(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121850
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】分離回収方法並びに現像装置及び現像方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/30 20060101AFI20230824BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20230824BHJP
B01D 1/22 20060101ALI20230824BHJP
B01D 36/02 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
G03F7/30
G03F7/00 502
B01D1/22 B
B01D36/02
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109227
(22)【出願日】2023-07-03
(62)【分割の表示】P 2019139750の分割
【原出願日】2019-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】宮本 慎二
(57)【要約】
【課題】比較的少ない投入エネルギで現像廃液から溶媒を分離回収することができる方法を提供する。
【解決手段】現像残渣を含む現像廃液から溶媒を分離回収する方法であって、薄膜式蒸発濃縮装置72を用いて現像廃液を濃縮しつつ蒸気を生成する濃縮工程と、濃縮工程によって生成した蒸気を冷却し液化させて回収する液化回収工程と、濃縮工程によって生成した固形物又は高濃縮水を回収する固形物回収工程と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
現像残渣を含む現像廃液から溶媒を分離回収する分離回収方法であって、
薄膜式蒸発濃縮装置を用いて前記現像廃液を濃縮しつつ蒸気を生成する濃縮工程と、
前記濃縮工程によって生成した前記蒸気を冷却し液化させて回収する液化回収工程と、
を含む、分離回収方法。
【請求項2】
前記濃縮工程では、前記現像廃液を濃縮することにより固形物又は高濃縮水を生成し、
前記濃縮工程によって生成した前記固形物又は前記高濃縮水を回収する固形物回収工程をさらに含む、請求項1に記載の分離回収方法。
【請求項3】
前記現像廃液から現像残渣を少なくとも部分的に除去する廃液処理工程と、
前記廃液処理工程で処理された前記現像廃液を前記薄膜式蒸発濃縮装置に供給する供給工程と、
を含む、請求項1又は2に記載の分離回収方法。
【請求項4】
前記現像廃液は、少なくともポリマー、モノマー及び開始剤を有する感光性樹脂を含むものである、請求項1から3の何れか一項に記載の分離回収方法。
【請求項5】
前記現像廃液は、少なくとも界面活性剤を有する水系現像液を用いて現像を行うことによって発生したものである、請求項1から4の何れか一項に記載の分離回収方法。
【請求項6】
表面に感光性樹脂層を有する原版を現像する方法であって、
前記感光樹脂層に露光部と未露光部とが形成された前記原版に現像領域内で現像液を供給しつつ未露光部除去部で前記原版の表面を擦ることにより前記未露光部を除去する現像工程と、
前記現像領域に隣接するリンス領域内で前記原版にリンス液を供給することにより前記原版の表面からデブリを除去するリンス工程と、を含み、
請求項1から5の何れか一項に記載の分離回収方法で回収した溶媒を、前記現像工程における現像液の一部及び/又は前記リンス工程における前記リンス液の一部として再利用する、現像方法。
【請求項7】
前記原版を現像することによりフレキソ印刷版を製造する方法である、請求項6に記載の現像方法。
【請求項8】
表面に感光性樹脂層を有する原版を現像する装置であって、
前記感光樹脂層に露光部と未露光部とが形成された前記原版を搬送する搬送部と、
前記搬送部により搬送されて現像領域内に配置される前記原版に現像液を供給する現像液供給部と、
前記現像領域内に配置される前記原版の表面を擦ることにより前記未露光部を除去する未露光部除去部と、
前記搬送部により搬送されて前記現像領域に隣接するリンス領域内に配置される前記原版にリンス液を供給することにより前記原版の表面からデブリを除去するリンス液供給部と、
現像残渣を含む現像廃液から溶媒を分離回収する分離回収装置と、を備え、
前記分離回収装置は、前記現像廃液を濃縮しつつ蒸気を生成する薄膜式蒸発濃縮装置と、前記薄膜式蒸発濃縮装置によって生成した蒸気を冷却し液化させて回収する液化回収装置と、を有し、
前記分離回収装置で回収された溶媒は、前記現像液供給部の前記現像液の一部及び/又は前記リンス液供給部の前記リンス液の一部として再利用される、現像装置。
【請求項9】
前記分離回収装置は、前記現像廃液から現像残渣を少なくとも部分的に除去する廃液処理装置と、前記廃液処理装置で処理された前記現像廃液を前記薄膜式蒸発濃縮装置に供給するポンプと、を有する、請求項8に記載の現像装置。
【請求項10】
前記廃液処理装置は、フィルタ、遠心分離装置及び凝集分離装置の少なくとも何れか一つを有するものである、請求項9に記載の現像装置。
【請求項11】
前記フィルタは、前記現像廃液中に分散している現像残渣を凝集させる分散物フィルタを有する、請求項10に記載の現像装置。
【請求項12】
前記フィルタは、前記分散物フィルタを通過した前記現像廃液から凝集された現像残渣を除去する凝集物フィルタを有する、請求項11に記載の現像装置。
【請求項13】
前記現像廃液は、少なくともポリマー、モノマー及び開始剤を有する感光性樹脂を含むものである、請求項8から12の何れか一項に記載の現像装置。
【請求項14】
前記現像廃液は、少なくとも界面活性剤を有する水系現像液を用いて現像を行うことによって発生したものである、請求項8から13の何れか一項に記載の現像装置。
【請求項15】
前記原版を現像することによりフレキソ印刷版を製造する装置である、請求項8から14の何れか一項に記載の現像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離回収方法並びに現像装置及び現像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂を有する印刷版は、コンピュータ上で処理された情報を印刷版状に直接描画してレリーフを作製するコンピュータ製版技術(以下、「CTP技術」と称する)により、製版することができる。その中でも、凸版印刷の一種であるフレキソ印刷は、印刷版にゴムや合成樹脂等の柔らかい材質を用いていることから、種々の被刷体に適用可能であるという利点を有している。
【0003】
CTP技術による印刷版(特にフレキソ印刷版)は、感光性樹脂上の赤外線吸収層にレーザー描画を実施し、感光性樹脂層を感光して硬化させ、未硬化部を現像し、得られた版を乾燥させるとともに後露光する、という手順を経ることにより得られる。フレキソ印刷版は、溶剤現像液で未硬化部を溶解現像する溶剤現像、界面活性剤を有する水系現像液で未硬化部を剥離現像する水系現像、又は、印刷原板を加熱して未硬化部を不織布でふき取る熱現像、を実施することによって得られるが、これらの中で溶剤現像及び水系現像を実施すると、それぞれ溶液の廃液が生じる。
【0004】
溶剤現像においては、現像後の溶液を蒸留により回収して再利用することが行われているが、水系現像においては、水の潜熱が大きく蒸留に多大なエネルギが必要であるという問題点を抱えている。このため、現在においては、水系現像廃液の分離回収方法として、現像廃液に凝集剤を添加して固液分離を行った後、活性炭フィルタで分離する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。水系現像液に溶解しない成分を分離する固液分離方法としては、現像液中に分散している現像残渣を凝集させる分散物フィルタを用いて凝集させ凝集物フィルタを用いて残渣を除去する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/196358号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2018/0004090号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された従来の方法を採用すると、凝集剤を添加することにより現像液中に溶解又は分散している感光性樹脂成分の一部を凝集させて固体として回収することはできるものの、回収液のPH変化が起き、回収液を再利用した場合に現像性に影響を与える虞がある。また、凝集剤では樹脂成分の一部しか固体として凝集させることができないため、活性炭フィルタで現像液中に含まれる有機成分を除去する場合、すぐに活性炭の活性が下がり、高頻度で活性炭を交換又は再生する必要がある。一方、特許文献2に記載された方法では、現像液中に溶解又は分散している感光性樹脂成分を多くフィルタで取り除くことができるものの、廃液量を減らすことができないという問題がある。
【0007】
このように、フレキソ印刷版の製版時に使用された現像液から感光性樹脂成分を効率良く除去し、比較的少ない投入エネルギで現像液中の水又は溶剤を回収して再利用することは現状では困難であることから、新たな技術が待望されていた。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、比較的少ない投入エネルギで現像廃液から溶媒を分離回収することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明に係る分離回収方法は、現像残渣を含む現像廃液から溶媒を分離回収する方法であって、薄膜式蒸発濃縮装置を用いて現像廃液を濃縮しつつ蒸気を生成する濃縮工程と、濃縮工程によって生成した蒸気を冷却し液化させて回収する液化回収工程と、を含むものである。濃縮工程では、現像廃液を濃縮することにより固形物又は高濃縮水を生成することができる。かかる場合において、本分離回収方法は、濃縮工程によって生成した固形物又は高濃縮水を回収する固形物回収工程をさらに含むことができる。
【0010】
かかる方法を採用すると、薄膜式蒸発濃縮装置を用いて現像廃液を濃縮しつつ蒸気を生成し、その蒸気を冷却して液化させることにより、現像廃液から現像残渣を除いた溶媒を回収することができる。
【0011】
本発明に係る分離回収方法において、現像廃液から現像残渣を少なくとも部分的に除去する廃液処理工程と、廃液処理工程で処理された現像廃液を薄膜式蒸発濃縮装置に供給する供給工程と、を含むことができる。
【0012】
かかる方法を採用すると、予め現像残渣を除去した状態の現像廃液を薄膜式蒸発濃縮装置に供給することができる。従って、溶媒をさらに効率良く分離回収することができる。
【0013】
本発明に係る分離回収方法において、フィルタ、遠心分離装置及び凝集分離装置の少なくとも何れか一つを有する廃液処理装置を採用することができる。フィルタとしては、現像廃液中に分散している現像残渣を凝集させる分散物フィルタ、分散物フィルタを通過した現像廃液から凝集された現像残渣を除去する凝集物フィルタ、等を採用することができる。
【0014】
本発明に係る分離回収方法において、少なくともポリマー、モノマー及び開始剤を有する感光性樹脂を含む現像廃液を採用することができる。また、本発明に係る分離回収方法において、少なくとも界面活性剤を有する水系現像液を用いて現像を行うことによって発生した現像廃液を採用することができる。
【0015】
また、本発明に係る現像方法は、表面に感光性樹脂層を有する原版を現像する方法であって、感光樹脂層に露光部と未露光部とが形成された原版に現像領域内で現像液を供給しつつ未露光部除去部で原版の表面を擦ることにより未露光部を除去する現像工程と、現像領域に隣接するリンス領域内で原版にリンス液を供給することにより原版の表面からデブリを除去するリンス工程と、を含み、本発明に係る分離回収方法で回収した溶媒を、現像工程における現像液の一部及び/又はリンス工程における前記リンス液の一部として再利用するものである。本現像方法は、例えば、原版を現像することによりフレキソ印刷版を製造する方法として使用可能である。
【0016】
また、本発明に係る現像装置は、表面に感光性樹脂層を有する原版を現像する装置であって、感光樹脂層に露光部と未露光部とが形成された原版を搬送する搬送部と、搬送部により搬送されて現像領域内に配置される原版に現像液を供給する現像液供給部と、現像領域内に配置される原版の表面を擦ることにより未露光部を除去する未露光部除去部と、搬送部により搬送されて現像領域に隣接するリンス領域内に配置される原版にリンス液を供給することにより原版の表面からデブリを除去するリンス液供給部と、現像残渣を含む現像廃液から溶媒を分離回収する分離回収装置と、を備え、分離回収装置は、現像廃液を濃縮しつつ蒸気を生成する薄膜式蒸発濃縮装置と、薄膜式蒸発濃縮装置によって生成した蒸気を冷却し液化させて回収する液化回収装置と、を有し、分離回収装置で回収された溶媒は、現像液供給部の現像液の一部及び/又はリンス液供給部の前記リンス液の一部として再利用されるものである。本現像装置は、例えば、原版を現像することによりフレキソ印刷版を製造する装置として使用可能である。
【0017】
かかる構成を採用すると、薄膜式蒸発濃縮装置を用いて現像廃液を濃縮しつつ蒸気を生成し、その蒸気を冷却して液化させることにより、現像廃液から現像残渣を除いた溶媒を回収することができ、その回収した溶媒を現像液供給部の現像液の一部及び/又はリンス液供給部のリンス液の一部として再利用することができる。
【0018】
本発明に係る現像装置において、分離回収装置は、現像廃液から現像残渣を少なくとも部分的に除去する廃液処理装置と、廃液処理装置で処理された現像廃液を薄膜式蒸発濃縮装置に供給するポンプと、を有することができる。
【0019】
かかる構成を採用すると、廃液処理装置によって予め現像残渣を除去した状態の現像廃液をポンプで薄膜式蒸発濃縮装置に供給することができる。従って、溶媒をさらに効率良く分離回収することができる。
【0020】
本発明に係る現像装置において、フィルタ、遠心分離装置及び凝集分離装置の少なくとも何れか一つを有する廃液処理装置を採用することができる。フィルタとしては、現像廃液中に分散している現像残渣を凝集させる分散物フィルタ、分散物フィルタを通過した現像廃液から凝集された現像残渣を除去する凝集物フィルタ、等を採用することができる。
【0021】
本発明に係る現像装置において、少なくともポリマー、モノマー及び開始剤を有する感光性樹脂を含む現像廃液を採用することができる。また、本発明に係る現像装置において、少なくとも界面活性剤を有する水系現像液を用いて現像を行うことによって発生した現像廃液を採用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、比較的少ない投入エネルギで現像廃液から溶媒を分離回収することができる方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る現像装置の構成を説明するための構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る現像装置に含まれる分離回収装置の構成を説明するための構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態はあくまでも好適な適用例であって、本発明の適用範囲がこれに限定されるものではない。
【0025】
まず、本発明の実施形態に係る現像装置1の構成について説明する。本実施形態に係る現像装置1は、「インライン式」と称される方式で、表面に感光性樹脂層を有する原版Pに現像処理を施す装置である。本実施形態に係る現像装置1では、界面活性剤を含む水を現像液として用いて原版の現像処理を行う。かかる現像処理は「水現像」と称される。
【0026】
原版Pは、図示していない支持体(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフィルム)の表面に感光性樹脂層や赤外線感受層を積層することにより形成され、全体としてシート形状を呈している。原版Pは、背面からの紫外線照射による土台形成、レーザー描画、表面からの紫外線照射による描画部の硬化、等を経て構成されている。感光性樹脂としては、例えば、エラストマー、ポリアミド、ラテックス等の親水性共重合体、ポリビニルアルコール等から選ばれるポリマーやモノマー、開始材及び安定剤を含むもの、等を用いることができる。原版Pの表面の一部は、現像装置1による現像処理に先立って、紫外線が照射されている。紫外線が照査された部位(すなわち露光された部位)では、感光性樹脂が硬化する化学変化が生じている。一方、未露光の部分では、感光性樹脂は硬化していない。現像装置1の現像処理では、未硬化の感光性樹脂が除去され、原版Pの表面に所定パターンの凹凸が形成される。
【0027】
現像装置1は、
図1に示すように、搬送部2と、吐出部3と、ブラシ部4と、を備えている。
【0028】
搬送部2は、原版Pを搬送するように構成されており、その上面に原版載置部22を有している。原版載置部22には、原版Pが、露光処理が施された面を上方に向けるようにして載置される。原版Pの一端部には、ガイドプレート24が固定されている。ガイドプレート24は金属製の部材であり、扁平形状を呈している。搬送部2は、図示されていないガイドチェーンを有している。ガイドチェーンは原版載置部22に沿うように配置されており、ガイドプレート24の端部はこのガイドチェーンに係止されている。図示されていないモータが駆動すると、ガイドチェーンが回転し、ガイドプレート24を原版載置部22に沿って移動させる。これにより、矢印Aで示される方向に原版Pが搬送される。
【0029】
吐出部3は、現像液や水を吐出するように構成されており、複数の吐出管31,32を有している。吐出管31,32は、いずれも原版載置部22の上方に配置され、管形状を呈している。吐出管31は、搬送部2により搬送される原版Pに、使用済みの現像液を含む現像液を現像領域11内で供給するものであり、本発明における現像液供給部として機能する。吐出管32は、搬送部2により搬送される原版Pに、現像領域の下流側に隣接するリンス領域12内でリンス液を供給することにより原版Pの表面からデブリを除去するものであり、本発明におけるリンス液供給部として機能する。
【0030】
ブラシ部4は、ロールブラシ41,42を有している。ロールブラシ41,42は、それぞれの軸が略水平に伸びるように、原版載置部22の上方且つ吐出管31,32の下方に配置される。ロールブラシ41,42の外周部には、弾性を有する毛束が配設されている。ロールブラシ41,42がそれぞれの軸を中心として回動すると、毛束の毛先が軸周りに移動し、繰り返し原版載置部22側に配置される。ロールブラシ41は、後述する現像領域11内に配置され、原版Pの表面を擦ることにより未露光部を除去するものであり、本発明における未露光部除去部として機能する。ロールブラシ42は、後述するリンス領域12内に配置され、原版Pの表面を擦ることによりデブリを除去するものである。
【0031】
現像装置1は、
図1に示すように、現像領域11及びリンス領域12に区分することができる。現像領域11及びリンス領域12は、原版Pが搬送される方向にこの順序で並ぶように配置されている。現像領域11には吐出管31及びロールブラシ41が配置され、リンス領域12には吐出管32及びロールブラシ42が配置されている。
【0032】
現像領域11では、吐出管31から現像液が吐出され、原版Pの表面に供給される。ここで吐出される現像液は、使用済みの現像液を含むものであり、デブリを含んでいる。また、ロールブラシ41が回転し、その毛束が原版Pの表面を擦る。これにより、未硬化の感光性樹脂が原版Pの表面から掻き出され、現像液とともに排出される。現像領域11を通過した原版Pは、次にリンス領域12に至る。
【0033】
リンス領域12では、吐出管32からリンス液が吐出され、原版Pの表面に供給される。ここで吐出されるリンス液は、後述する分離回収装置7によって回収された回収液を含む水である。また、ロールブラシ42が回転し、その毛束が原版Pの表面を擦る。これにより、原版Pの表面に付着していたデブリや界面活性剤が除去される。
【0034】
このような現像装置1による現像処理が施された原版Pは、現像液や水によって膨潤している。原版Pは、図示されていない乾燥装置により乾燥処理が施される。乾燥処理では、高温の空気を吹き付けることにより、原版Pの乾燥が促される。乾燥した原版Pは、フレキソ印刷版として用いられる。
【0035】
また、現像装置1は、
図1に示すように、廃液処理供給機構5と、水処理供給機構6と、分離回収装置7と、を備えている。
【0036】
廃液処理供給機構5は、現像領域11に現像液を供給するように構成されており、吐出管31よりも下方に配置されたドレインパン51と、回収液貯留タンク52と、フィルタ装置54と、濾過液貯留タンク56と、を有している。
【0037】
ドレインパン51は、搬送部2の下方であって、且つ、現像領域11と対応する部位に配置されている。ドレインパン51は、現像領域11から下方に排出された現像廃液を回収するように構成されている。
【0038】
回収液貯留タンク52は、液体を貯留可能な容器である。回収液貯留タンク52の内部には、ドレインパン51により回収された現像廃液が流入し、貯留されている。現像廃液には、現像領域11において原版Pの表面から掻き出されたデブリが含まれている。当該デブリは、現像廃液中で分散している。
【0039】
回収液貯留タンク52内に貯留されている現像廃液の一部は、吸引管53aを介してポンプ53bにより吸引され、送給管53cを介してフィルタ装置54に送給される。フィルタ装置54は、その内部に、図示されていないフィルタを有している。送給管53cにより送給される現像廃液は、フィルタ装置54内に供給され、当該フィルタを通過する。現像廃液がフィルタを通過すると、フィルタとの摩擦により、現像廃液中で分散している樹脂カスの表面から界面活性剤が除去される。これにより、フィルタを通過した現像廃液中では、凝集剤を添加しなくても樹脂カスが凝集し、凝集物が生成される。本明細書においては、このような凝集物や樹脂カスの現像残渣を総じて「デブリ」と称することとしている。
【0040】
デブリを含むフィルタ装置54内の現像廃液は、送給管55を介して濾過液貯留タンク56に送給される。濾過液貯留タンク56は、液体を貯留可能な容器である。濾過液貯留タンク56の内部にはフィルタ56aが配置されている。送給管55により送給される現像廃液は、濾過液貯留タンク56内に供給され、フィルタ56aを通過する。現像廃液がフィルタ56aを通過すると、現像廃液に含まれていたデブリがほぼ除去される。濾過液貯留タンク56は、このようにほぼデブリを除去された現像廃液を貯留している。
【0041】
濾過液貯留タンク56内に貯留されている濾過済みの現像廃液の一部は、吸引管57aを介してポンプ57bにより吸引され、送給管57cを介して回収液貯留タンク52に戻される。デブリが除去された現像廃液が濾過液貯留タンク56から供給されることにより、回収液貯留タンク52内ではデブリの濃度が低下する。
【0042】
回収液貯留タンク52内に貯留されている現像液は、吸引管58aを介してポンプ58bにより吸引され、送給管58cを介して現像領域11の吐出管31に供給される。吐出管31は現像液を吐出し、現像領域11に配置されている原版Pに供給する。具体的には、現像液は1つの吐出管31から2つのロールブラシ41に向けて吐出され、これらロールブラシ41の毛束を介して原版Pの表面に供給される。現像領域11において供給された現像液は、搬送部2から落下し、前述したようにドレインパン51により回収され、デブリを除去する処理が施される。すなわち、現像領域11に供給される現像液は、繰り返し原版Pの現像に供される。
【0043】
水処理供給機構6は、リンス領域12にリンス液を供給するように構成されている。水処理供給機構6は、吐出管32よりも下方に配置されたドレインパン61と、水貯留タンク62と、を有している。水貯留タンク62は、例えば、水道水から供給される水を貯留するタンクである。水貯留タンク62内の水は、吸引管63aを介してポンプ63bにより吸引され、送給管63cを介してリンス領域12の吐出管32に供給される。吐出管32は水を吐出し、リンス領域12に配置されている原版Pに供給する。具体的には、水は1つの吐出管32から2つのロールブラシ42に向けて吐出され、これらロールブラシ42の毛束を介して原版Pの表面に供給される。リンス領域12において供給された水は、搬送部2から落下し、ドレインパン61により回収される。ドレインパン61により回収された水は、図示されていない濾過装置により濾過されて不純物が除去され、水貯留タンク62に戻されてリンス液として再利用される。また、後述するように、分離回収装置7によって回収された水もまた水貯留タンク62に戻されてリンス液として再利用される。
【0044】
分離回収装置7は、廃液処理供給機構5の回収液貯留タンク52に貯留された現像残渣(デブリ)を含む現像廃液から溶媒(水)を分離回収するように構成されている。なお、本実施形態における現像廃液は、界面活性剤を有する水を用いて現像を行うことによって発生したものであり、少なくともポリマー、モノマー及び開始剤を有する感光性樹脂を含むものである。
【0045】
ここで、
図2を用いて、本実施形態に係る分離回収装置7の構成について説明する。分離回収装置7は、
図2に示すように、廃液処理装置71、薄膜式蒸発濃縮装置72、冷却装置73、廃棄物タンク75、回収液タンク76等を有している。
【0046】
廃液処理装置71は、回収液貯留タンク52から溢出した現像廃液を溢出管52aを介して流入させ、図示されていないフィルタによって現像残渣(デブリ)を除去するように機能するものである。フィルタとしては、現像廃液中に分散している現像残渣を凝集させる分散物フィルタや、分散物フィルタを通過した現像廃液から凝集された現像残渣を除去する凝集物フィルタを採用することができる。廃液処理装置71で処理された現像廃液は、吸引管74aを介してポンプ74bにより吸引され、送給管74cを介して薄膜式蒸発濃縮装置72に供給される。
【0047】
薄膜式蒸発濃縮装置72は、廃液処理装置71から供給された現像廃液を濃縮しつつ蒸気を生成するように機能する。薄膜式蒸発濃縮装置72は、外側にジャケット72aが設けられた円筒状のシリンダ72bと、シリンダ72bの内部に回転可能に配置された駆動シャフト72cと、駆動シャフト72cを回転させるモータ72dと、駆動シャフト72cの外周に所定ピッチで設けられたブラケット72eと、各ブラケット72eの先端に揺動可能に取り付けられたブレード72fと、を有している。
【0048】
薄膜式蒸発濃縮装置72のモータ72dを作動させると、モータ72dの回転が駆動シャフト72cに伝達されて駆動シャフト72cが回転し、駆動シャフト72cに設けられたブラケット72e及びブレード72fもこれに伴って回転する。この状態で、廃液供給口72gを経由して現像廃液をシリンダ72b内に供給すると、現像廃液は遠心作用を受けてシリンダ72dの内壁側に押し付けられて薄膜状とされ、さらに重力によりシリンダ72dの内壁に沿って鉛直下方へと流下する。ここで、シリンダ72dの外側のジャケット72a内に、80℃以上180℃以下に加熱した蒸気又は熱媒体を通過させてジャケット72aを加熱すると、シリンダ72dの内壁側に押し付けられた薄膜状の現像廃液はジャケット72aにより加熱され、現像廃液内の揮発性成分が蒸発して蒸気が発生し、蒸気送給管72hを介して冷却装置73に送られることとなる。一方、揮発性成分が蒸発して残った現像廃液は濃縮され、固形物又は高濃縮水とされて廃棄物タンク75へと流入して貯留される。濃縮温度条件としては、100℃以上180℃以下が好ましく、120℃以上160℃以下がさらに好ましい。
【0049】
冷却装置73は、薄膜式蒸発濃縮装置73で発生した蒸気を冷却して溶媒(水)へと凝縮させるように機能するものである。冷却装置73によって発生した溶媒(水)は、回収液管73aを介して回収液タンク76に送られて貯留される。冷却装置73及び回収液タンク76は、本発明における液化回収装置に相当するものである。回収液タンク76に貯留された溶媒(水)は、吸引管77aを介してポンプ77bにより吸引され、送給管77cを介して水処理供給機構6の水貯留タンク62に供給されることにより、リンス液として再利用されることとなる。
【0050】
次に、本発明の実施形態に係る現像装置1を用いた現像方法について説明する。
【0051】
まず、原版Pを搬送部2で所定の方向Aに搬送しながら、現像領域11内で原版Pに現像液を供給しつつロールブラシ41で原版Pの表面を擦ることにより未露光部を除去する(現像工程)。現像工程では、使用済みの現像液を含む現像液を現像領域11に供給する。次いで、原版Pを所定の方向Aに搬送しながら、現像領域の下流側にあるリンス領域12内で原版Pにリンス液を供給することにより原版Pの表面からデブリを除去する(リンス工程)。この後、図示されていない乾燥装置により原版Pに乾燥処理を施し、フレキソ印刷版とする。
【0052】
ここで、本実施形態においては、分離回収装置7で回収した溶媒(水)を、リンス工程におけるリンス液の一部として再利用する。以下、分離回収装置7を用いて現像廃液から溶媒(水)を分離回収する方法(分離回収方法)について説明する。
【0053】
まず、分解回収装置7の廃液処理装置71を用いて、現像廃液から現像残渣を少なくとも部分的に除去し(廃液処理工程)た後、ポンプ74bを用いて、廃液処理工程で処理された現像廃液を薄膜式蒸発濃縮装置73に供給する(供給工程)。次いで、薄膜式蒸発濃縮装置73を用いて現像廃液を濃縮しつつ蒸気を生成する(濃縮工程)。濃縮工程では、現像廃液を濃縮することにより固形物又は高濃縮水を生成する。
【0054】
続いて、冷却装置73を用いて、濃縮工程によって生成した蒸気を冷却して溶媒(水)へと凝縮(液化)させ、発生させた溶媒(水)を回収液タンク76に送って回収する(液化回収工程)。また、濃縮工程によって生成した固形物又は高濃縮水を廃棄物タンク75で回収する(固形物回収工程)。液化回収工程によって回収された溶媒(水)は、吸引管77aを介してポンプ77bにより吸引され、送給管77cを介して水処理供給機構6の水貯留タンク62に供給されることにより、リンス液として再利用される。
【0055】
以上説明した実施形態に係る現像装置1においては、薄膜式蒸発濃縮装置72を用いて現像廃液を濃縮しつつ蒸気を生成し、その蒸気を冷却して液化させることにより、現像廃液から現像残渣を除いた溶媒を回収することができ、その回収した溶媒をリンス液の一部として再利用することができる。
【0056】
また、以上説明した実施形態に係る現像装置1においては、予め廃液処理装置71を用いて現像残渣を除去した状態の現像廃液をポンプ74bで薄膜式蒸発濃縮装置72に供給することができる。従って、溶媒をさらに効率良く分離回収することができる。
【0057】
なお、以上の実施形態においては、フィルタを有する廃液処理装置71を採用したが、廃液処理装置の構成はこれに限られるものではない。すなわち、廃液処理装置は、現像廃液から現像残渣(デブリ)を少なくとも部分的に除去する機能を有するものであればよく、例えば遠心分離装置や凝集分離装置を有する廃液処理装置を採用してもよい。
【0058】
また、以上の実施形態においては、分離回収装置7で回収した溶媒(水)を水貯留タンク62に戻して、リンス工程におけるリンス液の一部として再利用した例を示したが、分離回収装置7で回収した溶媒(水)を回収液貯留タンク52に戻して、現像工程における現像液の一部として再利用することもできる。
【0059】
また、以上の実施形態においては、いわゆる「ロールブラシを有するインライン式」の現像装置1に本発明を適用した例を示したが、いわゆる「ロールブラシ又はフラットブラシを有するバッチ式」の現像装置に本発明を適用することもできる。また、以上の実施形態においては、水系現像液を用いた現像装置1に本発明を適用した例を示したが、溶剤系現像液を用いた現像装置に本発明を適用してもよい。
【0060】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、かかる実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。すなわち、前記実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前記実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0061】
1…現像装置
2…搬送部
7…分離回収装置
11…現像領域
12…リンス領域
31…吐出管(現像液供給部)
32…吐出管(リンス液供給部)
41…ロールブラシ(未露光部除去部)
71…廃液処理装置
72…薄膜式蒸発濃縮装置
73…冷却装置(液化回収装置)
74b…ポンプ
76…回収液タンク(液化回収装置)
P…原版
【手続補正書】
【提出日】2023-07-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に感光性樹脂層を有する原版を現像する装置であって、
前記感光樹脂層に露光部と未露光部とが形成された前記原版を搬送する搬送部と、
前記搬送部により搬送されて現像領域内に配置される前記原版に現像液を供給する現像液供給部と、
前記現像領域内に配置される前記原版の表面を擦ることにより前記未露光部を除去する未露光部除去部と、
前記搬送部により搬送されて前記現像領域に隣接するリンス領域内に配置される前記原版にリンス液を供給することにより前記原版の表面からデブリを除去するリンス液供給部と、
現像残渣を含む現像廃液から溶媒を分離回収する分離回収装置と、を備え、
前記分離回収装置は、前記現像廃液を濃縮しつつ蒸気を生成する薄膜式蒸発濃縮装置と、前記薄膜式蒸発濃縮装置によって生成した蒸気を冷却し液化させて回収する液化回収装置と、を有し、
前記分離回収装置で回収された溶媒は、前記現像液供給部の前記現像液の一部及び/又は前記リンス液供給部の前記リンス液の一部として再利用される、現像装置。
【請求項2】
前記分離回収装置は、前記現像廃液から現像残渣を少なくとも部分的に除去する廃液処理装置と、前記廃液処理装置で処理された前記現像廃液を前記薄膜式蒸発濃縮装置に供給するポンプと、を有する、請求項1に記載の現像装置。
【請求項3】
前記廃液処理装置は、フィルタ、遠心分離装置及び凝集分離装置の少なくとも何れか一つを有するものである、請求項2に記載の現像装置。
【請求項4】
前記フィルタは、前記現像廃液中に分散している現像残渣を凝集させる分散物フィルタを有する、請求項3に記載の現像装置。
【請求項5】
前記フィルタは、前記分散物フィルタを通過した前記現像廃液から凝集された現像残渣を除去する凝集物フィルタを有する、請求項4に記載の現像装置。
【請求項6】
前記現像廃液は、少なくともポリマー、モノマー及び開始剤を有する感光性樹脂を含むものである、請求項1から5の何れか一項に記載の現像装置。
【請求項7】
前記現像廃液は、少なくとも界面活性剤を有する水系現像液を用いて現像を行うことによって発生したものである、請求項1から6の何れか一項に記載の現像装置。
【請求項8】
前記原版を現像することによりフレキソ印刷版を製造する装置である、請求項1から7の何れか一項に記載の現像装置。