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特開2023-121657表面性状の評価方法、金属部材の製造方法、金属樹脂接合体の製造方法及び機械学習装置
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  • 特開-表面性状の評価方法、金属部材の製造方法、金属樹脂接合体の製造方法及び機械学習装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121657
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】表面性状の評価方法、金属部材の製造方法、金属樹脂接合体の製造方法及び機械学習装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/00 20060101AFI20230824BHJP
   G01N 33/208 20190101ALI20230824BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20230824BHJP
   B24C 1/06 20060101ALN20230824BHJP
【FI】
G01N33/00 D
G01N33/208
G06N20/00
B24C1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025115
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島▲崎▼ 絢也
【テーマコード(参考)】
2G055
【Fターム(参考)】
2G055AA07
2G055BA09
2G055EA06
(57)【要約】
【課題】新規な表面性状の評価方法、並びにこの方法を用いる金属部材の製造方法、金属樹脂接合体の製造方法及び機械学習装置の提供。
【解決手段】物体の表面に炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物を付与する工程と、前記炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物が付与された表面に存在する細孔のデータを取得する工程と、を含み、前記データは前記細孔に水を圧入することにより取得する、表面性状の評価方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の表面に炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物を付与する工程と、
前記炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物が付与された表面に存在する細孔のデータを取得する工程と、を含み、
前記データは前記細孔に水を圧入することにより取得する、表面性状の評価方法。
【請求項2】
前記炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物は前記物体の表面と化学的に結合する、請求項1に記載の表面性状の評価方法。
【請求項3】
前記炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物は前記物体の表面に自己組織化単分子膜を形成する、請求項1又は請求項2に記載の表面性状の評価方法。
【請求項4】
前記炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物が付与された表面は水の接触角が90°以上である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の表面性状の評価方法。
【請求項5】
前記物体は金属を含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の表面性状の評価方法。
【請求項6】
金属部材の表面の粗化処理を行う工程を含み、
前記粗化処理の条件は請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の表面性状の評価方法により得られる情報に基づいて決定する、金属部材の製造方法。
【請求項7】
金属部材の表面の粗化処理を行う工程と、
前記金属部材の粗化処理された表面に樹脂部材を接合する工程と、を含み、
前記粗化処理の条件は請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の表面性状の評価方法により得られる情報に基づいて決定する、金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の表面性状の評価方法により得られる金属部材の表面性状に関する情報と;前記金属部材の粗化処理条件又は樹脂部材に対する接合強度に関する判断値と;から構成される学習データに基づいて、前記判断値を決定する関数を学習する学習部を含み、
前記学習部は、前記学習データに基づいて、前記関数を用いて金属部材の粗化処理条件又は樹脂部材に対する接合強度を決定した結果に対する報酬を計算する報酬計算部と、
前記報酬計算部により計算された報酬が高くなるように、前記関数を更新する関数更新部と、
予め定められた収束条件を満たすまで、前記報酬計算部による計算及び前記関数更新部による更新を繰り返させる収束判定部と、を含む機械学習装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面性状の評価方法、金属部材の製造方法、金属樹脂接合体の製造方法及び機械学習装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材の表面を粗化する方法として、金属部材の表面をエッチングしてマイクロメートルオーダーの凹凸構造を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/008847号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
物体の表面性状の定量的な評価には、表面粗さ測定装置を用いて得られる算術平均粗さ(Ra)等のパラメータが広く利用されている。しかしながら、特許文献1に記載されているように物体の表面が微細な凹凸構造を含んだ状態であると、既存の方法では物体の表面性状を充分に把握できない場合がある。
【0005】
上記事情に鑑み、本開示の一実施形態は、新規な表面性状の評価方法、並びにこの方法を用いる金属部材の製造方法、金属樹脂接合体の製造方法及び機械学習装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>物体の表面に炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物を付与する工程と、
前記炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物が付与された表面に存在する細孔のデータを取得する工程と、を含み、
前記データは前記細孔に水を圧入することにより取得する、表面性状の評価方法。
<2>前記炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物は前記物体の表面と化学的に結合する、<1>に記載の表面性状の評価方法。
<3>前記炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物は前記物体の表面に自己組織化単分子膜を形成する、<1>又は<2>に記載の表面性状の評価方法。
<4>前記炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物が付与された表面は水の接触角が90°以上である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の表面性状の評価方法。
<5>前記物体は金属を含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載の表面性状の評価方法。
<6>金属部材の表面の粗化処理を行う工程を含み、
前記粗化処理の条件は<1>~<5>のいずれか1項に記載の表面性状の評価方法により得られる情報に基づいて決定する、金属部材の製造方法。
<7>金属部材の表面の粗化処理を行う工程と、
前記金属部材の粗化処理された表面に樹脂部材を接合する工程と、を含み、
前記粗化処理の条件は<1>~<5>のいずれか1項に記載の表面性状の評価方法により得られる情報に基づいて決定する、金属樹脂接合体の製造方法。
<8><1>~<5>のいずれか1項に記載の表面性状の評価方法により得られる金属部材の表面性状に関する情報と;前記金属部材の粗化処理条件又は樹脂部材に対する接合強度に関する判断値と;から構成される学習データに基づいて、前記判断値を決定する関数を学習する学習部を含み、
前記学習部は、前記学習データに基づいて、前記関数を用いて金属部材の粗化処理条件又は樹脂部材に対する接合強度を決定した結果に対する報酬を計算する報酬計算部と、
前記報酬計算部により計算された報酬が高くなるように、前記関数を更新する関数更新部と、
予め定められた収束条件を満たすまで、前記報酬計算部による計算及び前記関数更新部による更新を繰り返させる収束判定部と、を含む機械学習装置。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施形態によれば、新規な表面性状の評価方法、並びにこの方法を用いる金属部材の製造方法、金属樹脂接合体の製造方法及び機械学習装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1で測定した試験片の細孔径の度数分布図である。
図2】実施例1で測定した試験片の細孔径の度数分布図である。
図3】実施例1で測定した試験片の細孔径の度数分布図である。
図4】実施例1で測定した試験片の細孔径の度数分布図である。
図5】実施例1で測定した試験片の細孔径の度数分布図である。
図6】機械学習装置100の構成の一例を示す概略図である。
図7】機械学習装置100の機械学習処理ルーチンの一例を示す概念図である。
【0009】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、材料中の各成分の量は、材料中の各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、材料中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0010】
<表面性状の評価方法>
本開示の表面性状の評価方法は、
物体の表面に炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物を付与する工程と、
前記炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物が付与された表面に存在する細孔のデータを取得する工程と、を含み、
前記データは前記細孔に水を圧入することにより取得する、表面性状の評価方法である。
【0011】
上記方法によれば、物体の表面が細孔を含んでいる場合にも物体の表面性状を的確に評価できる。
【0012】
上記方法では、物体の表面の細孔に水を圧入することにより細孔のデータを取得する。以下、物体の表面の細孔に水を圧入することにより細孔のデータを取得する手法を「水圧入法」とも称する。
【0013】
水圧入法では、物体の表面の細孔に水を加圧しながら注入し、加えた圧力と細孔内に注入された水の量との関係に基づいて、物体の表面に存在する細孔のデータを取得する。
【0014】
物体に加える圧力Pと水が注入される細孔の直径Dとは、下記のWashburnの式で示すように、反比例の関係にある。物体に加える圧力を段階的に変化させながら水の注入量を求めることで、細孔の直径ごとの存在量が求められる。
【0015】
D=-4σcosθ/P
式中、Dは細孔の直径であり、σは水の表面張力であり、θは水の接触角であり、Pは圧力である。
【0016】
本開示の方法で用いる細孔のデータとしては、孔径分布、平均孔径、全細孔容積等が挙げられる。
【0017】
水圧入法と原理が同じである水銀圧入法は、細孔に水銀を圧入して細孔のデータを取得する。このため、物体の材質がアルミニウム合金のように水銀と反応する場合は水銀圧入法を適用することができない。
本開示の方法では、物体の材質が水銀と反応する場合であっても細孔のデータを取得することができる。また、水銀は環境への排出が制約される物質であるため、水銀の代わりに水を用いる本開示の方法は生体及び環境に対する親和性の点でも優れている。
【0018】
本開示の方法では、物体の表面の細孔のデータを取得するに先立って、物体の表面に炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物を付与する。
水圧入法による細孔のデータの取得を精度よく行うためには、物体の表面に対する水の濡れ性が小さい(すなわち、疎水性である)必要がある。
物体の表面に炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物を付与することで、物体の表面が疎水化される。その結果、物体の表面の細孔のデータを精度よく取得することができる。
【0019】
炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物において、化合物が持つアルキル基の炭素数は1~20の範囲内であれば特に制限されない。アルキル基の炭素数は3以上であってもよく、5以上であってもよく、10以上であってもよく、15以上であってもよい。
炭素数1~20のアルキル基は無置換であっても置換基を有していてもよく、無置換であることが好ましい。
炭素数1~20のアルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物のアルキル基の数は1つでも2つ以上であってもよく、1つであることが好ましい。
【0020】
物体の表面を効果的に疎水化する観点からは、炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物は、物体の表面と化学的に結合する化合物であることが好ましい。
【0021】
物体の表面と化学的に結合する炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物の種類は特に制限されず、物体の表面の材質等に応じて選択できる。例えば、物体の表面に水酸基が存在する場合は、炭素数1~20のアルキル基と、水酸基と反応する官能基とを持つ化合物を選択できる。
【0022】
物体の表面と化学的に結合する炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物として具体的には、炭素数1~20のアルキル基を持つホスホン酸化合物、炭素数1~20のアルキル基を持つシラン化合物、カルボン酸誘導体、フッ化炭化水素、チオール誘導体等が挙げられる。
【0023】
測定精度の観点からは、炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物は、物体の表面に自己組織化単分子膜を形成しうることが好ましい。
【0024】
自己組織化単分子膜は、厚みが1~2ナノメートル程度と極めて薄い。したがって、炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物により細孔の内部に形成される膜の存在が測定結果に与える影響が小さい。
【0025】
物体の表面に自己組織化単分子膜を形成しうる炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物として具体的には、炭素数1~20のアルキル基を持つホスホン酸化合物及び炭素数1~20のアルキル基を持つシラン化合物が挙げられ、形成された自己組織化単分子膜の安定性の観点からは、炭素数1~20のアルキル基を持つホスホン酸化合物が好ましい。
【0026】
ホスホン酸化合物は、シラン化合物よりも高密度な自己組織化単分子膜を形成する。これは例えば、シラン化合物は物体の表面に存在する水酸基(OH)とのみ反応するのに対し、ホスホン酸化合物は物体の表面にプロトン(H)を供給することでOHを再生し、連鎖的に反応するためと考えられる。したがって、炭素数1~20のアルキル基を持つホスホン酸化合物を用いて形成される膜は安定性に優れると考えられる。
【0027】
物体の表面に炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物を付与する方法は、特に制限されない。付与の方法として具体的には、炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物を溶解又は分散させた液体を物体の表面に塗布する方法、前記液体に物体を浸漬する方法などが挙げられる。
【0028】
炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物を物体の表面に付与した後、加熱処理を行ってもよい。加熱処理を行うことで、例えば、炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物と物体の表面との化学的な結合を促進させることができる。
【0029】
炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物が付与された物体の表面は、水の接触角が90°以上であることが好ましく、110°以上であることがより好ましく、130°以上であることがさらに好ましい。
【0030】
物体の表面の水の接触角が90°以上であると、物体の表面が充分に疎水化されていると判断でき、水圧入法による細孔の径の測定を精度よく行うことができる。
【0031】
物体の表面に炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物が付与した後、物体の表面の細孔のデータを水圧入法により取得する。
水圧入法による細孔のデータの取得を実施する方法は特に制限されず、公知の手順に従って実施する。例えば、水銀圧入法で用いられる水銀ポロシメータを用いて水銀の代わりに水を細孔に圧入して実施する。
水圧入法による細孔のデータの取得に使用する水は、イオン交換水のような純水であっても、必要な接触角が得られる範囲内で不純物を含む水であってもよい。
【0032】
本開示の方法で測定対象となる物体の種類は、特に制限されない。本開示の方法では物体の表面に炭素数1~20のアルキル基を持つ化合物を付与することにより、物体の表面が疎水化される。このため、表面が親水性である物体であっても本開示の方法を適用することができる。例えば、物体が金属を含む場合であっても本開示の方法を適用することができる。
【0033】
<金属部材の製造方法>
本開示の金属部材の製造方法は、金属部材の表面の粗化処理を行う工程を含み、
前記粗化処理の条件は上述した表面性状の評価方法により得られる情報に基づいて決定する、金属部材の製造方法である。
【0034】
上記方法では、金属部材の表面の粗化処理の条件を上述した表面性状の評価方法により得られる情報に基づいて決定する。このため、金属部材の表面性状の評価に広く使用されている算術平均粗さ(Ra)等のパラメータでは把握できない情報を的確に粗化処理の条件に反映させることができる。
【0035】
上記方法では、金属部材の粗化処理の条件を上述した表面性状の評価方法により得られる情報に基づいて決定する。表面性状の評価方法により得られる情報としては、金属部材の表面に存在する細孔の孔径分布、平均孔径、全細孔容積等が挙げられる。これらの情報は、たとえば、金属部材の樹脂部材に対する接合強度の指標として利用される。
【0036】
金属部材の材質は、特に制限されない。金属部材の材質として具体的には、鉄、銅、ニッケル、金、銀、プラチナ、コバルト、亜鉛、鉛、スズ、チタン、クロム、アルミニウム、マグネシウム及びマンガンから選択される金属、並びに前記金属から選択される少なくとも1種を含む合金が挙げられる。
【0037】
金属部材の材質は1種のみでも2種以上であってもよい。
金属部材は、本体と、本体の表面に形成されるめっき層とを有するものであってもよい。
【0038】
金属部材の粗化処理の方法としては、特許第4020957号に開示されているようなレーザーを用いる方法;NaOH等の無機塩基、またはHCl、HNO等の無機酸の水溶液に金属部材の表面を浸漬する方法;特許第4541153号に開示されているような、陽極酸化により金属部材の表面を処理する方法;国際公開第2015-8847号に開示されているような、酸系エッチング剤(好ましくは、無機酸、第二鉄イオンまたは第二銅イオン)および必要に応じてマンガンイオン、塩化アルミニウム六水和物、塩化ナトリウム等を含む酸系エッチング剤水溶液によってエッチングする置換晶析法;国際公開第2009/31632号に開示されているような、水和ヒドラジン、アンモニア、および水溶性アミン化合物から選ばれる1種以上の水溶液に金属部材の表面を浸漬する方法(NMT法);特開2008-162115号公報に開示されているような温水処理法;ブラスト処理等の粗化処理が挙げられる。
【0039】
金属部材の粗化処理は、特許第5366076号に記載されているような多孔質のめっき層を金属部材の表面に形成するものであってもよい。
【0040】
上記方法の中でも、金属部材の樹脂部材に対する接合強度を高める観点からは酸系エッチング剤による処理が好ましい。
酸系エッチング剤による処理としては、例えば、下記工程(1)~(4)をこの順に実施する方法が挙げられる。
【0041】
(1)前処理工程
金属部材の表面に存在する酸化膜や水酸化物等からなる被膜を除去するための前処理を行う。通常、機械研磨や化学研磨処理が行われる。金属部材の表面に機械油等の著しい汚染がある場合は、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等のアルカリ性水溶液による処理や、脱脂を行ってもよい。
【0042】
(2)亜鉛イオン含有アルカリ水溶液による処理工程
水酸化アルカリ(MOH)と亜鉛イオン(Zn2+)とを質量比(MOH/Zn2+)1~100の割合で含む亜鉛イオン含有アルカリ水溶液中に、前処理後の金属部材を浸漬し、表面に亜鉛含有被膜を形成する。なお、前記MOHのMはアルカリ金属またはアルカリ土類金属である。
【0043】
(3)酸系エッチング剤による処理工程
工程(2)の後に、金属部材を、第二鉄イオンと第二銅イオンの少なくとも一方と、酸を含む酸系エッチング剤により処理して、金属部材の表面上の亜鉛含有被膜を溶離させると共に、マイクロメートルオーダーの微細凹凸形状を形成させる。
【0044】
(4)後処理工程
上記工程(3)の後に、金属部材を洗浄する。通常は、水洗および乾燥操作からなる。スマット除去のために超音波洗浄操作を含めてもよい。
【0045】
金属部材の粗化処理は、2回以上行ってもよい。例えば、上記工程(1)~(4)を実施して金属部材の表面にマイクロメートルオーダーの凹凸構造(ベース粗面)を形成し、その後さらにナノメートルオーダーの凹凸構造(ファイン粗面)を形成してもよい。
【0046】
金属部材の表面にベース粗面を形成した後にファイン粗面を形成する方法としては、例えば、ベース粗面が形成された金属部材を25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下、好ましくは0超え0.5以下の金属カチオンを含む酸化性酸性水溶液と接触させる方法が挙げられる。
上記酸化性酸性水溶液は、上記Eが-0.2以下の金属カチオンを含まないことが好ましい。
25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下である金属カチオンとしては、Pb2+、Sn2+、Ag、Hg2+、Cu2+等が挙げられる。これらの中では、金属の希少性の視点、対応金属塩の安全性及び毒性の視点からは、Cu2+が好ましい。
Cu2+を発生させる化合物としては、水酸化銅、酸化第二銅、塩化第二銅、臭化第二銅、硫酸銅、硝酸銅などの無機化合物が挙げられ、安全性、毒性の視点、樹枝状層の付与効率の視点からは、酸化銅が好ましい。
【0047】
酸化性酸性水溶液としては、硝酸または硝酸に対し塩酸、弗酸、硫酸のいずれかを混合した酸を例示することができる。さらに、過酢酸、過ギ酸に代表される過カルボン酸水溶液を用いてもよい。酸化性酸性水溶液として硝酸を用い、金属カチオン発生化合物として酸化第二銅を用いる場合、水溶液を構成する硝酸濃度は、例えば10質量%~40質量%、好ましくは15質量%~38質量%、より好ましくは20質量%~35質量%である。また、水溶液を構成する銅イオン濃度は、例えば1質量%~15質量%、好ましくは2質量%~12質量%、より好ましくは2質量%~8質量%である。
【0048】
ベース粗面が形成された金属部材を酸化性酸性水溶液と接触させる際の温度は特に制限されないが、発熱反応を制御しつつ経済的なスピードで粗化を完結するために、例えば常温~60℃、好ましくは30℃~50℃の処理温度が採用される。この際の処理時間は、例えば1分~15分、好ましくは2分~10分の範囲にある。
【0049】
金属部材の用途は、特に制限されない。例えば、後述する金属樹脂接合体のほか、抗菌部材等が挙げられる。
【0050】
<金属樹脂接合体の製造方法>
本開示の金属樹脂接合体の製造方法は、
金属部材の表面の粗化処理を行う工程と、
前記金属部材の粗化処理された表面に樹脂部材を接合する工程と、を含み、
前記粗化処理の条件は上述した表面性状の評価方法により得られる情報に基づいて決定する、金属樹脂接合体の製造方法である。
【0051】
本開示において金属部材と樹脂部材とが「接合」した状態とは、金属部材が接着剤、ねじ等を用いずに樹脂部材と固着している状態を意味する。
【0052】
金属部材が樹脂部材と接合した状態は、たとえば、溶融又は軟化により流動性を有する状態の樹脂部材の材料を、金属部材の粗化処理された表面に付与して形成することができる。樹脂部材の材料が流動性を有する状態であると、金属部材の粗化処理された表面の凹凸構造に樹脂部材の材料が入り込んでアンカー効果が発現し、樹脂部材が金属部材の表面に強固に接合する。
【0053】
上記方法では、金属部材の粗化処理の条件を上述した表面性状の評価方法により得られる情報に基づいて決定する。表面性状の評価方法により得られる情報としては、金属部材の表面に存在する細孔の孔径分布、平均孔径、全細孔容積等が挙げられる。これらの情報は、たとえば、金属部材の樹脂部材に対する接合強度の指標として利用される。
【0054】
樹脂部材に含まれる樹脂の種類は特に制限されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマー等であってよい。
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、メタクリル樹脂(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶性樹脂(LCP)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)等が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート等が挙げられる。
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
熱硬化性エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等のジエン系ゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、ウレタンゴム、シリコーンゴ
ム、アクリルゴム等の非ジエン系ゴムなどが挙げられる。
樹脂部材に含まれる樹脂はアイオノマー又はポリマーアロイの状態であってもよい。
樹脂部材に含まれる樹脂は1種のみでも2種以上であってもよい。
【0055】
樹脂部材は、樹脂に加えて種々の配合剤を含んでもよい。配合剤としては、ガラス繊維、カーボン繊維、無機粉末等の充填材、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0056】
樹脂部材が樹脂以外の成分を含む場合、樹脂部材全体に占める樹脂の割合は10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
【0057】
金属部材の粗化処理された表面に樹脂部材を接合する工程は、たとえば、射出成形等の公知の方法で実施することができる。
【0058】
<機械学習装置>
本開示の機械学習装置は、上述した表面性状の評価方法により得られる金属部材の表面性状に関する情報と;前記金属部材の粗化処理条件又は樹脂部材に対する接合強度に関する判断値と;から構成される学習データに基づいて、前記判断値を決定する関数を学習する学習部を含み、
前記学習部は、前記学習データに基づいて、前記関数を用いて金属部材の粗化処理条件又は樹脂部材に対する接合強度を決定した結果に対する報酬を計算する報酬計算部と、
前記報酬計算部により計算された報酬が高くなるように、前記関数を更新する関数更新部と、
予め定められた収束条件を満たすまで、前記報酬計算部による計算及び前記関数更新部による更新を繰り返させる収束判定部と、を含む機械学習装置である。
【0059】
上記機械学習装置は、例えば、金属部材の粗化処理条件の最適化、粗化処理を施した金属部材の樹脂部材に対する接合強度の予測などに用いることができる。
【0060】
本開示の機械学習装置は、入力された金属部材の表面性状に関する情報から、学習部による学習された前記関数を用いて、上記判断値を決定する判断部を更に含むものであってもよい。
【0061】
図6は機械学習装置100の構成の一例を示す概略図である。図6に示す構成の機械学習装置100は、CPUと、RAMと、後述する機械学習処理ルーチンを実行するためのプログラムや各種データを記憶したROMと、を含むコンピュータで構成することが出来る。機械学習装置100は、入力部10と、演算部20と、出力部90とを備えている。
【0062】
入力部10は、金属部材の表面性状に関する情報と;金属部材の粗化処理条件又は樹脂部材に対する接合強度に関する判断値と;から構成される複数の学習データを受け付ける。また、入力部10は、判断対象となる、金属部材の表面性状に関する情報を受け付ける。
【0063】
演算部20は、学習データ記憶部30と、学習部40と、学習済みモデル記憶部50と判断部60とを備える。
【0064】
学習データ記憶部30には、入力部10により受け付けた複数の学習データが記憶される。
学習部40は、複数の学習データに基づいて、判断値を決定する関数を学習する。
具体的には、学習部40は、報酬計算部42、関数更新部44、及び収束判定部46を備えている。
報酬計算部42は、複数の学習データの各々について、当該学習データに基づいて、関数を用いて金属部材の樹脂部材に対する接合強度を決定した結果に対する報酬を計算する。
関数更新部44は、報酬計算部42により複数の学習データの各々について計算された報酬に基づいて、報酬が高くなるように、関数を更新する。
収束判定部46は、予め定められた収束条件を満たすまで、報酬計算部42による計算及び関数更新部44による更新を繰り返させる。
学習済みモデル記憶部50は、学習部40により学習された関数を記憶する。
判断部60は、判断対象として入力された、金属部材の表面性状に関する情報から、学習部40による学習された関数を用いて、金属部材の粗化処理条件又は樹脂部材に対する接合強度に関する判断値を決定する。
【0065】
本実施形態の機械学習装置の各構成要素は特に制限されるものではなく、公知の機械学習装置の各構成要素であってよい。
【0066】
図7は機械学習装置100の機械学習処理ルーチンの一例を示す概念図である。
入力部10において複数の学習データを受け付けると、機械学習装置100は、複数の学習データを、学習データ記憶部30に格納する。そして機械学習装置100は、図2に示す機械学習処理ルーチンを実行する。
【0067】
まず、ステップS100で、複数の学習データの各々について、当該学習データに基づいて、現時点の関数を用いて物体の表面性状の状態を決定した結果に対する報酬を計算する。
ステップS102では、上記ステップS100により複数の学習データの各々について計算された報酬に基づいて、報酬が高くなるように、関数を更新する。
ステップS104は、予め定められた収束条件を満たしたか否かを判定し、収束条件を満たさない場合には、上記ステップS100へ戻る。一方、収束条件を満たした場合には、ステップS106へ移行する。
ステップS106では、最終的に更新された関数を、学習済みモデル記憶部50に格納して、学習処理ルーチンを終了する。
入力部10において、判断対象として入力された金属部材の表面性状に関する情報を受け付けると、機械学習装置100の判断部60は、判断対象として入力された金属部材の表面性状に関する情報から、学習部40による学習された関数を用いて、金属部材の粗化処理条件又は樹脂部材に対する接合強度に関する判断値を決定し、出力部90により出力する。
【実施例0068】
以下、本開示に係る実施形態を、実施例を参照して説明する。なお本開示は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0069】
<実施例1>
(1)試験片の準備
アルミニウム合金(A5052)からなる板(20cm×20cm×0.03cm)の表面に、酸系エッチング剤を用いてマイクロメートルオーダーの凹凸構造を形成した。
上記処理を行った後のアルミニウム合金板の表面を電子顕微鏡で観察したところ、孔径が0.1μm~10μm程度の細孔(凹部)が多数形成されていた。
【0070】
粗化処理後のアルミニウム合金板を、n-オクタデシルホスホン酸のエタノール溶液(5mmol/L)に20秒間浸漬した。その後アルミニウム合金板をエタノールで洗浄し、80℃で20分間乾燥して、試験片を得た。
【0071】
試験片の表面にイオン交換水(2μL)を滴下し、滴下から1分後に接触角を測定した。測定は24℃、相対湿度31%の条件で行った。デジタルカメラで撮影した水滴の画像から接線法で算出した接触角は140°であった。
【0072】
(2)細孔径の測定
上記(1)で準備した試験片に対し、25℃で10分間の真空脱気を行った。次いで、試験片を縦及び横にそれぞれ4等分して16枚に分割した。分割した16枚をすべて水銀ポロシメータに入れ、水銀圧入法(JIS R 1655-2003)に準拠して、測定温度25℃、イオン交換水の表面張力72mN/m、イオン交換水の接触角140°の条件でイオン交換水を圧入して、細孔径の容積基準の度数分布図を得た。結果を図1に示す。図中の横軸は細孔の直径(μm)を示し、縦軸は直径ごとの細孔の数(%)を示す。
【0073】
<実施例2>
粗化処理後のアルミニウム合金板をn-オクタデシルホスホン酸のエタノール溶液(5mmol/L)に7時間浸漬したこと以外は実施例1と同様にして、細孔径の度数分布図を得た。結果を図2に示す。
【0074】
<実施例3>
粗化処理後のアルミニウム合金板をn-オクタデシルホスホン酸のエタノール溶液(5mmol/L)に16時間浸漬したこと以外は実施例1と同様にして、細孔径の度数分布図を得た。結果を図3に示す。
【0075】
<実施例4>
粗化処理後のアルミニウム合金板をn-オクタデシルホスホン酸のエタノール溶液(5mmol/L)に50時間浸漬したこと以外は実施例1と同様にして、細孔径の度数分布図を得た。結果を図4に示す。
【0076】
<実施例5>
アルミニウム合金板の材質をアルミニウム合金(A1050)に変更し、粗化処理後のアルミニウム合金板をn-オクタデシルホスホン酸のエタノール溶液(5mmol/L)に50時間浸漬したこと以外は実施例1と同様にして、細孔径の度数分布図を得た。結果を図5に示す。
【0077】
図1図5に示すように、本開示の方法で得られた細孔のデータは電子顕微鏡像で観察された試験片の表面の状態と概ね合致していた。
以上から、本開示の方法によれば、物体の表面が細孔を含んでいてもその表面性状を的確に評価できることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7