(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121881
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】リニアライザ
(51)【国際特許分類】
H03F 1/32 20060101AFI20230825BHJP
H03F 3/24 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
H03F1/32 141
H03F3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025203
(22)【出願日】2022-02-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、総務省、「電波資源拡大のための研究開発 ~100GHz以上の高周波数帯通信デバイスに関する研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】392026693
【氏名又は名称】株式会社NTTドコモ
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】青木 すみれ
(72)【発明者】
【氏名】濱田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 浩司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恭宜
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA41
5J500AC25
5J500AC26
5J500AC81
5J500AF08
5J500AF10
5J500AH02
5J500AH09
5J500AH18
5J500AK12
5J500AK13
5J500AK68
5J500AS14
5J500AT01
5J500CK03
5J500NG03
(57)【要約】
【課題】100GHz以上の周波数帯においてもリニアライザの回路構成を提供する。
【解決手段】本発明のリニアライザは、高周波信号を入力信号とする増幅器の入力端子への伝送パスに接続する。本発明のリニアライザは、ダイオードもしくはトランジスタ、伝送線路、直流電源を備える。ダイオードのアノードもしくはトランジスタのベースを、伝送パスに接続する。伝送線路は、ダイオードのカソードもしくはトランジスタのエミッタとアースとの間に配置される。直流電源は、入力端子にバイアス電圧を付加する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号を入力信号とする増幅器の入力端子への伝送パスに接続するリニアライザであって、
前記伝送パスにベースを接続したトランジスタと、
前記トランジスタのエミッタとアースとの間に配置される伝送線路と、
前記入力端子にバイアス電圧を付加する直流電源と、
を備えるリニアライザ。
【請求項2】
請求項1記載のリニアライザであって、
前記トランジスタのコレクタとアースとの間に配置された抵抗
も備えるリニアライザ。
【請求項3】
請求項1または2記載のリニアライザであって、
前記伝送線路の長さは、AM-AM特性とAM-PM特性において、前記トランジスタの寄生容量と前記伝送線路との共振現象による当該リニアライザの特性が、前記増幅器の特性を打ち消すように定められている
ことを特徴とするリニアライザ。
【請求項4】
高周波信号を入力信号とする増幅器の入力端子への伝送パスに接続するリニアライザであって、
前記伝送パスにアノードを接続したダイオードと、
前記ダイオードのカソードとアースとの間に配置される伝送線路と、
前記入力端子にバイアス電圧を付加する直流電源と、
を備えるリニアライザ。
【請求項5】
請求項4記載のリニアライザであって、
前記直流電源は、アノード・カソード間バイアスを前記ダイオードの閾値電圧近傍にする
ことを特徴とするリニアライザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号を入力信号とする増幅器の歪みを補償するリニアライザに関する。
【背景技術】
【0002】
電気通信、とくに無線通信を行う場合には、通信に必要な信号対雑音電力比(Signal to noise ratio; SNR)を確保するために、送信波の電力を増幅する増幅器が必要である。増幅器で生じる非線形ひずみ(特に3次相互変調ひずみ:IM3)は、信号品質の劣化(具体的には、SNRの低下)の原因となる。ひずみを補償する電子回路としてリニアライザが知られており、数百MHz~数GHz帯を用いたセルラ用増幅器に適用されている。特許文献1に示された技術はリニアライザの例であり、非特許文献1には増幅器の低歪み・高効率化の手法が全般的に示されている。
【0003】
図1に、従来技術として知られているダイオードを用いたリニアライザを示す。本リニアライザは、増幅器とダイオードとで、AM-AM特性(Amplitude-Amplitude Distortion)およびAM-PM特性(Amplitude-Phase Distortion)とが逆の特性を示すことを利用してダイオードにより増幅器のひずみを補償することを動作原理としている。
図1に示すリニアライザ800は、入力信号の交流成分のみを通過させるコンデンサ910と増幅器900の間に配置される。リニアライザ800は、増幅器900の入力端子とアースとの間に配置する。リニアライザ800は、ダイオード820、直流電源840を備える。ダイオード820のアノード端子は、高周波信号の主たる伝送パス(
図1のコンデンサ910と増幅器900との間の配線)に接続される。ダイオード820のカソード端子はアースに接続される。直流電源840は、入力端子にバイアス電圧を付加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中山正敏、高木直、“電力増幅器の低歪み・高効率化の手法”、[令和4年2月14日検索]、インターネット<https://www.apmc-mwe.org/mwe2005/src/TL/TL03-02.pdf>.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、6G以降での実用化が期待される100 GHz以上の周波数帯においては、その周波数の高さからリニアライザ回路の不完全性(寄生容量による特性劣化など)が大きいため、リニアライザの実現が難しくなるという課題がある。本発明は、100GHz以上の周波数帯においてもリニアライザの回路構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のリニアライザは、高周波信号を入力信号とする増幅器の入力端子への伝送パスに接続する。本発明のリニアライザは、ダイオードもしくはトランジスタ、伝送線路、直流電源を備える。ダイオードのアノードもしくはトランジスタのベースを、伝送パスに接続する。伝送線路は、ダイオードのカソードもしくはトランジスタのエミッタとアースとの間に配置される。直流電源は、入力端子にバイアス電圧を付加する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリニアライザによれば、ダイオードもしくはトランジスタの寄生容量と伝送線路との共振現象によるリニアライザの特性を、増幅器の特性を打ち消すように定めることが可能である。よって、100GHz以上の周波数帯においてもリニアライザの回路構成を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】従来技術として知られているリニアライザを示す図。
【
図2】本発明の第1のリニアライザを含む回路を示す図。
【
図3】本発明の第2のリニアライザを含む回路を示す図。
【
図4】伝送線路の100GHzにおける電気長を変化させたときのS
21の振幅の入力電力に対する変化(AM-AM特性)のシミュレーション結果を示す図。
【
図5】伝送線路の100GHzにおける電気長を変化させたときのS
21の位相の入力電力に対する変化(AM-PM特)のシミュレーション結果を示す図。
【
図6】100GHzにおける入力信号の強度とS
21偏差との関係のシミュレーション結果を示す図。
【
図7】本発明のリニアライザを増幅器に付加した場合、従来のリニアイライザを付加した場合および増幅器のみの場合の100GHzにおける出力信号の強度と振幅偏差の関係のシミュレーション結果を示す図。
【
図8】本発明のリニアライザを増幅器に付加した場合、従来のリニアイライザを付加した場合および増幅器のみの場合の100GHzにおける出力信号の強度と位相偏差の関係のシミュレーション結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例0011】
図2に本発明の第1のリニアライザを含む回路を示す。リニアライザ100は、高周波信号を入力信号とする増幅器920の入力端子への伝送パス(
図2のコンデンサ910と増幅器920との間の配線)に接続する。リニアライザ100は、トランジスタ110、伝送線路130、直流電源200を備える。また、リニアライザ100は抵抗120も備えてもよい。リニアライザ100を含んだ回路は100GHz以上の信号を扱うので、集積回路で形成されている。リニアライザ100においては、トランジスタの有するダイオード特性を用いることにより、原理的には、バイポーラトランジスタや電界効果型トランジスタを用いて構成することも可能である。本明細書では、バイポーラトランジスタを用いた構成を説明する。
【0012】
トランジスタ110のベースは、伝送パスに接続する。「接続」とは、電気的な接続を意味する。伝送線路130は、トランジスタ110のエミッタとアースとの間に配置される。言い換えると、伝送線路130の一端がトランジスタ110のエミッタに接続され、他端がアースに接続される。伝送線路130は、100GHzにおける電気長を適宜選択すればよい。例えば、電気長を90度以下の中から選択すればよい。基板の誘電率などにも依存するが、物理長が数100μmのインジウム・リン(InP)などで形成すればよい。具体的な電気長については、後述する。
【0013】
抵抗120は、トランジスタ110のコレクタとアースとの間に配置すればよい。言い換えると、抵抗120の一端をトランジスタ110のコレクタに接続し、他端をアースに接続すればよい。抵抗130は、コレクタ端子の電位を高周波において安定化するために、コレクタ端子をダイオードのON抵抗よりも十分高い抵抗値(例えば数kΩよりも大きい値)を持つ抵抗とすることで、直流電位を接地電位とすればよい。直流電源200は、入力端子にバイアス電圧を付加する。
【0014】
図3に本発明の第2のリニアライザを含む回路を示す。リニアライザ101は、高周波信号を入力信号とする増幅器920の入力端子への伝送パス(
図3のコンデンサ910と増幅器920との間の配線)に接続する。リニアライザ101は、ダイオード820、伝送線路130、直流電源200を備える。リニアライザ101を含んだ回路は100GHz以上の信号を扱うので、集積回路で形成されている。ダイオード820には、ショットキーバリアダイオード、PNダイオードのようなダイオード素子を用いればよい。
【0015】
ダイオード820のアノードは、伝送パスに接続する。伝送線路130は、ダイオード820のカソードとアースとの間に配置される。言い換えると、伝送線路130の一端がダイオード820のカソードに接続され、他端がアースに接続される。伝送線路130は、100GHzにおける特性インピーダンス、電気長を適宜選択すればよい。例えば、電気長を90度以下の中から選択すればよい。基板の誘電率などにも依存するが、物理長が数100μmのインジウム・リン(InP)などで形成すればよい。具体的な電気長については、後述する。
【0016】
直流電源201は、入力端子にバイアス電圧を付加する。ダイオード820を用いたリニアライザ101を適切に動作させるためには、ダイオード820のアノード・カソード間バイアスを適切な電圧範囲に設定する必要がある。リニアライザ101では、高周波信号が感じるダイオードのインピーダンス(すなわち、
図3の伝送パスからダイオードのアノード端子を見込んだインピーダンス)がリニアライザへの高周波入力電力の変化に対して最も大きく変化するように、直流電源201により、アノード・カソード間バイアスをダイオードの閾値電圧近傍にバイアスすればよい。
【0017】
図4に、リニアライザ100における伝送線路130の100GHzにおける電気長を変化させたときのS
21の振幅の入力電力に対する変化(AM-AM特性)のシミュレーション結果を示している。横軸は入力電圧であり、縦軸はS
21の振幅である。
図4の右側に示している数字(0,30,50など)は、電気長の角度を示している。例えば、30は電気長が30度の場合を示している。電気長0度と180度の結果は重なっている。
【0018】
図5は、リニアライザ100における伝送線路130の100GHzにおける電気長を変化させたときのS
21の位相の入力電力に対する変化(AM-PM特)のシミュレーション結果を示している。横軸は入力電圧であり、縦軸はS
21の位相である。
図5の右側に示している数字(0,30,50など)は、電気長の角度を示している。例えば、30は電気長が30度の場合を示している。電気長0度と180度の結果は重なっている。
【0019】
図4,5から、電気長を60°に設定した場合、リニアライザ100は、増幅器920のAM-AM特性(通常、入力電力に対して右肩下がりとなる)およびAM-PM特性(トランジスタで構成した増幅器の場合、通常、入力電力に対して右肩下がりとなる)の逆特性を有しており、増幅器920のひずみを補償できることが分かる。
【0020】
図6は、100GHzにおける入力信号の強度とS
21偏差との関係のシミュレーション結果を示している。横軸は、入力信号の強度である。縦軸はSパラメータのS
21(位相)について、入力信号が一番低いS
21を基準に差分をとったものである。増幅器920のみの特性は-20dBmを超えるとマイナス方向に変化している。一方、リニアライザ100のみの特性は-20dBmを超えるとプラス方向に変化している。このリニアライザの特性は、伝送線路130の電気長を60°程度とすることで、トランジスタ110の寄生容量と伝送線路130との共振現象を利用して実現している。この特性によって、リニアライザ100と増幅器920組み合わせることで、増幅器920の特性を打ち消すことができる。伝送線路130の長さは、リニアライザ100の特性が増幅器920の特性の逆特性になるように適宜定めればよい。より具体的には、伝送線路130の長さは、AM-AM特性(Amplitude-Amplitude Distortion)とAM-PM特性(Amplitude-Phase Distortion)において、トランジスタ110の寄生容量と伝送線路130との共振現象によるリニアライザ100の特性が、増幅器920の特性を打ち消すように定めればよい。
【0021】
図7は、本発明のリニアライザを増幅器に付加した場合、従来のリニアイライザを付加した場合および増幅器のみの場合の100GHzにおける出力信号の強度と振幅偏差の関係のシミュレーション結果を示している。従来のリニアライザを付与した場合および増幅器のみの場合においては、振幅偏差の傾向がほとんど変わらず、リニアライザ効果が表れていない。一方で本発明のリニアライザを付与した場合は出力信号が高くなっても振幅偏差量は少ない。増幅器のみの場合および従来のリニアライザを付与した場合に比べ、本発明のリニアライザを付与することで1dB利得抑圧点出力電力(OP1dB)を1.4dB向上できる。
図8は、本発明のリニアライザを増幅器に付加した場合、従来のリニアイライザを付加した場合および増幅器のみの場合の100GHzにおける出力信号の強度と位相偏差の関係のシミュレーション結果である。従来のリニアライザを付与した場合および増幅器のみの場合においては、振幅偏差と同様に、位相偏差の傾向がほとんど変わらず、リニアライザ効果が表れていない。本発明のリニアライザを付与することで、従来のリニアライザを付与した場合および増幅器のみの場合に比べ、位相偏差の絶対値5°を超えるときの出力信号が2.6dB改善できる。
【0022】
本発明のリニアライザによれば、ダイオードもしくはトランジスタの寄生容量と伝送線路との共振現象によるリニアライザの特性を、増幅器の特性を打ち消すように定めることが可能である。よって、100GHz以上の周波数帯においてもリニアライザの回路構成を提供できる。