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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121811
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】原料液濃縮システムおよび濃縮装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/36 20060101AFI20230824BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20230824BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20230824BHJP
   B01D 71/32 20060101ALI20230824BHJP
   B01D 71/70 20060101ALI20230824BHJP
   C07K 1/34 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230824BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230824BHJP
   A61K 47/16 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
B01D61/36
B01D69/00
B01D69/02
B01D71/32
B01D71/70
C07K1/34
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/16
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106069
(22)【出願日】2023-06-28
(62)【分割の表示】P 2021551731の分割
【原出願日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】P 2019187745
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】橋本 知孝
(72)【発明者】
【氏名】須賀 友規
(57)【要約】
【課題】膜蒸留用膜のウェッティングを抑制し、常温においても工業的に実現可能な処理速度を持つ、医薬製造プロセスにおける原料液の濃縮システムを提供すること。
【解決手段】溶媒および溶質を含有する原料液と、冷却水とを、膜蒸留用膜を介して接触させ、前記原料液中の前記溶媒を、蒸気の状態で前記膜蒸留用膜を通過させ、前記冷却水側に移動させる膜蒸留法を用いる、原料液濃縮システムにおいて、前記膜蒸留用膜として、表面の水接触角が90°以上であり、平均孔径が0.02μm以上0.5μm以下の範囲であり、かつ、空隙率が60%以上90%以下である多孔質膜を用いる、医薬製造プロセス用の原料液濃縮システム。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒および溶質を含有する原料液と、冷却水とを、膜蒸留用膜を介して接触させ、前記原料液中の前記溶媒を、蒸気の状態で前記膜蒸留用膜を通過させ、前記冷却水側に移動させる膜蒸留法を用いる、原料液濃縮システムにおいて、
前記溶媒は、水と、アセトニトリル、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールから選択される1種以上との混合物から選ばれ、
前記膜蒸留用膜は、
表面の水接触角が90°以上であり、
平均孔径が0.02μm以上0.5μm以下の範囲であり、かつ、
空隙率が60%以上90%以下である
多孔質膜であって、
前記膜蒸留用膜の少なくとも一部に、シロキサン結合を有するポリマーおよびフッ素原子含有ポリマーから選ばれる疎水性ポリマーが付着しており、
前記疎水性ポリマーの付着量が、前記膜蒸留用膜の厚さ方向に分布を有し、前記膜蒸留用膜の少なくとも片面の表層における付着量が、内部の付着量よりも多く、
前記膜蒸留用膜のTOF-SIMS分析を行ったとき、
前記膜蒸留用膜の厚さ方向中央部における前記疎水性ポリマー由来のm/z強度と前記膜蒸留用膜の材料由来のm/z強度との強度比に対する、
前記膜蒸留用膜の少なくとも片面の表層における前記疎水性ポリマー由来のm/z強度と前記膜蒸留用膜の材料由来のm/z強度との強度比の割合
が、2.0倍以上である、
医薬製造プロセス用の原料液濃縮システム。
【請求項2】
溶媒および溶質を含有する原料液と、冷却水とを、膜蒸留用膜を介して接触させ、前記原料液中の前記溶媒を、蒸気の状態で前記膜蒸留用膜を通過させ、前記冷却水側に移動させる膜蒸留法を用いる、原料液濃縮システムにおいて、
前記溶媒は、水と、アセトニトリル、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールから選択される1種以上との混合物から選ばれ、ただし、前記溶媒が水とアセトニトリルとの混合物であるとき、前記溶媒中のアセトニトリルの割合は、10容積%以下であり、
前記膜蒸留用膜は、
表面の水接触角が90°以上であり、
平均孔径が0.02μm以上0.5μm以下の範囲であり、かつ、
空隙率が60%以上90%以下である
多孔質膜であって、
前記膜蒸留用膜の少なくとも一部に、シロキサン結合を有するポリマーおよびフッ素原子含有ポリマーから選ばれる疎水性ポリマーが付着しており、
前記疎水性ポリマーの付着量が、前記膜蒸留用膜の厚さ方向に分布を有し、前記膜蒸留用膜の少なくとも片面の表層における付着量が、内部の付着量よりも多い、
医薬製造プロセス用の原料液濃縮システム。
【請求項3】
前記膜蒸留用膜のIRスペクトル解析をATR法によって行ったとき、
前記膜蒸留用膜の片側面における前記疎水性ポリマー由来のピーク強度と前記膜蒸留用膜の材料由来のピーク強度とのピーク強度比に対する、
前記膜蒸留用膜の反対面における前記疎水性ポリマー由来のピーク強度と前記膜蒸留用膜の材料由来のピーク強度とのピーク強度比の割合
が、1.2倍未満である、
請求項2に記載の原料液濃縮システム。
【請求項4】
前記溶媒が、水とアセトニトリルとの混合物、および水とイソプロパノールとの混合物から選ばれる、請求項1~3のいずれか一項に記載の原料液濃縮システム。
【請求項5】
前記疎水性ポリマーの付着量が、前記膜蒸留用膜の片面の表層から、反対面の表層に向かって減少して行く、請求項1~4のいずれか一項に記載の原料液濃縮システム。
【請求項6】
前記疎水性ポリマーの付着量が少ない前記反対面が親水化処理されており、当該親水化処理された側の面を冷却水と接触させ、かつ、
疎水性ポリマーの付着量が多い前記片面の側が、親水化処理されておらず、当該片面を前記原料液に接触させる、
請求項5に記載の原料液濃縮システム。
【請求項7】
前記疎水性ポリマーが、側鎖にフッ素原子含有基を持つポリマーであり、(パー)フルオロアルキル基、(パー)フルオロポリエーテル基、アルキルシリル基、フルオロシリル基から選ばれる少なくとも1つの側鎖をもつ、請求項1~6のいずれか一項に記載の原料液濃縮システム。
【請求項8】
前記溶質が、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖、ワクチン、核酸、抗生物質、抗体薬物複合体(ADC)、およびビタミン類から成る群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~7のいずれか一項に記載の原料液濃縮システム。
【請求項9】
前記溶質の数平均分子量が、100~50,000である、請求項1~8のいずれか一項に記載の原料液濃縮システム。
【請求項10】
前記原料液の温度が、5℃以上50℃以下の範囲に調整されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の原料液濃縮システム。
【請求項11】
膜蒸留用膜を具備し、膜蒸留法によって原料液の濃縮を行うための濃縮装置であって、
前記原料液は、溶媒および溶質を含有し、
前記溶媒は、水と、アセトニトリル、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールから選択される1種以上との混合物から選ばれ、
前記膜蒸留用膜は、
膜表面の水接触角が90°以上であり、
平均孔径が0.02μm以上0.5μm以下の範囲であり、かつ、
空隙率が60~90%である
多孔質膜であって、
前記膜蒸留用膜の少なくとも一部に、シロキサン結合を有するポリマーおよびフッ素原子含有ポリマーから選ばれる疎水性ポリマーが付着しており、
前記疎水性ポリマーの付着量が、前記膜蒸留用膜の厚さ方向に分布を有し、前記膜蒸留用膜の少なくとも片面の表層における付着量が、内部の付着量よりも多く、
前記膜蒸留用膜のTOF-SIMS分析を行ったとき、
前記膜蒸留用膜の厚さ方向中央部における前記疎水性ポリマー由来のm/z強度と前記膜蒸留用膜の材料由来のm/z強度との強度比に対する、
前記膜蒸留用膜の少なくとも片面の表層における前記疎水性ポリマー由来のm/z強度と前記膜蒸留用膜の材料由来のm/z強度との強度比の割合
が、2.0倍以上である、
濃縮装置。
【請求項12】
膜蒸留用膜を具備し、膜蒸留法によって原料液の濃縮を行うための濃縮装置であって、
前記原料液は、溶媒および溶質を含有し、
前記溶媒は、水と、アセトニトリル、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールから選択される1種以上との混合物から選ばれ、ただし、前記溶媒が水とアセトニトリルとの混合物であるとき、前記溶媒中のアセトニトリルの割合は、10容積%以下であり、
前記膜蒸留用膜は、
膜表面の水接触角が90°以上であり、
平均孔径が0.02μm以上0.5μm以下の範囲であり、かつ、
空隙率が60~90%である
多孔質膜であって、
前記膜蒸留用膜の少なくとも一部に、シロキサン結合を有するポリマーおよびフッ素原子含有ポリマーから選ばれる疎水性ポリマーが付着しており、
前記疎水性ポリマーの付着量が、前記膜蒸留用膜の厚さ方向に分布を有し、前記膜蒸留用膜の少なくとも片面の表層における付着量が、内部の付着量よりも多く、
前記膜蒸留用膜のIRスペクトル解析をATR法によって行ったとき、
前記膜蒸留用膜の片側面における前記疎水性ポリマー由来のピーク強度と前記膜蒸留用膜の材料由来のピーク強度とのピーク強度比に対する、
前記膜蒸留用膜の反対面における前記疎水性ポリマー由来のピーク強度と前記膜蒸留用膜の材料由来のピーク強度とのピーク強度比の割合
が、1.2倍未満である、
濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料液濃縮システムおよび濃縮装置に関する。詳しくは、膜蒸留法により医薬品原体および中間体を含有する原料液から溶媒の一部を分離して原料液を濃縮することにより、原料液中の成分の変質、減少等を抑え、効率よく原料液を濃縮することが可能な、原料液濃縮システムおよび濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
濃縮を必要とする原料液が、溶媒として水および有機溶媒の双方を含む場合は、工業上、数多く存在する。
ペプチド、タンパク質等の、アミノ酸配列を有する物質は、診断・検査薬、医薬品として広く利用されている。これらは非常に高価であるため、製造工程において、変性をさせず、収率高く回収することが重要である。
安定的に効率よくタンパク質を取り出して精製するための一つの方法として、限外濾過膜が一般的に使用されている。限外濾過膜は、成分を篩分けにより分離する技術であり、温度変化を伴わない分離方法であるため、エネルギー負荷を下げることが可能である。例えば分子量数千から数百万の分子量をもつタンパク質は、限外濾過膜で分画精製できることが多い。限外濾過膜を用いると、膜の分画分子量以上の大きさの成分は原料液中に保持されるが、溶媒である水は膜を通り抜ける。そのため、限外濾過膜は、タンパク質を含む溶液の濃縮等には有効である (例えば特許文献1) 。
また、溶媒を分子レベルで透過させる膜を用いた逆浸透(RO:Reverse Osmosis)法が知られている。RO法は、原料液を、当該原料液の浸透圧より高い所定の圧力に昇圧したうえでRO膜モジュールに供給し、原料液中の溶媒(典型的には水)が、RO膜を透過して除去されることにより、原料液を濃縮する方法である(例えば、特許文献2)。
【0003】
これらとは別の原料液の濃縮方法として、液体の持つ蒸気圧差を利用して原料液中の溶媒を分離する膜蒸留(MD:Membrane distillation)法が知られている。膜蒸留法の1つの方法として、原料液と、当該原料液よりも温度の低い冷却水とを膜を介して接触させ、原料液から冷却水へ原料液中の有効物質を含まない蒸気が移動することにより、原料液が濃縮されるDCMD法(Direct contact MD)がよく知られている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/170977号
【特許文献2】特開平11-75759号公報
【特許文献3】国際公開第2016/006670号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の限外濾過膜では、原料液の加圧を要するため、原料液に含まれる溶質の膜表面への固着が起こり、回収率が低下する課題があった。また、昨今開発が進められている中分子医薬の場合、分子量が限外濾過膜の分画分子量よりも小さいものがあり、限外濾過膜を一部透過するため、回収率が低下する。
特許文献2のRO法では、原料液の加圧が必要なため、原料液に含まれる溶質のRO膜表面への固着が起こり、回収率が低下する課題があった。また、RO法は、濃縮された原料液の、溶媒の浸透圧が、加圧に用いる高圧ポンプの圧力を超えることはないため、RO法による原料液の濃縮率には、ポンプの能力に応じた限界がある。
【0006】
一方、特許文献3の膜蒸留法によると、膜蒸留用膜がウェッティングされると、原料液が冷却水側に流入するため、濃縮を行うことができなくなっていた。また、膜蒸留用膜としては、孔径の小さい多孔質膜が選ばれているため、蒸気の透過量が小さいことが課題であった。さらに、蒸気の透過量を上げるには、原料液の温度を高くすることが必要となる。この場合、原料液は、一般的には60℃以上に加熱されることが多く、酵素、ペプチド等の熱による変性が懸念される溶質を含む原料液の濃縮には、膜蒸留法を適用した報告例は少ない。
本発明は、膜蒸留法の課題である、膜蒸留用膜のウェッティングを抑制し、常温においても工業的に実現可能な処理速度を持つ、医薬製造プロセスにおける原料液の濃縮システムおよび濃縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するべくなされたものである。
すなわち、本発明者らは、原料液を膜蒸留法で濃縮する際、膜蒸留用膜として、透水性が高く、かつ疎水性が高い多孔質膜を用いることにより、膜蒸留用膜の原料液によるウェッティングが抑制され、常温においても効率よく蒸気を取り出すことができ、その結果、原料液中の有効成分の変性を防ぎつつ、効率のよい濃縮を行えることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0008】
《態様1》溶媒および溶質を含有する原料液と、冷却水とを、膜蒸留用膜を介して接触させ、前記原料液中の前記溶媒を、蒸気の状態で前記膜蒸留用膜を通過させ、前記冷却水側に移動させる膜蒸留法を用いる、原料液濃縮システムにおいて、
前記膜蒸留用膜として、表面の水接触角が90°以上であり、平均孔径が0.02μm以上0.5μm以下の範囲であり、かつ、空隙率が60%以上90%以下である多孔質膜を用いる、
医薬製造プロセス用の原料液濃縮システム。
《態様2》前記膜蒸留用膜の少なくとも一部に疎水性ポリマーが付着している、態様1に記載の原料液濃縮システム。
《態様3》前記疎水性ポリマーの付着量が、前記膜蒸留用膜の厚さ方向に分布を有し、前記膜蒸留用膜の少なくとも片面の表層における付着量が、内部の付着量よりも多い、態様2に記載の原料液濃縮システム。
《態様4》前記疎水性ポリマーの付着量が、前記膜蒸留用膜の片面の表層から、反対面の表層に向かって減少して行く、態様3に記載の原料液濃縮システム。
《態様5》前記疎水性ポリマーの付着量が少ない前記反対面が親水化処理されており、当該親水化処理された側の面を冷却水と接触させ、かつ、
疎水性ポリマーの付着量が多い前記片面の側が、親水化処理されておらず、当該片面を前記原料液に接触させる、
態様4に記載の原料液濃縮システム。
《態様6》前記疎水性ポリマーが、側鎖にフッ素原子含有基を持つポリマーであり、(パー)フルオロアルキル基、(パー)フルオロポリエーテル基、アルキルシリル基、フルオロシリル基から選ばれる少なくとも1つの側鎖をもつ、態様2~5のいずれか一項に記載の原料液濃縮システム。
《態様7》前記膜蒸留用膜の材料が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、およびポリクロロトリフルオロエチレンから成る群から選ばれる少なくとも1つの樹脂を含む、態様1~6のいずれか一項に記載の原料液濃縮システム。
《態様8》前記溶媒が、水、アセトニトリル、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールから成る群から選ばれる少なくとも1種を含む、態様1~7のいずれか一項に記載の原料液濃縮システム。
《態様9》前記溶質が、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖、ワクチン、核酸、抗生物質、抗体薬物複合体(ADC)、およびビタミン類から成る群から選ばれる少なくとも1種である、態様1~8のいずれか一項に記載の原料液濃縮システム。
《態様10》前記溶質の数平均分子量が、100~50,000である、態様1~9のいずれか一項に記載の原料液濃縮システム。
《態様11》前記原料液の温度が、5℃以上50℃以下の範囲に調整されている、態様1~10のいずれか一項に記載の原料液濃縮システム。
《態様12》膜蒸留用膜を具備し、膜蒸留法によって原料液の濃縮を行うための濃縮装置であって、
前記膜蒸留用膜として、膜表面の水接触角が90°以上であり、平均孔径が0.02μm以上0.5μm以下の範囲であり、かつ、空隙率が60~90%である膜を用いる、
濃縮装置。
《態様13》前記膜蒸留用膜の少なくとも一部に疎水性ポリマーが付着している、態様13に記載の濃縮装置。
《態様14》前記疎水性ポリマーの付着量が、前記膜蒸留用膜の厚さ方向に分布を有し、前記膜蒸留用膜の少なくとも片面の表層における付着量が、内部の付着量よりも多い、態様13に記載の濃縮装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の濃縮システムは、例えばアミノ酸配列を有する溶質を含有する原料液を、常温付近の膜蒸留プロセスによって濃縮する際、ウェッティングを起こさず、かつ原料液の溶質組成を実質的に維持したまま、濃縮できる。
本発明の濃縮システムを、医薬品等の製造プロセスにおいて、医薬用途で用いられる有用成分を含む原料液の濃縮に適用すれば、熱および圧力に弱い有用成分を、変性することなく、かつ高回収率で濃縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の原料液濃縮システムに適用する膜モジュールの実施態様の一例を説明するための概念図である。
図2】本発明の原料液濃縮システムの実施態様の一例を説明するための概念図である。
図3】本発明の原料液濃縮システムに適用される膜と疎水性ポリマーの付着に関する実施態様の一例を説明するための概念図である。
図4】本発明の原料液濃縮システムに適用される膜と親水化に関する実施態様の一例を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態を、非限定的な例として具体的に説明する。
《原料液濃縮システム》
本発明の原料液濃縮システムついて、図を参照にしつつ、説明する。
図1は、本発明の濃縮システムにおいて、原料液を膜蒸留によって濃縮するときに好ましく使用される、膜蒸留用膜モジュールの一例を示す。
図1の膜蒸留用膜モジュール(100)は、ハウジング(10)内に複数の中空糸状の膜蒸留用膜(20)が収納され、これらの両端部は、接着樹脂(30)によって接着固定されている。ここで、膜蒸留用膜(20)の両端は、閉塞されずに開口している。
ハウジング(10)の側面には、冷却水(CW)を流入させるための第1のハウジング側管(11)と、冷却水(CW)を排出させるための第2のハウジング側管(12)とを有し、これらにより、膜蒸留用膜(20)の外部空間に冷却水(CW)を流通させることができる。
ハウジング(10)の軸方向(図1の左右方向)の両端には、原料液(a)を流入させるための左側開口部と、原料液(a)を排出させるための右側開口部とを有し、これらにより、膜蒸留用膜(20)の中空部に原料液(a)を流通させることができる。
膜蒸留用膜モジュール(100)の内部は、膜蒸留用膜(20)によって、膜蒸留用膜(20)の中空部側の空間と、膜蒸留用膜(20)の外部空間側の空間とに分割されている。これら2つの空間は、所定の溶媒が膜蒸留用膜(20)の外壁を通過して行き来することができる他は、流体的に遮断されている。
【0012】
膜蒸留用膜(20)は例えば中空糸状であり、その外壁は、強い疎水性を有し、多孔質でありながら液体が内部に進入せず、かつ、外壁を気体のみが通過できる性状であることが必要である。また常温においても高い蒸気透過性が求められるため、高い空孔率と適切な平均孔径とを有する必要がある。
本発明では、
膜蒸留用膜として、膜表面の水接触角が90°以上であり、平均孔径が0.02μm以上0.5μm以下の範囲であり、かつ、空隙率が60%以上90%以下の多孔質膜を用いる。
【0013】
膜蒸留法にて原料液を濃縮するには、膜蒸留用膜(20)の片側(図1では中空糸状の膜蒸留用膜の中空部側空間)に原料液(a)を流し、一方、原料液(a)よりも温度の低い冷却水(CW)をもう一方の側(図1では状の膜蒸留中空糸膜の外部空間側)に流す。すると、膜壁内部で両空間に連通する細孔は、膜壁を介して原料液(a)および冷却水(CW)に接する。その結果、蒸気圧の高い原料液(a)から発生した蒸気が、膜壁を通過して蒸気圧の低い冷却水(CW)まで移動して、冷却されて液化することにより、原料液(a)が濃縮される。
【0014】
図2は、本発明の濃縮システムの一例を示す。
図2の濃縮システムでは、図1で示した膜蒸留用膜モジュール(100)の軸方向両端に、原料液(a)を循環させる手段(配管系統)が備えられている。原料液(a)を循環させる配管系統には、原料液貯留タンク(200)、原料液(a)を循環するためのポンプ(P)、循環流量を示す流量計(FM)、循環流量を調整する流量調整装置(図示せず)、原料液(a)の温度を設定温度に保つ温調器(TC)、および膜蒸留用膜モジュール(100)に原料液(a)を供給するときの液圧を表示する圧力計(PG)が設置されている。原料液貯留タンク(200)には液面計(LG)が備えられ、液位の低下の程度により、濃縮率を推定することができる。
【0015】
一方、膜蒸留用膜モジュール(100)のハウジング側管には、冷却水(CW)を循環させる手段(配管系統)が備えられている。この配管系統には、冷却水貯留タンク(300)、冷却水(CW)を循環するためのポンプ(P)、循環流量を示す流量計(FM)、循環流量を調整する流量調整装置(図示せず)、および冷却水(CW)の温度を設定温度に保つ温調器(TC)が設置されている。膜蒸留によって原料液(a)から冷却水(CW)に溶媒が移動して冷却水(CW)の容量は経時的に増加する。そのため、冷却水貯留タンク(300)の貯留量は、膜蒸留の継続によって増加する。このとき、冷却水(CW)が廃棄可能である場合には、冷却水貯留タンク(300)にオーバーフロー口を設置して、冷却水(CW)の貯留量を一定容積に維持することができる。
【0016】
医薬品等の製造用の原料液濃縮システムにおいては、ペプチド、たんぱく質等の、加熱によって分解し得るものを含む原料液(a)を取り扱うため、原料液(a)を低温(例えば50℃以下)に保つことが必要である。また、原料液(a)の溶媒(b)として、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の表面張力の小さい液体が使用される。
これらのことから、膜蒸留用の膜には、低表面張力の液体にも濡れない強い疎水性と、常温の原料液(a)から溶媒(b)の蒸気を効率的に取り出すために、蒸気通過性の高いことが求められる。
したがって、本発明で用いられる膜蒸留用膜は、強い疎水性であることが必要であり、水接触角が90°以上であることが求められる。また、高い蒸気通過性を確保することが必要であり、平均孔径が0.02μm以上0.5μm以下の範囲であり、かつ、空隙率が60%以上90%以下の多孔質膜であることが求められる。これらの要件については後述する。
【0017】
《原料液濃縮システムの各要素》
以上、本発明の原料液濃縮システムよる原料液の濃縮の概要を説明した。引き続き、本発明の原料液濃縮システムを構成する各要素について、以下に詳説する。
〈原料液(a)〉
原料液(a)とは、溶質および溶媒(b)を含有する流体であり、本発明のシステムによって濃縮されることが予定されている。この原料液(a)は、流体である限りにおいて、乳化物であってもよい。
本発明に適用される原料液(a)としては、例えば、医薬品、医薬品原料、医薬品原体、医薬品中間体等(以下、これらを総称して「医薬品原体等」という。)を含む溶液または分散液;食品;海水;ガス田・油田等から排出される随伴水等を挙げることができる。
本発明の原料液濃縮システムでは、原料液aの組成がほぼそのまま維持されつつ、溶媒が除去された濃縮液(c)が得られる。そのため、本発明の原料液濃縮システムを、溶質として医薬品原体等を含む溶液または分散液の濃縮に適用すると、医薬効能を維持した状態で濃縮することが可能となる。
【0018】
[原料液aの溶質]
医薬品原体等としては、例えば、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖、ワクチン、核酸、抗生物質、抗体薬物複合体(ADC)、およびビタミン類から成る群から選ばれる有用物質を溶質とし、この溶質が適当な溶媒中に溶解または分散されたものであることが好ましい。
【0019】
アミノ酸は、カルボキシル基およびアミノ基、ならびにこれらを連結している部分から成るアミノ酸骨格を1個有する化合物である。本明細書におけるアミノ酸は、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、および非天然アミノ酸を包含する概念である。
必須アミノ酸としては、例えば、トリプトファン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等が挙げられる。非必須アミノ酸としては、例えば、アルギニン、グリシン、アラニン、セリン、チロシン、システイン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。
【0020】
非天然アミノ酸とは、分子内にアミノ酸骨格を有する、天然に存在しない人工のあらゆる化合物を指す。しかしながら、医薬品原体等としての非天然アミノ酸としては、アミノ酸骨格に所望の標識化合物を結合させて得られるものが挙げられ。標識化合物としては、例えば、色素、蛍光物質、発光物質、酵素基質、補酵素、抗原性物質、タンパク質結合性物質等が挙げられる。
医薬品原体等として好ましい非天然アミノ酸の例として、例えば、標識アミノ酸、機能化アミノ酸等が挙げられる。
標識アミノ酸は、アミノ酸骨格と標識化合物とが結合した非天然アミノ酸であい、その具体例としては、例えば、側鎖に芳香環を含むアミノ酸骨格に、標識化合物が結合したアミノ酸等が挙げられる。
機能化アミノ酸の例としては、例えば、光応答性アミノ酸、光スイッチアミノ酸、蛍光プローブアミノ酸、蛍光標識アミノ酸等が挙げられる。
【0021】
ペプチドは、2残基以上70残基未満のアミノ酸残基が結合した化合物を指し、鎖状であっても、環状であってもよい。ペプチドとしては、例えば、L-アラニル-L-グルタミン、β-アラニル-L-ヒスチジンシクロスポリン、グルタチオン等が挙げられる。
タンパク質は、一般的には、アミノ酸残基が結合した化合物のうちのペプチドよりも長鎖のものを指す。本明細書におけるタンパク質としては、例えば、タンパク製剤として適用されるものが好ましい。
タンパク製剤としては、例えば、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1~12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G-CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第VIII因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血清アルブミン、カルシトニン等が挙げられる。
【0022】
糖としては、例えば、単糖類、二糖類、糖鎖(二糖類を除く)、糖鎖誘導体等が挙げられる。
単糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、リボース、デオキシリボース等が挙げられる。二糖類としては、例えば、マルトース、スクロース、ラクトース等が挙げられる。
本明細書における糖鎖とは、二糖類を除く概念であり、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、グルクロン酸、イズロン酸等が挙げられる。糖鎖誘導体としては、例えば、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルノイラミン酸等の、糖類誘導体等が挙げられる。
【0023】
ワクチンとしては、例えば、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、C型肝炎ワクチン等が;
核酸としては、例えば、オリゴヌクレオチド、RNA、アプタマー、デコイ等が;
抗生物質としては、例えば、ストレプトマイシン、バンコマイシン等が;
それぞれ挙げられる。
【0024】
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA類、ビタミンB類、ビタミンC類等が挙げられ、これらの誘導体、塩等も含む概念である。ビタミンB類には、例えば、ビタミンB6、ビタミンB12等が包含される。
【0025】
原料液に含まれる溶質の数平均分子量は、100~75,000程度であってよく、好ましくは100~50,000程度、より好ましくは100~10,000程度であり、100~6,000の低分子化合物であることが特に好ましい。
溶質の分子量が過度に小さいと、膜蒸留用膜を透過する場合があり、分子量が過度に大きいと、膜表面への溶質の付着が起こる場合があり、好ましくない。
【0026】
[原料液(a)における溶媒(b)]
原料液(a)における溶媒(b)は、液体であり、原料液(a)中の溶質を溶解または分散できるものである限り、あらゆる無機溶媒または有機溶媒であることができる。
溶媒として、好ましくは、水、または、アセトニトリル、メタノール、エタノール、もしくはイソプロパノールであり、これらのうちから選択される1種以上を適宜選択して使用してよい。溶媒は、例えば、水、アセトニトリル、メタノール、およびイソプロパノールから選択される2種以上を含む混合物であってもよい。
【0027】
〈濃縮液(c)〉
原料液(a)が濃縮されて得られる濃縮液(c)は、原料液(a)中の溶質をほぼそのまま維持し、かつ、溶媒(b)が優先的に分離されることにより得られる。本発明の原料液濃縮システムでは、原料液(a)から分離される溶媒(b)の量を任意に制御することができる。
【0028】
〈膜蒸留用膜〉
本発明で用いられる膜蒸留用膜としては、多孔質膜を用いることが好ましい。
多孔質膜は、膜の一方の表面から他方の表面まで厚み方向に連通している細孔(連通孔)を有している。細孔は、膜材料(例えばポリマー)のネットワークの空隙であってよく、枝分かれしていても直通孔でもよい。細孔は、蒸気を通すが液体を通さないものであってよい。
【0029】
本発明で用いられる膜蒸留用膜は、少なくとも片側表面の水接触角が、膜のウェッティングを回避する観点から、90°以上であり、好ましくは90°よりも大きく、より好ましくは110°以上であり、さらに好ましくは120°以上である。膜の水接触角には、本発明の奏する効果との関係では上限はないが、現実的には150°以下であってよい。
本明細書における水接触角は、JIS R 3257準拠の液滴法により測定される値である。具体的には、2μLの純水を測定対象物表面に滴下し、測定対象物と液滴とが形成する角度を、投影画像から解析することで数値化する。
本発明で用いられる膜蒸留用膜では、片側表面のうちの実質的にすべての領域面で、上記範囲の水接触角を示すことが好ましい。
なお、本発明で用いられる膜蒸留用膜の形状については後述するが、中空糸状である場合、当該中空糸の外側表面が、上記範囲の水接触角を示すことが好ましい。
【0030】
膜蒸留用膜の平均孔径は、0.02μm以上0.5μm以下の範囲内であり、好ましくは0.03μm以上0.3μm以下の範囲内である。平均孔径が0.02μm以上である場合、蒸気の透過抵抗が大きくなり過ぎず、原料液aの濃縮速度が速くなる。平均孔径が0.5μm以下である場合、膜のウェッティングの抑制効果が良好である。平均孔径は、ASTM:F316-86に準拠して、ハーフドライ法で測定される値である。
蒸気透過性とウェッティング抑制との両立の観点から、膜の孔径分布は狭い方が好ましい。具体的には、平均孔径に対する最大孔径の比である孔径分布が、好ましくは1.2~2.5の範囲内、より好ましくは1.2~2.0の範囲内である。上記最大孔径は、バブルポイント法を用いて測定される値である。
【0031】
膜蒸留用膜の空隙率は、高い蒸気透過性と、長期耐久性とを両立させる観点から、60%以上90%以下の範囲である。高い蒸気透過性を得るために、膜蒸留用膜の空隙率は、60%以上であり、好ましくは70%以上である。膜自体の強度が良好に維持され、長期使用の際に破断等の問題を発生させにくくする観点から、膜蒸留用膜の空隙率は、90%以下であり、好ましくは85%以下である。
膜蒸留用膜の表面開口率は、効率的な濃縮速度を得る観点から、各表面について、好ましくは15%以上、より好ましくは18%以上、さらに好ましくは20%以上であり、膜自体の強度が良好に維持され、長期使用の際に破断等の問題を発生させにくくする観点から、好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下、さらに好ましくは50%以下である。上記表面開口率は、膜表面の走査型電子顕微鏡(SEM)による観察画像において、画像解析ソフトで孔部を検出することにより求められる値である。
【0032】
膜蒸留用膜を構成する材料としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、およびポリクロロトリフルオロエチレンから成る群から選ばれる少なくとも1つの樹脂を含む材料が挙げられる。疎水性、機械的耐久性、および熱的耐久性に優れる膜を、高い成膜性で製造できるとの観点からは、ポリフッ化ビニリデン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、またはポリクロロトリフルオロエチレンが好ましい。
【0033】
本発明の一様態として、疎水性向上のために、膜蒸留用膜の少なくとも一部に、疎水性ポリマーが付着していてよい。疎水性ポリマーは、膜蒸留用膜の少なくとも片側の表面または膜内部に疎水性の被膜を形成して、膜に撥水性を付与し、または膜の撥水性を向上させることができる。
疎水性ポリマーは、例えば、水、フッ素系溶媒等の適当な溶媒中に溶解した溶液状態で、膜蒸留用膜に塗布した後、溶媒を蒸発させることにより、膜の表面もしくは内部、又はこれらの双方に、付着させることができる。疎水性ポリマー溶液の塗布は、例えば、スプレー等の噴霧、浸漬等の適宜の方法によって、行われてよい。
本明細書において、「疎水性ポリマー」とは、水との親和性が低いポリマーを意味し、例えば、疎水性構造を有するポリマーであってよい。疎水性構造としては、非極性基または低極性基、非極性骨格または低極性骨格等が挙げられる。非極性基または低極性基としては、例えば、炭化水素基、含フッ素基等が挙げられ、非極性骨格または低極性骨格としては、例えば、炭化水素主鎖、シロキサン主鎖等が挙げられる。
【0034】
疎水性ポリマーとしては、例えば、シロキサン結合を有するポリマー、フッ素原子含有ポリマー等が挙げられ、より具体的には、例えば、以下のものが挙げられる:
(ア)シロキサン結合を有するポリマーとして、例えば、ジメチルシリコーンゲル、メチルフェニルシリコーンゲル、有機官能基(アミノ基、フルオロアルキル基等)を有する反応性変性シリコーンゲル、シランカップリング剤と反応して架橋構造を形成するシリコーン系ポリマー等、およびこれらの架橋体であるポリマーゲル
(イ)フッ素原子含有ポリマーとして、側鎖にフッ素原子含有基を持つポリマー、ここで、フッ素原子含有基は、(パー)フルオロアルキル基、(パー)フルオロポリエーテル基、アルキルシリル基、フルオロシリル基等である。
特に、疎水性ポリマーが、炭素数1~12の(パー)フルオロアルキル基および/または(パー)フルオロポリエーテル基を有する、(メタ)アクリレート系モノマーおよび/またはビニル系モノマーの重合体であることが好ましい。
【0035】
疎水性ポリマーは、膜蒸留用膜の細孔内全体に付着していてもよいが、細孔内への液体の進入を防ぎ、蒸気の透過性を確保する観点から、疎水性ポリマーの付着量が膜蒸留用膜の厚さ方向に分布を有し、液体と接する膜の表層に多くのポリマーが付着し、膜の厚み方向の内部は付着量が少なく細孔構造が維持されていることが好ましい。
この観点から、疎水性ポリマーの付着量については、膜蒸留用膜の少なくとも片面の表層における付着量が、内部の付着量よりも多いことが好ましく、膜蒸留用膜の片面の表層から反対面の表層に向かって減少して行くことがより好ましい。
ここでいう「膜の表層」とは、液体と接する膜の部位、およびその近傍を意味する。定量的には、膜の最外層部分から、膜厚方向の内部に向かう10μm程度の範囲をいう。一方、「膜の内部」とは、膜のうち、液体と接することがなく、蒸気のみが通過する部位を意味し、膜の表層以外の部位を指す。
本発明においては、膜蒸留用膜の表層(内側面および/または外側面)における疎水性ポリマーの付着量と、内部(中央部)における疎水性ポリマー付着量との比率が、1.2倍以上であることが好ましく、2.0倍以上であることがより好ましく、3.0倍以上であることが特に好ましい。
後述の適宜の表面解析装置による分析によって、膜蒸留用膜の表層及び内部の疎水性ポリマーの付着量を比較するときは、それぞれ、膜蒸留用膜の以下の領域の測定値を採用して比較する。
膜蒸留用膜の表層:膜蒸留用膜の表面から、10μmの深さまでの領域
膜蒸留用膜の内部:膜蒸留用膜の表面から膜厚の1/2の深さを中心として、膜厚の±5%の領域
【0036】
図3に、膜蒸留用膜が中空糸状である場合の、疎水性ポリマーの分布の一例を示す。図3(a)は、中空糸の長手方向に垂直な断面における疎水性ポリマーの分布を示し、図3(b)は、中空糸の長手方向の断面における疎水性ポリマーの分布を示す。図3(a)および(b)では、グレーが濃いほど、疎水性ポリ―が高濃度で存在していることを示している。
図3(a)および(b)を参照すると、この中空糸状の膜蒸留用膜の場合、中空糸膜の内側表面近傍に、疎水性ポリマーが多く付着しており、外側表面近傍の疎水性ポリマー量は少ない。この場合、疎水性ポリマーの付着量が多い内側面に接する中空部分に、原料液(a)を通すことが、膜のウェッティング防止の観点から好ましい。
疎水性ポリマーの分布は、中空糸の外側表面近傍で多く、内側表面近傍で少なくても構わない。この場合には、疎水性ポリマーの付着量が多い外側面に接する中空糸の外部空間に、原料液(a)を通すことが好ましい。
【0037】
膜蒸留用膜への疎水性ポリマー付着量は、疎水性ポリマーが付着した膜蒸留用膜を、当該疎水性ポリマーの良溶媒で抽出して得られた抽出液から、溶媒を除去することにより、直接質量として、求めることができる。
また、適当な表面解析装置を用いて疎水性ポリマーが付着した膜蒸留用膜の分析を行い、膜蒸留用膜の構成材料と、疎水性ポリマーとのシグナル強度比から、付着量を求めることができる。表面解析装置によれば、膜蒸留用膜の任意の部分についての分析が可能であることから、膜の部分ごとのシグナル強度比を比較することによって、疎水性ポリマーの付着分布を知ることができる。この場合の表面解析機器としては、例えば、IR(赤外線スペクトル吸収)装置、XPS(X線光電子分光)装置、TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン分析)装置等を例示できる。
【0038】
膜蒸留用膜に疎水性ポリマーを付着させるには、疎水性ポリマーを適当な溶媒に溶解した塗工液を膜に塗布し、乾燥する方法によることができる。所望の疎水性ポリマー分布を得るには、塗屋部位、塗工液の溶媒の揮発性(沸点)、塗工液中の疎水性ポリマーの濃度、塗工後の乾燥条件を、適宜に調整する、糖の方法によることができる。例えば、塗工を浸漬法によって行う場合には、塗工液中の溶媒の揮発性が低く(沸点が高く)、塗工後の乾燥条件が緩やかなほど、乾燥工程の間に疎水性ポリマーを含んだ塗工液が膜表面方向に移動することができ、したがって、膜の厚さ方向に分布を発生させることができる。
【0039】
疎水性ポリマーが、膜蒸留用膜の片面の表層から、反対面の表層に向かって減少して行く分布で付着している場合には、疎水性ポリマーの付着量が少ない側の面が、親水化処理されていてもよい。
疎水性ポリマーの付着量が少ない側の面は、疎水性が低く、親水性の高い溶媒との親和性が高いのに対して、疎水性ポリマーが多く付着している側の面は、疎水性が高く、親水性の高い溶媒との親和性が低い。このことを利用して、疎水性ポリマーの付着量が少ない側の面のみを、親水性の高い溶媒で濡れた状態とし、親水化することができる。
例えば、疎水性ポリマーの付着量が、膜蒸留用膜の片面の表層から、反対面の表層に向かって減少して行く分布の膜を、例えば、エタノール等に浸漬させると、図4に示したように、疎水性ポリマーの付着量が少ない部分のみ、エタノールに濡れた状態(21)になる。この状態の膜蒸留用膜を用いて膜蒸留法による濃縮を行うと、蒸気が通過する膜の厚さ方向の距離が、実質的に短くなるため、時間当たりの蒸気通過量を増やすことができる。
このような親水化処理がされた膜蒸留用膜を使用する場合には、親水化処理された側の面を冷却水と接触させ、かつ、疎水性ポリマーの付着量が多い反対面の側を原料液(a)に接触させることが好ましい。
【0040】
[膜蒸留用膜の形状およびサイズ]
膜蒸留用膜の形状は、例えば、平膜、中空糸膜、チューブ型等、いかなる形状の膜でも構わない。膜モジュールの形状は平膜を用いた場合、スパイラル型、プリーツ型、積層型等を選ぶことができる。原料液と冷却液が混合されず、流路が確保されるよう、膜は袋状にシールされ、適宜スペーサー等を挿入する。
本発明の膜蒸留用膜の厚さは、蒸気透過性と膜の機械的強度との両立の観点から、10μm以上1,000μm以下であることが好ましく、20μm以上500μm以下であることがより好ましい。膜厚が1,000μm以下であれば、高い蒸気透過性を得ることができ、他方、膜厚が10μm以上であれば、膜が変形することなく使用することができる。
膜蒸留用膜が中空糸膜の場合、外径は、300μm以上5,000μm以下、好ましくは350μm以上4,000μm以下であり、中空糸膜の内径は、例えば、200μm以上4,000μm以下、好ましくは250μm以上3,000μm以下である。
【0041】
〈膜蒸留モジュール〉
本発明では、膜蒸留用膜が中空糸状である場合には、中空糸状の膜蒸留用膜を複数束ねた膜束を、適当なモジュール内に充填した膜蒸留用膜モジュールの形態で使用してもよい。
モジュールの形状は、円筒型、多角柱型、その他の多面体型型等であってよく、形状の制限はない。
好ましくは、円筒型または多角柱型のハウジングに、中空糸の長手方向がハウジングの軸方向と一致するように、中空糸膜束を収納し、該中空糸束の両端が、適当な接着樹脂にてハウジング内に固定された構造であってよい。この場合、接着樹脂による中空糸束の固定を液密に行い、中空糸膜の内外の流路が混合されないようにすることが好ましい。
【0042】
接着樹脂には、機械的強度が強く、かつ100℃での耐熱性を有することが望まれる。接着樹脂としては、例えば、熱硬化性のエポキシ樹脂、熱硬化性のウレタン樹脂等が挙げられる。耐熱性の観点ではエポキシ樹脂が好ましい。ハンドリング性の観点ではウレタン樹脂が好ましい。
接着固定の方法は、膜蒸留用膜モジュール作製に関する公知の接着方法にしたがえばよい。
ハウジングの構成は、原料液(a)および冷却水(CW)に含まれる溶質および溶媒により、諸性能が劣化しない耐薬品性を主として、耐圧性、耐熱性、耐衝撃性、耐候性等の観点から選定される。例えば、樹脂、金属等が使用できる。上記の観点からは、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ABS樹脂、繊維強化プラスチック、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂、およびステンレス、真鍮、チタン等の金属から選択されることが好ましい。
【0043】
〈本発明の原料液濃縮システムの成分維持性〉
上記のような本発明の原料液濃縮システムによると、原料液に含有される溶質の組成が実質的に維持された高濃度の濃縮物を効率的に得ることができる。
したがって、本発明の原料液濃縮システムは、例えば、医療製造プロセスにおいて使用するのに好適である。
得られた濃縮物中の溶質の分析は、原料液およびその濃縮物に含まれる成分の種類に応じて適宜に選択されてよい。例えば、ICP-MS(誘導結合高周波プラズマ質量分析)、核磁気共鳴分光(NMR)法、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)法、比色法、蛍光法、高速液体クロマトグラフ(HPLC)等の各種の公知の分析方法によって分析することができる。
【0044】
<本発明の濃縮装置>
本発明の濃縮装置は、上記のような本発明の膜蒸留用膜を含む。
したがって、本発明の濃縮装置は、
膜蒸留用膜を具備し、膜蒸留法によって原料液の濃縮を行うための濃縮装置であって、
膜蒸留用膜として、膜表面の水接触角が90°以上であり、平均孔径が0.02μm以上0.5μm以下の範囲であり、かつ、空隙率が60%以上90%以下である膜を用いる。
上記の膜蒸留用膜の少なくとも一部に疎水性ポリマーを付着していてもよいし、疎水性ポリマーの付着量につき、膜蒸留用膜の厚さ方向に分布があり、膜蒸留用膜の少なくとも片面の表層における付着量が、内部の付着量よりも多くてもよい。
本発明の濃縮装置におけるその他の態様は、本発明の濃縮システムについての説明を参照してよい。
【実施例0045】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等についてさらに説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0046】
《中空糸状の膜蒸留用膜の諸物性》
本実施例では、以下に記載する各種の測定方法で、中空糸状膜蒸留用膜の諸物性を求めた。
【0047】
[中空糸膜外側表面の水接触角]
中空糸状膜蒸留用膜の水接触角を、JIS R 3257準拠の液滴法によって測定した。
23℃の温度および50%の相対湿度の条件下で、中空糸膜試料の外側表面に、2μLの純水の液滴を滴下し、液滴と中空糸膜の外側表面とが形成する角度を画像解析により算出して接触角を求めた。測定は5回行い、数平均値を水接触角として採用した。
【0048】
[中空糸膜の外径、内径、および膜厚]
中空糸状膜蒸留用膜の外径および内径は、顕微鏡観察により求めた。具体的には、中空糸膜を、長手方向に垂直な方向にカミソリ等で薄く切って、断面の顕微鏡像を得て、該断面の外径および内径をそれぞれ測定して求めた。中空糸膜の膜厚は、下記数式(1)により算出した:
【数1】
【0049】
[中空糸膜の平均孔径]
中空糸状膜蒸留用膜の平均孔径は、ASTM:F316-86に記載されている平均孔径の測定方法(別称:ハーフドライ法)により測定した。
約10cm長の中空糸膜に対し、液体としてエタノールを用いて、25℃、昇圧速度0.01atm/秒での標準測定条件で行った。
平均孔径は、下記数式(2)により求めた:
平均孔径[μm]=2,860×(s[dyne/cm])/(p[Pa]) ・・・(2)
{上記数式中、sは使用液体の表面張力であり、pはハーフドライ空気圧力である。}
ここで、使用液体エタノールの25℃における表面張力sの値は21.97dyne/cmであるので、2,860×s=62,834として数式(2)を変形して下記数式(3)とし、この数式(3)に、ハーフドライ空気圧力pの値を代入して、中空糸膜の平均孔径を求めた。
平均孔径[μm]=62,834/(p[Pa]) ・・・(3)
【0050】
[中空糸膜の最大孔径]
中空糸状膜蒸留用膜の最大孔径は、浸漬液としてエタノールを用い、バブルポイント法を用いて測定した。
長さ8cmの中空糸膜の一方の末端を閉塞し、他方の末端に圧力計を介して窒素ガス供給ラインを接続した。この状態で窒素ガスを供給してライン内部を窒素に置換した後、中空糸膜をエタノール中に浸漬した。このとき、エタノールがライン内に逆流しないように、極僅かに窒素で加圧した状態で、中空糸膜を浸漬した。空糸膜をエタノール中に浸漬した状態で、窒素ガスの圧力をゆっくりと増加させ、中空糸膜から窒素ガスの泡が安定して出始めた圧力P(kg/cm)を記録した。このPを、下記式(4):
d=C1γ/P ・・・(4)
{数式(4)中、dは中空糸の最大孔径、C1は定数、γは浸漬液の表面張力、そしてPは圧力である。}に代入して、中空糸膜の最大孔径dを算出した。このとき、エタノールを浸漬液としたときのC1γの値を0.632(kg/cm)として、最大孔径d(μm)を求めた。
【0051】
[中空糸膜の空隙率]
中空糸状膜蒸留用膜の空隙率は、中空糸膜の質量と中空糸膜を構成する材料の密度(真密度)とから算出した。
すなわち、中空糸膜を一定長さに切り、その質量を測定し、下記数式(5):
【数2】
{上記数式中、dは中空糸膜の原料ポリマーの真密度であり、πは円周率である。}により、中空糸の空隙率を求めた。
【0052】
[疎水性ポリマーの付着量]
(1)IR、ATR法
中空糸状膜蒸留用膜における疎水性ポリマーの付着量の比較を、IRスペクトル解析、ATR法(全反射法,内部反射法)により、プリズムとしてZnSe結晶を用いて行った。
測定装置は、PerkinElmer社製 Spectrum Oneを用い、結晶の押し付け圧については、圧力コンターの値を約30として行った。そして、得られたIRスペクトルから、疎水性ポリマー由来のピーク強度と中空糸膜の構成材料由来のピーク強度との比を求めることで、膜表面に付着した疎水性ポリマー量を算出した。
中空糸膜試料は、モジュールから切り出した。中空糸膜の外側表面を分析するための試料には、中空糸膜を長手方向に垂直な断面で1cm間隔にて切断した試料を用い、内側表面を分析するための試料には、中空糸膜を長手方向に切断した試料を用いた。
実施例においては、中空糸膜の構成材料はポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)であり、疎水性ポリマーとして、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するアクリレートポリマーを用いた。そのため、1,734cm-1のν(C=O)および1,180cm-1付近の(ν(C-F)+ν(C-O))のピーク強度比、ν(C=O)/(ν(C-F)+ν(C-O))の値を算出し、疎水性ポリマー付着量の指標とした。
このピーク強度比を、中空糸膜の部位ごとに測定し、最小値を1.0倍としたときに、1.2倍以上の値を示した部位は、疎水性ポリマーの付着量が多いと判断できる。
【0053】
(2)TOF-SIMS分析
中空糸状膜蒸留用膜における疎水性ポリマーの付着量の比較は、上記のIR、ATR法の他、TOF-SIMSによる中空糸膜断面の観察によっても行った。
観察試料としては、中空糸膜を薄片状にスライスしたサンプルを用いた。
使用機器は、アルバック・ファイ社製、nano-TOFであり、一次イオンにBi ++、加速電圧30kV、電流0.1 nA(DCとして)、分析面積350 μm×350 μm、積算時間120分、検出イオン負イオンとし、中和は電子銃で行った。中空糸膜構成材料および疎水性ポリマーそれぞれの素材につき、特徴的に強度が強いm/zによるマッピングを行い、得られた強度比を比較することにより、各部部分における疎水性ポリマーの存在率を求めた。
なお、上記の条件におけるTOF-SIMSでは、積算時間は30分で十分であるが、本実施例においては、積算時間を120分として分析を行った。
実施例においては、中空糸膜の構成材料はポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)であり、疎水性ポリマーとして、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するアクリレートポリマーを用いた。そのため、PVDFの強度が特に強いm/z=67と、パーフルオロ化アクリレートポリマーの」強度が特に強いm/z=293とを採用し、これらの強度比を求めた。
ここでは、強度比が2.0倍以上であった場合に、疎水性ポリマーの存在率に有意差があると判断できる。
【0054】
《実施例1》
(1)膜蒸留用膜モジュールの作製および膜蒸留用膜の物性測定
実施例1では、膜蒸留用膜(20)として中空糸状の多孔質膜を用い、疎水性ポリマーを付着させない状態で、原料液(a)の膜蒸留による濃縮を行った。この膜蒸留用膜(20)は、図1に示した構成の膜蒸留用膜モジュール(100)に充填して使用した。
膜蒸留用膜(20)としては、内径0.7mm、外径1.3mm、ASTM-F316-86に準拠して求めた平均孔径0.21μm、最大孔径0.29μm、空隙率72%のPVDF製の多孔質中空糸膜を、長さ15cmに切出したものを使用した。
この多孔質中空糸膜の水接触角を、上述の方法によって測定したところ、92°であった。
上記の膜蒸留用膜(20)を複数本束ねて膜束とし、これをハウジング(10)内に収納し、接着樹脂(30)として熱硬化性のエポキシ樹脂を使用して、遠心接着により膜蒸留用膜(20)の膜束を、ハウジング(10)内に接着固定した。
以上の操作により、実効長さ(接着樹脂(30)中に埋没していない部分の長さ)10cm、膜蒸留用膜(20)の内表面の合計膜面積200cmの、中空糸状の膜蒸留用膜束が収納された膜蒸留用膜モジュール(100)を、2本作製した。
得られた膜蒸留用膜モジュールのうちの1本は、解体して中空糸膜の物性の測定に供した。
測定結果を表1に示す。
膜蒸留用膜モジュールの残りの1本は、原料液(a)の濃縮に用いた。
【0055】
(2)膜蒸留の実施
上記で作製した膜蒸留用膜モジュール(100)を用いて、図2に示す構成の膜蒸留装置を作製して、膜蒸留を行った。
医薬品原体等を含む原料液(a)の模擬液として、以下の構成の溶液を用いた。
溶媒(b):水およびアセトニトリルを混合した混合溶媒水およびアセトニトリルの混合割合は変量とし、それぞれの割合にて濃縮操作を実施した。
溶質:ジペプチド 1,000ppm、およびNaCl 1,000ppm
液量:0.5L
NaClは、膜蒸留用膜がウェッティングした場合の確認手段として、原料液aに添加された。
上記の原料液aを、原料液貯留タンク(200)に充填した。
原料液aは、ポンプを用いて600ml/分の流量で、膜蒸留用膜モジュール(100)の中空糸膜内側を通るように循環させた。このとき、薬原料液aの温度は、膜蒸留用膜モジュール(100)の入側において、30℃に維持されるように、温度調節器(TC)を用いて調整した。
【0056】
一方、冷却水(CW)約2Lを保持する冷却水貯留タンク(300)を設け、ポンプを用いて600ml/分の流量で膜蒸留用膜モジュール(100)の中空糸膜の外側に流した。このとき、冷却水(CW)の温度が、10℃に維持されるように、温度調節器(TC)を用いて調整した。また、膜蒸留用膜モジュール(100)を出た冷却水(CW)の導電率を常時測定した。冷却水(CW)の導電率が500μS/cm以上に上昇した場合には、原料液(a)に添加したNaClが冷却水(CW)に混入したことによると考えられる。したがって、この場合には、膜蒸留用膜がウェッティングしたものと判断した。
【0057】
原料液貯留タンク(200)に設置した液面計(LG)から求めた原料液(a)の容量が100mlになったとき、濃縮倍率5倍に至ったと判断して、濃縮を終了した。
実施例1では、水およびアセトニトリルの混合割合が95:5(容積比)の原料液(a)では、39時間で5倍に濃縮できた。また冷却水(CW)の導電率は、常時5μS/cm以下であり、膜蒸留用膜のウェッティングは起こらなかった。
ところが、水およびアセトニトリルの混合割合が90:10(容積比)の場合には、運転開始から8時間で冷却水(CW)の導電率が500μS/cmを超え、膜蒸留用膜が湿潤した状態になり、膜のウェッティングが生じた。
【0058】
《実施例2》
(1)膜蒸留用膜モジュールの作製および膜蒸留用膜の物性測定
実施例2では、実施例1で使用した中空糸状の多孔質膜に、疎水性ポリマーを付着させた状態で、原料液(a)の膜蒸留による濃縮を行った。疎水性ポリマーとしては、AGCセイミケミカル社製のフッ素樹脂系撥水剤「DP02H」を用いた。この「DP02H」は、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するアクリレートポリマーを含む溶液である。
実施例1と同様の製法により、膜モジュール2本作製した。これらのモジュールを、AGCセイミケミカル社製「DP02H」中に、一度完全に浸漬して、引き上げた後、中空糸膜の内側および外側に、20L/分の流量にて乾燥空気を流して乾燥することにより、中空糸膜に疎水性ポリマーを付着させて、膜蒸留用膜モジュール(100)を得た。
得られた膜蒸留用膜モジュール(100)2本のうち、1本は、解体して、中空糸膜の物性の測定(IR、ATR法、およびTOF-SIMS分析)に供した。各物性は、中空糸膜の長手方向の中央部を用いて測定した。
この疎水性ポリマー付着後の多孔質中空糸膜の水接触角を、上述の方法によって測定したところ、120°であった。
測定結果を表1に示す。
膜蒸留用膜モジュールの残りの1本は、原料液(a)の濃縮に用いた。
【0059】
(2)膜蒸留の実施
上記で作製した膜蒸留用膜モジュール(100)を用いた他は、実施例1と同様にして、図2に示す構成の膜蒸留装置を作製し、膜蒸留を行った。
実施例2の膜モジュールを用いた場合は、水およびアセトニトリルの混合割合が95:5(容積比)の原料液(a)では、39時間で5倍に濃縮できた。また冷却水(CW)の導電率は、常時5μS/cm以下であり、膜蒸留用膜のウェッティングは起こらなかった。さらに、水およびアセトニトリルの混合割合が、90:10(容積比)の原料液(a)でも、32時間で5倍に濃縮できた。
しかしながら、水およびアセトニトリルの混合割合が50:50(容積比)の場合には、運転開始から3時間で冷却水(CW)の導電率が500μS/cmを超え、膜蒸留用膜が湿潤した状態になり、膜のウェッティングが生じた。
【0060】
《実施例3》
(1)膜蒸留用膜モジュールの作製および膜蒸留用膜の物性測定
実施例3では、膜蒸留用膜(20)として、中空糸状の多孔質膜に疎水性ポリマーを付着させたものを用いた。
中空糸状多孔質膜としては、内径0.7mm、外径1.3mm、ASTM-F316-86に準拠して求めた平均孔径0.05μm、最大孔径0.12μm、空隙率70%のPVDF製の多孔質中空糸膜を、長さ15cmに切出したものを使用した。
疎水性ポリマーとしては、AGCセイミケミカル社製のフッ素樹脂系撥水剤「DP02H」を用いた。
上記の中空糸多孔質膜を用いて、実施例1と同様の製法により、膜モジュール2本作製した。これらのモジュールを用い、実施例2と同様の手法によって、AGCセイミケミカル社製「DP02H」中への浸漬および引上げ、ならびに乾燥を行い、中空糸膜に疎水性ポリマーを付着させて、膜蒸留用膜モジュール(100)を得た。
得られた膜蒸留用膜モジュール(100)2本のうち、1本は、解体して、中空糸膜の物性の測定(IR、ATR法、およびTOF-SIMS分析)に供した。各物性は、中空糸膜の長手方向の中央部を用いて測定した。
この疎水性ポリマー付着後の多孔質中空糸膜の水接触角を、上述の方法によって測定したところ、120°であった。
測定結果を表1に示す。
膜蒸留用膜モジュールの残りの1本は、原料液(a)の濃縮に用いた。
【0061】
(2)膜蒸留の実施
上記で作製した膜蒸留用膜モジュール(100)を用いた他は、実施例1と同様にして、図2に示す構成の膜蒸留装置を作製し、膜蒸留を行った。
実施例3の膜モジュールを用いた場合は、水およびアセトニトリルの混合割合が95:5(容積比)の原料液(a)では、48時間で5倍に濃縮できた。水およびアセトニトリルの混合割合が、90:10(容積比)の原料液(a)でも、41時間で5倍に濃縮できた。さらに、水およびアセトニトリルの混合割合が50:50(容積比)の場合には、36時間で5倍に濃縮できた。また冷却水(CW)の導電率はいずれの濃縮でも常時5μS/cm以下であり、膜蒸留用膜のウェッティングは起こらなかった。
【0062】
《実施例4》
(1)膜蒸留用膜モジュールの作製および膜蒸留用膜の物性測定
実施例4では、膜蒸留用膜(20)として、中空糸状の多孔質膜に疎水性ポリマーを付着させたものを用いた。
中空糸状多孔質膜としては、内径0.7mm、外径1.3mm、ASTM-F316-86に準拠して求めた平均孔径0.45μm、最大孔径0.80μm、空隙率71%のPVDF製の多孔質中空糸膜を、長さ15cmに切出したものを使用した。
疎水性ポリマーとしては、AGCセイミケミカル社製のフッ素樹脂系撥水剤「DP02H」を用いた。
上記の中空糸多孔質膜を用いて、実施例1と同様の製法により、膜モジュール2本作製した。これらのモジュールを用い、実施例2と同様の手法によって、AGCセイミケミカル社製「DP02H」中への浸漬および引上げ、ならびに乾燥を行い、中空糸膜に疎水性ポリマーを付着させて、膜蒸留用膜モジュール(100)を得た。
得られた膜蒸留用膜モジュール(100)2本のうち、1本は、解体して、中空糸膜の物性の測定(IR、ATR法、およびTOF-SIMS分析)に供した。各物性は、中空糸膜の長手方向の中央部を用いて測定した。
この疎水性ポリマー付着後の多孔質中空糸膜の水接触角を、上述の方法によって測定したところ、120°であった。
測定結果を表1に示す。
膜蒸留用膜モジュールの残りの1本は、原料液(a)の濃縮に用いた。
【0063】
(2)膜蒸留の実施
上記で作製した膜蒸留用膜モジュール(100)を用いた他は、実施例1と同様にして、図2に示す構成の膜蒸留装置を作製し、膜蒸留を行った。
実施例2の膜モジュールを用いた場合は、水およびアセトニトリルの混合割合が95:5(容積比)の原料液(a)では、24時間で5倍に濃縮できた。また、水およびアセトニトリルの混合割合が、90:10(容積比)の原料液(a)でも、18時間で5倍に濃縮できた。これらの場合には、冷却水(CW)の導電率は、常時5μS/cm以下であり、膜蒸留用膜のウェッティングは起こらなかった。
しかしながら、水およびアセトニトリルの混合割合が50:50(容積比)の場合には、運転開始から2時間で冷却水(CW)の導電率が500μS/cmを超え、膜蒸留用膜が湿潤した状態になり、膜のウェッティングが生じた。
【0064】
《実施例5》
(1)膜蒸留用膜モジュールの作製および膜蒸留用膜の物性測定
実施例3では、実施例1で使用した中空糸状の多孔質膜に、実施例2とは異なる手法によって疎水性ポリマーを付着させた状態で、原料液(a)の膜蒸留による濃縮を行った。疎水性ポリマーとしては、フロロテクノロジー社製のフッ素樹脂系撥水剤「FS-392B」(ポリマー濃度0.15質量%)を用い、低沸点溶媒を除去してポリマー濃度を0.5質量%に濃度を上げた濃縮物を、疎水性ポリマーの付着操作に供した。
実施例1と同様の製法により、膜モジュールを2本作製した。これらの膜モジュールを、フロロテクノロジー社製「FS-392B」濃縮物中に、一度完全に浸漬して、引き上げた後、中空糸膜の内側のみに、200ml/分の流量にて乾燥空気流して乾燥した。この浸漬および完走操作を繰り返して、合計2回行うことにより、中空糸膜に疎水性ポリマーを付着させて、膜蒸留用膜モジュール(100)を得た。
得られた膜蒸留用膜モジュール2本のうち、1本は、解体して中空糸膜の物性の測定に供した。
この疎水性ポリマー付着後の多孔質中空糸膜の水接触角を、上述の方法によって測定したところ、130°であった。
測定結果を表1に示す。
膜蒸留用膜モジュールの残りの1本は、原料液(a)の濃縮に用いた。
【0065】
(2)膜蒸留の実施
上記で作製した膜蒸留用膜モジュール(100)を用いた他は、実施例1と同様にして、図2に示す構成の膜蒸留装置を作製し、膜蒸留を行った。
実施例3の膜モジュールを用いた場合は、水およびアセトニトリルの混合割合が95:5(容積比)の原料液(a)では、41時間で5倍に濃縮できた。また、冷却水(CW)の導電率は、常時5μS/cm以下であり、膜蒸留用膜のウェッティングは起こらなかった。
水およびアセトニトリルの混合割合が90:10(容積比)の原料液(a)でも、33時間で5倍に濃縮できた。水およびアセトニトリルの混合割合が50:50(容積比)の場合においても、24時間で5倍に濃縮でき、生成水の導電率は常時5μS/cm以下であった。
さらに、溶媒(b)として、水およびイソプロパノールを容積比50:50の割合で含む混合溶媒を用いた原料液(a)の濃縮を行った場合でも、20時間で5倍に濃縮でき、冷却水(CW)の導電率は、常時5μS/cm以下であった。
【0066】
《実施例6》
実施例5と同様にして作製した膜モジュールを、エタノール中に5分間浸漬した。その後、膜モジュール中の中空糸膜の外側を、流水により10分間水洗した。この操作により、中空糸膜の内側はエタノールで濡れなかったが、外側のみが濡れて、親水化された状態となった。
この状態の膜モジュールを用いた他は、実施例1と同様にして、図2に示す構成の膜蒸留装置を作製し、水およびイソプロパノールを容積比50:50の割合で含む混合溶媒を用いた原料液(a)の濃縮を行った。
その結果、原料液(a)を5倍濃縮するまでの時間が、14時間に短縮された。また、冷却水(CW)の導電率は、常時5μS/cm以下であった。
中空糸膜の一部を親水化することにより、膜蒸留用膜の一部が水を含んで膜の実効厚みが減じられ、膜蒸留時に蒸気となった溶媒(b)が、膜の厚み方向を通過する距離が短くなったことによると考えられる。
【0067】
《比較例1》
比較例1では、膜蒸留用膜(20)として、内径0.7mm、外径1.2mm、平均孔径0.01μm、最大孔径0.03μm、空隙率68%の、ポリアクリロニトリル製の中空糸膜を、長さ15cmに切出したものを使用した。この多孔質中空糸膜の水接触角を、上述の方法によって測定したところ、84°であった。
上記の多孔質中空糸膜を用いた他は実施例1と同様にして、膜蒸留用膜モジュール(100)を、2本作製した。
得られた膜蒸留用膜モジュールのうちの1本は、解体して中空糸膜の物性の測定に供した。測定結果を表1に示す。
膜蒸留用膜モジュールの残りの1本は、原料液(a)の濃縮に用いた。
得られた膜蒸留用膜モジュール(100)を用いた他は、実施例1と同様にして、図2に示す構成の膜蒸留装置を作製し、水およびアセトニトリルを容積比95:5の割合で含む混合溶媒を用いた原料液(a)の膜蒸留を行った。
しかしながら、運転時間が50時間を経過しても、5倍濃縮に至らなかった。
【0068】
《比較例2》
膜蒸留用膜(20)として、内径0.7mm、外径1.3mm、平均孔径0.12μm、最大孔径0.60μm、空隙率69%の、PVDF製の中空糸膜を、長さ15cmに切出したものを使用した。この多孔質中空糸膜の水接触角を、上述の方法によって測定したところ、92°であった。
上記の多孔質中空糸膜を用いた他は実施例1と同様にして、膜蒸留用膜モジュール(100)を、2本作製した。
得られた膜蒸留用膜モジュールのうちの1本は、解体して中空糸膜の物性の測定に供した。測定結果を表1に示す。
膜蒸留用膜モジュールの残りの1本は、原料液(a)の濃縮に用いた。
上記の膜蒸留用膜モジュール(100)を用いた他は、実施例1と同様にして、図2に示す構成の膜蒸留装置を作製し、水およびアセトニトリルを容積比95:5の割合で含む混合溶媒を用いた原料液(a)の膜蒸留を行った。
しかしながら、運転時間が13時間を経過したところで、冷却水(CW)の導電率が500μS/cmを超え、膜のウェッティングを起こして、これ以上の濃縮を行うことができなくなった。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表1における略語は、それぞれ、以下の意味である。
〈中空糸膜構成材料〉
PVDF:ポリフッ化ビニリデン
PAN:ポリアクリロニトリル
〈疎水性ポリマー〉
DP02H:AGCセイミケミカル社製、フッ素樹脂系撥水剤「DP02H」
FS-392B:フロロテクノロジー社製、フッ素樹脂系撥水剤「FS-392B」
〈溶媒(b)〉
AcCN:アクリロニトリル
IPA:イソプロパノール
【符号の説明】
【0072】
10 ハウジング
11 第1のハウジング側管
12 第2のハウジング側管
20 膜蒸留用膜
30 接着樹脂
100 膜蒸留用膜モジュール
200 原料液貯留タンク
300 冷却水貯留タンク
a 原料液
b 溶媒
c 濃縮液
CW 冷却水
FM 流量計
LG 液面計
P ポンプ
PG 圧力計
TC 温調器
図1
図2
図3
図4