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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121684
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】Oリング及びシリンダ装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/18 20060101AFI20230824BHJP
【FI】
F16J15/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025170
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177231
【弁理士】
【氏名又は名称】鴨志田 伸一
(72)【発明者】
【氏名】白瀬 利和
【テーマコード(参考)】
3J043
【Fターム(参考)】
3J043AA12
3J043BA02
3J043BA06
3J043CA01
3J043CB13
3J043DA05
3J043DA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】円柱体と、該円柱体の外周面に対向する内周面を有し、該円柱体に対し相対移動する円筒体との間に配置され、前記円柱体と前記円筒体とにより形成される隙間を2つに仕切る場合に、断面が円であるOリングに比べて、円柱体と円筒体との相対移動時に捩れ難く安定して隙間を仕切ることができるОリングを提供する。
【解決手段】Оリング40は、円柱体20と、円柱体の外周面22に対向する内周面を有し、円柱体に対し相対移動する円筒体との間に配置され、外周面及び内周面のいずれか一方に形成されている周溝24に嵌め込まれつつ円柱体と円筒体とに加圧されて、円柱体と円筒体とにより形成される隙間を2つに仕切るОリングであって、周溝の底面24Aでの接触面圧Pが少なくとも2つのピークPK1、PK2を有するように構成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱体と、該円柱体の外周面に対向する内周面を有し、該円柱体に対し相対移動する円筒体との間に配置され、前記外周面及び前記内周面のいずれか一方に形成されている周溝に嵌め込まれつつ前記円柱体と前記円筒体とに加圧されて、前記円柱体と前記円筒体とにより形成される隙間を2つに仕切るOリングであって、
前記周溝の幅方向における前記周溝の底面での接触面圧が少なくとも2つのピークを有するように構成されている、
Oリング。
【請求項2】
円柱体と、該円柱体の外周面に対向する内周面を有し、該円柱体に対し相対移動する円筒体との間に配置され、前記外周面及び前記内周面のいずれか一方に形成されている周溝に嵌め込まれつつ前記円柱体と前記円筒体とに加圧されて、前記円柱体と前記円筒体とにより形成される隙間を2つに仕切るОリングであって、
前記円柱体の周方向に垂直な切断線で切断した切断面が前記円柱体の軸に平行な直線部分を含む半円状の第1リング部と、
前記第1リング部と一体的に形成され、前記直線部分に相当する周面部分から前記円柱体の径方向における前記第1リング部と反対側に突出し、その外周面には前記周溝の底に対向する切り欠きが形成されている第2リング部と、
を備えるОリング。
【請求項3】
前記周溝の幅方向における前記周溝の底面での接触面圧が少なくとも2つのピークを有するように構成されている、
請求項2に記載のОリング。
【請求項4】
前記少なくとも2つのピークでの接触面圧の大きさは、同等又は最も接触面圧が高いピークの接触面圧の大きさに対し他のすべてのピークの接触面圧の大きさが50%以上である、
請求項3に記載のОリング。
【請求項5】
前記第2リング部における前記切り欠きが形成されている部分の中央は、前記周溝の底から離れている、
請求項2~4のいずれか一項に記載のОリング。
【請求項6】
前記切り欠きの形状は、円弧状である、
請求項2~5のいずれか一項に記載のОリング。
【請求項7】
前記第1リング部の前記切断面は、半円であり、
前記切り欠きの曲率半径は、前記第1リング部の半径以下である、
請求項6に記載のОリング。
【請求項8】
前記周溝は、前記外周面に形成されている、
請求項1~7のいずれか一項に記載のОリング。
【請求項9】
前記切り欠きの両端は、曲面を形成している、
請求項2~8のいずれか一項に記載のОリング。
【請求項10】
前記第1リング部における前記内周面及び前記外周面のいずれか一方に接触する部分には、前記切り欠きとは異なる他の切り欠きが形成されている、
請求項2~9のいずれか一項に記載のОリング。
【請求項11】
前記他の切り欠きの形状は、前記切り欠きの形状と異なる、
請求項10に記載のОリング。
【請求項12】
前記他の切り欠きの両端は、曲面を形成している、
請求項10又は11に記載のОリング。
【請求項13】
前記円柱体の周方向に垂直な切断線で切断した切断面のうち前記幅方向の一方側の部分と、当該一方側の部分以外のすべての部分である他方側の部分とは、互いに線対称の関係を有する、
請求項1~12のいずれか一項に記載のOリング。
【請求項14】
円柱体と、
該円柱体の外周面に対向する内周面を有し、該円柱体に対し相対移動する円筒体と、
前記円柱体と前記円筒体との間に配置されている請求項1~13に記載のОリングと、
を備え、
前記外周面及び前記内周面のいずれか一方には、前記Оリングが嵌め込まれる周溝が形成されており、
前記Оリングは、前記周溝に嵌め込まれつつ前記円柱体と前記円筒体とに加圧されて、前記円柱体と前記円筒体とにより形成される隙間を2つに仕切る、
シリンダ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Oリング及びシリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、その図1に示されるように、相対的に往復移動する2つの部材と、弾性材からなる環環状のシール部材とを備え、2つの部材の間の隙間をシール部材で密封する密封構造が開示されている。具体的には、この密封構造は、以下のような構造であることが開示されている。
【0003】
2つの部材の一方の部材は、軸孔を有するハウジングとし、他方の部材を軸孔に挿入された軸部とし、軸部の外周面には環状溝が形成されている。環状溝における一方の側面は、環状溝の開口から底面に向かって環状溝の幅が広がるように傾斜している拡径テーパー面とされている。
シール部材は、環状で、2つの部材の間の隙間を密封する弾性材からなる。シール部材は、軸部の環状溝内に配置されるとともに、ハウジングに摺動しながら接触する。シール部材1の断面形状について特に制限はないとされているが、特許文献1に開示された具体例では、良好に摺動面に発生する反力を低減させるために円形とされている。
【0004】
以上のような構成により、この密封構造では、2つの部材が相対的に往復移動して、シール部材によって仕切られた一方の空間(図2参照)の圧力が上昇すると、シール部材は一方の空間よりも圧力が低い他方の空間側に移動する。すなわち、この密封構造では、断面形状が円のOリングをシール部材に採用し、2つの部材が相対的に移動する際にあえてシール部材を環状溝の幅の範囲内で移動させることで2つの部材の間の隙間を密封している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-167648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のシール部材、すなわち、断面形状が円のOリングは、2つの部材が相対的に往復移動する際にあえて環状溝の幅の範囲内で移動する。すなわち、このOリングは、2つの部材の相対的な往復移動に伴い、時計回り及び反時計回りに定められた角度分回転して、環状の各部分を同時に同等の角度分回転させることを基本的な設計思想にしていると考えられる。
【0007】
しかしながら、特許文献1の密封構造では、例えば、互いに軸を重ねて配置される2つの部材の軸に設計上のずれ(例えば、軸方向から見た互いの軸の不一致、一方の軸に対する他方の軸の傾斜による不一致、これらの含み合わせによる不一致等)があると、Oリングの環状の各部分を同時に同等の角度分回転させることができない。その結果、2つの部材の相対的な往復移動に伴い、Oリングは部分的に捩れる虞がある。特に、2つの部材の相対的な往復移動の回数が増加するほど、また、Oリングの径が大きくなるほど(周長が長くなるほど)、Oリングの部分的な捩れは顕著に生じる。その結果、この密封構造では、Oリングの部分的な捩れに起因して、2つの部材の間の隙間の密封性(隙間を仕切り性能)が低下する。
【0008】
本発明は、円柱体と、該円柱体の外周面に対向する内周面を有し、該円柱体に対し相対移動する円筒体との間に配置され、前記円柱体と前記円筒体とにより形成される隙間を2つに仕切る場合に、断面が円であるOリングに比べて、円柱体と円筒体との相対移動時に捩れ難く安定して隙間を仕切ることができるОリングの提供を目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1態様のOリングは、
円柱体と、該円柱体の外周面に対向する内周面を有し、該円柱体に対し相対移動する円筒体との間に配置され、前記外周面及び前記内周面のいずれか一方に形成されている周溝に嵌め込まれつつ前記円柱体と前記円筒体とに加圧されて、前記円柱体と前記円筒体とにより形成される隙間を2つに仕切るОリングであって、
前記周溝の幅方向における前記周溝の底面での接触面圧が少なくとも2つのピークを有するように構成されている。
【0010】
第2態様のOリングは、
円柱体と、該円柱体の外周面に対向する内周面を有し、該円柱体に対し相対移動する円筒体との間に配置され、前記外周面及び前記内周面のいずれか一方に形成されている周溝に嵌め込まれつつ前記円柱体と前記円筒体とに加圧されて、前記円柱体と前記円筒体とにより形成される隙間を2つに仕切るОリングであって、
前記円柱体の周方向に垂直な切断線で切断した切断面が前記円柱体の軸に平行な直線部分を含む半円状の第1リング部と、
前記第1リング部と一体的に形成され、前記直線部分に相当する周面部分から前記円柱体の径方向における前記第1リング部と反対側に突出し、その外周面には前記周溝の底に対向する切り欠きが形成されている第2リング部と、
を備える。
【0011】
第3態様のOリングは、
第2態様のOリングにおいて、
前記周溝の幅方向における前記周溝の底面での接触面圧が少なくとも2つのピークを有するように構成されている。
【0012】
第4態様のOリングは、
第3態様のOリングにおいて、
前記少なくとも2つのピークでの接触面圧の大きさは、同等又は最も接触面圧が高いピークの接触面圧の大きさに対し他のすべてのピークの接触面圧の大きさが50%以上である。
【0013】
第5態様のOリングは、
第2態様~第4態様のいずれか一態様のOリングにおいて、
前記第2リング部における前記切り欠きが形成されている部分の中央は、前記周溝の底から離れている。
【0014】
第6態様のOリングは、
第2態様~第6態様のいずれか一態様のOリングにおいて、
前記切り欠きの形状は、円弧状である。
【0015】
第7態様のOリングは、
第6態様のOリングにおいて、
前記第1リング部の前記切断面は、半円であり、
前記切り欠きの曲率半径は、前記第1リング部の半径以下である。
【0016】
第8態様のOリングは、
第1態様~第7態様のいずれか一態様のOリングにおいて、
前記周溝は、前記外周面に形成されている。
【0017】
第9態様のOリングは、
第2態様~第8態様のいずれか一態様のOリングにおいて、
前記切り欠きの両端は、曲面を形成している。
【0018】
第10態様のOリングは、
第2態様~第9態様のいずれか一態様のOリングにおいて、
前記第1リング部における前記内周面及び前記外周面のいずれか一方に接触する部分には、前記切り欠きとは異なる他の切り欠きが形成されている。
【0019】
第11態様のOリングは、
第10態様のOリングにおいて、
前記他の切り欠きの形状は、前記切り欠きの形状と異なる。
【0020】
第12態様のOリングは、
第10態様又は第11態様のOリングにおいて、
前記他の切り欠きの両端は、曲面を形成している。
【0021】
第13態様のOリングは、
第1態様~第12態様のいずれか一態様のOリングにおいて、
前記円柱体の周方向に垂直な切断線で切断した切断面のうち前記軸方向の一方側の部分と、当該一方側の部分以外のすべての部分である他方側の部分とは、互いに線対称の関係を有する。
【0022】
一態様のシリンダ装置は、
円柱体と、
該円柱体の外周面に対向する内周面を有し、該円柱体に対し相対移動する円筒体と、
前記円柱体と前記円筒体との間に配置されている第1態様~第13態様のいずれか一態様のОリングと、
を備え、
前記外周面及び前記内周面のいずれか一方には、前記Оリングが嵌め込まれる周溝が形成されており、
前記Оリングは、前記周溝に嵌め込まれつつ前記円柱体と前記円筒体とに加圧されて、前記円柱体と前記円筒体とにより形成される隙間を2つに仕切る。
【発明の効果】
【0023】
第1態様のOリングは、円柱体と、該円柱体の外周面に対向する内周面を有し、該円柱体に対し相対移動する円筒体との間に配置され、前記円柱体と前記円筒体とにより形成される隙間を2つに仕切る場合(以下、特定動作条件の場合という。)に、断面が円であるOリングに比べて、円柱体と円筒体との相対移動時に捩れ難く安定して隙間を仕切ることができる。
【0024】
第2態様のOリングは、特定動作条件の場合に、断面が円であるOリングに比べて、円柱体と円筒体との相対移動時に捩れ難く安定して隙間を仕切ることができる。
【0025】
第3態様のOリングは、特定動作条件の場合に、周溝の幅方向における周溝の底面での接触面圧が1つのピークしか有さないOリングに比べて、円柱体と円筒体との相対移動時に捩れ難く安定して隙間を仕切ることができる。
【0026】
第4態様のOリングは、特定動作条件の場合に、最も接触面圧が高いピークの接触面圧の大きさに対し他のすべてのピークの接触面圧の大きさが50%未満であるOリングに比べて、円柱体と円筒体との相対移動時に捩れ難く安定して隙間を仕切ることができる。
【0027】
第5態様のOリングは、特定動作条件の場合に、第2リング部における切り欠きが形成されている部分の中央全体が周溝の底に接触しているOリングに比べて、円柱体と円筒体との相対移動時に捩れ難く安定して隙間を仕切ることができる。
【0028】
第6態様のOリングは、特定動作条件の場合に、切り欠きの形状が矩形状であるOリングに比べて、円柱体と円筒体との相対移動時に捩れ難く安定して隙間を仕切ることができる。
【0029】
第7態様のOリングは、特定動作条件の場合に、第1リング部の切断面が半円であり、切り欠きの曲率半径が第1リング部の半径よりも大きいOリングに比べて、円柱体と円筒体との相対移動時に捩れ難く安定して隙間を仕切ることができる。
【0030】
第8態様のOリングは、円柱体の外周面に形成されている周溝に円柱体における軸方向の一方側から他方側にOリングを移動させながらOリングを嵌め込む場合(以下、特定セット条件の場合という。)に、断面が真円のOリングに比べて、捩れた状態で嵌め込まれ難い。
【0031】
第9態様のOリングは、特定セット条件の場合に、切り欠きの両端に直線状のエッジが形成されているOリングに比べて、捩れた状態で嵌め込まれ難い。
【0032】
第10態様~第12態様のOリングは、特定動作条件の場合に、第1リング部の切断面が半円である場合に比べて、他の切り欠きにより少なくとも2つのピークでの接触面圧の大きさを調整することができる。
【0033】
第13態様のOリングは、特定セット条件の場合に、円柱体に対し一方側の部分又は他方側の部分のいずれか一方を先に嵌め込んでも同じようにセットできる。すなわち、第13態様のOリングは、円柱体へのセット時に、その向きを問わない。
【0034】
一態様のシリンダ装置は、特定動作条件の場合に、断面が円であるOリングを備えるシリンダ装置に比べて、Oリングが円柱体と円筒体との相対移動時に捩れることに起因する動作不良が生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の実施の形態(以下、本実施形態という。)のシリンダ装置の図であって、その要部及びその周囲の縦断面図である。
図2図1の破線Aで囲まれた部分の拡大図である。
図3図2の一部の図と、Oリングが円柱体の周溝の底面に付与する接触面圧の一次元プロファイルとを含む複合図である。
図4】自然状態における、本実施形態のOリングの断面図である。
図5】本実施形態のシリンダ装置の製造工程の一部を説明するための図である。
図6】比較形態における、図3に相当する複合図である。
図7】第1変形例における、図1に相当する図である。
図8】第2変形例における、図3に相当する複合図である。
図9】第3変形例における、図2に相当する図である。
図10】第4変形例における、図2に相当する図である。
図11】第5変形例における、図2に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
≪概要≫
以下、本実施形態及びその複数の変形例について説明する。まず、本実施形態について説明する。次いで、複数の変形例について説明する。本明細書では、異なる実施形態等で参照する各図面において、同等の機能を有する構成要素に対して同じ符号又は同等の符号を付する点に留意されたい。
【0037】
≪本実施形態≫
以下、(1)本実施形態の機能、構成及び作用、(2)本実施形態のシリンダ装置10(図1参照)の製造工程の一部、並びに、(3)本実施形態の効果について、図面を参照しつつこれらの記載順で説明する。
【0038】
<本実施形態のシリンダ装置10の機能、構成及び作用>
図1は、本実施形態のシリンダ装置10の図であってその要部及びその周囲の縦断面図である。本実施形態のシリンダ装置10は、図1に示されるとおり、円柱体20と、円筒体30と、Oリング40とを備えている。シリンダ装置10は、一例として、動力源(図示省略)に連結されて、当該動力源からの駆動力を利用して円柱体20を円筒体30に対して相対的に往復移動させる機能を有する。
以下、シリンダ装置10について各構成要素に分けて説明する。
【0039】
〔円柱体及び円筒体〕
円柱体20は、棒状であって、一例としてその横断面が真円の部材である。図1における符号Oは円柱体20の軸(軸O)を意味する。円柱体20の外周面22には、図1に示されるように、Oリング40が嵌め込まれる周溝24が形成されている。周溝24は、外周面22の周方向の全周に亘って無端状に形成されている。ここで、周溝24の底(又は底面)を底面24Aとする。また、以下の説明では、軸Oに沿う方向を単に軸方向という。
なお、本実施形態の円柱体20は、後述するOリング40とは、以下の関係を有する。

(1)周溝24の底面24Aの全周長は、自然状態のOリング40の内周長よりも長い。別言すると、周溝24の径は、自然状態のOリング40の内径よりも大きい。

(2)底面24Aの幅、底面24Aの軸方向の幅は、自然状態のOリング40の厚み(軸方向の幅)よりも広い。

(3)底面24Aの深さは、自然状態のOリング40の径方向の幅よりも浅い。
【0040】
円筒体30は、図1に示されるように、筒状で、円柱体20の外周面22に対向する内周面32を有する部材である。円筒体30は、自身の軸を円柱体20の軸に重ねて、内周面32を円柱体20の外周面22に対向させつつ円柱体20から離れて(隙間Gを形成して)配置されている。そのため、円筒体30の内周面32の横断面は、一例として、円柱体20の外周面22と同じ真円である。また、内周面32の径は、円柱体20の外周面22の径よりも大きい。また、円筒体30の内周面32から円柱体20の外周面22までの距離は、自然状態のOリング40の周方向の各部位の幅よりも短い。
【0041】
なお、前述の説明のとおり、シリンダ装置10は、円柱体20及び円筒体30の一方をその他方に対して相対的に往復移動させる機能を有するが、本実施形態では、円柱体20の軸方向の一端部分(図示省略)に動力源(図示省略)が連結されて円筒体30が軸方向に往復移動するように構成されている。
【0042】
〔Oリング〕
次に、本実施形態の要部である、Oリング40について、図1図4を参照しながら説明する。ここで、図2は、図1の破線Aで囲まれた部分の拡大図である。図3は、図2の一部の図と、Oリング40が円柱体20の周溝24の底面24Aに付与する接触面圧Pの一次元プロファイルとを含む複合図である。図4は、自然状態における、Oリング40の断面図(周方向の一部を軸方向に平行な軸Oを含む切断面で切断した断面図)である。
【0043】
本実施形態のOリング40は、図1に示されるように、円柱体20の周溝24に嵌め込まれつつ円柱体20と円筒体30とに加圧されて、円柱体20と円筒体により形成される隙間Gを2つに仕切る機能を有する。ここで、Oリング40は、その内周側から円柱体20に加圧されつつその外周側から円筒体30に加圧されるのは、前述の説明のとおり、内周面32から外周面22までの距離が自然状態のOリング40の周方向の各部位の幅よりも短い関係を有するからである。
【0044】
本実施形態のOリング40は、外部から力が付与されると弾性変形する弾性体であって、一例としてゴム製である。Oリング40は、全体が一体的に形成された部材であるが、以下の説明では、Oリング40についてその構成を明確に説明する便宜のために、Oリング40を複数の部分に分けて説明する点に留意されたい。
Oリング40は、図1図4(特に図4を参照のこと)に示されるように、第1リング部42と、第2リング部44とを有する。
【0045】
(第1リング部)
第1リング部42は、図4に示されるように、円柱体20の周方向に垂直な切断線で切断した切断面(平行な軸Oを含む切断面で切断した断面図)が円柱体20の軸Oに平行な直線部分SLを含む半円状の部分である。ここで、図4はOリング40の断面図を示しているが、説明の便宜上、ハッチングされていない点に留意されたい。第1リング部42は、図1に示されるように、Oリング40の径方向の外側の部分である。そのため、第1リング部42は、円柱体20及び円筒体30の径方向の外側の部分で、円筒体30の内周面32に接触する。
なお、第1リング部42の断面は半円状であると説明したが、本実施形態では一例として真円の半分の部分、すなわち半円である。
【0046】
(第2リング部)
第2リング部44は、図1等に示されるように、第1リング部42と一体的に形成され、第1リング部42の周方向全域に亘る直線部分SLに相当する部分(周面部分)から円柱体20の径方向の内側(本実施形態の場合は当該径方向における第1リング部42と反対側)に突出している。また、第2リング部44の外周面(Oリング40における内周面)には、切り欠き44Aが形成されている。本実施形態では、切り欠き44Aは、円柱体20の周溝24の底面24Aに対向しつつ接触している。
なお、第2リング部44の断面は、切り欠き44Aにより切り欠かれていなければ、一例として、直線部分SLを対称線とする第1リング部42の線対称の形状、すなわち、真円の半分の部分である。
【0047】
次に、切り欠き44Aの詳細について図1図4を参照しながら説明する。
切り欠き44Aの断面形状は、図1図4に示されるように、一例として円弧状である。そして、図4に示されるように、切り欠き44Aの曲率半径R1は、第1リング部42の半径R2と同等以下が好ましい。各図では、切り欠き44Aの曲率半径R1は、第1リング部42の半径R2よりも小さい形態としている。図4では、点C1を切り欠き44Aを一部とする仮想円の中心とし、点C2を第1リング部42の外周面に相当する曲線を一部とする仮想円の中心としている。
なお、点C2から切り欠き44Aの距離R3は、第1リング部42の半径R2よりも短いが、本実施形態では距離R3は、一例として、半径R2の80%以上に設定されている。また、切り欠き44Aの両端を通る仮想直線は、軸Oに平行となっている。すなわち、切り欠き44Aの仮想円の中心である点C1と点C2とを結ぶ直線は、軸Oに垂直に設定されている。別言すると、本実施形態のOリング40は、軸方向の上側の部分40U(その切断面が軸方向の一方側の部分の一例)と、下側の部分40L(その切断面が軸方向の他方側の部分の一例)とが、これらを2つに分割する軸方向に垂直な仮想平面VPに対して対称形状となっている(図4参照)。すなわち、軸方向の上側の部分40Uと、下側の部分40Lとは、互いに線対称の関係を有する。
【0048】
図2に示されるように、第2リング部44における切り欠き44Aが形成されている部分は、その両端で円柱体20の周溝24の底面24Aに接触し、その中央で円柱体20の周溝24の底面24Aから離れている。また、図4に示されるように、切り欠き44Aの両端は、曲線(軸O側に向く凸状のなだらかな山状)を形成している。すなわち、切り欠き44Aの両端は、それぞれ曲面44A1を形成している。
【0049】
また、図3に示されるように、切り欠き44Aが前述のような形状をしていることにより、Oリング40は、円柱体20の周溝24の幅方向(軸方向の意味)における周溝24の底面24Aでの接触面圧Pが2つのピークPK1、PK2を有するように構成されている。また、本実施形態では、2つのピークPK1、PK2のそれぞれの大きさは同等である。
【0050】
以上が、本実施形態のシリンダ装置10の機能、構成及び作用についての説明である。
【0051】
<本実施形態のシリンダ装置の製造工程の一部>
次に、本実施形態のシリンダ装置10(図1参照)の製造工程の一部について、図5を参照しながら説明する。具体的には、Oリング40の円柱体20へのセット工程について説明する。
【0052】
まず、作業者がOリング40を自然状態の径よりも大きく変形させて、Oリング40を円柱体20の一端側から嵌め込む(図5(A)参照)。そうすると、Oリング40は、その内周面に形成されている切り欠き44Aの下端を円柱体20の外周面22に接触させる。
【0053】
次いで、作業者がOリング40を更に円柱体20の一端側から他端側に移動させる(押す)と、Oリング40は円柱体20の外周面22に切り欠き44Aの下端を接触させながら周溝24の開口縁に到達する(図5(B)参照)。
【0054】
次いで、作業者がOリング40を更に円柱体20の一端側から他端側に移動させる(押す)と、Oリング40は、円柱体20の外周面22に切り欠き44Aの上端を接触させながら移動する(図5(C)参照)。そして、当該上端が周溝24の開口縁まで到達すると、Oリング40は自身の圧縮応力により収縮するように変形して周溝24の内部に嵌る。
【0055】
以上の複数の工程により、本実施形態における、Oリング40の円柱体20へのセット工程が終了する。なお、本実施形態の場合、Oリング40の内周面に、切り欠き44Aが形成されていることで、切り欠き44Aが円柱体20の外周面22に接触して滑るように移動する。そのため、Oリング40は、最終的に周溝24にセットされた際に周方向全周の各部位で捩れてセットされることがない。
【0056】
以上が、本実施形態の本実施形態のシリンダ装置10の製造工程の一部についての説明である。
【0057】
<本実施形態の効果>
次に、本実施形態の効果について図面を参照しながら説明する。
【0058】
〔第1の効果〕
本効果は、Oリング40に円柱体20の周溝24の底面24Aに接触する切り欠き44Aが形成されていること(図1図2等参照)の効果である。本効果については、本実施形態を後述する比較形態と比較して説明する。
【0059】
比較形態のシリンダ装置10A(図6参照)における、本実施形態のシリンダ装置10(図2参照)と異なる構成は、Oリングの形状のみである。具体的には、比較形態のOリング40Aの断面形状は、円(真円)である。つまり、比較形態のOリング40Aは、一般的な形状を有している。
比較形態のOリング40Aは、図6に示されるように、円柱体20と円筒体30とに挟まれて加圧されると、これらの対向方向の両側から各円弧状部分APが押しつぶされて、自然状態(破線部分)の真円から楕円状(又は扁平状)に変形する。その結果、比較形態のOリング40Aは、図6に示されるように、1箇所でかつ1つのピークPKを形成する接触面圧で底面24Aに接触する。
【0060】
また、比較形態のOリング40Aは、前述の特許文献1の密封構造が備えるOリングと同じ構成である。つまり、前述の特許文献1の説明のとおり、比較形態のOリング40Aは、相対移動する円柱体20の往復移動に伴い、その移動方向に(周溝24の幅方向に)移動し易い。そして、前述の特許文献1についての説明のとおり、例えば、互いに軸を重ねて配置される円柱体20と円筒体30の軸に設計上のずれ(例えば、軸方向から見た互いの軸の不一致、一方の軸に対する他方の軸の傾斜による不一致、これらの含み合わせによる不一致等)があると、Oリング40Aの周方向の各部分を同時に同等の角度分回転させることができない。その結果、円柱体20と円筒体30との相対的な往復移動に伴い、Oリング40Aは部分的に捩れる虞がある。特に、この相対的な往復移動の回数が増加するほど、また、Oリング40Aの径が大きくなるほど(周長が長くなるほど)、Oリング40Aの部分的な捩れは顕著に生じる。これに伴い、比較形態の場合、Oリング40Aの部分的な捩れに起因して、隙間Gの密封性(隙間を仕切り性能)が低下する。
【0061】
これに対して、本実施形態のOリング40にはその内周面の全周に亘って切り欠き44Aが形成されており(図1図4参照)、切り欠き44Aは周溝24の底面24Aに接触するように構成されている(図1及び図2参照)。つまり、本実施形態のOリング40は、円柱体20と円筒体30との相対移動方向に対して、切り欠き44Aの両端の2箇所で接触している。別の見方をすると、本実施形態の場合、Oリング40は、底面24Aの幅方向(円柱体20と円筒体30との相対移動方向)において底面24Aでの接触面圧が2つのピークPK1、PK2を形成した状態で底面24Aに接触している。そのため、本実施形態の場合、比較形態の場合に比べて、円柱体20と円筒体30との相対移動時に、その姿勢を維持し易い。
【0062】
したがって、本実施形態のOリング40は、Oリング40Aの断面が円である比較形態に比べて、円柱体20と円筒体30との相対移動時に捩れ難く安定して隙間Gを仕切ることができる。また、別の見方をすると、本実施形態のOリング40は、周溝24の幅方向における周溝24の底面24Aでの接触面圧が1つのピークしか有さない比較形態のOリング40Aに比べて、円柱体20と円筒体30との相対移動時に捩れ難く安定して隙間Gを仕切ることができる。これらに伴い、本実施形態のOリング40を備えるシリンダ装置10は、比較形態のOリング40を備えるシリンダ装置に比べて、Oリングが円柱体と円筒体との相対移動時に捩れることに起因する動作不良(例えば、塞がれていた隙間Gに隙間ができること)が生じ難い。
なお、本実施形態のOリング40は、図4に示されるように、軸方向の上側の部分40Uと、下側の部分40Lとが互いに線対称の関係を有するため、円柱体20と円筒体30との相対移動時にバランスがとれてその姿勢を維持し易い。この点に起因して、本実施形態のOリング40は、本効果を顕著に発揮するといえる。
【0063】
〔第2の効果〕
本効果は、周溝24の底面24AでのOリング40による2つのピークPK1、PK2での接触面圧Pの大きさがそれぞれ同等であることの効果である。
仮に、2つのピークPK1、PK2での接触面圧Pの大きさが大きく異なると(例えば、最も接触面圧Pが高いピークの接触面圧の大きさに対し他のピークの接触面圧の大きさが50%未満であるような場合)、円柱体20と円筒体30との相対移動時における往路時と復路時とでは、Oリングが底面24Aから受ける反力の分布と、円柱体20及び円筒体30から受けるこれらの移動方向の摩擦力とが周期的に逆向きになる。これに伴い、Oリング40は、円柱体20と円筒体30との相対移動の回数が増加するほど、これらの移動方向の一方に偏ったストレスを受ける虞がある。
これに対して、本実施形態の場合、周溝24の底面24AでのOリング40による2つのピークPK1、PK2での接触面圧Pの大きさがそれぞれ同等となるように設定されている(図3参照)。そのため、本実施形態の場合、円柱体20と円筒体30との相対移動時における往路時と復路時とで、Oリング40が受けるストレスは偏り難い。
したがって、本実施形態のOリング40は、最も接触面圧が高いピークの接触面圧Pの大きさに対し他のすべてのピークの接触面圧の大きさが50%未満であるOリングに比べて、円柱体20と円筒体30との相対移動時に捩れ難く安定して隙間Gを仕切ることができる。なお、本効果の説明で比較対象となった形態は、前述の第1の効果を奏する構成である。すなわち、この比較形態は、本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。
【0064】
〔第3の効果〕
本効果は、第2リング部44における切り欠き44Aが形成されている部分の中央が周溝24の底面24Aから離れていること(図2図3等参照)の効果である。
本実施形態の場合、切り欠き44Aの両端の2箇所で底面24Aに接触している(図2図3等参照)。そのため、円柱体20と円筒体30との相対移動時に、切り欠き44Aの両端の一方がその最大静止摩擦力を超えた力を受けて動いたとしても、他方がその最大静止摩擦力を超えた力を受けなければ、Oリング40は円柱体20と円筒体30との相対移動の方向に移動することがない。仮に、第2リング部44における切り欠き44Aが形成されている部分が周溝24の底面24Aに接触しているような形態(後述する図9に示される第3変形例を参照のこと)では、この効果は期待できない。
したがって、本実施形態のOリング40は、Oリング40における切り欠き44Aが形成されている部分の中央全体が周溝24の底面24Aに接触している場合に比べて、円柱体20と円筒体30との相対移動時に捩れ難く安定して隙間Gを仕切ることができる。
【0065】
〔第4の効果〕
本効果は、切り欠き44Aの形状(断面形状)が円弧状であること(図4参照)の効果である。
例えば、切り欠き44Aの断面形状が矩形状であるOリング(図示省略)の場合、円柱体20と円筒体30とに挟まれて加圧された際に、周方向全周の各部位で同じように変形し難い。また、このようなOリングの場合、円柱体20と円筒体30との相対移動時に徐々に又は連続的に変形し難い。
したがって、本実施形態のOリング40は、切り欠きの形状が矩形状であるOリングに比べて、円柱体20と円筒体30との相対移動時に捩れ難く安定して隙間Gを仕切ることができる。なお、本効果の説明で比較対象となった形態は、前述の第1の効果~第3の効果を奏する構成である。すなわち、この比較形態は、本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。
【0066】
〔第5の効果〕
本効果は、切り欠き44Aの曲率半径R1が第1リング部42の半径R2以下であること(図4参照)の効果である。
仮に、切り欠き44Aの曲率半径R1が第1リング部42の半径R2よりも大きい条件で、本実施形態の場合と同じ幅の切り欠きを形成すると、その切り欠きの深さは本実施形態の場合よりも浅くなる。すなわち、この比較形態の場合、切り欠きの深さが浅くなった分、すなわち、より断面が円に近づくことになった分、接触面圧Pの2つのピークPK1、PK2の強度が下がって幅が広くなる。すなわち、本実施形態の場合に比べて、狭い接触面積に強い力で接触し難くなる。
したがって、本実施形態のOリング40は、切り欠きの曲率半径R1がOリングの半径R2よりも大きいOリングに比べて、円柱体20と円筒体30との相対移動時に捩れ難く安定して隙間Gを仕切ることができる。なお、本効果の説明で比較対象となった形態は、前述の第1の効果~第4の効果を奏する構成である。すなわち、この比較形態は、本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。
【0067】
〔第6の効果〕
本効果は、Oリング40に切り欠き44Aが形成されていることによる円柱体20へのセット工程での効果である。
例えば、前述の比較形態のOリング40A(図6参照)はその断面が真円である。作業者が比較形態のOリング40Aを円柱体20の周溝24にセットする場合に作業者がOリング40を円柱体20の一端側から他端側に移動させる(押す)と、Oリング40Aが円柱体20の外周面22に接触しながら受ける摩擦力により捩れる又は回転しながら転がり得る。その結果、比較形態のOリング40Aを周溝24に嵌め込むと、Oリング40Aは、周方向において部分的に捩れた状態でセットされる。
【0068】
これに対して、本実施形態のOリング40は、図2図4等に示されるように、切り欠き44Aが形成されている。そして、前述の本実施形態のシリンダ装置10の製造工程の一部についての説明のとおり、切り欠き44Aが円柱体20の外周面22に接触して滑るように移動することでOリング40がその姿勢を保ったまま、円柱体20の一端側から他端側に移動して周溝24にセットされる(図5参照)。本実施形態のOリング40の場合も、作業者がOリング40を円柱体20の一端側から他端側に移動させる際にその一部が捩れ得る。しかしながら、本実施形態のOリング40には切り欠き44Aが形成されているため、部分的な捩れが発生した場合に切り欠き44Aに起因する局所的な応力(引張応力)が発生する。そのため、本実施形態のOリング40は、比較形態のOリング40Aに比べて、円柱体20へのセット時に部分的な捩れを解消し易い。
【0069】
したがって、本実施形態のOリング40は、円柱体20の周溝24に軸方向の一方側から他方側に移動されながら嵌め込まれる場合に、比較形態のOリング40Aに比べて、捩れた状態で嵌め込まれ難い。
【0070】
〔第7の効果〕
本効果は、Oリング40に切り欠き44Aの両端がそれぞれ曲面44A1を形成していること(図4参照)の効果である。
仮に、Oリング40の切り欠き44Aの両端が曲面44A1を形成せずに、直線状のエッジ(図示省略)を形成している場合、すなわち、いわゆるR面取り形状となっていない場合、円柱体20へのセット時に当該エッジで円柱体20の外周面22に引っ掛かる虞がある。
しかしながら、本実施形態のOリング40は、切り欠き44Aの両端がそれぞれ曲面44A1を形成しているため、円柱体20へのセット時に曲面44A1を円柱体20の外周面22に接触させて滑りながら移動し易い。
したがって、本実施形態のOリング40は、円柱体20の周溝24に軸方向の一方側から他方側に移動されながら嵌め込まれる場合に、切り欠き44Aの両端が直線状のエッジを形成しているOリングに比べて、捩れた状態で嵌め込まれ難い。なお、本効果の説明で比較対象となった形態は、前述の第1の効果~第5の効果を奏する構成である。すなわち、この比較形態は、本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。
【0071】
〔第8の効果〕
本効果は、Oリング40における軸方向の上側の部分40Uと、下側の部分40Lとが、これらを2つに分割する軸方向に垂直な仮想平面VPに対して対称形状となっていること、別の見方をすると、軸方向の上側の部分40Uと、下側の部分40Lとは、互いに線対称の関係を有すること(図4参照)の効果である。
仮に、上側の部分40Uと、下側の部分40Lとが互いに対称形状の関係を有さない場合(図示省略)、円柱体20へのセット時に円柱体20に対していずれか一方を先に嵌め込まないと、同じセット状態のシリンダ装置(図示省略)を製造することができない。
これに対して、本実施形態のOリング40は、図4に示されるように、上側の部分40Uと、下側の部分40Lとは、互いに線対称の関係を有している。そのため、円柱体20へのセット時にOリング40の円柱体20への嵌め込み姿勢が問われない。
したがって、本実施形態のOリング40は、円柱体20に対し上側の部分40U及び下側の部分40Lのいずれを先に嵌め込んでも同じようにセットできる。
【0072】
以上が本実施形態の効果についての説明である。また、以上が本実施形態についての説明である。
【0073】
≪複数の変形例≫
以上のとおり、本発明について前述の実施形態を一例として説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。本発明の技術的範囲には、例えば、後述する複数の変形例も含まれる。
【0074】
本実施形態では、Oリング40がゴム製であるとして説明した。しかしながら、Oリング40が弾性変形することができれば、Oリング40はゴム製でなくてもよい。例えば、Oリング40は、エラストマー製であってもよい。Oリング40は、他の部材に加圧されて弾性変形することができれば、ゴム製及びエラストマー製以外に、これらに他の材料(例えば、無機フィラー等)を添加した複合材製その他の弾性材製であってもよい。
【0075】
また、本実施形態では、Oリング40は、円柱体20と、円筒体30とで、シリンダ装置10(図1参照)を構成するとして説明した。しかしながら、Oリング40がその切り欠き44Aを他の部材に接触させることでその両側の空間を仕切るために利用されるのであれば、Oリング40を含むアプリケーションは、シリンダ装置10でなくてもよい。例えば、密封容器の開口縁とその開閉蓋の周縁とのシール材等として利用されてもよい。
【0076】
また、本実施形態では、円柱体20の軸方向の一端部分(図示省略)に動力源(図示省略)が連結されて円柱体20が円筒体30に対して軸方向に往復移動するように構成されていると説明した。しかしながら、円柱体20及び円筒体30のいずれか一方が他方に対して相対的に往復移動することができれば、駆動源は円筒体30に連結されていてもよい。また、使用方法によっては、2つの駆動源を用意して、各駆動源を円柱体20と円筒体30に連結してそれぞれが相対移動するようにしてもよい。
【0077】
また、本実施形態では、Oリング40の内周側に切り欠き44Aが形成されており、Oリング40は円柱体20の外周面22に形成されている周溝24に切り欠き44Aを対向させて嵌め込まれると説明した(図1図2等参照)。
しかしながら、図7に示される第1変形例のシリンダ装置10Bのように、円柱体20に周溝24を設けずに円筒体30に周溝34を設けて、外周側に周方向全周に亘る切り欠き44Bが形成されたOリング40Bを円筒体30の周溝34に嵌め込んで、切り欠き44Bを周溝34の底面34Bに接触させる形態としてもよい。
【0078】
また、本実施形態では、周溝24の底面24AでのOリング40による2つのピークPK1、PK2での接触面圧Pの大きさがそれぞれ同等となるように設定されていると説明した(図3参照)。
しかしながら、図8に示される第2変形例のシリンダ装置10CのOリング40Cのように、周溝24の底面24Aでの2つのピークPK1、PK2での接触面圧Pの大きさがそれぞれ異なるようにしてもよい。この場合、円柱体20と円筒体30との相対移動時における往路時と復路時とでOリング40Cが受けるストレスの偏りを考慮すると、最も接触面圧が高いピークPK1の接触面圧Pの大きさに対し他のピークPK2の接触面圧の大きさが50%以上であることが好ましい。
【0079】
また、本実施形態では、第2リング部44(Oリング40)における切り欠き44Aが形成されている部分の中央が周溝24の底面24Aから離れていると説明した(図2図3参照)。
しかしながら、図9に示される第3変形例のシリンダ装置10Dのように、Oリング40における切り欠き44Aが形成されている部分の全体を周溝24の底面24Aに接触させてもよい。この変形例の場合、前述の第3の効果を奏することはないが、本実施形態のその他の効果を奏することは言うまでもない。
なお、本変例の場合、切り欠き44Aが全体的に底面24Aに接触しているため、Oリング40は1箇所で底面24Aに接触していることになるが、この場合の接触面圧プロファイルは本実施形態の場合のように図3の接触面圧プロファイルに準じたものとなる。すなわち、本変形例の場合、Oリング40は、切り欠き44Aの幅方向の両端側に2つのピークを有しつつその間をなだらかな曲線で結ぶ接触面圧Pを形成する(図示省略)。
【0080】
また、本実施形態では、Oリング40に形成されている切り欠き44Aの数量は1つであることを前提として説明した(図3図4等参照)。
しかしながら、図10の第4変形例のシリンダ装置10Eのように、Oリング40Eにおける切り欠き44Eの数量は2つ以上(本変形例では2つを例示)であってもよい。すなわち、Oリング40Eのように周溝24の底面24Aに対して3つ以上のピークを有する接触面圧Pで底面24Aに接触する構成としてもよい。
【0081】
また、本実施形態では、切り欠き44AはOリング40の内周側に周方向全周に亘って形成されているとして説明した(図1等参照)。
しかしながら、図11の第5変形例のシリンダ装置10Fのように、Oリング40Fにおける外周側(第2リング部側)に他の切り欠き44Fが形成されていてもよい。
この変形例によれば、底面24AでのOリング40の接触面圧プロファイル(図3参照)を、切り欠き44Aの形状のまま切り欠き44Fを利用して調整することができる。これに伴い、他の切り欠き44Fの形状は、切り欠きAの形状と異なっていてもよい。

ここで、図11の第5変形例のシリンダ装置10Fは、例えば、以下のような技術的思想に包含される発明といえる。

(技術的思想)
円柱体と、
該円柱体の外周面に対向する内周面を有し、該円柱体に対し相対移動する円筒体と、
前記円柱体と前記円筒体との間に配置され、前記円柱体と前記円筒体とに加圧されて、前記円柱体と前記円筒体とにより形成される隙間を2つに仕切るOリング(一例としてOリング40F)であって、その内周側に第1の切り欠き(一例として切り欠き44A)が形成されるとともにその外周側に第2の切り欠き(一例として切り欠き44F)が形成されているOリングと、
を備え、
前記Oリングは、前記円柱体と前記円筒体との相対移動方向において、前記外周面での第1の接触圧力及び前記内周面での第2の接触圧力の一方又は両方が少なく2つのピークを有するように、前記第1の切り欠きを前記外周面に接触させるとともに前記第2の切り欠きを前記内周面に接触させている、
摺動装置(一例としてシリンダ装置10F)。

この技術的思想を更に上位概念化させた、以下のような他の技術的思想にも、図11の第5変形例のシリンダ装置10Fは包含される発明といえる。

(他の技術的思想)
第1の壁(一例として表面が底面24Aの壁)と、
該第1の壁に対向し、前記第1の壁に対し相対移動する第2の壁(一例として表面が内周面32の壁)と、
前記第1の壁と前記第2の壁との間に配置され、前記第1の壁と前記第2の壁とに加圧されて、前記第1の壁と前記第2の壁とにより形成される隙間を2つに仕切るOリングОリング(一例としてOリング40F)であって、その内周側に第1の切り欠き(一例として切り欠き44A)が形成されるとともにその外周側に第2の切り欠き(一例として切り欠き44F)が形成されているOリングと、
を備え、
前記Oリングは、前記第1の壁と前記第2の壁との相対移動方向において、前記第1の壁での第1の接触圧力及び前記第2の壁での第2の接触圧力の一方又は両方が少なく2つのピークを有するように、前記第1の切り欠きを前記第1の壁に接触させるとともに前記第2の切り欠きを前記第2の壁に接触させている、
摺動装置(一例としてシリンダ装置10F)。
【0082】
また、本実施形態では、Oリング40はその内部に中空部分等が形成されていない連続的な塊であることを前提として説明した(図4等参照)。しかしながら、切り欠き44Aが形成されていることによって前述の効果を奏する形態であれば、Oリング40は連続的な塊でなくてもよい。例えば、仮に内部に中空部分が形成されている形態(図示省略)であっても、当該中空部分が切り欠き44Aによる効果に影響を及ぼさない程度の位置、大きさ、形状、範囲その他の要件を満たしていればよい。このような形態は、前述の複数の変形例についても適用可能である。
【0083】
以上のとおり、本実施形態(図1図4等参照)及びその複数の変形例(図7図11等)について説明したが、これらの一形態に他の形態の構成要素の一部を組み合わせた形態、これらの一形態に他の形態の構成要素の一部を置換した形態その他の形態も、本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0084】
10 シリンダ装置
10B シリンダ装置
10C シリンダ装置
10D シリンダ装置
10E シリンダ装置
10F シリンダ装置
20 円柱体
22 外周面
24 周溝
24A 底面
30 円筒体
32 内周面
40 Oリング
40B Oリング
40C Oリング
40E Oリング
40F Oリング
40L 下側の部分(他方側の部分の一例)
40U 上側の部分(一方側の部分の一例)
42 第1リング部
44 第2リング部
44A 切り欠き
44A1 曲面
44B 切り欠き
44E 切り欠き
44F 切り欠き(他の切り欠きの一例)
G 隙間
O 軸
P 接触面圧
PK1 ピーク
PK2 ピーク
R1 切り欠きの曲率半径
R2 第1リング部の半径
R3 第1リング部の外周面に相当する曲線を一部とする仮想円の中心から切り欠きの距離
SL 円柱体の軸に平行な直線部分
VP 仮想平面

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11