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特開2023-121919制御システム、発電プラント及び制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121919
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】制御システム、発電プラント及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/38 20060101AFI20230825BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
H02J3/38 110
H02J3/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025272
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹友 孝裕
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066HA15
5G066HB02
5G066HB09
5G066JA05
5G066JB03
(57)【要約】
【課題】高速負荷変化を実現する蒸気タービン発電プラントの制御システムを提供する。
【解決手段】制御システムは、蒸気タービンと、発電機と、バッテリとを備える発電プラントの制御システムであって、発電プラントへの出力の指令値を取得する取得部と、発電機を駆動する蒸気タービンの出力を制御するタービン制御部と、系統に接続されたバッテリの充放電を制御するバッテリ制御部と、を備え、発電機の出力の上昇又は降下を指示する指令値を取得した場合、タービン制御部は、発電機の出力の実測値と指令値の偏差を計算し、バッテリ制御部は、前記指令値が目標出力まで上昇又は降下するまでの間、偏差を補償するようにバッテリを充放電させ、タービン制御部は、前記指令値と、発電機の出力との偏差に基づいて蒸気タービンの主蒸気加減弁を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気タービンと、前記蒸気タービンによって駆動して系統に接続された発電機と、前記系統に接続されたバッテリとを備える発電プラントの制御システムであって、
前記発電プラントの出力の指令値を取得する取得部と、
前記蒸気タービンを制御するタービン制御部と、
前記バッテリの充放電を制御するバッテリ制御部と、
を備え、
前記取得部が、前記発電プラントの出力を上昇又は降下させる前記指令値を取得した場合、
前記タービン制御部は、前記発電機の出力と前記指令値の偏差を計算し、
前記バッテリ制御部は、前記指令値が所定の目標出力まで上昇又は降下するまでの間、前記偏差を補償するように前記バッテリを充放電させ、
前記タービン制御部は、前記指令値と、前記発電機の出力と、の偏差に基づいて前記蒸気タービンの主蒸気加減弁を制御する、
制御システム。
【請求項2】
前記発電プラントの出力が前記目標出力まで上昇又は降下するまでの間、
前記タービン制御部は、前記主蒸気加減弁の開度の変化が所定の範囲内となるよう制御する、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記発電プラントの出力が前記目標出力まで上昇又は降下するまでの間、
前記タービン制御部は、
前記指令値よりも前記発電機の出力が小さい場合、前記指令値と、前記発電機の出力に前記バッテリが放電する電力を加算した値と、に基づいて、前記主蒸気加減弁の開度を制御し、
前記指令値よりも前記発電機の出力が大きい場合、前記指令値と、前記発電機の出力から前記バッテリが充電する電力を減算した値と、に基づいて、前記主蒸気加減弁の開度を制御する、
請求項1または請求項2の何れか1項に記載の制御システム。
【請求項4】
前記バッテリ制御部は、前記発電機の出力と前記バッテリが充放電する電力の合計が、前記目標出力まで上昇又は降下してから所定時間が経過すると、前記バッテリの充放電を停止する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の制御システム。
【請求項5】
前記バッテリ制御部は、前記発電機の出力と前記バッテリが充放電する電力の合計が、前記目標出力まで上昇又は降下してから所定時間が経過すると、前記系統の周波数の変動を補償するように前記バッテリを充放電させる、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の制御システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の制御システムと、
前記蒸気タービンと、
前記発電機と、
前記バッテリと、
を備える発電プラント。
【請求項7】
蒸気タービンと、前記蒸気タービンによって駆動する発電と、バッテリとを備える発電プラントの制御方法であって、
前記発電プラントの出力を上昇又は降下させる指令値を取得し、
前記発電の出力と前記指令値の偏差を計算し、
前記指令値が所定の目標出力まで上昇又は降下するまでの間、前記偏差を補償するように前記バッテリを充放電させ、
前記指令値と、前記発電の出力と、の偏差に基づいて前記蒸気タービンの主蒸気加減弁を制御する、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御システム、発電プラント及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン発電プラントの負荷を上昇させる場合、出力の上昇指令に対するボイラの応答遅れ等により、負荷上昇開始からしばらくの間は、実際の出力は目標負荷に対して上昇遅れを生じる。その後、燃料等の投入によってボイラが発生する水蒸気量が増加すると、実際の出力が指令値に追いつくようになる。そして、発電プラントの出力が最終的な目標負荷に達した際には、それまでの出力上昇トレンドを急に停止することができず、出力はオーバーシュートし、その後、目標負荷に整定する。負荷を降下させる場合には、出力の降下指令に対し、最初は降下遅れを生じながら発電プラントの出力が降下し、目標負荷に対してアンダーシュートした後に目標負荷に整定する。
【0003】
図6に蒸気タービン発電プラント1´の概略図を示す。蒸気タービン発電プラント1´は、ランキンサイクル2と、発電機7と、ランキンサイクル2を制御する制御装置100´を備える。ランキンサイクル2は、蒸気タービン3と、復水器4と、ボイラ5と、主蒸気加減弁6とを備える。発電機7は、ランキンサイクル2によって駆動して電力を発電し、発電した電力を系統へ供給する。制御装置100´は、出力指令値c1と、系統周波数の実測値c2と、発電機7の発電出力の実測値c3と、蒸気タービン3入口での主蒸気圧力の実測値c4の各信号を取得する。これらの信号を取得した制御装置100´では、関数発生器101が系統周波数の実測値c2から系統周波数を正常範囲に制御するための補正値r0を計算する。図3に系統周波数と指令値の関係の一例を示す。図3の縦軸は出力指令値、横軸は系統周波数を示す。系統周波数が所定の許容範囲を超過した場合、発電プラント1´が供給する電力が需要を上回っていることを示している。このような場合、関数発生器101は、図3に示すように出力指令値を降下させるような補正値r0を計算する。次にリミッタ102が、関数発生器101が計算した補正値r0を所定の上下限値の範囲に抑えた補正値r1を計算する。そして加算器103が、出力指令値c1と補正値r1を加算し、系統周波数の変動を考慮した出力指令値r2を計算する。一次遅れ補償器104は、発電機7の出力実測値c3を取得して、指令値に対する一時遅れを補償した出力実測値r3を計算する。減算器105は出力指令値r2と出力実測値r3の偏差r4(出力指令値r2-出力実測値r3)を計算し、感度調整器106が、この偏差r4を0に近づけるような主蒸気加減弁6の開度指令値r5を計算する。主蒸気加減弁6の開度は感度調整器106によってPI(Proportional-Integral)制御される。例えば、発電プラント1´の負荷上昇時には、減算器105が計算する偏差r4は正となり、より多くの蒸気を蒸気タービン3に供給するために、主蒸気加減弁6は開く方向に調整される。しかし、ボイラ5にて発生する水蒸気を、出力の上昇に対応して急速に増加させることが難しい為、充分な水蒸気が蒸気タービン3に供給されるまでには時間が掛かり、ランキンサイクル2の出力、つまり発電機7の発電出力は、出力指令値c1に対して上昇遅れ気味となる。また、主蒸気加減弁6は開くことにより、主蒸気圧力は低下する。
【0004】
加算器103が計算した出力指令値r2は、関数発生器107に送られ、関数発生器107は、出力指令値r2に応じた主蒸気圧力設定値r6を計算する。一次遅れ補償器108は、蒸気タービン3入口の主蒸気圧力の実測値c4を取得して一次遅れを補償した主蒸気圧力r7を計算する。減算器109は、主蒸気圧力設定値r6と主蒸気圧力r7の偏差r8(主蒸気圧力設定値r6-主蒸気圧力実測値r7)を計算する。上記のように、負荷上昇が始まると主蒸気加減弁6は開く方向で調整される。すると蒸気タービン3の入口主蒸気圧力は低下する。従って、偏差r8は正の値となる。感度調整器110は、この偏差を0に近づけるような指令値r9をPI制御により計算する。加算器111は、出力指令値r2と指令値r9を合計して指令値r10を計算する。指令値r10は、ボイラ5に投入される燃料、水、空気等を制御する大元となる値である。偏差r8が正の場合、指令値r10は燃料などを増加させるような値(ボイラ5で発生する水蒸気が増加するような値)となる。制御装置100´は、開度指令値r5と指令値r10によってランキンサイクル2の出力を制御する。ここで、負荷上昇時の上昇遅れやオーバーシュートの原因について考察すると、出力を上昇させるために主蒸気加減弁6の開度を増加させて、主蒸気圧力の低下を招くことが主な原因の一つであることが分かっている。
【0005】
関連する技術として、特許文献1には、ガスタービンと蒸気タービンを備えるコンバインドサイクル発電プラントにおける負荷上昇時および下降時におけるオーバーシュートやアンダーシュートの発生を防止するための制御が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-33609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発電プラント1´の負荷を上昇又は降下させるときの目標負荷に対するオーバーシュートやアンダーシュートの大きさは、単位時間あたりの負荷の変化率が大きい程、大きくなる。オーバーシュートやアンダーシュートが大きいことは制御性の観点から好ましくない為、それらを小さく抑えるために、負荷の上昇率又は降下率を低く設定して、時間をかけて目標負荷まで上昇又は降下させることが多い。これに対し、発電プラント1の出力を、負荷変化に対して高速に対応させる制御が求められている。
【0008】
本開示は、上記課題を解決することができる制御システム、発電プラント及び制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の制御システムは、蒸気タービンと、前記蒸気タービンによって駆動して系統に接続された発電機と、前記系統に接続されたバッテリとを備える発電プラントの制御システムであって、前記発電プラントの出力の指令値を取得する取得部と、前記蒸気タービンを制御するタービン制御部と、前記バッテリの充放電を制御するバッテリ制御部と、を備え、前記取得部が、前記発電プラントの出力を上昇又は降下させる前記指令値を取得した場合、前記タービン制御部は、前記発電機の出力と前記指令値の偏差を計算し、前記バッテリ制御部は、前記指令値が所定の目標出力まで上昇又は降下するまでの間、前記偏差を補償するように前記バッテリを充放電させ、前記タービン制御部は、前記指令値と、前記発電機の出力と、の偏差に基づいて前記蒸気タービンの主蒸気加減弁を制御する。
【0010】
また、本開示の発電プラントは、上記の制御システムと、前記蒸気タービンと、前記発電機と、前記バッテリと、を備える。
【0011】
また、本開示の制御方法は、蒸気タービンと、前記蒸気タービンによって駆動する発電機と、バッテリとを備える発電プラントの制御方法であって、前記発電プラントの出力を上昇又は降下させる前記指令値を取得し、前記発電機の出力と前記指令値の偏差を計算し、前記指令値が所定の目標出力まで上昇又は降下するまでの間、前記偏差を補償するように前記バッテリを充放電させ、前記指令値と、前記発電機の出力と、の偏差に基づいて前記蒸気タービンの主蒸気加減弁を制御する。
【発明の効果】
【0012】
上述の制御システム、発電プラント及び制御方法によれば、負荷変化の変化率を高めて、高速負荷変化を実現するとともに、負荷変化への追従性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る発電プラントの一例を示す図である。
図2】実施形態の発電システムに関するパラメータの推移の一例を示す図である。
図3】系統周波数と指令値の関係の一例を示す図である。
図4】系統周波数と電力の関係の一例を示す図である。
図5】主蒸気圧力、ガバナ開度、負荷の関係の一例を示す図である。
図6】一般的な発電システムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態>
以下、本開示の発電システムについて、図1図6を参照しながら説明する。
(システム構成)
図1は、実施形態に係る発電プラントの一例を示す図である。図1に示すように発電プラント1は、ランキンサイクル2と、発電機7と、ランキンサイクル2を制御する制御装置100と、発電機7の発電出力の不足分を放電によって補い、余剰分を充電によって引き取る充放電システム20と、を備える。ランキンサイクル2は、蒸気タービン3と、復水器4と、ボイラ5と、主蒸気加減弁6とを備える。発電機7は、ランキンサイクル2によって駆動して電力を発電し、発電した電力を系統へ供給する。制御装置100は、図6を用いて説明した関数発生器101と、リミッタ102と、加算器103と、一次遅れ補償器104と、減算器105と、感度調整器106と、関数発生器107と、一次遅れ補償器108と、減算器109と、感度調整器110と、加算器111に加え、選択器112と、減算器113と、スイッチ114と、変化率制限器115と、関数発生器116と、スイッチ117と、を備える。選択器112は、発電機7の出力実測値c3と、出力指令値c1とに基づいて、充放電システム20が充放電する電力を計算し、その計算結果に基づいて負荷変化中における発電プラント1の出力を、BESS(Battery Energy Storage System)9からの放電の電力と加算させることで出力指令値c1と一致させる。その結果、推定値r31は出力指令値c1と同値となる。言い換えれば、選択器112は、負荷変化中においては、発電機7の出力実測値c3と、出力指令値c1とのうち、出力指令値c1を選択し、負荷整定後には、発電機7の出力実測値c3を選択する。選択器112は、選択した値を出力推定値r31として出力する。減算器113は、出力指令値r2と出力実測値c3の偏差r11(出力指令値r2-出力実測値c3)を計算する。スイッチ114は、偏差r11を取得し、その値を変化率制限器115へ出力する。また、スイッチ114は、目標負荷の上昇や降下があった場合に発電プラント1の出力が目標負荷に到達すると、目標負荷に到達したことを示す信号を取得する。発電プラント1の出力が目標負荷に到達して所定時間が経過すると、スイッチ114をオフにする。変化率制限器115は、偏差r11を充放電システム20へ出力する。関数発生器116は、系統周波数の実測値c2を取得し、系統周波数の実測値c2から系統周波数を正常範囲に制御するための電力の補正値r12を計算する。スイッチ117は、目標負荷の上昇や降下があった場合に発電プラント1の出力が目標負荷に到達すると、目標負荷に到達したことを示す信号を取得する。スイッチ117は、発電プラント1の出力が目標負荷に到達して所定時間が経過すると、補正値r12をBESS9へ出力し、発電プラント1の負荷変化中および発電プラント1の出力が目標負荷に到達して所定時間までは補正値r12をBESS9へ出力しない。
【0015】
充放電システム20は、電力量分配回路8と、BESS9と、電力合計回路10と、スイッチ11,12を備える。電力量分配回路8は、発電機7が発電した電力(発電機7の出力実測値c3)と出力指令値c1を取得し、出力実測値c3が出力指令値c1を上回る場合(c3>c1)、スイッチ11をオンにして、出力指令値c1を上回った余剰分の発電電力をBESS9へ供給する。BESS9は、バッテリ91を備え、電力量分配回路8によって供給された余剰分の発電電力をバッテリ91に充電する。出力実測値c3が出力指令値c1以下の場合(c3≦c1)、電力量分配回路8は、スイッチ11をオフにする。BESS9は、偏差r11と発電出力の補正値r12を取得する。BESS9は、偏差r11が正の場合(r2-c3>0)、スイッチ12をオンにし、偏差r11に対応する電力量をバッテリ91から放電させる。BESS9は、偏差r11が示す出力指令値r2に対する出力実測値c3の不足分をバッテリ91から放電する。電力合計回路10は、発電機7が発電した電力とバッテリ91が放電した電力を加えて、その電力を系統へ供給する。BESS9は、偏差r11が0以下の場合(r2-c3≦0)、スイッチ12をオフにする。このように、負荷変化中、BESS9、電力量分配回路8は、出力実測値c3と出力指令値c1の偏差を補償するようにバッテリ91の充放電を行う。
【0016】
これに対し、BESS9は、負荷整定後(発電プラント1の出力が目標負荷に到達して所定時間経過後)には系統周波数の安定化のために充放電を行う。具体的には、BESS9は、系統周波数を正常範囲に制御するための電力の補正値r12を取得し、充放電系統13を介してバッテリ91から系統への放電、又は、系統からバッテリ91への充電を行う。例えば、系統周波数の実測値c2が基準値よりも高い場合、それは系統に供給されている電力が需要に比べて大きいことを意味し、反対に系統周波数の実測値c2が基準値よりも低い場合、系統に供給されている電力が需要よりも足りないことを意味する。関数発生器116は、例えば、図4に例示する電力と系統周波数の対応関係に基づいて、系統周波数の実測値c2に応じて放電又は充電すべき電力の補正値r12を計算し、BESS9は、この補正値r12に基づいて、充放電を行う。BESS9は、系統周波数の実測値c2が基準値よりも高い場合には充電し、系統周波数の実測値c2が基準値よりも低い場合には放電する。
【0017】
(動作)
次に図1図2を参照して負荷変化時の制御について説明する。図2(a)に、発電プラント1の出力の推移を示す。図2(a)の縦軸は電力、横軸は時間である。L1は出力指令値c1の推移を示し、L2は発電機7の出力実測値c3の推移を示す。図2(b)に、BESS9の充放電量L3の推移を示す。図2(b)の縦軸は電力、横軸は時間である。縦軸方向の上側(正)のエリアは充電量を示し、下側(負)のエリアは放電量を示す。図2(c)のL4は、主蒸気加減弁6の開度(ガバナ開度)の推移を示す。図2(c)の縦軸は開度、横軸は時間である。図2(d)は、ボイラ5に供給する燃料、空気、水等の供給に係る指令値L5(例えば、r10)の推移を示す。図2(d)の縦軸は指令値の大きさ、横軸は時間である。図2(e)は、蒸気タービン3の入口における主蒸気圧力の推移を示す。図2(e)の縦軸は圧力、横軸は時間である。L6は主蒸気圧力の設定値の推移を示し、L7は主蒸気圧力の実測値c4の推移を示す。図2(a)~図2(e)の各グラフの横軸の同じ位置は同じ時刻を示している。
【0018】
(時刻t0~t2)
負荷上昇時(時刻t0~t2)の制御について説明する。図2の時刻t0は、負荷上昇開始時刻である。時刻t1は、主蒸気圧力の設定値が定格圧力の設定値に到達した時刻である。時刻t2は、発電プラント1の出力指令値c1が目標負荷に到達した時刻である。発電プラント1に対する負荷上昇の要求があると、出力指令値c1を生成する指令値生成装置(図示せず)が、図2(a)のL1が示すような、目標負荷まで一定のレートで出力を上昇させる出力指令値c1を生成する。指令値生成装置(図示せず)は、制御装置100へ生成した出力指令値c1を出力する(時刻t0)。制御装置100は、負荷を上昇させる出力指令値c1を取得すると、負荷変化に対応する制御を開始する。具体的には、制御装置100では、加算器103が系統周波数の実測値c2の変動を考慮した出力指令値r2を計算する。また、減算器113が、発電機7の出力実測値c3と出力指令値r2の偏差r11を計算し、スイッチ114にこの値を出力する。時刻t0~t1の間は、発電プラント1の出力は目標負荷に到達していない為、偏差r11は正の値となり、BESS9へ出力される。また、電力量分配回路8は、発電機7の出力実測値c3と出力指令値c1を取得し、余剰電力があれば充電するよう制御するが、時刻t0~t1の間は、出力指令値c1が発電機7の出力実測値c3を上回るため、当該制御は実行されない。つまり、電力量分配回路8は、発電機7の出力実測値c3が、出力指令値c1以下となる為、スイッチ11をオフにして、充電を行わない。発電機7が発電した電力は、電力量分配回路8を通じて電力合計回路10へ供給される。一方、BESS9では、偏差r11に基づいてスイッチ12をオンにし、出力指令値c1に対する発電機7の発電出力の不足分が計算され、図2(b)のL3が示すように不足分がバッテリ91から放電される。放電された電力は、電力合計回路10へ供給される。電力合計回路10は、発電機7が発電した電力とBESS9から放電された電力を合計して系統へ供給する。
【0019】
時刻t1A以降は、発電機7の出力実測値c3が、出力指令値c1を上回っている。このような状況では、電力量分配回路8は、スイッチ11をオンにして余剰分(発電機7の出力実測値c3-出力指令値c1)をBESS9へ供給する。BESS9では、バッテリ91が余剰分を充電する。また、BESS9は、偏差r11が負の値となる為、スイッチ12をオフにして、放電を行わない。電力合計回路10は、発電機7が発電した電力から余剰分を差し引いた電力を系統へ供給する。
【0020】
制御装置100では、一次遅れ補償器104は、出力指令値c1を取得して、一次遅れを補償した出力実測値r3を計算する。減算器105は出力指令値r2と出力実測値r3の偏差r4(出力指令値r2-出力実測値r3)を計算し、感度調整器106が、この偏差r4を0に近づけるような主蒸気加減弁6の開度指令値r5を計算する。ここで、出力推定値r31は、出力実測値c3にBESS9による放電電力が加算されているから、その値は、出力指令値r2と近しい値となる。従って、開度指令値r5によって制御される主蒸気加減弁6の開度の変化は、例えば、図6の制御装置100´によって算出される場合よりも小さくなる(理想的には略0となる。)。この結果、図2(c)の開度L4が示すように、負荷上昇時においても、主蒸気加減弁6の開度は略一定(所定の範囲内)となる。これにより、主蒸気圧力の変動が小さくなり、出力指令値c1と発電機7の出力実測値c3との乖離(図2(a)のL1とL2の乖離、つまり上昇遅れとオーバーシュート)を小さくすることができる。また、出力指令値c1と発電機7の出力実測値c3との乖離を小さくすることで、(容量に限りのある)バッテリ91による充放電によって、負荷上昇中における発電プラント1の出力を目標出力に制御することができる。
【0021】
なお、図2(c)の時間taにてガバナ開度が増加しているのは、負荷変化の開始時において、BESS9の充放電に多少の時間を要することによる。つまり、BESS9が、偏差r11に相当する電力を放電しきれない場合、主蒸気加減弁6の開度を微増させて出力を増加させる制御が働く。
【0022】
また、制御装置100では、主蒸気加減弁6の開度は略一定(又は、主蒸気加減弁6の開度の変化の範囲が、その開度変化による主蒸気圧力の変動が制御に影響しないような範囲となるように)に制御する一方で、ボイラ5に供給する燃料などを増加させ、ランキンサイクル2および発電機7の出力を上昇させる。ここで、図5を参照する。図5は、主蒸気加減弁6の開度(ガバナ開度)と、主蒸気圧力と、負荷の関係を示す図である。L8はガバナ開度と負荷の関係を示し、L9は主蒸気圧力と負荷の関係を示す。図示するように負荷の範囲Oでは、ガバナ開度を一定としても主蒸気圧力を上昇させることによって負荷を増大させることができる。主蒸気加減弁6の開度を略一定に制御している間、制御装置100では、主蒸気圧力を増大させて、ランキンサイクル2および発電機7の出力を上昇させる。具体的には、関数発生器107が、出力指令値r2に応じた主蒸気圧力設定値r6を計算し、減算器109は、主蒸気圧力設定値r6と主蒸気圧力r7の偏差r8を計算する。感度調整器110は、この偏差r8を0に近づけるような指令値r9を計算し、加算器111は、出力指令値r2と指令値r9を合計して指令値r10を計算する。このように、上昇中の出力指令値(図2(a)のL1)に基づく、主蒸気圧力設定値r6を計算し、この主蒸気圧力を達成するような燃料、水、空気の指令値r10をランキンサイクル2へ指令することで、主蒸気圧力を上昇させ、ランキンサイクル2および発電機7の出力を上昇することができる。図2(d)に示すように時刻t0~t2における燃料、水、空気の供給量L5は増加し、それに伴い、図2(e)に示すように主蒸気圧力の実測値L7が上昇し、図2(a)に示すように出力実測値L2が上昇する。
【0023】
(時刻t2~t4)
次に負荷が一定となった時間帯(時刻t2~t4)の制御について説明する。図2の時刻t2は、発電プラント1の出力が目標負荷に到達した時刻である。時刻t3は、目標負荷到達後、所定時間が経過した時刻である。時刻t4は、負荷降下開始時刻である。発電プラント1の出力が目標負荷に到達した時刻t2の後も、制御装置100および充放電システム20は、時刻t3となるまで時刻t0~t2と同様の制御を行う。時刻t3となると、スイッチ114は、変化率制限器115への入力値をオフにする。また、スイッチ12がオフに制御される。これにより、BESS9による放電が停止する。また、時刻t3となると、スイッチ11をオフとし、電力量分配回路8は、BESS9による充電を停止する。また、時刻t3となると、選択器112は、出力実測値c3にBESS9による充放電電力を加減算する処理を停止し、取得した発電機7の出力実測値c3を出力推定値r31として出力する。つまり、制御装置100は、図6を用いて説明した処理と同様の処理により、開度指令値r5と指令値r10を計算し、ランキンサイクル2を制御する。また、充放電システム20は、発電機7の出力と出力指令値c1の偏差を補償する充放電制御を停止する。また、時刻t3となると、スイッチ117は、関数発生器116が計算した補正値r12をBESS9へ出力する。BESS9は、関数発生器116が計算した補正値r12に基づいて、バッテリ91を充放電し、系統周波数の安定化を図る。
【0024】
(時刻t4~t6)
次に負荷降下時(時刻t4~t6)の制御について説明する。図2の時刻t4は、負荷降下開始時刻である。時刻t5は、発電プラント1の出力指令値が目標負荷に到達した時刻である。時刻t6は、発電プラント1の出力指令値が目標負荷到達後、所定時間が経過した時刻である。発電プラント1に対する負荷降下の要求があると、出力指令値c1を生成する指令値生成装置(図示せず)が、図2(a)の指令値L1が示すような、目標負荷まで一定のレートで出力を降下させるような指令値を生成し、制御装置100へ生成した出力指令値c1を出力する(時刻t4)。制御装置100は、負荷を降下させる出力指令値c1を取得すると、負荷変化に対応する制御を開始する。即ち、制御装置100では、負荷上昇時と同様の処理によって、開度指令値r5と指令値r10を計算し、ランキンサイクル2を制御する。これにより、主蒸気加減弁6の開度は略一定となり、主蒸気圧力の変動は抑制される。また、時刻t4となると、スイッチ117は、関数発生器116が計算した補正値r12のBESS9への出力を停止する。充放電システム20は、系統周波数の変動を補償する充放電制御を停止し、スイッチ11とスイッチ12のオン・オフを適宜制御して、出力指令値c1と発電機7の出力の偏差を補償する充放電制御に切り替える。これにより、ランキンサイクル2の出力の降下遅れとアンダーシュートを補償し、目標の出力を達成しながら負荷を降下することができる。時刻t5に目標負荷指令を達成した後、所定時間が経過した時刻t6を迎えると、制御装置100は、時刻t3と同様、主蒸気加減弁6の開度を略一定とする(又は、主蒸気加減弁6の開度の変化の範囲が、その開度変化による主蒸気圧力の変動が制御に影響しない範囲となるようにする)負荷変化に対応するための制御から、従来の制御へ切り替える。即ち、選択器112は、出力実測値c3にBESS9による充放電電力を加減算する処理を停止し、取得した発電機7の出力実測値c3を出力推定値r31として出力する。また、スイッチ114は、変化率制限器115への入力値をオフにする。一方、スイッチ117は、関数発生器116が計算した補正値r12をBESS9への出力を開始する。充放電システム20においては、発電機7の出力を補償するためにBESS9を充放電させる制御を停止し、関数発生器116が計算した補正値r12に基づいて、バッテリ91を充放電させる制御を行う。
【0025】
(効果)
以上説明したように本実施形態によれば、発電プラント1の負荷上昇および負荷降下時に発生する発電量のオーバーシュート又はアンダーシュート分をバッテリ91にて充電又は放電させることによって補償し、その充電又は放電量を発電機7の出力に加減算する。これにより、(1)最終的な目標負荷到達までの負荷へ追従性を向上することができる。(2)バッテリ91の充放電により、負荷変化中の出力指令値c1(図2(a)のL1)と発電機7の出力実測値c3(図2(a)のL2)の偏差を補償することにより、主蒸気圧力の変動を低減し、蒸気タービンの制御を安定化させ、ランキンサイクル2の出力変動を抑制することができる。(3)ランキンサイクル2の出力変動を抑制し、バッテリ91により出力補償を行うことで、負荷追従性を向上させるだけではなく、負荷の変化率を下げることなく、高速に最終的な目標負荷を達成することができる。(4)また、負荷一定時における系統周波数変動に対しては、バッテリ91を充放電させることで、系統上の需給バランスの平準化を図り系統周波数の安定化を図ることができる。
【0026】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0027】
<付記>
各実施形態に記載の制御システム、発電プラント及び制御方法は、例えば以下のように把握される。
【0028】
(1)第1の態様に係る制御システムは、ランキンサイクル2と、前記蒸気タービンによって駆動して系統に接続された発電機7と、前記系統に接続されたバッテリ91とを備える発電プラントの制御システムであって、前記発電プラントの出力の指令値を取得する取得部と、前記蒸気タービンを制御するタービン制御部(制御装置100)と、前記バッテリの充放電を制御するバッテリ制御部(充放電システム20)と、を備え、前記取得部が、前記発電プラントの出力を上昇又は降下させる前記指令値を取得した場合、前記タービン制御部は、前記発電機の出力と前記指令値の偏差を計算し、前記バッテリ制御部は、前記指令値が所定の目標出力まで上昇又は降下するまでの間、前記偏差を補償するように前記バッテリを充放電させ、前記タービン制御部は、前記指令値と、前記発電機の出力と、の偏差に基づいて前記蒸気タービンの主蒸気加減弁を制御する。
【0029】
これにより、負荷変動時の発電プラント1の負荷追従性を向上させるとともに、主蒸気加減弁6の開度を略一定に保つことで、ランキンサイクル2の出力変動を抑制することができる。従って、負荷変化の指令に対して高速に目標負荷を達成することができる。つまり、負荷変化率を降下させること無く負荷変化に対応することができる。
【0030】
(2)第2の態様に係る制御システムは、(1)の制御システムであって、前記発電プラントの出力が前記目標出力まで上昇又は降下するまでの間、前記タービン制御部は、前記主蒸気加減弁の開度の変化が所定の範囲内(主蒸気圧力の変動が制御に影響しないような範囲、例えば、略一定とする。)となるよう制御する。
【0031】
これにより、主蒸気圧力の変動を抑制し、ランキンサイクル2の制御性を向上することができる。また、ランキンサイクル2の出力変動を低減し、目標負荷に対するオーバーシュート、アンダーシュートの程度を小さくすることができ、バッテリによる出力補償をより容易にすることができる。
【0032】
(3)第3の態様に係る制御システムは、(1)~(2)の制御システムであって、前記発電プラントの出力が前記目標出力まで上昇又は降下するまでの間、前記タービン制御部は、前記指令値よりも前記発電機の出力が小さい場合、前記指令値と、前記発電機の出力に前記バッテリが放電する電力を加算した値と、に基づいて、前記主蒸気加減弁の開度を制御し、前記指令値よりも前記発電機の出力が大きい場合、前記指令値と、前記発電機の出力から前記バッテリが充電する電力を減算した値と、に基づいて、前記主蒸気加減弁の開度を制御する。
これにより、主蒸気加減弁の開度の変化が所定の範囲内となるよう制御することができる。
【0033】
(4)第4の態様に係る妥当性確認方法は、(1)~(3)の制御システムであって、前記バッテリ制御部は、前記発電機の出力と前記バッテリが充放電する電力の合計が、前記目標出力まで上昇又は降下してから所定時間が経過すると、前記バッテリの充放電を停止する。
これにより、容量に制限のあるバッテリの能力の範囲内で充放電を行うことができる。
【0034】
(5)第5の態様に係る妥当性確認方法は、(1)~(4)の制御システムであって、前記バッテリ制御部は、前記発電機の出力と前記バッテリが充放電する電力の合計が、前記目標出力まで上昇又は降下してから所定時間が経過すると、前記系統の周波数の変動を補償するように前記バッテリを充放電させる。
これにより、系統周波数の安定化を図ることができる。
【0035】
(6)第6の態様に係る発電プラントは、(1)~(5)の何れかに記載の制御システムと、前記蒸気タービンと、前記発電機と、前記バッテリと、を備える。
【0036】
(7)第7の態様に係る制御方法は、蒸気タービンと、前記蒸気タービンによって駆動する発電機と、バッテリとを備える発電プラントの制御方法であって、前記発電プラントの出力を上昇又は降下させる前記指令値を取得し、前記発電機の出力と前記指令値の偏差を計算し、前記指令値が所定の目標出力まで上昇又は降下するまでの間、前記偏差を補償するように前記バッテリを充放電させ、前記指令値と、前記発電機の出力と、の偏差に基づいて前記蒸気タービンの主蒸気加減弁を制御する。
【符号の説明】
【0037】
1、1´・・・発電プラント、 100、100´・・・制御装置、101・・・関数発生器、102・・・リミッタ、103・・・加算器、104・・・一次遅れ補償器、105・・・減算器、106・・・感度調整器、107・・・関数発生器、108・・・一次遅れ補償器、109・・・減算器、110・・感度調整器、111・・・加算器、112・・・選択器、113・・・減算器、114・・・スイッチ、115・・・変化率制限器、116・・・関数発生器、2・・・ランキンサイクル、3・・・蒸気タービン、4・・・復水器、5・・・ボイラ、6・・・主蒸気加減弁、7・・・発電機、8・・・電力量分配回路、9・・・BESS、91・・・バッテリ、10・・・電力合計回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6