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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121738
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】血液成分吸着材料
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20230824BHJP
【FI】
A61M1/36 165
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021351
(22)【出願日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2022024576
(32)【優先日】2022-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】神田 峻吾
(72)【発明者】
【氏名】關谷 由美子
(72)【発明者】
【氏名】山下 恭平
(72)【発明者】
【氏名】小町 駿介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA09
4C077BB03
4C077CC03
4C077CC06
4C077EE01
4C077KK03
4C077KK13
4C077MM06
4C077NN02
4C077NN04
4C077PP12
4C077PP15
(57)【要約】
【課題】本発明は、抗凝固剤の吸着を抑制し、かつ、血液成分の吸着能、特にインターロイキン8の吸着能に優れる血液成分吸着材料を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、水不溶性の基材と、硫酸基、亜硫酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される酸性官能基を含む化合物が重合体の側鎖又は末端にアミド結合を介して結合した改質重合体と、を有し、上記改質重合体は、上記基材の表面に存在し、上記改質重合体の含水率が3%以上であり、かつ、上記酸性官能基の導入量が0.02~1.60mmol/gである、血液成分吸着材料を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性の基材と、
硫酸基、亜硫酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される酸性官能基を含む化合物が重合体の側鎖又は末端にアミド結合を介して結合した改質重合体と、を有し、
前記改質重合体は、前記基材の表面に存在し、
前記改質重合体の含水率が3%以上であり、
かつ、前記酸性官能基の導入量が0.02~1.60mmol/gである、血液成分吸着材料。
【請求項2】
前記重合体の含有率が10~300mg/gである、請求項1記載の血液成分吸着材料。
【請求項3】
前記重合体は、60°以下の水の静的接触角を有する、請求項1又は2記載の血液成分吸着材料。
【請求項4】
前記重合体は、アルキレングリコール残基、カルボン酸基、水酸基及びアミド基からなる群から選択される化学構造を繰り返し単位に含む、請求項1又は2記載の血液成分吸着材料。
【請求項5】
前記基材の材質は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリスチレン及びポリスルホンからなる群から選択される、請求項1又は2記載の血液成分吸着材料。
【請求項6】
繊維形状又は粒子形状である、請求項1又は2記載の血液成分吸着材料。
【請求項7】
請求項1又は2記載の血液成分吸着材料を備える、血液成分吸着カラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液成分吸着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炎症性疾患の治療又は移植前後の免疫抑制及び血液製剤の発熱・感染症等の副作用抑制の目的でサイトカインや白血球等の血液成分を吸着除去する血液浄化療法に関する技術が開発されてきている。中でも、表面にサイトカインとの親和性を有する化合物を含む材料を備えたカラムに血液を通液することでサイトカイン、特に炎症性疾患のバイオマーカーであるインターロイキン8を吸着除去する技術が開発されている。
【0003】
硫酸基、亜硫酸基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる酸性官能基を含む化合物は負電荷を帯びており、種々の血液成分と静電相互作用により強く結合することから、その特性を活かして多数の血液成分吸着材料が開発されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1にはデキストラン硫酸及びポリスチレンスルホン酸からなる群から選択される少なくとも1つの化合物に由来するアニオン性官能基を有する水不溶性担体からなる、体液中のインターロイキンを吸着除去するための吸着剤が開示されている。
【0005】
特許文献2には疎水性高分子からなる繊維表面に繰り返し単位が40以上のアルキレングリコール若しくはアルキレングリコール残基を含む化合物及び/又は繰り返し単位1700以上のポリビニルアルコールが導入された繊維を含むことを特徴とする、血液成分処理材料が開示されている。
【0006】
特許文献3には繊維又は粒子からなる水不溶性担体の表面に、硫酸基、亜硫酸基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる酸性官能基と、アミノ基とを有する官能基が導入されてなり、上記繊維の繊維径又は上記粒子の粒子径は0.5~20μmであり、上記水不溶性担体の陰性荷電量は、1.5×10-5~1.5×10-3eq/gである、血液成分吸着用担体が開示されている。
【0007】
特許文献4には基材にアミド基とアミノ基とを有するリガンドが結合した水不溶性材料を含み、水不溶性材料の乾燥重量1g当たり3.0~7.0mmolのアミド基の含量と水不溶性材料の乾燥重量1g当たり1.0~7.0mmolのアミノ基の含量を有する血液浄化用の材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3901214号公報
【特許文献2】特開2008-79890号公報
【特許文献3】特許第5929197号公報
【特許文献4】特許第6589993号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「注射用フサン10/注射用フサン50」添付文書(2019年4月改訂)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
血液成分の中でも細胞成分は異物に接触すると活性化、凝集してしまうことから、一般的に血液成分を含む溶液を血液成分吸着材料が充填されたカラムに通液する場合は抗凝固剤を添加することで凝集を抑制する。
【0011】
従来の酸性官能基を含む化合物が結合した血液成分吸着材料は静電相互作用により種々の血液成分吸着を吸着するが、抗凝固剤、特に塩基性のアミジン基を含み、かつ、正電荷を帯びたメシル酸ナファモスタットも吸着されてしまうという課題があった。酸性官能基を含む化合物が結合した血液成分吸着材料が抗凝固剤を吸着すると細胞の凝集抑制効果を阻害してしまうため、多くの抗凝固剤を添加しなければ抗凝固能が発現しない。よって従来の酸性官能基を含む化合物が結合した血液成分吸着材料を血液浄化に用いる場合、多くの抗凝固剤を血液中に添加する必要があり、血液浄化療法を受ける患者の体内に投与される量が増大し、重大な副作用が発生するリスクが増加する(非特許文献1)。
【0012】
加えて、大量に抗凝固剤を投与すると血液成分吸着材料の表面が抗凝固剤で被覆され、血液成分吸着性能自体も十分に発揮できなくなる。一方で抗凝固剤を投与しないと血液成分の凝集が発生し、凝集体によるカラムの目詰まりが発生し、治療が行えなくなる。
【0013】
塩基性官能基を含む化合物を結合した血液成分吸着材料は正電荷を帯びているため、メシル酸ナファモスタットの吸着を抑制できるものの、酸性の硫酸基を含み、かつ、負電荷を帯びている別種の抗凝固剤であるヘパリンを吸着するため、同様に好ましくない。加えて、正電荷と負電荷で静電相互作用可能な対象が異なることから、酸性官能基を含む化合物を結合した血液成分吸着材料と除去できる物質も異なる。特に、正電荷を帯びているインターロイキン8とは静電相互作用による反発が起こるため、塩基性官能基を含む化合物を結合した血液成分吸着材料による吸着には不向きである。
【0014】
また、抗凝固剤の吸着を抑制するために酸性官能基の導入量を減らすと静電相互作用が弱くなり、目的とする血液成分吸着能も低下してしまう。
【0015】
特許文献1ではデキストラン硫酸及びポリスチレンスルホン酸により液性成分であるサイトカインを吸着する吸着剤が開示されているが、抗凝固剤の吸着抑制について記載や示唆はされていない。
【0016】
特許文献2では疎水性高分子からなる繊維表面に繰り返し単位が40以上のアルキレングリコール若しくはアルキレングリコール残基を含む化合物及び/又は繰り返し単位1700以上のポリビニルアルコールが導入された繊維を含む血液成分吸着材料が開示されているが、細胞成分の吸着についてのみ開示されており、液性成分の吸着に関する記載や示唆はなく、抗凝固剤の吸着抑制についても記載や示唆はない。
【0017】
特許文献3では繊維又は粒子からなる水不溶性担体の表面に、硫酸基、亜硫酸基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる酸性官能基と、アミノ基とを有する官能基が導入されてなる血液成分吸着担体が開示されているが、正電荷と負電荷の両方を帯びた化合物を固定化した血液成分吸着材料による細胞成分の吸着についての発明であり、液性成分の吸着に関する記載や示唆はなく、抗凝固剤の吸着抑制についても記載や示唆はない。
【0018】
特許文献4にはアミド基とアミノ基とを特定の量導入した血液浄化用の材料が開示されているが、正電荷を帯びた塩基性官能基を含む化合物を結合させた血液成分吸着材料であり、抗凝固剤の吸着抑制についても記載や示唆はなく、負電荷を帯びた酸性官能基を含む化合物についても記載や示唆はない。
【0019】
上記の通り、負電荷を帯びた血液成分吸着材料において、抗凝固剤の吸着抑制と血液の液性成分の吸着能の維持を両立した血液成分吸着材料は開発されていない。
【0020】
そこで本発明は、抗凝固剤の吸着を抑制し、かつ、血液成分の吸着能、特にインターロイキン8の吸着能に優れる血液成分吸着材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、以下の(1)~(7)に係る発明を見いだした。
(1)水不溶性の基材と、硫酸基、亜硫酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される酸性官能基を含む化合物が重合体の側鎖又は末端にアミド結合を介して結合した改質重合体と、を有し、上記改質重合体は、上記基材の表面に存在し、上記改質重合体の含水率が3%以上であり、かつ、上記酸性官能基の導入量が0.02~1.60mmol/gである、血液成分吸着材料。
(2)上記重合体の含有率が10~300mg/gである、上記(1)記載の血液成分吸着材料。
(3)上記重合体は、60°以下の水の静的接触角を有する、上記(1)又は(2)記載の血液成分吸着材料。
(4)上記重合体は、アルキレングリコール残基、カルボン酸基、水酸基及びアミド基からなる群から選択される化学構造を繰り返し単位に含む、上記(1)又は(2)記載の血液成分吸着材料。
(5)上記基材の材質は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリスチレン及びポリスルホンからなる群から選択される、上記(1)又は(2)記載の血液成分吸着材料。
(6)繊維形状又は粒子形状である、上記(1)又は(2)記載の血液成分吸着材料。
(7)上記(1)又は(2)記載の血液成分吸着材料を備える、血液成分吸着カラム。
【発明の効果】
【0022】
本発明の血液成分吸着材料は、抗凝固剤吸着能を抑制し、かつ、血液の液性成分の吸着能を維持することにより、血液浄化療法における抗凝固剤投与量を低減して安全に治療を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の血液成分吸着材料は、水不溶性の基材と、硫酸基、亜硫酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される酸性官能基を含む化合物が重合体の側鎖又は末端にアミド結合を介して結合した改質重合体と、を有し、上記改質重合体は、上記基材の表面に存在し、上記改質重合体の含水率は3%以上であり、かつ、上記酸性官能基の導入量が0.02~1.60mmol/gであることを特徴とする。
【0024】
「酸性官能基を含む化合物」とは、化学構造の一部に、硫酸基、亜硫酸基及びスルホン酸基からなる群から選ばれる酸性官能基を少なくとも一つ含む化合物であり、かつ、改質重合体の側鎖又は末端に含まれるアミド結合を加水分解した時に遊離する酸性官能基を含む化合物を意味する。上記酸性官能基を有していればその化学構造に限定はないが、血液成分吸着性能を付与する観点から、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子又はケイ素原子からなる群から選ばれた原子により構成されることが好ましい。
【0025】
酸性官能基を含む化合物の分子量に特に限定はないが、大きすぎると立体障害が生じて重合体の運動性を阻害することから500以下が好ましく、200以下がより好ましい。
【0026】
硫酸基(-OSOOH)、亜硫酸基(-O(SO)OH)及びスルホン酸基(-SOOH)は、相互に類似する化学構造であり、いずれも酸性の水酸基を有するものであることから、強酸性や負電荷を帯びているという共通の性質を示す。
【0027】
酸性官能基の導入量は少なすぎると血液成分と相互作用できず、多すぎると抗凝固剤吸着性能を発現してしまうため、酸性官能基の導入量は血液成分吸着材料1g当たり0.02~1.60mmolであり、0.02~0.50mmolがより好ましく、0.06~0.30mmolが特に好ましい。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と組み合わせることができる。
【0028】
「基材の表面に存在」とは、基材の表面に重合体又は改質重合体が結合又は吸着している状態を意味する。基材の表面に重合体又は改質重合体が結合又は吸着する様式としては、例えば、共有結合又は静電相互作用、疎水性相互作用、水素結合若しくはファンデルワールス力等の非共有結合等が挙げられる。具体的には、基材を重合体含有溶液に含浸してγ線照射すること、基材と重合体の側鎖若しくは末端を縮合すること又は重合開始剤と界面活性剤を有機溶剤に溶解して基材に重合開始剤を含浸した後、モノマー溶液に含浸し重合体を製造することにより、共有結合を介して基材の表面に重合体又は改質重合体を結合させる方法又は基材を重合体含有溶液に含浸してそのまま乾燥させることでファンデルワールス力と分子絡み合いにより、基材の表面に重合体又は改質重合体を吸着させる方法が挙げられる。中でも、使用時の重合体又は改質重合体の溶出を抑制する観点から、重合体又は改質重合体は基材の表面に共有結合を介して結合されていることが好ましい。
【0029】
「基材の表面」とは、基材と血液成分が接触する領域を意味する。例えば、基材が多孔質である場合、各細孔内部の表層も表面に含まれる。
【0030】
重合体又は改質重合体が基材の表面に存在することは、全反射赤外スペクトル測定(以下「ATR-IR」という)等により確認できる。
【0031】
「水不溶性の基材」とは、水不溶性である材料を意味する。水不溶性の基材の材質は、重合体との結合又は吸着し易さから高分子材料であることが好ましく、例えば、ポリ(芳香族ビニル化合物)(例えば、ポリスチレン)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート又はポリブチレンテレフタレート)、ポリスルホン、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン又はポリエチレン)、ポリアミド(例えば、6-ナイロン又は6,6-ナイロン)若しくはポリスルホン等の合成高分子材料又はセルロース若しくはキチン等の天然高分子材料が挙げられる。さらに、上記の合成高分子材料又は天然高分子材料に対しアルキル基、ハロゲン基、ハロゲン化アルキル基、アセタール基又はエーテル基等が付与された誘導体でもよく、例えば、ポリスチレン誘導体であれば、ポリp-クロロメチルスチレン、ポリα-メチルスチレン、ポリβ-メチルスチレン、ポリp-tert-ブトキシスチレン、ポリp-アセトキシスチレン又はポリp-(1-エトキシ)スチレンが挙げられる。これらの高分子材料の組成は、単独重合体、上記高分子同士の共重合体又は複数の上記高分子材料を物理的にブレンドして用いてもよい。上記高分子材料の中でも、水酸基を有さない材料である、ポリ(芳香族ビニル化合物)(例えば、ポリスチレン)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート又はポリブチレンテレフタレート)、ポリスルホン又はポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン又はポリエチレン)が好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリプロピレン又はポリエチレンがより好ましい。
【0032】
基材が水不溶性であるとは、基材の水への溶解量が1質量%以下であることを意味する。乾燥した基材1gを37℃の純水10mLに含浸し、24時間経過後にピンセットで基材のみ引き上げて、残った水を50℃の真空乾燥機で乾燥し、残った固形分の質量が10mg以下であれば、溶解量が1質量%以下であり、水不溶性であるといえる。基材が不溶性でない場合は、実際に使用する場合の溶出物が多くなる危険性があり、安全上好ましくない。
【0033】
また、基材に用いる高分子材料は、重合体を結合又は吸着させた後の強度を確保するために架橋構造を含んでいてもよい。架橋構造としては、例えば、ジビニルベンゼン等の二官能性モノマーを共重合することで架橋構造を導入した高分子材料、アルデヒドのような架橋剤を高分子材料中の芳香環若しくは水酸基等の官能基と反応させることで架橋構造を導入した高分子材料又はγ線照射により主鎖のC-H結合が開裂して主鎖間で結合した架橋構造が挙げられる。調達の容易性から二官能性化合物を高分子材料中の芳香環又は水酸基等の官能基と反応させることで架橋構造を導入した高分子材料が好ましく、ホルムアルデヒドを架橋剤として用いた高分子材料がより好ましい。
【0034】
「重合体」とは基材と結合又は吸着させることが可能であり、かつ、酸性官能基を含む化合物と側鎖又は末端にアミド結合を介して結合可能である高分子材料を意味する。
【0035】
「重合体の水の静的接触角」とは重合体をフィルム状に製膜し、水滴を滴下した際の、高分子-水滴の界面と水滴-空気の界面とのなす角度を意味し、一般に角度が大きいほど水に対する親和性が低く、水中での運動性が低いと見なすことができる。
【0036】
重合体の水の接触角の値に特に限定は無いが、親水性が高いほど酸性官能基を含む化合物の結合が容易であることから、60°以下の水の静的接触角を有することが好ましい。
【0037】
水の静的接触角は、重合体をクロロホルム、ジクロロエタン又はメタノールに溶解させた1質量%の重合体溶液を調製してガラス上に塗布、乾燥させて作製したフィルムを、自動接触角計を用いて空気中で着水から2秒後の水の接触角を測定できる。
【0038】
重合体の水の静的接触角は、重合体の化学構造中に含まれる硫黄原子、酸素原子又は窒素原子の量を増加することにより小さくすることができる。
【0039】
重合体の化学構造に特に限定は無いが、抗凝固剤吸着抑制の観点から酸性官能基である硫酸基、亜硫酸基若しくはスルホン酸基を繰り返し単位に含まないことが好ましく、またγ線滅菌や蒸気滅菌等の滅菌に対する耐性の観点から繰り返し単位に糖類を含まないことが好ましい。さらに基材及び酸性官能基を含む化合物への固定化を容易にする観点から、アルキレングリコール残基、カルボン酸基、水酸基及びアミド基からなる群から選択される化学構造を繰り返し単位に含むことが好ましい。また酸性官能基に由来する酸加水分解に対する耐性の観点から、主鎖には炭化水素又はエーテル結合のみからなることが好ましい。重合体としては、例えば、ポリアルキレングリコール、ポリアクリレート、ポリアルコキシアルキレングリコールアクリレート、ポリヒドロキシアルキルアルキレングリコールアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル又はそれらを含む共重合体等が挙げられる。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリアクリル酸、ポリ2-メトキシエチルアクリレート、ポリヒドロキシメチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン又はそれらを含む共重合体であることが好ましい。
【0040】
「アルキレングリコール残基」とは直鎖アルキル基の両末端に酸素原子が付与された化学構造{-O-(CHn-O-、nは1以上の整数を表す}の総称であり、例えば、エチレングリコール残基(-O-CH-CH-O-)、プロピレングリコール残基(-O-CH-CH-CH-O-)又はブチレングリコール残基(-O-CH-CH-CH-O-)等が挙げられる。直鎖アルキル基の炭素数に限定は無いが、改質重合体作製の容易性から炭素数10以下が好ましく、5以下がより好ましい。
【0041】
重合体がその繰り返し単位中にアルキレングリコール残基、カルボン酸基、水酸基及びアミド基からなる群から選択される化学構造を含んでいることは、重合体を重水若しくは重クロロホルムに溶解し、H NMRを測定すること又は血液成分吸着材料の定量固体13C NMRを測定することで確認できる。
【0042】
「重合体結合基材」とは、組成分析等を行った際に、該当する基材中に重合体由来のシグナルが検出されることを意味する。上述のとおり、結合又は吸着により重合体が基材の表面に存在する材料であり、かつ、酸性官能基を含む化合物が結合していない中間材料である。重合体結合基材に含まれる重合体の側鎖又は末端に酸性官能基を含む化合物を結合することで、本発明の血液成分吸着材料を得ることができる。例えば、カルボン酸基を含有する重合体が存在する表面をATR-IRにより分析し、カルボン酸基由来の吸収ピークが検出された場合、重合体が基材の表面に存在するといえる。
【0043】
重合体の重量平均分子量は特に限定は無いが、重合体の含有率をより好適な範囲にする観点から、800以上が好ましく、800~100万がより好ましく、800~21万がさらに好ましい。
【0044】
重合体が水溶性の場合は、水に1mg/mLの濃度で重合体を溶解させた測定サンプルを調製し、ポリエチレンオキシド標準サンプルを検量線として水系カラムで測定サンプルのゲル浸透クロマトグラフィー(以下「GPC」という)測定を行うことにより、重合体の重量平均分子量を得ることができる。また、重合体が非水溶性の場合は、クロロホルムに1mg/mLの濃度で重合体を溶解させた測定サンプルを調製し、ポリスチレン標準サンプルを検量線としてクロロホルム系カラムで測定サンプルのGPC測定を行うことにより、重合体の重量平均分子量を得ることができる。
【0045】
「重合体の含有率」とは、血液成分吸着材料1g当たりの重合体の質量を意味する。含有率に特に限定は無いが、酸性官能基の結合点の増加及び重合体の運動性が増加することにより吸着性能が向上することから、血液成分吸着材料1g当たりの重合体の含有率は、10~300mg/gが好ましく、30~200mg/gがより好ましい。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と組み合わせることができる。
【0046】
重合体の含有率は、血液成分吸着材料に含まれる重合体の質量[mg]を血液成分吸着材料の質量[g]で割ることで得られる。
【0047】
血液成分吸着材料に含まれる重合体の質量は、血液成分吸着材料を作製する際に用いた重合体結合基材から重合体結合基材を作製する際に用いた基材の質量を差し引くことで得ることができる。重合体結合基材を作製する際に用いた基材の質量が不明で、血液成分吸着材料から重合体の質量を求める場合は、血液成分吸着材料の定量固体13C NMR測定を行い、基材由来のピークと重合体由来のピークのそれぞれの積分値を得て、それぞれのピークに帰属される炭素数で割った値を基材規格値、重合体規格値として、下記式(1)を用いることで含有率を算出できる。
含有率[mg/g]=1000×{重合体規格値×重合体の繰り返し単位のモル質量[g/mol]/(重合体規格値×重合体の繰り返し単位のモル質量[g/mol]+基材規格値×基材の繰り返し単位のモル質量[g/mol])} ・・・式(1)
上記定量固体13C NMR測定の測定条件は次の通りとする。装置はBruker社製Avance400を使用し、パルス幅を4.2μsec(90°パルス)、パルス繰り返し時間をPD100sec(DD/MAS)、観測ポイントを2048、基準物質をヘキサメチルベンゼンとし、試料は血液成分吸着材料をはさみで裁断後、4mmジルコニアローターに充填して測定する。
【0048】
「改質重合体」とは、酸性官能基を含む化合物と重合体がアミド結合を介して共有結合している重合体を意味する。アミド結合を介して重合体と酸性官能基を含む化合物が結合されていれば、その化学構造に限定はないが、重合体主鎖と酸性官能基の間の化学構造に酸性官能基とアミド結合以外の極性官能基が存在すると酸性官能基の運動性を阻害し、血液成分吸着性能を発揮しづらくなることから、酸性官能基と相互作用しにくい構造である炭化水素基単独の化学構造又は炭化水素基と中性の化学結合若しくは官能基からなる化学構造であることが好ましく、化学修飾が容易である観点から炭化水素基と中性の化学結合又は官能基からなる化学構造であることがより好ましい。炭化水素基としては、例えば、芳香族基(例えば、フェニル基、フェニレン基又はナフタレン基等)、アルキル基(例えば、エチレン基、プロピレン基又はブチレン基等)又はアルケニル基(例えば、エテニル基、プロペニル基又はブテニル基等)が挙げられ、複数の炭化水素基の組み合わせであってもよい。中性の化学結合としては、例えば、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、カルボニル結合、チオール結合又はウレア結合が挙げられ、中性の官能基としては、例えば、ハロゲン基又はシアノ基が挙げられる。
【0049】
本発明に用いられるアミド結合は、2級アミド又は3級アミドのいずれのアミド結合でもよいが、分解に対する耐性があることから、2級アミドであることが好ましい。また、アミド結合がアルキレン基を介して重合体の主鎖に共有結合していることが好ましい。アルキレン基としては、長すぎると疎水性が増加してアミド結合を生成しづらくなることからメチレン基、エチレン基又はプロピレン基が好ましい。
【0050】
アミド結合の形成方法としては、例えば、重合体と酸性官能基を含む化合物が縮合反応することによってアミド結合を形成する方法でもよいし、重合体と酸性官能基を含む化合物の間にそれらを結合するために別途アミド結合を含むリンカーとなる化学構造を導入する方法でもよい。
【0051】
「リンカー」とは、重合体と酸性官能基を含む化合物を共有結合で固定化するための化学構造を意味する。リンカーとして含まれる化学構造は、例えば、脂肪族炭化水素、尿素結合、エーテル結合又はエステル結合等の電気的に中性の化学結合が好ましい。
【0052】
重合体と酸性官能基を含む化合物の縮合反応様式としては、例えば、側鎖又は末端にカルボキシル基を含む重合体(例えば、ポリアクリル酸)とアミノ基と酸性官能基を含む化合物(例えば、2-アミノエタンスルホン酸)が脱水縮合することでアミド結合を形成する反応が挙げられる。このため、酸性官能基を含む化合物は、硫酸基、亜硫酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される酸性官能基とは別にアミド結合を行うための官能基を有していることが好ましく、基材がカルボキシル基を持つ場合はアミノ基を有することが好ましく、基材がアミノ基を持つ場合はカルボキシル基を有することが好ましい。
【0053】
重合体と酸性官能基を含む化合物がリンカーを介して共有結合されており、そのリンカー中にアミド結合が含まれる反応様式としては、例えば、末端にアミノ基を有する重合体(例えば、ポリエチレングリコール(ビスアミン))の末端にスクシン酸を縮合することで末端にアミドエチルカルボン酸基を有する重合体に変換し、さらにアミノ基と酸性官能基を含む化合物(例えば、2-アミノエタンスルホン酸)を縮合する方法が挙げられる。
【0054】
改質重合体の含水率に上限は無いが、低すぎると十分に血液中の液性成分の吸着性能が発現しないことから3%以上である必要がある。含水率が高すぎると使用時に血液浄化材料から重合体が溶出する懸念が増すことから、改質重合体は3~100%の含水率を有することが好ましく、4~100%の含水率を有することがより好ましく、10~100%の含水率を有することがさらに好ましい。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と組み合わせることができる。
【0055】
改質重合体の有する含水率は、血液成分吸着材料を水に含浸し、安定化した状態の一定質量中の改質重合体中に含まれる水分量を測定し、血液成分吸着材料の質量で割ることによって得られる。なお、基材は水不溶性であることから、水に含浸して安定化した状態の血液成分吸着材料に含まれる水分量は改質重合体中に含まれる水分量と見なすことができる。
【0056】
改質重合体の含水率は、例えば、重合体の重量平均分子量を上げること又は重合体の化学構造中に含まれる硫黄原子、酸素原子若しくは窒素原子の量を増加させることにより高くすることができる。
【0057】
血液成分吸着材料を血液成分吸着カラムとして使用する血液浄化療法では、一般的な使用時間が24時間以内であるため、72時間使用後における溶出物の量(以下「溶出率」という)が少なければ、使用時の溶出が十分に抑制されていると判断できる。血液成分吸着カラム使用前の予備洗浄作業を簡便にする観点から、溶出率は1.0%以下が好ましく、0.1%以下がさらに好ましい。
【0058】
溶出率は、規定量の乾燥した血液成分吸着材料を生理食塩液に添加し、72時間、40℃で振とうすることで抽出し、1mol/L塩酸、6mol/L水酸化ナトリウム水溶液及びイオン交換水で洗浄して中性にした後に真空乾燥させ、質量を測定してその減少量から算出できる。
【0059】
溶出率は、例えば、改質重合体の含水率を低くすること又は重合体の含有率を減らすこと等により下げることができる。
【0060】
本発明の血液成分吸着材料の形状に特に限定はなく、繊維形状、平膜形状、中空糸膜形状又は粒子形状が挙げられるが、血液接触時に滞留部を作らない観点から繊維形状又は粒子形状が好ましい。さらに、上記繊維形状の中でも、上記繊維を加工した糸束、ヤーン、ネット、編地又は織物等が好ましく、表面積が大きく、流路抵抗の小ささを考慮すると糸束、編地又は織物がより好ましい。
【0061】
上記繊維の単糸径はいずれの太さであってもよいが、接触面積向上と材料の強度維持の観点から、3~200μmが好ましく、5~50μmがより好ましく、10~40μmがさらに好ましい。
【0062】
「単糸径」とは、繊維の小片サンプル10個をランダムに採取して、走査型電子顕微鏡を用いて1000~3000倍の写真をそれぞれ撮影し、各写真辺り10カ所(計100箇所)の繊維の直径を測定した値の平均値を意味する。
【0063】
上記の繊維の断面構造としては、例えば、1種類のポリマーからなる単独糸、芯鞘型、海島型又はサイドバイサイド型の複合繊維が挙げられるが、血液浄化の際に材料としての強度を保つ観点から、芯鞘繊維又は海島型複合繊維が好ましい。
【0064】
芯鞘繊維又は海島型複合繊維の場合の重合体の結合位置に限定は無いが、吸着性能発現の観点から表面側に結合していることが好ましく、例えば、芯鞘繊維の場合は鞘成分、海島型複合繊維の場合は海成分に重合体が結合していることが好ましい。
【0065】
上記の血液成分吸着材料の形状のうち、編地、フェルト及びネットは、繊維を原料として、公知の方法により製造することができる。フェルトの製造方法としては、例えば、湿式法、カーディング法、エアレイ法、スパンボンド法又はメルトブロー法が挙げられる。また、編地及びネットの製造方法としては、例えば、平織り法又は筒編み法が挙げられる。特に、単位体積当たりの充填質量が多く、血液浄化器に充填する観点から、筒編み法により製造される編地が好ましい。
【0066】
本発明の血液成分吸着用材料は、例えば、以下の方法により製造することができるが、この方法に限られるものではない。
【0067】
水不溶性である基材は市販のものをそのまま用いることができる。繊維形状、平膜形状、中空糸膜形状又は粒子形状へ任意の加工を行いたい場合は、市販の樹脂を購入し、加熱溶融して口金から吐出する又は良溶媒に溶解させた後に口金から貧溶媒若しくは大気中に吐出することにより任意の形状に成形することができる。
【0068】
重合体は、市販のものをそのまま用いることができる。また、ラジカル重合開始剤とモノマーを水に溶解し、その溶液をオイルバス中で加熱することでも得ることができる。
【0069】
市販の重合体は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール又はポリアクリル酸等が挙げられ、中でも酸性官能基との反応性が高いポリアクリル酸が好ましい。
【0070】
重合体の末端の反応性官能基と酸性官能基を含む化合物を反応、結合させる場合は、反応性官能基を有する重合開始剤を用いて重合体を製造することで重合体の末端に反応性官能基を付与することができる。
【0071】
重合開始剤の濃度は、0.01~0.5質量%が好ましく、モノマー濃度は5~30質量%が好ましい。
【0072】
重合体を形成するモノマーは市販のものをそのまま用いることができ、例えば、2-メトキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルアクリレート、ビニルピロリドン又はアクリル酸が好ましい。また、重合体の反応温度は、0~90℃が好ましく、5~40℃がより好ましい。また、重合体の反応時間は、1分~120時間が好ましく、5分~24時間がより好ましい。
【0073】
重合体の重量平均分子量は、例えば、重合開始剤の濃度を下げること、モノマー濃度を上げること、反応温度を下げること又は反応時間を短くすること等の方法により増やすことができる。
【0074】
反応性官能基を有するラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2-4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)又は4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等が好ましく、水溶性の観点から4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)がより好ましい。
【0075】
重合体結合基材は、例えば、重合体を有機溶剤又は水に溶かし、その溶液に基材を含浸し、その後、γ線照射することにより得ることができる。
【0076】
重合体を溶かした溶液への基材の含浸時間は、ムラなく重合体を基材に接触させる観点から1分~120時間が好ましく、5分~24時間がより好ましい。また、含浸温度は基材の変形を抑制しつつ重合体を十分に溶解する観点から0~90℃が好ましく、20~80℃がより好ましく、40~60℃がさらに好ましい。また、重合体の溶液中の濃度は重合体が溶解する範囲で基材表面に十分に重合体を接触させ含有率を安定させる観点から5~50質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましい。
【0077】
重合体の含有率は、例えば、溶液中の重合体濃度を上げる、重合体を溶解する溶液の種類を非極性溶媒に変更すること又は照射するγ線の強度を上げることにより増やすことができる。
【0078】
また、別の重合体結合基材の製造形態として、重合開始剤と界面活性剤を有機溶剤に溶解し、その溶液を水に滴下して分散溶液を作製し、さらに基材を含浸することで重合開始剤含有基材を作製し、さらにモノマー含有溶液中に重合開始剤含有基材を含浸することで重合体を製造すると同時に基材表面に対して重合体を結合することができる。
【0079】
分散溶液としては、例えば、重合開始剤にベンゾイルパーオキサイド、界面活性剤にポリオキシエチレンラウリルエーテル、有機溶剤にアセトンが好ましく用いられる。重合体結合基材の製造の反応温度は、基材の変形を抑制しつつ重合反応を進行させる観点から0~90℃が好ましく、5~40℃がより好ましい。また、重合体結合基材の製造の反応時間は、基材の変形を抑制しつつ重合反応を進行させる観点から1分~120時間が好ましく、5分~24時間がより好ましい。
【0080】
血液成分吸着材料は、重合体結合基材を水に含浸し、酸性官能基を含む化合物と縮合剤を当該溶液に添加して縮合反応させることにより製造できる。血液成分吸着材料の製造時の反応温度は、基材の変形を抑制しつつ縮合反応を進行させる観点から0~90℃が好ましく、5~40℃がより好ましい。また、血液成分吸着材料の製造時の反応時間は、基材の変形を抑制しつつ縮合反応を進行させる観点から1分~120時間が好ましく、5分~24時間がより好ましい。血液成分吸着材料の製造時における酸性官能基を含む化合物の濃度は、反応制御の観点から重合体結合基材1.0g当たり8mg~1.2gが好ましい。酸性官能基を含む化合物は市販のものをそのまま用いることができる。
【0081】
血液浄化材料の酸性官能基の導入量は、例えば、酸性官能基を含む化合物の濃度を上げる、縮合反応の反応時間を伸ばすことにより増加することができる。
【0082】
縮合剤は、酸性官能基を含む化合物と重合体の溶解性に近いことが好ましいため水溶性であることが好ましく、例えば、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドn水和物が好ましく用いられる。また、縮合剤の濃度は、反応を安定化する観点から重合体結合基材1.0g当たり0.1~2.0gが好ましい。
【0083】
「血液成分吸着材料」とは、血液成分を吸着する性能を有する材料を意味する。
【0084】
「血液成分」とは、血液を構成する成分を意味し、血液中の液性成分と血液中の細胞に分類される。本発明の血液成分吸着材料が吸着対象とする血液成分に特に制限はないが、血液成分の中でも血液中の液性成分が好ましく、血液中の細胞と血液中の液性成分が同時に吸着できることがより好ましい。
【0085】
「血液中の細胞」とは、血液中に含まれる細胞を意味し、例えば、顆粒球、単球若しくはリンパ球等の白血球成分、赤血球又は血小板等が挙げられる。炎症性疾患の治療を目的とする場合は、吸着対象としては、白血球成分が好ましく、白血球成分の中でも炎症性のサイトカインを放出しており、除去することで炎症性疾患を沈静化できる単球と顆粒球(活性化顆粒球、活性化単球、活性化顆粒球-活性化血小板複合体又は活性化単球-活性化血小板複合体を含む)が好ましい。
【0086】
「活性化顆粒球」及び「活性化単球」とは、サイトカインやlipopolysaccharide(以下「LPS」という)等によりサイトカイン又は活性酸素等を放出する顆粒球及び単球をそれぞれ意味する。活性化の程度は、活性化白血球が放出する活性化酸素量の測定又は表面抗原の発現をフローサイトメトリー等で測定することで判別できる。
【0087】
「活性化血小板」とは、サイトカインやLPS等によりサイトカイン又は活性酸素等を放出する血小板を意味する。
【0088】
「活性化顆粒球-活性化血小板複合体」及び「活性化単球-活性化血小板複合体」とは、活性化顆粒球又は活性化単球と活性化血小板とが結合し、自己組織への貪食作用を有するものを意味する。特に、炎症性疾患の患者の治療においては、病態に直接関与していると考えられる活性化顆粒球-活性化血小板複合体を除去することが重要と考えられる。
【0089】
「血液中の液性成分」とは、血液中に溶解している有機物を意味する。具体的には、尿素若しくはアミノ酸等の低分子有機化合物、β2-ミクログロブリン、サイトカイン、IgE若しくはIgG等のタンパク質又はLPS等の多糖類が挙げられる。中でも、サイトカイン等のタンパク質又はLPS等の多糖類が吸着対象として好ましく、さらに炎症性疾患の治療を目的とする場合はサイトカインが吸着対象としてより好ましい。
【0090】
「サイトカイン」とは、感染や外傷等の刺激により、免疫担当細胞を始めとする各種の細胞から産生され細胞外に放出されて作用する一群のタンパク質を意味し、例えば、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン1~インターロイキン15、腫瘍壊死因子-α、腫瘍壊死因子-β、ハイモビリティーグループボックス-1、エリスロポエチン又は単球走化因子が挙げられる。
【0091】
「炎症性疾患」とは、体内で炎症反応が惹起される疾患全体を意味し、例えば、全身性エリテマトーデス、悪性関節リウマチ、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、クローン病、薬剤性肝炎、アルコール性肝炎、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎、敗血症(例えば、グラム陰性菌由来の敗血症、グラム陽性菌由来の敗血症、培養陰性敗血症及び真菌性敗血症)、インフルエンザ、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS、急性呼吸促迫症候群、急性呼吸促進症候群とも表記される。)、急性肺傷害(acute lung injury;ALI)、膵炎、特発性間質性肺炎(Idiopathic Pulmonary Fibrosis;IPF)、血液製剤の輸血、臓器移植、臓器移植後の再灌流障害、胆嚢炎、胆管炎又は新生児血液型不適合等が挙げられる。
【0092】
炎症性疾患の中でも、血液中に原因物質が放出され、血液浄化による治療効果が特に期待できることから、薬剤性肝炎、アルコール性肝炎、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎若しくはE型肝炎、敗血症(例えば、グラム陰性菌由来の敗血症、グラム陽性菌由来の敗血症、培養陰性敗血症又は真菌性敗血症)、インフルエンザ、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害、膵炎又は特発性間質性肺炎が治療対象として好ましい。本発明の血液成分吸着カラムの用途としては、例えば、上記の炎症性疾患の治療用途が好ましく、中でも薬剤のみでは治療が困難であり、サイトカインと活性化白血球-活性化血小板の両方が関与している疾患と考えられる、敗血症(例えば、グラム陰性菌由来の敗血症、グラム陽性菌由来の敗血症、培養陰性敗血症又は真菌性敗血症)、インフルエンザ、急性呼吸窮迫症候群、急性肺傷害又は特発性間質性肺炎の治療用途がより好ましい。
【0093】
「吸着」とは特定の物質が材料に付着し、容易に剥離しない状態を意味する。吸着の原理としては、例えば、静電相互作用のようなイオン性相互作用、疎水性相互作用、水素結合又はファンデルワールス力又は分子絡み合いによって付着した状態や、細胞の接着や白血球の貪食等の生物学的に付着している状態が挙げられる。
【0094】
本発明の血液成分吸着材料は、血液成分吸着カラムの外形を形成する容器に充填する材料として好ましく用いられる。
【0095】
血液成分吸着カラムの外形を形成する容器の形状としては、血液成分吸着材料を充填でき、かつ、血液の入口と出口を有する容器であればよく、例えば、円柱状容器又は三角柱状、四角柱状、六角柱状若しくは八角柱状等の角柱状容器が挙げられる。
【0096】
さらに、上記血液成分吸着材料を備える血液成分吸着カラムは、細菌由来の感染症治療に用いる体外循環用として、細菌由来の感染症の治療に好適に用いることができる。細菌由来の感染症治療用として使用する場合、上記血液成分吸着材料を備える吸着カラムと患者とを血液回路で接続し、当該患者から取り出した体液を上記血液成分吸着カラムに通過させ、これを患者に戻すという体外循環方法が好ましい。体液等の処理時間としては、血液成分によるさらなる炎症誘発を抑制する観点から、持続的な処理が好ましく、4時間以上がより好ましく、24時間以上がさらに好ましい。
【0097】
上記吸着材料を備える血液成分吸着カラムは、他の体液処理方法や医療機器と併用しても構わない。他の体液処理方法や医療機器としては、例えば、血漿交換、腹膜透析、血漿分離器、ヘモフィルター、人工心肺又はECMOが挙げられる。
【0098】
血液成分吸着材料の血液中の液性成分の吸着性能の評価方法としては、サイトカインを溶解したウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum;以下「FBS」という)に血液成分吸着材料を含浸し、含浸後FBS中のサイトカイン濃度減少量を測定し、サイトカインの吸着率を算出する方法が挙げられる。
【0099】
サイトカインは炎症性疾患の病態改善のために血中から除去が好ましい物質であるため、含浸することによるサイトカインの濃度減少量が大きいほど、血液成分吸着性能が高いと判断できる。除去対象とするサイトカインとしては、インターロイキン1β、インターロイキン6、インターロイキン8、ハイモビリティーグループタンパク-1又は腫瘍壊死因子-β等が好ましく、炎症性疾患の治療においてはインターロイキン8が吸着対象としてより好ましい。
【0100】
血液成分吸着材料の抗凝固剤の吸着性能の評価方法としては、抗凝固剤を溶解した生理食塩液に血液成分吸着材料を含浸し、含浸後の生理食塩液中の抗凝固剤濃度減少量を測定し、抗凝固剤の吸着率を算出する方法が挙げられる。
【0101】
抗凝固剤は血液成分吸着材料を炎症性疾患の治療のための血液浄化療法に用いる際に添加する物質であるが、血液成分吸着材料が吸着する量が多いとより高濃度に投与する必要があり、副作用が発生するリスクが高くなる。よって、血液成分吸着材料を含浸することによる抗凝固剤の濃度減少量が大きいほど投与量を増やす必要が出るため、より好ましくないと判断できる。
【0102】
上記血液成分吸着材料へのサイトカイン又は抗凝固剤の吸着は、静電相互作用又はファンデルワールス力等の分子間力に由来する平衡反応であると考えられることから、吸着対象の濃度に依存せず、4時間程度の吸着処理を実施すれば吸着平衡に達すると考えられる。
【0103】
上記理由より、血液成分吸着材料のサイトカインの吸着率は、4時間の吸着処理実施後で100%であることが好ましく、時間依存性があるため2時間の吸着処理実施後で50%以上であれば十分な吸着性能を有すると見なすことができる。
【0104】
さらに、血液成分吸着材料に対する抗凝固剤の吸着平衡定数が、サイトカインの吸着平衡定数よりも小さい場合、血液成分吸着材料の表面を被覆している抗凝固剤はサイトカインに置換されていく。
【0105】
上記理由より、血液成分吸着材料の抗凝固剤の吸着率は、2時間の吸着処理実施後で50%未満であればサイトカインよりも吸着平衡定数が低く、抗凝固剤の吸着が抑制されていると見なすことができ、吸着率が50%未満であることが好ましく、40%未満であることがより好ましく、30%未満であることが特に好ましい。
【実施例0106】
以下、本発明の血液成分吸着材料について、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、特に指定がない場合、血液成分吸着材料、重合体及び重合体結合基材の質量は乾燥質量を表す。
【0107】
<製造方法>
(基材1の作製)
紡糸速度1200m/分の製糸条件で単繊度16dtexのポリエチレンテレフタレートからなる繊維を紡糸し、それらを10本束ねて総繊度160dtexのマルチフィラメントを得た。筒編み機(機種名:MR-1、丸善産業株式会社)を用いて、得られたマルチフィラメントを単位面積当たりの質量が100g/mの編地にし、ポリエチレンテレフタレートからなる基材1を得た。
【0108】
(基材2の作製)
以下の製糸条件で16島の海島複合繊維からなるマルチフィラメントを得た。
島成分:ポリプロピレン
海成分:ポリスチレン:ポリプロピレン=92:8(質量比率)
複合比率;島:海=50:50(質量比率)
総繊度:160dtex
フィラメント数:10本(16dtex/本)
総吐出量:総繊度160dtexとなるように条件を調整
紡速:800m/分
基材1の作製と同様に筒編み機を用いて、得られた海島複合繊維からなるマルチフィラメントを単位面積当たりの質量が100g/mの編地にし、ポリスチレンとポリプロピレンからなる基材2を得た。
【0109】
(基材3の作製)
紡糸速度1200m/分の製糸条件で単繊度16dtexのポリプロピレンからなる繊維を紡糸し、それらを10本束ねて総繊度160dtexのマルチフィラメントを得た。基材1の作製と同様に筒編み機を用いて、得られたマルチフィラメントを単位面積当たり質量100g/mの編地にし、ポリプロピレンからなる基材3を得た。
【0110】
(基材4の作製)
ポリスルホンペレットをクロロホルムに溶解し、20質量%のポリスルホン溶液を作製した。基材3を作製した当該溶液に1時間含浸した。含浸後の基材3を引き上げて風乾し、単位面積当たり質量が130g/mであり、ポリスルホンが基材中23質量%塗布されたポリプロピレンからなる基材4を得た。
【0111】
(重合体1及び重合体結合基材1の作製)
ガラス瓶の中にアセトン20g、ポリオキシエチレンラウリルエーテル3.0g、ベンゾイルパーオキサイド1.5gを添加した。そこに水を1.5L添加し、基材1を30g添加した。その後、30分85℃で加温し、ベンゾイルパーオキサイドを含浸した。含浸後の基材1を全量ガラス瓶から取り出してフラスコに入れ、さらにアクリル酸50g、水450mLを添加した。続いて、フラスコを120℃のオイルバスに入れて、1時間反応させた。フラスコから溶液をデカンデーションし、1000mLの水を入れて60℃で30分撹拌した。フラスコ中の基材1をガラスフィルター上にろ別し、5000mLの水で洗浄した。洗浄後の基材1を全量40℃に設定した真空乾燥機で24時間乾燥させて、基材1に対し重合体1が結合した中間材料である重合体結合基材1を得た。乾燥後の質量を電子天秤で測定し、得られた値(g)を重合体結合基材1の乾燥質量とした。
【0112】
さらに重合体結合基材1を2gカットし、6mol/L水酸化ナトリウム水溶液30mLに含浸した。60℃に加温し、24時間かけてポリエチレンテレフタレートからなる基材を加水分解した。得られた溶液をエバポレーションし、再度5mL水に溶解させた後にアセトン100mLに溶液を投入、重合体1を再沈殿させた。得られた重合体1をガラスフィルター上にろ別し、アセトン100mLで洗浄し、40℃に加温した真空乾燥機で4時間乾燥させることで、ポリアクリル酸からなる重合体1を得た。
【0113】
(重合体2及び重合体結合基材2の作製)
ベンゾイルパーオキサイドを5.0g、アクリル酸を20gに変更する以外は重合体結合基材1の作製と同じ方法を用いて、基材1に対しポリアクリル酸からなる重合体2が結合した中間材料である重合体結合基材2を得た。また、重合体1を得る方法と同様にして、ポリアクリル酸からなる重合体2を得た。
【0114】
(重合体3及び重合体結合基材3の作製)
ベンゾイルパーオキサイドを4.0g、アクリル酸を30gに変更する以外は重合体結合基材1の作製と同じ方法を用いて、基材1に対しポリアクリル酸からなる重合体3が結合した中間材料である重合体結合基材3を得た。また、重合体1を得る方法と同様にして、ポリアクリル酸からなる重合体3を得た。
【0115】
(重合体4及び重合体結合基材4の作製)
ベンゾイルパーオキサイドを0.5g、アクリル酸を200gに変更する以外は重合体結合基材1の作製と同じ方法を用いて、基材1に対しポリアクリル酸からなる重合体4が結合した中間材料である重合体結合基材4を得た。また、重合体1を得る方法と同様にして、ポリアクリル酸からなる重合体4を得た。
【0116】
(重合体5の作製)
メトキシポリエチレングリコール酢酸(Aldrich製)を40℃に昇温した真空乾燥機で24時間乾燥させた後、そのまま末端にカルボキシル基を有するポリエチレングリコールからなる重合体5として使用した。
【0117】
(重合体6の作製)
300mL三ツ口フラスコに水100mL、メチルメタクリレート10mL、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)0.06gを添加し、溶解するまで撹拌した。当該フラスコに窒素ガスを充填、密閉後に90℃のオイルバスに浸して撹拌しながら反応開始とした。1時間後、反応液からの析出物を取り出してガラスフィルター上にろ別し、500mLの水で洗浄した。洗浄後の析出物を40℃に昇温した真空乾燥機に入れて24時間乾燥し、末端にカルボキシル基を有するポリメチルメタクリレートからなる重合体6を5.5g得た。
【0118】
(重合体7の作製)
メチルメタクリレートを2-メトキシエチルアクリレートに変更する以外は重合体6と同じ方法で末端にカルボキシル基を有するポリ2-メトキシエチルアクリレートからなる重合体7を6.2g得た。
【0119】
(重合体8の作製)
末端にカルボキシル基を有するポリビニルアルコール(Aldrich製)を40℃に昇温した真空乾燥機で24時間乾燥させた後、そのまま重合体8として使用した。
【0120】
(重合体9の作製)
メチルメタクリレートをヒドロキシメチルアクリレートに変更する以外は重合体6の作製と同じ方法を用いて、末端にカルボキシル基を有するポリヒドロキシメチルアクリレートからなる重合体9を6.6g得た。
【0121】
(重合体10の作製)
メチルメタクリレートをビニルピロリドンに変更する以外は重合体6の作製と同じ方法を用いて、末端にカルボキシル基を有するポリビニルピロリドンからなる重合体10を6.6g得た。
【0122】
(重合体11及び重合体結合基材7の作製)
ベンゾイルパーオキサイドを3.0g、アクリル酸を200gに変更する以外は重合体結合基材1の作製と同じ方法を用いて、基材1に対しポリアクリル酸からなる重合体11が結合した中間材料である重合体結合基材7を得た。また、重合体1を得る方法と同様にして、ポリアクリル酸からなる重合体11を得た。
【0123】
(重合体12及び重合体結合基材8の作製)
ベンゾイルパーオキサイドを0.2g、アクリル酸を10gに変更する以外は重合体結合基材1の作製と同じ方法を用いて、基材1に対しポリアクリル酸からなる重合体12が結合した中間材料である重合体結合基材8を得た。また、重合体1を得る方法と同様にして、ポリアクリル酸からなる重合体12を得た。
【0124】
(重合体13及び重合体結合基材9の作製)
ベンゾイルパーオキサイドを0.5g、アクリル酸を220gに変更する以外は重合体結合基材1の作製と同じ方法を用いて、基材1に対しポリアクリル酸からなる重合体13が結合した中間材料である重合体結合基材9を得た。また、重合体1を得る方法と同様にして、ポリアクリル酸からなる重合体13を得た。
【0125】
(重合体14の作製)
300mL三ツ口フラスコに水100mL、スチレンスルホン酸ナトリウム15mL、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)0.06gを添加し、溶解するまで撹拌した。当該フラスコに窒素ガスを充填、密閉後に90℃のオイルバスに浸して撹拌しながら反応を開始した。1時間後、反応液を取り出し、メタノールに添加して析出物を回収した。40℃に昇温した真空乾燥機に析出物を入れて24時間乾燥することで、末端にカルボキシル基を有し、かつ、アミド結合を介さずに酸性官能基が繰り返し単位の側鎖に結合している重合体14を4.9g得た。
【0126】
[比較例1]
乾燥後の重合体結合基材1を2.0gと2-アミノエタンスルホン酸4mgを水50mL中に添加し、25℃で1時間撹拌した。当該溶液中に4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドn水和物を0.5g添加し、30℃で24時間反応させた。その後、反応後の重合体結合基材1をガラスフィルター上にろ別し、50mLの水で洗浄し、重合体結合基材1の重合体に対してアミド結合を介して酸性官能基が結合して形成された血液成分吸着材料1を得た。
【0127】
[実施例1]
添加する2-アミノエタンスルホン酸を8mgに変更する以外は血液成分吸着材料1の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料2を得た。
【0128】
[実施例2]
添加する2-アミノエタンスルホン酸を100mgに変更する以外は血液成分吸着材料1の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料3を得た。
【0129】
[実施例3]
添加する2-アミノエタンスルホン酸を1.5gに変更する以外は血液成分吸着材料1の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料4を得た。
【0130】
[比較例2]
添加する2-アミノエタンスルホン酸を1.6gに変更する以外は血液成分吸着材料1の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料5を得た。
【0131】
[比較例3]
添加する重合体1結合基材1を重合体結合基材2に変更し、添加する2-アミノエタンスルホン酸を100mgに変更する以外は血液成分吸着材料1の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料6を得た。
【0132】
[実施例4]
添加する重合体1結合基材1を重合体結合基材3に変更し、添加する2-アミノエタンスルホン酸を100mgに変更する以外は血液成分吸着材料1の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料7を得た。
【0133】
[実施例5]
添加する重合体結合基材1を重合体結合基材4に変更し、添加する2-アミノエタンスルホン酸を100mgに変更する以外は血液成分吸着材料1の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料8を得た。
【0134】
[比較例4]
添加する2-アミノエタンスルホン酸を2-ヒドロキシエタンスルホン酸ナトリウムに変更し、その添加量を100mgとし、さらに4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドn水和物を1-エチル-3―(3-ジメチルアミノプロピル)―カルボジイミドに変更する以外は血液成分吸着材料1の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料9を得た。
【0135】
[比較例5]
ニトロベンゼン46質量%、硫酸46質量%、パラホルムアルデヒド1質量%及びN-メチロール-α-クロルアセトアミド(以下「NMCA」という)7質量%を10℃以下で混合、撹拌、溶解させた反応液(以下「NMCA化反応液」という)を調製した。5℃に冷却した当該NMCA化反応液40mLに、2.0gの基材2を加え、反応液を5℃に保ったまま2時間反応させることで、ポリスチレンの芳香環にクロロアセトアミドメチル基を結合させた。その後、反応液から基材2を取り出し、40mLのニトロベンゼンに基材2を浸漬し洗浄した。続いて基材2を取り出し、メタノールに浸漬し洗浄を行った。さらに、塩基性官能基を含む化合物としてエチレンジアミン0.10gと、触媒としてトリエチルアミン2.1gをDMSO51gに溶解し、メタノールで洗浄した後の基材2をそのまま添加し、40℃で3時間含浸させた。ガラスフィルター上に当該編地をろ別し、500mLのDMSOで洗浄した。ガラスフィルター上に当該基材をろ別し、1Lのメタノールで洗浄した後に1Lの水で洗浄し、基材2に対し塩基性官能基を含む化合物が結合して形成された血液成分吸着材料10を得た。
【0136】
[比較例6]
ニトロベンゼン46質量%、硫酸46質量%、パラホルムアルデヒド1質量%及びNMCA7質量%を10℃以下で混合、撹拌、溶解させたNMCA化反応液を調製した。5℃に冷却した当該NMCA化反応液40mLに、2.0gの基材2を加え、反応液を5℃に保ったまま2時間反応させることで、ポリスチレンの芳香環にクロロアセトアミドメチル基を結合させた。その後、反応液から基材2を取り出し、40mLのニトロベンゼンに基材2を浸漬し洗浄した。続いて基材2を取り出し、メタノールに浸漬し洗浄を行った。
【0137】
洗浄後の基材2を、6mol/Lの塩酸50mLに添加し、110℃で24時間反応させて加水分解することで、基材2中のポリスチレンに結合したクロロアセトアミドメチル基をアミノメチル基に変換した。その後、塩酸から基材2を取り出し、500mLの水で洗浄した。得られた基材2全量とスクシン酸2.0gを水50mL中に添加し、25℃で1時間撹拌した。当該溶液中に4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドn水和物を0.5g添加し、30℃で24時間反応させた。その後、反応後の基材2のみ取り出して2-アミノエタンスルホン酸100mgを添加した50mLの水に添加し、25℃で1時間撹拌した。当該溶液中に4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドn水和物を0.5g添加し、30℃で24時間反応させた。得られた基材2をガラスフィルター上にろ別し、5000mLの水で洗浄することで、基材2に対しアミド結合を介して酸性官能基を含む化合物が結合して形成された血液成分吸着材料11を得た。
【0138】
[実施例6]
得られた乾燥後の重合体5を20質量%の濃度で水10mLに溶解し、3gの基材3を当該溶液に含浸した。溶液ごと25KGyのγ線を照射することで、基材3と重合体5を結合した。得られた基材3のみ取り出してガラスフィルター上に置き、500mLの水で洗浄した。洗浄後の基材3を40℃に昇温した真空乾燥機に入れて24時間乾燥し、基材3に対し重合体5が結合した中間材料である重合体結合基材5を得た。質量を電子天秤で測定し、得られた値(g)を乾燥質量とした。さらに、重合体結合基材1を重合体結合基材5に変更した以外は血液成分吸着材料3の作製と同じ方法を用いて血液成分吸着材料12を得た。
【0139】
[比較例7]
重合体6を20質量%の濃度でクロロホルムに溶解し3gの基材3を当該溶液に含浸した。含浸後の基材3を溶液から引き上げて風乾した後、25KGyのγ線を照射することで基材3と重合体6を結合した。照射後の基材3をガラスフィルター上に置いて500mLのクロロホルムで洗浄した。洗浄後の基材3を40℃に昇温した真空乾燥機に入れて24時間乾燥し、基材3に対し重合体6が結合した中間材料である重合体結合基材6を得た。質量を電子天秤で測定し、得られた値(g)を乾燥質量とした。重合体結合基材1を重合体結合基材6に変更した以外は血液成分吸着材料3の作製と同じ方法を用いて血液成分吸着材料13を得た。
【0140】
[実施例7]
重合体6を重合体7に変更する以外は血液成分吸着材料13の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料14を得た。
【0141】
[実施例8]
重合体5を重合体8に変更する以外は血液成分吸着材料12の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料15を得た。
【0142】
[実施例9]
重合体6を重合体9に変更する以外は血液成分吸着材料13の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料16を得た。
【0143】
[実施例10]
重合体5を重合体10に変更する以外は血液成分吸着材料12の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料17を得た。
【0144】
[実施例11]
重合体5を重合体1に変更し、基材3を基材4に変更する以外は血液成分吸着材料12の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料18を得た。
【0145】
[実施例12]
重合体5を重合体1に変更し、基材3を基材2に変更する以外は血液成分吸着材料12の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料19を得た。
【0146】
[実施例13]
重合体結合基材1を重合体結合基材7に変更にする以外は血液成分吸着材料3の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料20を得た。
【0147】
[実施例14]
重合体結合基材1を重合体結合基材8に変更にする以外は血液成分吸着材料3の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料21を得た。
【0148】
[実施例15]
添加する重合体結合基材1を重合体結合基材9に変更し、添加する2-アミノエタンスルホン酸を100mgに変更する以外は血液成分吸着材料1の作製と同じ方法を用いて、血液成分吸着材料22を得た。
【0149】
[比較例8]
ニトロベンゼン46質量%、硫酸46質量%、パラホルムアルデヒド1質量%及びNMCA化反応液)を調製した。5℃に冷却した当該NMCA化反応液40mLに、2.0gの基材2を加え、反応液を5℃に保ったまま2時間反応させることで、ポリスチレンの芳香環にクロロアセトアミドメチル基を結合させた。その後、反応液から基材2を取り出し、40mLのニトロベンゼンに基材2を浸漬し洗浄した。続いて基材2を取り出し、メタノールに浸漬し洗浄を行った。
【0150】
洗浄後の基材2を、6mol/Lの塩酸50mLに添加し、110℃で24時間反応させて加水分解することで、基材2中のポリスチレンに結合したクロロアセトアミドメチル基をアミノメチル基に変換した。その後、塩酸から基材2を取り出し、500mLの水で洗浄した。得られた基材2全量と重合体14を0.5g、水50mL中に添加し、25℃で1時間撹拌した。当該溶液中に4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドn水和物を0.5g添加し、30℃で24時間反応させた。得られた基材2をガラスフィルター上にろ別し、50mLの水で洗浄することで、基材2に対してアミド結合を介さずにスルホン酸基を含む重合体14が結合して形成された重合体結合基材10、かつ、血液成分吸着材料23を得た。
【0151】
<評価方法>
(重合体1~5、8及び10~14の重量平均分子量測定)
重合体1~5、8及び10~13を1mg/mLの濃度で0.2mol/Lリン酸緩衝液(pH6.8)に溶解させ、重合体14は1mg/mLの濃度で20体積%メタノール水溶液に溶解させて、GPCに注入した。カラムは東ソー社製TSKgelGMPWXLを用い、カラム温度は40℃、流量は1.0mL/分とし、重合体1~5、8及び10~13の溶離液は0.2mol/Lリン酸緩衝液(pH6.8)を用い、重合体14の溶離液は20体積%メタノール水溶液を用い、検出器は示差屈折率検出器RID-10A(島津製作所製)を用いて測定を行った。検量線にポリエチレンオキシド標準サンプルを用いて、重合体1~5、8及び10~14の重量平均分子量を算出した。結果を表1に示す。
【0152】
(重合体6、7及び9の重量平均分子量測定)
重合体6、7及び9を1mg/mLの濃度でクロロホルムに溶解させて、GPCに注入した。カラムは東ソー製TSKgel MultiporeHXL-Mを用い、カラム温度は40℃、流量は1.0mL/分、溶離液はクロロホルムとし、検出器は示差屈折率検出器RID-10A(島津製作所製)を用いて測定を行った。検量線にはポリスチレン標準サンプルを用いて重量平均分子量を算出した。結果を表1に示す。
【0153】
(重合体1~4及び11~13の化学構造同定)
重合体1~4及び11~13がポリアクリル酸であることは、重合体を重水に1質量%の濃度で溶解し、当該溶液の13C NMR測定を行って、カルボン酸基由来のピーク(δ=185~175ppm)が存在することと、H NMR測定を行って主鎖由来のピーク(δ=2.3-1.3)が存在することから確認した。以降の重合体の化学構造同定も含め、NMRの測定装置は全てJNM-EZ400R(日本電子製)を用いた。なお、H NMRの測定条件は、積算回数32回、緩和時間5秒とし、13C NMRの測定条件は積算回数2048回、X_angle45度、緩和時間20秒とした。以降のNMR測定においても、特に記載が無い限り、同様の条件で測定を行った。
【0154】
(重合体5の化学構造同定)
重合体5がポリエチレングリコールであることは、重合体5を重水に1質量%の濃度で溶解し、H NMR測定を行って主鎖のエチレングリコール由来のピーク(δ=3.6-3.1)が存在することから確認した。
【0155】
(重合体6の化学構造同定)
重合体6がポリメチルメタクリレートであることは、重合体6を重クロロホルム1質量%の濃度で溶解し、H NMR測定を行ってアルキルエステル基由来のピーク(δ=4.3-4.0)が存在することから確認した。
【0156】
(重合体7の化学構造同定)
重合体7がポリ2-メトキシエチルアクリレートであることは、重合体7を重クロロホルム1質量%の濃度で溶解し、H NMR測定を行って主鎖のアルカン由来のピーク(δ=2.5-1.8)、エステル基由来のピーク(δ=4.3-4.0)とエーテル隣接炭素由来のピーク(δ=3.6-3.1)が存在し、かつ、その積分比が1:2:5であることから確認した。
【0157】
(重合体8の化学構造同定)
重合体8がポリビニルアルコールであることは、重合体8を重水に1質量%の濃度で溶解し、H NMR測定を行って主鎖のアルカン由来のピーク(δ=3.6-3.1)が存在することから確認した。
【0158】
(重合体9の化学構造同定)
重合体9がポリヒドロキシメチルアクリレートであることは、重合体9を重水に1質量%の濃度で溶解し、H NMR測定を行って測定して主鎖のアルカン由来のピーク(δ=2.5-1.8)とエステル基由来のピーク(δ=4.3-4.0)とヒドロキシメチル基由来のピーク(δ=3.6-3.1)が存在し、かつ、その積分比が1:2:2であることから確認した。
【0159】
(重合体10の化学構造同定)
重合体10がポリビニルピロリドンであることは、重合体10を重水に1質量%の濃度で溶解し、13C NMR測定を行ってアミド基由来のピーク(δ=180-170)が存在することから確認した。
【0160】
(重合体14の化学構造同定)
重合体14がポリスチレンスルホン酸ナトリウムであることは、重合体14を重水に1質量%の濃度で溶解し、H NMR測定を行って芳香族由来のピーク(δ=7~8ppm)が存在することから確認した。
【0161】
上記重合体1~14の化学構造同定により得られた、重合体の繰り返し単位の化学構造を表1に示す。
【0162】
(重合体1~14の静的接触角測定)
重合体をクロロホルム又はエタノールに溶解し1質量%溶液を調製した。2cm×2cmのカバーガラスの上に液滴を垂らし、重合体溶液を塗布した。自動接触角計Drop Master DM 500(協和界面科学製)により、25℃の空気中において着水から2秒後の水の接触角を3回測定し、カーブフィッティング法により画像解析し、接触角を求めた。得られた3回の接触角の平均値を重合体の水の接触角として算出して重合体の静的接触角の値を得た。それぞれの静的接触角が60°以上の場合は×、60°未満の場合は○と判定した。結果を表1に示す。
【0163】
【表1】
【0164】
(血液成分吸着材料1~23に含まれる重合体の含有率)
血液成分吸着材料の作製中に得た重合体結合基材の乾燥質量と、重合体結合基材の作製に使用した基材の質量、血液成分吸着材料の作製に使用した重合体結合基材の質量及び血液成分吸着材料の質量から、下記式(2)を用い、得られた値の小数点第3位を四捨五入して血液成分吸着材料に含まれる重合体の含有率を算出した。
重合体の含有率[mg/g]=1000×{重合体結合基材の乾燥質量[g]-基材質量[g]}×{(血液成分吸着材料の作製に使用した重合体結合基材の質量[g]/重合体結合基材の乾燥質量[g]}/血液成分吸着材料の質量[g] ・・・式(2)
なお、血液成分吸着材料10及び11は重合体を固定化していないため、含有率は0と見なした。結果を表2に示す。
【0165】
【表2】
【0166】
(血液成分吸着材料1~23に含まれる改質重合体の含水率測定)
基材は水不溶性であるため、水に含浸して安定化した状態の血液成分吸着材料に含まれる水分量を改質重合体中に含まれる水分量として測定した。
【0167】
血液成分吸着材料を40℃の真空乾燥機で24時間以上乾燥させ、乾燥後質量で約1000mgを切り出した。100mLの蒸留水に含浸し、25℃で24時間静置した。ピンセットで血液成分吸着材料を取り出し、表面の水分を2枚の乾燥したキムタオル(日本製紙クレシア製)の間に手で押さえて10秒間挟み、水分を十分取り除いたのち、別の乾燥した2枚のキムタオルに挟み変えて手で押さえて30秒間挟んで水分を除いた。さらに別の乾燥した2枚のキムタオルに挟み変えて手で押さえて1分間挟んで水分を除いた。得られた血液成分吸着材料の質量を測定し、含水質量とした。血液成分吸着材料に含まれる重合体の含有率と血液成分吸着材料の含水質量及び乾燥後質量から、血液成分吸着材料に含まれる改質重合体が有する含水率を、下記式(3)を用いて算出した。
改質重合体の含水率(%)=100×(血液成分吸着材料の含水質量[mg]-血液成分吸着材料の乾燥後質量[mg])/(血液成分吸着材料の乾燥質量[mg]/1000×血液成分吸着材料に含まれる改質重合体の含有率[mg/g]) ・・・式(3)
なお、血液成分吸着材料10及び11は重合体の含有率が0のため、改質重合体の含水率は得られなかった。結果を表3に示す。
【0168】
(血液成分吸着材料1~9及び11~23における酸性官能基の導入量測定)
50mLのポリプロピレン製遠沈管に血液成分吸着材料を10gと6mol/L塩酸20mLを添加し、室温で30分間転倒混和した。混和後、溶液のみデカンデーションし、イオン交換水を20mL添加して5分間転倒混和した。混和後、溶液のみデカンデーションし、イオン交換水を20mL添加して5分間転倒混和する操作を10回繰り返し、最後にデカンデーションした溶液のpHをリトマス試験紙にて確認し、pH6以上であることを確認した。洗浄後の血液成分吸着材料を40℃に昇温した真空乾燥機に入れて24時間真空乾燥した。得られた乾燥済みの血液成分吸着材料1を5.0g切り出して50mLのポリプロピレン製遠沈管に入れ、30mLの生理食塩水を添加し、30分間転倒混和した。当該遠沈管から15mLの上澄み溶液を抜き取り、別の50mLのポリプロピレン製遠沈管に入れて、さらにメチルレッド水溶液とフェノールフタレイン水溶液をそれぞれ0.02mL添加した。ビュレットを用いて当該遠沈管に0.05mol/L水酸化ナトリウム水溶液を0.02mL滴下し、10回転倒混和した後に溶液の色調を確認した。水酸化ナトリウム水溶液の滴下と転倒混和、色調確認を繰り返し、溶液の色調が赤橙色から黄色へ変化したと最初に認められた時の水酸化ナトリウム水溶液の滴下量を滴定量とした。滴定量と下記式(4)を用い、得られた値の小数点第3位を四捨五入して血液成分吸着材料1g当たりの酸性官能基の導入量(mmol/g)を算出した。結果を表3に示す。
1g当たりの酸性官能基の導入量[mmol/g]={30[mL]/15[mL]}×1g当たりの滴定量[mL/g]×0.05[mol/L]/5[g] ・・・式(4)
なお、血液成分吸着材料23に含まれる酸性官能基はポリスチレンスルホン酸ナトリウムのスルホン酸基に由来しており、本発明におけるアミド結合を介して重合体に結合された酸性官能基を含む化合物に由来する酸性官能基量ではない。
【0169】
(血液成分吸着材料10における塩基性官能基の導入量測定)
50mLのポリプロピレン製遠沈管に血液成分吸着材料10を2gと6mol/L水酸化ナトリウム水溶液20mLを添加し、室温で30分間転倒混和した。混和後、溶液のみデカンデーションし、イオン交換水を20mL添加して5分間転倒混和した。混和後、溶液のみデカンデーションし、イオン交換水を20mL添加して5分間転倒混和する操作を10回繰り返し、最後にデカンデーションした溶液のpHをリトマス試験紙にて確認し、pH8以下であることを確認した。洗浄後の血液成分吸着材料10を40℃に昇温した真空乾燥機に入れて24時間真空乾燥した。得られた乾燥済みの血液成分吸着材料10を1.0g切り出して50mLのポリプロピレン製遠沈管に入れ、30mLの0.1mol/L塩酸を添加し、30分間転倒混和した。当該遠沈管から15mLの上澄み溶液を抜き取り、別の50mLのポリプロピレン製遠沈管に入れて、さらにメチルレッド水溶液とフェノールフタレイン水溶液をそれぞれ0.02mL添加した。ビュレットを用いて当該遠沈管に0.05mol/L水酸化ナトリウム水溶液を0.02mLずつ滴下し、10回転倒混和した後に溶液の色調を確認した。水酸化ナトリウム水溶液の滴下と転倒混和、色調確認を繰り返し、溶液の色調が赤橙色から黄色への変化が最初に認められた時の水酸化ナトリウム水溶液の滴下量を1g当たりの滴定量とした。1g当たりの滴定量と下記式(5)を用い、得られた値の小数点第3位を四捨五入して、血液成分吸着材料10における1g当たりの塩基性官能基の導入量(mmol/g)を算出した。
1g当たりの塩基性官能基の導入量[mmol/g]={30[mL]/15[mL]}×(30[mL]-1g当たりの滴定量[mL])×0.05[mol/L] ・・・式(5)
結果を表3に示す。
【0170】
【表3】
【0171】
実施例である血液成分吸着材料2の血液成分吸着能と抗凝固剤吸着能を確認するため、サイトカインの一種であるIL-8吸着率測定と、抗凝固剤の一種であるメシル酸ナファモスタット吸着率測定を行った。
【0172】
(血液成分吸着材料1~23のIL-8吸着率測定)
血液成分吸着材料を直径6mmの円板状に切り抜いた後、これを4枚ずつポリプロピレン製の容器に入れた。この容器に、サイトカインの一種であるインターロイキン8(以下「IL-8」という)の濃度が2000pg/mLなるように調製した30mLのFBSを、1cmの血液成分吸着材料2に対して添加し、37℃のインキュベータ内で2時間転倒混和した後、ELISA法にてFBS中のIL-8濃度を測定した。転倒混和前のIL-8濃度から下記式(6)によりIL-8吸着率を算出した。吸光度の測定にはマイクロプレートリーダー(Moleculara Devices製;Spectra Max M5)を用い、測定波長を450nm、対照波長595nmとしてあらかじめBlank測定を行ってから測定した。
IL-8吸着率(%)=100×{転倒混和前のIL-8濃度[pg/mL]-転倒混和後のIL-8濃度[pg/mL]}/転倒混和前のIL-8濃度[pg/mL] ・・・式(6)
なお、得られた値の小数点第1位を四捨五入した値を用いた。結果を表4に示す。
【0173】
(血液成分吸着材料1~23のメシル酸ナファモスタット吸着率測定)
血液成分吸着材料を直径6mmの円板状に切り抜いた後、これを4枚ずつポリプロピレン製の容器に入れた。この容器に、メシル酸ナファモスタットの濃度が400μg/mLとなるように調製した生理食塩液を、血液成分吸着材料を1cmに対して3mLとなるように添加し、37℃のインキュベータ内で2時間転倒混和させた後、上清を回収し、240nmの吸光度を測定した。この時、血液成分吸着材料なしのBlankについても同様の操作をおこなった。メシル酸ナファモスタットの濃度が2.5~1000μg/mLとなるように段階希釈した生理食塩液の240nmの吸光度を測定し、近似式を求めた。血液成分吸着材料及びBlankの240nm吸光度を近似式に回帰して、メシル酸ナファモスタット濃度を算出し、下記式(7)を用いてメシル酸ナファモスタット吸着率を算出した。
メシル酸ナファモスタット吸着率[%]={1-(血液成分吸着材料上清のメシル酸ナファモスタット濃度[μg/mL]/Blankサンプルのメシル酸ナファモスタット濃度[μg/mL])}×100 ・・・式(7)
なお、得られた値の小数点第1位を四捨五入した値を用いた。結果を表4に示す
【0174】
【表4】
【0175】
(血液浄化材料7、8及び22の溶出率測定)
血液成分吸着材料を約10g切り出して、40℃に設定した真空乾燥機で24時間乾燥させた。乾燥後の血液成分吸着の質量を0.1mg単位で測定し溶出前質量とした。生理食塩液50mLに添加して72時間40℃で振とうした。血液成分吸着材料のみ取り出し、1mol/L塩酸50mLに添加して30分間振とうした。次に、6mol/L水酸化ナトリウム水溶液50mLに血液成分吸着材料を添加して30分間振とうした。得られた血液成分吸着材料をガラスフィルターの上において、5Lのイオン交換水で洗浄し、血液成分吸着材料に付着した水滴をリトマス試験紙に接触させ、色調が5~8の範囲であることを確認した。得られた血液成分吸着材料を40℃に設定した真空乾燥機で24時間乾燥させた。その後、質量0.1mg単位を測定し、得られた質量を溶出後質量として、下記式(8)を用いて得られた値の小数点第3位を四捨五入して溶出率とした。
溶出率[%]=100×(溶出前質量[mg]―溶出後質量[mg])/溶出前質量[mg] ・・・式(8)
なお、得られた値の小数点第3位を四捨五入した値を用いた。結果を表5に示す。
【0176】
【表5】
【0177】
表1に記載の「重合体化学名」は基材に結合している重合体の繰り返し単位の一般的な化学名を意味し、「静的接触角」は重合体の静的接触角の判定結果を意味し、「重合体繰り返し単位化学構造」は重合体の化学構造同定によって得られた、重合体繰り返し単位の化学構造を意味する。
【0178】
表2に記載の「酸性官能基を含む化合物の結合構造」は酸性官能基を含む化合物と重合体の結合構造を意味し、「酸性官能基を含む化合物名」は酸性官能基を含む化合物の一般的な化学名を意味する。
【0179】
表4に記載の「抗凝固剤吸着率」は血液成分吸着材料のメシル酸ナファモスタット吸着率測定によって得られたメシル酸ナファモスタット吸着率を意味する。
【0180】
表4の実施例1~3、比較例1~3及び比較例7の結果から、本発明に記載の酸性官能基量及び含水率を有する血液成分吸着材料は、IL-8の吸着に優れており、かつ、抗凝固剤であるメシル酸ナファモスタットの吸着より優先的にIL-8の吸着が進行することが分かる。また、実施例6~10において重合体の繰り返し単位の化学構造を変更した場合でも、本発明に記載の血液成分吸着材料は効果を有することが分かる。
【0181】
実施例2と比較例4~6の結果からは、重合体にアミド結合を介して酸性官能基を含む化合物が結合することにより抗凝固剤の吸着率を増加させずに、IL-8吸着率のみを増大できるが、重合体を含有せずに塩基性官能基又は酸性官能基を結合してもIL-8吸着能は発現しないことが分かる。
【0182】
表5の実施例4、5及び15の結果から、含水率が低いほど溶出率が低下し、血液成分吸着カラムとして用いる場合の取り扱い性が良いことが分かる。
【0183】
実施例6と比較例23の結果から、重合体とアミド結合を介して酸性官能基を結合させることで、IL-8の吸着率が増加し、抗凝固剤の吸着を抑制できていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明の血液成分吸着材料は、医療分野における血液成分吸着カラム、特に炎症性疾患治療用の血液成分吸着カラムの吸着担体として利用することができる。