(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122129
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】ギヤ変速機の制御装置、乗物および制御方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/08 20060101AFI20230825BHJP
F16H 63/18 20060101ALI20230825BHJP
F16H 61/32 20060101ALI20230825BHJP
F16H 59/46 20060101ALI20230825BHJP
F16H 61/682 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
F16H61/08
F16H63/18
F16H61/32
F16H59/46
F16H61/682
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025601
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 勝哉
【テーマコード(参考)】
3J067
3J552
【Fターム(参考)】
3J067AA21
3J067AB23
3J067AC05
3J067BA17
3J067CA06
3J067CA32
3J067DB32
3J067FB03
3J067FB45
3J067GA01
3J552MA04
3J552MA13
3J552NA08
3J552NB08
3J552PA02
3J552PA20
3J552PA51
3J552PA54
3J552PA70
3J552RA02
3J552SA23
3J552SA26
3J552SB36
3J552TB02
3J552TB12
3J552VA05W
3J552VA32W
3J552VA37W
3J552VA76W
3J552VA78W
(57)【要約】
【課題】ドッグクラッチ式のギヤ変速機において、ドグの円滑な係合を実現する。
【解決手段】ギヤ変速機の制御装置は、変速段をシフトするためのシフト指令を取得したとき、変速ギヤの回転数と係合部の回転数との差に基づいて、変速ギヤと係合部との係合を開始する係合タイミングを決定し、係合タイミングとなるまで、センサにより検出される位置が、複数の係合部が複数組の変速ギヤ対のいずれとも係合しない非係合範囲内に維持されるよう、シフトアクチュエータを制御する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、
出力軸と、
前記入力軸に同軸の変速ギヤおよび前記出力軸に同軸の変速ギヤをそれぞれ含む複数組の変速ギヤ対と、
前記複数組の変速ギヤ対に係合可能な複数の係合部を移動させ、前記複数組の変速ギヤ対の中で前記係合部に係合した1の変速ギヤ対を動力伝達状態にするシフトアクチュエータと、
前記係合部の位置を検出するセンサと、を備えるギヤ変速機の制御装置であって、
前記制御装置は、処理回路を備え、
前記処理回路は、
変速段をシフトするためのシフト指令を取得したとき、前記変速ギヤの回転数と前記係合部の回転数との差に基づいて、前記変速ギヤと前記係合部との係合を開始する係合タイミングを決定し、
前記係合タイミングとなるまで、前記センサにより検出される位置が、前記複数の係合部が前記複数組の変速ギヤ対のいずれとも係合しない非係合範囲内に維持されるよう、前記シフトアクチュエータを制御する、ギヤ変速機の制御装置。
【請求項2】
前記複数組の変速ギヤ対は、第1変速ギヤを含む第1変速ギヤ対および第2変速ギヤを含む第2変速ギヤ対を含み、
前記複数の係合部は、前記第1変速ギヤに係合可能な第1係合部および前記第2変速ギヤに係合可能な第2係合部を含み、
前記処理回路は、
前記第1係合部が前記第1変速ギヤに係合した第1変速段から前記第2係合部が前記第2変速ギヤに係合した第2変速段にシフトするためのシフト指令を取得したとき、前記センサにより検出される位置が、前記第1係合部が前記第1変速ギヤに係合する第1係合範囲から、前記第1係合部が前記第1変速ギヤと係合せず且つ前記第2係合部が前記第2変速ギヤと係合しない前記非係合範囲に移るよう、前記シフトアクチュエータを制御し、
前記第2係合部の回転数と前記第2変速ギヤの回転数との差に基づいて、前記第2係合部と前記第2変速ギヤとの係合を開始する前記係合タイミングを決定する、請求項1に記載のギヤ変速機の制御装置。
【請求項3】
前記ギヤ変速機は、前記複数の係合部とともに変位する1以上のシフトフォークと、前記1以上のシフトフォークを案内する案内溝を有するシフトドラムとを含み、
前記シフトアクチュエータは、前記シフトドラムを回転させる動力を発生させ、
前記センサは、前記係合部の位置に対応する前記シフトドラムの回転角を検出する、請求項1または2に記載のギヤ変速機の制御装置。
【請求項4】
前記処理回路は、前記変速ギヤの回転数と前記係合部の回転数との差が、所定値以下になるタイミングを、前記係合タイミングに決定する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のギヤ変速機の制御装置。
【請求項5】
前記処理回路は、
前記変速ギヤの回転数と前記係合部の回転数との差に基づいて待機時間を決定し、
前記センサにより検出される位置が前記非係合範囲内に維持される時間が、前記待機時間に到達したタイミングを、前記係合タイミングに決定する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のギヤ変速機の制御装置。
【請求項6】
前記ギヤ変速機は、運転者により操作されることにより走行する乗物に搭載され、
前記処理回路は、前記変速ギヤの回転数と前記係合部の回転数との差に加え、前記シフト指令を取得した際の走行状況または運転操作に応じて、前記係合タイミングを決定する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のギヤ変速機の制御装置。
【請求項7】
前記処理回路は、前記走行状況として、前記変速ギヤ対の減速比、前記変速ギヤ対の減速比、加減速度、車速、エンジン回転数、バンク角の1以上を用いて、前記係合タイミングを決定する、請求項6に記載のギヤ変速機の制御装置。
【請求項8】
前記処理回路は、前記運転操作として、アクセル操作、ブレーキ操作、変速操作の1以上を用いて、前記係合タイミングを決定する、請求項6に記載のギヤ変速機の制御装置。
【請求項9】
前記ギヤ変速機は、
第1変速段に対応する第1谷部と、第2変速段に対応する第2谷部と、前記第1谷部と前記第2谷部との間の山部とを含む外周面を有し、前記シフトドラムと一体回転するチェンジカムと、
位置決めローラ、および前記位置決めローラを前記チェンジカムの前記外周面に押し付ける位置決めスプリングを有するポジションレバーと、を更に備え、
前記処理回路は、前記第1変速段から前記第2変速段にシフトするためのシフト指令を取得したとき、前記係合タイミングとなるまで、前記外周面における前記山部の頂点部分に前記位置決めローラが当接した状態を維持するよう、前記シフトアクチュエータを制御する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のギヤ変速機の制御装置。
【請求項10】
前記ギヤ変速機は、
第1変速段に対応する第1谷部と、第2変速段に対応する第2谷部と、前記第1谷部と前記第2谷部との間の山部とを含む外周面を有し、前記シフトドラムと一体回転するチェンジカムと、
位置決めローラ、および前記位置決めローラを前記チェンジカムの前記外周面に押し付ける位置決めスプリングを有するポジションレバーと、を更に備え、
前記処理回路は、前記第1変速段から前記第2変速段にシフトするためのシフト指令を取得したとき、前記係合タイミングとなるまで、前記位置決めローラが押し付けられることによって前記チェンジカムに生じるトルクに対抗する対抗力を、前記チェンジカムに対して付与するように、前記シフトアクチュエータを制御する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のギヤ変速機の制御装置。
【請求項11】
前記処理回路は、前記係合タイミングとなるまで、前記外周面における前記第1谷部と前記山部の頂点との間の部分に前記位置決めローラが当接した状態を維持するよう、前記シフトアクチュエータを制御する、請求項10に記載のギヤ変速機の制御装置。
【請求項12】
運転者により操作されることにより走行する乗物であって、
走行駆動源を搭載した車体と、
前記車体に支持された前記ギヤ変速機と、
前記ギヤ変速機を制御する、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の前記制御装置と、を備える、乗物。
【請求項13】
変速段をシフトするために変速ギヤに係合可能な係合部を移動させるシフトアクチュエータを制御するためのギヤ変速機の制御方法であって、
変速段をシフトするためのシフト指令を取得したときに、前記変速ギヤの回転数と前記係合部の回転数との差に基づいて、前記変速ギヤと前記係合部との係合を開始する係合タイミングを決定し、
前記係合タイミングとなるまで、前記係合部の位置を、前記係合部が前記変速ギヤと係合しない非係合範囲内に維持する、ギヤ変速機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シフトアクチュエータの動力によりギヤチェンジを行うギヤ変速機の制御装置、乗物および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シフトドラムを回動させる電動モータと、当該電動モータを制御する制御部とを具備する変速制御装置が開示されている。このシフトドラムの外周面に形成された溝にシフトフォークの突起が係合している。電動モータによりシフトドラムが回動されると、シフトフォークとともにドグが変位し、現在係合されているドグクラッチの係合を解除して次のドグクラッチを係合する動作が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドッグクラッチ式のギヤ変速機では、ドグが円滑に係合されることが望まれる。
【0005】
そこで、本開示は、ドッグクラッチ式のギヤ変速機において、ドグの円滑な係合を実現できるギヤ変速機の制御装置、乗物および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係るギヤ変速機の制御装置は、入力軸と、出力軸と、前記入力軸に同軸の変速ギヤおよび前記出力軸に同軸の変速ギヤをそれぞれ含む複数組の変速ギヤ対と、前記複数組の変速ギヤ対に係合可能な複数の係合部を移動させ、前記複数組の変速ギヤ対の中で前記係合部に係合した1の変速ギヤ対を動力伝達状態にするシフトアクチュエータと、前記係合部の位置を検出するセンサと、を備えるギヤ変速機の制御装置であって、前記制御装置は、処理回路を備え、前記処理回路は、変速段をシフトするためのシフト指令を取得したとき、前記変速ギヤの回転数と前記係合部の回転数との差に基づいて、前記変速ギヤと前記係合部との係合を開始する係合タイミングを決定し、前記係合タイミングとなるまで、前記センサにより検出される位置が、前記複数の係合部が前記複数組の変速ギヤ対のいずれとも係合しない非係合範囲内に維持されるよう、前記シフトアクチュエータを制御する。
【0007】
本開示の一態様に係る乗物は、運転者により操作されることにより走行する乗物であって、走行駆動源を搭載した車体と、前記車体に支持された前記ギヤ変速機と、前記ギヤ変速機を制御する前記制御装置と、を備える、乗物である。
【0008】
本開示の一態様に係るギヤ変速機の制御方法は、変速段をシフトするために変速ギヤに係合可能な係合部を移動させるシフトアクチュエータを制御するためのギヤ変速機の制御方法であって、変速段をシフトするためのシフト指令を取得したときに、前記変速ギヤの回転数と前記係合部の回転数との差に基づいて、前記変速ギヤと前記係合部との係合を開始する係合タイミングを決定し、前記係合タイミングとなるまで、前記係合部の位置を、前記係合部が前記変速ギヤと係合しない非係合範囲内に維持する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ドッグクラッチ式のギヤ変速機において、ドグの円滑な係合を実現できるギヤ変速機の制御装置、乗物および制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るギヤ変速機の制御装置が搭載された乗物の動力システムの模式図である。
【
図2】
図1に示すギヤ変速機のチェンジ機構の側面図である。
【
図3】制御装置による変速処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図4】第1変速段におけるチェンジカム、位置決めローラおよびシフト爪の位置関係の一例を示す模式図である。
【
図5】第1変速段におけるドグと変速ギヤとの位置関係の一例を示す模式図である。
【
図6】待機制御中におけるチェンジカム、位置決めローラおよびシフト爪の位置関係の一例を示す模式図である。
【
図7】待機制御中のドグと変速ギヤとの位置関係の一例を示す模式図である。
【
図8】第2変速段におけるチェンジカム、位置決めローラおよびシフト爪の位置関係の一例を示す模式図である。
【
図9】第2変速段におけるドグと変速ギヤとの位置関係の一例を示す模式図である。
【
図10】待機制御中におけるチェンジカム、位置決めローラおよびシフト爪の位置関係の別の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0012】
<ギヤ変速機の構成>
図1は、一実施形態に係るギヤ変速機10の制御装置40が搭載された乗物1の動力システムの模式図である。例えば乗物1は、鞍乗車両(例えば、自動二輪車)である。本実施形態では、乗物1として、第1原動機としての内燃機関であるエンジン2、および、第2原動機としての電動モータである駆動モータ3の2つの走行駆動源を備えたハイブリッド車両が例示される。
【0013】
エンジン2のクランク軸2aは、プライマリギヤ4およびメインクラッチ5(例えば、摩擦クラッチ)を介してギヤ変速機10に接続されている。メインクラッチ5は、クラッチアクチュエータ5aによって駆動されて、クランク軸2aから入力軸11への動力伝達経路を切断したり接続したりする。また、駆動モータ3のモータ駆動軸3aは、動力伝達機構6(例えば、チェーン・スプロケット機構、ベルト・プーリー機構、ドライブシャフト・ギヤ機構等)を介してギヤ変速機10に接続されている。ギヤ変速機10は、出力伝達機構7(例えば、チェーン・スプロケット機構、ベルト・プーリー機構、ドライブシャフト・ギヤ機構等)を介して駆動輪8に接続されている。
【0014】
ギヤ変速機10は、ドッグクラッチ式の変速機である。ギヤ変速機10は、入力軸11と、出力軸12と、複数の変速段にそれぞれ対応する複数組の変速ギヤ対13と、複数組の変速ギヤ対13にそれぞれ対応する複数のドグ14(係合部に対応)とを備える。複数のドグ14は、複数組の変速ギヤ対13のうちの所望の減速比の1組を選択する。
【0015】
入力軸11には、走行駆動源であるエンジン2および駆動モータ3の少なくとも一方の駆動力が伝達可能である。メインクラッチ5が接続状態にあるとき、エンジン2のみから、または、エンジン2および駆動モータ3の双方から、動力が入力軸11に入力される。メインクラッチ5が切断状態にあるとき、駆動モータ3のみから動力が入力軸11に入力される。出力軸12は、入力軸11に平行に配置されている。以下、入力軸11および出力軸12に平行な方向を、「軸方向」と称する。複数組の変速ギヤ対13は、軸方向に並んでいる。複数組の変速ギヤ対13は、互いに減速比が異なる。減速比は、ギヤ比または変速比とも称し得る。
【0016】
各変速ギヤ対13は、入力軸11に同軸に設けられた1つの変速ギヤ13と、出力軸12に同軸に設けられた1つの変速ギヤ13とを含む。各変速ギヤ対13が含む2つの変速ギヤ13のうち、一方の変速ギヤ13は、そのギヤと同軸である入力軸11または出力軸12と一体的に回転するギヤ(以下、「共回転ギヤ」と称する)13aである。例えば、共回転ギヤ13aは、入力軸11または出力軸12にスプライン嵌合により組付けられている。各変速ギヤ対13が含む2つの変速ギヤ13のうち、他方の変速ギヤ13は、そのギヤと同軸である入力軸11または出力軸12に対して相対回転可能であるギヤ(以下、「空転ギヤ」と称する)13bである。
【0017】
各変速ギヤ対13における共回転ギヤ13aと空転ギヤ13bとは常時噛み合っている。本実施形態では、入力軸11に、共回転ギヤ13aと空転ギヤ13bとが軸方向に交互に並んでいる。同様に、出力軸12には、空転ギヤ13bと共回転ギヤ13aとが軸方向に交互に並んでいる。
【0018】
いくつかの共回転ギヤ13aが、ドグ14と一体型となっており、ドグ14とともにドッグギヤ15を構成している。ドッグギヤ15において、ドグ14は、共回転ギヤ13aの軸方向端面から軸方向に突出するように設けられている。例えばドグ14は、共回転ギヤ13aの端面において、共回転ギヤ13aの周方向に所定の間隔をあけて並んだ複数の突起により構成されている。なお、
図2では、煩雑になるのを避けるために、共回転ギヤ、空転ギヤ、ドッグギヤの全てに符号を付さず、それらの一部にのみ符号が付されている。
【0019】
ドッグギヤ15は、入力軸11または出力軸12に対して軸方向に移動可能となっている。ドッグギヤ15に軸方向に対向する空転ギヤ13bは、収容空間Sを有する。収容空間Sは、移動するドグ14が入り込めるよう、軸方向におけるドグ14が配置された側に開口している。本実施形態では、収容空間Sは、空転ギヤ13bの軸方向端面において、空転ギヤ13bの周方向に所定の間隔をあけて並んだ複数の突起により構成されている。すなわち、収容空間Sは、空転ギヤ13bの端面において空転ギヤ13bの周方向に隣接する突起の間に形成される空間である。なお、収容空間Sは、空転ギヤ13bの軸方向端面に形成された穴であってもよい。すなわち、収容空間Sは、空転ギヤ13bの径方向に開口していてもよいし、開口していなくてもよい。
【0020】
入力軸11および出力軸12に平行に配置された支軸21には、ギヤチェンジのために変位するシフトフォーク22がスライド自在に支持されている。シフトフォーク22の先端は、ドッグギヤ15に接続されている。シフトフォーク22の基端は、シフトドラム23の案内溝Gに嵌合している。シフトドラム23が回転すると、案内溝Gに案内されたシフトフォーク22が、対応するドッグギヤ15を入力軸11または出力軸12に沿ってスライドさせる。ドッグギヤ15がスライド変位する。ある変速段に対応するドグ14が、当該ある変速段に対応する変速ギヤ対13の収容空間Sに入り込み、これにより、当該変速段に対応する変速ギヤ対13が動力伝達状態となる。
【0021】
ギヤ変速機10は、ギヤポジションセンサ31(センサに対応)、シフトアクチュエータ32およびチェンジ機構33を有する。
【0022】
ギヤポジションセンサ31は、シフトドラム23の回転角を検出する。シフトドラム23の回転角により、ギヤ変速機10の複数の変速ギヤ対13のうちのいずれが選択された状態にあるか、つまりどの変速段にあるかを検出可能である。ギヤポジションセンサ31により検出された回転角を示す検出角度信号は、乗物1の制御装置40に送られる。
【0023】
制御装置40は、エンジン2、駆動モータ3、クラッチアクチュエータ5a、およびシフトアクチュエータ32を制御する。制御装置40は、プロセッサ40aおよびメモリ40bを有する。プロセッサ40aは、メモリ40bに記憶されたプログラムを実行することにより、エンジン2、駆動モータ3、クラッチアクチュエータ5a、およびシフトアクチュエータ32を制御する。プロセッサ40aは、処理回路の一例である。また、制御装置40によるシフトアクチュエータ32の制御は、シフトスイッチ41から送られたシフト指令に応じて実行される。
【0024】
シフトスイッチ41は、ギヤ変速機10のシフト位置である変速段を変更するためのものである。シフトスイッチ41は、例えば運転者が手動操作できるように、乗物1のハンドルのグリップなどに配置される。シフトスイッチ41は、例えば運転者の手動操作に応じてシフト指令を制御装置40に送る。例えばシフト指令は、シフトアップ指令またはシフトダウン指令である。シフトアップ指令は、ギヤ変速機10の変速段を増加させる指令である。より詳しくは、シフトアップ指令は、入力軸11に対する出力軸12の減速比を大きくする指令である。シフトダウン指令は、ギヤ変速機10の変速段を減少させる指令である。より詳しくは、シフトダウン指令は、入力軸11に対する出力軸12の減速比を小さくする指令である。
【0025】
シフトアクチュエータ32は、制御装置40により制御され、シフトドラム23を回転させる動力を発生させる。シフトアクチュエータ32は、例えば正逆回転可能な電動モータである。シフトアクチュエータ32による動力は、チェンジ機構33を介してシフトドラム23に伝達される。
【0026】
図2は、シフトドラム23の軸線X1の延在する方向に見たチェンジ機構33の側面図である。
図2では、チェンジ機構33が手前側に位置し、シフトドラム23が奥側に位置する。チェンジ機構33は、シフトアクチュエータ32の回転動力によって動作し、シフトドラム23を間欠的に回転させる。チェンジ機構33は、チェンジシャフト51、チェンジレバー52、リターンスプリング53、チェンジカム54、ストッパ棒55、およびポジションレバー56を備える。
【0027】
チェンジシャフト51の軸線X2は、シフトドラム23の軸線X1と平行に配置されている。チェンジシャフト51の第1端部にはシフトアクチュエータ32が取り付けられ(
図1参照)、チェンジシャフト51の第2端部にはチェンジレバー52が取り付けられている。チェンジシャフト51は、シフトアクチュエータ32の動力が入力され、その軸線X2周りに回転する。
【0028】
チェンジレバー52は、チェンジシャフト51に固定されている。チェンジレバー52は、レバー本体61、スライダ62、リベット63およびスライダスプリング64を備える。レバー本体61およびスライダ62は、軸線X2に平行な直線に垂直な板状の部材である。
【0029】
レバー本体61は、例えば溶着などにより、チェンジシャフト51に固定されている。レバー本体61は、チェンジシャフト51とともに軸線X2の周りに回動する。レバー本体61は、チェンジシャフト51に固定される基部71と、軸線X2に直交する径方向に基部71から突出したスライダ支持部72とを有する。基部71は、被付勢部71aと、ストッパ孔71bとを有する。
【0030】
基部71に対して前記軸方向一方側にリターンスプリング53が配置されており、被付勢部71aは、基部71の主面部からリターンスプリング53側に(
図2の例では紙面奥側に)突出している部分である。被付勢部71aは、リターンスプリング53に当接されてリターンスプリング53から付勢力が与えられる。ストッパ孔71bは、軸線X2周りの周方向に延びた長円形状を有する。スライダ支持部72は、リベット63が貫通するピン孔72aを有する。
【0031】
スライダ62は、スライダ支持部72に摺動自在に重ねられる。スライダ62は、リベット63の軸部が挿通する案内穴75を有する。案内穴75は、リベット63の軸部を前記径方向に案内可能に前記径方向に延びている。リベット63は、スライダ62の案内穴75を通過してレバー本体61のピン孔72aに締結されている。なお、スライダ62の案内穴75に挿通されるものはリベットに限られず、案内ピンの役目を果たすものであれば他のもの(例えば、ピンおよび抜け止め具)でもよい。
【0032】
スライダ62は、軸線X2から遠位側、すなわちチェンジシャフト51の径方向外側において一対のシフト爪66を有する。一対のシフト爪66は、スライダ62の先端部をチェンジカム54に向けて屈曲させて形成されている。一対のシフト爪66は、互いに前記軸線X2からスライダ62に向かう方向に直交する方向に離間している。一対のシフト爪66は、軸線X2方向から見て、一対のシフト爪66の間の中間点を通る前記径方向に延びた仮想線を基準として対称な形状を有する。
【0033】
スライダスプリング64は、スライダ62を軸線X2に近づける方向に当該スライダ62を付勢している。スライダスプリング64の一端は、スライダ62のスプリング支持部62aに取り付けられている。例えば、スライダスプリング64は、スライダ62に対してチェンジカム54が位置する側とは反対側に配置され、スプリング支持部62aは、スライダ62の主面部からスライダスプリング64側に(
図2の例では紙面手前側に)突出している。スライダスプリング64の他端は、チェンジシャフト51に相対回転自在に外嵌されたリング、あるいはレバー本体61の基部71に取り付けられている。スライダ62が、レバー本体61に対して、径方向外方(言い換えれば軸線X2から離れる方向)にスライド変位すると、スライダスプリング64によってスライダ62が径方向内方(言い換えれば軸線X2から近づく方向)に戻ろうとする付勢力が作用する。なお、スライダスプリング64は、
図2において簡略化して示される。
【0034】
リターンスプリング53は、チェンジシャフト51に外嵌されたトーションスプリングである。リターンスプリング53の一端部および他端部は、レバー本体61の被付勢部71aを軸線X2周りの周方向に挟んでいる。リターンスプリング53の一端部と他端部との間には、ストッパ棒55が通過している。リターンスプリング53は、チェンジレバー52の軸線X2周りの位相角が所定のレバー基準角に保たれるようにチェンジレバー52を付勢する。
【0035】
チェンジカム54は、シフトドラム23の回転軸線X1周りにシフトドラム23と一体回転する。チェンジカム54は、シフトドラム23の軸線X1方向の端面に固定され、チェンジレバー52と対向している。チェンジカム54は、ディスク部81および複数の受動凸部82を有する。
【0036】
ディスク部81は、シフトドラム23の軸線X1に直交するように配置されている。ディスク部81の外周面(外周縁とも称し得る)には、位置決め用の複数の谷部83が軸線X1周りの周方向に間隔をあけて形成されており、当該周方向に隣接する2つの谷部83の間に山部84が形成されている。本実施形態では、複数の谷部83は、軸線X1周りの周方向に等間隔をあけて配置され、複数の山部84は、軸線X1周りの周方向に等間隔をあけて配置されている。谷部83の数は、ギヤ変速機10の変速段の数(本例では6つ)と同じである。本実施形態では、ディスク部81の外周面には、凹凸が繰り返し形成されており、当該凹凸は滑らかな曲線形状を有する。
【0037】
複数の受動凸部82は、ディスク部81のうちチェンジレバー52に対向する面から突出している。複数の受動凸部82は、軸線X1周りの周方向に等間隔をあけて配置されている。複数の受動凸部82の数は、ギヤ変速機10の変速段の数と同じである。軸線X1方向における受動凸部82の位置は、軸線X1方向におけるシフト爪66の位置と重なっている。シフト爪66が、軸線X2周りに回動すると、複数の受動凸部82のうちの1以上がシフト爪66に当接する。
【0038】
ストッパ棒55は、チェンジレバー52の回転方向に遊びをもってレバー本体61のストッパ孔71bに挿通されている。ストッパ棒55は、ギヤ変速機10におけるケースの側壁に固定されて当該側壁からレバー本体61に向けて突出している。
【0039】
ポジションレバー56は、位置決めアーム91、位置決めローラ92、および位置決めスプリング93を有する。位置決めアーム91は、その基端部91aを通過する、軸線X2に平行な直線X3周りに回動可能となっている。位置決めアーム91の基端部91aは、ギヤ変速機10におけるケースの側壁に回転自在に軸支されている。位置決めアーム91の先端部91bには、位置決めローラ92が回転自在に取り付けられている。位置決めローラ92は、チェンジカム54の外周面に対向している。位置決めスプリング93は、位置決めローラ92をチェンジカム54の外周面に押圧するように位置決めアーム91を付勢している。位置決めスプリング93の付勢力により、位置決めローラ92は、チェンジカム54の外周面の谷部83に嵌り込むように位置決めされる。これにより、チェンジカム54は、その軸線X1周りの位相角が、位置決めローラ92が嵌まり込んだ谷部83に対応する変速段に応じた角度となるよう位置決めされる。
【0040】
<変速処理>
図3は、現在の変速段から次の変速段にシフトするためのシフト指令をプロセッサ40aが取得したときの制御装置40による変速処理の流れの一例を示すフローチャートである。以下、適宜
図4乃至9を参照して、
図3の変速処理の流れを説明する。本明細書において、便宜上、現在の変速段を、第1変速段と称し、第1変速段に対応するドグ14を、第1ドグ14a(第1係合部に対応)と称し、第1ドグ14aと係合可能な第1変速段に対応する変速ギヤ13を、第1ギヤ(あるいは、第1変速ギヤ、現ギヤ、プレ変速ギヤ)13b1と称する。また、シフト指令に基づき現在の変速段からドグ14がシフト動作した後の次の変速段を、第2変速段と称し、第2変速段に対応するドグ14を、第2ドグ14b(第2係合部に対応)と称し、第2ドグ14bと係合可能な第2変速段に対応する変速ギヤ13を、第2ギヤ(あるいは、第2変速ギヤ、次ギヤまたはポスト変速ギヤ)13b2と称することとする。
【0041】
(第1変速段が選択された状態)
まず
図4および5を参照して、第1変速段が選択された状態を説明する。
図4は、第1変速段におけるチェンジカム54、位置決めローラ92およびシフト爪66の位置関係の一例を示す模式図である。なお、シフト爪66は、二点鎖線で示す。位置決めスプリング93(
図2参照)の付勢力により位置決めアーム91が位置決めローラ92をチェンジカム54の外周面に押圧しており、これにより、位置決めローラ92が第1変速段に対応する谷部83に嵌り込んでいる。以下、第1変速段に対応する谷部83を、第1谷部83aと称し、次の変速段である第2変速段に対応する谷部83を、第2谷部83bと称することとする。一対のシフト爪66は、チェンジカム54の隣接する2つの受動凸部82を挟む位置に配置される。即ち、シフト爪66が、軸線X1周りの周方向において受動凸部82に対向する。
【0042】
シフトドラム23の回転角θ、つまりギヤポジションセンサ31により検出される回転角θは、第1変速段に対応する角度となっている。なお、
図4および後述の
図6,8,10において、第1変速段から第2変速段に変速する過程でシフト爪66に当接する受動凸部82に、82aという符号を付し、ギヤポジションセンサ31により検出される回転角θは、第1変速段における受動凸部82aの位置からの回転角で表すこととする。つまり、第1変速段を示す
図4では、シフトドラム23およびチェンジカム54は、回転角θが0°である位置に位置決めされている。
【0043】
図5は、第1変速段におけるドグ14と変速ギヤ13との位置関係の一例を示す模式図である。
図5に示すように、収容空間Sを有する変速ギヤ13は、当該変速ギヤ13の周方向に収容空間Sを画定する第1面16aおよび第2面16bを有している。第1面16aは、収容空間Sに入り込んだドグ14が、出力軸12に所定の正方向にトルクを伝達する際に当接する面である。第2面16bは、収容空間Sに入り込んだドグ14が、出力軸12に正方向と反対の負方向にトルクを伝達する際に当接する面である。
【0044】
なお、
図5において、軸方向と正方向とが矢印で示されている。本明細書において、正方向とは、乗物1が前進する際に出力軸12を加速させる方向の入力軸11および出力軸12のトルクの発生方向を意味する。すなわち、第1面16aは、収容空間Sに入り込んだドグ14が、出力軸12の回転を加速させる際に当接する面であり、第2面16bは、収容空間Sに入り込んだドグ14が、出力軸12の回転を減速させる際に当接する面である。特に本例では、第1面16aは、収容空間Sに入り込んだドグ14が、乗物1が前方に加速中に当接している面であり、第2面16bは、収容空間Sに入り込んだドグ14が、乗物1の減速中に当接している面である。
【0045】
図5に示すように、第1ドグ14aが、第1ギヤ13b1の第1面16aに当接することで、第1ギヤ13b1が、第1ドグ14aとともに回転する。こうして、第1ドグ14aが係合した変速ギヤ対13は、入力軸11のトルクを出力軸12に伝達するようになる。
【0046】
(ドグ抜き制御)
図3に示すように、制御装置40が、シフトスイッチ41から第1変速段から第2変速段にシフトするためのシフト指令を取得した場合、制御装置40は、ドグ抜き制御を実行する(ステップS1)。ドグ抜き制御は、離脱制御とも称し得る。
【0047】
ドグ抜き制御は、シフトアクチュエータ32に対して行う制御であり、第1ギヤ13b1の収容空間Sから第1ドグ14aを抜く制御である。具体的には、メモリ40bには、回転角θと、各変速段のドグ14とギヤ13との係合の有無(言い換えれば、ドグが収容空間に入っているか否か)の対応関係を示す情報が予め記憶されている。制御装置40は、ドグ抜き制御において、ギヤポジションセンサ31により検出される回転角θが、第1係合角度範囲R1(第1係合範囲に対応)から非係合角度範囲R0(非係合範囲に対応)に移るよう、シフトアクチュエータ32を制御する。
【0048】
第1係合角度範囲R1は、第1ギヤ13b1と第1ドグ14aとが係合する回転角θの範囲である。非係合角度範囲R0は、第1ドグ14aが第1ギヤ13b1と係合せず且つ第2ドグ14bが第2ギヤ13b2と係合しない回転角θの範囲である。言い換えれば、非係合角度範囲R0は、ギヤ変速機10のいずれの変速ギヤ対13も選択されていない回転角θの範囲である。
【0049】
つまり、
図6に示すように、シフトアクチュエータ32を制御して、シフト爪66を軸線X2周りに回動させることにより、シフト爪66により受動凸部82aを軸線X1周りに回動させる。その結果、
図7に示すように、ギヤ変速機10のいずれの変速ギヤ対13もドグ14と係合していない状態、すなわち非係合状態となる。非係合状態では、入力軸11と出力軸12との間でトルクの伝達が遮断される。なお、
図6では、一対のシフト爪66のうち、受動凸部82aと当接したシフト爪66のみ二点鎖線で示す。また、
図6,8,10では、図面の見やすさのため、説明に必要のない符号は省略している。
【0050】
(待機制御および同期制御)
ドグ抜き制御が実行されたことによって回転角θが非係合角度範囲R0に移った後、制御装置40は、待機制御を実行する(ステップS2)。また、制御装置40は、同期制御を実行する(ステップS3)。
【0051】
待機制御は、シフトアクチュエータ32に対して行う制御であり、制御装置40が決定するドグ入れタイミング(係合タイミングに対応)となるまで、回転角θを非係合角度範囲R0内に維持する制御である。別の表現で説明すれば、待機制御は、後述の同期制御によって第2ドグ14bと第2ギヤ13b2との間の回転数差がある程度小さくなるまで(設定値に到達するまで)、第2ドグ14bを第2ギヤ13b2の収容空間Sに入れるのを待つ制御である。なお、回転数とは、単位時間当たりに物体が回転する速さ(回数)を意味する。回転数は、回転速度や角速度とも称し得る。
【0052】
同期制御は、入力軸11を駆動する原動機(本例では、エンジン2および駆動モータ3の少なくとも一方)に対して行う制御であり、第2ドグ14bの回転数および第2ギヤ13b2の回転数の一方を他方に近づける制御である。第2ギヤ13b2の収容空間Sに第2ドグ14bを入れる前に同期制御を行うことで、第2ドグ14bと第2ギヤ13b2との間の回転数差が低減し、第2ドグ14bが第2ギヤ13b2に円滑に係合される。
【0053】
より詳しく説明すると、同期制御は、第2ドグ14bおよびと第2ギヤ13b2のうちの入力側を出力側に合わせにいく制御である。例えば、入力軸11と一体回転する第2ドグ14bを、入力軸11に外装された第2ギヤ13b2に係合する場合には、上記同期制御は、当該第2ギヤ13b2の回転数に第2ドグ14bの回転数を近づける制御を意味する。また、例えば、出力軸12と一体回転する第2ドグ14bを、出力軸12に外装された第2ギヤ13b2に係合する場合には、上記同期制御は、第2ドグ14bの回転数に第2ギヤ13b2の回転数を近づける制御を意味する。
【0054】
なお、同期制御の開始タイミングは、ドグ抜き制御が終了した後でなくてもよく、例えば、ドグ抜き制御の開始より前でもよいし、またはドグ抜き制御の開始と同時でもよい。
【0055】
ステップS2において、制御装置40は、第2ギヤ13b2の回転数と第2ドグ14bの回転数との差に基づいて、第2ギヤ13b2と第2ドグ14bとの係合を開始するドグ入れタイミングを決定する。制御装置40は、ドグ入れタイミングとなるまで、回転角θが非係合角度範囲R0内に維持されるよう、シフトアクチュエータ32を制御する。
【0056】
本実施形態では、制御装置40は、第2ギヤ13b2の回転数と第2ドグ14bの回転数との差が、所定値以下になるタイミングを、ドグ入れタイミングに決定する。
【0057】
第2ギヤ13b2および第2ドグ14bのうち入力側の部材の回転数は、入力軸11の回転数またはそれに対応するパラメータから得られる。乗物1に搭載された第1回転数センサにより、入力軸11の回転数またはそれに対応するパラメータが検出され、制御装置40に送られる。第1回転数センサとしては、例えば、入力軸11の回転数を直接的に検出する回転数センサ、クランク軸2aの回転数を検出するエンジン回転数センサや、モータ駆動軸3aの回転数を検出するモータ回転数センサなどが例示される。
【0058】
また、第2ギヤ13b2および第2ドグ14bのうち出力側の部材の回転数は、出力軸12の回転数またはそれに対応するパラメータから得られる。乗物1に搭載された第2回転数センサにより、出力軸12の回転数またはそれに対応するパラメータが検出され、制御装置40に送られる。第2回転数センサとしては、例えば、出力軸12の回転数を直接的に検出する回転数センサ、駆動輪8の回転数を検出する車輪回転数センサ8a(
図1参照)が例示される。
【0059】
待機制御中、回転角θは、非係合角度範囲R0内にあればよい。待機制御中、回転角θは、非係合角度範囲R0内の所定の角度に維持されてもよいし、非係合角度範囲R0内で変化してもよい。本実施形態では、制御装置40は、待機制御中、第1谷部83aと第2谷部83bとの間の山部84の頂点84a部分に位置決めローラ92が当接した状態を維持するよう、シフトアクチュエータ32を制御する(
図6参照)。これにより、本例のように、山部84の頂点84aが滑らかな曲面を呈している場合、位置決めローラ92が山部84の頂点84aを押圧する力は、軸線X1を向く(
図6の頂点84aから延びる矢印参照)。このため、位置決めローラ92の押圧力によるチェンジカム54を周方向に回転させるトルクをほぼゼロにできる。
【0060】
(ドグ入れ制御)
制御装置40は、ドグ入れタイミングになったと判定した場合、待機制御を終了し、ドグ入れ制御を実行する(ステップS4)。制御装置40は、ドグ入れ制御が完了すると変速処理を終了する。ドグ入れ制御は、係合制御とも称し得る。
【0061】
ドグ入れ制御は、シフトアクチュエータ32に対して行う制御であり、第2ギヤ13b2の収容空間Sに第2ドグ14bを入れ込む制御である。具体的には、制御装置40は、ドグ入れ制御において、ギヤポジションセンサ31により検出される回転角θが、非係合角度範囲R0から第2係合角度範囲R2(第2係合範囲に対応)に移るよう、シフトアクチュエータ32を制御する。第2係合角度範囲R2は、第2ギヤ13b2と第2ドグ14bとが係合する回転角θの範囲である。
【0062】
図6に示した状態から、受動凸部82aをシフト爪66により軸線X1周りに更に回動させることにより、第2ドグ14bが第2ギヤ13b2の収容空間Sに入りこむ。また、位置決めスプリング93(
図2参照)の付勢力により位置決めアーム91が位置決めローラ92をチェンジカム54の外周面に押圧し、これにより、
図8に示すように、位置決めローラ92が第2変速段に対応する第2谷部83bに嵌り込む。
図9に示すように、第2ドグ14bが、第2ギヤ13b2の第1面16aに当接することで、第2ギヤ13b2が、第2ドグ14bとともに回転する。こうして、第2ドグ14bが係合した変速ギヤ対13は、入力軸11のトルクを出力軸12に伝達するようになる。
【0063】
以上に説明した構成によれば、第2ドグ14bの回転数と第2ギヤ13b2の回転数の差に基づいてドグ入れタイミグを決定するため、次の変速段における第2ドグ14bと第2ギヤ13b2との回転数差を低減した状態で係合させることができ、変速ショックを低減できる。
【0064】
また、本実施形態では、制御装置40が、第2ギヤ13b2の回転数と第2ドグ14bの回転数との差が、所定値以下になるタイミングを、ドグ入れタイミングに決定するため、第2ギヤ13b2の回転数と第2ドグ14bの回転数との差が大きい状態で第2ドグ14bと第2ギヤ13b2とが係合することを確実に防ぐことができる。
【0065】
<その他の実施形態>
本開示は前述した実施形態に限定されるものではなく、その構成を変更、追加、又は削除することができる。
【0066】
例えば、上記実施形態では、ギヤ変速機は、ドグと共回転ギヤとが一体型となったドッグギヤ式であったが、ドグと共回転ギヤとは別体であってもよい。例えば、ギヤ変速機は、ドグを有するドッグリングを、入力軸または出力軸に対しスライド自在に設けるドッグリング式であってもよい。また、ドグが、入力軸11および出力軸12の双方の周りに配置されなくてもよく、全ての変速段のドグが、入力軸11および出力軸12のいずれか一方の周りにのみ配置されてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、シフトアクチュエータによりドグを移動させる構成が説明されたが、シフトアクチュエータにより移動する係合部はこれに限定されない。例えば、変速ギヤにドグが固定されており、当該ドグが係合する係合孔(または収容空間)を有する部材をシフトアクチュエータにより移動させてもよい。すなわち、変速ギヤ対を動力伝達状態にするために、当該変速ギヤ対に係合する係合部は、ドグでもよいし、ドグが係合する要素(例えば係合孔)でもよい。また、当該係合部の形状、つまりドグの形状やドグが係合する係合孔の形状も特に制限されない。
【0068】
上記実施形態では、シフトアクチュエータとして、電動モータが例示されたが、シフトアクチュエータはこれに限定されず、例えば油圧駆動アクチュエータなどであってもよい。また、上記実施形態では、シフトアクチュエータがシフトドラムを回転させる動力を発生させることで係合部としてのドグを移動させたが、ギヤ変速機は、シフトドラムを備えなくてもよい。例えば、シフトアクチュエータにより係合部がシフトドラムを介さず直接駆動されてもよい。また、係合部の位置を検出するセンサは、ギヤポジションセンサでなくてもよい。係合部の位置を検出するセンサは、係合部の位置を間接的に検出するものでなくてもよく、係合部の移動方向における位置を直接検出するセンサであってもよい。
【0069】
また、上記実施形態で説明されたチェンジ機構33の各構成要素の数、形状、配置なども、一例に過ぎない。例えばチェンジカムの谷部の数やチェンジカムの外周面の形状も一例に過ぎない。互いに隣接するある2つの谷部と谷部の間隔が、互いに隣接する別の2つの谷部と谷部の間隔も異なってもよい。
【0070】
図5,7,9では、第1変速段から第2変速段に移行する過程を1つのドッグギヤ15で説明したが、これは理解を容易にするために示したにすぎない。すなわち、ギヤ変速機に対する制御は、
図5,7,9で説明された制御に限定されない。例えばギヤ変速機は、第1ドグおよび第2ドグの双方を含むドッグギヤを備えなくてもよい。第1ドグと第2ドグとは、別々の変速ギヤに設けられてもよいし、あるいは別々のドッグリングに設けられてもよい。
【0071】
シフト指令は、シフトスイッチの代わりに別の装置から指令を送信できてもよい。また、制御装置が、自動的にシフト指令を生成し、シフトアクチュエータを制御するための処理回路に送ってもよい。例えば制御装置は、車速、エンジン回転数およびスロットル開度と変速タイミングとの関係を規定する変速マップを記憶していてもよく、変速マップに基づいて自動的にシフト指令を生成してもよい。また、シフト指令は、ある変速段から別の変速段にシフトするための指令でなくてもよく、例えばニュートラルからある変速段にシフトするための指令であってもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、制御装置40は、第2ギヤ13b2の回転数と第2ドグ14bの回転数との差が所定値以下になるタイミングを、ドグ入れタイミングに決定したが、ドグ入れタイミングの決定方法は、これに限定されない。
【0073】
例えば制御装置は、第2ギヤの回転数と第2ドグの回転数との差に基づいて待機時間を決定してもよく、制御装置は、ギヤポジションセンサにより検出される回転角が非係合角度範囲内に維持される時間が、待機時間に到達したタイミングを、ドグ入れタイミングに決定してもよい。これにより、第2変速ギヤの回転数と第2ドグの回転数との回転数差を計測または算出することなく、変速ショックを低減できる。
【0074】
また、この場合、制御装置は、第2ギヤの回転数と第2ドグの回転数との差に加え、第1ギヤ対の減速比、第2ギヤ対の減速比、および、シフトアップ指令かシフトダウン指令かに関するシフト指令の種類の1以上を用いて、待機時間を決定してもよい。これにより、変速ショックを低減できる適切な待機時間の決定が可能となる。
【0075】
また、上記実施形態では、制御装置40は、待機制御中、第1谷部83aと第2谷部83bとの間の山部84の頂点84a付近に位置決めローラ92が当接した状態を維持するよう、シフトアクチュエータ32を制御したが、待機制御中の回転角θの制御方法はこれに限定されない。
【0076】
例えば制御装置は、位置決めローラが押し付けられることによってチェンジカムに生じるトルクに対抗する対抗力を、チェンジカムに対して付与するように、シフトアクチュエータを制御してもよい。これにより、位置決めローラの押圧力によるチェンジカムの回転トルクを低減できる。
【0077】
この場合、例えば、
図10に示すように、制御装置は、待機制御中、第1谷部83aと山部84の頂点84aとの間の部分に位置決めローラ92が当接した状態を維持するよう、シフトアクチュエータ32を制御してもよい。つまり、制御装置40は、位置決めローラ92が押し付けられることによってチェンジカム54に生じるトルクf1に対抗する対抗力f2を、チェンジカム54に対して付与するように、シフトアクチュエータ32を制御してもよい。これにより、変速ギヤの回転数と係合部の回転数との回転数差を低減した状態で係合させることができ、その結果、変速ショックを低減できる。
【0078】
あるいは、制御装置は、待機制御中、第2谷部83bと山部84の頂点84aとの間の部分に位置決めローラ92が当接した状態を維持するよう、シフトアクチュエータ32を制御してもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、入力軸に駆動力を伝達する原動機として、エンジンおよび電動モータが例示されたが、入力軸に駆動力を伝達する原動機は、これに限定されない。原動機は、例えば内燃機関、外燃機関、電動モータ、流体機械などであり得る。エンジンの種類も特に限定されず、例えばエンジンは、レシプロエンジンでもよいし、ロータリーエンジンでもよい。例えばエンジンは、ガソリンエンジンでもよいし、ディーゼルエンジンでもよい。例えばエンジンは、2ストロークエンジンでもよいし、4ストロークエンジンでもよい。第1原動機と第2原動機とが、双方とも同じ種類の原動機でもよい。
【0080】
また、上記実施形態のように第1原動機と第2原動機とを備えたシステムにおいて、第1原動機と第2原動機とで、同期制御の開始タイミングが同じでもよいし異なってもよい。また、上記実施形態では、乗物1が、ハイブリッド車両であったが、乗物はハイブリッド車両でなくてもよい。例えば乗物は、エンジンおよび電動モータの一方のみを備えるものであってもよい。
【0081】
乗物は、自動二輪車に限定されない。例えば、乗物は、例えば、自動三輪車や自動四輪車であってもよい。上記実施形態では、自動二輪車の動力システムのための変速制御装置が説明されたが、変速制御装置は、自動三輪車や自動四輪車など、別の種類の乗物の動力システムにも適用可能である。また、制御装置は、工作機械など、乗物の動力システム以外のシステムにおけるシフト動作にも適用可能である。
【0082】
なお、ギヤ変速機が、運転者により操作されることにより走行する乗物に搭載されている場合、ギヤ変速機の制御装置は、変速ギヤの回転数と係合部の回転数との差に加え、シフト指令を取得した際の走行状況または運転操作に応じて、係合タイミングを決定してもよい。ギヤ変速機の制御装置は、変速ギヤの回転数と係合部の回転数との差に加え、シフト指令を取得した際の走行状況または運転操作に応じて、係合タイミングを決定してもよい。例えばギヤ変速機の制御装置は、走行状況として、変速ギヤ対の減速比、変速ギヤ対の減速比、加減速度、車速、エンジン回転数、バンク角の1以上を用いて、係合タイミングを決定してもよい。例えば、ギヤ変速機の制御装置は、運転操作として、アクセル操作、ブレーキ操作、変速操作の1以上を用いて、係合タイミングを決定してもよい。なお、変速操作は、シフトアップ操作、シフトダウン操作、連続変速操作を含む。
【0083】
走行状況または運転操作によっては、変速ショックが乗員に比較的許容される場合があったり、変速ショックを低減することが望ましい場合もあったりする。ギヤ変速機の制御装置が、変速ギヤの回転数と係合部の回転数との差が、差分設定値となったタイミングを、係合タイミングとして決定するとする。この場合、ギヤ変速機の制御装置は、シフト指令を取得した際の走行状況または運転操作に応じて、差分設定値を変更してもよい。例えばギヤ変速機の制御装置は、シフト指令を取得した際の走行状況または運転操作が、変速ショックを乗員が許容できる状況に対応する第1カテゴリに属すると判定した場合には、差分設定値を所定の基準値から増加して、これにより係合タイミングを早くしてもよい。また、例えばギヤ変速機の制御装置は、シフト指令を取得した際の走行状況または運転操作が、変速ショックを乗員が許容できない状況に対応する第2カテゴリに属すると判定した場合には、差分設定値を所定の基準値から低減して、これにより係合タイミングを遅くしてもよい。
【0084】
例えば加速度が上がっている走行状況、つまり運転者がアクセル操作をしている場合、変速ショックが生じることは乗員にとって想定内であり、乗員はそのショックを許容できると考えられる。このため、ギヤ変速機の制御装置は、このような加速状況または加速運転操作があったときは、差分設定値を基準値から増加させてもよく、これにより係合タイミングを早くしてもよい。例えばギヤ変速機の制御装置は、加速度やアクセル開度の増加に伴って差分設定値を増加してもよく、これにより係合タイミングを早くしてもよい。
【0085】
例えば車速が速い状況で、変速ショックが生じることは乗員にとって望ましくないと考えられる。このため、ギヤ変速機の制御装置は、このような車速が所定の速度より高いときは、差分設定値を基準値から低減させてもよく、これにより係合タイミングを遅くしてもよい。例えばギヤ変速機の制御装置は、車速が高いほど差分設定値を低減してもよく、これにより係合タイミングを遅くしてもよい。
【0086】
例えば複数の(例えば6つの)変速段で切り替える際に、低・中速段での切り替え(例えば1速、2速、3速、4速の間の切り替え)は、高速段での切り替え(例えば4速、5速、6速の間の切り替え)よりも変速ショックが大きい傾向にあるため、低・中速段での切り替えは、変速ショックを抑えるのが望ましい。このため、ギヤ変速機の制御装置は、低・中速段での切り替えのときに使用する差分設定値を、高速段での切り替えのときに使用する差分設定値よりも低減させてもよい。これにより低・中速段での切り替えのときは、高速段での切り替えのときより、係合タイミングを遅くしてもよい。例えばギヤ変速機の制御装置は、低い変速段の切り替えほど差分設定値を低減してもよく、これにより係合タイミングを遅くしてもよい。
【0087】
例えば乗物が高速道路を走行する状況では、変速ショックが生じることは乗員にとって望ましくないと考えられる。このため、ギヤ変速機の制御装置は、乗物が走行している道路が、変速ショックを抑えることが望ましいとされる予め定めた道路(高速道路など)であると判定した場合、差分設定値を基準値から低減させてもよく、これにより係合タイミングを遅くしてもよい。走行する道路の判定は、乗物に搭載されたGPS(Global Positioning System)などの地理的な位置を検出する位置検出器を用いて行ってもよい。
【0088】
例えば乗物が砂利道を走行している場合、乗物は走行中、上下振動しており、変速ショックは乗員にとって比較的許容される状況であると考えられる。このため、ギヤ変速機の制御装置は、乗物の上下振動の度合いが閾値を超えたと判定した場合は、差分設定値を基準値から増加させてもよく、これにより係合タイミングを早くしてもよい。乗物の上下振動の度合いの判定は、乗物に搭載された上下方向の加速度を検出する加速度センサや、サスペンション装置のストロークセンサなどであってもよい。
【0089】
乗物が直立状態から車幅方向一方側に車体をバンクさせて旋回可能な車両である場合、車体をバンクさせている状態ではショックは小さい方が望ましい。このため、例えばギヤ変速機の制御装置は、車体の傾き具合を表すバンク角が所定の角度より大きいときは、差分設定値を基準値から低減させてもよく、これにより係合タイミングを遅くしてもよい。例えばギヤ変速機の制御装置は、バンク角の増加に伴って差分設定値を低減してもよく、これにより係合タイミングを遅くしてもよい。
【0090】
本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、または、それらの任意の組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアまたはプロセッサの構成に使用される。
【0091】
本開示の一態様に係るギヤ変速機の制御装置は、入力軸と、出力軸と、前記入力軸に同軸の変速ギヤおよび前記出力軸に同軸の変速ギヤをそれぞれ含む複数組の変速ギヤ対と、前記複数組の変速ギヤ対に係合可能な複数の係合部を移動させ、前記複数組の変速ギヤ対の中で前記係合部に係合した1の変速ギヤ対を動力伝達状態にするシフトアクチュエータと、前記係合部の位置を検出するセンサと、を備えるギヤ変速機の制御装置であって、前記制御装置は、処理回路を備え、前記処理回路は、変速段をシフトするためのシフト指令を取得したとき、前記変速ギヤの回転数と前記係合部の回転数との差に基づいて、前記変速ギヤと前記係合部との係合を開始する係合タイミングを決定し、前記係合タイミングとなるまで、前記センサにより検出される位置が、前記複数の係合部が前記複数組の変速ギヤ対のいずれとも係合しない非係合範囲内に維持されるよう、前記シフトアクチュエータを制御する。
【0092】
上記の構成によれば、変速ギヤの回転数と係合部の回転数との差に基づいて、前記変速ギヤと前記係合部との係合を開始するタイミングを決定するため、変速ギヤの回転数と係合部の回転数との回転数差を低減した状態で係合させることができ、変速ショックを低減できる。
【0093】
なお、処理回路は、入力軸を駆動する原動機に対して、係合部の回転数およびそれに係合することになる変速ギヤの回転数の一方を他方に近づける同期制御を実行することで、変速ギヤの回転数と係合部の回転数との回転数差を低減した状態となる。
【0094】
前記複数組の変速ギヤ対は、第1変速ギヤを含む第1変速ギヤ対および第2変速ギヤを含む第2変速ギヤ対を含み、前記複数の係合部は、前記第1変速ギヤに係合可能な第1係合部および前記第2変速ギヤに係合可能な第2係合部を含み、前記処理回路は、前記第1係合部が前記第1変速ギヤに係合した第1変速段から前記第2係合部が前記第2変速ギヤに係合した第2変速段にシフトするためのシフト指令を取得したとき、前記センサにより検出される位置が、前記第1係合部が前記第1変速ギヤに係合する第1係合範囲から、前記第1係合部が前記第1変速ギヤと係合せず且つ前記第2係合部が前記第2変速ギヤと係合しない前記非係合範囲に移るよう、前記シフトアクチュエータを制御し、前記第2係合部の回転数と前記第2変速ギヤの回転数との差に基づいて、前記第2係合部と前記第2変速ギヤとの係合を開始する前記係合タイミングを決定してもよい。
【0095】
前記ギヤ変速機は、前記複数の係合部とともに変位する1以上のシフトフォークと、前記1以上のシフトフォークを案内する案内溝を有するシフトドラムとを含み、前記シフトアクチュエータは、前記シフトドラムを回転させる動力を発生させ、前記センサは、前記係合部の位置に対応する前記シフトドラムの回転角を検出してもよい。
【0096】
前記処理回路は、前記変速ギヤの回転数と前記係合部の回転数との差が、所定値以下になるタイミングを、前記係合タイミングに決定してもよい。これにより、係合部と変速ギヤとの回転数差が大きい状態で係合部と変速ギヤとが係合することを確実に防ぐことができる。
【0097】
前記処理回路は、前記変速ギヤの回転数と前記係合部の回転数との差に基づいて待機時間を決定し、前記センサにより検出される位置が前記非係合範囲内に維持される時間が、前記待機時間に到達したタイミングを、前記係合タイミングに決定してもよい。これにより、変速ギヤの回転数と係合部の回転数との回転数差を計測または算出することなく、変速ショックを低減できる。
【0098】
前記ギヤ変速機は、運転者により操作されることにより走行する乗物に搭載され、前記処理回路は、前記変速ギヤの回転数と前記係合部の回転数との差に加え、前記シフト指令を取得した際の走行状況または運転操作に応じて、前記係合タイミングを決定してもよい。走行状況または運転操作によっては、変速ショックが乗員に許容される場合があり、上記の構成によれば、状況に適した係合タイミングを決定できる。
【0099】
前記処理回路は、前記走行状況として、前記変速ギヤ対の減速比、前記変速ギヤ対の減速比、加減速度、車速、エンジン回転数、バンク角の1以上を用いて、前記係合タイミングを決定してもよい。
【0100】
前記処理回路は、前記運転操作として、アクセル操作、ブレーキ操作、変速操作の1以上を用いて、前記係合タイミングを決定してもよい。
【0101】
前記ギヤ変速機は、第1変速段に対応する第1谷部と、第2変速段に対応する第2谷部と、前記第1谷部と前記第2谷部との間の山部とを含む外周面を有し、前記シフトドラムと一体回転するチェンジカムと、位置決めローラ、および前記位置決めローラを前記チェンジカムの前記外周面に押し付ける位置決めスプリングを有するポジションレバーと、を更に備え、前記処理回路は、前記第1変速段から前記第2変速段にシフトするためのシフト指令を取得したとき、前記係合タイミングとなるまで、前記外周面における前記山部の頂点部分に前記位置決めローラが当接した状態を維持するよう、前記シフトアクチュエータを制御してもよい。これにより、位置決めローラの押圧力によるチェンジカムの回転トルクを低減できる。
【0102】
前記ギヤ変速機は、第1変速段に対応する第1谷部と、第2変速段に対応する第2谷部と、前記第1谷部と前記第2谷部との間の山部とを含む外周面を有し、前記シフトドラムと一体回転するチェンジカムと、位置決めローラ、および前記位置決めローラを前記チェンジカムの前記外周面に押し付ける位置決めスプリングを有するポジションレバーと、を更に備え、前記処理回路は、前記第1変速段から前記第2変速段にシフトするためのシフト指令を取得したとき、前記係合タイミングとなるまで、前記位置決めローラが押し付けられることによって前記チェンジカムに生じるトルクに対抗する対抗力を、前記チェンジカムに対して付与するように、前記シフトアクチュエータを制御してもよい。これにより、ポジションレバーによりチェンジカムを所定の回転位置に保持する機構を備えたギヤ変速機においても、変速ギヤの回転数と係合部の回転数との回転数差を低減した状態で係合させることができ、その結果、変速ショックを低減できる。
【0103】
前記処理回路は、前記係合タイミングとなるまで、前記外周面における前記第1谷部と前記山部の頂点との間の部分に前記位置決めローラが当接した状態を維持するよう、前記シフトアクチュエータを制御してもよい。この構成によれば、第1変速段から第2変速段にシフトするためにチェンジカムを回転させる方向と、チェンジカムに対して付与する対抗力の方向とを一致させることができる。このため、外周面における第2谷部と山部の頂点との間の部分に位置決めローラが当接した状態を維持する場合に比べて制御しやすい。
【0104】
本開示の一態様に係る乗物は、運転者により操作されることにより走行する乗物であって、走行駆動源を搭載した車体と、前記車体に支持された前記ギヤ変速機と、前記ギヤ変速機を制御する前記制御装置と、を備える、乗物である。
【0105】
本開示の一態様に係るギヤ変速機の制御方法は、変速段をシフトするために回転するシフトドラムの回転角を制御するためのギヤ変速機の制御方法であって、第1変速段から第2変速段にシフトするためのシフト指令を取得したときに、前記シフトドラムの回転角が、前記第1変速段に対応する第1変速ギヤと第1ドグとが係合する第1係合角度範囲から、前記第1ドグが前記第1変速ギヤと係合せず且つ前記第2変速段に対応する第2ドグが第2変速ギヤと係合しない非係合角度範囲に移るよう、シフトドラムを回転させ、前記第2変速ギヤの回転数と前記第2ドグの回転数との差に基づいて、前記第2変速ギヤと前記第2ドグとの係合を開始するドグ入れタイミングを決定し、前記ドグ入れタイミングとなるまで、前記シフトドラムの回転角を、前記非係合角度範囲内に維持する方法である。
【0106】
上記の方法によれば、変速ギヤの回転数と係合部の回転数との差に基づいて、前記変速ギヤと前記係合部との係合を開始するタイミングを決定するため、変速ギヤの回転数と係合部の回転数との回転数差を低減した状態で係合させることができ、変速ショックを低減できる。
【符号の説明】
【0107】
2 :エンジン
3 :駆動モータ
10 :ギヤ変速機
11 :入力軸
12 :出力軸
13 :変速ギヤ
13b1 :第1変速ギヤ
13b2 :第2変速ギヤ
14 :ドグ
14a :第1ドグ
14b :第2ドグ
22 :シフトフォーク
23 :シフトドラム
31 :ギヤポジションセンサ
32 :シフトアクチュエータ
33 :チェンジ機構
40 :制御装置
40a :プロセッサ
54 :チェンジカム
56 :ポジションレバー
66 :シフト爪
82 :受動凸部
83a :第1谷部
83b :第2谷部
84 :山部
84a :頂点
91 :位置決めアーム
92 :位置決めローラ
93 :位置決めスプリング