IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 高砂熱学工業株式会社の特許一覧

特開2023-122216空調システムの制御装置、制御方法、制御プログラム及び空調システム
<>
  • 特開-空調システムの制御装置、制御方法、制御プログラム及び空調システム 図1
  • 特開-空調システムの制御装置、制御方法、制御プログラム及び空調システム 図2
  • 特開-空調システムの制御装置、制御方法、制御プログラム及び空調システム 図3
  • 特開-空調システムの制御装置、制御方法、制御プログラム及び空調システム 図4
  • 特開-空調システムの制御装置、制御方法、制御プログラム及び空調システム 図5
  • 特開-空調システムの制御装置、制御方法、制御プログラム及び空調システム 図6
  • 特開-空調システムの制御装置、制御方法、制御プログラム及び空調システム 図7
  • 特開-空調システムの制御装置、制御方法、制御プログラム及び空調システム 図8
  • 特開-空調システムの制御装置、制御方法、制御プログラム及び空調システム 図9
  • 特開-空調システムの制御装置、制御方法、制御プログラム及び空調システム 図10
  • 特開-空調システムの制御装置、制御方法、制御プログラム及び空調システム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122216
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】空調システムの制御装置、制御方法、制御プログラム及び空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/64 20180101AFI20230825BHJP
   F24F 11/80 20180101ALI20230825BHJP
   G06F 1/20 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
F24F11/64
F24F11/80
G06F1/20 A
G06F1/20 B
G06F1/20 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025789
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000169499
【氏名又は名称】高砂熱学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 英之
(72)【発明者】
【氏名】池田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】蝦名 基以
(72)【発明者】
【氏名】菊谷 良
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光宏
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260AA11
3L260BA42
3L260CB63
3L260CB82
3L260CB86
3L260EA04
3L260EA08
3L260FA04
3L260FA10
(57)【要約】
【課題】熱源が存在する空間を空調対象とする空調システムにおいて、空調システムの制御目標値を適切に決定可能な空調用の制御技術を開示する。
【解決手段】熱源で発生している熱量に相関する値を入力値として熱源または熱源に繋がる機器から取得する第1の処理と、第1の処理により入力値を取得すると、空調機器を特定の制御目標値で作動させた場合の空間の仮想温度を入力値及び特性データから算出する処理を、値を互い違いにした複数の仮想制御目標値それぞれについて行う第2の処理と、複数の仮想制御目標値のうち、第2の処理によって算出された仮想温度が空間に規定の温度条件を満たしており、且つ、少なくとも空調システムを含む系全体の消費電力が最小になる仮想制御目標値を、空調機器の制御目標値として決定する第3の処理と、を実行する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源が配置されている空間を空調対象とする空調システムの制御装置であって、
前記空調システムが有する空調機器の特性データが格納される記憶部と、
前記記憶部のデータに基づいて前記空調機器の制御目標値を決定する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記熱源で発生している熱量に相関する値を入力値として前記熱源または前記熱源に繋がる機器から取得する第1の処理と、
前記第1の処理により前記入力値を取得すると、前記空調機器を特定の制御目標値で作動させた場合の前記空間の仮想温度を前記入力値及び前記特性データから算出する処理を、値を互い違いにした複数の仮想制御目標値それぞれについて行う第2の処理と、
前記複数の仮想制御目標値のうち、前記第2の処理によって算出された仮想温度が前記空間に規定の温度条件を満たしており、且つ、少なくとも前記空調システムを含む系全体の消費電力が最小になる仮想制御目標値を、前記空調機器の制御目標値として決定する第3の処理と、を実行する、
空調システムの制御装置。
【請求項2】
前記熱源は、情報処理機器であり、
前記空調システムは、情報処理機器を収めたラックが複数列配置されているデータセンタの空間を空調対象としており、
前記入力値は、前記情報処理機器の消費電力である、
請求項1に記載の空調システムの制御装置。
【請求項3】
前記空調システムは、前記ラックが並ぶラック架列に対し、冷気を吹き出す複数の空調ユニットをそれぞれ一乃至複数のラック架列毎に対応する位置関係で有しており、
前記処理部は、
前記第1の処理においては、特定の空調ユニットに対応する架列に収まっている情報処理機器の全消費電力を、前記入力値として空調ユニット毎に取得し、
前記第2の処理においては、前記空調ユニットを含む前記空調機器を特定の制御目標値で作動させた場合の前記仮想温度を前記入力値及び前記特性データから算出する処理を、値を互い違いにした複数の仮想制御目標値それぞれについて空調ユニット毎に行い、
前記第3の処理においては、前記最小になる仮想制御目標値を前記空調ユニットの制御目標値として決定する処理を前記空調ユニット毎に実行する処理を含む、
請求項2に記載の空調システムの制御装置。
【請求項4】
前記仮想温度は、前記ラックの排気面側の空間の温度を含む、
請求項2又は3に記載の空調システムの制御装置。
【請求項5】
前記仮想制御目標値は、前記空間に供給する給気の温度、及び、前記空間に給気する空気を冷却する冷水の温度、のうち少なくとも何れかを含む、
請求項1から4の何れか一項に記載の空調システムの制御装置。
【請求項6】
前記系全体の消費電力とは、前記空調システム全体の消費電力、又は、前記空調システムに前記熱源を組み合わせた全体の消費電力である、
請求項1から5の何れか一項に記載の空調システムの制御装置。
【請求項7】
前記処理部は、
前記第2の処理においては、前記仮想温度を前記入力値及び前記特性データから算出する処理を、所定の差分で値を互い違いにした前記複数の仮想制御目標値それぞれについ
て行う、
請求項1から6の何れか一項に記載の空調システムの制御装置。
【請求項8】
前記特性データとは、能力と消費電力との相関関係を表したデータである、
請求項1から7の何れか一項に記載の空調システムの制御装置。
【請求項9】
熱源が配置されている空間を空調対象とする空調システムの制御装置が、
前記熱源で発生している熱量に相関する値を入力値として前記熱源または前記熱源に繋がる機器から取得する第1の処理と、
前記第1の処理により前記入力値を取得すると、前記空調システムが有する空調機器を特定の制御目標値で作動させた場合の前記空間の仮想温度を前記入力値及び前記空調機器の特性データから算出する処理を、値を互い違いにした複数の仮想制御目標値それぞれについて行う第2の処理と、
前記複数の仮想制御目標値のうち、前記第2の処理によって算出された仮想温度が前記空間に規定の温度条件を満たしており、且つ、少なくとも前記空調システムを含む系全体の消費電力が最小になる仮想制御目標値を、前記空調機器の制御目標値として決定する第3の処理と、を実行する、
空調システムの制御方法。
【請求項10】
熱源が配置されている空間を空調対象とする空調システムのコンピュータに、
前記熱源で発生している熱量に相関する値を入力値として前記熱源または前記熱源に繋がる機器から取得する第1の処理と、
前記第1の処理により前記入力値を取得すると、前記空調システムが有する空調機器を特定の制御目標値で作動させた場合の前記空間の仮想温度を前記入力値及び前記空調機器の特性データから算出する処理を、値を互い違いにした複数の仮想制御目標値それぞれについて行う第2の処理と、
前記複数の仮想制御目標値のうち、前記第2の処理によって算出された仮想温度が前記空間に規定の温度条件を満たしており、且つ、少なくとも前記空調システムを含む系全体の消費電力が最小になる仮想制御目標値を、前記空調機器の制御目標値として決定する第3の処理と、を実行させる、
空調システムの制御プログラム。
【請求項11】
熱源が配置されている空間を空調対象とする空調システムであって、
空調機器と、
前記空調機器の特性データが格納される記憶部と、前記記憶部のデータに基づいて前記空調機器の制御目標値を決定する処理部とを有する制御装置と、を備え、
前記処理部は、
前記熱源で発生している熱量に相関する値を入力値として前記熱源または前記熱源に繋がる機器から取得する第1の処理と、
前記第1の処理により前記入力値を取得すると、前記空調機器を特定の制御目標値で作動させた場合の前記空間の仮想温度を前記入力値及び前記特性データから算出する処理を、値を互い違いにした複数の仮想制御目標値それぞれについて行う第2の処理と、
前記複数の仮想制御目標値のうち、前記第2の処理によって算出された仮想温度が前記空間に規定の温度条件を満たしており、且つ、少なくとも前記空調システムを含む系全体の消費電力が最小になる仮想制御目標値を、前記空調機器の制御目標値として決定する第3の処理と、を実行する、
空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調システムの制御装置、制御方法、制御プログラム及び空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空調システムの制御にコンピュータが利用されている(例えば、特許文献1-5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-031536号公報
【特許文献2】特開2018-031538号公報
【特許文献3】特開2018-031537号公報
【特許文献4】特開2018-031534号公報
【特許文献5】特開2018-031535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷凍機や冷却塔、送風ファン、ポンプなどを擁する空調システムを効率的に運用するには、冷凍機が冷却する冷水の設定温度や、冷却塔が冷却する冷却水の設定温度といった各種の制御目標値を、空調対象の空間や外気の状況に応じた適切な値に決定する必要がある。
【0005】
人が滞在するオフィスや商業施設、住宅等の居室空間の場合、空間内の温度を急変させるような熱源は存在しないため、空調システムでPLC(Programmable logic controller)等を使ったフィードバック制御に用いる制御目標値の最適な値を特定することは比較
的容易である。一方、多数の情報処理機器を擁するデータセンタや、半導体製造装置といった各種の機械が稼働する工場のように、各種熱源が存在する空間の場合、フィードバック制御に用いる制御目標値の最適な値は熱源の状態に応じるため、一様ではない。このため、制御目標値を熱源の状態に応じて動的に変更するフィードフォワード制御を利用することが望ましいが、熱源の状態は時々刻々と変化するため、熱源が配置された空間の空調システムにおける制御目標値を最適な値に動的に変更し続けることは容易でない。
【0006】
そこで、本願は、熱源が存在する空間を空調対象とする空調システムにおいて、空調システムの制御目標値を適切に決定可能な空調用の制御技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、熱源で発生している熱量に相関する値を取得すると、空調機器を特定の制御目標値で作動させた場合の空間の仮想温度を算出する処理を、値を互い違いにした複数の仮想制御目標値それぞれについて行い、複数の仮想制御目標値のうち、算出された仮想温度が温度条件を満たし、且つ、消費電力が最小になる仮想制御目標値を、空調機器の制御目標値として決定することにした。
【0008】
詳細には、本発明は、熱源が配置されている空間を空調対象とする空調システムの制御装置であって、空調システムが有する空調機器の特性データが格納される記憶部と、記憶部のデータに基づいて空調機器の制御目標値を決定する処理部と、を備え、処理部は、熱源で発生している熱量に相関する値を入力値として熱源または熱源に繋がる機器から取得
する第1の処理と、第1の処理により入力値を取得すると、空調機器を特定の制御目標値で作動させた場合の空間の仮想温度を入力値及び特性データから算出する処理を、値を互い違いにした複数の仮想制御目標値それぞれについて行う第2の処理と、複数の仮想制御目標値のうち、第2の処理によって算出された仮想温度が空間に規定の温度条件を満たしており、且つ、少なくとも空調システムを含む系全体の消費電力が最小になる仮想制御目標値を、空調機器の制御目標値として決定する第3の処理と、を実行する。
【0009】
ここで、熱源とは、空調システムによる冷却を必要とする熱の発生源であり、例えば、サーバや通信設備、半導体製造装置といった各種の機械、その他各種の熱源が挙げられる。
【0010】
また、特性データとは、空調システムが有する空調機器の性能を示すデータであり、例えば、能力と消費電力との相関関係を表したデータ等が挙げられる。
【0011】
また、空間の仮想温度とは、空間内に設定された一乃至複数の測定点における計算上の温度であり、例えば、データセンタであればホットアイルの温度が挙げられる。
【0012】
また、系全体とは、空調システムの制御装置が最小にしようとする消費電力の値に関係する一群の機器類であり、例えば、制御装置が空調システムの消費電力を最小にしようとする場合であれば、空調システムを構成する空調機器全体を指す。
【0013】
上記の空調システムによれば、熱源で発生している熱量に相関する値を用いて空調機器の制御目標値が決定される。そして、この制御目標値は、空調機器の特性データを使って算出された、空間に規定の温度条件を満たし且つ空調システムを含む系全体の消費電力が最小になるような値である。よって、このような制御目標値が空調機器の制御目標値として設定されれば、空調システムは、空調対象の空間に配置されている熱源を過不足なく冷却することにより、消費電力を可及的に抑制することが可能となる。
【0014】
なお、熱源は、情報処理機器であり、空調システムは、情報処理機器を収めたラックが複数列配置されているデータセンタの空間を空調対象としており、入力値は、情報処理機器の消費電力であってもよい。これによれば、空調システムは、データセンタの情報処理機器の発熱量に応じた空調機器の制御目標値を決定することにより、消費電力を可及的に抑制することが可能となる。
【0015】
また、空調システムは、ラックが並ぶラック架列に対し、冷気を吹き出す複数の空調ユニットをそれぞれ一乃至複数のラック架列毎に対応する位置関係で有しており、処理部は、第1の処理においては、特定の空調ユニットに対応する架列に収まっている情報処理機器の全消費電力を、入力値として空調ユニット毎に取得し、第2の処理においては、空調ユニットを含む空調機器を特定の制御目標値で作動させた場合の仮想温度を入力値及び特性データから算出する処理を、値を互い違いにした複数の仮想制御目標値それぞれについて空調ユニット毎に行い、第3の処理においては、最小になる仮想制御目標値を空調ユニットの制御目標値として決定する処理を空調ユニット毎に実行する処理を含むものであってもよい。これによれば、空調システムは、情報処理機器の発熱量に応じた空調機器の制御目標値を架列単位で決定することにより、消費電力を可及的に抑制することが可能となる。
【0016】
また、仮想温度は、ラックの排気面側の空間の温度を含むものであってもよい。通常、データセンタにおいては、情報処理機器を収めたラックの排気面側の空間が最も高温になるため、当該空間における仮想温度が規定の温度条件を満たせば、空調対象の空間で過度に高温になる箇所の発生を抑制することが可能となる。
【0017】
また、仮想制御目標値は、空間に供給する給気の温度、及び、空間に給気する空気を冷却する冷水の温度、のうち少なくとも何れかを含むものであってもよい。これらは空調システムにおいて支配的な制御パラメータであるため、これらを熱源の熱量に応じた値に決定すれば、空調システム全体を最適な運転状態にすることができる。
【0018】
また、系全体の消費電力とは、空調システム全体の消費電力、又は、空調システムに熱源を組み合わせた全体の消費電力であってもよい。例えば、熱源の動作効率が空調システムの運転状態と相関するような場合には、熱源を含む全体の消費電力が最小になるような制御目標値を決定することで、空調システム全体を最適な運転状態にすることができる。
【0019】
また、処理部は、第2の処理においては、仮想温度を入力値及び特性データから算出する処理を、所定の差分で値を互い違いにした複数の仮想制御目標値それぞれについて行ってもよい。これによれば、仮想制御目標値を段階的な計算処理によって特定することが可能となる。
【0020】
また、本発明は、方法の側面から捉えることもできる。例えば、本発明は、空調システムの制御方法であって、熱源が配置されている空間を空調対象とする空調システムの制御装置が、熱源で発生している熱量に相関する値を入力値として熱源または熱源に繋がる機器から取得する第1の処理と、第1の処理により入力値を取得すると、空調システムが有する空調機器を特定の制御目標値で作動させた場合の空間の仮想温度を入力値及び空調機器の特性データから算出する処理を、値を互い違いにした複数の仮想制御目標値それぞれについて行う第2の処理と、複数の仮想制御目標値のうち、第2の処理によって算出された仮想温度が空間に規定の温度条件を満たしており、且つ、少なくとも空調システムを含む系全体の消費電力が最小になる仮想制御目標値を、空調機器の制御目標値として決定する第3の処理と、を実行するものであってもよい。
【0021】
また、本発明は、プログラムの側面から捉えることもできる。例えば、本発明は、空調システムの制御プログラムであって、熱源が配置されている空間を空調対象とする空調システムのコンピュータに、熱源で発生している熱量に相関する値を入力値として熱源または熱源に繋がる機器から取得する第1の処理と、第1の処理により入力値を取得すると、空調システムが有する空調機器を特定の制御目標値で作動させた場合の空間の仮想温度を入力値及び空調機器の特性データから算出する処理を、値を互い違いにした複数の仮想制御目標値それぞれについて行う第2の処理と、複数の仮想制御目標値のうち、第2の処理によって算出された仮想温度が空間に規定の温度条件を満たしており、且つ、少なくとも空調システムを含む系全体の消費電力が最小になる仮想制御目標値を、空調機器の制御目標値として決定する第3の処理と、を実行させるものであってもよい。
【0022】
また、本発明は、システムの側面から捉えることもできる。例えば、本発明は、熱源が配置されている空間を空調対象とする空調システムであって、空調機器と、空調機器の特性データが格納される記憶部と、記憶部のデータに基づいて空調機器の制御目標値を決定する処理部とを有する制御装置と、を備え、処理部は、熱源で発生している熱量に相関する値を入力値として熱源または熱源に繋がる機器から取得する第1の処理と、第1の処理により入力値を取得すると、空調機器を特定の制御目標値で作動させた場合の空間の仮想温度を入力値及び特性データから算出する処理を、値を互い違いにした複数の仮想制御目標値それぞれについて行う第2の処理と、複数の仮想制御目標値のうち、第2の処理によって算出された仮想温度が空間に規定の温度条件を満たしており、且つ、少なくとも空調システムを含む系全体の消費電力が最小になる仮想制御目標値を、空調機器の制御目標値として決定する第3の処理と、を実行するものであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
上記の空調システムの制御装置、制御方法、制御プログラム及び空調システムであれば、熱源が存在する空間を空調対象とする空調システムにおいて、空調システムの制御目標値を適切に決定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、空調システムの一例を示した図である。
図2図2は、情報処理機器室の一例を示した図である。
図3図3は、制御装置が実行する処理の概要を示したフローチャートである。
図4図4は、上記一連の処理内容を補足する図である。
図5図5は、空調システムの運用開始前に行う処理を示したフローチャートである。
図6図6は、空調システムの運用開始後に行う処理を示したフローチャートである。
図7図7は、空調システムを構成する各空調機器の特性に関するデータのイメージ図である。
図8図8は、運用設計シートの作成結果の一例を示した図である。
図9図9は、室内環境の評価結果の一例を示した図である。
図10図10は、最適な運転条件を特定する処理の内容をイメージで表した図である。
図11図11は、最適化制御における演算の流れをイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であり、本発明の技術的範囲を以下の態様に限定するものではない。
【0026】
<システム構成>
図1は、空調システムの一例を示した図である。空調システム1は、データセンタの建物内に設置された情報処理機器室2の空調を司るシステムであり、空調ユニット11や熱源機12、還気ダクト13を備える。空調システム1が備える熱源機12としては、例えば、空冷の凝縮器を用いたヒートポンプが代表例として挙げられるが、これに限定されるものではない。熱源機12としては、例えば、ターボ冷凍機と冷却塔と冷却水循環経路を有する熱源機、井水で凝縮器を冷却する冷凍機、その他各種の熱源機を適用可能である。熱源機12の冷熱は、冷水ポンプ18や配管等で形成される冷水循環経路により、空調ユニット11の空調コイル17へ輸送される。そして、空調コイル17において、空調ユニット11の送風ファン16から送風される空気を冷却する。空調コイル17において冷却された空気は、空調ユニット11から情報処理機器室2へ給気され、情報処理機器室2内のコールドアイル23からラック22を通ってホットアイル21へ流れる。ラック22からホットアイル21へ流れる空気は、ラック22内の情報処理機器の排熱で高温になっている。ホットアイル21に流入した高温の空気は、還気として還気ダクト13から空調ユニット11の送風ファン16へ流れる。そして、空調コイル17で冷却されて再び給気として情報処理機器室2へ流れる。また、空調システム1を循環する空気の一部は、排気口14や外気導入口15によって外気と入れ替わる。
【0027】
なお、空調ユニット11は、送風ファン16と空調コイル17を一体化したユニットであってもよいし、情報処理機器室2が設置されている建物内で区画された空調機器室内に送風ファン16と空調コイル17を据え付けたものであってもよい。また、熱源機12と空調コイル17とを繋ぐ冷水循環経路は、水の代わりにブライン等の液体が流れていてもよい。また、空調コイル17が冷凍サイクルの蒸発器を形成しており、冷水循環経路の代わりに冷媒ガスが循環する冷媒循環経路が設けられていてもよい。
【0028】
また、空調システム1には、熱源機12や冷水ポンプ18、送風ファン16等の空調機器に備わっているコントローラへ指示を送る上位装置の中央コントローラ(本願でいう「制御装置」の一例である)が備わっている。中央コントローラは、情報処理機器室2が設けられている建物内と、当該建物が設置されている箇所から遠隔の地の何れにあってもよい。中央コントローラには、熱源機12やその他各種空調機器のコントローラから送られる情報、空調システム1に設けられている各種センサから送られる情報、情報処理機器室2の温度条件、その他各種の情報が通信ネットワーク等を通じて入力される。中央コントローラは、これらの情報に基づいて、空調システム1の各空調機器が有するコントローラの制御目標値等を決定する。熱源機12や冷水ポンプ18、送風ファン16等の空調機器に備わっている各コントローラは、中央コントローラに指示された制御目標値となるようにフィードバック制御を行い、モータの回転数や弁の開度等を調整する。
【0029】
図2は、情報処理機器室2の一例を示した図である。情報処理機器室2には、図2に示すように、多数のラック22が整列している。ラック22には、各種の演算処理やデータベースの管理を行なうサーバ、通信機等の情報処理機器が収容されている。ラック22には、情報処理機器を冷却する冷却ファンが設けられており、ラックの正面が吸気面となり、背面が排気面となるように構成されている。図2では、ラック22が一列に並んだ架列が1つだけ図示されているが、情報処理機器室2にはこのような架列が複数並んでいる。
【0030】
情報処理機器室2では、コールドアイル23から各ラック22へ冷気が効率的に供給されるよう、一つの架列を構成する各ラック22の吸気面と排気面の向きが揃えられている。そして、ラック22の吸気面側がコールドアイル23、ラック22の排気面側がホットアイル21となるように情報処理機器室2内に設置される。情報処理機器室2内で各ラック22がこのように設置されることにより、空調ユニット11からコールドアイル23へ給気された冷気が各コールドアイル23の吸気面側へ流れ、各ラック22内に吸い込まれてホットアイル21へ排気される。
【0031】
各ラック22の中の情報処理機器の冷却ファンは、ラック内に収容されている情報処理機器の負荷状態や吸込み温度に応じて時々刻々と回転数が変化するように制御されるものであってもよいし、一定の回転数で動くものであってもよい。また、ラック22に情報処理機器が据え付けられていない等の理由により、ラック22内や隣接するラック22との間に隙間があるような場合は、ホットアイル21の暖気がコールドアイル23側へ回り込むのを防ぐパネル等が隙間の部分に設置されていることが好ましい。
【0032】
空調ユニット11は、ラック22の側方に設置する壁吹き出し方式の場合、吹出口がコールドアイル23の方へ向いていると、各ラック22の吸気面に冷気を効率的に流すことができる。よって、例えば、情報処理機器室2にコールドアイル23が複数ある場合、空調ユニット11は、各コールドアイル23に対応する位置に各々設置されているとシステム構成がシンプルで制御が容易になる。しかし、このような位置関係に限定されるものではなく、例えば、設置コストの兼ね合いで適宜の位置関係に配置されてもよい。また、空調システム1は、空調ユニット11をラック22の側方に設置した形態に限定されるものではない。例えば、情報処理機器室2の床が二重構造になっている場合、空調システム1は、例えば、空調ユニット11から吹き出た冷気が情報処理機器室2の床下を通り、コールドアイル23の床面を形成するグレーチング等の通気可能な部材を通じてコールドアイル23へ上昇する形態であってもよい。
【0033】
空調システム1には、各種のセンサが設けられている。空調システム1に設けられるセンサとしては、例えば、図2に示すように、空調ユニット11から吹き出る給気の温度を測定する温度センサTs、コールドアイル23の各部の温度を測定する一乃至複数の温度
センサTc、ホットアイル21の温度を測定する一乃至複数の温度センサTh、コールドアイル23とホットアイル21との差圧を測定する差圧センサdPが挙げられる。空調システム1には、この他にも、例えば、送風ファン16の風量を測定するセンサ、冷水ポンプ18の流量を測定するセンサ、熱源機12から出る冷水の温度を測定するセンサ、空調コイル17から出る冷水の温度を測定するセンサ等が備わっている。また、空調システム1には、送風ファン16や冷水ポンプ18、熱源機12、ラック22に設置されている情報処理機器の消費電力を測定する電力計あるいは電流計が備わっている。情報処理機器の消費電力は、空調システム1が備える電力計あるいは電流計の代わりに、情報処理機器からデータとして提供される情報であってもよい。これらのセンサ類の情報が、中央コントローラ、或いは、各空調機器のコントローラへ提供されることにより、例えば、コールドアイル23とホットアイル21との間にある程度の差圧が生じるように送風ファン16が送風を行い、コールドアイル23からホットアイル21への気流の確保等が行われることになる。
【0034】
<処理の概要>
以下、中央コントローラが実行する処理の概要について説明する。図3は、中央コントローラが実行する処理の概要を示したフローチャートである。中央コントローラは、各空調機器の特性データ等が格納される記憶装置、記憶装置のデータに基づいて各熱源機の負荷配分を決定するCPU(Central Processing Unit)、入出力インターフェース等を備
えるコンピュータであり、メモリに展開されたコンピュータプログラムをCPUが実行することにより、下記の処理を実現する。
【0035】
すなわち、中央コントローラは、ラック22に収納された情報処理機器の消費電力を計測する処理(S1)を行った後、空調条件(給気温度と給気風量、送水温度等)の探索を探索エンジンで行う(S2)。次に、中央コントローラは、索出した空調条件の中から、成立条件や制約条件に合うものを絞り込む(S3)。そして、中央コントローラは、絞り込んだ空調条件を、空調機器の制御目標値(以下、「運転設定値」という場合もある)として抽出する(S4)。中央コントローラは、これらの処理を、一列のラック22によって構成されるラック架列毎に実行し、ゾーン単位(1つの空調ユニット11が担うエリア)で空調ユニット11の給気風量や給気温度を決定する。
【0036】
ステップS1の処理では、中央コントローラは、ラック架列を構成するラック22内に収められている情報処理機器の消費電力を、例えば、情報処理機器に電力を供給する各電源ケーブルの電流の合算値に電圧を乗算することにより算出する。ラック22内の情報処理機器で消費される電力は、基本的に全て熱エネルギーとなって電子部品の表面から放熱される。よって、情報処理機器の消費電力は、吸込み温度や、情報処理に係る処理負荷によって発生する熱量との間で特定の関係性を有していると言える。したがって、情報処理機器の消費電力は、各空調機器の最適な運転設定値を決定する上で有用な情報である。
【0037】
ステップS2の処理では、中央コントローラは、様々な空調条件の組み合わせを探索し、各組み合わせにおいて空調システム1の各空調機器が作動した場合の結果(例えば、想定ホットアイル温度、空調機器の消費電力等)を、情報処理機器の消費電力や空調機器の特性データ等から算出する。空調条件の組み合わせとは、例えば、次のようなものである。すなわち、例えば、給気温度であれば、所定の温度範囲内で段階的に仮定したものが挙げられる(例えば、20~25℃で0.2℃刻み)。また、例えば、給気風量であれば、所定の風量範囲内で段階的に仮定したものが挙げられる(例えば、20~100%で2%刻み)。また、例えば、送水温度であれば、熱源機12が送水可能な冷水温度の下限値から上限値の範囲内で段階的に仮定したものが挙げられる(例えば、13~17℃で0.5℃刻み)。また、例えば、外気導入口15から導入する外気の温度であれば、建物が立地している地域で想定される外気温の下限値から上限値の範囲内で段階的に仮定したものが
挙げられる(例えば、0~26℃で2℃刻み)。中央コントローラは、このような様々な空調条件の組み合わせのそれぞれで空調システム1が作動した場合の結果を算出する。
【0038】
ステップS3の処理では、中央コントローラは、ステップS2の算出結果と条件(成立条件・制約条件)との比較を行い、条件に合致する空調条件を網羅的に探索し、最適な空調条件の絞り込みを行う。成立条件とは、空調システム1に要求されている必須の条件であり、例えば、想定ホットアイル温度の上限値等が挙げられる。また、制約条件とは、空調システム1を運用する管理者が優先したい事項といった、適宜変更可能な任意の条件であり、例えば、「想定ホットアイル温度を最高にする」「給気風量(ファン消費電力)を最低にする」「コールドアイル各部の温度の偏差を指定値以下にする」「ホットアイル各部の温度の偏差を指定値以下にする」といった各種の条件が挙げられる。
【0039】
ステップS4の処理では、中央コントローラは、ステップS3で絞り込んだ空調条件を、各空調機器の運転設定値として抽出する。すなわち、中央コントローラは、空調システム1の各部の制御パラメータ(給気温度や給気風量、送水温度等)が、ステップS3の処理によって絞り込んだ空調条件におけるパラメータとなるように、空調システム1の各空調機器に設けられているコントローラに運転設定値を指示(制御信号を送信)する。
【0040】
中央コントローラが実行する処理の概要については以上の通りである。図4は、上記一連の処理内容を補足する図である。情報処理機器を収めたラック22が並ぶデータセンタの場合、通常は、ホットアイル21の温度が情報処理機器の冷却に必要な許容範囲内で最高になるように空調システム1を作動させれば、空調システム1全体の消費電力を可及的に抑制できることになる。よって、図4では、ステップS3における制約条件が「想定ホットアイル温度を最高にする」に設定されていることを想定したイメージ図にしている。
【0041】
図4に示す例では、送水温度が16℃、給気風量が定格風量の60%の場合における想定ホットアイル温度を、20.0~27.0℃の範囲内において0.5℃刻みで計算した値を示している。また、図4では、各種の制約条件との対比結果も示している。図4を見ると判るように、送水温度と給気風量を一定にしたままで給気温度を上げていくと、想定ホットアイルの温度も上がることが判る。例えば、成立条件としてホットアイルの温度上限が32℃と定められている場合、想定ホットアイル温度がこれより低い値であれば、当該空調条件は成立条件を満たしていることになる。なお、図4では、一部の条件のみを例示しているが、送水温度が16.0℃以外の場合や、給気風量が定格風量の60%以外の場合など、様々な条件においても同様の計算を行っている。例えば、給気風量であれば、定格風量の20~100%の範囲において5%刻みで計算を行う。
【0042】
そして、図4に示す例の場合、空調システム1の中央コントローラは、「想定ホットアイル温度を最高にする」という制約条件に合致する空調条件に従い、成立条件を満たす空調条件のうち、送水温度が16℃、給気風量が定格風量の60%、給気温度が27.0℃という空調条件を抽出することになる。この空調条件で示される運転設定値が中央コントローラから各空調機器のコントローラへ送られることにより、空調システム1全体が、ラック22に収められている情報処理装置を過不足なく冷却する状態で作動することになる。このような演算処理を各空調ユニット11のゾーン毎に行うことにより、空調システム1がラック22に収められている情報処理装置の発熱量に見合った能力で作動することになり、空調システム1で消費される電力が可及的に抑制される。
【0043】
なお、空調システム1の中央コントローラは、ステップS1~S4に示す上記一連の処理を、例えば10分毎に繰り返し実行する。よって、空調システム1は、ラック22に収められている情報処理装置が突発的に発熱量を変動させたような場合を除き、概ね過不足なく情報処理装置を冷却し続けることが可能である。空調システム1の中央コントローラ
がステップS1~S4を繰り返し実行する周期は、10分毎に限定されるものではなく、情報処理装置が担っている処理の内容や、データセンタの規模等に応じて適宜変更してもよい。また、空調システム1の中央コントローラは、情報処理装置の消費電力が所定値以上に変動したことをステップS1で検知した場合に、ステップS2~S4の処理を実行するようにしてもよい。
【0044】
以下、中央コントローラが実行する処理の詳細について詳述する。図5は、空調システム1の運用開始前に行う処理を示したフローチャートである。また、図6は、空調システム1の運用開始後に行う処理を示したフローチャートである。中央コントローラが実行する処理の詳細について、図5及び図6のフローチャートに沿って説明する。
【0045】
<運用開始前の処理>
空調システム1の中央コントローラで上記のステップS1~S4の処理を実現するためには、各空調機器の特性に基づいた運用設計シートを作成し、空調システム1の最適化に必要なルールを定める必要がある。そこで、空調システム1では、運用開始前に、図5のフローチャートで示す以下のような前処理が行われる。
【0046】
すなわち、まず、空調システム1を構成する各空調機器の特性に関するデータの登録が行われる(S101)。図7は、空調システム1を構成する各空調機器の特性に関するデータのイメージ図である。図7のグラフでは、製造熱量や流量、風量といった機器の能力を横軸に設定し、単体COP(Coefficient Of Performance)や消費電力を縦軸に設定している。熱源機12の場合、COPは外気温によって大きく異なるため、COPと製造熱量との関係を表す特性のグラフが外気温毎に存在する。
【0047】
次に、空調システム1の運転条件毎の運用設計シートの作成が行われる(S102)。この運用設計シートは、例えば、空調システム1のシステムCOPや消費電力といった最適化すべきものとして挙げられる一乃至複数の評価項目に関して、製造熱量との関係を計算に特定したものであり、冷水温度、冷却水温度といった様々なパラメータを定義している。図8は、運用設計シートの作成結果の一例を示した図である。図8では、例えば、外気導入量を20%、外気温が10℃とした場合における製造熱量とシステムCOPとの関係を、熱源機12が製造する冷水の温度毎に示している。運転条件を互い違いにした様々な運用設計シートを、各空調機器の特性データに基づいて予め作成し、データベース化しておくことにより、空調システム1の中央コントローラは、空調システム1を所定の空調条件に従って運用した場合における想定ホットアイル温度や消費電力等を特定することが可能となる。
【0048】
次に、空調システム1の運用の最適化に必要な基本ルールベースの構築が行われる(S103)。基本ルールベースとは、熱源機の製造熱量やポンプの運転台数、空調機で処理する熱量、加湿量、外気冷房の可否といった空調システム1に関係する各種パラメータの演算ルール、制御ルール等を定めたものである。空調システム1を運用する際の基本となるルールを設定しておくことにより、空調システム1の空調条件が様々に変化した場合でも、各空調機器の運転台数や発停頻度を最適化することが可能となる。空調システム1の中央コントローラは、探索エンジンやルールベースを用いて最適な運転条件を抽出するので、人工知能の一種として捉えることができる。
【0049】
空調システム1の中央コントローラは、上記のステップS101~S103の処理によって作成され、記憶装置に格納されたデータやルールを参照することにより、下記に示すような空調システム1の運用を実現する。
【0050】
<運用開始後の処理>
空調システム1が設置されているデータセンタの運用が開始されると、空調システム1の中央コントローラでは、図6のフローチャートで示す以下のような処理(最適化制御)が実行される。
【0051】
すなわち、中央コントローラは、空調システム1に関する評価項目のうち最適化すべき項目の選択を行う(S201)。空調システム1に関する評価項目としては、上述したように、空調システム1のシステムCOPや消費電力といった幾つかのものが挙げられるが、データセンタの管理者にとっては空調システム1の消費電力が最も関心の高い評価項目の一つである。よって、本ステップにおいて選択される評価項目は、空調システム1の管理者が選択操作によって決定した項目であってもよいし、或いは、既定の項目であってもよい。
【0052】
次に、中央コントローラは、空調システム1に備わっている外気温や室温、湿度等のセンサ類の計測データを参照し、外気や室内の負荷に関する条件の把握を行う(S202)。そして、中央コントローラは、参照した計測データに基づいて空気の状態点を演算する(S203)。中央コントローラは、参照した計測データから空気の状態点を演算することにより、空気線図における空気の状態点が何れにあるかを特定する。そして、中央コントローラは、算出した空気の状態点から、室内環境の評価を行う(S204)。図9は、室内環境の評価結果の一例を示した図である。図9においてグレースケールで示される範囲は、室内環境として問題の無い領域を示している。計測データに基づいて算出された空気の状態点が、例えば、図9に示されるように、室内環境として問題の無い領域の範囲内であれば、中央コントローラは、室内環境が良好であると判定する。また、計測データに基づいて算出された空気の状態点が、室内環境として問題の無い領域の範囲外であれば、中央コントローラは、室内環境が不良であると判定する。
【0053】
次に、中央コントローラは、空調システム1に備わっている各空調機器の温度計や流量計、コントローラ等のデータを参照し、空調設備の運転状態の把握を行う(S205)。また、中央コントローラは、ラック22の各架列に収められている情報処理機器の消費電力を電流計等から取得し、情報処理機器の状態の把握を行う(S206)。そして、中央コントローラは、空調システム1に最適な運転条件を特定する処理を行う(S207)。
【0054】
図10は、最適な運転条件を特定する処理の内容をイメージで表した図である。中央コントローラは、情報処理機器の消費電力や外気の導入量から、空調システム1が処理すべき空調負荷の熱量を算出する。そして、中央コントローラは、熱源機やポンプ、ファンといった各空調機器の特性データを使って様々な空調条件の探索を行い、想定される空気の状態点が室内環境として問題の無い領域の範囲内にあるか否かの判定等を基に、索出した空調条件の中から成立条件や制約条件に合うものを絞り込む。
【0055】
中央コントローラは、このような処理によって特定した最適な運転条件における各空調機器の制御パラメータ(給気風量や給気温度、湿度等)を、運転設定値として各空調機器へ出力する(S208)。各空調機器の運転設定値がこのような制御パラメータに更新されることにより、空調システム1全体が情報処理機器の消費電力に見合った運転状態となる。中央コントローラは、ステップS201~S208の一連の処理を、例えば、最適化制御の停止要求がなされるまで繰り返し実行する(S209)。最適化制御の停止要求としては、例えば、空調システム1の停止、空調システム1の管理者による最適化制御の停止操作、一部の空調機器の不調に伴う空調システム1の強制運転開始といった各種の原因が挙げられる。
【0056】
ところで、データセンタの管理者にとっては空調システム1の消費電力が最も関心の高い評価項目の一つと考えられるため、ステップS208の処理において絞り込まれる空調
条件は、成立条件や制約条件を満たす様々な空調条件のうち、ホットアイル21の温度が最も高くなる時の空調条件となる。そして、図1図2では、情報処理機器室2が簡易的に示されているが、実際の情報処理機器室2の形態はもっと複雑であり、ホットアイル21の温度やホットアイル21と空調ユニット11との対応関係も様々である。例えば、データセンタには、10~15台程度のラックで1つのラック架列を構成しているものもあれば、10~20台程度のラックで1つのラック架列を構成しているものもある。また、ラック架列が数列程度のデータセンタもあれば、ラック架列が数十列のデータセンタもある。そして、1台の空調ユニットが空調を担うゾーンには、ラック架列が1~2列程度しか存在しない場合もあれば、ラック架列が3列以上存在する場合もある。このようなバリエーションは、建物を構成する柱同士の間隔や、柱とラックとの位置関係、空調ユニットの大きさ等に応じる。そこで、空調システム1の中央コントローラは、上述した最適化制御を行うにあたり、以下のようなロジックで最適化を行う。
【0057】
図11は、最適化制御における演算の流れをイメージ図である。空調ユニット11が冷却を担う情報処理機器の対応関係は、空調ユニット11とラック架列との位置関係等によって概ね定まる。そこで、空調システム1の最適な運転条件を特定するロジックにおいては、空調システム1に関わる各種の要素を、図11に示すように、情報処理機器が関係する系統(以下、「サーバ系統」)、空調ユニット11が関係する系統(以下、「空調機系統」)、熱源機12が関係する系統(以下、「熱源機系統」)の3つに整理している。そして、空調システム1全体を最適な運転状態にするために支配的な制御パラメータである「給気温度」、「基準給気風量」、「冷水出口温度」をそれぞれ「最適化変数1」、「最適化変数2」、「最適化変数3」と定義し、これらの値を互い違いにした仮想の運転条件毎に、空調システム1全体の消費電力が最小になる運転条件を特定する。「給気温度」とは、空調ユニット11から吹き出る給気の温度である。また、「基準給気風量」とは、空調ユニット11から吹き出る給気の風量である。また、「冷水出口温度」とは、熱源機12から空調コイル17へ流れる冷水の温度である。空調システム1の中央コントローラは、これら3つの制御パラメータを最適化制御において特定すべき変数として取り扱い、架列毎やゾーン毎の計算を行って各空調ユニット11の運転設定値や熱源機12の運転設定値を特定する。そして、特定された運転設定値が各空調機器のコントローラへ設定されることにより、空調システム1全体が情報処理機器の発熱量に応じたフィードフォワード制御を実現することになる。
【0058】
上記の空調システム1によれば、上述したように、情報処理機器の消費電力を用いて各空調機器の運転設定値が特定されるので、空調システム1の各種制御目標値が適切な値に設定され、空調システム1を情報処理機器の消費電力に見合った運転状態にすることが可能となる。給気風量の制御目標値が情報処理機器の状態に応じてこのように適切に設定されれば、コールドアイルとホットアイルとの間の差圧の縮小による送風動力の削減や、コールドアイルとホットアイルとの間の温度差の拡大による除熱効率の向上になるため。よって、例えば、情報処理機器の演算量が少なく、空調システム1で処理すべき空調負荷が小さいにもかかわらず、コールドアイル23へ供給する給気の温度を過度に低くした状態で空調システム1を運用したり、空調コイル17へ供給する冷水の温度を過度に低くした状態で空調システム1を運用したり、或いは、空調ユニット11から吹き出す給気の風量を過度に多くした状態で空調システム1を運用したりする場合に比べて、空調システム1の消費電力が可及的に抑制されることになる。
【0059】
なお、上記実施形態では、データセンタに適用する場合を例示したが、空調システム1は、空調対象の空間に存在する熱源の発熱量が、当該熱源から直接的に或いは熱源に繋がる機器から間接的に取得可能であれば、データセンタ以外に適用することも可能である。空調システム1が適用できる箇所としては、例えば、半導体製造装置といった各種の機械が稼働する工場が挙げられる。このような機械の発熱量は、例えば、機械の消費電力や作
動状況から把握することが可能であるため、空調システム1の適用箇所として好適である。
【0060】
また、上記実施形態では、空調システム1の消費電力が最小となるような運転条件を特定していたが、例えば、情報処理機器と空調システム1を含むデータセンタ全体の消費電力が最小となるような運転状態を特定し、各空調機器の運転設定値を決定するようにしてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、熱源機12を含む空調システム1全体の消費電力が最小となるような運転条件を特定していたが、例えば、井水や河川の冷熱といった自然エネルギーの冷熱源を利用する場合は、熱源機を除いた空調システム全体の消費電力が最小となるような運転条件を特定するようにしてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、情報処理機器の消費電力の実測値に基づくフィードフォワード制御を行っていたが、例えば、情報処理機器で行われる処理が予めスケジュールされているような場合であれば、スケジュールから推定される情報処理機器の消費電力の予測値に基づくフィードフォワード制御を行ってもよい。
【符号の説明】
【0063】
1・・空調システム
2・・情報処理機器室
11・・空調ユニット
12・・熱源機
13・・還気ダクト
14・・排気口
15・・外気導入口
16・・送風ファン
17・・空調コイル
18・・冷水ポンプ
21・・ホットアイル
22・・ラック
23・・コールドアイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11