(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122197
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】切削条件設定方法、加工方法および切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 1/00 20060101AFI20230825BHJP
B23B 27/00 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
B23B1/00 Z
B23B1/00 N
B23B27/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025752
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】595054589
【氏名又は名称】株式会社デンソーダイシン
(71)【出願人】
【識別番号】000237499
【氏名又は名称】富士精工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
(72)【発明者】
【氏名】早坂 健宏
(72)【発明者】
【氏名】江藤 潤
【テーマコード(参考)】
3C045
3C046
【Fターム(参考)】
3C045AA10
3C045EA02
3C046BB01
(57)【要約】
【課題】工具と切りくずとの間の激しい溶着を防いで、摩擦力を減少させる切削条件の設定方法および加工方法を提供する。
【解決手段】切削工具を用いて被削材を加工する加工装置における切削条件の設定方法であって、少なくとも切削速度を含む切削条件を、切削点で被削材が十分に軟化するように、または切削点温度が上限温度近傍に到達するように設定する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具を用いて被削材を加工する加工装置における切削条件の設定方法であって、
切削速度を含む切削条件を、切削点で被削材が十分に軟化するように、または切削点温度が上限温度近傍に到達するように設定する、
ことを特徴とする切削条件設定方法。
【請求項2】
切削速度と、切取り厚さと、工具すくい角を含む前記切削条件を、切削点で被削材が十分に軟化するように、または切削点温度が上限温度近傍に到達するように設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の切削条件設定方法。
【請求項3】
前記切削条件を、切削点温度が、被削材の十分な軟化を引き起こす温度となるように設定する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の切削条件設定方法。
【請求項4】
所定の関係式を満たす切削速度vと、切取り厚さhと、工具すくい角αを決定する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の切削条件設定方法。
【請求項5】
切削速度vと、切取り厚さhと、工具すくい角αを、
va×hb×αc≧Th (ここで、a、b、c、Thは、それぞれ定数)
となるように決定する、
ことを特徴とする請求項4に記載の切削条件設定方法。
【請求項6】
切削工具を用いて被削材を加工する加工方法であって、
切削点で被削材が十分に軟化するように、または切削点温度が上限温度近傍に到達するように設定された切削速度を含む切削条件にしたがって、送り機構および回転機構を制御して、被削材を加工する、ことを特徴とする加工方法。
【請求項7】
ヒータを埋め込まれた切削工具を用いて被削材を加工する加工方法であって、
切削点温度が、被削材が十分に軟化する温度以上となるように、または上限温度近傍に到達するように、前記ヒータを制御して、被削材を加工する、ことを特徴とする加工方法。
【請求項8】
被削材を加工する切削工具であって、すくい面を加熱するヒータを備え、
被削材の加工時、前記ヒータは、切削点温度が、被削材が十分に軟化する温度以上となるように、または上限温度近傍に到達するように前記すくい面を加熱する、
ことを特徴とする切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削条件の設定方法、加工方法および切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、切削加工プロセスを模式的に示す。アルミニウム合金や銅合金、鉄系材料などの金属材料の切削加工では、工具と切りくずとの間に大きな摩擦力が作用することで、切削力が増大し、変形による加工精度の劣化や工具損耗、びびり振動問題が生じることがある。また工具刃先に被削材が溶着することで、仕上げ面の劣化や工具損耗が生じることもある。
【0003】
大きな摩擦力は、工具すくい面と切りくずとの間の圧縮応力が高く、さらに工具すくい面と切りくずとの間の摩擦係数が高いために発生する。
図1に示すように、切削加工では被削材を塑性変形(主に一次塑性域)させて切りくずを生成する。そのため切れ刃近傍の小さな領域に大きな力が加わることは避けられず、工具すくい面と切りくずとの間の圧縮応力を大幅に減少することは原理的に困難である。
【0004】
一方、摩擦係数が高いのは、工具すくい面が、生成されたばかりで活性な被削材新生面と接触し、切りくずがすくい面に溶着(凝着)しやすくなっているためである。ドリル加工のように切りくず排出が困難になり易い切削加工では、切りくずが溶着し始めると切りくずが排出溝に詰まり易く、工具折損に至ることがある。従来、溶着を抑制し、工具すくい面と切りくずとの間の摩擦係数を低減させることを目的として、切削油剤を供給し、または低摩擦コーティング(コーティッド)工具を使用することが行われている。非特許文献1は、低摩擦係数を実現するDLC(Diamond-Like Carbon)コーティング工具を開示する。切削油剤と低摩擦コーティング工具は、同時に使用されることも多い。
【0005】
非特許文献2は、本発明者の1人が共著者の1人として名前を連ねる学会論文であり、単位体積の被削材を除去するのに必要な比切削エネルギksと、単位体積の切りくずの温度を融点にまで上げるために要する熱エネルギqcとの関係を評価した結果を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】村上良彦, アルミ加工におけるドライ化の現状, ジュンツウネット21 (2006/12), <URL : https://www.juntsu.co.jp/mql/mql_kaisetsu1.php>
【非特許文献2】上田隆司,宇土誠一,平井佑樹,社本英二,「次元解析による切削温度の研究(第2報:被削材・工具の熱物性の影響評価)」,日本機械学会論文集, Vol.86(887), 2020, p.20-00100
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、工具と切りくずとの間の摩擦力を減少させるためには、工具と切りくずとの間の摩擦係数を低減させることが重要である。本発明はこうした状況に鑑みてなされており、その目的とするところは、工具と切りくずとの間の摩擦力を減少させる切削条件の設定方法および加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の切削条件の設定方法は、切削工具を用いて被削材を加工する加工装置における切削条件の設定方法であって、切削速度を含む切削条件を、切削点で被削材が十分に軟化するように、または切削点温度が上限温度近傍に到達するように設定する。ここで切削点は、被削材が工具に高圧で接触し、せん断すべりを生じる塑性域または塑性域近傍を指す。
図1を参照して切削点は、切りくずが工具すくい面に高圧で接触して、せん断すべりを生じる二次塑性域またはその近傍であってよく、さらに仕上げ面側において被削材が工具逃げ面に高圧で接触して、せん断すべりを生じる三次塑性域またはその近傍を含んでもよい。
【0009】
「切削点で被削材が十分に軟化する」切削条件は、低摩擦係数を実現するためのコーティングを施していない工具を用いてドライ加工したときの被削材の熱軟化による摩擦係数の低下の程度と、低摩擦係数を実現するためのコーティングを施した工具を用いてウェット加工することによる摩擦係数の低下の程度とが実質的に等しくなる切削条件であってよい。また「切削点温度が上限温度近傍に到達する」切削条件は、切削点温度が上限温度の90%以上、100%以下の範囲の温度に到達する切削条件であってよい。なお本明細書において温度は、セルシウス温度で表現している。なお、切削点温度が数百度以上に達するのに比べて常温は20℃程度に過ぎず桁違いに小さいことから、セルシウス温度で議論することは温度上昇値で議論することと概ね同じである。
【0010】
本発明の別の態様の加工方法は、切削工具を用いて被削材を加工する方法であって、切削点で被削材が十分に軟化するように、または切削点温度が上限温度近傍に到達するように設定された切削速度を含む切削条件にしたがって、送り機構および回転機構を制御して、被削材を加工する。上記したように切削点は、
図1に示す二次塑性域またはその近傍であってよく、さらに三次塑性域またはその近傍を含んでよい。
【0011】
本発明のさらに別の態様の加工方法は、ヒータを埋め込まれた切削工具を用いて被削材を加工する方法であって、切削点温度が、被削材が十分に軟化する温度以上となるように、または上限温度近傍に到達するように、ヒータを制御して、被削材を加工する。「被削材が十分に軟化する温度」は、上限温度の80%以上の温度であってよい。
【0012】
本発明のさらに別の態様の切削工具は、被削材を加工する切削工具であって、すくい面を加熱するヒータを備え、被削材の加工時、ヒータは、切削点温度が、被削材が十分に軟化する温度以上となるように、または上限温度近傍に到達するように、すくい面を加熱する。「被削材が十分に軟化する温度」は、上限温度の80%以上の温度であってよい。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実施形態の加工装置の概略構成を示す図である。
【
図3】加工時の切削点温度を測定した結果を示す図である。
【
図4】切削加工プロセスにおいて作用する力の関係を模式的に示す図である。
【
図5】コーティング・ウェット加工時の切削点温度および切削力の測定結果を示す図である。
【
図6】ノンコーティング・ドライ加工時の切削点温度および切削力の測定結果を示す図である。
【
図7】切削速度増加に伴う温度上昇が比切削エネルギに及ぼす影響を測定した結果を示す図である。
【
図8】複数の金属材料の比切削エネルギと、単位体積の切りくずの温度を融点に上げるために要する熱エネルギとの関係を示す図である。
【
図9】切削点における温度上昇の解析結果を示す図である。
【
図10】ヒータを内部に備えた切削工具の一例を示す図である。
【
図11】ヒータを内部に備えた切削工具の別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図2は、実施形態の加工装置1の概略構成を示す。加工装置1は、切削工具10を用いて被削材6を加工する切削装置であって、
図2は、被削材6に切削工具10の刃先を切り込ませて旋削加工する切削装置を示している。加工装置1はベッド5上に、被削材6を回転可能に支持する主軸台2および心押し台3と、切削工具10を支持する刃物台4とを備える。
【0016】
回転機構8は主軸台2の内部に設けられて、被削材6が取り付けられた主軸2aを回転させる。送り機構7は、ベッド5上に設けられて、被削材6に対して切削工具10を相対的に移動させる。この加工装置1では、送り機構7が刃物台4をX軸、Y軸、Z軸方向に移動させることで、被削材6に対して切削工具10を相対的に移動させる。ここでX軸方向は、水平方向であって且つ被削材6の軸方向に直交する切込み方向、Y軸方向は鉛直方向である切削方向、Z軸方向は、被削材6の軸方向に平行な送り方向である。
【0017】
制御部20は、回転機構8による主軸2aの回転を制御する回転制御部21と、主軸2aの回転中に送り機構7により切削工具10の刃先を被削材6に切り込ませて、切削加工を行わせる移動制御部22とを備える。加工装置1は、NC工作機械であってよい。回転機構8および送り機構7は、それぞれモータなどの駆動部を有して構成され、回転制御部21および移動制御部22は、それぞれ駆動部への供給電力を調整して、回転機構8および送り機構7のそれぞれの挙動を制御する。制御部20は、加熱制御部23および温度取得部24を備えるが、これらの動作については後述する。
【0018】
実施形態の加工装置1では被削材6が主軸2aに取り付けられて、回転機構8により回転させられるが、別の例では、切削工具10が主軸2aに取り付けられて、回転機構8により回転させられてもよい。また送り機構7は、被削材6に対して切削工具10を相対的に移動させればよく、切削工具10または被削材6の少なくとも一方を移動させる機構を有していればよい。
【0019】
切削条件設定装置30は、加工装置1で使用する切削条件を決定して、加工装置1に設定する機能を備える。実施形態の切削条件設定装置30は、少なくとも切削速度を含む切削条件を設定する。切削条件設定装置30は、設定した切削条件から、加工装置1で利用するNCデータを生成して、制御部20に提供してもよい。切削条件設定装置30は、加工装置1の一部として構成されてもよいが、加工装置1とは別の装置として構成されてもよい。
【0020】
本発明者は、近年実用化されつつある高速工作機械および高耐熱高靭性セラミック工具を用いて、各種被削材の高速・高能率切削プロセスについて研究を行ってきた。その結果、工具刃先温度が極めて高くなる切削条件では、工具すくい面と切りくずとの間の摩擦係数が大幅に減少し、溶着が抑制される現象を発見した。本発明者は、さらに、その現象に対して特に切削速度が大きな影響を与えることを見出すとともに、切削速度に加えて、切取り厚さ、工具すくい角も影響を与えることを見出した。
【0021】
図3は、6種類の被削材を切削速度を変化させて連続旋削し、加工時の切削点温度を測定した結果を示す。測定した切削点温度は、工具すくい面に接する側の二次塑性域(
図1参照)の温度である。この連続旋削加工では、アルミナセラミック工具を使用した。
図3に示すグラフにおいて、横軸は、切削速度を示し、縦軸は、切削点温度(切削温度)を被削材融点で除した値を示す。この測定結果から分かるように、切削点温度は切削速度に対して、べき関数的に上昇する(
図3に示す各線は、実験値にフィットする関数を示している)。高強度で熱拡散率が低いインコネル718とチタン合金の切削点温度は、切削速度500 m/min程度で融点近くに達している。
【0022】
図4は、切削加工プロセスにおいて作用する力の関係を模式的に示す。摩擦力Fは、すくい面垂直力Nに摩擦係数μを乗じた値となる。せん断面にはせん断力Fsが作用する。合成切削力Rは、主分力Fpの成分と、背分力Ftの成分から構成される。
図4において、切削速度vと、切取り厚さhと、工具すくい角αは、切削条件の一部を構成する。
【0023】
図5および
図6は、切削速度を変化させてアルミニウム合金(A7075)を旋削(正確には近似2次元切削となる突っ切り旋削)したときの切削点温度および切削力を測定した結果を示す。横軸は、切削速度を示し、切削条件である工具すくい角は10度、切取り厚さは0.15mmである。
図5(a)および(b)は、DLCコーティング超硬工具を用いて切削油剤を供給しながら切削(以下、「コーティング・ウェット加工」とも呼ぶ)したときの切削点温度および切削力(主分力と背分力)の測定結果を示す。
図6(a)および(b)は、ノンコーティング超硬工具を用いてドライ切削(以下、「ノンコーティング・ドライ加工」とも呼ぶ)したときの切削点温度および切削力(主分力と背分力)の測定結果を示す。ここで、切削点温度は工具-被削材熱電対法によって測定し、切削力は動力計によって測定している。
【0024】
図5(a)および
図6(a)は、切削点温度と切削速度の関係を示す。
図5(a)および
図6(a)に示す切削点温度は、工具-被削材熱電対法によって測定した切削点の平均的な温度である。
図5(b)および
図6(b)は、切削力と切削速度の関係を示す。
【0025】
上記したように切削点温度と切削速度の関係は、べき乗則にしたがう。切削点温度Tは切削速度vのべき乗に比例し、以下の関係式(温度上昇曲線)で表現できる。
T=Cv
n
この関係式における係数Cと、べき指数nを、
図5(a)、
図6(a)に示す実験値にフィットするように定めると、両者の実験値に対して、同じ関係式(a)を導き出すことができる。
T=60×v
0.25 ・・・(a)
【0026】
図5(a)、
図6(a)において、切削点温度は約420℃で飽和しており、この飽和した温度を「上限温度」と呼ぶと、上記関係式(a)から切削点温度が約420℃となるときの切削速度vは、およそ2500 m/minと算出される。
図5(a)、
図6(a)における切削点温度の実験値を参照すると、2500 m/minより低い切削速度では、概ねべき関数的に切削点温度が上昇し、2500 m/minより高い切削速度では、切削点温度が飽和して、上限温度で一定となっていることが分かる。
【0027】
また高温域では、温度上昇に対して略線形に被削材強度が低下することが知られている。背分力は、すくい面上での被削材の強度低下の影響を強く受け、温度上昇に対して略線形に強度が低下する条件下において、背分力Ftと切削点温度Tは、以下の関係式で表現できる。
Ft=F
0-mT
この関係式におけるF
0と係数mを、
図6(b)に示す背分力の実験値にフィットするように定めると、以下の関係式を導き出すことができる。
Ft=420-T ・・・(b)
この関係式(b)によると、切削点温度が420℃のとき、背分力Ft=0と算出される。つまり関係式(b)は、切削点温度が上限温度(約420℃)に達すると、背分力Ftが0となることを示しており、関係式(a)により算出された切削速度2500 m/minの確かさが保証される。
【0028】
ここで、アルミニウム合金(A7075)の融点は約660℃であり、測定された上限温度(約420℃)は融点よりも低いが、2500 m/min以上の切削速度領域で切削点温度は上げ止まっており、上昇していない。以下、切削点温度が上げ止まる理由について考察する。
【0029】
切削プロセスにおいて、ほぼ全ての切削エネルギは切削熱になり、その切削熱の中で被削材の移動に伴って切りくず側に流入する熱の割合は、切削速度および切取り厚さが増すほど増大し、特に高い切削速度領域ではほとんど全ての切削熱が切りくず側に流入する。
図5(a)および
図6(a)において切削点温度が上限温度で飽和した理由の1つは、切りくず側に流入する切削熱が増大して、切削点における最高温度が被削材の融点に到達し、このとき融解熱によって最高温度が融点以上に上昇しなくなることで、切削点温度(切削点の平均温度)が上げ止まっていると考えられる。なお切削点温度は、すくい面上で切れ刃先端より少し切りくず流出方向に進んだ位置で最高となることが知られている。
【0030】
この考察では、切削点における最高温度が被削材融点に達したことを前提としているが、当該最高温度が被削材融点に達しない場合には、以下の理由によって、切削点温度が上げ止まると考えられる。
【0031】
単位体積の被削材を除去するのに必要な比切削エネルギは、どの金属被削材においても切削速度によって大きな変化はなく、その被削材を融点まで温度上昇させるのに必要な熱エネルギに近いことが知られている(非特許文献2参照)。
図7は、非特許文献2において、切削速度増加に伴う温度上昇が比切削エネルギksに及ぼす影響を測定した結果を示す。この実験結果は、S50C-N、6/4 Brass、AZ80の比切削エネルギksが、切削速度が変化しても略一定であることを示している。
図8は、複数の金属材料の比切削エネルギksと、単位体積の切りくずを融点にまで上げるために要する熱エネルギqcとの関係を示す。
図8における一点鎖線上でks=qcであり、図示されるように、各金属材料の比切削エネルギksと熱エネルギqcは概ね等しい。このうち、ks<qcを示す金属材料は、切削プロセスにおいて切削速度が増加しても、切削点における最高温度が融点に達しない材料であり、切削点温度は、材料によって定まる上限温度に漸近(飽和)する。
【0032】
非特許文献2に開示された実験結果によると、切削点における最高温度が融点に達しない金属材料を切削加工した場合、切削速度および切取り厚さが大きければ、切りくず側にほぼすべての切削熱が流入することで、切削点における最高温度が、融点に比較的近い温度まで上昇して上げ止まると考えられる。実施例では、上げ止まった温度(融点または、比切削エネルギksに相当する熱エネルギqcによって到達する温度)を、「上限温度」と呼んでいる。比切削エネルギksは、すくい角にも依存するが、金属切削において実用上すくい角は±15度程度であって、大きな影響は持たない。従って、
図8に示すように比切削エネルギksは、融点到達のための熱エネルギqcの約半分以上あるので、上限温度は、融点の1/2程度以上の値となる。上限温度は、測定することで定められてよい。
【0033】
一般的な切削加工で使用する600 m/min以下の実用的な切削速度領域では、切りくずが工具すくい面に激しく溶着するため、アルミニウム合金と超硬工具のように溶着し易い組み合わせの加工では、実用上、低摩擦コーティング工具の使用や、切削油剤の供給が不可欠であると言われている。
図6(b)は、ノンコーティング・ドライ加工による切削力と切削速度の関係を示す。
図6(b)に示すように、600 m/min以下の切削速度領域では、背分力が非常に大きくなっており、したがって600 m/min以下の切削速度領域では、摩擦係数が高く、大きな摩擦力が発生することが示される。
【0034】
図5(b)は、コーティング・ウェット加工による切削力と切削速度の関係を示す。
図6(b)に示す測定結果と比較すると、
図5(b)に示す測定結果においては、600 m/min以下の切削速度領域で、切削油剤およびDLCコーティングの効果により、背分力が減少し、すなわち摩擦係数が減少していることが示される。
【0035】
本発明者は、従来の実用域を超える高速領域に着目し、切削速度が約1000 m/min以上の高速領域では、コーティング・ウェット加工における背分力および主分力と、ノンコーティング・ドライ加工における背分力および主分力に、大きな違いがないことを見い出した。つまり切削速度が約1000 m/min以上の高速領域では、コーティング・ウェット加工における切削油剤および低摩耗コーティング工具の効果は見られなくなっている。
【0036】
本発明者は、この現象の要因を以下のように分析した。
金属材料は加熱されると軟化しやすくなる。一般に金属は、絶対温度で融点の0.4~0.5倍程度の温度で軟化し始めると言われている。そこで、この現象は、高速な切削速度により切削点温度が高温になることで、接触面における軟化の領域と軟化の程度が増大して、摩擦力が減少したことで発生したと考えられる。一般に、滑らかな面に生じる乾性状態での摩擦力は、真実の接触面で凝着した材料のうちで強度が低い側の材料(この場合は被削材)がせん断されることによって生じる(Bowdenの凝着説)。つまり工具すくい面と摩擦する切りくず表面の一部が熱軟化したことで、二次塑性域(
図1参照)におけるせん断力すなわち摩擦力が減少したことが推定される。これは、潤滑効果が発生したと表現することもできる。
【0037】
高速切削プロセス(
図1参照)において、一次塑性域と二次塑性域は主な発熱源であるが、一次塑性域は、被削材の高速な物質移動の方向と概ね直交するために、一次塑性域の発熱は瞬時に切りくず側へ持ち去られるのに対して、二次塑性域は、被削材(ここでは切りくず)の高速な物質移動の方向と概ね平行であるために、二次塑性域の発熱は、二次塑性域に留まり易い。さらに二次塑性域には、一次塑性域で発生した熱も移動してくる。そのため高速切削プロセスにおいて、二次塑性域の温度は大きく上昇する。
【0038】
図9は、切削点における温度上昇の解析結果の例を示す。
図9に示す温度解析結果は、“山本賢明、熱・構造連成解析を用いた切削による表面加工層の残留応力評価、東京大学卒業論文、平成28年1月提出、<URL : https://www.fml.t.u-tokyo.ac.jp/img/graduation-thesis/2015b_yamamoto.pdf>”に開示されている。
図9の解析結果に示されるように、一次塑性域の温度上昇と比べると、二次塑性域の温度(切削点温度)は大きく上昇している。そのため二次塑性域、特にすくい面との接触領域が熱軟化し、摩擦力が減少することで、摩擦方向の応力が著しく低下することが推定される。なお、切れ刃直下の三次塑性域は、一次塑性域および二次塑性域に比べて小さいが、摩擦発熱による温度上昇に、最高温度となるすくい面側からの熱伝導も加わって、比較的高温となる。
【0039】
図5(b)および
図6(b)において、切削速度が約1000 m/min以上の高速領域を比較すると、コーティング・ウェット加工とノンコーティング・ドライ加工の主分力および背分力に違いがなくなっている。そのため切削速度が約1000 m/minに達したときに、切削点温度が、被削材(アルミニウム合金(A7075))が十分に軟化する温度となっていることが推定される。
【0040】
また切削速度が約2500 m/min以上の領域をみると、主分力および背分力に変化がなくなり、背分力は概ねゼロになっている。この背分力がゼロであることは、摩擦角が工具すくい角と等しいこと、この場合は摩擦角が10度であることを意味する。
図4を参照して、摩擦角βが工具すくい角αに等しいとき、合成切削力Rとその反力R’は、切削方向と平行になる。
【0041】
摩擦角10度は摩擦係数0.176(=tan(10度))に対応する。この摩擦係数の値は、工具すくい面と被削材新生面との間の固体摩擦の摩擦係数としては極めて小さい。この摩擦係数は、
図5(b)の切削速度ゼロに近い領域における、ウェットでのDLCコーティング工具と被削材との間の摩擦係数にほぼ等しい(なお高圧になる二次塑性域に切削油剤は侵入できないと言われているため、この摩擦係数に対する切削油剤の影響は小さく、主にDLCコーティングによる効果と考えられる)。言い換えれば、切削点温度が上限温度で飽和する領域では、部分的に融点に達して溶融する被削材、および/または十分に軟化した被削材によって、DLCコーティングに匹敵する潤滑効果が得られる。
【0042】
以上の実験から、従来の実用的な切削速度領域では、ノンコーティング・ドライ加工は、溶着が激しく摩擦係数が高すぎるため実用的に実施できないが、切削点温度が被削材が十分に軟化する温度以上となる切削速度領域では、ノンコーティング・ドライ加工が、コーティング・ウェット加工と同等の低い摩擦係数を得ることが分かった。
【0043】
そこで実施形態の切削条件設定装置30は、少なくとも切削速度を含む切削条件を、切削点で被削材が十分に軟化するように、または切削点温度が上限温度近傍に到達するように設定することで、加工装置1が、工具すくい面と切りくずとの間の摩擦力を低減した切削加工を実現する。このとき、安価なノンコーティング工具を用いたドライ加工(ノンコーティング・ドライ加工)を実施することで、環境負荷とコストが低い切削加工を実現できる。
【0044】
ここで「切削点で被削材が十分に軟化する」切削条件は、コーティング・ウェット加工時の摩擦係数の低下の程度とノンコーティング・ドライ加工時の被削材の熱軟化による摩擦係数の低下の程度とが実質的に等しくなる切削条件であってよい。
図5(b)、
図6(b)においては、切削速度が約1000 m/min以上の高速領域で、コーティング・ウェット加工における背分力および主分力と、ノンコーティング・ドライ加工における背分力および主分力とが実質的に等しくなっている。したがって実施例において「切削点で被削材が十分に軟化する」切削条件は、コーティング・ウェット加工およびノンコーティング・ドライ加工において背分力および主分力が実質的に等しくなる切削条件であってよい。
【0045】
また別の視点から、「切削点で被削材が十分に軟化する」切削条件は、切削点温度が上限温度の80%以上に上昇する切削条件であってよい。
図5(a)および
図6(a)を参照して、上限温度(420℃)の80%となる温度は336℃であるが、切削点温度が336℃のときの切削速度vを関係式(a)を用いて求めると、約1000 m/minとなり、コーティング・ウェット加工における背分力および主分力と、ノンコーティング・ドライ加工における背分力および主分力とが実質的に等しくなる切削条件に一致する。したがって切削点温度が上限温度の80%以上となるように切削条件を設定することで、加工装置1が、安価なノンコーティング工具を用いたドライ加工(ノンコーティング・ドライ加工)を実施して、環境負荷とコストが低い切削加工を実現できる。
【0046】
以下では、切削条件設定装置30が、切削速度と、切取り厚さと、工具すくい角を含む切削条件を、切削点で被削材が十分に軟化するように、または切削点温度が上限温度近傍に到達するように設定する方法について説明する。
【0047】
本発明者は、切削条件に関する様々な実験を行うことで、切削点温度が、切削速度、切取り厚さ、工具すくい角のそれぞれに対し、上限温度に達する前の領域において実質的に、べき関数的に変化する関係にあることを確認した。
・切削速度v [m/min]:切削点温度が、vaに比例して変化する(aは定数)。
・切取り厚さh [mm]:切削点温度が、hbに比例して変化する(bは定数)。
・工具すくい角α [deg]:切削点温度が、αcに比例して変化する(cは定数)。
以上の知見から、本発明者は、切削点温度が、va×hb×αcに比例する関係にあることを導き出した。以下、va×hb×αcを「指標値」と呼ぶ。アルミニウム合金(A7075)を超硬工具で切削(連続旋削)した実験において、aは約0.25であり、bは約0.08であり、cは約-0.03であった。
【0048】
切削条件設定装置30は、以上の関係を利用して、切削速度vと、切取り厚さhと、工具すくい角αを含む切削条件を、切削点で被削材が十分に軟化するように、または切削点温度が上限温度近傍に到達するように設定する。以下、アルミニウム合金を超硬工具で切削(連続旋削)するときの切削条件について説明する。
【0049】
切削条件設定装置30は、切削条件を、切削点温度が、被削材が十分に軟化する温度以上となるように設定してよい。
図6(b)において、被削材が十分に軟化する温度に切削点温度が到達したのは、切削速度が1000 m/minに達したときであるため、切削点温度が被削材の十分な軟化を引き起こす温度になるときの指標値は、以下のように求められる。
(指標値)=1000
0.25×0.15
0.08×10
-0.03=4.51
算出された4.51は、切削点温度が、被削材が十分に軟化する温度以上になることを判別する関係式1における閾値Th1として、利用される。
(関係式1) v
0.25×h
0.08×α
-0.03≧Th1
したがって切削条件設定装置30は、切削速度v、切取り厚さh、工具すくい角αを、関係式1を満たすように決定することで、切削加工時の切削点温度を、被削材が十分に軟化する温度以上にできる。
【0050】
切削条件設定装置30は、切削条件を、切削点温度が上限温度近傍に到達するように設定してもよい。
図6(b)において、切削点温度が上限温度近傍に到達したのは、切削速度が2500 m/minに達したときであるため、切削点温度が上限温度近傍になるときの指標値は、以下のように求められる。
(指標値)=2500
0.25×0.15
0.08×10
-0.03=5.67
算出された5.67は、切削点温度が上限温度近傍に到達することを判別する関係式2における閾値Th2として、利用される。
(関係式2) v
0.25×h
0.08×α
-0.03≧Th2
したがって切削条件設定装置30は、切削速度v、切取り厚さh、工具すくい角αを、関係式2を満たすように決定することで、切削加工時の切削点温度を上限温度近傍にできる。
【0051】
以上のように、切削条件設定装置30は、関係式を用いて切削速度v、切取り厚さh、工具すくい角αを含む切削条件を決定する。
(関係式) va×hb×αc≧Th
ここでa、b、c、Thは、被削材および工具のセットと、切削プロセスの断続性を示す指標値との組み合わせによって、実験または理論により決定される定数である。なお断続性の指標値とは、具体的に、ミリング等の断続切削の1周期の中での切削または非切削の時間、および時間割合であり、1回の切削時間が長い程、1周期に対する切削時間割合が大きい程、切削点温度の平均値および最高値ともに高い値を示す。
【0052】
切削条件設定装置30は、被削材および工具のセットと断続性指標値との様々な組み合わせに対して、a、b、c、Thのセットをメモリに保持しておく。オペレータが、加工開始前に、被削材および工具のセットと断続性指標値との組み合わせを入力すると、切削条件設定装置30は、当該組み合わせに応じたa、b、c、Thのセットをメモリから読み出し、関係式を満たす切削速度v、切取り厚さh、工具すくい角αを含む切削条件を決定して、加工装置1の制御部20に設定してよい。
【0053】
加工装置1において、制御部20は、設定された切削条件にしたがって、送り機構7および回転機構8を制御する。具体的に回転制御部21は、設定された切削速度vに応じた回転速度で主軸2aを回転し、刃物台4は、設定された工具すくい角αとなるように切削工具10を保持し、移動制御部22は、設定された切取り厚さhで、切削工具10の刃先を被削材6に切り込ませて、被削材6を加工する。
【0054】
以上、突っ切り旋削について説明してきたが、通常の旋削加工においては切れ刃に沿って切取り厚さが一定ではないため、例えば平均的な切取り厚さを用いてよい。また、穴加工においては、穴中心付近で切削速度が大きく低下するため、上記関係式を満たす切削条件を導出することができない。そこで穴加工の際には、中心付近の切削を行わない穴加工工具(例えば中ぐり旋削バイトやホールソータイプの工具)を利用することで、切削点で被削材を十分に軟化させる、または切削点温度を上限温度近傍に到達させる切削条件を導出できるようになる。
【0055】
また加工装置1の最高回転数が低い場合、あるいは回転工具直径や被削材直径が小さい場合、切取り厚さが小さい場合、すくい角が大きな工具を使用する場合などでは、上記関係式を満たす切削条件を導出することが困難となる。このような場合には、工具刃先(特にすくい面)近傍を加熱する手段を併用して、ノンコーティング・ドライ加工を実施してよい。
【0056】
図10は、ヒータ40を内部に備えた切削工具の一例を示す。
図10に示す切削工具10aは、ノンコーティング工具であって、工具シャンクに固定されるインサートの内部に、すくい面を加熱する1つ以上のヒータ40が埋め込まれている。ヒータ40には外部電源が接続されており、加熱制御部23が、外部電源の電力をヒータ40に供給することで、ヒータ40がすくい面を加熱する。ヒータ40は、刃先、望ましくは切れ刃近傍のすくい面直下に埋め込まれて、二次塑性域の切りくず接触面を加熱することが好ましい。
【0057】
図11は、ヒータ40を内部に備えた切削工具の別の例を示す。
図11に示す切削工具10bは、ノンコーティング工具であって、先端内部に、すくい面を加熱する1つ以上のヒータ40が埋め込まれている。切削工具10bは、被削材を切削するドリルであってよい。ヒータ40には外部電源(図示せず)が接続されており、加熱制御部23が、外部電源の電力をヒータ40に供給することで、ヒータ40がすくい面を加熱する。ヒータ40は、刃先、望ましくは切れ刃近傍のすくい面直下に埋め込まれて、二次塑性域の切りくず接触面を加熱することが好ましい。
【0058】
図10に示す切削工具10a、
図11に示す切削工具10bにおいて、ヒータ40の近傍には温度センサ(たとえば熱電対)が埋め込まれてもよい。ヒータ40により加熱された切削点の温度は、工具-被削材熱電対法、あるいは解析によって、測定または推定されることが好ましい。加熱制御部23は、切れ刃(望ましくはすくい面側)近傍に埋め込まれたヒータ40を加熱制御し、温度取得部24は、温度センサまたは解析装置から、すくい面側の切れ刃近傍の温度を取得する。加熱制御部23は、温度取得部24で取得した温度を監視して、切削点温度が、被削材が十分に軟化する温度以上となるように、または上限温度近傍の温度に到達するようにヒータ40の発熱を制御して、すくい面を加熱し、この加熱状態において被削材が加工される。切削条件設定装置30が、関係式を満たす切削条件を導出できない場合に、加熱制御部23が、補助的にヒータ40を発熱させて、切削点温度を制御してよい。
【0059】
この加熱切削は、切削速度がゼロになる回転中心付近でも切削を行う必要がある通常のドリルやボールエンドミルを用いた切削、あるいは回転中心付近を旋削する端面切削などにおいても有効である。特に切削速度がゼロになる回転中心付近に切れ刃を有するドリルやボールエンドミルでは、加熱制御部23は、その中心に近い程、発熱量が大きくなるようにヒータを配置して、加熱制御することが好ましい。
【0060】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0061】
本発明の態様の概要は、次の通りである。
本発明のある態様の切削条件の設定方法は、切削工具を用いて被削材を加工する加工装置における切削条件の設定方法であって、切削速度を含む切削条件を、切削点で被削材が十分に軟化するように、または切削点温度が上限温度近傍に到達するように設定する。
【0062】
このように切削条件を設定することで、工具と切りくずとの間の激しい溶着を防いで、摩擦係数を低減し、摩擦力を減少させた加工を実現できる。当該方法は、切削速度と、切取り厚さと、工具すくい角を含む切削条件を、切削点で被削材が十分に軟化するように、または切削点温度が上限温度近傍に到達するように設定してもよい。
【0063】
当該方法は、切削条件を、切削点温度が被削材の十分な軟化を引き起こす温度となるように設定してよい。当該方法は、切削条件を、主として被削材によって決まる上限温度近傍に切削点温度が到達するように設定してよい。たとえば当該方法は、所定の関係式を満たす切削速度vと、切取り厚さhと、工具すくい角αを決定してよい。当該方法は、切削速度vと、切取り厚さhと、工具すくい角αを、
va×hb×αc≧Th (ここで、a、b、c、Thは、それぞれ定数)
の関係式を満たすように決定してよい。
【0064】
本発明の別の態様の加工方法は、切削工具を用いて被削材を加工する加工方法であって、切削点で被削材が十分に軟化するように、または切削点温度が上限温度近傍に到達するように設定された切削速度を含む切削条件にしたがって、送り機構および回転機構を制御して、被削材を加工する。
【0065】
このような切削条件を用いて加工することで、工具と切りくずとの間の激しい溶着を防いで、摩擦係数を低減し、摩擦力を減少させた加工を実現できる。
【0066】
本発明のさらに別の態様の加工方法は、ヒータを埋め込まれた切削工具を用いて被削材を加工する方法であって、切削点温度が、被削材が十分に軟化する温度以上となるように、または上限温度近傍に到達するように、ヒータを制御して、被削材を加工する。
【0067】
このような切削工具を用いて加工することで、工具と切りくずとの間の激しい溶着を防いで、摩擦係数を低減し、摩擦力を減少させた加工を実現できる。
【0068】
本発明のさらに別の態様の切削工具は、被削材を加工する切削工具であって、すくい面を加熱するヒータを備え、被削材の加工時、ヒータは、切削点温度が、被削材が十分に軟化する温度以上となるように、または上限温度近傍に到達するように、すくい面を加熱する。
【0069】
このような切削工具を用いて加工することで、工具と切りくずとの間の激しい溶着を防いで、摩擦係数を低減し、摩擦力を減少させた加工を実現できる。
【符号の説明】
【0070】
1・・・加工装置、6・・・被削材、10、10a、10b・・・切削工具、20・・・制御部、21・・・回転制御部、22・・・移動制御部、23・・・加熱制御部、24・・・温度取得部、30・・・切削条件設定装置、40・・・ヒータ。