(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012166
(43)【公開日】2023-01-25
(54)【発明の名称】タイヤ用短繊維補強ゴム組成物とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20230118BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20230118BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20230118BHJP
【FI】
C08L21/00
C08L67/00
C08L77/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115650
(22)【出願日】2021-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】國貞 大輔
(72)【発明者】
【氏名】神山 三枝
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC011
4J002BB033
4J002CF042
4J002CL002
4J002FA042
4J002FD012
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】タイヤ用途に適した短繊維補強ゴム組成物とその製造方法を提供することにある。
【解決手段】極細短繊維がマトリックスであるゴム中に0.1~20質量部添加されたゴム組成物であって、極細短繊維の融点が160℃以上の合成繊維であり、長さが0.1~5mmかつ断面直径が100~900nmであって、各極細短繊維が分散していることを特徴とするタイヤ用短繊維補強ゴム組成物。さらには、極細短繊維のアスペクト比が800以上4万以下であることや、極細短繊維の断面直径のばらつきが30CV%以下であること、極細短繊維がポリエステル系ポリマーまたはポリアミド系ポリマーであること、が好ましい。及び島成分が融点160℃以上の繊維成形性ポリマーであり、海成分がゴムと相溶性のあるポリマーである海島複合繊維を、長さ5mm以下に切断し未加硫ゴム中に0.1~20質量部添加し、混練りすることによって、島成分の断面直径が100~900nmのナノファイバーとして分散させるタイヤ用短繊維補強ゴム組成物の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細短繊維がマトリックスであるゴム中に0.1~20質量部添加されたゴム組成物であって、極細短繊維の融点が160℃以上の合成繊維であり、長さが0.1~5mmかつ断面直径が100~900nmであって、各極細短繊維が分散していることを特徴とするタイヤ用短繊維補強ゴム組成物。
【請求項2】
極細短繊維のアスペクト比が800以上4万以下である請求項1記載のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物。
【請求項3】
極細短繊維の断面直径のばらつきが30CV%以下である請求項1または2記載のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物。
【請求項4】
極細短繊維が、ポリエステル系ポリマーまたはポリアミド系ポリマーである請求項1~3のいずれか1項記載のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物。
【請求項5】
シート状に成形した際に極細短繊維が一方向に配列している請求項1~4のいずれか1項記載のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物。
【請求項6】
極細短繊維が配列した方向の100%伸長時の応力が4.0MPa以上である請求項5記載のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物。
【請求項7】
貯蔵剪断弾性率(G”)と損失剪断弾性率(G’)の比(G”/G’)が、100℃において0.08以下である請求項1~6のいずれか1項に記載のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物。
【請求項8】
島成分が融点160℃以上の繊維成形性ポリマーであり、海成分がゴムと相溶性のあるポリマーである海島複合繊維を、長さ5mm以下に切断し未加硫ゴム中に0.1~20質量部添加し、混練りすることによって、島成分の断面直径が100~900nmのナノファイバーとして分散させることを特徴とするタイヤ用短繊維補強ゴム組成物の製造方法。
【請求項9】
島成分がポリエステル系ポリマーまたはポリアミド系ポリマーである請求項8記載のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物の製造方法。
【請求項10】
海成分がポリオレフィン系のポリマーである請求項8または9記載のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用短繊維補強ゴム組成物とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ用に適したゴム組成物を得るために短繊維でゴムを補強する技術は既に知られている。例えば、下記特許文献1には、ゴム成分100重量部に対してアラミド短繊維を5~10重量部含有するゴム組成物を空気入りタイヤに用いることが提案されている。しかしながら、用いられるアラミド繊維の繊維径は太く、分散性の問題もあった。
【0003】
また、特許文献2では、繊維長が1~4mm、かつ、繊維径(D)に対する繊維長(L)の比(L/D;アスペクト比ともいう)が50~400のアラミド短繊維およびアラミド粒子を混ぜることにより、ゴムの低発熱化によるタイヤの低燃費性向上や、耐摩耗性の維持ないし向上を提案している。しかし用いられるアラミド繊維は繊維径15μm(繊維長=3mm、L/D=200)と太く、ゴム中の分散性が悪く、燃費の低減効果も不十分であった。
【0004】
その他、タイヤの剛性等を出すために、ゴムへのカーボンブラック配合量を増加することも検討されているが、カーボンブラックを多量に配合すると、未加硫ゴムの粘度が上昇し加工性・成形性などが悪くなるばかりでなく、タイヤ加硫時にゴム流れが悪くなり、エア溜りが生じるなどの問題があった。また、フィラーとしてシリカを配合して、トレッドゴムの転がり抵抗の低減による低燃費化が試みられているが、まだ充分な要求特性は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-164052号公報
【特許文献2】特開2008-150436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、かかる従来技術における問題点を解消し、タイヤ用途に適した短繊維補強ゴム組成物とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物は、極細短繊維がマトリックスであるゴム中に0.1~20質量部添加されたゴム組成物であって、極細短繊維の融点が160℃以上の合成繊維であり、長さが0.1~5mmかつ断面直径が100~900nmであって、各極細短繊維が分散していることを特徴とする。
【0008】
さらには、極細短繊維のアスペクト比が800以上4万以下であることや、極細短繊維の断面直径のばらつきが30CV%以下であること、極細短繊維がポリエステル系ポリマーまたはポリアミド系ポリマーであること、シート状に成形した際に極細短繊維が一方向に配列していることが好ましい。また、極細短繊維が配列した方向の100%伸長時の応力が4.0MPa以上であることや、貯蔵剪断弾性率(G”)と損失剪断弾性率(G’)の比(G”/G’)が、100℃において0.08以下であることが好ましい。
【0009】
もう一つの本発明のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物の製造方法は、島成分が融点160
℃以上の繊維成形性ポリマーであり、海成分がゴムと相溶性のあるポリマーである海島複合繊維を、長さ5mm以下に切断し未加硫ゴム中に0.1~20質量部添加し、混練りすることによって、島成分の断面直径が100~900nmのナノファイバーとして分散させることを特徴とする。
さらには、島成分がポリエステル系ポリマーまたはポリアミド系ポリマーであることや、海成分がポリオレフィン系のポリマーであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タイヤ用途に適した短繊維補強ゴム組成物とその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物は、極細短繊維がマトリックス中に0.1~20質量部添加されたゴム組成物であって、極細短繊維の融点が160℃以上の合成繊維であり、長さが0.1~5mmかつ断面直径が100~900nmであって、各極細短繊維が分散していることを特徴とする。
【0012】
そして本発明のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物に用いる極細短繊維としては、その繊維径が100~900nmであることが必須であるが、さらには400~700nmの繊維径であることが好ましい。繊維径が100nm未満では十分な剛性のゴム組成物が得られず、900nmを超えるとゴム組成物の耐摩耗性が悪くなる。
【0013】
そして、このような900nm以下の直径を有するナノファイバー短繊維を用いることにより、その短繊維とマトリックスゴムとの複合体は、分子間力(van der Waals力)により、あたかも界面が存在しない状態が示すような密着連続体の挙動を示すこととなった。
【0014】
そのため、わずかな短繊維の添加であっても、最終的に得られる短繊維ゴム複合体は変形に対する高い応力を発現し、剛性が高いものとなる。またtanδが室温から100℃にかけて小さく、走行時の運動エネルギーが熱エネルギーに変換するエネルギーロスが小さくなり、低燃費性に優れる効果を発現する。
【0015】
さらに、このようなナノファイバー短繊維には微細凹凸があることが好ましく、より低摩擦性に優れたものとなる。本発明のゴム組成物から最終的に得られるタイヤは、摩擦係数が適度に小さく、耐摩耗性に優れ、より低燃費性に優れたものとなる。
【0016】
さらには、本発明ではナノファイバー補強用短繊維を用いるために、ゴムと繊維の密着性が高く、通常、接着力向上に用いられるRFL(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)系接着剤を省略できるという効果があった。使用する処理剤や乾燥工程を省略することにより、有害物質の発生や、エネルギーロスの低減にもつながる効果があった。
【0017】
また、この極細短繊維の直径のばらつきを表すCV%値としては、30CV%以下であることが好ましい。なおここで「CV%」は、直径の標準偏差を平均値にて割った数値である。さらには、0~25CV%であることが、特には0~15CV%であることが好ましい。このCV値が低いことは、繊度のばらつきが少ないことを意味し、より均質に混合しやすく、極細短繊維同士も絡まりにくくなる。
【0018】
またこの極細短繊維の長さとしては、0.1~5mmの範囲が必須であり、さらには0.1~3.0mmが好ましく、より好ましくは0.5~2.0mmの範囲である。繊維長が0.1mm未満の場合は十分な剛性のゴム組成物が得られず、長くなりすぎるとゴムの加工性・成形性が悪くなる傾向にある。また、繊維径と同様に極細短繊維の長さもばらつきが少ないことが好ましい。
【0019】
この極細短繊維の長さ/直径の比であるアスペクト比としては、800以上4万以下であることが好ましい。さらには1000~2万、特には1200~8000の範囲であることが好ましい。
【0020】
このように粒体ではなく繊維状で、さらには好ましいアスペクト比を有することで、未加硫ゴムの粘度上昇を抑え、加工性や成形性が向上する。またゴム加硫時のゴムの流れが良く、エア溜りなどが生じにくい。またそのため添加量を増やすことが容易となる。
【0021】
このような本発明で用いる極細短繊維は、融点が160℃以上の合成繊維であることが必要である。融点が低すぎるとゴムとの成形時に、繊維が軟化あるいは溶解し、強化繊維の効果が低減する。またゴム成型品内部への均一な繊維の分散が難しく、得られる短繊維補強ゴム組成物の物性が低下する傾向にある。極細短繊維を構成するポリマーの融点としてはさらには200~400℃の範囲にあることが好ましい。このような融点を持つ合成繊維は乾式紡糸等を用いて、上記のような均一な繊維径と長さを持った極細短繊維とすることが可能である。
【0022】
より具体的な合成繊維を構成するポリマーとしては、例えば、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーなどが挙げられるが、特にポリエステル系ポリマーまたはポリアミド系ポリマーが好ましい。これらの樹脂成分は単一もしくは混合させて用いることもできる。
【0023】
ポリエステル系のポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンテレフタレート、およびそれらの共重合物などが好ましく、ポリアミド系ポリマーとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン410などが好ましい。また、ポリオレフィン系ポリマーとしては、アイソタクティックポリマーを好ましい例としてあげることができる。他にはポリスルフォン、ポリイミド、ポリケトン類、ポリアリレートなどを用いることも好ましい。このようなポリマーを用いることにより、分散性に優れた短繊維となる。
【0024】
このような合成繊維からなる極細短繊維は、カーボンブラックやシリカ等の各種フィラー等、従来からの無機系のゴム用添加剤よりも比重が低く、対重量比の補強効果に優れる。近年の省燃費化からタイヤ重量の軽減が求められているが、本発明の短繊維補強ゴム組成物は剛性を保ったままタイヤの軽量化を図ることが可能となった。また、タイヤのトレッドゴム等に用いることにより、転がり抵抗の低減や、タイヤによる自動車走行時の低燃費化を図ることができる。
【0025】
このような極細短繊維を添加するマトリックスであるゴム成分は特に限定されないが、より好ましくはタイヤ用ゴム組成物において一般に用いられる各種ジエン系ゴムを用いることが好ましい。例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、ブタジエンゴム、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴムなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いても2種以上併用してもよい。特にはタイヤ用としては、マトリックスであるゴムが、天然ゴム(NR)、または、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)の少なくとも一つを主成分とすることが好ましい。
【0026】
さらにカーボンブラックや石油樹脂その他の、後述する従来ゴム工業で使用される配合
剤、例えば、オイル、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、硫黄、加硫促進剤等を適宜配合することができる。
【0027】
より詳細には、本発明で用いられるゴム組成物には、上記の主となるゴム成分およびタイヤ用ゴム補強用短繊維以外に、タイヤ用ゴム組成物の製造に一般に使用される成分、添加剤を必要に応じて通常使用される量、配合、添加することができる。前記成分、添加剤の具体例としては、たとえばプロセスオイル(パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル)、加硫剤(イオウ、塩化イオウ化合物、有機イオウ化合物など)、加硫促進剤(グアジニン系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、チウラム系、ジチオカルバメート系、ザンデート系の化合物など)、架橋剤(有機パーオキサイド化合物、アゾ化合物などのラジカル発生剤、オキシム化合物、ニトロソ化合物、ポリアミン化合物など)、補強剤(ハイスチレン樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂など)、酸化防止剤ないし老化防止剤(ジフェニルアミ系、p-フェニレンジアミン系などのアミン誘導体、キノリン誘導体、ハイドロキノン誘導体、モノフェノール類、ジフェノール類、チオビスフェノール類、ヒンダードフェノール類、亜リン酸エステル類など)、ワックス、ステアリン酸、酸化亜鉛、軟化剤、シリカどのその他の充填剤、可塑剤などがあげられる。必要に応じて充填剤、カップリング剤、軟化剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤などの通常のゴム工業で使用される配合剤を適宜配合することができる。
【0028】
また、本発明のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物において、極細短繊維の含有量はゴム成分100質量部に対して0.1~20質量部であるが、さらには1~14質量部の添加量であることが好ましい。該含有量が少なすぎると、十分な剛性のゴム組成物の効果が得られず、多すぎると、ゴムの加工性や成形性が悪くなる。
【0029】
本発明ではゴム組成物中において各極細繊維が分散していることが重要である。分散しているとは各極細繊維が繊維束や凝集状態をとることなく、極細繊維同士が個別に分布していることをいう。このことは断面の電顕写真等で容易に確認できる。
さらにゴム組成物中の極細短繊維は、シート状に成形した際に、極細短繊維が一方向に配列していることが好ましい。
【0030】
また、本発明の短繊維補強ゴム組成物の極細短繊維のより配列している列理方向の100%伸長時の応力としては4.0MPa以上であることが好ましく、さらには4.5~20MPaの範囲であることが好ましい。なお、ここで列理方向の100%伸長時の応力は、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」で作製したダンベル状3号形にて測定した値である。
【0031】
さらには本発明の空気入りタイヤ用ゴム補強用短繊維ゴム組成物は、列理方向の10%伸び時における引張応力は1.0MPa以上、列理方向の50%伸び時における引張応力は3.0MPa以上であることが好ましい。さらには10%伸び時における引張応力が1.2~10MPaの範囲であることや、50%伸び時における引張応力が4~16MPaの範囲であることが好ましい。切断時の引張強さとしては10MPa以上であることが好ましく、さらには12~30MPaの範囲であることが好ましい。
引張応力がこれらの数値を満足することによって、特に空気入りタイヤ用としてのゴム組成物の剛性が高く、タイヤの軽量化がより容易となる。
【0032】
さらに本発明のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物は、貯蔵剪断弾性率(G”)と損失剪断弾性率(G’)の比(G”/G’)が、100℃において0.08以下であり、下記(1)を満たすことが好ましい。
[100℃のG”/G’]-[40℃のG”/G’]<0.02 (1)
さらにはG”/G’(tanδ)が、100℃において0.05~0.08の範囲であることや、上記式(1)の値が-0.01~0.01であることが好ましい。
【0033】
より詳細に述べると、本発明のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物は、その架橋後のゴム組成物の硬化物(架橋体)の物性としては、内部の損失正接(tanδ)が低い硬化物であることが好ましい。ここで損失正接(tanδ)とは、損失弾性率(G”)を貯蔵弾性率(G’)で除すことにより求める(tanδ=G”/G’)であって、振動1サイクルの間に熱として散逸(ロス)されるエネルギーと貯蔵される最大エネルギーとの比として表され、エネルギー損失の尺度である。言い換えるとこのtanδの値は、ゴム組成物に加えられる振動エネルギーが熱として散逸される指標を数値化したものである。従って、tanδが小さいほど散逸される熱は小さい(すなわち、内部発熱が小さくなり伝達効率が向上する)ことを意味する。
【0034】
本発明のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物としては、タイヤが通常走行する温度(通常、30~100℃の温度範囲)内において、好ましくは100℃のtanδの値が0.08以下、100℃のtanδと40℃のtanδの比を0.02未満とすることによって、内部発熱が小さく、エネルギーロス(伝達ロス)が少ないゴム組成物の指標となる。
【0035】
このタイヤ用短繊維補強ゴム組成物の内部の損失正接(tanδ)値は、使用する短繊維によっても変化し、島成分にポリエステル、海成分にポリエチレンを用いたばあいが特に好ましい。この場合には、40~100℃の温度範囲において低いtanδを示し、150℃でピークを示す。これは100℃以下では発熱しにくいことを示し、このような発熱を抑えたゴムをタイヤに用いた場合、転がり抵抗性能を高くし、燃費が向上する。
このような本発明のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物は、剛性が高く、耐摩耗性に優れ、タイヤに用いた際にも転がり抵抗が低減し、低燃費化を図ることが可能となった。
【0036】
さらにはタイヤ用の短繊維補強ゴム組成物として、トレッド、サイドウォール、内層サイドウォール、ブレーカークッション、ベーストレッド、タイガム、ビードエイペックス、クリンチエイペックス、ストリップエイペックス又はブレーカーエッジストリップなどの、タイヤ用の様々な部位に用いることができる。より具体的には、本発明のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物を用いて通常の方法、すなわち、上記ゴム組成物を未加硫の段階でサイドウォール等の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成形機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成し、その未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによって空気入りタイヤを製造できる。
【0037】
このような本発明のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物は、もう一つの本発明であるタイヤ用短繊維補強ゴム組成物の製造方法により得ることができる。すなわち、島成分が融点160℃以上の繊維成形性ポリマーであり、海成分がゴムと相溶性のあるポリマーである海島複合繊維を、長さ5mm以下に切断し未加硫ゴム中に0.1~20質量部添加し、混練りすることによって、島成分の断面直径が100~900nmのナノファイバーとして分散させるタイヤ用短繊維補強ゴム組成物の製造方法である。混練りの工程にて、海島複合繊維の海成分はゴム中に相溶する。
【0038】
海島複合繊維としてはその繊維断面が島成分ポリマーおよびそれを取り囲む様に配置された海成分ポリマーからなるものであるが、本発明の製造方法では、この海島型複合短繊維をマトリックスであるゴムと複合化する工程で、海島型複合短繊維の島成分と海成分が分離する結果、島成分ポリマーが極細短繊維としてマトリックスであるゴム中に分散する。
【0039】
本発明と異なり極細短繊維そのものをゴムに添加し、その後に混練した場合、極細繊維
はその直径がナノメートル径で比表面積が大きく、凝集を起こしやすいため、海島複合繊維の状態にて混練りして均一に分散することが必要である。このような製造方法により、特に空気入りタイヤ用の短繊維補強ゴム組成物として、剛性が高く、耐摩耗性に優れ、低燃費性が改善された補強効果や耐摩耗効果により優れたものになる。
【0040】
ここで本発明の製造方法に用いられる海島複合繊維は、島成分が融点160℃以上の繊維成形性ポリマーであり、海成分がゴムと相溶性のあるポリマーであるものである。
島成分の繊維成形性ポリマーとしては先に述べたタイヤ用短繊維補強ゴム組成物に用いる極細短繊維を用いることができ、より具体的には例えば、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーなどがあげられる。特にはポリエステル系ポリマーまたはポリアミド系ポリマーが好ましい。これらの樹脂成分は単一もしくは混合されて用いることもできる。
【0041】
さらに詳細に述べるとポリエステル系の場合、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンテレフタレート、およびそれらの共重合物などが好ましく、ポリアミド系ポリマーの場合は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン410などが好ましい。また、ポリオレフィン系の場合は、アイソタクティックを好ましい例としてあげることができる。他にはポリスルフォン、ポリイミド、ポリケトン類、ポリアリレートなどを挙げることができる。
【0042】
このような海島複合繊維としては特には島成分がポリエステル系ポリマーまたはポリアミド系ポリマーであることが好ましい。
そしてその島成分となるポリマーの融点としては160℃以上、さらには200~400℃の範囲であることが好ましい。160℃未満以下であると、成形時に島成分が軟化あるいは溶解し、強化繊維の強度が低下し、また成型品内部への均一な分散が難しく、マトリックスとなる成分の適用の範囲が狭くなる。
【0043】
また、海島複合繊維の海成分であるゴムと相溶性のあるポリマーとしては例えば、ポリエステル系、脂肪族ポリアミド系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリスチレン系、ポリアクリル系などがあげられ、これらの樹脂成分は単一もしくは混合されて用いることもできる。なかでも、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、無水マレイン酸グラフト共重合ポリオレフィン、無水マレイン酸-アクリル酸エステルブロック共重合ポリオレフィン等のポリオレフィン系ポリマーやポリビニルアルコールやそのエチレン共重合体、酸変性ビニル共重合体などのビニル化合物などが好ましい。
このような海島複合繊維の海成分としては、特にはポリオレフィン系のポリマーであることが好ましい。
【0044】
なお、海成分ポリマーの融点は島成分ポリマーの融点より低く、好ましくは20℃以上低くなるように選択することが好ましい。ゴムに混練して島成分ポリマーからなる極細短繊維を補強繊維とするためには、海成分ポリマーより島成分ポリマーが高い融点であることが好ましい。さらには、海成分の融点が混練などのゴム組成物を得るための製造工程の処理温度以下の融点で、島成分の融点がその処理温度以上であることが好ましい。より具体的には、海成分の融点が100~140℃、特には120~135℃の範囲にあることが好ましい。
【0045】
繊維化や海島断面形成性、製品の成形性、製品物性等の観点から、島成分と海成分樹脂のメルトフローレイト(MFR)は同じである方が生産はしやすいものの、特に制限はな
い。また、界面剥離を抑制するための相溶化剤や溶融粘度調整のための減粘剤、または第3成分の樹脂が目的に応じて含まれていてもよい。
【0046】
本発明の空気入りタイヤ用ゴム補強用短繊維は、好ましい島成分面積比率として10~90%、海成分の面積比率が90~10%であり、好ましくは島成分の面積が40~80%、海成分の面積が20~60%であることが好ましい。
【0047】
このような本発明の製造方法にて用いる、極細短繊維の原繊維たる海島型複合繊維の製造方法は、国際公開特許2005/095686に記載があるような公知の技術を応用することができる。また、島数は100以上と多い方が、より繊維径の小さい極細短繊維を均一分散させる点で好ましい。島成分の数としては180~900本の範囲であることが好ましい。
【0048】
混練りする際の海島複合繊維の長さとしては5mm以下であるが、さらには0.1~5mmの範囲にあることが好ましい。
空気入りタイヤ用ゴム補強用短繊維のカット方法は特に規定されるものではなく、ギロチン式カットでも、ロータリー式カット、粉砕カットでも良い。好ましくは繊維長分布が狭く、生産性のよい、ギロチン式カット、ロータリー式カットが好ましい。
【0049】
このような発明の製造方法は、繊維断面が島成分ポリマーおよびそれを取り囲む様に配置された海成分ポリマーからなる長さ0.1~5mmの海島型複合短繊維の状態で、未加硫ゴムに添加し、混練することで、該海島型複合短繊維の島成分と海成分が分離し、複合化させる製造方法である。
未加硫ゴムとしては、上記のタイヤ用短繊維補強ゴム組成物に用いるゴムマトリックスを用いることができる。
【0050】
そしてこのような製造方法を用いることにより、海島型複合短繊維の島成分ポリマーが極細短繊維としてマトリックスであるゴム中に均一分散する。単に極細短繊維をそのままゴムに添加後に混練する従来の方法では、ナノメートル径で比表面積が大きい極細短繊維自体の凝集を起こしやすく、混練しても均一に分散しない傾向にあったが、海成分がゴムと相溶性のあるポリマーである海島複合繊維を用いることなどによって、均一に分散することが可能となった。海島複合繊維状態で添加することにより、未加硫ゴムの粘度の上昇を抑え、加工性・成形性などが向上し、さらにはタイヤ製造等の加硫時のゴム流れの向上や、エア溜りの低減などの効果があった。
【0051】
単に極細繊維を含有するだけでも、剛性等の向上は改善されるものの、本願発明のように微細に均一分散することによって、特に空気入りタイヤ用の短繊維補強ゴム組成物として、剛性、補強効果、耐摩耗性により優れたものになったのである。
【実施例0052】
本発明を、実施例を挙げて説明する。評価は以下の方法で行った。
【0053】
(1)強伸度
得られた短繊維補強ゴム組成物をミキシングロールにて厚さ0.4mmに調整し、ミキシングロールの引き出し方向に繊維が配列している未加硫ゴムシートとする。その後方向をそろえて重ねあわせ、150℃×30分のプレス加硫を行い、厚さ2mmの加硫ゴムシートを得る。さらに繊維軸の列理方向および反列理方向での引っ張り測定用のサンプルを、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に記載の方法で作製し、ダンベル3号型にて切り出し、強伸度測定用の引張試験試料とする。
【0054】
このダンベル3号型に切り出した上記の試験片を、評点間の伸びを直接測定できる伸び計が併設されたインストロン型引張試験機に装着する。そしてチャック間距離50mm、引張り速度 500mm/分にて引張り試験を行い、10%伸長時引張応力M10(MPa)、50%伸長時引張応力M50(MPa)、100%伸長時引張応力M100(MPa)、引張強さ(破断)TB(MPa)、切断時伸びEB(%)の測定を行った。
【0055】
(2)摩擦係数
得られた短繊維補強ゴム組成物をプレス架橋し、断面積42mm2、長さ10mmのブロックを切り出して試料とした。オリエンテック株式会社製のピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を用い、荷重2kg、周速100rpm条件下、ディスク形状のステンレス板上を回転させたときの摩擦係数を測定した。
【0056】
(3)損失正接(tanδ:G”/G’)
上記の摩擦摩耗試験と同様に、ただし形状を幅5mm、厚さ2mm、長さ20mmのブロックのサンプルを作成する。これを圧縮測定用チャックに挟み、オリエンテック株式会社製粘弾性測定装置を用い、荷重:200gf(2.0N)、動的歪:10%、周波数:10Hz、測定温度:40℃と260℃の条件下で、短繊維補強ゴム組成物の損失弾性率(G”)と貯蔵弾性率(G’)を測定し、G”/G’の値から損失正接(tanδ=G”/G’)を求めた。
【0057】
(4)ゴム硬さ
ゴム硬度計ISO-DD2(タイプDデュロメータ)を用いて定圧荷重器にて一定荷重でゴム硬さの測定を行った。
【0058】
(5)単繊維繊度のばらつき(CV%)
海島型複合繊維から溶剤を用いて海成分を除去し、得られた島成分ポリマーからなる極細繊維からなる繊維束を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、30000倍の倍率で観察し、各単繊維の繊度を測定し、この繊度の標準偏差(σ)、平均微細繊維径(r)を算出し、下記式によりばらつき(CV%)を算出した。
CV%=(標準偏差σ/平均繊維径r)×100
なおここで各繊維の単繊維径は、真円でない場合、測定された単繊維の長径と、短径の平均値とした。
【0059】
[実施例1]
まず海島型複合繊維として、島成分が繊維径400nmのポリエチレンテレフタレート(PET、融点260℃)836島、海成分が高密度ポリエチレン(HDPE、融点130℃)であり、海島面積比率が50:50、繊度3.3dtexの海島型複合繊維を紡糸した。この時、島成分のばらつきは12.6CV%だった。
その後得られた繊維は長繊維状態で枷取りして繊維束とし、さらに水を付与してギロチンカッターで1mmに切断し、真空乾燥して水分を除いて、海島型複合短繊維とした。
【0060】
その後天然ゴムを主体とするタイヤ用未加硫ゴム100質量部に対し、繊維長1mmの海島型複合短繊維を6.0質量部添加し、加圧ニーダーにてタイヤ用未加硫ゴムが140℃に達するまで10分間混練を行いゴム・繊維混合物とした。海島型複合短繊維の海成分であるHDPEは混練時溶融したため、ゴムマトリックス中には、海島型複合短繊維の島成分であるPET極細短繊維が3.0質量部含有していた。
得られたゴム・繊維混合物をミキシングロールにて厚さ0.4mmにシート出しを行い、タイヤ用短繊維補強ゴム組成物を作製した。極細短繊維のアスペクト比は2500であり、各極細短繊維はゴムマトリックス中にて、単繊維に分散していた。測定結果を表1に記した。
【0061】
[実施例2~4]
ゴム補強用の極細短繊維となる繊維の添加時の配合量を変更した(ゴム成分100質量部に対して実施例2;10質量部、実施例3;14質量部、実施例4;20質量部)こと以外は実施例1と同様にしてタイヤ用短繊維補強ゴム組成物を作製した。各極細短繊維はゴムマトリックス中にて、単繊維に分散しており、その繊維添加量は実施例2;5質量部、実施例3;7質量部、実施例4;10質量部であった。測定結果を表1に併せて記した。
【0062】
【0063】
[実施例5]
ゴム補強用の極細短繊維の繊維径を400nmから700nmに変更し、海島成分比を変えて添加時の繊維配合量を6.0%から4.3%に変更した以外は実施例1と同様にしてタイヤ用短繊維補強ゴム組成物を作製した。
【0064】
なお、この時用いた海島複合繊維は、島成分が836島の繊維径700nmのポリエチレンテレフタレート(PET)、海成分が高密度ポリエチレン(HDPE)であり、島成分と海成分の面積比率が70:30である繊度5.6dtexの海島型複合繊維を、繊維長1mmとなるようにカットしたものであった。またこの時、島成分のばらつきは9.9CV%だった。
【0065】
実施例1と同様に海成分のHDPEは混練時溶融し、マトリックスゴム中には、ゴム補強用短繊維となる島成分のPETが3.0質量部添加されていた。極細短繊維のアスペクト比は1429であり、各極細短繊維はゴムマトリックス中にて、単繊維に分散していた。測定結果を表2に記した。
【0066】
[実施例6~8]
ゴム補強用の極細短繊維となる繊維の添加時の配合量を変更した(ゴム成分100質量部に対して実施例6;7.1質量部、実施例7;10質量部、実施例8;14.3質量部)こと以外は実施例5と同様にしてタイヤ用短繊維補強ゴム組成物を作製した。各極細短繊維はゴムマトリックス中にて、単繊維に分散しており、その繊維添加量は実施例6;5質量部、実施例3;7質量部、実施例4;10質量部であった。測定結果を表2に併せて記した。
【0067】
【0068】
[比較例1]
ゴム補強用短繊維を使用しなかった以外は実施例1と同様にしてタイヤ用短繊維補強ゴム組成物を作製した。加圧ニーダーにおけるタイヤ用未加硫ゴムが140℃に達するまでの混練時間は10分間であった。測定結果を表3に記した。
【0069】
[比較例2]
PET繊維コード(帝人フロンティア株式会社製 P952NL、繊度1670dtex、直径20μm)をギロチンカッターにて繊維長1mmにカットし、乾燥して得た短繊維を使用し、ゴム成分100質量部に対して3質量部配合したこと以外は実施例1と同様にしてタイヤ用短繊維補強ゴム組成物を作製した。短繊維のアスペクト比は50であり、各短繊維はゴムマトリックス中にて分散しているものの、その繊維添加量は3質量部のままであった。測定結果を表3に併せて記した。
【0070】
[比較例3]
パラアラミド系繊維「テクノーラ」にRFL接着剤を7.0重量%付与した繊維コード
(帝人フロンティア株式会社製 T323SB、繊度1670dtex、1000フィラメント、直径12μm)をギロチンカッターにて繊維長1mmにカットし、乾燥して得た短繊維を使用し、ゴム成分100質量部に対して3質量部配合したこと以外は実施例1と同様にしてタイヤ用短繊維補強ゴム組成物を作製した。
混練り後もRFL接着剤によって短繊維が十分に分散せず、一部繊維束状態を保ったままであった。測定結果を表3に併せて記した。
【0071】