(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121661
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】チップラック、分注装置及び観察システム
(51)【国際特許分類】
G01N 1/00 20060101AFI20230824BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20230824BHJP
G02B 21/34 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
G01N1/00 101K
G01N1/28 U
G02B21/34
G01N1/28 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025123
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】清川 達則
【テーマコード(参考)】
2G052
2H052
【Fターム(参考)】
2G052AA33
2G052AA36
2G052CA04
2G052CA18
2G052CA28
2G052CA33
2G052CA41
2G052DA07
2G052FA03
2G052GA32
2G052HA11
2G052HC11
2G052HC36
2H052AE07
2H052AE13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明の課題は、少量・多数の試料の取扱いにおいて、省スペース化を可能とするチップラック及び分注装置、並びに、試料を観察可能な状態に調製する作業を迅速かつ容易とし、観察に係る作業効率向上ができる観察システムを提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、チップを保持するチップ保持台と、試料が保管される容器を保持する容器保持台とを備え、チップの先端が容器内部に進入するようにチップ保持台と容器保持台とを配置するチップラック、並びにこのチップラックを備える分注装置及び観察システムを提供する。本発明によれば、チップラック及び分注装置の省スペース化を可能とし、この分注装置を用いて2枚のシート間に観察対象物を配置・固定した状態として観察を行うことで、迅速な試料調製及び観察作業の簡略化が可能となる。これにより、少量・多数の試料を適切に取り扱うことが容易となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップを保持するチップ保持台と、
試料が保管される容器を保持する容器保持台と、を備え、
前記チップの先端が前記容器内部に進入するように、前記チップ保持台と、前記容器保持台とを配置することを特徴とする、チップラック。
【請求項2】
請求項1に記載のチップラックと、
前記容器内の試料を吸引する試料吸引部と、
前記試料吸引部で吸引した試料を移動させる試料搬送部と、を備えることを特徴とする、分注装置。
【請求項3】
第1のシートと、
前記第1のシート上に観察対象物を配置する配置手段と、
前記第1のシート上に前記観察対象物が配置された後、前記第1のシートと重ね合わせられる第2のシートと、
前記第1のシートと前記第2のシート間に固定された状態の前記観察対象物を観察する観察手段と、を備え、
前記配置手段は、請求項2に記載の分注装置を含むことを特徴とする、観察システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスポーザブルチップを載置するチップラックと、そのチップラックを備える分注装置及び観察システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報処理技術及び分析技術の向上により、大量のデータを取得、解析することが可能となっている。これに伴い、様々な対象物(試料)についてデータの取得、解析によるデータベース化を行い、データを有効活用することの重要性が高まっている。
【0003】
また、近年の医療・生物学分野の技術の進展に伴い、試料として人体から採取した血液などの検体のほか、細胞や微生物を扱うことが増加している。これらの試料は、一つ一つの量は少ないが、数が多いという特徴があり、少量・多数の試料の取扱いに係る効率化が検討されている。
【0004】
少量・多数の試料を取り扱う技術の一つとして、試料の入った容器から試料の分注を行う分注装置が挙げられる。
例えば、特許文献1には、ウェルの数が多いマイクロプレートに分注するための分注装置として、ラックに収容された複数の容器内の試料を吸引し、ウェルに試料を注入する分注ユニット部と、マイクロプレート及び分注ユニット部の少なくともいずれか一方を3軸方向に移動させる移動機構部とを備え、分注ユニット部は、ラックに収容された容器と同一間隔で配列した複数のノズルを備えたものが記載されている。また、特許文献1には、分注ユニット部におけるノズルとしてディスポーザブルチップを用いる場合、容器を収容したラックと、ディスポーザブルチップを収容したラックとを設け、これら2種類のラックをマイクロプレートと横並びで配置した分注装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、少量・多数の試料を迅速に取り扱うために、複数のノズルによって複数の容器から試料を分注する技術は広く知られている。このとき、試料同士のコンタミネーションを抑制できることや、洗浄操作が不要であること等から、ディスポーザブルチップを用いることも広く行われている。
また、特許文献1に記載されるように、一般的に分注装置内においては、試料の入った容器を配置する箇所とディスポーザブルチップを配置する箇所は、それぞれ独立した個々のスペースが必要となる。
さらに、特許文献1に記載されるように、このような分注装置においては、先端にディスポーザブルチップが装着される分注用ノズルは、ディスポーザブルチップ、試料の入った容器、試料の分注先(マルチウェルプレート等)の間を往復移動する必要があり、そのための移動機構を備えている。
【0007】
ここで、特許文献1に記載されるような従来の分注装置においては、取り扱う試料数が多くなることにより、必要となるディスポーザブルチップ及び容器の数が増加するとともに、これらを配置するためのスペースも増加する。また、分注用ノズルが移動する距離も長くなることから、移動機構自体が大型化するとともに、装置全体として分注用ノズルの移動距離を確保するためのスペースが必要となる。このため、取り扱う試料数の増加に対応するためには、分注装置の大型化や、それに伴うコスト増が課題となる。
【0008】
また、少量・多数の試料を取り扱う技術の一つとして、試料を観察対象物とした観察データの取得が求められている。特に、医療・生物学分野においては、観察対象物として細胞や微生物などを扱うことが増加している。このとき、死細胞や死滅した微生物ではなく、生細胞や生きた状態の微生物のような生体(以下、単に「生体」とも呼ぶ)を観察し、その観察データの取得が求められる傾向にある。
しかし、プレパラートを用いた従来の観察手法では、プレパラートを作製し、顕微鏡ステージに搬送するまでの過程で、観察対象物の状態や位置が変わってしまうおそれがあることから、観察データを取得するまでの操作が更に煩雑になる上、正確な観察データの取得が困難であるという問題がある。また、生体を観察対象物とする場合においては、分注装置によって試料が分注された複数のウェルを有するマルチウェルプレートを用いることも知られているが、この場合、生体を固定することが難しく、観察が困難であるという課題がある。このため、従来の観察手法で用いられているプレパラートやマルチウェルプレートによらない、新たな観察技術が求められている。
【0009】
本発明の課題は、少量・多数の試料の取扱いにおいて、省スペース化を可能とするチップラック及び分注装置、並びに、試料を観察可能な状態に調製する作業を迅速かつ容易とし、観察に係る作業効率を向上させることができる観察システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、試料の入った容器とチップとを一体的に載置することで、チップラック及び分注装置の省スペース化が可能となることを見出した。さらに、本発明者は、2枚のシート間に観察対象物を配置・固定して観察を行うことにより、観察対象物の試料調製に係る作業を迅速かつ容易とすることが可能となることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下のチップラック、分注装置及び観察システムである。
【0011】
上記課題を解決するための本発明のチップラックは、チップを保持するチップ保持台と、試料が保管される容器を保持する容器保持台と、を備え、チップの先端が容器内部に進入するように、チップ保持台と、容器保持台とを配置するという特徴を有する。
本発明のチップラックは、チップと試料が保管される容器とが一体的に載置されるものであり、さらに、容器に対してチップの先端が進入する形でチップが配置されるものである。これにより、少量・多数の試料の取扱いにおいて、チップを保持したラックと容器を保持したラックとを並べて保管・使用する場合と比べ、チップ及び容器の保管・使用スペースを半分の面積にすることが可能となる。さらに、チップと容器とを単に垂直方向に積層するものと比べ、チップラックとしての高さを低く設定することができ、チップラックの省スペース化が可能となる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の分注装置は、上記チップラックと、容器内の試料を吸引する試料吸引部と、試料吸引部で吸引した試料を移動させる試料搬送部と、を備えるという特徴を有する。
本発明の分注装置は、上述したチップラックを用いることで、チップと容器との保管・使用スペースを縮小することができるとともに、チップラック内でチップと容器とが一体となっているため、チップの装着と試料の吸引を同一箇所で行うことができ、その後の試料の移動距離も短くすることができる。これにより、分注装置として小型化することが可能となる。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の観察システムは、第1のシートと、第1のシート上に観察対象物を配置する配置手段と、第1のシート上に観察対象物が配置された後、第1のシートと重ね合わせられる第2のシートと、第1のシートと第2のシート間に固定された状態の観察対象物を観察する観察手段とを備え、配置手段は、上記分注装置を含むという特徴を有する。
本発明の観察システムは、上述した分注装置を用い、2枚のシート間に観察対象物を配置・固定した状態とし、その状態で観察を行うことで、カバーガラスとスライドガラスを用いたプレパラート作製によらない試料観察が可能となる。これにより、観察用の試料調製において、装置の小型化を図るとともに、試料調製工程そのものを大幅に簡略化し、観察作業を迅速に行うことが可能となる。また、2枚のシート間に観察対象物を固定するため、観察対象物に対し、必要以上に強い外力をかけることがない。このため、観察対象物として、生細胞や生きた状態の微生物などの生体を扱うことが容易となる。したがって、本発明の観察システムにより、少量・多数の観察対象物の観察に係る作業効率を高めることができ、特に生体に関する観察データのデータベース化やデータの有効活用においても作業の効率化を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、少量・多数の試料の取扱いにおいて、省スペース化を可能とするチップラック及び分注装置、並びに、試料を観察可能な状態に調製する作業を迅速かつ容易とし、観察に係る作業効率を向上させることができる観察システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施態様におけるチップラックの構造を示す概略説明図である。
【
図2】本発明の第1の実施態様におけるチップラックに保持する容器の態様を示す概略説明図である。
【
図3】本発明の第1の実施態様におけるチップラックに係る設置手段を示す概略説明図である。
【
図4】本発明の第1の実施態様におけるチップラックに係る設置手段の別態様を示す概略説明図である。
【
図5】本発明の第1の実施態様における分注装置を示す概略説明図である。
【
図6】本発明の第1の実施態様における観察システムを示す概略説明図である。
【
図7】本発明の第2の実施態様におけるチップラックの構造を示す概略説明図である。
【
図8】本発明の第2の実施態様におけるチップラックを分注装置に適用した際の態様を示す概略説明図である。
【
図9】本発明の第2の実施態様におけるチップラックの別態様を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るチップラック、分注装置及び観察システムの実施態様を詳細に説明する。本発明における観察方法は、本発明における観察システムの作動の説明に置き換えるものとする。
なお、実施態様に記載するチップラック、分注装置及び観察システムについては、本発明に係るチップラック、分注装置及び観察システムを説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0017】
本発明のチップラック、分注装置及び観察システムにおいて、分注及び観察対象である試料(観察システムにおいては「観察対象物」とも呼ぶ)は特に限定されず、様々な分野で分析や観察によるデータの蓄積、解析が必要とされているものを試料とすることができる。また、試料の形態は特に限定されないが、チップを介した吸引が可能であり、かつ観察時にシート上に配置できるものが好ましく、液体または観察対象物を含む溶液の形態であることが挙げられる。
近年の医療・生物学の進展により、細胞や微生物などに係るデータの蓄積、解析の重要性が増してきている。したがって、本発明の試料としては、細胞や微生物など、医療・生物学的にデータの収集が重要視されているものが挙げられる。特に、生細胞や生きた状態の微生物などの生体のように、従来のプレパラートのような試料調製では観察が困難であったものを試料(観察対象物)とすることが好ましい。また、本発明の観察対象物としての試料の他の例としては、金属や岩石等の粉体や固体薄片のほか、有機物・無機物の微粒子などを含む溶液が挙げられる。
なお、以下の実施態様においては、試料(観察対象物)として、溶液を用いるものについて主に説明するが、これに限定されるものではない。
【0018】
〔第1の実施態様〕
(チップラック)
図1は、本発明の第1の実施態様におけるチップラックの構造を示す概略説明図である。
本実施態様におけるチップラック100Aは、
図1に示すように、筐体101内に、チップ111を保持するチップ保持台110と、試料Sが保管される容器121を保持する容器保持台120とを備えるものである。また、
図1に示すように、チップ保持台110と容器保持台120の配置は、チップの先端111aが容器121内に進入する形となっている。
ここで、チップ先端111aは、少なくとも容器121内部に進入しているものであればよく、容器121内に保管された試料Sとチップ先端111aとが接触しているか否かは問わないものである。なお、本実施態様におけるチップラック100Aにおいては、
図1に示すように、チップ先端111aが試料Sに接触(浸漬)しているものを例にとり、以下説明を行う。
また、本実施態様におけるチップラック100A内に載置するチップ111及び容器121の数は特に限定されず、以下、各図面におけるチップ111及び容器121の数は一例を示すものである。
【0019】
チップ111は、試料の吸引・吐出を行うためのものであり、
図1に示すように、先端111a側が細くなっている円錐体111bと、鍔部111cとを有している。また、本実施態様におけるチップ111は、試料Sごとに交換することができるディスポーザブルチップを用いることが好ましい。これにより、後述する分注装置200において洗浄操作に係る構成が不要となるため、装置の省スペース化という本発明の効果をより発揮することが可能となる。
【0020】
チップ111の材質、形状及びサイズ(全長あるいは容量)等は特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、容器121のサイズや、容器121内の試料Sの性質や量に応じて、チップ111の種類を適宜選択することができる。本実施態様におけるチップ111としては、例えば、ディスポーザブルチップとして市販、汎用されている樹脂製チップなどが挙げられる。
また、チップ111には、フィルタを設けるものとしてもよい。これにより、チップ111を用いて試料Sを吸引する際に、試料Sの過剰吸引や試料S由来の蒸気(エアロゾル)によってクロスコンタミネーションが生じることを抑制するとともに、チップ111外部からの異物がチップ111内及び容器内121に混入することを抑制することが可能となる。
【0021】
容器121は、試料Sを保管することができるものであればよく、容器121の材質、形状及びサイズ(全長あるいは容量)等は特に限定されず、公知のものを用いることができる。また、
図1に示すように、容器121は、容器保持台120における保持のための鍔部121aを有するものであってもよい。さらに、容器121は、チップ111と同様にディスポーザブルなものを用いてもよく、繰り返し使用が可能なものを用いてもよい。
本実施態様における容器121としては、例えば、ガラス製バイアル、樹脂製バイアルのほか、PCRチューブと呼ばれる樹脂製容器などが挙げられる。
【0022】
本実施態様における容器121上部は、容器121内部にチップ先端111aが進入できるように形成されている。容器121上部の構造の一例としては、例えば、容器121上部を全面開口した構造や、容器121上部の一部にチップ先端111aが進入した後に、チップ111自体(円錐体111b部分)が嵌入する構造などが挙げられる。また、容器121には、チップ先端111aの進入前後において、試料Sと外気の接触を低減させるための封止構造122を設けるものとしてもよい。
【0023】
図2に、本実施態様における容器121の構造の一例を示す。なお、
図2中、上側は側面図であり、下側は上方向から見た平面図である。
図2(A)は、鍔部121aを有し、上部が全て開口している構造を示している。また、
図2(B)は、鍔部121aを有するとともに、容器121内側にチップ111が嵌入するための縁部121bを形成する構造を示している。このとき、縁部121bとしては、容器121自体と同じ材質からなるものであってもよく、チップ111の嵌入を容易とするために、可撓性を有する材質(ゴム、エラストマー等)で形成するものとしてもよい。
一方、
図2(C)は、封止構造122として、容器121上部に嵌合する形状を有する蓋部123を設けるものを示しており、この蓋部123にはチップ先端111aの進入を可能とする切込部123aを設けることが挙げられる。また、蓋部123は、可撓性を有する材質からなるものとすることが好ましい。これにより、切込部123aを介してチップ先端111aは容器121内部に進入することができるとともに、チップ先端111aの進入後は、円錐体111bに合わせて切込部123aが変形し、封止状態を維持することができる。
また、
図2(D)は、封止構造122の別の例として、容器121上部を覆う薄膜状部材からなる被覆部124を設けるものを示しており、この被覆部124にはチップ先端111aの進入を可能とする切込部124aを設けることが挙げられる。また、被覆部124は、可撓性を有する材質からなるものとすることが好ましい。これにより、切込部124aを介してチップ先端111aは容器内部に進入することができるとともに、チップ先端111aの進入後は、円錐体111bに合わせて切込部124aが変形し、封止状態を維持することができる。
【0024】
図2(A)に示す構造を有する容器121は、市販品を活用することができるため、多数の容器121を容易に調達可能であるという利点を奏する。一方、
図2(B)~
図2(D)に示す構造を有する容器121は、市販品に対する加工を必要とするが、試料Sと外気の接触を低減させることができるため、試料Sの蒸発や変質等を抑制することが可能となるという利点を奏する。
なお、
図2に示した容器121の構造は一例を示すものであり、これに限定されるものではない。
【0025】
チップ保持台110は、チップ111を保持するためのものであり、チップ111を保持する構造を有するものであればよい。
本実施態様におけるチップ保持台110の一例としては、例えば、
図1に示すように、保持するチップ111の本数に合わせた保持用孔110aを有する板状部材110bからなるものが挙げられる。この保持用孔110aは、チップ保持台110の上部からチップ111を挿入した際に、チップ上部に設けられた鍔部111cが係止するように設けられる。これにより、チップ保持台110においてチップ111を保持することができる。
ここで、保持用孔110aの形状は特に限定されず、板状部材110bにおいて断面が長方形となる形状や断面が台形となる形状等が挙げられる。なお、チップ111をより安定して保持するという観点からは、保持用孔110aの形状をチップ111の形状(円錐体111b上部の形状)に合わせた形状とすることが好ましい。
【0026】
後述するように、本実施態様におけるチップラック100Aは、分注装置200の試料吸引部においてチップ111を装着する箇所としても機能する。このため、チップ保持台110は、チップ111を安定して保持できる構造を有することと併せ、チップ111装着時における外圧に耐え得る程度の強度を有する材質あるいは構造からなることが好ましい。
【0027】
容器保持台120は、容器121を保持するためのものであり、容器121を保持する構造を有するものであればよい。
本実施態様における容器保持台120の一例としては、例えば、
図1に示すように、保持する容器121の個数(チップ111の本数に等しい)に合わせた保持用孔120aを有する板状部材120bからなるものが挙げられる。この保持用孔120aは、容器保持台120の上部から容器121を挿入した際に、容器上部に設けられた鍔部121aが係止するように設けられる。これにより、容器保持台120において容器121を保持することができる。
ここで、保持用孔120aの形状は特に限定されず、板状部材120bにおいて断面が長方形となる形状や断面が台形となる形状等が挙げられる。なお、容器121をより安定して保持するという観点からは、保持用孔120aの形状を容器121の形状(容器121側面の形状)に合わせた形状とすることが好ましい。
【0028】
後述するように、本実施態様におけるチップラック100Aは、分注装置200の試料吸引部においてチップ111を装着する箇所としても機能する。このため、チップ保持台110と同様に、容器保持台120においても、容器120を安定して保持できる構造を有することと併せ、チップ111装着時における外圧に耐え得る程度の強度を有する材質あるいは構造からなることが好ましい。
【0029】
チップ保持台110と容器保持台120は、いずれも筐体101内に配置される。ここで、チップ保持台110と容器保持台120は、
図1に示すように、チップ保持台110に保持されたチップの先端111aが、容器保持台120に保持された容器121内部に進入するように配置されて固定される。このとき、チップ先端111aが試料Sに接触(浸漬)する状態とすることで、後述する分注装置200において、チップ111の装着と試料Sの吸引を同一箇所で行うことが可能となり、分注に係る時間短縮及び分注装置200の小型化が容易となる。
【0030】
このとき、筐体101内でチップ保持台110と容器保持台120とを配置して固定する設置手段については特に限定されない。例えば、
図1に示すように、筐体101に係止部102を設け、この係止部102にチップ保持台110と容器保持台120をそれぞれ係止させることのほか、筐体101と、チップ保持台110及び/又は容器保持台120とを一体成型することなどが挙げられる。
【0031】
チップ保持台110と容器保持台120とを配置して固定する設置手段として、筐体101に係止部102を設ける場合、係止部102と筐体101を一体化するものとしてもよく、係止部102自体が筐体101から着脱可能な構造を有するものとしてもよい。筐体101と一体化する係止部102の一例としては、チップ保持台110及び/又は容器保持台120を配置する箇所に、筐体101内壁面から突出した構造体を設けることが挙げられる。また、筐体101から着脱可能な構造を有する係止部102の一例としては、枠体、板状構造体、棒状構造体などが挙げられる。
【0032】
図3は、本実施態様のチップラック100Aにおける設置手段の一例を示す概略説明図(斜視図)である。
図3では、筐体101の構造の一例として、上部に開口部101aを有する箱型構造体を示している。また、
図3では、容器保持台120を配置する箇所に、筐体101と一体化する係止部102a(筐体101内壁面から突出した構造体)を設ける一方、チップ保持台110を配置して固定するために、筐体101から着脱可能な構造を有する係止部102b(枠体)を設けるものを示している。
本実施態様のチップラック100Aにおけるチップ保持台110と容器保持台120の設置手段としては、
図3に示すように、開口部101a側から容器121を保持させた容器保持台120を筐体101内に入れ、係止部102aにより固定した後、係止部102b、チップ111を保持させたチップ保持台110の順に、筐体101内に入れることが挙げられる。このとき、チップ先端111aが容器121内部に進入するよう、係止部102bの高さを設定する。これにより、チップ111を保持したラックと容器121を保持したラックとを並べて保管・使用する場合と比べ、チップ111及び容器121の保管・使用スペースを半分の面積にすることが可能となる。さらに、チップ111と容器121とを単に垂直方向に積層するものと比べ、チップラック100Aとしての高さを低く設定することができ、チップラック100Aの省スペース化が可能となる。
なお、
図3には、チップ保持台110を筐体101内に入れた後、その上部から筐体101の開口部101aを塞ぐための蓋体103を設けるものを示しているが、蓋体103の有無については特に限定されず、この蓋体103を省略するものとしてもよい。
【0033】
図4は、本実施態様のチップラック100Aにおける各保持台の設置手段の別態様を示す概略説明図(斜視図)である。
図4では、筐体101の構造の一例として、上部に開口部101aを有し、側面に開口部101bを有する箱型構造体を示している。また、
図4では、容器保持台120を配置する箇所に、筐体101と一体化する係止部102c(筐体101内壁面から突出した構造体)を設け、チップ保持台110を配置する箇所に、筐体101と一体化する係止部102d(筐体101内壁面から突出した構造体)を設けるものを示している。
図4におけるチップ保持台110と容器保持台120の設置手段としては、開口部101b側から容器121を保持させた容器保持台120を横移動により筐体101内に入れ、係止部102cにより固定した後、開口部101a側からチップ111を保持させたチップ保持台110を筐体101内に入れ、係止部102dにより固定することが挙げられる。
図4に示したチップラック100Aにおける各保持台の設置手段においては、容器保持台120の横移動によって容器121が筐体101内に配置されることにより、筐体101上部の開口部101aから容器121を配置することに比べ、容器121の意図しない落下等、配置操作における人為的ミスの抑制を図ることが可能となる。
なお、
図4には、筐体101の開口部101aを塞ぐための蓋体103に加え、開口部101bを塞ぐための蓋体104を設けるものを示しているが、蓋体103、104の有無については特に限定されず、この蓋体103、104を省略するものとしてもよい。
また、容器保持台120の横移動を円滑に行うため、係止部102c及び/又は容器保持台120に摩擦を低減する形状あるいは構造体を設けることや、係止部102c及び/又は容器保持台120に係る材質の選択を行うこととしてもよい。
【0034】
図3及び
図4に示したチップラック100Aでは、チップ111及び容器121の交換・補充において、それぞれチップ保持台110及び容器保持台120に保持した状態で行うことができる。これにより、多数のチップ111及び容器121(試料S)を一度に取り扱うことが容易となる。
【0035】
チップラック100Aにおける各保持台の設置手段の別の例としては、筐体101内に容器保持台120を一体成型し、開口部101a側から容器121を容器保持台120に保持させた後、チップ111を保持させたチップ保持台110を入れて係止部120(筐体101と一体化する構造あるいは筐体101から着脱可能な構造を有する係止部)により固定することなどが挙げられる。この場合、チップラック100Aを構成する部品点数が少なくなるため、作製に係る時間及びコスト削減が可能となる。
このとき、筐体101内に一体成型する容器保持台120としては、
図1に示すような複数の保持用孔120aを有する板状部材120b以外に、容器121の下部形状に合わせた穴を有する構造物とすることが挙げられる。これにより、容器121の固定をより強固に行うことが可能となる。
【0036】
(分注装置)
図5は、本発明の第1の実施態様における分注装置の構造を示す概略説明図である。
本実施態様における分注装置200は、
図5に示すように、チップラック100Aと、容器121内の試料Sを吸引する試料吸引部210と、試料吸引部210で吸引した試料を移動させる試料搬送部220と、を備えるものである。なお、
図5中、一点鎖線の矢印は、データの入出力及び制御が可能となるように接続されていることを示すものである。
【0037】
本実施態様の分注装置200は、チップラック100Aを用いることで、試料Sの入った容器121と、チップ111とを同一箇所に配置することができ、従来の分注装置と比べ、省スペース化することが可能となる。
【0038】
試料吸引部210は、チップラック100A内に配置された容器121内の試料Sを吸引することができるものであればよく、構造については特に限定されない。例えば、試料吸引部210の一例としては、
図5に示すように、分注ノズル211と、分注ノズル211に接続された分注ポンプ212と、制御部213とを備えることが挙げられる。
ここで、分注ノズル211としては、チップラック100A内のチップ111上部と嵌合する構造を有し、試料搬送部220を介してXYZ軸方向に移動可能なものが挙げられる。また、分注ポンプ212としては、チップ111を介して容器121内の試料Sを吸引及び吐出する操作ができるものであればよく、シリンジとピストンの組み合わせからなるシリンジポンプなどが挙げられる。また、制御部213は、分注ノズル211の移動(昇降及び水平移動)や、分注ポンプ212の駆動に係る制御を行うことができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。
【0039】
試料搬送部220は、試料吸引部210で吸引した試料Sを所定の位置に移動させるためのものである。試料搬送部220は、分注ノズル211を移動させる機構であればよく、分注ノズル211の昇降機構(Z軸方向の移動)に加え、水平移動(X軸及びY軸方向の移動)を可能とする移動機構221を備えるものが挙げられる。また、この移動機構221は、制御部213によって分注ポンプ212と併せて制御を行うものとし、分注装置200としての省スペース化を図ることが好ましい。
【0040】
本実施態様の分注装置200による分注操作について一例を示す。
まず、試料吸引部210における分注ノズル211を水平移動及び昇降させる操作を行い、チップラック100A内のチップ111を分注ノズル211の先端に装着する。
そして、分注ノズル211は、チップ111を装着した位置のままで維持するとともに、分注ポンプ212を駆動させ、チップ先端111aから試料Sを吸引する。
その後、分注ノズル211を上方に移動させることで、チップラック100A内から試料Sの入ったチップ111を取り出し、移動機構221によってチップ111(試料S)を試料Sの分注先となる箇所(マルチウェルプレート等)に移動させる。
そして、分注ポンプ212を駆動させ、チップ111内の試料Sを吐出し、分注操作を完了する。
【0041】
この分注操作において、分注精度を高めるための操作を併せて行うものとしてもよい。例えば、分注ノズル211にチップ111が装着された後、チップ111内に混入する気泡の除去に係る操作、あるいは、分注ポンプ212による吸引時において、気泡の混入を考慮した吸引量の設定及びその設定に基づく吸引に係る操作などが挙げられる。
【0042】
なお、本実施態様の分注装置200は、チップラック100、試料吸引部210、試料搬送部220以外に、分注装置として公知の構成を設けるものとしてもよい。例えば、本実施態様の分注装置200に対し、分注操作後にチップ111を取り外す取り外し機構や、取り外されたチップ111を回収する廃棄部を設けることなどが挙げられる。
ここで、本実施態様におけるチップ111は、基本的に1回の使用で取り外して廃棄するが、同一試料Sの数、あるいは容器121内の試料Sの量が多く、吸引する試料Sを変更することによるコンタミネーションを抑制する必要がある場合などにおいては、分注操作後、分注ノズル211に装着したままの状態のチップ111を、移動機構221によって容器121に戻し、再度分注操作を行うものとしてもよい。
また、本実施態様の分注装置200は、チップラック100内のチップ111としてディスポーザブルチップを用いる場合、洗浄に係る構成を設ける必要はないが、ディスポーザブルチップ以外のチップ111を用いる場合や分注ノズル211におけるコンタミネーションを抑制するために、洗浄機構を設けるものとしてもよい。
【0043】
本実施態様における分注装置200では、チップラック100Aを用いることで、チップ111と容器121との保管・使用スペースを縮小することができるとともに、チップラック100A内でチップ111と容器121とが一体となっているため、チップ111の装着と試料Sの吸引を同一箇所で行うことができ、その後の試料Sの移動距離も短くすることができる。これにより、分注装置200として小型化することが可能となる。
【0044】
(観察システム)
図6は、本発明の第1の実施態様における観察システムの構造を示す概略説明図である。
本実施態様における観察システム1は、
図6に示すように、第1のシート2aと、第2のシート2bと、試料S(観察対象物S)を配置する配置手段3と、観察手段4とを備えるものである。また、第1のシート2a及び第2のシート2bには、シート移動機構5が設けられている。さらに、配置手段3として、分注装置200が備えられている。なお、
図6中、一点鎖線の矢印は、データの入出力及び制御が可能となるように接続されていることを示すものである。
【0045】
本実施態様における観察システム1は、配置手段3として分注装置200を用い、第1のシート2a上に観察対象物Sを配置した後、その上部から第2のシート2bを重ね合わせることで、第1のシート2aと第2のシート2bの間に観察対象物Sを固定し、この状態で観察手段4による観察を行うものである。すなわち、従来のカバーガラスとスライドガラスからなるプレパラートに代えて、本実施態様における第1のシート2a及び第2のシート2bを重ね合わせたものを試料とし、観察を行うものである。また、第1のシート2a及び第2のシート2bにシート移動機構5を設けることで、観察用試料調製から試料観察までを一連の動作として行うことが可能となる。これにより、プレパラートを用いた従来の観察における試料の調製及び搬送という作業が簡略化され、観察に係る作業効率を向上させることが可能となる。
【0046】
以下、観察システム1の各構成について、詳細に説明する。
【0047】
第1のシート2aは、観察対象物Sが配置され、観察対象物Sを支持するためのものである。また、第2のシート2bは、観察対象物Sが配置された第1のシート2aと重ね合わせられるものであり、これにより、観察対象物Sを固定するものである。
【0048】
第1のシート2a及び第2のシート2bとしては、観察対象物Sを配置することができ、かつ観察手段4による観察が可能なものであればよく、材質や形状については特に限定されない。
第1のシート2a及び第2のシート2bの形状としては、後述する観察手段4による観察視野が十分確保できる幅を有するものであればよい。また、第1のシート2a及び第2のシート2bの形状としては、例えば、ロール状のフィルムとすることが挙げられる。これにより、後述するシート移動機構5によるシートの移動を容易とすることができる。また、第1のシート2a及び第2のシート2bは、カートリッジ式で交換可能な構造とすることが好ましい。これにより、シートの交換が容易となるため、観察に係る作業効率を向上させることが可能となる。
【0049】
本実施態様における第1のシート2a及び第2のシート2bの材質の例としては、光透過性を有し、水に対して不溶かつ水を透過しない材質であるものが挙げられる。また、有機溶媒に対する耐性があることがより好ましい。このような材質としては、樹脂フィルムやガラス製のフィルムなどが挙げられる。例えば、樹脂フィルムとして、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなど、市場における供給量が多く、安価な樹脂フィルムを用いることで、観察に係るランニングコストを低減することができる。なお、ポリエチレンフィルムは、テラヘルツ波の透過性が高いことが知られており、観察手段4として電子線観察を用いる際に、特に好適に用いることができる。
また、第1のシート2a及び第2のシート2bとしては、光透過性に加え、自家蛍光や吸光が少ない材質であることがより好ましい。これにより、観察手段4における観察に対する影響を抑制することができる。このような材質としては、例えば、シクロオレフィンフィルムなど、光の吸収が少ない樹脂フィルムや、ガラス製のフィルムを用いることが挙げられる。特に、ガラス製のフィルムは、光学観察に係るプレパラートの代替として好適に用いられる。なお、第1のシート2a及び第2のシート2bにおける自家蛍光や吸光については、観察手段4における観察時にバックグラウンドとして補正することで対応するものとしてもよい。
さらに、第1のシート2a及び第2のシート2bとしては、各種滅菌処理(電子線滅菌、紫外線滅菌、加熱滅菌等)に対して耐性があるものが好ましい。これにより、観察対象物Sとして生体を用いる際、観察対象以外の菌や微生物の混入を抑制することが可能となる。また、観察対象物Sとして生体を用いる場合、第1のシート2a及び第2のシート2bとしては酸素の透過/非透過性を選択あるいは付与するものとしてもよい。例えば、生体が嫌気性である場合、第1のシート2a及び第2のシート2bとしては酸素の非透過性を有する材質を選択することが好ましい。一方、生体が好気性である場合、第1のシート2a及び第2のシート2bとしては、酸素の透過性を有する材質を選択することが好ましい。これにより、観察作業時において、生体に対する酸素の影響を制御することが可能となる。
【0050】
第1のシート2a及び第2のシート2bは、それぞれ同じ材質を用いるものとしてもよく、異なる材質を用いるものとしてもよい。また、第1のシート2a及び第2のシート2bは、それぞれのシートの厚みを同一としてもよく、異なるものとしてもよい。例えば、後述する回収手段6により、第1のシート2a及び第2のシート2bの接着や切断を行う際、シートの熱接着に適した薄いシート面と、シートの切断や保存に適した厚いシート面とを組み合わせるものとすることなどが挙げられる。
【0051】
また、第1のシート2a及び第2のシート2bは、表面処理を行うものとしてもよい。表面処理の種類としては特に限定されない。
例えば、表面処理の一例としては、親水処理や撥水処理など、水に対する表面特性に係る処理を行うことが挙げられる。なお、水に対する表面特性とは、親水性/疎水性に係るもののほか、ぬれ特性、水の接触角に関するものを含んでいる。
このとき、親水処理や撥水処理をシート全体に行うものとしてもよいが、親水処理や撥水処理を行う箇所について一定のパターンを持たせるものが挙げられる。例えば、正方形、長方形、円形あるいは楕円状のパターンが一定間隔で並ぶように親水処理を行い、後述する配置手段3により、親水処理を行った箇所に対して水溶液からなる観察対象物Sを配置する。これにより、表面処理を行った箇所に観察対象物Sを安定して配置することが可能となる。
特に、第1のシート2a及び第2のシート2bのいずれか一方もしくは一部のシートについて、水に対する表面特性が異なるものとすることが好ましい。これにより、観察対象物Sを含む水溶液を第1のシート2a上に配置した後、第2のシート2bを重ね合わせた際、水溶液がシート間において適度に広がり、シート間の間隔を一定に保つことが容易となる。このため、観察対象物Sを安定して固定することが可能となるとともに、観察手段4による観察に係る作業効率を向上させることが可能となる。
【0052】
また、表面処理の別の例としては、観察対象物Sを固定化するための物質を塗布することが挙げられる。例えば、観察対象物Sが生体である場合、第1のシート2a及び第2のシート2bに塗布する物質としては、生体に対する抗体や、生体と結合するタンパク質、ペプチド、酵素、核酸、塩基、糖鎖、リン脂質、糖脂質などが挙げられる。これにより、表面処理を行った箇所に観察対象物Sを安定して配置することが可能となる。
さらに、表面処理の別の例としては、観察対象物Sを観察するための試薬を塗布することが挙げられる。このような試薬としては、例えば、染色試薬、蛍光試薬、各種プローブなどが挙げられる。これにより、表面処理を行った箇所における観察対象物Sについて、観察手段4による観察が容易となり、観察に係る作業効率を向上させることが可能となる。
【0053】
また、第1のシート2a及び第2のシート2bには、観察時における識別を容易にするための各種識別用情報を組み込むものとしてもよい。このような識別用情報としては、グリッドやスケールバー等、サイズに係る識別用情報や、所定間隔ごとに設けたマーカー、コード(ナンバリング、文字コード、バーコード等)などのガイド等、位置情報に係る識別用情報などが挙げられる。また、識別用情報を組み込む手段としては、第1のシート2aあるいは第2のシート2bに識別用情報をあらかじめ印刷することや、手動により書き入れることなどが挙げられる。
【0054】
配置手段3は、第1のシート2a上に観察対象物Sを配置する配置工程を行うためのものである。
本実施態様の配置手段3は、観察対象物Sを配置することができるものであればよく、特に限定されない。なお、配置手段3は、観察対象物Sの形態(液体あるいは固体)に合わせたものを選択することが好ましい。
【0055】
配置手段3の具体的な例としては、
図6に示すように、分注装置200を用いるものが挙げられる。これにより、観察システム1において観察対象物Sの配置を行う装置を小型化することが可能となり、観察システム1全体としての小型化も可能となる。
【0056】
配置手段3としての分注装置200は、容器121内の観察対象物Sを、チップ111を介して第1のシート2a上に滴下、排出するものである。
ここで、制御部213は、チップ111の位置制御に加え、チップ111の角度制御を行うことが好ましい。これにより、第1のシート2aに対するチップ111の角度や位置を調整し、第1のシート2a上の任意の位置に観察対象物Sを配置することが可能となる。また、制御部213により、チップ111の角度や位置を調整し、第2のシート2b上に観察対象物Sを配置するものとしてもよい。これにより、後述するように、第1のシート2a上と第2のシート2b上にそれぞれ異なるものを配置することも可能となる。
【0057】
制御部213によるチップ111の位置制御に係る一例としては、観察対象物Sの種類変更直後など、観察作業を一旦停止して再開する際において、チップ111を第1のシート2aから外れた位置に移動させ、チップ111内の液体を廃液として一定量を排出した後、チップ111を第1のシート2a上に移動させ、観察対象物Sの配置を行うこと等が挙げられる。これにより、観察に適さない廃液が第1のシート2a上に配置されることを防ぎ、観察に係る作業効率を向上させることが可能となる。
【0058】
配置手段3は、
図6に示した構成に限定されるものではない。例えば、配置手段3としてチップ111を複数用いるものとしてもよい。配置手段3として複数のチップ111を設けた場合、配置手段3により第1のシート2a上に配置されるものは観察対象物Sだけではなく、観察対象物Sの観察に必要な試薬を配置するものとしてもよい。
特に、観察対象物Sが生体を含む溶液である場合、生体の観察に広く用いられている染色試薬を配置手段3により配置することが好ましい。このとき、第1のシート2a上に配置された観察対象物Sに対し、直接染色試薬を供給するのではなく、第1のシート2aと第2のシート2bが重なることで、観察対象物Sと染色試薬が混合されるようにすることが好ましい。これにより、チップ111におけるコンタミネーションを抑制することが可能となる。例えば、第1のシート2a上に観察対象物Sと染色試薬を互いが接触しない程度に隣接して配置することや、観察対象物Sを配置するチップ111の角度と、染色試薬を配置するチップ111の角度を異なるものとし、第1のシート2a上と第2のシート2b上にそれぞれ観察対象物Sと染色試薬を配置することなどが挙げられる。
【0059】
また、配置手段3により観察対象物S以外に配置するものとしては、観察対象物Sの観察に必要な試薬(染色試薬)に限定されるものではなく、観察対象物Sに対する環境変化の影響を観察するための化学物質(試薬)などが挙げられる。例えば、観察対象物Sが生体を含む溶液である場合、塩濃度やpHの高い溶液を配置手段3により配置し、観察対象物Sと混合させることで、生体に対する塩濃度やpHの影響についての観察を行うものとすることができる。これにより、観察対象物Sに対する環境変化に伴う観察データについて、迅速かつ容易に取得することが可能となる。
【0060】
配置手段3により、第1のシート2a上に観察対象物Sを配置した後、その上部から第2のシート2bを重ね合わせることで、第1のシート2aと第2のシート2bの間に観察対象物Sを固定することができる。なお、第1のシート2a及び第2のシート2bを重ね合わせる手段については特に限定されない。例えば、後述するシート移動機構5を用い、第1のシート2a及び第2のシート2bを重ね合わせること等が挙げられる。これにより、観察用の試料調製に係る作業を自動化することが容易となる。
【0061】
観察手段4は、第1のシート2a及び第2のシート2bの間に固定された観察対象物Sを観察する観察工程を行うためのものである。
観察手段4としては、観察対象物Sの観察データを取得することができるものであればよく、特に限定されない。例えば、観察対象物Sの形状に係る情報を得るための画像取得手段や、観察対象物Sに対する各種分析に基づく情報を得るための光学分析手段、放射線分析手段、磁場分析手段、電子線回折手段などが挙げられる。
本実施態様における観察手段4としては、顕微鏡の構成を利用することが挙げられる。特に光学顕微鏡の構成を利用することが好ましい。これにより、観察対象物Sを拡大した画像を取得して詳細な観察が可能となるとともに、各種分析手段とも組み合わせることが容易となる。
【0062】
観察手段4としては、光学顕微鏡による観察において一般的に用いられる対物レンズ40、接眼レンズ、反射鏡(光源)を備えるものが挙げられる。また、接眼レンズの代わりに、画像取得のための画像取得手段(CCDカメラ等)を設け、画像データの自動収集を可能とすることが好ましい。これにより、観察データの取得、解析に係る作業効率を向上させることが可能となる。なお、
図6には、観察手段4として対物レンズ40のみを図示しており、他の構成については省略している。
本実施態様における観察システム1においては、
図6に示すように、対物レンズ40の下方に、シート移動機構5により保持された2枚のシート(第1のシート2a及び第2のシート2b)を設置し、2枚のシート間に固定された観察対象物Sの観察を行うため、一般的な光学顕微鏡におけるステージを設けることは必須ではない。
なお、
図6においては、対物レンズ40が観察対象物Sの上方にある正立顕微鏡の構造を示しているが、これに限定されるものではなく、対物レンズ40が観察対象物Sの下方にある倒立顕微鏡の構造を利用するものとしてもよい。また、対物レンズ40を複数設け、複数方向から観察対象物Sの観察を行うものとしてもよい。
【0063】
観察手段4により得られた観察データは、必要に応じ整理、解析を行うことが好ましい。例えば、データの蓄積や解析を行うデータ記憶部やデータ解析部を設け、観察データを入力することで必要な演算処理を行うことが挙げられる。これにより、観察対象物Sに関する観察データのデータベース化やデータの有効活用が可能となる。
【0064】
シート移動機構5は、第1のシート2a及び第2のシート2bを支持して移動させるためのものである。
シート移動機構5としては、第1のシート2a及び第2のシート2bを巻き出して供給する巻出部50として巻出ロール50a、50bと、第1のシート2a及び第2のシート2bを巻き取って回収する巻取部51として巻取ロール51a、51bを備えており、巻取部51(巻取ロール51a、51b)を回転駆動させるための駆動部が設けられている(不図示)。なお、
図6には、巻取部51として巻取ロール51a、51bを設けるものが記載されているが、これに限定されない。例えば、巻出部50(巻出ロール50a、50b)から巻き出された第1のシート2a及び第2のシート2bを、一つの巻取ロールで巻き取って回収するものとしてもよい。これにより、装置の構造を簡略化することが可能となる。
【0065】
シート移動機構5は、シートの移動速度を調整する速度調整機能53を有することが好ましい。速度調整機能53としては、例えば、巻取部51の回転駆動に係る駆動部に対し、回転数の記録もしくは巻径の計測が可能であり、かつ回転数の制御が可能な回転駆動制御部53aを設けることが挙げられる。これにより、シートの巻き取り(回収)速度の調整が可能となり、シートの移動速度を調整することが可能となる。
【0066】
シート移動機構5として、速度調整機能53を備えることで、配置手段3から滴下され、第1のシート2a上に配置される観察対象物Sの量を制御することが可能となる。すなわち、速度調整機能53として、シートの移動速度が適正となるように回転駆動制御部53aを制御することで、第1のシート2a上に配置される観察対象物Sの液量及び液滴形状を、観察手段4による観察に適した状態とすることが可能となる。
【0067】
本実施態様におけるシート移動機構5は、シートの移動速度を調整する速度調整機能53と併せ、シートの移動と停止を制御する機能を有するものとしてもよい。例えば、巻取部51の回転駆動に係る駆動部に対し、第1のシート2a及び第2のシート2bを一定距離あるいは一定時間移動させた後、一定時間停止させる制御を行うことが挙げられる。ここで、この制御は、回転駆動制御部53aによって行うものとしてもよく、別途制御部を設けるものとしてもよい。これにより、観察手段4によって観察対象物Sの観察を行う際、観察対象物Sを断続的に移動させ、かつ観察対象物Sが静止状態にある中での観察を行うことができ、観察の精度を高めることが可能となる。
また、シート移動機構5におけるシート移動に係る制御の他の例としては、例えば、観察対象物Sの観察用の動作モードとしてシートの移動と停止を繰り返す動作や、観察対象物Sの配置用の動作モードとして一定速度でシートを移動する動作等のように、異なる動作モードを切り替えるようにすること等が挙げられる。これにより、観察手段4における観察条件より自由に設定できるとともに、観察対象物Sの配置をより正確に行うことができるようになる。
【0068】
本実施態様におけるシート移動機構5は、第1のシート2a及び第2のシート2bの張力制御のための張力制御手段を設けるものとしてもよい。例えば、巻出部50と巻取部51の中間に張力検知部を設けるものとしてもよい。これにより、第1のシート2a及び第2のシート2bの張力制御をより精密に行うことができ、第1のシート2a及び第2のシート2bの歪みや、第1のシート2a及び第2のシート2bの移動速度のずれを低減することが可能となり、観察の精度を高めることが可能となる。また、張力制御手段の他の例としては、巻出部50にも回転駆動に係る駆動部と回転駆動制御部を設けることや、巻出部50とチップ111の間にシート送り部として回転駆動部を設置することなどが挙げられる。これにより、より高精密に張力制御を行うことができる。
【0069】
本実施態様におけるシート移動機構5は、第1のシート2aを支持して移動させる巻出ロール50aと巻取ロール51a、あるいは第2のシート2bを支持して移動させる巻出ロール50bと巻取ロール51bのいずれか一方あるいは両方が、上下移動可能とすることが好ましい。これにより、第1のシート2aと第2のシート2b間の距離を調整することが可能となる。
【0070】
また、
図6に示すように、第1のシート2a及び第2のシート2bに適度な張力をかけるとともに、第1のシート2aと第2のシート2bを重ね合わせるための支持機構52として、上下移動が可能な複数の支持ローラ52aを設けることが好ましい。これにより、第1のシート2a及び第2のシート2bの移動を安定して行うことができる。また、支持機構52を設けることで、第1のシート2aと第2のシート2bの重ね合わせに係る位置調整の精度を高め、2枚のシート間距離の調整を容易に行うことが可能となる。なお、
図6においては、支持機構52を第2のシート2b側に設けるものを示しているが、これに限定されるものではなく、第1のシート2a側に設けるものとしてもよく、第1のシート2a側及び第2のシート2b側の両方に設けるものとしてもよい。また、支持機構52を設ける箇所や個数についても特に限定されない。例えば、
図6に示すように、観察手段4における対物レンズ40に対し、シートの移動方向における上流側と下流側の両側、かつシート上方側(第2のシート2bの上方側)に支持機構52を設けるものとし、シートの安定した支持を可能とするものが挙げられる。他の例としては、支持機構52を、シート下方側(第1のシート2aの下方側)や、各シートにおいて観察対象物Sを配置する側に設けること等が挙げられる。また、支持機構52を設ける数を減らし、構造を簡略化するものとしてもよい。
【0071】
また、支持機構52に、シートの移動速度を調整する速度調整機能53を備えるものとしてもよい。例えば、支持ローラ52aの回転数あるいは回転速度を計測する計測部及び支持ローラ52aの回転駆動が制御可能な回転駆動制御部を設けることが挙げられる。各シート(第1のシート2a及び第2のシート2b)は支持ローラ52aの回転駆動に伴って移動する。このため、支持ローラ52aの回転駆動を制御することで、シートの移動速度を調整することが可能となる。
【0072】
また、本実施態様における観察システム1には、配置手段3、観察手段4及びシート移動機構5における各種動作の調整を行う制御手段Cを設けることが好ましい。より具体的には、
図6に示すように、配置手段3(制御部213)、観察手段4及びシート移動機構5(速度調整機能53)に接続され、データの入出力及び制御を可能とする制御部C1を設けることが挙げられる。制御部C1は、各種手段ごとに設けるものとしてよいが、
図6に示すように、1つの制御部C1に複数の手段を接続し、総合的に制御可能とすることが好ましい。これにより、各種動作の調整及び調整に係る操作を簡便かつ効率的に行うことが可能となる。
ここで、制御部C1における制御対象となる動作の一例としては、観察手段4の操作に係る動作、観察手段4による観察データの取得及び保存に係る動作、観察手段4における観察結果に係るデータに基づく、配置手段3の制御部213による観察対象物Sのシート(第1のシート2a)への配置動作(分注動作)のほか、シート移動機構5における速度調整機能53(回転駆動制御部53a)や支持機構52の回転駆動制御によるシートの移動速度やシートの移動・停止などシートの水平移動に直接的に関連する動作、及び、支持機構52の駆動制御によるシートの水平移動を補助することに関連する動作のようなシート動作などが挙げられる。また、各種手段ごとにおける個別の動作だけではなく、各種手段における動作を複数組み合わせることによる動作も制御対象とすることが好ましい。例えば、シート移動機構5によりシートの移動を停止したタイミングに合わせて、観察手段4による観察データの取得を行うといった一連の動作を制御することや、複数の観察対象物Sに対し、観察対象物Sごとに、配置手段3、観察手段4及びシート移動機構5に係る一連の動作を制御することなどが挙げられる。これにより、観察手段4により取得する観察データの精度向上や、観察に係る作業効率を向上させることが可能となる。
【0073】
以下、本実施態様における制御手段C(制御部C1)による制御対象となる動作について、より具体的な例を列記するが、これに限定されるものではない。
例えば、観察手段4の操作に係る動作としては、顕微鏡やカメラの操作が挙げられる。
また、観察手段4による観察データの取得及び保存に係る動作としては、まず、観察データの取得については、顕微鏡による観察方法、観察時間及び観察条件(倍率等)、並びに、カメラによる撮影方法、撮影時間、撮影枚数及び撮影条件の設定・選択などが挙げられる。一方、観察データの保存については、データ名、データの保存形式及びデータ保存場所の設定・選択などが挙げられる。
また、配置手段3による観察対象物Sのシート(第1のシート2a)への配置動作(分注動作)としては、観察対象物Sをシート上に配置(供給)する際の供給量、供給速度、供給間隔などの設定・選択が挙げられる。
さらに、シート移動機構5に係るシート動作としては、シートの移動速度や移動時間、停止時間、観察対象物Sの種類を切り替えるまでの時間に係る設定・選択や、緊急停止に係る判断・実行、シート量の管理などが挙げられる。
これらの動作については、上述したように、いずれか一つを制御対象とするものとしてもよく、複数を任意に組み合わせて制御対象とするものとしてもよい。観察に係る作業効率を向上させるという観点からは、複数の動作について制御対象とすることが好ましい。
【0074】
本実施態様における観察システム1には、上述したもの以外の構成を設けるものとしてもよい。
例えば、本実施態様における観察システム1は、外部からの不純物の混入を防ぐための手段を設けることが好ましい。このような手段としては、配置手段3及びシート移動機構5を収容可能な密閉部を設け、外部環境との接触を遮断することが挙げられる。また、観察システム1全体をクリーンルームやクリーンベンチなどの環境下に設置するものとしてもよい。これにより、観察時における外部からの不純物による影響を抑制することが可能となる。また、外部からの不純物の混入をより確実に抑制するための部材を更に設けるものとしてもよい。このような部材としては、例えば、密閉部にフィルタ等を設けること等が挙げられる。
【0075】
また、外部からの不純物の混入を防ぐための他の手段として、本実施態様における観察システム1に、イオナイザ等の除電機構を設け、第1のシート2a及び第2のシート2bの除電を行うことが挙げられる。これにより、第1のシート2a及び第2のシート2bへ不純物が付着することを低減させることが可能となるとともに、静電気による他機器への影響を低減させることも可能となる。
【0076】
以上のように、本実施態様の観察システムにより、省スペース化された分注装置を用い、2枚のシート間に観察対象物を配置・固定した状態とし、その状態で観察を行うことで、カバーガラスとスライドガラスを用いたプレパラート作製によらない迅速な試料調製及び試料観察が可能となる。これにより、試料調製に係る工程を大幅に簡略化し、観察作業を迅速に行うことが可能となる。また、2枚のシート間に観察対象物を固定するため、観察対象物に対し、必要以上に強い外力をかけることがない。このため、観察対象物として、生細胞や生きた状態の微生物などの生体を扱うことが容易となる。
したがって、本実施態様の観察システムにより、大量の観察対象物の観察に係る作業効率を高めることができ、特に生体に関する観察データのデータベース化やデータの有効活用においても作業の効率化を図ることができる。
【0077】
〔第2の実施態様〕
図7は、本発明の第2の実施態様におけるチップラックの構造を示す概略説明図である。
第2の実施態様に係るチップラック100Bは、第1の実施態様におけるチップラック100Aにおいて、容器121内の試料Sとチップ先端111aとの距離を調整する調整部130を更に設けるものである。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0078】
本実施態様におけるチップラック100Bは、
図7に示すように、チップ保持台110と容器保持台120の配置を、チップ先端111aが容器121内部には進入するが、試料Sに接触しない状態となるようにしたものであり、かつ、係止部102bとチップ保持台110との間に、上部からの圧力によりチップ保持台110を下降させることで、容器内の試料Sとチップ先端111aとの距離を調整する調整部130を備えるものである。これにより、通常、チップラック100内では試料Sとチップ先端111aを離間しておく一方、分注操作時には、調整部130によってチップ保持台110の位置を下降させてチップ先端111aを試料Sに接触させることができ、チップ111装着と試料Sの吸引を同一箇所で行うことが可能となる。
【0079】
調整部130は、上部からの圧力によりチップ保持台110を下降させ、容器121内の試料Sとチップ先端111aとの距離を調整するものである。
本実施態様における調整部130の一例としては、上方からの圧力により伸縮する構造体を設けることが挙げられる。より具体的には、
図7に示すように、係止部102bとチップ保持台110との間に、ばね状構造体131を設けることが挙げられる。
【0080】
図8は、本実施態様のチップラック100Bを分注装置200に適用した際の概略説明図である。
図8に示すように、チップラック100B上部から分注ノズル211をチップ111に対して降下させ、分注ノズル211をチップ111に押し込んでチップ111の装着を行う際に、調整部130であるばね状構造体131が圧縮され、チップ保持台110の位置が下降する。これにより、チップ先端111aが試料Sに接触するため、チップ111装着と試料Sの吸引を同一箇所で行うことが可能となる。
また、試料Sの吸引後、チップラック100からチップ111を取り出すことで、ばね状構造体131が復元し、チップ先端111aと試料Sが離間した状態とすることができる。
【0081】
調整部130として、上方からの圧力により伸縮する構造体を用いることで、分注操作時のみ、試料Sとチップ先端111aを接触させることが可能となる。なお、
図7には、係止部102bの上部に調整部130としてのばね状構造体131を設けるものを示しているが、これに限定されるものではない。例えば、係止部102b全体をばね状構造体とし、係止部102bと調整部130の機能を兼用するものなどが挙げられる。
この調整部130は、試料Sがチップ111に吸着しやすい性質を有する場合など、チップ先端111aと試料Sとが長時間接触する状態が好ましくない場合において、特に好適に用いることができる。
【0082】
図9は、本実施態様におけるチップラック100Bの別態様を示す概略説明図である。
本実施態様のチップラック100Bにおける調整部130の別の例としては、上方からの圧力によりチップ保持台110が下降した状態を維持する構造を有するものが挙げられる。より具体的には、
図9に示すように、上方からの圧力により、チップ保持台110と嵌合する嵌合構造体132を設けるものが挙げられる。このとき、チップ保持台110側に孔110cを設け、この孔110cと嵌合構造体132とを一定程度嵌合させることで、チップ先端111aと試料Sとが離間した状態を安定して保持することができる。そして、上方からの圧力により、孔110cと嵌合構造体132とが完全に嵌合することで、このとき嵌合した孔110cの高さの分、チップ保持台110が下降することになる。なお、
図9では、係止部102b上部に嵌合構造体132を設けるものを示しているが、係止部102bと嵌合構造132体を一体としてもよい。
ここで、上方からの圧力としては、分注ノズル211にチップ111の装着を行う場合のものに限らない。例えば、チップラック100Bを分注装置200に配置する際に、作業者によってチップ保持台110上部側から押圧し、チップ保持台110と嵌合構造体132を嵌合させるものとしてもよい。
この調整部130は、チップラック100B全体で、一斉にチップ先端111aを試料Sに接触させることができるとともに、分注ノズル211の移動制御が複雑化しないという利点がある。
【0083】
なお、上述した実施態様は、チップラック、分注装置及び観察システムの一例を示すものである。本発明に係るチップラック、分注装置及び観察システムは、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係るチップラック、分注装置及び観察システムを変形してもよい。
【0084】
例えば、本実施態様におけるチップラックとして、使用する容器やチップのサイズに合わせて筐体の大きさを設定し、筐体ごとに使用可能な容器及びチップの大きさが特定されるチップラックを提供するものとしてもよい。これにより、分注操作に供される容器やチップの種類及びサイズがある程度特定される分野においては、提供に係るコストを下げることができ、製品として安定供給が可能となる。
一方、本実施態様におけるチップラックとして、係止部の選択・交換等により、筐体内でチップ保持台や容器保持台の配置を可変とし、一つの筐体でサイズの異なる容器やチップに対応可能なチップラックを提供するものとしてもよい。これにより、チップラック全体の大きさとして省スペース化を図るとともに、使用可能な容器及びチップの種類を拡張した製品を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のチップラック及び分注装置は、少量・多数の試料を取り扱う技術の一つとして、試料の分注操作を必要とする各種技術分野において好適に利用されるものである。
また、本発明の観察システムは、少量・多数の試料を取り扱う技術の一つとして、試料(観察対象物)の各種観察に利用することができる。特に、生体を観察対象物とする観察において、好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0086】
100A,100B チップラック、101 筐体、101a,101b 開口部、102,102a~102d 係止部、103,104 蓋体、110 チップ保持台、110a 保持用孔、110b 板状部材、110c 孔、111 チップ、111a 先端、111b 円錐体、111c 鍔部、120 容器保持台、120a 保持用孔、120b 板状部材、121 容器、121a 鍔部、121b 縁部、122 封止構造、123 蓋部、123a 切込部、124 被覆部、124a 切込部、130 調整部、131 ばね状構造体、132 嵌合構造体
200 分注装置、210 試料吸引部、211 分注ノズル、212 分注ポンプ、213 制御部、220 試料搬送部、221 移動機構
1 観察システム、2a 第1のシート、2b 第2のシート、3 配置手段、4 観察手段、40 対物レンズ、41a,41b カメラ、5 シート移動機構、50 巻出部、50a,50b 巻出ロール、51 巻取部、51a,51b 巻取ロール、52 支持機構、52a 支持ローラ、53 速度調整機能、53a 回転駆動制御部、C 制御手段、C1 制御部、S 試料(観察対象物)