酸やアルカリ等に侵され難いことや、比較的低い融点のために極細繊維として取り出した後のバインダー成分として使える等の特徴があり、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、無水マレイン酸等のビニルモノマーのエチレン共重合体等を好ましい例としてあげることができる。特にポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、イソフタル酸共重合率が20モル%以下のポリエチレンテレフタレートイソフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、あるいは、ナイロン6、ナイロン66等の脂肪族ポリアミド類が高い融点による耐熱性や力学的特性を備えているので、ポリビニルアルコール/ポリアクリロニトリル混合紡糸繊維からなる極細フィブリル化繊維に比べ、耐熱性や強度を要求される用途へ適用でき、好ましい。なお、島成分は丸断面に限らず、三角断面や扁平断面等の異型断面であってもよい。
【0020】
前記の海成分を形成するポリマーおよび島成分を形成するポリマーについて、製糸性および抽出後の主体繊維の物性に影響を及ぼさない範囲で、必要に応じて、艶消し剤、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂等の離型改良剤等の各種添加剤を含んでいても差しつかえない。
【0021】
前記の海島型複合繊維において、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。かかる関係にある場合には、海成分の複合質量比率が40%未満と少なくなっても、島同士が接合や、島成分の大部分が接合して海島型複合繊維とは異なるものになり難い。
【0022】
好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1~2.0、特に1.3~1.5の範囲であるこの比が1.1倍未満の場合には溶融紡糸時に島成分が接合しやすくなり、一方2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすい。
【0023】
次に島数は、100以上(より好ましくは300~1000)であることが好ましい。また、その海島複合質量比率(海:島)は、20:80~80:20の範囲が好ましい。かかる範囲であれば、島間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になるので好ましい。ここで海成分の割合が80質量%を越える場合には海成分の厚みが厚くなりすぎ、一方、20質量%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に接合が発生しやすくなる。
【0024】
溶融紡糸に用いられる口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するもの等任意のものを用いることができる。例えば、中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面が形成されるといった紡糸口金でもよい。吐出された海島型複合繊維は冷却風により固化され、所定の引き取り速度に設定した回転ローラーあるいはエジェクターにより引き取られ、未延伸糸を得る。この引き取り速度は特に限定されないが、200~5000m/分であることが望ましい。200m/分以下では生産性が悪くなるおそれがある。また、5000m/分以上では紡糸安定性が悪くなるおそれがある。
【0025】
得られた繊維は、海成分を抽出後に得られる極細繊維の用途・目的に応じて、そのままカット工程あるいはその後の抽出工程に供してもよいし、目的とする強度・伸度・熱収縮特性に合わせるために、延伸工程や熱処理工程を経由して、カット工程あるいはその後の抽出工程に供することができる。延伸工程は紡糸と延伸を別ステップで行う別延方式でもよいし、一工程内で紡糸後直ちに延伸を行う直延方式を用いてもよい。
【0026】
次に、かかる複合繊維を、島径Dに対する繊維長Lの比L/Dが100~2500の範囲内となるようにカットする。かかるカットは、数十本~数百万本単位に束ねたトウにしてギロチンカッターやロータリーカッター等でカットすることが好ましい。
【0027】
前記の繊維径を有する繊維は、前記複合繊維にアルカリ減量加工を施すことにより得ら
れる。その際、アルカリ減量加工において、繊維とアルカリ液の比率(浴比)は0.1~5%であることが好ましく、さらには0.4~3%であることが好ましい。0.1%未満では繊維とアルカリ液の接触は多いものの、排水等の工程性が困難となるおそれがある。一方、5%以上では繊維量が多過ぎるため、アルカリ減量加工時に繊維同士の絡み合いが発生するおそれがある。なお、浴比は下記式にて定義する。
浴比(%)=(繊維質量(gr)/アルカリ水溶液質量(gr)×100)
【0028】
また、アルカリ減量加工の処理時間は5~60分であることが好ましく、さらには10~30分であることが好ましい。5分未満ではアルカリ減量が不十分となるおそれがある。一方、60分以上では島成分までも減量されるおそれがある。
また、アルカリ減量加工において、アルカリ濃度は2~10質量%であることが好ましい。2質量%未満では、アルカリ不足となり、減量速度が極めて遅くなるおそれがある。一方、10質量%を越えるとアルカリ減量が進みすぎ、島部分まで減量されるおそれがある。
なお、前記のカット工程とアルカリ減量工程の順序を逆にして、まずアルカリ減量加工を行った後、カットを行ってもよい。
【0029】
前記ナノファイバーが不織布重量対比5重量%以上(より好ましくは5~30重量%)含まれることが好ましい。特に、前記不織布において、前記ナノファイバーに加えて熱融着性バインダー繊維が含まれることが重要である。その際、前記熱融着性バインダー繊維が不織布重量対比50%以上(より好ましくは50~90重量%、特に好ましくは70~85重量%)含まれることが好ましい。熱融着性バインダー繊維は繊維同士の融着ネットワークをつくり、不織布の骨格形成や強度の役割を担う。熱融着性バインダーの含有量が90重量%よりも大きいと乾燥工程での不織布の収縮による破れが生じ抄紙性が悪くなったり、融着ネットワークによって圧力損失の増大を引き起こすおそれがある。逆に50重量%未満では、マスク用濾材としては強度が弱く、洗濯耐久性が低くなってしまうおそれがある。そのため、熱融着性バインダー繊維が不織布重量対比50重量%以上含むことが好ましく、このときにナノファイバーが不織布重量対比5重量%以上含むことで乾燥工程での収縮を抑制でき、抄紙性に優れ、好ましい。これによって、濾材自体の強度・伸度を高くすることができ洗濯耐久性に優れる。
【0030】
前記熱融着性バインダー繊維としては、未延伸繊維や複合繊維が挙げられ、繊維径が100~1500nmの熱融着性極細繊維や単繊維繊度が0.1dtex(繊維径3μm)以上の熱融着性繊維が例示される。かかる熱融着性繊維は未延伸繊維(複屈折率(Δn)が0.05以下)でもよいし複合繊維でもよい。
【0031】
未延伸繊維からなる熱融着性繊維を用いる場合、抄紙後のドライヤーの後、熱圧着工程が必要であるため、抄紙後、カレンダー/エンボス処理を施すことが好ましい。未延伸繊維としては、紡糸速度が好ましくは800~1200m/分、さらに好ましくは900~1150m/分で紡糸された未延伸ポリエステル繊維や未延伸ポリフェニレンスルフィド繊維が挙げられる。ここで、未延伸繊維に用いられるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが挙げられ、好ましくは生産性、水への分散性等の理由から、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートが好ましい。また、未延伸繊維に用いられるポリフェニレンスルフィドとしては、ポリアリーレンスルフィド樹脂と称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよい。ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、その構成単位として、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、等よりなる
ものを挙げることができる。その中でも、p-フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましく、さらにポリ(p-フェニレンスルフィド)がより好ましい。
【0032】
一方、熱融着性バインダー繊維のうち、複合繊維としては、抄紙後に施す80~170℃の熱処理によって融着し接着効果を発現するポリマー成分(例えば、非晶性共重合ポリエステル)が鞘部に配され、これらのポリマーより融点が20℃以上高い他のポリマー(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の通常のポリエステル)が芯部に配された芯鞘型複合繊維が好ましい。なお、バインダー成分(低融点成分)が単繊維の表面の全部または一部を形成している、芯鞘型複合繊維、偏心芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維等でもよい。
【0033】
ここで、上記非晶性共重合ポリエステルは、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の酸成分と、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等のジオール成分とのランダムまたはブロック共重合体として得られる。中でも、従来から広く用いられているテレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコールおよびジエチレングリコールを主成分として用いることがコストの面で好ましい。このような共重合ポリエステルは、ガラス転移点が50~100℃の範囲となり、明確な結晶融点を示さない。
【0034】
前記不織布は湿式不織布からなることが好ましい。かかる湿式不織布を製造する方法としては、通常の長網抄紙機、短網抄紙機、丸網抄紙機、あるいはこれらを複数台組み合わせて多層抄きなどとして抄紙した後、熱処理する製造方法が好ましい。その際、熱処理工程としては、抄紙工程後、ヤンキードライヤー、エアースルードライヤーのどちらでも可能である。また、熱処理の後、金属/金属ローラー、金属/ペーパーローラー、金属/弾性ローラーなどのカレンダーを施してもよい。
【0035】
また、多層構造を有する不織布の製造方法としては、例えば、前記のような湿式不織布を得た後、カレンダー機などを用いて接着させるとよい。
さらに前記ナノファイバーと熱融着性バインダー繊維の他に0.1dtex(繊維径3μm)以上の太繊度の繊維が含まれていてもよい。これらの繊維はナノファイバーの分散を助けるとともに不織布の骨格となり高空隙構造を作り、低圧損化に寄与する。太繊度の繊維としては、繊維径が均一で分散性がよい点で前記のようなポリエステル繊維が好ましい。
【0036】
かくして得られたマスク用濾材において、目付けが20~80g/m2の範囲内であることが好ましい。目付けがこれよりも大きい場合にはマスクとしたときに重くなり、装着時の負担が大きくなるおそれがある。目付けは小さい方が好ましいが、不織布の均一性と強度の観点から20g/m2以上が好ましい。
【0037】
また、マスク用濾材において、引張強度がMD方向(好ましくはタテ・ヨコともに)で20N/15mm以上(より好ましくは20~100N/15mm)であることが好ましい。引張強度が小さいと洗濯時に濾材が破れてしまうことや、濾材が劣化し捕集性能が低下してしまうおそれがある。
【0038】
また、マスク用濾材において、イソプロピルアルコール処理後の除電時の0.3μm粒子捕集率が95%以上であることが好ましい。除電時の捕集率は、日常生活におけるたば
この煙の影響や洗濯時の界面活性剤の影響を考慮し、除電時にも捕集性能が低下しないことが好ましい。
【0039】
また、マスク用濾材において、着用快適性の点で伸度がタテ・ヨコともに10%以上(より好ましくは12~50%)であることが好ましい。
また、マスク用濾材において、洗濯試験後の0.3μm粒子捕集率が95%以上であることが好ましい。マスクを洗濯し、繰り返し使用する際にも捕集性能が低下していないことが好ましい。
【0040】
また、マスク用濾材において、蒸留水滴下後の水滴の消失時間が1分以下であることが好ましい。洗濯耐久性マスク用濾材として吸水性が低く水滴を吸水しない濾材の場合、マスクとして使用した際に汗や飛沫や結露による内部に水滴が発生した際に、水滴が残留してしまい不快感やマスクかぶれなどを引き起こす原因となる。そのため、洗濯耐久性マスク用濾材として快適に使用できるように生じた水滴を即座に吸水しマスク内部に水滴が残らないようにすることが好ましい。
本発明のマスク用濾材は前記の構成を有するので、繰返し洗濯後も優れた捕集性能を保持できる。
【0041】
次に、本発明のマスクは、本発明のマスクは前記のマスク用濾材を用いてなるマスクである。かかるマスクにおいて、前記濾材を単体でも良いし、各種スパンボンドやサーマルボンドからなる不織布基材や織編物と重ねて、または貼り合せて使用することもできる。かかるマスクは耳掛け用のひも、バンド、フックなどを備えていてもよい。
【実施例0042】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されているものではない。実施例中の物性は、以下の方法により測定した。
【0043】
(1)繊維径
透過型電子顕微鏡TEM(測長機能付)を使用し、倍率30000倍で繊維断面写真を撮影し測定した。ただし、繊維径は、単繊維横断面におけるその外接円の直径を用いた(サンプル数5の平均値)。
【0044】
(2)繊維長
走査型電子顕微鏡(SEM)により、海成分溶解除去前の極細短繊維(短繊維A)を基盤上に寝かせた状態とし、20~500倍で繊維長Lを測定した(サンプル数5の平均値)。その際、SEMの測長機能を活用して繊維長Lを測定した。
【0045】
(3)目付け
JIS P8124(紙のメートル坪量測定方法)に基づいて目付けを測定した。
【0046】
(4)厚さ
JIS P8118(紙及び板紙の厚さと密度の測定方法)に基づいて厚みを測定した。測定荷重は75g/cm2にて、サンプル数5で測定し、平均値を求めた。
【0047】
(5)引張強伸度
JIS P8113(紙および板紙の引張強さと試験方法)に基づいて実施した。
【0048】
(6)捕集率
パーティクル測定器(リオン株式会社製パーティクルカウンターKC-01(0.3~5μm))にて、大気塵(0.3~5μm)を速度5.1cm/secでサンプルを通過
させた時に、サンプルに捕集された大気塵中の0.3μm粒子数を測定し、大気塵中の0.3μm粒子数から100分率で捕集率を算出した。
【0049】
(7)圧力損失(圧損)
大気塵(0.3~5μm)を速度5.1cm/secでサンプルを通過させた時の大気圧に対する差圧をゲージから読み取った。
【0050】
(8)除電処理
JISB9908:2011(換気用エアフィルタユニット・換気用電気集じん器の性能試験方法)のイソプロピルアルコール(IPA)飽和蒸気暴露法に基づき、除電処理を実施した。
【0051】
(9)吸水性
サンプルに蒸留水5μLを滴下したあとの水滴が消失する時間を測定した。水滴が1分以下で消失する場合は〇(合格)、5分以上経過しても水滴が残る場合は×(不合格)と評価した。
【0052】
(10)洗濯試験
JISL1930:2014(繊維製品の家庭洗濯試験方法)のC4M法にて洗濯し、A法にて吊り干し乾燥を実施した。この方法を各洗濯回数(L)実施した。
【0053】
[実施例1]
繊維径400nm×繊維長0.4mmのナノファイバー(ポリエステル繊維)10重量%と、繊維径12.6μm×繊維長5.0mmのマイクロ繊維(ポリエステル繊維)10重量%と、繊維径12.6μm×繊維長5.0mmの芯鞘複合型熱融着性バインダー繊維(ポリエステル繊維)80重量%とからなるポリエステル不織布を、湿式抄紙法により作製し、ヤンキードライヤー(120℃)で乾燥し湿式不織布からなるマスク用濾材を得た。評価結果を表1に示す。
【0054】
かかる洗濯耐久性マスク用濾材は熱融着性バインダー繊維を80重量%含むため強度・伸度に優れる。さらに、ナノファイバーを含むため高捕集率・低圧損を両立できる。また、エレクトレット加工ではなくナノファイバーによる捕集機構のため、除電後も捕集性能が劣化しない。
【0055】
[実施例2]
繊維径700nm×繊維長0.5mmのナノファイバー(ポリエステル繊維)20重量%と、繊維径12.6μm×繊維長5.0mmの芯鞘複合型熱融着性バインダー繊維(ポリエステル繊維)80重量%とからなるポリエステル不織布を、湿式抄紙法により作製し、ヤンキードライヤー(120℃)で乾燥し湿式不織布からなるマスク用濾材を得た。評価結果を表1に示す。
実施例1と同様に熱融着性バインダー繊維によって優れた強度・伸度を得られた。また、ナノファイバーによって高い捕集性能と低圧損を両立し、除電後も性能劣化しない。
【0056】
[実施例3]
実施例1の濾材を帝人フロンティア株式会社製のナノフロント(登録商標)からなる編物1(目付148g/m2、厚み0.48mm)と帝人フロンティア株式会社性のエコピュアー(登録商標)からなる編物2(目付146g/m2、厚み0.44mm)に重ねて挟み、4隅をミシンで裁縫し一体化させた。評価結果を表2に示す。
この濾材は熱融着性バインダー繊維を80重量%含むため、洗濯耐久性に優れ、洗濯30回後でも捕集性能を保持した。
【0057】
[実施例4]
繊維径400nm×繊維長0.4mmのナノファイバー(ポリエステル繊維)10重量%と、繊維径12.6μm×繊維長5.0mmのマイクロ繊維(ポリエステル繊維)60重量%と、繊維径12.6μm×繊維長5.0mmの芯鞘複合型熱融着性バインダー繊維(ポリエステル繊維)30重量%とからなるポリエステル不織布を、湿式抄紙法により作製し、ヤンキードライヤー(120℃)で乾燥し湿式不織布からなるマスク用濾材を得た。評価結果を表1に示す。
ナノファイバーを含むため捕集性能に優れるものの、熱融着性バインダー繊維量が少ないため、強度・伸度がやや低い。
【0058】
[比較例1]
繊維径3μm×繊維長3.0mmのマイクロ繊維(ポリエステル繊維)70重量%と、繊維径12.6μm×繊維長5.0mmの芯鞘複合型熱融着性バインダー繊維(ポリエステル繊維)30重量%とからなるポリエステル不織布を、湿式抄紙法により作製し、ヤンキードライヤー(120℃)で乾燥し湿式不織布からなるマスク用濾材を得た。評価結果を表1に示す。
熱融着性バインダー繊維量が少ないため、強度・伸度が低い。また、ナノファイバーを含まないため、捕集率が低く、マスクとして性能が低いものであった。
【0059】
[比較例2]
市販のマスクを分解し、メルトブロー不織布濾材を取り出し、評価した。この濾材はエレクトレット加工によって高い捕集率と低圧損が両立されているものの、除電後には捕集率が大きく低下した。また、蒸留水を滴下した際には5分以上経過しても水滴が残っており、吸水性が低い。エレクトレット加工濾材では性能の信頼性が低く、様々な環境下での利用や繰返し利用には好ましくない。
【0060】
[比較例3]
実施例3の帝人フロンティア株式会社製のナノフロントからなる編物1(目付148g/m2、厚み0.48mm)と帝人フロンティア株式会社性のエコピュアー(登録商標)から成る編物2(目付146g/m2、厚み0.44mm)を重ねて4隅をミシンで裁縫し一体化させた。評価結果を表2に示す。
編物のみで構成しているため、捕集性能が低く、マスクとしての性能が低い。
【0061】
[実施例5]
実施例4の濾材を帝人フロンティア株式会社製のナノフロント(登録商標)からなる編物1(目付148g/m2、厚み0.48mm)と帝人フロンティア株式会社性のエコピュアー(登録商標)からなる編物2(目付146g/m2、厚み0.44mm)に重ねて挟み、4隅をミシンで裁縫し一体化させた。評価結果を表2に示す。
この濾材は熱融着性バインダー繊維を30重量%しか含まないため、洗濯耐久性が低く、洗濯30回後には捕集性能が大きく低下した。これは濾材の強度・伸度が低いため洗濯によって濾材の劣化が進行し、性能が低下した。
【0062】
【0063】