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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122114
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】フーリエ変換赤外分光光度計
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/45 20060101AFI20230825BHJP
   G01J 3/02 20060101ALI20230825BHJP
   G01J 3/06 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
G01J3/45
G01J3/02 C
G01J3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025570
(22)【出願日】2022-02-22
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】000232689
【氏名又は名称】日本分光株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】勝俣 友裕
(72)【発明者】
【氏名】杉山 周巳
【テーマコード(参考)】
2G020
【Fターム(参考)】
2G020AA03
2G020CA12
2G020CB07
2G020CB23
2G020CB42
2G020CC22
2G020CC43
2G020CC44
2G020CC47
2G020CC55
2G020CD13
2G020CD16
2G020CD22
2G020CD35
2G020CD39
(57)【要約】
【課題】測定スペクトルの波数補正をスムーズにかつ精度よく実行できるフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)を提供すること。
【解決手段】FTIR100は、赤外光源10と、干渉計12と、その可動鏡24の位置参照用の半導体レーザー30と、記憶された半導体レーザー30の波長値およびレーザー検出器32によるレーザー干渉波の検出値に基づき、試料からの赤外干渉波の検出信号をフーリエ変換してスペクトルを算出するコンピュータ16とを有する。コンピュータ16は、固体のリファレンス試料のスペクトルを算出し、該リファレンス試料のスペクトルに対して特有なピークの波数域を補間処理し、その補間処理後のデータに基づいて特有なピークの波数を読み取り、その波数の読取値が特有なピークの本来の波数を基準とする所定の範囲に入るように、フーリエ変換処理で用いる半導体レーザー30の波長値を更新する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光源と、
ビームスプリッタ、固定鏡および可動鏡を有し、前記赤外光源からの赤外光を用いて赤外干渉波を発生する干渉計と、
試料を透過または反射した前記赤外干渉波の強度を検出する赤外検出器と、
前記干渉計にレーザー光を照射する半導体レーザーと、
前記レーザー光に基づき前記干渉計で発生するレーザー干渉波の強度を検出するレーザー検出器と、
前記半導体レーザーの波長値を記憶するメモリーと、
前記メモリーの前記波長値および前記レーザー検出器の検出信号を用いて、前記赤外検出器の検出信号をフーリエ変換して試料のスペクトルを算出するコンピュータと、
を備えるフーリエ変換赤外分光光度計であって、
前記コンピュータは、固体のリファレンス試料のスペクトルを算出し、算出した前記リファレンス試料のスペクトルに対して前記リファレンス試料に特有な少なくとも1つのピークの波数域を補間処理し、該補間処理後のデータに基づいて前記少なくとも1つのピークの波数を読み取り、前記波数の読取値が前記特有なピークの本来の波数を基準とする所定の範囲に入るように、前記メモリーの前記波長値を更新するプログラムを実行することを特徴とするフーリエ変換赤外分光光度計。
【請求項2】
赤外光源と、
ビームスプリッタ、固定鏡および可動鏡を有し、前記赤外光源からの赤外光を用いて赤外干渉波を発生する干渉計と、
試料を透過または反射した前記赤外干渉波の強度を検出する赤外検出器と、
前記干渉計にレーザー光を照射する半導体レーザーと、
前記レーザー光に基づき前記干渉計で発生するレーザー干渉波の強度を検出するレーザー検出器と、
前記半導体レーザーの波長値を記憶するメモリーと、
前記メモリーの前記波長値および前記レーザー検出器の検出信号を用いて、前記赤外検出器の検出信号をフーリエ変換して試料のスペクトルを算出するコンピュータと、
前記半導体レーザーの温度調整用のペルチェ素子と、
前記ペルチェ素子の温調コントローラと、
を備えるフーリエ変換赤外分光光度計であって、
前記コンピュータは、固体のリファレンス試料のスペクトルを算出し、算出した前記リファレンス試料のスペクトルに対して前記リファレンス試料に特有な少なくとも1つのピークの波数域を補間処理し、該補間処理後のデータに基づいて前記少なくとも1つのピークの波数を読み取り、前記波数の読取値が前記特有なピークの本来の波数を基準とする所定の範囲に入るように、前記ペルチェ素子の前記温調コントローラを動作させて前記半導体レーザーの温度を調整するプログラムを実行することを特徴とするフーリエ変換赤外分光光度計。
【請求項3】
赤外光源と、
ビームスプリッタ、固定鏡および可動鏡を有し、前記赤外光源からの赤外光を用いて赤外干渉波を発生する干渉計と、
試料を透過または反射した前記赤外干渉波の強度を検出する赤外検出器と、
前記干渉計にレーザー光を照射する半導体レーザーと、
前記レーザー光に基づき前記干渉計で発生するレーザー干渉波の強度を検出するレーザー検出器と、
前記半導体レーザーの波長値を記憶するメモリーと、
前記メモリーの前記波長値および前記レーザー検出器の検出信号を用いて、前記赤外検出器の検出信号をフーリエ変換して試料のスペクトルを算出するコンピュータと、
前記半導体レーザーへの印加電流を調整する印加電流コントローラと、
を備えるフーリエ変換赤外分光光度計であって、
前記コンピュータは、固体のリファレンス試料のスペクトルを算出し、算出した前記リファレンス試料のスペクトルに対して前記リファレンス試料に特有な少なくとも1つのピークの波数域を補間処理し、該補間処理後のデータに基づいて前記少なくとも1つのピークの波数を読み取り、前記波数の読取値が前記特有なピークの本来の波数を基準とする所定の範囲に入るように、前記印加電流コントローラを動作させて前記半導体レーザーへの印加電流を調整するプログラムを実行することを特徴とするフーリエ変換赤外分光光度計。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のフーリエ変換赤外分光光度計において、
前記コンピュータは、算出した前記リファレンス試料のスペクトルに対する前記補間処理に代えて、前記リファレンス試料に特有なピークの既知のピーク形状データをフィッティングし、フィッティング後のピークトップの波数を前記波数の読取値として用いることを特徴とするフーリエ変換赤外分光光度計。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のフーリエ変換赤外分光光度計において、
前記コンピュータは、
該フーリエ変換赤外分光光度計が測定を実行していない状態で、該フーリエ変換赤外分光光度計の動作に係る入力がない状態が一定時間以上続いた場合に、
前記プログラムを自動で実行して波数を補正し、
通常の試料に対する測定条件でバックグラウンドを測定し、
次の測定に係る入力の待ち状態を実行することを特徴とするフーリエ変換赤外分光光度計。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載のフーリエ変換赤外分光光度計において、
前記コンピュータは、該フーリエ変換赤外分光光度計が測定を実行していない状態で、前記プログラムの実行に係る入力があった場合、または、前記プログラムの実行の予約が設定されていて該予約時間になった場合に、
前記プログラムを実行して波数を補正し、
通常の試料に対する測定条件でバックグラウンドを測定し、
次の測定に係る入力の待ち状態を実行することを特徴とするフーリエ変換赤外分光光度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は波数補正機能を備えたフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)に関する。
【背景技術】
【0002】
フーリエ変換赤外分光光度計は、干渉計を使用して、非分散で測定光の干渉波を検出し、これをコンピュータでフーリエ変換して測定光のスペクトルデータを取得するものである。干渉波を形成することにより、その全波数成分からなる強度信号から各波数成分をフーリエ変換によって算出できる。フーリエ変換分光法は高速測定に向き、赤外分光光度計では主流になっている。
【0003】
この装置で用いる干渉計は、マイケルソン型干渉計が一般的であり、半透鏡(ビームスプリッタ等)と2つの反射鏡(固定鏡および可動鏡)からなる。可動鏡は干渉計の光路差を可変にするもので、可動鏡の位置と光路差とは一対一の関係になる。干渉計はその光路差に応じた測定光の干渉波を発生させる。この干渉波の強度を検出することにより、横軸に光路差、縦軸に強度信号を持ったインターフェログラム(干渉曲線)が得られる。コンピュータは、インターフェログラムデータをフーリエ変換してスペクトルデータを算出する。
【0004】
干渉波は、一般に光路差がゼロである位置を基準に、可動鏡の移動距離が位置参照用レーザーの波長ごとの位置になるタイミングで検出される。レーザー光を可動鏡に当てると、その反射光からレーザー干渉波が形成される。通常、レーザー干渉波の強度信号がゼロになるタイミングで、測定光の干渉波を検出する。つまり、検出タイミングは、位置参照用レーザーの波長λに依存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-112364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、赤外光の干渉波の検出タイミングが位置参照用レーザーの波長λに依存することから、従来、波長λの安定なガスレーザーであるHe-Neレーザーを距離計として使うことが一般的だったが、最近は小型で安価な半導体レーザーを距離計に使う事例が出てきた。半導体レーザーはガスレーザーと異なり波長λが安定しないので、波数の信頼性を高めるためには波数補正が必要になる。
【0007】
例えば、特許文献1には位置参照用レーザーに半導体レーザーを用いたFTIRが示され、半導体レーザーの波長を補正する方法が説明されている。すなわち、第1ステップとして、補正前の波長に基づいて干渉計内の大気中の二酸化炭素の吸収ピークを測定し、その波数と、二酸化炭素本来の吸収ピークの波数とを比較して、半導体レーザーの波長を補正する。第2ステップとして、補正後の波長に基づいて大気中の水蒸気の吸収ピークを測定し、その波数と、水蒸気本来の吸収ピークの波数とを比較して、半導体レーザーの波長を再度補正する、というものである。このように特許文献1では、半導体レーザーの波長を補正するために、最初に二酸化炭素の吸収ピークを利用し、次に水蒸気の吸収ピークを利用して、段階的に波長を補正している。
【0008】
特許文献1では、FTIRの波数補正用の試料(リファレンス試料とも呼ぶ。)に二酸化炭素や水蒸気といった気体(大気)を用いているので、固体のリファレンス試料よりも線状に近い吸収ピークを対象にできるといったメリットがあるように思われる。しかし、FTIRは試料室内や筐体内を窒素パージあるいは真空状態にすることが多く、大気中の二酸化炭素や水蒸気の吸収ピークの検出強度は弱くなり(あるいは消えて)、その結果、半導体レーザーの波長の補正ができなくなる可能性がある。だからと言って、一度、窒素パージや真空下にした後、波数補正だけのために試料室内や筐体内を大気開放するというのは、大きな手間であるし、波数補正のためとは言え、本来の測定にとって妨害要因となる大気をわざわざ装置内に取り込むということは、デメリットである。例えば、FTIRを24時間365日連続稼働させる用途においてはデメリットが大きい。
【0009】
また、大気の二酸化炭素や水蒸気の吸収スペクトルのピーク高さは、測定環境次第で様々に変化し、不定である。ピーク高さが変わることでS/N比が毎回変化してしまい(言い換えると測定時間が定まらない)、波数補正の精度を担保しにくい。
【0010】
一方、気体セルに、二酸化炭素、水蒸気以外の気体、例えば塩酸ガスなどの基準試料を規定の濃度で封入し、セル長と濃度からピーク高さを一意に規定する方法も考えられる。しかし、長期間の試料保持が難しい(濃度が変化する)ことや、取扱いが簡易でないこと(セルの大きさ・重さのため、セルを光路に設置することは簡易ではなく、難しいこと。セルを真空下に置いた場合、セルの外部が陰圧になるので、セルの密閉状態を保持することや、試料によってはガス漏洩時の安全対策を確立すること、といった課題がある。)から、塩酸ガスなどの基準試料が補正用のリファレンス試料として適切でない場合がある。
【0011】
このように、大気は、波長の補正用のリファレンス試料には向かないという一側面を有する。そこで、発明者らは、ポリスチレン膜(例えば、厚さ0.04mm)のような固体の取り扱い易いリファレンス試料を使って、測定スペクトルの波数補正をスムーズにかつ精度よく実行できるフーリエ変換赤外分光光度計の開発に鋭意取り組んできた。
【0012】
本発明の目的は、特に、半導体レーザーを可動鏡の位置参照に用いているフーリエ変換赤外分光光度計において、固体のリファレンス試料を用いて、測定スペクトルの波数補正をスムーズにかつ精度よく実行できるものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明に係るフーリエ変換赤外分光光度計は、
赤外光源と、
ビームスプリッタ、固定鏡および可動鏡を有し、前記赤外光源からの赤外光を用いて赤外干渉波を発生する干渉計と、
試料を透過または反射した前記赤外干渉波の強度を検出する赤外検出器と、
前記干渉計にレーザー光を照射する半導体レーザーと、
前記レーザー光に基づき前記干渉計で発生するレーザー干渉波の強度を検出するレーザー検出器と、
前記半導体レーザーの波長値を記憶するメモリーと、
前記メモリーの前記波長値および前記レーザー検出器の検出信号を用いて、前記赤外検出器の検出信号をフーリエ変換して試料のスペクトルを算出するコンピュータと、
を備えるフーリエ変換赤外分光光度計であって、
前記コンピュータは、固体のリファレンス試料のスペクトルを算出し、算出した前記リファレンス試料のスペクトルに対して前記リファレンス試料に特有な少なくとも1つのピークの波数域を補間処理し、該補間処理後のデータに基づいて前記少なくとも1つのピークの波数を読み取り、前記波数の読取値が前記特有なピークの本来の波数を基準とする所定の範囲に入るように、前記メモリーの前記波長値を更新するプログラムを実行することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るフーリエ変換赤外分光光度計は、
赤外光源と、
ビームスプリッタ、固定鏡および可動鏡を有し、前記赤外光源からの赤外光を用いて赤外干渉波を発生する干渉計と、
試料を透過または反射した前記赤外干渉波の強度を検出する赤外検出器と、
前記干渉計にレーザー光を照射する半導体レーザーと、
前記レーザー光に基づき前記干渉計で発生するレーザー干渉波の強度を検出するレーザー検出器と、
前記半導体レーザーの波長値を記憶するメモリーと、
前記メモリーの前記波長値および前記レーザー検出器の検出信号を用いて、前記赤外検出器の検出信号をフーリエ変換して試料のスペクトルを算出するコンピュータと、
前記半導体レーザーの温度調整用のペルチェ素子と、
前記ペルチェ素子の温調コントローラと、
を備えるフーリエ変換赤外分光光度計であって、
前記コンピュータは、固体のリファレンス試料のスペクトルを算出し、算出した前記リファレンス試料のスペクトルに対して前記リファレンス試料に特有な少なくとも1つのピークの波数域を補間処理し、該補間処理後のデータに基づいて前記少なくとも1つのピークの波数を読み取り、前記波数の読取値が前記特有なピークの本来の波数を基準とする所定の範囲に入るように、前記ペルチェ素子の前記温調コントローラを動作させて前記半導体レーザーの温度を調整するプログラムを実行することを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明に係るフーリエ変換赤外分光光度計は、
赤外光源と、
ビームスプリッタ、固定鏡および可動鏡を有し、前記赤外光源からの赤外光を用いて赤外干渉波を発生する干渉計と、
試料を透過または反射した前記赤外干渉波の強度を検出する赤外検出器と、
前記干渉計にレーザー光を照射する半導体レーザーと、
前記レーザー光に基づき前記干渉計で発生するレーザー干渉波の強度を検出するレーザー検出器と、
前記半導体レーザーの波長値を記憶するメモリーと、
前記メモリーの前記波長値および前記レーザー検出器の検出信号を用いて、前記赤外検出器の検出信号をフーリエ変換して試料のスペクトルを算出するコンピュータと、
前記半導体レーザーへの印加電流を調整する印加電流コントローラと、
を備えるフーリエ変換赤外分光光度計であって、
前記コンピュータは、固体のリファレンス試料のスペクトルを算出し、算出した前記リファレンス試料のスペクトルに対して前記リファレンス試料に特有な少なくとも1つのピークの波数域を補間処理し、該補間処理後のデータに基づいて前記少なくとも1つのピークの波数を読み取り、前記波数の読取値が前記特有なピークの本来の波数を基準とする所定の範囲に入るように、前記印加電流コントローラを動作させて前記半導体レーザーへの印加電流を調整するプログラムを実行することを特徴とする。
【0016】
ここで、各発明において、特有なピークは1本でも複数本でもよい。例えば、複数の特有のピークを参照する場合、それぞれのピーク波数の読取値と本来の波数(基準波数)とのずれ量(波数ずれ量)を算出し、これら複数の波数ずれ量に基づいて、(1)メモリーの波長値を更新する、(2)ペルチェ素子を用いて半導体レーザーの温度を調整する、又は、(3)半導体レーザーへの印加電流を調整するといった処理を実行してもよい。
【0017】
また、補間処理には、公知の3次スプライン補間法やラグランジュ補間法等を採用できる。また、ゼロフィリング法(インターフェログラムデータのセンターバーストから離れた外側の範囲にゼロデータを付加することで、フーリエ変換後に波数間隔の密なスペクトルデータを簡易的に得ることができる手法)を採用してもよい。
【0018】
また、上記のそれぞれの発明において、前記コンピュータは、算出した前記リファレンス試料のスペクトルに対する前記補間処理に代えて、前記リファレンス試料に特有なピークの既知のピーク形状データをフィッティングし、フィッティング後のピークトップの波数を前記波数の読取値として用いることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係るフーリエ変換赤外分光光度計において、
前記コンピュータは、
該フーリエ変換赤外分光光度計が測定を実行していない状態で、該フーリエ変換赤外分光光度計の動作に係る入力がない状態が一定時間以上続いた場合に、
前記プログラムを自動で実行して波数を補正し、
通常の試料に対する測定条件でバックグラウンドを測定し、
次の測定に係る入力の待ち状態を実行することが好ましい。
【0020】
この構成において、フーリエ変換赤外分光光度計が未操作状態になる条件(フーリエ変換赤外分光光度計の動作に係る入力がない状態が一定時間以上続いた場合)を満たしているとコンピュータが判断すると、波数補正のプログラムが自動的に実行され、続けて、補正後の波数でのバックグラウンド測定も自動的に実行される。また、これらの処理が完了すると、自動的に次の測定の待機状態になる。従って、ユーザが波数補正の実行を意識しなくても、常に波数が補正された状態が維持されるので、次の測定がスムーズに開始される。
【0021】
また、本発明に係るフーリエ変換赤外分光光度計において、
前記コンピュータは、該フーリエ変換赤外分光光度計が測定を実行していない状態で、前記プログラムの実行に係る入力があった場合、または、前記プログラムの実行の予約が設定されていて該予約時間になった場合に、
前記プログラムを実行して波数を補正し、
通常の試料に対する測定条件でバックグラウンドを測定し、
次の測定に係る入力の待ち状態を実行することが好ましい。
【0022】
この構成では、波数補正は、ユーザが想定したタイミングに限られるので、フーリエ変換赤外分光光度計がユーザの知らない間に波数補正を実行することはない。例えば、24時間365日連続測定するようなFTIRの用途においては、「毎週月曜日の深夜何時に」等の定まった時間に波数補正を実行したいという運用にも対応することができる。
【発明の効果】
【0023】
各構成のFTIRはいずれも、固体のリファレンス試料のスペクトルを測定して、リファレンス試料に特有の吸収ピークの波数を読み取って、その本来の波数と比較することで、測定スペクトルの波数を補正するという機能を備える点で共通する。
まず、窒素パージや真空の状態にあるFTIRにおいては、大気(二酸化炭素や水蒸気)の吸収ピークよりも、固体のリファレンス試料の吸収ピークを使う方が、大きな検出強度が得られ、測定スペクトルの波数の読取値と本来の波数との比較を容易に行うことができる。
【0024】
また、固体のリファレンス試料であれば、測定環境次第でピーク高さが様々に変化してしまう大気(二酸化炭素や水蒸気)のスペクトルよりも、安定したS/N比のスペクトルデータが得られるので、リファレンスの測定時間も定まり、波数補正の精度を担保しやすい。
【0025】
加えて、固体のリファレンス試料の特有のピークの半値幅が、補正によって取得したい波数精度よりも非常に大きい場合であっても、FTIRで算出したスペクトルに対して、リファレンス試料に特有なピークの波数域に補間データを付与することで、その特有のピークの波数を精度よく読み取ることができるようになるから、測定スペクトルの波数補正の信頼性が向上する。
【0026】
このように本発明の構成によれば、固体のリファレンス試料を用いて、測定スペクトルの波数補正をスムーズにかつ精度よく実行することができる。
なお、半導体レーザーの温度または印加電流を調整して、半導体レーザーを一定の温度または印加電流で駆動させることで、半導体レーザーの不安定性を抑え易いという効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】一実施形態に係るFTIRの概略構成図である。
図2】前記FTIRのアパーチャバリデーション・ホイールの図である。
図3】前記FTIRの波数補正のフロー図である。
図4】前記波数補正のフローにおける測定データの補間方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態について説明する。本発明は、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)および赤外顕微装置に適用できる。ここでは、特に、図1に例示するようなFTIR100に適用した場合を示す。FTIR100は、赤外光源10と、赤外干渉波を形成する干渉計12と、試料を保持する試料ホルダー26と、赤外干渉波を試料に照射して得られた干渉波の強度を検出する赤外検出器14と、赤外検出器14からの検出信号に基づく試料のスペクトル情報を算出するコンピュータ16と、を備える。コンピュータ16は、FTIR100の本体に内蔵されるマイクロコンピュータ、または、本体とは別体のパーソナルコンピュータなどで構成される。
【0029】
筐体60には、赤外光源10、干渉計12が収容されている。干渉計12として、赤外光を分割する光束分割部(ビームスプリッタ20)、分割光をそれぞれ反射する固定鏡22、および可動鏡24が配置されていて、異なる光路長の2光束を合成して赤外干渉波を発生させる。可動鏡24は、ビームスプリッタ20に近づく方向と遠ざかる方向の両方向に移動可能に設けられる。
【0030】
出射窓から出た赤外干渉波は、出射窓と赤外検出器14の間に設けられた試料ホルダー26内の試料に照射される。赤外検出器14は、試料からの赤外干渉波を受光し、その強度信号を出力する。赤外検出器14からの検出信号は、アンプ14aおよびA/D変換器14bを経て、コンピュータ16に入力される。
【0031】
筐体60には、さらに、レーザー光による可動鏡24の位置情報を得るための、位置参照用の半導体レーザー30と、レーザー干渉波を検出するレーザー検出器32とが配置されている。本実施形態では干渉計12がレーザー干渉計を兼ねており、半導体レーザー30からのレーザー光(単色光)は、赤外光と同じ光路に導かれてビームスプリッタ20に入る。干渉計12は、可動鏡24の移動に伴ってレーザー干渉波も生成し、レーザー検出器32が、ビームスプリッタ20からのレーザー干渉波を検出し、その強度信号をコンピュータ16に向けて出力する。なお、干渉計12と同じ筐体に、別体の専用のレーザー距離計を設けて、例えば、ビームスプリッタ20を通らないレーザー光路を使って、移動鏡24の位置を測る距離計を別途形成してもよい。
【0032】
本実施形態では、半導体レーザー30として、通常の半導体レーザーよりも小型で長寿命の垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)を筐体60内に配置することで、FTIR100の小型化と長寿命化を図っている。半導体レーザー30には、当該半導体レーザー30への印加電流を調整するための印加電流コントローラ68が設けられている。また、半導体レーザー30には、温度調整のためにペルチェ素子70が、当該ペルチェ素子を制御する温調コントローラ72とともに設けられている。
【0033】
加えて、筐体60には、出射窓の手前の位置に、アパーチャとリファレンス試料を自動で切り替えるレボルバータイプの切替装置(アパーチャバリデーション・ホイール)74が配置されている。図2に、中央にモーター駆動軸用の孔74cを有する円板状の切替装置74を示す。切替装置74の円板上には外周に沿って複数のアパーチャAP1~AP8が形成され、そのうちのアパーチャAP1~AP6は互いにサイズが異なり、設定波数分解に対応するアパーチャサイズへの自動切換を可能にする。図2は、アパーチャAP6が、丁度、ビームスプリッタ20からの干渉波の光路上に位置している状態を示す。また、アパーチャAP7,AP8はリファレンス試料用であり、本実施形態では、アパーチャAP8を覆うようにリファレンス試料74a(例えば、ポリスチレン膜)が固定されている。アパーチャAP7には、ガラスなど、他のリファレンス試料74bを取り付けてもよい。アパーチャAP7,AP8のサイズは、それらのリファレンス試料74a,74bの測定時に設定されることが想定される波数分解に応じたサイズであり、ここではアパーチャAP5と同サイズである。なお、円板上のアパーチャが形成されていない部分を、干渉波の光路上に位置に合わせることで、切替装置74が遮蔽板として機能する。
【0034】
このような切替装置74を用いれば、FTIR100の試料室にその都度、リファレンス試料のホルダーをセットする作業が省けて、波数補正の日常的な実行が容易になる。波数補正の一連の操作は、コンピュータによる波数補正プログラムの実行によって、自動で行われる。なお、筐体60内でのリファレンス試料74aの位置が、FTIR100の最大の熱源である赤外光源10から十分に遠い位置になって、密閉された空間内で、かつ、熱源からも遠い、という配置のため、常にリファレンス試料74aは熱的平衡に近い状態となることで、温度が安定する。よって、固体試料の温度変化由来の波数シフトが発生せず、いつも同じように波数補正を実行することができる。
【0035】
また、筐体60には温湿度センサ76が配置されている。この温湿度センサ76が、常時、筐体60内の温度および湿度を検出することで、温度や湿度をFTIR100の表示装置46等でモニターすることが可能になる。
【0036】
温度変動によって干渉計12自体に歪みが生じると、それに応じて測定波数のドリフトが発生する場合がある。そこで、温湿度センサ76による温度の検出値から干渉計12の温度変動を読み取り、波数ドリフトを補正するようにしてもよい。
【0037】
次に、コンピュータ16は、当該コンピュータ16の各構成を制御する制御部40と、赤外検出器14からの検出信号に基づく試料のスペクトル情報の算出およびそのスペクトル解析を実行する演算部42と、演算部42によって実行されるデータ処理プログラム、算出されたスペクトル情報、解析結果、およびバックグラウンド情報などを保持するメモリー44と、を備える。また、コンピュータ16には、表示装置46およびユーザインタフェース48が接続される。
【0038】
さらに、コンピュータ16には、可動鏡制御装置(可動鏡コントローラ)34が接続される。演算部42は、レーザー検出器32からのレーザー干渉波の強度信号に基づいて、可動鏡24の移動に伴ったレーザー干渉波の強度変化をカウントすることにより、可動鏡24の位置情報を算出する。可動鏡制御装置34は、可動鏡24の位置情報および目標位置の情報を受け取って、可動鏡24の速度制御、特にその等速制御を実行する。
【0039】
演算部42は、可動鏡制御装置34が可動鏡24を1ストローク分だけ移動させる間に、1スキャン分の赤外干渉波の強度信号を受け取り、赤外干渉波の強度信号および可動鏡24の位置情報に基づくインターフェログラム(干渉曲線)を算出する。
【0040】
演算部42は、例えば、複数スキャン分のインターフェログラムを積算し、これをフーリエ変換してシングルビームのスペクトル(SBスペクトル)を算出するが、例えば、インターフェログラムではなくフーリエ変換後のSBスペクトルを積算する等、これ以外の手順によって算出してもよい。さらに、SBスペクトルをバックグラウンド情報で除算し、透過スペクトルを算出してもよい。
【0041】
なお、コンピュータ16には、必要に応じて通信装置50が接続されるとよい。通信装置50は、例えばWi-Fi規格やBluetooth規格を利用する無線通信機器で、遠隔の携帯機器52と通信可能で、表示装置46に表示される情報と同じ情報を携帯機器52のモニターにも表示する。また、携帯機器52は、スマートフォン等の携帯端末でもよく、その携帯端末が、測定スペクトルデータを暗号化したメールにして、図示しない外部のサーバーコンピュータに送信してもよい。そしてサーバーコンピュータにおいて測定スペクトルデータをスペクトル解析し、その解析結果がメールで携帯端末に送られ、そのモニターに表示されるようにしてもよい。このように通信装置50を設けて、携帯機器52を介して、スペクトルの解析を遠隔のサーバーコンピュータが担うように構成することで、スペクトル解析のためのパーソナルコンピュータ等をFTIR100と一緒に持ち運ぶ必要がなくなり、その可搬性が向上する。FTIR100のコンピュータ16には必要最低限の機能だけを搭載すれば足りるようになるので、コンピュータ16を本体内蔵型のマイクロコンピュータのみで構成することができ、FTIR100の小型化も進む。
【0042】
<波数補正プログラムについて>
スペクトルの波数補正プログラムは、リファレンス試料のスペクトルデータに基づいてFTIRの測定波数を補正するためのプログラムである。
【0043】
波数補正プログラムは、コンピュータ16に以下の処理フローS1~S5を実行させる。図3に示すように本実施形態の波数補正の処理後、場合によっては処理フローS6、S7を続けて実行してもよい。
【0044】
予めFTIR100は、切替装置74を駆動して、リファレンス試料74aが貼り付けられた箇所のアパーチャAP8のサイズと同様のサイズのアパーチャAP5を選択し、バックグラウンド測定を実行する(処理フローS1)。このバックグラウンド情報は、波数補正の際に測定するリファレンス試料74aのスペクトルの算出においても利用される。
【0045】
図3の処理フローS2(リファレンス試料のスペクトル測定)について説明する。まず、コンピュータ16は、切替装置74を駆動して、リファレンス試料74aを選択し、そのスペクトルデータを測定する。リファレンス試料74aの種類に応じて、また、そのリファレンス試料74aに特有のピーク(基準波数)の形状に応じて、FTIR100の波数分解能(波数軸のスペクトルデータ点数)を設定する。この波数分解能を高くし過ぎると、選択するアパーチャ径が小さくなり、光量(信号S)が低下してS/N比が悪化するため、ピークトップが判別し難くなる。そこで、例えば、算出されるスペクトルの波数間隔が、要求される補正精度に対して1~3桁程度粗い間隔になるように波数分解能を設定してもよい。
【0046】
次に、処理フローS3(測定データの補間)について説明する。コンピュータ16は、
取得した測定データを、自動で高密度データに補間する。ここでは、3次スプラインを用いたスムージング処理を行うがこれに限定されない。本実施形態では、フーリエ変換後のスペクトルデータに対して補間処理を適用すること、および、ピーク形成に必要な波数区間のデータのみを切り出してから、そのデータに対して補間処理を適用すること、の2点の実行によってコンピュータ16の計算量を大幅に減らしている。
【0047】
そして、波数の区間内の最小値(縦軸が透過率%Tのとき)または最大値(縦軸が吸光度Absのとき)からピークの位置(測定波数)を取得する。図4に、縦軸が透過率%Tである場合のピークの測定波数を示す。測定データのピークの測定波数が例えば「3059.51cm-1」になったが、補間データの方がより測定上の厳密なピークの測定波数を示す。ここでは、補間データに基づくピークの測定波数が例えば「3059.60cm-1」になった。
【0048】
次に、処理フローS4(基準波数との比較/波数ずれ量の計算)について説明する。コンピュータ16は、リファレンス試料74aの特有ピークの基準波数として例えば「3059.7cm-1」を保存している。この例では、波数ずれ量が、補間データに基づくピークの測定波数から基準波数を差し引いた「-0.1cm-1」になる。
【0049】
次に、処理フローS5(波数補正値の算出/記憶)について説明する。FTIRのフーリエ変換後の波数のデータ間隔は、「1/λ:λは半導体レーザーの波長」に比例する。この関係を使って、本実施形態では、フーリエ変換時に計算上想定する波長(波数最大値)を波数ずれ量に基づいて補正する。例えば、FTIR100は、インターフェログラムを、基準レーザーの波長間隔(≒850nm)で取得し、これをフーリエ変換FFTして、11765cm-1(≒1/850nm)の波数空間に等間隔にデータを展開しているとする。
【0050】
説明を簡潔にするため、850nmをレーザー波長の設計値とする。処理フローS4で算出した波数ずれ量(-0.1cm-1)は、ピークの波数軸が3059.7cm-1であるときの値である。コンピュータ16は、レーザー波長を850nmとしてフーリエ変換したときの出力値が「3059.6cm-1」であることに基づき、フーリエ変換の出力値が「3059.7cm-1」になるようなレーザー波長を算出する。
【0051】
言い換えると、コンピュータ16は、レーザー波長が850nmであるとして、(1/850nm)cm-1~0cm-1の波数空間にスペクトルデータを等間隔に展開している。この展開上でのピークの波数軸「3059.6cm-1」が、「3059.7cm-1」に補正されるようにしたい。すなわち、係数Aを「A=3059.7÷3059.6」のように定めると、補正後の波数空間は、
(A/850nm)cm-1~0cm-1
になる。従って、コンピュータ16は、フーリエ変換の計算に用いるレーザー波長を、850÷A≒849.97nmとして算出することができる。
【0052】
なお、リファレンス試料74aの複数の特有のピークから、上記の補正後のレーザー波長をそれぞれ同様に算出し、全てのピークからの算出値(上記の「850nm÷A」など)の平均をとって、これを補正後のレーザー波長としてもよい。或いは、ピーク毎の算出値に重み付けを付与した値の平均をとって、これを補正後のレーザー波長としてもよい。
【0053】
コンピュータ16は、この補正後のレーザー波長を用いて、測定したインターフェログラムをフーリエ変換することで、波数が補正されたスペクトルを算出することができる。また、補正後のレーザー波長の値を、FTIRまたは制御用PCのメモリー44に保存して、以降のフーリエ変換時に利用する。
【0054】
なお、上記の説明では、メモリー44に保存されるリファレンス試料74aの特有ピークの基準波数を例えば「3059.7cm-1」としたが、この基準波数を「3059.68cm-1~3059.72cm-1」のように所定の範囲として保存してもよい。
【0055】
例えば、リファレンス試料74aの複数のピークをもとに波数補正をする場合に、上述のように、それぞれ算出される補正後のレーザー波長の平均値等でスペクトルの波数値を決定する代わりに、補正後のレーザー波長に基づくリファレンス試料74aの全てのピーク位置が、上記の基準波数の所定の範囲(例えば「3059.68cm-1~3059.72cm-1」)内に入るかどうかを判定条件にして、最終的な補正後のレーザー波長を決めてもよい。これにより、1つのピークに基づく補正よりも、複数のピークに基づく補正の方が、補正に使用する情報量が増えて、補正精度を向上させることができる。
【0056】
また、上記の波数補正の結果をネットワーク経由でサーバーコンピュータへ自動送信し、中長期的な保守情報として記録するような運用体系を構築してもよい。
FTIR100と遠隔にあるサーバーコンピュータとの通信方法としては、前述のスマートフォン等の携帯端末(携帯機器52)を介したメールに限定されない。
例えば、携帯端末が、FTIR100から波数補正の結果を受け取り、サーバーコンピュータへのアクセス権を有していれば、自動的にデータを直接サーバーコンピュータの記憶域にアップロードすることもできる。ユーザが、ファイル操作を手動で実施してもよい。サーバーコンピュータは、受け取った波数補正の結果ファイルを、アップロードした端末ごとに管理し、ネットワークを介した携帯端末からのリクエストに応じていつでもユーザに提供することができる。
【0057】
ファイル共有以外の方法として、例えば、クラウド上やサーバーコンピュータ上のデータベースファイルへの書き込みなどを利用した情報共有の手段も採用することができる。この場合は、携帯端末とサーバーコンピュータが、それぞれクラウド上またはサーバーコンピュータ上のデータベースファイルにアクセスし、1つのファイル上で情報の授受を行う形式になる。 この場合、携帯端末は、データベースファイルの内容を閲覧するためのユーザインタフェースを、専用プログラムやブラウザーアプリケーションとして取得し、これを利用するとよい。
【0058】
なお、固体のリファレンス試料74aを使って特定の波数域(例えば3060cm-1付近)のピーク測定をするのであれば、スペクトルの波数分解能が高い(波数間隔が密である)測定条件を採用してもよいが、波数分解能が高い測定条件(小さいアパーチャサイズを選択し、及び/又は、スキャン距離を長くする)では、通常、S/N比が悪くなり易く、良好なS/N比のデータを得るには積算回数を増加させる必要が生じて、測定時間が長くなってしまう。固体のリファレンス試料74aを用いて、測定スペクトルの波数補正をスムーズにかつ精度よく実行できるようにするには、本実施形態の構成において、比較的低い波数分解能(波数間隔が粗い)の測定条件(大きいアパーチャサイズを選択し、及び/又は、スキャン距離を短くする)を採用し、良好なS/N比のデータを比較的短時間に得た上で、次に、処理フローS3の特有のピークの波数域に対する補間(内挿)法を適用することが好ましい。この手順によれば、固体のリファレンス試料74aの特有のピーク波数を、短時間に精度(再現性)よく取得することができるので、結果として、測定スペクトルの波数補正の迅速化と更なる精度向上が得られる。
【0059】
なお、処理フローS2において、固体のリファレンス試料74aを比較的低い波数分解能で測定するとは、特有のピークにベースラインを引いて半値幅を設定した場合に、その半値幅の波数域にあるスペクトルデータの点数が「10~100点」程度、好ましくは、「15~50点」程度になることである。
なお、インターフェログラムデータの測定時間が同じであれば、高分解能の条件で取得したスペクトルデータ(低S/N)に対して最小二乗法近似によりピーク波数を取得するよりも、低分解能の条件で取得したスペクトルデータ(高S/N)に対して補間処理をしてピーク波数を取得する方が、ピーク位置(波数の読取値)の再現性に優れる。
【0060】
本実施形態では、リファレンス試料74aに特有のピークを読み取る際に、補間データを付与しているが、これに代えて、そのリファレンス試料74aの特有ピークの既知のピーク形状をフィッティングする方法で、ピークトップ(測定波数)を読み取ってもよい。
【0061】
なお、上記の波数補正プログラムの変形例を説明する。プログラムの処理フローS3において、コンピュータ16が補間データに基づくピーク位置「3059.6cm-1」を算出した後、上記の補間データに基づくピーク位置「3059.6cm-1」がリファレンス試料74aの基準波数「3059.7cm-1」を中心とする許容範囲(例えば、3059.7±1.5cm-1)に入るように、図1の印加電流コントローラ68が半導体レーザー30への印加電流を調整するようにしてもよい。この場合、印加電流とスペクトルの測定波数またはレーザー発振波長との相関を事前に取得しておくとよい。
【0062】
さらに、波数補正プログラムの別の変形例を説明する。プログラムの処理フローS3において、コンピュータ16が補間データに基づくピーク位置「3059.6cm-1」を算出した後、上記の補間データに基づくピーク位置「3059.6cm-1」がリファレンス試料74aの基準波数「3059.7cm-1」を中心とする許容範囲に入るように、図1の温調コントローラ72がペルチェ素子70を制御するようにしてもよい。この場合、レーザー温度とスペクトルの測定波数またはレーザー発振波長との相関を事前に取得しておくとよい。
【0063】
ここで、コンピュータ16は、以下の複数の波数補正プログラムの実行パターンを少なくとも1つ以上有して構成されている。
・ユーザが、FTIR100の日常点検などの際に、波数補正プログラムを手動で実行させた場合に、コンピュータ16は波数補正プログラムを実行する。
・コンピュータ16は、ユーザが波数補正プログラムの実行スケジュールを設定することが可能に構成されていて、設定された日時になったら波数補正プログラムを自動的に実行する。
・電源投入後のエイジングが完了してFTIR100が安定した場合、または、コンピュータ16が測定プログラムを起動(例えばモニターに測定メニュー等が表示される。)した場合に、コンピュータ16は波数補正プログラムを自動的に実行する。
・ユーザによる操作等、FTIRの動作に係る入力が一定時間以上なかった場合に、コンピュータ16は、「FTIRが未操作状態である」と判断して、波数補正プログラムを自動的に実行する。
【0064】
上記のどの実行パターンでも、波数補正プログラムの実行によって波数補正が完了した後、波数補正の直前に設定されていたパラメータ(例えば、アパーチャの選択、可動鏡のストローク長など、通常の試料に対する各種の測定条件を表すパラメータ)を用いて、バックグラウンド測定を自動で実行し、さらに、その後、次の測定に係る入力の待ち状態(待機状態)を実行するようにしてもよい(後述の図3の処理フローS6,S7参照)。
【0065】
特に、コンピュータ16がFTIRの起動状態を判断して波数補正を実行する場合に、その一連の波数補正動作に続けて、コンピュータ16によってバックグラウンド測定も自動で実行されれば、ユーザが次に測定をする際にはバックグラウンドの再測定をしなくても済むので、ユーザの利便性が高まる。
【0066】
以上に説明した本実施形態のFTIR100の構成によれば、まず、ポリスチレン膜のような固体のリファレンス試料74aを使うことで、FTIR100での窒素パージや真空状態での影響を受けやすい大気(二酸化炭素や水蒸気)をリファレンス試料として用いるよりも大きな検出強度が得られ、測定スペクトルの波数の読取値と本来の波数との比較を容易に行うことができる。また、固体のリファレンス試料74aであれば、測定環境次第でピーク高さが様々に変わってS/N比が毎回変化してしまうような大気(二酸化炭素や水蒸気)のスペクトルよりも、測定時間が一定になり易く、測定スペクトルの波数補正の精度を担保し易い。
【0067】
加えて、FTIR100で算出したスペクトルに対して、リファレンス試料74aに特有なピークの波数域に補間データを付与することで、固体のリファレンス試料74aの特有のピークが、補正によって取得したい波数精度よりも非常に大きな半値幅を持っていたとしても、そのピークの波数を精度よく読み取ることができて、測定スペクトルの波数補正の信頼性が向上する。
【0068】
本実施形態のFTIR100の構成によれば、半導体レーザー30特有の発振波数の不安定性があっても、FTIR100の波数補正機能を実行することで、He-Neレーザーを利用した場合と同等の測定スペクトルの波数の精度(再現性)が得られる。
【0069】
また、FTIRの小型化が容易となることで、FTIRの可搬性のニーズも高まっている。つまり、据置の状態で常に安定的に使用することが前提であった従来のFTIRに較べて、より装置への信頼性確認(日常点検)や校正へのニーズが高まってきている。本実施形態を採用することで、特に波数精度/再現性、あるいは波数正確さに関する信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0070】
10 赤外光源
12 干渉計
14 赤外検出器
16 コンピュータ
20 ビームスプリッタ(光束分割部)
22 固定鏡
24 可動鏡
30 半導体レーザー
32 レーザー検出器
34 可動鏡制御装置
44 メモリー
46 表示装置
48 ユーザインタフェース
50 通信装置
52 携帯機器
60 筐体
68 印加電流コントローラ
70 ペルチェ素子
72 温調コントローラ
74 切替装置
74a リファレンス試料
76 温湿度センサ
100 フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)
図1
図2
図3
図4