(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121728
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】レーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/14 20060101AFI20230824BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20230824BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
H01S5/14
H01S5/343 610
H01S3/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004863
(22)【出願日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2022024722
(32)【優先日】2022-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】高野 哲至
(72)【発明者】
【氏名】岡田 将典
【テーマコード(参考)】
5F172
5F173
【Fターム(参考)】
5F172AE26
5F172AL07
5F172DD06
5F172EE07
5F172EE12
5F172EE13
5F172EE16
5F172NN04
5F172NN05
5F172NR14
5F173AB46
5F173AH22
5F173AR99
5F173MC15
5F173MF02
5F173MF13
5F173MF28
5F173MF39
(57)【要約】
【課題】利得媒質の発光面の光損傷を低減することが可能なレーザ装置が求められている。
【解決手段】レーザ装置は、共振器を形成する第1ミラーおよび第2ミラーと、第1ミラーと第2ミラーとの間に配置され、発光面を有する利得媒質と、利得媒質の発光面に設けられた反射防止膜と、利得媒質と第2ミラーとの間に配置された少なくとも1つの光学素子と、前記光学素子と第2ミラーとの間に配置された回折格子と、を備え、利得媒質は、活性層を含み、かつ発光面内の少なくとも一方向において利得分布を有する半導体積層体であり、利得媒質は、導波路を有さない。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振器を形成する第1ミラーおよび第2ミラーと、
前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に配置され、発光面を有する利得媒質と、
前記利得媒質の前記発光面に設けられた反射防止膜と、
前記利得媒質と前記第2ミラーとの間に配置された少なくとも1つの光学素子と、
前記光学素子と前記第2ミラーとの間に配置された回折格子と、
を備え、
前記利得媒質は、活性層を含み、かつ前記発光面内の少なくとも一方向において利得分布を有する半導体積層体であり、
前記利得媒質は、導波路を有さない、レーザ装置。
【請求項2】
前記利得媒質において利得が極大になる波長は、前記発光面内の前記一方向に沿って一方の端から他方の端に向けて短くなるように変化する、請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記活性層は、インジウムおよび/またはアルミニウムを含む窒化物半導体を含み、
前記窒化物半導体における前記インジウムおよび/または前記アルミニウムの含有量は、前記発光面内において分布を有する、請求項1または2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記共振器から外部へ取り出された光は、複数の光線を含み、
前記複数の光線のピーク波長は、前記利得媒質の前記発光面における前記一方向に沿って単調に変化する、請求項1または2に記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記複数の光線の前記ピーク波長は、350nm以上550nm以下の範囲にある、請求項4に記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記第2ミラーは凹面ミラーであり、
前記利得媒質は、前記利得媒質の前記発光面と前記光学素子の主点との距離が、前記光学素子の焦点距離よりも短くなるように配置されている、請求項1または2に記載のレーザ装置。
【請求項7】
前記回折格子と前記第2ミラーとの間に配置されたブリュースター窓を備える、請求項1または2に記載のレーザ装置。
【請求項8】
前記利得媒質の前記発光面とは反対側の裏面、または前記利得媒質の側面に向けて励起光を出射する少なくとも1つの光源を備える、請求項1または2に記載のレーザ装置。
【請求項9】
前記励起光を伝搬させ、前記利得媒質の前記裏面または前記側面に向けて前記励起光を出射する光ファイバを備える、請求項8に記載のレーザ装置。
【請求項10】
前記利得媒質の前記発光面とは反対側の裏面に熱的に接触するヒートシンクをさらに備える、請求項1または2に記載のレーザ装置。
【請求項11】
前記少なくとも1つの光学素子は、レンズアレイと、第1回折格子を含み、
前記レンズアレイは、複数のコリメート部と、前記複数のコリメート部をつなぐ複数の連結部とを含み、
前記回折格子は、前記レンズアレイと前記第2ミラーとの間において、前記第1回折格子と平行に配置された第2回折格子であり、
前記第2回折格子と前記第2ミラーとの間にアイリスをさらに備え、
前記第1回折格子は、前記利得媒質からの光を前記第2回折格子へ回折し、
前記第2回折格子は、前記第1回折格子で回折された光を合波し、前記第2ミラーへ回折する、請求項1または2に記載のレーザ装置。
【請求項12】
共振器を形成する第1ミラーおよび第2ミラーと、
前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に配置され、発光面を有する利得媒質と、
前記利得媒質の前記発光面に設けられた反射防止膜と、
前記利得媒質と前記第2ミラーとの間に配置された少なくとも1つの光学素子と、
前記光学素子と前記第2ミラーとの間に配置された回折格子と、
を備え、
前記利得媒質は、活性層を含み、かつ前記発光面内の少なくとも一方向において利得分布を有する半導体積層体であり、
前記利得媒質は、面発光光源である、レーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高出力のレーザ光を出射するレーザ装置は、例えば、切断、穴あけ、マーキングなどの加工に利用することができる。高出力のレーザ光を得る技術として、互いに波長が異なる複数のレーザ光を回折格子によって同軸に結合する波長合波(WBC:Wavelength Beam Combining)の技術が知られている。特許文献1は、LD(LD:Laser Diode)バーから出射される互いに波長が異なる複数のレーザ光を合波して高出力のレーザ光を出射するレーザ装置の例を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
利得媒質の発光面の光損傷を低減することが可能なレーザ装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のレーザ装置は、ある実施形態において、共振器を形成する第1ミラーおよび第2ミラーと、前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に配置され、発光面を有する利得媒質と、前記利得媒質の前記発光面に設けられた反射防止膜と、前記利得媒質と前記第2ミラーとの間に配置された少なくとも1つの光学素子と、前記光学素子と前記第2ミラーとの間に配置された回折格子と、を備え、前記利得媒質は、活性層を含み、かつ前記発光面内の少なくとも一方向において利得分布を有する半導体積層体であり、前記利得媒質は、導波路を有さない。
【0006】
本開示のレーザ装置は、ある実施形態において、共振器を形成する第1ミラーおよび第2ミラーと、前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に配置され、発光面を有する利得媒質と、前記利得媒質の前記発光面に設けられた反射防止膜と、前記利得媒質と前記第2ミラーとの間に配置された少なくとも1つの光学素子と、前記光学素子と前記第2ミラーとの間に配置された回折格子と、を備え、前記利得媒質は、活性層を含み、かつ前記発光面内の少なくとも一方向において利得分布を有する半導体積層体であり、前記利得媒質は、面発光光源である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の実施形態によれば、利得媒質の発光面の光損傷を低減することが可能なレーザ装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは、実施形態1によるレーザ装置の構成を模式的に示す上面図である。
【
図2】
図2は、回折格子によって5本の光線が同軸に結合される様子を模式的に示す上面図である。
【
図3A】
図3Aは、実施形態1によるレーザ装置の変形例1の構成を模式的に示す上面図である。
【
図3C】
図3Cは、実施形態1によるレーザ装置の変形例2の構成を模式的に示す上面図である。
【
図3D】
図3Dは、実施形態1によるレーザ装置の変形例3の構成を模式的に示す上面図である。
【
図3E】
図3Eは、実施形態1によるレーザ装置の変形例4の構成を模式的に示す上面図である。
【
図4】
図4は、実施形態2によるレーザ装置の構成を模式的に示す上面図である。
【
図5】
図5は、第1回折格子および第2回折格子によって5本の光線が同軸に結合される様子を模式的に示す図である。
【
図6A】
図6Aは、実施形態2によるレーザ装置の変形例5の構成を模式的に示す上面図である。
【
図6B】
図6Bは、実施形態2によるレーザ装置の変形例6の構成を模式的に示す上面図である。
【
図6C】
図6Cは、実施形態2によるレーザ装置の変形例7の構成を模式的に示す上面図である。
【
図7A】
図7Aは、利得媒質を光励起する第1の例を模式的に示す上面図である。
【
図7B】
図7Bは、利得媒質を光励起する第2の例を模式的に示す上面図である。
【
図7C】
図7Cは、利得媒質を光励起する第3の例を模式的に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態による半導体素子、およびその製造方法を詳細に説明する。複数の図面に表れる同一符号の部分は同一または同等の部分を示す。
【0010】
さらに以下は、本発明の技術思想を具体化するために例示しているのであって、本発明を以下に限定しない。また、構成要素の寸法、材質、形状、その相対的配置などの記載は、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図している。各図面が示す部材の大きさや位置関係などは、理解を容易にするなどのために誇張している場合がある。
【0011】
本明細書において、ビームの直径を「ビーム径」と称する。ビーム径は、ビーム中心の光強度に対して1/e2以上の光強度を持つ領域のサイズによって定義する。「e」は、ネイピア数である。
【0012】
本開示の一実施形態によるレーザ装置は、共振器を形成する第1ミラーおよび第2ミラーと、前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に配置され、発光面を有する利得媒質と、前記利得媒質の前記発光面に設けられた反射防止膜と、前記利得媒質と前記第2ミラーとの間に配置された少なくとも1つの光学素子と、前記光学素子と前記第2ミラーとの間に配置された回折格子と、を備え、前記利得媒質は、活性層を含み、かつ前記発光面内の少なくとも一方向において利得分布を有する半導体積層体であり、前記利得媒質は、導波路を有さない。
【0013】
以上のように構成された本開示のレーザ装置では、利得媒質の発光面の光損傷を低減することができる。
【0014】
(実施形態1)
まず、
図1Aおよび
図1Bを参照して、利得媒質の発光面の光損傷を低減することが可能な、本開示の実施形態1によるレーザ装置の構成例を説明する。
【0015】
[レーザ装置の構成]
図1Aは、本開示の例示的な実施形態1によるレーザ装置の構成を模式的に示す上面図である。
図1Bは、
図1Aに示すIB-IB線の断面図である。図面には、参考のために、互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸が模式的に示されている。X軸の矢印の方向を+X方向とし、その反対の方向を-X方向とする。±X方向を区別しない場合、単にX方向と記載する。Y方向およびZ方向についても同様である。
【0016】
図1Aおよび
図1Bに示すレーザ装置100Aは、共振器を形成する平面ミラーである第1ミラー10aおよび第2ミラー10bと、第1ミラー10aと第2ミラー10bの間に配置される利得媒質20とを備える。利得媒質20は、発光面20s1と、その反対側に位置する裏面20s2とを有する。発光面20s1および裏面20s2の各々は、XY平面に対して平行な平面である。例えば、第1ミラー10aは、利得媒質20の裏面20s2に設けることができる。利得媒質20は、導波路を有さない。よって、利得媒質20において光を閉じ込めない。これは、例えば発光面20s1に対して水平な方向において光を閉じ込めないような構造である。利得媒質が導波路を有さないことは、以下のようにして確認することができる。すなわち、第1ミラーおよび第2ミラーを取り除いた状態で利得媒質を励起したときに、利得媒質から発せられる光がレーザ光でないことを確認すればよい。これは、例えば、利得媒質から発せられる光に対して、レンズによって集光した場合の光のビーム径などの振る舞いの違いから判別することができる。第1ミラー10aおよび第2ミラー10bを取り除いた状態で利得媒質20を励起したとき、レーザビームの品質を示す値であるM
2因子は、例えば1000以上であり得る。M
2因子が十分大きい場合は、利得媒質20から生じる光はレーザ光とはみなせない。
【0017】
図1Aおよび
図1Bに示すレーザ装置100Aは、さらに、利得媒質20と第2ミラー10bとの間に、利得媒質20に近い方から順に、反射防止膜30と、少なくとも1つの光学素子40と、回折格子50とを備える。反射防止膜30は、利得媒質20の発光面20s1に設けられている。光学素子40は、利得媒質20と第2ミラー10bとの間に配置されている。回折格子50は、光学素子40と第2ミラー10bとの間に配置されている。
図1Aおよび
図1Bにおいて、光学素子40はレンズとして例示されている。回折格子50は表面50sを有し、表面50sにはY方向に沿って延びる複数の回折溝が周期的に設けられている。回折格子50の表面50sと、入射する複数の光線20Lがなす角度は、例えば、30°以上60°以下であり得る。回折格子50は透過型の回折格子であるほうが好ましい。透過型の回折格子の方が、反射型の回折格子よりも高い回折効率を有する。第2ミラー10bは、回折格子50が回折して透過する光を受ける位置に配置されている。ただし、回折格子50は、必ずしも透過型の回折格子である必要はなく、反射型の回折格子であってもよい。その場合、第2ミラー10bは、回折格子50が回折して反射する光を受ける位置に配置される。
【0018】
図1Aおよび
図1Bに示すレーザ装置100Aにおいて、+Z方向は利得媒質20の発光面20s1の法線方向である。Y方向は回折格子50の溝が伸びる方向と平行な方向である。X方向は、Z方向とY方向とに直交する方向である。X方向は、例えば、利得媒質20の発光面20s1において利得が変化する方向であり得る。
【0019】
[利得媒質20における利得分布]
利得媒質20は活性層を含み、かつ発光面20s1内の少なくとも一方向において利得分布を有する半導体積層体である。積層方向はZ方向に対して平行である。
図1Aおよび
図1Bに示す利得媒質20は、Y方向よりもX方向に拡がる直方体形状を有する。利得媒質20はXY平面に沿って拡がる円板形状を有していてもよい。利得媒質20が直方体形状を有する場合、利得媒質20として、半導体ウエハから直方体形状の半導体チップを切り出してもよい。半導体ウエハは利得分布を有し、例えば、半導体ウエハの中心から外側へ向かって利得が変化する。半導体ウエハの利得分布に沿って半導体チップを切り出すことにより、利得媒質20として好適に使用することができる。なお、利得媒質20として、半導体ウエハをそのまま用いてもよいし、その周縁部を切り落とした半導体ウエハを用いてもよい。利得媒質20は、例えば、基板上に直接形成された活性層を有してもよい。活性層はn型半導体層およびp型半導体層に挟まれる必要はない。
【0020】
実施形態1において、利得媒質20は、発光面20s1のX方向において変化する利得分布を有する。
図1Aには、利得媒質20の発光面20s1の5つの代表的な箇所(丸印)における利得スペクトル(利得と波長との関係)が示されている。
図1Aに示す例において、利得のブロードなピークは、+X方向に沿って短波長側にシフトする。利得媒質20において、利得が極大になる波長は、発光面20s1内の一方向に沿って、利得媒質20の一方の端から他方の端に向けて短くなるように変化してよく、好ましくは単調に変化してもよい。利得のピーク波長は、全体として+X方向に沿って短くなる傾向にあればよく、単調に短くなる必要はない。上記のような勾配を有する利得分布により、利得媒質20を面発光光源として利用し、合波しつつ、利得媒質20の発光面20s1の光密度を下げることができる。利得媒質20における上記の利得分布は、例えば半導体ウエハの作製時に、例えば温度および/またはガスの条件を変化させることによって実現できる。なお、利得媒質20における上記の利得分布の有無は、例えばフォトルミネッセンス測定により、利得媒質20の発光面20s1における発光波長の分布を調べることによって確認できる。
【0021】
活性層は、例えば、インジウムおよび/またはアルミニウムを含む窒化物半導体から形成され得る。活性層は、複数の井戸層と複数の障壁層とを有する多重量子井戸構造を備えていてもよい。井戸層は、例えばGaN、InGaNまたはAlGaNから形成され、障壁層は、例えばAlGaN又はGaNから形成され得る。
【0022】
窒化物半導体におけるインジウムおよび/またはアルミニウムの含有量は、発光面20s1内において分布を有する。例えば、窒化物半導体におけるインジウムおよび/またはアルミニウムの含有量は、発光面20s1においてX方向に沿って変化する分布を有する。X方向に沿って変化する利得の範囲は、例えば300nm以上650nm以下の範囲に収まる。利得のピーク波長の範囲は、例えば10nm以上100nm以下の波長幅を有し得る。利得媒質20の任意の箇所における利得のピークは、例えば10nm以上50nm以下のピーク幅を有する。ある例において、X方向における利得媒質20が有する利得は、一端において450nmであり、他端において500nmであり得る。すなわち、利得幅は、450nmから500nmの範囲であり得る。なお、利得のピーク波長の範囲を、650nmよりも長波長の範囲に収める場合、活性層は、例えばヒ化物半導体またはリン化物半導体から形成され得る。
【0023】
利得媒質20は、例えば以下のような寸法を有し得る。利得媒質20が直方体形状を有する場合、利得媒質20の利得が変化する方向(例えば、X方向)における寸法は例えば1cm以上10cm以下、または1cm以上5cm以下であり、利得が変化しない方向(例えば、Y方向)における寸法は例えば10μm以上1mm以下であり、厚さ方向(Z方向)における寸法は例えば10μm以上1mm以下であり得る。利得媒質20が円板形状を有する場合、直径は例えば1cm以上10cm以下、または1cm以上5cm以下であり、Z方向における寸法は例えば10μm以上1mm以下であり得る。
【0024】
利得媒質20の屈折率は、発光面20s1のX方向において連続的かつ滑らかであり、単調に変化してもよい。ただし、利得媒質20は、発光面20s1の周縁領域において例えば凹部を有し、利得媒質20の屈折率は、当該凹部の界面において急峻に変化し得る。当該凹部は、他の部材で埋められていてもよい。利得媒質の発光面20s1の面積全体における凹部の面積割合は、例えば10%以下、または5%以下であり得る。また、光を安定的に共振させる観点で言えば、利得媒質の発光面20s1のうち、周縁領域によって囲まれる内側領域は、凹凸面ではなく平面を有することが好ましい。当該内側領域の表面粗さ(Ra)は、例えば100nm以下であり得る。
【0025】
[利得媒質20の光励起]
図1Aに示す白抜きの矢印は、利得媒質20を励起する励起光を表す。励起光は、例えばレーザ光、またはLED光であり得る。励起光により利得媒質20が励起される。利得媒質20から発せられる光が第1ミラー10aおよび第2ミラー10bによって外部共振し、外部共振した光が第2ミラー10bから取り出される。
【0026】
第1ミラー10aは、励起光を80%以上、好ましくは90%以上の透過率で透過させ、かつ利得媒質20から発せられる光をほぼ100%で反射する。第1ミラー10aは、例えば誘電体多層膜を有し得る。誘電体多層膜は、例えばSiO2/Ta2O5、SiO2/HfO2、またはTiO2/SiO2のように、互いに屈折率の異なる2種類の誘電体を交互に周期的に積層して形成され得る。誘電体多層膜は、例えば、分布ブラッグ反射器として機能する。
【0027】
第2ミラー10bは、利得媒質20から発せられる光の一部を反射し、残りの部分を透過する。利得媒質20から発せられる光に対する第2ミラー10bの反射率は、例えば96%以上99.5%以下であり得る。第2ミラー10bは、例えばCaF2から形成され得る。あるいは、第2ミラー10bは、BK7(ボロシリケートクラウンガラス)または合成石英のような透光性部材に金属薄膜が設けられるミラーであり得る。本明細書において、透光性とは、利得媒質20から発せられる光に対して透過率が60%以上であることを意味する。
【0028】
反射防止膜30は単層または多層を含み、利得媒質20から発せられる光をほとんど反射させることなく、利得媒質20の発光面20s1から出射させる。例えば、利得媒質20から発せられる光に対する反射防止膜30の吸収率は0.2%未満のものであってよい。反射防止膜30は、例えばSiO2/Ta2O5またはSiO2/HfO2、またはTiO2/SiO2のように、互いに屈折率の異なる2種類の誘電体を交互に積層して形成され得る。ただし、上記の分布ブラッグ反射器と比較して、誘電体の厚さの分布が異なる。
【0029】
[共振器内でのレーザ発振]
次に、共振器内でレーザ発振が生じる原理を説明する。利得媒質20から発せられる光は、光学素子40によってコリメートされて、回折格子50へ入射する。回折格子50を通過する複数の光線20Lは、波長ビーム結合されて同軸に結合される。波長ビーム結合した光の一部は、第2ミラー10bによって反射されて、利得媒質20へフィードバックされる。このとき、再び回折格子50を通過するので、波長ビーム結合した光は、波長毎に回折条件を満たすように回折して、利得媒質20へフィードバックされる。フィードバックされる光は、第1ミラー10aで反射されて、再度、利得媒質20を通過する。このようにして第1ミラー10aと第2ミラー10bとを何度も往復することにより、光が増幅される。
【0030】
利得媒質の発光面20s1上において、フィードバックされる光の波長は一方向に向けて短くなるように整列する。例えば、フィードバックされる光の波長は利得媒質20の長手方向に波長が整列してもよい。
図1Aに示す例では、-X方向側の一端から+X方向側の他端に向かって波長が短くなるように整列する。
図1Aに示す太線は、複数の光線20Lのうち、活性層の5つの代表的な箇所からそれぞれ出射される5本の光線を表す。5本の光線の波長はλ1からλ5であり、λ1<λ2<λ3<λ4<λ5の関係が成り立つ。
【0031】
利得媒質20は、発光面20s1内において利得分布を有するため、波長ビーム結合のための面発光光源として利用される。これにより、光密度を利得媒質20の発光面20s1全体に分散させることができるので、リッジを有する端面出射型のレーザ素子と比べて、利得媒質20の発光面20s1の光損傷を低減することができる。端面出射型のレーザ素子では横モードが閉じ込められるので、レーザ光の出射端面に光密度が集中し、当該出射端面が光損傷する可能性がある。これに対して、実施形態1によるレーザ装置100Aは、利得媒質20の発光面20s1全体に対して光密度が分散される面発光光源であるので、発光面20s1と平行な方向に対して光が閉じ込められていない。したがって、発光面20s1の光損傷を低減することができる。
【0032】
また、光密度を利得媒質20の発光面20s1全体に分散させることができるので、利得媒質20の発光面20s1の一部に熱が集中することを低減することができる。
【0033】
また、利得媒質20は、発光面20s1内において利得分布を有する面発光光源である。フィードバックされた光の波長は、発光面20s1の各位置における利得の範囲に含まれる。したがって、利得媒質20の発光面20s1の全体が共振に寄与して、回折格子50で波長ビーム結合し、外部に取り出される光の出力を高めることができる。外部に取り出される光の出力は、例えば、1W以上100W以下であり得る。
【0034】
光学素子40は、複数の光線20Lの各々をコリメートするように配置されている。光学素子40は、さらに、回折格子50の表面50sにおける同一の領域52で複数の光線20Lを含む光を交差させるように配置されている。本明細書において、コリメートとは、完全に平行光にすることだけでなく、光の拡がりを低減することも意味する。
【0035】
利得媒質20は、光学素子40の主点と利得媒質20の発光面20s1との距離が、光学素子40の焦点距離にほぼ等しくなるように配置されている。したがって、光学素子40は、複数の光線20Lの各々を上記のようにコリメートすることができる。さらに、回折格子50は、光学素子40の主点と回折格子50の表面50sとの距離が、光学素子40の焦点距離にほぼ等しくなるように配置されている。したがって、光学素子40は、複数の光線20Lを含む光を回折格子50の表面50sにおける同一の領域52へ交差させることができる。焦点距離は、例えば1cm以上20cm以下であり得る。本明細書において、ある距離が、光学素子の焦点距離にほぼ等しいとは、両距離の差の絶対値が、1mm以下であることを意味する。
【0036】
[回折格子50による波長合波]
次に、
図2を参照して、回折格子50による波長合波を説明する。回折格子50は、複数の光線20Lを回折して同軸に結合する。
図2は、複数の光線20Lのうち、ピーク波長λ1からλ5の5本の光線20Lが回折格子50によって同軸に結合される様子を模式的に示す上面図である。回折格子50の表面50sに対して垂直な方向(一点鎖線)を基準として、波長λを有する光線の入射角をα、回折角をβとすると、以下の式(1)が成り立つ。
sin(α) + sin(β) = N・m・λ ・・・(1)
ここで、Nは回折格子50の1mmあたりの回折溝の本数、mは回折次数である。Nは、例えば1000本/mm以上5000本/mmであり得る。
【0037】
実施形態1において、回折された透過光は、固定された回折角βで
図1Aに示す第2ミラー10bに向かって進行する。回折角βは、例えば20°以上50°以下であり得る。ピーク波長λが短いほど、入射角αは小さくなる。したがって、波長λ1からλ5を有する光線の入射角をそれぞれα1からα5とすると、
図2に示すように、α1<α2<α3<α4<α5の関係が成り立つ。
【0038】
式(1)を満たす入射角αおよび波長λを有する光線が、
図1Aに示す第1ミラー10aと第2ミラー10bとの間に形成される。式(1)を満たす入射角αおよび波長λの組み合わせは無数に存在する。したがって、複数の光線20Lのピーク波長は互いに異なり、利得媒質20の発光面20s1における+X方向に沿って連続的かつ単調に短くなる。
図1Aには、利得媒質20の発光面20s1の代表的な5箇所からそれぞれ出射される5本の光線の発光スペクトル(発光強度と波長との関係)が示されている。各発光ピークは、その箇所における利得のピークよりも狭くなる。発光のピーク波長は、利得のピーク波長に一致していてもよいし、一致していなくてもよい。
【0039】
活性層が前述した窒化物半導体から形成される場合、例えば、複数の光線20Lのピーク波長は350nm以上650nm以下の範囲にあってもよい。例えば、第2ミラー10bから外部に取り出されるレーザ光は、銅のような金属の加工に好適に用いることができる。複数の光線20Lのピーク波長の範囲は、例えば10nm以上100nm以下の波長幅を有し得る。ある例において、複数の光線20Lのピーク波長の範囲は、400nm以上450nm以下である幅50nmの範囲であり得る。
【0040】
(実施形態1の変形例)
次に、
図3Aから
図3Eを参照して、実施形態1によるレーザ装置100Aの変形例1から4の構成を説明する。
【0041】
(変形例1)
図3Aは、実施形態1によるレーザ装置の変形例1の構成を模式的に示す上面図である。
図3Bは、
図3Aに示すIIIB-IIIB線の断面図である。
図3Aおよび
図3Bに示すレーザ装置110Aが
図1Aおよび
図1Bに示すレーザ装置100Aとは異なる点は、レーザ装置110Aが、
図1Aおよび
図1Bに示す光学素子40が1枚のレンズではなく、第1レンズ40aおよび第2レンズ40bを備えることである。第1レンズ40aは、FAC(Fast-Axis Collimating)レンズである。第1レンズ40aは、例えば、X方向に沿って延びるシリンドリカルレンズである。第2レンズ40bは、SAC(Slow-Axis Collimating)レンズである。第2レンズ40bは、例えば、Y方向に沿って延びるシリンドリカルレンズである。第1レンズ40aは、利得媒質20と第2レンズ40bとの間に配置されている。
【0042】
第1レンズ40aは、複数の光線20Lを速軸方向においてコリメートするように配置されている。第2レンズ40bは、複数の光線20Lの各々を遅軸方向においてコリメートするように配置されている。さらに、第2レンズ40bは、複数の光線20Lを含む光を回折格子50の表面50sにおける同一の領域52へ交差させるように配置されている。
【0043】
利得媒質20は、第1レンズ40aの主点と利得媒質20の発光面20s1との距離が、第1レンズ40aの焦点距離にほぼ等しくなるように配置されている。したがって、第1レンズ40aは、複数の光線20Lの各々を上記のようにコリメートすることができる。同様に、利得媒質20は、第2レンズ40bの主点と利得媒質20の発光面20s1との距離が、第2レンズ40bの焦点距離にほぼ等しくなるように配置されている。したがって、第2レンズ40bは、複数の光線20Lの各々を上記のようにコリメートすることができる。回折格子50は、第2レンズ40bの主点と回折格子50の表面50sとの距離が、第2レンズ40bの焦点距離にほぼ等しくなるように配置されている。
【0044】
レーザ装置110Aでは、
図1Aおよび
図1Bに示す光学素子40を、第1および第2レンズ40a、40bに置き換えることにより、レーザ装置110Aの設計の自由度を向上させることができる。
【0045】
(変形例2)
図3Cは、実施形態1によるレーザ装置の変形例2の構成を模式的に示す上面図である。
図3Cに示すレーザ装置120Aが
図1Aに示すレーザ装置100Aとは異なる点は、レーザ装置120Aが、回折格子50と第2ミラー10bとの間にブリュースター窓60を備えることである。ブリュースター窓60は、例えばガラスのような透光性部材から形成され得る。ブリュースター窓60は、ブリュースター角と呼ばれる入射角で入射するP偏光をほぼ100%の透過率で透過させ、その入射角で入射するS偏光を30%以上70%以下程度の透過率で透過させる。P偏光はXZ平面に対して平行であり、S偏光はY方向に対して平行である。ブリュースター窓60により、共振器では、P偏光のQ値がS偏光のQ値よりもはるかに高くなり、P偏光の複数の光線20Lが強く共振される。したがって、レーザ装置120Aでは、第2ミラー10bから外部に取り出されるレーザ光の主成分をP偏光にすることができる。
【0046】
(変形例3)
図3Dは、実施形態1によるレーザ装置の変形例3の構成を模式的に示す上面図である。
図3Dに示すレーザ装置130Aが
図1Aに示すレーザ装置100Aとは異なる点は、レーザ装置130Aが、凹面ミラーである第2ミラー10b1を備えることである。
利得媒質20は、光学素子40の主点と利得媒質20の発光面20s1との距離が、光学素子40の焦点距離よりも短くなるように配置されている。第2ミラー10b1は、その凹面により、同軸に結合される複数の光線20Lを含む光の一部を反射し、残りの部分を透過する。第2ミラー10b1の材料は、
図1Aに示す第2ミラー10bの材料と同じであってもよい。
【0047】
上記のように配置することにより、ビーム径dの分布を有する光線が利得媒質から放出された場合、第2ミラー10bで反射されて利得媒質へ戻る光線のビーム径もdに等しくなり、その結果dの値が1つに限定される。すなわち、共振器によって光線のビーム径が1つに定義されることになり、シングルモード発振が維持されやすくなる。
【0048】
したがって、レーザ装置130Aは、利得媒質20の発光面20s1の光損傷を低減しつつ、横モードをシングルモードとすることができる。
【0049】
(変形例4)
図3Eは、実施形態1によるレーザ装置の変形例4の構成を模式的に示す上面図である。
図3Eに示すレーザ装置140Aが
図3Dに示すレーザ装置130Aとは異なる点は、レーザ装置140Aが、凹面ミラーである第2ミラー10b1だけでなく、凸面ミラーである第3ミラー10cを備えることである。第3ミラー10cは、共振器内の光路上に配置されており、回折格子50から出射される光を第2ミラー10b1に向けてほぼ100%の反射率で反射する。第3ミラー10cは、例えば、分布ブラッグ反射器を有し得る。レーザ装置140Aは、利得媒質20の発光面20s1の光損傷を低減しつつ、横モードをシングルモードとすることができる。
【0050】
(実施形態2)
次に、
図4を参照して実施形態1と同様に利得媒質の発光面の光損傷を低減することが可能な、本開示の実施形態2によるレーザ装置の構成例を説明する。以下において、実施形態1によるレーザ装置100Aとは異なる点を中心に説明する。
【0051】
[レーザ装置の構成]
図4は、本開示の例示的な実施形態2によるレーザ装置の構成を模式的に示す上面図である。
図4に示すレーザ装置100Bは、共振器を形成する第1ミラー10aおよび第2ミラー10bと、第1ミラー10aと第2ミラー10bの間に配置される利得媒質20とを備える。レーザ装置100Bは、さらに、利得媒質20と第2ミラー10bとの間において、利得媒質20に近い方から順に、反射防止膜30と、レンズアレイ40Aと、第1回折格子40Bと、回折格子50(実施形態2では、第2回折格子50と呼ぶ。)と、アイリス70とを備える。実施形態1における少なくとも1つの光学素子40として、レンズアレイ40Aと第1回折格子40Bが用いられる。
【0052】
利得媒質20において、利得のピーク波長は、
図1Aに示す例とは反対の方向、すなわち-X方向に沿って、利得媒質20の一方の端から他方の端に向けて短くなる。反射防止膜30は、利得媒質20の発光面20s1に設けられている。
【0053】
レンズアレイ40Aは、利得媒質20と第2ミラー10bとの間に配置されている。レンズアレイ40Aは、X方向に沿って配列される複数のコリメート部42と、複数のコリメート部42をつなぐ連結部44とを備える。各コリメート部42は、XZ平面およびYZ平面において曲率を有する。レンズアレイ40Aは、複数のコリメート部42によって複数の光線20LをそれぞれXZ平面およびYZ平面においてコリメートして出射する。
図4に示す例において、複数のコリメート部42の数は5であり、複数の光線20Lの数は5である。5本の光線20Lのピーク波長は、利得媒質20の発光面20s1における-X方向に沿って短くなる。
図4に示すピーク波長λ1からλ5の大小関係は、実施形態1において説明した通りである。レンズアレイ40Aにより、複数の光線20Lを空間的に分離することができる。すなわち、利得媒質20から発せられる光は、コリメート部42でコリメートされる複数の光線20Lと、連結部44を通過してコリメートされない光とに分けられる。その結果、複数の光線20Lのうち、互いに隣接する2つの光線同士が干渉し合ってそれらのピーク波長が所望のピーク波長からずれるというクロストーク効果を抑制できる。
【0054】
第1回折格子40Bおよび第2回折格子50は、互いに平行に配置されている。第1回折格子40Bおよび第2回折格子50は同一の構造を備える。第1回折格子40Bの複数の回折溝と、第2回折格子50の複数の回折溝とは、同じY方向に沿って延びている。第1回折格子40Bの回折溝の周期と、第2回折格子50の回折溝の周期とはほぼ同じである。第1および第2回折格子40B、50の各々は、透過型の回折格子である。前述したように、透過型の回折格子の方が、反射型の回折格子よりも高い回折効率を有する。ただし、第1および第2回折格子40B、50の各々は反射型の回折格子であってもよい。その場合、第2回折格子50は、第1回折格子40Bが回折して反射する光を受ける位置に配置され、第2ミラー10bは、第2回折格子50が回折して反射する光を受ける位置に配置される。アイリス70は開口72を有し、第2回折格子50と第2ミラー10bとの間に配置されている。
【0055】
第1回折格子40Bは、利得媒質20からの光を第2回折格子50へ回折し、第2回折格子50は、第1回折格子40Bで回折された光を第2ミラー10bに向けてさらに回折して合波する。すなわち、第1回折格子40Bは、回折によって第2回折格子50の表面における同一の領域52に複数の光線20Lを入射させる。第2回折格子50は、第1回折格子によって回折された複数の光線20Lを、回折によって同軸に結合して第2ミラー10bに向けて出射する。同一の構造を備える第1回折格子40Bおよび第2回折格子50により、第2回折格子50から出射される光の進行方向は、第1回折格子40Bに入射する複数の光線20Lの進行方向に対して平行になる。第2ミラー10bは、第2回折格子50から出射され、アイリス70の開口72を通過する光の一部を反射し、残りの部分を透過する。アイリス70の開口72を通過する光のみが共振器において共振される結果、同軸に結合される複数の光線20Lを含む光が、第2ミラー10bから外部に取り出される。アイリス70の開口72の最小径は、例えば各光線20Lのビーム径の1倍以上であり、アイリス70の開口72の最大径は、例えば各光線20Lのビーム径の2倍以下である。
【0056】
実施形態1では、前述した
図1Aに示すように、光学素子40が、複数の光線20Lを含む光を回折格子50の表面50sにおける同一の領域52に交差させ、かつ複数の光線20Lの各々をコリメートする。これに対して、実施形態2では、
図4に示すように、レンズアレイ40Aと、第1回折格子40Bとに、光学素子40の役割を分ける。すなわち、レンズアレイ40Aが複数の光線20Lの各々をコリメートし、第1回折格子40Bが、複数の光線20Lを含む光を第2回折格子50の表面50sにおける同一の領域52へ交差させる。
図4に示す第1回折格子40Bは、レンズアレイ40Aでコリメートされた光が第1回折格子40Bに入射する光の断面積とほぼ同じ断面積を保ったまま、第2回折格子50の表面50sにおける同一の領域52へ複数の光線20Lを回折する。したがって、
図4に示す第2回折格子50の表面50sにおける同一の領域52における光密度は、
図1Aに示す回折格子50の表面50sにおける同一の領域52における光密度よりも低くなり、第2回折格子50の光損傷を抑制することができる。
【0057】
[第1および第2回折格子40B、50による波長合波]
次に、
図5を参照して、第1および第2回折格子40B、50による波長合波を説明する。
図5は、ピーク波長λ1からλ5の5本の光線20Lが第1および第2回折格子40B、50によって同軸に結合される様子を模式的に示す図である。第2回折格子50について、ピーク波長λを有する光線の入射角をα、回折角をβとすると、前述した式(1)が成り立つ。回折角βは固定されており、ピーク波長λが短いほど、入射角αは小さくなる。したがって、
図5に示すように、α1<α2<α3<α4<α5の関係が成り立つ。
【0058】
ただし、前述した
図2に示す例では、光線20Lが、回折格子50の-X方向側から入射するのに対して、
図5に示す例では、光線20Lが第2回折格子50の+X方向側から入射する。したがって、
図4に示す例において、複数の光線20Lのピーク波長は、
図1Aに示す例とは反対の方向、すなわち-X方向に沿って短くなる。
図4に示す利得媒質20においても、利得のピーク波長は、-X方向に沿って、利得媒質20の一方の端から他方の端に向けて単調に短くなる。したがって、複数の光線20Lのピーク強度はほぼ一定である。なお、アイリス70の位置を±X方向にずらすことにより、開口72の位置および第2回折格子50における同一の領域52の位置もずらすことができる。これにより、第2回折格子50における複数の光線20Lの入射角をそれぞれ変化させ、共振波長を変化させることができる。すなわち、アイリス70の位置によって共振波長を選択することができるので、レーザ装置110Bの設計の自由度を高めることができる。
【0059】
(実施形態2の変形例)
次に、
図6Aから
図6Cを参照して、実施形態2によるレーザ装置100Bの変形例5から7の構成を説明する。変形例の番号付けに関して、実施形態1および実施形態2の区別はしていない。
【0060】
(変形例5)
図6Aは、実施形態2によるレーザ装置の変形例5の構成を模式的に示す上面図である。
図6Aに示すレーザ装置110Bが
図4に示すレーザ装置100Bとは異なる点は、レーザ装置110Bが、
図4に示すレンズアレイ40Aではなく、レンズアレイ40A1およびレンズ40cを備えることである。レンズアレイ40A1は、複数のコリメート部42aと、複数のコリメート部42aをつなぐ連結部44とを備える。各コリメート部42aは、SACレンズを構成する。各コリメート部42aはシリンドリカルレンズである。レンズ40cは、FACレンズとして機能する。レンズ40cはシリンドリカルレンズである。レーザ装置110Bでは、
図1Aに示すレンズアレイ40Aを、複数のシリンドリカルレンズを有するレンズアレイ40A1、およびシリンドリカルレンズであるレンズ40cに置き換えることができる。したがって、レーザ装置110Bの設計の自由度を向上させることができる。
【0061】
(変形例6)
図6Bは、実施形態2によるレーザ装置の変形例6の構成を模式的に示す上面図である。
図6Bに示すレーザ装置120Bが
図4に示すレーザ装置100Bとは異なる点は、アイリス70および第2ミラー10bが一体になっていることである。アイリス70の開口72によって第2ミラー10bの反射面の一部が露出していれば、レーザ装置120Bは、レーザ装置100Bと同様に動作する。
【0062】
(変形例7)
図6Cは、実施形態2によるレーザ装置の変形例7の構成を模式的に示す上面図である。
図6Cに示すレーザ装置130Bが
図4に示すレーザ装置100Bとは異なる点は、レーザ装置130Bがアイリス70を備えていないことである。その代わり、
図6Cに示す第2ミラー10b2のXY平面における寸法が、それぞれ、
図4に示すアイリス70の開口72のXY平面における寸法と同程度である。第2ミラー10b2が、共振器を構成するミラーとしての役割と、アイリスとしての役割を担うので、レーザ装置100Bと同様に動作することができる。第2ミラー10b2の反射面の最小径は、例えば各光線20Lのビーム径の1倍以上であり、第2ミラー10b2の反射面の最大径は、例えば各光線20Lのビーム径の2倍以下である。
【0063】
(実施形態1および2における利得媒質20の光励起方法)
次に、
図7Aから
図7Cを参照して、実施形態1および実施形態2における利得媒質20を光励起する例を説明する。
図7Aは、利得媒質20を光励起する第1の例を模式的に示す上面図である。実施形態1によるレーザ装置100Aおよび実施形態2によるレーザ装置100Bは、利得媒質20の発光面20s1とは反対側の裏面20s2、または利得媒質の側面20s3に向けて励起光を出射する少なくとも1つの光源80を備える。実施形態1によるレーザ装置100Aおよび実施形態2によるレーザ装置100Bは、利得媒質20の裏面20s2に向けて励起光を出射する複数の光源80を備える。
図7Aに示す直線の矢印は、各光源80から出射される励起光を表す。光源80は、例えばLDまたはLEDであり得る。複数の光源80ではなく単一の光源80を用いてもよい。複数の光源80から出射される励起光で裏面20s2の全体を均一に照射してもよいし、裏面20s2の一部の領域を照射してもよい。裏面20s2の全体を均一に照射する方が、裏面20s2の一部の領域を照射するよりも、高出力のレーザ光を取り出すことができる。利得媒質20は、発光面20s1および裏面20s2に加えて、側面20s3を有する。複数の光源80は、利得媒質20の発光面20s1または側面20s3に向けて励起光を出射してもよい。
【0064】
図7Bは、利得媒質20を光励起する第2の例を模式的に示す上面図である。実施形態1によるレーザ装置100Aおよび実施形態2によるレーザ装置100Bは、複数の光源80に加えて、複数の光源80から出射される励起光を伝搬させ、利得媒質20の裏面20s2または側面20s3に向けて当該励起光を出射する光ファイバ82を備える。好ましくは、光ファイバ82によって集束される励起光で利得媒質20の裏面20s2を照射する。複数の光源80でそれぞれ利得媒質20を励起する場合と比べて、励起光の出力が高くなるので利得媒質20をより強く励起することができる。これにより、利得媒質20が励起されるときに発する光が強くなるので、レーザ装置100A、100Bから高出力のレーザ光を取り出すことができる。光ファイバ82によって集束される励起光で利得媒質20の裏面20s2を照射する方が、利得媒質20の発光面20s1または側面20s3を照射よりも、取り出されるレーザ光の出力はより高くなる。
【0065】
図7Cは、利得媒質20を光励起する第3の例を模式的に示す上面図である。実施形態1によるレーザ装置100Aおよび実施形態2によるレーザ装置100Bは、複数の光源80および光ファイバ82に加えて、利得媒質20の裏面20s2に熱的に接触するヒートシンク90を備える。ヒートシンク90は、レーザ装置100A、100Bの駆動時に利得媒質20で発生する熱を効率的に外部に伝えることができる。ヒートシンク90の熱伝導率は、例えば10W/m・K以上800W/m・K以下であり得る。
【0066】
利得媒質20のZ方向における寸法は小さいので、利得媒質20で発生する熱を効率的にヒートシンク90に伝えることができ、利得媒質20における熱レンズ効果を抑制し、共振を安定化させることが可能になる。
【0067】
光ファイバ82によって集束された励起光で利得媒質20の裏面20s2を照射する場合、ヒートシンク90は、熱伝導性を有し、かつ励起光に対する透光性を有する材料から形成される。そのような材料は、例えばAlN、またはダイヤモンドであり得る。
【0068】
光ファイバ82によって集束された励起光で利得媒質20の発光面20s1または側面20s3を照射する場合、ヒートシンク90は、熱伝導性を有するが、励起光に対する透光性を有しない材料から形成されてもよい。そのような材料は、例えば銅、または金属およびダイヤモンドの複合材料であり得る。
【0069】
なお、利得媒質20を電流注入によって励起してもよい。その場合、利得媒質20は、Z方向において、活性層に加えて、当該活性層を挟むp型クラッド層およびn型クラッド層と、p型クラッド層およびn型クラッド層にそれぞれ電気的に接続されるp側電極およびn側電極とを備える。p側電極およびn側電極を介して、利得媒質20に順方向電流を注入することにより、利得媒質20を励起することができる。
【0070】
本開示は、以下の項目に記載のレーザ装置を含む。
[項目1]
共振器を形成する第1ミラーおよび第2ミラーと、
前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に配置され、発光面を有する利得媒質と、
前記利得媒質の前記発光面に設けられた反射防止膜と、
前記利得媒質と前記第2ミラーとの間に配置された少なくとも1つの光学素子と、
前記光学素子と前記第2ミラーとの間に配置された回折格子と、
を備え、
前記利得媒質は、活性層を含み、かつ前記発光面内の少なくとも一方向において利得分布を有する半導体積層体であり、
前記利得媒質は、導波路を有さない、レーザ装置。
[項目2]
前記利得媒質において利得が極大になる波長は、前記発光面内の前記一方向に沿って一方の端から他方の端に向けて短くなるように変化する、項目1に記載のレーザ装置。
[項目3]
前記活性層は、インジウムおよび/またはアルミニウムを含む窒化物半導体を含み、
前記窒化物半導体における前記インジウムおよび/または前記アルミニウムの含有量は、前記発光面内において分布を有する、項目1または2に記載のレーザ装置。
[項目4]
前記共振器から外部へ取り出された光は、複数の光線を含み、
前記複数の光線のピーク波長は、前記利得媒質の前記発光面における前記一方向に沿って単調に変化する、項目1から3のいずれか1項に記載のレーザ装置。
[項目5]
前記複数の光線の前記ピーク波長は、350nm以上550nm以下の範囲にある、項目4に記載のレーザ装置。
[項目6]
前記第2ミラーは凹面ミラーであり、
前記利得媒質は、前記利得媒質の前記発光面と前記光学素子の主点との距離が、前記光学素子の焦点距離よりも短くなるように配置されている、項目1から5のいずれか1項に記載のレーザ装置。
[項目7]
前記回折格子と前記第2ミラーとの間に配置されたブリュースター窓を備える、項目1から6のいずれか1項に記載のレーザ装置。
[項目8]
前記利得媒質の前記発光面とは反対側の裏面、または前記利得媒質の側面に向けて励起光を出射する少なくとも1つの光源を備える、項目1から7のいずれか1項に記載のレーザ装置。
[項目9]
前記励起光を伝搬させ、前記利得媒質の前記裏面または前記側面に向けて前記励起光を出射する光ファイバを備える、項目8に記載のレーザ装置。
[項目10]
前記利得媒質の前記発光面とは反対側の裏面に熱的に接触するヒートシンクをさらに備える、項目1から9のいずれか1項に記載のレーザ装置。
[項目11]
前記少なくとも1つの光学素子は、レンズアレイと、第1回折格子を含み、
前記レンズアレイは、複数のコリメート部と、前記複数のコリメート部をつなぐ複数の連結部とを含み、
前記回折格子は、前記レンズアレイと前記第2ミラーとの間において、前記第1回折格子と平行に配置された第2回折格子であり、
前記第2回折格子と前記第2ミラーとの間にアイリスをさらに備え、
前記第1回折格子は、前記利得媒質からの光を前記第2回折格子へ回折し、
前記第2回折格子は、前記第1回折格子で回折された光を合波し、前記第2ミラーへ回折する、項目1から10のいずれか1項に記載のレーザ装置。
[項目12]
共振器を形成する第1ミラーおよび第2ミラーと、
前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に配置され、発光面を有する利得媒質と、
前記利得媒質の前記発光面に設けられた反射防止膜と、
前記利得媒質と前記第2ミラーとの間に配置された少なくとも1つの光学素子と、
前記光学素子と前記第2ミラーとの間に配置された回折格子と、
を備え、
前記利得媒質は、活性層を含み、かつ前記発光面内の少なくとも一方向において利得分布を有する半導体積層体であり、
前記利得媒質は、面発光光源である、レーザ装置。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本開示のレーザ装置は、高出力のレーザ光源が必要とされる産業用分野、例えば各種材料の切断、穴あけ、局所的熱処理、表面処理、金属の溶接、および3Dプリンティングなどに利用され得る。
【符号の説明】
【0072】
10a 第1ミラー
10b、10b1、10b2 第2ミラー
10c 第3ミラー
20 利得媒質
20L 光線
20s1 発光面
20s2 裏面
20s3 側面
30 反射防止膜
40 光学素子
40A、40A1 レンズアレイ
40B 第1回折格子
40a 第1レンズ
40b 第2レンズ
40c レンズ
42、42a コリメート部
44 連結部
50 回折格子、第2回折格子
50s 回折格子の表面、第2回折格子の表面
52 同一の領域
60 ブリュースター窓
70 アイリス
72 開口
80 光源
82 光ファイバ
90 ヒートシンク
100A、110A、120A、130A、140A レーザ装置
100B、110B、120B、130B レーザ装置